資料10

資料10

「美術品等の流動性を高める方策について(中間報告)」
(平成9年7月)概要(美術品等に係る保険制度について)

第1章 はじめに

 美術への関心や多種多様な美術展に対するニーズは高まっているが,我が国の美術館等は,コレクションが必ずしも十分ではなく,企画展が大きな役割を果たしている。国際美術展は,美術館等による芸術鑑賞機会の提供と研究成果の公開として重要になっているが,保険料がかなりの額となるため,評価額の高い作品を借りられず,展覧会の質が低下する場合がある。

第2章 美術品等に係る保険の概要

  1. 1 展示会に出展される美術品等については,保険をかけることが国際的な慣行である。
  2. 2 保険の内容
    • ○ 美術品等を借りる場合,美術館等の壁から下ろし,元の位置に戻すまでの期間について,オール・リスクを担保する保険に加入することが貸し出しの条件になっている。
    • ○ 国際市場価格に基づき,所有者が決定する評価額が,保険料算定の基礎となる。
    • ○ 補償は,全損の場合は評価額全額,部分損又は価値低下の場合はこれに相当する額について行い,免責条項に記載された場合を除き,いかなるリスクによる損失も対象となる。
  3. 3 問題点
    • ○ 美術品等は多種多様であり,保険リスクを個別に評価するため,一般的,画一的な条件による保険にはなじまない。
    • ○ 美術品等の保険は,その個別性や件数がそれ程多くないため,「大数の法則」が効き難く,保険料率が下がりにくい。
    • ○ 美術品等は評価額が高額であり,一度事故が発生すると被害がかなりの額となるため,保険成績が一挙に悪化する可能性があり,保険成績が不安定となりがちである。
    • ○ 保険について保険会社は,国際保険市場で再保険を付すことで引き受け及び経営の安定化を図っているため,保険の条件・料率も国際保険市場の動向に影響される。
    • ○ 阪神・淡路大震災以降,日本の地震危険について再認識され,英米の保険会社などから再保険料の値上げを求められる場合がある。

第3章 国による補償

  1. 1 保険の効用は危険(リスク)の平準化にあるが,国は,大きなリスクを負担でき,危険中立的であるため,保険を付さずに万一の場合には新しく予算措置を講じる方が国費の支出が少なく合理的であり,一般に物保険は付さないこととされている。
  2. 2 国による補償の必要性
    • ○ 国家賠償法によれば,補償について,故意,過失又は瑕疵が要件となるが,美術品等の保険は過失責任によらない。そのため,国家賠償法では全ての損害に対応しきれないことから,結果責任主義に基づく国による補償制度の創設の検討が必要である。
    • ○ 美術品等の貸与の場合,いかなる場合にいかなる補償が受けられるのかが事前に明確になっている必要があると考えられる。
    • ○ 補償は,全損の場合は評価額全額,部分損又は価値低下の場合はこれに相当する額について行い,免責条項に記載された場合を除き,いかなるリスクによる損失も対象となる。
    • ○ 国が補償する根拠として,当該損失が国家行為に起因しているものであることが重要な考慮要素となるため,地方公共団体や公私立美術館等あるいはその他民間企業等との共催を含め,文化庁又は国立の美術館・博物館が主催する展覧会を国による補償の対象とすべきと考える。
    • ○ 諸外国においては,評価額の高い展覧会について,一定額を超える範囲において国が補償することとしており,官民の役割分担を明確にしている。
    • ○ 官民の役割分担を行うためには,国による補償の内容と民間保険の内容の整合性がとれている必要がある。
    • ○ 国による補償制度の導入は,展覧会の質の向上のインセンティヴともなる。

第4章 集団保険契約の必要性

 集団保険契約の導入の検討の際には,自助努力や人材養成など様々な支援施策と合わせながら,美術館等の活動の充実や水準の向上を図る必要がある。

第5章 考えられる方策

 保険料の高騰による展覧会開催の障害の除去,国民の美術品等へのアクセスの拡大や地域間格差の是正のために,高額の借り入れ美術品等を含む展覧会については,諸外国でも既に効果的に運用されている国による補償制度の導入を検討すべきである。
 その際,展覧会の選定及び評価額の査定については,専門家等を構成員とする評価委員会を設置する必要がある。

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