(1)放送の同時再送信の円滑化
○第102条第3項の構造
第102条第3項は,次のような要素から成り立っています。
- [1] 著作隣接権の目的となっている実演であって放送されるものは,
- [2] 専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として,
- [3] 送信可能化(公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものに限る。)を行うことができる。
- [4] ただし,当該放送に係る第99条の2に規定する権利を有する者の権利を害することとなる場合はこの限りではない。
なお,改正法では「IPマルチキャスト」という文言は登場していません。技術は日々進歩していることから,著作権法では,特定の技術に着目するのではなく,利用態様に着目した規定ぶりとされています。
○放送の同時再送信([1]について)
[1]は,同項による権利制限の対象となる実演について,「著作隣接権の目的となる実演」であって「放送される実演」であることを意味するものですが,ここでのポイントは,「放送されるもの(実演)」という表現です。ここで,「放送された実演」ではなく,「放送される実演」と規定することにより,「過去に放送されたことがある実演」ということではなく,「同時再送信」だけが想定されていることになります。この規定ぶりは,同様の立法趣旨に基づき規定されている他の類似の規定(第92条第2項第1号など)と同様のものです。
○放送対象地域制限([2]について)
[2]は,放送を同時再送信する範囲について,専ら当該放送について定められている放送対象地域内において同時再送信する場合に限られることを意味する要件です。ここで「専ら」とは,実際に受信者の全てが放送対象地域内において受信することを意味するものです。
「放送対象地域」の範囲については,次の問をご覧ください。
○入力型自動公衆送信([3]について)
[3]は,権利制限される実演家の権利について規定しているものです。放送の同時再送信は,蓄積を伴わずに行うことが想定されており,これを「入力型」といいます(逆に,蓄積を伴うものを「蓄積型」といいます)。IPマルチキャスト放送は著作権法上の「入力型自動公衆送信」に該当します。
ただし,著作権者には「自動公衆送信権」がありますが,実演家のような著作隣接権者には自動公衆送信権はありません。しかし,自動公衆送信をなし得るようにする権利を持っており,これを「送信可能化権」といいます(第92条の2等)。したがって,同項では,実演家の「送信可能化権」を制限しており,また,その範囲も,「蓄積型」ではなく「入力型」が対象であることが明示されています(「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものに限る。」)。
○ただし書の内容([4]について)
第99条の2は,放送事業者の送信可能化権に関する規定です。放送を送信可能化するには当該放送を行う放送事業者の許諾を得ることが必要であり,当該許諾が得られていない放送の同時再送信については,実演家の権利も制限されないこととなります。