伝統文化を活かした地域おこしの視点と実践

平成12年3月
文化庁

伝統文化を活かした地域おこしの視点と実践
（概　要）

1　背景と目的

(1)背景
　中山間地域等では，地域の個性豊かな祭礼行事，民俗芸能，伝統工芸等が伝承されており，また，歴史的な建造物・町並みや史跡等も多く残されている。しかしながら，昨今の当該地域における過疎化，少子化・高齢化の進行，生活環境等の整備の遅れ，農林水産業の不振等の中で，伝統文化はその地域の生活や産業と密接に結び付いているがゆえに，喪失，消滅の危機にさらされている。
　他方で，これらの伝統文化を積極的に保存・活用し，地域おこしへの取組を行っている例も見られ，例えば，地域に広く分布する文化財を関連した形で面的かつ一体的に捉えて，周辺の環境も含めて総合的に理解させる「エコミュージアム」等の取組が具体的に進められている。
　また，「グリーンツーリズム」や「エコツーリズム」に見られるように，都市から中山間地域等を訪れて行う歴史，文化，自然の豊かな環境の中での体験学習・人的交流活動に対する関心の高まりを受けて，新しいルートや体験型の観光の設定，歴史的宿泊施設の整備や良質な食材の提供，地元の工芸品，特産物の販売等伝統産業，地域商工業，観光産業，農林水産業等との一体的な取組も進められつつある。
　さらに，近年，地域おこしへの地域住民やボランティア，民間団体等の自発的かつ積極的な活動への参加，取組が活発化しており，これらへの支援も求められているところである。

(2)目的
　中山間地域等に残る個性豊かな地域の伝統文化は，次世代に継承していくべき国民共通の財産であり，自らの地域を見つめ直して地域の伝統文化を発見し，その継承に向けた自主的な取組を進める。
　また，地域の伝統文化を支える地域住民や民間企業との連携を図りながら，その一体的・総合的な保存及び活用を進めることで，地域の魅力を創出する。
　さらに，地域の伝統文化の保存及び活用により，地域間の交流を活性化するとともに，関連産業との連携を図る。
　こうした取組を通じて，地域内での適正な循環を図りつつ，地域の伝統文化の活性化，そして，地域の持続的な活性化を進める。

(3)本書のねらい
1)本書の性格
　本書は，伝統文化を活かした地域おこしを現在行っている，または，考えている自治体，地域住民，NPO等を対象に，取組を進めるうえでの視点と取組のポイント，そして，各地での具体的な取組事例を示すものである。
　「視点」は伝統文化の保存及び活用の目標を示すものであり，それを実現するための取組への基本的な考え方を「取組のポイント」としてあげている。
　「取組事例」は，「取組のポイント」に沿った取組の事例をあげている。これらの「事例」は市町村アンケートやヒアリング，検討委員会における意見，参考資料等をもとに抽出したものであり，１つの視点について異なるアプローチによって展開している事例を組み合わせている。
また，17頁以降には6市町村を例として，複数の取組を視点ごとに整理し，取組相互の関連とそこで活用した制度・事業を参考として示している。

2)本書の対象とする伝統文化
　本書において保存及び活用の対象とする伝統文化は，国指定，地方指定の文化財にとどまらず，地域固有の伝統文化を広くとらえる。例えば，以下のようなものがあげられる。
　例：歴史的な建造物・町並み，農山漁村風景，史跡・名勝・天然記念物，祭り・伝統行事・民俗芸能，工芸技術，文化財の保存技術，食文化，生活文化　等

3)本書の対象とする地域
　本書における「地域」の範囲は，市町村に限らず，同一文化圏といった広域も対象とする。

4)活用の仕方
　目標となる視点を4点挙げているが，この全てを順に達成していくことを示唆したものではなく，取組を進める上で，あるいは今後の取組を考える上での参考として，多面的な視点を示したものである。そのため，それぞれの地域の状況や関心に応じて，取組をどの視点から始めることもできると考える。
　例えば，「交流」には既に取り組んでいる場合に，さらに「継承」「発展」といった取組を考え，地域住民の自主的な取組を醸成する。また，これから取り組む場合には，「継承」として，まず伝統文化を発見し，今後その保存及び活用を考えていくといった活用方法を想定している。

5)本書の構成