第5期文化審議会第1回総会(第38回)議事録

1  日時
平成17年2月17日(木) 14時〜15時55分
2  場所
霞ヶ関東京會舘35階 「ゴールドスタールーム」
3  出席者
(委員)
青木委員,阿刀田委員,市川委員,上原委員,岡田委員,関委員,田端委員,永井委員,中山委員,野村委員,松岡委員,渡邊委員
(事務局)
小泉文部科学大臣政務官,河合文化庁長官,加茂川文化庁次長,森口文化庁審議官,寺脇文化部長,辰野文化財部長,湯山文化財鑑査官,吉田政策課長,他
4  議題
  1. (1) 会長の選任
  2. (2) 文化審議会運営規則等の制定
  3. (3) その他
5  議事
○吉田政策課長
それでは皆様,予定の時刻が参りましたので,ただいまから文化審議会第38回総会を開催いたします。
本日はご多忙の中,ご出席いただきましてまことにありがとうございます。私は文化庁長官官房政策課長の吉田でございます。本日は第5期の文化審議会の第1回目の会合でございますので,のちほど会長を選出させていただく予定でございますが,それまでの間,私が議事進行をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
まず初めに,この第5期の文化審議会の委員の皆様をご紹介させていただきたいと思います。お手元の資料1に第5期文化審議会委員の名簿がございますので,それをご覧いただきながらと思います。
まず,青木委員でいらっしゃいます。
続きまして阿刀田委員でいらっしゃいます。
石井委員は,本日所用のためご欠席でございます。
次に,市川委員でいらっしゃいます。
続きまして,上原委員でいらっしゃいます。
続きまして,岡田委員でいらっしゃいます。
川村委員は,本日ご欠席でございます。
続きまして,関委員でいらっしゃいます。
田端委員でいらっしゃいます。
富澤委員は,本日ご欠席でございます。
永井委員は,ご出席のご連絡いただいておりますけれども,少し遅れていらっしゃいますので,のちほどご紹介させていただきます。
中山委員でいらっしゃいます。
西委員は,本日ご欠席でございます。
また,西原委員も同様にご欠席でございます。
野村委員でいらっしゃいます。
前田委員も本日ご欠席でございます。
松岡委員でいらっしゃいます。
次の森委員も本日ご欠席でございます。
また,紋谷委員も本日ご欠席でございます。
渡邊委員でいらっしゃいます。
続きまして,本日の会議に出席をしております文部科学省文化庁関係者をご紹介させていただきます。
まず,小泉文部科学大臣政務官でございます。
河合文化庁長官でございます。
加茂川文化庁次長でございます。
森口文化庁長官官房審議官でございます。
寺脇文化部長は申し訳ございませんが,少々遅れて参ります。
辰野文化財部長でございます。
湯山文化財鑑査官でございます。

※ 文化審議会令の第4条第1項に基づき,委員の互選により阿刀田会長が選任された。 
それでは,今後は阿刀田会長に議事進行をよろしくお願いいたします。

○阿刀田会長
微力ではございますが,皆さんのご協力を得て,何かプラスが残るように務めていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
文化の問題は焦眉の急ではないように見えることが多ございます。しかし1年先,2年先,あるいは10年先の展望を見ながらそれなりの成果を出せば必ずそれは返ってくるものであり,怠っているとそのマイナスは必ず現われてくるものだと考えております。そういう視点に立ってこれから本当に微力でございますが,務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
次に,会長になりまして不慣れではございますが,文化審議会令第4条第3項の規定に基づき,会長の代理者としての副会長をこの席で指名させていただきます。私としては今回新たに渡邊委員にお願いしたいと思いますが,どうぞよろしくご承認くださいませ。
(拍手により承認)
○阿刀田会長
渡邊委員,どうぞお願いいたします。
○渡邊副会長
会長には極力皆勤をしていただきまして,私が役を務めることがないようにお願いをいたしまして,ご要望に応えることにいたします。よろしくお願いいたします。
○阿刀田会長
それでは,本日の審議に入ります。まず,事務局から配布資料の確認をしていただきます。よろしくお願いします。
○吉田政策課長
お手元に資料番号を打った資料が8種類ほどございます。
資料1は,先ほどご紹介いたしました委員の名簿でございます。
資料の2が,文化審議会についての説明文書でございます。
それから資料3は,この審議会の設置根拠になっております法令でございます。
それから資料4は,各分科会への委員の分属についてでございます。
それから資料5は,この審議会の運営規則の案でございます。
また資料の6は,この審議会の議事の公開についての案でございます。
それから資料の7は,文化政策部会の設置についての案でございます。
それから資料の8が,「この1年間における文化庁関係施策等について」という資料でございます。このほか資料番号は打っておりませんが,平成17年度の文化庁予算の概要の資料がお手元にあろうかと思います。またテーブルの前の方に参考資料ということで,資料8「この1年間における文化庁関係施策等について」に関連して,この中に出てくるトピックに応じた関係資料をご用意させていただいております。これはお帰りの際に大荷物になろうかと思いますので,備え付けの用紙に「郵送希望」と書いていただければご手配させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
以上でございます。
○阿刀田会長
よろしゅうございましょうか。資料はお手元に届いておりましょうか。
ただいま永井愛委員がお見えになりましたのでご紹介いたします。
永井委員でいらっしゃいます。
今次メンバーの第1回の集まりでございますので,まず本審議会の概要について,事務局からご説明お願いいたします。
○吉田政策課長
資料の2をご覧いただきたいと存じます。「文化審議会について」というタイトルがついております。この審議会は平成13年に従来の4つの審議会の機能を整理・統合して設置されたものでございます。
審議会の主な所掌事務でございますけれども,文部科学大臣または文化庁長官の諮問に応じて,文化の振興や国際文化交流の振興に関する重要事項の調査審議をしたり,あるいはそういった事項に関しまして大臣または長官に意見を述べることができます。また国語の改善にいたしましても同様な調査審議や意見を述べるということがあるわけでございます。それ以外に著作権法,文化財保護法,文化功労者年金法等の規定に基づいて審議会の権限に属された事項を処理することが挙げられております。
構成でございますが,委員30名以内ということで任期は1年ということになっております。総会の下に4つの分科会がございます。国語分科会,著作権分科会,文化財分科会,さらに文化功労者選考分科会です。ただ,この文化功労者選考分科会は,文化功労者年金法によりまして審議会の権限に属された事項を処理するという形になっておりまして,それ以外の分科会とは少し異質のものがございます。従って,この総会では従来から慣例として同席することはございません。実質的には上の3つの分科会という形になってこようかと思います。
この文化審議会のこれまでの答申につきましては,資料にあるように3本出ておりますが,これ以外にもさまざまな報告ですとか,そういったことが議題になってくるわけでございます。
資料の3は,今申し上げました文化審議会の設置根拠等を定めました法令でございます。文部科学省設置法がございます。また3ページのところに文化審議会令という政令もございます。
それからもう1つ,資料4をご覧いただきたいと存じますが,文化審議会令の第5条の規定によりまして,分科会に属する委員につきましては文部科学大臣が指名をするということになっております。今ご覧いただいていますような表のとおり,国語分科会,著作権分科会,文化財分科会にはその欄に記載の委員の先生方に分属をお願いするということになりますので,どうぞよろしくお願いをいたします。
以上でございます。
○阿刀田会長
何かご質問ございましたら。
(発言する者なし)
○阿刀田会長
それでは,進行いたします。
審議会の運営規則,議事の公開について,そして文化政策部会の設置等について事務局より引き続いてご説明をお願いいたします。
○吉田政策課長
資料の5をご覧いただきたいと存じます。これは文化審議会運営規則でございます。これは例年とほぼ同様でございますけれども,一点,第3条のところでございます。ここは各分科会の所掌事務の関連でございますけれども,ここの事項の欄に掲げられた事項につきましては,それぞれの分科会の議決をもって審議会の議決とするという規定がございます。この中で文化財分科会関係では昨年,文化財保護法が改正されましたことによりまして,条文の移動等がございました。その関連で手直しをさせていただいております。
それから資料6でございますけれども,これはこの審議会の議事の公開に関する決定の案でございます。議事の公開につきまして大きなところはさほど変わっていないのでございますが,今回2点ほど改正をさせていただきたいと存じます。
1つは,その3に「会議の傍聴」がございます。従来から報道関係傍聴者につきましては,これを認めてきたわけでございますけれども,これ以外に一般傍聴者につきましても所定の申込みを行った方に対して,傍聴を認めるという形に変更させていただきたいと存じます。
また,6のところでございますが,議事録の公開ということでございますけれども,従来は議事要旨を文化庁のホームページにおいて公開をするという形になっておりましたけれども,これを議事録ということで詳細な意見のやりとり等を記録したもの,それを公開するという形に変えさせていただきたいと存じます。このあたりは近年の各審議会の傾向で,少し横並びで整理をさせていただいているということでございますので,ご了承いただけば幸いでございます。
それから資料の7でございますけれども,先ほどご紹介いたしました分科会以外にこれは審議会の決定によりまして部会を置くことができるという形になっております。平成15年度以降,文化政策部会を設置していただきまして,これまで舞台芸術の振興方策でございますとか,あるいは地域文化の振興方策につきまして,この文化政策部会でご審議を賜って参りました。今期も引き続きこの文化政策部会を設置して,「文化芸術の振興に関する基本的な方針」につきまして議論をしていただきたいと考えておりますので,ご提案申し上げる次第でございます。
私どもの方からの説明は以上でございます。
○阿刀田会長
ご質問を承りますが,いかがでしょうか。
(発言する者なし)
○阿刀田会長
ご質問がなければ審議会の運営規則,議事の公開及び文化政策部会の設置について,ご了承があったものとしてこの審議会の決定といたします。
それでは次に,文化政策部会に所属する委員を指名いたします。これは文化審議会令第6条第2項に基づき会長である私が指名することになっておりますので,僣越ですが指名させていただきます。
青木委員,上原委員,岡田委員,関委員,富澤委員,永井委員,松岡委員,渡邊委員の8名を指名いたします。よろしくお願いいたします。
それでは,ここまで議事が進み人事に関する議事が一応済みましたところで,傍聴者の入場を許可いたします。
(傍聴者 入室)
○阿刀田会長
それでは,ここで小泉文部科学大臣政務官よりごあいさつをお願いしたいと思います。
どうぞお願いいたします。
○小泉文部科学大臣政務官
ただいま紹介をいただきました文部科学大臣政務官を務めております小泉でございます。文部科学省におきまして文化行政を担当いたしております政務官として第38回の総会にあたりまして一言ごあいさつを申し上げたいと存じます。
委員の皆様におかれましては大変ご多忙中にもかかわりませず,第5期の文化審議会の委員にご就任をいただきましたことにつきまして深く御礼を申し上げたいと存じます。
文化芸術は人々に感動や生きる喜びをもたらし,心豊かな生活を実現していく上で不可欠なものであります。最近の国民の意識といたしましても物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを求める人々が大変多くなってきております。また国際的に見れば我が国のアニメ,コミック,ゲーム等のメディア芸術や歌舞伎等の伝統文化といった日本文化に対する関心も高まってきております。このような状況におきまして文化芸術が人々を魅了する力,すなわち文化力をさらに高めていくことが益々重要となっております。
文部科学省におきましては,「文化で日本を元気にしよう」との考えのもと,文化芸術の振興に積極的に取り組んでおります。今後とも文化力の向上を図りまして,心豊かで元気のある社会の実現に努めて参りたいと考えております。第5期の文化審議会におきましても大所高所から21世紀の我が国の社会のあり方を展望しつつ,幅広い分野にわたる文化芸術の振興につきまして自由闊達なご議論をいただければと存じております。
第4期から引き続きお務めをいただきます委員の皆様にあらためまして深く感謝を申し上げますとともに,新たにご就任をいただきました6名の委員の方々におかれましても,文化審議会の重要な役割にかんがみ,今後のご協力を賜りたいと心より念じておるところであります。どうぞよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。
○阿刀田会長 どうもありがとうございました。引き続いて河合文化庁長官からごあいさつを賜りたいと思います。
○河合文化庁長官 一言ごあいさつ申し上げます。この文化審議会は,これまで平成14年7月,「文化を大切にする社会の構築について」,平成14年12月には「文化芸術の振興に関する基本的な方針について」及び昨年2月の「これからの時代に求められる国語力について」の3つの答申をはじめ我が国の文化行政に関する重要なご提言をいただきました。この審議会におきましては,これまで委員の皆様に大変精力的なご議論をいただき,私ども文化庁にとりましても施策を遂行する上で大変ありがたく感じている次第でございます。
私は文化庁長官に就任以来,各地を訪問して文化芸術活動を見聞しておりますが,我が国には数多くのすばらしい文化芸術活動が継承され,創造されていると痛感しております。私としましては本審議会におけるご議論を十分に踏まえて,我が国の文化活動が一層発展していけるよう力を尽くして参りたいと考えておりますので,委員の皆様方におかれましては,今後とも忌憚のない活発なご議論をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○阿刀田会長
どうもありがとうございました。ここで小泉文部科学大臣政務官が政務多忙のため,残念ながら退席ということです。お忙しいところを,どうもありがとうございました。
○小泉文部科学大臣政務官
お先に失礼しますので,よろしくお願いいたします。
(小泉文部科学大臣政務官 退室)
○阿刀田会長
それでは,「この1年間における文化庁関係の施策」,そして「平成17年度文化庁予算(案)の概要について」,事務局よりご説明をお願いいたします。
○吉田政策課長 
お手元の資料8をご覧いただきたいと存じます。これは過去1年間の文化庁の関係施策につきまして,どちらかといいますとイベントですとかあるいは文化審議会の動きを中心に整理をさせていただきました。もちろんこれ以外にも地道な業務の積み上げということによって文化庁が動いているわけでございますが,少しその話題を提供するという意味でこういった資料をつくってみました。これに関連する資料は先ほど申し上げましたようにお手元の方にいくつかございますので,また後ほどご覧いただければと存じます。
昨年,平成16年1月には国立劇場の新たな施設といたしまして,国立劇場おきなわが開場いたしました。
それから,2月には文化審議会の報告から「これからの時代に求められる国語力について」の答申がございました。
それから,第8回の文化庁メディア芸術祭が開催されております。
また,3月には文化庁の方で文化交流使をお願いしていますけれども,その方々の活動報告会が開催されました。
4月になりますと,今度は新年度の文化交流使の指名が行われたり,月末には文化遺産オンラインの試行版の公開が始まったということがございます。
また5月からは,同年1月に文部科学省文化庁の庁舎が丸の内に移転したことから,丸の内地区のさまざまな企業の方と一緒に,この地区から文化で元気を出していこうということで「丸の内元気文化プロジェクト」を始めております。同じ5月には,文化財保護法の一部改正法が成立,公布をされております。
6月になりますと「著作権法の一部を改正する法律」が制定公布されております。それから同じ6月には,第1回のコンテンツ流通促進シンポジウムが開催されました。また,これは著作権関係でございますけれども,「過去の放送番組の二次利用の促進に関する報告書」のとりまとめが行われております。
そして7月でございますが,我が国の文化遺産としては12件目でございます「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録が行われました。また同じ7月には芸術系の大学の学長との懇談会を開催しました。同じ7月には高等学校の総合文化祭が徳島で開催されました。
8月でございますが,文化財国際協力推進等推進会議の方から,今後の文化財の分野における国際協力を推進するための基本的な方策につきまして提言をいただいております。
9月にはフィルムセンターの在り方に関する検討会の報告書をいただいております。また同じ9月でございますが,文化審議会の文化政策部会の下に設けられました文化多様性に関する作業部会の報告が行われました。9月にはもう1つ,舞台芸術国際フェスティバルの開催もございました。
10月でございますが,第59回の芸術祭が開催されております。また同じ10月には奈良県におきまして「有形文化遺産と無形文化遺産の保護」ということで,「統合的アプローチをめざして」という副題がついておりますが,国際会議を開催しております。そして文化庁映画週間が10月の下旬に行われました。それから第2回目の国際文化フォーラムもこのときありました。同じ10月にはユネスコに対しまして,いわゆる傑作宣言といわれておりますが,「人類の口承及び無形遺産の傑作に関する宣言」として歌舞伎を推薦するということを行ったわけでございます。
それから10月終りから11月にかけまして福岡で,国民文化祭が開催されました。
11月になりますと,国立国際美術館が1日から大阪中之島に移転するということになりました。それから「日本映画:愛と青春」の開催ということで,韓国で日本映画の公開プロジェクトが行われたわけでございます。それから同じ月には第2回目の芸術系大学長との懇談会が開かれました。
12月になりますと,コンテンツ流通促進シンポジウム第2回が行われております。12月の終りから「お雑煮100選」というものの募集の開始をしておりまして,先日2月9日の旧正月に発表させていただきまして,新聞紙上等でもいろいろと報道していただいたところでございます。
それから17年1月には国連防災世界会議の中のテーマでございますがユネスコ・イクロム・文化庁によりまして文化遺産危機管理ということで国際会議を開催いたしました。それから1月19日は文化庁の芸術祭賞の贈呈式を関西で行いました。そして著作権法に関する今後の検討課題,著作権分科会のとりまとめが1月24日になされております。また1月29日から30日にかけまして,人形浄瑠璃文楽とパンソリの交流公演を韓国において行っております。
2月2日でございますけれども「地域文化で日本を元気にしよう!」文化審議会文化政策部会の報告書が総会に報告されました。また同日,「国語分科会において今後取り組むべき課題について」も同審議会国語分科会から報告されました。そのあと全国ふるさと歌舞伎フェスティバルを行いました。そして,第9回の文化庁メディア芸術祭が2月25日から予定されております。こういった流れで1年間あたってきたということでございます。
続きまして資料番号はございませんが,平成17年度の文化庁予算の概要をご覧いただきたいと存じます。文化庁予算が平成15年に1,000億円という大台を超えまして,17年度,今現在,国会で審議をしていただいておりますが,17年度の予算(案)の予定額が1,016億円という形になっております。前年と比べますと1,200万円という本当に微増という形でございますけれども,1,016億という金額を維持している状況でございます。
この内訳は下に主な内容がございますが,1つの柱は「文化芸術立国プロジェクトの推進」ということで約223億でございます。このうち大きな比重を占めますのは「文化芸術創造プランの推進」といわれるものでございます。これが203億円でございます。
これには4本の柱がございまして,まず最初は,オペラ,バレエ,演劇等例示しておりますが,いわゆる舞台芸術に対する支援策でございます。この関係で99 億円となっております。
2つ目の柱が,映画,映像に関する支援策でございますが,これが約25億という形になります。
それから新進芸術家の人材育成に関する支援策で,これが約27億円でございます。
それから4本目の柱が,こどもの文化芸術体験活動の推進ということで,学校等におきまして本物の舞台芸術にふれる機会を与えたりあるいは地域で伝統文化に子どもたちが親しむための教室を開いたりということに対する支援策等々,いくつかメニューがございます。そういったものを含めまして約53億円という予算を計上させていただいております。
それからもう1つ,「日本文化の魅力」発見・発信プランの推進というところで約20億円になっております。最初の「個性と魅力ある地域文化等の発見と発信構想の推進」,これは地域文化に焦点をあてまして,地域でさまざまな文化芸術活動を行っていらっしゃいます文化ボランティアの育成あるいはそれに対する支援策ですとか,あるいはふるさと文化再興事業等の関係でこの12億円になっております。
また,[2]の「日本文化の発信による国際文化交流の推進」では,文化交流使ですとかあるいは国際文化フォーラムですとか,そういった国際交流関係の経費を注ぎまして,これが約6億円でございます。
それから「コンテンツの保護と発信の推進」,この中には海賊版対策ですとかあるいは新規でございますが,コンテンツの政策について国を越えて共同制作をするということについての支援方策も含めております。また著作権に関する普及啓発事業もここに入っております。
それから2つ目の大きな柱といたしまして,「文化財の次世代への継承と国際協力の推進」ということで,約330億円になっております。この中で大きいものは文化財の保存整備・活用という側面でございます。これは約328億円でございますが,この中には昨年の文化財保護法によりまして,新たに文化財として認めました文化的景観ですとか,あるいは民俗技術ですとか,あるいは登録制度の拡大に伴ういくつかの種類の文化財ですとか,そういった新たな文化財の概念の拡大に伴います措置がございます。そのほかには,高松塚やキトラ古墳の保存に関する問題,そして史跡の公有化とあるいはそれ以外の文化財の保存・修復に関する補助事業等の経費がここの中に含まれているということでございます。
また,国際協力という側面におきましても,文化財に関する国際協力を進めるための体制づくりに必要な経費等含めまして1億5,000万ほどの経費を計上しております。
また,最後の3番目の大きな柱でございますが,文化芸術振興のための文化拠点の充実ということで381億円を計上しております。この中では現在六本木地区に建設を進めております国立の新美術館は平成18年度中の開館を目指して,今現在建築工事を進めておりますが,そのための経費。さらに,ことしの10月にオープンを予定しております九州国立博物館の準備経費,さらには平城宮跡の保存整備事業ということで,大極殿正殿の復原事業を行っておりますけれども,その関係の経費,そういったものを含めまして129億円程度の予算を計上させていただいております。
そのほか独立行政法人美術館,博物館あるいは文化財研究所,そして日本芸術文化振興会,さらに国語研究所,そういった独立行政法人の運営に必要な経費が 253億円という形でございます。以上のような状況が17年度の予算の概要でございます。
○阿刀田会長
どうもありがとうございました。ただいまのご説明は,前回の最後のこの審議会で一応説明のあったものとほぼ同じものでございますので,そのときの委員の方は既にお聞きになっていらっしゃることかなと思っております。0.01%の総予算増ということなので,この予算の厳しいときに増加の方に向かったということは大変喜ばしいことだと思います。これがさらに削られないよう,この案がきちっと通るようどうぞお願い申し上げたいと思いまます。
ご質問がございましたら承りますが,特に新しい委員の方で何かございましたらどうぞ。
(発言する者なし)
○阿刀田会長
よろしゅうございますか。以後いろいろ何かご質問があったら事務局の方にお問い合わせ願いたいと思います。
それでは,これから自由討議に入ろうというスケジュールでございます。各委員の方々,質問あるいは意見,またその他文化行政全般に関わることでもご自由に,ご発言ください。では,青木委員からどうぞお願いいたします。
○青木委員
文化というものをどうとらえるかというのはいろいろと議論があるにしても,現在文化に対する期待は非常に高まっていて,特に現代の日本文化については世界的に大きな関心が集まっていると思います。
こういう場所で審議される文化財などの伝統的な文化も,もちろん重要でありますけれども,同時に現代のいろいろな,これまでサブカルチャーと呼ばれてきた分野が世界で大きな話題になって,魅力を発揮しております。そういう現代的な文化と,それから伝統的な文化をどのように結びつけて,現代日本文化として国内的にも国外的にも発信していくか。それが非常に大きな問題なのですが,なかなかうまくいっているとは思われません。
現在軍事力の増進を図っている国も,そのうちそれではやっていけなくなるのは明らかです。隣国の韓国とかあるいは中国とか東アジア諸国も今大変文化に力を入れてきました。文化力をつけて国際的な地位を高めたり,あるいは自国を豊かにしようとしたりする兆候が最近かなり明確に見えてきております。その中で現代日本文化をどのように作り上げていくかということが我々に課せられているのだと思います。
私は,どちらかというと対外文化政策に関心が強いのですが,アジアへ行ってもその他の地域へ行っても日本文化に対する期待が高いのを感じます。例えば料理などの生活文化から,表現的な文化,例えば歌舞伎とか能に至るまで大変関心が強い。その関心を国内的にどうすくい上げていくかというのが,今一つ大きな問題だと思っております。
○阿刀田会長
ありがとうございました。市川委員どうぞ。
○市川委員
この場は,大所高所から意見をのべるべきところだとは思いますが,私の身近な歌舞伎のことで申しわけございません。
歌舞伎が今度ユネスコの「人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言」に推薦されたことは,本当にありがたいことだと思っております。文化庁の皆様方のご努力にも,深く感謝しております。やはり,このユネスコの無形文化遺産になることで,歌舞伎に関心が高まってくれることは大変ありがたいことだと思っております。
実は文化庁の方から,私ども歌舞伎役者などの集まりである伝統歌舞伎保存会へ,このユネスコ「傑作宣言」への推薦の経緯についてご報告がありました。その際に,保存会の役員の中には,実にありがたいことだけれども本当に素直に受けていいのかどうかという意見もありました。と申しますのは,やはり文化に優劣はないとはいうものの,修練の度合いといった点で多少違うと思われる民俗芸能などがリストにならんでいたからだと思います。日本の場合には,これまで,能,文楽,歌舞伎というふうに推薦してきて,それが承認されておりますけれども,例えばイタリアオペラとかバレエなどのような世界的な舞台芸術がこのリストの中に何も入っていない。それで,説明に来てくださった方に,「外国はどうなっているのですか」「リサーチしていますか」と伺ったところ,「外国には外国の事情があって分かりかねます」というお答えでした。伝統歌舞伎保存会としては,こうした意見はあったものの,先ほども申しましたとおり,ユネスコの「無形文化遺産」になることで少しでも歌舞伎に関心が高まってくれれば大変ありがたい,ということで,この推薦については異議なく承認いたしました。
これは私の個人的意見ですが,やはり歌舞伎はオペラやバレエなどのように,一国の文化を代表する芸術だと思っております。オペラは西暦1500年初頭にバルディー家というところから始まったと,庭で催されたギリシア悲劇に音楽をつけたのがオペラの始まりだと聞いておりますし,歌舞伎も大体1500年代にまで遡れます。歌舞伎がユネスコの「無形文化遺産」に推薦されたことはありがたいことですが,その辺について文化庁としてはどのようにお考えなのかということを質問させていただきたいと思っております。
それからもう1つは,今回も国語分科会に参加させていただくことになりましたが,その関連での意見です。私には,何年か前に,藤原委員がおっしゃっていたことが大変印象に残っています。ご自身は数学者でいらっしゃいますが,科学するにも日本語がまずベースになって思考するということ。あるいは科学,あるいはフィロソフィー,哲学もその日本語という媒体を通して初めてできるということから,もっと日本語の勉強を多くさせなくてはならないということについて,とうとうたる演説をなさった。私も,すばらしい演説だなと思って伺っておりました。
学校で国語の時間が少なくなっているという昨今,人間性を含むすべての部分で,母国語の上達ということが人間形成の上で不可欠であるということを,ぜひ,声を大にして今年は言わせていただきたいと思います。またわれわれ演技者の立場からすると,やはり活字の日本語としゃべる日本語,しゃべり方というものに対する考え方,あるいはその修練の仕方というものについても,ぜひ今年採り上げていただければありがたいと思っております。
以上でございます。
○阿刀田会長
前段のことについて少し何かお答えがありましょうか。
○辰野文化財部長
文化財部長ですが,今ご指摘の部分につきまして,この推薦をするときにどうするかというのは,実は相当議論があった部分ではあります。ただ,まず背景について申し上げると,先ほど昨年1年間の文化庁の様々な動きの中で,10月に有形文化遺産と無形文化遺産の保護について日本で会議を開いたという話がありました。これは実は無形文化遺産というものについての保護の考え方というのが,今まで実は非常に弱かった。というよりも世界的には,あまり取り組まれていなかったということがあるわけです。
日本はこの分野では非常に進んでいました。すなわち文化財保護法をつくるときに,当初から無形文化遺産というものについての保護の枠組み等もつくって,既に半世紀以上の歴史があるわけです。それでようやくユネスコにおいても松浦事務局長が主唱しまして,無形文化遺産について大きく位置づけ,それをしっかりと守っていこうという動きが出て参りました。その一つの流れとして平成9年に傑作宣言ができました。そして平成15年には無形文化遺産の保護に関する条約が採択されて,批准に向けて今進めていると,そういう段階になっているわけです。
ですから,傑作宣言,無形文化遺産の中に何を盛り込むかということについては,実はまだ若干国際的に見ても混沌とした部分もあります。例えば民俗文化財的なものはざっと概観しても非常に多く見られるのですが,日本はご指摘のように文楽とか能という非常に高度な無形文化遺産についてアピールをしています。こうした状況が無形文化遺産保護条約に移行していくときに,どういう考え方に収斂していくかということが問題になるわけです。いずれにしても,このまま置いておけば絶滅してしまう,消滅してしまう恐れのあるものを優先して無形文化財として保護しようというような国もあれば,無形文化遺産を現代社会において価値の高いものとして新たに位置づけ,そのことをアピールしようということを考える国もある。後者の代表が日本だと思います。
それで歌舞伎については,おっしゃるようにオペラなどその辺はどうなのだということの中でいろいろな議論があることは確かです。そこで関係者の方々ともこのような事情等をご説明申し上げながら,どうしましょうかということでご相談を持ちかけ,そして議論をしてきました。そして,やはりこれは,国としてぜひ推薦をして世界に歌舞伎という,この高度な無形文化遺産をアピールしていきたいというお考えで,一応大勢があったということを確認して参りました。そのことを踏まえて,今回の推薦ということになったわけです。私どもとしましても一旦推薦した以上は,ぜひこれはユネスコにおいて認めていただきたいということで,また関係の皆さまからお知恵を借りながら全力を挙げて取り組んでいると。そんな状況でございます。
○阿刀田会長
よろしゅうございましょうか。
○青木委員
結局,ヨーロッパのオペラというのは,世界のいわゆる普遍的な芸術だという認識がヨーロッパにあるから,ヨーロッパは推薦を出さないのですよ。それに対して日本の歌舞伎は特殊な芸術というか,あくまで日本の芸術であると。そのような認識がヨーロッパ勢にはあって,それに対する反発というのがやはりありますね。市川先生がおっしゃったことはまさにその点だと思いますので,その問題というのはなかなか解けないのかもしれません。これがオペラも傑作宣言に入るとなれば,歌舞伎,オペラが同格で並んでいくのですが,まだ日本の芸術として特殊な芸術のように見られているところがある。それが大きな問題だと私は思います。
○阿刀田会長
文化庁の審議会は非常にオープンで,わりと役所側では答えにくいような質問などもどんどん出たりしまして,それがとてもいい雰囲気だと私は思っております。ときには意見がぶつかるようなこともありますが,むしろそのために皆さんお集まりになっていただいているのだと思います。
市川委員の後段の質問とも少し関係するのですが,ちょうど今から1年前に国語分科会を通して北原分科会長の下でまとめた「これからの時代に求められる国語力について」という答申をいたしました。私はこういう答申に関わったことは初めてだったので,どんなものかなと思っていました。確かにこの答申が結果としていろいろなところに伝わりその成果として,これがあってこの形ができたというような接続はそんなに簡単には見ることはできません。しかし,新聞の社説等でも1年間にわたりこの答申がずいぶん引用されました。また,いろいろな政策の中にも,これはもしかしたら答申のあのことに関係しているのかなということがよく見られました。斯様に,やはりここでいろいろ意見を戦い合せながらすり合わせして議論したことは,きっと役に立つのだということを私は強く信じております。どうか各位におかれましては活発なご意見を出していただきたいし,文化庁の方もどうぞご寛容に,そして痛烈に討論に加わっていただきたいと思います。
上原委員,どうぞお願いいたします。
○上原委員
ありがとうございます。私は長い間,地方で文化行政に携わってきた立場から本日は少し意見を申し述べたいと思っております。
文化芸術振興基本法第2条,基本理念の第3項というのが,私の一番好きな文章です。「文化芸術の振興に当たっては,文化芸術を創造し,享受することが人々の生まれながらの権利であること」,ここで初めて権利という言葉が出て参ります。「権利であることにかんがみ,国民がその居住する地域にかかわらず,等しく文化芸術を鑑賞し,これに参加し,又はこれを創造することができるような環境の整備が図られなければならない」というので,まさにこれは地方で文化芸術の行政に携わってきた者としては,大変心強い基本理念であります。私はこの第2条第3項の,この部分を常に胸にあるいは引用させていただきながら,いろいろなお話をさせていただいています。
この文化芸術振興基本法第2条第3項の高らかな理念と比べて,今現在,地方で起こっていることはあまりにも大変な事態であると言えます。何が問題かというと財政的な問題はもちろん大前提にあるのですが,地方自治法改正の指定管理者制度の導入というのが,今地方自治体レベルでは大きな課題になっております。あの指定管理者制度の導入というのは本当にもう驚くようなことでございまして,文化施設もスポーツ施設も図書館も「公の施設」に対しては,同じ制度が導入されることになります。しかも強制力を持っておりまして,例外が許されないということになっています。
日本の中ではさまざまな文化施設が努力をして,文化施設 institute ,建物ではなくてその機能を発揮するような努力を20世紀最後の四半世紀にわたって重ねてきたと思います。図書館は貸席業から本や資料という人類の叡知をストックし,それを要求に応じて皆さんに提供する,市民の皆さんに提供するという図書館本来の姿を確立してきました。美術館は,壁ではなくてそこにコレクションがあって,コレクション展や企画展をしていく。そして市民の活動も助ける。というような理念を確立して参りました。
そして残る中で一番むずかしいのが公民館,市民会館,文化会館,ホール,劇場ということになります。このように名前が変われば,実態も変わるわけですが,いわゆる劇場法もないので,図書館法や美術館法に規定されている専門職という位置づけもない中で,地方は様々な努力をして自治体レベルで四苦八苦しながら劇場としての機能は何かということを模索して,ようやく少しずつその方向が見え始めて参りました。文化芸術振興基本法はそういう時期にできた法律として,とてもありがたい部分を持っています。それが今般の地方自治法の改正によって大きくゆらいでいます。驚くべきことに総務省の指定管理者制度の説明文書の最初の部分に文化会館や美術館を事例としてあげられています。
私はたまたまその説明会に参加いたしましたので,この説明のパターンを変えていただきたい,もっと指定管理者としてふさわしいものを事例に出して欲しいとお願いを申し上げたのですが,時既に遅し。全国各地で同じマニュアルに沿って総務省の方が,指定管理者制度のまるで見本が文化会館であるかのようなご説明をなさったという事実がございます。
又,指定管理者が有期限であることも問題です。劇場が創造活動を展開していくためには,企画から上演までは最低3年位はかかるものです。3年間の有期限で指定管理者になってしまったら,創造活動という部分が,どのようになっていくのかということが,大変懸念されるわけでございます。
それは,各自治体が決めればいいことですよといわれますが,制度としてこのような仕組みになってしまうということは,とても大きな問題です。その上,今,民法34条が見直しをかけられています。これによって財団法人という形で各地域で運営されている文化会館がいったいどうなるのかということ。これも懸念材料でございます。
このように文化の視点から,さまざまな法律の改正に対してウオッチングをしていくことが非常に大切です。私どものように地域で仕事をする者もそういうことを考えながら,いつもウオッチングしていかなければいけない。そしてそうしたことに対して意見が申し述べられるような場に,この文化審議会がなったらありがたいと思っております。
以上でございます。
○阿刀田会長 
岡田委員,どうぞお願いいたします。
○岡田委員
岡田でございます。先ほどのご説明にもありましたが,今年度の予算も文化芸術創造プラン,アートプランに対してずいぶん莫大なお金が注ぎ込まれようとしていて,それは大変喜ばしいことだと思います。ここでは最高水準の芸術の創作とか芸術家の育成ということを謳っていらっしゃいますが,文化芸術のトップのレベルを上げるということはとてもすばらしいことだと思います。
一方でそもそも文化とは何かと考えますと,日々暮らしていることこそが文化ではないかと思います。毎日の暮らし自体が文化であり,それが心豊かなものであること。地域社会の人たちとのつながりがいかに優しいものであるかを実感できること。そういったことが,文化の基本であると思います。ですから,その意味で文化といったときに,文化芸術ということだけではなく,道徳や言葉遣いなどが地域ぐるみの生活教育の中で自然に生まれ,毎日を心安らかに楽しく生きていけるようなことに,着目していただきたいと思います。
加えて,国が知的財産立国を標榜していることについて。これは以前の審議会でも申し上げたことですが,学校教育の中でこれを研究するとこんなにお金が儲かるよとか,この勉強は特許を取ったらこんなに君はお金持ちになれるよというような,お金に誘導するような学問であってはなりません。それでは,日本人全体が拝金主義に傾いて,それこそ心豊かとは反対に心貧しいお金持ちになってしまうと思います。知的財産立国も結構ですが,その裏側で拝金主義が横行しない方向での政策をお願いしたいと思います。 以上です。
○阿刀田会長
ありがとうございました。続いて,関委員お願いいたします。
○関委員
私は経済人ですから,少なくともここでは経済人としての立場から,文化について考えていくことが,私なりに貢献することであると理解しております。
そうした観点からこのところ思うこと。その一つには,かつて無かったほど社会一般に文化芸術を大切にしようという認識が高まっているのではないかということです。近年経済界でも,グローバル化とIT化が全面的に進行しており,すべてにおいて均一化,画一化した尺度でものごとを判断するようなことが急速に進んでいるわけです。そうなって参りますと,私どもが仕事をしていく上でもあるいは生活をしていく上でも,自らのアイデンティティとはいったい何だということが逆に問われてくるようになるわけです。その意味で一人ひとりが文化芸術を大きなベースにして,自らのアイデンティティを確立し現代世界を生きていくということが,たいへん意義深いことと認識され,そういうことが一般に求められてきているということ。これが,まずは1点。
それからもう1つは,time consuming な文化芸術というものを,一般の生活の中にどのように定着させていくかということが非常に重要になってくるということです。これは少子高齢化の中で,皆それぞれに非常に多くの自分の時間を使えるという世の中を前提にして考えられることです。ハードとして“もの”は容易に手に入るが,それだけに陳腐化して,すぐに飽きられてしまう。そこでソフトとしての良質な優れた文化芸術を創造していき,誰もがそれに容易にアクセスできるという条件をつくることが肝要になってくる。そういう観点からしますと,いろいろとやるべきことがあるのではないかということです。
それから青木先生からご提起があった,文化発信としての対外政策については,言語の問題をどこかでブレークスルーする必要があると思います。世阿弥等はシェークスピアに優るとも劣らないと思うのですが,能の関係の英語の書物はほとんどもう皆無といっていい状況です。その辺のところ,言語の問題を本当にどう考えたらいいのかということが一つ論点になろうと思っております。
いずれにしても微力ではありますが,一生懸命やりますので皆さんのお力を同様にいただきたいというふうに思います。
○阿刀田会長
どうもありがとうございました。続いて,田端委員どうぞお願いいたします。
○田端委員
私は今回から新しく文化審議会総会へ参加させていただきましたが,これまでは文化審議会文化財分科会の第三専門調査会で専門委員として史跡の検討等を行って参りました。そこで審議したことも含めて,「史跡等整備の手引き」という文化財の保存と活用のマニュアルがまとめられております。それは,非常に立派な成果が挙げられております。それを見ますと,各地域の文化財を抱えていらっしゃる方々が困ったときに,同じような解決の事例としてご活用いただけるのではないかと思います。
これをつくられたのは,地域の学芸委員等の専門的知識を持っていらっしゃる方,それから修復の技術を持っていらっしゃる方,それから地形や機構等をよく知っていらっしゃる学者の方等々。そういう方々の知識を総合したものだと思いますが,ここで一つ思うのは今まで地域にいらした古老の方々の知識や技術というものも,ここに加えていくことも必要なのではないかということです。
といいますのは,私は京都の修学院離宮の近くに住んでいますが,そこはまさに花折断層の上でして,地震がいつ起こるか分からないという所でもあるわけです。そして,その近くに小さな川がありまして,その川はずっと以前は砂防ダム等がなくて昔は大雨が降りますと,地域の方々が総出で竹竿に突き刺しまして物が流れるように,雨が降ったら出ていくというような共同体があったわけです。ところが砂防ダムができてそういうものがなくなった。確かに普段から安心して生活はできるのでが,急な災害のときの知識がやはり消えていく恐れがあるのではないかと思います。
そんなことから文化財の保存についても,地域の古老達が語るようなところの知識,例えば古墳なら古墳をどのように守ってきたかというようなものも,一緒に加えながら今後考えていただく。するとそれが,地域興しにもなるのではないかという気もいたします。いろいろな形で国立,公立の歴史資料館や博物館等がたくさんありますので,それが国立,公立の枠を超えて今申したような知識を集積していく方向が,今後必要ではないかと考えています。
○阿刀田会長
どうもありがとうございました。 永井委員,どうぞお願いいたします。
○永井委員
私が会長を務めます日本劇作家協会では,今年度杉並区の富士見丘小学校という所をモデルケースに総合的な学習の時間に演劇を取り入れるという取り組みを一年間にわたって行って参りまして,いよいよ発表の時期を迎えております。これにはいろいろ試行錯誤がありましたけれども,総じて大変劇的な体験でありました。先生方とともにいろいろなアーティスト,劇作家だけでなく演出家,それから詩人,音楽家等とも1年間関わって,今現在1つの芝居を仕上げているところです。
何か学力低下ということでこの総合的な学習の時間の見直しが言われるようになりました。私はその細かい事情はわかりませんが,始めたばかりでまだ1年ですので,それがやめさせられるのか,時間が削減されるのかと,大いに心配しているのです。というのは,この総合的学習の時間が子ども達の学力をも向上させ得る,たいへん取り組み甲斐のあるものだと思うからです。以下,そこのところを少しお話いたします。
これまで日本では,学校教育の中に演劇を取り入れるということは,あまりなされてきませんでした。もっと言えば演劇自体も国立の演劇学校がないということを一つ見てもわかりますように,音楽,美術と比べますとずいぶん冷遇されてきたと思います。今度,新国立劇場が初めて俳優養成をスタートさせますけれども,劇作家協会は自慢するわけではありませんが,劇作家の養成もしております。これもできれば国が関わってやるのが本来はいいことではないかとは思いますが,全くそういう話になりませんので,劇作家協会が自前でやっております。もちろん,文化庁から援助はいただいておりますけれども。
話は戻りますが,学校の中に演劇の授業を採り入れるこということを,じっくりと考えていただけないかなと思います。演劇というのは大変おもしろいもので,何事も自分で考えてやらなければなりません。演劇というのは基本的に他人になるわけですから,他人の立場に身をおくということを前提にした芸術なので,これは他者理解にもつながる,社会性も出てくるという意味で,大変貴重な学習ができるのです。
ちなみに,私は国語力が落ちた原因は授業時間が減ったことだけではないと思います。以前私の書いた『ら抜きの殺意』という戯曲が教科書に取り入れられ,私はその教科書用の問題集を見る機会がありました。驚くべきことに問題は全部今選択制で丸を付けて答えるのです。あとで採点しやすいからなのかもしれませんが。それで,いくつか問題が出ていまして,選択しなさいというので私も解いてみたのですが,自分の文章に基づいた問題の選択肢の中に私が合っていると思う答えがないのです。
私は,この作品の作者であるわけですが,「この作者はどういうつもりでこういうことを言いましたか」という選択肢の中では,どれも違うなと思って選べませんでした。しかし,中には確かにこう考えてもいいなと思うものもあるのです。このように人の出す答えというのはさまざまで,その先にそれぞれの可能性の広がりがあるとも言える。ですから,少なくとも自分の言葉で答えを書かせるという形式にした方が国語力は育つのではないかと思います。
そんなことから演劇の授業を通した他者理解の体験を踏まえて,自分で考え表現していくという思考をすることが,国語的な力をつけることを支えることができると言えるのではないでしょうか。そういうことも考えますとこうした学習の機会を実現させている総合的な学習の時間のあり方については,いろいろと言われているようですが,ぜひこうした芽を摘まない方向でお考えいただきたいと考えております。
○阿刀田会長
どうもありがとうございました。今の永井委員のご発言に関連してですが,先ほど申しました去年度の「これからの時代に求められる国語力について」という答申。これはここにいらっしゃる松岡委員の懸命なご発言によってその答申の中に,国語力の増進のために絶対演劇が必要であるということがはっきりと書かれております。これにはあとから実に多くの方面から称讃の拍手をいただきました。その会議の中でもずいぶん討議されましたが,国語力を増すために演劇ということをきちんと評価したのは,この答申が初めてとまでは申しませんが,わりと珍しいことだったのかなという気がいたしております。どうもありがとうございました。
中山委員,どうぞお願いいたします。
○中山委員
この文化審議会で扱う文化の範囲というのはあまりにも広大で一法律家である私はそのほとんどが素人でございますけれども,私の専門としている著作権法の第1条は文化の発展を目指すと書いてございますので,それにしたがって著作権法の話をしたいと思います。
現在,かなり大がかりな法改正が進行中であります。昭和45年にできた現在の著作権法改正の中ではもっとも大がかりな改正,大規模な改正だろうと思います。従来の改正というのは大体条約対応の改正が多かったわけですけれども,今回やっとゆとりができて少し腰を落ち着けた大幅な改正ということが可能になったわけです。今,デジタルの時代でありまして,もう著作権法の創作から流通,利用のあらゆる面に大きな変革が訪れております。中でも利用と流通に関しましては,これはインターネットを考えればわかるわけですけれども,制定当時からするともう隔世の感があります。
このような事情を考えますと著作権法の大幅な改正でなく,全面改正をすべきだという気も当然あるわけです。しかし世の中の発展が非常に早くて全面改正をしようと思ったら恐らく10年ぐらいかかる。その間にはもうどんどん事実の方が進んでしまうわけで,今回のような改正にならざるを得ないわけですし,またその条約対応,条約にかなり規制されておりますので,日本だけで独自のこともできないということもありまして,今回の改正作業になったわけです。
ここまでは前回の審議会で分科会長からお話があったところです。ただ,今回の改正,3年がかりでやりますけれども改正が成功裏に終わったといたしましても,デジタル化というものはどんどん進行していくわけでありますし,著作権法の見直しというものは常に検討されなければいけないわけです。それで,これからの話は,今すぐ法改正するしないという話ではなくて,これからの問題について少々お話をしたいと思います。
著作権法を含む知的財産法というのは,非常に優れて資本主義的な制度であります。要するに著作権法は創作者に独占という市場における利潤を餌に頑張れと。頑張れば独占的利潤が得られますよという,そういう餌をぶら下げて走らせる。みんなその餌に向かって走る。したがって世の中は発展するという,これが基本的なシステムになっているわけです。で,著作権法は経済的合理性を持った人,エコノミックスであるならば利潤の追求をするのは当たり前でありまして,そのためには最も合理的なシステムである,市場メカニズムに沿ったシステムであるといえるわけですが,最近おもしろい事例がいくつか出てきております。
リナックスというソフトウェアをご存じだと思いますが,いわゆるフリーソフトウェア,権利を主張しないというソフトウェアが流行している。またアメリカのスタンフォード大学のレッシング教授という非常に世界的に著名な教授がおりますけれども,この人の「クリエイティブ・コモンズ」という運動,これは情報を独占することではなくて,情報は共有し合ってこそ発展するという発想です。ここでいう共有というのはお隣に民法の専門家の野村先生がいますけれども,民法の共有という意味ではなくて人類共通の財産とか共有の財産という程度にとらえてもらえばいいのですが,囲い込みをするのではなくて情報をみんなで使い合って発展していこうという動きであります。
これは従来の知的財産,著作権法では説明ができない動きであります。かといって単なる趣味人の集まりであるということでも,これはいけないわけであります。これは人は利潤だけで,金だけで動くものではないという人間の本性に関係するかもしれません。あるいは巧妙なビジネスモデルが隠れているかもしれません。例えばIBMはその昔,昭和60年ごろは権利,情報というものを自ら囲い込んで独占をして利潤を上げていた。そのために日本の企業もさんざん叩かれたわけです。けれども,そういう独占,囲い込みから現在オープーン政策,つまり,みんなに使ってもらおうと知的財産権を解放するという政策に変わりつつある。これは市場を大きくしてその中でIBMもビジネスチャンスを広げようという,こういうモデルが隠れているのかもしれないわけです。
先ほどのレッシング教授の話ですけれども,これは今世界的に広がりを見せており,いずれ日本でもそう遠からず展開されると思いますが,これは著作権法の話ですけれども,お互いがお互いのものを利用し合って発展をしていこうという考え方であります。権利でがんじがらめになってお互いに利用できないというのは,これは全体が発展をしないという,そういう発想。したがってお互いに自由に利用できるそういうサークル。一定の条件はありますけれども,自由に利用できるサークルを世界的に広げていってその中でお互いに使い合おう。もううるさいこといわずに使い合おうと,それが全体の発展になるのだという考え方であります。こういう考え方は,今我々が持っている著作権とは逆の,正反対の考え方です。
しかし,これは世界的にかなり大きな動きになっておりまして,もはや無視できないという状態になっております。ということは,情報というものはいったい囲い込む方がいいのか。あるいはみんなで共有し合った方がいいのかという,あるいはその2 つのシステムはどういうふうに調和させたらいいのか。これがこれから非常に大きな問題になってくるだろうと思います。
実は大学もこの情報の共有あるいは独占という非常に大きな問題をかぶっておりまして──国家の波に乗って大学では知的財産権が非常に重視されております。これは産学協同を進める上では非常に大事でありまして,実は私もその旗振り人の一人なのですが。しかしながら大学において情報を独占する。まわりに出さない,それを利潤の元にするということは,ある意味では学問の自由や学問の発展ということの支障となる可能性もあるわけでして,極めて重大な問題を含んでいる。こういう非常に重大な問題を含んでおりますので,単に知的財産法,著作権法の学者だけの問題ではなくて,幅広い議論が必要だろうと思います。
そういう意味で,この審議会のメンバーの方々も各界の有識者の方でございますので,この場で議論するのはなかなかむずかしいといたしましても,こういう問題意識をもっていろんなところでご発言をしてもらえれば幸いだと思います。
以上でございます。
○阿刀田会長
大変興味深いご意見をうかがいました。私は物書きですから著作権とは常に関わっております。文芸家の団体にも一方に文芸家協会という団体があり,また一方に推理作家協会というところがあります。両者が著作権に関しては,対照的な態度をとっている面があると思ってもおりましたが,今のお話によれば,そういう立場からの理論立てもあるのかと,新しい考え方に対して,興味深く楽しく聞かせていただきました。
野村委員,どうぞお願いいたします。
○野村委員
私も法律の専門家であまり文化一般についてお話をするというようなことはできませんので,法律の話を少ししたいと思います。昨年,民法が全面改正されました。日本の民法は明治29年にできて100年以上立つのですが,もともと1804年のフランス民法を模範にしているところがありますので,その意味では既に200年立つわけです。中には牛や馬で旅行するということが前提になっているような条文もありまして,現代語化と呼んでいるのですが,一般国民にも分かりやすい条文にするということが行われました。
8月にパブリックコメントがありまして,このときに出てきた案についてはかなりいろいろな意見が,特に大学の先生たちからありました。例えば損害賠償の償とそれからお金という字を書いて「償金」という言葉がよく出てきます。これは損害賠償という言葉とは違って,損害賠償というのは悪いことをしたのでお金を払うというそういうニュアンスを持っている言葉として使われているんですけれども,そういう主観的な状況とはやや違う少しニュートラルな言葉として使われています。その案では「償金」というのを全部「賠償」と換えるという案で,ちょっと言葉が換わると条文の意味も本当は変わっていってしまうということで,いろいろな批判がありまして,最終的にはその部分は元の言葉が使われています。他にも,例えばものを壊すというのを「棄損」という言葉が法律は使われているのですけれども,これも「損傷」というような言葉に書き換えられたりしているわけですね。
明治の終りごろに日本の民法をつくったときには,日本にない概念を入れるということでかなり当時の学者が言葉をつくっているわけです。それがかなり定着していると思うのですが,他方で日常生活からみると分かりにくいということだと思います。しかし,あまりに分かりやすいということばかり考えると,どうもよくないのではないかと思います。むしろ言葉というものの能力が恐らく明治の終りに比べて落ちているということだと思いますが,言葉というのは文化の基礎になっていると思いますので,言葉を豊かにするということも必要ではないかと感じております。
それからもう1つは,先ほどの予算のところでも文化の国際的な発信というようなことが触れられておりました。先日,インターネットでフランスの法律を検索するサイトにアクセスしましたら,何とフランスの民法典について英語版が載っておりまして,とうとうフランスもここまできたかと思いました。日本でも法律の英語化,翻訳ということが今話題にはなっています。英語に換えるのはちょっとむずかしいこともありましてあまり進んでいないのですが,いろいろな文化を世界に発信するというときに,学問は基本的にインターナショナルです。法律学のような社会科学にはもともとインターナショナルな部分がありますけれども,日本独自の文化の上に成り立っているルールもあり,そういうものを世界にも発信するということが必要ではないかと考えております。文化の国際的発信というときに,文化からもう少し学問のあたりまで広がればいいのではないかと個人的には思っています。
以上です。
○阿刀田会長
どうもありがとうございました。国際化の中の,先ほども出ておりましたが言語の問題。文化的には英語が多大な影響を与えていくという現実に対する中で,どのように文化を発信していくかというのは本当に大きな問題だと思います。それでは,英語の得意な松岡委員,どうぞお願いいたします。
○松岡委員
この文化審議会のメンバーにしていただいて,荷が勝ち過ぎるので少ししんどいところもありますが,この場にいさせていただいてよかったなといつも思うのは,本当に普段知らないというか自分の専門とは違う分野の方々のお話をうかがえるということで,今日もその思いを強くしています。
先ほど文化庁の過去1年間の仕事の一覧を見せていただきました。そこに保護と支援と奨励,推進あるいは活用という言葉が出てきました。私自身も,国語分科会のメンバーとして答申の作成にも関わったのですが,現在生きて使用されている日本語も,どうも活用,奨励,推進よりは,実のところもはや保護の段階にきているのではないかという思いもあります。
保護というのは,それこそ先ほど文化財部長がおっしゃったように,絶滅寸前のトキや何かを何とか命を一日でも長らえさせるというようなイメージがあるのですが,命があって生きていながら日々劣化していくというような恐れが,日本語の言葉にはあります。永井さんは劇作家でご自分のオリジナルのものをお書きですが,私は主に戯曲の翻訳をしております。そうしますと,もう既に何かこの言葉は使っても通じないだろうな,耳から聴いただけでは通じないだろうなと,いい言葉なのに使えないと泣く泣くあきらめる場合があります。敬語の問題とかいろいろ今の日本語には解決しなくてはならない問題というのがたくさんあると思います。やはり語彙を含めて何か言葉を発すること,その必要性,それをどれだけ多様な表現で相手に伝えるかというようなそもそも根本のところが衰弱しているのではないでしょうか。そういうほとんど危機感といったらいいか,それがないと私の仕事もやっていけないという,非常に利己的な動機ではあるのですが,そういう危機感を持っていることは確かです。
それで,実はその保護ということとも少し接すると思いますが,前回の総会のときにお隣の渡邊先生に,「地名というのは文化財ではないのでしょうか」と伺ったことがございます。今,市町村合併でどんどんと,わけの分からない地名がつくようなことがあるからです。
それから先ほどは,総務省が決めた指定管理者制度が文化振興の視点から差し障りになる可能性があるので,反対しなければならないというようなことも出てくるかと思います。ですから,文化庁は文化の保護,支援,活用,推進というようなところを軸足にして積極的に,施策を推進すべきだと思います。例えば国語分科会に係って言っても,名前に使える漢字と,文書に使える漢字が分化していることとか,管轄する省庁が分かれているところにも問題があるというようなことも浮かび上がってきているわけです。ですから,文化ということを軸に,積極的に各省庁に対しても「そういうことをしていると日本の文化がおかしくなる」というような発言をしていくことが必要ではないかと思います。
それから今,中山先生から情報の共有と独占というお話があって,実に興味深くうかがいました。実は,私はシェークスピアの翻訳をしておりますが,世界中であらゆる言語文化の中にシェークスピアの作品が共有されています。ですから,どの劇作家の作品よりもシェークスピアの上演というのは,日本だけではなくて実に活発です。それもインドでも韓国でも,日本はもちろんですけれども,どの劇作家の作品よりも活発に行われています。ですから,ひとつのモデル,シェークスピアの翻訳上演ということが情報の共有化を呼び,それがシェークスピア産業としても活性化して,実は儲かる。大きく見ればさまざまな人が,私もシェークスピアのお墓の方には足を向けて寝られない立場にあるのですが,そういうことにもなっているのではないかというように思います。
○阿刀田会長
よろしゅうございますか。今,ちょっと松岡委員がおっしゃった漢字のいろいろな取扱いが各省庁で分かれているというのは,機械との関わりは通産省が管理し,人間の名前を付けるということに対しては法務省が管理し,その他の一般が文化庁の担当であると。この間出た名前のための漢字というのは,文化審議会国語分科会はほとんど関知しないまま世の中に流れていったものであり,この辺は制度的には確かに問題があるかなとは思っております。しかし,これも聞いてみるといろいろな経緯があってのことなので,そう簡単にはどうこうできる問題ではないとも思っております。いずれにしても,国語分科会に携わる者として憂慮はしております。
それでは渡邊委員,最後になりましたがどうぞ。
○渡邊委員
渡邊でございます。私は皆さんご存じのことかと思いますが,文化財の保護という世界に長く住んでおります。従いまして私が何か言いますと,どうも文化庁の代弁者のごとくに受け取られないとも限らない面があります。ときには内部的には辛口も言っているのでございますけれども。
私の立場で言いますと,日本は歴史的にも豊かな資産を持って今日まで至っておりますので,やはりこの歴史的遺産というのは社会資本のひとつとして十分に活用していかなければならない。ですから国際交流という場面においても,やはり日本の国というものを説明し,あるいは理解を図り,印象づけていくためにやはり文化遺産というのは大きな存在だろうと思っております。
これは前に一度ここで,2 年ほど前のときでしたでしょうか。やはりこういう席で前の委員である関口さんが,「美しい日本」というようなことを申し上げていました。つまり日本というのは,地理的にあるいは気候的に非常に豊かな条件を持っているということでございます。私はその「美しい日本」というのも,もうかなり破壊されてきていると思っておりますので,日本は美しいといっているだけでは,もう事は済まないだろうと思っております。そこで私は「美しい日本」はもちろん大切ですが,やはり「魅力ある日本」というのはいったい何かというような考え方を,これから文化財の立場でもしていかなければならないだろうと思っております。
日本の文化財保護制度のいい点はやはり先ほどもありましたように,形なき文化という目に見えないというか人を通して見える部分でありますが,そういうものの評価を常に心がけてきたことです。それは,これまで細い線だったのですが,近年に至ってそれが大いに脚光を浴びるということになってきております。やはり私は総合的に文化的,歴史的遺産というものを通じて「魅力ある日本」というものを築くことができればいいと考えております。
最近の文化財行政は,特にこの10年で大きな転換をしたと思っております。文化的景観とか民俗技術というようなものも,今後対象とすべく法律の改正がなされました。先ほど田端委員からは,地域に存在する伝承的な技術,生活技術というものに対する評価というお話が出ました。民俗技術そのものというよりも,それを意識しているという部分ということでして,これから文化的景観あるいは民俗技術というものをどのように行政的に広げていくのかということが,大きな関心となります。
これはこの間行われました文化審議会の席でございましたけれども,やはり文化や景観に対するご質問がございました。そのときには文化的景観というのは大変すばらしいことだと思うが,それを保護できるのかどうか,本当にそれを実現できるのかどうかというような懸念の声もございました。確かに懸念は常にあるわけでございますが,ただ最近の日本の文化財保護の活動に関しては,行政の力を超えてやはり民間の力が働く時代に入っていると思います。私はこれに大いに期待しているわけでございまして,日本のそういうボランティアあるいは非政府組織が文化財の保護を目指して活動するという,その活動そのものが既に文化的な精神あるいは意識を形成しはじめているのではないかと思っています。これ昭和の年代のころとはまったく違った要件ではないかと思っております。
それで最近の保護行政に対する期待が大きいのですが,反面時代が進むにつれて危なっかしくなってきた面も出て参ります。それは現地での技の伝承の場面でございます。やはり日本には伝統的な技術というものが色濃く残っておりまして,それが例えばお芝居でもあるいは能でもそうですが,さまざまな部分でそれがひとつの技術的な体系をもって活動して,ひとつの芸道というものが生きるわけでございます。その一つひとつの小さな技術,私は小さいというよりも大きな技術だと思いますけれども,それがだんだん立ち行かなくなっているような場面というのが見えてきているわけです。その辺に対して大変懸念しております。
これは補助金というカンフル注射を打って生き永らえるというものではなくて,やはり文化的な力そのもの,あるいは文化の活動そのものが,あるいは生活そのものが少しずつ修正されてこないと,こうした技術社会というのは生きていけない。その危険な崩壊現象が見えてきているというようなことを実感しております。文化財保護というのは,大切なものをピックアップするという作業でございますが,ピックアップしてお金を出せば事が済むというのではありません。当該文化財が周囲の風土や人々と共に生きていく力をつける条件をどのようにつくりだすかということに,文化財保護行政は関わっているという意識が,求められていくだろうと思います。そして当然のこと,行政には限界がございますので,やはりそういう部分においても一般の生活,我々通常の生活そのものがこうした状況について,しっかりと自覚していかないとならないと感じています。
また,先ほど市川委員からあった歌舞伎とオペラの問題ですが,私もこの間,「有形文化遺産と無形文化遺産の統合的アプローチ」というところの会議に出席して講演をいたしましたけれども,ヨーロッパというよりもユネスコは,やはり民俗の文化あるいは技術に強い関心を持っているというように実感したわけです。これはやはり,第三世界あるいは中南米の民族が持っているような生活文化に対して,その存続について関心が持たれているわけです。そういうものと比べると日本というのは同じ場面に乗せられるかどうかというのはむずかしいと感じる方も多いでしょうし,実際その会議に出席なされた専門の方々からすれば,やはり違和感というものを禁じ得ないということでございます。しかし世界遺産条約というものに日本は関わって整備させたのだということであれば,やっぱりその違和感を超越しなければならないと,私は思っています。
ですから,今後ヨーロッパの人たちがどのように動くかという関心はないわけではありませんが,恐らくバレエというようなもの,あるいはオペラというものを,すぐにこの世界遺産条約の中に入れてくるかというと,そうはいかないのではないかと思います。それは先ほど青木委員が言いましたように,彼らの文化観というものがまったく違っているといったところによります。それでこれから先,国際的にも日本はどういう立場で動いていくのかということが問われると思いますが,やはり独自の見解を持って活動することが一番大切だと思っております。
以上でございます。
○阿刀田会長
どうもありがとうございました。まだ少し時間が残っておりますので,どうぞまた今のことに反映して,ご意見あるいは言い忘れたこと等承りたいと思います。どちらからでもどうぞ。
永井さん,いかがでしょうか。
○永井委員
本当にいろいろな方のご意見を聴けて大変新鮮な思いですし,私は演劇の現場のことしかよく分かりませんので,今著作権のお話ですとかいろいろ少しまだ,自分の中で整理が十分にはつきません。ですが最近著作権法が変わってきたという話は演劇界でも話題になりました。
これは1つ質問ですが,高校演劇の上演料に関して今までは一応劇作家協会としては,劇作家の著作権は守りたいという考え方できたのですね。というのは,あまりにも無断上演が多い。それから高校は演劇コンクールに出ることが高校演劇のステータスになっていて,その演劇コンクールに出るためには作品を全部1時間に短くするということが常識になってきまして,人の作品をズタズタに切ってその間に勝手に台詞を入れてつなぎ合わせるということを,演劇を愛すれば愛するほど高校時代に体験するのです。
私は一方で,それによってとにかく芝居をやろうということも偉いと思うのですが,人の作品をズタズタに切って自分の言葉を入れてつなぎ合わせるということを,高校時代に当然のことのように学んでしまうということには,何かこう少し違和感があります。その上で無料上演については著作権料を払わなくていいという慣習がある。私たちは高校生でも一回上演する際には5,000円払うべきだという立場でいたので,今ちょっと混乱が生じているんですが,そこはどうなのでしょうか。
○阿刀田会長
中山さん,お答えする立場ではないかもしれませんが,どうぞよろしくお願いします。
○中山委員
無料で上演できるものは条文に書いてありまして上演できるので,5,000円払うのは自由ですけれども,払わなくてもそれはいいことはいい場合があるというか,条文にある限りは大丈夫だということになるわけです。問題はそれよりも今ズタズタに切るという方なのですけれども,これは条文からいきますとだめなんです。これは私的使用目的の複製であれ何であれですね,同一性保持権というのがありまして,切ってつなぎ合わせてはいけないとなっております。
しかし先ほど言いましたように,世の中はそれでは通らないものがたくさんあるわけですね。切ってやったっていいよと,高校生が切って使ったって一向に構わないよという人もたくさんいるはずです。私の論文等はもういくらでも利用してほしいです。私はむしろありがたい。そういう人の間では先ほど言いましたように,もうそれならサークルをつくってお互いに,じゃあ,いいですよと言い合ったものはそれでよくなるという,そういうサークルを現在の知的財産,著作権法という中で自治体,自治組織みたいな自由国家をつくろうという動きがあるという,先ほどの話はそういう動きなのですね。今の条文でどうかと言われればだめです。刑罰にもふれます。という話です。
○阿刀田会長
どうぞ岡田委員。
○岡田委員
今の関連のお話ですけれども,先ほどの中山先生の共有と独占ということを興味深くお聴きしました。今おっしゃったのは多分人格権にふれることだと思うんですね,ズタズタに切るということは。で,その権利を放棄した人の作品に対する人格権というのはその場合どうなるのでしょうか。
○中山委員
それが恐らく一番むずかしい問題なのです。解決がついていない問題といってもいいと思います。人格権という以上は放棄できないはずです。放棄できないはずだけれども,しかし著作権法でいっているところの著作者人格権というのは果たして普通我々がいっている名誉,声望とかそういうものを害された意味の人格権と同じかということが問題になるわけです。同じだという説もありますし,いや,違うという説もありますし,そこのところはまだはっきりしておりません。分かりませんけれども,しかしいいよといってもあまりひどい使い方をされると,訴えられる危険性が現行法ではあると。私も弁護士的な,顧問弁護士のような発言で申しわけないのですが,そういう危険性は残ると言われざるを得ないわけです。
この人格権の問題は,非常に重要な問題だと思っております。デジタル時代ですね,先ほど演劇等もちょっと高校生の例は特殊なのですが,デジタルのものというのは,これは自由に改変できるというか,もう改変は極めて容易というところに特色があるわけです。それも恐らくひとつのもう翻案文化というべき文化にさえなるだろうと思うのですね。しかし著作権法はいけないという。例外はつくっておりません。したがって,その著作権法とそういったデジタルの特性との葛藤といいますかね,相克というのはこれから当分続くということになりますし,実は今度の改正でも人格権を問題にしようという意見もありますけれども,なかなかこれは少し扱うのがむずかしいので研究項目という,ひとつ下げたといいますか引いた形で研究を続けていきますとなっております。したがって,今のご質問に正確に返事ができるのは相当先にならざるを得ない。今こういうところです。
○阿刀田会長
よろしゅうございましょうか,ほかにご意見。どうぞ。
○青木委員
先ほど永井委員がおっしゃった総合的な学習の時間を活用して演劇を教えるようなことが始まったのですが,今言われている見直しの中でそういう時間がなくなったら大変だというお話でした。これは,非常に重要だと思います。私はいわゆるゆとり教育には賛成です。
ただ,ゆとりという部分に文化面を採り入れて,ゆとり教育というより,むしろ文化教育としてやってほしい。僕らの小学校以来の教育の中で文化についてはほとんど教えられたことがないわけで,日本の文化,伝統とかいってもそういうことはほとんど知識としても実際としても教育の中で与えられていないのが現状です。だから,やはり文化教育というのを前面的に押して,その中で文化は創造力と表現力を豊かにするので,先ほどの国語力の問題も文化教育という中で解決していくような大きな枠組みがあってもいいのではないかというふうに思います。
特に日本人は外国語が下手で口下手なんていわれますけれども,個々人の言語表現力あるいは言語ではなくて非言語的な表現力も含めて,非常に画一化され,その力がますます落ちてきているような感じがいたします。そういう点で文化教育という名目をもっとしっかりと活用して,現代教育の中に位置づけていただきたいと感じます。
○阿刀田会長
文部科学省の会議に出席しますと感じますが,これは日本の教育の伝統だろうと思いますが,教科の概念というのが非常に強くあります。理科の先生,国語の先生,社会の先生がいらして,それぞれに独立した意識というものが強い。かつて,藤原委員等が国語分科会でおっしゃったことは,国語こそそういうものの上に横断的に立つものなのであり,国語の優位,国語が非常に重要であるということを説かれた。ところが,文部科学省に関わる場面でそういう形で国語のことを言うと,あれは国語科の先生が自分の領域を増やそうとして言っているという論調に取られかねないことになるわけです。
こういったことは今までの日本の縦割りの教育の伝統からいうと,我慢できないという感じの先生方もいらして,その辺が文化庁でこの話題を出すのと文部科学省で出すのとでは大きな違いかなということを感じております。長い間そういう形で日本の教科というものが行われてきたという伝統は,やはり学校で現場を預かっている先生たちの中ではそう簡単には崩れない要素もあるのかと考えたりしております。
○加茂川文化庁次長
ちょうど今中教審で学力問題といいますか教育課程,教育内容の議論が始まったばかりでございまして,永井委員からは総合学習の時間がどうなるのかとか,青木委員からはゆとりの教育についての見直しの反対意見もございました。いろいろな議論がこれから深まるところでございます。
○青木委員
全部反対というわけではないですが。
○加茂川文化庁次長
私ども文化庁としても,それから文化審議会としてもどういう連携ができるのか常に意識していこうとしています。特に新聞報道等にもございましたように,単に学力問題だけではなくて,学力問題に関わっては国語力,国語教育の問題もきちんと議論されるはずです。それは国語科だけなのかそれ以外の語学学科や情報も関係してくるのかもしれませんが,何より心の豊かさというのがきちんと検討項目に入っていますのと,芸術教育も入っているのです。
これらは私ども文化庁または文化審議会でご審議いただく事柄と十分関係して参ります。常にその中教審での審議の,秋までの密度の濃い審議のようですが,情報を入手しながら連携の仕方,またはこの場で先生方のご意見を聞く機会の工夫の仕方についても,問題意識を持って進めて参りたいと思っております。また,これからもご指導をいただきたいと思います。
○阿刀田会長
岡田委員,どうぞ。
○岡田委員
先ほどの意見を一言申し上げるときに私,中央教育審議会と文化審議会との交流というのは持てないのでしょうかと言おうかと思いながらも,控えたのですが。
私自身の気持ちといたしましては,合同の会議があってもいいのではないかと思っております。
○阿刀田会長
どうもありがとうございます。それは少しご検討の上,ご返事をいただきたいと思います。  ほかに何かございましょうか。上原委員。
○上原委員
すみません,先ほど文化芸術振興基本法のところを引用したときにもう1つ強調したかったことがあります。それは日本のどこに住むかによって文化,芸術にふれる機会というものは非常に異なっている。差があるということを,現状としてぜひおわかりいただきたいということです。首都圏や大都市では民間ができるようなことも,小さな地方都市ではとても民間ではできない。それを補ってきたのが自治体の行政であったということも含めて,地方自治法の改正は打撃を与えているという現状があるということを申し述べておきます。
○阿刀田会長
それでは,よろしゅうございましょうか。そろそろ時間も参りましたので事務局の方から今後のこと等をお話ください。
○吉田政策課長
今後につきましてはまた別途調整の上でご案内を差し上げたいと思っております。
○阿刀田会長
こういう会議は議事録は必ず録るのですか。
○吉田政策課長
はい,録りますし,先ほど運営規則等のところでご説明させていただきましたように,議事の公開ということでこれからは議事録という形で公開させていただくことになりますので,よろしくお願いしたいと思います。
○上原委員
その議事録は各委員がチェックできるのですか。
○吉田政策課長
はい,もちろん,先生方にチェックしていただいた上で公開ということです。
○阿刀田会長
わかりました。何かほかにございますか,文化庁側の方から。
(発言する者なし)
○阿刀田会長
なければ今日の顔合わせを兼ねた第1回目の会をこれにて終了いたします。本当にありがとうございました。
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