東日本大震災から1年を迎えて

平成24年3月11日
文化庁長官 近藤誠一

 昨年の東日本大震災から一年を迎えるに当たり,尊い命を奪われた方々に,改めて衷心より哀悼の意を表します。また今なお厳しい生活環境に置かれている被災者の方々に対しても,心からお見舞いを申し上げ,その復旧・復興へのたゆみない御努力に敬意を表します。

 またこの機会に,文化芸術分野での復旧・復興に御寄附を頂いた内外の方々や,現地や日本のみならず世界各地でチャリティー公演や美術品のオークション等を行い,被災者の方々に物心両面で温かい御支援を頂いたアーチストの方々に,心からお礼を申し上げます。日本には世界に多くの友達がいること,そしてアートには国境や文化を越えて人々を結び付ける強い力があることを改めて実感しました。さらに,文化財の修復・復旧のための事業に専門家を派遣いただいた各研究所・大学等や,被災地の文化芸術振興のための仕組み作りに御協力いただいた芸術関連団体の皆様にもお礼を申し上げます。

 文化庁は,様々な方々の協力を得て,大震災直後から様々な活動を行ってきましたが,それらを類型別に整理すると以下のようになります。

  1. (ア) 文化財・文化会館等の被災状況や,公演等への影響の把握・調査
  2. (イ)被災した文化財・文化施設の修理・復旧
  3. (ウ)修理・復旧に必要な予算の確保,内外からの寄附の呼び掛け
  4. (エ)被災地の学校や避難所の子供たちを元気付けるための文化芸術体験機会の提供
  5. (オ)文化芸術による復興支援活動のために,芸術家や団体等と被災地をつなぐ新たな仕組みの構築
  6. (カ)いわゆる風評被害を軽減するためのメッセージの発出や,文化行事への外交団の招待
  7. (キ)過剰な公演等自粛ムードを差し控えることの呼び掛け

 これらの事業の詳細は下記のリンクを御参照いただきたく思いますが,幾つか注目すべき点を挙げれば以下のとおりです。

  1. 被災した文化財は,国指定のものを中心に見ても,1都18県で計744件に上り,阪神・淡路大震災の際の173件を大きく上回ること。しかし幸い国宝級のものの被災は5件にとどまったこと。
  2. 文化財の復旧は,かなり早い時期から美術工芸品等を対象とする「文化財レスキュー事業」を開始し,また新たに建造物を対象とする「文化財ドクター派遣事業」を立ち上げることができた等,阪神・淡路大震災の教訓が十分生かされたこと。またここでは国指定の文化財以外のものも対象にしたこと。
  3. 修復に必要な費用は,補正予算を中心に相当程度の財源が確保できるとともに,2億円超に上る民間からの寄附が得られたこと。また初めて海外からの寄附を受ける体制を作ったこと。
  4. 文化施設は290施設が被災し,被災者の方々が必要とする文化芸術活動の再開が思うように始められなかったこと。
  5. 音楽等の多くの公演が自粛により中止・延期され,また海外からのアーチストの訪日や美術品の貸与が直前にキャンセルされ,相当程度の追加的経済負担を関係団体に与えたこと。
  6. 阪神淡路大震災に比して,かなり早い時期から文化芸術による精神的勇気付けが欲しいという声や,失われた伝統芸能等の復活を望む声が被災者の方々から直接又はメディアを通して聞かれるなど,生活の中で文化芸術の持つ大きな力が確認されたこと。
  7. こうした文化芸術による心のケアや地域コミュニティーの再興のために,現地のニーズとアーチストのオファーをいかにきめ細かくマッチングするかが当初より大きな課題であったが,ようやくアーチストを派遣して子供たちに文化芸術を体験してもらう事業(上記(エ))が昨年9月開始され,また芸術家等と被災地をつなぐ仕組み(上記(オ))を4月から新たに立ち上げる準備ができつつあること。
  • (写真1)日光輪王寺慈眼堂廟塔の復旧工事(財団法人日光社寺文化財保存会提供)

    (写真1)
    日光輪王寺慈眼堂廟塔の復旧工事
    (財団法人日光社寺文化財保存会提供)

  • (写真2)美術工芸品の応急措置の様子

    (写真2)
    美術工芸品の応急措置の様子

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