(平成20年第7回)議事録

1 日時

平成20年8月20日(水) 10:00~12:00

2 場所

三田共用会議所 3階 大会議室

3 出席者

(委員)
大渕,清水,末吉,茶園,苗村,中山,前田,松田,森田の各委員
(文化庁)
関長官官房審議官,山下著作権課長,ほか関係者

4 議事次第

  • 1 開会
  • 2 議事
    • (1)リバース・エンジニアリングに係る法的課題について
    • (2)研究開発における情報利用の円滑化について
    • (3)その他
  • 3 閉会

5 配布資料一覧

資料1
資料2
資料3
資料4
参考資料
 

6 議事内容

【中山主査】 それでは,時間でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会の第7回を開催いたします。
本日は,ご多忙中ご出席をいただきまして,ありがとうございます。
いつものことでございますけれども,議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開にするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方々には入場していただいておりますけれども,この処置でよろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【中山主査】 ありがとうございます。
それでは,本日の議事は公開ということにいたしまして,傍聴者の方々はそのまま傍聴をお願いいたします。
それでは,議事に入ります。
まず,事務局から,配布資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】 お手元の議事次第の下半分に配布資料の一覧を記載してございます。本日資料4点と参考資料を1点お配りしてございます。資料の1と2と,それから資料4は(1)のリバース・エンジニアリングの関係の議題で使用する資料でございます。(2)の研究開発につきましては資料3と,それから重複しますが資料4もそちらで使う資料となってございます。それから,本日資料番号を振れなかったのですけれども,一番下に,コンピュータプログラムリバース・エンジニアリングの法的措置に関する意見としまして,前回ヒアリングを行いました独立行政法人情報処理推進機構から補足ペーパーが提出されておりますので,ご確認いただければと思います。過不足等ございましたらお願いします。

【中山主査】 よろしいでしょうか。
それでは,本日検討をしていただきたい事項は2点でございまして,1つ目は,リバース・エンジニアリングに係る法的問題,2つ目は,研究開発における情報利用の円滑化の問題,この2点でございます。1のリバース・エンジニアリングに係る法的課題につきましては,前々回の小委員会で関係者からのヒアリングを行いましたので,そこで出されましたご指摘や,これまでの本小委員での議論を踏まえまして,論点を整理したいと思います。
まずは,事務局のほうで論点整理の資料を準備していただいておりますので,それについて説明をしていただいて,その後自由討議ということにしたいと思います。2の研究開発における情報利用の円滑化につきましても,同様の流れで議事を進めていきたいと思います。
それでは,まずリバース・エンジニアリングに係る法的課題につきまして,事務局から配布資料の説明をお願いいたします。

(1)リバース・エンジニアリングに係る法的課題について

【黒沼著作権調査官】 では,まず資料1に基づきまして,ご説明をさせていただきたいと思います。
まず,問題の所在ということで,これは,前々回,前回以降ご紹介したとおりのことでございますけれども,コンピュータプログラムのリバース・エンジニアリングにつきまして,そのプログラムの調査解析を行う過程で,複製・翻案を伴う場合の法的位置づけについての検討でございます。過去にも,平成5年から6年にかけまして,文化庁に設置されました調査研究協力者会議で,いろいろと検討が行われておりましたが,そのときには,最終結論としては,今後の国内外の状況の進展に応じて改めて検討を行うということで,法的措置までには及んではおりませんでした。
一方で,最近になりまして政府の知的財産戦略本部におきまして,リバース・エンジニアリングの過程で著作権侵害が起こる可能性があるということから,脆弱性の調査・修正のためのプログラム解析について萎縮効果が及んでいるのではないかというご指摘,それから,その後の欧米の立法状況などに言及がございまして,そういった観点から改めて対応の必要性について提言がされたという状況でございます。
その次のページの下でございますが,こちらは,前々回関係団体から行ったヒアリングの結果をまとめたものでございます。ですので,概略だけにいたしますけれども,リバース・エンジニアリングを認められる範囲があるのではないかとおっしゃっていた団体が多かった一方で,幅もあったわけでございまして,列挙されている事例にはそれぞれ違いがございました。2ページの一番下に書いてありますのは,独立行政方針情報処理推進機構(IPA)からのご意見ですが,それが一番幅の広い形になってございます。次のページの2番目のポツ,これはビジネスソフトウェアアライアンスさんからのご意見ですけれども,こちらは,基本的には契約で対応できていて問題は起きていないというようなご認識で,権利制限を行うのであれば必要性を十分検証すべきというような観点でございました。こちらに書いてはおりませんが,仮にやるとしても相互運用性の確保,それぐらいで考えるべきではないかというようなご意見だったかと思います。
なお,IPAからの補足説明資料,先ほどご紹介した資料によりますと,革新的なソフトウェアの開発についても考慮すべきだというようなことについての補足がなされております。後ほどご覧いただければと思います。
(2)の検討の方向性のところでございますけれども,基本的なスタンスといたしましては,平成6年の協力者会議で概ねあらかたの論点について一通りの検討が行われておりますので,今次の検討におきましても,この協力者会議の報告書を基礎としつつ,その後の状況の変化を加味して,法改正の必要性や要件を検討するというような形でいかがかと,という形で最初の点を整理してございます。
その上で,(2)は,平成6年の整理の簡単なおさらいでございます。
現行法のもとでどういう状況になっているのかということでございます。現行の法のもとでは,プログラムの調査・解析の場合に,一定の形態で調査・解析を行う場合には,複製・翻案に当たる可能性が否定できないということが整理されております。一部権利制限規定がございますけれども,例えば47条の2の規定でどこまでできるのかということですが,こちらの規定は,自らプログラムをコンピュータにおいて使用するのに必要な限度という要件がございますので,プログラムの実行に必要な限度を超えた複製・翻案,例えば平成6年であれば,相互運用性の達成のためなどの調査・解析については,これを越える場合があるのではないかという分析がされておりましたけれども,そういった形で対応できない可能性がある部分があるということでございます。
また,契約による対応はどうなのかということですが,BSAが前回,それでできている部分が多々あるとおっしゃっておりましたように,それで対応できる部分があるのは確かでございますけれども,それですべてうまくいくのかについて疑問とする意見が前々回出されていたところでございます。
(3)は,仮に権利制限による対応を考えるという場合の整理でございます。
平成6年の協力者会議の報告書では,4つの考え方に分けて検討がされておりました。1)から4)までございますけれども,それぞれ上のほうから,権利制限規定を設けるべきであって目的を特定しないというものから,特定の場合を除いて権利制限規定を設ける,それから特定の場合に限って権利制限規定を設ける,4は権利制限規定を設ける必要がないと,そういった4つの段階に分かれてご主張があったわけでございます。先日のヒアリングを見ると,それぞれ今日でもこういった構図は残っているのだろうということでございます。
平成6年の分析によりますと,こういった主張の差はどこから出てきているのかということでございますが,著作権法が表現を保護するものであってアイデアを保護しないという原則については共通認識としてあることはある。ただし権利制限規定を認めるだけの合理的な実際上の必要性があるのかどうかと,権利者に与える影響をどう評価するのかによってどの事由まで認めていくかという点で差があるという分析がされております。
ですので,今回,ご議論いただくに当たっては,アからクまで列挙してございますけれども,それぞれの項目につきまして,権利制限規定を認める合理的な実際上の必要性があるのかどうか,あるいは権利者に与える影響をどう評価するのかについてご指摘をいただければと考えております。
なお,5ページで若干前々回出された意見を記載しておりますけれども,革新的なプログラムについてほかとの区別をどういうふうに考えるのかといった点,その他セキュリティ対策についてもいろいろなご指摘があったということを記載しております。
(4)番は,目的以外の要件でございますけれども,恐縮でございますが資料2と見比べながらお願いしたいと思います。資料2は,互換性確立目的のリバース・エンジニアリングにつきまして,諸外国の立法で,どういう要件を課しているのかを表にしたものでございます。
こちらと比べながらでございますが,資料1のaの部分,これは権利制限の規定に当たって許容される行為主体をどのようにするのかという点でございます。資料2では,各国大体同じような形になっておりますが,プログラムの使用権原を有する者,中にはプログラムの保有者としているところもありますけれども,そういった形に制限がされております。
その次の資料1のbでございますが,リバース・エンジニアリングを認める前提としまして,相互接続性確保の観点で,必要な情報があらかじめ利用可能になっていない,あるいはほかの手段によって入手が困難であるというような前提を置くのかどうかということでございます。資料2の諸外国の立法を見てみますと,スイス以外では,そのような要件が規定されているということでございます。
また資料1のcでございますけれども,調査・解析の過程で作成された複製物・翻案物,あるいはリバース・エンジニアリングの結果入手できた情報のその後の取り扱いについての条件でございます。平成6年の検討では,調査・解析の過程で作成された複製物・翻案物に廃棄義務を課すかどうか,あるいはその後の公表・頒布を禁止するかどうかというような点がご議論されております。
引き続き資料1の3番目に行きますけれども,リバース・エンジニアリングによって入手した情報の第三者提供を禁止すべきかどうかという論点もございますが,それは資料2で諸外国の状況を見ていただきますと,得られた情報の目的外使用につきましては,おおむね不可というような条件にしているようでございます。
それから,第三者提供につきましても,互換性を確立するために,そういう行為を行う場合であればいいけれども,それ以外は不可というような状況を課しているというようなことでございます。
そのほか,資料2の最後のところでございますけれども,「通常の利用を妨げず,権利者の正当な利益を不当に害しない」という要件を設けている国もドイツ,フランス,スイスでございますが,そういった国もあるということでございます。
こういった状況を踏まえて,我が国はどうするのかというようなことにつきましてご指摘いただければと思っています。
資料1のdでございますけれども,ヨーロッパの立法例では,権利制限規定で認められた行為を禁止する内容の契約は無効であるというような明文の規定を置いておりますけれども,現在のところ我が国の著作権法ではそのような規定を置いている例はございませんで,どのような形にすべきかという論点が1つあるかと思います。
その次1つ飛ばしまして,前々回出された意見として,著作権者に通知をさせるべきではないかというようなご意見もありましたので,そういった要件はどうするのかという点について検討のポイントがあろうかと思います。
それから,飛ばしました技術的保護手段を回避した場合の取り扱いにつきましては,資料4のほうに移っていただければと思います。
資料4は,前々回以降,土肥委員から宿題いただいていたものでございますけれども,技術的保護手段を回避した場合に権利制限規定の効力との関係はどうなるのかということにつきまして,諸外国の状況を整理したものでございます。
まず,米国でございますけれども,米国法では,技術的保護手段の回避を一般的に禁止するという規定を設けた上で,一定の場合については,技術的保護手段の回避を可能とするというような形の条文のつくりになっております。この中で,リバース・エンジニアリングも明記されているということでございます。
また,欧州でございますけれども,欧州では,技術的な保護手段について保護の規定を設けるべきとした上で,一定の場合には適当な手段を提供する形になっているのですが,次のページをめくっていただきますと,コンピュータ・プログラムに関しては,こういう法制ではございませんで,技術的保護手段の保護に関しては,コンピュータ・プログラムに関しては適用してはならない,要するにそもそも技術的保護手段の回避規制というものがコンピュータ・プログラムの場合にはかかっていないという形になっております。
一方で,我が国の場合はどうかと申しますと,技術的保護手段の回避につきまして,一般的な規定はございません。一般的に回避規制をかけた上で,権利制限規定の場合には回避してもいいという規定の構造をとらずに,一部の場合に限って技術的保護手段の回避について引き続き許諾が必要になるという形の構成になっておりますので,ちょっと諸外国と,その点が異なっております。
現在のところは,私的使用目的の複製のところに限って規定を置いておりますので,今回どうなるのかについては,何も規定を置かなければ回避をしてもいいという結果になるわけでございます。そこで,どういう基準で規定を置く置かないを判断するのかということでございますが,平成11年に技術的保護手段の関係の規定を整備したときの整理によりますと,権利制限規定の趣旨が公益性,社会慣行,あるいは他の権利との調整など,そういった趣旨の場合であれば,そういった趣旨にかんがみて,技術的保護手段の回避が権利者の経済的利益を著しく害するものでないということになるのであれば,回避についての規定を置かないというような考え方のようでございます。
そういったことも踏まえまして,資料1の,今回のリバース・エンジニアリングにつきまして,技術的保護手段の回避の場合の取り扱いをどうするのかというのもご議論いただければと思っております。
以上でございます。よろしくお願いいたします。

【中山主査】 ありがとうございました。
それでは,ただいまの説明を踏まえまして,自由討議に移りたいと思いますけれども,ご質問,ご意見ございましたらお願いいたします。
どうぞ松田委員。

【松田委員】 松田です。
資料1の5ページのところのご説明のときに,(4)のbの説明のところで,例えば欧州,アメリカの立法例では,相互接続性の確保のためのリバース・エンジニアリングが認められる場合の要件の一つとして云々ということの説明がありまして,そのときの説明資料として資料2を示されましたよね。そして,各国の対比を一覧表にしているわけですね。それで,このbの説明のところでは相互接続性になっている。ところが,この資料2のほうは互換性になっているのです。ここの議論でも接続性の問題と互換性の問題は正確に議論しないと混同しておりましたので,ちょっとこの辺の説明をまずしてもらえないでしょうか。
正確には,相互接続性というのは,互換性とは違うのではないかと私は思っているのです。

【黒沼著作権調査官】 ご指摘のとおりでございまして,平成6年のときは互換性の話と接続性の話と分けて目的があり得るということを議論しておりますが,ちょっと資料2は,言葉遣いがいい加減な部分がございまして,全体をひっくるめて互換性という言葉を使ってしまっております。もともとの言語ではインターオペラビリティなどですが,そういった言葉を,ここの資料2では互換性という形でまとめてしまっておりまして,いろいろちょっと違う観点からの言葉かもしれないものが混ざっているということで,詳しくは,原文は資料1の後に条文を載せておりますので,恐縮でございますがご了解いただければと思います。

【松田委員】 そうですか。はい。

【中山主査】 よろしいですか。

【松田委員】 はい。

【中山主査】 ほかに何かございましたら。
1つよろしいですか。資料2の競合品の開発等の競合品というのは,これは何を,どこまでを意味するのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 これも,競合品という形でまとめてしまったので,非常に議論のある概念であることは承知の上で大変いい加減な言葉遣いをしてしまったと反省をしております。もともとの条文は資料1の6ページでございますけれども,ドイツ法であれば,69条eの(2)の3のところでございまして,実質的に類似の表現形式からなるプログラムというところでございまして,競合品ということがちょっと不正確だったかもしれません。

【中山主査】 そうですね。これで行くと,例えば日本で一番有名な事件は日立,IBM事件ですけれども,あれはまさに競合品をつくるために解析をしたわけですね。この案でゆけば,不可なのか可なのかということはどうでしょうか。あれがだめだってことになると,余りリバースをする意味がなくなってしまうような気もしないでもないのですが。

【黒沼著作権調査官】 この点につきましては,平成6年のときの協力者会議の分析では,実際の運用を調べ上げているわけではありませんが,ヨーロッパのディレクティブの立案者の解説によっておりまして,結果としての競合品かどうかという点に着目したわけではなくて,相互接続性を確立するために必要かどうかという観点でここは考えるのだというような解説がされていたということでございます。

【中山主査】 ほかに何かございましたら。
先ほど説明ございましたとおり,一般的に全部だめだという意見はほとんどないのですけれども,どういう要件で認めるべきか,という点については議論があるところですが,何かご意見を承れればと思うのですけれども,いかがでしょうか。
どうぞ松田委員。

【松田委員】 資料2にある競合品開発ということで,ドイツ,フランス,イギリスについて整理としては不可となっています。平成6年の協力者会議において,ターゲットプログラムと競合する商品を開発するためのリバース・エンジニアリングについては違法とすべきではないかという意見がありました。私もその意見だったのです。これは,むしろ技術的な概念というよりは,ターゲットプログラムと同じ機能を持っていることによって,市場においてターゲットプログラムのかわりに供給されるもの。だから,ターゲットプログラムがAだとし,それと同じ機能を持つものをBだとしますと,Bが売れればAが売れなくなる関係,そういう関係にあるものを競合の商品とか,競合のプログラムというふうに当時とらえました。

【中山主査】 それで行きますと,まさに最近メインフレームは余り議論しませんけれども,日本のコンパティブルのメインフレームは全部だめだと,こういうことになるのですね。

【松田委員】 当然そうです。

【中山主査】 なるのでしょうね。

【松田委員】 ただその場合も,互換プログラムをつくるためにターゲットプログラムを解析する場合にその問題が起こるわけで,ターゲットプログラムを直接解析しなくても,互換のインターフェースを解析するということはできるわけです。そのときに,競合ないしは互換プログラムをつくってもいいのではないかという議論はあったと思います。

【中山主査】 それは複製が介在してないから当然と言えば当然なのです。

【松田委員】 正確に言うと複製は介在しています。

【中山主査】 いやいや,ターゲットプログラムを複製しないで,いろいろな調査をして,ターゲットプログラムと同じ機能のものをつくるという,こういう話しですね。それはセーフになるのは当たり前ですよね。

【松田委員】 調査と言いましても,ターゲットプログラムでないプログラムをリバース・エンジニアリングするという手法はあるのです。例えばOSの上でアプリケーションAが動いていて,同じOSの上でアプリケーションBをつくりたいという場合には,Aを解析しなくてもOSを解析することによってBプログラムを創作するための情報を取得するということは可能です。そうすると,OSプログラムのリバース・エンジニアリングがそこに存在するわけですね。そういう意味では,ターゲットプログラム以外のプログラムの逆アッセンブル,複製の介在はあるのです。

【中山主査】 あるけれども,それはターゲットプログラムを複製してないから,ターゲットプログラムの著作権侵害にはならないことは当然ですね。

【松田委員】 ターゲットプログラムはですね。ただ,当時の議論でもそうですが,BSAは,それでもライセンスが必要だと言っているわけです。というかそこに複製があると言っているわけです。制限規定はないから,現行法では違法だということになるという主張があるわけです。

【中山主査】 主張はあるかもしれないけれども,ターゲットプログラムを複製していないというのは,いかなることをやってもターゲットプログラムの侵害にはならないですね。

【松田委員】 ターゲットプログラムの侵害にはなりません。

【中山主査】 Aの侵害になるかどうかは別問題。

【松田委員】 そういうことです。ただ,前回の本小委員会の議論でもおわかりのように,BSAはそれも許諾の範囲内だと言っているわけです。

【中山主査】 それは多分恐らく現行法上BSAの誤解というか,あえて強く主張しているのだとは思いますけれども,常識的にはターゲットのプログラムさえ複製しなければ,あるいは翻案しなければ,いかなる道をやっても,ターゲットプログラムの侵害にならないということは間違いないですね。

【松田委員】 間違いないということはどうでしょうか。それはまだわからないのではないですか。

【中山主査】 それはまあいいとして。しかし,ターゲットプログラム自体の複製がなければ,関係ない人のプログラムを複製する分には,それはターゲットプログラムの複製にはならないことは明らかですよね。

【松田委員】 それはそのとおりですけれども,関係ない人と,OSをつくる企業と,OSの上で動くアプリケーションプログラムをつくる企業というのは,これは往々にして同じなわけです。例えば,マイクロソフトがOSをつくり,マイクロソフトがその上で動くアプリケーションをつくるということはあるわけです。マイクロソフトのアプリケーションプログラムと同じ動き方をする互換プログラムをつくりたいというときに,アプリケーションプログラムを解析しなくても,マイクロソフトのオペレーティングシステムを解析することによってつくることは可能なわけです。

【中山主査】 マイクロソフトの権利を侵害したかどうかではなくて,マイクロソフトのOSを侵害したか,マイクロソフトのアプリケーションのソフトを侵害したかという問題……

【松田委員】 今のケースだと,ターゲットプログラムは解析してないでしょう,だから適法でしょうというふうに委員長は言われるのですが,現行法上それは自由にやっていいわけですね。

【中山主査】 いや,自由じゃなくて,それはAのプログラムの侵害になるかどうかは別論だという話ですが。

【松田委員】 はい。でもOSのプログラムのリバース・エンジニアリングはあるのです。侵害になるかどうかは議論がありますよね。

【中山主査】 OSというのはターゲットプログラムですか。

【松田委員】 リバースのターゲットプログラムはOSです。競合商品プログラムのターゲットはアプリケーションです。

【中山主査】 そう,それならそれは当然です。OSを複製するのはOSのプログラムの侵害になる可能性があるし,Aプログラムを解析すればAプログラムの侵害になる可能性があるというだけのことで。

【松田委員】 可能性はあると言いますけれども,委員長,OSのほうの著作権を持っている企業が,それは複製過程があるから侵害だよというのが平成6年の少なくとも基本的論点であったことは間違いない。今でも,それについては解決してないのです。だからその点も含めて,そういうことがいいのか悪いのかを報告書としなければ立法的解決にならないのです。私個人的に意見を言うのであれば,今のケースはいいと思っていますけれどもね。

【中山主査】 セーフ。

【松田委員】 セーフだと思っています。競合のターゲットプログラムを解析しないで,それ以外のプログラム,例えばOSを解析してインターフェースを承知する。その上で,インターフェースだけの知識に基づいて競合のターゲットプログラムと同じ機能を持つプログラムを開発してもいいのではないかと私は思っています。今はその点も解決できておりません。

【中山主査】 ほかに何かございましたら。
はいどうぞ大渕委員。

【大渕委員】 意見ではなくて,今お伺いした点を確認させていただければと思います。今お伺いしたのは,ターゲットプログラムであるアプリケーションプログラムそれ自体については解析せずに,そのアプリケーションプログラムがその上で動くOS自体を解析して,ターゲットプログラムであるアプリケーションプログラムと代替できるようなものをつくる場合には,アプリケーションプログラム自体の複製等はないが,OSの複製等があれば,著作権問題が起きてくるので,そのような問題を起こさないようにしましょうという,そういうご趣旨だということですか。

【松田委員】 そういう問題がある。解決ができてないということです。

【大渕委員】 要するにA自体については,一切もうコピーも何もしてなくて,何も見てなくても,OSについて解析すれば,Aと市場で代替できるようなプログラムはでき上がるということですか。

【松田委員】 という場合もある。

【大渕委員】 そのような場合もあり得て,その場合にOSのほうの複製・翻案が問題となり得るので,その点を手当てしたほうがいいのではないかと,そういうご趣旨ですか。

【松田委員】 そのとおりです。ここも手当てしておくべき重要な点です。もっと先を言えば,私は制限規定を入れてもいいのではないかと思っているという意見なのです。それが,実は,この資料1の4ページの,平成6年のときの議論が4つありましたというふうに書いてあります。(3)の2)の意見なのです。正確に言うと,これは2)も2つに分かれていたと思いますが,とりあえず,2)の意見はそういう意見です。

【中山主査】 これが,要するにいいか悪いかという話しなのですけれども。
ほかに何かありましたら。
はいどうぞ苗村委員。

【苗村委員】 私の考え方は今,松田委員おっしゃったことと大体同じですが,ちょっと細かく見ますと,資料1の4ページの(3)の2),または3)のいずれにせよ,競合プログラムを作成するために,当該プログラム自体をリバース・エンジニアリングすることは許されるべきではない。しかしながら,そのプログラムと相互運用するプログラムを新たに開発するためのもとのプログラムをリバース・エンジニアリングすることは権利制限の対象にすべきだという意味で,2)と3)の区別が,ちょっと実は私にはわからない,この中間かもしれません。
それで,先ほど既に発言がありましたが,用語がかなり誤解を招くので,互換という言葉は原則使わないほうがいいと思います。コンパティブルという英語の単語を2つの意味で使われますので,相互運用するプログラム,例えばオペレーティングシステムと相互運用するアプリケーションプログラムを新たに開発するためにオペレーティングシステムをリバース・エンジニアリングするというのは,仮に,その両方のプログラムの著作権者は同じであったとしても,著作物として1つでない限り,アプリケーションプログラムを新たに開発するために同じ著作権者が権利を持っているプログラムと同じような機能を持ったアプリケーションを新たに開発するためにオペレーティングシステムをリバース・エンジニアリングするのは許容されるべきだと思います。
一方,例えば,そのアプリケーションプログラムをリバース・エンジニアリングして,それと全く同じ機能を持ったプログラムをつくるということについては,ここでいう競合プログラムに該当するという意味で,多分許容するべきではない。その境界は確かに難しいのですが,その原理を明確にしたほうがいいと思います。
それから,ついでに,ちょっと別の質問なのですが,この4ページの(3)の中で全く出てこない,従来も全くご発言のなかった話で,特許権侵害の調査のためのリバース・エンジニアリングに関しての要望は出てないのでしょうか。むしろ,そのほうがニーズはあるのではないかと思うのですが。

【黒沼著作権調査官】 前々回のヒアリングの際にコンピューターソフトウェア著作権協会や1PAからは著作権侵害に着目して要望がされておりますけれども,今のところ明確に寄せられている要望としては特許権侵害の調査のためのリバース・エンジニアリングにつきましてはございません。

【中山主査】 しかし理屈から考えたら区別する理由はないでしょうね。

【黒沼著作権調査官】 実質的には同じ部分があるかと思います。

【中山主査】 もし,特許権を理由に何か文句をつけられて,本当にそうかと思って調べたらアウトだけれども,著作権を理由にクレームをつけられて調べたらセーフというのは,これはおかしいですね。
そのことは,多分今のところは要望がなかったから書いてないというだけだと思うのですけれども。
ほかに何かありますでしょうか。
はいどうぞ森田委員。

【森田委員】 これまでの議論十分にフォローしていないものですから,ちょっと基本的なところでお伺いしたいのですけれども,要件をどうするかというところで最終的には具体的な議論をするというのはわかるのですが,ここで権利制限をするというときのそもそもの根拠というのは何なのでしょうか。例えば,競合プログラムを作成する目的の場合にはどうかという議論をするわけですが,その際には,そもそもここで権利制限をすることの根拠についていくつか違うものがあって,そのどれをとるべきかという議論になっているのでしょうか。そういう意味での根拠というのは,このペーパーには書かれていないように思うのですけれども,権利制限をすべき根拠というのは,例えば,プログラムというのがある種の公共財的な性格を持っていて,それについては他の者が一定の解析をするということが当然許容されるということなのか,そのあたりの根拠についてもう少しお聞かせいただければと思います。

【黒沼著作権調査官】 根拠につきましては,4ページの真ん中あたりの1)から4)が書いてある少し下のところですけれども,共通している根拠は,著作権は表現を保護するものであって,アイデアを保護しないのだけれども,アイデアを見るために解析を行おうとすると,その過程で翻案なり複製なりが起こってしまうということですので,実質的にアイデアを見るための行為なのだから,そこについては著作権は働かせなくてもいいだろうというのが根本的なところでございます。
ただ,そうは言っても,行為によっては,著作権でプログラムを保護するための実質的な部分,これを保護しようと思っている部分まで犯してしまう可能性があるのではないかということでいろいろ差が出てきているのだとは思います。

【森田委員】 アイデアは保護しないのが原則であるとしますと,アイデア抽出のための解析に伴う複製・翻案を認める合理的な実際上の必要があるかという問いとの関係はどういうふうに整理されるのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 私も,十分に頭の整理ができてないのですけれども,プログラムの保護というときに,実質的に保護しようとするものが何なのかということに関してはいろいろご議論があった,つまり,本質は技術そのものを保護したいという意図から出発して,それをどういう形式で保護するのかについていろいろ議論があったわけですけれども,そういうところとの絡みがあって,本来であれば,表現ではなくアイデアを抽出するということなら全部認めてもいいのではないかという根本思想がありつつも,その実質的な部分で何かが引っかかってきてしまうというような議論があるのではないかとは思っております。

【中山主査】 よろしいでしょうか。

【森田委員】 一般的には,通常の著作物の場合にはアイデアは保護されないけれども,コンピュータ・プログラムの場合には,アイデアを抽出しようとすると複製・翻案を事実上することになるので,そこで制約がかかっているということでしょうか。しかし,それはそういう制約が今かかっているので,それを尊重すべきだという考え方にも合理性があるという場合の合理性というのは,先ほどの前提の,アイデアを保護しないという原則と抵触するように聞こえてしまうのですけれども,そこは,この場合にはアイデアも保護することに合理性があるという趣旨なのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 ご指摘のところがまさにこの議論のポイントだったのだと思います。

【中山主査】 昔から,各国,あるいは企業の利害がなかなか絡み合っているところで,なかなか一筋縄で行かないところなのですけれども,あと1つここに書いてあるようにやはり競争法的な要素は多分にあると思いますね。現実問題として,弱小の企業がやれば余り競争出問題ないかもしれませんけれども,一番問題なのは,大きな企業,特にファクタスタンダードになってしまったような企業が問題になってきますから,競争法的な観点からもこういう規定が必要だという意見は当然あると思います。
ほかに何かございましたら。
はいどうぞ森田委員。

【森田委員】 先ほどの苗村委員のご意見にありましたけれども,4ページの2)と3)というのがどう違うかということなのですけれども,この書き方で行くと,競合プログラムを作成する目的でするといけないというふうに読めますけれども,欧州の立法例を見ると,目的を権利制限の要件とするのではなくて,解析によって得られた情報を使って類似する競合プログラム等をつくってはいけないという,何か得られた情報を使った一定の行為制限として書かされているように思います。目的的に要件を課す場合には,先ほどの相互運用性等の目的の要件で縛りをかけるけれども,そこで得られた情報は,それ以外の目的にも使うことができる,しかし,その後で一定の行為規制を課すという,何かそういう仕組みになっているようなのですが,ここの2)と3)というのは,競合プログラム等の特定の目的があると,実際に競合プログラムをつくったかどうかとはかかわりなく,そういう意図でプログラムの調査・解析を行ったのであれば違法であるということになりそうなのですが,ここは何かそういうことをあえて入れるのが2)で,3)はそうでないという整理なのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 ご指摘のとおりです。目的段階で絞ってしまうのが3)のほうです。ヨーロッパの立法も,目的につきましては,他のプログラムとの互換性の確立というような形で目的を絞った上で,さらに得られた後の情報をどう使うかというところでさらなる絞りがあるという形でございます。
2)のほうはそうではなくて,目的段階では縛らないと言いますか,目的段階では広く一般的に認め,一定の場合だけ除くという形だと思います。

【中山主査】 よろしいでしょうか。
ほかには,どうぞ茶園委員。

【茶園委員】 先ほど森田委員が質問された根拠に関してですが,著作権は表現を保護しアイデアを保護しないということが共通の根拠であるということを答えられたのですけれども,それは,保護されないアイデアを抽出し,そのアイデアを利用することは許されるべきであるという趣旨のものと思います。ただ,4ページの下のほうにも書いてある目的のうち,障害等の発見とか保守とか,あるいは脆弱性の確認とかは,表現そのものを見ないといけないから行うものではないでしょうか。アイデア抽出とか,そのアイデア利用とかとは違っていて,その根拠はアイデアを保護しないということとは違うのではないでしょうか。4ページの下のほうから書いてある目的の中には,アイディアを保護しないことを根拠とするものとそうでないものの両方があると思います。

【中山主査】 それはそのとおりで,昔から侵害発見のための解析というのは少し性質が違うと言われていました。絵なら見ればわかるけれども,プログラムの場合見てもわからないから解析するだけ,別にアイデアを使うとか,そういう話ではありません。この部分は違うと申しませんけれども,侵害発見のための解析だめという人は恐らく余りいないだろうとはと思います。
ほかに何かございましたら。
どうぞ大渕委員。

【大渕委員】 ほかの権利制限規定でも,あるのでしょうけれども,公益の点や,権利者に与える影響が小さいことなど,いろいろな点が合わさって理由付けされていますが,ここでも,同じように色々な点を合わせて考えていくことになるのではないかと思います。
それで,ちょっと先ほどに戻りまして,前も切り分けが難しいという話だったのですが,競合品の開発というのと,それから画期的なプログラム作成というあたりについて,どう考えていくかというのがまたほかの論点になってくるかと思います。これは先ほどのようにマーケットで一定のディマンドをとってしまうかという点だけから言うと,画期的なプログラムというのは最もとってしまうわけなんですけれども,そういう観点からすると,このあたりは,また競合品とかという点とは別の観点から,画期的なプログラムを作成する目的での権利制限を認めるべきかという話になってくるのではないかと思います。

【中山主査】 画期的にという言葉がいいかどうか,これは確かに問題があるのですけれども,要望のほうでそういうふうに出した方も触れていると思うのですけれども,この要望については画期的でなければだめなのかというのは。

【松田委員】 革新的ですね。

【中山主査】 あそうですね,革新的です。革新的でなければだめなのかという,そのことはまた少し後で議論してほしいけれど,そういう言葉がいいかどうかはちょっとここでは置いておくことにして,何かほかにございましたら。
事務局のほうでも,何かここだけは議論してほしいとこありますか。

【黒沼著作権調査官】

少し資料のつくり方が雑だったのかもしれません。確かに,もともとの目的として分類すべきものとできた結果をどう考えるのかなどがいろいろ混ざってしまっているかもしれませんので,もしそういった点で,これはこう切り分けたほうがいいというようなご指摘でもいただければまた次回に生かせるかと思いますけれども。

【中山主査】 それでは,今日でなくても結構ですが何かご意見ございましたら。
どうぞ苗村委員。

【苗村委員】 先ほどの目的の話と関連しますが,4ページの下に書いてあるア,イ,ウ,エ,オ,カの中で,ウ,エ,オというのが,おそらく同様の目的のためのリバース・エンジニアリングであり,しかも,これは権利制限の対象にすべきものだと私は思います。同様のという意味は,ユーザーの立場で,そのプログラムの利用者,当然資料2にあるような意味で,そのプログラム複製物に関する使用権限を有するというようなことは条件としていいのですが,その者が,自分の持っているプログラムを利用する上で,それの中にエラーがあって,誤動作をするのは困るとか,どこかに公表されるのは困る。また自分がそれにつなぐプログラムを新たにつくろうと思ったらうまくつながらないのでは困る,そういう意味で,そのユーザーの技術的レベルは違いますが,ウ,エ,オはおそらく同じ目的で,必ずしもアイデアの発見,抽出のためではない。むしろ,利用する立場で必要だからということだと思います。くどいですが,オというのは互換性ではなくて,相互接続性,相互運用性という意味ですね。
それに対して,イは多分アイデアを抽出するということに該当するのだと思います。プログラムの表現がどうなっているかはともかく,実行したときにどのぐらいの処理速度が出せるかとか,どんなことができるのかを見つけるということですから,多分種類が違って一般のユーザーはこういうことを特に調査しなくてもよいと。
カと,ここには書いておりませんが,特許権侵害の調査・発見は,先ほど中山主査がおっしゃったように,別のジャンルだと思いますし,アはちょっとわからないのですが,おそらく別のジャンルかもしれない。何かそういう整理をされて,必要性を議論されるほうがわかりやすいかという気がいたしました。
以上です。

【中山主査】 ありがとうございます。
それでは,よろしいでしょうか。もし何かございましたら後でまた事務局のほうに連絡をしていただければと思います。
それでは,この項目につきましては,差し当たりこれくらいにいたしまして,次に研究開発における情報利用の円滑化について事務局より配布資料の説明をお願いいたします。

(2)研究開発における情報利用の円滑化について

【黒沼著作権調査官】 それでは,引き続きまして,資料3のほうをご説明させていただきます。
こちらは研究開発における情報利用の円滑化でございますけれども,(1)のところは,検討の背景ということで,今まで出てきた流れを整理してございます。
もともとの発端は知的財産戦略本部からでございまして,そちらのご認識としましては,インターネット上の膨大な情報・知識を抽出することによってイノベーションの創出が促進されるという現象があるということから,情報アクセスなどネットワーク化のメリットを最大限に活かせるような環境整備が必要だというのが基本認識のようでございます。
その上で,まず,こういった情報を抽出することができるようにするための前段階ということだと思うのですが,情報処理のための基盤的技術を研究開発する,そこのところにつきましては早急に対応が必要だという観点で提言がされたということでございます。
枠囲みのところにその関連の記述を載せておりますけれども,こういった情報抽出のための技術開発のようなものは,著作物の通常の利用形態とは異なっていて著作権者の正当な利益を害する恐れは少ないということ,それから,諸外国では米国,英国などで権利制限の対象になっているではないかと,そういった状況にありまして,このような提言がされたということでございます。
次のページは前回,前々回行ったヒアリングの大まかなところを,特に研究者側からのものをまとめたものでございます。
どのような形で著作物の利用が行われているかということでございまして,ウェブ情報解析関係では,クローリングをして,ウェブ情報を蓄積しておくこと等についての利用があるということ。それから言語解析ではコーパスを作成し,それをネット公開,あるいは配布などの形で利用しているということ。画像・音声解析では,放送番組の録画蓄積,あるいは言語部分,音声部分を蓄積していくようなことが行われているようでございます。そのほか,実際に開発した技術なり,機器の検証の過程で,実際に機器がうまく機能するかどうかという形で著作物を利用する場合があるということ。それから,解析系のものとまた違いますけれども,研究の対象として著作物を使うというような場合もあり得るというようなこと。
いろいろな利用のパターンのご紹介がございました。こういったものを踏まえまして,どこに著作権法上の問題があるのかというところで,(2)で整理を試みております。
こちらの部分は,ちょっと事務局で整理を試みさせていただいたので,このような問題意識でいいのかどうかもひとつご議論のポイントかと思っております。そういった感じでご紹介させていただきますと,まず知財本部の問題認識の分析でございますけれども,先方が通常の利用形態と異なるというようなことを言っているのですが,この問題意識をどういうことだと捉えればいいのか,意外と日本語化するのが難しくて,通常の利用形態と異なるというのはどう異なるのかと,それで,ちょっと日本語化してみたものが2段落目でございます。例えば情報解析の場合は,目的としては著作物の表現そのものを感じ取るというのではなくて,その中から必要な部分を探り当てるとか,キーワード検索みたいなものが典型ですけれども,必要な部分を探し当てる,あるいはアイデアや背景情報を抽出するということが目的なので,仮に生身の人間がこれを行うのだとすると,単なる視聴行為として著作権法は働かないはずであります。一方で,同じ行為をコンピューター上で実行しようとする場合には,一旦データとしてコンピューターに蓄積をしなければいけないので,そのとき同じ行為をしているにもかかわらず著作権法上の利用行為の該当してしまう,そういった問題意識なのかなと考えて日本語化を試みてみました。もしそこが違うということであれば,ご指摘いただければと思いますが,例えば,そんなことで捉えてみてはどうかと思っております。
そして,仮にもしこういう問題意識だとするのであればという前提で,次の○のところですけれども,今回の研究開発関係の課題というのは,このように著作権法が本来想定している保護範囲と,外形上そういった行為に当たってしまうけれども実質はそうでない行為との調整の問題なのかともとらえられます。
ただ,そういう問題意識であっても,ひとたび研究開発における情報利用という権利制限規定を設けてしまった場合には,研究開発という用語自体は非常に幅広い言葉ですので,もともと想定していた解析技術の研究開発以外の研究も含まれてしまうことになるということで,前回,前々前回以降この委員会でも様々なご指摘があったかと思います。
そういったちょっと複雑な問題がございますので,本来であれば,要望のあった事項について,この行為の性質は何なのか,それについて法改正しなければいけない問題があるのか,それとも権利処理上の問題なのかなどと,いろいろ問題分析をするところではあるのですけれども,今回の場合は,もともとの利用行為が幅広くてなかなか一律に分析ができない。そこのところがさらに問題を複雑にしているということで,問題の所在というのを,ちょっと整理をしきれないような整理にして書いてございます。
その上で(3)の論点整理でございますけれども,(1)は,まず前々回,前回の議論で,検討対象を絞った方がいいんのではないかというご指摘があったことを受けた部分でございます。幾つかご指摘ございましたけれども,A)のところは,もともとの問題意識があるのであれば,そこに限るなど,特定の分野の研究開発に限って検討すべきではないかと,研究開発全体を検討対象にしては議論が収束しないのではないかというご意見でございました。
出された例としましては,解析技術の研究開発に限る,あるいはネット上の著作物を利用して行う研究開発に限るというようなご提案が出されておりました。
その次のB)のご意見は,研究開発のうち,こういう研究はいいけれども,こういう研究はだめだ,というような線引きはすべきでないというご指摘もございましたので,研究開発全般を想定すべきだという立場かと思います。
C)は,これはまた別途の観点ですけれども,プログラムのリバース・エンジニアリングを研究開発目的で行う場合については,ここで考えるのではなくてリバース・エンジニアリングの方で考えるべきだというご指摘もあったかと思います。
こういったご指摘がございましたので,検討の前提として,検討対象をどうするか,研究開発全般でとらえるのか,特定のものに限るのか,まず論点があるかと思います。
その次に,権利制限の根拠をどう考えるかというところですが,ここでは,前々回,前回のご意見でもいろいろとご提案がありましたように,どのような切り口によって権利制限が必要な範囲を決めていくかにつきまして,いろいろ列挙してみております。例えば内部的なものであればいいのではないかとかいろいろあったのですが,こちらの切り口というのは,おそらく,権利制限規定を考える場合の根拠とリンクをしているのだろうと思われまして,零細な利用であるから権利制限をすべきなのか,あるいは著作権法が本来保護しない領域のものであるから権利制限すべきなのか,研究に公益性があるからなのか,市場の失敗に対応するためのものなのかと,いろいろ権利制限の考え方があるかと思いますけれども,こういった背景にある思想によって,おそらくaからfのような切り口の違いが出てきているのではないかと思っております。
出てきたご指摘としましては,内部的,中間的な利用にとどまる場合はいいと,あるいはごく限られた部分だけ利用する場合,あるいはアイデアを抽出する場合,それから大学等の学術研究に限るというようなご指摘もございました。あとは,トランザクションコストや契約処理の実現性などの観点から切るべきではないかというご指摘もございました。ここら辺を,権利制限規定をどういう性格の規定と考えるかという点とリンクすると思いますので,こういった点を合わせまして,両方の関係からご議論いただければと思っております。
なお,◆で列挙してあるものは,どういう立場をとるかによるのですけれども,とった場合でもその先に細かい論点があるというご紹介でございます。
上のaからcにつきましては,おそらくこれは著作権法がそこまで保護しなくてもいいのではないかというような観点からの切り口かと思うのですけれども,仮にこういう観点で権利制限規定を設けるのであれば,研究開発の場合に限った問題ではなくなるのかなと思っておりまして,具体的に出てくる問題点として,例えばのところで書いてございますが,検索エンジン,あるいはウェブ解析技術につきましては,前々回ご紹介もありましたように,実際にクローリングをしながら,うまくできているのかどうかという形でどんどん技術を検証して向上させていくという形でございまして,実際にその過程で得られた情報そのものも他で利用されておりますので,情報抽出そのものと,そのための技術開発というのが区別できるのかどうか。こういうところで今のような問題点が顕在化してくるのではないかと思っております。
その次の◆ですが,dの研究主体によって区別すべきというご指摘,これはおそらく研究開発の公益性という点に着目したものではないかと思われますけれども,それでは公益性のある研究開発とはどういうものなのかという論点が出てくると思われます。
その次のところで,営利か非営利かに着目するご指摘もございました。この場合は,また研究主体とも絡むのですけれども,コーパスですとか,ウェブアーカイブをした場合には,それを構築するという研究目的と,でき上がったものを利用して研究するという研究目的と,2つ異なる主体が存在する場合がありますので,営利,非営利というのはどちらの主体について考えるべきなのかという論点も1つあるかと思います。
なお,現行法に,図書館に関しまして,調査研究の目的であれば複製ができるという権利制限規定があるわけですけれども,これにつきましては非営利目的ということで限られております。ただし,この場合は,調査研究目的自体が非営利でなければいけないという要件ではありませんで,提供する側に非営利の要件がかかっているという形でございます。
それから,その次の権利処理の実現性という点に着目した場合ですと,前回のヒアリングの中に出てきたものでは,コーパス,あるいは放送番組につきましては,現在権利処理をして,契約でやっているものもあるようでございますので,そういったものについてどう取り扱っていくのか問題になってこようかと思っています。
以上,いろいろ複雑に絡まっておりますけれども,ご指摘を賜れればと思っております。
その次のページはその他の要件でございます。
今のような点のほかに利用行為の態様によってさらに範囲を絞るべきかという追加の要件があり得るのかと思っておりまして,一番目は,研究目的と利用する著作物との関連性をどう考えるのかというご指摘があったかと思います。研究目的に関連性の深い著作物だけの利用にとどまるのか,それとも研究目的と関係の薄い著作物まで広く利用できるようにするのかと,これによって大分影響の範囲が変わってくるのではないかというご指摘だったかと思います。それから,そのほかビジネスと衝突するものはどうするのかという観点もございますので,権利制限を正当化するための範囲に加えまして,利用態様によってさらに範囲を限るのかどうかという点についてもご指摘をいただければと思っております。
(4)は,これは普段とは手法・手順が逆で,普段は最初に考える,法改正でやる必要性があるのかどうかという議論なのですが,範囲を確定してからでないと議論ができないということもありますので,そういった範囲を仮に限ってみたとして,そういう部分が現行法で対応が可能かどうかというような点も,通常と手順が逆なのですけれども,後でお考えいただく点かとは思います。
それから,(5)は,一番最初にご指摘があった問題点ですが,研究開発は非常に多様な範囲になるので,フェア・ユース規定との関係はどう考えるのか,そちらで対応すべき部分があるのかどうか,あるいは研究開発の規定を設けるにしても,包括条項的な規定になってしまうのではないかという観点からこういったご指摘があったかと思います。
それから,その次の(6)ですけれども,技術的保護手段との関係,これにつきましては,また先ほどと同じ資料ですけれども,資料4をご覧いただければと思います。
米国につきましては,先ほどの繰り返しになりますけれども,技術的保護手段の回避を一般的に規制する規定が設けられた上で,一定の事項に限って回避してもいいという規定になっているわけでございますが,学術研究等のための著作物利用がまず列挙されてございます。
それから,その下の段落ですけれども,フェア・ユースの抗弁などに関しましては,技術的手段の回避の規制というのは影響を及ぼさないということになっておりますので,フェア・ユースに該当するような場合には,技術的手段の回避の違法性は認められないという形になっております。研究につきましては,実際には,フェア・ユースの中でやられているということでございますので,フェア・ユースが成立するような研究開発であれば,実質的には技術的手段の回避もできるということになろうかと思います。【※事務局注:この部分については,第8回委員会において訂正の発言あり】
ヨーロッパにつきましては,これも大体の一律の規制をかけた上で,さまざまな事項に関しては技術的保護手段を回避してもいい,あるいは代替物を提供するという形になっておりますけれども,これに列挙されているものは,各国共通でやらなければいけないものでございまして,実際にはそのほか各国が各国の判断で事由を追加しているものもございます。中でも列挙されているものの下から3番目に学術研究のための目的の利用という形で規定が盛り込まれております。
我が国につきましては先ほどご紹介したとおりでございまして,権利制限規定の趣旨に応じて技術的保護手段の回避に関する規定を設けるかどうか,個別に判断をしているわけでございます。従いまして,これは先ほどの権利制限規定の趣旨をどう考えるのかに応じて考えざるを得ないかと思っております。
以上,まとまりのない整理ではございますけれども,多様な論点がございますので,いろいろご指摘を賜ればと思います。よろしくお願いいたします。

【中山主査】 どうもありがとうございました。
前々回のヒアリングのときには,権利制限規定についてのイメージが皆さんちょっと異なっていたようで,必ずしも議論がかみ合わなかったかもしれませんけれども,事務局でこのようにまとめていただきましたのでご意見を賜ればと思います。
何かご意見ございましたらお願いいたします。
これ,戦略本部で出てきた要望は,まず画像とか音声とか言語の解析のために使いたいという,そういう要望が出てきたわけですけれども,この点についてはいかがでしょうか。余り積極的にそれもだめだという意見はなかったように思うのですけれども,いかがでしょうか。
どうぞ森田委員。

【森田委員】 結論的にいけないということではないのですけれども,権利制限を認める根拠というのは,ここに挙げられているウェブ解析等の一定の情報通信技術についての研究開発を促進するという特定の政策を国が掲げて,そういう政策目的を達成するために権利制限を行う,研究一般ではなくて,特定の研究を国が促進しようという政策目的から権利制限がかかるという説明が1つできると思うのですけれども,そういう考え方で行くのか。3ページで書いてあるのはこれとは少し違って,本来著作権が及ばないような行為についてコンピューターに実行させようとする場合には事実上コンピューター上に蓄積させなければできない利用行為になっているので,権利が及んでしまうのをどうするかという説明がなされております。しかし,このように説明すると,情報通信技術を対象とする場合にも,それがなぜ権利制限の対象となるのかということの根拠の整理の仕方によっては,他の問題にも波及してくるのではないか。ここでも,アイデアの抽出行為そのものには本来著作権は及ばないはずではないかという,先ほど行ったのと同じような議論が書かれていますので,リバース・エンジニアリングは別の問題であるという整理がうまくできるかという点がやや疑問に感じてきます。そうではなくて,最初に述べたような特定の研究開発を国が政策的に促進するということであれば,それはそれで対象となる範囲は明解になると思います。きょうの説明資料の2ページから3ページにかけてのところは,ある種の情報通信技術に絞って検討してはどうかという整理になっていると思いますが,ヒアリングの中には,このほかにも社会学的調査のような話も出てきていましたけれども,それも重視すべきだという考え方もあるかもしれませんが,ここではそういうものは特に政策的に推進すべきものとは位置づけられないということになっているのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 3ページからの部分につきましては,もともとの知財本部の検討のきっかけとなったところの問題意識の分析でございまして,この委員会ではそれに限らず,広く研究開発のときの問題を考えるべきだというご指摘でございましたので,ここでそれに絞ろうというご提案をしているというわけではございません。

【中山主査】 よろしいですか。

【森田委員】 政策的に特定の研究を推進しようという説明は一番明解で範囲はクリアになると思うのですけれども,その説明をとらないとなると,なぜ研究開発一般のうちで特定の技術だけに着目して権利制限をするのかということの説明がかなり難しいように思います。3ページは一生懸命そこを理論化しようと試みられたと思うのですけれども,これでいくとそれ以外のいろいろなものがどんどん入ってきそうな気がするものですから,そうなってくると,その前で述べられている対象となる研究についての整理も,これだけが対象にならなのではないかということに戻ってくるような気がしたものですから。

【黒沼著作権調査官】 まさに悩んでいるところはそういうところでございまして,もともとの問題提起された部分に限ってやればいいのかと思いましたが,それを分析してみると,そこにとどまらない一般的な問題も含んでいるという,分析の仕方が悪いだけかもしれませんけれども,そういった点も1つございますし,仮に条文に何らかの情報解析の研究開発と書いたとしても,その範囲の中にまたさらに別の性質の利用のものが入ってきてしまうという可能性もありますし,なかなかそこは悩ましいなと思って悩んでいるところでございます。

【中山主査】 戦略本部から出た話は先ほど事務局のほうから説明があったとおりですけれども,著作権法の改正となりますと,それは当然に著作権法全体を考えて議論しなければいけないので,根拠の点についても,ここでもし意見があれば述べていただきたいと思います。何かございましたら。
どうぞ苗村委員。

【苗村委員】 まず,先ほど森田委員のおっしゃったことは私も同じように考えていまして,基本的にこのテーマは非常に奥の深い話なので,2008年度中に結論を出すのであれば,政策的な必要性にあった部分のみを考えるべきだし,そうでないとすればもう少しじっくり,何年かかけて議論すべきテーマなのだろうと思います。
それで,もし絞るとしたらということでコメントですが,3ページのところで整理をされたのは大変わかりやすくて,3ページの(2)の○の第2段落です。ここに書いてあること自身は私も多分そのとおりだと思うのですが,それに加えて,特に知的財産戦略本部から出されたものというのは,具体的に対象となる著作物がウェブの場合と,それから放送番組の場合というふうになっています。ウェブの場合は,これは特定のウェブサイトのコンテンツということではなくて,インターネット上でアクセスできるすべてのコンテンツを対象にしますので,当然,個別に契約をするということはあり得ない,したがって,契約による対処というのが考えられないので,こういったような権利制限が必要であろうということがかなり明確に言えるだろうと思います。しかも,そのウェブ上に特に無料でだれでもアクセスできるようにされているものというのは,著作権法の解釈上どうかということは別として,そのウェブサイトにコンテンツを載せた,送信可能化した人は,それを複製することはある程度想定しているだろうということがあると思います。
一方,放送番組のほうは,今後つくるものについては事前に権利処理をするということで契約という対処もあるわけですが,特にアーカイブ化されたもの等については,さかのぼって権利処理をすることは事実的に不可能だと思います。そこで,3ページのところに書かれたような意味で,それを一般の人が享受するためではなくて分析をして何らかの傾向を導き出すとか,そういったための利用であれば,むしろ権利制限の対象にしていいのではないかと,そういう意味で限定をすることによって,具体的には4ページのA)の方向で結論を出すべきではないかと思います。

【中山主査】 ありがとうございます。
ほかに何かご意見ございましたら。
今のご意見はとりあえずはA)の部分につき検討するけれども,あとは継続審議という,こういうことですね。

【苗村委員】 はい。

【中山主査】 ほかに何かご意見ございましたら。
もっとも狭くやる場合,画像解析とか,そういうコンテンツが,若干のもの以外についてはいかがでしょうか。そちらのほうが議論は大きいと思うのですけれども。
大学の先生が研究目的でコピーしていいか。この中にも切実な利害関係のある先生も沢山おられると思いますけれども,いかがでしょうか。
どうぞ大渕委員。

【大渕委員】 今,主査がご指摘になった点は,この典型ですが,もともと研究開発ないし研究についての権利制限というのは当然に考えなければいけない重要論点だと思います。ただ,先ほど苗村委員のご指摘があったとおり,タイムテーブルとの関係で,それの中でも一部今非常にスペシフィックに出ているものに絞らないと,全体については近々に検討することができないということでは,先ほど言われた案は,現実的路線としてそれしかないのかなという気がしております。もちろん先ほどあった研究者の文献コピーの点を含めて,この研究のところは当然検討しなければならないと思いますが,そういう意味では,二段構えみたいな形に現実的にならざるを得ないように思います。そういう現実的なある種割り切り的なものに一定程度ならざるを得ないのかなという気がしています。

【中山主査】 時間がないと決めつけることもないと思います。最近の知的財産法の立法はものすごくスピード化していますし,うかうかすると議員立法になってしまうという時代です。5年,10年かかっていますと議員立法になってしまうおそれもあるという時代です。こちらのほうでもできるだけスピードアップをして,どうしてもだめなら仕方ありませんけれども,とりあえずはスピードアップをしていただきたいと思います。
ほかに何かございましたら。
その意味で,前半だけじはなくて,後半についての議論もいただければと思いますけれども。いかがでしょうか。
大渕先生などは多量にコピーしていると思いますけれども,いかかですか,ご意見は。大渕先生だけでなくみんな私も含めて,私は大学人ではありませんが,,大学にいた頃は大量にコピーしていました。
考えなければいけないのは,もしこれを制限規定で入れてしまうと,今の複写権センターでとっている金は取れなくなるということにつながるわけです。そうすると小説などはいいとしても,医学出版はどうかとか,いろいろなことを考えなければいけない問題があります。何かご意見ございましたら。時間がないというご意見もありましたが,意見がないというのでは,後から議事録を読んで格好がつきませんので,何かご意見ございましたら。
松田委員どうぞ。

【松田委員】 文系,社会学系の研究についても同じことを考えるべきだと最初に言い出したのは私でして,そこのことをつけ加えることにいたしましょう。
知財の推進計画で,研究分野の想像力を強化するために必要なというのは,結局イノベーションの創出のためなのです。おそらくイノベーションの創出のためということになりますと,大学等研究機関における研究だけでなくて,企業における技術を開発するための研究も含むと,こういうニュアンスがあったのではないかと思うわけです。それに限定してその制限規定をつくろうということになりますと,著作権法の中にまさしく産業政策的視点から制限規定を設けるという,こういう決断をせざるを得なくなるわけですが,私は,やむを得ないのではないかというところをも少しあります。先ほどの議論のリバース・エンジニアリングは結局産業政策的視を考察することになるからです。しかし,研究にこの視点を入れてよいのでしょうか。
研究には必ずどこかの過程でコピーが必要だから,それも包括的に制限規定を設けようということになりますと,これはイノベーションでは決してなくて,純粋に研究目的ならばという範疇を1つつくることになるわけです。言ってみれば報道目的とか司法目的とか立法目的と同じように研究目的というのをつくることになるわけです。研究目的の条文をつくりますと,産業政策的なイノベーションのための研究開発,一般企業の製品開発のための研究というものは,その視点から言うと外されることになってしまう可能性があると思うわけです。その葛藤があるわけです。
私は,両方必要ではないかなというふうに思っています。包括的に研究開発の制限規定を入れるか,イノベーションのために必要な制限規定を要件定義できるのであれば,その両方を議論してもよいかと思っております。最初の意見と少し修正しないといけないのかなというふうに思っております。

【中山主査】 社会学的研究とおっしゃいましたが,むしろ全部でしょうね,理科系も。社会学だけじゃなくて。

【松田委員】 そうです。もちろんです。

【中山主査】 はいどうぞ大渕委員。

【大渕委員】 いろいろ出ておりますけれども,権利制限の根拠をどう考えるかというあたりに関わってきますが,やはり研究というのは公益的な意味を持っているということからして,やはりそういう公益的な意味があるものについてはきちんと権利制限規定として挙げていくことに,明確性その他の点で大きな意味があるとかと思います。もちろん複写権センターその他の関係も考えていかなければいけませんが,それをにらみつつもきちんとこういうことについては規定を置くことが重要だと思います。それはもちろん文系だけじゃなくて研究一般について,です。そう言い出すと,また,研究の範囲はどうだとか,産学連携したときはどうするのかとか,いろいろな個別の論点は出てこようかと思いますけれども,国家戦略云々などとは別に,先ほど出ていた性質論等からして,権利者の権利保護と公正な利用とのバランスを図るという権利制限の趣旨からしても,著作権法の究極の目的である「文化の発展」の文化にとっては,研究というのはその重要な一部をなしているわけですから,当然こういうものは考えていくべきだというふうに思っています。各論に入るとまたいろいろ出てきますけれども,研究についての権利制限という基本線というのは,むしろ,著作権法に出ていないのがおかしいのではないかというふうに私は思っております。

【中山主査】 恐らく法学者というか文科系の学者自体は,むしろコピーされて読んでほしいと思っているのでしょうけれども,反対をする人は,著作権者である学者ではなくてむしろ出版社ですね。出版社といえば,医学部みたいにほとんど大学人とか限られた人しか読まないような本を出版している会社はどうするかというような問題もあり,問題としてはそっちのほうが大きいという気がします。
ほかに何かありましたら。
どうぞ苗村委員。

【苗村委員】 今,医学というお話が出ましたので,この前,金原さんも言っておられましたが,医学出版のように,もともと大学の医学部の先生が読むことを主たる目的として出版している図書などがあるわけです。あるいは学会誌,雑誌等,そういったものについて,もし学術的に文系,理系,医学,その他を問わず研究のためであれば自由にコピーをしていいということになると,そういった出版社が成立し得ないということは間違いない。
一方,先進国一般にどうしているかというのは,多分これも事務局で調べていただいたほうがいいのですが,おそらく権利制限ではなくて日本複写権センターのような包括的な契約による処理で,有償でコピーをしているんだと思います。いずれにしても,複製ができないということを認めるべきではないと。複製はできる,しかし適正な対価が払われるというメカニズムをまずは敷く,あるいは確認していくことが先で,それでうまくいかない場合については権利制限規定を設けるというのが大原則ではないかと思います。
さかのぼりますが,たまたま今回はインターネットの上のウェブコンテンツと過去のテレビ,ラジオ番組などが特に権利処理が難しい,包括契約もあり得ない,ということから今回研究開発のためにということになったわけですが,同じような意味で,一般の研究目的であっても,契約によってそれを利用することが実質的に不可能だということが確認された分野については,当然議論していいと思うのですが,その契約ができないという場合はどういう場合かということを一度整理して,その上での議論のほうがいいような気がいたします。

【中山主査】 恐らく今の苗村委員は,マーケットが失敗してきていると,だから自由にせざるを得ないのだということで,マーケットがしっかりしていればうまく行くのだという話なのですけれども,現状はどうでしょう。複写権センターが果たして,日本の著作権のほとんどをカバーしているか,あるいは外国のものはどうかと,特に学者は外国のものをコピーすることが多いわけですけれども,うまくできているかどうかという,そのシステムができてないとおそらく今の考え方はうまくいかないと思うのですけれども,その見込みはどうでしょうか。事務局のほう何かわかりましたら。

【中山主査】 仮に制限規定を設けて,対価を払って複製を自由にするということであるならば,今みたいな調査も当然必要になってくると思いますので,調べておいてください。
ほかに何かございましたら。
仮に,今のように複写権センターがお金を取るとしても,先ほどの前半の場合,言語解析とかそういう場合もお金を取るかと,そういう議論にもなってくるとは思うのですけれども,その点いかがでしょうか。みんな仮にという話で申しわけないのですけれども。何かこの辺でもお金を取るというのはおかしな感じがしますね。
何かご意見ございましたら。
どうぞ苗村委員。

【苗村委員】 複写権センターのことについて,私は関係者なのですが,代弁する立場にはないのでぜひ事務局で確認をしていただきたいのですが,IFRROという国際組織があって,ここは複写権センターを含む,そういう権利処理をする各国の団体の国際組織ですが,そこでの議論ですと,諸外国,特に先進国の権利処理機関の収入の大半は大学等の教育機関等から入ってくる。一方,日本ではその収入が非常に少なくて企業からが大半だということを聞いたりしています。そこら辺の実態を確認して,単に法制度だけではなくて,こういう研究その他の目的のための法制について,現状がどうなっているかということはご確認いただいたほうがいいと思います。
それから,今,たまたま主査からお話しのあった,例えばウェブのコンテンツであるとか,放送番組などを,複写権センターまたはその近辺の組織が一括して処理するというのは意味がないと思います。あくまでも権利者から委託を受けなければならないので,権利者がそうするということがちょっと考えられないという意味で,特に放送番組の場合は,過去のものは権利そのものがそもそも集約されてないのでしようがない。そういった場合には,緊急に権利制限をすべきだというのがあったわけで,それが先ほどの私が申し上げたAに当たるわけですが,そのAとBの間に何かあるのだろうと思うのです。それが,ひょっとして,例えば外国の論文等で国内では契約ができないものというのであれば,それは権利制限という概念もあり得ると,契約できるものについて契約はしないで権利制限の対象にするというのは,やはり何か先進国の動向とは違うのではないかということを申し上げたいと思います。

【中山主査】 そうですね。そういうふうに契約できるとしてもまた対価の問題も大分大きく出ているようで,外国と日本と大分違うという話も聞いておりますけれども,いろいろ難しい話はあろうかと思います。
何かほかにご意見ございましたら。
大渕委員どうぞ。

【大渕委員】 今の点ですけれども,ちょっと今日資料が手元になくてわかりませんが,確か前回に出ていた資料のように,各国でも研究についても権利制限を設けているのが一般的のように思います。あるいは補償金で賄ったりとか,いろいろ工夫の余地はありうるところだと思いますが,最低限言えるのが,正面から言えば許諾を得なければ複製できないというような状態であればとても研究が前に進みませんので,結局は権利者に与える影響とか,そういうあたりの各論のところで,部数その他のところで賄っていくというように,各論で詰めていけば調整できる話ではないかと思います。

【中山主査】 確かに前々回のヒアリングのときにも,学者は一切コピーまかりならんという意見はなかったような,確か日本書籍出版協会の方も常識的な範囲ではいいでしょうという,ちょっとあいまいな表現ですけれども,おっしゃっていたと思うので,研究目的で一切だめだという意見は多分ない。あとはどういう範囲で,どういう要件でというようなことだろうと思います。あるいは非営利と言えるかとか,そういう例は外国でもありますし,対価をどうするかとか,いろいろなことになってくると思いますけれども,何かその点についてご意見がございましたら。これも早急に論点を整理しなければいけないので,ここでご意見をちょうだいしたいのですけれども。
どうぞ森田委員。

【森田委員】 先ほどのAとBのところの話なのですが,Bで先ほどの医学なら医学の特定の研究者を対象とした雑誌とか著作物をどうするかという問題がありましたけれども,それはBについて,ある種のフェア・ユースのような一般条項的な規定を置いたとしても,その解釈によって,研究者だけを対象としたような著作物については研究目的であっても権利制限は働かないけれども,そうでないものについては研究目的であれば権利制限が働くというような幅のある要件を立てておいて,その解釈で対応できるようにすべきだというのがBのイメージだとすると,Aのほうは余りそういう幅のある概念はなくて,Aの目的であれば,これはかなり画一的によいというふうにしてしまうということなのか。Aについても,前回の例えば新聞などについて,ある期間は公開するけれども,それ以降はデータベースになって有料で提供しているという場合には,研究目的であっても有料でデータベースを利用するということになっているわけですけれども,このAについて立法した場合には,今後はそういうデータベースを利用すれば有料になりますが,みずからウェブ上に一旦公開されたデータを蓄積しておいてそれを自由に使う,あるいは研究者の集団でそれを共有して利用するということをすれば,お金を払わなくても自由に利用できるようになる。Aのほうは,現に有償でサービスが提供されていたとしても,それとの関係よりは,情報通信技術の発展というのが非常に重視されるので,そういう産業政策的な目的から権利制限をかけるという意味でBとは違うのだという,そういう整理の方向で行くのか。それとも,Bのほうは一般的な問題であって,それをAはある特定の問題について具体化したようなイメージで行くのかという,そこが一番難しいところだと思うのですけれども,先ほどからの議論はやはりAとBとは権利制限の性格が違う,すなわち,Aのほうは,産業政策的な考慮というのを著作権法の中に折り込んで,一律に権利制限をかけてしまおうというそういう議論として理解してよろしいでしょうか。どなたにお伺いしてよいのかわかりませんが。

【中山主査】 よろしいでしょうかというか,そういう意見がかなり強いというふうに私も承っていますけれども。
あと,さっき一言おっしゃったフェア・ユースとの関係も非常に問題になると思います。ヨーロッパのように研究目的のための条文を置くのか,あるいはアメリカのようにフェア・ユースを置いてその中の要素として研究を入れるのかという,もし後者であるなら,先ほど言いましたような,学者しか読まないような医学書などは,フェア・ユースではないとされる可能性もありますし,フェア・ユースとの絡みもありますので,難しいところはあるんですけれども。
苗村委員どうぞ。

【苗村委員】 私は,Aの方向が,少なくとも今年度結論を出すことについてはAの方法で議論すべきだということを申し上げたので,今の大変重要な点ご指摘あったと思いますので,私の考え方を申し上げます。Aをとった場合,具体的にはウェブコンテンツなり,過去の放送番組などを対象として,ある種の研究開発に限ってということだとしても,なお権利者の権力等に害さないという条件はつけるべきだと思います。典型的な例が,たびたび出てきました新聞記事で,既に有償で契約をすれば入手可能なものについて,まだ無償でやったときにアーカイブしておいたから自由に使うというのは,仮にそれが産業政策上必要であったとしても,適切な予算措置をとればいいわけで,当然それは権利制限の対象外にしてよいのではないかと思います。そういうものは極めて限られているので,個別の契約で十分対応できると思います。

【中山主査】 森田委員どうぞ。

【森田委員】 Aのところに,ウェブ解析技術の研究開発の下に「ネット上の著作物を利用して行う研究開発」が挙げられていますが,これは何か非常に広いように感じます。新聞記事を自分で蓄積して利用するという場合に,まさに著作物として普通に利用するという形態であって,最初の3ページに書いてあるような権利制限の根拠が妥当する場合とは少し違うのではないか。技術の問題ではなくて,普通の著作物の利用の問題なのではないかと思います。ウェブ解析の中には社会学的な調査も含むというプレゼンテーションがありましたので,そこまで含めてしまうと何か切り分けが非常にややこしくなりそうで,むしろそういうものは除いてしまって,そうすると上段に挙げられた例だけでいくと権利者の権利を不当に害されないことというような一般条項的な要件を入れなくても割り切ることができるのかなという感じがしました。そのあたりもちょっと立場によって理解の幅に相違があるような感じを持ちましたので,申し上げたいと思います。

【中山主査】 どうもありがとうございます。
ほかに何かご指摘ございましたら。
どうぞ大渕委員。

【大渕委員】 産業政策というものについて,ちょっと私イメージがわかないのは,企業が開発していくというのは産業政策のイメージぴったり来るんですが,前,ヒアリングに出ておられた方が,大学の研究者がこういうことをやりたいとおしゃっておられたような場合にはむしろ産業政策というとうまく拾えなくなってしまう面もありますので,両方絡めるのも1つの手かもしれないのですが,むしろ,先ほど出ていたように,ネットの特殊性とか,契約処理がしにくいとか,何かそういうところでの説明も可能かなという気もします。研究開発一般に及んでくるかもしれませんが,それはAを切り出して先にやるにしても,産業政策を中心にしなければならないのかなというふうな気もして,こういうネット等の関係の特殊性ということでも説明はつくのかなという気もしています。

【中山主査】 どうぞ森田委員。

【森田委員】 Bの発想で詰めていくときに,研究目的というのをどのようにとらえるかということで,先ほど大渕委員からは,研究には公益的な意味があるというお話がありましたけれども,むしろ私は「研究」というのは,そもそもそれが短期的に何の役に立つかということを問わずそれ自体に意味があるように思います。そうしますと,別に大学に籍を置いている者だけが研究をするわけではないわけですし,例えば,中山先生は現在大学には所属されていませんけれども,研究目的でないとはだれも疑わないと思います。また,大学に所属していても,例えば,法科大学院は実務家養成が目的なので,その教員は研究者ではないという整理になっています。それらを詰めて考えていくと,研究者というのは非常に狭い範囲に限られてしまうけれども,そこでいう研究者が行う研究だけが公益目的であるという説明ができるか。小学生の夏休みの自由研究だって,広い意味では公益に資する部分もあると思いますから,研究というのは本来はもっと広い,そういう広い意味での公益性があるというふうにとらえるべきではないかというふうに考えております。そうなってきますと,研究目的であるとは言えば一律に権利制限がかかるというのは適当ではないので,そこにいろいろな要件がかぶってきて,その要件の充足が具体的なケースでどうなるかという点については,非常に判断を要するという,そういう要件の構成になってこざるを得ないのではないかと思います。Aのほうは,むしろそうではなくて,もう少しすぱっと割り切るとすると,それとは違う要請が入ってこないと,やはりすぱっとは割り切れないということになるのではないか。何かそこの性質の違いがあるという前提なのか,連続的なものとしてのぞむかによって,Aの要件の立て方がかなり違ってくるのではないかという感じがしたものですから,先ほどのように申し上げた次第です。

【中山主査】 ありがとうございます。
ほかに何か,大渕委員。

【大渕委員】 産業政策というのは,A特有のものがあるのではないかという,それがあればいいが,そうでなければ別に検討するのはあまり適当じゃないことがありますので。

【中山主査】 松田委員。

【松田委員】 Aは,できるだけ要件を限定して,どうするかということで,Bのほうは,実は主体も目的も,それから利用される客体も千差万別でありますので,この立法形式は多分フェア・ユース論をどこかで絡ませるか,現行法で言うならば,公正な慣行とか,正当な目的とかというものを入れて,例えば20条,これは同一性保持権ですけれども,20条2項4号のような著作物の性質と,それから利用の態様と,その両方をバランスをはかって決めるんだよというようなことで,結局は,そういういろいろな対応があるとそういう要項にならざるを得ないのかなと,こういうふうに思っております。しかしそうなったときに,果たして裁判規範として機能するんだろうかと,ぜひ清水委員に聞いてみたいと思います。

【中山主査】 仮にフェア・ユースができるとすれば,それと比較してどうかというと,そう大した違いはないという気はするのですけれども,まあいずれにしても一般条項的なものを条文を入れれば入れるほど最初はわからない,裁判例の蓄積を待つということになると思うのですけれども。
せっかくご指名ですので清水委員から。

【清水委員】 AとBと違う規定の仕方になるだろうということは大体皆さんのご意見を伺っているとわかります。Aのほうが狭くなってきて,幾つか類例を列挙していくような形になるでしょうから,Aのほうでたくさん訴訟が起こるということは一般的には考えられないだろうと思います。ですからやはりBのほうで,先ほども指摘がありましたが,大学と企業との違いというところが訴訟になりやすいのではないかという感じはします。主体で行くのか,目的で行くのか,規定の仕方が一番問題で,独立行政法人ならいいのか,企業の研究者ならだめなのか,そこら辺のところで実際には問題になりそうな気がしております。

【中山主査】 そうですね,ヨーロッパの例では非営利とか,そういう何らかの制限がかかっている場合が多いと思いますけれども。どういう要件を決めるかというのはかなり難しいですね。でも今までのご意見を聞いていますと,Aは細かい要件は別としてまあまあいいだろうと。Bは全部だめだということはあり得ない。ではどういう範囲でどういう要件かと,こういう議論にだんだん煮詰まってきているように思います。確かに研究だけとか,大学だけと言うとものすごく漠然として,松田委員のおっしゃるように,裁判規範としてなじむかと言われるとちょっと難しいかもしれないですね。

【松田委員】 私は無限定になるのを避けるために主体を特定しなきゃいけないのかなと最初の頃考えていたんです。でもそういう立法はかなり不公平になります。大学の研究者だけいいというのは,社会的に納得がつくのか,研究機関とは何だろうかということになると非常に難しい問題になります。しかしそれを1つ外してしまいますと,恐らく企業の研究についても含まれていきますね。そうするとやっぱり利益衡量説みたいなものかないと,利益衡量をして,最終的に司法判断することができるというふうにしておかないと,どうも条文がつくれないと感じています。

【中山主査】 非営利というのはまずいですかね。

【松田委員】 非営利は当然私入るのではないかなと思っています。

【中山主査】 とすると,企業はかなり営利的だと言われるかと思うのです。やっていることは,大きな企業の中央研究所などはノーベル賞クラスの学者がいますし,大学から来たり大学に行ったり。同じことをやっているという人はいると思いますけれども,やはり企業でやっているとなると営利でだめだと言いやすくなるのではないですか。それはつまり研究でも金を出すということになるのではないかと思うのですけれども。

【大渕委員】 私も今言おうと思ったことを主査に言っていただいたという面がありますが,ニーズの全部をその1つの条文で拾おうとすると,もう先ほど言われたみたいに企業云々の話になりますけれども,非営利の点については,前のヒアリングのときも営利的なものは別にしてほしいという声はかなり強かったように思いますので,そのあたりで,要するに先ほど申し上げた各論のところでうまく切っていって,企業でのそういう研究的なものはどうするのかというのは,割り切りとしては,それは自分でお金を払ってやりなさいというか,そのあたりはまたフェア・ユースのほうで拾うとか,いろいろ道はありえますので,最低限ここはやらなければならばいというところを中心に考えていけば,フェア・ユースに余り全部入れてしまうと不明確になって使いにくいという点がありますので,ここではっきりさせるものははっきりさせて,それ以外のものは別途フェア・ユースで拾っていくとか,今後またいろいろなオプションがあり得ますので,それは別途考えていけばいいのではないかというふうに思っております。

【中山主査】 ありがとうございます。
ほかに何かございましたら。
どうぞ。

【森田委員】 いまの営利か非営利かという点ですが,データーベースなどを提供する場合には,非営利・営利というのはわかりやすいのですけれども,研究開発についての営利・非営利という場合には,何をもって営利・非営利と言うのかという点が必ずしもはっきりしないように思います。例えば,その研究開発によって得られた知見を公開する場合に,他人に有償で提供するのが営利ということなのでしょうか。そうすると,他人に提供せずに自ら行う事業で利用すればこれは非営利ということになるのか。あるいは広く学会に公表して共有財産とすれば,これは非営利ということになるのか。そのあたりの前提が私にはちょっとうまくイメージがつかめないのですが。

【中山主査】 解釈は色々あるかもしれませんけれども,現行法の条文の中に非営利というのは随分あるのですね。非営利にも色々な書き方がありますので,もし非営利というのを入れれるとすれば,それらを参考にすることになろうかと思います。

【松田委員】 研究開発が非営利ということで。非営利の事業として研究開発を行うというような条文構成になるのでしょうか。

【中山主査】 多分,これはちょっと私の見解になりますが,企業の研究所でやれば非営利とは言わないのが普通ではないかと思いますね。それは研究所によっては,研究員に自由な研究をしろと言っている中央研究所なんかもあるようですけれども,基本的には,企業は営利体ですから非営利とはならないでしょう。例えば無償でチャリティーショーをやるとか,そういうときにコピーするのもだめですし,基本的には企業がやれば営利と言われるはずだろうと。ただもし仮にフェア・ユースの中に入れるとすれば,日本の条文どうだか全然わからないで議論してもしょうがないんですけれども,恐らくは研究と営業上の問題とは比較衡量されて結論が出るので,場合によってはセーフという形もあり得るかもしれませんけれども,それはこれからの議論だと思います。
ほかに何か,私は非営利がいいと言って議論したわけではないので,外国にそういうのがあるからどうかというだけの話です。何かほかにご意見がございましたら。
どうぞ茶園委員。

【茶園委員】 AとBは分けて考えたほうがいいと思います。例えばですが,Bは非営利に限るとしても,Aについては,企業が画像を解析する製品を作れるようにするための研究開発をすることを含める必要があるでしょうから,非営利に限るとすると余り意味がなくなってしまいますので,営利を含める必要があるのだろうと思います。このような区別とは異なり,Aをネットの情報を使う技術の開発のために行うものに特化するということも1つの考え方であるとは思いますけれども,ある技術の分野だから許される,他の技術の分野では許されない,社会科学では許されないという,研究分野で異なる取扱いをするということはあまり適当ではないのではないかと思います。それとは違って,Aは,このペーパーでもありますように,著作物を著作物としては利用しないといったような,著作権者の利益に影響を及ぼすことがあまり考えられない利用であれば,技術がいかなるものであったとしても許すとか,あるいはネットに公開されているものであれば許すとか,何かそういう区別も考えられるのではないかというように思います。
以上です。

【中山主査】 その点いかがでしょうか。ほかにご意見ございましたら。
ネットに限るべきかどうかという点に関して,この前のヒアリングでの要望は,例えば新聞を全部コンピューターに入れて,どういう言語が使われているかとかという解析,必ずしもネットだけではなくて,データベースから取るというものもありますので,ネットだけに限るというのもなかなか難しいのではないかと思うのですけれども,どうでしょうか。

【茶園委員】 ただ申したかったのは,Aに非営利,営利のものも含めるとすると,どこかで縛りをかけないと適当ではないであろうと思いまして,著作権者への影響とか,情報の入手方法とか,何がいいのかよくわからないのですけれども,縛りをかけた上で許すとして,その縛りは技術の分野の縛り以外にも選択肢があるのではないかと思っております。

【中山主査】 Aの場合は,出てくるものはおよそ著作物とは似ても似つかないものが出てくるという意味では,その著作物のマーケットには影響を与えないし,また恐らく同一性を越えてしまってばらばらにしてしまうから人格権も問題ない。問題になるのは,その研究者にその素材を提供することをビジネスとしている人がいた場合に,そのビジネスがどういう影響をこうむるかというそれだけですね。心配しないといけないのは。

【茶園委員】 その点はどうなのでしょうか。前も新聞の場合は一定期間は公開されるとかとおっしゃいましたけれども,あえてデータベース利用を避けるためではなくて,ネットで公開されたものをどんどん蓄積していって,それを解析対象にするということで,ただその後に新聞社がデータベースをつくって,それを有料で公開したといった場合に,有料で公開した段階でそれより前に蓄積したものを使うことができないというのはいかがなというように思います。

【中山主査】 だからそこをそのマーケットに与える影響をどう考えるか,そもそもそのようなデータベースを使う研究者が何人いるか知りませんけれども,こんなビジネスになるほど売れているかどうかも問題だとは思うのですけれども,そのマーケットをそもそも考慮するかどうか,考慮すればどういう措置をとらないといけないのか,こういう問題になると思うのですが,その問題以外はおそらく大丈夫だろうと思います。その点いかがでしょうかという質問なのですけれども。
大渕委員どうぞ。

【大渕委員】 権利者に与える影響が今言われたようなものにとどまるのであれば,やり方はいろいろあるかと思います。不当に権利を害しないというようなただし書きで外すなどの形で,各論のところでいろいろ対処はできるのかなというふうに思われます。むしろ,メインはネットに限定するのかどうかという点でありますが,何らかの形で絞らないといけないのですが,権利者に対する影響が類型的に小さいものはいいのではないかという点からすると,ネットに限定する必要がなくなるし,それがネットだからもともと公開してやっているのだから云々ということであれば,ネットに限定されますが,それ以外の部分はフェア・ユースで一般に流すということになろうかと思われます。技術分野というか,理科系だけじゃなくて文科系的なところもやりたいというのについては,産業政策というと理科系だけに限定というのもあるのかもしれませんが産業政策によって説明するかどうかという基本的な考え方のところにかかってくるような気がしますが。

【中山主査】 A)のところの「ネット上の著作物を利用して行う研究」,ちょっとこの言葉がかなり誤解を呼んでいるかもしれません。ここのところは何か考えていただければと思います。確かにネット上で集めて行う研究が一番多いでしょうけれども,データベースを買ってきて行う場合もあるでしょうし,あるいはある小説家の小説を全部リーダーで読み込んでコンピューターに入れてしまって解析をするということもあるでしょうし,いろいろなことがあり得るとは思いますね。
ほかに何か。
どうぞ茶園委員。

【茶園委員】 今,主査がおっしゃったような,ある小説家の小説を全部リーダーで読み込んで解析することは,ネットに掲載されている情報を利用することとあまり変わらないようですけれども,何かあえて情報をデジタル化して利用する場合には,許されるものとそうでないものが区別し難いという問題が起こるのではないかと思います。Aとして許すべき行為とそうでないものが外見上区別つかないという場合が生じるように思います。ですので,ネットに掲載された情報を利用することは,普通はネットに載せる場合はみんなに見てもらうために載せているのでしょうから,特に大きな問題は生じないように思うのですけれども,あえてリーダーで読むことと違いがあるのではないかなというように思っております。

【中山主査】 ほかに何かございましたら。ネットに限るとどうなるという話ですけれども。
どうぞ森田委員。

【森田委員】 いまの茶園委員のおっしゃられた発想で行くと,違法にアップされたものをどうするかという問題が出てくるのではないでしょうか。つまり,ネットにアップするということは,ある種の研究開発目的で利用されることについては初めから容認してアップしたものとして今後は理解しましょうという発想で行くと,自らの意思に基づく場合はそれで説明がつくわけですけれども,そうでなく他人が違法にアップしたものもたくさん含まれるということになると,そこで線引きすることはなかなかうまくワークしないのではないか。従って,研究開発の研究のタイプによって線引きをしていくというほうが,その問題がクリアできるような感じがします。

【中山主査】 大渕委員。

【大渕委員】 今の点は,違法なものは除くと言い出したらほとんど研究はできなくなってしまうのではないかと感じます。違法なものを外してからでないと自分のデータベースに入れられないとすると,実際にはそのような研究はできなくなるのではないか,多分特に理系の先生にとっては,それは違法かどうかというのは文系的な判断になるので,それをしなければいけないということになると,多分,これはつくってもほとんど使えなくなってしまうのではないかという気がします。

【中山主査】 おっしゃるとおりで使えなくなると同時に使われた人もどれほど損害をこうむるか,自分の著作がずたずたになってしまって何も跡形もなく使われるわけです。そうすると仮に違法なものを拾ってもそれほど大きな損害もないような気がしますし,ネットの場合は,それを言いだすと,検索エンジンのように余分なものを拾ってしまうということはある程度は覚悟しなきればならないかとは思うのですけれども。
大渕委員どうぞ。

【大渕委員】 今の点に関係して,これも各論では出てくるかと思うのですけれども,研究すること自体は入れて,研究の成果を公開するかなどのその後のことは,また別に考えていけばよいと思います。その研究をすること自体のところで余り違法なコンテンツ云々とかということを言い出したらとても研究ができなくなってしまいますので。

【中山主査】 使った後の複製物を目的外利用は,これはもちろん何とかしなければいけないでしょうけれども。
ほかに何かございましたら。
時間も過ぎてまいりましたので,今日はこのあたりでよろしいでしょうか。
それでは,次回の小委員会も引き続きまして,研究開発における情報利用の円滑化とリバース・エンジニアリングに係る法的課題についての整理を行いたいと思います。
またデジタル対応ワーキングチームより通信過程における蓄積の取り扱いについて,検討状況のご報告を受けたいと思います。
今日,いろいろご意見をちょうだいいたしまして,かなりクリアになった面もあると思いますので,次回のまたご議論よろしくお願いいたします。
事務局から連絡事項がございましたらお願いします。

【黒沼著作権調査官】 それでは,また本日の議論を踏まえていろいろと整理をしてみたいと思います。研究開発については,おそらく短期的にそこだけ集中して検討すべしという部分があるというような意見が多かったと思いますが,産業政策だけという理屈でほかの研究と切り分けるというのはなかなか苦しいかもしれないので,なぜその研究が産業政策で大事なのかというところをもう少し深掘りして理屈を分析してみたいと思いますので,またいろいろ整理してみたいと思います。
また,次回の日程ですけれども,9月4日の(木),14:00から旧文部省庁舎6階の第二講堂を予定しております。よろしくお願いいたします。

【中山主査】 また次回場所が変わりますけれども,よろしく間違いのないようにお願いいたします。
本日はこれで文化審議会著作権分科会の第7回法制問題小委員会を終了といたします。
ありがとうございました。

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