議事録

文化審議会著作権分科会
国際小委員会(第2回)議事録

日時:
平成24年9月7日(金)
10:00~12:00
場所:
文部科学省東館3階 3F1特別会議室
  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)WIPO等における最近の動向について
    2. (2)追及権について
    3. (3)その他
  3. 閉会

配布資料

議事内容

【道垣内主査】 開始時刻よりちょっと前ですけれども,委員はすべておそろいのようでございますので,始めてよろしゅうございますでしょうか。
  それでは,ただいまから,第2回国際小委員会を開催いたします。本日は,御多忙の中,御出席いただきましてまことにありがとうございます。
  本日の会議の公開につきまして,予定されている議事内容を参照しますと,特段,非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴者の方には,御入場いただいているところでございます。この点,御異議ございませんでしょうか。
  それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方には,そのまま傍聴していただくことにいたします。
  まず,事務局の人事異動につきまして,御紹介いただけますでしょうか。また,配付資料の確認と,本日のヒアリングの発表者の方は10:30ごろお見えになると伺っておりますけれども,その紹介を今いただけますでしょうか。よろしくお願いします。

【堀国際著作権専門官】 それでは,事務局から,人事異動がございましたので,御紹介させていただきます。
  8月1日付で,文部科学省研究開発局参事官(原子力損害賠償担当)から異動になりました,作花文雄文化庁長官官房審議官です。

【作花文化庁審議官】 作花でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【堀国際著作権専門官】 同じく,8月1日付で,文部科学省大臣官房付から異動になりました,田口重憲文化庁長官官房著作権課長です。

【田口著作権課長】 田口でございます。よろしくお願いします。

【堀国際著作権専門官】 7月1日付で異動になりました,小坂準記文化庁長官官房著作権課著作権調査官です。

【小坂著作権調査官】 小坂でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【堀国際著作権専門官】 続きまして,配付資料の確認をさせていただきます。
  資料1といたしまして,WIPO等の最近の動向についてという紙,資料1-1といたしまして,北京条約の原文と参考訳,資料1-2といたしまして,視覚障害者等に関します権利制限と例外に関する主な論点,資料1-3としまして,視覚障害者等の制限に関する作業文書,資料1-4といたしまして,放送条約に関する論点をまとめたペーパー,資料1-5といたしまして,放送条約に関する日本提案,資料1-6といたしまして,放送条約に関する議長ノンペーパー,資料2といたしまして,後ほど御紹介させていただきます小川先生の欧州の追及権制度の資料がございます。また,参考資料1といたしまして,委員の皆様の名簿,参考資料2といたしまして,前回御議論いただきました国際小委の進め方,参考資料3といたしまして,前回の議事録がございます。もし資料がない方がいらっしゃいましたら,お知らせいただければと思います。
  続きまして,本日の議題(2)におきまして,早稲田大学の小川明子先生に後ほどお越しいただきまして,先生から追及権につきまして御発表いただくことを予定してございます。前回の小委員会におきまして,今期の国際小委では,主要諸外国の著作権法及び制度に関する課題や論点の整理を行うこととなりました。前回は,山本委員から,米国の著作権法ですとか,張先生から,韓国の著作権法,特に米韓FTAとEU韓FTAを中心に御発表いただきまして,議論を行ってございました。EU韓FTAにおいては,追及権について,論点の1つとして御紹介がございましたところですので,本日は,特にEU諸国を中心に制度化されております追及権につきまして,特に焦点を当てることとさせていただきたく存じます。
  事務局からは以上です。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
  では,議事に入りたいと思います。議事次第をごらんいただきますと,今日は3つでございますね。先ほど資料1の枝番のたくさんついているものに関係しますけれども,WIPO等における最近の動向についてということ,それから,2番目が,ゲストスピーカーにお話をいただいて議論するという,追及権についてでございます。その他あれば,3番目でございます。
  以上の議題のうち,まずは第1の議題に入りたいと思います。WIPO等におきましては,最近,様々の動かなかったものが動くようになったりしているようでございますので,そのあたりのことにつきまして,資料を使いながら事務局から御説明いただき,その後,委員の皆様に御意見をいただきたいと思います。では,よろしくお願いいたします。

【堀国際著作権専門官】 それでは,資料1に基づきまして,WIPO等における最近の動向についてということで,御報告させていただきたいと思います。
  大きく分けて3つございまして,まず1つ目が,6月20~26日におきまして,WIPO視聴覚的実演の保護に関する外交会議が開催されまして,新条約といたしまして,視聴覚的実演に関する北京条約というものが採択されましたので,御報告いたします。
  視聴覚的実演の保護に関する新条約につきましては,2000年に一度外交会議が開催されたのですが,12条,権利の行使に関する条項につきまして加盟国間の合意が得られず,条約の採択が見送られ,条約の成立につきまして長年の懸案とされていたところでございます。今回の6月で再度外交会議が開催されまして,すべての条文につきまして,最終合意に達しまして,資料1-1がその原文と参考訳ですが,「北京条約」という形で採択されてございます。
  今回の外交会議で新たに議論されて,合意に達した点は,第12条という,暫定合意は去年のSCCRでなされていたんですけれども,こちらの点と,あとは,前文の開発アジェンダに関するもの,それと,合意声明なんですけれども,第1条と第2条,第15条に関する合意声明が新たに追加されて,合意に達しております。
  北京条約の主たる内容としては,視聴覚的な実演家人格権の創設,あとは,実演家の財産的権利の充実ということで,複製権,譲渡権,貸与権などの権利が新たに設けられてございます。また,インターネット等のデジタル化に対応した法的保護といたしまして,技術的保護手段,権利管理条項に関するものが条文として設けられてございます。
  外交会議の議論なんですが,条文案につきましては,基本的に1条~20条につきましては,2000年及び昨年のSCCRで暫定合意されたものが,同じ内容として条文として採択されております。
  第12条につきましては,外交会議の中で,第12条を含む新条約と我が国著作権法が整合的であることを再確認するために,我が国著作権法第91条と本条約とは整合性がとれているものと理解しているということ,各国において規定できるという旨の発言を行ってございます。
  これに対しまして,いったんはアメリカとインドから留保したいという発言があったのですが,その後,これら二国とそれぞれ接触したところ,我が国の発言に対増して特段の異議はないという了解が得られてございます。ただし,その際,インドより我が国に対して,公式の場で補足説明を行ってほしいという要望がございましたので,再度,第一委員会におきまして補足説明の発言を行いまして,我が国の解釈を外交会議の議事録へ記録してございます。
  その他,前文及び1条,2条,15条の合意声明につきましては,資料1-1にありますとおりの合意声明が採択されてございます。
  続きまして,2ポツのところで,IGCなのですけれども,こちらは7月9~13日に開催されてございます。従来は遺伝資源,伝統的知識,TCEsという3つのテーマにつきまして1回の会合で議論するのが通常だったのですが,今回は,伝統的文化表現・フォークロアに特化しまして議論を行ってございます。なお,従前から御報告しておりますとおり,先進国と途上国との間で,法的拘束性を持たせるかどうかについては,議論が分かれているところです。
  今回の会合では,議長の提案に基づきまして,専門家グループ会合というフォーマットをもちまして,そちらの会合にて自主的な議論を行うというプロセスが用いられてございます。議論の内容としましては,まず,重要条項である1条(TCEsの定義),2条(受益者),3条(保護の範囲),5条(例外及び制限)についてフォーカスして議論を行いまして,専門家グループの議論を活用しまして,その後,更に加盟国から公式会合において意見を聴取するという形で議論を行ってございます。
  ただし,そういった専門家グループというフォーラムを活用したんですけれども,意見の収れんが見られているという項目につきましても,結局のところ,多数の代替提案ですとか,加筆が施されまして,当初のテキストよりは複雑な状態となったテキストが結局できてしまいました。そういったところの状況でございます。
  続きまして,3ポツのところで,SCCR24,第24回著作権等常設委員会が,7月16~25日まで開催されてございます。
  マル1の視覚障害者等に関する権利制限及び例外についてということで,こちらの方も,過去にわたってテキストベースでの議論が行われているところでございますが,引き続きまして,テキストベースの議論が作業文書をもとに逐条ごとに行われてございます。その結果を反映した文書が作業文書,今回の成果として,また次回へ続く文書といたしまして,資料1-3として,改訂版として採択されてございます。
  今回のSCCRの結論といたしまして,2番目の丸ポツに書かれている事項が,結論としてまとめられてございます。
  (a)といたしまして,一般総会,2012年の一般総会が10月にあるんですけれども,こちらと25回SCCR,これは11月にあるんですが,こちらの間に,視覚障害者の議論に特化した会期間の会合を行うこととなりました。
  (b)といたしまして,第25回SCCRにおきましても,逐条ごとの議論を行うことになってございます。
  更に,(c)といたしまして,12月に臨時総会を開催しまして,第25回SCCRによって作成されたテキストを評価しまして,2013年に外交会議を開催するかどうか決定するというふうに結論づけられてございます。
  視覚障害者の議論につきましては,かなり従来状況が変わってございまして,従来は,途上国は条約化を求める,一方,先進国につきましては,条約化についてはちょっとちゅうちょしていた面がございましたけれども,オーストラリアは公式に条約化に賛成を表明しておりまして,アメリカ及びEUも条約化を受け入れる可能性が高まっているということが,非公式な場の発言からはうかがわれております。そういった面で,条約化へ向けた国際的なコンセンサスが形成されるという可能性が高まってきてございます。上記のスケジュールの中でテキストについておおむね合意が得られれば,ルールといたしまして,臨時総会から条約採択のための外交会議ということで,半年間あけることになっておりますので,早くて2013年の夏に外交会議が開催されるという可能性がございます。
  こちらにつきまして,SCCRの場で議論されている主な論点を,資料1-2としてまとめさせていただきました。
  まず,国内的な観点としては,アメリカから,権利制限の対象となる著作物ということで,「テキスト・メモ・図表」という書籍のような形式に限って,それ以外の著作物は含まないという提案がなされております。一方,途上国は,権利制限の対象となる著作物は,ベルヌ条約に規定されるすべての著作物であるべきというところで対立してございます。
  2ポツといたしまして,受益者の対象範囲なんですけれども,今議論されている文書では,いわゆる肢体不自由者の方(身体障害により,書物を支えること,扱うことができない方)を権利制限の受益者として対象としてございます。こちらの点につきましては,各国から特段の異議は出ていない状況です。
  3ポツといたしまして,「The right of public performance」について権利制限を設けるということがナイジェリアから提案されておりまして,国際文書上,複製権,譲渡権,利用可能化権の権利制限ということは規定されているんですけれども,今回のSCCRで新たに“The right of public performance”についても制限するということが提案されてございます。提案者の理由としては,教育機関が直接著作物を朗読するですとか,視覚障害者向けにラジオ放送を行うためというふうな説明をしてございます。
  ただし,“public performance”という定義が,ちょっとあいまいな概念ですので,こちらを次回の会合で,もう一回内容を確認するといったことを考えてございます。
  次のページへめくっていただきまして,海外との関係からの観点ということでも,幾つか論点がございます。この文書,現在議論されている文書として,大きな論点の1つが,国と国との間の録音図書等の輸出入について条文が規定されてございまして,その録音図書等の輸出入を行うことができる団体といたしまして,“Authorized Entity”といった概念が定義されてございます。“Authorized Entity”の役割といたしまして,先ほど申しましたように,丸ポツの中ではマル2ですが,録音図書の輸出入を行うことが想定されていまして,こちらが現在の文書上は,義務的な役割として求められてございます。
  現在の議論では,その要件といたしまして,主な活動の1つが視覚障害者の方のために非営利のサービスを行う政府機関及びNPO等であること,もう一つの要件としまして,“Authorized Entity”の内部規則といたしまして,一定の規則を設ける(サービスの提供相手が受益者であること,録音図書の頒布先を受益者や他国の“Authorized Entity”に限定すること,無許諾の複製物の濫用の禁止,複製について記録を行うこと)等が議論されてございます。
  2ポツとして,“accessible format copy”と呼んでいるんですけれども,アクセス可能な形式の複製物というものの国境を越えた輸出入の条項がございます。図表としておつけしました参考の仕組みでございます。こちらの方は概念図といったことになります。具体的には,A国という輸出国があったとして,そのA国内の“Authorized Entity”がアクセス可能な形式の複製を行いまして,それをB国の受益者の方々に輸出することができるという仕組みを各国設けていなければいけないといった規定になってございます。
  更に,任意規定ではあるんですけれども,Article D(2)という規定では,A国とB国の“Authorized Entity”同士がそういったアクセス可能な形式の複製を融通し合いまして,それを受益者に配るといった形式も許容されてございます。
  このペーパーでは明示的に書いていないのですが,その輸出入の形態といたしましては,もののやりとりだけではなくて,電子データでのやりとりも許容されているような解釈になってございます。
  3ポツといたしまして,輸入国での提供の条件ということで,これはまだ国際的にも議論があるところではあるんですけれども,EUの提案といたしまして,そういったアクセス可能な形式の複製物の輸入国での譲渡・提供を,以下の要件,公表されて,アクセス可能な形式の複製物であって,しかも,価格面等の適切な条件では商業的に取得できないといった著作物に限定するという提案を行ってございます。
  4ポツといたしまして,Authorized Entityの登録制度といったことも規定されてございます。こちらの方は,まだ固まったことではなくて,現在,SCCRの場で議論が継続中ということですので,今後もそういった議論に基づいて,どんどん変更していく可能性はございますが,現時点でのテキストの解釈という形で説明させていただきます。
  現在の視覚障害者の国際文書の法的性格としては,最終的には条文テキストがまとまった後に,法的拘束力の有無については決めようではないかということで,国際文書の法的拘束力の有無という性格につきましては,現在は議論がペンディングになっている状況でございます。
  資料1に戻っていただきまして,放送機関の保護につきまして,御報告させていただきます。我が国は,5月の下旬に放送条約に関する提案をWIPOの事務局に提出してございます。こちらが資料1の方に添付させていただきました。
  その日本提案と南ア・メキシコ提案の改訂提案が,今回,新たにSCCRの場に提出されてございます。我が方と南アがそれぞれ非公式協議という形で協議を行っていたんですが,それを議長主催の非公式協議に統合することが合意されてございます。そちらのSCCR議長の非公式協議において,両提案をシングルテキストに統合するということが合意されて,議長ノンペーパーが作成されてございます。
  会合の間で配付された当初の議長ノンペーパーは,日本の提案というものが脚注扱いになっていたんですけれども,我が方からの強い働きかけによりまして,我が国の提案をおおむね選択肢として取り込んだ議長ノンペーパー,こちらは資料1-6としてつけておりますが,こちらが改訂版として作成されてございます。
  こちらの議長ノンペーパーを,まだWIPOの方でホームページでアップされていないんですけれども,最終的には,SCCRの場での作業文書とすることが合意されてございますので,次回は,その作業文書,恐らくSCCR/24/10になるのではないかと考えられますが,そちらの文書をベースに,次回以降,議論を継続するということになってございます。
  また,SCCRの結論文書におきまして,2014年に条約採択のための外交会議を開催するか否かを決定するというところまで,今回盛り込まれてございます。
  資料1-4ですが,放送条約におけるこれまでの経緯と,SCCRの場で議論になってございます主な論点をまとめてございます。
  2ポツの(4)ですが,第23回,のSCCRの会合におきまして,インターネット放送を保護の対象とする南ア・メキシコ提案が提出されておりまして,この提案に一本化する動きも存在したのですが,我が国は,インターネット放送を条約の対象とすることは時期尚早であるという立場から,そのような動きに対抗すべく,今年の5月下旬に日本提案を提出いたしてございます。
  次のページをめくっていただきまして,3ポツですが,放送条約の主な論点といたしましては,主に6つほどございます。1つは,伝統的機関が行うインターネット放送というところ,2ポツといたしまして,固定後の権利にまで保護を及ぼすかどうか,3ポツといたしまして,インターネット上の送信に対する保護,4ポツといたしまして,放送前信号の保護,5ポツといたしまして,暗号解除,6ポツで,保護期間等が議論されてございます。
  別表に,そういった主要論点と,主要論点に対する各国のスタンスをまとめさせていただきました。マルは保護すべきだという立場で,バツは,条約に盛り込まなくてもいいのではないかという立場でございます。
  資料1に戻っていただきまして,4ページ目のマル3ですが,権利制限及び例外というところにつきましては,視覚障害者以外のところも議題として議論になってございます。マル3といたしまして,教育,研究機関の権利制限及び例外と,視覚障害者以外の障害者に関する権利制限及び例外につきましても,これは今回新たに議論が開始されたところでございます。途上国側からは,条約化すべきだというところで,テキスト提案が幾つか出されてございます。
  途上国側から提案があったんですけれども,例えば,ISPですとか,そういったところで本議題とは無関係のところが提案の中に含まれておりまして,そういったところを文書に含めるかどうかについて,及び文書においてテキスト提案と,先進国側からは,各国の法制の紹介がコメントという形で出ておりまして,そういったものをどのように整理するかというところで,先進国側と途上国側で意見が相違している状態です。
  これらの点について次回のSCCRにおきまして再度議論を継続することになってございます。
  マル4の図書館とアーカイブに関する権利制限と例外につきましては,こちらは前回から議論が開始したところでございますが,今回は余りこちらの方は議論をする時間がなくて,アフリカグループより追加のテキスト提案がなされたんですけれども,議論は余り盛り上がらずという形で,次回以降も引き続き議論を継続するという形になってございます。
  次回のSCCRは,11月19~23日に開催されるということになってございます。
  御報告は以上でございます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
  今日の資料の中の参考資料2に,この国際小委員会のマンデートの紙を再び入れていただいておりますけれども,その2ページにありますように,著作権保護に向けた国際的な対応の在り方,それから,知財と開発問題,フォークロア問題への対応の在り方という点とかかわる話でございまして,委員の皆様のこの在り方に関する御意見を伺いたいと思います。幾つか異なるテーマで条約ができたり,あるいは議長ペーパーができたりという状況でございますので,それぞれに分けて,まずは,今の御説明,在り方を論ずる前提として,御質問があれば,その御質問をしていただいて,明らかにした上で,御意見等をいただければと思います。いかがでございましょうか。
  まずは,北京条約と言われている視聴覚的実演,10年以上かかったものです。2000年の段階で第12条がネックになって止まっていたものが,ようやく条約になったというものでございますが,いかがでございましょうか。
  どうぞ,前田委員。

【前田委員】 資料1の記載について,ちょっと御質問をさせていただきたいのですが,我が国の著作権法91条等と本条約の整合性について,当初,いったんは米国及びインドから留保したい旨の発言があって,その後,インドから補足説明を行ってほしいとの要望があったため,第一小委員会において補足説明の発言を行ったということなのですが,その補足説明を行った結果,我が国の立場がこの第一小委員会で承認されたということになったのでしょうか。

【堀国際著作権専門官】 はい。1回目の発言を行いました後に,インドとアメリカと話合いをしまして,それを経た後に,我が国は再度,第一小委員会の場で発言を行ってございます。その際に,どの国からも特段の異議はなかったということですので,承認されたというふうに理解してございます。

【道垣内主査】 よろしゅうございますか。

【前田委員】 ありがとうございます。
  そうしますと,この次の,我が国の解釈を外交会議の議事録へ記録したとありますのは,これは第一委員会の議事録ということでしょうか。
  その点と,この結果,我が国としては,特に現行著作権法の改正を行うことなく,この条約に加入しようと思えば加入できることが確保されたというふうに理解してよろしいでしょうか。

【佐藤国際課長】 第一委員会の議事録に記録されたということになります。
  また,今回の条約と国内法との関係は,形式的な改正等は必要かと思いますけど,実質的内容については整合性がとれているということでございますので,実質的な改正がなくとも加入できると考えております。最終的に,また外務省さんと法制局と相談しなくてはいけませんけれども。

【前田委員】 ありがとうございます。

【道垣内主査】 どうぞ,山本委員。

【山本委員】 今,お話がありましたように,今の法律を実質的には変更しなくてもいいという御理解だということなんですけれども,その点で質問させていただきたいのは,この11条のところで,公衆伝達権の規定が入っているんですけれども,11条の(1),実演家は視聴覚的固定物に固定された実演を放送し又は公衆に伝達することを許諾する排他的権利を享有すると。この公衆伝達権というのは,送信可能化権だけではないと思うので,それを超えた,日本法で言えば,公衆送信権に相当する概念だと思うんですけれども,それは今のところは実演家に権利はないと思うんですが,その点について,新たな立法手当は当然必要になるのではないかなと思うんですが,その理解でよろしいんでしょうか。

【堀国際著作権専門官】 まず,11条の規定なんですけれども,(1)のところ,これは,私ども,アラカルト方式と呼んでいるんですけれども,(1)で許諾権が規定されてございまして,(2)で報酬請求権にしてもいいよというふうな規定になってございます。更に,(3)といたしましては,(1)でもいいし,(2)でもいいし,(1)及び(2)でも全く適用しなくてもよいと。要は,何でもよいよというところを規定してございまして,そちらは,ここはもう許諾権を与えるか,報酬請求権を与えるか,それとも,全く与えないかというところは,各国に任されているという理解でございます。もちろん,最終的には,外務省さんですとか,その他関係省庁と詰める必要はあるかと思うんですが,今の私どもの理解は,そういったふうに考えてございます。
  また,公衆への伝達という言葉なんですけれども,こちらの方は,我が国におきましては,いわゆる公衆送信権とはちょっと違う概念というふうに考えてございまして,いわゆる有線放送のような,ああいったものというふうに考えてございます。WCTの公衆への伝達というところは違うふうに考えてございまして,WCTの公衆への伝達と,WPPT上の公衆への伝達というところは,我が国といたしましては,違う概念というふうに理解してございまして,御指摘のとおり,WCTの方は,公衆送信権は入るように思いますが,WPPT上の公衆への伝達は,いわゆる有線放送ですとか,そういったもののように我が国は解釈してございます。
  こちらは,視聴覚的実演に関するものですので,WPPT並びの用語の使い方として,そのように整理する方向で考えてございます。

【山本委員】 ちょっと補足でよろしいでしょうか。

【道垣内主査】 山本委員,どうぞ。

【山本委員】 ありがとうございます。
  今お答えいただいた点で,1つは,WPPTだけはWCTとは別の解釈をするというところが,そういうふうに解釈できる根拠がどこにあるのかということと,もっと具体的に言うと,インターネットでサイトにアップしたときに,それをアップする権利だけでなしに,それをいわゆる日本でいう公衆送信行為,ダウンロードさせる行為,それが今おっしゃったWPPTの公衆伝達権の中には入らないという解釈だということですか。念押しで申し訳ないですけど。
  もう1点は,今お話を伺っていまして,11条のところで,どういう形でも対応できるということですけれども,実はWPPTのところに同じような規定があって,同じような対応がきっとされたんだろうと思うんですけれども,このときにも同じように,さっきの11条であれば,3項で最終的な宣言をしたりという対応で足りるということになるんでしょうけれども,同じように,WPPTのところ,7条1項の(a)かな,公衆伝達権とかってあるんですけれども,それに対する対応も同じようにやったということなんでしょうか。

【堀国際著作権専門官】 まず1つ目の御質問につきましては,公衆への伝達というところの解釈が,WCTとWPPで違うということにつきましては,ある程度国際的にもわりとスタンダードな解釈になってございまして,私の記憶している範囲では,WIPOの出している文書の用語の説明集というものがあると思うんですけれども,そちらの方にも,その用語については条約ごとに解釈が異なるということが書いてあったと記憶してございます。
  2番目の御質問につきましては,すみません,WPPTの7条でしょうか。

【山本委員】 7条1項(a)ですか。
  もし調べないといけないようでしたら,細かな質問ですので,省略していただいて結構ですが。どうもすみません。

【堀国際著作権専門官】 この北京条約の11条におおむね対応する概念としては,WPPTの15条というふうに考えてございまして,15条には,放送及び公衆への伝達に関する報酬請求権というものが規定されてございます。概念としては,こちらに似たような概念というふうに考えてございます。

【山本委員】 ありがとうございました。

【道垣内主査】 よろしゅうございますか。また必要があれば,後で御説明いただければと思いますが,そのほか,いかがでございましょうか。
  日本としては,日本法と内容が同じであれば,この条約に入って,国際的な環境を日本と同じようにするという方が一般にはよろしいのでしょうけれども,何かそれに障害があるだとか,あるいは,もっと積極的にプロモートしていくべきだとかいう御意見でも結構ですが,いかがでございましょうか。
  どうぞ,浅原委員。

【浅原委員】 芸団協の浅原でございます。
北京条約は,やはりローマ条約以来50年,いわば半世紀を超して初めて映像等,視聴覚的実演の権利を明文化されたということで,基本的には,私ども,非常に歓迎しております。これから,恐らく様々な実演が,映像を伴ってコンテンツとしてインターネット上,あるいは様々なメディアを通じてマルチユース,マルチデバイスによって享受されるという時代になってくると思いますので,そういうところで,基本的にこの条約をもとにして,やはり我が国として,実演の権利ということ,あるいは視聴覚的実演というものの利用についても,きちんと利用するものはして,そして,リターンはきちんとリターンできるようにしてほしいということを非常に願っております。
  我が国の法律との整合性ということについて,私どもはやはり公衆伝達権,それから,契約の問題ですね。特に12条に関しては,私どもの方には契約法というのはございませんけれども,インターネットでコンテンツに実演を流す,いわばNHKオンデマンド等を開始する前の1つの地ならしとして,経団連さんのあっせんで,文部科学省,経産省,総務省を入れた会議に私も出ておりまして,そこの1つの結論が,契約をきちんとするということでございます。
  今まで私ども,テレビ番組において,あるいは映画において,口約束によって出演するということが非常に多かった。日本では,文書による契約を交わすという習慣がなかったわけでございますけれども,その後,様々な段階を経て,今,aRmaという団体で映像の全部利用(インターネットも含めて)の権利処理をしておりますが,一番の問題は,収録時にきちんとした契約がないということでございます。そういうことについて,例えば,アメリカなどでは,スクリーン・アクターズ・ギルドのような強い機関がございますし,EUの指令においても,やはり文書による契約を交わすと。これは契約そのものは1つの目的でもありますけれども,そこで記録を残す,出演記録を残す,それがどういう性格のもので,だれが出ていたという記録を残すことによって,後々の再利用を円滑にしていく。一番望ましいのは,そういった出演時における契約とデータというものが,ある一定のフォーマットの下に,だれでも利用可能になるということが望ましいと思います。
  現実には,放送局さんもいろいろな御事情,今までの経緯もございますので,例えば,1つの同じ番組を海外番販する,あるいはビデオ化する,あるいはインターネットに流す,それぞれ部署が違いますと,同じ番組について出てくるデータが違うということがございます。それから,aRmaで処理をする場合に,スピードが求められておりますけれども,申請があった時点でaRmaの権利委任を受けていない俳優がいると。それを調べると,実はもう既にある一定のプロダクションに入っているのがわかるわけですね。それは出演時に,その各俳優に,どこどこのプロダクションに入っていたら,それは,例えば音事協の方でしたら,音事協にきちんと申請して委任しなさいということをおっしゃっていただければ,そして,それがaRmaの方につながってくれば,非常に円滑に処理できるはずなのでございます。
  そういった点も含めて,利用の面でも含めて,これからのマルチデバイスでマルチユースということになった場合に,一番の根幹は,契約時の書類あるいはデータの整備でございますね。そういったことを含めると,やはりこれは実演家の権利を単に主張するというふうに受け取られては困るんですけれども,私どもは実演家を実演家の権利として主張しつつ,それは利用されて初めて生きてくるもの,そして,権利処理をきちんとされて初めて生きてくるものでございます。そういった面での根幹は,やはり契約の問題だと思います。その辺のことを,今後,日本の法律としてどのように対応してくださるか。単に,実演家が契約をしろと言ってもしないのは,実演家の努力が不足だと言われるのは非常に心外でございまして,映画に出演する,あるいは放送に出演する場合に契約をしてくださいと言っても,契約書が出てこない。あるいは,出演してしまってから,放送局のフォーマットで,ある条件をもう決められた契約書が出てきて,それにサインしないとギャラも支払われないというのが実情でございますので,そういったことも含めて,ある意味,法律上でのそういったことを促進するような制度がつくられると有り難いというふうに思っております。
  以上です。

【道垣内主査】 今のお話は,条約をきっかけに,国内のプラクティスをもう少し整備していこうということだと思いますけど。

【浅原委員】 そうですね。今の著作権法の中にどういうふうに入れるのか,あるいは,別に契約法のようなものをつくるのかも含めての,対応をこれから芸団協としても各方面に働きかけていきたいというふうに思っています。

【道垣内主査】 すみません,私の方から質問です。
  国際小委員会としては,近隣の国々の中で実演家の権利が十分守られていなくて,そこでの放送等において,日本の実演家の権利が侵害されているような事例がもしあれば,そういう国には,この条約に是非入れという働きかけをすることは非常に意味があるわけですが,そのような状況にあるのでしょうか。

【浅原委員】 ちょっとすみません,御質問の意味がわかりません。

【道垣内主査】 近隣諸国における実演の権利の保護のレベルが日本よりも劣っている国が目立っており,そのことが権利侵害の――法律がなければ権利侵害ではないわけですが,日本から見れば不当な扱いをされているという例があるのかないのか。あるとすれば,この条約は,その国々のレベルを上げる道具にはなるわけですけれども,そのような観点からはいかがでしょう。

【浅原委員】 それは,私がすべて先生の御質問に答えられるかどうか自信はございませんけれども,確かに,近隣諸国において,実演家の権利が,法律上は別にして,実際上にきちんと行使され,そして処理されているかと言えば,ちょっと疑問は感じられます。実演の権利というのは,法律で規定されるだけでは,いわばその半分しか意味がありませんで,実演家個々の権利がきちんとある集中管理機構のところに委任されて,それがいろいろな支分権ごとに権利処理されていかなければ,実際上は意味がないのですね。
  そういう意味で,実演家というのは非常に多い――私は事務関係の人間ですけれども,あるとき歌を歌えば,実演家だと言えば言えるというような意味で,非常に広範囲だと思います。これは,これからの時代は著作者もそうかもしれませんが,実演家については,特に,非常に数が多くて,正確な把握が困難だということがございますので,集中管理機構,集中権利の管理機構というものはどのようにできているかということによっても違うと思います。
  先生の御質問にちょっとそれた答えかもしれませんが,芸団協としては,近隣アジア諸国のそういった権利集中機構というものの成立をある意味で手助けできることであれば,手助けしていきたいと思っております。
  ただ,それとはまた別に,日本の今後の知財戦略ということを含めますと,我が国では非常に放送が盛んでございまして,皆さんに,放送だけでなく,音楽もそうなんですけれども,特に映像を伴った放送について,では,諸外国にコンテンツが流通して,それによって国の方に経済的な収入が大きく入ってきているかというと,非常にそれはおぼつかないということがございます。そういったことも含めると,まず国内できちんとそういった契約等の環境整備をしていただいて,それと同時に,やはり日本の放送番組自体は非常に優れた魅力のある作品がたくさんございますので,それを海外に打って出るということを,私どもは,ひとつマーケットを大きくするという意味でも,それから,知財戦略という意味でも,望ましいと思っておりまして,そういう意味でも,契約の問題,それから,近隣諸国との関係については,またいろいろ難しい外交的な問題はあると思いますが,海賊版を撲滅していくという意味でのいろいろな制限の問題ということは,真剣に考えていただきたいと思っています。
  御質問に答えられなくて申し訳ありません。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
  そのほか,この条約についてはよろしゅうございますでしょうか。
  じゃ,もう1点,山本委員,どうぞ。

【山本委員】 ほかに御意見もなければ,ちょっとお時間をいただいて,コメントといいますか,お願いです。この北京条約で,今,議論に出ておりました公衆送信権の規定が入っていますが,先ほどお話があったように,今の著作権法を改正しなくても,この北京条約には対応できるということはよくわかったんですが,是非この機会に,隣接権に対して公衆送信権を付与する必要があるのではないかという観点から,その点についても,条約の批准に当たっては検討していただきたいと思います。
  と言いますのは,隣接権の対象になっている実演家であるとかレコード制作者のレコードについては,創作性が要件になっていないので,著作権よりも権利が内容的に低く抑えられているという状況にあるのですが,では,その公衆送信に当たって,送信可能化権だけ与えて,公衆伝達権は与えないという,その差別が果たして合理的なのか,その差を設けることにどこに合理性があるのかというのは,私,極めて疑問だと思っております。
  この点が,先日,法制問題小委員会で議論しているときに,いみじくも出てきたように思っております。要は,リーチサイトの議論をしているときに,リンクが著作権侵害のほう助になるかどうかという点で,これが公衆送信権があれば,リンクを張るという行為は,公衆送信権の事前ほう助という形になるのですが,これが送信可能化権との関係で見れば,いったんアップロードしちゃったやつのリンクを張るということは,事後ほう助になりまして,送信可能化権の侵害にはならないということになります。したがって,リンクを張ることによって侵害がほう助されるときに,著作権者は,それに対してほう助だと,差止めという救済であるとか,損害賠償の救済を求めることはできるんですが,送信可能化権しか持っていない隣接権者は,事後ほう助に対しては,損害賠償も差止めもできるはずはありませんので,そこにえらく大きな,いびつな落差が出てしまうというところがはっきりしてきたように思います。
  したがって,この機会に,隣接権者に対して,送信可能化権だけでなしに,公衆伝達権も与えるんだというような,与える必要があるのかどうかを真正面から議論していただきたいなというふうに思いました。
  以上です。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
  どうぞ,久保田委員。

【久保田委員】 視覚障害者等に関する権利制限の例外の議論に関することで。

【道垣内主査】 それは次の話だと思います。今,順次やっております。

【久保田委員】 こちら,今の。

【道垣内主査】 今の北京条約とは違う話ですか。

【久保田委員】 中の話です。

【道垣内主査】 そうですか。どうぞ。すみません。

【久保田委員】 確認ですけれども,国内的観点というところで,著作物の範囲について,先進諸国と発展途上国は対立しているというところなんですが,国内法では,21年に法改正された視覚著作物,公表された著作物から視覚著作物に限定されたところに関連する条項と考えたらいいんですか。具体的に国内法にあてはめると,21年改正で,若干,視覚著作物ということで,対象を日本の法律は限定したんですけれども。そうすると,発展途上国のは,もとの公表された著作物に広げていくというような議論なんでしょうかという質問なんです。

【佐藤国際課長】 途上国は,できれば何でもという要求だというふうに理解しています。

【久保田委員】 そうですか。

【道垣内主査】 資料1ですと,今,どこの話をされたのでしょうか。

【久保田委員】 資料1-2について。1-2です。

【道垣内主査】 やはり違う話です。今,資料1の中の,視聴覚的実演の保護に関する条約の話をしていたものですから。

【久保田委員】 失礼しました。

【道垣内主査】 わかりました。いや,結構でございますけど。
  それでは,資料1の中の2番目の点ですが,伝統的文化表現・フォークロアの議論が少し進んだということかと思いますが,これにつきまして,日本として,今後どう対応すべきかということについて,何か御意見等ございますでしょうか。
  よろしゅうございますか。
  先ほど既に御議論ございましたけれども,3番目の,資料1の3ページの3と書いてあるところの中の,これは幾つか中が分かれておりますが,マル1の視覚障害者等に関する権利の制限及び例外の議論,これについてはいかがでしょうか。
  今の久保田委員のお話は。

【久保田委員】 ごめんなさい,ここです。

【道垣内主査】 もう少しそこを,どちらの方向の議論をされたのでしょうか。

【久保田委員】 というか,状況といいましょうか。

【道垣内主査】 状況の説明。

【久保田委員】 国内法に影響を与えていくようなところなのかということですね。

【道垣内主査】 まだ方向は見えなくて,おっしゃるように,途上国は広くと言っており,たくさん著作物を持っている国は,そうは言ってもということなのですか。そのあたりの状況を事務局から御説明いただけますか。

【堀国際著作権専門官】 こちらにつきましては,著作権法第37条3項に,著作物の形式を,視覚によりその表現が認識される方式(視覚及びほかの知覚により認識される方式を含む。)というふうに規定してございまして,こちらの文言からすれば,著作物のすべてにしたとしても,著作権法上の問題は生じていないと考えられるんですが,まだ庁内で引き続き検討中としているんですけれども,一応今のところの考えとしては,そういうふうに考えてございます。

【久保田委員】 ちなみに,日本の国内の視覚障害者団体などは,ここについては何か文化庁さんの方に情報は上がっていますか。

【佐藤国際課長】 特段ございません。

【作花文化庁審議官】 37条3項の話でございますけれども,「視覚による表現の認識に障害のある者」の解釈として,立法当時の趣旨としては,本来の視覚障害者,それから色弱の問題,それから,要するに,目の機能というよりは別の話でしょうけれども,いわゆる学習障害の観点から,視覚による表現の認識に障害がある者,そこまではこれの文言でカバーできているという趣旨だったと思います。
  ただ,他方,先ほど担当から説明ありましたように,現在求められているのは,そういうものだけではなくて,肢体不自由の問題がございまして,要するに,例えば,図書をきちんと支えられない,そういう苦しい姿勢で読まなければいけない場合がある。そういった場合に,いろんなメディアを使って,それがより容易に読めるようにするようなことも,それが著作権法上関係ないところで対応されればいいのですが,著作権法上の規定がもし働くとすれば,そのような点も制限できるようにしてもらいたいということだと思います。ですから,もし条約でそういうことが求められたとすれば,この37条3項については,やはりある程度修正が求められることになると思います。

【久保田委員】 わかりました。ありがとうございます。

【道垣内主査】 そのほか,いかがでしょうか。
  私から質問しますが,私,国際的な法律問題をやっているものですから,この輸出入の仕組みについて,資料1-2の2ページ,3ページのところに書いてあることですが,これは,どこかの国で視聴覚障害等をお持ちの方のための加工されたものをつくった場合には,多くの国で使えるようにした方がよいという趣旨でしょうか。ただ,それが野放しになると危ないので,“Authorized Entity”というところできちんと管理してもらいましょうと,そういう発想でしょうか。

【堀国際著作権専門官】 はい,そうです。

【道垣内主査】 これについて,日本語については,そんなにはないかもしれませんが,ただ,個々の方々にとっては大問題ですし,外国にいらっしゃる方で,せっかく日本にそういうコンテンツがある場合に,外国にいらっしゃると方が利用するときに,こういう仕組みがあると何かよいことになるのですか。使いやすくなるのか,そうでないのか。
  英語の著作物とかだとすごく意味がありそうですが,日本語の著作物についても,そういった観点からは関係がある話なのでしょうか。

【堀国際著作権専門官】 現在の交渉の主な観点として考えられておりますのは,途上国と先進国との関係で,途上国は,やはりスペイン語ですとか,フランス語ですとか,英語といった言語が国的には多数を占めておりますので,そういった先進国のスペイン語,フランス語,英語のような書物を,こういった輸出入の枠組みができれば,先進国から途上国の障害者の方々向けにそういった書籍の輸出入ができるといったことは考えられますが,日本語につきましては,やはり言語の問題がありますので,そういったところがどこまであるかと言いますと,正直なところ,ほかの言語に比べては少ないとは思います。ただし,その影響につきましては,検討していかなければいけないと考えております。

【道垣内主査】 十分には理解できていませんが,今の資料1-2の3枚目の絵で言いますと,下のように,両方の国にAuthorized Entityがあって,そこでのやりとりが原則だということになると,そういう余り国際化していない言語については,うまく乗らない感じがするのですが。上の図ですと,個々の人がアクセスすればよいので,例えば,スペイン語圏にいる日本の方で,日本語しか読めないのだけれども,視覚障害があるという方,弱視だとか,そういう方には,この上の方の図であれば何か意味がありそうなのですが,そのような理解でよろしいでしょうか。

【作花文化庁審議官】 今,座長が御指摘されたこの図ですが,いずれかの国にAuthorized Entityがあるかどうかという議論もありますが,ポイントは,ある国で,その国の著作権法の制限規定でつくられた,例えば,視覚障害者のための録音物は,そのままの状態で条約加盟国の他国でも自由に使えるという,そこの流通の円滑化ということがポイントだと思います。例えば,先ほどの例で言えば,スペインに在住する日本人の障害者の方,あるいは,スペイン人であっても,日本の文学を研究されている障害者の方がいらっしゃるとして,それを日本のAuthorized Entityで録音物をつくって,それをそのままスペインに持っていく。すると,特にもうスペインの法律がどうであろうが,条約に入ってくれていれば自由に使える。そういう意味での,非常に円滑な利用ができますし,障害者の方々の学習の機会の拡充につながるということで,発想としては非常に好ましいことだと思います。
  ただ,問題は,このAuthorized Entityというのをどのように立ち上げるのかどうかという点であり,実務的な問題というのは,条約が発効した場合に,関係省庁とも協議しながらつくっていかなければいけない課題だと思っております。

【道垣内主査】 ありがとうございます。
  確かに,難しい問題があって,それがほかの方々に流れてしまうと大変なことになると思います。ただ,利益を重視して止めるというのは,余り筋がいい議論ではない感じがしますので,よい話ですから,積極的にやる努力をしていただければと私は思います。
  そのほか,ございますでしょうか。よろしいですか。
  そうすると,次のマル2の方,放送機関の保護でございますが,この点についていかがでしょうか。

【梶(かじ)原委員】 よろしいですか。
  ウェブキャスティングの取扱いについてですけれども,世界の放送連合は,伝統的放送事業者が行うウェブキャスティングも保護の対象にしてほしいと要望していて,これは民放連さんとは若干立場が異なると聞いていますけど,NHKもそういう立場でやっております。
  日本政府が時期尚早という立場に立ったもとが,平成18年の報告書ということで,既に平成24年ですから,相当インターネット環境も変わっている中で,今後とも,そういう立場でやっていくのかということがあると思います。世界放送連合の一員であるNHKとしては,是非その辺は,インターネット環境も変化している中で,ウェブキャスティングの取扱いについて,是非検討していただきたいと思っています。

【道垣内主査】 はい。
  そのほか,いかがでしょうか。

【笹(ささ)尾委員】 今回,SCCRの会期をフルに使っていただいて,最後の最後まで気が抜けないような公式・非公式含め,錯そうした中での御議論があったということを,現場に行った者からも聞いております。文化庁の方々を中心にして,本当にどうも御苦労さまでございました。
  今,NHKさんからも御発言もありましたが,やはり放送に関して,様々な国々で放送の発展の度合いといいましょうか,放送で何をやっているのか,何を求めているのかというものが全く違うわけで,それがあるからこそ,ここまで放送条約に関しても時間がかかっているんだろうなと思います。様々な考え方の中で,どうしていくか。日本の文化庁さんを中心にして,非常に柔軟な姿勢で,何とかこの条約を成立させようという方向に向けていただいておりまして,この辺に関しては非常に感謝しております。
  ウェブキャスティング,あるいはサイマルキャスティングといいますか,そのあたりのことが取りざたされているわけですが,やはり放送の発展とともに,今,動かざるを得ないという状況の中で,私ども民間放送連盟といたしましては,放送条約が早期に成立することに最も重きを置いて考えておりまして,そういう意味では,今文化庁中心にお進めいただいている方針と軌を一にしているというところでございます。
  ステップとしてはなかなか大変なことになるかもしれませんが,資料1-4でまとめていただいていますように,とにかくウェブキャスティング等にまだなかなか理解がない国も多いかと思いますので,まずは条約を成立させるために,保護の対象となる放送をどういう定義で整理し,臨むか。その後,現在の方針に沿った形で放送条約を成立させてから,次のステップとして,こういうウェブキャスティング,サイマルキャスティングに関しても,当然ながら取り扱うようなものを希求していく。2段階になって,そんなことができるのかと言われてしまえばそれまでですが,そういうアプローチを是非お進めいただければというふうに考えております。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
  ほかによろしゅうございますでしょうか。
  そうしましたら,残りのマル3とマル4の新しく出てきている権利制限と例外につきまして,何か御意見はございますでしょうか。
  これはまだまだ初期の段階かと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,議題(1)は以上にさせていただきまして,次に,議題(2)に入りたいと思います。本議題では,追及権について,早稲田大学の小川明子先生にお越しいただいておりますので,先生から追及権についての御発表をいただきたいと思います。その御発表の後,委員の皆様から御意見をいただきたいと思います。
  それでは,小川先生,よろしくお願いします。

【早稲田大学(小川)】 早稲田大学の小川と申します。よろしくお願いいたします。
  本日,私は,追及権という,皆様余り聞いたことのない,ヨーロッパで主に適用されていると言われております追及権についてお話を20分ほどさせていただくということで,本日こちらにお邪魔させていただきました。
  レジュメの方を見ていただきますと,一応3部構成と参考資料というような形で準備してございます。まず,追及権とはいかなる権利か,欧州における追及権はどのような形になっているか,最終的には,未導入国においては,導入に際してどういう点を検討しなければいけないか,そういうようなことを中心にまとめさせていただきまして,更に,参考資料といたしましては,一応1,2,3ということで,これは追及権についての報告書が今出ておりますので,その欧州の報告書の概要,データから抜粋したものとその概要,そして,最後は,追及権を現在導入している国のリストというものをつけさせていただいております。
  それでは,最初,追及権とはというあたりから御説明をさせていただきたいと思います。追及権には,ルーツについて,いろいろな話が国によって,又は学者によってあるんですけれど,基本的にどのような権利かと申しますと,美術の作品――これはベルヌ条約では美術以外のものも入っているんですが,一応ここでは,いわゆる美術家がつくった彫刻であるとか,あるいは絵画であるとか,そういうものを想定して考えていただければと思いますが,そのような美術の原作品というものが販売された場合に,著作権法の枠組みの中でといいますか,追及権という権利をとりまして,その一部が著作者の方に支払われるという権利でございます。
  例えば,公開競売と書いてありますが,いわゆるオークションというもの,あるいは,美術の専門家であるディーラーというものを介しまして美術品の取引をする,その場合には,取引額,例えば,100万円であれば,100万円の3%,3万円が著作者に支払われる,こういうようなものが追及権という権利でございます。それは1回だけということではなくて,最初に著作者が作品をつくりまして,それをどなたかに販売する。その販売の後,取得者が次の方に転売すると追及権が入り,更にまた次の方に転売すると追及権が入るということで,欧州の事例を今日はお話しするような形になっておりますけれど,これ,国によって著作権法に基づき,あるいは独自の,例えば,著作者の没後20年であるとか,生存中のみであるとか,そういう決め方がされております。欧州においては,著作権保護期間を別の欧州指令で没後70年というふうに決定されておりますので,それに従うというのが現在の欧州の状況ということになっております。
  なぜこのような追及権というような権利ができ上がったのかと言いますと,少し歴史的な事情がかかわってまいります。例えば,ミレーであるとか,ドガであるとか,そういうような初期あるいは中期の印象派の画家の作品というものは,本人たちはある意味そんなにお金のない貧しい暮らしの中で作品をつくっているというような状況がございましたけれど,それに対して,突然印象派の作品,例えば,アメリカを中心に,非常に値段が高騰してくるというようなことがありました。そうしますと,画家が受け取った値段,例えば,ミレーの「晩鐘」という有名な作品について申しますと,ミレーの「晩鐘」は,当時のフレンチフランで1,000フランで販売されたのだけれど,35年間のうちに800倍まで高騰した。そうしますと,80万フランになってしまう。著作者が受け取ったものは,いわゆる所有権の譲渡ということで,1,000フランのみであるわけです。その後の上昇については,何もミレーは受け取ることはできなかった。それは普通のことではないか,物品の売買でも同じではないかというような考え方をする方も多くいらっしゃるんですが,しかしながら,ミレーが1,000フランで売った「晩鐘」が,2万,3万,10倍,15倍で売られている間はよかったんですが,その上昇の原因というのは,ミレー自身が亡くなったことであると。そうしますと,ミレー自身は,ある意味,生きている間には1,000フランしか受け取れない,あるいは,家族はほかに受け取るものはないという状況になる。
  これは,例えば,美術以外の著作物,音楽であるとか文芸の著作者でありますと,頒布の形式が複製物という形をとって人々に売る。そういうような形でありますと,例えば,人気が出ましたら,その人気の出た売上げ,あるいは発行部数というものが,そのまま著作者に返ってくる。本人が亡くなろうと,家族あるいは著作権者,そういうような者たちが著作権による恩恵を受けることができる。しかし,当時の状況を考えますと,複製技術も今ほどではないし,インターネットもない,デジタルの複製というようなこともそんなにないわけですから,今よりももう少し事情は深刻だったのだろうとは思われますけれども,その際に美術の著作者というものが,ほかの著作者に比べては収入が,収入源という意味で非常に少ないのではないか。こういうようなことで,フランスでできましたのが,この追及権という,1つの著作権の,財産権の枠組みの中に入ると言われている権利でございます。
  ほかにも幾つか学説がありまして,当時,第1次世界大戦で負傷した,例えば,画家であるとか,そういう方たちは,手をけがしてしまうと,そんなに作品をつくれないから,そういう方への補償であるとか,あとは,当時,新聞等でフォランという方の風刺画で,オークション会場の外で貧しい身なりをした親子が見ている。「あれはお父さんの絵だったんですよね」と言いながら,もう何億,何百万ユーロなりフランなりで取引される絵を見ているけれど,彼らは非常に貧しい暮らしをしている。これはどこか間違っているのではないかと。そういうようなことから起きたと,いろいろな説がございますけれど,ミレーの「晩鐘」については,非常によく言われているアイデアでございます。
  フランスでは,そういうような,フォランにしろ,ミレーにしろ,多くの例もございまして,弁護士あるいは学者を中心に,追及権という権利の創設が検討されまして,1920年の段階で既に導入されております。それに続きまして,例えば,21年にはベルギー,41年にはイタリア,65年には当時の西ドイツ,こういうような国にどんどん追及権という権利は広がっていく。各国とも少し独自の性質を持っているんですけれども,広がっていく。フランスの場合は,一応1920年にできまして,57年法と。そのほかにも,幾つか大統領令なども出されるんですけれども,対象がオークションだけにしようであるとか,ディーラーも含もうとか,そういうような変更はございましたけれど,1920年以来,現在までずっとこの追及権という権利を維持しているということになっております。
  もう一つ,ドイツの場合も御紹介しますと,ドイツは65年法で追及権が入ってくる。しかしながら,実質,当初は,販売した人がその支払義務というものを西ドイツではあるというふうにしてあったんですが,販売者のみに支払い義務を課したために,ディーラーさんから名前を教えていただけないということで,実質,支払は行われていなかったというのが最初の10年ぐらいあるんですけれども,法制度を見直しまして,共同支払責任をほかの者にも課したことから,その後は徴収が行われるというようなことになってきたということです。
  ヨーロッパ各国でそのように追及権という制度ができ上がってきている間に,ベルヌ条約にもこの制度を入れようではないかという話が出てまいります。これは,既に追及権を持っていたフランスであるとか,ベルギーであるとか,イタリア,そういうような国を中心に出てきました。なぜこういうような動きが出てきたかと言いますと,やはり各国の市場で,追及権を持っている国では,そこの市場で売られたものについては,追及権を支払わなければならないということがありますと,市場がほかの国に移ってしまうのではないかという危ぐがございまして,追及権のある国の方から,ほかの国でもこのような制度を持ってもらえないかというようなことが出てきてまいりました。ベルヌ条約の後に,結局は,欧州指令というものにつながっていくんですが,そこで少しベルヌ条約の内容だけ見ていこうかなと思いまして,ここにベルヌ条約14条の3というものを引用しておきました。
  ベルヌ条約14条の3というのは,ブラッセル修正会議1948年から,この文言が入っております。ちょっと読ませていただきますと,美術の著作物の原作品並びに作家及び作曲家の原稿については,その著作者は,著作者が最初にその原作品及び原稿を譲渡した後に行われるその原作品及び原稿の売買の利益にあずかる譲渡不能の権利を享有する。こういうような文言です。ベルヌ条約は,基本的には内国民待遇が適用されておりますので,当初は内国民待遇でいったらどうかというような案がベルギーから出たようなんですけれども,それは,そうなるとベルヌ条約加盟国は,最初から全加盟国で追及権を持つことが必要になってしまうというような反対も出まして,結局は,2項,3項ということで,相互主義にしようではないか,ある各国の範囲でやろうではないか,そういうようなことになったようでございます。
  ベルヌ条約は,1948年以来,この14条の3という条文を持っているわけですけれど,それでは,一方の欧州ではどうなったかと申しますと,2001年9月に採択されました欧州指令2001/84/ECによりまして,当時,15か国がEUの加盟国だったんですけれども,この15か国中,11か国が既に追及権というものを持っていたということもありまして,全加盟国にこのような権利を持つような形にしようではないかと。これ以前に,実は,欧州市民の平等という意味合いにおいて,この国には追及権があって,この国にはないというようなことがございますと,欧州市民平等は達成できないのではないか,そういうような議論が起きました。これはフィル・コリンズの事件というものが,隣接権にかかわる事件なんですけれども,起きまして,それによって,欧州指令に入れたらどうかという話が活発化してきたというふうに言われております。
  しかし,欧州指令に入れるということは,全加盟国に何らかの追及権を入れなければならないということになります。そうしますと,この追及権というものは何にどのような影響を与えるかと言いますと,美術品の取引が行われた場合に,販売者がその取引額の何%かを著作者に支払う,つまりは,取引額に上乗せされてしまうというようなことになる。そうすると,追及権のない国の市場で作品を売ろうではないかというような動きが起きてしまうのではないかということになってまいります。これは反対派の方が,常に,追及権を入れるというと,市場が破壊されるというようなことは言うんですけれども。
  参考資料の方に,各国の美術品取引がどのようになっているかというのを少しまとめてございますけれども,欧州において一番大きな美術品市場というのは,実はイギリスとフランスです。ただ,英国の場合は,アンティークについても相当な取引量がございます。ファインアートについて言えば,もうフランスが断トツに大きい市場を持っているということになっております。欧州指令が2001年9月に採択された時点では,EU加盟国,当時の15か国の中で,追及権を持っていなかったのは4か国ございまして,それがイギリスとオーストリア,オランダ,アイルランドでございました。それ以外の国では何らかの追及権,実際,どの程度の運用がされていたかは別としまして,一応ほかは持っていたということなんですが,それで,大きな市場を持っているイギリスといたしましては,できる限り欧州指令における追及権を小さくしたい,影響力を少なくしたいということで,いろいろと交渉が始まったようです。
  結論はどのようになったかと申しますと,2ページ目に書いてございますが,譲渡不能,放棄不能の性質を持つ権利である。対象取引というのは,美術市場の専門家が介在する取引すべてを対象としようではないか。一方では,個人間の取引は除外となった。なおかつ,1万ユーロを超えないで,著作者から直接取得後3年以内の取引を除外するというのは,もうけを度外視して,ディーラーさんがいわゆるアーティストから買い取っておいて,1万フランを超えていなくて,3年以内に売ってあげる,私が買い取っておいてあげましょうというような場合は除外しましょうということになっております。支払義務は,作品を販売してお金を受け取った販売者ということになるんですけれども,各国法によって,例えば,販売者が払わなかった場合には,購入者に払わせようであるとか,仲介者に負担させようであるとか,支払義務を分担している,あるいは,共同責任を負わせることができるというふうにしております。
  この対象となる著作物というのが,もう一つ問題になってくる点なんですけれども,いわゆるオリジナルの美術の作品,絵画,彫刻と考えると非常に簡単なんですが,版画はどうなるんだろうと。そうすると,1つの原版に対して,追及権をたくさんもらおうと思ったら,何枚でも刷れてしまう。そうしますと,これは追及権の対象となるもの,これはならないものというふうに分けていかないと,これは追及権というものが成り立たなくなってしまうということで,欧州指令では,オリジナルの原作品又はオリジナルとみなされるものというような規定の仕方をしております。
  オリジナルとみなされるというのは,例えば,美術の作品,これは市場の慣行という言い方もできるかと思いますが,ナンバリングしてあるであるとか,著作者のサインがあるとか,そういうことにしまして,美術家の方も,余りにも同じものを数が多く出てしまうと,値段が下がってしまうというような事情がありますから,オリジナルとみなされる作品,複製物なんだけれど,そういうのはある程度限定した,例えば,リトグラフなんかを考えると,限定100枚とか,30枚とか,そういうような形でおわかりいただけるかなと思うんですが。そういうような形で,オリジナルとみなされるものについては対象としようではないかというのが,欧州指令で書かれていることです。
  それから,対象となる取引なんですけれども,最低取引が3,000ユーロですね。3,000ユーロが最低ですから,日本円では3,030万円ぐらいですか,そのくらいの値段以上の取引はすべてカバーしようではないかということになっております。
  徴収率が,またもう一つ問題になったところなんですけれども,欧州指令,これは非常に計算がしにくい形になっています。60万ユーロで販売された場合という1つの例を3ページの上に挙げておいたんですが,普通のリストで考えますと,60万ユーロというのは,0.25%だから,60万掛ける0.25で出るかというと,これが出ないんですね。1~5万までは4%を掛けましょう,5万1~20万までは3%を掛けましょうというような計算の仕方をしている。それで,結論から言うと,9,000ユーロが課されるというような,こういう分割した形で計算をしていくということが提案されています。
  ごめんなさい,これ,1か所訂正なんですが,支払額の上限1万2,400ユーロと書いてありますが,これは500の間違いです。誤植でございます。すみません。1万2,500で,つまりは,追及権額が何十億円で取引されようとも,1万2,500ユーロを上限として支払っていただくというような形の計算にしたのが,この欧州指令になっているということです。
  このプライスキャップといいますか,上限を決めたというのが,非常にフランス等の国からは批判が上がっている。反対に,イギリス等の初めて追及権を導入しようという国においては,できるだけこのレートを低くしたいというような希望で,折衝の結果,こういう結果が出たというふうに聞いております。
  もう一つの非常に重要な点は,受益者をだれにするかと。この権利,放棄不能,譲渡不能とされていますが,お金を伴いますので,追及権というものができた当初より,これは経済的な権利なのか,あるいは人格権的なものなのかということで,ちょっと問題になっていた権利なんですけれども,結局,譲渡不能であると。そうしましたら,著作者が生きている間は構わないけれど,死んでしまったらだれのものになるんだろうかと。なおかつ,この保護期間というのは,別の欧州指令によって,没後70年というふうに決まっている。そうなると,受益者をどうするかというのが,実はちょっとした問題になっているということになっています。これも各国法で決めてくださいという,各国法の相続法等がございますので,それに従うというような形で,欧州指令は決定しているということです。
  それと,販売情報を知る権利というのも,これも非常に重要なんですけれども,情報を知らせるというようなことについての権利を各国でつくっておかないと,ひそかに行われたけれど本人には全く知らしめられなかったというような状況になるということになっています。
  本日私が依頼されましたのは,欧州の追及権ということですので,少しフランスとイギリスとの差をここに御説明しようかと思いまして,2国間の概要といいますか,似ているところと違ったところを書かせていただきました。フランスが一番古くから追及権を持っている国であって,英国が最近,2006年に追及権を初めて入れた国であるということもございまして,英米法と大陸法の国一つずつを取り出してみたということなんですけれども。
  フランスの場合は,1920年以来,追及権制度を保有しております。法改正を経て,当初,最低額50フラン,一律3%というようなことだったんですが,現在は,欧州指令に従いまして,下限750ユーロにまで下げまして,あとは欧州指令と同じような率での徴収をしています。フランスの場合は,やはりアート作品についての,美術品の保護が非常に厚いと昔から言われている状況もございますので,こちらの場合,先ほど申し上げました,何がオリジナルかという点につきまして,デクレで既に,何枚までがオリジナル,何体までがオリジナルというような決定の仕方をしております。その後,5ページ,4ページにあります仏英比較というところを見ていただきますと,フランス法,対象となる著作物については,オリジナルのグラフィックアート又は造形美術作品の中で,版画,リトグラフは1枚以上,あるいは,彫像は14体,タペストリー8枚,写真30枚,こういうような数字を出して,何枚以上,何枚以下というようなことを決定しているというような特徴がございます。長い歴史によって,こういうものができ上がってきたのだなというふうに思われますけれども。フランスの場合は,1920年法では,いわゆるレガティーとかサクセッサー,継承者であるとか受遺者も入っていたんですが,相続人のみというようなことに,1957年以来しております。
  それから,今度は英国にいきますと,欧州最大の美術品市場を持っている国である。市場の縮小を危ぐして,なるべく追及権は入れたくなかったんですけれども,結局,2006年に入れまして,それから,英国をはじめとする4か国に,後から追及権を入れた国につきましては1つの特権を与えまして,こういう権利が新たにできてしまうと国内市場が非常に混乱してしまうであろうということで,今現在生きている著作者については,保護を2006年1月1日より与えてください,しかしながら,もう4年間待ちましょう,2010年,あるいは,経済状況によっては2012年から,没後の著作者も含めて,全著作者を保護してくださいというようなデロゲーションといいますか,そういうものが欧州指令によって与えられておりましたので,英国をはじめとする4か国については,今年の1月1日から,没後の著作者についても保護が与えられているということになっております。
  それで,徴収した追及権額というのはどのくらいになるのかなということで,フランスの場合,2009年に,これはADAGPという著作権団体がございますけれども,こちらが820万ユーロを徴収している。日本円で8億円ぐらいになるんですかね。それから,英国の場合は,2006年度,これは始めたばかりの年ですから,2006年2月14日に追及権の徴収を始めていますから,13万ポンドですが,それから2008年9月までの30か月で,660万ポンドを徴収したというふうに,これはDACSという著作権保護団体のデータなんですけれども,そういうようなことを言われております。
  一応これが今まで申し上げてきました欧州における,フランス,イギリスにおける追及権の概要,本当に概要なんですけれども,ということになっております。
  欧州指令84/ECにおいては,報告書を今後も出していこうではないかということが決められております。と言いますのも,この追及権という権利は,何と言っても市場に悪影響を与えるのではないかというのが,ヨーロッパの一番危ぐすることでございます。市場に悪影響というのは何を意味するかと言うと,日本に比べて美術品の取引市場の規模が非常に大きい。そうしますと,それは美術品市場がなくなるということは,労働問題にも非常に大きな影響を与えるということになってまいります。つまりは,フランスあるいはイギリスで今までは取引されていた美術品が,アメリカの市場に移ってしまう,あるいは,ヨーロッパにありながらEUに加盟していないスイスの市場の市場に移ってしまえば,販売した人は追及権を支払わなくても済むではないか。で,移ってしまうというような,そういうようなことがございますので,このような欧州指令を決めたのですけれども,やはり何年間に一度は,各国に,この新しい権利の創設によって大きな影響があるのだろうか,ないのだろうかということを見てみなければならないというようなことになってきます。
  2010年の世界の美術品市場というのは,今,430億ユーロに達しているそうです。日本円で4兆3億円程度。そのような中において,オークションなりで,その市場が移ってしまうというのは,非常に大きな問題であるということになっています。それで,このレポートというものが出まして,著作者への影響は果たしてあったんだろうかというんですけれども,実際には,これによって市場が縮小したであるとか,そういうような影響はまだ見られていない。導入したのは2006年ですから,4~5年では,4か国では特に没後の著作者をまだ保護もしていないわけですから,まだ少し結論を出すには時期尚早であるというようなことが言われているということになってきます。そのことについて,今後とも検討していこうではないかということで,4年に一回ずつ,EUではこのようなレポートを今後も出しまして,動向を見守っていくというようなことになっております。
  最後になりましたけれど,未導入国における追及権導入に際しての検討事項ということを,少しまとめさせていただきました。というのは,日本においてもそうなんですけれども,例えば,アメリカであるとか,オーストラリアであるとか,2006年時点では全く追及権を持っていなかった国についても,この権利を持とうかどうしようかというような検討が何度も行われているという状況にございます。オーストラリアは,結局のところ,2008年,9年から追及権というものを導入しておりますし,米国ではカリフォルニア州という1つの州だけが追及権を持っているんですけれども,現在,カリフォルニア州法,1976年からある法律なんですけれども,これがアメリカの憲法違反になるかどうかというような裁判が起きているというような状況になっております。
  そのような中で,例えば,日本のことを考えていただいて,追及権をもし導入するとした場合には,どういうようなことを検討すべきかという点をまとめさせていただきますと,このような権利が本当に必要なのかどうかというのが,最初にくる点かと思います。いわゆるデジタル技術の発達によって,美術の著作物でも販売できるのではないか,いわゆる原作品でなくても販売は可能ではないかという意見ももちろんあると思うんですけれども,反対に,元来が複製物で頒布する音楽であるとか文芸に対して,美術の著作物は,明らかにそういうものを最初から想定はしていないだろう,そういうような点は挙げられるかと思います。
  あるいは,この導入によって,経済的にはどのような影響があるかというのも,非常に大きな点ではないかとは思われますが,添付の各国の比較のようなものを見ていただきますと,日本の市場というのは,もう海外に比べまして非常に小さい。であるからして,経済面において,日本で追及権を導入することによって市場関係者がこうむる影響が大きいかというと,ほかの国に比べると非常に微細なものであるのではないかというふうに考えられるということが出てくるかと思います。
  一方で,日本のアーティストが,例えば,海外で活躍する,あるいは取引をされるというような場合に,日本に追及権がないことによって,相互主義が働くというような主張の下,保護を受けられないというようなことがあることを考えますと,このあたりも非常に問題であるかなというふうに思われるかと思います。
  あるいは,今度は制度の問題について言いますと,どういうものを保護対象とするか,あるいは,だれが支払責任を持つか,情報を知る権利の創設をどうするのか,徴収率,下限,上限,そういうものをどうしていくのか。
  あるいは,今度は,徴収するものを徴収団体に任せるのか,個別でやっていただくのか。あるいは,権利を譲渡不能として,没後,だれが相続していくのか,そういうようなところが,追及権導入については問題になっていくことではないのかなと思われます。
  一応,非常に駆け足ではございますけれども,欧州の追及権の導入の状況についてまとめましたのが以上でございます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
  国際小委員会としては,前回の会合で,韓国とEUのFTAの交渉の中で,この追及権を欧州側が多分主張して,韓国は導入に向けた協議中というお話があったと思いますけれども,日本もEUとそのような条約を結ぶとすれば,この議題が出てくるということだろうと思いますので,そのような観点から,どのように対応して,どう考えていけばよいのかということを御議論いただければと思います。その前提として,御質問があれば,それもあわせてお願いいたします。いかがでしょうか。
  どうぞ,山本委員。

【山本委員】 興味深いお話,ありがとうございます。
  最後の方でお話が出ました,アメリカのカリフォルニアでの規定というのは,私も,たしか民法典(Civil Code)だったと思うんですけれども,入っているのを見てびっくりしたことがあります。何でアメリカで,カリフォルニアだけなんですけど,入れるんだろうなと。つまり,アメリカの思想からいって,どこに利点があると思ってカリフォルニアは入れたんだろうなという点について,もしおわかりでしたら教えていただきたい。というのと,思っていたとおり,違憲訴訟があるということなんですが,それは今係属中なんでしょうか,それとも,判決が出たんでしょうか。その点,よろしければ教えてください。

【早稲田大学(小川)】 ありがとうございます。
  これ,サザビーズとクリスティーズという2つの世界的に大きなオークション会社に対して,カリフォルニアの団体が訴えた訴訟なんですけど,まずカリフォルニアになぜあるかというと,これ,実はアメリカも追及権を入れるかどうかという話合いが,1970年代にも一度大きな流れがありまして,次に,ベルヌ条約加盟の際にも,ものすごくこの話が話し合われたというような経緯がございます。実際,カリフォルニアで入ったのは,アラン・シエロティさんという知事さんが,ちょっと独断でというような批判もあるんですけれども,この方が主張して,何人かの美術関係者と話をして,結局通ったということなんですが,カリフォルニア州は,先生も御存じのように,非常に特殊な州法,アート関係に非常に手厚い州法というものを,モラル・ライツもアメリカでVARAが導入される前から入っておりますし,非常に長い歴史がある。
  それで,アートについての長い歴史があるということもあったんですが,その前に,ラウシェンベルグという作家がありまして,そのラウシェンベルグさんの作品が,それこそ80倍になったとか,90倍になったとかいう,先ほどのミレーと同じようなケースがある。そうしますと,本人が非常に怒って,それが,例えば,記録映画としてアメリカを巡回して,これはおかしいのではないか,フランスにはあるこんな権利をアメリカでもつくるべきではないかというような議論があった。その流れの中で,カリフォルニア州については,州法としてでき上がってしまったということで,経緯については,批判も幾つかございますし,1州だけが追及権を持っていて,ほかが持っていないというのは問題ではないかというような点が言われている点ではございます。
  それで,今度は判決の話なんですけれど,サザビーズとクリスティーズを何人かの作家が訴えた事件というのは,追及権の未払に関する支払を求めての訴訟だったんですけれど,これ,一審判決は,実は違憲であると。1976年以来,カリフォルニアで導入されている法律なんですけれども,そういうような判決が出ています。もちろん,控訴するというふうに聞いておりますので,今後,巡回裁判所で結論が出されるのではないかということになっているかと思います。
  アメリカにおいては,実は,今ちょっと申し上げましたベルヌ条約に入る入らないと言っていた1989年の時点で,アメリカ全体の連邦法としても,追及権を入れるかどうかというような話合いが行われております。その場合には,フランスであるとか,海外の識者も呼んで,いろいろと議論したんですけれど,現時点では,追及権によって美術家が救われるとは思われないと。しかしながら,欧州で全体で統一されたハーモナイゼーションが行われるような場合には,アメリカも考え直さざるを得ないというような結論が出ているということでございます。
  あともう一つ,ごめんなさい,先ほどのサザビーズの方がなぜ勝ったかというような論点の問題でございますけれども,これはアメリカの休眠中の通商条項というのがございまして,ほとんど使われていないんですけれど,例えば,アメリカ国民が,インディアンだとか外国の方と通商するときどうするかとか,あるいは,州際取引についてどのように扱うかというような条文なんですけれども,それについて,カリフォルニア州の人だけに適用する法律であるけれども,あるいは,カリフォルニアで取引が行われた場合にだけ適用される法律というのは,アメリカ全体としては,ほかの,例えば,ニューヨークに住んでいる人がカリフォルニアで取引した場合にも影響を与えてしまう。そうすると,それは連邦法の規定であって,州法ですることではないというようなことが,一審の判断だったというふうに聞いております。

【山本委員】 ありがとうございました。

【道垣内主査】 そのほか,いかがでしょうか。

【久保田委員】 先生の御著書の方を拝読しますと,絶対入れるべきだというポジションなんだと思うんですけれども,簡単に,大きな理由から,プライオリティが3つ,日本が入れるべきだといったときに,講義でも結構なんですけれども,先生のお考えを聞かせていただければ幸いです。

【早稲田大学(小川)】 入れた方がいいという理由でございますね。
  私,なるべく入れた方がいいと言わないような形で報告しようというふうに思ったんですけれども,1つ申し上げたいのは,47条の2の関係のことを申し上げたいと思っております。著作権法の例外規定で,47条の2で,取引の用に使用する場合には画像を使っていいというような条文ができたと思うんですけれども,その47条の2について,海外の状況を見ますと,例えば,ヨーロッパでは,追及権はある。ある上で,情報化社会のための欧州指令というようなもので,販売であるとか広告のために,例えば,展覧会,販売,そのイベントのための使用であれば画像を自由に使ってもいいという規定があった上で,追及権がある。それが両輪のように機能している。
  ということは,日本では,販売の用に供するためというような条文は既にできてしまっているわけですから,追及権がなければ,美術の著作者の権利は,そこで少しマイナスになっているのではないか。そのバランスをとるためには,やはり,いわゆる広告に使われることによって自分の作品がもっと売れるようになる,売れるようになれば,それによって著作者は,売れたことによって,転売であっても自分たちは何らかの取引に関与することができる,そういうような,風が吹けばおけ屋がもうかるような話になってくるかもしれませんけれども,そういうような形で考えますと,1つ目の理由といたしまして,入れた方がいいというのは,現状,47条の2が先行しているということが,1つ,まず私の理由として挙げられることではないかと思っております。
  2つ目は,やはり著作権というものの歴史を考えますと,最初から複製権以外の権利が全部存在していたというわけではなくて,状況に従って,こんな権利を創設しないとバランスが悪いとか,こんな権利を追加することによってよりバランスのとれた法制度ができるとか,そういうような形で今までも推移してきていると思います。この追及権という制度,例えば,イタリアとか,カリフォルニア州もそうなんですが,取得価格と再販売の価格の間に差があって,仲介者なり販売者がもうかった場合にだけ追及権を与えようというような考え方もあるんですけれども,先日,フランスのパリ・ソルボンヌ大学のポロー=デュリアン先生がおいでになったときにおっしゃっていたことなんですけれど,それは違うと。フランス法の考え方においては,著作者を販売に関与させる権利なのであるというようなことをおっしゃっておりました。そうしますと,もうかったから一部よこせというような考え方とは少し違う。つまりは,著作権というのは,複製という行為に対して,その対価といいますか,複製を許諾する権利を著作者に与えるということであれば,販売に際して,販売に関与する権利を著作者に与えるという,そういうような形の権利があってもいいのではないかと。
  その根拠といたしましては,これもよく言われることなんですが,例えば,小説家には出版社がいる,音楽家には,例えば,音楽事務所があったり,レコード会社があったり,先ほども隣接権のお話をされていましたけれども,そういうよう何らかのプロモートする団体がいる。しかし,アーティストというのは,一人で作品をつくるアーティスト。私が言っているのは,典型的なアーティストであって,そういう人だけではないのはもちろんわかっておりますけれども,しかしながら,創作の形態が違うということを考えますと,全員同じ法律でいいのだろうかと。これは映画の著作権などについても,例えば,映画は特殊な状況であるのだから,こういうふうにしようというような例外といいますか,特別な取扱いが著作権法においてはなされていると思いますけれども,同じように,美術の著作者も,同じ一つの著作権法であるからして,複製によって頒布されるものと全く同じにしようということでいいのかなというのは,少し私の考えているところでございます。
  それから,もう一つ,反対派の意見を私はここで言わないといけないなと思いまして,追及権など入れる必要は全くないという意見を持っている方は,アメリカに実はたくさんおります。つまり,そういうように支払が増えることによって,市場ではあなたの作品ではなく,同等価値のほかの作品にいってしまうわけだから,追及権が付加されることによって,アーティストはむしろ貧乏になってしまうんだというようなことを,例えば,カリフォルニア・スタンフォード大学のメリーマン教授などはおっしゃるんですけれども,しかしながら,同等の作品って何なんだろうかと。美術品を買うときというのは,色のいいナスを買おうじゃないか,こっちのナスの方がきれいな色だからこっちを買おうとか,キュウリを買おうというようなものではない。傘を買うとか,帽子を買うとかではなくて,この人のこの作品を買おうということであるからして,そのような考え方は少し違うのではないかというふうには思うんですけれど,一応アメリカの方では,経済原理という意味合いにおいて,追及権というのは非常に邪魔である,むしろ,そんなものはなしにというふうに取引をさせたようがいいという考えもあるということは確かです。
  ただ,私,2つだけ今申し上げましたけれども,追及権を入れた方がよろしいのではないかというのは,美術品の特殊性と,もう一つは,47条の2と,この2つが理由でございます。

【道垣内主査】 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでしょうか。鈴木委員,どうぞ。

【鈴木委員】 すごく細かいことで恐縮なのですが,ちょっと思いついた質問なのですが。美術の作品が二次的著作物の場合は,原著作物の著作者との関係はどうなのですか。

【早稲田大学(小川)】 二次的著作物の場合というのは,最初につくったものをもとにした,もう一個別の著作物ということですよね。これ,実は,余りこういう議論がないのはなぜかというと,美術だからではないかと思うんですね。小説だったら,例えば,翻訳でしたら,もう簡単にあるわけですし,余り美術については,あれはないんですが,ただ,建物の中に最初から組み込まれている著作物の場合はどうするかとか,そういうことについては,きちんと相当対価を追及権として払っていけとか,そういうことはございます。
  ただ,二次的著作物という意味合いでは,実は余り議論はされていないのではないかと思いますが,しかし,確かに,例えば,何かを模倣せずに新しいものをクリエートするのは非常に難しいことでございますから,何らかのものを下敷きにした場合には,その計算式というのも一つ面白い観点だと思うんですが。また調べさせていただきます。すみません。

【道垣内主査】 そのほか,いかがでしょうか。
  私の方から,もし数字がわかればですが,フランスは,長くやっていても,でも,2009年でも8億円ぐらい。取引コストというのはどれくらいかかっているのですか。徴収コスト,分配コストをお教えいただけますか。

【早稲田大学(小川)】 徴収コストというのは,ケース・バイ・ケースでございまして,ただ,著作権管理団体経由でやりますと,管理団体が20%取るとか,10%取るとか,そういうようなハンドリングチャージというようなことがかかっていると思います。ただ,国によって,それも,徴収を国が決めたこの団体を経由して取りなさいとか,そういうような国もございますし,あるいは,各自勝手にといいますか,徴収してくださいというような制度もございます。
  イギリスの場合で言いますと,最初にDACSというところを一応デフォルトといいますか,特に何も決めていないならDACSさんという団体がすべての追及権を徴収して分配しますよと,しかし,決まっていれば,それを申し出てくださいという形にしていたんですが,今,もうDACSのデフォルトが外れまして,どちらでも構わないから,どこかの著作権団体を選びなさいと。そこの人たちが10%なり20%なりの規定額を取るという形になっています。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
  ほかによろしゅうございますでしょうか。もうほぼ予定の時間になりつつありますけれども。よろしゅうございますか。
  どうも今日はありがとうございました。
  それでは,その他という議事もございますが,何かございますでしょうか。特にございませんようでしたら,ここで終わりたいと思います。
  事務局から連絡事項等ございますでしょうか。

【佐藤国際課長】 本日はどうもありがとうございました。
  資料1-4の放送条約の関係の各国のポジションのペーパーにつきましては,また情報の再整理,更新をしていきたいと思いますので,今の段階ということで御理解いただきたいと思います。
  あと,次回の委員会につきましては,日程調整の上,また御相談させていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【道垣内主査】 それでは,本日の国際小委員会はこれで終了とします。ありがとうございました。

○12:00閉会

―― 了 ――

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