別紙7

世界遺産暫定一覧表記載文化資産

「北海道・北東北の縄文遺跡群」
「金と銀の島,佐渡-鉱山とその文化-」
「九州・山口の近代化産業遺産群- 非西洋世界における近代化の先駆け」
「宗像・沖ノ島と関連遺産群」
「百舌鳥・古市古墳群-仁徳陵古墳をはじめとする巨大古墳群-」
(※)

※本資産は,世界遺産に係る評価や管理に対応し得るかという世界遺産暫定一覧表に記載する上での基本的な条件に関する課題が存在する。そこで,本資産については,現時点においては顕著な普遍的価値を有する可能性が高い文化資産として「世界遺産暫定一覧表記載文化資産」として整理し,世界遺産暫定一覧表に記載する上での課題について一定の見通しが示された段階で,本委員会における審議を経た上で,世界遺産暫定一覧表に記載することが望ましい。

提案資産名:北海道・北東北の縄文遺跡群

所在地
北海道(函館市・伊達市・森町・洞爺湖町)/青森県(青森市・八戸市・つがる市・外ヶ浜 町・七戸町)/岩手県(一戸町)/秋田県(鹿角市・北秋田市)
総合的評価
完新世の温暖湿潤な気候に基づく自然環境の中で,世界の他の地域の新石器文化に見られる農耕・牧畜とは異なり,約10,000年にもわたって継続した狩猟・漁労・採集の生活の実態を表す日本列島独特の考古学的遺跡群である。
日本の歴史のうち,このように長期にわたって継続した先史文化を表し,自然と人間との共生を示す考古学的遺跡として,顕著な普遍的価値を持つ可能性は高い。
ただし,北海道・北東北地域の縄文遺跡が物語る生態系や土器文化圏(円筒・亀が岡土器文化圏)に特に注目するとしても,縄文文化が持つ顕著な普遍的価値を証明するためには,北海道・北東北地域の遺跡のみでは必ずしも十分ではないことから,約10,000年に及ぶ時代の中でも,世界史的な観点から自然環境の変化と文化興隆との関係に着目し,縄文文化の特質及び日本列島における代表的な地域・年代等についてさらに検討することが必要である。
こうした点を踏まえ,文化庁が提案地方公共団体と協力しつつ,主題を北海道・北東北の縄文文化から,例えば落葉広葉樹林帯が広く展開する地域・年代の縄文文化に拡大した上で,円筒・亀が岡土器文化圏以外の土器文化圏に属するもののうち,世界史的・国際的に我が国の縄文文化を説明していく上で不可欠と考えられる特徴的かつ遺存状況の良好な遺跡の代表例を資産に含めることについて検討し,方向性を示すことが必要である。
課題等
○顕著な普遍的価値
  • 顕著な普遍的価値を持つ可能性は高く,評価基準iii), iv)を適用できる可能性は高いが,以下の点について検討を行うことが必要である。
    • 基準iii)の適用に当たっては,今は弥生時代以降の長い歴史の中で表面的には失われ,あるいは極めて希薄になってはいる日本の文化的伝統の源流を確実に示していることを具体的に証明すること。
    • 基準iv)の適用に当たっては,居住及び集落の構造が同時代の見本であることを具体的に証明すること。
○今後の課題
  • 文化庁は,提案地方公共団体協力の下に,北海道・北東北の遺跡群のみならず,他の地域の遺跡群を資産に含めることについて検討し,基本的な方向性を定めることが必要である。その方向性に基づき,関係地方公共団体は,現在の提案における構成資産の適否に関する精査を含め,世界遺産一覧表への記載推薦に向けて着実に準備作業 を進めることが必要である。
  • その際,世界史的・国際的な視点に立ち,我が国の縄文文化が持つ顕著な普遍的価値を確実に証明する観点から,構成資産を過不足なく含めるため,主題とする地域及び構成資産とすべき遺跡について慎重な吟味が必要である。
  • 上記の主題に沿って検討すべき構成資産としては,例えば,貝塚・墓地・低湿地といった各種遺跡をはじめ,石器・石製品の原産地遺跡や生産遺跡など,縄文時代の文化,生活や社会を説明する上で極めて重要かつ不可欠であるが,提案には十分に反映されていない遺跡などが考えられる。これらについては,落葉広葉樹林が広く展開する地域(東日本)と年代(縄文時代早期後葉:約7,000年前以降)に絞って,文化財としての保護が十分で,遺存状況が良好かつ調査が十分に行われており,その全容が判明しているものを対象としつつ,真に縄文文化の顕著な普遍的価値の証明に不可欠の代表的遺跡を厳選 していくことが必要である。
  • 本資産を世界遺産一覧表に記載推薦するに当たっては,こうした主題・構成資産にふさわしい推薦資産の名称に変更することが必要である。
  • さらに,先史時代の遺跡や地下に埋蔵されている遺跡については,これまで世界遺産一覧表に記載されている事例が乏しい状況も踏まえつつ,我が国の考古学研究の実績を世界的に発信しつつ,国際的な比較研究や専門家会合の開催等を通じ,縄文文化とその遺跡が持つ顕著な普遍的価値に関する国際的合意形成を十分に図っていく必要がある。
  • 真実性・完全性の証明のため,以下の各点を確実に満たしていくことが必要である。
    • 地下に埋蔵されている遺跡の真実性,及び復元的整備手法の信頼性について,比較研究や国際的な専門家会合の開催等を通じ,国際的な合意形成を図ること。
    • 文化発展の基盤となった落葉広葉樹林帯の自然環境が広く展開する地域(東日本)と年代(縄文時代早期後葉:約7,000年前以降)に着目し,それらを包摂する資産の種類について検討すること。
    • 当時の自然環境や文化,生活に関して多角的な科学的分析を用いて,より客観的な検証を行うこと。
    • 貝塚・墓地・低湿地といった各種遺跡をはじめ,道具の石材原産地遺跡や生産遺跡など,縄文時代の文化,生活や社会を説明する上で不可欠ではあるが,提案資産には十分反映されていない分野の遺跡を構成資産として含めることについて検討すること。
    • 長期にわたる時代に及ぶ一群の考古学的遺跡から成ることから,構成資産の相互の関連性と位置付けについて,十分に説得力のある説明を行えるよう,より体系的な整理を進めること。
  • 適切かつ十分な保存のため,以下の措置を講ずることが必要である。
    • 文化財としての保護が十分でないものについては指定又は追加指定を行うこと。
    • 条例等に基づいて,緩衝地帯を適切な範囲で設け,十分な内容の規制等を図ること。
    • 構成資産が極めて多種多様かつ広域に及ぶことから,暫定一覧表記載後の推薦準備とともに,記載後の保存管理等の課題解決に向け,関係者間での合意形成を十分に図れるよう,充実した体制を整備すること。

※ 暫定一覧表記載までに,東日本の落葉広葉樹林が広く展開する地域に分布する縄文遺跡群という主題のもと,「北海道,北東北などの縄文遺跡群」等の適切な名称を設定し,その名称で暫定一覧表に記載する必要がある。

提案資産名:金と銀の島,佐渡-鉱山とその文化-

所在地
新潟県(佐渡市)
総合的評価
石見銀山から導入した採掘・精錬の技術をもとに効率的な金銀生産システムを確立させ,国内外の鉱山開発に多大な影響を与えた鉱山遺跡を中心として,16世紀から20世紀の各段階における金銀生産の機構や鉱山と関連する土地利用の諸要素が残されている資産である。
16世紀に大陸からもたらされ,石見銀山に根付いた「灰吹法」を効率的な金銀生産機構に組み込み,国内各地の鉱山への伝播を通じて日本の鉱山開発を発展させた拠点的鉱山であり,関連する諸要素が良好に遺存することから,世界遺産一覧表に既に記載されている「石見銀山遺跡とその文化的景観」との組合せにより,顕著な普遍的価値を持つ可能性が高い。
課題等
○顕著な普遍的価値
  • 顕著な普遍的価値を持つ可能性は高く,評価基準ii), iii), v)を適用できる可能性は高いが,以下の点について検討することが必要である。
    • 基準ⅲ)の適用に当たっては,本資産が日本の鉱山に関連する優れた文化的伝統を示すものであることを証明する必要がある。
    • 基準ⅴ)の適用に当たっては,鉱山の生産活動に伴って形成された様々な関連資産が,優れた土地利用形態を現すものであることを証明する必要がある。
  • 評価基準ⅳ)の適用の可能性について,歴史上の重要な段階を物語る科学技術の集合体の観点から検討する必要がある。
  • 評価基準ⅵ)の適用の可能性については,慎重に検討することが必要である。
○今後の課題
  • 文化庁は,提案地方公共団体及び関係地方公共団体の緊密な協力の下に,「石見銀山遺跡とその文化的景観」と拡大・統合を図るべき資産として,主題・資産構成・資産名称等に関する十分な検討を行う必要がある。
  • 上記の検討の結果に従い,「石見銀山遺跡とその文化的景観」との拡大・統合により,世界史的・国際的な視点から,金銀採掘の技術発展において拠点を成した資産の代表例・典型例として,顕著な普遍的価値を持つことについて確実に証明することが必要である。
  • そのため,「石見銀山」との一層の比較研究を進めつつ,両鉱山の拠点性・代表性に関して,石見銀山から伝えられた「灰吹法」の佐渡における発展過程と,全国の鉱山採掘に与えた影響の観点から,他の国内事例との一層の比較や十分な資史料・考古学的物証に基づく更なる補強が必要である。
  • さらに,「石見銀山遺跡とその文化的景観」の世界遺産一覧表への記載に当たって世界遺産委員会が付した勧告を踏まえ,アジアを含む関係諸国における同種資産との比較研究を進め,本資産が他国の採掘技術に与えた影響について明確化する取組が必要である。
  • 資産の完全性を確保する観点から,主題に直接関係し,採掘技術及び鉱山経営の発展・進化の結果を表す諸要素と,それ以外のものとの厳密な区分を行い,構成資産としての適否について厳密に検証することが必要である。
  • 適切かつ十分な保存のために,以下の点について措置を講ずることが必要である。
    • 資産の主題を説明する上で必要とされる広大かつ多種多様な個々の諸要素については,国の文化財への指定又は選定の適否を慎重に吟味すること。
    • 景観法に基づく景観計画等により,資産の周辺環境の保全にとって必要な緩衝地帯の範囲を適切に設定し,十分な保全を図ること。
    • 構成資産が多種多様かつ広域に及び,所有者等も多岐にわたることから,保存管理等の課題解決に向け,関係者間での合意形成を十分に図れるよう,充実した体制整備について検討すること。

※暫定一覧表記載までに,「石見銀山遺跡とその文化的景観」との拡大・統合を図る資産として,「金と銀の島,佐渡(「石見銀山遺跡とその文化的景観」への統合)」等の適切な名称を設定し,その名称で暫定一覧表に記載する必要がある。

提案資産名:九州・山口の近代化産業遺産群-非西洋世界における近代化 の先駆け

所在地
福岡県(北九州市・大牟田市・飯塚市・田川市)/佐賀県(唐津市)/長崎県(長崎市)/熊本県(荒尾市・宇城市)/鹿児島県(鹿児島市)/山口県(下関市・萩市)
総合的評価
19世紀中頃,欧米列強のアジア進出への危機感の中で,江戸幕府や雄藩等が進めた自力による西洋技術の導入と,これを基礎として,明治維新後に九州・山口地域において,政府及び民間資本により進められた近代工業化の過程を示す一群の諸要素から成る産業遺産である。
非西洋地域において,最初でかつ極めて短期間に飛躍的な進展を遂げた日本の近代工業化は,世界史的にも特筆すべき事柄であり,その基礎としての幕末期の西洋技術の導入や,その後の近代工業化の過程を明確に示す資産として,顕著な普遍的価値を持つ可能性は高い。
課題等
○顕著な普遍的価値
  • 顕著な普遍的価値を持つ可能性は高く,評価基準ⅳ),ⅵ)を適用できる可能性は高いが,以下の点について検討することが必要である。
    • 基準ⅵ)の適用に当たっては,本資産がアジアにおける近代化成功のモデルを示すものであることを確実に証明する必要がある。
  • 基準ii)を適用するためには,西洋諸国からの技術の導入の観点からだけでなく,国内外の他の資産の技術的な発展に与えた影響の観点からの確実な証明を行うことが必要である。また,基準のii)の下に石炭産業を取り上げ,アジア諸国への多大な影響を評価している点については,当時及びその後の時代における石炭産業の消長の過程を踏まえ,慎重に検討する必要がある。
  • 評価基準ⅲ)を起用するためには,日本の近代化の手法が日本独特のものづくりの文化的伝統に起因するものであることを,確実に証明する必要がある。
○今後の課題
  • 非西洋地域,特に,中国・韓国等における同種資産との比較研究を確実に行うとともに,国内の同種資産が集中する他の地域との比較研究を行いつつ,国際的な専門家会議の開催等を通じて,本資産が持つ顕著な普遍的価値について,国内外の幅広い専門家との連携の下で十分な検証を図ることが必要である。
  • 提案の主題,構成資産,その他の関連資産については,江戸幕府や雄藩が進めた自力による西洋技術の導入の経緯を示すものと,これを基礎として九州・山口地域において政府及び民間資本により進められた近代工業化の過程を示すものに大別される。今後,(1)主題及び構成資産を九州・山口の地域に特化することの妥当性に関する検証,(2)過不足のない構成資産の整理,(3)構成資産の文化財としての保護,(4)主題及び構成資産に関する技術史的な側面からの検証等について,課題を確実に解決していく必要がある。
  • 自力による西洋技術の導入を進めたことを示すために,必要不可欠と考えられる構成資産の取り込みを図る必要がある。特に,佐賀県・長崎県に主として所在する幕末の製鉄・造船関連の資産で,現在の提案には含められていない諸要素については,国の文化財として指定する可能性も含めて十分に検討する必要がある。
  • 政府及び民間資本により進められた近代工業化の過程を示すものとの主題については十分に議論を重ねつつ,特に真実性・完全性の証明の観点から,以下の点について確実に満たすことが必要である。
    • 資産を九州・山口の地域に特化する理由については,立地上の優位性や政治・経済・社会情勢などの資産の背景の側面だけでなく,各構成資産の有形的な側面における優位性の観点から明らかにすること。
    • 産業機構に組み込まれた諸要素の有機的な関係を十分踏まえつつ,構成資産の選択の在り方,ひとつの構成資産に含めるべき諸要素の厳密な選択の在り方,それらの保護の類型及び手法,面的な広がりを考慮した適正な保護の範囲などについて検討すること。
    • 当該地域及び当該地域外に所在し,造船関係の諸要素,鉄道等の輸送に関係する諸要素等について,資産構成に含め得るのか否かを検討すること。
    • 資産が属する時代を1910年までとしているが,主題の合理的な説明と構成資産の遺存状況を踏まえつつ,資産の対象とする時代について再検討すること。
    • 提案資産に含まれている石炭関係の各諸要素については,文化財としての評価及び国際的な評価の観点から,保護対象とする範囲や保護方法について十分な検討を進め,その結果に基づき構成資産を厳密に選択すること。「端島炭坑」については,主題の時代を明らかにする物証を明確化すること。
  • 適切かつ十分な保存のため,以下の点について措置を講ず採ることが必要である。
    • 主題を説明する上で必要とされる広大かつ多種多様な個々の諸要素については,国の文化財への指定又は選定の適否を慎重に吟味すること。
    • 個別の資産構成については,十分な調査成果に基づき,地上に残存する構造物等の遺構の観点からのみならず,地下に埋蔵されている遺跡の観点からも適切な評価を行い、史跡としての保護の可能性について検討すること。
    • 緩衝地帯の保全の範囲及び方法について具体的な方針を早急に定め,その実現を図ること。
    • 構成資産が多種多様かつ広域に及び,所有者等も多岐にわたることから,関係各県及び市町村間の横断的な意思疎通・連携協力の体制をさらに充実させつつ,関係者間での合意形成を十分図れるよう,充実した体制整備について検討すること。
  • 多数の関係地方公共団体の参加の下に,国際的な評価を得るため,十分な比較調査を実施しつつ,構成資産の精査も含めた真実性・完全性の証明ための措置及び適切かつ十分な保存のための措置を着実に行うことが必要である。そのため,提案地方公共団体により,国内外の専門家を含めた準備体制を構築する必要がある。

提案資産名:宗像・沖ノ島と関連遺産群

所在地
福岡県(宗像市・福津市)
総合的評価
豊かな自然と遺跡群が共生し,「神宿る島」として人々の信仰や禁忌は現在まで継承され,日本固有の神祇信仰における崇拝形態の変遷を確認できる貴重な資産である。
4世紀から10世紀の東アジアにおいて,大陸との交渉に際して航海の安全祈願のための国家的祭祀が行われた沖ノ島と,祭祀権を掌握した古代有力氏族に関連する考古学的遺跡から成り,「島」に対する日本固有の自然崇拝思想の原初的な形態を残すのみならず,その祭祀行為が現在にも継続している資産として,顕著な普遍的価値を持つ可能性は高い。
課題等
○顕著な普遍的価値
  • 顕著な普遍的価値を持つ可能性は高く,評価基準ii), iii), iv), vi)については適用できる可能性が高いが,以下の点について検討を行うことが必要である。
    • 基準ii)の適用に当たっては,対外交渉を通じて行われた「人類の価値観の重要な交流」の観点から,国内外の他の海洋信仰資産に多大な影響を与えた経緯について明確化すること。
    • 基準ⅲ)の適用に当たっては,今は失われた国家祭祀に関わる文化的伝統及び今なお固有の海洋信仰として継承されている文化的伝統の無二の物証であることを明確化すること。
    • 基準iv)の適用に当たっては連続する島嶼間の視覚的軸線に基づく信仰の在り方にも十分に注目しつつ,「歴史上の重要な段階を物語る景観の見本」の観点から,構成資産の正確な評価に基づく慎重な検討を行うこと。
    • 基準vi)の適用に当たっては,「顕著な普遍的意義を有する伝統・思想・信仰との関連」という観点から,沖ノ島における固有の伝統や信仰が今日の神祇信仰に与えた重要な影響について,より明確化すること。
○今後の課題
  • 国内外の同種資産との詳細な比較研究を進め,国際的な専門家会議の開催等を通じ,本資産が持つ顕著な普遍的価値について国内外の専門家による合意形成を図ることが必要である。
  • 祭神及び島嶼に対する固有の信仰形態などを踏まえ,世界遺産「厳島神社」との十分な比較研究が必要である。
  • 本資産を世界遺産一覧表に記載推薦するに当たっては,推薦資産の名称が主題及び構成資産の内容を正確に反映し,最も適切なものとなるよう検討することが重要である。
  • 真実性・完全性の証明のため,以下の点について確実に満たすことが必要である。
    • 古墳の中には必ずしも保護の範囲が万全でないものが認められるほか,構成要素として不可欠の古墳でありながら資産に含められてはいないものも認められることから,構成資産とその範囲について再検討すること。
    • 島の神聖性や原生的な自然環境等を確実に維持するための具体的な方法について検討すること。
  • 適切かつ十分な保存のため,以下の点について措置を講ずることが必要である。
    • 国の文化財として未指定の古墳の保護については,指定の可能性及びその手順について検討すること。
      緩衝地帯の保全の範囲及び方法について,具体的な方針を早急に定め,その実現を図ること。

提案資産名:百舌鳥・古市古墳群-仁徳陵古墳をはじめとする巨大古墳群-

所在地
大阪府(堺市・藤井寺市・羽曳野市)
総合的評価
4世紀後半から6世紀前半に築造された多様な規模・形態を持つ古墳から成り,平面積で世界最大と言われる仁徳天皇陵古墳をはじめ,5世紀代の各段階における最大級の古墳の多くが含まれるなど,日本を代表する古墳群であり,世界のいくつかの地域で古代国家形成期に築造された他の巨大記念工作物にも比肩し得る事例である。
日本の国家形成の過程を示すのみならず,独特の形態を持つ古墳の築造に集中的に投入された膨大な労力の集積の結果を示す極めて重要な資産であり,日本を代表する古墳群として,顕著な普遍的価値を持つ可能性は高い。
ただし,陵墓の特性を十分に踏まえつつ,広く国民的な合意形成を図り,構成資産全体の文化財としての位置付けについて十分に整理するとともに,関係者の連携による一層の保存管理に努めることが必要である。
課題等
○顕著な普遍的価値
  • 顕著な普遍的価値を持つ可能性は高く,陵墓の文化財としての保護を前提として,評価基準ii), iii), iv)の適用は可能と考えられるが,以下の点について検討を行うことが必要である。
    • 基準ii)の適用に当たっては,日本国内における同時代の他の古墳造営に多大な影響を与えた経緯について明確に証明すること。
    • 基準ii)の説明文において言及している「古墳のモデル」としての本資産の特性を,基準iv)に含めて記述することについて検討すること。
○今後の課題
(暫定一覧表記載に先立って整理を行うべき課題)
  • 本資産については,主要な構成資産である陵墓について宮内庁により文化財としての保存管理が行われていること前提とした上で,暫定一覧表への記載に先立って,以下の各点について,一定の見通しが示されることが必要である。
    1. 作業指針において求められる世界遺産の構成資産としての適切な保存管理をどのような形で担保するかについての考え方を整理すること。
    2. 世界遺産一覧表への記載に係る審査及び記載後の世界遺産としての保存管理状況審査等が,陵墓の特性を十分に尊重して行われること。
    3. 世界遺産一覧表に記載された場合,保存管理状況に係る定期報告等の世界遺産条約の履行義務に係る業務に適切に対応することが可能な体制が整えられていること。
    4. これまでの我が国の世界遺産一覧表に記載されている文化遺産及び暫定一覧表に記載されている文化資産が所在する地域と比較しても都市化が進んでいることから,提案地方公共団体において,緩衝地帯の範囲及び規制内容について,明確な方向性を示すこと。

(暫定一覧表記載後,推薦の準備を行う過程で取り組むべき課題)

  • 陵墓については,世界遺産一覧表への記載推薦に伴う様々な手順と登録後の影響に関して十分に議論を重ねつつ,広く国民的な理解を深めていくことが必要である。
  • 国際的・専門的な評価を適切に受けるため,構成資産全体について,関係者の連携による保存管理体制を構築し,世界遺産としてふさわしい保存管理を十分に行っていく必要がある。
  • 国内外の墳墓群・巨大記念工作物等の類似資産との比較研究を通じて,本資産の代表性や典型性を確実に明示することが必要である。
  • 真実性・完全性の証明のために,以下の点について検討が必要である。
    • 墳丘の規模・形態,文献資料,関連諸科学による成果等に基づき,古墳の造営年代の把握に努めること。
    • 巨大古墳群としての完全性・一体性を念頭に置きつつ,提案された個々の古墳の取捨選択を行うこと。
  • 適切かつ十分な保存のため,以下の点について措置を講ずることが必要である。
    • 周濠の景観保全,水質保持についての考え方を明示すること。
    • 周辺環境の望ましい保全のために必要とされる緩衝地帯の範囲や具体的手法等を適切に定め,関係地方公共団体により着実に実現していくこと。
    • 構成要素が数多に及び,所有者等も複数にわたることから,大阪府及び関係市間の横断的な意思疎通・連携協力の体制をさらに充実化すること。特に,所有者・管理者との合意形成を確実に進めること。
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