文化政策部会「審議経過報告」
=今後の文化芸術振興策の展開に期待する=

文化審議会文化政策部会長 宮田 亮平



文化芸術は,人を癒し,人を育て,社会を調和に導くものである。

 近年,何かと「癒し」を求め始めた日本人であるが,文化芸術は,わたしたちの心に情緒性,あるいは何か刺激を注いでくれるものである。日本の文化芸術を愛し,守り,伝える。そのような政策の徹底が,忘れ去られようとしている美しい日本の心を取り戻すのである。
 人々が「癒し」を求めている今はまだよい。求めが叫び,訴えになる前に,徹底した政策を進めなければならない。指揮者不在の政策にならぬよう,率先してマネジメントすべきである。


凜として,日本
Japanese Identity

 日本が持つアイデンティティとは,国際社会において起こる他者との比較「アイデンティティ・クライシス」(異文化との接触によって,それまでの自分の在り方,価値観が否定され,あるいは変更せざるを得なくなり,心理的に不安定になること)に陥ってはならない。



第1 文化芸術振興の基本理念 より

振り向いてこそ未来が見える −文化芸術振興の基本理念−

 「文化は素晴らしいものゆえに支援すべきもの」といった教条主義だけではもはや通用しない。文化支援の効果は広く社会に影響を与えるものである。ゆえに文化芸術振興策の今後の展開に期待する。



第2 文化芸術振興のための重点施策  1.六つの重点戦略 より

文化は豊潤な果実 −「文化芸術立国」の実現を目指して−

 果実がその豊潤な香りを得る頃,その実を優しく支える支柱が必要となるが,栄養豊かな肥料がそれまでを育む。アイデンティティとは個々に保持される概念であり,教育という肥料が育む。コミュニティは相互の関係の集積であり,互いの力強い支柱になるのである。


文化が国の杖となる −(1)文化芸術活動に対する支援の在り方の抜本的見直し−

 文化芸術振興には,自らを律するような責任ある識見を養う姿勢が必要である。我が国の豊かな文化芸術が,政策立案者の主体によってのみ語られてはならず,ワ−キンググループにおける調査検討は,<抜本的見直し>という政策課題に連なる重要な施策といえる。


日本を創る文化の力 −(2)文化芸術を創造し,支える人材の充実−

 魅力ある国,信頼される国,尊敬される国が美しい。日本は世界に誇りうる歴史,文化,伝統を持つ国である。この国を支えてきた先人達に倣うことが日本の伝統である。「真似ぶ」に由来する学ぶべき歴史は心の在り方であり,人材とは経験豊かな創造人をさすのである。


気付くこころ築く−(3)子どもや若者を対象とした文化芸術振興策の充実−

 文化芸術はコミュニケーションの媒体であり,その活動を通してこそ新たなコミュニケーションの場が生まれる。文化芸術の価値を知れば,自ずとそれらを敬い愛する心が生まれる。文化芸術は,まさに生きる力,生きがいを見つけるといった喜びを与えることである。


もの・こと・人も−(4)文化芸術の次世代への確実な継承−

 文化財などの体系的な収集と保存は重要な責務である。加えて,各地方の様々な歴史や文化は,高齢化と人口減少による後継者の絶対的不足から危機に瀕している。そのような文化の多様性が刺激となり,日本の活きた文化を育んできた,その感謝を忘れてはならない。


ときめいているか日本−(5)文化芸術の観光振興,地域振興等への活用−

 大切にすべき様々な理念や文化の考察が不十分であるかも知れない。食文化を活用した地域振興の取組が増えつつある。いつの頃からか星の数や等級で表された身近な文化であるが,魅力あるものには多くの関心が寄せられる。そのときめきこそが原動力となる。


分業というコラボレーション−(6)文化発信・国際文化交流の充実−

 コラボレーションの真髄は「協働」である。かつて「工芸の日本」を築いた職人達。それぞれがスペシャリストの分業によって創りあげた日本への世界の評価であった。世界に誇れる日本は,結果ではなく実際的なプロセスにある。関係省庁の連携に期待を寄せたい。



官(公)・学 共同プロジェクトの可能性

 これまでの我が国の文化政策は,関係省庁それぞれが独自の観点から取り組んできたが,それらが国家戦略として相乗効果を生むようになることが望ましい。
 その意味で,「六つの重点戦略」は,省庁間のみならず,あるいは官学民の協力を通じて,長期的視野に立って,文化芸術という心の資源を効果的に活かすような政策が継続されるべきである。

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