文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第1回)

日時:令和元年8月9日(金)
17:00~19:00
場所:文部科学省旧庁舎6階第二講堂


議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)法制・基本問題小委員会主査の選任等について【非公開】
    2. (2)今期の法制・基本問題小委員会における審議事項について
    3. (3)ワーキングチームの設置について
    4. (4)写り込みに関する権利制限規定の見直しについて
    5. (5)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1
第19期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会委員名簿(71.7KB)
資料2
「知的財産推進計画2019」等の政府計画(著作権関係抜粋)(66KB)
資料3
第19期文化審議会著作権分科会 法制・基本問題小委員会における主な検討課題(案)(59KB)
資料4
第19期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会における審議スケジュールのイメージ(案)(54.4KB)
資料5
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方の検討について(54.4KB)
資料6
ワーキングチームの設置について(案)(47.8KB)
資料7
写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する論点(125.3KB)
資料8
授業目的公衆送金補償金に係る指定管理団体の指定について(152.6KB)
資料9
授業目的公衆送信補償金に関する検討課題の進捗状況(一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会 御提出資料)(345.2KB)
参考資料1
文化審議会関係法令等(150.7KB)
参考資料2
第19期文化審議会著作権分科会委員名簿(112.6KB)
参考資料3
第19期文化審議会著作権分科会における検討課題について(令和元年7月5日文化審議会著作権分科会決定)(68.4KB)
参考資料4
小委員会の設置について(令和元年7月5日文化審議会著作権分科会決定)(61.8KB)
参考資料5
文化審議会著作権分科会(第54回)(第19期第1回)における意見の概要(126.1KB)
参考資料6
インターネット上の海賊版対策について(令和元年7月26日知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会 資料1)(362.6KB)
出席者一覧(44.7KB)

議事内容

  • ○今期の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会委員を事務局より紹介した。
  • ○本小委員会の主査の選任が行われ,茶園委員が主査に決定した。
  • ○主査代理について,茶園主査より大渕委員が主査代理に指名された。
  • ○会議の公開について運営規則等の確認が行われた。

※以上については,「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」(令和元年七月五日文化審議会著作権分科会決定)1.(1)の規定に基づき,議事の内容を非公開とする。

(傍聴者入場)

【茶園主査】では,傍聴者の方が入場されましたので,改めて御紹介させていただきますけれども,先ほど本小委員会の主査の選出が行われまして,主査に私,茶園が,主査代理に大渕委員を指名いたしましたので御報告させていただきます。

本日は今期最初の法制・基本問題小委員会となりますので,今里文化庁次長から一言御挨拶を頂きたいと思います。

なお,カメラ撮りにつきましては,文化庁次長の御挨拶までとさせていただきますので,御了承願います。

今里次長,お願いいたします。

【今里文化庁次長】文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。

皆様方におかれましては,御多用の中,本法制・基本問題小委員会の委員をお引き受けいただきまして,まことにありがとうございます。昨年度の本小委員会におきましては,リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応をはじめ,様々な課題について御議論いただきまして,制度改正の方向性を報告書として取りまとめていただいたところでございます。文化庁では,その報告書の内容を踏まえて法案を作成し,さきの通常国会への提出に向けて準備を進めておりましたが,侵害コンテンツのダウンロード違法化に係る具体的な要件について様々な御意見がございまして,国民の皆様の懸念や不安を払拭するには至らなかったことから,最終的にはさきの通常国会への提出を見送ることとしたところでございます。

今後の具体的な検討スケジュール等は現時点ではまだ決まっておりませんが,国民の皆様の御意見を改めてしっかりと伺いながら,1つは,深刻な海賊版被害への実効的な対策を講じること,これともう一つ,国民の正当な情報収集等に萎縮を生じさせないこと,この2つの課題を両立させるべく,より一層丁寧に対応を検討していきたいと考えているところでございます。今申し上げた検討に当たっての留意点につきましては,先日開催された知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員会において示された海賊版対策に関する工程表にも記載がされているところでございます。

さて,本日の法制・基本問題小委員会は,今期の第1回目の会合であり,5月から始まった令和の時代の最初の会合でもございます。昨今の情報通信技術の発展を背景に,著作物の創作,流通,利用をめぐる状況が刻々と新たな進化を遂げておりますが,その中で,著作権制度について,従来の考え方を維持すべき部分と,時代の変化に対応して積極的に変更していくべき部分を見極め,適時適切な対応を行う重要性がますます高まってきているものと認識しております。委員の皆様方におかれましては,それぞれの御専門の立場から,新しい時代における我が国の著作権制度,著作権施策の在り方について,精力的な御議論をお願いいたしたいと思います。

今年度も何とぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

では次に,議事(2)に入りたいと思います。本小委員会の今期の法制・基本問題小委員会における審議事項についてです。

去る7月5日に著作権分科会が開催されまして,今期の検討課題及び本小委員会を含む3つの小委員会の設置が決定されております。今期の本小委員会の審議事項について確認したいと思いますので,本小委員会における当面の検討課題について紹介いただきたいと思います。この点,事務局から御紹介をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】それでは,資料2から資料4までに基づきまして御説明を申し上げたいと思います。

まず資料2が,今年6月に決定された知的財産推進計画2019など,政府計画から著作権に関係する部分を抜粋した資料となっております。主な部分を簡単に御紹介したいと思います。

1ページ目から2ページ目にかけてが,知財計画2019のうち,いわゆる人材の育成に関わる部分でございます。著作権に特に関係する事項としましては2ページ目の上の部分に記載がございます。2018年度著作権教育教材等の検証事業とございますが,これは昨年度,文化庁として行った事業でございます。この中で,様々な教材について必ずしも教育現場での認知が十分でないといった課題なども明らかになっておりますので,こういったことを踏まえながら,教材等の開発・普及,広報など,効果的な普及啓発を実施していくことが盛り込まれております。

次に5番,模倣品・海賊版対策の強化についてでございます。具体的な施策は下の部分,施策の方向性の1つ目のポツに記載がございます。インターネット上の海賊版による被害拡大を防ぐため,効果的な著作権教育の実施をはじめとして,関係省庁におきまして総合的な対策メニューを実施するために必要な取組を進めること,その際,取組についての工程表を作成し,進捗及び効果を検証しつつ行う旨が盛り込まれております。なお,この工程表につきましては,先般,7月26日に知財本部の検証・評価・企画委員会という会合において議論が行われたところでございまして,そちらは参考資料6として添付しておりますので,必要に応じて御参照いただきたいと思っております。

続いて3ページから4ページにかけてが,データ・AI等の適切な利活用促進に向けた制度・ルールづくりでございます。著作権に関係するものは4ページの上の部分に,施策の方向性ということで2つ記載がございます。

1つ目は,2018年の著作権法の改正によって,いわゆる柔軟な権利制限規定,教育の情報化に対応した権利制限規定などが整備されているところ,これに伴って,ガイドラインの策定や普及啓発など,法の適切な運用環境の整備を行うことが盛り込まれております。それから2つ目は,昨年度の本小委員会での御指摘も踏まえまして,研究目的の権利制限規定の創設,写り込みに係る権利制限規定の拡充,こういったことをはじめとして,著作物の公正な利用の促進のための措置につきまして検討,措置を行うことが盛り込まれております。

続いて4ページから5ページ目にかけてが,コンテンツの流通促進やクリエーターへの適正な対価の還元ということが記載された部分になっております。具体的な施策は5ページの下半分をごらんいただきたいと思います。

まず1つ目が,コンテンツの利活用を促進するために従来から取組を進めている音楽分野におけるデータベース,検索サイトの開設のための実証事業を実施しまして,権利処理プラットフォームを速やかに構築することなどが記載されております。また2つ目が,放送番組をネット上で同時配信などする場合の権利処理の円滑化についてでございます。関係者の意向を十分に踏まえつつ,運用面の改善を着実に進めること,また制度の在り方につきましても,年度内早期に関係省庁で具体的な検討作業を開始し,必要に応じた見直しを本年度中に行うとされております。最後3つ目は,御案内の私的録音録画補償金制度について,見直しや,当該制度に代わる新たな仕組みの導入について引き続き検討を進め,結論を得て必要な措置を講じることが継続課題として盛り込まれてございます。

次の6ページ以降に,それぞれの施策についての工程表や,知財計画以外の政府方針についての資料がございますが,説明は割愛させていただきます。

続いて,資料3をご覧いただきたいと思います。ただいま御説明をしました知財計画2019の記載などを踏まえまして,今期の小委員会で検討をお願いしたい課題を事務局として整理した資料でございます。なお,著作権分科会全体の検討課題につきましては,参考資料3として別途お配りしておりますので,必要に応じて御参照いただきたいと思います。

本小委員会の課題については,大きく3つに分けて記載しております。1つ目がライセンシーの保護についてで,昨年度,一般的なライセンスの当然対抗制度について結論を出していただいておりますが,その際,独占的ライセンシーに対する差止請求権の付与,独占的ライセンスの対抗制度については継続検討課題になっておりましたので,今年度,審議をお願いしたいと思っております。

2つ目の区分が権利制限規定の創設・見直しでございます。1点目の写り込み,2点目の研究目的の権利制限規定に関しましては,先ほど紹介した知財計画に従って検討を進めていただきたいと思っております。また3点目,裁判手続に係る権利制限規定についても,昨年度の本小委員会におきましてADRへの対応などの観点から規定の拡充について検討する必要があるのではないかという御指摘を頂きましたので,こういった点も含め,既存の権利制限の見直しについて必要に応じて御検討いただきたいと思っております。4点目が柔軟な権利制限規定でございます。御案内のとおり,昨年の法改正で47条の5という条文ができまして,1号でいわゆる所在検索サービス,2号で情報解析サービスを規定し,さらに3号で,政令で新しいサービスを追加できるという仕組みになっております。昨年度,この政令のニーズを募集し,審議を頂きましたけれども,今年度も,制度内容の周知をさらに図った上で,改めて同様のニーズ募集,審議を行うことも想定しております。それから5点目が,デイジー教科書等の外国人児童生徒への提供という新しい課題がございます。こちらは既に,障害のある児童生徒向けに拡大教科書やデイジー教科書を作成できるという権利制限規定がございますが,この対象を外国人に拡大できないかという問題でございます。日本語を習熟している途上にある外国人の方にとってはこういった教材が効果的だという声が教育現場から上がってきておりまして,現在,文部科学省の方で,外国人向けの教材の在り方,教育の在り方について議論が行われております。その結果も踏まえながら著作権法における対応を御審議いただくことを想定しております。

それから,3つ目の区分がその他の課題でございます。1点目はインターネット情報検索サービスにおける侵害コンテンツの表示抑制についてで,こちらは昨年度,リーチサイト対策と併せて検討いただいた課題でございます。昨年度の報告書におきましては,まずは事業者,権利者間での取組の状況を見守るということになっておりましたので,その状況をフォローいただきながら,さらなる検討を頂きたいと思っております。2点目が追及権等についてでございます。こちらは,美術品が転売される際にその利益の一部を原作者に還元していくという仕組みだと承知をしておりますが, 7月5日に開催されました著作権分科会におきまして,新たに課題として設定すべきではないかという御意見があり,追加されたものでございます。問題意識としては,美術の著作物については必ずしも権利者への対価の還元が十分ではないということが背景にあろうかと思いますので,追及権の創設も含めまして,幅広い視点で御議論いただくことを考えております。最後が損害賠償額の算定方法の見直しについてでございます。括弧書きにございますとおり,本年度,特許法が改正されまして,いわゆる損害額の推定規定が充実されているところ,著作権法におきましても同様の対応が必要かどうかということを御審議いただくことを想定しております。

資料3につきましては以上でございます。

続きまして,資料4をごらんいただきたいと思います。ただいま御説明したそれぞれの課題について,どういうスケジュール感で議論を行っていただくことを想定しているかというイメージを記載した資料でございます。まず8月9日,本日の第1回でございますが,この後,今期の検討課題について御議論いただきまして,ライセンスにつきましてはワーキングチームの設置の可否につきまして審議を頂きたいと思っております。そこでワーキングチームの設置について御了承いただけましたら,ライセンスの課題につきましてはワーキングチームにおいて集中的に御議論いただくことを考えております。

その他の課題につきましては小委員会本体で議論を行っていただくことになっておりますが,事務局としては,知財計画などに盛り込まれました写り込み,それから研究目的の権利制限規定等の課題を優先的に御議論いただきたいと思っております。写り込みにつきましては,本日この後,御議論を頂くほか,9月から10月に2回程度,御議論を頂きまして,一定の方向性をおまとめいただきたいというふうに考えております。また,研究目的の権利制限規定につきましても9月から10月に掛けて検討をお願いしたいと思っておりますが,この課題については非常に多岐にわたる論点があろうかと思いますので,事務局としましては,今年度,諸外国の制度や国内における利用実態の把握などを調査研究という形で実施したいと思っております。まずは,自由討議を行っていただいた上で調査研究の予定などについて御説明をさせていただき,審議を頂きたいというふうに思っております。それから,検索サービスの問題につきましては,事業者,権利者団体から報告を受けて審議を行うことになっておりましたので,その報告も9月から10月辺りにお願いをしたいと思っております。

その後,秋以降につきましては,現時点で具体的な目処は立っておりませんけれども,その他の検討課題を含めまして議論を継続いただき,方針がまとまりましたら中間的な取りまとめ,パブリックコメントなどを行っていただくことを想定しております。また,例年1月から2月あたりに年度の最終回がございますが,そこではワーキングチームにおける審議経過を報告いただくとともに,方針がまとまった課題につきましては報告書の取りまとめをお願いするということになろうかと思っております。

事務局からは以上でございます。

【茶園主査】どうもありがとうございました。ただいまの説明につきまして御意見,御質問等がございましたらお願いいたします。

では,中村委員。

【中村委員】知財計画について若干補足をしておきますと,知財本部の委員会の場では,この小委で今年取り扱うテーマではないかもしれませんけれども,制度問題で注目すべき点が2点あったと考えます。1つは海賊版対策,この資料2の2ページにありますけれども,昨年来の検討でブロッキングという対策は頓挫しまして,それに代わる案として出てきたアクセス警告方式というのも総務省の会議では断念されるという報道が今なされておりまして,であれば制度面で対応するとなると,この会議でのリーチサイト対策とダウンロード対策の2点に絞られてきていますので,先ほど次長からお話ありましたけれども,是非前進させていただきたいと考えております。

それからもう一つは,資料2の5ページにあります同時配信です。これは放送法の改正でNHKのネット同時配信というものが認められて,準備が今進められてはいるのですけれども,個別許諾が必要という著作権制度が障害となり得るということでNHKが制度改正を要望してきたもので,これに対して音楽業界や権利者も同調するという模様でございますが,これはビジネスの利害問題で,非常に難しい調整となりますけれども,重要なテーマになると認識をしております。

補足は以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。ほかに何かございますでしょうか。

では,前田委員。

【前田(健)委員】意見というか,質問させていただきたいんですけれども,今期の検討課題に研究目的に係る権利制限規定の創設というのが挙がっていて,今後調査研究なども予定しているという話でした。一口に研究目的といっても,それで抱くイメージというのは人によって様々だと思うんですね。実に多様な行為というのが研究目的と呼び得るように思います。こういったものを検討するに当たっては,やはり具体的にどういう行為を対象とするのか,適法にしたいのかということをしっかり詰めた上で議論する必要があるかと思います。ですので,そのあたりについて,今後どのように進めていく予定でいるのかというところを確認させていただきたいと思います。

【大野著作権課長補佐】ありがとうございます。まさに我々,事務局が今悩んでいる点に関する御指摘かと思っております。「研究」というのは非常に広がりがある概念でございますし,いわゆる研究者の方々がやる研究以外にも様々なものがあろうかと思います。そういったものを含めて,社会的にどういうニーズがあるのか,諸外国でどういう仕組みがとられているのか,といった点を十分に把握しながら,検討の射程を含めて議論していただく必要があろうかと思っております。したがって今年度におきましては,まずそういった幅広い観点から,どういう点が論点になるのかということを御議論いただき,その結果も踏まえながら調査研究を行い,それをもとに,さらに来年度以降,具体的な制度設計の議論を頂くという考え方で進めていきたいと思っております。

【茶園主査】よろしいでしょうか。ほかに何かございますでしょうか。

では,小島委員。

【小島委員】権利制限のところの一番最後のデイジーについて少しお尋ねします。ここでは外国人の児童生徒への提供ということになっていますが,こういった,これまでは多分いわゆる障害者の方を念頭に作られてきたものというのが,教育というような場を超えて,例えば視聴覚障害者の方が観劇,パフォーミングアーツなどを見る際の補助的な機器のようなものは,外国人の方が見に来られたような場合とか,こういった形で,いろいろと使えるのではないかというようなことが言われているかと思います。今回は,このような形で外国人の児童生徒さんへのデイジー教科書の提供ということが議論になっていると理解しているんですが,今後そういった,より汎用的というか,ユニバーサルな方向で議論が展開していくきっかけになるのかどうか,その辺が私は非常に興味がありますので,このあたりについて事務局としてどういうふうなお考えなのかというのを少し教えていただければ幸いです。

【大野著作権課長補佐】今回のこの課題につきましては,教育現場の方から御要望が上がってまいりまして,文部科学省の教育関係部局としても前向きに取り組みたいという御意向でしたので,この部分に特化して審議事項として記載をしております。ただ,問題意識としては,御指摘を頂いたようなところが背景にあろうかと思いますので,まさにこの課題を御議論いただく際に,そういった広がりの部分を含めて御意見を頂ければ,それを踏まえてさらなる検討に進んでいくということになろうかと思います。

【茶園主査】ほかに何かございますでしょうか。

【生貝委員】ありがとうございます。先ほど前田委員からございました研究目的のところに関して1つだけ,少し意見という位置付けなのですけれども,まさしくこのことを検討する目的は何であるのかということの中で様々手段を考えていくという形になるのが望ましいのかなと理解しています。と申しますのも,例えば研究活動,これは官民様々ございます中で,形式的に違法になっているようなことというものをどう解消するのかといったような目的もあれば,あるいは,まさしく様々な資料に触れ,権利者に不当な利益が及ばない限りで,そういった情報により広く国民が触れることができる状況を作ろうといったような,まさに学術研究の活動を広げていくという目的もあろうといったときに,例えばでございますけれども,国立国会図書館のデジタル化された絶版等資料については著作権法31条3項に基づいて,図書館の中に設置された端末だけからアクセスできるという権利制限が作られているところでございますけれども,諸外国の動向等も見ながら,果たして現在の環境において,固定の端末だけで見られるような状況に限定しておくべき合理性というのがどの程度あるのかといったようなことを考える余地もあるのではないか。わけても,ちょうど欧州の方では,市場で流通していない著作物に関して公の文化施設が広くインターネットで,人々がアクセスできるようにすることを可能にする,いわゆるデジタルアーカイブ関連の規定というのも設けられたところでございます。やはりこちらは国外の動向を含めて調査研究をしっかりやりながら検討を進める形にはなると思うのですけれども,是非少し幅広に,規定の在り方というものを視野に入れた上で御検討いただけるとよろしいのではないかなというふうに,私見として感じたところです。

【茶園主査】貴重な御示唆,どうもありがとうございました。ほかに何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。

それでは,今期の本小委員会における検討につきましては,ここに整理した方針に沿って進めていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

では次に,議事(3)に入りたいと思います。ワーキングチームの設置についてでございます。まずは事務局より説明をお願いいたします。

【高藤著作権調査官】資料5と資料6に基づいて御説明させていただきます。

まず,資料5をごらんください。資料5は著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方について,これまでの検討の経緯及び今期の検討課題について整理したものになります。

1ポツの部分ですけれども,平成29年度の著作権分科会法制・基本問題小委員会において,著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入や,独占的ライセンシーへの差し止め請求権の付与等のライセンス契約に係る制度の在り方について検討を行うべきという議論がありました。この議論を踏まえて,平成29年度に文化庁委託事業として,著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究を実施しております。その調査研究において,次の2点の検討課題が示されたところです。1つ目が著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入,2つ目が独占的ライセンシーへの差し止め請求権を付与する制度の導入で,この調査研究の結果を踏まえまして,平成30年度,昨年度につきましては,法制・基本問題小委員会の下に著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチームを設置しまして,これらの検討課題について専門的かつ集中的な検討を行うこととされていました。

次に2ポツの,昨年度の検討の概要・結果のところですけれども,昨年度はこのワーキングチームにおいて,まず著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入について検討を行いまして,その後に独占的ライセンシーへの差し止め請求権を付与する制度の導入について,順次検討を行うこととされていました。昨年度はワーキングチームを3回開催しまして,著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入について具体的な制度設計の検討を行っております。その検討の結果,平成30年第4回法制・基本問題小委員会において,ワーキングチームから,この利用許諾に係る権利に関しては,対抗要件を要することなく当然に対抗できることとする制度,当然対抗制度を導入することが適当である旨の審議経過報告がなされています。他方,独占的ライセンシーに対する差し止め請求権の付与に関しましては,独占性の対抗制度の導入と併せて,継続して検討を行う旨が報告されているところです。この報告内容につきましては,平成31年2月4日の法制・基本問題小委員会報告書として,また平成31年2月13日に文化審議会著作権分科会報告書として取りまとめられています。

3ポツの今期の検討課題ですけれども,今期は昨年度からの継続課題として残っている次の2点について検討を行うこととしてはどうかと考えております。1つ目がライセンスの独占性の対抗制度の導入,2つ目が独占的ライセンシーへの差し止め請求権を付与する制度の導入,この2つを検討課題として考えております。

次に,資料6をごらんください。今期の検討課題に係るワーキングチームの設置についての案になります。1にありますとおり,ワーキングチームの名称としましては,昨年同様に,著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム,検討課題としましては,先ほど申し上げた2つの検討課題に加えて,その他の課題となっております。チーム員と議事の公開については2と3に記載しているとおりです。

つきましては,このようなワーキングチームの設置の可否について御審議いただければと考えております。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。ただいまの説明につきまして御意見,御質問等がございましたらお願いいたします。よろしいでしょうか。

では,また何かありましたら後ほどお願いするとしまして,この著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチームにつきましては,事務局から説明があったとおり本小委員会に設置することとしたいと考えておりますけれども,この点,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。それでは,このワーキングチームを本小委員会の下に設置することとさせていただきます。ワーキングチームの構成員につきましては,私の方で指名させていただきまして,後日,事務局よりお知らせさせていただきます。どうもありがとうございました。

では続きまして,議事の(4)写り込みに関する権利制限規定の見直しについて議論を行いたいと思います。事務局に論点案を御準備いただいておりますので,事務局より説明をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】それでは,資料7をごらんいただきたいと思います。写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する論点ということで,事務局として,議論の材料となるよう考え方を整理した資料でございます。

まず1ポツ,問題の所在にございますとおり,平成24年の著作権法改正によって写り込みに係る権利制限規定ができておりますが,この規定については,明確性を確保する等の観点から要件が厳格に設定されており,広く一般に行われている行為についても必ずしも妥当な結論を導けない場合があるという御指摘がなされていたものと承知をしております。この点,規定の柔軟な解釈で対応できる部分はあり,そういった解釈が模索されてきたところと承知しておりますが,昨年度の本小委員会におきましても,この写り込みの規定を拡充すれば社会的に意義のある新しいサービスが可能になるのではないかと,こういった事例も明らかになったところでございますので,これを機に改めて,写り込みの規定の拡充について検討を行うこととしてはどうかと考えております。

2ポツが検討に当たっての論点でございます。まず点線囲みで,現行規定を添付しております。第1項と第2項と分かれておりまして,第1項が写真撮影,録音,録画という行為を行うときに著作物が写り込んでしまう場合の複製を許容する根拠規定となっております。第2項は,第1項で複製が行われた著作物について,例えばインターネット上にアップロードするなど,二次的に自由に利用できるということを定めた根拠規定でございます。

第2項については,「いずれの方法によるかを問わず利用することができる」ということで,かなり柔軟性が確保されておりますけれども,第1項については様々な要件が定められておりまして,少し厳しい面があるという御指摘がされているところかと承知しております。この資料に(1)から(5)までナンバリングをしておりますが,検討の余地がある部分が大きく5点あるかと思っておりますので,順に御説明を申し上げたいと思います。

まず(1)対象行為についてでございます。現行規定におきましては,写り込みが生じる典型例として想定される「写真の撮影」「録音」「録画」,この3つの方法に限定されております。その結果,例えば,固定を伴わない生放送,生配信というものが対象外になっておりますし,固定を伴うものでありましても,写真,録音,録画以外の方法によるもの,例えば,模写,スクリーンショットなどが挙げられるかと思いますが,こういったものも規定の対象から外れているという問題があろうかと思います。

次のページにまいりまして,これを受けた論点につきまして,ローマ数字の(ⅰ)と(ⅱ)と,2つに分けて記載をしております。

まず1番の生放送・生配信につきましては,当然,写り込みが生じる場合は多く想定される一方で,録音,録画と比べて権利者に与える不利益が大きいわけではないと考えられますので,対象に含めていくことが適当ではないかと考えております。それから,2番の固定方法の拡大につきましては,1つ目の丸にありますとおり,(ア)のように,スクリーンショットなど,単に固定技術が違うというものと,(イ)に記載の模写のように,必ずしも不可避的な写り込みが生じるわけではないという点で,写真,録音,録画と少し性質が異なるというものが,両方あるかと思っております。

この点,まず(ア)につきましては,単に技術が違うだけで,写真撮影等と同じような状況にあると思いますので,対象に含めることが適当ではないかと考えております。また(イ)模写などにつきましては,不可避的な写り込みは生じないということは事実かと思いますが,被写体を忠実に再現する必要があるという場合も想定されます。その際,写真の撮影などと比べて権利者に与える不利益が大きいわけではないと考えられる以上は,そういった模写などを自由に行えることが望ましいと考えられますので,こちらにつきましても対象に含めることが適当ではないかとさせていただいております。

この(ア)(イ)のようなものを対象に含める際には,条文上,技術・手法などによって差異が生じることは望ましくないかと思いますので,包括的な規定としていくというのが方向性としてあろうかと思います。一方で,余りに包括的に規定をすると,写り込みとして想定されるような事例以外にも拡大して適用されてしまうおそれもありますので,その点には留意が必要ではないかと思っております。

最後の丸にございますが,こちらは写り込みというのとは若干場面が異なるかもしれまんけれども,例えば,自らが著作権を有する著作物が掲載された雑誌があって,その記事をコピーしようとするときに,同じページに他人の著作物が掲載されていて,それがは入り込んでしまうと,こういった事例も写り込みに類した事例としてあろうかと思います。規定の拡充をする際には,こういった事例をどのように扱っていくかということも論点になろうかと思っております。

次に(2),著作物創作要件についてでございます。現行規定におきましては,当時の立案者の御説明によりますと,映画の盗撮のような違法行為に伴う写り込みが適法になってしまうのは不合理だということで,著作物を創作する場合という要件が課されております。この要件がある結果,例えば,固定カメラで機械的に撮影する場合のように,著作物の創作とは評価できないような場合は権利制限規定の対象から漏れるという問題があろうかと思います。

この点,論点の1つ目の丸に記載しておりますとおり,現行規定につきましては,著作権法の目的である著作物の創作行為を促進するという観点からは一定の合理性を有するとも考えられますけれども,固定カメラでの撮影の場合にも不可避的に写り込みが生じる場合というのは多く想定されるというのが事実としてあろうかと思います。この点,そもそも写り込みの権利制限規定がどういう趣旨で設けられたかということに立ち戻りますと,権利者に与える不利益が軽微だということが主たる根拠とされているものと承知をしておりまして,そうしますと,著作物の創作か否かというのは必ずしも本質的な要素ではないと考えますので,著作物を創作する場合以外であっても広く対象に含めることが適当ではないかと考えております。ただ,その際には,映画の盗撮のように違法行為を行うことに伴う写り込みにつきまして,この写り込みの部分だけ適法になってしまうということをどのように考えるかという点については議論が必要ではないかと思っております。

続いて(3)分離困難性・付随性という要件についてでございます。現行規定におきましては,この権利制限の対象となる著作物につきまして,いわゆるメインの被写体から分離することが困難であるため付随して対象となる他の著作物,これを「付随対象著作物」と呼んでおりますが,こういったものに対象が限定されております。これを分解しますと,ローマ数字(ⅰ)のいわゆる分離困難性と,ローマ数字(ⅱ)の付随性,2つの要件が規定されているということかと承知をしております。

このうち,まず分離困難性につきましては,物理的に分離困難か否かではなくて,その著作物を除いて創作することが社会通念上,客観的に困難か否かを要件とするものというふうに承知をしております。具体例としましては,キャラクターTシャツを着た子供を撮影する場合や,壁に絵画が飾ってある部屋で撮影を行う場合,こういった場合には,物理的にはTシャツを脱がせたり絵画を外したりということで分離ができますけれども,さすがに社会通念上そこまでは求められないだろうということで,こういった状況であっても分離困難性の要件を満たすものというふうに解釈がされております。一方で,ここではドラマの小道具と書いておりますけれども,みずから意図的,積極的に著作物を設置して撮影する,この場合にはさすがに分離困難性という要件は満たさないだろうというふうに解されているかと思います。

次の付随性につきましては,分離困難性との関係を含めまして捉え方が様々かと思っておりまして,分離困難であることの結果としての状態を指すものであって独立した要件ではない,つまり付随性についてはそれほど大きな意味がないという解釈もある一方で,むしろ後者の付随性の方が本質的な要件であって,分離困難性というのはあくまで付随性が認められる典型例を示しているにすぎないという解釈も示されているところかと承知をしております。

こういった要件につきましては,最後の丸にありますとおり,条文上は,メインの被写体とそこに付随して取り込まれる著作物がそれぞれ別個のものだというのを想定して規定がされているものではないかというふうに思われるところ,例えば街の雑踏を全体として撮影する場合のように,被写体が全体であってその中に著作物が含まれる場合,これも当然写り込みとして生じる事例かと思いますけれども,こういった場合を条文上どう読んでいけば良いのかという点について必ずしも明確ではない部分があるかと思っております。

これを踏まえて論点についての御説明をさせていただければと思います。まず1つ目の丸にございますとおり,現行規定の要件でも分離困難性というのはかなり柔軟に解釈がされておりますので,それによって対応できる場合も多いと思われますが,例えば子供に意図的に縫いぐるみを抱かせて写真を撮影する場合など,日常的に広く行われている行為であっても分離困難性を満たすとは言い難いものもかなりあると思われる点をどう考えるかというのがまず論点になろうかと思います。また2つ目としては,分離困難性と付随性の関係として,分離困難性よりも付随性,すなわち写真の撮影等においてその著作物の利用を主目的としていないこと,こういった付随性の方が本質的な要件であると考えられるかどうか,その場合にあえて分離困難性という要件を残していく必要があるかどうかということが論点になろうかと思います。

また,4ページに移りまして,これは仮にということですけれども,分離困難性の方を要件とせずに,付随性を中心に要件を設定していくということになった場合には,逆に社会通念上の必要性がないようなものまで写し込むことが可能となるおそれがありますので,例えば,別途,「必要と認められる限度」などの要件を追加することによって,一定の歯止めを掛ける必要もあるのではないかと思っております。

なお,先ほど申し上げましたとおり,街の雑踏を撮影する場合のように被写体全体を撮影する際に,その中に著作物が含まれるという場合も権利制限の対象とすべきことに異論はないかと思いますので,そういうものも条文上読めるように明確化していく必要があるのではないかというふうに考えております。

次に,(4)が軽微性の要件でございます。こちらにつきましては現行規定上,対象となる著作物につきまして,創作する写真など全体のうち軽微な構成部分となるものに限るという要件がございます。この軽微か否かにつきましては,面積だけではなくて画質,音質,利用時間,作品のテーマとの関係での重要性,こういった様々な量的・質的な観点を総合的に考慮して判断されることになると考えられますけれども,条文上,考慮要素が規定されておりませんので,例えば面積だけで判断されるのではないかという懸念もあり得るかと思っております。

これを踏まえて,論点に記載しておりますとおり,軽微か否かの判断に資するように,例えば昨年創設された47条の5のように考慮要素を複数明記することで,総合的に考慮して判断するものだということを条文上明記することが適当ではないかとしております。

最後に(5)対象となる支分権の範囲でございます。現行規定上,対象行為が写真の撮影,録音,録画に限定されておりますので,それに対応して複製と翻案のみが規定されておりますが,論点に記載のとおり,対象行為を拡大しますと,当然,公衆送信や,同一構内である場合は演奏,上映,こういった行為も対象に含める必要がございますので,この際,いずれの方法によるかを問わず利用することができるという包括的な形で規定していくことが適当ではないかとさせていただいております。

資料については以上でございます。これはあくまで検討の材料として事務局からお示ししているものでございますので,こちらに記載している以外の論点も含めて幅広く御議論をお願いできればと思っております。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。ただいまの説明につきまして御意見,御質問等がございましたらお願いいたします。

では,奥邨委員。

【奥邨委員】細かいところは横に置きまして,全体的な方向性として,私は結構なことかなというふうに思っております。その上でですけれども,少し確認というか,この件に関して私が思っているところを申し述べます。今,事務局からの御説明の中で,写り込みの規定の正当化根拠として,こういう形であれば権利者に与える不利益が軽微であるというような御説明があったかと思うんです。しかしながら,写り込み規定が導入された平成24年の改正のための平成23年の文化審議会の報告書を読みますと少し違うんですね。報告書の関連部分読み上げます「既存の個別権利制限規定がいずれも適用されない著作物の利用行為については,それが利用の態様等に照らして権利者に特段の不利益を及ぼさないと考えられるものであっても,著作権法に権利制限の根拠規定が存しないがゆえに,法を形式的に適用した場合は,権利侵害に該当してしまうこととなる。」として,権利制限の一般規定の整備が必要だとした上で,A~Cの3類型がそれに当たると述べ,A類型については「その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり,かつ,その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」と位置づけております。つまり,A~Cの3類型とも,権利者には特段の不利益がないというふうにはっきりと整理しているんですね。で,不利益がない前提として利用が軽微であるというふうに言っています。先ほどのご説明のように,権利者にとっての不利益が軽微とは言っていないわけです。

何をこだわっているかと申しますと,この平成23年のときは当然ですが,この前の平成30年改正に向けてこの審議会で議論して出来上がった第1層から第3層という形で権利制限を類型化する考え方は持っていなかったわけです。せっかく,平成30年改正に向けてああいう形で権利制限規定を分類して,1層についてはより柔軟に,3層についてはきっちりと権利者の利益と公益目的のバランスをとって,2層についてはその辺の中間として考えていくというふうな整理をしたわけですから,今回も,そういう分類を頭に入れながら整理した方がよろしかろうと思います。

そういう意味で私は,平成23年の改正のときも,先ほど見たように,写り込みは基本的に権利者に不利益がないという整理がされているわけですから,どちらかというと1層に分類される規定ではないかと思います。そういう意味では,今ここに挙がったような形で,各要件を非常に柔軟に読めるようにするというのは,前回の柔軟な権利制限規定の1層に関する部分の改正とも平仄のとれる方向性だと,そういうふうに結論付けられるのではないかなというふうに思っております。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。ほかに何かございますでしょうか。

では,前田委員。

【前田(健)委員】今,奥邨委員から30条の2の趣旨に関するお話があったので,それに続けて私からも意見を申し上げたいと思います。

この規定は,今御紹介あったとおり,平成24年改正のときの議論によって生まれてきたわけですが,昨年の柔軟な権利制限規定創設のときに,権利制限規定の第1層から第2層,第3層までの分類という話をせっかくしましたので,そこを踏まえて議論するべきというのは私も奥邨委員と同意見です。これが第1層,第2層,第3層のどれかという話なんですけれども,ここは意見があり得るところだと思いますが,私はこれは第2層なのかなというふうに理解しておりました。図らずも,これは47条の5をめぐる議論の中で,この規定の必要性というのが浮かび上がってきたように理解しておるのですけれども,47条の5というのは第2層に分類される規定だったと思います。いずれにしても,1層と2層で柔軟性の程度は違うにしろ,柔軟性のある規定を設けてもいいのだという結論だったと思うので,基本的にはなるべく柔軟な形で権利制限規定を整備していくということでいいのだろうと思います。

そのとき,その第2層の権利制限規定でどういう議論をしていたかというと,先ほど来出ているとおり,権利制限規定の正当化根拠は著作権者への不利益が軽微だからだというところがメーンなものであったわけです。それに対抗する利益として利用者側の利益というのがあると思うんですけれども,そこを重視するというよりは,権利者への不利益が軽微だというところが正当化根拠になっているということです。だから,その利用者側の利益というものをそこまで具体的に詰める必要はなくて,47条の5のときも,新たな情報,知見を創出するサービスの提供という,こういう抽象的なものでいいという話になっていたと思います。

翻って今の30条の規定を見ると,先ほど御指摘あったとおり写真の撮影とか録音,録画という非常に限定された対応で条文が作られていて,だから利用者側の利益というのをそうやって限定して捉える必要がないというふうに考えると,もっと幅広く,様々な行為を対象にするということはあってもいいのかと思います。そういう基本的な視点を持って,この規定については検討していくべきだというふうに私は思っております。

【茶園主査】では,奥邨委員。

【奥邨委員】ちょうど今,前田委員から関連してご発言が有りましたので,私の考えを申し上げておきますと,写り込みの「付随」は,どちらかというと47条の5よりは,47条の4の「付随」に近いと思っています。そういう意味でも1層だとおもうのです。「付随」という言葉は,47条の4と47条の5の両方に出てきます。今回「付随」の要件を残すのかどうか議論があるんでしょうけれども,それは別として,意味的に似た形としては47条の4かなと思っております。47条の4とか30条の4の議論で基本的に問題になったのは,対価回収の機会を奪わないかどうかということなんですが,写り込んでいる状態であれば,そもそも対価回収の機会はないと単純に整理でいいのではないかなと思って第1層というふうに申し上げました。もちろんこの辺は前田委員のような御理解もあると思いますし,結局1層になっても2層になっても柔軟性はある程度確保されるという点で,そんなに大きな違いはないのかもしれないですが,一応そういう整理を申し上げたということでございます。

以上です。

【茶園主査】では,大渕委員。

【大渕主査代理】私も24年改正の前のワーキングチームなどを含めて全て参加いたしましたが,今お聞きしたのと私が当時認識していたのは若干違うという気がいたします。当時,いろいろな認識の仕方があって様々な選択肢を検討した結果,でき上がったプロダクトとしてはA類型,B類型,C類型ということで,A類型のプロダクトが現在でいいますと30条の2,B類型のプロダクトが30条の3であります。C類型のうち2つぐらいは24年改正の時に実現し,私の認識では,24年改正で実現できなかったC類型が平成30年で,漏れた分についても完了したということです。私が理解しているのは,C類型の基本は表現の非享受です。今回はっきり出ているところがありますが,A類型とC類型は同じ思想の中でやったわけではなくて,当時は3元的に組んだのであります。A類型というのは最初から写り込みという非常に具体的なイメージがありました。イギリス法だったらincidental inclusion,ドイツ法だったらunwesentliches Beiwerk,フランス法だったら判例法理のaccessoire理論というように,おおむねどこの国でも共通のイメージがある。日本語で言えば写り込みなのでしょうが,そのようなものとC類型とは異なります。B類型は全く違うから御説明しませんが,C類型というのはC類型で,私は当時から,表現の非享受と理解していましたが,いろいろな人がいろいろな考え方であったけど,当時あったC類型は全部は実現できなかったので,その残りが30年改正になっていると思っております。

何のためにこれを言っているかというと,今の観点からすると,あの頃,写り込みとして,文化審,この小委員会でまとめたものというのは,30条の2よりは広かった。大体皆そのような認識であったと思います。強いて言えば写り込み一般のような,このような制限の掛かっていないもので写り込みは権利制限としようというのが総意であったのですが,それが法制局で絞られてしまいました。この委員会で総意としてあったものが絞られて現在のものになっているわけです。先ほどここは狭いのではないかというのを一個一個言われましたけれども,私は,審議会が終わった後,24年改正で成立した条文を見たときに,写り込みの範囲が,写真などに限定されているので,狭いなと思った次第です。難しい議論もよいのですが,あのときの原点に立ち返って,平成24年改正の際には,写り込みだからこのようなものは権利制限にしてよいという総意がこの委員会で成立していたので,そのような観点で見た方が,解にたどり着きやすい。学者的に議論をどんどんやるのもよいのですが,現実的な路線としては,あのとき条文で狭くなり過ぎたものを原点に戻せばよいという観点から見ると,このあたりはほぼ全部がクリアになると思います。

例えば1ページのところで写真の撮影,録音,録画と3つの方法に限定されているので,このような生放送,生配信が対象とならないとか,模写,スクリーンショットが対象にならないという問題点を御指摘されています。平成24年改正の際には,誰もこのようなものを外すと思わずに,写り込みだったら権利制限してよいと思っていたのが,条文上外れているだけだから,あのときの原点に立ち返れば,事務局が提案されているとおり,限定を掛ける必要はない。そう言うと答えが全部出てしまっておもしろくないのですが,このあたりは技術の相違で絞ろうという気もなかったし,恐らく審議会の後の条文化の際には典型例とイメージできたものに絞ってしまっただけで,別に典型例でなければいけないという理由はないわけですから,典型例以外でも同じ趣旨のものであったら当然入って構わないはずであります。また,当時の審議会では,固定カメラはだめだとか,創作でなくてはいけないという議論は誰もしていなかったと思いますが,いつの間にか限定されている。このように,挙がっている論点全部について同様のことが言えます。

たしかあのとき,軽微ということは言われていましたが,盗撮をやってもよいとは思っていなかったし,誰も違法なものまで権利制限してよいとも思っていなかったので,違法なものを外そうとして絞り過ぎたからこうなっているだけなのです。当時,余りにも当然過ぎて違法なものを外すというイメージもなかったようなものを入れればよいだけとかいうこととか,あるいは分離困難性も,たしかあのときの審議会では,私の直感では分離困難というのはいわば間接事実みたいなもので,一番の要件事実的なものはむしろ付随性の方だと思います。だから典型例が分離困難性というにすぎないのに,何となくいつの間にやら要件として条文化してしまったというだけだから,別にこれを要件とする必要はないと思います。

思い出してみると,24年改正ではなかったかと思いますが,「統計的」というのが情報解析のための権利制限に入ったときも,誰も統計的に絞るつもりはなかったのに条文ができてしまいました。結局,前回外しましたが,これと同じような話は,付随性についてもそうだし,軽微性も,総合的にいろいろなものを考慮した上での軽微性であり,量的な軽微性に絞るとは誰も思っていませんでした。それを言うと全部同じことになってしまいますが,典型例等に絞ってしまったものを,別に絞る必要がないのであれば元に戻せばよいのであり,結果的には事務局が作成されたペーパーのとおりになってくるのではないかと思います。

【茶園主査】ありがとうございました。

では,小島委員。

【小島委員】現在の30条の2というのは,これは,いわゆる利用者側,訴訟になったら一般的には被告側になるんだと思うんですけど,被告が何らかの媒体に記録するような,写真を撮影するとか録音するとか録画するということですから,そういったものを伝達する際に生じる問題なのではないかなというふうに理解しています。そのときに,今の事務局の御説明でいきますと,多分この著作物創作要件というところが,私も果たしてこれが本当に必要なのかなというふうに思っているんですが,伝達行為の客体については被告の創作に係る著作物でなくてもいいんじゃないか。要するに,何らか被告が伝達するときに,そこに原告の著作物が入り込み,それが広い意味でいうところの写り込み,軽微なものであればよいと,そういうふうな形で捉えるのがよいのかなというふうに思っています。この著作物創作要件についても,現行規定が映画の盗撮のような違法行為に伴う写り込みを排除するというふうに言っていることがちょっとひっかかっていまして,もうちょっとここについては,本来こういう要件を入れるのであれば,積極的な意味付けがなされた方がよいのではないかというふうに,今の議論を聞きながら感じておりました。

私としては,今,事務局が御説明されたような形で広げていくということについて,特段異論はございませんが,ただ,現在の条文の作り方というのが,この写真の撮影,録音,また録画の方法で,そして,被告による著作物創作という形で,かなり多くの要件が作られてしまっているので,これを変えるとなると,先ほど大渕先生がおっしゃられたように,要件を作る際にもう少し注意が必要になってくるのかなというふうにちょっと思いました。

【茶園主査】ありがとうございます。

では,前田哲男委員。

【前田(哲)委員】私も資料7に示された事務局のお考えに基本的に賛成なのですけれども,2ページの②論点の(ⅱ),「固定方法の拡大(模写やスクリーンショット等)」の4つ目の丸のところに書いていただいていることでございますけれども,対象行為を広げることにより,写り込みとして想定されている場合ではない場合が広く含まれてしまうことには問題があると思います。ここは条文上,何か適切な工夫をする必要があるのかなと思います。この点は解釈に委ねるというよりは,条文上,写り込みとして我々が想定しているものを適切な文言で表現することが必要なのではないかと思います。

それから著作物創作要件については,先ほど御指摘ありましたように,映画の盗撮の場合を想定してこの著作物創作要件を設けたという説明自体が,私は元々理解が困難だと思っておりますし,このペーパーに書いていただいている,映画の盗撮のような違法行為に伴う写り込みについてどのように考えるかという問題があるのですけれども,これは,映画の盗撮として違法にすれば足りるのであって,写り込んだ著作権侵害としてあえて違法にする必要はないと私は思います。

それから,付随性と分離困難性の関係につきましては,これも先ほどお話がありましたように,私はやはり付随性の方が本質的な要件だと思いますので,分離困難性という要件は外してもいいのではないかと思います。4ページの一番上に書いていただいている,分離困難性を要件としない場合に,「必要と認められる限度」の要件などを追加することを考えるかどうかというところなのですけれども,この「必要と認められる限度」という要件が適切なのかどうかには検討が必要だと思います。といいますのは,写り込みの典型例というのは,当該著作物があってもなくても別にどうでもいいという場合だと思いますが,「必要と認められる限度」というと,付随対象著作物を撮影することが必要な場合というふうなニュアンスにもなってしまって,それがちょっとどうかなと。「必要と認められる限度」というのは必ずしも適切な要件ではないような気がいたしますので,もう少し別の要件を考えることができないだろうかと思います。

それから,最後の対象支分権のところなのですけれども,ペーパーにも書いていただいているように,対象行為の拡大に伴って,いずれの方法によるかを問わず利用することができるという形で包括的に規定することが適当だと思います。現在でも2項の方は「いずれの方法によるかを問わず」ということになっておりますので,対象行為を拡大するのではあれば,必然的に対象支分権についても包括的に規定することが必要になると思います。

以上です。

【茶園主査】では,前田健委員。

【前田(健)委員】具体的なところについて申し上げたいと思いますが,まず対象行為というところについてです。先ほど来出ているように,余り具体的な場合に限る必要はないという方向に私も賛成するところです。著作権法の目的に照らして,文化の発展に資するのでやった方がいいと言えるような行為であれば,基本的にその対象にしても構わないというふうに思いまして,30条の2というのは著作物の利用が主たる目的ではなくて,付随的にその著作物の利用が生じるという場合を対象にしているわけだと思いますが,そういったもの全般が対象になるということでいいと思います。ですから著作物を創作したものであるという要件を書く必要もありませんし,特定の支分権に限って対象にする必要もないと思います。2ページの(2)の5番,最後の丸のところに例が出ておりますけれども,こういうものについても今の定義に入ってくるのではないかと思いますので,写り込みとは若干違うかもしれませんが,新しい30条の2の対象になったとしても同じような趣旨が妥当するということだと思っております。

あと,分離困難性と付随性と軽微性についてですが,対象行為の方が比較的緩やかに判断されるということになると,これらが著作権者の不利益が軽微だということを担保して権利制限規定を正当化するためにすごく大事な要件となってくるということだと思います。著作権者に不利益がないということの意味ですけれども,著作物利用そのものが目的でないから,著作権者にとって保護すべきマーケットというのがあったときに,それと競合する可能性が事実上ないからということだろうと思っております。それを法律上どう要件化していくのかということなんだと思います。

そういう意味では,分離困難性というのは余り本質的な要件ではなくて,先ほど来出ているとおり,付随性という方が重要だと思います。その付随性というのは,行為の目的が著作物の利用そのものではないということを担保するために必要なのかなと思っておりまして,その行為に付随して利用してしまうという,そういった趣旨なのかと思います。

それで,分離困難性を削除したときに,必要と認められる限度とか,そういった要件が必要なのかという話が先ほどありましたけれども,確かにこれを厳密に求め過ぎると,適用される場面が狭くなり過ぎるということはあると思います。必要か必要ではないかということを厳密に詰めると,必要でないということは結構簡単に言えてしまうと思うんですね。ただ一方で,利用者側がそれなりにリーズナブルな,必要だという説明をできたのであれば,もうそれで基本的には性善説に立って信じるという程度の運用をされるのであれば,別に必要と認められる限度という要件はあってもいいと思います。そうすることによって利用者が,本当はその著作物を利用する目的が主なのに,それを覆い隠すためにこの規定を援用するという,そういう濫用的なケースというのは想定し得て,それを防ぐ歯止めのような意味はあるのかなというふうには思います。

最後に軽微性についてですけれども,これも非常に重要な要件かなと思っておりまして,現行法の規定に則して言えば,軽微な構成部分でしかないがゆえにオリジナルのマーケットとは競合しないんだということが担保できるのではないかと思います。そういった趣旨で軽微性という要件があるんだというふうに理解したときに,それを明確化するために,4ページ(4)の2のところで考慮要素を複数明記することが適当ではないかということが書いてありますけれども,考慮要素を明示するということは望ましいことだろうというふうに思っております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。

では,末吉委員。

【末吉委員】私もこの資料7で示された原案に基本的に賛成したいと思うんですが,1つ,24年改正のときのこの小委員会にもいた者として,この1ページ目の1ポツの最初の丸が極めて重要なんだと思います。この24年改正が,大きく打ち出されたのにもかかわらず,出来上がったものが小さかったというイメージは私も同感でございますが,それはどうしてかというと立法事実論が足らなかったというふうに私は理解をしていますので,この1ポツの最初の丸,要するにこういう指摘がある,こういうニーズがあるというところは相変わらず,今日ただいまも要求されるような気がするので,いろいろな委員の御意見を踏まえて持っていくときに,その前提としてこういうニーズがあるんだというところは,今回も分厚く用意する必要があるのではないかと個人的には思っています。方向性は大賛成です。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。

では,大渕委員。

【大渕主査代理】先ほどどなたかが分離困難性ではなく付随性が重要とおっしゃったのは,そのとおりだと思うのですが,目的というのを非常に強調されていたのには少し違和感がありまして,ここでは恐らくもっと客観的な付随性のことを言っているのだと思います。このようなものに目的という主観的な要件を入れ始めると,何が目的かということが問題になってきます。目的がどうかというよりは,客観的に付随的なものかというほうが,重要なメルクマールかと思います。余計なものを入れると議論が混乱していくので,社会通念に照らして,普通の意味での付随性,主従性に近いのかもしれませんが,客観的なものだというところを強調した方がよいのではないかなと思いました。

それから,先ほどどなたかが言われたとおり,いろいろな余計なものが付いていたのを外すのは大変よいのですが,外すことによって広がり過ぎないかという懸念もあります。皆が納得したのは写り込み性というか,そのようなものならよいと思ったのですが,それをうまく条文上書けなかった,書こうとして狭くなってしまったのを外すのはよいのですが,外した結果また広がり過ぎたら,今度は広過ぎるという別の批判を受けることになりますので,そこはきちんと当初の趣旨目的のとおり,写り込みがきちんと入るように知恵をひねっていく必要があります。先ほど必要性はよくないという話がありましたが,何かで絞らないとまた広がり過ぎてしまうので,取るのは大変賛成なのですが,取った結果広がり過ぎないように何かの絞り込みを付けておかないと,また逆の批判を受けるおそれがあるのではないかという気がいたします。

【茶園主査】では,今村委員。

【今村委員】今の点とちょっと関わりがあると思うんですけど,30条の2は,要件を非常に具体的に示し,資料7の条文にあるように1から5まであるように,かなり限定されているので,適用される範囲がある意味分かりやすいといえば分かりやすいわけです。そのために,これまで,ただし書きについては十分に考慮しなくても大丈夫だということだったと思うんです。実際この30条の2は非常に難しい規定だと思いますが,この規定を誰が読むかといったら,結構一般の方もこの規定を使って,制限の範囲内で著作物を利用していて,そういう意味では非常に重要な規定だと思います。けれども,難しい規定ですので,私なんかもこの規定の解釈について紹介するときには,やはり文化庁のウエブサイトにこういう例が載っていますというような,そういうのもある意味ガイドライン的に活用して紹介したりすることが多いのが実際のところです。要件を緩和するのはいいんですけれども,今回資料7でこの検討に当たっての論点のうちに欠けていた点として,要件を緩和すると,ただし書きが持つ重要性を増すということになっていくと思いますので,ただし書きの運用をどうするかということもあると思います。ただし書きについても,恐らく何らかの説明とかガイドラインとか,審議会でこういう議論があったとか,そういうことを示して,この条文が適切に運用できるようにするという対応も求められるのではないかというふうに思いますので,その点も検討の論点として入れてもいいのではないかというふうに思いました。

【茶園主査】ありがとうございました。

では,太田委員。

【太田委員】2点申し述べさせてください。まず,軽微性についてですが,軽微性の概念には,相対的な軽微性と絶対的な軽微性の区別が可能な気がしますが,ここでは絶対的な軽微性と理解するべき気がします。行政法などで公共の利益が大きい場合には私人の損失を補償しないでよいというような論理が使われたりしますが,こういう相対的な軽微性で補償や保護をしない,権利制限をするというような考えは,法と経済学的に言うと論理が逆さまで,むしろ,公共の利益が大きいから補償するべきです。相対的な軽微性で例外や権利制限を正当化しようとすることはだめですね。1,000億円もうかるのだから権利者は1,000万円の権利を行使してはいけない,という論理はおかしいでしょう。したがって,絶対的な意味での軽微性として,概念を明確にした方がいいのかなと考えます。もちろん先ほど今村先生がおっしゃったように,不当に害することとなる場合はこの限りでないという但書でカバーはできるのかもしれませんけれども,それで十分かは気になります。

それからもう一つは,3ページ目の違法行為に伴う写り込みについてです。盗撮等に対しては権利者の権利は制限されないとして,権利制限のそのまた例外とするには,確かに盗撮が違法であるとすればそれで済むかもしれませんが,ではその盗撮された映画の権利者が何もしないときに,写り込まれた人が権利行使を制限されてはいけないので,盗撮等は違法だというだけでは済まない気がします。これが,少し教えていただきたい点です。

【茶園主査】では,大渕委員。

【大渕主査代理】盗撮自体は違法なのですが,違法なものに付随して入ったものが,それだけ適法になるのはおかしいということなので,それが理由であれば,先ほど申し上げたように,それを外すとかあるかと思います。また,ただし書きは本当に最後に何かあったときの安全弁で,これを拡大すると逆フェアユースみたいになってしまいます。本文でよいと思ったけど,ただし書きで切られるということになると,かえって行動の自由が制約されてしまいますので,これは本当に最後にどうしようもないときのための安全弁であり,余りここに期待せず,先ほどのように客観的にきちんと絞るということが肝要です。ただし書きに入ってしまったら恐らくほとんど分からないし,裁判を経ないと分からないということになってしまいます。そうならないように一生懸命個別規定を作っているものですから,ただし書きには入り込まないですむようにしっかりと絞り込むということが重要だと思います。

【茶園主査】恐らく先ほどの映画の盗撮については,1つの考え方は,映画の盗撮そのものが違法なのであるから,それでもう十分である,写り込みの方は特に問題として考える必要がないというものがあるでしょう。これとは別の考え方として,写り込んでいるのは盗撮された映画の内容であることから同じように違法と考えるべきというものもあり得るのではないかと思います。現在は,違法な場合の写り込みも違法にするために,創作性要件を設けていると説明されており,現状を変えるにしてもいろいろなやり方があるのではないかと思います。よろしいでしょうか。

ほかに何かございますでしょうか。

たくさん御議論いただきまして,どうもありがとうございました。それでは,事務局におかれましては,本日出されました様々な御意見を踏まえまして,さらなる議論,取りまとめに向けて論点の整理をお願いしたいと思います。

それでは最後に,(5)その他でございます。皆様御案内のとおり,昨年5月の著作権法改正によりまして,本小委員会での議論を踏まえて,教育の情報化を推進するための権利制限規定,いわゆる授業目的公衆送信補償金制度が導入され,3年以内に改正法が施行されることとなっております。これに関しまして,今年2月には文化庁長官より,補償金の徴収・分配を担う指定管理団体といたしまして一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会,いわゆるSARTRASが指定されておりますので,文化庁から御報告をお願いしたいと思います。また,本件に関しましては著作物の教育利用に関する関係者フォーラムにおきまして,関係者団体と教育関係団体との間で,補償金の在り方をはじめとする諸課題の解決に向けた議論,取組が進められているということですので,本日はその御報告もお願いしたいと思います。

説明につきましては,SARTRASの常務理事であり,関係者フォーラムの共同座長を務めておられます瀬尾様,そしてSARTRASの理事・事務局長の野方様にお願いしたいと思います。

それでは,まず文化庁から説明をお願いいたします。

【堀内著作物流通推進室長補佐】資料8をごらんください。授業目的公衆送信補償金に係る指定管理団体の指定につきまして御説明をいたします。

まず,経緯を含めて御説明させていただきたいと思いますが,法第35条第2項の規定によりまして付与されます本授業目的公衆送信補償金につきましては,その請求の行使主体としましては,全国を通じて1個に限り文化庁長官が同意を得て指定管理団体を指定するということが規定されておるものでございます。

本小委員会におきましては,平成29年4月に,権利者団体39団体によって構成されております教育利用に関する著作権等管理協議会により,本補償金の制度が導入されました場合には本補償金の徴収分配の受け皿となる団体を設立するといった旨の方針を表明いただいておりましたところ,本年,平成31年1月に受け皿団体として一般社団法人を設立されまして,文化庁からの指定につきましても同意をされたということでございます。本法人が法定の要件を満たすということを確認した上,本年2月に文化庁長官より指定管理団体としての指定を行ったということでございます。

その下でございます。指定管理団体の概要でございますが,正式名称は一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会でございます。略称はSARTRASといいます。指定日といたしましては,平成31年2月15日でございます。代表者は公益社団法人日本複製権センター理事長でいらっしゃる土肥一史様でございます。

おめくりいただきまして2ページ目でございます。本法人の社員の構成の関係でございます。6,構成員というところをごらんいただければと思いますが,一番左の縦の欄が法人の社員の一覧でございまして,各分野ごとに協議会を構成されておられます。それぞれの分野ごとに関係する団体様が右側の一覧でございまして,それらの団体様におかれましてこの各協議会を構成され,それぞれの6個の協議会によって本法人が構成されているという関係性でございます。

簡単でございますが,私からは以上でございます。

【瀬尾氏】先ほど御紹介あずかりましたSARTRAS常務理事の瀬尾でございます。いつもお世話になっております。また,今回報告の機会を頂きましたことに感謝申し上げます。

前回の審議会のときにも報告をさせていただいておりますが,この法制・基本問題小委員会において現状,最新の部分についてまた御報告させていただきたいと思います。お手元の資料ナンバー9になりますが,少々大部になりますので,全体的な概要をまず事務局の野方より御説明させていただいた上で,今どういうことが起こっているのか,どんな状況にあるのか,可能性はどうなのかについては口頭で申し上げたいと思います。文章化するにはまだ未定が多いということでございますので,大変申し訳ございませんが,御承知おきいただければと思います。

【野方氏】SARTRASの野方でございます。どうぞよろしくお願いいたします。資料9に基づきまして,これまでの経緯から今年度に至るまでの,主にフォーラムの検討状況につきまして御報告をさせていただきます。

1枚めくっていただきますと,先ほどの資料8にもございましたが,文化審議会著作権分科会の報告書の中で,ICT活用教育を推進するという目的の下で制限規定を整備するに当たりまして検討が必要なものとして示された方向性がございました。御承知のとおりかと存じます。その主なものを抜き出しておりますけれども,権利者に対しては,こういった制限規定の下に,補償金の受け皿団体となる窓口の一元化ということでございまして,教育機関の方におきましては,著作権に関する研修・普及啓発活動の実施の具体化に向けての検討が必要であるとされております。また,この権利制限の規定に基づいて支払われることになる補償金を幾らにするのかということを決めなければいけないということで,その意見集約を行うための体制の整備,そして補償金制度を補完するライセンススキームを作る必要があるのではないかということ。そして最後に,制限規定の運用に当たりまして,当然いろいろな教育機関の方々が,どういう場合に補償金でカバーされ,どういう場合は許諾を得なければいけないのかということに関する解釈のガイドラインが必要だということが指摘されたところでございます。

こうしたことを踏まえまして,その当時はまだSARTRASはなかったのですけれども,教育利用に関する著作権等管理協議会と教育関係の皆様で調整をしました結果,次のページになりますが,著作物の教育利用に関する関係者フォーラムというものが設置されました。これは非常に幅広い権利者団体と,それから教育関係者団体より推薦を頂いた皆様,さらには文化庁,文部科学省,有識者の方々,ここにいらっしゃる先生も何人かいらっしゃいますけれども,入っていただきまして,助言を頂きながら,先ほどありました項目につきまして検討を進めるという趣旨でスタートしております。

4ページ目をごらんいただけますでしょうか。昨年度スタートしましたのは11月末のことになります。そのときには,この総合フォーラムと専門フォーラムとに分け,先ほどの項目は,専門フォーラムで個々の内容について具体的に検討することとしまして,総合フォーラムではそれを総じてまとめていくというような位置付けで検討をしております。総合フォーラムが3回と補償金の専門フォーラムが4回,その他の専門フォーラム3回で,合計16回のフォーラムが行われております。

その中で,次のページでございますが,それぞれの専門フォーラムでどんなことが話されたかということにつきまして概要を申し上げます。まず補償金の専門フォーラムでございますが,この補償金の認可申請をするに当たって審査する基準が文化庁さんの方から出ておりまして,その中に,実際に今適用されている公衆送信に係る使用料規定といったものも含まれていることから,公衆送信利用に関して現状適用されている使用料規程,これはJASRAC様と文藝家協会様のものが取り上げられましたが,そういったものを説明するプロセスを経て,最も重要な部分として授業目的公衆送信補償金の額につきまして幾らを考えているんですということに関して権利者側の方から提案をさせていただいております。まだ現在も意見聴取に向けて内部での検討中ということでございますので,本日その額についてお示しすることは控えておりますけれども,やはり教育機関の手続の負荷に配慮して,包括的な決め方をする規程の案にしたいと考えております。

次の6ページになりますけれども,この補償金のフォーラムにおきましては,その額を提示し,教育の関係者の皆様からいろいろな意見を頂いております。そうしたことを踏まえ,また後ほど少し触れさせていただきますが,先ほど申し上げた認可申請に当たって審査の対象となる項目に関わるウエブを使いましたアンケートを実施しまして,そういったものを踏まえて意見聴取,あるいは認可申請に向けた準備を進めていくということにつき確認したところで,この補償金の専門フォーラムが昨年度終わった,という流れになります。

続きまして普及啓発のフォーラムでございますけれども,ここはまず,初中等教育あるいは高等教育という,それぞれで少し性質の異なる教育課程に応じた教育,今どういうことが行われているかということについての情報共有が行われておりまして,ここはやや長期的な視点で今後も考えていく必要があるだろうということで,検討は引き続き今年度も行うということで,フォーラムのテーマとしては引き継がれているものです。ただ,この補償金制度を導入するに当たりましては,長い目で見た普及啓発だけではなくて,まさに補償金制度が始まりますというタイミングでの普及啓発というものも非常に重要であるという御指摘も頂いておりますので,大きくその2つの,近い時点での普及啓発と長い目で見た普及啓発という視点が今検討の対象になるというふうに考えております。

9ページですが,ガイドラインに関する専門フォーラムです。こちらは法解釈のガイドラインということではありますので,まずその改正著作権法の35条に関わる,条文の中に出てくる,例えば何を授業というのかとか,授業を受ける者とはどういう人を授業を受ける者とするのかということを,できるだけ教育関係者の方々と権利者の方々が同じ認識でこの制度を理解していけるように,言葉を定義していく整理をするということで検討を進めてまいりました。さらに後半になりまして,実際にそのガイドラインを公にして適用していくということになりますと,実際に触れるのは現場の先生方であろうということになりまして,現場の先生方がその法律の解釈を見てなるほどと思うのもなかなか難しい面もあるかもしれませんので,現場で直面する具体的な事例を基に,例えば教育目的の複製なので無許諾,無償でできますとか,あるいは授業目的公衆送信補償金の対象です,というようなことを事例をもって示せるようなガイドラインを作ろうということで,その方向性が確認されました。これも今年度の検討に委ねられているところでございます。

そして,少し飛びまして11ページになります。ライセンスに関わる部分です。これは補償金を補完するライセンス環境ということで,補償金制度でカバーされる部分の,概念的には少し外側に,教育機関の中でよくある,例えば複製行為ですとか公衆送信行為で権利制限には当たらないというような使い方もあろうかと思います。そういうものにつきまして,せっかく教育機関の設置者の方々とSARTRASとの間で補償金をお支払いいただくという関係ができるものですから,その関係を利用して,SARTRASが著作権等管理事業者になって許諾するという部分があることは,教育機関の皆様にとっての著作物利用の利便性を高め,著作権侵害もなくすという役割が期待できるということで,これはSARTRASが管理事業者となって許諾を出していく方向につきまして検討しております。ただ,皆様御承知のとおり,補償金ですと世界中のあらゆるレパートリーが利用できるということになりますけれども,ライセンスの場合には,SARTRASが管理事業者になるとすれば,SARTRASが委託を受けた権利者の権利物しか許諾の対象にならないというところが問題として指摘されているところですので,ここはSARTRASとしてはできるだけ多くの著作物の管理の委任を受ける必要性を認識しながら,今検討を進めているというところでございます。

13ページ以降から今年度の内容になりますけれども,現状,補償金につきましては,法律上定められている意見聴取をはじめ,認可申請に向けたプロセスがございますので,それに向けての準備は当然並行してやっているわけですけれども,フォーラムにつきましては,14ページにあるとおり,昨年度フォーラムを終了する際に,今年度も継続します,そしてできるだけ同じ委員の方々に,経緯の分かっている方々で続けて議論をさせていただけるとありがたいというお話をしまして,6月7日に第1回目,そしてきのう,第2回目を開催しました。検討項目につきましては,主にはガイドラインと普及啓発に関するものを中心に,ということになっております。

15ページにございますように,ガイドラインにつきましては,先ほど申し上げた現場の先生方にとっての手引となるような典型例をまとめるということと,それから,なぜそれらの典型例は無許諾,無償なのかとか,補償金の対象なのかということに関して,それをお知りになりたい方についての解釈の指針となるような部分を後ろに付けて御参照いただけるようなガイドラインを準備する方向での検討を進めております。

そして,次の16ページにございますライセンスに関する検討状況でございますが,これはSARTRASとしまして組織決定をして,管理事業者としての登録をしかるべき時期に行うというところには来ております。その手続のために必要な管理委託契約約款ですとか使用料規程ですとか,そういったものを現状検討しているところでございます。

最後に今後のスケジュールにつきまして,補償金とライセンスとに分けてお示ししております。補償金につきましては,先ほど申しました審査基準の中にあります現状と今後のニーズという部分を,これからSARTRASが認可申請をする規程案がどのように考慮しているのかということを明らかにする必要がございますので,この点についてアンケートを実施させていただきました。もうほぼ締め切りというところにきていまして,無作為で学校種別に抽出させていただきました総数4,500校の方々に御案内をしたところ,1,400校以上返事を頂きました。これからその回答を集約するという段階になっております。仮に来年4月より補償金の制度が実施されるという前提に立つとすれば,ごらんのような日程で補償金の認可申請をすることが必要だという認識でおります。そしてライセンスにつきましては,補償金制度のスタート時にライセンスの受け付けもスタートできる形を整えることが目標となっておりますので,補償金のスケジュールを見ながら,それに合わせて管理事業法に基づく必要な手続をとっていくという予定にしております。

最後となりますが,SARTRASのホームページがございまして,ご説明しました教育関係者フォーラムに関する情報等も掲載されておりますので,御興味がある方には是非御参照いただければと存じます。

私からは以上です。

【瀬尾氏】今,野方の方から説明がありましたが,昨日フォーラムの第2回が開催されまして,実はきょうは,こんなことがまとまりましたということを御報告したいというふうに思っておりました。ところが昨日のフォーラムが大紛糾いたしまして,ペンディングというようなことになったことから,現状について私から概観を御説明させていただきたいと思います。

まず,そもそも権利者団体がこれだけ広範囲にわたって1つのところに参加をして,意思を1つにすることについては非常に困難があるということは,前の法制・基本問題小委員会の御指摘でもあったと思います。ただ,それについては円滑に進めてきたと言えると思います。ただし,各分野における意見の違いというのは決して小さなものではない,つまり分野独特の事情があるということをどういうふうに吸収していくかと,そのような問題もございます。ただ,そのような現状の中,SARTRASでの意思統一を図って,さらに教育関係の皆さんに幅広く,初等中等から高等教育に至るまで各団体から御推薦いただいた委員に御出席いただいて,意見を頂いております。これについても各団体として,いわゆる教育関係者団体としてこちらに協力していただけると,これは大変ありがたいことでもありますけれども,希有なことでもある。

そういうことが実現した中でフォーラムが進んできたんですが,昨日は1つの対立する軸がありまして,基本的に,そもそもこのフォーラムについて,やっていいのか,これを続けられるのか,そういう非常に重大な疑義を頂きまして,これについての検討を行ったということになります。内容について,詳細はまた別にいたしますけれども,私は,こういうことがあってしかるべきだし,こういうことが起き得るだろうとも思っておりました。ただ,これを丁寧に解消していくことが必要だと思っています。なぜならば,教育関係の皆さんと権利者側は基本的な不信感で固まっていたからです。教育関係者は,権利者はまた訳の分からないことを言って信じられない,権利者は,また訳の分からない使い方をする教育関係者は信じられない,これが大前提だったんです。それが解けかかってきた中で,きのうのようなコンフリクトが起きることは仕方がないことと思いますが,決してこれについて乱暴なことをせず,丁寧に共通理解を得て信頼関係を築いていくことが,私は,SARTRAS発足以来そうですし,それ以前の協議会についてもそのようにやってきました。さらに今後,制度が開始された場合には,信頼関係があるかないかで制度の死活は決まると思っています。形だけ作っても,きっと回らない,信頼関係がなければ。ということになるということであれば,今ここで丁寧なことが必要だろうというのが現状の私の考え方になります。

先ほど野方の方からスケジュールを御説明させていただきました。私は,2020年4月から新指導要領が小学校で順次導入されることを考えると,2020年4月というのは制度的にも是非発足すべき要望があるだろうし,我々としてもそれに対して最大の努力をするべきと思っています。ただ,現状を鑑みると,これについてどのように対応していけば2020年4月にできるのかを検討しておりますけれども,先ほどのような信頼関係を損なう形で4月にやることは本末転倒であろうと思っております。つまり,まとめについては,いろいろな要件が出てきているところだと思います。ただこれは,法定で3年と決められた2021年5月までにスタートする,そういう制度です。なので,拙速は避けますし,丁寧な説明をしますが,できる限り早く,かなうことであれば,2020年4月からの制度開始を望む,期待するという状況にあります。ただし,これについては今後の検討によって必ずしもそれで,どうしてもそこから動かせないということでは,もう現状ではないのではないかというふうにはちょっと思っております。

今回の制度については,この法制・基本問題小委員会の皆様の議論がベースになって始まりましたけれども,私としては,これは親会のときの御説明でも申し上げましたけれども,今後の著作権法の解釈と運用の中で,こういった補償金制度をこれだけ広いステークホルダーが運用するというのは1つの前例にもなるし,これを今後生かしていただけるような制度というのが,例えば30条,例えばそのほかでも必要になってくるように私は思います。ですので,これについてはでき得る限りクリアで,そして社会的にも受け入れられる,そして全く利益の相反する2つのステークホルダーが,これについて社会的な前進のために合意をしていく,そういうふうな形の制度を作っていくためにSARTRASを動かして,みんなで検討して,みんなで議論をしていくというところにあると思います。

正直にお話をしますと,なかなか難しい状況にあるというのは正直に申し上げなければいけませんし,SARTRASのガバナンス自体,もっときちんとガバナンスをしろというお叱りも多々あるかと思います。ただ,こういった思いと,権利者団体にもきちんと統一の動きがありますので,必ず前向きに,必ずいい制度を作っていくというふうな,こういう理念で進めていきたいと思っております。結構,おわびと理念論みたいなので終わってしまいますけど,きょうは非常に苦しい御説明になりましたが,何とか進めていきたいと私たちは思っておりますので,またいろいろな機会において御報告,若しくは御助言等を頂くこともあるかと思いますけれども,よろしくお願いしたいと思います。

私の方からは以上でございます。

【茶園主査】どうもありがとうございました。ただいまの説明につきまして御意見,御質問等がございましたらお願いいたします。何かございますでしょうか。

【生貝委員】御説明ありがとうございました。専門柄,本フォーラム含む先般の改正に関わるソフトロー,ガイドラインづくりの検討というもののお手伝いをさせていただいているところでございます。そうした中で,民民の話し合いという形で,できる限りそのルールを円滑に回していくための仕組みということの重要性を改めて学ばせていただいているところでございますけれども,やはり明らかに言えるのは,ある種のソフトローというのは,本来立法の役割であるところの利害対立の調停というものを民間委託することであるということであります。

そのようなときに,まさしくそうしたソフトであれハードであれ,法づくりという公共性の高い行為というものに取り組まれていらっしゃるSARTRASをはじめ関係者の方々には大変敬意を表するところです。しかし,やはり今申し上げましたとおり,そして私,35条の改正のときにはこの小委員会に参加しておりませんけれども,やはり最初からハードローの改正ということ自体が,立法趣旨としてソフトローを見込んだもので作られたものであるということ。そうである以上,例えば立法が予定したとおりにそのことが,もしも円滑に進むことに何かしらの困難があるのだとしたら,果たして本来のルールメーカーである国としてはどのような,例えば合意形成ですとか意見の共有の在り方というものを支援することができるのか,それは現行法で行い得ることなのか,あるいはさらなる法改正というものがもしかすると必要なのか,そういうことを恐らくこの検討会の中でも,ソフトローというものを政策手段として選択した以上は,検討を並行して続けなければならないところなのだというふうに思います。

あるいは,特にこのガイドラインというもの,民民のソフトローという形でございますけれども,やはり大変影響力も強いものであり,また今回は特に,どこまでが補償金の対象なのかということと直接関わってくるものでありますから,公としての性質も極めて高いものであるところ,恐らく何かしらの形でガイドラインというものが,世の中に広く受け入れられるものが仮に作られた場合に,そのことというのが,例えばここでの議論の立法の経緯というものを正しく反映したものであるか,よりよく反映していただくにはどうすればよいのかということを,こういう場所で議論をする必要があるのかないのか,そういうことも含めて考えていく必要があると感じているところです。私見でございます。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

では,小島委員。

【小島委員】ありがとうございます。今,瀬尾さんのお話,野方さんのお話を伺いながら,本当に頭が下がる思いなんですけれども,私,以前に著作権教育について論文を書いたときに,関係するアクターの間での共通了解とか信頼関係が構築されていないのではないかということを指摘させていただきました。その理由というのを幾つか,著作権教育の教材などを見ていて感じるのは,やはり著作権がどうして存在しているのか,あるいは社会の広い構成員が著作権について納得感を得られるような,そういうふうな説明というのが,多分これまでのいわゆる著作権教育を含めて十分だったのかということを,そのときに感じていました。

例えばCRICさんや,文化庁さんが作られている教材などを見ていると,倫理とかそういうところが強調され過ぎているのではないかなということとか,あるいは,これは多分権利者の方がある種不信感を持っておられるんだろうなということの1つの徴表なんですけど,無断利用に対してよくないというような形で書かれていたりとか,やはり私としてはもう少し,著作権制度についての語られ方というのを変えて,社会の多くの方に受け入れられるような形で説明がされていった方がいいんじゃないかというふうに,ずっと感じてきました。

ですので,現場でこうやって制度を走らせるために御努力されているということで,もちろん目の前のことをやるということだと思うんですが,そういうことに是非SARTRASさんとしても取り組んでいただきたいという思いと,やはりこれは多分,先ほどの生貝先生のお話にも関わるんですけど,団体さんだけに任せておくべきことではなく,こういうことについてこそ,まさに文化庁さん含めて対応していただきたいと思います。どうしても著作権教育というのは,こうやって法基小委も毎年毎年いろいろな課題があるので,私が思うに,どうしても後手後手になって,やりますやりますとは言っているんですけど,結局やらないとなってしまうと。そういうふうなことがずっとあったのかなというふうに思っています。もちろん文化庁さんとしてもお忙しいことは重々分かっておるんですけれども,著作権教育について取り組んでいただくことが,結果的には著作権制度というものが社会に根付くというか,共感してもらえるということで早道なのではないかと,そういうふうに思っていまして,済みません,ちょっと差し出がましいことかもしれませんが,そういうふうなことをちょっと期待しているということを申し述べさせていただきました。

【茶園主査】ほかに何か。

では,龍村委員。

【龍村委員】御報告ありがとうございました。大変御苦労されておられるのではないのかという印象を受けました。質問ですが,資料8の2ページの構成員を見ますと,いろいろな分野があるわけですが,これは各分野ごとに協議をされているのですか。全部一緒にやられているのでしょうか。

【瀬尾氏】これは全部一緒です。6協議会が全部一緒に,それぞれの分野ではもちろんお話し合いを頂くんですけど,ほとんど全てのことについては理事会ということで,この6協議会から選出された理事たちによって議論されているというふうに。

【龍村委員】相当分野によって状況がかなり違うということはないのかと,補償金のレベルとか,あるいはライセンスの範囲とか。ですので,これはかなりカラーが,それぞれの分野ごとに違うので,これを一緒にやるというのは,あるいはかなり厳しいのかもしれませんね。その点はいかがでしょうか。

それともう一つ,今回,補償金制度ということで,授業目的の公衆送信補償金の改正を行ったわけですけれども,1つのテストケースだと思うんですよ。教科書補償金については余りにもうまくいっているので,円滑に運用されていることが空気のように感じてしまっているところがあると思いますが,御存じのとおり私的録音録画補償金の問題についてはデッドロックに乗り上げて,全く動かないという状態が長年あるわけです。ですので,補償金という制度一般が果たしてワークするのかどうかは,恐らく今後,少し立ち止まって考えなければいけない問題を含むのではないのかという感も覚えないではないぐらい,大きな1つのテーマではないかと思います。

ですので,もしこれが合意に至らなかった場合には,一体どうなってしまうのかなと,しかも尻が切られているとなりますと,かなり厳しいのではないのかなというように思いますので,そのあたりの見通しなり,お聞かせいただければ,と思います。あるいは,補償金制度の限界とか,そういうことでお感じになられることがあれば,お聞かせいただきたいと思います。

【瀬尾氏】まさに今,龍村先生おっしゃったように,補償金制度というのは,今の著作権法制,その他全ての社会の著作権解決のスキームの中で非常に重要な立場を占める,重要な位置を占める。もしこれで動かなかったとすると,そもそも補償金ってだめなんじゃないのという話になりかねないと思います,正直言って。ただ私は,逆に,前にも実は親会のときに申し上げましたが,社会的なサブスクリプションモデルとして可能性があるものだし,これは非常に重要で,解決の鍵になるというふうに私は思っているので,これについては何としても,単純な今回の授業目的公衆送信の補償金だけのためではなく,私としては全体のために,いわゆる今後の制度運用のためにもなる前例として,これは必ずまとめたいというふうに思います。ただ実際に,それがもしワークしなかった場合は,いわゆる社会的サブスクリプションモデルというのはやはり難しいのかなと。とするとどうするのかということにはなると思いますが,私は,今の可能性として見ると実現可能だし,これができないということはないと思っています。

ただし,私の考える1年前倒しの2020年4月というのは,現状考えているといろいろな可能性が出てきているということなので,そこは無理はしない,無理をしたらだめだろうと思いますが,ただ,遅れていけばまずいので,できるだけ迅速にこれについての丁寧な議論でまとめ上げて,皆さんの合意を得たいと。そして,その可能性は十二分にあるというふうに今の時点で御理解いただいてよろしいかと思います。ですので,この結果をごらんいただいて,ほかのスキームについてはまたいろいろな御検討もあるかもしれません。30条の議論もです。そういうときにどう御判断になるかは,また先生方のお話になるかなと思いますが,1つのテストケースとして,非常に重要なテストケースとして御注視いただければ,私はその期待に対してはお応えしたいというふうに思って進めているというふうに御理解いただければと思います。

【茶園主査】ありがとうございます。

では,井奈波委員。

【井奈波委員】御説明ありがとうございました。非常に重要な制度だと思っておりますし,非常に御苦労されているということがよく分かりました。せっかく始めた制度ですので,やはり実現してもらいたいと思っております。そういう意味で,恐らく信頼関係の話まで出てきたということは,相当利害対立が激しいのではないかと想像しますが,そのような場合に中立の第三者や,例えば文化庁の方を入れるなどの方法で解決の糸口を探っていくということをされているのかどうか,そのほか信頼関係を回復していくための手段としてどのような手段を想定されているのかをお伺いしたいと思います。個人的な意見ですが,仮に利害対立が激しいといった場合,ネットを利用して,個人を相手にするということも可能ではないかと思いますが,そういうところも視野に入れられないかと思います。

【瀬尾氏】利害関係の対立について,例えば文化庁さんに仲介していただくとか,そういうことについては当然あり得ると思うし,お願いしたい部分も出てくるかと思います。ただ,基本的には合意形成について,今はコンフリクトがありますけれども,私はそこは内部での話し合いと,それから教育関係者の話し合いとで解決し得る範囲であると。これまでも解決してきましたし,これまでもたくさんありました。いっぱいありました。でも,それも一つずつ解決してきましたし,今回も解決できると思っています。ただし,第三者と中間的な意見を聞くということについては適宜お願いをしていくこともあるでしょうし,そういう中立的な意見に基づいてやっていくことが必要だというふうにも思います。これについては柔軟に対応できればと思っておりますので,全く否定するものではございません。ただ,まず現在の,昨日あったフォーラムでのコンフリクトに関しては内部的に解決し得るものと,権利者同士の信頼関係もあるし,私はやはり権利者団体をみんな信頼していますし,そこがきちんと対応してくれると思っておりますので,きちんとそれに委ねられるだろうし,教育関係者にもその旨説明ができるだろうと思っています。

要は,非常に抽象的なことで本当に申し訳ないんですが,こういった調整は誠意がどれだけあるかということに尽きると思っていますので,私はそれをもって解決可能と思っています。これは通用しなくて,利害関係で割れてしまうようであれば,ある意味でこういう話し合いの場というのは信頼関係が難しいという結論になるかもしれませんが,それはないと私は今のところ思っています。

【茶園主査】時間がなくなってきましたが。

では最後に,今村委員。

【今村委員】済みません,私も昨日の紛糾したフォーラムに参加して,ちょっと具体的なことは申し上げにくい部分もあるんですけれども,コンフリクトと申しましても,実際の中身に関するコンフリクトではなくて,手続論というか,ちょっとフライングしてしまった部分についていろいろ対立があったということだと思っております。昨年度,18年度の議論の推移を見る限り,信頼関係はあると思うんです。今年になって,本年度の議論になってから少し手続の問題でそごがあって,そこからちょっと火種が広がっているという感じにすぎませんので,その手続をうまく進めることによって,先ほどSARTRASのガバナンスの問題とおっしゃられましたけれども,その点でまだ十分,沈静化と言ったらちょっと極端ですけれども,できる範囲ではないかと思います。その辺適切に対応していただくことによって,この制度がうまく活用,運用されていくのではないかというふうに思うので,是非今後とも頑張っていただければと思います。失礼いたしました。

【茶園主査】では,大渕委員。

【大渕主査代理】もう時間も過ぎていますけど,いかにコンフリクトがあろうが大変だろうが,これは日本の著作権と教育のためにやっていただくしかありません。これはもう他に選択肢はありませんから,とにかくやっていただくしかない。その一言に尽きますので,お願いいたします。

【瀬尾氏】頑張ります。

【茶園主査】では,大変御苦労いただいて申し訳ありませんが,どうぞよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

では,時間も過ぎてしまいましたので,本日はこれくらいにしたいと思います。

最後に事務局から連絡事項がございましたら,お願いいたします。

【大野著作権課長補佐】本日は夜の時間の開催になりましたが,遅くまで大変活発に御議論いただきましてありがとうございました。

次回の小委員会の日程につきましては,改めて調整の上,御連絡を差し上げたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

それでは,以上をもちまして文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会第1回を終了させていただきます。本日はどうもありがとうございました。

――――

Adobe Reader(アドビリーダー)ダウンロード:別ウィンドウで開きます

PDF形式を御覧いただくためには,Adobe Readerが必要となります。
お持ちでない方は,こちらからダウンロードしてください。

ページの先頭に移動