文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)

日時:
令和2年1月30日(木)
13:00~16:15
場所:
東海大学校友会館(阿蘇の間)

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)EUのデジタル単一市場における著作権指令について
    2. (2)WIPO(世界知的所有権機関)における最近の動向について
    3. (3)放送条約の検討に関するワーキングチームの報告について
    4. (4)海賊版対策について(調査研究紹介)
    5. (5)今年度実施した調査研究について
    6. (6)その他
  3. 閉会

配布資料一覧

文化審議会著作権分科会 国際小委員会(第2回)

令和2年1月30日

【道垣内主査】  ただいまから文化審議会著作権分科会国際小委員会の第2回を開催いたします。本日は御多忙の中,御出席いただきましてまことにありがとうございます。
 本日の会議の公開について,予定されている議事の内容を参照しますと,非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴の方には御入場いただいているところでございます。この点,特に御異論ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】  では,そのようにさせていただきます。
 なお,本日,カメラ撮りがありましたら,冒頭3分だけにしていただきたいと思います。
 では,議事に入ります。本日の議題たくさんございますけれども,配付資料のものを御参照いただければと思います。「EU著作権指令について」が1番目。それから「WIPOにおける最近の動向について」,そして,「放送条約の検討に関するワーキングチームの報告」,「海賊版対策について」,最後に,「その他」ということになっております。
 事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【奥田国際著作権専門官】  それでは,資料は4点ございます。資料1としまして,最近の諸外国の制度改正の分析についてというもの。それから資料2としまして,WIPOにおける最近の動向について。資料3としまして,放送条約の検討に関するワーキングチーム報告。資料4としまして,電気通信大学の渡邉先生の説明資料となっております。
 それから,参考資料が4点ございます。まず参考資料1として,第19期文化審議会著作権分科会国際小委員会委員名簿。参考資料2としまして,小委員会の設置について(令和元年7月5日文化審議会著作権分科会決定)。参考資料3としまして,放送機関の保護に関する条約,議長テキスト案。参考資料4としまして,第39回著作権等常設委員会(SCCR)議長サマリー。
 これらの資料に加えまして,関係資料として机上配付しているものが5点ございます。議題1の講演資料としまして,Directive2019/790という,こちらのプレゼンテーションの資料。それから,同じく議題1の補足資料としまして,こちらテキストのJAPAN-presentation on DSM Directiveという資料,それから,デジタル単一市場に関するEUの著作権指令の条文の英語版,それから日本語版,こちらの日本語版は井奈波委員の翻訳を提供いただいたものです。改めて御礼申し上げます。それから最後に,WIPOの事務局長選挙における日本からの候補者に関する資料という,こちらの5点が関係資料としてございます。
 机上配付資料の取扱いには御注意くださいますよう,お願いいたします。なお,これらの机上配付資料は傍聴席の皆様にはお配りしておりませんので,御了承いただきたいと思います。
 資料の不足等ございましたら,事務局までお知らせください。よろしくお願いします。

【道垣内主査】  よろしゅうございますでしょうか。
 では,議事の1番に入りたいと思います。この議案につきましては,本日,欧州委員会よりクリスティーナ・スタンプ著作権ユニット次長に来ていただいております。まず,事務局より趣旨の御説明を頂いた後,スタンプさんからの御説明を伺いたいと思います。
 スタンプユニット次長は,欧州司法裁判所での御勤務等を経て,2011年より欧州委員会に加わられ,視聴覚メディアサービスユニット次長,著作権ユニット次長を歴任されております。本日御紹介いただきますEU著作権指令につきましても,ユニット長とともに中心的な役割を果たしてこられたとのことでございます。スタンプさんにおかれましては,どうもありがとうございます。
 なお,パワーポイントをお使いになるので,傍聴者の皆様におかれましては写真撮影等はお控えいただきたいと存じます。
 まず事務局よりお願いいたします。

【奥田国際著作権専門官】  ありがとうございます。
 まず資料1を御覧ください。最近の諸外国の制度改正の分析についてということですが,こちらは前回の国際小委員会で御確認いただいた同名の資料とおおむね同じ内容となっております。変更した点につきましては,1.(3)の今後の予定という部分をアップデートした点が異なるところです。
 紙をめくっていただいて,裏面の3.にございますが,WIPOでの議論など,今後の国際的な対応に向けてということで,前回の小委員会では米国の音楽近代化法MMAについて取り上げたところでございます。第2弾としまして,今回は,EUにおいて新たに採択されたデジタル単一市場における著作権指令を取り上げるべく,欧州委員会より御担当者をお招きして,指令の内容や背景について御説明いただく運びとなった次第です。
 この後の御講演を踏まえて,我が国の今後の国際的な対応について御議論いただきたいと考えております。以上です。

【道垣内主査】  この分科会で外国からゲストに来ていただいて,外国語で御説明いただくのはどうも初めてということのようでございまして,事務局としては大変だったと思います。どうもありがとうございました。
 きょうの御報告は,逐次訳という方法,すなわち,少しお話しいただいて,日本語で通訳をしていただくという形で進めさせていただきたいと思います。
 では,スタンプさん,よろしくお願いいたします。

【スタンプ著作権ユニット次長】  御列席の皆様,改めまして,こんにちは。このたび,このような形でお招きいただくことができ,大変うれしく,また名誉に思っております。本日は,昨年,欧州にて採択されました単一デジタル市場における著作権指令について御紹介をさせていただきます。
 これから指令そのものについての詳細を御説明させていただきますが,その前にまずは,EU,欧州連合の法制度について簡単に背景を御紹介させていただきます。余り詳しく御存じのない方もいらっしゃるかと思いますので,まずはその法制度を理解いただいた上で,この指令を理解していただくのに非常に有益かと考えております。
 著作権に関して申し上げますと,幾つかの階層がございます。まず第1の階層というのが国際条約,これは日本も加盟されているということで大きく関わっているところかと思います。そして,次にEUの指令あるいは規制がございます。ここではEUの加盟国間の調和を図ることを目的として,これらの指令なり規制があります。
 そして,3番目に国内法です。EUの指令は基本的に直接そのまま加盟国に適用されるというよりも,国内法に置き換えるということを思い出すことが重要です。加盟国は全て独自の国内法がありますが,国内法をEUに準拠させなければなりません。このようにしてルールをEU指令に規定し,各国で適用させています。
 本日は頂戴している時間にも限りがございますが,指令そのものは非常に長きにわたり内容も複雑です。そこで本日は,皆様に御関心である部分を幾つかこちらで選ばせていただきまして,それを中心にお話をさせていただきたく思います。具体的には第17条のオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダー及び報道出版物に関する条文,適正な報酬についての規定などについて御説明したく思っております。もちろん細かいところは,お手元に配付物がございますので,その他御関心等もありましたら,またそちらもお答えをさせていただきたく思っております。
 御覧いただいているのが,これまでの指令採択に至りますタイムラインということで,この交渉には3年間かかりました。欧州におけるこの法制化のプロセスというのは非常に複雑です。まず,欧州委員会の方で草案の作成をいたしまして,手続の始まりとなるわけです。その後,欧州理事会,並びに欧州議会に諮られ,各機関が自らの見解を採択する。そして,彼らの間で交渉が行われ,妥協点を探るという形で最終的に法案の採択となります。
 この過程ですけれども,やはり妥協点を探るというのも時間のかかる作業です。まず,この欧州理事会の方ですけれども,加盟国が28,間もなく27になります。そして,欧州議会に至りましては700を超える各加盟国を代表する議員がいます。よって,非常に複雑な交渉となります。中には非常にセンシティブな問題もありましたので,極めて交渉は困難をきわめ,時間もかかりました。しかし最終的にこういった妥協点を見出すことができたということで非常にうれしく思っておりますし,また,大変バランスの取れた形で妥協点を見出すことができたと自負しております。
 この指令ですが,昨春に採択となりまして,その後,官報に掲載となっております。こちらが昨年2019年の5月です。この掲載は手続における重要な部分です。それから,発効したのが2019年6月6日ということで,そこから加盟国は履行のために2年間という期間を与えられます。その2年の間に国内法を採択しなければならず,期限は来年,すなわち2021年6月7日となります。
 ここで付け加えておきたいのですが,この草案を作る前に欧州委員会といたしましては,各ステークホルダーとの協議についても行ってきております。これはオンラインを使ったプロセスでありまして,いろいろな協議を関係者,それからビジネス,企業,また市民,更に加盟国等々,この規則で影響を受ける人たち,規則の対象になるような人たちと協議を行ってきました。
 こういったプロセスの中でステークホルダーは懸念を表明することもできましたし,また,一般の人々は,自分たちの意見を言う機会を持てたということです。
 それから,経済的,また法的な調査研究も行いまして,そうすることによって,この法案の支えとなるような根拠の部分をしっかり詰めていったというような手続をいたしました。
 今回の指令のメーンの目的といたしましては,いろいろと条項が含まれている内容ですが,デジタル化が進んでおりますので,それに対応するような形でやっていこうということで,3点にまとめられると思います。
 1点目といたしましては,研究や教育,また文化遺産の保護等などのための特に重要な例外について,もう既に存在しているEUのルールを現代化していくということです。こういったデジタルな環境の中でどのように適用されていくのかということについて,近現代化を図るということが重要です。
 そして2点目といたしましては,ライセンスの円滑化ということです。そうすることによって,コンテンツへのより広いアクセスというものが担保されていくようになります。つまり,この指令が目指していることといたしましては,なるべくたくさんのコンテンツがオンライン上で利用可能になるように促進をするということを目的としております。
 そういったことをするためにはライセンスの妥結が必要であるということで,これをすることによって,クリエーター,著作者としては適当な報酬を得ることができるようになります。
 そして3点目といたしましては,より公正な規則を導入していくということ,更にデジタル環境における著作権市場の機能を向上させるということです。つまり,欧州連合が担保したいことといたしましては,この作品の著作者,クリエーターが,しっかりと自分たちの作品が保護されること,そして,それに対して報酬を受けていくということをデジタル環境でもきちんとやっていきたいということです。
 では,まず,オンライン利用における報道出版物を保護する報道出版者の権利の文脈の中で,このことを御説明申し上げていきたいと思います。
 まず,きちんとした質の高い報道があるということ,そしてまた,多元的な報道が行われているということが民主主義のためには非常に重要だと言えると思います。そして今,アナログからデジタルへの移行が起こっている中で,報道出版物の発行者というのが,きちんと自分たちのコンテンツに対して報酬を受けることができるようにしていくということが重要です。
 かつては,報道出版物の発行者がきちんと報酬を受け取るということはそんなに複雑なことではありませんでした。例えば,新聞を売れば,それがそのまま売上げとなったわけで,そんなに複雑な環境ではなかったわけです。ただ,現在はますますオンラインで流通し,いろいろなプラットフォームが出てきて,環境が複雑化してきている。例えばオンラインのニュース・アグリゲーターのような,まとめサイトのようなものも出てきていますし,それから報道出版物をモニタリングし,利用し,流通させるようなビジネスというのもどんどん生まれてきております。こういった環境の中でも報道出版物の発行者が適切な報酬を受け取っていくということが重要です。
 ということで,新たなルールの目的といたしましては,報道出版物の発行者の交渉力を高めていくということです。特にオンライン上の出版物の利用での収入をきちんと得られるようにしていくということ。新しい隣接権がこの目的を果たしています。  そして,こういった新しい隣接権というのは,例えばレコードのプロデューサーや映画のプロデューサーに既に認められている隣接権と似通っているようなところがあります。そして,このような新しい隣接権は情報社会サービス提供者によるオンライン上での利用のために制定されたものです。保護される期間としては2年間となります。
 それから,重要な点といたしましては,逆にどういった利用,使用であればこの対象にならないのかという点が挙げられると思います。例えば,個人の利用者による報道出版物の批評,又は非商業的な使用の場合にはこれは対象となりません。他にも対象にならない利用といたしましては,例えばハイパーリンクが挙げられます。それからまた,個々の言葉の使用,又は報道出版物の極めて短い引用などについては対象となりません。これは,例えば簡単なインデクシングをするでありますとか,ハイパーリンクをするでありますとか,そういったことはカバーされないということを担保していくためのものです。
 そして,もう一つ重要な点といたしましては,この隣接権はもう既に著作者が持っている著作権などに対して影響を与えるものではないということです。つまり,これは追加の階層という形で適用されていきます。ただ,それと同時に,ジャーナリストや著者がきちんと報道出版権からの収入の適正な共有を受け取っていくということが重要となります。
 それから,これは皆様方も御関心ある点だとは思いますけれども,隣接権が認められていく報道出版物の発行者というのは,このEUの域内において設立されている発行者のみが対象となります。
 今,出版刊行物関係の権利について申し上げてまいりましたけれども,これから第17条に入っていきまして,こちらでは保護されるコンテンツのオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダーによる使用ということで御説明申し上げます。
 非常にシンプルに申し上げますと,プラットフォーム上にユーザーがコンテンツをアップロードすることができるというような,そういったプラットフォームが生まれてきております。したがって,プラットフォーム上における保護されているコンテンツに関するものであるということです。具体的には,例えばYouTubeのようなサービスがこの対象になるということです。YouTubeというのはユーザー自身がそのプラットフォーム状にコンテンツをアップすることができるという,そういったプラットフォームになっております。
 これが必要になってきた理由といたしましては,市場の状況が変わってきたということが挙げられます。日本も同じだと思いますけれども,著作権で保護されているようなコンテンツが視聴者によってだんだんこのようなプラットフォームを通じて楽しまれている状況になってきております。つまり,著作者,クリエーターが作ったコンテンツの頒布が実際に大部分こういったプラットフォーム上で行われてきているということで,市場には従来型のCDやDVDもまだありますけれども,今はますますこういったプラットフォーム上でも楽しまれてきているという環境の変化があります。
 そして,こういった規則が必要になってきた理由といたしましては,これは法的な部分での不透明感,不確実性というのが出てきてしまったということが挙げられるからです。つまり,こういったプラットフォームが行っている活動というのが,著作権関係の行為に該当するのか,特に,公衆への伝達,あるいは公衆への利用可能化をこれらのプラットフォームが行っているということになるのか。そういった部分について法的な不透明感というのが出てきたがために,明確化が必要となってきています。そういった法的な不透明感は,許諾に基づいた適正な報酬を受けるという著作者やクリエーターの視点にもある程度影響を与えています。
 よって,この条項の目的も,こういったプラットフォームとの交渉において,権利者が自分たちの交渉力を強めるということ,そして適正な報酬を受けられるようなライセンスの仕組みを促進するということです。
 この新たな指令の規定の中で,オンラインのコンテンツ共有サービスプロバイダーは公衆への伝達を行うということを明らかにしており,それはすなわち権利者とのライセンス契約の締結が必要であるということです。
 このようなライセンス契約が締結されない場合にも,まだそのプラットフォームへの責任軽減メカニズムというものがあります。このような段階的な仕組みが整えられているということが非常に大事です。
 まず,プラットフォームはこういった権利者から許諾を得るための最善の努力を払わねばなりません。例えば,音楽の場合には集中管理団体を通すなど,その許諾を得るというのはそれほど複雑ではないということで,多くの場合はこのような締結がなされるかと思います。一方,視聴覚制作物でありますと,そのコンテンツによっては,放送事業者あるいは映画制作者がこういったものがプラットフォーム上では入手可能であってはならないというような選択をするかもしれません。このように,しばしば許諾を与えないこともあります。
 インターネット上で利用可能な著作物が余りにも膨大であるために,最善な努力を払ったにもかかわらず,各権利者やコンテンツの各部分についてのライセンスの締結というものができないということがあるかもしれません。その際に,もし一定の条件が満たされれば,プラットフォームがそういった責任を免ぜられることがあります。
 まず,もし権利者から必要な情報の提供がある場合には,そういった最高の業界水準にのっとって,そのようなコンテンツが利用できないことを確保するための最善の努力を払わねばならないということです。これを達成するための技術的ないろいろなやり方があります。的確に技術的解決するにはプラットフォームやコンテンツによりますが,例えば一つの方法としていわゆる“フィンガープリント”などがあります。
 こういった試みもうまくいかない,例えば権利者からあらかじめ必要な情報が提供されない場合には,コンテンツが利用できないことを確保するため,著作権者が必要な情報を提供しコンテンツを削除するよう求める通知を送ればコンテンツを削除するという義務を,プラットフォームは依然として負っています。
 権利者の方から十分な情報が提供された場合には,しかるべく,その該当のコンテンツに関して,プラットフォームとしては迅速にこれを削除する,そして将来そのようなアップロードが起きないようにしなければなりません。
 もちろん,そのコンテンツの種類というものも様々ですし,その規模も大小ありますし,著作物に関しても音楽と視聴覚制作物の違いもあったりしますけれども,基本は条件がそろったときはそのコンテンツを削除あるいは利用できないようにする必要があります。
 また,比例原則というものも非常に重要であります。つまり,あるプラットフォームの“ベストエフォート”とは何なのかを決めるためには比例関係を考慮することが非常に大切です。例えば音楽に関して適用する技術的解決については,大規模に音楽を配信している規模の大きなプラットフォームと,別の種類のコンテンツを専門に扱う規模の小さなプラットフォームとで同様に要求する必要はないでしょう。また,規模の小さなプラットフォームや新興のプラットフォームに関してのより軽い仕組みというものもあります。やはり技術的な手段やリソースの制約等々から,場合によっては規模の小さなところでは,大手の商業的に成功を収めているようなプラットフォームと同じような対応をするのが可能ではないでしょう。もちろん,最善の努力を尽くすことや通知への対応はそのような規模の小さい又は新興のプラットフォームも行わなければならないですが,規模の小さなプラットフォーム,具体的にはEU域内でサービスを開始して3年未満,かつ年間売上高が1,000万ユーロに満たないサービス提供者に関しては,より軽い仕組みというものが提供されております。
 もちろん,この措置は適法なコンテンツがこういったプラットフォームで提示されるものを妨げるものではありません。そのため,指令にはまた,ユーザーの保護,それから言論の自由を担保するための規定も盛り込まれております。  まず,このプラットフォームと権利者の間で著作物の利用のための契約が締結されるとき,これは,このユーザーの行為にも適用されることになります。したがって,商業的な行為でない場合の,そのユーザーの行為に関しましてもこのライセンスが適用されます。
 また,言論の自由に関しても担保しています。具体的には,加盟国は例外規定を置く義務があります。その目的といたしましては,引用,批評,レビュー,それから風刺,パロディー,模作といったものです。つまり,例えば,保護対象となっている著作物であっても,ユーザーの方でそれが風刺目的でパロディーということで使う,あるいは,そのレビューを目的として短い引用を行うという場合には,プラットフォームにそれが表示されるということを妨げるものではありません。
 また,例えば先ほど述べた例外規定ということで風刺の投稿が削除されたというユーザーからの苦情の申立てがあった際に,プラットフォームの方では,そういった不服申立てに対する是正の仕組みを用意していなくてはいけません。例えば,ユーザーの方でアップロードしたコンテンツに関して,これが誤ってブロックされているとか削除されているといったときに苦情の申立てを行うわけですけれども,そういった申立てに関しまして,プラットフォームの方では迅速に審査を行わなくてはいけません。なお,この審査ですけれども,自動化されたものではなくて,自然人によることが求められております。
 これがこのメカニズムの簡単な説明ということになりますけれども,最も重要な部分についての詳細を説明することができたと思います。以上がメカニズムの概要です。
 これらのルールを実際に適用することについて,欧州委員会は権利者とプラットフォームとの間の協力に向けたベストプラクティスを話し合う,ステークホルダーの対話を始めました。このプロセスにつきましてはいろいろな関係者が呼ばれておりまして,例えばオンライン上のプラットフォームですとか,それからユーザー,権利者,また表現の自由関係の団体,こういったところが一緒になって,実際問題としてどのようなメカニズムが適用されるべきかについて意見交換を行います。その後,第17条10で予見されているように欧州委員会がガイドラインを発行します。このガイドラインはルールの適用を説明するものであり,また加盟国にとっては国内で履行しルールを適用するためのガイドラインとしても役立つでしょう。
 次に本日最後のトピックに入っていきたいのですが,次は利用契約における著作者及び実演家の公正な報酬について申し上げます。これらの規則が入っているのは,この指令の中でも第18条から第23条にかけてです。
 この規定の目的といたしましては,往々にして著作者や実演家が非常に交渉において弱い立場に置かれているということがあるので,そこを公正にしていくということです。この弱い立場と申し上げましたのは,特に適正な報酬の受け取りについてです。
 この中で最初のポイントとして挙げられますのは,適正かつ比例的な報酬の原則ということが入ってくるということです。つまり,これは著作者や実演家に対してきちんと公正な報酬を与えようという原則です。この指令の中で扱われていますのは,これを達成するためのある特定の方法を規定するというような非常に具体的なルールを含めるのではなく,この一般原則を置いているということです。つまり,加盟国が自分たちの国内の制度において具体的にどのように取り入れるかということについて細かく規定しているわけではなく,原則を示しています。
 その次に挙げられる条項が透明性の義務ということになっておりまして,これは要するに著作者,クリエーターが自分たちのコンテンツや実演の利用について,概要を把握することができるようにするということです。つまり,透明性とはどのぐらい自分のコンテンツが使われているのかということをきちんと見えるようにすることです。どのようにコンテンツが使われ,どのような収益が生じ,どのような報酬が支払われるのかについて,クリエーターが情報を持てるようにする義務があります。 これが第19条の中で扱われているんですけれども,単純に申し上げますと,ある企業が著作者のコンテンツを使うときに,最低でも1年に1回はそのクリエーターに対して一体どのぐらいそのコンテンツが利用されているのか,それから,そこからどのぐらいの売上げを獲得しているのかということについて報告をしなければいけないということがあります。これが重要な理由といたしましては,クリエーターが余りこのようなことについて情報を持っていないということが挙げられます。つまり,自分のコンテンツがどのぐらい利用されているのか,活用されているのかということが分からなければ,自分が得ている報酬が適正かどうかということについても判断ができませんので,これが非常に重要となります。
 そして次に,第20条で扱われている内容ですが,契約調整手続というものがあります。つまり,作品が非常に成功しているにもかかわらず,クリエーターが得ている報酬が不均衡に低い場合が起こりえます。そのような場合,クリエーターが追加の,適正な報酬を受け取るために,こういった必要な調整をする手続を踏めるということです。これはベストセラー若しくはベターセラー条項というふうに呼ばれることもあります。最初にライセンスを締結したときに見込まれていたよりも実際には作品が非常に成功を収め,予測されていたよりも大きな収入を得ることができた場合,このような追加の,予期していない収益についてはきちんと共有をしていこうということです。
 通常の裁判所における手続よりももっと効率の高い形で法的措置を取りたいというような場合には,第21条に基づいてADRの手続を取ることができます。
 そして,最後に申し上げたいものといたしまして,これもやはり創作者の保護のためのものですけれども,取消し権というのがあります。これは,著作者が許諾権についてライセンス契約をし,誰かにそのライセンスを独占的に譲渡したけれども,長期にわたって自分の作ったものが活用されていないというような場合には,よりよい活用を求めてライセンスを取り消すことができる権利です。ただ,これはライセンシー及び彼らの投資に適正な保証を与えることも非常に重要と言えます。つまり,バランスを取っていかなければいけないということです。つまり,こういった取消し権を活用しやすいような場合というのは,例えば本の出版契約などが挙げられると思います。その書籍の著作者が1名しかいないような場合には,比較的取消し権を行使するということは容易になるかもしれません。しかしながら,複数の人たちが集合的に関わっているような創作物の場合には,これは難しくなります。したがって,例えば映画ですとか,そういったものにおきましては,たった一人の権利者が取消し権を行使したいからといって,全体の利用契約が簡単に取り消されてしまうべきではないことも考慮して,メカニズムが組み込まれています。そして,これは加盟国におきまして国内法の整備を行い,適用をしていくときに,この取消し権については,免除や例外を規定することができます。例えばその作品に複数の人が関わっているような場合においてです。そしてまた,この取消し権という権利の行使につきましては,ある程度時間が経過して初めて行使できるような権利になっています。つまり,ライセンスを得た会社の側でもその著作物を活用するためのある程度の時間的な猶予を与えなければいけないということで,加盟国は,取消し権は合理的な期間の後でのみ行使することができるという規定とすることを確かにしなければなりません。
 ここまででこの指令についての概要というような形で申し上げてまいりました。また,加盟国における実施を確実にすることについての今後の方向性がどのようになっていくのかということについても申し上げることができましたので,これでプレゼンを締めくくりたいと思います。
 そして,先ほど申し上げましたように,この指令を各国において実施していく期限となっておりますのが2021年の6月7日ということになっております。ここで非常に重要なことといたしましては,これらの規則が調整の取れた形で各加盟国に対して適用されていくということです。つまり,この規則の内容が加盟国によってばらつきがあってはよくないということです。
 欧州委員会といたしましては,加盟国に対して支援を行いまして,この実行プロセスの手伝いを行ってきております。そういったこともありますので,我々としては定期的な会合を持っておりまして,各加盟国の代表に来ていただいております。この会合の枠組みは,コピーライトコンタクトコミュニティーという名前が付けられております。この中で,具体的なルールの詳細についても議論がなされておりますし,また,加盟国が様々持っている懸念ですとか,質問に対しても対応してきております。  そして,第17条で入ってきていることでありますけれども,我々は,定期的な会合を伴うステークホルダー間の対話を進めており,それを踏まえて欧州員会がガイダンスを発行することになります。つまり,非常に複雑な指令ですが,これが各加盟国において正しく実施され,よく調和した形で適用されていくということを担保する措置を取っています。
 最後に申し上げますけれども,何度も申し上げてきたとおり,指令とその交渉のプロセスは非常に複雑なものでした。ただ,我々といたしましては,このプロセスの結果は非常にバランスが取れたものであると考えておりまして,しかも,これにより,EUが,デジタルという状況下において満足のいく方法で,著作権関係の問題を解決していけるようになるのではないかと思っております。
 非常に一般的な形で,単純化して申し上げました。時間の関係もありましたので,そのような形になりましたけれども,この後,皆様からの質問をお受けしたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)

【道垣内主査】  ありがとうございました。時間もちゃんと守っていただいて,肝腎なところをちゃんとお話しいただきました。
 14時50分ぐらいまで時間を取っておりますので,委員の方々からの活発な御質問をお願いしたいと思います。この指令の現物を拝見しますと,リサイタルというんですか,前文が86項目もあります。おまとめになるのは,大変だったということがうかがわれます。多分,一国内で成案を得るのも大変な内容をまとめられたということでございます。
 鈴木委員,どうぞ。

【鈴木委員】  大変分かりやすい御説明をありがとうございました。
 早速,個別の事項についての質問をさせていただきます。第17条の関係ですけれども,この規定の対象となるオンライン・コンテント・シェアリング・サービスプロバイダー,これについては第2条の第6項に定義規定が置かれていると理解しました。ただ,この定義規定を拝見すると,例えばア・ラージ・アマウントとか,一義的に明らかでない概念も使われていて,要するにこの概念の定義は,ある程度抽象的といいますか,不明確といいますか,外延が一義的に決まっていないように見受けられます。OCSSPと略していいのでしょうか,この大事な概念について,今回の指令以外に何らかのガイドライン的なもの,例えば先ほどお話のあったガイダンスの中で,定義の明確化が図られるようなことがあるのか。それとも,この指令の解釈問題として,具体的な事件の中で争われて,最終的にはEU司法裁判所の判断に委ねられるということなのか,その辺りを教えていただければと思います。

【スタンプ著作権ユニット次長】  ありがとうございました。非常に重要,かつ私の話に関連している御質問を頂けたということですけれども,御指摘のように,最終的な意思決定に関しましては欧州司法裁判所ということになると思いますが,やはり法的にもこれは非常に大きな課題です。実際,ステークホルダーとの対話を踏まえたガイダンス発行に向けたプロセスの途中でもありますので,最終的にどのような形でこれがカバーされるかということは,本日,ここで明確な形でお答えすることはできません。これに関する進展はもう少し先になると思います。
 すみません,最後にもう一つ付け加えさせていただきたいのですけれども,ここで念頭に置いておいていただきたいのですが,幾つかの論点については指令による明快な定義付けが多くないところがありますが,実は意図的にそういった決定をしたということもあります。確かに,幾つかの箇所については具体的な,事細かな規定までされておりません。例えば,“規模の大きな”とはどのような意味なのか事細かな規定は確かにありません。特定の数値で定義していません。こちらはケース・バイ・ケース,また,様々なプラットフォームの進歩や技術的な進捗にもよるのではないかと思います。

【道垣内主査】  よろしゅうございますか。
 どうぞ,前田委員。

【前田委員】  大変分かりやすい御説明,ありがとうございました。
 公正な報酬の原則のところについてお伺いしたいと思います。先ほどのお話では,第18条に原則が定められていて,これは抽象的な原則であって,具体的にどういうふうにこれを達成していくかは各国の法制に委ねられていると理解しました。一方で,第19条から第23条までには具体的な制度についての規定がありまして,これらについては各国が規定を作るということが求められていると思います。
 それで,第18条と第19条以下の関係について知りたいのですけれども,加盟国が第19条から第23条までの規定にのっとって適切に立法したら,それによって第18条の求めている原則というのは満たしていることになるのでしょうか。もし,そうでないんだとすると,ここに定められているもの以外に,具体的に公正な報酬を達成するためにどういう仕組みが必要だと考えられているんでしょうか。その辺りについて教えていただけると幸いです。

【スタンプ著作権ユニット次長】  お尋ねの点ですけれども,正に解釈の問題が出てくる条文かと思います。これらの条文に関して議会での懸命な交渉もありました。第19条から第22条の実行に関連してですけれども,実行されるライセンス契約の許諾条件の要件や,それを踏まえた全体の実行状況を見ていこうという考えが確かにあります。つまり,この指令の中の第19条から第22条に盛り込まれている規定プラス,その他の加盟各国での国内法も踏まえまして,全般的にこれらの規定に適合しているかどうかを見ていこうというのがその趣旨です。
 ここにうたわれているものは,原則として各国の国内法の立法化の過程の中で取り込まれると信じています。また,国内法の他の契約ですとか,他の法案の立法化の方にこの原則を反映させた形で,取り入れていくことができると考えています。

【道垣内主査】  よろしいですか。
 山本委員,どうぞ。

【山本委員】  御説明ありがとうございました。
 このダイレクティブが,極めて意欲的な内容を含んでいるということがよく分かりました。お聞きしたいのは,極めて簡単な点です。第17条に関してガイダンスが定められるということですが,このガイダンスは,各国国内法ができる前にイシューされる,発行されることが予定されているんでしょうか。それとも,その後も順次,発行される予定なんでしょうか。もし,国内法ができる前に発行,ファーストバージョンでも出る予定であれば,それはいつ頃の話なのか教えていただければ有り難いです。

【スタンプ著作権ユニット次長】  我々が目指すところとしましては,加盟各国の国内法化の前に制定することです。このガイダンスがいつ頃出るかということでは夏頃を考えているんですけれども,やはり正確な日にコミットするは非常に難しいと思います。ただ,申し上げられることは,できるだけ早急に,各国の国内法化の前にガイダンスを出したいと考えています。

【山本委員】  ありがとうございます。

【道垣内主査】  どうぞ,奥邨委員。

【奥邨委員】  第17条について質問をさせてください。プロバイダーとあらかじめ契約していない著作権者の著作物が,ユーザーによってプロバイダーのサービスに無断でアップロードされた場合,プロバイダーは事後的に著作権者と契約をしなければならないわけですね。もし契約できないと,御説明のあったミチゲーションメカニズムを満足できない場合は,プロバイダーが公衆への伝達権侵害の責任を負うわけですね。質問は,ここから2つあります。以上のような場合も,著作権者は,プロバイダーに対してだけでなく,ユーザーに対しても公の伝達権侵害の責任を並行して問うことはできますか。
 2つ目の質問は……。

【道垣内主査】  ちょっと待ってください。一つ一つお願いします。

【スタンプ著作権ユニット次長】  どうもありがとうございます。この点について申し上げますと,確かにこの中でユーザーについて,除外するというような規定をしたわけではございませんので,そういった可能性が完全になくなっているわけではないんですけれども,ただ,権利者とプラットフォームとの間で締結するライセンスはほとんどの場合でユーザーもカバーしているはずです。実情としてユーザー側まで,侵害したのではないかということで責任を認めさせることを権利者が追及するかというと,これは非常に珍しい案件になるということが言えます。

【奥邨委員】  ありがとうございます。
 関連しまして,もし,その場合に,第17条に基づいてプロバイダーが公衆への伝達権侵害責任を負ったときに,そのプロバイダーが,無断でアップロードしたユーザーに対して責任を問うことを想定していますか。

【スタンプ著作権ユニット次長】  法的な観点から申し上げますと,今,おっしゃったように,確かに責任を追及することについては可能だと思います。同時に,こういった内容は,プラットフォームとユーザーの間で締結するサービス利用規約,ユーザーが同意する利用規約も考慮に入れる必要があります。ただ,現実として,そういうことが理論的には言えるんですけれども,我々は,何かユーザーに対してプラットフォームが責任を追及したという事例を知っているかといいますと,そういったものは余り把握しておりません。
 追加して申し上げられることといたしましては,我々としては,権利者からユーザーに対してそういった法的措置まで取られたというような事例を多くは承知していません。利用規約の中によく入ってきていることとして,3回,著作権の侵害を行う使い方をした場合には,ユーザーに対するサービスの提供を停止するというポリシー,そういったことが広範に行われているようです。

【道垣内主査】  そのほか,いかがでしょうか。どうぞ,上野委員。

【上野委員】  本日は,誠にありがとうございました。
 私も,今,たまたまヨーロッパにおりますけれども,2019年という年は,ヨーロッパの著作権法にとってビッグイヤーになったと言われているところです。その理由の一つが,このDSM指令であることは間違いないわけでありまして,これをめぐって最近のヨーロッパでは多くのイベントが行われているところです。特に,今,議論になっていました第17条が最大のポイントでありまして,特に憲法上の基本権との関係で,アカデミックな議論が展開されているということは,恐らく,よく知られていることと思います。
 もちろん,最終的な指令17条の文言によりますと,パロディーや引用について一定の配慮がなされているわけですけれども,他方で,今,ポーランドが,この第17条について欧州司法裁判所に異議申立てをしていると承知しているところであります。この訴訟がその後どうなっているのかという点につきまして,もちろん差し支えがあるかもしれませんし,コメントしにくいかもしれませんけれども,今後の見通しといいましょうか,何かコメントがありましたらお聞きしたいと存じます。よろしくお願いします。
 もう1点あるんですけれども,それは後で。

【スタンプ著作権ユニット次長】  御指摘のとおり,第17条につきましては確かに交渉が非常に難航した条項でした。これにより,指令全体の成立が危ぶまれたこともあったんですけれども,最終的に著作権と表現の自由の間でうまくバランスを取るような形で,形成することができてきていると思っております。
 そして,おっしゃいましたように,ポーランドが懸念を表明しておりまして,この条項につきましては,欧州司法裁判所(ECJ)に対して提訴を行いました。欧州委員会といたしましても,見解をECJに対して伝えておりまして,条文の中ではバランスを取ってきているではないかというようなことを,裁判所に対して主張してきております。今後,この問題についてどういった判断を下すのかということについては,ECJの管轄になりますので,我々としては手続が始まるのを待っており,そしてまた,裁判所の見解,判決が出るのを待っているということです。

【上野委員】  もう1つ,いいですか。

【道垣内主査】  はい,どうぞ。続けてください。

【上野委員】  では,契約についても1点だけお聞きしたいと思います。
 著作権法に関する契約法について,条約や指令によって各国制度のハーモナイゼーションをするというのは初めての試みと承知しています。確かに,ヨーロッパには既に契約法に関する規定を持っている国が多いとは思いますけれども,しかしながら今回の指令は,特に第20条のアジャストメントメカニズムという規定など,かなり具体的な規定も含まれていますので,加盟国はこうした規定を国内法化する義務を負うことになるわけですから,このような契約法の規定を指令というものに設けることは,なかなか難しかったのではないのか,各国の調整が難しかったのではないのかと思うわけですけれども,そうした立法に至るまでの加盟国間の議論など,例えばこうした契約法規に反対する国はなかったのかとか,そういったことがお聞きできればと思います。

【スタンプ著作権ユニット次長】  おっしゃるように,確かにこちらにつきましても加盟国の間でかなり議論があった条文になっております。例えば,ドイツなどにつきましては,ベストセラー条項で同じような目的を達成したいということで,国内法に似たようなものがありましたが,ほかの加盟国によっては,こういった考え方自体が新しいところもあったということで,そういったところからは反対もありました。
 ただ,これは指令という形で出されていますので,考え方としては,この目的を達成するために最終的には国内法に落とし込む,そういった形でやってもらいたいということがあります。加盟国としては,国内法でどのように対応するかについてある程度の自由が認められています。つまり,ここでの目的は,きちんと著作者が追加の報酬を受け取れるようにしていかなければいけないということですけれども,それをどのようにやっていくかということについては,各加盟国に対してある程度柔軟性を認めております。

【道垣内主査】  私から,1つよろしいですか。これは,ディレクティブで,各国で国内法化することになるわけで,完全なハーモナイゼーションはできないと思われます。他方,オンライン・コンテント・シェアリング・サービスプロバイダーは,国境を越えてビジネスをしているわけで,加盟国の中で,著作権者保護に厚くなる傾向がある国,つまり,産業構造上,こういうプロバイダーが余りおらず,外国のプロバイダーがこのようなサービスを提供している国は,著作権者保護に手厚い国内法を制定するということも生じるのではないかと思われます。そうすると,多数国向けのサービスを提供しているプロバイダーは一番厳しい国の国内法に合わせて事業をしていかなければならなくなると思われます。その辺りのこと,EU域内での完全な法統一ができず,著作者保護に手厚すぎる国が出てきたときにどうするのか,何かお考えがあれば伺いたいと思います。

【スタンプ著作権ユニット次長】  確かにおっしゃるとおりで,非常に重要なポイントを挙げていただいたと思います。各国におきまして,こういったプラットフォームの状況というのは非常に異なっておりまして,しかも,これらのプラットフォームというのは単にEUの域内でだけサービスを提供しているわけではない。おっしゃったように,世界的に,ボーダーレスな形で,国境を越えてサービスを提供しているということがあります。こういったことを鑑みて,やはりこれらの規則が余りばらばらになってしまって,分裂してしまっては困るということが言えます。
 こういった理由から,この指令の中では,ステークホルダー,関係者との対話の仕組み,それから欧州委員会からガイダンスを出すという仕組みを設けているわけです。つまり,これらのステークホルダーとの対話ですとか,ガイダンスというのは,加盟国間での協調,ハーモナイゼーションを充実させていきたいと,正にそういったところを達成するために設けています。こういったガイダンスを通じて,なるべく均一な形で,加盟国では国内法を実施してもらいたいわけですけれども,おっしゃったように,加盟国の中では,権利者の方に寄り過ぎたり,若しくはプラットフォームの方に寄り過ぎたりというような異なる方法による適用をしたがる国が出てくることは考えられ得ることです。したがいまして,この件につきましても,もし,そのようなことが出てきた場合には,やはり最終的にはECJ(欧州司法裁判所)の判断を仰ぐということが考えられるかと思います。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 どうぞ,今村委員。

【今村委員】  プレゼンテーション,どうもありがとうございました。
 第17条について御質問したいのですが,今回は,EUの制度を調和するという観点からこの指令ができたわけですけれども,日本国民がヨーロッパのそれぞれの国で持っている著作権,あるいは隣接権でもいいのですが,そういった権利も差別なく,この枠組みの中でほぼ受けることができるのかという点についてお伺いしたい。
 もう1つは,第15条の方で,プレスの権利保護の部分ですけれども,これは日本企業であっても,それぞれのEUの加盟国に拠点があって,EUの人々向けに何かプレスをしていれば保護されるということではあると思うんですが,それは法人を設立したりとか,そういうことをしていなければ駄目なのか,それとも単に何か活動していればいいのでしょうか。日本人なものですから,日本国民の権利がこの指令によってどのようにヨーロッパで保護されるのかということに関心がありまして,この2点,お伺いした次第です。

【スタンプ著作権ユニット次長】  1つ目の質問に関しましては,やはり国際条約で締約国などに課せられた義務等も鑑みる必要があります。そのため,この質問は確かに非常に複雑ですが,簡単に言えば,外国のクリエーターはEUが批准した国際条約に従って保護されています。
 2番目の質問ですが,私の理解が正しければですけれども,日本の報道出版物に対する権利保護ということですが,保護の対象といたしましては,EU域内でそういった事業体を成立している出版社に限られているわけです。それは,すなわち当該企業体が法人の事業体として,拠点をEU加盟国内のどこかに設立している場合です。事業運営の中心がそこにあって,そこで事業活動を行っているということをもって事業体の設置ということを意味しております。新聞社の中でも東京に本社がある場合ですと,保護の対象ではないです。しかし,EU域内で日本語の新聞を発行している,例えばベルリンで,ヨーロッパに住んでいる日本人向けに日本語の新聞を発行していると,報道出版社の権利の保護の対象となるということです。

【道垣内主査】  よろしいですか。
 はい,松武委員,どうぞ。

【松武委員】  どうもありがとうございます。芸団協CPRAの松武と申します。私は実演家です。ヨーロッパ ツアーに行きましたイエロー・マジック・オーケストラのメンバーです。
 去年の5月に著名なミュージシャンである,CISACの会長でもあるジャン・ミシェル・ジャールさんに,東京でお会いいたしました。CISACの総会で来日して,対談する機会がございました。その中で今回の新指令について,いち早くお伺いすることができました。
 我々,実演家にとっても,今回の第17条と第18条の新指令の内容につきましては,日本国内でも私的・録音録画補償金が枯渇していく中,非常に勇気を与えてくれるところがあると思い,是非,我々もEUに加盟という気持ちがあります。例えば,オンラインコンテンツ共有プロバイダーに関する規定や,著作者や実演家の公正な分配の確保に関する諸規定について,今後,EU加盟国における法制化状況を注視して,取り上げていただいて,我々も参考にしたいと思っています。
 著作者や実演家の公正な分配のことですけれども,この規定の中で,とりわけ著作者や実演家が排他的権利を譲渡などした場合に,適正かつ比例的な分配を受け取る権利があることを保障しなければならないという原則が明文化されたことについては,大きな意義があると,我々,実演家も思っております。EU加盟国は,この原則を保障するために様々な手続を自由に用いることができるとしており,今後,適正かつ比例的な報酬を受け取る権利をどのように確保していくのか,御意見をお伺いしたいと思っています。

【スタンプ著作権ユニット次長】  まず,委員会として重要なことは,この指令が正しく国内法に取り込まれていくことです。つまり,加盟国の国内法の状況のチェックをするということが非常に重要になってまいります。国内法に移すプロセスが適正に,正しく実施されていないと,その後は当該加盟国ともちろん議論をするわけですが,議論してもまだ進まないということになりますと,今度は委員会の方でECJに訴えるという手続を取ることができます。しかしながら,欧州委員会として,個々の事案について,例えばこの事例は比例原則にのっとった適切な報酬の支払が行われているか,そういったところに個別に介入するという権限は有しておりません。適切な国内法の実施ということで,この指令でうたっている原則に関してきちんと遵守されているかということは見ていく必要があります。

【道垣内主査】  井奈波委員,どうぞ。

【井奈波委員】  御説明ありがとうございました。
 2点質問があります。まず1点目は,現状についての問題ですが,この指令を受けて,プロバイダーなどにどのような動きがあるか,影響についてお伺いしたいのですが,その点はいかがでしょうか。

【スタンプ著作権ユニット次長】  まだ,国内実施の段階まで来ておりませんので,どのような反応かを申し上げるのはちょっと時期尚早だと思います。とはいえ,既にステークホルダーとの対話の中で,どういったメカニズムがベストプラクティスか等々についての話合いも既に行われております。こういったコンテンツプロバイダーの中には,あるメカニズムや枠組みを既に適用しているところもあります。例えばコンテンツに関して著作権を侵害しているものを確実に削除するメカニズムや著作権に関する義務を担保するためのその他の対応策を開発したプロバイダーも既に多く出てきております。

【井奈波委員】  1点目ですが,この指令によりますと,プロバイダーは一般的監視義務を負わないということになっています。義務は負わないとしても,プロバイダー側でそのような監視システムを導入する動きなどはあるのでしょうか。

【スタンプ著作権ユニット次長】  御指摘のように,この指令では監視義務というものは求めておりません。事前には,こういったメカニズムについて議論されているのですが,モニタリング義務の導入に関しては議論されておりません。しかし,プロバイダーは著作権侵害への執行を確実にするための十分なメカニズムを整備するでしょう。

【道垣内主査】  まだ御質問あるかもしれませんが,時間の関係もあり,もう相当お疲れになっているように思いますので,これくらいにさせていただきます。スタンプさん,きょうは本当にありがとうございました。2時間近くにわたるプレゼンテーションと質疑応答という,大変有意義な機会を持つことができました。関係の皆様方におかれましても,本当にありがとうございます。
 事務局としては,きょうの御議論を踏まえまして,今後のWIPOにおける議論への対応とか,あるいは国内法への反映とか,有意義に活用していただきたいと思います。また,引き続き情報の収集等に努めていただければと思います。
 では,次の議題に移ります。2番目と3番目の議題を一緒にしたいと思います。WIPOにおける最近の動向と,放送条約の検討におけるワーキングチームからの御報告であります。まず事務局から御説明いただけますでしょうか。

【奥田国際著作権専門官】  それでは,WIPOにおける最近の動向について,資料2を使いまして御説明させていただきたいと思います。
 今回の報告に関しましては,昨年の9月末に開催されましたWIPOの加盟国総会,及び昨年の10月に開催されました第39回SCCRについての結果概要の報告となります。
 まず,WIPO加盟国総会の結果概要ですが,1.2.は割愛させていただきまして,3.から簡単に御説明いたします。
 (1)SCCRの活動報告に関しまして,制限と例外の議論についてはアクションプランに基づいた調査研究を事務局で進めております。これを歓迎する発言が,アフリカグループ等をはじめ多くございました。放送条約の議論につきましては,定義,保護の対象,そして与えられる権利といった重要事項に加盟国が合意することを条件に,2020-2021年期間中に外交会議開催を目指すとの勧告がなされまして,これが総会で承認されたところでございます。
 (2)に移りまして,マラケシュ条約に関しまして,我が国では昨年より条約が発効しておりますが,その旨の報告と,さらなる加盟国増加への期待を述べてきたところでございます。
 最後に,4.その他の動向として挙げさせていただきましたが,現職の事務局長の任期が今年9月までとなっておりまして,次期事務局長選挙が行われることとなっており,日本からも候補者を擁立しております。そちらの関係資料が先ほどの机上配付資料にございますので,御興味のある方は適宜,御参照ください。
 以上が,加盟国総会の御報告となります。
 続きまして,2ページ目を御覧ください。第39回SCCRの結果概要となります。
 2.の概要でございますか,今次会合におきましても,これまでと同様に,放送条約,権利の制限と例外,及びその他の議題についての議論が行われております。
 3.各論です。放送条約につきまして,経緯等については省略させていただきます。
 イ.議論の概要ですけれども,前回と同様,逐条での詳細な議論につきまして,インフォーマル形式で議論が行われております。各国からの修正提案が反映された統合テキスト案が,議長によって取りまとめられております。こちらも参考資料としてお付けしております。
 テキスト案に関する主な議論内容は,以下のとおりとなっております。
 まず,インターネット上の送信の保護についてです。保護の対象としまして,異時送信を含めるかについて議論があるところですが,結果としては,今回も合意は得られず,次回において引き続き議論することとなっております。
 続きまして,与えられる権利についてです。米国が提案しております保護の方法に柔軟性を与える案というのがございますが,これについて議論が行われました。この提案は,放送機関に原則として排他的権利が与えられることになっておりますが,その保護の方法につきましては各国に柔軟性を与えるというものです。これまで保護の柔軟性に否定的な立場であった国も態度を軟化させるなど歩み寄りを見せてはいるんですが,最終的な合意は得られず,会合中に提示された修正案を議長テキストに反映した上で,次回会合において引き続き議論されることになっております。
 以上が,放送条約についての議論です。
 次は,(2)権利の制限と例外です。現在のところ,図書館とアーカイブ,教育と研究機関等のための制限例外というのが議論の対象となっており,ここ数回は,アクションプランに基づいて主な研究結果が報告されているという状況でしたが,今回の会合でアクションプランが全て終了したところです。今後,どのような課題を議論するのか,まだ決まってはいないんですが,制限と例外という議題自体は次回以降も引き続き残されることとなっております。
 続いて,(3)その他の議題ですけれども,4つございまして,デジタル環境に関連する著作権の分析と,追及権,そして舞台演出家の保護,それから新たに提案のあった公共貸与権というものがございます。
 デジタル環境に関連する著作権の分析ということで,デジタル音楽サービスにつきまして事務局で調査が開始されておりまして,今回はデジタル音楽サービスの概要について報告がございました。引き続き,調査状況について随時報告されることとなっております。
 追及権につきましても,事実調査を行うタスクフォースを事務局が作って,そのタスクフォースで調査を行うことが決まっておりまして,今回は調査テーマの検討を行っているという報告がございました。引き続き,調査状況について会合で報告されることとなっております。また,昨年度,国際小委員会で委員の皆様に頂きました議論を踏まえて,タスクフォースの調査項目について,我が国からも改めて指摘を行ってきたところです。
 続きまして,舞台演出家の保護ですけれども,こちらも主に調査になっておりまして,事務局で,舞台演出家の保護の状況についてどうなっているかという調査が行われているところです。今回は,その中間報告がなされた次第です。
 最後に,公共貸与権,こちらは図書館における貸出しについて,補償を著作者に対して行う制度ですけれども,こちらについて調査を行うということが新たに提案されました。
 次回は,6月29日から7月3日に,第40回SCCRが開催される予定となっております。
 以上で,報告を終わります。

【道垣内主査】  ありがとうございます。
 引き続きまして,放送条約に関する対応の在り方のワーキングチームを小委員会の下に作って,上野座長に御検討をお願いしていたところですので,御検討の経過報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【上野委員】  簡単に御報告させていただきます。
 先ほど御紹介ございましたように……。

【道垣内主査】  資料3ですね。

【上野委員】  そうです。資料3でございます。
 WIPOにおきまして,かねての懸案となっております放送条約に関しまして,昨年の8月にこの委員会で設置されましたワーキングチームにおきまして,集中的かつ機動的に検討を行うということになりましたので,今年度,2回の審議を2回目は持ち回り審議でしたけれども開きましたので,簡単に報告をさせていただきます。
 先ほどもお話がございましたように,論点といたしましては大きく2つありまして,保護の客体・対象と,権利ないし保護の在り方という2点につきまして,論点の整理を行いますとともに,今後の検討の順序についての方針を決めたということでございます。
 余り詳しくお話しするのもいかがなものかと思いますので,もし御質問がありましたら後ほどお話しさせていただくようにさせていただきますけれども,基本的には,今後,我が国が放送条約にどう対応していくべきなのかということにつきまして,その準備といいましょうか,国際的な議論の状況の分析を行いまして,これを踏まえまして,さらには今後のWIPOでの議論の進展にも応じまして,我が国の対応の在り方の検討をこれからも引き続き進めていくということになった次第でございます。
 以上でございます。ありがとうございました。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 WIPOにおける最近の動向についての報告と,放送条約の検討に関するワーキングチームの経過報告,これらにつきまして御意見,御質問等ございますでしょうか。
 では,特に御意見はないということで,本日,ちょっとこれも異例ですが,随分長丁場になっておりますので,ここで10分くらいお休みをしていただいて,15時15分から後半を始めたいと思います。よろしくお願いいたします。

( 休憩 )

【道垣内主査】  それでは再開したいと思います。スタンプさんもそのままお残りいただいているようでございます。
 議事の4番目でございます。海賊版対策の話ですが,これにつきましてまず事務局から御説明いただいた後,本日は,有識者として電気通信大学の渡邉恵理子先生にいらしていただいておりますので,お話を伺い,その後,質疑応答ということにさせていただきたいと思います。
 まず,事務局からお願いできますでしょうか。

【原口海賊版対策専門官】  それでは,議題(4)について御説明いたします。インターネット上の海賊版対策については,2017年の秋頃から悪質な巨大海賊版サイトによる権利侵害が急速に拡大したことから,これを食い止めるため,政府内で検討が進められてきました。
 昨年10月には,インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び各対策の工程表が取りまとめられ,公表されたところです。対策メニューは3段階に分かれており,できることから直ちに実施するもの,導入・法案提出に向けて準備するもの,他の取組の効果や被害状況等を見ながら検討し得るものがあり,文化庁においても,著作権教育,普及啓発活動や,海賊版サイトの検索結果からの削除・表示抑制の促進など直ちに実施するものとされた施策に着実に取り組むとともに,侵害コンテンツのダウンロード違法化及びリーチサイト対策のための法整備に向けた検討を進めているところです。
 このような中,昨年9月に株式会社フォトニック・システム・ソリューションズが,「日本におけるインターネット上の海賊版サイト及びアプリの定量化と分析」という調査研究結果を公表されています。フォトニック・システム・ソリューションズは,電気通信大学の認定ベンチャーで,先端技術を用いた海賊版対策などにも取り組んでおられます。この調査研究は,モーション・ピクチャー・アソシエーション・アジアパシフィック及び日本国際映画著作権協会に向けて報告されたもので,日本における海賊版サイト及びアプリについて定量化を行い,2017年7月から2019年7月までの2年間の特徴量の経時変化を調査して実態を明らかにしています。
 なお,本日会議資料としてお配りしたもののほかに,報告書の全体版を皆様の机上に配付させていただきました。大変興味深い内容ですので,本日は調査研究に携わられた電気通信大学の渡邉恵理子准教授においでいただき,本調査研究について御紹介をお願いしております。文化庁と致しましても,このようにデータに基づいた調査研究結果を今後の海賊版対策事業をどのように進めていくかの検討にいかしてまいりたいと考えております。
 事務局から以上です。

【道垣内主査】  この資料4は随分英語も混じっていますので,もしよろしければスタンプさんにもお渡しいただいてと思います。
 それでは,渡邉先生,よろしくお願いいたします。

【渡邉先生】  よろしくお願いいたします。このような機会を頂きまして誠にありがとうございます。私,電気通信大学の所属でして,株式会社PSSの技術顧問として少し一緒にやらせていただいております。
 今日発表させていただく内容は,先ほど原口様からも御説明ありましたとおり,MPAアジアパシフィック及び日本国際映画著作権協会(JIMCA)に向けて,2019年4月から9月に株式会社PSSが実施した著作権の侵害調査になります。
 まず,概要をこちらに示します。調査の本日の発表の概要ですけれども,初めに調査の目的と方法,続いて,海賊版サイトの抽出と絞り込みの方法,次に海賊版サイトの定量分析に関して。こちらの定量分析に関してですけれども,幾つも分析をしておりまして,本日はこちらのサイトの分類と主要コンテンツやサーバーの設置国,月間総訪問数やサイトタイプ別の月間総訪問数,デバイス別の月間総訪問数,総視聴時間,サイトタイプ別の平均ユニークユーザー数,正規版との比較に関してお伝えして,最後にまとめという形にいたします。
 初めに,本調査の目的に関してお伝えいたします。調査の目的は,日本における著作権侵害サイト及びアプリの状況を調査し,その実態を明らかにすることを目的としています。調査の実施期間は2019年の4月から2019年の9月で,調査の対象時間ですけれども,実施期間はこちらの4,5,6,7,8,9の6か月間ですが,対象の期間としては2017年の7月から2019年の7月31日の約2年間を調査の対象期間といたしました。
 続いて,調査の内容ですが,日本における映画,テレビ,アニメ,漫画などを扱う海賊版サイト及びアプリの定量化,また,日本で利用されている海賊版サイト及びアプリの直近2年間の経時変化の調査をいたしました。本発表では,時間の都合から,ウエブ上の海賊版サイトに絞って報告させていただきたいと思います。
 続いて,調査の方法です。まず初めに,海賊版サイトの抽出を行います。海賊版サイトの抽出は非常に大変な作業ですけれども,ウエブ上に無尽蔵に存在する海賊版サイトを探索して発見します。こちらは後に詳しく説明させていただきますけれども,目視やFReCs©listなどを含む7つの方法によって抽出をいたしました。
 続いて,本調査対象サイトを決定するために,海賊版サイトの絞り込みを行います。こちらも,どのように行うかは後ほど詳しく説明させていただきます。
 3つ目に,海賊版サイトの基礎データの収集です。サイトに直接アクセスして,サイト名やURL,サイトタイプ,主なコンテンツタイプ,サイトの状態などを調査します。
 続いて,海賊版サイトのサイト情報の収集として,Netcraftを利用してIPアドレスやホスティングカンパニー,設置国,オーナーを調査しました。
 最後に,海賊版サイトの調査対象期間の特徴量収集として,基本的にはSimilar Webを用いて,月間総訪問数,ユニーク訪問数,平均滞在時間,1訪問当たりのページ閲覧数を収集し,これらの情報を基に海賊版サイトの傾向を定量的に分析いたしました。
 続いて,調査の対象コンテンツタイプとその定義に関してお伝えいたします。調査の対象コンテンツのタイプは,映画,テレビ,アニメ,漫画の4種類としております。今回,音楽は調査の対象外としております。
 続いて,対象となる海賊版のサイトタイプの定義をこちらに示しています。タイプの定義ですけれども,こちらに示す5つのサイトタイプに分けて定義しております。1つ目が,リーチサイトです。リーチサイトは,自サイト内にコンテンツファイルを持たないで,他の海賊版サイトに誘導したり,他のサイトのファイルをダウンロードさせるサイトをいいます。続いて,P2Pサイト。P2P方式を使って海賊版コンテンツをダウンロードするためのトレントファイルを提供するサイトです。続いて,オンラインリーディングサイトは,海賊版漫画をサイト内で閲覧する機能を持つサイトです。続いて,ストリーミングサイトは,海賊版の動画コンテンツをサイト内で再生する機能を持つサイトです。最後に,ストレージサイトは,ホストというふうに呼んでいますが,ファイルをオンライン上に保存可能なサイト。合計5つのサイト対象といたしました。ここでYouTubeやニコニコ動画などのUGCサイトは,海賊版とそれ以外が混在しているため除外をしています。
 続いて,こちら,2010年に経産省の調査の後問題視されて現在法的規制が進みつつあるリーチサイトに関して,少し詳しく説明させていただきます。まずユーザーがリーチサイトにアクセスすると,ファイルの実体へのリンクが示されます。リンク先のファイルをブラウザ上で視聴,閲覧又はダウンロードすることができるというサイトになっています。このようにリーチサイトは,自サイト内にコンテンツファイルを持たずに,他の海賊版サイトに誘導したり,他のサイトのファイルをダウンロードさせたりするサイトの総称となります。
 こちらに,続いて,調査対象となる海賊版サイトの抽出と絞り込み方法に関してお示しいたします。まず初めに,こちらの7つの方法で海賊版サイトを抽出いたしました。初めにPSS内で持っていたデータベースや,過去の調査報告書のデータ,Lumenのデータベースや透明性レポート,まとめサイトのリストやSimilar Webやグーグルなどの検索エンジンを使って,いろいろな方法で海賊版サイトを抽出いたしました。
 初めに抽出した段階では,合計で2,600サイトもの海賊版サイトらしきものが抽出されました。ここでファーストステップとして,2,600のサイトから,アダルトや音楽,ゲーム,著作権侵害サイトではないもの,URLが不明なもの,調査ができないものなどに関して除外をしたところ,1,447サイトが残りました。こちらでこれ全部を調査対象とするのはなかなか難しかったので,更に絞りました。月間訪問数が10万件を超える624サイトを最終的に本調査の調査対象とするような形でサイトの絞り込みを行いました。
 次の資料を御覧ください。次の資料がトップアクセスサイト。まず先ほど抽出しました624サイトの抽出が妥当かどうかというのを,こちらの総アクセス数の比率で検討いたしました。こちらに,横軸にトップアクセスサイト数,1,447サイト分の上位10,上位20個,上位30個という形になっております。縦軸がアクセス数のシェア率になります。
 一番左のところを見ていただきたいのですけれども,一番左のトップ,1,447サイト分の10のサイトだけでも,アクセス数のシェア率が50%を超えるということが分かります。続いて,トップの100サイトでは全体1,447サイト分の90%を超えるシェア率でしたので,本対象とする624サイトで十分であるということの裏付けがができたと考えます。
 続いて,こちら,624サイトに絞ったサイトのうち,海賊版サイトを分類いたしました。まず対象とした624サイトにおいて,海賊版サイトは,ストリーミングサイトの数が最も多く,P2Pサイト,リーチサイト,ストレージが同等になっています。こちら,オンラインリーディングサイト,漫画村などで非常に問題になったサイトですけれども,こちらは4%と非常に少ないパーセンテージとなりました。続いて,各海賊版サイトが扱っている主要のコンテンツは,映画,アニメ,漫画の順にコンテンツが多いということが分かりました。
 続いて,サーバーの設置国に関してお伝えいたします。まず,こちらの海賊版サイトのサーバー設置国,左の円グラフを御覧ください。こちらの海賊版サイトのサーバー設置国ですが,米国が9%,日本が6%,オランダが5%というふうに続いています。しかしながら,円グラフ見ていただくと分かるとおり,設置国が明らかなサイトは全体の39%であり,61%は設置国が不明であることが分かりました。こちらのサーバー設置国が不明な海賊版サイトを調査してみると,こちらのうちの86%がCloudFlareのContent Delivery Networkサービスを利用しているということが分かりました。
 続いて,624の海賊版サイトにアクセスしている月間総訪問数に関して調査した結果をこちらに示します。624の海賊版サイトの月間総訪問数の2年間の推移をこちらのグラフに示してあります。横軸が時間で,縦軸が月間の総訪問数になります。2018年の3月まで海賊版サイトへの総訪問数は拡大していて,6.4億件程度まで増加をしています。続いて,2018年4月に訪問数が激変していることが分かりますが,こちらは漫画村の閉鎖やアニチューブ,MioMio動画の削除などにより,政府による対策により著しく減少したというふうに考えられます。
 しかしながら,2019年6月であっても約3.4億件の総訪問数がありまして,著作権侵害の規模は依然として大きいというのがこのグラフから分かると思います。なお,後ほど詳しく説明いたしますが,同時期の正規版50サイトの総訪問数は,50サイト合わせても2.9億件ですので,こちらよりも現状の海賊版サイトへのアクセスが多いということが分かります。
 続いて,月間訪問数の推移をタイプ別に示したもののグラフを示します。横軸が時間,縦軸に月間の総訪問数となっています。色で分けてありますが,ストリーミングサイト,オンラインリーディングサイト,ストレージ,ホストのサイト,P2P,リーチサイトというふうに色で分け分けられています。一番特徴的なのがオンラインリーディングサイトです。オンラインリーディングへの総訪問数は,2017年に急増して,2018年4月に急減しているということが分かります。2018年4月までのオンラインリーディングサイトの総訪問数の推移というのは,漫画村サイトへの総訪問数をほぼ反映しているということが分かっています。
 続いて,こちらの2018年4月は,オンラインリーディング以外の海賊版サイトも若干の減少が見られています。こちらは主要な海賊版オンラインリーディングサイトやストリーミングサイトの閉鎖に加えて,かなり一連の報道がありましたので,ユーザーの意識改革をもたらして結果的に海賊版サイト対策として一定の効果があったのではないかと考えられます。それ以降,2019年以降ですけれども,ホスト,ストレージサイトはやや増加傾向,リーチサイトは横ばいで,ストリーミング,P2Pは若干の減少があります。しかしながら,こちら,ピンクのところ見ていただきたいのですが,2019年5月に漫画村と同等の機能を持つ海賊版サイトがまた出現して,再び訪問数が増加しているという状況です。
 続いて,総訪問数のデバイス別の推移に関して,調査結果をお伝えしていきたいと思います。こちらのグラフは,先ほど同様に,横軸に時間,縦軸に月間の総訪問数になっています。赤がデスクトップで,青がモバイルを示しています。2017年7月の時点では,デスクトップがモバイルの2倍のアクセス数がありました。その後,デスクトップはそのまま続いて,2018年4月に急激に減少しています。その後,横ばいになっています。
 続いて,デスクトップではなくてモバイルに関してですが,モバイルの主要なアクセス数はこちらを見ていただくと分かるとおり,2017年7月から急増して,2018年3月にデスクトップと同等となっています。その後4月に,今お伝えしましたけれども,急減しまして,2019年の2月頃から再度増加しているという傾向が見られます。
 こちら,サイドタイプ別のデバイスアクセス数は,サイトタイプごとに大きな差がありました。P2Pとホストはデスクトップからのアクセスが多いのに対し,急激に増加したオンラインリーディングサイトへのアクセスは,ほとんどがモバイルからのアクセスでした。先ほどサイトタイプ別の月間総訪問数の推移をお伝えしましたけれども,急激に増えて急激に減ったというのはほぼモバイルからのアクセスだったということが分かります。このように,モバイル端末によるユーザーは,簡単に得られる情報からカジュアルに海賊版サイトにアクセスしているということが定量的に示されます。
 続きまして,総視聴時間の推移をデバイス別に見たものを示します。こちらは,ユーザーはどのぐらいの時間を海賊版の視聴に費やしたのかということです。デスクトップを使用した海賊版サイトの視聴時間は,2018年3月まで3,000万時間~4,000万時間となっています。2018年4月以降もそのまま横ばいの約2,000万時間で推移しています。
 2017年7月の時点で,モバイルの青いグラフを見ていただきたいのですが,2017年7月の時点でモバイルを使用した海賊版サイトの視聴時間はデスクトップの半分でありました。その後急増して,2018年3月にはデスクトップのほぼ2倍の7,000万時間となっています。このように,アクセス数はデスクトップと余り変わらないのですが,視聴時間は倍以上ということで,モバイルによりアクセスしたユーザーは海賊版サイトの視聴に長時間を費やしているということが分かります。その後,2018年4月に激変し,デスクトップの視聴時間と同等の約2,000万時間で推移し,2019年4月から先ほどの同じような漫画村のようなサイトがあったことから微増しているという状況です。
 続いて,平均ユニークユーザー数の推移を調査いたしました。こちらは再度タイプ別のユニークユーザー数で,海賊版サイトを訪れたユーザーをIPアドレスなどによって判別し,再度海賊版サイトを訪れた際には同じユーザーとしてカウントした値になります。2017年4月の時点ではストリーミングサイトのユーザー数が最も多く,最大のサイト,アニチューブのサイトは773万人となっています。サイト別の平均ユーザー数の最大値は2018年の1月のオンラインリーディングサイト,こちらは漫画村になりますけれども,約650万人となっています。しかし,オンラインリーディングやストリーミングサイト以外の平均ユーザー数というのは,2018年4月以降も特に大きな変化はありませんでした。P2Pは,2018年4月の政府の海賊版サイト対策時にも減少が見られないどころか,若干の増加傾向にあるということも分かります。このように,継続的なアクセスする固定的なユーザーは常に存在しているということが分かります。
 最後に,正規版との比較に関してお示しいたします。同時期の下記のこちらの6サイトに関して月間のアクセス件数は1.42億件程度で,海賊版サイトの3.4億件には遠く及ばないというような数字になっていました。続いて,正規版サイトピックアップして50サイトのアクセスを合計した結果,2.9億件で,50サイトを集めても海賊版サイトのアクセス数が上回るというような結果になりました。
 以上をまとめます。今回の調査で特徴的だったことは,2018年4月付近の海賊版サイト全体の訪問数の激増と激変です。2018年3月に6.4億件だったものが,2018年6月に3.2億件に減少しています。こちらは,日本政府による海賊版対策が議論され,海賊版サイトに対して国が強い姿勢で臨んだ一連の検討が,海賊版サイトを閉鎖に込むと同時に,エンドユーザーへの意識改革をもたらし,結果的に海賊版対策として有効であったと考えられます。
 しかしながら,数値で見ていただいたとおり,閉鎖されたサイトに関しては減ってはいるのですが,その他のサイトに関しては,4月以降もアクセスは月間3.4億件,2019年4月以降は再び増加傾向ということが分かりました。このように,海賊版サイトへのアクセスが極めて高いということがこちらの調査で定量的に明らかにできたと考えております。
 こちらで発表を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。

【道垣内主査】  どうもありがとうございました。では,ただいまの御報告につきまして,御質問等ございますでしょうか。どうぞ,奥邨委員。

【奥邨委員】  大変詳しい御報告ありがとうございました。勉強になりました。
 この問題,私,詳しくないし,中途半端な理解ですので教えていただきたいんですが,以前,海賊版対策について議論されたときに,特定のツールで計算した訪問数を使うのは,議論の土台として大丈夫なのかというような議論があったと理解しております。
 そのため,私としては,御報告を伺いながら,絶対数ではなくて相対数の変化を見ることには意味があるのかなと思いながら聞いていたんですけれども,資料を拝見すると,絶対数でも比べておられるところがあるんですね。この点,どういうアクセス数があったかというのを推計するために使われたこの数字というのは,こういう形である程度確定数があるとか,誤差があっても大丈夫だとかいうようなお話を聞ければ参考になるかなと思ったんですが,教えていただけますでしょうか。

【渡邉先生】  分かりました。こちらは非常に難しい問題で,そもそも海賊版サイトを定量化するということ自体が非常に難しい問題になります。こちら,Similar Webを使っているということでいろいろ問題があるというのも私たち自身も把握しておりまして,確かにおっしゃるとおり,絶対数の評価はできないというふうに私たちも考えています。しかしながら,そういう意味で,私たちとしては,月間総訪問数の推移とか,推移というような形の相対的な評価というふうにやらせていただいているというのが現状になります。

【奥邨委員】  とすると,17番の正規版との比較のところは飽くまで参考として考えておいた方がよろしいんですかね。

【渡邉先生】  それは正に本当にそのとおりです。

【奥邨委員】  絶対数で比べていますので。

【渡邉先生】  そうです。それはそのとおりだと。

【奥邨委員】  分かりました。ありがとうございます。

【渡邉先生】  3.4億件というのがどのぐらいかというのを何となく感じていただくというところになるかと思います。

【奥邨委員】  ありがとうございます。

【道垣内主査】  どうぞ,墳﨑委員。

【墳﨑委員】  非常に参考になる,興味ある数字を御報告いただき,ありがとうございます。少しは対策の成果が出ているのかなというのを見られたのがうれしかったです。
 1点質問ですけれども,調査方法のところで,サイトのオーナーを調べたことが書かれているんですが,これ,どの程度分かったとか,あとは,分布というか,どの国にどういるのかとか,そういったことがもしお分かりになれば,教えていただければ幸いです。

【渡邉先生】  こちら,皆様の資料の11ページになると思いますが,まず左の図,サイトのサーバー設置国が不明な数字が,61%が設置国が不明という形になっています。私たちが調べたのはNetcraftの情報だけですので,基本的にはそこから得られる情報しか調べられてはいないということになります。

【墳﨑委員】  サーバー設置国と運営者の国は必ずしも一致しないので,そういうこと……。

【渡邉先生】  オーナーがどのぐらい割れているかの分布が分かっているかということですね。

【墳﨑委員】  そうです,はい。

【PSS】  調査を担当したPSSの者です。オーナーが判明したものに関して,そのオーナーの国を設置国という名前でまとめさせていただきました。

【道垣内主査】  ちょっと時間の関係もありますので,次の議題に移りたいと思いますが,最後にお一人だけ,末永委員どうぞ。

【末永委員】  大変詳しい説明ありがとうございました。11ページ,同じところですが,このサーバー設置国,先ほど墳﨑さんの質問にもありましたように,オーナーの国だということで何となく分かってきたんですが,今回音楽が入っていないとはいえ,音楽だと結構アジアのベトナムとかが出てくることが非常に多いんですけれども,このOthersのところで上位ってどの国があったかというのをお分かりになれば教えていただけますか。

【道垣内主査】  すぐに分からないようでしたら,事後的に事務局の方にお伝えいただければと思います。

【渡邉先生】  後ほどお答えさせていただきます。

【道垣内主査】  分かりました。どうもありがとうございました。この後まだ議事が残っているものですから,これぐらいにさせていただきたいと思います。
 それでは,議事の5番目に入らせていただきます。この議題につきましては,グローバルな著作権侵害への対応強化のため,今年度文化庁が委託して実施しております諸外国の著作権制度に関する調査の現状報告でございます。調査対象は,デジタル・ネットワーク技術の発展に応じた諸外国の著作権法改正と,その政策の動向,そして,諸外国の著作権登録制度でございます。本日は,それぞれについて調査の受託をされています三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社と,EY新日本有限責任監査法人の方に来ていただいております。まずは,前者の萩原様からお願いいたします。

【萩原様】  皆様,こんにちは。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの萩原と申します。
 昨年9月24日より,標記調査「著作権法改正状況及び関連政策動向に関する諸外国調査」を受託させていただいております。会社の名称は金融機関みたい名前ですが,いわゆる民間のシンクタンクでございます。弊社の中でも,知的財産,特許とかも含めて調査や事業に関わっているメンバーと,海外の調査を取り組ませていただいています。本日は,時間も限られていますので,10分ぐらいで簡単に,どのような調査を行っているかを御紹介させていただければと思っています。
 では,早速ですが,内容を簡単に御紹介させていただきたいと思います。本調査では,言わずもがなですが,いわゆる技術の発展によって,スマートフォン等の普及もあってコンテンツの楽しみ方が変わっていく中で,国の著作権法も改正が進みつつあります。また,先ほど文化庁さんから御説明あったとおり,WIPOでも関連する議論が結構出てきておりますので,こういった中で諸外国の著作権法の改正動向を見ていこうという調査になっています。
 なお,ちょうど3年ぐらい前に同様に改正動向を調べる調査も行われていたそうですので,対象期間は2016年以降に区切って改正状況を見ています。また,後で説明させていただきますが,WIPOでの議論,トピックスを踏まえて,それについてはこの3年間に限らないような形で整理させていただいております。
 調査対象国はどこかということで,以下の9か国・地域を対象にしています。アメリカ,EU,イギリス,フランス,ドイツ,中国,韓国,カナダ,オーストラリア,この国・地域を対象にしています。
 調査方法ですが,基本的に改正動向を追うものでございますので,主には文献調査で行っていますが,著作権法の条文はもちろんのこと,議会の議事録,報道,WIPOの各種発表資料等,それ以外にも,民間や研究者の方々が出しているロージャーナル,論文などを調べているところです。
 ちょうど9月末から始めて大体1か月で3か国ぐらいをまず一度調べて,大体9か国を粗く調べた後に,法律事務所の方にもダブルチェックしていただいています。今月末から,有識者の方々に実際こちらで整理したものをお持ちしながら意見交換する場を設けていきたいと考えており,これらの結果をもって,3月末までに報告書に整理していきたいと考えております。
 調査項目については,最終的には統合や整理はあるかなと思っているのですが,今回対象としている著作権法の成立経緯や位置付け,また,そもそもこの国はどういう法律的な特徴があるのかという御紹介や,日本でいうと著作権等管理事業法に該当する法律があるならばどういった項目があるのか等,そういった前提情報を整理しつつ,近年行われたような著作権法の改正内容,議論の過程,また今後改正が明らかになっているものを紹介するとともに,先ほど申し上げたWIPOでの議論,具体的には追及権に関する動向,デジタル環境における音楽配信サービスに関する動向,演出家に関する権利付与に関する現状と動向,映画監督に関する権利付与にも対応しつつ,ここ3年ぐらいの主な判例があったら御紹介すると,そういった報告書の構成になっております。
 時間もかなり限られていますので,どういった調査を行っているのかということを簡単に御紹介させていただきます。アメリカは,現代化法,いわゆるMMAを紹介し,EUにつきましては,スタンプさんがいらっしゃっているので恥ずかしいのですが,改正している項目はどういったものがあるのかというのをなるべく網羅的に,かつ簡単に御紹介できるような形で整理させていただいているところです。
 もちろんEUについては,先ほど意見の討議でも出ていましたが,各国が国内法に適用させるときに国内の議会でどのような議論があるのかということも可能な限り御紹介できたらというふうな形で整理しています。
 また,これはEU指令を踏まえての改正だと思うのですが,ドイツでは集中管理に関する法律もかなり大幅に変わりましたので,こういったところについても併せて報告書の中で扱わせていただいています。
 スライドではスペースの関係で3つの紹介になっているんですけれども,EUではテレビ番組に関する指令や規則も出ておりますし,そのほか,今回の調査対象国の多くでは,マラケシュ条約を踏まえた改正が進められているので,各国どのように目が不自由な方に対して対応されているのかというところの適用状況についてもこの報告書の中では御紹介させていただいております。
 続きまして,こちらも簡単ですが,WIPOで議論になっているようなものについて,各国横断的に調べさせていただいているところです。そのうちの一例として追及権を挙げさせていただいています。御案内のところも多いと思うのですが,例えばアメリカでは2011年に追及権に関する法案が提出されましたが,結果的には採択されず,再調査を行って,その結果は報告書として整理されているという状況ですとか,またEUはかなり昔から追及権指令がありまして,それによってEU全体に導入されていますし,更にそれより前からフランス,ドイツでは導入されていますので,そういった経緯も御紹介しています。
 また,今回対象国になっている韓国では,EUと韓国の自由貿易協定の交渉の中で,EUより追及権を導入してはどうかという提案があって,報道等を総合すると,現在でも政府内で検討中なのかと思われます。また,中国ですと,2014年に公表されました著作権法の改正草案送審稿の中では記載がありましたが,今は,2017年末ぐらいに送審稿を更に削減した内容で関係者に意見聴取をしているという情報もございまして,その中においてもまだ追及権に関する項目が残っているのかどうかというのは明らかになってないこと等,報告書の中ではどこまで検討されているかということも併せて御紹介しています。オーストラリアでは2009年に導入されて,1つの特徴としては,先住民のアーティストの保護として使われている等,そういった用途についても報告書の中では簡単ですけれども御紹介させていただいているところです。
 こちらはまた,残りの項目について,こちらも簡単ですけれども,御紹介させていただきます。デジタル環境における音楽配信サービスに関する動向について,アメリカでいうと,先ほど御紹介させていただいたMMAの議論,EUでは,集中管理指令などを踏まえて複数国を対象としたライセンシングの仕組み等,アプローチ方法は違うけれども,こういった動きがあるということを報告書の中で御紹介させていただいています。
 まだ調査も途中だということもありまして,どのように整理していくかは考えているところではあるのですが,演出家の権利付与,こちらについては,韓国では,日本のような形で著作隣接権の実演家の権利の中に演出家に該当すると思われる規定があるのですが,ほかの似たような項目を見てみると,そのように明確に書かれているケースは余りなく,今後この項目についてはどういうふうに整理してこうかを内部でも検討しているところでございます。
 最後の項目,映画監督の権利付与については,先ほど御紹介のあった適正な報酬についての議論もあったのですが,あちらは特に映画とかに限定される話ではないと思うのですけれども,関連するかなということで,適正な報酬の話や,先ほど御紹介があった透明性条項(第20条)の話も関連するのではないかという形で整理させていただいています。  また,フランスの著作権法を見ると,映画監督については権利を移転するときは書面で確認される必要がある等,日本とも違う動きも見られていますし,先ほどのEUの透明化条項のようなこともフランスの著作権法の中には書かれているので,そういったことも御紹介できたらいいなと考えています。
 今後の進め方については,大体粗い形で全体を調査させていただいた後に,2月頃にかけて有識者の方にインタビューと意見交換をしたいとに考えています。現時点の報告書は法律事務所の方にもチェックいただいており,こういったところが不足しているとか,そういった解釈についても意見交換しているところです。これらを踏まえて内容を深掘りしながら,3月末までに報告書という形でまとめさせていただきます。
 以上です。御清聴ありがとうございました。

【道垣内主査】  ありがとうございました。ただいまの御報告について,この場で,こういう点に気をつけてもらうと役に立つとかございますでしょうか。新たにこういうのを調査してくれは無理だと思うんですが,何かまとめ方について御意見等ございますでしょうか。
 よろしいですか。ありがとうございました。
 それでは引き続きまして,EY新日本有限責任監査法人の福井様から,次のもう一つのテーマ,登録制度についての途中経過報告をお願いしたいと思います。

【福井様】  EY日本有限責任監査法人の福井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。座って説明させていただきます。
 本日は,私の方から,「諸外国における著作権登録制度調査」に関する報告をさせていただきます。最初にお断りさせていただきますが,現在調査の途中でございまして,まだ精査できていない状況での御報告となることに御留意いただければと思います。
 目次ですけれども,最初に調査の概要を説明させていただいて,その後に,調査対象国の中から例として米国と中国の調査結果と今後の調査方針を説明させていただきます。
 まず調査の背景・目的でございますけれども,我が国の権利者が国境を越えて発生する著作権侵害に権利行使するに当たっては,我が国とは制度の異なる侵害発生国において対応をとる必要があります。ベルヌ条約上,著作権発生は無方式主義ですけれども,ベルヌ条約加盟国の一部には,著作権の登録を行わないと権利行使が容易でない国や,著作権の登録について一定のメリットを付与している国も存在します。そこで,日本の権利者の海外でのコンテンツビジネスの展開や,著作権侵害に対する権利行使に資する情報を把握するために,諸外国における著作権登録制度の概要及び運用実態を調査するというものです。
 調査対象国は8か国,米国,カナダ,中国,韓国,ブラジル,インドネシア,タイ,ベトナムです。これらの国をなぜチョイスしたかということですけれども,著作権登録制度が法制度上若しくは実質的に存在していることが確認された国の中で日本コンテンツに対するニーズが高い国であるため,今回対象としています。調査スケジュールは,2020年3月までとなっております。
 調査内容につきましては,著作権登録制度の概要,登録手続,必要書類など基本的な内容に加えて,法令上の登録の効果や運用上の登録の効果を調査いたします。
 調査方法につきましては,まず文献資料調査を行い,次にヒアリング調査ということで,日本の著作権者の方に,調査対象国における著作権登録の状況,著作権登録を行うメリット・行わないデメリット,著作権登録を行わないと実質的に権利行使が容易でない状況が実際生まれているかどうか等についてお話を伺いました。その上で,調査対象国において実際に著作権登録や著作権侵害に係るエンフォースメントを行っている代理人の方々に当該国における著作権登録制度と運用状況に関するアンケートを送付し,その回答を整理しました。概要については基礎調査ということで刈り取っているのですが,今その内容を精査しており,今後詳細の調査を実施するという予定になっております。
 それでは次に,調査結果の概要を見ていきます。ここでは,事業者ヒアリング調査において,実際に著作権登録制度の利用が多かった米国と中国の著作権制度の概要について例として御説明します。
 まず,米国の著作権登録制度の概要について御説明します。米国では著作権所有者が著作権申立てに対する排他的管轄権を有する連邦裁判所に提訴するためには,著作権所有者は著作権登録を実施していなければなりません。登録手続の実施が提訴の要件ということです。なお,申請書の提出だけでは不十分であり,登録手続が実施され,許可若しくは拒否されていなければならないとされています。
 拒否されている場合は,もちろん所有者は提訴することはできますが,所有の推定を受けることはできません。登録済み著作物の登録はその他の移転もあります。著作権が侵害される前に著作物を登録した著作権所有者,若しくは著作権が侵害された後の場合は,著作権初公開から3か月以内の著作権所有者は法定損害賠償を受ける資格を有します。つまり,それら金銭的損害は,法令による証明を必要とせず,かつ訴訟費用及び弁護士費用の移動の権利を有します。これらの利点は,著作物を適切な時期に登録しなかった人には適用されません。
 著作権登録制度の対象事項については,こちらに記載しているとおりでございます。日本の著作権登録制度では実名の登録,第一発行年月日等の登録,創作年月日の登録,著作権の譲渡の登録等ができますが,米国の場合は著作権の保有自体の登録が可能となっています。米国の著作権登録制度は登録済み著作物に関する申立ての登録のためのもので,著作権上の登録がございますが,その他,著作権の譲渡の登録,移転の登録,登録の変更・更正・抹消等の登録等については,著作物自体の登録に直接関連するものではなく,行政上の記録とみなされます。
 登録対象著作物は,言語著作物,音楽著作物のほか,こちらのようなものでございます。
 次に,法令上の登録の効果について説明をします。著作権登録をすることにより,法令上権利推定等の効果があります。先ほど言及しましたけれども,著作物が公開から5年以内に登録されている場合,その登録は著作権の所有権及び有効性に関する推定的証拠となります。
 また,米国では法定賠償制度があります。著作権者は,確定判決が言い渡される前であればいつでも,実質的損害や利益の代わりに,当該訴訟において,関連する全ての侵害に対して,750ドル以上3万ドル以下の裁判所が正当とみなす総額において法定損害賠償の支払を選択することができます。その侵害が故意に行われたものであることについて著作権所有者が立証責任を果たし,かつ裁判所がこれを認定した場合,裁判所はその裁量により法定損害賠償の額を,15万ドルを上限として増額することができます。
 次に,ここでは著作権登録の有無によって法定損害賠償制度の利用可否に影響があることを説明しています。詳しい説明は省かせていただきますが,定められた条件に該当する場合,法に定める法定損害賠償金若しくは弁護士報酬は認められないこととされています。
 弁護士費用等の侵害者負担制度については,裁判所は勝訴当事者に対し訴訟費用の一部として相当な弁護士報酬の回復を与えることができるとしています。また,著作権登録の有無によって侵害者負担制度の利用可否に影響があるかについては,法定損害賠償制度及び弁護士費用を請求するためには登録が義務付けけられています。侵害前若しくは初公開から3か月以内に登録された場合に限ります。
 ここからは,著作権登録の運用上の効果について説明します。著作権法は,刑事告発の提訴に著作権登録が必要かどうかについては言及していませんが,少なくとも一部の裁判所は不要と判定しているということです。ただし,著作権侵害の申立ての本質的な要素は有効な著作権の存在であり,登録はこれの強力な証拠となります。また,税関登録等に際して,著作権登録は必要ではないけれども,取っておくことで有利になるということでございます。
 5-3では,第三者の出願商標に対する異議又は審判申立てにおける先行権利の証明に際して著作権登録は有用でないこと,また,民事侵害訴訟における著作権保有の初歩的な証明になることを記載しています。
 著作権登録の活用状況については,製作者と事例に依拠しますが,映画スタジオ,出版社,レコードレーベル,その他の大企業のクリエーターや著者から中小企業や独立系製作者に至るまで,著作権登録は積極的に活用されているということでございました。
 次に,中国の著作権登録制度について御説明いたします。著作権登録制度の対象事項については,米国と同様に著作権の保有自体の登録が可能となっています。
 19ページでは,登録対象著作物を示しています。
 ここでは著作権登録制度の対象事項と法令上の効果を示しております。詳しい説明は省かせていただきます。
 次に,中国で法定賠償制度がございます。著作権又は著作権と関連する権利を侵害した場合,侵害者は権利人の実際の損失につき賠償するものとし,実際損失の計算が困難である場合には,侵害者の違法所得を賠償するものとすることができます。権利者の実際損失又は侵害者の違法所得につき確定できない場合,人民法院は侵害行為の詳細に基づき,50万人民元以下の賠償を命ずるとしています。また,著作権登録の有無によって法定損害賠償制度の利用可否に影響はないとしています。
 中国では侵害者負担制度がございます。
 次ですが,著作権の譲渡の登録は第三者対抗要件とはならないということです。
 ここからは,登録の運用上の効果について説明いたします。刑事告訴又は行政取締りの申立ての際に著作権登録が事実上必要かどうかについては,著作権登録が権利主張を行う有力な証拠となります。ただし,著作権帰属の初歩的証拠として用いることができますが,著作権登録証書の内容を覆すに足る証拠がある場合にはこの限りではありません。その場合,司法,行政その他権利機構は,著作権登録証書に記載されている登録時間,著作権者等の事項を基準とし,立証の難易度を大幅に下げることになります。
 税関登録に際して,著作権登録は税関届出の必要書類ではなく,その他著作権を証明する資料があれば,税関届出を行うことは可能です。
 ここでは,第三者の出願商標に対する異議又は審判申立てにおける先行権利の証明に際して著作権登録が有効であること,著作権登録が行政訴訟,民事訴訟における著作権保有の初歩的な証明になること,警告状送付の際に著作権登録が活用されていることを説明しています。
 権利者の著作権登録の活用状況についてですが,著作権に関連する会社では積極的に著作権登録制度を利用していますが,著作権を有する個人は,著作権登録制度を知らないことが多いということです。特にコンピューターソフトウエアの著作権を有する技術系企業やIT企業,美術著作権及び写真著作権を有する資格企業は著作権登録を行っていることが多く,また,その登録の数も多いと指摘されています。
 最後に,今後の調査方針について説明をさせていただきます。今後は,権利者が調査対象国においてどのように著作権登録制度を活用していけばよいかについて,有用な情報を得るために,権利者の関心が高く,著作権登録制度の活用が有用と考えられる国について,著作権登録制度を活用した事例や判例,そして,著作権登録制度の効果的な活用方法について調査を進める予定です。
 非常に駆け足で申し訳ございません。簡単でございますが,中間段階での報告とさせていただきます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。先ほどと同じように,この段階で何かコメント等ございますでしょうか。よろしいですか。  では,期限までによろしくおまとめいただければと思います。
 最後に,その他,(6)という項目がございますが,事務局から,あるいは委員の方から何かございますか。
 ないようでしたら,事務局から今後の進め方等について,事務連絡をお願いいたします。

【奥田国際著作権専門官】  ありがとうございます。本日は,御出席ありがとうございました。
 次回の委員会につきましては,年度末が近く,日程調査が難しいこともありまして,道垣内主査とも相談しまして,持ち回りの審議とさせていただきたいと存じます。御審議いただく内容も含めまして近日中に御連絡いたします。

【道垣内主査】  それでは,時間がきょうは大変長うございましたけれども,全ての議題は終わりました。どうも御協力ありがとうございました。

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