著作物等の保護期間の延長に関するQ&A

問1 保護期間とは何ですか。

(答)

著作権や著作隣接権などの著作権法上の権利には一定の存続期間が定められており,この期間を「保護期間」といいます。

これは,著作者等に権利を認め保護することが大切である一方,一定期間が経過した著作物等については,その権利を消滅させることにより,社会全体の共有財産として自由に利用できるようにすべきであると考えられたためです。

改正前の著作権法においては,著作物等の保護期間は原則として著作者の死後50年までとされていましたが,環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号。以下「TPP整備法」という。)による著作権法の改正により,原則として著作者の死後70年までとなります。著作物等の保護期間に係る改正の概要については,以下のとおりとなります。

図1

問2 保護期間はどのように計算しますか。

(答)

計算方法を簡単にするため,すべての期間は,死亡,公表,創作した年の「翌年の1月1日」から起算します(第57条)。改正後の著作権法では,例えば,手塚治虫さんの著作物は,手塚さんが平成元(1989)年に亡くなられましたから,平成2(1990)年1月1日から起算して,70年後の,2059年12月31日まで保護されることとなります。

問3 TPP11協定の発効日が平成30年12月30日となったことにより,著作物等の保護期間はどのように変わりますか。

(答)

TPP11協定の発効日が平成30(2018)年12月30日となったことにより,著作物等の保護期間の延長を含めた著作権法改正が同日から施行されることとなり,原則として昭和43年(1968年)以降に亡くなった方の著作物の保護期間が延長されることとなります。具体的には,昭和43年(1968年)に亡くなった方の著作物の保護期間(原則)は平成30(2018)年12月31日まででしたが,平成30(2018)年12月30日付けで著作者の死後50年から70年に延長されることになり,20年長く著作物が保護されることとなります。

例えば,藤田嗣治さんの著作物は,藤田さんが昭和43(1968)年に亡くなられましたから,昭和44(1969)年1月1日から起算して,これまでは50年後の,平成30(2018)年12月31日まで保護されるとされていましたが,TPP整備法による著作権法の改正により,70年後の,2038年12月31日まで保護されることとなります。

図2

問4 既に保護期間が切れている著作物等の保護期間はどのようになりますか。

(答)

著作権法においては,一度保護が切れた著作物等については,その保護を後になって復活させるという措置は採らないという原則があるため,改正法の施行日である平成30(2018)年12月30日の前日において著作権等が消滅していない著作物等についてのみ保護期間が延長されます(TPP整備法附則第7条)。したがって,既に保護期間が切れているものについては,遡って保護期間が延長されるわけではありません。

問5 保護期間の延長により,外国人の著作物の保護期間はどのようになりますか。

(答)

原則として,条約上保護義務を負う外国人の著作物の保護期間は,我が国の著作権法の仕組みによることとされているため,我が国における外国人の著作物の保護期間も原則として70年に延長されることとなります。ただし,相互主義により,我が国より保護期間が短い国の著作物は,その相手国の保護期間だけ保護されます(第58条)。例えば,ある国で著作物の保護期間が著作者の死後70年であれば,我が国でも当該国の著作物は70年間保護することとなります。他方,ある国で著作物の保護期間が著作者の死後50年であれば,我が国の保護期間が延長された後も,我が国でも当該国の著作物は50年間保護すれば足りることとなります。

問6 保護期間の延長により,外国における我が国の著作物の保護期間はどのようになりますか。

(答)

著作物等の保護期間が原則著作者の死後70年としている国において,相互主義が採用されている場合には,これまでこれらの国において我が国の著作物は原則著作者の死後50年までしか保護されていませんでしたが,今回我が国が著作物等の保護期間を延長することで,これらの国における我が国の著作物の保護期間は70年に延長されることとなります。

問7 保護期間の戦時加算とはどのようなものですか。

(答)

サンフランシスコ平和条約に基づき,我が国がベルヌ条約等により著作権を保護する義務を負っていた連合国及び連合国の国民が戦前又は戦中に取得した著作権の保護期間については,通常の保護期間に,昭和16(1941)年12月8日(開戦時)から当該国とのサンフランシスコ平和条約発効の前日までの期間の日数(例えば,米国やオーストラリアについては3794日)(戦中に取得した著作権については取得時から起算)を加算することとなっています(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律第4条)。

問8 現在戦時加算期間となっている著作物の保護期間はどのようになりますか。

(答)

問4に記載のとおり,TPP整備法の施行日である平成30(2018)年12月30日の前日において著作権等が消滅していない著作物等についてのみ保護期間が延長されるところ,同日(平成30(2018)年12月29日)において戦時加算期間となっている著作物は,戦時加算によって通常の保護期間に戦時加算期間が加算されていることにより,現在も著作権が消滅していない著作物に当たるため,保護期間は50年から70年に延長されます。

問9 戦時加算の対象となる著作物の保護期間は,70年に加えて戦時加算分が保護されるのですか。

(答)

法的には,保護期間70年に加えて戦時加算分が保護されることとなります。我が国は,戦時加算義務を定めるサンフランシスコ平和条約上の権利義務を法的に変更することは現実的には困難であることも考慮し,戦時加算問題の現実的な打開に向け,TPP交渉においては,我が国が戦時加算義務を負っている国(米国,カナダ,ニュージーランド,オーストラリア)の各政府との間で個別に文書で,

(1)戦時加算問題への対処のため,権利管理団体と権利者との対話を奨励すること

(2)必要に応じて,これらの対話の状況及び他の適切な措置を検討するため,政府間で協議を行うこと

を確認しています(TPPを離脱した米国との間では,平成30(2018)年4月に,改めて文書で確認しています)。また,日EU・EPA交渉においても,関係国(英,仏,蘭,ベルギー,ギリシャ)との間で同様の文書による確認を行っています。この文書によって,権利管理団体の取組及びそれを政府間で後押しすることを通じて,対象国において戦時加算分については権利行使しないという対応が期待され,問題の現実的な打開に向けた一歩となっています。

問10 旧著作権法下で保護を受けていた著作物の保護期間はどのようになりますか。

(答)

旧著作権法(明治32(1899)年制定,以下「旧法」という)と現行著作権法(昭和46(1971)年1月1日施行)では著作物の保護期間が異なっていますので,旧法の時代に公表又は創作された著作物の著作権が存続しているか否かを考える際には,旧法及び現行著作権法の保護期間の規定を調べる必要があります。

旧法及び現行著作権法における著作物の保護期間は,数次にわたる改正の結果,次の表のようになっています。

図3

  • ※1 無名・変名により公表された後,昭和45(1970)年12月31日までの間に実名登録を受けたものについては,保護期間は,著作者の死後38年間となります。
  • ※2 旧法の時代の著作物のうち,昭和46(1971)年1月1日以降において,かつ,公表後50年が経過するまでの間に,実名登録を受けたもの又は実名・周知の変名により公表されたものについては,保護期間は,著作者の死後50年間となります。
  • ※3 旧法の時代の著作物のうち,昭和46(1971)年1月1日以降において,かつ,公表後50年が経過するまでの間に,実名・周知の変名により公表されたものについては,保護期間は,著作者の死後50年間となります。
  • ※4 平成8年著作権法改正以降は、映画以外の著作物と同様の扱いになります。

法改正により保護期間の長さが変更される場合は,それぞれの改正法の施行の際,現に著作権が消滅していないもののみが,変更された保護期間の適用を受けます。なお,旧法の時代の著作物の保護期間については,変更後の保護期間と比べて,旧法に定められた保護期間の方が長い場合は,その長い保護期間が適用されます。

例えば,昭和45(1970)年に亡くなった著作者による,生前に実名で公表された小説の保護期間は,旧法では平成20(2008)年まで(死後38年間)保護されることとなっていましたが,昭和46(1971)年1月1日の現行著作権法の施行時に著作権が消滅していないため,2020年まで(死後50年間)保護されることとなりました。さらに,このたびの平成30(2018)年12月30日の著作権法改正時にも著作権が消滅していないため,2040年まで(死後70年間)保護されることとなります。

問11 旧著作権法下で保護を受けていた実演(演奏・歌唱),レコードの保護期間も20年延長されるのですか。

(答)

旧法においては,演奏・歌唱及びレコードは著作権により保護されており,その保護期間は著作者の死後30年(団体名義は発行後30年)となっていました。

現行著作権法では,[1]旧法の著作権の保護期間が現行著作権法の著作隣接権の保護期間より長い場合は,旧法による保護期間とし,さらに,[2]この旧法の保護期間が新法施行の日から50年よりも長くなるときは,現行著作権法によって新しく保護される実演等との均衡を考慮して,現行著作権法施行後50年(2020年12月31日)をもって打ち切ることとされています(附則第15条第2項)。

このたび,実演家及びレコード製作者の権利の保護期間を50年から70年に延長することから,[1]における現行著作権法の保護期間は50年から70年となり,旧法の規定による保護期間の方が長い場合は,旧法の規定により計算されます。[2]の場合,旧法により保護されている実演又はレコードの保護期間の打切り時が現行著作権法施行時50年から70年に延長されます。

[1]旧法の著作権の存続期間が現行著作権法の著作隣接権の存続期間よりも長い場合

図4

[2]旧法の存続期間が現行著作権法施行の日から50年よりも長くなる場合

図5

問12 保護期間内の著作物は使えないのですか。

(答)

他人の著作物を利用する場合は,原則として権利者の了解を得る必要があります。なお,「権利制限規定」による例外の場合は,著作権者の了解を得る必要はありません。「権利制限規定」による例外とは,私的使用のための複製や教育目的での利用,図書館・美術館・博物館等,福祉目的での利用など,様々な例外があります。

問13 許諾を得ようと思っても権利者と連絡がとれないのですが,どのようにすればよいのでしょうか。

(答)

権利者の許諾を得る代わりに,文化庁長官の裁定を受け,通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより,著作物を適法に利用することができます(第67条,第67条の2,第103条)。詳細は文化庁ウェブサイト

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/)を御覧ください。

ページの先頭に移動