文化遺産情報化推進戦略 中間まとめ
-文化遺産情報化推進戦略会議報告書骨子-

1.基本理念

  • ○ 我が国には,世界に誇るべき優れた文化遺産や,他に類を見ない特色ある地域の文化遺産が多数存在。
  • ○ 我が国のIT(情報技術)基盤の整備が急速に進む中,文化遺産に係る権利の保全を図りつつ,このような良質で多様な文化遺産に関する情報を,国民のだれもがインターネットを活用し,いつでも容易に総覧できる新しい環境を提供するとともに,世界に向けて我が国の優れた文化遺産を発信。
  • ○ インターネット上で,世界の主要な博物館を凌駕(りょうが)する,情報の博物館の実現を目指す。

2.基本戦略

  • ○ 文化遺産の総覧をインターネット上で実現するためには,博物館・美術館・関係団体等における電子資料集成(デジタルアーカイブ)を推進するとともに,文化遺産に関する多種多様な情報を束ね,希望する文化遺産に関する情報を容易に検索できる機能を持った,拠点となる電子情報広場(ポータルサイト)が不可欠。
  • ○ このため,国は,博物館・美術館・関係団体等における電子資料集成を促すとともに,インターネット上における情報の入り口となる文化遺産の電子情報広場として「文化遺産オンライン」の仕組みを開拓し,我が国の良質で多様な文化遺産に関する情報を集約化して国内外に発信。
  • ○ その際,我が国の幅広い文化遺産に関する情報の提供を図るため,平成18年度には1,000館程度の博物館・美術館・関係団体等の参加の実現を目指す。

3.文化遺産情報化推進施策

  • ○ 国内外に開かれた文化遺産オンラインの仕組みの開拓
  • ○ 各博物館・美術館・関係団体等における文化遺産の電子資料集成の整備・推進
  • ○ 文化遺産に関する目録情報の共通検索システムの導入
  • ○ 電子資料集成の鍵となる権利処理に関する指針等の整備
  • ○ 博物館・美術館・関係団体等への支援措置及び普及・啓発
  • ○ 教育,観光等の分野と連携した文化遺産オンラインの利活用の推進

4.当面推進すべき事項

  • ○ 文化遺産オンラインの早期立ち上げ
  • ○ 参加30館の実現を目指した取組の推進 等

文化遺産情報化推進戦略
中間まとめ

平成15年8月26日
文化遺産情報化推進戦略会議

1.基本理念

  • (1)情報化の意義
  • (2)現状と課題
  • (3)文化遺産オンライン構想

2.基本戦略

  • (1)国の役割
  • (2)基本的枠組み

3.文化遺産情報化推進施策

  • (1)文化遺産オンライン
  • (2)文化遺産の電子資料集成
  • (3)文化遺産共通検索システム
  • (4)文化遺産の情報化に関する権利処理
  • (5)博物館・美術館・関係団体等への支援措置及び普及・啓発
  • (6)文化遺産オンラインの利活用

4.当面推進すべき事項

  • (1)文化遺産オンラインの早期立ち上げ
  • (2)文化遺産オンラインへの参加30館の実現
  • (3)共通検索用の書式の作成
  • (4)権利処理に関する指針の整備
  • IT関連用語解説
  • 文化遺産情報化推進戦略中間まとめ概要
  • 参考図
  • (参 考)
    • 文化遺産情報化推進戦略会議について
    • 文化遺産情報化推進戦略会議委員名簿
    • 専門調査会について
    • 専門調査会委員名簿
    • 審議経過

1.基本理念

 我が国には,世界に誇るべき優れた文化遺産や,他に類を見ない特色ある地域の文化遺産が多数存在する。また,ふだんは収蔵庫等に収められ,余り人の目に触れることのない眠れる文化遺産にも貴重なものは多い。我が国のIT(情報技術)基盤の整備が急速に進む中,文化遺産に係る権利の保全を図りつつ,このような良質で多様な文化遺産に関する情報を,国民のだれもがインターネットを活用し,いつでも容易に総覧できる新しい環境を提供するとともに,世界に向けて我が国の優れた文化遺産を発信していく。これにより,インターネット上で,世界の主要な博物館を凌駕する,情報の博物館の実現を目指す。
 なお,本会議における議論の中間まとめに当たっては,文化遺産情報の幅広い利活用と世界への発信を図るため,インターネットの活用について重点的に検討を進めたが,今後多様なメディアを活用していく可能性についても検討を進める。

(1)情報化の意義

 国民の貴重な財産である有形・無形の文化遺産は,我が国の歴史,伝統,文化等の理解のために欠くことのできないものであると同時に,将来の文化の向上発展の基礎をなすものである。文化遺産を通じて我が国固有の文化を理解し,親しむ機会の充実を図るため,文化遺産の特性や保存に配慮しつつ,情報通信技術を活用して,文化遺産の積極的な公開・発信を進める必要がある。
 また,これらの文化遺産の公開・発信を進めることによって,文化遺産情報の記録・集積の進展が図られるとともに,日本の文化遺産が世界の中で相対化され,我が国の文化の独自性やアジアの文化との共通性が浮き彫りになる。同時に,各々の博物館・美術館等,有形・無形文化遺産の関係団体等(以下「博物館・美術館・関係団体等」という。)にとっては,情報化を通じた他の博物館・美術館・関係団体等との比較により,自らの個性が明確になり,魅力の向上につながることが期待される。

(2)現状と課題

 他方,IT化の急速な進展には目覚ましいものがあり,現在我が国で普及が進みつつある高速大容量通信によって,これまでネットワークを通じて配信することが困難であった文化遺産の高精細画像や動画情報まで,インターネットを通じて提供することを可能とする環境ができつつある。
 また,文化遺産に関する多様な要求に対応するため,博物館・美術館等の収蔵品のほか,建造物,記念物や,伝統芸能,工芸技術,民俗等の有形・無形の文化遺産を含む,総合的な文化遺産の情報化が求められている。
 さらに,急速な都市化や生活様式の変化によって,変容し,あるいは失われつつある文化的景観や近代の文化遺産等を手遅れとならないうちに記録することが急務となっている。

(3)文化遺産オンライン構想

 このような状況にあって,平成15年4月,文化庁と総務省は,相互に連携を図りつつ,高速大容量通信を通じて国や地方の有形・無形の文化遺産に関する情報を積極的に公開するとともに,著作権等を保護しつつ利活用の促進を目的とする「文化遺産オンライン構想」を推進することを発表した。この構想で示されている我が国の文化遺産の総覧をインターネット上で実現することを目指す取組を進めるとともに,文化遺産に関する情報化の総合的な推進戦略を策定し,文化遺産の情報化を強力に進める必要がある。

2.基本戦略

 文化遺産の総覧をインターネット上で実現するためには,博物館・美術館・関係団体等における文化遺産の電子資料集成(デジタルアーカイブ)を推進するとともに,文化遺産に関する多種多様な情報を束ね,分かりやすく整理し,希望する文化遺産に関する情報を容易に検索できる機能を持った拠点となる電子情報広場(ポータルサイト)が不可欠である。
 このため,国は,各博物館・美術館・関係団体等における文化遺産の電子資料集成を促すとともに,インターネット上における情報の入り口となる文化遺産の電子情報広場として「文化遺産オンライン」の仕組みを開拓し,我が国の良質で多様な文化遺産に関する情報を集約化して国内外に発信する取組を進める。その際,我が国の幅広い文化遺産に関する情報の提供を図るため,平成18年度には1,000館程度の博物館・美術館・関係団体等の参加の実現を目指す。

(1)国の役割

 文化遺産の情報化における国の基本的役割は,博物館・美術館・関係団体等の自主的・主体的な取組を支援するとともに,国民が文化遺産の情報を享受し得るための基盤的な諸条件を整備し,世界に向けた発信を推進することである。このため,国は,博物館・美術館・関係団体等における情報化の支援措置や環境整備を行うとともに,地方公共団体の取組を促進し,文化遺産の情報発信機能の強化を図る。

(2)基本的枠組み

 国は,文化遺産の電子情報広場として文化遺産オンラインの仕組みを開拓し,高速大容量通信の普及を踏まえつつ,国指定文化財等の情報並びに国立博物館,国立美術館及び文化財研究所等の収蔵品の電子資料集成の取組を加速化する。また,全国の博物館・美術館・関係団体等の文化遺産の電子資料集成を段階的に進め,文化遺産オンラインへの接続による情報の集約化及び発信を図る。

(1)幅広い文化遺産の情報化の推進

 文化遺産の電子資料集成については,博物館・美術館等が収蔵する文化遺産(美術工芸品等のほか,近代科学・産業遺産,生活遺産等を含む。)をはじめとし,並行して建造物,記念物,文化的景観,伝統芸能,工芸技術,民俗など,国・地方の指定文化財を中核に据えながら,幅広く,文化遺産を対象とした情報化を進める。その際,対象によっては,分野を限定し,他に類を見ない優れた文化遺産の電子資料集成を進めることを検討する。

(2)文化遺産に関する多様な要求に即した情報の提供

 文化遺産に関する情報の積極的な公開については,幅広い層の利用者を対象としたインターネット上の無料の情報提供を進めるとともに,各博物館・美術館・関係団体等の幅広い協力を得るための有料の情報内容(コンテンツ)の導入や,学術研究における活用を目指した研究者等への特別な情報提供について検討する。

(3)文化遺産オンラインの利用環境

 文化遺産オンラインの利用環境については,IT化の急速な進展を踏まえ,できるだけ幅広い利用ができるよう配慮し,各々の利用環境に応じて,通常の通信回線でも利用可能な文化遺産に関する基礎的な情報から,高速大容量通信を通じて高精細画像や動画情報まで利用可能な多様な情報内容を取り扱う。

(4)共通検索システムの導入と権利処理のための環境整備

 文化遺産オンラインの開拓に当たっては,情報内容の総覧性を高めるために目録情報の共通検索ができるシステムを導入するとともに,電子資料集成の鍵(かぎ)となる著作権,所有権等の権利処理を促進するための環境整備を行う。

(5)世界に向けた情報発信機能の強化

 文化遺産に関する情報発信については,国際語により世界に向けた情報の発信を行うこととし,また,アジア諸国への情報発信の強化に努める。

(6)文化遺産オンラインの利活用を図る重点分野

 文化遺産オンラインで取り扱う情報内容については,広く一般の利活用を図るほか,文化遺産を通じて日本の独自性を学ぶ契機となることが期待される教育分野や,地域振興にも寄与することが望まれる観光分野など,効果的な利活用が考えられる分野と連携した重点的な利活用を進める。

3.文化遺産情報化推進施策

(1)文化遺産オンライン

(1)文化遺産オンラインの仕組みの開拓

 国は,国内外に開かれた幅広い層の利用者にとって魅力ある良質で多様な文化遺産の電子情報広場として文化遺産オンラインの仕組みを開拓する。文化遺産オンラインは,個々の博物館・美術館・関係団体等がインターネット上で公開している情報を検索し,閲覧に供するものであり,多様な情報内容を許容する構成とする。
(具体的な内容)

  • 文化遺産オンラインについては,世界に誇るべき我が国の優れた文化遺産とともに,各地域の特色ある文化遺産の集約化を図る。その際,海外の博物館・美術館等が収蔵する日本の優れた文化遺産に関する情報集積体(データベース)との接続についても,関係者の許諾を得ながら検討を進める。
  • 文化遺産オンラインでは,英語等の外国語による発信機能を強化し,海外に向けて我が国の文化遺産の紹介を行うとともに,文化遺産に関する国際機関や海外の博物館・美術館等のホームページとの接続を図る。その際,アジア諸国への情報発信の強化を視野に入れ,情報通信技術による多言語での利活用の検討を進める。
  • 文化遺産オンラインでは,情報の検索,閲覧に必要な文化遺産の名称,収蔵館等の名称,縮小画像,簡単な解説等の目録情報を中心として取り扱い,各文化遺産の高精細画像や詳細情報については,原則として博物館・美術館・関係団体等が開設するホームページで取り扱う。
  • 文化遺産オンラインでは,利用者が多様な文化遺産に関する情報を活用できるよう,文化遺産に関する情報内容を種類別に整理して掲載する。また,キーワードや類語から目録情報の共通検索並びに学術図書情報等関連情報の閲覧ができるシステムを開拓して導入するとともに,博物館・美術館・関係団体等のホームページとの接続を図る。
  • 文化遺産オンラインが文化遺産に関する情報の入口となることを踏まえ,利用者にとって身近に文化遺産に関する情報に接することができるよう,利便性やデザインに配慮する。

(2)文化遺産オンラインの運営

 国は,文化遺産オンラインを継続的かつ効果的に運営するとともに,博物館・美術館・関係団体等の電子資料集成を支援するための体制の整備を図る。その際,文化遺産オンラインの運営主体については,各方面の幅広い意見を集約し,適時に的確な運営を確保するための体制を構築する観点から検討を進める。

(2)文化遺産の電子資料集成

(1)文化遺産電子資料集成の方法

 各博物館・美術館・関係団体等は,文化遺産の各々の特性を踏まえつつ,情報化を進める文化遺産について価値判断を行いながら,順次データが整備されているものから電子資料集成を進め,その内容が文化遺産オンラインから検索できるようにする。また,貴重な文化遺産に関する情報を,できるだけ本物に近い形で永久に保存する観点から,可能な場合は,高精細な画像等で記録し,保存することについても検討を進める。
 また,これらの電子資料集成を円滑に進めるため,必要に応じ,システムの標準化やデータ蓄積等の基準の統一化を図る。
 (博物館等の収蔵品)

  • 閲覧用ホームページを開設している博物館等では,情報内容として公開可能な文化遺産の電子資料集成を推進するとともに,文化遺産オンラインに提供する目録情報等について整理を図る。
  • 閲覧用ホームページを開設していない博物館等で,資料台帳が整備されているところでは,情報発信の必要性を考慮しながら,ホームページの開設について検討を進める。その際,情報内容として公開可能な文化遺産の電子資料集成を推進するとともに,文化遺産オンラインに提供する目録情報等について整理を図る。
  • 閲覧用ホームページを開設していない博物館等で,資料台帳が未整備のところでは,情報発信の必要性を考慮しながら,収蔵品等の電子資料集成やホームページの開設について検討を進める。

 (建造物,記念物,文化的景観等)

  • 建造物等の文化遺産については,管理団体等において,建造物等が一般的な美術品と比較して対象物が大きく,構造が複雑であることが多いことを踏まえた電子資料集成を推進するとともに,文化遺産オンラインに提供する目録情報等について整理を図る。
  • 史跡,名勝,天然記念物,文化的景観等の文化遺産については,国や関連地方公共団体等において,当該文化遺産の性質を踏まえた電子資料集成を推進するとともに,文化遺産オンラインに提供する目録情報等について整理を図る。

 (伝統芸能,工芸技術等)

  • 伝統芸能,工芸技術等無形の文化遺産については,関係団体等において,これらが「技」を体得した個人又は集団によって体現されるものであることを踏まえ,保持者の情報や,上演を記録した画像,演目解説等の電子資料集成を推進するとともに,文化遺産オンラインに提供する目録情報等について整理を図る。

  (民俗)

  • 有形・無形の民俗文化財については,地域の生活そのものの中に根ざしているという特色を持つものであることを踏まえ,地方公共団体において,関係団体等と調整を図った上で,その特色に応じた電子資料集成を推進するとともに,文化遺産オンラインに提供する目録情報等について整理を図る。

 (指定文化財等)

  • 国・地方の指定文化財等については,国・地方公共団体において,博物館・美術館・関係団体等と連携を図りつつ,当該指定文化財等の電子資料集成を推進するとともに,文化遺産オンラインに提供する目録情報等について整理を図る。

 これらの電子資料集成の推進に当たり,各博物館・美術館・関係団体等における独自のホームページの開設が困難な場合は,文化遺産オンラインが代わって当該文化遺産に関する情報内容を発信することについて検討を進める。
 また,電子資料集成されていない文化遺産であっても,所在情報等の利活用が可能であり,眠れる文化遺産に触れる機会を提供することが期待されるため,文化遺産オンラインへの目録情報等の提供について検討を進める。

(2)文化遺産情報の公開・非公開の区別

 文化遺産に関する情報のデータベースの公開・非公開の区別については,各博物館・美術館・関係団体等の自主的な判断を基本とする。その際,権利処理が比較的困難な高精細な画像等以外の情報(名称,所蔵館等の名称,縮小画像,解説,その他文化遺産に関する情報)については,可能な限り公開用のデータベースとして整理するよう努める。

(3)文化遺産共通検索システム

(1)共通検索システムの構築方法

 文化遺産オンラインの開拓に当たっては,ITの急速な進展や,できるだけ多数の博物館・美術館・関係団体等の参加を目指すことに配慮しつつ,文化遺産オンラインの利用者の利便性に即した目録情報の共通検索システムを導入する。目録情報の共通検索用の書式には,共通検索のための必要項目を共通化するとともに,その他の任意項目は幅広く設定できるように配慮する。
 運用に際しては,歴史,考古学,美術史等の専門的な知識がなくとも使いやすい検索方法,提示の方法を工夫する。また,各博物館・美術館・関係団体等は,縮小画像等の権利処理を行い,共通検索のための目録情報等を文化遺産オンラインへ提供するとともに,情報内容について分かりやすい解説等に努める。

(2)国際的標準への準拠

 目録情報の共通検索用の書式は,多方面における国際的な情報流通を考慮し,国際標準方式や汎(はん)用的な目録情報の互換性を確保するため,目録情報に関する国際規格との整合性を図る。

(4)文化遺産の情報化に関する権利処理

(1)権利処理に関する指針の整備

 電子資料集成の鍵(かぎ)となる権利処理を容易にするため,処理すべき基本的な権利の概要や利用形態に応じた権利処理の具体例を記載した指針を設ける。各博物館・美術館・関係団体等は,この指針に沿って,電子資料集成を行う文化遺産について,自ら開設するホームページへの掲載とともに,文化遺産オンラインへの掲載を含め,想定される利用について了解を取る契約を行うように努める。

(2)同意のない二次利用の阻止

 文化遺産に関する著作権者等の同意のない情報内容の二次利用を阻止するため,電子透かしやコピー防止等の技術的な措置について整理を行い,実証実験を行う。

(3)有料情報内容の導入

 博物館・美術館・関係団体等の文化遺産オンラインへの参加を促し,貴重な情報内容の提供を進めるため,有料情報内容の閲覧・利用課金システムの整備について検討する。

(5)博物館・美術館・関係団体等への支援措置及び普及・啓発

(1)博物館・美術館・関係団体等への支援措置

 国は,各博物館・美術館・関係団体等における情報化の取組を加速化し,文化遺産オンラインへの接続を進めるため,ホームページの開設や収蔵品等の電子資料集成の推進について支援措置や環境整備を行うとともに,地方財政措置等の支援措置を通じて地方公共団体の積極的な参加を促す。

(2)博物館・美術館・関係団体等への普及・啓発

 国や地方公共団体は,各博物館・美術館・関係団体等における情報化の取組を進めるため,文化遺産の情報化に関し,広報,シンポジウム等を通して普及・啓発に努める。その際,文化遺産オンラインにおいては,魅力的なテーマを設定して仮想展覧会を開催するなど,参加を促すための工夫を行う。
 また,博物館・美術館・関係団体等においては,歴史,考古学,美術史等の学芸的な専門知識だけでなく,情報,さらには著作権等の法制度に関する知識が重要となるため,研修等の人材養成や人事交流に努める。

(6)文化遺産オンラインの利活用

(1)文化遺産オンラインの利活用のための普及・啓発

 国は,文化遺産に関する情報を容易に利活用できるようにするための啓発教育を推進するとともに,博物館・美術館・関係団体等と利用者側との利活用に関する相互理解の推進を図るための幅広い意見交換を進める。

(2)文化遺産オンラインの利活用を図る重点分野

 文化遺産に関する情報内容の利活用については,インターネットへの接続環境が整備されて多様な利活用が考えられつつある教育分野と連携した効果的な取組を進める。また,貴重な観光資源として国内外に向けた利活用が期待される観光分野と連携した多様な取組を進める。さらに,出版,放送,伝統的デザインの商品への二次利用等についても,素材としての利活用を進める。

4.当面推進すべき事項

 文化遺産のインターネット上での総覧を戦略的に進めていくためには,当面推進すべき事項を抽出し,集中的に実施していくことが効果的である。このため,文化遺産に関する多種多様な情報の拠点となる文化遺産オンラインを早期に立ち上げ,博物館・美術館・関係団体等の参加を促すものとする。

(1)文化遺産オンラインの早期立ち上げ

 文化遺産オンラインについては,全国の博物館・美術館・関係団体等の参加を促し,文化遺産に関する情報の集約化を進めるため,早期立ち上げを目指すものとする。
 また,文化遺産オンラインの運営について幅広く協議するため,学識経験者や文化遺産オンラインの利用者のほか,文化遺産の資料情報,コンピュータシステム,著作権などに関する専門家等で構成する運営委員会を設置する。この運営委員会においては,文化遺産オンラインの具体的な内容とともに,運営に係る権利処理,技術的支援,倫理問題等の課題について検討を行う。

(2)文化遺産オンラインへの参加30館の実現

 文化遺産オンラインの機能を具体的な文化遺産に関するデータを使って提示するため,平成15年度中に30館程度の博物館・美術館・関係団体等の参加を目指して電子資料集成の推進を図る。あわせて,国指定文化財等の情報並びに国立博物館,国立美術館及び文化財研究所等の収蔵品の電子資料集成の取組を加速化する。

(3)共通検索用の書式の作成

 文化遺産に関する目録情報を検索するための共通検索用の書式については,文化遺産オンラインの利便性や,各博物館・美術館・関係団体等が文化遺産オンラインへ提供する目録情報等を明確化するため,利用者の意見を踏まえながら作成するものとする。

(4)権利処理に関する指針の整備

 権利処理を容易にするための指針については,博物館・美術館・関係団体等の情報化の取組を促すため,早期の整備を目指すものとする。?

IT関連用語解説

IT(information technology):情報技術。情報通信分野の技術を広くとらえて用いる語。
コンピュータやインターネットを支える機器類やソフトウェアの技術などをいう。

高速大容量通信:ブロードバンド。CATV(ケーブルテレビ)回線,ADSL(非対称デジタル加入者線),光ファイバー,無線通信回線などを用いて高速でデータを伝送する大容量の通信をいう。

電子情報広場:ポータルサイト。「ポータル(portal)」は入口,玄関のこと。転じて,インターネットに接続した際に,様々な情報を整理して得られるよう工夫されたウェブページのこと。分野別に情報を整理しリンク先を表示。

電子資料集成:デジタルアーカイブ。「アーカイブ(archive)」は文書や記録の集積,あるいは,その集積している場所(文書館等)を意味し,デジタル技術により,様々な資源を,文字,映像,音声等により記録集積し,インターネット等で配信したり検索し再利用したりすることを可能としたもの。

インターネット:全世界のネットワークを相互に接続した巨大な通信ネットワーク。インターネットは,全体を統括するコンピュータの存在しない分散型のネットワークであり,全世界のサーバコンピュータが相互に接続され,サービスを提供することで成立している。

情報内容:映像/画像/音声/文字/数値情報などの記録形式や,その媒体を問わずに,デジタルデータ化された情報に関わるコンテンツ(中身,内容)のこと。

情報集積体:データベース。大量のデータを目的や用途ごとに蓄積し,共有化,統合管理,高い独立性を目的として,あらかじめ定義した形で集積・管理する構造。

ホームページ:インターネット上にあるWWW(World Wide Web)という方式で提供されるデータのことで,ページという単位で提供される。本来,ホームページはあるまとまった情報の最初のページを意味するが,WWWの個々のページを指してホームページということが多い。

目録情報:メタデータ。データに関する情報の属性を説明する情報。大量の情報資源の中から効率的に情報を検索し,検索されたものが希望するものであるかを同定できるようにするために必要となるもので,例えば文化遺産については,名称,作者等の情報が該当する。

電子透かし:デジタルデータ化されたコンテンツの画像や音声などの品質にあまり影響を与えずに,著作権者の証しや所在を示す情報を埋め込む技術。肉眼では判読できない加工により,不正な二次使用を未然に防ぎ,著作権の流通を可能とする。

コピー防止:作成されたソフトが無断で複製されて不正使用されないようにした処理。

文化遺産情報化推進戦略中間まとめ概要 文化遺産オンライン構想 全体イメージ図 「文化遺産オンライン」の機能イメージ 「文化遺産オンライン」の位置付けと、博物館・美術館・関係団体等との役割分担

(参 考)

文化遺産情報化推進戦略会議について

文化庁長官決定
平成15年4月18日

  1. 趣旨
    文化遺産に関する情報化を格段に強化するため,先端的な情報通信技術を有する民間企業や関係省庁との連携を図りつつ,特にブロードバンドの活用に留意し,国や地方の有形・無形の文化遺産に関する情報化の総合的な推進戦略について検討を行う。
  2. 検討事項
    • (1) 文化遺産に関する情報化の総合的な推進戦略について
    • (2) その他
  3. 構成
    • (1) 会議の座長及び副座長並びに委員は,別紙のとおりとする。
    • (2) 会議に,専門の事項を調査させるため必要があるときは,専門委員を置くことができる。
    • (3) 会議には,必要に応じ,委員以外の有識者等の出席を求めることができる。
  4. 専門調査会
    • (1) 会議は,その定めるところにより,専門調査会を開催することができる。
    • (2) 専門調査会に属すべき委員及び専門委員は,座長が指名する。
    • (3) 専門調査会に主査を置き,座長の指名する委員がこれに当たる。
  5. 議事の公開
    会議の議事の公開については,会議の決定に基づくものとする。
  6. 庶務
    • (1) 会議の庶務は,文化庁文化財部伝統文化課において処理する。
    • (2) 会議の庶務の処理に当たっては,総務省情報通信政策局コンテンツ流通促進室及び自治行政局地域情報政策室の協力を得る。

文化遺産情報化推進戦略会議委員名簿

(平成15年4月18日現在)

  • 座  長  末松 安晴  国立情報学研究所長
  • 副座長   野崎  弘  独立行政法人国立博物館理事長
  • 委  員  青柳 正規  東京大学大学院人文社会系研究科教授
  • 委  員  安達  淳  国立情報学研究所情報学資源研究センター長
  • 委  員  五十嵐耕一  財団法人 日本博物館協会専務理事
  • 委  員  遠藤 安彦  財団法人 地域創造理事長
  • 委  員  梶原  拓  岐阜県知事
  • 委  員  加藤 恒夫  大日本印刷株式会社ICC本部長
  • 委  員  神内 俊郎  株式会社 日立製作所試作開発センタ長
  • 委  員  小林  実  財団法人 地域活性化センター理事長
  • 委  員  佐々木正峰  独立行政法人国立科学博物館長
  • 委  員  竹内  誠  東京都江戸東京博物館館長
  • 委  員  棚橋 康郎  社団法人 日本経済団体連合会情報通信委員会情報化部会長
  • 委  員  辻村 哲夫  独立行政法人国立美術館理事長
  • 委  員  土屋登喜蔵  社団法人 日本民間放送連盟著作権専門部会長
  •                  (株式会社フジテレビジョン執行役員ライツ開発局長)
  • 委  員  徳川 義宣  財団法人 徳川黎明会徳川美術館館長
  • 委  員  東田 収司  凸版印刷株式会社専務取締役
  • 委  員  森西 真弓  池坊短期大学文化芸術学科助教授・上方芸能編集長
  • 委  員  安田  浩  東京大学国際・産学共同研究センター長
  • 委  員  安原 隆一   日本電信電話株式会社サイバーコミュニケーション総合研究所長
  • 委  員  早稲田祐美子 弁護士
  • 委  員  渡邊 明義  独立行政法人文化財研究所理事長

専門調査会について

平成15年4月25日
文化遺産情報化推進戦略会議決定

  1. 趣旨
    「文化遺産情報化推進戦略会議について」(平成15年4月18日文化庁長官決定)に基づき,文化遺産に関する情報化の推進に係る専門的な事項に関し調査検討を行うため,専門調査会を開催する。
  2. 検討事項
    • (1) 文化遺産のインターネット上での総覧の実現について
    • (2) その他文化遺産に関する情報化の推進に係る専門的な事項について
  3. 構成
    座長が指名する委員及び専門委員により構成する。

専門調査会委員名簿

(平成15年4月25日現在)

  • 主  査  安達  淳   国立情報学研究所情報学資源研究センター長
  • 委  員  青柳 正規   東京大学大学院人文社会学系研究科教授
  • 委  員  森西 真弓   池坊短期大学文化芸術学科助教授,上方芸能編集長
  • 専門委員   石倉 亮治   財団法人 千葉県文化財センター上席研究員
  • 専門委員   神門 典子   国立情報学研究所人間・社会情報研究系助教授
  • 専門委員   小森 隆夫   日本放送協会マルチメディア局アーカイブス部長
  • 専門委員   清水 宏一   京都デジタルアーカイブ研究センター副所長
  • 専門委員   真野 俊和   筑波大学歴史・人類学系教授
  • 専門委員   高島 秀之   文教大学情報学部教授
  • 専門委員   高見沢明雄   東京国立博物館事業部情報課長
  • 専門委員   萩原 恒昭   凸版印刷(株)法務部長
  • 専門委員   四辻 秀紀   財団法人 徳川黎明会徳川美術館企画情報部部長代理

審議経過

(文化遺産情報化推進戦略会議)

  • 第1回  平成15年 4月25日
    • 議事の公開について
    • 文化遺産に関する情報化の総合的な推進戦略について
  • 第2回  平成15年 7月 2日
    • 文化遺産のインターネット上での総覧の実現について
    • 文化遺産情報化推進戦略会議専門調査会第一次報告について
    • 文化遺産の情報化において当面推進すべき事項について
  • 第3回  平成15年 7月28日
    • 文化遺産情報化推進戦略中間まとめについて

(専門調査会)

  • 第1回  平成15年 5月22日
    • 文化遺産のインターネット上での総覧の実現について
    • 文化遺産情報化推進戦略に関する検討課題について
  • 第2回  平成15年 6月 6日
    • 文化遺産情報化推進戦略に関する検討課題について
  • 第3回  平成15年 6月16日
    • 文化遺産情報化推進戦略会議専門調査会調査検討中間報告について
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