第5期文化審議会第3回総会(第40回)議事録

1  日時
平成18年2月3日(金) 14時~16時
2  場所
如水会館 2F オリオンルーム
3  出席者

(委員)

青木 保,関 哲夫,富澤 秀機,永井 愛,上原 恵美 ,阿刀田 高,前田 富祺,松岡 和子,石井 紫郎,岡田 冨美子, 紋谷 暢男 ,中山 信弘,川村 恒明,西 和夫,田端 泰子,渡邊 明義

(事務局)

加茂川文化庁次長,辰野文化庁審議官,寺脇文化部長,岩橋文化財部長 他

(欠席委員)

市川 團十郎,西原 鈴子,野村 豊弘,森 まゆみ
4  議題
  1. (1)各分科会等の報告等について
  2. (2)その他

5 議事

○阿刀田会長
 定刻となりましたので,ただいまから文化審議会第40回総会を開催いたします。

〇事務局 <配布資料の確認>

○阿刀田会長
 文化政策部会の審議のまとめについて,青木部会長よりご報告をお願いいたします。
○青木文化政策部会長
 文化審議会文化政策部会では,昨年4月から8回にわたりまして「『文化芸術の振興に関する基本的な方針』の評価と今後の課題について」という議題のもとに審議をいたしました。今回,その審議のまとめをつくりました。
 「文化芸術の振興に関する基本的な方針」は,文化芸術振興基本法に基づきまして,文化審議会への諮問と答申を経て平成14年12月に閣議決定されたものでございます。
 この基本方針は,おおむね5年間を見通して策定されたものでございまして,平成19年度より第2次基本方針を実施する予定であります。そこから,現行の基本方針に関してこの間の社会状況,文化状況の変化を踏まえ,その施策の評価と課題を整理するために,この部会において審議が行われたわけでございます。
 審議のまとめは2部構成となっておりますが,第1部におきましては,基本方針策定後の文化施策の展開及び社会情勢の変化を踏まえて,文化芸術振興のあり方に関して文化政策部会としてどのように考えるか,その基本的な考え方,あるいはメッセージを示したものでございます。
 まず,基本的な認識といたしまして,経済と文化は国の発展を促す車の両輪であり,文化は国の力であるという認識であります。
 次に,日本の文化を積極的に世界に発信し,文化芸術ならではの国際交流や海外貢献,あるいは国際貢献を行うということでございます。
 3番目に,文化芸術は短期的な競争ではなく,時間による選別に耐え得るものが残ることから,「効率性だけを追求した安上がりな文化芸術は永続しない」として,長期的な取り組みが文化芸術にとって重要であるということを強調しております。
 4番目といたしまして,文化芸術を継承する子供たちのために,豊かな心や感性をはぐくんでいける環境整備が大切であることを強調いたしました。
 この4点が,今回,方針の見直しをするための基本的な考え方として文化政策部会が強調した点でございます。
 次に,基本方針の見直しにおいては,国民に開かれた議論を通して国民の理解を得ることが必要である。
 以上が第1部でございます。
 第2部は,「審議のまとめ」の7ページ以降でございますが,基本的には,平成14年に出た基本方針の項目立てに従って,個別の施策の検証ではなく,将来に向かって基本的施策の充実を図るための考え方を検討して,部会での審議内容や委員の意見を整理して,まとめたものでございます。
 項目別に簡単にご説明いたしますと,これは第1,文化芸術の振興の基本的方向についてという点で,今期の文化政策部会におきましては,まず(1)国の役割などに関しまして,社会情勢の変化や地方,民間の取り組みがさらに考慮すべき問題であると考えております。
 また,民間に関しましては,アートNPOのような新たな文化芸術の担い手が生まれてきていることを指摘しております。これをどう組み込んでいくかです。
 また,3番目には,国による支援の考え方につきまして,文化に関しては平等主義では個性がなくなるといった意見もございますと同時に,やはりナショナルミニマム,国民みんなが享受できることも必要という意見がございまして,それは両論を併記してございます。
 次に,2番目といたしまして,文化芸術の振興に関する基本的施策についてでございますが,第1には,芸術創造活動の振興には,中・長期的な観点から創造活動が一層活性化し,創造の好循環を生み出す施策が必要だということを指摘しております。
 次に,文化財等の保存・活用に関しましては,幅広い民間からの資金の活用等を図る仕組みを構築することによって,国民全体で文化財を保護する機運を醸成していくことが必要だと指摘しております。
 3番目としまして,地域における文化芸術の振興に関しましては,文化力を文化芸術以外の分野でも広く生かすための取り組みを進めるべきであると言っております。
 次に,国際交流に関しまして,日本文化の海外発信機能を強めるとともに,アニメ等の現代日本文化の発信を強化すべきとの意見がございました。アニメ,今ではもう代表的な日本の文化芸術に数えられておりますし,今度のアカデミー賞でも宮崎作品がまた長編アニメ部門にノミネートされたこともありまして,こういうことがあります。
 次に,芸術家のみならず,アートマネジメント担当者や裏方を支える舞台技術者の育成や研修も重要であるということです。
 次に,子どもの文化芸術体験活動の充実に関しましては,芸術家等に,子どもの地域での文化活動の受け手としての役割を期待するということであります。
 次に,民間の支援活動の活性化は以前からも指摘されておりますが,税制や寄附の仕組みについてさらなる検討が必要だと強調しております。
 委員の皆様のご発言は,すべて議事録に残されて文化庁ホームページにて公開されておりますので,文化芸術関係者だけではなく,広く国民の皆様にお読みいただきたいと考えております。
 以上でございます。
○阿刀田会長
 ご報告に対して,ご質問,ご意見まとめて承りますので,どうぞご自由に挙手をお願いいたします。何かございませんか。
 それでは,格別質疑も意見もございませんので,このご報告をご報告として承認することにしたいと思います。
 次に,国語分科会の検討状況について,分科会長である私から報告させていただきます。
 昨年3月30日の総会で中山文部科学大臣から諮問がございまして,敬語に関する具体的な指針の作成について,情報化時代に対応する漢字政策のあり方について,この2つについて検討するようにということで分科会がスタートしたわけです。
 分科会を敬語小委員会と漢字小委員会とに分けまして,それぞれの討議をしては,まとめてまた国語分科会に持ち上げ,さらにまた小委員会に委ねるという形で進めてまいりました。
 敬語の方は,今,乱れている敬語に対して何らかの形で具体的な指針を与えるようにということを諮問として受けておりますので,できるだけ敬語について具体的な答えを出すことを,考え続けております。
 対象としては,2枚目「検討内容等」のⅠの(1),敬語が必要だと感じているが,現実の運用に際して困難を感じている人たちを主たる対象とする。「必要」と思っているけれども,うまく使えない人を一応の目安と考えて,これから答えを出していこうとするのが,その対象についての方向性です。
 具体的な指針としては,総論,敬語の仕組み,具体的な使い方という3つの柱を立てました。
 語法としての敬語だけではなくて,その背景となる敬意をどう培っていくか。本来,敬語というのはどのようなものか。本来の敬意というものは何なのか,それから快いコミュニケーション,時には能率的なコミュニケーションとは何なのかといったことも含めて,敬語の置かれている問題について,こたえ得るような総論をぜひともつけていきたいということです。
 従来言われている尊敬語,謙譲語,丁寧語,あるいは美化語といった分類だけでは,適切ではないところもあるようで,典型的な実例を挙げながら,敬語を考える基本的な拠所を提示していこうというのが2番目で,3番目は,それを踏まえたQ&Aです。典型的な指針となるものを挙げて,具体的に説明しようと考えております。
 漢字の方は少しおくれておりますが,これは意図的に少し歩みをおくらせているわけでして,情報化時代に対する漢字政策をどう考えたらいいか。とにかく今,漢字を政策的に,何かはっきりしたものを打ち出していかなければいけない。
 従来は,基本的には,読めることと書けることとは距離はそんなに遠くはなかったと思います。けれども今はもう,パソコンやワープロで打ち出せばその字が出てきてしまうわけです。読めもするし,意味もわかる。しかし,書けと言われたら全く書けない。そのことが,長い歴史を持つ漢字という文化を継承していく上でどういう意味を持つのかということは,大変難しい,未来にかかわる問題でもあって,漢字政策をどう考えていったらいいか,今,どんな状況にあるのかということを考えております。
 手書きの問題も全く同じでして,だんだん遠くなっている。その中で手書きをどう位置づけていくかというのは,国語政策として非常に大きな問題を含んでいるのではないか。この辺も目下,検討して,これに対して何らかの答え,方向性を出していこうと思っております。
 それから,常用漢字表です。国民全体の用字としてどこまでそれを考えていくかということも,今,漢字がどのように用いられているかという規模の大きい実態調査を踏まえた上で,このことは熟慮していかねばならないと思います。
 そして,固有名詞の問題です。
 固有名詞というのはどこまで許容したらいいのか。既にある地名,それから既にある名字は,必ず歴史があるわけで,その歴史を知ってもらって読めるようになってもらう。そして,その背後にあるその土地の歴史を知ってもらう方がいいので,やさしい地名に変えていくという方向はよくないのではないかということも話題になっております。
 それから,いわゆる下の名前については,理解されやすい名前とオリジナリティを持っ名前と,根源的に反する2つの要求を持つわけですね。スタンダードを示しながら,それぞれ考えていただくということも雑談的にしております。
 読みに関しても,スタンダードがなくていいのか。字は制限しているけれども,読み方については親が勝手につけていいことになっておりますので,この辺の問題もあろうかと思います。これからもう少しはっきりした答えが出せるように進めていきたいと思います。
 以上です。
○岡田委員
 この具体的な拠所が言葉遣いのマニュアルとなって,そして日本中がみんな同じような敬語で,同じようなニュアンスの会話をし始めるとおもしろくなくなる感じがするので,具体性を持った説明,例文を提示するのはいいですけれども,押しつけがましくではなく,それを応用して,もう一つ自分で考えた言葉をみんながしゃべれるような指導をしていただきたいと思います。
○阿刀田会長(国語分科会長)
 少なくとも,敬語を話したいけれどもどう話していいかわからないという人には,やはりこたえていかねばならないだろう。
 当然,総論等で,普通の「である」調で言っても,そのときのイントネーションや表情,態度によって十分敬意があらわせる場合も幾らでもあるわけで,語法だけの問題ではないということ,そして,これはあくまで一つの拠所であって,敬語はここからもっと発展的に考えていただいていいものである,むしろそういうことによって言語生活を豊かにしていくということを総論として,真剣に訴えていきたいと思っています。
 けれども,そこだけを余り訴えても,やはり「5,000円から預からせていただきます」という店員の変な言葉はそう簡単には直らないだろう。やはりスタンダードは示していかねばならないということで,岡田委員のおっしゃる趣旨は理解しているつもりです。
○上原委員
 漢字について,JIS漢字や人名用漢字を含め,国としての一貫した漢字政策が必要であるとお書きになっていて,人名の漢字が出されたばかりだったので話題になったと思いますが,その一貫した漢字政策について話し合う場を用意される予定があるのでしょうか。
○阿刀田会長(国語分科会長)
 小さな場は,あると思います。ただ,JISは通産省,人名漢字は戸籍を扱うところとなっておりまして,依然として一緒にやろうとはなっていないわけです。それは日本の官庁の組織上の問題,歴史上の問題もあります。やはりこれは基本的には国語分科会が,文化庁が扱う問題として統一的に考えていきたいということは主張していますが,実際どう扱ったらよいかということは,次長から説明していただいた方がよろしいのではないでしょうか。
○加茂川文化庁次長
 国語分科会,また,文化審議会としてきちんとイニシアチブをとるべきではないかというお気持ちが明らかになって,事務局も実は同じ考えを持っておることを確認させていただきました。
 このことについては経緯もございますし,それぞれ役所が違った系列で所管されておりますから,文化審議会として,国語分科会としてどうイニシアチブをとるのかということについては少し工夫が必要ですので,これからの審議を踏まえながら検討させていただきたいと思っております。
○阿刀田会長(国語分科会長)
 続いて,著作権分科会について中山副分科会長からお願いいたします。
○中山著作権副分科会長
 著作権分科会におきましては,昨年2月に法律ルールの整備,円滑な流通の促進,国際的課題への対応の3つの分野につきまして,各分野に対応する3つの小委員会を設置し,著作権に関する課題について検討を進めてまいりました。
 資料4の,報告書の概要を御覧いただければと思います。
 まず第1番目は,法制問題小委員会。
 法律ルールの整備につきましては,昨年1月に取りまとめました「著作権法に関する今後の検討課題」に基づき,法制問題小委員会において具体的な検討を行いました。
 まず,権利制限の見直しについてですけれども,特許審査手続,薬事行政,図書館関係,障害者福祉関係,学校教育関係の各論点について,権利者の許諾なしに著作物を利用できるようにすること,いわゆる権利制限につきまして検討を行いました。
 このうち特許審査手続における非特許文献の複製,医薬品の承認制度等において国等へ提出する研究論文等の複製,視覚障害者向けの録音図書のインターネットによる送信,学校などの同一校内における無線LANによる送信などにつきましては,権利制限を認めることが適当であるという結論となりました。
 続いて,私的録音録画補償金の見直しについてですが,著作権法におきましては,家庭内等における私的な複製については権利者の許諾なく行うことができるとされておりますけれども,デジタル方式の録音録画機器の普及に伴い,著作権者等の経済的利益が損なわれるようになったと指摘される状況に対応するために,私的録音録画補償金制度が導入されております。
 この私的録音録画補償金につきましては,ハードディスク内臓型録音機器等の追加指定,汎用機器・記録媒体等の取り扱い,政令による個別指定という方式の各論点につきまして検討を行うとともに,私的録音録画補償金制度の課題の検討もあわせて行いました。
 まず,ハードディスク内臓型録音機器等を補償金の対象として指定すべきかという論点につきましては,賛否をめぐり委員の間で意見が大きく分かれている状況であり,現時点で追加指定を行うことは必ずしも適切ではないと思慮し,今年以降の私的録音録画の検討におきまして,補償金制度について抜本的に検討を行う中で検討すべきであるという結論となりました。
 パソコン等の,いわゆる汎用機器・記録媒体を補償金の対象とすべきかという論点につきましては,録音や録画を行わない購入者からも強制的に,一律に課金をすることになり,制度の対象とすべきではないとする意見が多数挙げられました。
 政令による個別指定方式につきましては,法的安定性,明確性の観点から,現行の方式を維持するべきであるとする意見が多数挙げられました。
 さらに,今回の検討の過程で,補償金制度のあり方についてさまざまな問題点や社会状況の変化の指摘があったことを踏まえまして,私的録音録画についての抜本的な見直しや補償金制度に関し,廃止やその骨組みの見直しや他の措置の導入も視野に入れて,抜本的な検討を迅速に行うべきであると指摘いたしました。
 続いて,デジタル対応,契約・利用,司法救済の各課題につきましては,小委員会の下にそれぞれの課題を担当するワーキングチームを設置し,検討を行いました。
 そのうちデジタル対応に関しましては,携帯電話などの機器を保守・修理する際の一時的な複製については,保守・修理後に複製物を破棄することを条件に,権利制限を認めることが適当であるという結論となりました。
 また,著作権者が不明等の理由により著作物の利用の許諾が得られない場合に,文化庁長官が利用の許諾を与える裁定制度のあり方,現在の裁定制度の廃止や新たな裁定制度の創設につきましては慎重な検討が必要であり,さらに,著作者不明の場合に現行の制度を有効に活用するためには,制度面や手続面での改善を行う必要があるという意見もございました。
 次に,2,契約・流通小委員会ですけれども,契約・流通小委員会におきましては,著作権等管理事業法の見直しや著作権契約の在り方等の課題につきまして,検討を行いました。
 著作権等の集中管理の業務が適正に行われるように緩やかな規制を行う著作権管理等事業法につきましては,施行から3年を経過したため,同法附則第7条の制度の見直し条項に基づき,検討を行いました。検討の結果として,現時点では直ちに法改正すべき事項はありませんが,管理業務の実態をよく調査するとともに,ある程度の期間を経た段階で,改めて制度改正について検討する必要があると指摘いたしました。
 また,文化庁においては,管理事業者への指導・監督や手続の改善等についても適切に対応すべきであると指摘いたしました。
 続いて,著作権契約の在り方等についてですが,コンテンツの流通が不必要に制限されたり,著作者等が不当な契約条項を強いられたりすることのない望ましい契約システムを実現するため,関係者がどのような方向で取り組みを行うべきかについて検討を行いました。
 その結果,当事者間で取り組むべき事項といたしましては,書面による契約の促進,契約当事者間が納得できる契約内容の策定,管理事業による著作権等の集中管理の促進,権利者所在情報の提供,国内外の事例の研究の5点を指摘し,文化庁としてもそれらの取り組みに積極的に支援等を行う必要があるといたしました。
 次に,3,国際小委員会です。
 国際小委員会におきましては,放送条約,フォークロアの保護,海賊版対策,デジタル化に伴う課題の4つの事項について検討を行いました。
 まず,現在,世界知的所有権機関─WIPOにおいて検討が進められております放送機関の保護に関する条約─放送条約への対応の在り方について検討を行いましたが,総論としては,早期採択を目指して努力すべきとの結論を得,各論についても,我が国としての交渉方針の整理を行いました。
 また,民族に伝承された有形・無形の分科表現であるフォークロアの保護に関しましては,当面は,条約ではなく制度を柔軟に選択し,保護制度を包括的に構築することが適当であるといたしました。
 続いて,アジア諸国等との連携の強化及び海賊版対策の在り方につきましては,依然としてアジア諸国等において大量の海賊版が流通している状況であり,引き続き海賊版対策の強化が必要であるとの指摘をいたしました。
 デジタル化に伴う課題については,安全にコンテンツを流通させる技術の標準化や相互運用性の確保については,関係者の自主的な取り組みを尊重する一方,政府といたしましては,各国へ著作権関連条約の比準促進や,主要国との連携の強化等について取り組みを進めることが重要であるとの指摘をいたしました。
 報告書においては,著作権法制やその運用のあり方,著作権管理事業法制や著作権契約のあり方,国際ルールづくりへの参画や海賊版対策のあり方等について,今後の施策を実施していく上での方向性や基本的な考え方をまとめた一方で,私的録音録画補償金の見直しを初めとして,検討を継続すべきと整理された課題につきましては,来期の著作権分科会において引き続き検討を進めることが必要となってまいります。今後も著作権分科会におきましては,社会の変化や情報技術の発達・普及等に対応いたしまして,著作権に対する諸課題について必要な検討を進めてまいりたいと思っております。
○阿刀田会長
 このごろ,本がなくなってしまっています。出版社から本が消えている。そうすると,例えばカルチャーセンターで,ある本を皆さんのテキストとして使おうしてもその本はもうないんですね。本屋さんに問い合わせても,もう実に普通の本がこのごろ在庫から消えている。
 全面コピーすることは違法で,実際いろいろな現場でこういう不自由が起きていますが,どんなふうに考えたらよろしいでしょうか。
○中山著作権副分科会長
 現行法では仕方がないと思います。
 教育に関する規定に触れないようにはできるんですけれども,触れる場合もあるものですから,大学等の教育においても困難を来しているところですけれども,もしそれを何か法律でやるとすれば,絶版のものは特別な法的措置を講じて,お金を払いながらコピーできるような法制をつくらなければいけないんですけれども,現行では,まだそこまで要求する声は余り聞いておりませんし,仮にそれをやるとすれば,かなり抵抗も強いと思われます。
○阿刀田会長
 実際,教育機関はある程度許容されていますけれども,やや私的なものですと,皆さん大分困っていらっしゃるのが現状です。
○岡田委員
 音楽の世界では,コーラスグループが買える楽譜を買わないで,コピーして使っているというのは多々あることでございます。
○阿刀田会長
 買えるものは,やはり買ってくださいと言いたいですよね。
○紋谷委員
 ただいまの件,私的使用の複製という形でやれば,現行法の下である程度,各人が使えるということはございますね。
○阿刀田会長
 これは大変難しい問題があるので大変だなと思っております。
 引き続き,文化財分科会について渡邊分科会長からご報告願います。
○渡邊文化財分科会長
 文化財分科会の審議状況について,ご報告申し上げます。
 平成17年2月18日金曜日に開催しました第43回分科会より,平成18年1月20日金曜日の第54回分科会までに12回の分科会を開催いたしました。このうち京都,奈良で各1回,文化財分科会を開催しております。
 主な答申でございますが,国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定等につきましては53件,国宝・重要文化財(建造物)の指定につきましては19件,登録有形文化財(建造物)の登録等について851件,重要有形民俗文化財の指定について1件,登録有形民俗文化財の登録について3件,重要無形民俗文化財の指定について9件,史跡等の指定等について77件,登録記念物の登録について3件,重要文化的景観の選定について1件,重要伝統的建造物群保存地区の選定について7件,選定保存技術の選定・認定等について2件,記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財の選択について6件を行いました。
 これらの指定,選定につきましては,その都度,文化庁の機関紙あるいは報道等を通じて広報されておりますので,皆様のお手元にもそういう情報が届いていると思っております。
 このほか国宝・重要文化財(美術工芸品)(建造物),史跡等の現状変更の許可等,重要文化財(美術工芸品)の買い取り等につきまして審議しております。また,石見銀山遺跡とその文化的景観の世界遺産推薦について,審議を行っております。
 文化財分科会の審議状況については,以上でございます。
○阿刀田会長
 格別ございませんので,これにて了承ということにさせていただきます。
 引き続いて事務局より,平成18年度文化庁予算について,簡単にご説明をいただきたいと思います。
○会計室長
 文化庁予算案のご説明の前に,政府全体の予算編成の考え方について若干ご説明させていただきます。
 平成18年度の予算編成の基本方針としましては,平成18年度予算が歳出改革の重点強化期間最後の重要な年であることから,従来にも増して聖域なく歳出全般にわたる徹底した見直しを行い,歳出の抑制を行うこととされました。これによって基礎的財政収支の改善を図って,新規国債発行額についても極力抑制することとされたところでございます。
 このような基本的考え方を踏まえまして,人件費などの義務的経費を除く公共投資関係費,裁量的経費ともにマイナス3%までの範囲内に抑制することとされました。その結果,国の一般会計総額は,対前年度マイナス3%の79兆6,000億円余となりまして,8年ぶりの70兆円台,4年ぶりの対前年度マイナスとなりました。また,国の政策的経費であります一般歳出につきましても2年連続のマイナスということで,過去最も厳しい予算編成となったところでございます。
 文化庁予算案につきましては,お手元のカラーの資料の1枚目を御覧いただきたいと存じますが,総額1,006億4,800万円,対前年度9億5,700 万円,0.9%のマイナスとなっております。文化庁予算が対前年度マイナスとなりますのは,平成11年度の予算以来7年ぶりでございます。ただ,一方で,しばしば国際比較で話題となります国家予算に占める文化関係予算のシェアにつきましては,前年度から0.01%上昇して0.13%となっております。
 平成18年度の新たなものとしましては,「日本映画・映像」振興プランの中で,国内の映画祭等で受賞した若手映画作家に35ミリ短編映画を作成,発表する機会を与えることにより,若手映画作家の育成を図る事業を計上しております。
 また,平成18年度,特に充実を図ったものとしましては,明日の日本文化を担う子どもたちが本物の舞台芸術に触れ,日ごろ味わえない感動や刺激を直接体験することにより豊かな感性と創造性をはぐくむとともに,我が国文化を継承・発展させる環境の充実を図るために,感性豊かな文化の担い手育成プランの推進として約55億円を計上しております。
 「日本文化の魅力」発見・発信プランの推進につきましては,19億円を計上して,地域において守り,伝えられてきました伝統文化の継承等に対する支援や,文化力を生かした地域づくりへの支援,また,多様な手段による日本文化の国内外への発信等により,さらなる地域の活性化と国際文化交流を図ることとしております。
 文化財の次世代への継承と国際協力の推進につきましては,345億円を計上しておりますが,特に高松塚古墳壁画につきましては,恒久保存対策検討会で昨年6月に了承されました恒久保存方針に基づきまして,石室を取り出して適切な施設で保存処理を実施するために,対前年度5億円増の7億円を計上しております。
 また,NPOや市民団体が文化財の基本的な考え方や適正な取り扱いについて知識を蓄積して,文化財の中・長期的な管理を自主的に担っていけるような総合支援の仕組みを構築することとしまして,NPO等による文化財活用の推進を新たに計上しております。
 さらに,緊急度の高い文化財の保存・修復に関する国際協力につきまして,平成18年度は,より効果的,効率的な国際協力を推進するための文化財国際協力コンソーシアムの構築を行うこととしております。
 3つ目の柱であります文化芸術振興のための文化拠点の充実につきましては,387億円を計上しております。
 新たな文化拠点の整備につきましては,公共投資関係費が政府全体で4,000億円と大きく削減される中にありまして,施設整備が最終年次となります国立新美術館の平成18年度開館に向けた所要の整備を行うとともに,平城宮跡保存整備として大極殿正殿の復元整備を引き続き推進することとして,126億円を計上しております。
 また,独立行政法人であります国立美術館,国立博物館,文化財研究所,国立国語研究所及び日本芸術文化振興会の業務の財源に充てるため,必要な予算を計上しております。
 以上でございます。
○阿刀田会長
 ただいまの文化庁予算の概要について,ご質問,ご意見,そしてさらに文化審議会全体に対してのご意見などがございましたら,承りたいと思います。
○加茂川文化庁次長
 残念ながら,これから国会でご審議いただく平成18年度予算案につきましては,前年度,すなわち今年度と比べると9億5,700万円減でした。率で申しますと0.9%減というのは,政府全体が3%減の大原則でありましたから,3%減に比べると,1%以下におさまったということで,減が少なくおさまった分だけ文化の重要性というか,文化政策の必要性について財政当局から理解を得られたという理解もしていただけるのではないかと思っています。
 聖域なき歳出の見直しでございましたから,どの省も,どの項目もほとんど△が立つわけですが,文部科学省で申しますと,唯一の例外が科学振興費です。
 この表のそれぞれの項目,色を分けて,3本の大きな柱と各プランの項目が載っておりますけれども,「比較増△減額欄」を御覧いただきますと,やはり文化庁も大体△が立っております。しかし,文化芸術創造プランの推進の[4]はプラス2億3,500万円。ここは全体がマイナスの中でプラスになっているわけです。また,「日本文化の魅力」発見・発信プランで言いますと,地域の文化の発見は若干ですがプラスになっております。全体に厳しい中でも必要なところ,これから力を入れていかなければならないところは,△ではなくてプラスになっている。
 文化の拠点整備につきましても,計画的な施設整備が進んでおりましたもの,例えば国立新美術館,または平城宮跡の関係も計画的に整備が進んできておりますし,プラスの数字が上がっておるわけでございます。
○石井委員
 科学技術については「科学技術創造立国」というモットーがあるわけで,これに対して,「文化芸術立国」とあります。言葉の上では共通な「立国」という文字が使っていますが,片やプラスで片や△です。同じ立国でどうしてこうなったのか。科学技術創造立国と言われているものと文化芸術立国と言われているものの国政上の位置づけ,概念の違いを伺いたい。この「文化芸術立国」という言葉を公式に使って,日本国は,日本国政府はこの立国政策を推進していくものだという位置づけになっているのでしょうか。
○加茂川文化庁次長
 「科学技術創造立国」にしましても「文化芸術立国」にしましても,国会答弁や大臣の所信表明,場合によっては総理の公式な発言の中にも含まれてきておりますので,「○○立国」というのは政府として,公式な言葉遣いとして用いてきておるわけです。
 ただ,同じ立国なのに何が違うのかといいますと,科学技術については科学技術振興基本法がございまして,この法律に基づく財政措置についての仕組みが大きく異なっております。
 科学技術の場合には,実は予算査定上,基本計画に基づきまして,5年の計画的振興を図るプランがございます。1次,最初の5年間は国全体で17兆円,科学技術に投入しようということを明確に財政措置をして,立国を進めてまいりました。2次が24兆円,今度の新しい第3次が25兆円。国として,科学技術は国力の基であるという位置づけのもとに,財源の措置までしながら計画的に施策を進めていくということがはっきりしているわけです。もちろん,法律に根拠があってでございます。
 一方,私どもの法律は,残念ながら,財政について言いますと,関係方面の努力規定にとどまっておりまして,科学技術のような措置ができる法律の仕組みになっていないという違いがございます。
○石井委員
 せめて科学技術と同じような仕組みが法律上できるように,ご努力いただけないものかというのが私の希望でございます。
○加茂川文化庁次長
 ぜひご支援もお願いしたいと思います。
○阿刀田会長
 それでは,最後に次長からごあいさつを賜りたいと思います。
○加茂川文化庁次長
 阿刀田会長をはじめご出席の委員の皆様方におかれましては,それぞれの分科会,部会におかれまして精力的に今期を通じてご審議に参加していただきましたこと,まずもって御礼を申し上げたいと思っております。
 今日のご審議,ご報告,ご説明にもありましたように,まず,青木部会長からご報告のございました文化政策部会におきましては,基本方針に関する評価と今後の課題について,審議を取りまとめていただいたわけでございます。私ども文化庁としましては,この審議のまとめが芸術文化の振興に関する国民のみならず関係者皆様方の注意喚起に役立つことを期待いたしますとともに,これからこの基本方針の見直しを検討することになりますけれども,その基本的な資料として,ぜひ活用してまいりたいと思っております。
 次に,国語分科会につきましては,昨年3月の大臣の諮問を受けて,敬語の具体的な指針及び漢字政策のあり方についてご審議をいただいたわけでございます。やや先行している敬語につきましては,使いやすくてわかりやすい敬語のあり方,その使い方に関しての一定の方向性が示されつつあるのではないかと私どもも受け取っておるところでございます。
 また,漢字に関しましても,常用漢字表の見直しの必要性,あるいは人名,地名等の固有名詞の扱いなどについても整理が進んできておりまして,次期の本格的な審議に向けて,大変ご審議が深まってきているんだと受けとめさせていただいておるところでございます。
 著作権分科会におきましては,各委員会において大変精力的にご審議をいただいたわけでございます。中山先生のお話にもございましたように,著作権法の整備,運用に関する具体的な検討,あるいは著作権等管理事業法の見直し,国際的ルールづくりへの参画等,そのあり方について大変大部な報告書をまとめていただいたわけでございます。
 特に今期の場合には,一般的な関心の高かった私的録音録画補償金制度の見直しという大変大きな課題がございまして,難しい課題について大変熱心に,集中的にご審議をいただいたわけでございます。私どもとしましては,この報告書を受けとめまして,必要な法律改正に向けた準備を含めまして,適切に著作権施策の推進に努めてまいりたいと思っております。
 最後に,文化財分科会についてでございますが,本当に数多くの国宝・重要文化財等の指定または登録など,文化財の保存,活用に関する重要事項について,数多くご審議をいただいたわけでございます。
 特に今期は,先ほど渡邊分科会長のお話にもございましたが,一昨年の文化財保護法の改正を踏まえた第1号の選定がございました。重要文化的景観がそれでございまして,近江八幡の水郷でございますが,またこの指定について,セレモニーを行うなどして,一般の国民の関心を高めていくことについても工夫してまいりたいと思っております。
 以上,大変言葉足らずにまとめさせていただきましたが,こういった大変活発な,また有意義なご審議を今期,皆様にしていただきました。改めてご尽力,ご協力に心から感謝を申し上げたいと思います。
 私ども文化庁としましては,この審議会での審議の成果を十分に踏まえつつ,文化で日本を,地域を元気にしていくという文化施策の充実に努めてまいりたいと思っておりますので,今後ともご指導,ご鞭撻を賜りますように重ねてお願いをし,お礼の言葉とさせていただきます。
 どうもありがとうございました。
○阿刀田会長
 どうもありがとうございました。
 それでは,これにて第40回の文化審議会を閉会といたします。

ページの先頭に移動