第6期文化審議会第2回総会(第42回)議事録

1  日時
平成19年2月2日(金) 10時30分~12時
2  場所
東京會館 11階 ゴールドルーム
3  出席者

(委員)

青木委員,青山委員,阿刀田委員, 石澤委員,岡田委員,田村委員,富澤委員,中山委員,西委員,野村委員,前田委員,松岡委員,森委員,紋谷委員

(事務局)

池坊文部科学副大臣,近藤文化庁長官,高塩文化庁次長,吉田文化庁審議官,尾山文化部長,土屋文化財部長,竹下政策課長 他

(欠席委員)

市川委員,上原委員,尾高委員,川村委員,田端委員,西原委員
4  議題
  1. (1)文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて(答申案)
  2. (2)敬語の指針(答申案)
  3. (3)各分科会等の報告等について
  4. (4)その他

5 議事

○阿刀田会長
 ただいまより文化審議会第42回総会を開会いたします。
 本日は,ご多忙の中,そして寒さの厳しい中,お集まりいただきまして,本当にありがとうございます。
 本日は,池坊文部科学副大臣にご出席いただいておりますので,冒頭にごあいさつをいただきたいと思います。
○池坊文部科学副大臣
 皆様,おはようございます。文部科学副大臣の池坊保子でございます。皆様方には,阿刀田会長をはじめとして大所高所から文化行政に卓越したご意見をいただき,ご審議を賜っておりますことを,心より御礼申し上げます。
 副大臣になりまして,再び文化行政に携わることができるということで嬉しく思っております。
 21世紀に入りグローバリゼーションの進展や核家族化,そして,地域の連帯の希薄化,さまざまな負の部分は,昨年,いじめによる自殺等々がございましたように,子どもの上にも,また,ニートあるいは高齢者の方々にも影を落としているのではないかと思います。そういう中にあって,文化芸術は人と人の心を豊かにするだけでなく地域社会の希薄化を埋めるものです。また,“ビジット・ジャパン”と言われておりますが,文化芸術のないところには各国の人も来てはくれません。「美しい国,日本」をつくっていくために,文化芸術の果たす役割は大きいのではないかと思っております。
 どうぞこれからも私たち文化行政に限りないご支援をいただけますよう,心から願い,私の開会のあいさつにさせていただきます。ありがとうございます。
○阿刀田会長
 副大臣,どうもありがとうございました。
 それでは,本日の議題に示してございます文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直し,敬語の指針の2つの答申案をご審議いただき,確定した上で副大臣に提出する運びとなっております。その後で,各分科会の1年間の討議の模様についてご報告いただき,了承するという段取りになっておりますので,よろしくお願いいたします。
 それでは,配付資料の確認を事務局からお願いいたします。

○事務局 <配布資料の確認>

○阿刀田会長
 まず文化政策部会でご審議いただきました文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについての答申案を,青木文化政策部会長よりご説明をお願いしたいと思います。
○青木副会長
 それでは,文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについての答申案に関しましてご説明申し上げます。
 まず,経緯について簡単にご紹介いたします。第1次の基本方針は,平成13年12月に制定されました「文化芸術振興基本法」に基づきまして,5年間を見通した予定で平成14年12月に作成されたものでございます。この後の情勢の変化等を踏まえまして,昨年2月に文部科学大臣から文化審議会へ基本方針の見直しに関しまして諮問がなされました。これを受けまして,これまで文化政策部会において審議を行いました。
 14回の審議に加え,文化政策部会の有志委員でつくりました8回にわたる作成部会において論点整理その他を事務局と行ってまいりました。また,有識者の皆様からのヒアリングを行ったほか,文化芸術関係団体からの書面による意見聴取を行いました。そして,長崎,神奈川,奈良において,基本方針見直しについての広聴会を開きまして,直接,国民の皆様からご意見をいただきました。
 昨年7月末には中間まとめを公表して,広く国民の皆様からの意見を募集し,その後,この意見募集の結果を踏まえながら,文化政策部会において審議を重ねました。そして,1月16日の政策部会において基本方針見直しの答申案の取りまとめをした次第でございます。委員の皆様のお名前その他は,お配りしております答申案の最後に載っております。
 さて,今回の答申案の要点について簡単にご説明申し上げます。
 答申案は2つに分かれておりまして,第1が総論で,第2が各論でございます。第1の総論で文化芸術の振興の基本的方向を示し,第2の各論で文化芸術の振興に関する基本的施策を定めております。
 次に,第1「文化芸術の振興の基本的方向」の「文化芸術の振興の意義」においては,文化力が国の力であること,また,文化芸術と経済は密接に関連していることを,文化芸術の振興の今日的意義として掲げております。国として文化芸術立国を目指すことを明記しております。
 次に,「文化芸術の振興に当たっての基本的視点」には4ページに3点の基本的視点を明示しております。
 第1は,文化力を高め,活力ある社会を実現するという観点から,伝統文化から現代文化まで含めまして,文化力の時代を拓くことを示しました。
 第2点は,地域文化の豊かさが日本文化の魅力を高めるという観点から,文化力で地域から日本を元気にするということを示しております。
 第3点は,社会全体で文化芸術の振興を図るという観点から,国,地方,民間が相互に連携して文化芸術を支えるということを主張しております。
 以上の3点が基本的な視点でございます。
 次に6ページをご覧ください。今回の答申案では6点にわたって重点的に取り組むべき事項を掲げました。今後,文化芸術の振興に当たって重点的に取り組む事項としております。
 まず第1点は,「日本の文化芸術の継承,発展,創造を担う人材の育成」,第2点で「日本文化の発信及び国際文化交流の推進」,第3点で「文化芸術活動への戦略的支援」,第4点に「地域文化の振興」,第5点として「子どもの文化芸術活動の充実」,第6点では「文化財の保存及び活用の充実」。これらを重点的に取り組むべきであると掲げました。
 簡単に個々について申し上げますと,「日本の文化芸術の継承,発展,創造を担う人材の育成」におきましては,専門的人材の計画的・系統的な育成,特にアートマネジメント担当者や舞台技術者などの文化芸術を支える人材の育成が必要であるとしております。また,無形文化財等の継承者の養成や,文化ボランティア活動を活発にするための環境整備も必要であるとしております。
 次に,7ページ,「日本文化の発信及び国際文化交流の推進」におきましては,今日,「ジャパン・クール」といった言葉でも注目を集めておりますメディア芸術などの文化芸術の国際的な拠点形成や,文化財保護の国際協力の推進が必要であるとしております。文化芸術の振興が国際平和への道を拓くといった観点も入れて,世界の平和や繁栄にも貢献するという意味で外交的側面も有するという観点も含めております。
 8ページになりますが,「文化芸術への戦略的支援」においては,水準の高い活動への重点的支援と,地域性などにも配慮した幅広く多様な支援のバランスを図りまして,より効果的で戦略的な支援が重要であるということを言っております。
 同じく8ページ,「地域文化の振興」では,居住する地域にかかわらず等しく文化芸術を鑑賞・参加が可能となるよう,拠点づくりなどの活動を支援することが必要であるとしております。
 9ページ,「子どもの文化芸術活動の充実」では,子どもの豊かな心や感性,創造性をはぐくむために,子どもたちが身近に伝統文化や現代の文化芸術に触れる機会を確保することが必要であるとしております。
 同じく9ページの「文化財の保存及び活用の充実」では,文化財の実効性ある保存・活用の充実や,ユネスコ世界遺産の推薦,登録を推進することが重要であるとしております。
 以上が重点的に取り組む事項として,今回,答申案に明記いたしました6点でございます。
 また,10ページにおきましては,(2)の配慮事項といたしまして,芸術家等の地位向上のための条件整備と,国民の意見の反映等を掲げております。
 以上が総論,第1の概要でございます。
 12ページからは各論でございます。第2,文化芸術の振興に関する基本的施策におきましては,総論を踏まえまして,また,基本法の条文にのっとりまして,各分野において全体で107の基本的な施策を新たな観点から記述しております。詳細につきましてはここでは割愛させていただきたいと存じます。
 以上,答申案の要点をご説明申し上げました。
○阿刀田会長
 ありがとうございました。
 ただいまの内容に関しまして,ご質問,ご意見ございましたら,承りたいと思います。
 ご質問,ご意見がないようであれば,今後,文言に関することで何かありましたら事務局あてにご連絡いただくといたしまして,この審議会においてこの答申案が承認されたということにいたしたいと思いますが,よろしいでしょうか。

(「異議なし」)

○阿刀田会長
 それでは,この答申案を承認いたします。
 次に,敬語の指針の答申でございます。私が国語分科会の会長を務めておりますので説明申し上げます。
 一昨年の3月に文部科学大臣から「敬語に関する具体的な指針を作成について」という諮問を受け,それ以来,国語分科会の中に敬語小委員会を設け,さらにその下にワーキンググループをつくりまして,大小50回を超える会議を重ねました。11月に答申案をまとめ,この報告案にそってパブリックコメント等を受け,修正を加えて今日の答申となりました。
 敬語が必要だと感じているけれども,現実の運用に際しては困難を感じている人たちのための指針を示すようにということであったわけです。
 敬語の指針(案)は,かなり分厚いですし,易しくもないのですが,これは日本語がそういう言語であるということ,日本の敬語が難しいと申し上げるよりほかありません。
 第3章を見ていただきますと,36の具体的な設問があります。敬語について起こりうる問題点を36にまとめて出題し,回答するという形をとっております。しかも,ほとんどのところに解説を付した構成になっております。
 さらに引きやすいように索引を後ろにつけまして,できるだけやさしいものになるよう努力いたしました。
 第1章においては,敬語についての考え方,敬語はなぜ必要なのか,相互尊重の精神,円滑なコミュニケーション,あるいは,自己表現の手段として敬語が現代においてどういう意味を持つかということを述べました。
 第2章は,それを受けて敬語の仕組みを論述いたしました。ここで特徴的なことは,従来の尊敬語,謙譲語,丁寧語の3分類には不適切なところがあり,敬語を考える上で,特に外国人に日本語を教えるには非常に難しいので5分類が適切であろうという意見が強く出ました。それなら5分類を提示した方がよいのではないかということで踏み切ったというわけです。
 ただし,この5分類は従来の3分類と全く別な概念を持ち込んだものではなくて,3分類をさらに正確に考えれば5分類になるということです。ですから,例えば初等教育の段階では3分類を提示しておいて,追って5分類ということを考えればよいのではないか。分科会としての答申は3が5になったというところが重要なわけではございません。
 実際,ほとんどの方は家庭,学校,社会の中で何となく耳に入れ,敬語に熟達してきたわけであって,日常の生活の中で3分類を意識することは多くないと思います。学問的に考えるとこのように示すことができるというのがこの分類です。
 敬語というものは,自分と相手をどういう関係としてとらえるかということにかかっております。あえて申し上げれば,最終的には自己責任の問題です。それぞれの人が自分の判断によって考えねばならない部分を持っておりますし,絶対にこのように敬語を使うべきだということを示すものではありません。あくまでも敬語を使いたいと思っているけれども,うまく使えずに困っている方々に,大体のよりどころを示したというのが今回の答申です。
 この後いろいろな意見を受けて添削がなされて,日本の敬語,ひいては日本語がよい方向に向かってくれることを願って答申案といたしました。
 何かご意見,ご質問があったらお受けいたしますが,いかがでしょうか。
 それでは,文化審議会といたしまして,この答申案を承認するということでよろしゅうございましょうか。

(「異議なし」)

○阿刀田会長
 では,これで敬語の指針を承認ということにいたします。
 ありがとうございました。
 この2つの答申はどちらも内容は相当に深いものでして,この2つを取りまとめるまでに随分いろいろな方々のお知恵を拝借し,精力的な討議を重ねていただき,さらにパブリックコメント等によって多くの意見を集めてここに答申となったことを大変喜ばしいことだと考えております。それぞれの委員会の委員の方々に厚く御礼を申し上げます。今後これらがさらに幾つかの討議を経て,文化政策に明確に反映されることを強く願っております。
 それでは,副大臣に2つの答申をお渡しいたします。
○池坊文部科学副大臣
 ありがとうございました。
 阿刀田会長から,「文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて」の答申及び「敬語の指針」の答申をいただきました。委員の皆様方には,長時間のご審議をいただきまして,心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
 「文化芸術の振興に関する基本的な方針」は,我が国の文化芸術振興の根幹をなすものでございます。私たち文部科学省は,本答申を踏まえ文化芸術立国の実現に向けて,より一層戦略的にさまざまな文化芸術の振興を図っていかなければいけないと思っております。今まで欠けていたのがこの戦略的な部分だったのではないかと思っておりますので,これからはしっかりと振興に努めてまいりたいと思います。
 また,「敬語の指針」は,社会のさまざまな分野での敬語の使い方が混乱いたしておりまして,私も大変関心深く,これを使わせていただきたいと思っております。
 阿刀田会長がおっしゃいましたように,敬語というのは家庭教育とか,地域,学校,それから社会のいろいろな中,特にテレビの影響があるのではないでしょうか。マスコミ関係の方々,影響力の大きいテレビ関係の方々がしっかりとこれを読んでいただいて,きちんとした敬語を使っていただけたならば,子どもたちもそれを見習っていくのではないかと期待するところ大でございます。
 委員の皆様方,本当にありがとうございました。
○阿刀田会長
 どうもありがとうございました。
 ここからは各部会がこの1年間どういうことをやってきたのかということを,それぞれから報告していただきます。
 まず初めに,国語分科会の審議状況を,これも私から報告させていただきます。
 2年前に,ただいまの「敬語の指針」と「総合的な漢字政策の在り方」についての諮問を受けまして,国語分科会としては,敬語小委員会と漢字小委員会の2つをつくりました。
 常用漢字表ができてからかなりの年月がたっておりますし,社会情勢の変化はいつでもあることなので,その中で漢字をどう考えていったらよいか,いろいろな調査の裏付けが必要ですし,結構難渋しているというのが実情です。
 現在のところは「分かる」「読める」「書ける」の3つをセットにして考えたとき,はじめて漢字を習得するということにつながるのであって,そこをあまり簡単に譲って,分かって読めればそれでいいというところに立ってしまうと,日本の文化的伝統まで乱してしまうのではないかという問題もあるので目下議論しているところです。
 今度,人名漢字を中心とする固有名詞をどうしていったらいいのかというのも大きな問題です。
 今後の課題として,読み方,あるいは人名について,特異なものについては望ましくないというスタンダードは出してもいいのではないかということを含めて議論をしているところです。
 これも「敬語の指針」に負けないくらい立派な答申が,1年後くらいにはこの審議会に提出できるものと考えております。
 以上,国語分科会は敬語,漢字の2つをやってまいりました。
○青木副会長
 日本語にとって漢字は不可欠で重要なものなのか,例えば,漢字文化圏の周辺部のベトナム,韓国においては漢字は使いません。ベトナムにおいてはアルファベット,韓国はハングルです。私は漢字は必要だと思っていますが。
○阿刀田会長
 基本的に日本人の言語生活を考えるときに,漢字がないということは絶対あり得ない,これは実用の上でも文化の伝承という意味でも,漢字のない日本語というのは考えられません。むしろ漢字と平仮名を中心とする仮名を持っている言語のすばらしさが,改めて確認されるような雰囲気がありました。漢字をなくしたらどうかということはほとんど議題にならなかったと思います。
 韓国では歴史など古いものを調べようとすると,漢字を知らないと学問ができないというところもあるので,改めて漢字を見直しているという話も聞きます。
 漢字小委員会の主査をやっていただいた前田さん,何か補足ございますか。
○前田委員
 この問題はここ何年にもわったて考えているわけで,現状としては会長がおっしゃいましたように漢字を除いては,日本の文化を支えることはできないと考えております。
 最近では,むしろ以前よりも一層漢字に対する要望が強くなっているという感じがいたします。ですから,定期的に見直していかなければいけないのではないかと考えておりまして,その過程で,将来的には漢字を廃止した場合を考える機会が来るかもしれません。しかし現在のところ,委員会としてそのような見通しは持っておりません。
○阿刀田会長
 電子機器が普及して,それがある程度落ちついたときに,国民の漢字,文字生活がどういうものになっていくかということは予測できないところもありますので,この審議を続けていても過渡的な部分もあるのかなと考えております。
 前田委員がおっしゃるように,定期的にいろいろなものをチェックしながら,国民各層の漢字との親しみ具合を調査したものを踏まえながら考えていかなければならないので,流動的な面があると思っております。
○松岡委員
 私たちが片仮名,平仮名,漢字を持っているということは,表意文字と表音文字の両方を持っているというメリットがあるのではないでしょうか。私自身が字幕の仕事をしたときに,音だけで表現するとしたら,スペースも字数もたくさん必要であろうところが,漢字一つで表現,伝達できるということを感じました。
 それから,日本人はたくさん手段があればあるほどうれしい国民ではないかと思います。メールなどでは,仮名,漢字,絵文字の時代にまで入ってきて,伝達手段は増えつつあります。減らすというよりは,秩序あるものにするということが,漢字の施策そのものにもかかわることではないかと思います。
 それから,現在では,電子機器の普及が見過ごせないことになっていますけれども,日本人というのはたくさん手段があればあるほどうれしい国民ではないかと思うのは,絵文字というのが私はめったに使わないんですけれども,いただくメールなどでは,仮名,漢字,絵文字の時代にまで入ってきているので,何か手段を減らしていくよりは,むしろ増やしていく方向に動きそうなので,それをバラバラ,めちゃめちゃにならないで,ある程度の秩序あるものにするかということが,漢字の施策そのものにもかかわることではないかと思います。
○阿刀田会長
 文化審議会の漢字小委員会は,基本的には教育の現場には直接結びつく立場ではありません。しかし教育の場を考えたときにこの漢字政策は大変大きな問題を持っているわけです。文部科学省の国語政策と協調しながら考えていかねばならない考えております。
○岡田委員
 松岡委員がおっしゃったように漢字というのは表意文字であって,ワープロで転換すると同じ文字でもいろいろな漢字が出てきます。全部平仮名になったときに意味が分からなくなってしまうという懸念がありますし,阿刀田先生がおっしゃっているように日本の文化でもあるし,漢字をなくす方向では考えてほしくないと思います。
○阿刀田会長
 難しい地名などはむしろ残すことで,文化の保存や地域の活性化にとって意味があるのではないかということを考えます。
○岡田委員
 外国の人には難しいかもしれませんが,日本語を学ぼうとする外国人にもむしろ,漢字もしっかり覚えていただきたいと思います。
○野村委員
 漢字の持っている造語能力は非常に重要です。今,アジアの国で日本が援助をして法整備を支援をしていて,最近までカンボジアで民法をつくっていたんですが,そのときに新しい概念を入れなくてはいけないんです。カンボジアの場合にはクメール語で,漢字文化ではないので,説明的な言葉になって条文が複雑になってしまいます。簡潔に意味を表す漢字文化の優れた面を再認識させられることがあります。
○阿刀田会長
 今後の漢字分科会にいろいろな意見を反映させていただきたいと思います。
 それでは,次に著作権分科会について,野村分科会長,どうぞご報告をお願いいたします。
○野村委員
 著作権分科会における審議状況についてご報告したいと思います。資料4,横書きのものをご覧いただきたいと思います。
 著作権分科会では,昨年3月,法制問題小委員会,私的録音録画小委員会,国際小委員会の3つの委員会を設置しました。8月には法制問題小委員会の緊急課題としてIPマルチキャスト放送の著作権法上の取扱い,罰則の強化,税関における水際取締について,また,1月30日にはそれ以外の課題について,各小委員会での検討結果をそれぞれ報告書として取りまとめましたので,その内容についてご報告いたします。
 まず,資料の1ページをご覧ください。IPマルチキャスト放送の著作権法の取扱い等についてですけれども,近年,IPマルチキャスト放送という,従来の有線放送とほぼ同様のサービスが提供できる新たな形態のサービスが登場して,地上デジタル放送への移行の際に伝送路の一つとして活用することが考えられております。そこで,IPマルチキャスト放送による著作物の利用を円滑化するために,著作権法上のIPマルチキャスト放送の取扱いについて検討を行いました。
 その結果,放送の同時再送信部分については,早急に有線放送と同様の取扱いをすることが必要であるとされましたが,IPマルチキャスト放送による自主放送の部分については論点が広範にわたること,権利を制限される実演家等の理解を得るために十分な準備期間を設けた上で検討する必要があること,また,放送新条約の検討状況や,今後の通信・放送の融合にかかる放送法の見直しの検討状況のほか,IPマルチキャスト放送の実態を見極める必要があることなどから,関係省庁と連携をとりながら,引き続き検討を行った上で結論を得るべきであるとされました。
 放送の同時再送信部分についての具体的な措置内容としては,有線放送やIPマルチキャスト放送による放送の同時再送信に関する実演家及びレコード製作者の権利は,原則として報酬請求権とすることが適切であること,放送の同時再送信のみのサービスを非営利かつ無料で行うことについては,基本的には有線放送と同様の権利制限を行うべきであること,従来型の小規模な有線放送事業者に対しては,契約面において配慮が必要であること,などが取りまとめられました。
 罰則の許可については,資料4の2ページをご覧いただきたいと思います。
 昨年の通常国会において,産業財産権に関する罰則が強化されたことなど,社会の状況の変化に対応するため検討を行いました。この点については,特許法等の他の産業財産権法における罰則とのバランスを踏まえ,著作権侵害罪の個人罰則や法人罰則,秘密保持命令違反罪の法人罰則を引き上げることが適当とされました。また,その他の著作権法違反の罰則については,著作権侵害罪とのバランスと各規定の趣旨を照らし合わせながら,罰則の引き上げの必要性について慎重に判断することが適当とされました。
 税関における水際取締に係る著作権法の在り方については,海賊版が世界各国に拡散することを未然に防止するため,国内における侵害行為を抑止し,水際において確実に侵害物品の取締りを行うため,著作権法の在り方について検討を行いました。この点について,「輸出」行為については,「輸出」行為の目的や態様等について一定の限定をかけつつ,「輸出」に関する規定を整備するとともに,「輸出」行為の予備行為として侵害に至る蓋然性が高い行為についても取締りの対象とすることが適当とされました。
 以上,8月の報告書で取りまとめられました内容については,昨年1月に取りまとめられた報告書において改正すべきとされた事項をあわせて,著作権法の一部を改正する法律として,昨年,臨時国会に提出され,既に成立しているということを申し添えます。
 これにつきましては,添付しております参考資料をご参照いただければと思います。
 次は,1月30日にまとめた報告書についてご説明します。3ページ以下に概要を記載してございますので,ご覧いただきたいと思います。
 まず,法制問題小委員会では,8月に緊急に報告を取りまとめた事項のほか,私的使用目的の複製の見直し,共有著作権に係る制度の整備,契約における著作権法のオーバーライドの問題,「間接侵害」の4つの課題について検討いたしました。
 まず,私的使用目的の複製の見直しについては,近年の複製,通信技術の発達は目覚ましく,インターネットを通じた著作物等の交換,共有などによって,私的領域でも大量かつ広範に,高品質の複製物の作成が可能になっている状況を踏まえ,著作権法上での対応の在り方について検討を行いました。
 私的複製の範囲をどうとらえるかは,私的録音・録画や補償金の在り方と密接に関係する課題であり,いずれの部分を,補償金や著作権保護技術等で対応し,あるいは,私的複製の範囲としておくことが適切なのかということについて,一体的に議論することが必要になります。このため,私的録音・録画小委員会における検討を踏まえて私的複製の在り方全般について検討を行うことが適当とされました。
 共有著作権に係る制度の整備については,近年,共同著作物の作成が増加するなど社会の実態に変化が見られますが,共同著作物に係る規定の見直しについて,実務の状況を踏まえて検討を行いました。共有に係る権利の取扱いは,共有者間の契約で定めることができる場合が多いことや,権利関係の明確化の観点から,個々の事案に応じて契約で処理することが望ましいことから,現時点において立法上措置する必要はないとの結論を得ました。
 続いて,4ページ上段,契約におけるオーバーライドの問題についてであります。ここでは,著作権法上の権利が制限されている著作物の利用行為について,契約によってオーバーライドする,つまり権利制限規定を覆して,著作権を及ぼすための契約条項が認められるかどうかということを検討いたしました。
 検討の結果,著作権法の権利制限規定については,それに反するという理由のみをもって契約が直ちに無効であるという強行規定ではないと結論づけております。個々の契約の有効性を判断するに当たっては,一般にその有効性を判断することは困難であるため,現行著作権法上において直ちに立法的対応を図る必要はないと考えられ,この問題については今後の議論の蓄積を待つことが適当であるとの結論を得ました。
 続いて,いわゆる「間接侵害」についてです。
 裁判例,外国法,民法,特許法の4つの観点からのアプローチによる検討を行い,特に本年はドイツ,フランス,アメリカ,イギリスの主要4法制の比較法研究について検討を行いました。特許法第101条第1号,第3号に対応するような「間接侵害」を何らかの形で著作権法上も認めるという基本的方向性については,特に異論はありませんでしたが,それを超えるような「間接侵害」の考え方については,比較法研究を含めた徹底的な総合的研究を踏まえた上で,今後もさらに検討を継続すべきものとの結論を得ました。
 以上が法制問題小委員会の検討結果です。
 続いて5ページ,国際小委員会の検討結果です。
 国際小委員会では,アジア地域における海賊版対策施策の在り方と,国際ルール作りへの参画の在り方という,2つの課題について検討を行いました。
 アジア地域等における海賊版対策施策の在り方につきましては,海賊版対策事業をより効果的に実施するために,戦略的な政府間協議や社会全体への波及を視野に入れた能力構築支援,関係省庁と権利関係団体の連携した権利行使方策の検討,正規版流通システムの確立のための支援が必要である,などの指摘がなされております。
 国際的ルール作りへの参画の在り方については,現在,世界知的所有権機関(WIPO)において検討が進められております,放送機関の保護に関する条約,いわゆる放送条約への対応の在り方について,早期対策を目指して一層積極的に対応していくことが必要であるとの結論を得ました。
 この2つの委員会と並んで私的録音録画小委員会というのがございますが,こちらについては,本報告書には含まれておりません。現在なお検討中ということで状況について簡単にご報告したいと思います。
 当小委員会では,平成18年4月より計8回にわたり開催いたしております。実態調査や関係者からのヒアリング等を通じて,私的録音録画の実態等についての現状を把握し,検討事項を整理した上で,著作権法第30条第1項の範囲外とすべき利用形態や,私的録音録画に関する補償措置の必要についての基本的な考え方に関して検討を行いました。今後は,これまでの議論を踏まえて具体的な制度設計について検討を行う予定にしております。
 以上,今期の著作権分科会において取りまとめました報告書についてご説明申し上げました。私的録音録画小委員会をはじめとして,検討を継続すべき課題がございますので,これらにつきましては,来期の著作権分科会において引き続き検討をいきたいと考えております。
○阿刀田会長
 どうもありがとうございました。
 今後いろいろな文化活動にとって著作権の問題がますます重要な位置を占めるのだろうと考えておりますが,何かご意見がございますでしょうか。
 それでは,引き続いて,文化財分科会,石澤分科会長からご報告をお願いいたします。
○石澤委員
 資料5でございます。
 13回にわたって分科会を開催いたしました。
 主な答申ですが,国宝・重要文化財の指定等が53件,重要文化財,これは建造物が中心でございますが,20件。登録有形文化財,これは美術工芸品の登録でございますが,4件。登録有形文化財の登録等が664件。ほかに特に多いのは史跡等の指定で77件ございまして,数が随分伸びております。
 そのほか,登録記念物の登録,重要文化財の景観の選定等も今後重要なものになってくると思われます。それから,重要伝統的建造物群の保存地区の選定も6件ございます。それから,最後に選定保存技術の選定・認定ということでございます。
 以上が法律,また,分科会の規則にのっとって,答申されました。
 このほかでは,昨年,高松塚古墳の石室解体に伴う現状変更をはじめとした,国宝・重要文化財,史跡等の現状変更や許可,さらに重要文化財(美術工芸品)の買取りや,「平泉の文化遺産-浄土思想を基調とする文化的景観」の世界遺産への推薦について審議を行いました。
 また,今期は文化力で地方から全世界に向けて発信していくといういう意味で,文化財分科会の中に「世界文化遺産特別委員会」を設け,各都道府県から提案のありました24件に関して,世界遺産暫定一覧表記載資産候補の審議を行い,4件を候補として選びました。
 すなわち富岡製糸場と絹産業遺産群,富士山,飛鳥・藤原の古代日本の宮都と遺跡群,そして長崎の教会群とキリスト教関連の遺産です。これらについては世界遺産暫定一覧表に記載することが適当であるとの報告を取りまとめました。
 それから,文化財分科会に企画調査会を設けまして,文化財の総合的な把握ついて審議を行いました。
 以上でございます。
○阿刀田会長
 何かご質問,ご意見ございましょうか。
○田村委員
 答申に選定保存技術の選定・認定というのが1件ございますが,これは何であったのでしょうか。
○阿刀田会長
 すみません,ご猶予をお願いいたします。
 それでは,報告を承りました。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
 事務局より19年度文化庁予算(案)についてご報告をお願いしたいと思います。
○竹下政策課長
 「平成19年度文化庁予算(案)の概要」をご覧いただきたいと思います。
 まず,19年度予定額は1,016億5,500万円,対前年度10億700万,1%の増ということで,文化庁予算としては過去最高の予算案を確保できているということでございます。
 主要事項として,「文化芸術立国プロジェクトの推進」「文化財の次世代への継承と国際協力の推進」「文化芸術振興のための文化拠点の充実」の3つを柱としております。
 「文化芸術立国プロジェクトの推進」は「文化芸術創造プランの推進」と,「『日本文化の魅力』発見・発信プランの推進」の2つに分かれてございます。さらに文化芸術創造プランには4つの柱があり,その中の「最高水準の舞台芸術公演・伝統芸能等への重点支援等」には新しい要素が2つございます。つまり,重点支援事業の中でトップレベル芸術団体と国内各市の芸術拠点である中核的な劇場の共同制作を支援するというものと,芸術拠点形成ということで美術館,博物館の「ミュージアムタウン構想」を新たに盛り込んでおります。これは,地域の子どもたちが本物の美術,文化財に触れる機会を充実する事業を支援しようということです。
 それから,「『日本映画・映像』振興プランの推進」でも新しい要素が2つございます。それは,アジアにおいて日本映画特集上映を行うための予算を盛り込んでいることと,メディア芸術振興総合プログラムということで,新たに若手クリエーターの創作支援,あるいは,大学,民間等のラボラトリー,工房を支援して,共同研究や人材育成を支援するといったことです。
 3点目の「世界に羽ばたく新年芸術家等の人材育成」では,芸術団体等の人材育成支援の充実を図っております。
 4点目が「感性豊かな文化の担い手育成プランの推進」ということで,特に本物の舞台芸術に子どもたちが触れる機会の確保について3億円増の33億円という予算を確保できております。また,伝統文化こども教室事業も1億円増で約17億円の予算の確保ができております。子ども関係で申しますと,芸術家を学校に派遣する事業についても大幅な拡充をしておりますし,地域の方々に学校等での文化活動を支援してもらうように地域人材の活用についても新規の予算をこの中に盛り込んでおります。
 「『日本文化の魅力』発見・発信プランの推進」でございますけれども,「地域の文化力活性化プランの推進」の新たな要素といたしまして,「舞台芸術の魅力発見事業」がございます。地方で舞台公演に親しむ機会の少ない方たち,特に子どもたちあるいは団塊の世代の方たちのために,全国53カ所でプロによる地域の文化施設等での公演を行う新規事業です。
 文化財関係でございますけれども,全体として10億円の予算増ということで,この部分は非常に充実を図ることができました。
 「史跡等公有化助成」「史跡等整備活用事業」も大幅な増がございますし,「文化財の保存修理等」では,特に建造物関係で必要な予算が確保できております。国宝重要文化財,主に美術工芸品において,その買上げ予算の充実を図ることができております。
 「日本の文化遺産保存活用等活性化事業」は新たな事業です。文化財や保存技術を活用したビジネスモデルに関して,あるいは,文化財を地域が一体となって保存していくことについての調査研究をする予算がこの中に入っております。
 文化拠点の充実では,平城宮跡の保存整備ということで,第一次大極殿正殿の復原を計画的に進めております。また,独立行政法人の国立博物館と文化財研究所が統合いたしまして,国立文化財機構という新たな独立行政法人をつくることになっております。さらには,京都国立博物館の「平常展示館」の建て替え工事についても必要な予算の確保ができております。
 概略でございますけれども,後ほど説明資料等でご覧いただければと存じます。
○阿刀田会長
 副大臣,文化庁長官においては一層のご努力をいただきたいとお願い申し上げます。
○土屋文化財部長
 資料5の文化財分科会の審議状況に関連いたしまして,先ほど田村委員からご質問いただきました選定保存技術の選定をした1件の具体的な内容でございますが,琵琶の製作修理を選定し,石田勝雄さんを認定させていただいております。現在,選定保存技術の認定をしている保持者は50人です。
○阿刀田会長
 どうもありがとうございました。
 第6期の文化審議会の委員は任期が今日まででございます。ご尽力,どうもありがとうございました。
 また,私は今期をもって審議会長を辞任いたします。厚く御礼申し上げます。
 以上で文化審議会を終了いたします。
 どうもありがとうございました。

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