文部科学大臣諮問理由説明

1 このたびの諮問を行うに当たり,一言申し上げます。

 委員の皆様におかれましては,御多用中にもかかわらず御出席いただきまして誠にありがとうございます。平成13年に設置されましたこの文化審議会には,これまでに「文化を大切にする社会の構築について」など三つの御答申をおまとめいただいたほか,各分科会においても精力的な御審議が行われていると伺っております。
 文化審議会で御検討いただきます様々な課題は,いずれも我が国の文化の振興にとって重要な事項でございますが,とりわけ,国語,すなわち私たち日本人の母語である日本語の問題は,全国民に直接かかわる問題であり,我が国の文化や社会の基盤にもかかわる極めて重要な問題であると考えております。
 国語の問題に関しては,昨年の2月に「これからの時代に求められる国語力について」の御答申をいただきましたが,その中に述べられている「現在の我が国の状況を考えるとき,今日ほど国語力の向上が強く求められている時代はない。」という認識は,そのまま今の私の認識でもございます。

 本年2月,文化審議会国語分科会が「国語分科会で今後取り組むべき課題について」の御報告をおまとめになりました。国語,言葉の問題は,極めて広範にわたり,多様な問題が存在いたします。しかしながら,それぞれの問題の緊急性,重要性にはおのずと濃淡があることは申すまでもありません。
 分科会の御報告は,問題の緊急性,重要性から見て,「敬語に関する具体的な指針の作成について」及び「情報化時代に対応する漢字政策の在り方について」の二つの課題を今後取り組むべき大事な課題であると指摘されています。様々な課題の中からこれらの二つについて御提言いただいたことに,私は分科会各委員の御見識の高さを感じた次第であります。

 本日の諮問は,この国語分科会のおまとめになった御報告に沿って二つの課題の検討をお願いするものであります。

2 今後,御審議を進めていただくに当たり,二つの諮問事項について私の考えているところを若干申し述べたいと存じます。

  1. (1)まず初めに,敬語の具体的な指針の作成に関連して申し上げます。
    敬語は,我が国の大切な文化として受け継がれてきたものであるとともに,社会生活における人々のコミュニケーションを円滑にし,人間関係を構築していく上で欠くことのできないものであります。
     最初にお願いしたいことは,現在の社会生活に不可欠な存在である敬語を,現時点で,どのように位置付け,そして,それをどのように将来の社会にまで引き継いでいくのかという観点を指針作成に当たって大事にしていただきたいということであります。
     すなわち,作成される指針は,現在の人々の言語生活に資するだけでなく,将来の敬語の在り方にも影響を与えるものであるという点を十分に踏まえて,検討をお願いしたいということであります。このことは伝統的な敬語の使い方だけが正しく望ましいという意味では決してありません。むしろ,大切な文化だからこそ,使いやすく分かりやすい敬語の在り方や使い方をお示しいただきたいというのが私の率直な気持ちであります。
  2. (2)次に,情報化時代に対応する漢字政策の在り方に関連して申し上げます。
    パソコンや携帯電話等の情報機器の急速な普及によって,人々の文字環境は大きく変化してきています。これらの情報機器には驚くほどの数の漢字が搭載されており,その結果,社会生活で目にする漢字の数も確実に増えているように感じられます。このような変化に伴って,人々の漢字使用にかかわる意識もどちらかと言えば,より多くの漢字を使いたいという方向に動きつつあるように見受けられます。このこと自体は決して悪いこととは思いません。しかしながら,法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など,一般の社会生活における漢字使用を考えるときには,意思疎通の手段としての漢字という観点が極めて重要であり,単純に漢字の数が多ければ多いほどよいとするわけには行きません。
     情報化の急速な進展によってもたらされたこのような社会変化の中で,人々の共通の理念となるような「漢字にかかわる基本的な考え方」を整理し,提示していく必要があるのではないかと感じております。端的には,日本の漢字をどのように考えていくのか,この点について,大局的な見地に立った御判断をお示しいただければ大変に有り難いと存じます。
     常用漢字表の見直しにしても,固有名詞の取扱いにしても,手書きをどのように位置付けるかにしても,正にこの基本理念に基づいて検討されるべき課題であろうと考えます。甚だ難しいお願いではありますが,このことの重要性にかんがみて御検討のほどよろしくお願いいたします。

3 以上,今回の御審議に当たり,特に御検討をお願いしたい点について申し上げましたが,幅広い視野の下に,忌憚のない御審議をしてくださるようお願い申し上げまして,私のごあいさつといたします。

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