高松塚古墳壁画の現状について

高松塚古墳壁画の現状について

1.
墳丘部
  1. (1)墳丘上は石槨床面より上のレベルで全体を防水断熱シートで覆っている。石槨床面のレベルより低い箇所はタケを伐採せずに残している。
  2. (2)墳丘の周囲に排水溝を設置。
  3. (3)現在以下の調査・観測を実施している。
    ・気象観測(温湿度、雨量、風速)、電気探査、地下水分量

2.
取り合い部及び石槨内の環境
  1. (1)取り合い部ではカビ発生を抑止するために、継続的に防カビ処置を実施したため、その発生状況はかなり改善された。しかし、天井部に結露が生じやすく、側壁のみでなく床や石槨表面をも含めて、カビの発生が抑えきれていない。
  2. (2)石槨内のカビについては、昨年来3週間おきに点検を継続して実施している。その結果、カビによる壁面汚損の被害は出ていないが、カビの発生自体は収束していない。虫の侵入については、間隙部にステンレスウールを充填した後、一定の期間は効果があったが、半年を経た現在再び侵入が認められるようになった。(4月26日の点検時には石槨内でワラジムシなど10匹、5月19日点検ではワラジムシのほか体長20㎜程のハサミムシ2匹を確認している)。
  3. (3)取り合い部、石槨内ともに相対湿度は安定している。温度は18℃前後。
  4. (4)現在以下の調査・観測を実施している。
    ・温湿度、壁面水分率、浮遊菌・浮遊粒子状物質の採取・分析、空気質調査
3.
壁画
  1. (1)壁面のカビ痕処置については、何度か試験を経た後、絵画のない壁面のカビ痕部に過酸化水素水の2%から5%希釈液を使用したところ、一定の効果を得た。しかし、過酸化水素水のみでは限界があることも判明した。現在、過酸化水素水と併用するかたちでのレーザーによる実施を計画している。
  2. (2)壁画発見後30年を経過しており、特に近年カビの多量発生に伴う調査及び措置のため石槨内への立ち入り回数が増加しているので、壁面に対する影響が懸念される。

高松塚古墳のカビ採取試料培養結果

2004.5.27.現在
しばらく沈静化していたカビが,2004年に,再び小規模ながら観察されたことに伴い,滅菌綿棒で採取された試料を培養し,主要なカビの種類を調査した。

調査日時,および試料は,以下の通り。

(1)2004年2月23日
状況:
  1. 取り合い部天井部に4ケ所ほど白い菌糸の塊
  2. 石室 青龍の下の以前カビが生えたあとの黒いしみの上にほわほわとした白い菌糸があった
試料:
高040223-1 - 
青龍下方 後方 黒い汚れの上
高040223-2 - 
西壁 中の面,右端
培養方法と結果:

MA に塗布し,室温にて培養

高040223-1 - 
Penicillium sp. および Fusarium sp.
高040223-2 - 
Penicillium sp. および バクテリアと思われるコロニー
所見:
Penicillium sp. および Fusarium sp. は,いずれも2001年のカビの大発生をみる以前の,定常状態のころからよく検出されていたカビとみられる。 ここでみられたFusarium sp. は,培地にうすくピンク色の色素を出すものの,定常状態のころから,こういうものはよく検出されていたものであり,とくに黒い色素を出すものではない。
(2)2004年3月15日
状況:
  1. 石室内壁面に再びカビが発生していた。取り合い部にも,若干,白いカビが発生。 石室内に,ワラジムシが6匹居り,うち4匹は生存,歩行していた。
試料:
高040318-1 - 
東側青龍北側の大きな黒いしみの周辺。1mm以下の白い点が,数個散在している。
高040318-2 - 
西側白虎前足付近。白い綿状の立ち上がりのないカビが,1cmほどの範囲にふわりとかかっている。
高040318-3 - 
西側男子群像の下。白い綿状のカビ。直径1cm未満のコロニーが2,3箇所。
培養方法と結果:

MA に塗布し,室温にて培養

高040318-1 - 
Penicillium sp. (従来からよくみられるもの) ,別のPenicillium sp.および 黄色いレモン色の菌糸のカビ(不明種), Fusarium sp.
高040318-2 - 
Penicillium sp. およびFusarium sp. (いずれも従来からよくみられるもの,2月のものと同様と思われる)
高040318-3 - 
主にFusarium sp.
所見:
2月のときと同様,定常状態のころからよく検出されていたものとみられるPenicillium sp. とFusarium sp. のほか,高040318-1については,ほかのものも若干みられた。黄色いカビについては,以前も検出されたことがあるものである。
(3)2004年4月5日-7日
状況:
  1. 石室内に青,黒,緑にみえるカビが見えた。
試料:
高040405-1 - 
盗掘口上奥
高040406-1 - 
東側女人像左,白いふわふわしたもの
高040406-2 - 
東側女人像北,緑色のもの
高040407-1 - 
白虎向かい右下,緑色のもの
培養方法と結果:

MA に塗布し,室温にて培養

高040405-1 - 
Trichoderma sp. およびPenicillium sp.
高040406-1 - 
Fusarium sp. およびPenicillium sp.
高040406-2 - 
主にFusarium sp.
高040407-1 - 
Penicillium sp. およびFusarium sp.
所見:
Penicillium sp. および Fusarium sp. Trichoderma sp. ともに,いずれも2001年のカビの大発生をみる以前の,定常状態のころからよく検出されていたカビとみられる。 ここでみられたFusarium sp. は,培地にうすくピンク色の色素を出すものの,定常状態のころから,こういうものは,よく検出されていたものであり,とくに,黒い色素を出すものではない。
(4)2004年5月19日
状況:
取り合い部,石室ともに,カビが発生していた。
プラスチックのスクレイパーにより,生えているカビを湿ったろ紙にこすりつける方法で試料を採取 (T4519-1~T4519-10)。 および,従来通りの滅菌綿棒で採取 (高040519-1~高040519-10)。
試料:

T4519-1 および 高040519-1 - 
取り合い部,石室南閉寒石,西側上面,白色コロニー

T4519-2 および 高040519-2 - 
取り合い部,石室南閉寒石,中央下部,緑色コロニー

T4519-3 および 高040519-3 - 
取り合い部,盗掘口下面,樹脂カバー,小球状緑色コロニー

T4519-4 および 高040519-4 - 
取り合い部,石室南閉寒石,中央下部,綿状緑色コロニー

T4519-5 および 高040519-5 - 
石室内床面,白色コロニー

T4519-6 および 高040519-6 - 
石室内床面,ガーゼ上,白色コロニー

T4519-7 および 高040519-7 - 
石室内床面,緑色コロニー

T4519-8 および 高040519-8 - 
石室内,西壁

T4519-9 および 高040519-9 - 
石室内,東壁

T4519-10 および 高040519-10 - 
石室内,西壁近傍

培養方法と結果:
Tシリーズ:
湿らせたろ紙上で,静置,経過観察。一部を実態顕微鏡下で釣り上げ,PDAへ植える。
高シリーズ:
MA に塗布し,室温にて培養。
Tシリーズ:
5月25日時点での,中間報告を記す。同定は,まだ完全に終わっていない。
T4519-1 - 
Fusarium sp.  (黒くないもの)
T4519-2 - 
おそらく Trichoderma sp. とほかの種の混合物
T4519-3 - 
Penicillium sp.
T4519-4 - 
白色菌糸が中央で立ちあがるもの,まだ不明
T4519-5 - 
Fusarium sp.  (黒くないもの)
T4519-6 - 
Fusarium sp.  (黒くないもの)
T4519-7 - 
Penicillium sp.
T4519-8 - 
白い菌糸の塊,まだ不明
T4519-9 - 
Acremonium sp. ?? (Fusarium sp. の近縁種)
T4519-10 - 
おそらく Trichoderma sp. とほかの種の混合物
高シリーズ:
5月27日時点での,中間報告を記す。同定は,まだ完全に終わっていない。
高040519-1 - 
コロニー出現せず
高040519-2 - 
主にPenicillium sp.とバクテリアのコロニー?
高040519-3 - 
主にPenicillium sp. とFusarium sp.?
高040519-4 - 
主にPenicillium sp.
高040519-5 - 
Fusarium sp.  (黒くないもの)とPenicillium sp.
高040519-6 - 
白い菌糸を伸ばすカビ(不明種)とPenicillium sp.
高040519-7 - 
白い気生菌糸を伸ばすカビ(不明種)
高040519-8 - 
Trichoderma sp. とFusarium sp.?
高040519-9 - 
Fusarium sp.  (黒くないもの)とTrichoderma sp.?
高040519-10 - 
Fusarium sp.?
所見:
現時点で,とくに濃い色を出すカビは,検出されていないが,カビの発生の度合いが上昇しているため,警戒を要する状況である。

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