第6期文化審議会第1回総会(第41回)議事録

1  日時
平成18年2月17日(金) 10時30分~12時
2  場所
霞ケ関東京會舘 35F エメラルドルーム
3  出席者

(委員)

青木委員,田村委員,富澤委員,上原委員,阿刀田委員,前田委員,青山委員,岡田委員,紋谷委員,中山委員, 野村委員,川村委員,西 委員,森 委員,田端委員,石澤委員

(事務局)

小坂文部科学大臣,河合文化庁長官,加茂川文化庁次長,辰野文化庁審議官,寺脇文化部長,岩橋文化財部長,亀井文化財鑑査官,他

(欠席委員)

尾高委員,市川委員,西原委員,松岡委員
4  議題
  1. (1)会長の選任
  2. (2)文化審議会運営規則等の制定
  3. (3)「文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直し」について
  4. (4)その他
(配付資料)
  1. 第6期文化審議会委員名簿
  2. 文化審議会について
  3. 文化審議会関係法令
  4. 各分科会への委員の分属
  5. 文化審議会運営規則(案)
  6. 文化審議会の議事の公開について(案)
  7. 諮問文
  8. 文部科学大臣諮問理由説明
  9. 文化政策部会の設置について(案)
  10. 文化審議会文化政策部会「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の評価と今後の課題について
    (審議のまとめ)

5 議事

○辰野文化庁審議官
 それでは,ただいまより,文化審議会第41回総会を開催いたします。
<委員,事務局の紹介>
 第6期文化審議会の会長をお選びいただきたいと思います。選任方法につきましては,お手元の資料3の4ページにございます文化審議会令第4条第1項の規定により,委員の皆様の互選により選任することになっておりますが,第5期の文化審議会で会長を務めていただきました阿刀田委員に引き続き会長をお願いいたしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
〇辰野文化庁審議官
 それでは,ご異議ないようでございますので,阿刀田委員を会長として選任することでご承認いただきました。それでは,今後の議事進行は阿刀田会長にお願いいたします。
〇阿刀田会長
 小説家の阿刀田高です。
 皆様方のご協力を切にお願いいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは文化審議会令第4条3項の規定により,会長の代理者を決めておきます。
今回,新たに委員に就任いただきました青木保委員にお願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
〇阿刀田会長
 では,どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは,事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

〇事務局 <配布資料の確認>

〇阿刀田会長
 それでは,事務局より審議会の説明その他お願いいたします。

〇事務局 <資料2,3,4の説明>

〇阿刀田会長 
 そして議事の公開のため,これよりこの会議を公開といたしますので,報道関係者のご入室を,どうぞ。
〇阿刀田会長 
 それでは,きょうの1番のアイテムであります諮問を文部科学大臣よりちょうだいいたしたいと思います。
〇小坂文部科学大臣
 次の事項について,別紙理由を添えて諮問いたします。
 文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて。
 どうぞよろしくお願いいたします。
〇阿刀田会長
 次に,諮問の理由について説明をお願いいたします。
〇小坂文部科学大臣
 まずもって,皆様には,文化審議会の第6期の委員にご委嘱申し上げましたところ,ご就任を賜りましてまことにありがとうございます。深く御礼を申し上げたいと存じます。
 このたび,文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて諮問を申し上げたところでございますが,本諮問は平成13年12月に成立をいたしました文化芸術振興基本法におきまして,文化芸術の振興に関する施策の総合的な推進を図るため,政府として文化芸術の振興に関する基本的な方針を作成することが求められていることを受けたものでございます。この方針には,文化芸術の振興に関する施策の総合的な推進を図るための本的な事項,その他必要な事項について定めることとされておりまして,同法の第7条3項の規定に基づきまして,文部科学大臣が文化審議会の意見を聞いて,その案を作成することとされております。
 文化芸術の振興に関する基本的な方針につきましては,平成14年12月に文化審議会より答申をいただき,政府としても同答申を踏まえまして,閣議決定を行いました。平成15年同予算におきましては,文化庁予算は初めて1,000億を突破したわけでございます。こればかりでなく,これまで文化芸術創造プランによる芸術創造活動への重点的な支援,文化財保護法の改正による文化的景観等の保護対象の拡大や保護手段の多様化,九州国立博物館の開館を初めとする文化拠点の整備など,我が国における文化芸術の振興に関する施策を着実に推進することができたわけでございます。この基本的な方針は,平成14年度からおおむね5年間を見通したものでございますが,諸事情の変化や施策の効果に関する評価を踏まえまして,柔軟かつ適切に見直しを行うこととされております。我が国及び世界の諸情勢は急速に変化をいたしておりまして,文化芸術をめぐります社会情勢も大きな影響を与えております。
 また,さきの文化審議会文化政策部会におきまして,基本的な方針の評価と課題につきましてご審議をいただきまして,基本的な方針の見直しに関する方向性につきまして審議のまとめが公表されたところでもございます。このような観点から,今回,文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて諮問することといたしました。
 次に,今後,ご審議を進めていただくに当たりまして,諮問事項について私の考えるところを申し述べさせていただきたいと存じます。
 第1に,文化芸術は人々に感動や生きる喜びをもたらし,豊かな人生を送る上での大きな力になるものでございます。活力ある社会の実現のためには,経済力と並ぶ車の両輪として,文化力の向上を図ることが極めて重要でございます。文化芸術立国の実現を目指しまして,国が率先して文化芸術の振興を図っていくことが必要であると考えております。また,地方公共団体や民間においても文化芸術活動への支援が活発になる一方,我が国の構造改革,地方分権が進められ,官と民,国と地方公共団体との役割の見直しも求められております。こうした中で,文化芸術の特性や地域における文化芸術の現状を考慮しつつ,文化芸術の振興に国がどのような役割を果たしていくべきかを,再度検討する必要がございます。さらに文化芸術は,日本の魅力を世界に伝えるだけでなく,多様な価値観を有する世界各国の間をつなぐ,かけ橋となるものでございます。今日,国際化と情報化が進む中で,世界の文化の画一化,あるいは固有文化の喪失が懸念されており,国際社会において文化の多様性を保護,促進することが求められております。文化芸術は我が国のアイデンティティの形成に重要な役割を果たしているとともに,我が国の自然や歴史に培われた文化財や伝統文化を初め,映画やアニメーション,あるいはJポップスといわれるような音楽,あるいはファッションなどの優れた新たな文化芸術も世界で高く評価をされ,多くの人々を魅了しております。
 私といたしましては,これらの伝統的な文化や,新たな文化が,我が国の文化芸術の発信と国際交流を通じて世界の人々と相互理解を深め,世界の文化の多様性を促進していくことが,文化芸術立国を目指す我が国にとって緊要な課題である認識をいたしております。
 こうした視点を踏まえまして,各分野の文化芸術活動の推進や,伝統文化の継承,発展,そして,国民が文化芸術を鑑賞し,参加し,創造する機会の充実,各地域における文化芸術の振興,国際文化交流の推進など,文化芸術の一層の振興を図るための施策を総合的に推進していく必要があるわけでございます。
 会長初め委員の皆様方におかれましては,この趣旨をおくみ取りいただきまして,文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しにつきまして,年内の取りまとめをめどに,ご審議くださるようにお願いを申し上げるわけでございます。
〇阿刀田会長
 ありがとうございました。
 文化芸術の振興に対する基本的な方針の見直しという諮問をちょうだいいたしまして,文化政策部会をこの内部に持つことが必要と思いますので,まず,この文化政策部会の設置について皆さんのご承認を得たいと思いますが,いかがでございましょうか。
〇阿刀田会長
 それでは,文化政策部会の設置については,配付資料9にあるとおりでございます。資料3にございますが,文化審議会令第6条第2項に基づき,会長である私がこの委員を指名することになっておりますので,ここで指名させていただきます。
 青木委員,上原委員,岡田委員,尾高委員,川村委員,田村委員,富澤委員,松岡委員の8名を指名いたします。どうぞよろしくお願いいたします。大臣はしばらく,この席におとどまりいただくそうでございますので,どうぞ,大臣に直接訴えたいことなどがございましたら,おっしゃっていただきたいと思います。
〇阿刀田会長
 それでは,事務局から,さらに文化芸術の振興に関する基本的方針について,その評価と今後の課題について,これまでの審議のまとめ,あるいはポイントとなるものなどのご説明,お願いしたいと思います。

〇事務局 <資料10の説明>

〇阿刀田会長
 それでは,この基本方針等をめぐりまして,皆さんの忌憚のないご意見など賜りたいと思います。いかがでしょうか。
〇上原委員
 4ページの10項目め,国立美術館,国立博物館等への市場化テストの導入等は,慎重な議論が必要ということで,今回,大臣以下皆様方のご努力で,とりあえず今のところは避けられたというのは大変うれしいことで,まずお礼を申し上げたいと思います。
 2点目ですが,実は,本日までの3日間,青少年オリンピックセンターで公文協が例年やっておりますアートマネジメントセミナーというのが開催されております。昨日,私はそこに出てまいりましたが,指定管理者制度にかかわる部会が一番盛況でございました。これは,地方自治法の改定による公の施設に対して指定管理者制度が導入されましたが,これは地方に一歩早く市場化テストを導入させたと同じような効果,いい意味でも,悪い意味でも効果を持っております。特に文化施設につきましては,必ずしも市場メカニズムだけではやっていけないものです。自治体文化政策が確立することが大切だとはいうものの,文化芸術振興基本法,あるいは地方分権一括法ができたにもかかわらず,実は,地方自治法という1つの法律の改定によりまして,大変な問題が生じているというのが現状でございます。
 指定管理者制度の問題はいろいろと指摘されておりますが,まず,自治体の文化政策が確立していないという状況である中で,これが行われたということが1点。2点目が,有期限の指定管理者制度が導入された。つまり昨年のまとめでもありましたように長期間に培われるものであるという芸術の性格があるにもかかわらず,期間が限定された指定管理者が文化施設を担っていくという制度になったということが,大きな問題点だと思っております。そういうことも含めて,この指定管理者制度自体,どうあったらいいのかということも議論の対象にしていくべきだと思っております。
 どうぞ,大臣におかれましても,こういう地方の実態をぜひごらんあそばして,よりよい方向で施策を展開されるようによろしくお願い申し上げます。
〇岡田委員
 今,音楽レコードやCD,テープにかかっている再販制度を廃止しようとする動きがございます。国は今,いろいろな分野で規制緩和をすすめていますが,それはそれでいいものと悪いものがあるように思います。音楽業界というのは規制緩和になじむかなじまないかで申しますと,なじまない業界です。音楽業界は文化的な側面と経済的な側面が,背中合わせと申しますか,抱き合わせと申しますか,そのような状況のなかにあります。これが市場経済の波に洗われますと,売れるものしかつくれなくなるんじゃないかという懸念が生じます。我が国には,先ほど大臣も諮問の理由の中でおっしゃったとおり,伝統文化である純邦楽というものがございます。お琴だの,三味線だの,尺八だの,また童謡だの,それらは日本独自の文化として守っていかなければならないものですけど,その分野のCDとか,テープは余りたくさん売れません。
 再販制度が廃止されますと,レコード会社の経済的体力が落ちて,余裕がなくなり,そのような分野のものはつくりたくてもつくれなくなってしまうでしょう。ポップスなんかにしても,売れないもの,売れるものがありますが,売れるものしかつくらなくなるでしょう。文化には光と影がございまして,売れるものがいいものとは限らないわけで,影に回っている売れないものの中にも,ひそかに歌い続けられたり,人の心に染み込んで,長く人の心をなごませてくれているものもたくさんあります。再販制度が廃止になると,本当に求められているよいものが切り捨てられていくということが起きると考えます。なくても生きていけるけれども守らなければならないもの,なくても生きていけるけれどもあった方がいいものを,文化として守り育てていくのが我々の使命だし,国の役割でもあると思います。文化というのは再生産されていくものです。再販制度がなくなり,音楽業界が仕方なく経済性を優先せざるをえないということになりますと,音楽文化の奥の深さや,幅の広さがうしなわれ,売れるものだけが音楽だということになりかねません。文化芸術の振興に水を差してはいけません。ぜひとも再販制度を廃止しないでいただきたいと,切にお願いいたします。よろしくお願いいたします。
〇阿刀田会長
 音楽だけではなくて,本の方にも全く同質のことが起きておりまして,出版にかかわる者としても,どうかご配慮いただきたいと思います。
〇中山委員
 この問題は,公正取引委員会でもやっておりますし,私的財産政略本部でも議論しております。私,両方とも関係しております。
 これはもっと総合的に考えなければいけない問題であって,例えば日本の音楽産業の構造的な問題はどうか,あるいは世界的に見て,音楽CDに対して再販売価格を維持している国がどのくらいあるかとか,いろいろな問題があるわけです。一概に再販売価格を維持すれば,日本の音 楽産業が維持できるというものでもないわけです。これは別に音楽に限らず,あらゆる産業についていえるわけであります。
 確かに昔は,化粧品はじめ諸々のものに再販売価格維持を行ってきたわけですが,それが競争力の低下になるという場合も,もちろんあるわけで,それを廃止してきたわけです。廃止をしたからといって,日本の化粧品メーカーは壊滅状態になったかというと,そんなことはないわけでして,これは非常に難しい。日本だけではなくて,世界的に議論されているところでありまして,なかなか既存の民謡とか何とかがつぶれるからどうこうという意見だけでは決することはできない複雑な問題を持っている。慎重な検討を要すると,私は考えております。
〇阿刀田会長
 これがだんだん深まると大変なことになりますから,一言だけ。
〇岡田委員
 化粧品と一緒にするのは,ちょっといかがなものかと思います。
〇小坂文部科学大臣
 今の上原委員,岡田委員,そして中山委員,それぞれご指摘をいただきましたけれども,インターネットをはじめとしたコンテンツ流通が活発化する時代に,著作権のあり方がどのような形がよいのかということは,まさに,この審議会においても十分なご議論を賜りたいと思いますし,与党の中,あるいは政府における規制改革,それぞれの分野でも議論をさせていただいているところでございます。これはバランスをとっていただきたいという一言に尽きますけれども,日本には山間僻地もございます。そういったところに住んでいる人たちも,等しく文化の機会に接することができるように,文化の光と影というものについての配慮が必要だと思っております。
 一方で,コンテンツ流通の中で,十分なコンテンツが流通するような著作権の枠組みといういうものの改定も必要な分野だと思っております。この辺のバランスをいかにとるかというのは議論をしていただく一番のポイントだと思っております。再販制度を維持するかどうかということについて,直接的な結論は申し上げません。皆さんのこれからの議論の中で,そこを十分にえぐり出していただきたいと,考えておりますが,いずれにいたしましても,1つの制度が改まりますと,市場の方も変わりますし,またそういう中でバランスをとる動きが双方に出てまいります。その辺も見通した中での,1つの結論が出てくればありがたいことだと思っております。
 いずれにしても,文化の振興に制限を設けないで,できるだけ幅広く文化の振興が図られるような,その部分はしっかり守りつつも,また新たな流れに対応した,そういった枠組みをつくっていくということが必要だということで,私も認識をさせていただいておりまして,両方の方の意見を十分にいただきまして検討してまいりたい。私なりの意見を時期が来たら述べさせていただきたいと,このように思っているところでございます。
 では,この辺で失礼いたします。皆さんの十分なご活躍が期待をされるところでございます。
〇阿刀田会長
 それでは,文化政策部会の会長をされていました青木委員から何か少し,今回の諮問その他についてお話を伺いたいんですが。
〇青木副会長
 社会情勢や国際環境,特にIT関係そのほかで文化芸術を取り巻く環境が変わってきているので,その中でどうやっていくかというのが一番大きな問題だと思います。
 特に,いつもご指摘があるんですけれども,いわゆる文化関係に一種のマーケット性,効率性を求めることは重要ではありますが,どこまで規制緩和そのほかでそれをするか,これについては,なかなか標準が決まらないと思いますけれども,いろいろなご意見をいただいて,それをまとめていきたいと思います。
 日本の博物館,美術館は民間化やマーケット性そのほかの可能性も含めて独立法人化はしていますが,従来の博物館,美術館,図書館を利用する方から見ると,非常にサービスが悪い面もあります。東京の中にある博物館,美術館も,すばらしい建物や内容があるのにもかかわらず,アクセスが難しい。一般の勤め人にとって利用の難しい閉館時間の問題もあるので単に効率性の追求ということに対する反対ではだめだと思います。もっと利用しやすい立地空間を創り出すことが求められていると思う。
 もう一つは,文化政策というものが,日本の全体の政策の中できちんと位置づけられてはいないと思います。これは,文化政策をもっときちんと位置づけて,省庁もいろいろなところで文化政策の一翼を担っているところが多いわけですから,それを民間との協力において徹底させる,文化政策の重要性ということを社会に訴えていく必要があるのではないかと感じます。
〇阿刀田会長
 文化芸術の振興は,文化政策に分かれているような気がして,漢字の問題だってどうするかというのは,世の中の人はほとんど,国語分科会が担当しているのだろうと思っていますが,人の名前に関しては,全く関知しない戸籍の部門で扱われたり,IT産業に関しては,経済産業省の方でやっておりまして,これも国語分科会とは全く関係のないところで,どんどん進んでいく。非常に小さな部分ですけれども,きっと,いろいろな形で力が分散しているのだろうと。もちろんそれは歴史のあることで,そう簡単に,ただ統轄すればいいという問題ではないと思うんですが,文化政策という視点でそういうことが注目されていけばよいのかなと,大臣の諮問を,今,受け取ったとろでございます。
〇青木副会長
 文化政策というのは,一方で20世紀の世界において非常に悪いイメージがあるんですね。この間も先輩の大先生と話していたとき「文化政策」と言いましたら,「それはナチスのことか」などと言われました。文化と政治の関係ヒトラーやゲッペルスの「文化利用・操作」のことが例として持ち出されるのだが,これは実に不幸なことでした。これは「文化政策」全体の問題としてみれば全くの偏見で,例えばフランスは文化政策が非常に充実していますが,19世紀後半の普仏戦争にフランスが敗れて,武力ではドイツにかなわない。フランスは「文化力」を使っていこうというところが,文化国家として今日の隆盛を呼んだ発端なんですね。そういう意味では日本の東アジアにおける位置などを考えますと,文化政策というものを非常に重要に位置づけて,文化政策は経済政策と同じぐらい重要な意味があるということを,世間に訴えていきたいと思います。平和と繁栄のための文化政策の充実です。
〇田端委員
 今回の基本方針のあり方の中で,3番目に「長期的な取組こそ重要な文化芸術」とありますが,今まで長年,保存されてきたものが,ある一瞬のことでなくなってしまうというようなこともございますので,これは,文化芸術だけではなくて,長年培われてきた,守られてきた文化財についても等しく言えることではないかと思います。
 活用だけではなくて,それをどのように継承して継承していくかという言葉も必要ではないかと思うわけです。
 もう一つ,今も指定管理者の問題が出ていましたけれども,博物館や美術館は,経済的な効率は必要でしょうけれども,その分野の専門的な知識を持った方が運営を担当していくということこそ,文化芸術の今後の発展のためには必要だと思います。そういう専門の集団と一般の方々が,それを鑑賞するわけですが,その間を何とかうまく文化政策としてつなぐ方策を考えていけないものだろうか。1つヒントになりますのは,兵庫県でヘリテージマネジャーを養成していますが,一般の方々に講習を続けていただいて,資格をとってもらうという方策です。そういう人たちが一般の鑑賞者と専門の集団との間をつなぐような形で,日常的に活動をしてもらうという形もあると思います。また,4番目の次世代の文化芸術を継承する子供たちのためにという点では,学校教育の場に,文化財に関する問題だとか,伝統芸能を観賞するとか,いろいろな形で地域の文化財,あるいは文化に親しんでいくという,そういう機会をもっともっとたくさん与えないと,言葉で唱えていただけでは,なかなかこれはできない問題なので,そのあたりのことをこれから文化政策部会でもお考えいただければと思っております。
〇川村委員
 指定管理者制度というのは本当に私も非常に大きな問題だと思う。私の関係をしております県でも,指定管理者制度が自治法の改正で導入されて,老人ホームと運動場と公共のホールが一緒くたで指定管理に出されます。しかも5年間でやれ。すべて競争でやる話になっているわけです。
 私どもから見ると,文化政策の分野での,県レベル,市町村レベル,全く連環性がない。また,それが国と連環しているのか。これはまた,していない。私の関係しております県立のホールで,そういう活動を展開するときに,県の文化政策というのは一体どうなっているんだ,と聞いても何も答えが返ってこないわけです。我々が優れた舞台を提供しようと思うと,援助が不可欠で,そのために文化庁では拠点形成事業という事業をおやりになっている。これは国の文化政策そのものですが,では,県や市町村での事業とどう絡むか,はっきりしない。国の文化政策というのはもちろん大切であるが,この地方分権の時代,自治体をそこでどう位置づけて考えていくのかということは,ぜひ今度の部会でもご審議いただければありがたいということでございます。それが1点。それから,今度のまとめの17ページで,今の文化財の関係ですけれども,文化財を支える基本的な,伝統的な技術とか,修復材料の確保という点に言及していただいたのは大変ありがたいことで,特に有形文化財の,今,おっしゃった長期的な保存,継承というためには,それを支える技術,材料がなければ,これはどうにもならないわけです。
 ただ,こういう議論をされるときに,修復材料の確保等による基盤となる部分への支援ということでありますが,この「基盤となる部分」というのは,実はまさに経済活動そのものであって,平城京の大極殿の復元のときに,桧の柱を何本用意するのかという,その桧の柱の確保というのは,すべてそれは経済活動で行われているわけです。だから,保存技術団体,技術者だって仕事がなければ食っていけないわけですし,仕事があって初めて彼らの技術は保存されていくわけであって,修復材料の保存,確保のための長期的な方策ということは言われているのだが,具体の姿としては全く見えないし,いわんや保存技術団体の技能者の向上のための研修会と,研修会を幾らやったって仕事がなければどうしようもないんです。基盤技術の部分を,あるいはその材料の部分をどういう形で実効性のあるものにするのかということについて,これからご審議いただければありがたいと思っております。
〇阿刀田会長
 大変なことだなと思って承っておりました。
〇田村委員
 過日,愕然とした事がございました。中央教育審議会の生涯学習に関する報告書の中に,文化政策とか,文化振興についての記述がないのです。審議の中では多分あったのだろうとは思いますが,報告書の中にはありません。その上,美術館,図書館についてその役割が言及されていますのに,劇場,コンサートホールなどの文化施設についてはその専門性に触れる事もなく,「公民館法」に基づく「公民館」の中に括られています。「文化芸術振興基本法」が出来,それに基づく「基本方針」が出来て5年経っているのに,「物の豊かさ」から「心の豊かさ」のために,文化振興が大切と言われてきたのに,一体でどうなっているのかというのが,正直なところでございます。足元から,もう少し,文化の大切さを伝える努力をしなくてはいけないのではないかと思います。
 「公民館」という言葉では「文化政策」「文化振興」には結びつかず,「集会所」としか捉えられないのが現実だと思います。図書館,美術館,博物館,公民館は「社会教育施設」であって「文化施設」とは考えない,劇場,コンサートホールなどの「文化施設」を,そもそも「文化施設」をどう捉えるかということも含めて考え,広げて行く努力をしないと,理解は広まって行かないと思います。
○前田委員
 独立法人化の方の研究所の評価の委員会に出ておりまして,その中で感じますのは,自然科学系の研究所の評価と,文化系の研究所の評価とが同じ基準で効率化を考えようということがありまして,文化系の研究所の方の評価が,どうも不利になるように,私などには感じる。文化系の,例えば美術館でこういうふうなことをやってどうなったかという効果の評価というのは非常に難しい。この辺のところの,自然系と文化系と評価の考え方が違うことは確かなので,それを何とか考えていく必要があるのではないか。例えば,「文化力」なんていう場合に,これは主に人文系の方の文化が中心になるように思うんですけれども,そのあたりのところも考えていただければということで,ちょっと問題提起させていただきます。
〇森委員
 文化財文科会では,登録文化財というのが7年ぐらい前からできまして,上から業者が指定していくのではなくて,住民が身近な文化財を守ってレジスター,登録していこうというので,もう5,500件を超えるような登録が出てきて,田端先生がおっしゃったように,今,ヘリテージマネジャーとか,文化財ボランティアとか,そういう人たちが地域で地域の文化財を守って活躍し始めて,大変古臭いとか,難しいといった文化財から,身近な大事な文化の拠点に変わりつつあって,活用もしているわけですけれども,文化財の方では,さっきこれにも出ております文化的景観,あるいは生活文化の面にも,どんどん文化財の範囲が広がっておりまして,それはとてもいいことだと思います。去年,半年がかりで,地域の職人さんをずうっと訪ねてお話を聞いてきたんですけれども,どこでも木彫とか,素晴らしい技術,ヤスリとか,桐箪笥とか,ブラシとか,いろいろな技術を持っていらっしゃる方のところをお訪ねしても,大体皆さん後継者がない。あとは,私で終わりですという方が多いんですが,こういう職人さんの技術なんかも,本当に世界に誇れる,海外の人が見てびっくりするような高度な技術,一方でインターネットの方にどんどん流れていますけれども,そういう日本人が持っていた高度な技術を,文化政策の中で保全と,どうしたら経済で回っていくのかを考えていただけたら,と思っております。
〇阿刀田会長
 諸外国を歩いておりまして,職人のまちというんですか,豊かなんでよね。職人が息づいているまちというのは,何かまちそのものが大らかで豊かで,皆さんが楽しそうに,幸福そうに生きていて,首都といわれるギスギスした戦いをやっているようなまちとは全然別な,懐の深さみたいなものを感じて,日本には,たしか,ああいうものも随分あったはずだなと。そういうところが,むしろ,少し効果があらわれているのか,住民も若い人たちも,何もいい大学ばかり出てエリートになるだけが人生の幸福ではないなということが,改めてこのごろずうっと浸透してきているのかな,なんていうことも感じたりしております。
〇中山委員
 岡田委員のおっしゃった古典芸能等々の保護,育成,これは私も極めて重要だと思っております。再販売価格維持行為は特定のものをターゲットとして保護するという機能はないわけで,これを行うと一番儲けるのは一番売れているレコードです。したがって,競争法,独禁法的なもので伝統芸術等保護するのではなくて,やるべきはこの審議会でどういう古典芸能を,どう保護,育成していくかということ。古典芸能とか何とかがなくなってもいいとか,そういう趣旨ではもちろんないわけです。
〇青木副会長
 文化審議会において文化政策の重要性を,国のレベルから,まずきちんと構築していただくことがいいと思います。ただ,文化政策というと,文化の創造に国が関与するような,あるいは芸術や表現の自由を干渉するように受け取られるところがあるんですね。今日の世界においての日本の文化を世界にアピールするためも含めて文化政策を立てていければ,経済と文化の両輪で,まさに国が発展していくのではないかと思います。例外はあるにしても一般に文化政策に対してきちんとした教育も研究もやっていないし,社会的なアピールもやっていないし,それから担当のいろいろな人たちが,文化政策の重要性を認識していない傾向が見られますね。国際社会の中でも注視されているというような視点も織り込みながらやっていただきたいなと思います。
〇阿刀田会長
 戦争時代,そしてその後の東西対立,いろいろな弾圧時代を,それぞれの国が,それぞれの形で受けております。そこで国際ペンがいろいろ活躍したという歴史もあるために,ヨーロッパでは相当の信頼のある団体でもあるわけですが,ここ数年,いろいろな形で日本ペンの代表として接点を持ってきて,痛切に感じているのは,アメリカの国際文化に対する,独特の考え方,それが本質的にどこから出ているのか,はっきりわからないんですが,アメリカは武力,経済力,政治力,世界の第一であるということは,アメリカ人もそう思っているだろうし,そうだろうなと思わざるを得ないところがあるんですが,それだけでは世界で尊敬され,そして,いろいろなリーダーシップをとっていくことは,どうもできない。それで,少し文化力というものを世界に発信していこうと。
 文化の力ということだったら,日本は少なくともアメリカには負けないのではないかなという,歴史においても持っている,精巧なユニークな文化においても,絶対負けないと思うんですけれども,どうも,このごろアメリカにあおられっ放しで,日本は21世紀に向かって発信すべきことがあるんじゃないかなと痛切に感じております。
〇上原委員
 2点あります。1つは川村委員がおっしゃった自治体文化政策の重要性ということです。それを文化審議会で立ち入るのは,なかなか難しいと思いますが,例えば地方自治法をどうするかとか,図書館法や,博物館法を大事にするといった法制度というインフラは,少なくとも国が整備するものであろうと思います。それが自治体文化政策を支えるものと考えます。その辺については,きちんとした形でやっていっていただきたいと思います。国が政策としてやる。流れの中で規制緩和とか,民間の力をということでやる流れで仕方がないと妥協した政策になってほしくありません。文化審議会ではこの点については審議できることではないかと思います。 
 2点目ですが,先ほど青木部会長がおっしゃった美術館や,博物館や,図書館のサービスをよくするために民間に,というのであれば,それは違ったことだと思うんです。基本的に何をするべきところなのか,もし,本当にサービスが悪いとするならば,どの点をどういうふうに改善すればいいのかという視点での議論が必要であって,悪いから民間で指定管理者だとは,すぐにはつながらないはずではないかと思います。
〇富澤委員
 文化を大事にしなければ,日本は活力が出ないんだということは言われるわけで,そのことは非常に私もうれしいし,頼もしく思っています。一方で,現実には,基本法ができて5年が経過しようとしていますけれども,我が国の文化の予算というのは1,000億。全体から見ると1%にも足りないわけです。文化予算は削られる一方で,科学予算はふえているわけですから,日本は科学立国ではあっても,文化立国ではないのかと,こういうことにもなるわけで,文化芸術立国をいうからには,文化芸術政策の重要性を認識すると同時に,ボリュームも必要なんですね。
 戦前の日本は経済力と軍事力の二つ,これを車の両輪にして世界に認められてきた。戦後はそれがなくて,経済力だけは一流,あとはみんな三流と,こういうことですから,経済力プラス・アルファというものを持たなければいかん。それは多分,軍事力ではなくて文化でしょう。これまでの5年間は,そういう文化政策の重要性というのを言ってきたわけで,せっかく,きょう,小坂大臣から諮問をいただいたわけですから,これからは,そういった点を現実のものにするような議論をしていくいいチャンスかなと考えています。
〇西委員
 指定されてもいなくて,あちこちに幾らでもある文化,あるいは文化財が,どうやって今後残っていくかということに非常に関心を持っておりまして,非常に重要だなと思うのは,日本の文化を支えていくのは,高尚なる委員会はもちろん大事だけれども,まちの中の一人ひとりの人,「文化」なんていうことを口にもしない人たちが関心を持って動けるように,文化庁も国も動いていただくと,全体がレベルアップしていくいうことを痛感しています。例えば,実際に文化を守り,文化財を守りということをやっているのはどういう人たちかというと,それこそ泥まみれになって,何も報酬もないのに,何とかしたいということで動いている人たち,そういう人たちの力で,実は日本の文化は支えられているんだということを痛感するわけです。ところが,そういう人たちに光が当たらないんですね。影のところへどうやって光を当てていくかということを常に我々は考えていかなければいけないんだ,ということを考えております。
〇前田委員
 経済力や,それから工業力とか,そういったものはかなり数値で埋め合わせが出るんですね。とろが文化力というのは,どうも,スローガンはみんな賛成してくださるんですけれども,お金の問題になると,はっきりとした形で出てこない。文化力をはかる目安みたいなものが何かできないかという,夢のようなことを考えていますが,例えば,世界のいろいろな国に,日本の文化というものが,前に比べて,これだけ広がっているんだとか,これだけ受け入れられているんだとか,これだけ高く評価されているというふうなことの目安を考えることも必要なのではないか,感想になりますが,申し上げます。
〇青木副会長 
 前田委員のおっしゃること,全く賛成なんです。最近,私が行きたいと思っているのは,ニューヨークの近代美術館が衣がえして,評判になっていますよね。しかも,日本のデザイナーが新しい設計をしたんですね。ああいう話題が全然日本から出てこないですよ。日本の博物館で,そういう世界やアジアで評判になるような話題が出てこない。近代美術館が衣がえして,何か新しいことをやっているとなると,世界からみんな行きたがるんですね。そういう話題を片方でつくらないといけないなとも思いますよ。
〇阿刀田会長
 もう時間も参りましたので,それぞれの部会,それから分科会で,なお活発なご審議が交わされることを期待して,ここで河合長官よりごあいさつをどうぞ。
〇河合文化庁長官
 本日は本審議会に対しまして,文化芸術の振興に関する基本的な方針について大臣の諮問をさせていただきました。この基本方針は,我が国の文化芸術振興施策の根幹をなすものであります。文化庁では,この基本方針を踏まえまして,さまざまな施策を推進してまいりましたが,社会,経済及び文化芸術の現状を踏まえて,これを見直し,我が国の文化芸術を一層振興してまいりたいと考えております。今後,文化政策部会においてご審議いただくことになりますが,委員の皆様にもご指導を賜りたいと考えておりますので,どうかよろしくお願いいたします。
 また,基本方針の見直し以外におきましても,著作権分科会には著作権に関するさまざまな課題についてご審議いただくことになりますし,国語分科会では,昨年3月の大臣の諮問,敬語の具体的な方針及び漢字政策のあり方について審議していただきます。あるいは文化財分科会におきましては,国宝,重要文化財などの指定,登録など,文化財の保存・活用に関して引き続きご審議をお願いいたします。保存・活用だけではないというご意見もありまして,そういうことも話し合っていただきたいと思いますが。
 文化庁としましては,この審議会におけるご議論を十分に踏まえて,文化で日本を元気にするべく,引き続き文化芸術の振興を図ってまいりたいと考えておりますので,委員の皆様におかれましては,今後とも忌憚のない活発なご議論をいただきますように,お願い申し上げます。
 本日も,お聞きしまして,一つ一つ非常に意味のあることを言ってくださったと思いますので,我々もそれを参考に考えさせていただきたいと思っております。
〇阿刀田会長
 それでは,これをもちまして,きょうの審議会を終了いたします。

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