第4回~第6回法制問題小委員会における主な意見

1.研究開発における情報利用の円滑化について

(どのような分野,条件の研究開発を対象とすべきか)

  1. 特許法69条は特許発明自体を研究するための規定だと思うが,解析技術等の研究開発では,著作物そのものの研究ではなく,開発する技術のテストデータのために,特定のものでない著作物を利用するということ。研究とその研究に利用される著作物との関係があれば,範囲はある程度絞られるが,その関係が薄いと非常に広い範囲の著作物が利用できることになる。解析技術の開発のように,その関係が薄いものを権利制限の範囲に含めることも必要だと思うが,ウェブ解析技術だけなど,何らかの限定を考えざるを得ないだろう。研究目的なら利用される著作物が無関係でもいいとなると,アメリカのフェアユース以上のことをやってしまうことになると思われる。
  2. 研究と研究に利用される著作物の関係ということだと,著作権の権利制限規定を研究するのに著作権法学者の論文をコピーするようなものもあるが,線引きは難しいのではないか。
  3. 研究者が研究目的で論文をファイルとして確保しておくことに著作権法上の制限規定はないが,普通の法感情としては認めてもいいのではないかという議論はある。
  4. ウェブ上の著作物について,逐一許諾を得ることは実質不可能であり,また,特定のものの利用ではなく統計的解析をする目的なら,現実にその著作者から許諾をとることはあり得ない。このように自動的な手段で膨大な情報を網羅的に調査,分析して新しい知見を得るための研究についての課題を解決すべきということだと思われる。
  5. 今年度中に結論ということだが,一般化して個々の著作物の内容を分析する研究まで権利制限することとすると,おそらくほとんど一般的な著作者の了解を得られないと思われ,範囲は限定(ネット上の著作物,また,著作者の数が膨大で逐一許諾を取ることが実質的にできない場合など)した方がいいのではないか。
  6. 領域を限定することは非常に難しく,デジタル技術等に限定することも難しいと思う。まずは研究開発一般を想定して,関係者の意見等を聴取した上で合理性のある部分について絞るというのが論理的ではないか。
  7. 範囲を限定した方がいいとの考えは分かるが,果たして,ある研究はこのタイプと中身で分類できるのか,限定できるのかは暗礁に乗り上げそうに思われる。フェアユースは長期的な検討課題として踏み込まないということだとすると,また,限定することも難しいとなると,答えが出せないのではないか。研究目的での公正な利用についての一般条項を置くという選択肢があるのか,課題設定の仕方に留意する必要がある。
  8. 研究を,一定のルールで許されるというような線引きをすべきではないと思う。フェアユースか,研究・教育活動における制限規定かの判断はあるものの,イノベーション・先端技術のためという限定はせずに研究全般を検討すべき。例えば,大学教員が研究のために共有のデータベースを作ることについても,その程度はいいとの社会的コンセンサスはあるのではないか。
  9. 先に目的を絞ってしまうアプローチよりも,特定の著作物との関連性をどうするのか,営利・非営利はどうするのかなどいろいろな組合せと効果を考えて,全体的な議論の中で,どこに一番緊急の必要性があるのか等をみて決めていくしかないのではないか。
  10. 大学においては教育と研究の境界を明確に取り扱うのも難しく,研究者としては無料というよりも,自由に複製できるようにしたい。文献の複写に関しては日本複写権センターを介して利用しうるが,電子化は現実的な手段がない。対策として,ドイツ法のように非商業的目的の研究まではよいが,報酬請求権が発生して,その請求権は集中管理団体によってのみ行使できるというような考え方はとれないのか。
  11. 大学での文系の人の文献コピーも認められるとなると,日本複写権センターが徴収している使用料は徴収できなくなる。権利制限を行う理由の1つにトランザクションコストが高すぎるもの,市場の失敗の場合というのがあるが,そういう場合には,複製をしても良いが対価は払うという規定もあり得るし,いろいろな可能性があるのではないか。
  12. 私企業が新しい技術を開発するための研究を著作権法が邪魔してはいけないと思ってはいるが,どこかで線が引けるかも慎重に考えなければいけない。私企業の研究開発がいいということになると,リバース・エンジニアリングの議論は不要になる。学術研究ではない製品開発の研究では,一定の歯止めが必要だろう。
  13. 研究のために利用するためのコーパスのデータでも,それを公開するということは,研究目的とは全く関係ないところで使われることも考えられるのではないか。
  14. データベースを利用させるときに,研究目的に用いることが選別できるのか,その担保はどうするか。
  15. 研究目的だと,今でも31条に図書館で調査研究目的のためにコピーできるという規定もあるが,実際は楽しみのためでもコピーが拒否されないということもある。これと違えてうまい言葉があるかというと苦しいところでもあり,悩ましい問題を含んでいる。
  16. 放送番組は,過去のものはともかく将来のものについては,どのみち放送する際には権利処理をするはずなので,研究目的のために他人に提供するということも含めて権利処理をしておくという対応は考えられないか。

(技術的保護手段の回避との関係)

  1. デジタルの場合は,当然に技術的保護手段の問題が出てくる。技術的保護手段を回避してはいけないとすると,研究開発のために権利制限を設ける意味が薄れる。利用者が技術的保護手段を回避してもいいとするかどうかは置いておくとしても,代替手段として権利者から別のものを出させることを考えるべき。
  2. 技術的保護手段の問題は念頭に置く必要はあるが,今でも権利制限の対象となっている場合で技術的保護手段がかけられている場合もあるので,別次元の大きな問題になってしまうのではないか。
  3. 大陸法型の個別規定で対応するか,英米法型のフェアユースでやるのかによって変わる可能性はないのか。フェアユースなら公益目的ということで当事者間のオーバーライドでは覆すことができない効力が出てくるのかなど,その点を含めて検討して欲しい。
  4. (フェアユース規定との関係)

  5. 特定のタイプの研究開発でなく,研究開発一般を念頭に置くとすると,ある種の一般条項を設けるということであるので,フェアユース規定については次のステップで検討するということと,ある種の抵触関係が出てくるのではないか。
  6. フェアユース規定を設けたとしても,既存の個別規定は残ることになるだろうし,フェアユース規定は,個別規定で救えないものを救うということであって,仮に両者があっても問題はないのではないか。
  7. 範囲を限定した方がいいとの考えは分かるが,果たして,ある研究はこのタイプと中身で分類できるのか,限定できるのかは暗礁に乗り上げそうに思われる。フェアユースは長期的な検討課題として踏み込まないということだとすると,また,限定することも難しいとなると,答えが出せないのではないか。研究目的での公正な利用についての一般条項を置くという選択肢があるのか,課題設定の仕方に留意する必要がある。【再掲】
  8. 日本では萎縮効果ということが諸外国よりも過度に協調され,事前に明確なルールを決めて欲しいという要求が過度に強い一方で,具体の特定のケースだけを念頭において書くわけにもいかず明確にすることが難しい場合がかなりある。この種の情報技術の問題については,その種の要求がたくさんあるが,それであれば一般条項を置いてしまって,諸外国もそれでやっているのだからあとは当事者がリスクをとって訴訟で決着してくれというのが,1つのあるべき姿ではないか。
  9. 研究一般の話については,市場のいろいろな事態に対応するために抽象的な文言で規定を置いて対応するとの発想から,それでうまく動いている国もあるので,フェアユースとの関係は積極的に絡めて検討すべきだと思う。

2.リバース・エンジニアリングに係る法的課題について

  1. リバース・エンジニアリングについては,互換性プログラムの開発や競合商品の開発など,それぞれが良いかどうかを考えなければならない。リバース・エンジニアリングについては研究開発とは違う要件で制限規定を設けるべき。
  2. 研究開発目的のものを限定的に認めるべき。また,リバース・エンジニアリングを禁止する特約を無効とすることと,プロテクションの解除ができることとしないと意味がない。
  3. 平成6年の協力者会議の議論でも,(1)革新的なプログラムの研究開発,(2)性能,機能の調査,(3)障害等の発見・保守,(4)情報セキュリティ対策,(5)互換性の確保,(6)著作権侵害の調査,発見目的のものはリバース・エンジニアリングしても相当なのではないかという収斂は大体あって,ただし,模倣目的や,ウィルス作成目的等は,かなりの議論が必要とされたように思う。これらの公益の目的があるものについて,権利者に通知してその範囲でリバース・エンジニアリングをしてもいいという解決方法はとれないか。
  4. 相互運用性の目的については,ほとんど異論もなく,セキュリティ対策のためのリバース・エンジニアリングが争点ということだと思われる。
  5. プログラムは一致しないが同じ機能を持つ競合プログラムの開発を認めるか否かはこの議論の本質的部分。技術的な革新的プログラムを開発するためのリバース・エンジニアリングと,競合プログラムを作るためのリバース・エンジニアリングは,目的は違うが技術的には全く同じであり,これをどうするかを検討,解決しなければならない。
  6. 以上は,事務局において意見の概要をまとめたものである。なお,専ら質問のための発言部分については記載を省略している。
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