文化審議会第8期文化政策部会(第3回)議事録

1.出 席 者

(委員)

宮田部会長,田村部会長代理,青柳委員,加藤委員,後藤委員,佐々木委員,里中委員,鈴木委員,高萩委員,堤委員,坪能委員,富山委員,西村委員,浜野委員,増田委員,吉本委員

(事務局)

玉井文化庁長官,合田文化庁次長,戸渡長官官房審議官,清木文化部長,関文化財部長,松村文化財鑑査官,大木政策課長,滝波企画調整官,他

2.議事内容

【宮田部会長】
 お忙しいところありがとうございます。第3回政策部会を開かせていただきたいと思います。
 本日,小田先生,酒井先生,山内先生,山脇先生が欠席となっております。
 文化芸術の基本的な視点についてご審議をいただきたい,かように思っております。
 進め方といたしましては,私のほうから事前にご指名させていただいております3名の委員の先生からご意見を発表していただき,その後に意見発表も踏まえ,その他の委員の皆様からもご意見をちょうだいしたい,かように考えております。
 本日は,堤委員,浜野委員,吉本委員の順にご意見をいただきたいと思います。恐縮でございますが,15分程度ということで,よろしくお願い申し上げます。
 まず,堤委員からお願い申し上げます。
【堤委員】
 ありがとうございます。堤でございます。
 私の意見は資料3にございまして,箇条書きにはなっておりませんけれども,ほかの委員の方のご意見を読ませていただきまして,やはり大体同じラインなのかなということを思いましたので,個々に立ち入ることは私としては避けたいと思います。というのは,ほかの諸先生方のご意見,すばらしいご意見,そしてご経験がありますし,大体私はそれに沿ってここで述べているわけなので,ちょっと私なりに考えていたことを述べさせていただきたいと思います。
 これは今実は日本で大変話題になりましたトヨタのことにも実は間接的には関係してくるのではないかということなのです。
 まず一つは,私が外国の方によく言われるのは,日本人は歴史観がちょっと欠けているのではないか,史観が欠如しいるのではないかということをよく言われます。それも文化とか芸術を話し合うときには,やはりそういう流れとか面,広がりという,点ではなくてそういう流れから物を見るというのもすごく大事なんじゃないかなと思います。それは自分の人生の歴史でもあるだろうし,それからその地域の歴史でもあるだろうし,それから日本の国家としての歴史だと思います。それはやっぱり振り返って,それに立脚したいろいろなアイデアが生まれてくるというのは,その繰り返しであると思います。
 それから,もう一つ,よく外国人の方に言われるのは,日本人はイノベーションを得意とするけれども,クリエーションは弱いのではないかということを言われます。ということは,改良とか改善はすごく上手だけれども,本当に何かをゼロから,1からつくり出していくのは,何となくほかの面に比べて弱いのではないか。私なんかは特にこういうクリエイティブな仕事をしておりますので,すごく自分自身それを感じております。そこもやっぱり私たちが厳しく見つめていかなければいけないのではないかと思います。
 そして,なぜそうなってしまうのかということで,やはり諸外国,日本でももちろんそういうことはあるのでしょうけれども,何かをやるときに,そこにやっぱり確固としたフィロソフィカルなバックグラウンド,これをどうしてやらなければいけないか,全宇宙的にも考えたぐらいの視点から見た,そしてだんだん細かいところへ入っていく。そういうフィロソフィカルバックグラウンドがないとなかなか難しいのではないかなと思います。
 例えば車をつくるにしても,最初車をつくったというのは,フォードにしてもダイムラーにしても,なぜ車が要るのか,何が車なのか,どういうことのために車をつくるか,そういうところから多分始めたと思うのです。ですから,特にこういう文化とか芸術もそういう面から,深い面からやっぱり考えて,そこから始めると,今度最後にでき上がったものというのは全体に揺るがないものができるのではないかと思います。
 それから,私がいつも感じております点が3つございまして,例えばアメリカの大学などで,いわゆる音楽学生じゃない人たちのための音楽の授業というものがございます。それはどういう呼び方をしているかというと,ミュージック・アプリシエーションというのです。ですから,音楽をアプリシエートする,大事にしていく,大切なものとして,そういう表現をするわけです。ですから,それは単に教養としてのクラスではなくて,本当に自分の人生にとってプラスになるもの,大事にしなければ,そういう名前づけからして,私はこのミュージック・アプリシエーションというのはすごくいい名前だと思っております。
 それから,やはり一般に人間教育として何かがあったときにライト・ディシジョン・メーキング,正しい判断,決断ができる,そういうやはり全人的な教育というものが私はすごく大事だと思います。
 3つ目は,何か私たちがつくった,作品としてつくった,それが音楽であり,美術であり,何でも彫刻であり,何でもそうなのでしょうけれども,やはりそこへ出てきたものが伝統に根ざした日本的なものであり,それで初めてそれが技術だけでなくて,本当の自分を表現するためにそこにトータルなものがなくてはいけないと思いました。
 これは大変浅田真央さんには失礼なのですけれども,私は彼女のフィギュアスケーティングはすばらしいと思いました。テクニックもすばらしいと思いました。でも,そこに日本人だからこういうことができた,もちろんスピードスケートはスピード,タイミングで決めていきますから異なりますが,フィギュアスケートになると結構芸術的,美術的な面が出てまいります。そういうときに,どうしてやはり彼女が金をとれなかったか。そこにはやっぱりもう少し日本人だからこういうことができたのではないか,何かトリプル,何でもいいのですけれども,そこへ持っていく持ち上げ方,その後のフィニッシュの仕方,ああこういうことだ,すごいというのがないと,やはりそういう場においての金というのは難しいのではないかなと,私はできるわけじゃないのですけれども,そう思いました。
 ですから,結果として,文化とか芸術はもちろん結果も大事ですけれども,やはりそれに至るまで,準備のための活動,プロセス,それは立派な文化活動であるし,芸術とか創造活動だと思うのですね。ですから,いろいろな予算などを考えていただくときも,結果だけでなく,そういうプロセス,それが本当の意味での一人一人の人に活力を与え,チーム全体の反映になっていくと思いますので,そういうところまでお考えいただけたらと思います。
 以上でございます。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。青柳先生に怒られるかもしれませんが,日本人力のような雰囲気をもう少しつくっていただきたいというお話とプロセスのお話,ありがとうございました。
 それでは,次に浜野先生にお願い申し上げたいと思います。
【浜野委員】
 補足資料を見ていただきたいと思います。そちらで説明をします。
 海外から日本にいろいろな文化資源が入ってきていますし,日本の文化の事柄というのは海外でも多発的に起こっているので,海外の状況も把握しながら,検証,評価も行わなければならないと思います。
 アジアについて私が知っているのを挙げただけでも,かなりあります。中国はアニメーションの産業基地として20カ所を決めて,今でも増加しています。教育施設の特別地域も7カ所を設置し,アニメーターは1学年8,000人くらいが教育されています。日本では自称も含めてアニメーターというのは約4,000人といわれているので,数年たったら日本のアニメーターの2倍の人たちが毎年中国は出てきます。
 例えば,イギリスなどの有名大学では日本語教育を維持できなくなっているのに対し,中国孔子学院と提携して,教育機会を増加させています。孔子学院が去年の今ごろですが,80カ国以上で4,000万人が今中国語を学んでいます。それでも日本語の学習者が増えているのは,アニメーションとか漫画を原語で読みたいということで,自助努力に依存しているわけです。
 韓国政府は産業面から海外の状況に迅速に対応しながら,国家組織であるKorea Culture Content Agencyなど5つに分散していた事業体を,去年の今ごろKorea Creative Content Agencyとして1つに統合しました。縦割りの文化行政を集約的にやるために統合されました。四谷に立派な韓国文化を紹介するセンターもできました。
 シンガポールは,阿佐ヶ谷に来るはずだったルーカス・アニメーションという,ルーカス・フィルムのブランチを,優遇措置でシンガポールへの誘致に成功しました。日本のデザインとか,漫画,アニメーションの強みに学ぼうということで,ジャパン・クリエイティブ・センターというのも誘致しました。それで,デザイン・シンガポール・カウンシルという委員会をつくりました。これはイギリスのクール・ブリタニアに刺激されてつくられたものですが,すごい勢いで,産業面から文化芸術振興を推進しているわけです。今産業政策と文化芸術政策を一体化して,圧倒的なスピードとボリュームでアジアでは進んでいる状況になっているので,海外の状況も把握しながら進む必要があります。
 それと,第2次基本方針から大きく変わったことは,インターネットの普及でグローバルな影響が直接日本に影響を与えていることです。特に違法配信がそうです。中国のファンサブというサイトでは,日本のTVアニメーションは日本で放送されて8時間以内に字幕がついた違法配信が開始されます。最近日本の漫画雑誌が日本で出るよりも先に中国で出されて,原版が印刷される前に盗まれていたのではないかと言われています。そういったことが常態化していて,海外ではコンテンツといった文化財に対価を払う習慣すら崩壊しつつあると言われていて,最も維持されているのは日本だと言われています。例えば音楽のパッケージの正規市場を持ちこたえているのは日本だけです。それでも違法市場の方が大きいというのが日本レコード協会の発表です。クリエイターに対価を払うということをどうやって維持していくかというのは国際的に大変重要なことになっていて,そのためには創作者だけではなくて,国民の意識とか芸術とか文化に接触する機会とか尊敬とか敬意とかそういうものの涵養が不可欠だと思います。もちろん国際的にもそういうのが必要ですが,まず日本国民からそういう例を示さなければいけないと思います。
 最後に評価軸のことです。この前アメリカのアカデミー賞があり,日本で各放送局がこぞって放送しましたが,あれはアメリカの国内賞です。日本での外国映画賞はクリント・イーストウッドの「グラントリノ」が総なめにしましたが,アメリカのアカデミー賞ではノミネートもされていない。表現というものは評価軸が違うのに,情報のボリュームに負けてしまって,あたかも量的に多いものがグローバルスタンダードのように喧伝されてしまうので,我々はこれがいいのだという評価軸をきちっと持っておかないと,アメリカのアカデミー賞の例のように,いつのまにかアメリカなどの評価軸がスタンダードだと誤解してしまう。まだ人工物ならいたしかたないけれど,民族に固有の食や,美人といった肉体的基準まで他人に決められてしまう。評価軸を保持しなければ多様性は維持できないと思います。
 それと,どういうエビデンスが必要かということが書かれているけれども,例えば韓国政府は2003年に世界文化産業五大強国宣言を行い,売り上げで5つの国の中の1つになると宣言しました。数値目標を立てるということは短期的には明確で分かりやすいが,それから漏れてしまったものに価値はないのかというと,そんなことない。芸術というのは評価が反転したり変わったりしますから,数値目標だけではない,長期的なものをどう落ちこぼれのないように支えていくかというのは文化政策で大変重要なことだと思います。
 以上です。
【宮田部会長】
 浜野先生,ありがとうございました。
 文化政策で,先ほど先生が経産省の話をしていましたけれども,つくづくそれは思いますね。経産省でも実は感性価値の委員会だとか日本ブランドの委員会に出させていただいていると,話が大変似ているのですよね。どうしてこうやって違うところで同じ話をしなければいけないのかなという感じもややしておりますが,そんな意味ではもう一つ横断的な考え方というのを大胆に繰り広げないと文化はつくれないのではないのかなという感じもちょっとしております。ありがとうございました。
 それでは,吉本委員,お願いいたします。
【吉本委員】
 よろしくお願いします。
 まず,2次基本方針の実施状況はどうかということですけれども,これに関しましては1回目の部会で配付された重点事項の進捗状況と今後の課題というものに,項目ごとに行われた施策と予算というのが非常によく整理されていましたので,どういう施策が実施されているかというのはそれでわかると思うのですけれども,重要なのはその結果どういう成果が出たかというところだと思うのです。ただ,残念ながら,その成果を検証できるようなデータですとかエビデンスというのが余り収集をされていない,把握をされていないのではないかというふうに思います。ですので,3次方針を策定する前には,2次方針がどうだったかということもちゃんと検証しなければいけないと思うのですけれども,これをやろうとすると,またそれはそれで大変な作業になると思いますので,むしろこれからつくろうとしている3次方針の中でどういうふうに効果を把握するのかということを盛り込んだ計画をつくっていくことのほうが重要ではないかというふうに思います。
 それで[2]なんですけれども,どんな評価指標,どんなエビデンスがあるかということで,今,浜野先生からもお話がありましたけれども,文化というのはなかなか評価が難しいというふうに言われておりまして,ただ第3次方針がない中でどうやって評価すればいいのかというのは議論のしようがないと思うのです。やっぱり3次方針で重点施策とか大きな問題が示された時点で,それに沿ってどういうふうに評価すべきか,あるいはどういうエビデンスを集めるべきということを検討すべきかと。目標がないところで,ただ例えば入場者数はあったほうがいいとかそういう議論をしても,余り意味がないのではないかというふうな気がしています。
 ただ,第2次基本方針の成果に関するデータとかエビデンスが余りないのではないかなということを踏まえると,政策の効果を把握するためのある種のリサーチのようなものをやはり政策が始まった段階から文化庁さんの主導でやるようなことを考えたらどうかというのが1つ。
 もう一つは,さまざまな施策が行われているわけですから,そのエビデンスを一から全部文化庁さんが集めるというのはほとんど困難だと思いますので,助成した先にちゃんと評価をできるようなエビデンス,データを集めるような作業も織り込んでお願いすると。それにはコストがかかると思いますので,助成金額の10%だとちょっと多過ぎるかもしれませんが,例えば5%ぐらいはそういうことに使ってもいいですよというふうな枠組みをつくって,必要なデータ,エビデンスを把握するという仕組みを考えてはどうかというのが[2]のアイデアです。
 ただ,これらをすべての施策で実施するというのはやはり難しいと思いますので,重点施策,新規施策については,できれば工程表と達成目標,この目標というのも今浜野先生がおっしゃったように,数字的な目標だけではなくて定性的な部分,アウトプットではなくてアウトカムというところなのですけれども,それも織り込んだ形で第3次方針をつくっていってはどうかと思います。
 それから,次の大きな項目の基本的な方向性ということで,現在の状況はどうかということについて,2つの視点で考えてみました。
 1つ目は国際的な視野から見た日本の芸術の状況ということなのですけれども,これも今の浜野先生のお話と随分重なるのですが,要するに日本の文化的なプレゼンスというのが国際的に見て低下しつつあるという懸念です。1回目の部会資料で配付されておりましたけれども,日本の文化予算というのは諸外国と比べても低調で,1次方針が決まった2002年度以降,予算は全然増えていないという状況があります。欧米諸国だけじゃなくて,韓国,シンガポールなどアジア諸国と比べても低い水準だと。
 文化予算の額だけが問題ではないと思うのですけれども,今のところはまだ日本はやはり文化的なプレゼンスはかなり高いと思うのですね,国際的に見ても。でも,本当に量的にすごい勢いで中国や韓国が投資をしていますので,どんどん低下する懸念があるのではないかというふうに思います。これは従来のいわゆる文化芸術だけじゃなくて,メディア芸術とかデザインとかファッションとか,あるいは建築なんていうのも日本は非常に強い分野だと思うのですね,創造産業というようなことでいくと。そういったものを国際的にアピールできるような何か施策を打ち出す必要があるのではないかと思います。
 非常にわかりやすい例で言うと,例えば海外の方が日本に来られて,アニメとか漫画のことがすごく海外で話題になっているので,そこに行ったら全部がわかるようなところはありませんかみたいな問い合わせが私のところですら来るのですけれども,ご紹介するところがないのですね。ジブリ美術館ぐらいしかなくて,メディア芸術センターもできなくなりましたから。これは三宅一生さんがかねてからおっしゃっているのですけれども,日本のファッションやデザインのことが,昔のものから現代のものまでわかるようなところはないかというので,デザインミュージアムのようなものをぜひつくるべきだということをおっしゃっていますけれども,例えばそういうものもない。ですから,そういうことの,余り箱ものをつくるのがいいとは思いませんが,拠点や情報センターになるようなものを打ち出していくことで,それが海外から見たときの観光の目的地にもなるというようなこともあるのではないかと思います。
 それから,次のページに行っていただいて,今の話が国際的な視点だったのですけれども,今度は地域の視点から見ますと,括弧の中に「地域の疲弊と文化芸術」というふうに書いてあるのですが,たしかこの間も私は徳島に行った話をしたのですけれども,地方都市の人口の少ないエリアとかに行くと,本当にその地域が疲弊しているということをものすごく実感するのですね。東京で,こういう場所で議論しても全然実感がわかないのですけれども,地域に行くとすごく実感します。本当にお年寄りが多いし,人口は減っていて,町を歩いても人は通っていないしみたいなところがたくさんあります。
 そういうところで芸術や文化で町を活性化しようという動きが今非常に活発になっています。添付の緑のマップをちょっと見ていただきたいのですが,これは全国のアートNPOのネットワーク組織でありますアートNPOリンクというところが作成したものなのですけれども,いろいろな地域にアーティストが入っていってさまざまな活動をしている,そしてその地域ごとのネットワークができているという図でして,一番上に3,849とありますが,これは2009年9月末現在のアートNPOの数です。これは毎年500ぐらい増えておりまして,今全分野のNPOが大体4万件ぐらいですから,1割ぐらいは文化系のNPOということになります。公立の文化会館が全国で3,000館と言われていますので,それを上回る数であるという状況です。
 そうしたところが中心になってさまざまなプロジェクトをやっていまして,ここには4つ挙げてあるのですけれども,JCDNというのは京都に拠点を置くジャパン・コンテンポラリー・ダンス・ネットワークという現代舞踊のNPOで,地域に舞踊家を派遣して踊りに行くぜなど,さまざまなところでプロジェクトをやっています。それからトヨタ・子どもとアーティストの出会いというのは,芸術と教育を結びつけるような活動をやっているチームです。それから,全国アートNPOフォーラムというのは,このアートNPOリンクというのが主催しているのですけれども,各地を転々としながらアートNPOで地域をどういうふうに元気にできるかというようなことをやっている。それから,今日は加藤さんも委員としてご出席されていますけれども,アサヒ・アート・フェスティバル,AAFと言っていますが,これは2002年に始まりまして,全国各地の今申し上げているようなプロジェクトを支援しているということで,これだけの数の催し物が行われて,これだけの人が参加して,それぞれの地域で頑張っているNPOがいて,今までの芸術や文化の活動とはちょっと違う角度から地域と芸術を結びつけ元気にしようというようなことが非常に活発に行われています。ですので,そういった活動をさらに振興するということを国が行えば,地域の疲弊を芸術で元気にしていくということができるのではないかと思います。もしよろしければ,後でAAFのことは加藤さんから補足でご説明いただけたらと思います。
 そして,今申し上げたような「B.地域における文化芸術の状況について」に書いてあるものを振興するためには,幾つかの方法があると思うのですけれども,ここでは少し具体的なことを書かせていただきました。つまり,今までの文化庁の助成制度,支援制度というのは,文化施設,これは拠点形成推進事業であったり,あるいは重点支援というのは実演の芸術団体を中心としたものだったと思うのですけれども,今言ったような動きが全国で広がっておりますので,そういう枠組みとはちょっと違う形のアートNPOを基点にして地域の芸術活動を盛んにする,あるいは地域に活力をもたらすというような施策というのを1つの柱として立ててはどうかというのがこの案でございます。
 とりわけ,NPOというのは経営構造というか収支構造が文化施設とか芸術団体とすごく違っていまして,公立の文化会館などは管理費,人件費などが設置者から来るわけですけれども,NPOはそういうものがありません。それから,実演団体は十分ではないとはいえ入場料収入というのがあるのですが,例えば学校にアーティストを派遣しても全然収入にはならないわけですよね。そういった基本的な構造が違うので,ここに書いてありますような3分の1,2分の1助成とか,全額後払いというような仕組みがあることで,NPOの方々は非常に苦労されているのですね。そういう細かなところを見直した制度設計を行った形のものができてほしいと思います。
 それで,この論点の中に頂点の伸張と裾野の拡大というふうにありまして,これは確かにこういう政策の指針があると思うのですけれども,今は単純なピラミッド構造ではないような気がするのです。あちこちに複数の頂点が偏在していて,それぞれ活動が支えられているというような気がしますので,そういう意味での地域の実情をよくわかった人が地域の文化施策を考え,そこにちゃんと予算が配分されるような,ある種の地方分権型の制度のようなものもあわせて検討してはどうかというふうに思います。そのときに,2次方針の中に実は再助成制度ということが書かれてあったのですが,これをもう一度方法として検討してみる余地があるのではないかなという気がいたします。
 ちょっと長くなってしまって恐縮なのですが,もう一つだけ参考資料としてイギリスの文化政策の流れというペーパーをつけさせてもらいました。イギリスの文化政策をざっと見ると,非常にイギリスの10年前が日本に似ているのですね。 皆さんご存じのように,イギリスの場合はArts Councilというのができて,そこがさまざまな文化政策の実行機関を担っているわけですけれども,79年に保守党で登場したサッチャー政権は,皆さんご存じのように英国病を脱却するために,新自由主義を導入し,市場原理の重視,value for money,あるいは経済効率,国営企業の民営化,PFIなどすごく推進をしたわけです。この辺,多分後藤さんのほうがお詳しいと思うのですけれども,一方で評価がそういった政策にそぐわないということで,文化予算がかなり削られました。この状況というのは前の小泉政権の政策にすごく近いような気が私はしていまして,文化予算は小泉政権のときは減っていないのですけれども。そういう状況があった中で,英国では97年に労働党のブレア政権が誕生して,Cool Britannia等の標語とともに,クリエイティビティというのをすごく推進するようになるわけです。
 政策は幾つか発表されていますけれども,98年にA New Cultural Frameworkというのが出まして,その中の重点政策にひとつは限られた人々ではなく,多くの人々に文化芸術に触れる機会を提供すること。それまではアーツフォーアーツ政府という,頂上を高めることに重点が置かれていたのですが,アクセシビリティというのを非常に重視するような政策がとられたり,それから教育とか産業との連携というのが強くうたわれました。2000年にAll Our Futuresというレポートが出まして,2001年に「文化と創造性,これからの10年」というレポートが出まして,ここでイギリスでは教育と芸術を強く結びつけるクリエイティブ・パートナーシップという事業が導入されました。
 この施策文章などを読むと,例えば冒頭の文章にブレアのサインがあって,「この自由な精神において,芸術は政府のシナリオの核心部分に位置している」というようなことが書かれていたりするのですね。ですので,前期部会の報告はたしか宮田部会長がお書きになった文章が冒頭についていると思うのですけれども,例えば閣議決定になったときは,ぜひ鳩山総理のお言葉でそういうのを強くアピールしてはどうかというふうに思います。
 さらに,その方向を今イギリスはますます強めて進めておりまして,2008年にクリエイティブ・ブリテンというようなことで,クリエイティビティで国を経済も産業も振興しようと。1番目に挙げられている施策,全部で8つあるのですけれども,それが才能発見という事業でして,これは全小中学校で週5時間の芸術の授業をやるということです。今パイロット事業として始まっておりますけれども,そんな流れがありますので,そういうことも参考にしながら,大きな方針を考えていただけたらなというふうに思います。
 以上です。ありがとうございました。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。この前も後藤先生のお話で芸術の話がございましたけれども,今回は吉本先生,ありがとうございました。
 いろいろなところを把握した上で,今日本がどうあるべきということと同時に,どう進んでいくかというのは大変大事なことかなというふうに思っております。ありがとうございました。
 これからは,約5分程度でございますが,各委員の先生方から今のお話を踏まえまして,ご議論といいますか,ご提案といいますか,また持ち込みの資料などがございましたら,お話しいただけたらと思っておりますが,いかがでしょうか。
 後藤先生,お願いします。
【後藤委員】
 後藤です。今の吉本さんのお話に続くかと思うのですけれども,実は私は先回のこの会が終わってからすぐ京都に行きまして,2012年に京都で国際文化経済学会というのが開催されることになっておりまして,国際文化経済学会というのは文化と経済について考える国際的な学会なのですが,70年代につくられて,ヨーロッパとアメリカを2年おきに行ったり来たりしていたのですが,2012年に初めてアジアで開催するわけです。
 それに先立って,この6月から会長になるイタリア人の先生で,彼は40代半ばぐらいだと思うのですが,次期国際文化経済学会会長が来られていて,その先生のご専門はアートマーケット計量経済学的分析というので,本当に計量経済学を使ってアートマーケットを分析するというような研究なので,そのセミナーも一緒にやってきたのですが,どうやって絵画の価格が決まっているかというのもいろいろおもしろかったのですけれども,例えば一番大きな要素はサイズだというふうにおっしゃっていました。何と言ってもサイズで決まると。それから,おもしろかったのは,サザビーズで取り引きされると非常に高い値がつくとか,それから同じサザビーズであってもニューヨークであるとかロンドンであるとかという,都市によって非常に差がつくのだということで,なるほどと思ったのですけれども,だからそういう都市のブランドというかそういうのが非常に高いところではアートマーケットでも高い値がつくのだというようなことがわかったりして,なかなかおもしろいセミナーでした。
 ついでに,2012年に開催するに当たって日本の文化をアピールしたいということもありまして,(月)から昨日の夜までいろいろお連れして一緒に歩いてきました。1つは漫画ミュージアムにも行かせていただきまして,これはとても喜んでいらっしゃいまいた。ちゃんと解説してくださる方が来てくださったので,日本語でしたけれども,私がずっと通訳をしていたので,彼はイタリアでマジンガーZを見て育ったというようなことで,すごく懐かしそうにしていましたし,それから小学校がああいう形で,コミュニティの人たちの記憶を残した形で漫画ミュージアムになっているということも非常に興味深かったようです。
 あとほかにどういうことを見せたかということなのですが,漆の工芸は,輪島とは全然京都は違うということで,非常に質が高いということはすぐご理解いただけたようで,日本を全く知らない方だったのですけれども,それからあとはいろいろな伝統的な建築を見て,イタリアと全く違うのは,自然とすごく共生した感じで建築ができているということに非常に興味を持っておられました。それは日本の文化財の考え方にも私は反映していると思うのですけれども,天然記念物であるとか,名勝であるとかということで,自然を文化財としてとらえている国というのは世界にはないと思うのですね。そういう点は,さっき吉本さんがおっしゃっていたように,建築というような分野もやはり文化として取り込んでいったほうがいいのではないかなという気がします。
 あと,堀木エリ子さんの和紙のギャラリーにも行ったのですけれども,これは非常に大きなサイズの和紙を越前の職人さん工房で10人が1カ月かかって,それを現代建築やインテリアに使っているということで,首相官邸にも入っていますけれども,ずっと明かりの変化とともに全く模様も色も変わっていくというのに非常にびっくりしまして,これは日本のすばらしいクリエイティブ産業でしょうというふうに,それを見せたかったのですけれども,おっしゃっていました。
 それで,何が言いたいかというと,先ほどアジアが非常に頑張っているので負けそうだという話が出ているのですが,私も台湾とかに毎年呼ばれて行ったりするのですけれども,アジアの人たちが言うには,台湾なども全部お金と結びつくことに対して非常にセンシティブになっていて,文化そのものの価値というのは意外と忘れ去られちゃうというか,韓国もそうなのですけれども,非常にこれがやはりだというと,そっちの方向に走って,古いものはなくなっちゃうというような傾向がありまして,そこへいくと日本は結構バランスがとれていて,経済的な価値も考えますけれども,やはり文化的な価値ということで,文化財政策をこれだけやってきているので,非常にポテンシャルというか,底が深いところがあると思うのです。だから,それをうまく今のクリエイティブ産業とか,現代アートの創作と結びつけていくというようなところをもっと推進すると,アジアのほかの国にはない良さが出るのではないかなというふうに感じました。
 エビデンスとか施策の効果の評価とかというところで,私は宿題に書かせていただいたのですけれども,全て国際的な視点で評価をしたほうがいいのではないか。つまり,国内でこういうことをやりましたとか,こうでしたというのではなくて,それが世界的に見てどういうポジションを占めるのかというような,そういう国際的な視点での評価というのを今後は入れていったほうがいいのではないかなという気がしました。
 以上です。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。韓国での話とかというのは,私もよく行くものですから感じますね。ばっと走るのですけれども,こぼしてくものがあるというあたり,興味深いお話をありがとうございました。
 さて,ほかに先生方いかがでしょうか。加藤先生,お願いします。
【加藤委員】
 せっかく吉本さんにご紹介いただいたので,少し中身を補足したいと思います。先ほどの地図でも紹介されている,アサヒ・アート・フェスティバルを10年ぐらい続けてきており,この数字も大分これ以上増えていますが,その特色をちょっとご紹介しておきたいのですが,大きな特色は3つあると我々は思っております。
 その1つは,全国の約30のNPOと毎年ネットワークを組んでこのプロジェクトをやっていますが,その実行委員というか,組織そのものの中に検証システムを入れ込んでいます。これはいろいろと細かい説明は省きますが,自己検証と第三者による検証と両方を組み合わせた検証システムで,初めからエビデンスをきちんと出していこうということを強く意識していること,ここが相当大きな特色だろうと思っています。このことは多分今後のさまざまな具体的な施策を進めていく上でも参考になるのではないかなと思っている点です。
 2つ目は,それぞれの団体にシードマネーを提供しているのだということです。額はわずかなものかもしれませんが,それが投資につながっていく。我々が最初に資金を提供することで,それが波及をして,今後いろいろな制度ができてくると,その制度を活用して自立をしていくためのインキュベーションの機能を我々としては持っている,この点が2つ目の特色だろうと思います。
 3つ目は,それぞれのプロジェクトは自立をしていますが,最初からネットワークをきちんと組んでいくということを意識していまして,地域は単独だとどうしても自分たちの抱えている課題の位置というのがよくわからないのです。しかし,それが全国的な広がりの中で,我々のやっていることの意味合いは何だというふうに整理をすると,非常に課題整理がわかりやすい。そういう意味で,ネットワークを非常に強く意識をしていて,少なくとも年間3回は全国のすべてのプロジェクトが集まれるための仕掛けづくりをやっています。
 この仕組みづくりがうまく行っているので,逆に我々としては恐れている点があって,これを例えば文化庁が10億ぐらい予算を組んでこのプロジェクトを進めると一気に拡大できるだろう,半ば冗談ですが,つまり我々としては国にこの制度をうまく横取りされるのを恐れている訳です。でも,それぐらいのわずかな資金でその程度の効果が上がるように仕組みづくりを仕掛けているということです。
 地域にとってはやっぱり現場に即した,本当にきちんと現場の状況がわかった上で,しかも目標を非常に鮮明にして,その目標,目的に対して常にエビデンスの検証をやっていくと。このことをやっていけば,例えば今やっておられる芸術文化振興基金のようなものの効果がはるかに上がるだろうというふうに思います。
 さらにちょっと敷衍して二,三意見を申し上げたいと思います。1つはその芸文基金のあり方について,目標やらエビデンスやら組織上のあり方,つまり重要なところには天下りを入れるのか入れないのかというようなことを仕分けの対象として今後検証される前に,またこの答申を待つ前に,文化庁自身がこの点は制度を設計し直して,こういう方向に少なくとも今後は行くよということを表明されたほうが,政治的な状況を含めて判断するといいのではないかという点が1つです。
 これは一芸文基金の話ですが,これと関連して前回のときにも話題になっている文化省づくりというか,省庁の再編ということをにらむ必要があると思いますが,その際に経産省とか国交省とかいろいろなことが取りざたされていますが,その間の中で文化庁がどれだけイニシアチブを今から発揮できるのか,我々の主張はこうだということを表明しておく必要があるのではないか。そのあたりのイニシアチブをどこまでとるかということの覚悟が今から要るのではないか。
 3つ目は,アジアについて先ほどご指摘のとおり,商業的なものに関する理解が強いのだというご指摘があって,それはそのとおりかもしれないけれども,しかし,たとえば,ソウルの大学の跡地に行くと,あそこに劇場の数が99ある。99も劇場をつくって,全部商業的なわけがないので,そういうことからいうと,やはりこのスケール感というのは,インパクトも大きなものでしょう。今のところこの5年間ぐらいで日本は文化に対するコスト削減だけを一生懸命図ってきた,それは大学を含めてだと思いますが,それだけを図ってきた。にもかかわらず,東アジアの諸国は文化を国家的戦略として振興してきたことは事実なので,そこの逆転を図るための東アジアにおける文化振興のプレゼンス,それを文化の領域だけにとどめず,幅広い観点から文化振興のプレゼンスを高めていくということは非常に重要なことなので,その具体的な施策については次回幾つかご提案申し上げたいと思います。
 以上です。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。先ほどの浜野委員からの流れで加藤委員のお話が来て思ったのですが,ここの話は,先生方,文化庁の話は品がいいのですよ。だからって,ほかのところの話をというとちょっと気になるのですけれども,妙に数値だけが先行するというふうな。私は両方必要だと思うのです。だけど,やはり理念というのは品のよさの上で,この前のときに青柳委員がやさしさという表現ですか,そういうふうな中の部分があるのだけれども,プラス実のある具体のような話というのがほしいなという感じです。ですから,そのときの某違う省の話を見ていると,やはり勝ち組,俗に言う数値的勝ち組の会社の人たちがざざっと並んでいると,ああそうかと思って,随分違うものだなと。その辺も含めた考え方を持っていったら,加藤委員のお話にも十分こたえられるというか,国に対して十分物を申せるのではないかという感じがいたします。
 ほかの先生方いかがでしょうか。佐々木委員。
【佐々木委員】
 今日の論点の中で,私はこの後半の今後の基本的な方向性ということについて少し意見を述べてみたいと思います。
 要件は2点でございます。最初の第1点は,文化というのはまさに人間の一生と同じだというふうに思っておりまして,人間の一生にスクラップ・アンド・ビルドはあり得ないのと同じように,文化というのはやはりスクラップ・アンド・ビルドはあり得ない。質の継続性ということが大前提であるということになりますと,ちょうど人間の一生の中で,人間が生まれて,そして子供のときから成長して,やがて青年,壮年期になって高齢を迎えると。そういうときに,やはり幼児,子供というところの教育をどうするかということと,それから高齢の域になって,そこで幸せということをどういうふうに保障するかという,いわゆるよく言われております医療と介護,年金というもの。この最初と最後というのは,やはり国が何としても責任を持たなければいけない。そして,その中間の壮年期というところをどういうふうに制度設計していくかということだろうと思うのです。
 文化もやはり文化の将来の担い手,あるいはつくり手でもあり,受け手でもあるという,そういう子供の時代の教育というものをどうするか。これはやはり国家,国が全面的に責任を持つべきであろうと,文化に対する教育というのは。それから,いわゆる文化の高齢期に当たる,例えば伝統文化であるとか,文化財であるとかというふうな分野,これもやっぱり国が責任を持つべきであると。そして,元気な壮年期の活動ということに対しては,いかにきちんとした,この前もちょっと申し上げましたけれども,文化的な基本インフラというのをどういうふうにしてきちんと整えてやるかと。それが整えば,やはり民の活動というものも活発になるし,地方でも当然活動が活発になると。そういう文化の政策においての構図というものをまずきちんとしておくべきだろうというふうに思う点が1つであります。
 それから,第2点は,先ほども言いましたように,文化というのはやはり享有者側だけではなくて,つくり手も非常に重要なわけでありまして,そういう意味で文化を高めるということは個の人間の文化度を高めていくということであるのだろうと思うのですけれども,それじゃ文化度というのは一体何なのかということが非常に難しい問題であるわけです。
 私はいつもこういうものを理解するときに,できるだけ視覚化をして理解しようというふうに思いまして,まず私は頭の中でピラミッドの形を考えてみるわけです,あるいは三角形を皆さんはこの中にかいていただいてもいいのですけれども,それを5つぐらいの層に割ってみまして,そしてピラミッドの一番底辺になる,一番底になる,一番基本になる部分というのは,これはやはり私はモラルの段階だろうというふうに思うわけです。モラルの問題というのは極めて広範な意味を持っておりまして,例えば子供たちに平和というのは一体何なのかとか,あるいは幸せというのは何なのかと,あるいはそれぞれの人間が将来に向かって希望を持つ社会というのはどういうこと何だろうかとか,あるいはどうして人間は景観とか文化財を保護しなければいけないのだろうかと,あるいは農村漁村の将来のビジョンというものを我々は考えなければいけないのではないかと,あるいはエコというのはどうして今こういうようなことが問題になってくるか。そういう広範なモラルの問題というものを,やはりこの一番ベースのときに徹底して教育をすべきだろうというふうに思うわけです。そういうモラルの問題,モラルをいかに教えていくかという問題が1つあるだろうと思います。
 その上の層にはやっぱり知識のレベルがありまして,これは人間が言語を習得し考えるようになりますと,どんどん知識を吸収していく。だから,この吸収できる時期にできるだけきちんとした知識を与えていくという,そういう教育も必要だと。そういうところは,知識と教育というのは非常に微妙な,知識があれば教育がきちんとできているかというと,そうじゃないわけでして,やっぱり教育というのは次のその上のレベルに来るのだろうと思うのです。
 そういうふうにして,モラルがきちんと教えられ,知識も獲得し,そして全人的な教育ができたときに初めて次の段階で教養という,人格にかかわる教養というレベルに来るのだろうと思うのです。そして,それが形成されて,最後の層のところで,やはりきちっとした判断力,あるいは場合によっては感性の問題とか,そういうレベルが一番キャップのところにきて,その総体がいわゆる文化度と言っていいものだろうというふうに,私自身はそういうふうに常に理解をしております。
 そうなると,一番重要な,一番基底になるモラルをどういうふうにするかというのは,これは学校で教育する,それが一番近道でありますし,現在の初等教育では,例えば国語だったら週四,五時間必ずあるわけですし,道徳の時間も必ず1時間はありますね,それから生活というふうな時間も必ずある。そういうかなり今のモラルの教育というものに踏み込める領域というのは,随分時間帯としてやっぱりあるわけですね。だから,そこで徹底してやるべきだろう。
 その次の段階の知識ということになりますと,例えば今の学校教育の中でしたら,多分6年生で日本の歴史がスタートしていると思うのですが,そういう歴史の中でやっぱり芸術教育,芸術史の教育,それから文化史の教育ということをそのあたりからきちんとスタートして,そして中学校あたりではそれを徹底してやると,それはまさに知識の段階だと思うのです。知識がどんどん吸収できる段階にそういう教育をやるべきだろうというふうに思うわけです。
 そういうふうにして全体をいわゆる底からレベルアップをして,あるいはてこ入れをして,文化度を高めていくということによって,初めて日本の今後の文化のつくり手でもあり,受け手でもあるというその層がきちんと育っていくのだろうというふうに思うわけです。もちろんこれは10年,20年かかる長期の問題ではありますが,短期的な施策とともに,長期的な問題というものをぜひスタートすべきであるというふうに思うわけです。
 それから,今のモラルとか知識ということと同時に,一番私が重要だと思われますのは判断力とか感性の問題。これはそこを刺激する感性教育というのも非常に重要だと思いまして,これは現在の学校教育では音楽とか美術とかというのがあるわけですけれども,そういう業態を使って,やはりこれは古典のすばらしいものをきちんと鑑賞できるという,そういうシステムと体制というものをつくっていくべきじゃないかなというふうに思っておりまして,文化度をいかに高めていくかということを施策の中でもう少し具体的に考えていくべき時期に来ているのではないかなというふうに思っております。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。柱をきちっと,今のお話を聞いていると3本私は感じたのですが,つくるということは大事なことじゃないでしょうかね。
 今日はこんな格好をしているのですが,今日の午前中は附属の音楽高校の卒業式だったのですけれども,卒業式,当然ですからオーケストラが後ろにいるのです。1年生と2年生なのですね。今日はタカスギ先生が指揮をしまして,モーツァルトからスタートした。全員泣いちゃったのですね。私も泣きましたけれども,そのすばらしさに,いや芸術はすごいなとつくづく感じて,その後賞状とかそういうのをやった後,私がスピーチに立たされたのですが,しゃべることがないのですね,というぐらい感動する場面があったのですが,たまたま樂という字,古い樂という字,ニチリンの左右に糸があって,人が結ばれ,それを大きく育てていくために下に木があると,それが伸びていくのだという,インドの周の時代の文字の語源をちょっと思い出したものですから,そんな話をさせていただいたのですけれども,だからみんな一人ではなくて,結び合ってすばらしいものができ上がる,文化ができ上がるのだという話をさせていただきましたけれども,今の佐々木先生の教育の話,それから感性の話というのは,若いころからというのと同時に,その指導者,それ次第で,とてもじゃないけれどもというぐらい,もうウィーンフィルなんて目じゃないやというぐらいのすごい演奏をしてくれまして,感動した記憶が思い出されました。失礼しました。
 ほかの先生方,いかがでしょうか。高萩先生,お願いします。
【高萩委員】
 「文化芸術は必要だ」ということで改めて読んでみましても,皆さんの意見がどうしてもばらけて見える。今回かなり急いでこの部会を開いているということは,来年度予算へ向けた対策ということもあるのだと思います。前回ああいう形で「仕分け」をされている以上,それに対応するだけの論拠をつくらない限り,とても文化庁予算の前年度並みは,維持できないのではないかと思います。今回前年比で超えたことはすばらしいと思うのです。加藤さんは先ほど文化庁自身が制度を設計し直したほうがと言いましたけれども,なかなか自分ではできないからこその審議会だと思います。外部の意見をきちんと言わせていただくか,前年度以上の予算を確保するには根拠をきちんと示せないと本当に幾ら言っていてもやはりだめですねということになってしまう可能性もあると思います。ちょっと乱暴な意見かもしれませんけれども,「配り方」について,それから「評価」について,きちんと埋め込んだ形でぜひ答申を出していきたいと思います。
 ちょうど吉本さんのほうがお出しになった英国の文化政策の流れが参考になると思います。英国だけじゃなくて,やはり各国,大きな国は特にかなり地域ごとに文化の強化をやっているわけですね。イギリスの場合はまず4つに分けて,イングランド,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドに分けた上で,イングランドは大きいので,その中をさらに9つに分けている。実際に配り方,それから評価についてもやっていると思います。アメリカの場合も,かなり大きく,中西部何とか何とか,幾つかに分けて評価をしていると思います。
 日本は今やはり東京で全てをつくっていると思いますので,この前も言いましたけれども,全てを中央集権にするというようなことにならないように,地方分権を先取りするというか,ここまで言っていいのかわかりませんけれども,今ある県の単位に任せておくのではなく,できれば広域圏,もし先取りできるならば,それこそ道州制の範囲ぐらいを先取りした形で,助成金を出し評価する形が良いと思います。中央から予算をつけてでも,ある広域の地域の中でアーツ・カウンシルみたいな形のものができないでしょうか,東北圏とか九州圏とかという形で文化芸術に関しての一定の配り方というか,評価のできるものをつくられると良いと思います。その上にきっちりとした形で全国芸術評議会みたいなものをつくって,分野ごとの目標をつくり,それからそれに対しての評価を出していくという形が望ましい。そうしないとやっぱり税金,何百億,何千億という格好で動かすのが耐え切れないのではないかなという気がします。当然配り方までを出して,それとセットにしていく形でぜひ前年以上の予算を確保していただきたいなというふうに思います。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。
 いかがでしょうか。西村先生,どうぞ。
【西村委員】
 今の意見にちょっと関連しているのですけれども,私は,恐らくその次の第3次の基本方針をどういうふうにつくるかということがメインなのでしょうけれども,前回の意見でもあったように,国としてどこまで言うべきなのかという問題がやはり少しに気になるところなのです。それは文化の中身にもよると思いますけれども,一つ恐らく今の第2次基本方針で欠けているかなと思うのは,やっぱり地域の多様性を保持することを応援するというようなスタンスというのはあってもいいのではないかと。つまり国がこういうことをやりますと言うと,やっぱり国が全部引っ張りますと,そこまですべてをやるということを決めていいのか,国の立場はどこなのかという問題がやっぱりあると思うのです。特に地方主権ということになると,地方の多様な試みを応援するとか,例えば民族文化に頑張るところとか,創造都市に頑張るところ,さまざまあるわけですから,そこをうまく評価して,そこに対して応援するというようなプログラムといいますか,多様性を評価するようなプログラムというのが1つあっても良いのではないかな,それはある種文化の多様性ということになると思うのです。
 特に今文化財のほうでいいますと,文化財の総合的把握モデル事業というのがやられているのですけれども,すごく地方の,特に農村部に非常に豊かな民族文化が残っていたりするということが,本当に草の根まで探していくと,その豊かさみたいなところが非常に出てくるのです。農村は疲弊していると言うけれども,逆に言うと本当に民族文化や伝承やさまざまなものの宝庫であって,例えば添え物的に行事食,食もありますし,ですからそういうものをきちんと底上げしたり,そこに光を当てて元気をつけていくと。それはやっぱり恐らくそれぞれの地域が頑張らないと,国が全体として方針を示していくことはなかなか難しいと思うのです。地方,農村部ですとか,もしくは非常にクリエイティブなことを頑張るような都市,イベントもやったり,NPOもあったりするわけで,そうしたところにうまく応援ができるようなプログラムというのか,そういう考え方も方針の中に1つ必要なんじゃないかなと思いました。
 それでいうと,キーワードはある種文化の多様性なのだけれども,それを恐らく,今ユネスコの文化の多様性条約というのがあるのですが,日本はまだ批准していないのですね。ですから,ある種そういうものも非常に大事なんじゃないかなという気がしています。つまりユネスコの文化の多様性条約は先ほどの浜野先生のお話じゃないけれども,ハリウッドに対抗するフランスの文化の多様性というところから出てきたわけですけれども,それをもう少し国内的に見ても意味があるような多様性というのが理解できるのではないかと。もしくは,そこからもアジアやほかの国に対して日本的な多様性みたいなところを主張するようなところにつながっていけるのではないかと思うのです。何かそういうことにうまくつながるような基本方針のスタンスというのが,少なくとも部分的にはある必要があるのではないかなというのを感じます。
 以上です。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。だんだん具体的な話になってきたので,大変ありがたいことだと思っております。何しろ仕分けもそろそろ来るのですよね。うちのほうにはどういう感じで来るのかわかりませんが,皆さんも思っていたと思うのですが,お話しするのは僕らじゃないのですよね。直接やっている人じゃなくて,お願いしているわけですよね,お役所の皆さんに。大変なご苦労だと思うのですけれども,やはりそのためにはネタを挙げなきゃという非常にわかりやすい話ですので,今日の先生方のお話は逐一メモできる部分があるのではないかと思います。失礼しました。
 鈴木さん,どうぞ。
【鈴木委員】
 少し西村先生に関連しまして,今後の文化芸術振興の方向性ということでお話をしてみたいと思うのですけれども,私はやっぱり浜松市の市長という立場で,少し自治体の立場からお話ししますと,浜松市はご承知のようにヤマハ,カワイがあったり,楽器産業が集積をしているということで,そこから音楽の町,音楽の都ということで,かなりいろいろ音楽文化について予算も組んで事業をやっているわけです。
 例えば,浜松国際ピアノコンクールという,これはもう第7回で,3年に一度ですから,もう20年以上やっているのですけれども,中村紘子先生が頑張ってくれまして,かなり国際的にも有名になってまいりました。むしろ国内よりも外のほうが有名になってまいりまして,今年も参加者は圧倒的に海外の方が多くて,特に中国,韓国からの応募が多くて,優勝者もチョ・ソンジン,天才だと,中村さんもびっくりしていましたけれども,ものすごいのがあらわれまして,恐らくいずれ世界的なピアニストになるでしょうけれども,どうも私はやっていまして時々むなしくなるのは,1回に直接経費だけで2億以上かけるのですね。相当力を入れてやっているのですけれども,変な言い方ですけれども,浜松だけの自己満足に終わっているような節もあって,恐らく浜松はこういう取り組みをしていますけれども,いろいろな自治体で相当お金をかけていろいろな取り組みをしていると思うのです。それを国が財政的に支援をしろというよりも,むしろもっと活用すべきだと,そういう自治体が力を入れてやっている文化事業みたいなものをもっと全国的に引っ張ったり,もっと活用させろと。
 我々の事業も国際ピアノコンクールとあわせてピアノアカデミーをやっていまして,これは世界的なピアニストの先生を集めて才能のある若い子たちを1週間ぐらい缶詰にして徹底的に指導するという,そういう事業を毎年やっているのですけれども,ぜひこういうものをもっと国のネットワークを使って活用するとか,恐らくいろいろな分野で自治体が相当力を入れている事業というのはたくさんあると思うのです。こういうものがまだうまく活用されていないような気がして,国は補助金や助成金で援助するというよりも,今地域がやっている取り組みを,むしろもっともっと国が活用していくということのほうが私はいいのではないかなと思いまして,ちょっとそんなことをご提案申し上げたいというふうに思います。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。そうですね。国は金をというと江戸時代みたいですものね,与えてあげるとか。そうじゃなくて,一緒になって動いていくというような環境ですね。そういう点でいくと,事件がない限り文化の話が出てこないというのは困ったものだよね。昨今はフランスではとてもいい賞をいただいて,カビが生えたり,クモが出たりとか,そんな話じゃなくて,もうちょっと普段やっているいい話をもっと新聞社さんにとらえてもらいたいというか,そのための施策,政策みたいなことも私どもの仕事かもしれませんね。そんな感じがいたします。ありがとうございます。
 ほかに先生方,いかがでしょうか。ちょっと間がありましたので,先ほど田村さんがこれを持ってきたので,田村先生,これ,せっかくですので,この話なんかをなさっていただいたらいかがでしょうか。
【田村部会長代理】
 たくさんもってまいればよかったのですけれど,ちょっと今日は持ってまいりませんで,回して読んでいただいて。
 これが私どもグランシップの年間イベントカレンダーでございます。私,先ほど堤先生のお話にございましたように,歴史と伝統,日本人として子どもたちを,きちんと育てるために非常に大切にしなくてはならないと思っております。その受け皿が公立文化施設になるべきと考えております。皆様が伝統芸能,古典,これをないがしろにするなということはよくおっしゃいます。でも,具体的にどうしてという施策が今までなかったような気がします。
 私は,全国のたくさんある文化施設,日本は2,000以上あると言われておりますので,2,000以上ある公立の文化施設で日本の伝統芸能をしないところは国が支援しなくてもいいというぐらいに積極的にしたほうがいいのではないかと思っています。
 私ども,実は静岡でございますので,観世ゆかりの地でございますので,会館以来ずっとお能の公演はあります。ですから,能のワークショップもやっております。それに続きまして文楽もずっと実施しております。それから,宝井馬琴さんが静岡の方でございますので,講談などさまざまな話芸もしております。今年から歌舞伎も実施することにいたしました。国立劇場にお願いしました。でないと,残念ながら歌舞伎を一度も見ずに過ごしている方がたくさんいらっしゃるのが事実でございます。相当芸術文化に造詣の深い方でもそうなのです。東京までいらしてごらんになれる方というのは,ほんの限られた方でございます。まして次の世代を担う子供たち,先ほど浅田真央ちゃんのお話がございましたけれども,そういうものに一切触れない子供たちが育ってきているのです。これは国の責任でもあり,大人の責任ではないかと思います。きちんと国が推し進めるべきことと思っております。
 いつもお金のことを言うようでございますけれども,実際問題,同じ国立劇場の公演をするにも,東京からたった1時間の静岡で二,三割高くなります。ということは,もっと遠い地域の方は倍だったりするわけです。そういうところにやはり国は目を向けていただきたい。
 というのは,日本の文化,地域にすばらしい文化がございますということはよく言われることでございます。でも,皆様が日本の全体の文化の現状をどの程度把握していらっしゃるかといったら,これは残念ながらではないかと思います。
 いわゆる日本の現在の地域の伝統文化がどう振興されているか。沖縄の読谷村などでは1975年からきちんと各字で教えていらっしゃって,そして読谷村祭りというのも開催していらっしゃいます。富山県の平村は,高校生が踊る麦屋節やこきりこは,保存会の旅よりはるかにすばらしいと言われております。それは,NHKが戦後,全国の民謡,民舞を採譜し始めたときに,富山県が民謡民舞連盟をつくったのがきっかけで始められたことなのです。風の盆もあれだけ盛んになっているわけでございます。よく地域の取り組みがあると言われます。きちんとそのまま保存されているだけなのか,継承されているのか,そこまで把握しなければ机上の空論に終わってしまうと思います。
 本当に歴史と伝統が日本人として大切であるというふうに皆様がお考えになるのだったら,そのためにどういう施策が必要なのかということをきちんと考えなくてはいけないのではないかと思っていまして,私どもは自分たちのできる範囲でということで,今年から歌舞伎を取り上げました。もう一つ,日本に欠けているのは上質な児童演劇だと思います。これについてはまた。
【宮田部会長】
 児童演劇,いいですね。思い出しましたけれども,私は生まれが佐渡なのですけれども,木下順二の夕鶴の初演が佐渡なのです。私は4つぐらいのときに母の背中に負ぶわれて,小さな町で,もちろん皆さん農家の方だったりいろいろな方で,そこをずっと見ていたのですけれども,ああいいものだなと思って,いまだにその印象というのはすり込みで覚えています。親父が芸術監督で,兄貴が舞台技術でやって,うちの一家全員でやって,お袋が衣装をやってみたいな感じで,隣のうちの農家のお兄ちゃんが主役なのですね。というような感じで手づくりのものを見たときに,ああいいなと思って,すぐその後には今度はうちで俳句会があったりとか,そんなこと,とてもいいものを感じたので,そういう先ほどの西村先生や田村先生のお話でもつながっていく,地域の中に根づいたものをしっかりとらえてくれる,客観的に見てくれるような人たちというのが必要かなと思うのですが。
 私の宣伝じゃないので誤解しないでもらいたいのですが,慌てて今日これを持ってきたのですけれども,「私の視点」という本を出させていただいたら,朝日新聞社の1月29日,紙面の審議会というのがあるのだそうですが,そこでフバライニンがスタートの段階で「日本の文化政策,世界をときめかす」という私の文が日本の文化政策の現状を訴える世論であったというふうなことを書いてくださってもらっています。これはありがたいなと思ったのですが,同時に,こういう仕事というのがやはり次から次にバトンタッチされていくと,醸成されるより大きくなるのかなという気がいたしております。
 いろいろな意味で先生方の中で,こういう会議で会議の話をするのではなくて,こういうふうなのをぜひどんどん皆さんにお持ちいただいて,そういう集積も大事なことかなんていう感じがしておりますし,仕分けのときには,例えば私がこういう大学の中で学生たちや先生方が発表したものを全部ファイルしてある,1カ月のファイル,もう3カ月になると持ち切れないのです。しかし,常に学長室に置いてあって,来た方には必ずこれを出す。これだけやっている。これが力になるのだから,これでどれだけの人が救えたと思うという話をさせていただくのですが,こんなことを含めて,先生方の英知,あるいは今までの結果集積等をぜひお持ちいただきながら会議を進めていきたいなと思っております。
 また振って恐縮ですが,突然ですが,長官,いかがでしょうか。
【玉井文化庁長官】
 ありがとうございます。今までのお話を聞かせていただきながら,少し論点が重なって,幾つかの違った視点が重なりながら,ある方はある側面で,ある方はある側面でというふうなお話になっているのかなと聞いていますので,私なりの受け止め方を申し上げますと,1つは地域でのいろいろな活動を大切にする。皆さんの認識は一致をされている。その中身をおっしゃるとき,例えば西村先生は伝統芸能などの伝統文化を念頭に置きながら多分お話をされた。多分その世界は,先ほど歌舞伎のお話も出ましたけれども,やっぱり明治以来文化財保護という長い歴史の中で戦後には保護法もございまして,ある理念なり手法なりというのが,ある程度のものができ上がっている。そうすると,端的に言えば文化財保護法の理念とする対象とするものは国民全体の宝であると,ならば国民全体がそれを保護しようと,したがって国費も出そうと,こういう論理でしっかりした議論ができるわけであります。もちろん,今の保護法体系のもとで地域の伝統文化をきちんとしているか,これはまた議論がありますので,それをより充実する必要があろうかと思うので,今回の諮問の中にもまさに文化財の問題は大きな柱に立てさせていただいているわけであります。
 では,地域における現代的な芸術文化活動,今まさに動いているアートそのもの,地域で行っていく,その公費をなぜ出すのかとか,それはなぜ国費なのかとか,ここの議論になってくると,多分文化財のようなぱっと皆さんがなるほどというところまではなかなか今行っていない。それを本当にこの議論の中で,どういう論点とどういう手法によってなるほどという議論に結びついていけるのか。特に地域の活動になってくると,いろいろな議論の中ですぐ言われるのは,これは地方の問題,地方に任せろと,なぜ国費を出すのかというのが最初の議論に,ここの場では皆さんほぼ共通の認識なのですけれども,ほかの場に行ったら違った議論になってしまいます。だから,その問題をどう考えていくのか。
 それから,恐らく現代芸術と文化財,両方にまたがる活動が今非常に大切になってきているのだろうと思うのです。例えば,人間国宝でいらっしゃる富山清琴さんの第1回目のときに絶滅危惧種という言葉を使われてしまいましたけれども,もちろん保護法の世界もございますけれども,今現に富山さんが活動されているのは,まさに芸術文化そのものの活動もされているわけですから,それをどういうふうに考えていっていただけるのか。
 それから,クリエイティブ,産業との関係はまたもう一つ切り口を違えた議論でやはり一つやっておいたほうがいいのだろうと思います。
 それから,佐々木委員がおっしゃったのは多分感性教育,まさに小さいころからの感性教育をどうするのかという問題なのだろうと思いますので,これもまた大きな柱の1つと思っていますので,そういう少し観点を整理しながら具体の議論をもう少し続けていただけるとありがたいなと,こういう印象を受けました。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。
 いかがでしょうか。里中先生。
【里中委員】
 すみません,最初飲み込みが悪くて,つまり要約すれば,次の事業仕分けで負けないような,何か国にとってこの分野が必要なのだということで説得力が出れば大変いいということなのですね,きっと。すみません,品の悪い言い方で。
 ただ,納税者の方々,自分も納税しているわけですけれども,納得していただいて推進するためにというのは,やはりある程度の裏づけが必要だと思うのですが,みんなでもっと認識しておきたいのは,文化芸術というのは経済とも結びつくということなのですね。保護とか援助とかばかりが前面で出ますと,守ってやらないとそれこそ絶滅するみたいに思われていますが,上手に使えば文化立国というのは決して意識とかプライドの面だけではなく,経済効果も上がるのだということをもっと強調したほうがいいのかなと思っております。
 つまり何度もいろいろなところで申し上げて恐縮なのですが,資源がなくても上限なしに輸出できるという見込額というのは,勝手に大きく設定するとまた後で何か言われるかもしれませんが,文化芸術,こういうものこそ人材こそが勝負で,あとはそれに必要なのは売り方なのですよね。あっても気がついてもらえないと買っていただけないわけですよ,諸外国から。
 気がついていただくためのやり方というのは,ある程度テクニックが必要だと思います。海外からアクセスしやすい,外国人観光客にもわかりやすい,あるいはあそこに行けばこれがあるとわかるような仕組み。そういうもので日本の広く伝統芸能から工芸品からポップカルチャーからメディア芸術すべて含めて,これが我が国の文化のセンターなのですよというようなところを国内につくり,かつイメージ戦略として,外国のおもだったところにアンテナショップじゃないですけれども,やはりそういうのを置いて,情報にアクセスしやすい,しかも買いつけもしやすいという形をとる。それぐらいやって初めて,経済効果が出てくると。
 今,確かに私ども漫画とかアニメの分野では違法コピーがおびただしく出回っておりまして,海外での本当は見込めたはずの収入が得られないままになっておりますが,それもちゃんとしたものはここに行けば買えるという仕組みがあって初めて文句が言えることなのですよね。あそこは何も売ってくれないし,紹介もしてくれないくせに,違法コピーするなと言ったって,僕たちは読みたいのだ,見たいのだと言われたら,作者によっては違法コピーであっても見られないよりも見られたほうがうれしいという人もいるわけですよ。
 これは情けない話で,胸を張って,我が国の経済的,要するにある種の財源なのだということで,文化芸術,ポップカルチャー,すべてを守ると,国が守ると,そのための仕組みを整えると。そして,説得力を増すために,実はこれはやりようによっては,決してこびて売り出すのではないのだけれども,経済効果が出るのだと。文化,芸術,ファッション,デザインの国と言われているフランスがどれだけこの分野で潤っているか,しかも尊敬されているかということはとても重要なポイントだと思います。
 ですから,事業仕分けを恐れていては何も始まりませんので,どうせ文化芸術に対して理解のない国というような感じで,ずっと100年やってきたわけですから,ここ一,二年の事業仕分けでひどいことを言われても,ちょっとやそっとじゃめげないものがクリエイターとして生きているわけですので,構わないのです,別に,国を頼りにしているわけではありません。何の助けもなくここまで頑張ってきたわけです。ただし,国の未来を考えますと,経済効果が上がるこの分野を放っておくのはもったいないじゃありませんかと。エネルギー問題,環境問題,いろいろ山積みになっている中で,我が国は輸入品に頼らずに,有効かつ,世界から日本を理解していただける輸出品目が埋蔵金として眠っているのだというぐらいの説得力で,文化庁の方は胸を張って,仕分けの場に臨んでいただきたいと思います。期待しております。すみません,余計なことを申し上げまして。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。まさしくそのとおりでございます。
 私も職場が学校というところなので,アジアがいかに大事であるかということ,アジア芸術センターというのをつくらせていただきました。あと3年間かけて,特に東アジアから世界に発信という構想のもとに今企画調査会をつくって仕事をさせていただいております。昨年の暮れには北京へ行って精華大学で,日本の国公立の大学長や,あるいは中国の中央美術学院以下いろいろな大学,音楽学院とかの人たちと,芸術教育が世界の人を救うのだという名目で大きなシンポジウムをさせていただきました。その反響が大変大きくて,その後またこの3月には今度は高校生を連れて北京,上海と回ってきていろいろなことをやってくるのですけれども,やはりそういう実のある仕事をきちっとやって伝えていくことによって,2000年も前にシルクロードを経て日本はいろいろなものをいただいておりますけれども,今度は恩返しをするぐらいの感覚で,もっと高邁な気持ちでもっていきたいなというふうに思っておりますし,リーダーは日本であるという気持ちを常に忘れないようにしたいというふうに思っております。
 さて,いかがでしょうか。増田先生,どうぞ。
【増田委員】
 地域の話などが出ているのだけれども,海外の文化発信ということで,先ほど韓国でも,中国でも,海外にいろいろな文化的拠点をいっぱいつくっているという話がありましたけれども,ニューヨークのメトロポリタン美術館には日本美術部門があります。日本美術の作品を修復する部屋があって,日本人が勤めておりましたけれども,昨今の財政的な窮乏によって,メトロポリタン美術館は米国籍を持たない職員を解雇しました。日本室はなくなりました。日本室の展示はあるのですけれども,もともとメトロポリタン美術館には日本人の学芸員という専門家がいません。ボストンには東山魁夷さんが寄附されたお金で日本美術を修復する専門家が常駐しております。イギリスの大英博物館では平山さんが寄附したスタジオがあって,そこで日本人がしております。また,オーストラリアのニューサウスウェールズにも日本人の学芸員がいます。
 日本の国としてそういうところに全部お金を出して,そういう人を派遣しろというわけではありませんけれども,今話に出た東山氏,平山氏両方とも個人としてそういうところに寄附をして,日本の文化の発信をしているわけです。政府として民間というか産業界に,こういうことをしたらいいというか,してほしいとか,したらこういうことが国としてメリットがあるとかという,鼓舞をするようなやり方というのはないのでしょうかという気がしております。各国で日本文化,日本の伝統文化が中心になりますけれども,伝統文化だけじゃなくて,現代のクリエイティブな文化も発信するような人,常駐してその拠点でどんどん宣伝,公開とかということをしてくれる専門家をそれぞれの国にぜひ置けるようなことをしてほしいなという感じがします。そのときに,国が全額事務所をつくってという意味だけじゃなくて,産業界を巻き込んではいかがかなということを伺った中で思いました。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。そうなってくると,寄附税制の問題なんかも巻き込んだ話をしたくなってきますよね。
 ほかにどうでしょうか,どなたか。
【後藤委員】
 私は事業仕分けのところだけに余り目を向けると,補助金だけを見ることになっちゃって,結局税制のほうで補助金よりも圧倒的にたくさん支援してくれる国というのが,例えばアメリカであるとか,それからヨーロッパでもオランダでさえ,実際に計測してみたら税制でやっている部分のほうが大きかったというふうなことがあるので,そんなに事業仕分けだけで,補助金の大きさだけが文化支援の大きさをはかることにはならないので,この間私は公共政策の政策手段ということで税制も言いましたし,それから法整備,著作権とか,プラス補助金ということなので,やっぱりトータルで考えればいいのではないかと。むしろ事業仕分けで補助金のところにだけ注目していてもらったぐらいのほうがやりやすいなというふうに思います。
 それで,この資料6の7ページのところに書いたのですけれども,そういう法整備とか税制とかも大事なのですけれども,実はアーティストとかクリエイターの社会保障というのは厚生労働省と一緒に検討すべきことになると思うのですが,先ほど子供のための舞台芸術も非常に大事だというお話が出ていたのですが,子供のための文化政策と,それからアーティストの社会保障に一番力を入れているのは北欧の国々です。これは北欧の国々の文化政策の特徴としてはっきり出ていることで,アーティストとかクリエイターというのはフリーランスの方が多いものですから,そうすると半年ぐらい仕事をやって,あとは失業しちゃうということが多いわけなのですよね。そうすると,その人たちはアーティストの協同組合みたいなところに入っていて,お金を納めているので,半年だけ仕事があれば,あとの1年間は失業保障が受けられるみたいなことで,結構フリーランスで食べていけるというふうなことがあるわけです。ですから,補助金という形のところにだけ注目しちゃうと,そこでだけしか戦えないのですけれども,実は社会保障であるとか,税制であるとか,それから法整備というふうに広く見ていくと,もっと別の部分で非常に大きく文化を支えていくということができるのではないかなというふうに思います。
 私はもう一つ言いたいのは,海外へ発信するということがよく言われるのですけれども,今は国際競争という観点からいうと,クリエイティブな人をいかに引きつけられるかというところが非常に重要で,今は文化庁の事業とかでも海外に1年行ったりする事業で,そのまま一旦は戻ってくるけれども,海外に出て行っちゃうアーティストというのが非常に多いと思うのです。私も海外に行くと,オランダによく行くのですけれども,日本人妻の会とかいうのがあるのですよと言われて,それは何ですかと聞くと,海外に出てきちゃった日本人の女性のアーティストの人たちということらしいのですけれども,むしろ日本にアーティストとかクリエイターがどんどん来て活躍してくれるということも,やっぱり文化政策が充実している度合いを測る上では非常に重要だと思うので,発信するばかりじゃなくて,引きつけるという観点からも少し政策を考えていったらいいのではないかなという気がします。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。
 吉本委員,どうぞ。
【吉本委員】
 先ほど長官から課題のご指摘を頂戴したと思いまして。1つはなぜ地方の文化を国がやるべきかということだったと思います。確かに地方分権ということを考えると,地方のことは地方でやってもらったらいいじゃないかという考えも成り立つと思うのですけれども,でも例えば東京と地方というような図式で考えると,今日本の文化活動のかなりの割合は東京に集中していますよね。例えば,文化庁や芸術文化振興基金が助成をしている先の地域バランスのようなものを仮に計算すると,ちゃんと統計を私は持っていませんけれども,7割か8割は東京だと思うのです。でも,東京は逆に言うとマーケットがありますから,ひょっとしたら国の助成がなくても成り立つかもしれない,でも地方にはマーケットもない。
 先ほど田村委員のお話だと,歌舞伎も静岡だと1割アップぐらいだけど,地方に行くともっと高くなると。結局東京にそういうものが集中しているからだと思うのです。ですから,そういう観点で考えると,地方には残念ながらマーケットとして成り立つものがありませんから,そういうところこそ公的な資金というものが重要になると思うのです。そのときやはり地方公共団体というのは今ご存じのように財政状況が非常に厳しいですし,文化の予算というのは本当に減っているような状況ですので,何もかも国がやるというわけにはいかないと思いますけれども,先ほど高萩さんもおっしゃっていたように地域の実情に応じた予算の配分ということが担保されれば,財源は国が用意して,それを地域主導でやってくださいという図式が成り立つのかなという気がしました。
 それから,もう一つの長官のご指摘にございましたクリエイティブ産業系の話と文化庁の文化振興の話ということなのですけれども,これも確かに産業振興となると経産省というようなことになる気もするのですが,でもクリエイティブ産業として成り立っているもののコンテンツとしての強さというのは,クリエイティビティに起源があるとすると,それはやっぱり芸術や文化というものがそれを一番厳しく問われる分野だと思うのです。ですので,その芸術文化のクリエイティビティというものがしっかりないと,やっぱり産業面のクリエイティビティも出ないというようなことがあるので,文化と産業を分けるということもあると思いますが,むしろそこは連携するようなことを考えていかないと,なかなかクリエイティブ産業そのものを振興というのは難しいのではないかなと思います。
 それで実際,海外の施策を見ていますと,イギリスなんかは10年前にそうした方向を打ち出していますし,アジアでいえばシンガポールとか,あるいは台湾とか,みんなそうですので,文化庁がどこまでを担うかということはあると思いますが,むしろそういうことを文化庁がリーダーシップをとって文化庁の所掌する芸術文化というもがちゃんとしないと,クリエイティブ産業も立ち行かなくなるという,先ほど加藤委員からも文化庁がどれだけイニシアチブを取れるかという話がありましたけれども,そういう観点で連携していっていただけたらなというふうに思います。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。 ほか。どうぞ。
【佐々木委員】
 先ほど寄附税制の話が出ておりましたけれども,例えば美術館は寄附税制で成り立っている。例えばメトロポリタン美術館が一番典型的なアメリカ型の美術館です。それが大体全体の経費のうちの3分の1は,これはプライベートな美術館であっても3分の1は公的資金が入っているわけです。ニューヨーク市から入っているわけです。その3分の1が寄附税制,寄附で入っている,それから3分の1が自己収入で入っているのです。その寄附税制,そのときは寄附が入っているわけですが,寄附の元であるいわゆる基金がメトロポリタンの場合には大体2,500億ぐらい持っていると言われているのです,基金がですね。それの利益でその3分の1は行っている。
 ところが,最近いわゆるリーマンショックで寄附が一気に少なくなったと。2,500億の基金のうち800億失ったというのです。そうすると,4月から700人解雇しなければいけない,人を解雇しなければいけない。私はここで言いたいのは,寄附税制を充実させるというのは非常に大切なのです,非常に大切なのですが,一方でこういう事態が起こり得ると。寄附税制だけに頼っていると,こういう事態が起こる。だから,そういう大きな企業からの寄附とともに,やっぱり薄く広く寄附を集めるという,その二重構造がないと非常に危険だという気がするわけです。ちょっと寄附税制のことについて話がありましたので。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。 青柳委員,今日は静かでございますね。
【青柳委員】
 皆さんのいい話を。やっぱりこの文化政策をやるときに一番重要なのは,今の日本及び世界の文化状況がどういう状況にあるのか,それをどう認識するかがやっぱり出発点だと思うのです,それで,まず日本だけの文化状況というのを考えると,1つは伊勢神宮に象徴されるような,もともとは循環型の文化で,ヨーロッパの蓄積型文化と対比される,世界的にも非常にユニークで,そして存在感がある文化だったのです。だけども,近代化の中で蓄積文化というものにどうしても近づかざるを得なくなった。
 例えば,新潟地震のときに山古志村がかなりの被害を受けています。恐らく戦前であれば,自分たちで村の入会地の材木などを切り出して,そして壊れた自分たちの家をある程度修復できたのです。ところが,実際に今度の地震に遭ってみると,山古志村,自力なんてこれはもう無理で,ほとんどの建材,資材が彼らの経済圏の外から持ってきたもの。ところが,我々日本人の感覚の中には,どこかまだ循環文化系の意識があるものですから,非罹災者は,例えば東京に住んでいる人間は,なぜあれだけ緑豊かなところに住んでいる人たちが,もっと自力救済,あるいは自力復興をしないのかという疑問を持つ。そして,向こうにいる人たちはもう自分たちが災難,被害に遭ったので,初めて蓄積文化になりつつあるということを意識して,どうしてもっと罹災していない人たちは自分たちを助けてくれないのかという不満を持つわけです。この循環文化と蓄積型文化の齟齬が今日本社会の不機嫌さの原因なのです。
 それから,例えばもちろん高齢化とか少子化とか,あるいは人口の世代間構成も余りにも早過ぎる変化であるところです。
 それから,いろいろな形での充足感が列島全体に満ちているので,非常にインタラクティブになっている。このインタラクティブというのはどういうことかというと,満員電車の中で,例えば180%,200%の人が乗ると,以前よく起こりましたけれども,圧死が起こるのです。そうすると,1つの車両の中でだれかが死んだときには,これはその人自身も加害者なのですね,自分に対しての。つまり被害者と加害者の違いというのが非常にわかりにくくなっている,そういう社会に今なりつつある。
 それから,ステートとか,あるいは県とか,いろいろありますけれども,会社とか,それ以外にいわゆるNPOとか,あるいはNGOというようなさまざまな組織ができていることによってのボーダレス化が始まっている。
 こういう状況の中で文化状況がどうかというのを把握しないと,これからこれだけ財政赤字が大きくなって,そして政策のための財源というものが小さくなったときに,有効的に使うためには,この文化状況というものをどれだけ把握しているかが効率的な経済政策にもなるわけです。ですから,農水省がやるさまざまな政策,あるいは環境省がやる政策,経済産業省がやる政策,それらのすべての基盤になるのが,文化庁がどういうふうに文化,現状を把握しているのか,それからどういう方向に少しでも将来性を持って文化政策をやろうかということにかかっているのです。
 しかも今大切なことは,今申し上げました,循環型のものを伝統的なものと考え,そして蓄積型のものを現代的な,あるいは外からのものというふうに考えたとき,この2つのものをどううまく融合させるか,そしてその融合させた循環型のものと蓄積型,あるいは伝統的なものと現代的なものをどう融合させて,そこに活力を持たせるか,そういう方向へどう文化を持っていくかということが非常に重要なのです。
 例えば吉本さんがクリエイティビティと言っているけれども,芸術というのは3つの要素から成り立ています。1つはクリエイティビティです。それから,1つはメッセージ性です。何を伝えるか,主題性です。それから,もう一つは質なのです,クオリティ。この3つが非常に調和している段階を我々はクラシックというような形で呼んでいるのですけれども,大体19世紀ごろからいろいろな分野でクリエイティビティだけが尊重されるようになってきた。それとメッセージ性が尊重されると。そして,質というものが徐々に軽視されるようになった。
 ところが,日本はそういう世界の傾向とは少し違っていて,例えば伝統工芸品などメッセージ性とかクリエイティビティを横において,この質の継承というもの,質の純化というものにずっと集中してきている世界にもまれな芸術分野なのですね。質とは何かといったら,それに使用する材料や色や,あるいは音楽であれはハーモニーであるとか旋律であるとか,さまざまなものを徹底的にその可能性を追求して,それを用いることが質なのです。こういう質を持っている文化を持っている文化というのは,世界でも本当に珍しいのです。
 ですから,今までいろいろクリエイティビティこそがどうこう言うけれども,今までの日本のやり方,例えば19世紀のロンドン万博でもパリ万博でもウィーン万博でも,それから20世紀に入ってのシカゴ万博のころまで,日本が唯一外貨を稼いだのは生糸の工芸品だけなのです。向こうの人たちはその魅力に圧倒されたのは質なのです。だから,ジャポニスムが始まるのだけれども,しかし彼らはそのジャポニスムの神髄である質というものではなくて,新しいものということで,日本風のものを勝手に取り入れていって,そして換骨奪胎したものとして自分たちの芸術に取り入れていっているわけです。
 そういう日本文化が持っている一方でのコンテクストもきちっと押さえながら,そしてどう今の蓄積文化,あるいは現代文化に適合し,それから世界の中で我々の発信や,あるいは受け止められ方をどうしていくのかということを考えていくのが文化政策の1つの基盤ではないかと思います。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。クリエイティビティ,メッセージ性,それからクオリティ。東京藝大の理念のような,うちに帰ってもう一回検証してみます。万博を振り返れば,まさしくそういうものがありますね。錯覚されちゃったというのがあるのですよね。それがほかの国の人たち,西洋の人たちは新しいものとして見ちゃったのだよな。だから,僕らは錯覚して,その後新しいという言葉だけが来たものだから,新しいことをせにゃならんのかというふうに錯覚しちゃったというようなことがあった。だけど,そういうものが来ても日本人は結構それに対応しちゃうという能力がある,DNAの中に。ここがまたややこしくしている原因かなという感じがちょっとしているのですけれども,期待の持てるおもしろい話がいっぱい出てきたような気がします。
 大体この辺で今日は終わりにしたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。前回からあまり時間がございませんでしたが,非常に中身の濃いものが出てきたような気がいたします。各委員から出された意見を踏まえて,適宜議論の集約をお願いしたいと,かようになると思います。
 閉会でございます。次回は3月23日,本日と同様の形で重点政策について,加藤先生,高萩先生,坪能先生,富山先生の4名の先生からお願いしたいと思います。
 では,事務局のほうからお伝えください。
【滝波企画調整官】
 委員の先生方,本当に今日もお忙しい中ご出席いただきましてありがとうございます。今,部会長からもお話がございましたとおり,次回の会議は3月23日の(火),15:00から17:00,場所はこの場所,旧庁舎の6階の第2講堂のほうで行わせていただきたいというふうに思っております。本日は本当にありがとうございました。
【宮田部会長】
 どうもありがとうございました。
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