アフガニスタン文化財保存・修復協力の推進について
―アフガニスタン等文化財国際協力会議報告書骨子―

協力の意義及び基本的考え方

意義

  • ○文化財分野の協力は,平和の構築と維持に重要な役割を果たし,アフガニスタン国民の誇りを取り戻すことに繋がる。
  • ○同時に我が国自身の保存・修復技術の発展に資する。

基本的考え方

  • ○ユネスコをはじめとした国際的な支援体制を踏まえながら,我が国の持つ高度かつ専門的な技術・技能,科学的知見を活かした協力を行う。
  • ○国際貢献が我が国の心を伝えていくものであることに留意し,日本人が直接関わっていくことが大切であり,日本の顔の見える物心一体となった取組を進める。

我が国の協力体制

  • ○ 文化庁が外務省と協力して我が国全体としての取組の調整を行い,関係機関相互の有機的連携を図りつつ,効果的・効率的な協力を進めていく体制を整える

協力の内容

アフガニスタンへ調査団を派遣した結果を基にアフガニスタン等文化財国際協力会議で検討した結果を踏まえ,具体的な協力分野を提言。

主な提言内容

  • ○カブール国立博物館
     ・撮影技術等や保存・修復技術に関する研修等の実施を検討
  • ○考古学センター
     ・考古学遺跡の調査,管理,出土物の処理等に関する技術移転・人材養成の実施を検討
  • ○バーミヤンの地下遺跡の探知
  • ○カブールの研究拠点の確保 等
アフガニスタン文化財保存・修復協力の推進について ーアフガニスタン等文化財国際協力会議報告書骨子ー アフガニスタン文化財保存修復協力に関する当面の体制

アフガニスタン文化財保存・修復協力の推進について報告書

平成15年8月19日
アフガニスタン等文化財国際協力会議

1.はじめに

 本会議は,アフガニスタン及び周辺地域における文化財保存修復に関する国際的な協力を行うための総合的な対応の在り方を検討するため文化庁長官決定により設けられたものであり,多くの分野からの様々な角度からみたアフガニスタン等との文化財保存修復について議論を行ってきた。我が国の厳しい財政事情の下,できる限り効果的かつ効率的な協力を行う必要があることは当然のことではあるが,この報告書が今後の我が国とアフガニスタン等との文化財保存修復において極力反映されていくことを期待する。

2.協力の意義

 アフガニスタンは,シルクロードの要衝に位置し,東西文明の十字路とも言われてるとおり,多くの重要な文化財を有していたが,長年にわたる戦乱のためにその多くが破壊されてしまっている。
 文化財の保存・修復を通じた協力は,武力対立や内戦の終了したこの時期には平和の構築と維持に重要な役割を果たすとともに,アフガニスタン国民の誇りを取り戻すことに繋がる。更に,人類の貴重な遺産を守るという観点からも大変意義があり,我が国としても,国際社会の一員として,こうした文化財に関する協力を継続的かつ組織的に展開していく必要がある。
 アフガニスタン文化財は,東西文化交流の影響を受け,日本文化の源流にも繋がるものであり,我が国にとっても学術的に非常に価値が高く,我が国との文化的な関わりに想いを馳せて,アフガニスタンの人々とともに文化財の保存・修復を進めていく必要がある。また,国際的な文化財保存・修復協力は,我が国自身の保存・修復技術の発展にも資するという点においても意義深いものである。
 さらに,今後,アフガニスタン文化財の保存・修復協力を一つのモデルケースとして,イラクをはじめとした我が国の国際的な文化財・保存修復協力の在り方を長期的展望に立って考える契機となることが期待される。

3.協力の基本的な考え方

 文化財の保存・修復に関する国際協力は,世界の文化の発展に寄与する重要な国際貢献であると位置付け,アフガニスタンの文化財保存・修復に関しても,ユネスコをはじめとした国際的な支援体制を踏まえながら,我が国の持つ高度かつ専門的な技術・技能,科学的知見を活かした協力を行うことが重要である。
  アフガニスタンの文化財保存・修復は,アフガニスタン国民自らが行うことを基本としつつ,国際貢献が我が国の心を伝えていくものであることに留意し,日本人が直接関わっていくことが大切である。そのため,単なる物質的な支援に留まらず,教育や研修等の人材養成など,物心一体となった取組を進めていく必要がある。その際,我が国の関わりについて広く国民に伝え,理解に努めることが必要である。また,文化財の保存・修復は,基盤整備と相まって,住民の収入創出を含むアフガニスタンの経済発展に寄与することも視野に入れる必要がある。
  こうした協力を進める際には,文化庁と外務省が協力して我が国全体としての取組の調整を行い,関係機関相互の有機的連携を図りつつ,効果的・効率的な協力を進めていく体制を整えることが重要である。
  協力を進めるに当たっては,それに携わる専門家の安全確保は最優先であり,最大限注意を払っていく必要がある。

4.アフガニスタン文化財保存・修復に関する当面の体制

 アフガニスタン文化財保存・修復に関しては,関係機関相互の有機的な連携が不可欠である。そのため,文化庁と外務省は連携を図りつつ,以下に述べる活動を中心とした文化財保存修復協力体制の構築に向け努力していくことが必要である(別紙)。

  • ○外務省においてはユネスコを通じた協力を進めていく。
  • ○文化庁においては文化財保存修復協力に関する我が国全体としての情報を集約し,外務省と協力して各機関ごとの取組の調整を行う。
  • ○独立行政法人文化財研究所においては,保存修復協力体制の構築における事務局的機能を担いつつ,文化財保存修復に係る共同研究や発掘,保存修復技術等に関する人材養成を行う。
  • ○国際交流基金においては人材養成及び文化財保存修復に係る国内専門家の派遣や海外の専門家及び研究者の招へいを行う。
  • ○国際協力事業団においては,必要に応じ技術協力プロジェクトの検討を行う。なお,技術協力プロジェクトの検討に当たっては,要請背景調査団等を派遣し協力内容を検討する。
  • ○東京芸術大学においては,写真技術,絵画の修復等に係る人材養成を行う。
  • ○独立行政法人国立博物館においては,博物館の整備・運営に関する必要な指導・助言を行う。

5.具体的な検討事項

 アフガニスタン政府及びユネスコからの要請を受け,アフガニスタンとの文化財分野での協力について検討を開始したが,検討に当たっては,アフガニスタンへの現地調査等を行うことにより,要望に添った協力となるよう努力した。まず,外務省は,ユネスコと共同して平成14年9月27日から10月7日にバーミヤンに調査ミッションを送り,石窟内に残存する壁画を含む遺跡全体の現状調査等を行った。また,文化庁は,同年10月25日から11月1日にアフガニスタン文化財調査団を派遣し,情報文化省,カブール国立博物館,ナショナルギャラリー,国立公文書館,歴史的遺産局,考古学センター等を訪問し意見聴取を行った。また,独立行政法人文化財研究所は,文化庁の依頼により,カブール国立博物館との協力によってアフガニスタン文化財に関する状況調査を行うこととし,平成15年1月24日から31日に調査団をカブールに派遣した。
 これらを基に,アフガニスタン等文化財国際協力会議においては6回の議論を重ね,その結果,我が国としてアフガニスタンの文化財の保存・修復を行うに当たっては,以下のとおり,(1)緊急に対応すべきもの,(2)早急に対応すべきもの,(3)今後対応を検討すべきものに分け,順次協力を行っていくことが必要であるとの結論に達した。

 (段階的に協力を行っていく必要性)  カブール国立博物館等カブール市内の文化財の中には,劣化が激しく,早期に保存・修復を必要としているものがあり,また,撮影機材等の不足から目録等も作ることができず,どのような文化財がどの程度残っているか完全に把握できていない状況である。バーミヤン遺跡においても平成13年3月のタリバーンの爆破を受け,石窟内の壁画も破壊や盗難により被害を受けており,その保存・修復については緊急に対応する必要がある。
 しかしながら,文化財の保存・修復に当たっては,一時に緊急措置を行うだけではなく,提供した機材に関する技術的な指導を行いつつ,保存・修復に係る技術を移転し又はカブール国立博物館等との共同研究を進めていくなど,現地の専門家の養成が不可欠なことから,長期的な視点に立って対応が必要なものもある。
 また,カブール国立博物館等との継続的な情報交換のため,カブール市内における継続的な拠点確保は,必須のものである。
 このようにアフガニスタンとの文化財分野における協力を行うに当たっては,段階的に協力を行っていくことが必要であり,こういった観点から,今後は関係機関の有機的な連携を図りつつ,以下のように計画的に協力を行っていくことが効率的な事業の展開,遂行の面からも必要である。

(1)緊急に対応したもの及び現在対応中であるもの

 関係各機関において緊急に対応を行っているものは次のとおり。

  • ○独立行政法人文化財研究所は,上述のとおり,調査団をカブールに派遣し,併せて,調査に必要な写真機材等の技術的な指導を行った。
  • ○財団法人ユネスコ・アジア文化センター文化遺産保護協力事務所は,文化庁の委託により,平成15年3月7日から18日にアフガニスタンの文化財保護修復技術者を招へいし,研修を行うとともに,アフガニスタンの文化財の現状について意見交換を行った。
  • ○独立行政法人文化財研究所は文化庁と共催で,平成15年3月13日,14日の両日にアフガニスタンから2人の専門家を招き「アフガニスタンの文化遺産の復興をめざして」をテーマに,アフガニスタンの文化財の現状と,その復興のために必要な事項に関する研究会及び専門家会議を開催した。
  • ○バーミヤンにおける保存・修復については,外務省が,ユネスコ文化遺産保存日本信託基金(文化遺産として世界的にその価値が認められながら,保存の措置のとられていない文化遺産を対象に,保存修復活動への協力を行っているもの)より,181万5,967ドルを拠出し,ユネスコを通じた対応を進めている。この事業においては,石窟内の壁画の保存,遺跡保存のための予備的なマスタープランの作成,東大仏仏龕の固定を内容とする保存・修復活動を実施することとしており,平成15年6月2日にアフガニスタン情報文化大臣とユネスコ・カブール事務所長との間で,事業の運用取決めへの署名が行われた。独立行政法人文化財研究所は,ユネスコと契約を結んだ上で,マスタープランの作成及び壁画の修復・保存に関する事業の統括及び作業を実施する。壁画の修復・保存のための模写に関しては,東京芸術大学が必要に応じ協力する。
  • ○東京芸術大学は,平成15年6月9日から6月16日にアフガニスタンへ調査団を派遣し,カブール国立博物館への写真技術支援等を行うとともにカブール大学との交流に関する調査を行った。

(2)早期に対応する必要があるもの(今年度あるいは来年度を目途に対応するもの)

 現在のところ対応がなされていないが,今年度又は来年を目途に対応に着手するものは次のとおり。

ア.アフガニスタンの文化施設等の整備

  • ○カブール国立博物館
    • ・カブール国立博物館への写真撮影技術に関する協力については,国際協力事業団と東京芸術大学が共同して,写真機材の提供,写真室の再建の支援及び撮影技術等に関する研修を検討する。なお,必要に応じ要請背景調査団等を派遣し協力内容を検討する。
    • ・カブール国立博物館への保存・修復協力については,国際協力事業団が独立行政法人文化財研究所と共同して,保存・修復技術に関する研修(保存・修復技術の開発・技術移転,収蔵物の修復)の実施を検討する。また,独立行政法人国立博物館においては,同博物館の整備・運営に関する必要な指導・助言を行う。なお,必要に応じ要請背景調査団等を派遣し協力内容を検討する。
  • ○考古学センター
    考古学遺跡の調査,管理,出土物の処理等に関する技術移転・人材養成に関しては,適切な遺跡を選択し,拠点として独立行政法人文化財研究所が実施を検討する。なお,ハルワール遺跡等の継続的な発掘調査に関しては,関係機関等と連携を図りつつ対応を検討する。
  • ○バーミヤンの地下遺跡の探知
    バーミヤンには地中に仏像等地下遺跡が埋没している可能性が指摘されており,その探知について,必要に応じ,ユネスコと調整をしつつ,独立行政法人文化財研究所において地下構造物を毀損しない方法(電磁波探査など)により調査を行う。
  • ○カブールの研究拠点の確保
    カブールにおける研究拠点の確保については,当面,独立行政法人文化財研究所が中心となって,関係機関に開かれた運営が行えるよう体制を検討する。

イ.我が国の研究体制等の整備

我が国の研究体制,文化交流体制の整備や,国内に存在する過去の調査データの収集・整理については,独立行政法人文化財研究所が,アフガニスタン文化財保存修復協力のネットワークの事務局的機能を担うことができるよう体制の拡充を図り,関係資料・情報の収集に当たる。

ウ.専門家の育成・交流

  • ○専門家の招へい・派遣
    アフガニスタン文化財の保護・研究に関わる現地専門家の日本招へい,日本の専門家の派遣については,国際交流基金において,関係機関と連携を図りつつ行う。
  • ○大学生受け入れプログラム
    アフガニスタン文化財の保護・研究に関わる人材養成について,東京芸術大学は,カブール大学他から学生9名,教員1名を受入れ,文化財保存・修復に関する基礎的知識等の研修を行う。

(3)今後対応を検討すべきもの

  • ○失われたバーミヤンの遺跡やカブール国立博物館の収蔵品のデジタルアーカイブ化については,独立行政法人文化財研究所が国立情報学研究所や東京芸術大学と協力を進めつつ検討する。
  • ○国立公文書館への保存・修復協力については,協力の緊急性を勘案した上で,現地においてマイクロリーダーなど各種映像機器,製本用具等を使用した研究協力や保存・修復技術に関する研修の実施について検討する。資料の目録作成及び資料整理については,東京外国語大学などの協力を得て対応する。
  • ○ナショナルギャラリーの修復部門の新規設立に対する協力については,東京芸術大学がカブール大学との油絵の修復協力を進める上で,対応を検討する。
  • ○歴史遺産局への測量機材,調査機材等の提供については,協力の必要性や優先順位を精査し,対応を検討する。
  • ○文化財保護に関する行政官,市民などの教育については,行政官交流の実施や,NPO等草の根レベルの活動への支援を検討する。
  • ○日本における若手研究者の育成については,協力事業を進めていく上で,プロジェクトに若手の参加を図り,若手研究者の育成に努める。
  • ○日本側へのダリー語,パシュトゥー語等の研修については,関係各機関が協力事業を進めていく上で必要に応じ研修に努める。

6.終わりに

 アフガニスタン文化財に対する保存・修復については,バーミヤン石仏の破壊が行われた平成13年3月以降様々な形で議論を重ねてきており,本会議において,我が国とアフガニスタンとの協力について結論が得られた。
 他方,アフガニスタンに関する議論を重ねている中,イラクにおいても,博物館での略奪や遺跡の破壊により,人類の貴重な遺産であるイラクの文化財が盗難・破壊の被害に遭い,現在,イラクにおける文化財の保護・保全体制の確立が叫ばれている。
 このような状況にあって,我が国としては,政策的な観点から国際的な文化財の保存・修復を考えていくことが極めて重要になってきている。本会議において議論を重ねたアフガニスタンにおける文化財の保存・修復協力を我が国における文化財分野の国際協力の一つのモデルケースとして,今後の国際的な文化財の保存修復協力の在り方を考える契機としていく必要がある。

アフガニスタン文化財保存修復協力に関する当面の体制

アフガニスタン等文化財国際協力会議設置要項

文化庁長官決定
平成14年9月20日

1.趣旨

 アフガニスタン及び周辺地域の文化財保存修復に関し,ユネスコを始めとする国際的な支援体制を踏まえ,関係機関相互の有機的連携を図りつつ,我が国の専門的な知見,技術等を生かした国際協力を行うための総合的な対応の在り方についての検討を行う。

2.検討事項

  1. アフガニスタン及び周辺地域における文化財保存修復に関する国際的な協力を行うための総合的な対応の在り方について
  2. その他 1.と関連する事項

3.構成

  1. 本会議の座長及び副座長並びに委員は,文化庁長官が委嘱する。
  2. 本会議には,必要に応じ,委員以外の有識者等の出席を求めることができる。

4.議事の公開

 本会議の議事の公開については,本会議の決定に基づくものとする。

5.庶務

 本会議に関する庶務は,伝統文化課が行う。

アフガニスタン等文化財国際協力会議設置要項

座 長  平山 郁夫   東京芸術大学長
副座長  渡邊 明義   独立行政法人文化財研究所理事長
委 員  稲盛 和夫   京セラ株式会社取締役名誉会長
委 員  高橋 和夫   放送大学助教授
委 員  田辺 勝美   中央大学総合政策学部教授
委 員  土谷 遙子   元上智大学比較文化学教授(元カブール博物館客員研究員)
委 員  糠沢 和夫   外務省文化交流部長
委 員  野崎  弘   独立行政法人国立博物館理事長
委 員  原 ひろ子   放送大学教授(お茶ノ水女子大学名誉教授)
委 員  深田 博史   国際協力事業団企画・評価部長
委 員  前田 耕作   和光大学名誉教授
委 員  宮治  昭   名古屋大学大学院文学研究科教授
委 員  三輪 嘉六   九州国立博物館(仮称)設立準備室長
委 員  山内 和也   東京文化財研究所国際文化財保存修復協力センター主任研究官
(オブザーバー)
     後藤  健   東京国立博物館文化財部上席研究員
     斎藤 英俊   東京文化財研究所国際文化財保存修復協力センター長
     田渕 俊夫   日本画家,東京芸術大学大学院美術研究科教授

審議経過

第1回:平成14年9月25日

  1. 議事の公開について
  2. アフガニスタンにおける文化財保存修復に関する国際的な協力の現状について
  3. アフガニスタンへの調査団の派遣について

第2回:平成14年11月26日

  1. アフガニスタン文化財調査団の結果について
  2. アフガニスタン・バーミヤン遺跡に対する日・ユネスコ合同調査ミッションの結果について
  3. アフガニスタンの文化財保存・修復協力の課題について

第3回:平成15年1月22日

  1. アフガニスタンにおける文化財保存・修復協力の検討課題について

第4回:平成15年4月22日

  1. アフガニスタン文化財保存・修復協力の推進について
  2. アフガニスタン文化財保存・修復協力に関するヒアリング,イラク文化財に関するヒアリング

第5回:平成15年6月27日

  1. アフガニスタン文化財保存・修復協力の推進について

第6回:平成15年7月23日

  1. アフガニスタン文化財保存・修復協力の推進について(アフガニスタン等文化財国際協力会議報告書(案))
  2. ユネスコの第2次イラク文化遺産現状調査ミッション報告
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