平成9年度「国語に関する世論調査」の結果について

文化庁

Ⅰ.調査目的・方法等

調査目的 日常生活の中の敬語その他の言葉にかかわる問題について,また,外来語などの理解度について,国民の意識や実態を調査し,国語審議会の審議の参考に供するなど,今後の施策の参考とする。
調査対象 全国の16歳以上の男女3,000人
調査時期 平成9年11月28日~12月17日
調査方法 個別面接調査
回収結果 有効回収数(率) 2,190人(73.0%)

Ⅱ.調査結果の概要

1.言葉遣いについての意識〈Q1〉

 自分自身の言葉遣いについて,ふだん「非常に気を使っている」人と「ある程度気を使っている」人を合わせると67.3%となり,「余り気を使っていない」人と「全く気を使っていない」人を合わせた32.6%の2倍以上に達する。

2.意見の表明や議論などについての意識〈Q2〉

 自分の考えや意見の表現について,「積極的に表現する方だ」という人(40.1%)は,「消極的な方だ」という人(35.1%)より少し多いが,人と意見が食い違っているときには,「なるべく事を荒立てないで収めたい方だ」という人が50.7%であるのに対し,「納得がいくまで議論したい方だ」という人は27.1%にとどまる。

3.ふだんの言い回し(贈物をするときや,会議などで提案をするとき)〈Q3〉

 ふだん,人に贈物をするときに,「つまらないものですが」などと謙遜する人は51.4%,「苦労して選びました」「とてもおいしいんですよ」などと,そのものの良さを表す言葉を添える人は18.4%である。

4.人間関係と敬語(敬語を使って話すべき相手か)〈Q5〉

 ある人にとって,別の人が敬語を使って話すべき相手だと思うかどうかを,10の例を挙げて尋ねたところ,「敬語を使って話すべき相手だと思う」の割合が最も高いのは,「学生・生徒にとって教師」(83.7%)で8割を超えた。次いで,「店の人にとって店の客」(75.9%),「ものを頼む立場の人にとってものを頼まれる立場の人」(75.8%),「患者にとって医師」(74.7%)は4人に3人の割合で「敬語を使って話すべき相手だと思う」と答えている。以上は,恩恵の受け手と与え手の関係と言える。
 次に,「年下の人にとって年上の人」(68.5%),「学校のクラブの後輩にとって同じクラブの先輩」(60.4%)という,年齢の上下や集団の中での立場の上下では,6割台の人が下位者にとって上位者が「敬語を使って話すべき相手だと思う」と答えた。
 「医師にとって患者」「店の客にとって店の人」は「恩恵を与える側にとって恩恵を受ける側」ということになるが,それぞれ42.7%,26.5%が「敬語を使って話すべき相手だと思う」と答え,「場合によると思う」も入れれば6割~7割台の人が,敬語を使って話すべき相手だと考えていることになる。
 一方,非常に親密な関係である家族の場合は,「子にとって親」は22.9%,「年下のきょうだいにとって年上のきょうだい」は15.0%と,「敬語を使って話すべき相手だと思う」割合が1~2割台と低く,「敬語を使って話すべき相手だとは思わない」の割合の方が高くなっている。ただし,「場合によると思う」も3割前後となっており,年齢・場面・話題などによっては,敬語を使って話すべき場合があると考えているものと推定される。

5.場面と敬語(会社で部下が上司に対して,小売店とデパートにおける店員と親しい客)〈Q7,Q8,Q9〉

 会社に勤めている人が,上司である課長に対して敬語を使うべきかどうかを,四つの場面について尋ねたところ,「敬語を使って話すべきだと思う」人の割合は,「会社での仕事中」では85.9%と8割台半ばに達するが,「買物先の店で出会ったとき」(57.2%),「社員旅行に行って,ほかの社員もいる部屋で話すとき」(52.6%)は5割台である。最も低い「仕事の後,二人で飲みに行った酒場で話すとき」は36.2%で,「会社での仕事中」と50ポイントの差が見られる。ただし,「仕事中」以外では,「話題によると思う」も2割~3割程度見られる。
 また,店員の親しい友人が買物に来たとき,店員は敬語を使ってその人と話すべきだと思うか,それとも,ふだんどおりの打ち解けた話し方でよいと思うかを,近所の小売店の場合,デパートの場合について尋ねたところ,近所の小売店の場合,「ふだんどおりの打ち解けた話し方でよいと思う」(65.5%)が「敬語を使って話すべきだと思う」(23.0%)の3倍近くであるのに対し,デパートの場合は「ふだんどおりの打ち解けた話し方でよいと思う」が44.0%,「敬語を使って話すべきだと思う」が43.7%と,ほぼ同率であった。
 敬語は上位の人(地位が上の人や,恩恵を与えてくれる人など)を高める働きがあるが,場面の改まりの度合いなどによって,同じ相手に対しても使われ方が大きく異なることが分かる。

6.性別と言葉遣い(言葉遣いが変わるか)〈Q10〉

 相手が自分と同性であるか異性であるかによって,自分の言葉遣いの丁寧さが変わるかどうかを尋ねたところ,「変わらないと思う」が56.2%,「変わると思う」は34.6%であった。性・年齢別に見ると,女性は年齢が上がるほど「変わると思う」の割合が高くなる傾向があり,男性では40台で「変わると思う」割合がやや高く,20台でやや低いものの,年齢層による大きな差は見られない。
 次に,言葉遣いの丁寧さが「変わると思う」と答えた人に,丁寧さがどう変わるかを尋ねたところ,「異性と話すときの方が,同性と話すときより丁寧な言葉遣いになると思う」が80.5%と8割を占めた。

7.外部への言い方(会社の受付の人,学校の先生,病院の医師)〈Q12,Q13,Q14〉

 会社の受付の人が外部の人に,自分の会社の鈴木課長のことをどのように言うのがいいかを尋ねたところ,「鈴木は…」(48.4%)が5割弱,「鈴木課長は…」(43.0%)が4割強で,「鈴木さんは…」は5.3%であった。これに対し,学校の先生が生徒の保護者に同僚の先生のことを話す場合と,病院の医師が大人の患者に同僚の医師のことを話す場合は,共に,「○○先生は…」が8割強,「○○は…」が約1割,「○○さんは…」は3%台であった。学校の先生や病院の医師の場合には,内部の人が外部の人に話す場合にも,「先生」という敬称を付ける言い方が好まれていることが分かる。

8.敬語の正誤〈Q17〉

 (4)「(担任の先生に)あす父がまいりますが,お目に掛かっていただけませんか」の下線部では敬語が正しく使われておらず,(3)「先ほど中村さんがお話しされたように」,(7)「この電車には御乗車できません」の下線部も,従来の規範的な立場から言うと正しい言い方ではないが,(4)については42.4%,(3)については72.6%,(7)については63.2%の人が,「敬語が正しく使われていると思う」と答えた。(それぞれ,「お会いになって」,「お話しになった」,「御乗車になれません」とすれば正しい。)
 (5)の「申される」は会議などで,(8)の「おられる」は一般的にかなり使われていて,一概に誤用だとは言えないが,「申される」については「言われる」「おっしゃる」を使う方が無難だとされており,「おられる」も,「おる」は本来謙譲語であるのに,それに尊敬の助動詞「れる」を付けて尊敬語として用いた誤用だと考え,違和感を持つ人もある。今回の調査では,「ただいま会長が申されたことに賛成いたします」については56.7%,「総務課の武田さんは,どちらにおられますか」については64.4%と6割前後の人が,「敬語が正しく使われていると思う」と答え,それぞれ36.5%,30.0%と3割台の人が「正しく使われていないと思う」と答えた。

9.失礼か否か(「コーヒーがお飲みになりたいですか」など)〈Q19〉

 敬語の使い方は間違っていなくても,話題や言葉の選び方によって,相手への敬意を欠いていると感じられる場合がある。そのような可能性のある四つの例について尋ねた(なぜ失礼だと感じられるのかについては報告書を参照)。
 会社で,上司である部長に対して「いい時計ですね。幾らしましたか」と尋ねることが,部長に対して「失礼だと思う」人は77.5%と8割弱に達し,「失礼だとは思わない」は16.5%であった。部長に対して「コーヒーがお飲みになりたいですか」と尋ねることについては,「失礼だと思う」は52.0%と半数強,「失礼だとは思わない」は38.3%と4割弱であった。
 テレビのレポーターが高齢の女性に「おばあちゃん」と呼び掛けることについては55.2%の人が,呼び掛けられた女性に対して「失礼だと思う」と答え,広告に「このカメラは女性でも簡単に扱えます」と書くことについては47.5%の人が,女性一般に対して「失礼だと思う」と答えた。

10.気になる言い方(「……じゃないですか」)〈Q22〉

 「……じゃないですか」という言い方について,状況の異なる三つの例を挙げて,どんな感じがするかを尋ねた。まず,(1)「(店員に反論して)広告には5割引きと書いてあるじゃないですか」については,「普通の言い方だと感じる」が39.2%と約4割で,「押し付けがましい言い方だと感じる」は33.5%,「唐突な言い方だと感じる」は19.8%であった。次に,(2)「(近所の人との会話で)年末はどこの店も込むじゃないですか」については,「普通の言い方だと感じる」が58.7%と6割近くに達し,「親しみのある言い方だ」と好感を持つ人も16.9%見られた。「押し付けがましい」「唐突」と抵抗感を示した人は計約2割であった。(3)「(初対面の人に)私ってコーヒーが好きじゃないですか」については,「唐突」が45.9%とほぼ二人に一人に上り,「押し付けがましい」も26.0%見られた。
 (1)は聞き手が当然知っているはずの事実を突き付けて確認・同意を求める言い方であるが,(2)は一般的な認識として聞き手が知っていると期待される事柄について,(3)は聞き手が知っているとは期待できない話し手の個人的な事柄について言ったものである。(2)(3)は近年多く聞かれるようになり,新聞の投書欄などで「不快だ」という意見も見られる。今回の調査では,(2)については抵抗を感じる人の割合が低く,(3)については高いという結果になっている。

11.外来語などの認識〈Q23〉

 「JA」は,聞いたり見たりしたことのある人の割合(以下,認知度という。)が82.1%に達し,「意味が分かる」と答えた人の割合(以下,理解度という。)も71.9%と高い。JAに次いで認知度が高いのは「エコロジー」(76.6%),「アイテム」(62.4%),「Tゾーン」(55.0%)であるが,これらの語の理解度は3割台である。「ボーダーレス」(47.9%),「ODA」(47.5%),「ディベート」(40.8%)は,認知度が4割から半数近くに達するが,理解度は2割台である。提示した八つの言葉の中で認知度が最も低いのは「ISDN」で31.7%,理解度も15.6%と低い。「Tゾーン」は認知度,理解度とも男性よりも女性の方が高いが,それ以外の7語については男性の方が女性よりも理解度が高い。中でも「ODA」の理解度は男性の34.1%に対し,女性は14.3%にとどまっている。

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販売価格 1,360円(税別)
お問い合わせ先 霞が関政府刊行物サービスセンター
電話 03-3504-3885
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