図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム(第4回)

日時:令和2年10月26日(月)

15:00~17:30(延長の可能性あり)

場所:文部科学省旧文部科学省庁舎5階入札室

議事次第

  • 1開会
  • 2議事
    • (1)入手困難資料へのアクセスの容易化(法第31条第3項関係)に関する取りまとめについて
    • (2)図書館資料の送信サービス(法第31条第1項第1号関係)に関する論点整理について
    • (3)その他
  • 3閉会

配布資料一覧

資料1
入手困難資料へのアクセスの容易化(法第31条第3項関係)に関する取りまとめ(案)(728.4KB)
資料2
図書館資料の送信サービス(法第31条第1項第1号関係)に関する論点整理(たたき台)(239.5KB)
参考資料1
図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム委員名簿(82.2KB)
参考資料2
図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチームにおける当面の審議スケジュールのイメージ(62.1KB)
参考資料3
図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する検討に当たっての論点について(218.8KB)
参考資料4
ヒアリングにおける図書館等関係者・権利者の意見概要【図書館資料の送信サービス(法第31条第1項第1号関係)】(172.6KB)
参考資料5
自由討議(第2・3回WT)における委員の意見概要(143.5KB)
参考資料6-1
コロナ新時代に向けた今後の学術研究及び情報科学技術の振興方策について
(提言)(令和2年9月30日 科学技術・学術審議会 学術分科会・情報委員会)
(236.6KB)
参考資料6-2
コロナ新時代に向けた今後の学術研究及び情報科学技術の振興方策について
(提言)(令和2年9月30日 科学技術・学術審議会 学術分科会・情報委員会)
(346.5KB)
参考資料7-1
学校図書館に関する要望書(学校図書館問題研究会)(87.4KB)
参考資料7-2
著作権法第31条における「図書館等」に学校図書館を加えることで対応できる事例について(学校図書館問題研究会)(87.9KB)

議事内容

【上野座長】それでは,定刻になりましたので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制度小委員会「図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム」(第4回)を開催させていただきます。

本日も新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため,各委員の皆様におかれましては,基本的にウェブ会議システムを利用して御参加いただいております。御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

議事に入ります前に,本日の議事の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴の方にはインターネットを通じた生配信によって傍聴していただいているところでございますけれども,この点,特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【上野座長】ありがとうございます。では,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。

事務局に人事異動がございましたようですので,事務局からその紹介と併せて配付資料の確認をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】それでは,まず人事異動の御紹介をいたします。10月1日付で文化庁次長として矢野和彦が着任しております。今日は遅れて参加の予定でございます。

続いて,配付資料の確認をさせていただきます。お手元の議事次第に記載の配付資料一覧を御覧いただければと思います。

まず資料1として,「入手困難資料へのアクセスの容易化に関する取りまとめ(案)」をお配りしております。また,資料2として,「図書館資料の送信サービスに関する論点整理(たたき台)」をお配りしております。

また,参考資料として,1から7-2までお配りをしております。参考資料のうち,新しいものとして参考資料6と7がございます。6は,科学技術・学術審議会におきましてコロナ新時代に向けた研究の振興方策についての提言がまとめられておりまして,その中で図書館関係の権利制限についても重要な課題として言及がなされておりますので,その抜粋をお配りしております。また参考資料7は,学校図書館問題研究会から,学校図書館を著作権法31条の「図書館等」に加えるということについて御要望をいただいておりますので,その文書をお配りしております。

なお,学校図書館の取扱いにつきましては,関係団体の間で意見の相違がございまして,先日文化庁の呼びかけに基づいて当事者間で協議を行っていただいております。現時点で結論は出ておりませんけれども,望ましい学校図書館の在り方と著作権法との関係について率直に意見交換をいただいております。引き続き当事者間での協議を進めながら,本ワーキングチームでも御議論をいただきたいと考えております。

配付資料の確認は以上でございます。

【上野座長】どうもありがとうございました。それでは,議事に入りたいと思いますけれども,段取りといたしまして,本日の議事は3点ございます。まず1つ目に31条3項に関係しまして,「入手困難資料へのアクセスの容易化に関する取りまとめ」についてでございます。2点目が31条1項1号関係でございますけれども,「図書館資料の送信サービスに関する論点整理」でございます。あとは3点目が「その他」ということで,この3点となっております。

まずは議事の1つ目でございまして,31条3項関係の取りまとめについてでございます。前回の論点整理(たたき台)に基づく議論を踏まえまして,事務局のほうでまとめ案を作成いただきましたので,新たに追記された部分などを中心に事務局から御説明をお願いしたいと存じます。

【大野著作権課長補佐】それでは,資料1を御覧いただきたいと思います。「入手困難資料へのアクセスの容易化に関する取りまとめ(案)」でございます。先ほど座長から御説明がありましたとおり,前回の資料をベースにして,前回の議論,またその後いただいた個別の御意見などを踏まえて,追記・修正を行っておりますので,その部分を御紹介いたします。

まず3ページでございます。追記・修正部分を赤字にしております。注釈の3を追加しております。ここでは,2ポツの「対応の方向性」の中で国会図書館が各家庭等にインターネット送信を可能とするということにしていたことに関しまして,国会図書館が直接エンドユーザーに送信するのみならず,その間に図書館が介在してサービスを行うということについても認めていいのではないかという御意見をいただきましたので,その旨を記載しております。

続いて4ページを御覧いただきたいと思います。3ポツ,「制度設計等」の(1)といたしまして,「補償金の取扱いを含めた全体の方向性」についての結論をまず記載しております。

マル2,「検討結果」という部分でございます。まずは,権利者の利益保護を図りつつ,国民の情報アクセスを早急に確保する観点から,送信対象資料の範囲等について現行の厳格な運用を尊重しつつ,送信先を各家庭等に拡大し,補償金制度は導入しない,この認識が一致した旨を記載しております。

他方,将来的には,サービスの利便性を高めつつ,補償金を導入すべきという御意見をいただいておりますので,それを踏まえて継続的に議論を行うことが望まれる旨も併せて記載しております。

なお,今後の議論に当たっての留意事項として注釈の5から8までを追記しております。補償金の財源,水準,それから補償金の必要性の判断基準,国会図書館以外の主体によるこの条項の活用などについての御意見をいただきましたので,それを記載しているということでございます。

次に5ページに参りまして,注釈の9から12までを新しく追記をしております。本文でいうと,ローマ数字のⅱ,「国民の情報アクセスへの影響」という部分に関わる御意見でございます。

国民の情報アクセスという観点から,無償にすべきという御意見や,むしろ実質的な情報アクセスを充実させる観点からは,補償金を課しつつ,利便性を高めることが必要であるという御意見,公立図書館の無償原則との関係で付加的なサービスであれば有償であってもよいのではないかという御意見や,それを前提にしつつ,将来的に出版物が全て電子出版になった場合等の図書館の在り方を制約しないような注意も必要だという御意見を新たに記載しております。

続いて6ページに参りまして,注釈の13を追記しております。こちらは絶版等資料の定義,用語に関しまして,ヨーロッパにおける「アウト・オブ・コマース」のように,通常の商業流通経路で入手困難か否かをメルクマールとし,それを明らかにする用語を用いることも選択肢となり得るという御意見いただいておりますので,追記しております。

それから,7ページの注釈の14でございます。これは入手困難資料の解釈に関わる部分でございます。書籍全体としては入手困難だけれども,その中に一部入手困難でない著作物が混在しているという場合には,その部分を除いたのが入手困難資料になるということを確認的に記載しております。

続いて8ページを御覧いただきたいと思います。本文を赤字にしておりますとおり,中古本市場との関係について,前回の議論を踏まえて結論を記載しております。結論としては,権利制限の対象とする入手困難資料に該当するか否かの判断に当たっては,中古本の流通市場は考慮しないという認識で一致した旨を記載しております。その理由はローマ数字のⅰからⅲまででございます。

まず1は,当事者間の合意に基づく現行の運用においても,中古本の流通状況は考慮されていないこと。2つ目は,中古本の流通によって権利者に対価が還元されることはなく,権利者の利益保護の観点からの考慮は必ずしも求められないこと,すなわち権利制限を行う許容性が高いこと。3つ目は,中古本につきましては,ここに記載のような様々な観点で,新刊本と同様の入手容易性が確保されているとは言いがたいため,権利制限を行う必要性も認められること,この3点から法律上は中古本の流通状況は考慮しないということで一致をした旨を記載しております。

ただし,9ページの上の部分に記載のとおり,運用の議論を関係者間で行うに当たって,中古本市場との関係を一切考慮してはいけないということまで意味しているものではありませんので,その旨,確認的に追記しております。

それから,(3)「送信の形態」のマル1のところでは,ID・パスワードなどによる管理を行うということが共通認識になった旨,記載をしております。これに関しまして,注釈の17,18を追記しております。

17は,技術的手段には様々な選択肢があるなどの理由から,ID・パスワードによる管理以外の選択肢も視野に入れた仕組みを検討する必要があるという御意見でございます。

それから,注釈の18は,これまで明示的に議論がありませんでしたが,外国への送信をどのように取り扱うかという点を追記しております。この点,平成30年の改正によって,外国の図書館等に送信することが可能になっておりまして,現状ではまだ対象施設が2館のみであるということも踏まえながら取扱いを検討する必要があるものと認識しております。

いずれにしましても,日本でID・パスワードなどを取得した方がその後外国に行った場合に外国からアクセスすることは可能とすることが望ましいだろうということを記載しております。この点に関しましては,委員の先生から,海外における日本研究のさらなる発展という観点からは,国内同様,外国の各家庭等まで幅広く送信を認めるべきという御意見がございましたので,その点も付記しております。

それから,本文のマル2,「複製の可否」の部分では,ストリーミングのみを可能とするのか,プリントアウト,ダウンロードまで認めるのかという点について前回御議論をいただきました。結論としては,まずマル1,ストリーミングだけでは利便性の観点から問題があること,マル2,紙媒体でのプリントアウトについては,データの不正拡散等の懸念も少ないため,認めていくべきであること,この2点については認識が一致した旨を記載をしております。

他方,プリントアウトを認める際の分量につきましては,アに記載のように全部のプリントアウトを認めるべきという御意見があったほか,イのように一部分に限定する必要があるという御意見もいただきました。

また,データのダウンロードについても,分量を限定したり,技術的な防止措置を講じるなどした上で可能とすることが望ましいという御意見もありましたので,その旨も記載しております。

これに関しまして,注釈の19と20を追加しております。19は,プリントアウトを仮に一部分に限定して認めるということになった場合にも,短い論文でも半分しかコピーできないといった不合理な取扱いは改める必要があるという御意見でございます。

注釈の20は,基本的にダウンロードを認めないという前提に立った場合にも,著作権法35条との関係では,授業目的に限ってデータのダウンロードを認めたり,全部の複製などを認めるべきではないかという御意見でございます。

それから,10ページに参りまして,注釈の21も新たに追記しております。これは(4)「受信者側での複製の取扱い」に関しまして,本文では,自ら閲覧するための複製は認めてよいのではないかと記載しておりますけれども,これについて,さらに利用目的を調査研究目的などに限定することも考えられるという御意見を追記しております。

11ページの最後の部分になお書きを追記しております。これは(6)のところで国会図書館が保有していない貴重な資料を大学図書館,公共図書館などが保有している場合には,それを国会図書館に集約し,国会図書館をハブとして資料を全国的に共有していくのが望ましいとしていた部分についての補足でございます。

美術館・博物館等において所蔵・保管している入手困難資料については,国立国会図書館がハブとして機能するということには限界があるため,将来的には他の機関をハブとしまして,国会図書館ルートとは別のルートを確保して資料の共有を図っていくことについても検討が必要になるということを追記しております。

簡単ではございますが,事務局からは以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ただいま御説明いただきました資料1につきましては,既に委員の皆様にも事前に御確認いただいていると伺っているところでございますけれども,今の御説明に関しまして,もし御質問,御意見等ございましたら,お願いしたいと存じますが,いかがでしょうか。

【福井委員】福井ですが,よろしいでしょうか。

【上野座長】お願いいたします。

【福井委員】まずは事務局においてこの短期間で充実したおまとめ,大変に御苦労さまでございました。全般に大変納得度の高いものになったと思っております。

P11の国会図書館以外のハブについて改めて補足をさせていただきたいと思います。前回も御意見申し上げましたけれども,こうした入手困難資料は,決して刊行物,あるいはそれに類するような資料だけに限るものではありません。映像においても,また音源,音楽的な資料においても同様の問題があり,そして利害状況は全く変わらない,文化的な重要性も全く変わらないというふうに思うわけですね。では,国会図書館が,例えば映像資料について十分ハブとして機能できるのか,その他のいわば非刊行物的,非図書的な資料において十分ハブとして機能できるのかといえば,私が理解している国会図書館の状況はそうではありません。現に国会図書館は図書館等に対する送信サービスを既に開始していること,いわゆる入館者に対する入手困難資料の送信サービスを既に開始していることは御存じのとおりですが,現在の参加館は今1,200館を超えているものの,カウントすると,その中で博物館・美術館は10館にも満たないはずです。数館しか参加していないのですね。なぜならば,博物館・美術館が対象とするような資料はほとんど国会図書館経由では送信をされていないからです。

こうしたことを考えると,もちろんここに記載されたことは非常に重要だと思うのですけれども,単に将来的な検討というだけではなくて,デジタルを利用した知の集積,そして人々への共有というニーズの重要性に照らしたときに,今回のまとめの中で,この検討の必要性について何らかの可能性を残しておくということが重要ではないかと考える次第です。

具体的に言えば,国会図書館及び政省令で指定するような他の機関についてもハブとして機能できるような,そういう余地を残してはいかがかと思うのですが,いかがでしょうか。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。

【生貝委員】私のほうからも簡単に2点だけ意見を申し上げたいと思います。よろしいでしょうか。

【上野座長】お願いいたします。

【生貝委員】まず1点目に関しましては,9ページ目の一番下の脚注の20に入れていただいたとおり,今回のお取組,今回の改正というもの,これ,国民の知へのアクセス全般というところにも加えまして,やはり今拡大するオンライン教育へのまさに知識,情報の提供という意味でも非常に価値のあるものだと思います。そのときに,基本的にはここにお書きいただいたとおりではあるのですけれども,やはり例えばダウンロードを不可とする,あるいはゴク制限するといったような形で流布されたとしましても,やはり教育というところは既に別途35条の権利制限というのがあり,また,オンラインに関しては補償金というものも既に制度的に導入されているものでございますから,やはりそのことを何からした考慮した形での運用としていけることが望ましいのではないのか。ここはお書きいただいているとおり,別途35条の精力的に検討されている運用指針等の兼ね合いもあるところかと思いますが,少なくとも条文上,こうした運用を排除することのないようにしていただけるとよいのではないかというのが1点目でございます。

それから,2点目に関しましては,今まさに福井先生がおっしゃったところに関しては,私も前回発言したとおりですが,同意見でございます。11ページの一番下のところでございますけれども,やはりこれから非常に多様な,まさにネバー・イン・コマースの著作物というのが特に美術館や博物館等については多いところだと思いますし,そこを必ずしも本当に国会図書館だけに一本化して制度設計していく合理性というものはもしかすると必ずしも広く考えられるべきところかと思います。そしたときに,まさしく,例えば地公レベルでありますとか,あるいは既に放送様でございますとか,映画様でございますとか,そういった分野も価値のあるアーカイブを構築しているところでございますので,やはりこの2点において,本当に限られたハブというところだけでも政省令として指定するなどの可能性というものは積極的に考える価値が非常にあるのではないかと感じているところです。

以上でございます。

【上野座長】どうもありがとうございました。大渕先生,手を挙げられましたでしょうか。では,お願いいたします。

【大渕委員】資料をきれいにまとめていただきましてありがとうございます。細かい点なのですが,まず3ページの注3のところで,このような御意見があったことはそのとおりなのですが,私としては,この問題は,主体に関わる大きな問題でもあり,事案ごとにきめの細かな検討が必要となるものなので,一律に認めるというよりは,いろいろな主体が具体的にどうなのかということを検討する必要がある話ではないかと思っております。

それから次に4ページの注6についても,補償金の性質論ということに入り始めると,また送信サービスとの関係等でいろいろあるかと思います。私としては,そのような大げさな話というよりかは,入手困難資料の特殊性を加味すればよい,もちろん入手困難資料というのは特殊性があるわけですから,その特殊性を加味した補償金の額にすればよいということだけ押さえておけば,それほど大げさな話にしなくても的確なところが押さえられるのではないかと思っております。

それから,5ページの注9と注10で,無償を重視するものと補償金を課しても利便性の向上を図るべしと,両意見書かれているのですが,お金払ってでもできるだけ高度なサービスを受けたいというニーズがあることは間違いないので,私としてはやはり注10のほうを重視すべきと思っております。

以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。では,前田先生,お願いいたします。

【前田座長代理】ありがとうございます。11ページの最後に追加された3行の箇所についてなのですが,先ほど福井先生から,単に将来的な検討ではなくて,現時点で国会図書館以外がハブとして機能できる何らかの可能性を残すべきという御提案だったと思いますし,生貝先生もそれに賛成する御意見だったと思うのですが,そのためには,31条3項において国会図書館のみが主語になっておりますことを改正する必要があることになると思うのですけれども,本日までの審議では,権利者等のヒアリング等においても,そのことまでを前提としたヒアリング等は行われていないと思いますので,将来的な検討課題にするということについては,私も反対ではございませんけれども,現時点で直ちに国会図書館以外も政省令で指定してハブにできるようにすべきだというのはちょっと時期尚早ではないかと思います。

したがって,私としては,事務局から提示されたなお書きの3行のままでいいのではないかと思います。以上です。

【上野座長】ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。では,竹内先生,お願いいたします。

【竹内委員】竹内でございます。今話題になっております11ページの下に加えられた3行なんですけれども,これは4ページに書かれている注記の8とはどういう関係になるのかをお教えいただけないでしょうか。

【上野座長】この点については,事務局から。

【大野著作権課長補佐】いただいた御意見をそのまま記載しているところではありますけれども,注8は,より広く,国会図書館以外にも様々な施設が制度を活用できるように補償金の選択肢も視野に入れながら議論をしていくべきという御意見かと思います。

一方で11ページに書いてあるのは,そういった様々な施設ということではなくて,国会図書館で集約し切れない機能を担うところに限定した上で,そこがハブとして機能できるようにするという違いがあるものと理解しており,そのレベル感に応じて,注釈での御意見と本文での検討の必要性の言及ということで記載を分けているというふうに事務局としては認識しております。

【竹内委員】ありがとうございました。そうしますと,図書館という限定した世界の中だけで考えても,例えば都道府県立図書館が郷土資料を扱う場合に,ネバー・イン・コマース資料等については,やはり電子化して地域の資料として責任を持って地域で管理しつつ提供したいという要望があるというようなことは十分想定されることですので,もしも,4ページの8を残しつつ,11ページの3行ということについても今後の課題ということで考えるのであれば,国立国会図書館以外の図書館においてもこのようなニーズは当然あるということを少し勘案していただければ幸いです。

以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。

よろしいでしょうかね。そうしましたら,どうもありがとうございました。では,議事の2に進ませていただきまして,31条1項1号関係の論点整理についてでございます。これまでのヒアリングや自由討議における御意見等を踏まえまして事務局のほうで論点の整理を行っていただきました。まずその御説明をお願いしたいと存じます。

【大野著作権課長補佐】それでは,資料2を御覧いただきたいと思います。図書館資料の送信サービスに関しまして,これまでの御意見を踏まえて論点を整理しておりますので,順次御説明をいたします。

まず1ポツ,「現行制度及び課題」でございます。(1)では「現行規定」の概要,趣旨について記載しております。御案内のとおりですけれども,国立国会図書館やその他の図書館等におきましては,著作物の一部分を1人につき一部,複製して提供するということが可能になっております。こうした規定が設けられておりますのは,ここに記載のとおり,図書館等の果たすべき公共的奉仕機能に鑑みて,複写サービスを可能とする必要がある一方で,厳格な条件の下での複製提供であれば,権利者の利益を不当に害しないといった理由によるものだと考えております。

次の(2)「運用実態」のところでは,ヒアリングで御発表いただいた内容をベースとして,国立国会図書館,公共図書館,大学図書館における運用の実態を記載しております。国会図書館では職員等が著作権法上の要件を審査の上で複写サービスを実施しておりまして,館内複写の利用が年間で約130万件,遠隔複写(郵送)サービスの利用が約30万件となっております。

また,利用に当たりましては,コピー代,郵送の場合にはさらに事務手数料・送料を支払う必要があるという仕組みになっております。

また,公共図書館・大学図書館におきましては,日本図書館協会の調査報告書によりますと,全体の約90%が複写サービスを実施しており,そのうちセルフ式コピーを導入しているところが約47%,郵送サービスを実施しているところが約50%となっております。利用に当たっての対価の支払いは国会図書館と同様でございます。

また,サービスの実施に当たりましては,関係団体でガイドラインなどが作成されておりまして,それに基づいて,複写内容の確認・点検,著作権法についての啓発・周知の徹底,図書館利用者からの誓約書の提出など,著作権法を遵守した形での運用に配慮がされているところでございます。

次に2ページに参りまして,(3)「課題・要望」でございます。まず冒頭に記載のとおり,現行制度上は可能な行為が複製と複製物の提供に限定されておりますので,FAX・メールなどによる公衆送信を行うことはできないことになっております。この点,遠隔地から資料を入手しようとすると,郵送での対応ということになりますけれども,郵送サービスを実施したい図書館等も多く,また時間がかかるといった課題もあり,利用者のニーズに十分に応えられていない面があるということでございます。

これを背景にしまして,国会図書館などに対しまして,デジタルデータでの複製物の提供を求める要望が様々寄せられているという実態がございますし,また,図書館休館対策プロジェクトの実施した緊急アンケートにおきましても,同様にメールなどでの送信のニーズが極めて高いということが報告されているところでございます。

こうした状況を踏まえまして,国会図書館のほか,日本図書館協会,国公私立大学図書館協力委員会,全国美術館会議,日本博物館協会などからもメール送信等を可能とすることについての御意見が出されているというところでございます。

これを踏まえて2ポツ,「対応の方向性」を記載してございます。こちらに記載のとおり,デジタル・ネットワーク技術の活用によって簡便に資料を入手できるようにすることが重要であります。これは,コロナ禍のような予測困難な事態にも対応し,国民の「知のアクセス」を向上させる,さらには,研究環境のデジタル化によって持続的な研究活動を促進するといった観点で極めて重要であるということから,可能な限り多様なニーズに応えられる仕組みとすることが望まれる旨を記載しております。

一方で3ページにございますように,入手困難資料以外の資料,新刊本を含めた市場で流通している資料についてメールなどで送信できるようになると,たとえ著作物の一部分であっても,正規の市場,権利者の利益に大きな影響を与えるだろうと考えております。

このため,権利者の利益保護の観点から,厳格な要件を設定すること,補償金請求権を付与すること,この2つを前提にした上で送信を可能としてはどうかと考えております。その際には,様々な御意見を踏まえてきめ細かく制度設定をしていくことも重要ですけれども,図書館等において過度な事務負担が生じない形でスムーズに運用できる仕組みとすることも重要でございますので,その旨も記載をしております。

次に3ポツからが「論点整理」になります。(1)から(5)まで分けて記載をしておりますので,順に御説明をいたします。

まず(1)が正規の電子出版等を初めとする市場との関係をどう整理するかという論点でございます。一段落目に記載のとおり,近年,様々な形態の電子配信サービスが普及しておりまして,今回権利制限で送信を可能にしますと,正規の市場との競合,また潜在的な市場への影響も懸念がされるところでございます。

特に電子配信におきましては,書籍を部分単位で販売するということも行われおりますし,また,過去の雑誌に掲載された論文などを1記事単位で販売するということも行われていると聞いております。このため,著作物の一部分,発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物の全部という要件に基づいて対応するとしても,権利者の利益を不当に害する場合が出てくるだろうと考えております。

また,図書館等によって利便性の高い電子媒体での送信が行われることになりますと,紙の出版市場等に対しても従前の複写サービスと比較してより大きな影響が及び得るものと考えられます。

こうした点を背景に,出版社・権利者団体の多くから,正規市場との競合について強い懸念が示されておりまして,一定の資料については,類型的に送信対象から除外してほしいという御意見も出されているところでございます。

こうしたことを踏まえまして,4ページ目に記載のとおり,権利者の利益保護の観点から,正規の電子出版等を初めとした市場を阻害することのないよう,法令上明確な担保を行う必要があるのではないかとしております。

その場合の担保の方法については,様々な選択肢があろうかと思います。諸外国におきましては,10%を上限とするなど,定量的な定めを設けている場合もございますけれども,権利者の利益を不当に害するか否かというのは,ここに記載のように,著作物の種類,性質,正規市場,サービスの実態,送信される分量など,様々な要素に照らして総合的に判断されるものであることを踏まえますと,分量などについて一律の基準を設けるよりは,ただし書によって実態に即したきめ細かな判断を可能とするほうが望ましいのではないかと考えております。

ただ,そうした場合には,明確性・予測可能性が低下しますし,場合によっては不適切な利用を招くおそれもありますので,それを補完するために,図書館等関係者,権利者,中立的な第三者を交えて具体的な解釈・運用を示すガイドラインを作成する必要があるのではないかとしております。

また,その際,電子出版等のサービス実態が重要な考慮要素になりますので,その実態を簡易に確認する方法についてもガイドラインの中で明らかにしていく必要があろうかと考えております。

次に(2)が「送信の形態・データの流出防止措置」でございます。まずマル1,送信の形態につきましては,図書館利用者のニーズ,それから,図書館等における実現可能性などに応じて柔軟な対応ができるように,FAX,メール,ID・パスワードで管理されたサーバーへのアップロードなど,様々な形態での送信を認めることが望ましいのではないかとしております。

なお,送信された資料を受信者が手元で複製するという行為につきましては,入手困難資料と同様,自ら閲覧するための複製であれば認めてもよいのではないかというふうに記載をしております。

次にマル2が「データの流出防止措置」でございます。これは権利者からの御懸念も強い事項であり,様々な観点から防止を図っていく必要があろうかと思います。具体的には,(ア)にありますように,図書館等においてデータが流出しないような適切な管理を行うこと,また,(イ)にありますように,データを受信した図書館利用者が不正に拡散させないための措置を講ずること,この両面から対応を行っていく必要があるのではないかとしております。

具体的な措置の例としては,5ページに記載をしております。まず(ア)の図書館側での対応につきましては,例えば図書館等においてデータの流出防止に必要な人的・物的管理体制を構築することや,作成したデータが不要になった場合には速やかに破棄すること,それから,(イ)の利用者側へのアプローチといたしましては,図書館利用者に対して著作権法の規定やデータの利用条件等を明示すること,さらに不正な拡散を技術的に防止する措置を講ずることなどが考えられるところでございます。この点について御意見をいただきたいと思います。

いずれにしても,こういった具体的な措置の内容などにつきましては,柔軟な対応という観点から,法律に直接規定するのではなく,政省令,ガイドラインなどで定めるのが望ましいのではないかと考えております。

次に(3)「主体となる図書館等の範囲」でございます。これは31条1項で対象になっている図書館等全てに送信を認めるのか,またその範囲をさらに絞り込む必要があるのかという論点でございます。

この点,必ずしも全ての図書館等で送信サービスのニーズがあるわけではないと思いますし,また,人的・物的管理体制や技術・システム,財政面などには様々な違いがありますところ,データの流出防止や補償金制度の運用を含めて,全ての図書館等で適切な運用が担保できるとは言いがたいのではないかと考えております。

一方で,国民の情報アクセスという観点からは,特定の種類の図書館等だけを対象にするという切り分けは必ずしも適切でないと考えられますので,一定の運用上の基準を設定し,その基準を満たす図書館等に主体を限定するということとしてはどうかと考えております。

その際の基準としましては,例えばデータの流出防止に加えまして,補償金制度の運用という観点から,送信実績の記録,補償金の徴収などを適切に実施できる体制が構築されていること,また対象の職員に対して適切な研修等を実施していることなどが考えられるとしております。

いずれにしましても,この点についても,法律ではなく,政省令,ガイドラインなどで具体を定めることが望ましいのではないかとしております。

続いて(4)が「補償金請求権の付与」でございます。まずマル1,「基本的な考え方」としまして,今御説明した(1)から(3)の措置によって権利者の利益が大きく害される事態は防止できる一方で,それでもなお権利者には相当程度の不利益があるだろうということから,それを補塡するために補償金請求権を付与することが適当ではないかと考えております。

その補償金請求権を付与するに当たっての制度設計等が6ページ目以降でございます。ローマ数字のⅰからⅵまでございます。まずⅰが「対象範囲」でございます。この点,現在無償となっている複製を含めるかどうかが論点になりますけれども,そこまで含めますと,国民の情報アクセス,研究活動等に支障が生じることが懸念されるため,新たに権利制限の対象とする公衆送信のみを対象とすることが適当ではないかとしております。

その際,例えば国の広報資料や入手困難資料,こういったものも補償金の対象に含めるかということについては議論の余地があるのではないか,一部のものについては補償金対象から除外するということも考えられるのではないかと記載しております。

次にローマ数字のⅱが「補償金額の料金体系・水準」でございます。今回の送信サービスにつきましては,(ア)に記載のとおり,私的録音録画補償金・授業目的公衆送信補償金とは異なりまして,個々の送信実績を正確に把握・管理することができるということがございます。また,(イ)に記載のように,図書館資料を本来用途で利用に供するという行為であり,権利者に与える影響が特に大きいということもあろうかと思います。

このため,包括的な料金体系ではなく,個別の送信ごとに補償金を徴収する体系するとともに,補償金額は権利者の逸失利益を補塡できるだけの水準とすべきではないかとしております。

その際,補塡金額については,一律いくらという料金体系とするのではなくて,過度に複雑化しないように注意しつつではありますけれども,著作物の種類,性質,送信分量,図書館利用者の属性等に応じてきめ細かな設定を行うことも考えられるのではないかとしております。

例えば,著作物の経済的価値や送信する分量に応じて補償金額に差を設けたり,学生については一般と比べて低廉な額とするなど,様々な選択肢があろうかと思いますので,過度に複雑化しないように注意をしながら実態に即した料金設定を行うことも考えられるだろう,ということでございます。

それから,ローマ数字のⅲが「補償金額の決定方法」でございまして,こちらは,今回の権利制限は公益性の高いサービスであり,国民全体に関わることから,当事者に委ねるというよりは,文化庁長官による認可制とすることが適当ではないかとしております。

次にローマ数字のⅳが「補償金の徴収・分配スキーム」でございます。図書館等における手続コストの軽減と権利者側から見た権利行使の実効性の確保という両面から,文化庁が指定する指定管理団体において一元的に徴収・分配を行う仕組みが適当ではないかと考えております。

また,補償金の分配を適切に行うために,図書館等では送信実績を正確に把握・管理する必要があるのではないかということも併せて記載をしております。

次に7ページに参りまして,ローマ数字のⅴが「補償金の受領者」でございます。特に出版権者,出版社をどのように扱っていくのかというのが論点になろうかと思います。ここでは,現に市場に流通している資料について,本来的な用途での利用に供するために送信されることになると出版権者にも大きな影響を及ぼし得るため,法律上,著作権者,出版権者の双方を補償金の受領者と位置づけることが適当ではないかと記載しております。

また,次の段落では,出版権が設定されていない出版社の利益確保をどのように図っていくかという点も論点になる旨を記載しております。ただ,出版権者でない出版社について,直接法律上で補償金の受領者と規定することは困難だと考えられますので,この点は著作者と出版社がそれぞれ適正な利益を得ることができるように関係者間で合理的なルールづくりを行うこととすべきではないかとしております。

次にローマ数字のⅵが「補償金の支払い主体・実質的な負担者」の扱いでございます。まず法律上の支払い主体としては,著作物の利用主体,送信の主体である図書館等の設置者となると考えておりますが,それで良いかということを記載しております。

その場合でも,実質的にはサービス利用者に補償金が転嫁されることが多いと考えられますところ,その場合,公立図書館の無料公開の原則との関係が問題になります。この点については,(ア)に記載のとおり,あくまで送信サービスというのは付加的なサービスであり,図書館資料の閲覧・貸出というベースとなる基本サービスは無料が維持されること,また,(イ)に記載のとおり,本件補償金は権利者に払うものですけれども,コピー・郵送における印刷代・郵送代と同様に,「実費」として捉えることも可能であることから,特段この原則との関係でも問題は生じないのではないかと記載しております。

最後に(3)「その他」の論点として,3つ記載をしております。まずマル1が「サービス利用者の登録」でございます。これまで御説明した内容とも重なりますけれども,サービス利用者による不適切な行為を防止する観点から,あらかじめ様々な条件などを明記した上で,それに同意した者を登録し,登録した人を対象に送信サービスを実施すべきではないかと記載しております。

それから,マル2は「脱法行為の防止」でございます。権利者団体からは,一部分の送信を可能とした場合,複数回に分けて申請をすることで全文が取得されてしまうのではないかという懸念も出されております。これを踏まえまして,図書館等においては,同一の者から同一の資料について送信の請求があった場合には慎重に取扱いを精査すべきではないかとしております。ただ,この点は,補償金額の水準によっては,複数回に分けて全文を取得するよりは,そもそも書籍などを購入したほうがいいということにもなり得るため,その旨も記載しております。

8ページに参りまして,マル3,「契約上の義務との関係」でございます。図書館等では様々な事業者と直接契約を結んで,書籍・論文・新聞などのデータ提供を受けているという実態があろうかと思います。その場合,その契約の利用条件等として公衆送信不可などと定められていることがありますけれども,その場合には,当然「契約上の義務」として,その利用条件等には従う必要があろうかと思いますので,その旨,記載をしております。著作権法上の適法,違法という判断に直接影響を与えるものではありませんけれども,契約を結んだ以上は契約上の義務には従う必要があるだろうということを確認的に記載しているということになります。

以上,多岐にわたる論点ございますけれども,それぞれについて御意見をいただければと思います。事務局からは以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。それでは,ただいま御説明いただきました内容について御議論いただきたいと存じます。全体が1ポツ,2ポツ,3ポツというふうに分かれてございまして,3ポツが中心かとは思いますけれども,少し細かく分割して御議論いただきたいと思います。まず1ポツの「現行制度及び課題」というところにつきまして御意見があればお出しいただきたいと存じます。ここは事実関係等を整理した部分ということですけれども,御質問,御意見がございましたらお願いいたします。いかがでしょうか。

ここはよろしいでしょうかね。

それでは,続きまして,2ポツの「対応の方向性(案)」というところでございます。ここも前回までの御議論でコンセンサスとなっていた方向性かと思いますけれども,もし御質問や御意見等がございましたらお出しいただきたいと思います。では,竹内先生,お願いいたします。

【竹内委員】ありがとうございます。3ページの3ポツの直前のパラグラフのところでちょっと確認させていただきたいところがあります。これによりますと,そのパラグラフの2行目ですけれども,図書館等が図書館資料のコピーを図書館利用者にFAXやメール等で送信することを可能にしてはどうかということになっておりますが,図書館業務の実際ということを考えてみると,例えば図書館が図書館等にFAXやメール等で送信をし,それを最終的にユーザーに提供するというようなこともございます。この場合,「図書館利用者に」としか限定して書かれていないので,図書館等から図書館等へFAXやメール等で送信するということは今回の議論の対象になっていないように読めるのですが,それだと今回の法改正の趣旨が,効果といったらいいんでしょうか,意味合いが半減してしまうのではないかとやや懸念をしております。以上です。

【上野座長】ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。よろしいですかね。

それでは,3ポツの「論点整理」のところに入りたいと思います。これも恐縮ですが,細かく分けさせていただきまして,(1)から(5)までございますけれども,まずは(1)の「正規の電子出版等をはじめとする市場との関係」というところにつきまして御質問,御意見等がございましたらお願いしたいと存じます。

【上野座長】お願いいたします。

【大渕委員】(1)が今回の中では出発点というか,正規の市場等を害さないというところが最も重要なところなので,ここをまずきちんとピン留めというか,押さえない限りは先に進みません。ここのところは押さえる必要があるわけですが,その方法論については,3ページから4ページのほうになります。私は本当はあまりただし書のような一般条項的なもので拾うのは好きではないのですが,現実的には,35条のときにもほかにもここで市場との関係を拾っていることが多いかと思いますので,ここでも現実的なアプローチとしてはこれ以外にないので,もうこれでやむを得ない。ただし書が書いてあると割と漠然とした感じなのですが,35条と同様に31条の場合にはライセンスとのコンフリクトのようなものが類型的に読み込めるということなので,予見可能性も問題ないと思いますので,方法論としてもこれでよろしいかと思います。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。では,前田先生,お願いいたします。

【前田座長代理】私も大渕先生の意見に賛成で,結論としてはここに書いていただいているように,ただし書で調整をするしかないのではないかと思います。ただ,まさにここに書いていただいているように,明確性,予測可能性が低下するおそれは生じてしまいますので,ガイドラインを作成するなどの方法で明確性・予測可能性を高めていく努力が必要だと思います。

例えば1冊の本が,1冊の本単位では電子で提供されているけれども,その中の論文単位では電子で提供されていない場合はどうなのか。論文単位で見ても電子で提供されている場合は,そもそも31条1項による電子でのユーザーへの提供は認められないことになるのか。そういったガイドラインを作成していく必要があるのではないかと思います。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。村井先生,お願いいたします。

【村井委員】4ページにまとめていただいたように一般条項的に定めるとなると,4ページ(2)の上に書かれているガイドラインの役割が非常に重要になってくるように思います。もしガイドラインであまりに利用可能な範囲を狭めるようなことになってしまうと,せっかく今回の改正で利用の可能性を広げた趣旨が十分に反映されないおそれがあるように思いますので(上野達弘「国立国会図書館による絶版等資料の送信 -平成24年著作権法改正の意義と課題」ジュリスト1449号(2013年)41頁参照),このガイドラインをいかにきちんとつくっていくかが大事なように思いました。

その際,ここに書かれている文章では,「図書館等関係者,権利者及び中立的な第三者を交えて,具体的な解釈・運用を示すガイドラインを作成する」と書かれています。確かに,図書館等関係者においておそらく利用者の要望が反映されるのではないか,利用者の意見を酌み取っていただけるのではないかとも思われますが,図書館は,権利者の利益にも配慮して中間的な立場にも立ちますので,もし可能であれば,ガイドラインの作成においては,利用者の立場からの意見なども反映できるように,利用者側の当事者も加えるなど,御配慮いただけるとよいように思いました。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。茶園先生,お願いいたします。

【茶園委員】この部分は正規の電子出版等との関係の箇所に書かれているのですけれども,ただし書を,電子出版との関係のみについて設けようとする趣旨であるのか,あるいは,31条1項1号全体について,つまり通常の複数についても及ぼすことを想定されているのかについて確認させていただきたいと思います。

これは今の議論の直接的な対象ではないでしょうが,現行の31条1項1号における「一部分」については,解釈に問題があるとの指摘があります。そこで,ただし書を及ぼすことによって,その問題への解決に役立つことが考えられ,私はそれが有益ではないかと思っていますので,質問させていただきました。

【上野座長】ありがとうございました。では,事務局からお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】まず事務局としての認識について御説明をいたします。まずただし書については,現行で認められている複製についてもただし書をつけるのか,新たに拡大する公衆送信についてのみただし書をつけるのかというのが問題になろうかと思います。事務局としては,現行の複製部分については,現行の秩序を維持した上で,新たに可能とする公衆送信の部分について,様々な影響を加味したただし書を設けるべきではないかということで記載をしております。

その際,公衆送信についてただし書をつけるときに考慮すべき要素としては様々なものがあると考えております。電子出版市場への影響がメインになろうかと思いますけれども,メール送信によって紙の市場にも,より大きな影響を与え得ることもあろうかと思いますので,公衆送信のただし書におきましては,電子出版市場のみならず,様々な市場への影響なども加味した上で判断する必要があるのではないかと考えているところでございます。

【上野座長】クリアに御説明いただきましてありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。

【生貝委員】では,お願いいたします。

【上野座長】お願いいたします。

【生貝委員】まさに,今ここまで御意見がありました中の,特にガイドラインの重要性というのは,大変おっしゃるとおりかなと思います。わけても,先ほど村井先生からございました,やはりガイドラインというもの,ソフトロー一般というもの,関係するステークホルダーにやはり広く関係して形成されてつくられることというのが,広くその受容可能性というものを高めるものでもございます。そのようなときに,今回の特に改正に関しましては,既に今回の報告書の中にも含まれております若手研究者等からの声というものも極めて重要なものとして位置づけられておりますところ,やはり利用者,権利者,そして図書館,並びに中立的な第三者といったようなこと,それに加えまして,もしかすると図書館等に対しては,電子図書館サービスでございますとか,そういったようなものを提供するベンダーさんといったようなところもございますときに,例えばただし書に含まれる利用契約といったようなものは,必ずしももしかすると権利者や出版社様を設定するものではない場合というものも含まれるのかもしれない。利用者というところはぜひというところと,それから,特にデジタルの環境全体を視野に入れた形でステークホルダーの在り方というものをきめ細かに設定していくことが望ましいものかと考えます。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。田村先生,お願いいたします。

【田村委員】どうもありがとうございます。私も村井先生の提案に賛成で,ステークホルダーとしてユーザー側の方もぜひガイドラインの策定に関与させていただければと思っています。

1つ確認させていただければと存じます。先ほどから話題になっております一般的な条項ですが,私もこのような形での柔軟な処理,そしてガイドラインでの適正化,あるいは明確化という方針に賛成いたします。1つ確認したいことは,要件論の話ですけれども,事務局さんの書き方としては,著作物の部分につき等の現在複製について入っている要件の代わりにこの一般条項を入れるということなのでしょうか。あるいは,その要件を残した上で,ただし書のところだけは一般条項化するということでしょうか。趣旨全体を伺うと,分量などについて硬直的な運用はできないとお書きになっていますので,恐らく複製のところにあるような文章ですね,一部分等の,今そこに例示が2つ挙がっていますけれども,それはなくして,あるいはより概括的になって,むしろ一般条項のここで勝負と,そういう御提案でしょうか。少しそこが分かりにくかったのでご説明いただけますと幸いです。

私としては,著作物の部分というのが今回の議論にありまして,著作物って何だ,諸外国ではむしろ販売単位ではないかということをおっしゃられている中で,いろいろとありますので,やはり一般条項化することが好ましいと思います。あとはガイドラインということでしょうけど,基本的には皆さんが御議論なさっているように,電子出版等で入手可能な場合には基本的には除外する等のことを決めていただければと思っております。

要件について,私の理解力が足りなくて読み取り方が分からないところありましたので,ご説明のほどよろしくお願いいたします。

【上野座長】ありがとうございます。では,事務局から。

【大野著作権課長補佐】事務局の想定としましては,著作物の一部分という要件については維持しつつ,一部分であっても,電子での送信を認めると影響が大きいため,一部分という要件に加えてただし書をつけるという趣旨で記載をしておりました。ただ,これはあくまで議論のたたき台でございますので,それがよいのか,一部分という要件はなくして,全て一般条項で処理するのがいいのかというの点については,御議論をいただきたいと思っております。

【上野座長】田村先生,お願いいたします。

【田村委員】もしそういうことでしたら,今回このワーキングチームでも何回か,著作物の一部分という定め方がよいのかどうかとか,発行後相当期間を経過して,今,ここは残すかどうかは分からなかったですが,発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物に限って全部というのがよいかどうかなど,もう少し柔軟化という声も大きかったような気がいたします。その点についても,補償金も入るということですから,少し柔軟な方向で考えてはいかがでしょうかと私は思います。

【上野座長】どうもありがとうございます。ほかにこの点で御意見いかがでしょうか。大渕先生,お願いいたします。

【大渕委員】今の点につきまして,最後のつくり込みはまた難しくて,今までは,平成30年改正のように,個別の要件が残った上で柔軟化するという形をとってきました。全部取っ払って一般条項で,みんなただし書で,その内容がよく分からないから全部ガイドラインというのは,明確性に欠けます。私が,先ほどあまりこれは好きではないと申し上げたのは,できる限りクリアに柔軟に規定するが,やむなく最後は最低限のバスケット・クローズというようにしないと,最初からバスケット・クローズにすると,明確性が落ちて,かえって両当事者が使いにくくなってしまうからです。柔軟にすること自体は賛成なのですが,今まであまり強烈な形ではそれをせず,非日本版アンフェアユースというのを入れずに歯を食いしばって個別規定で柔軟化しているという方向性があります。これは権利者,利用者両方にとってWin-Winなので,平成30年改正も両方から積極的評価を受けているかと思います。柔軟化のところはできるだけ,明確だけど柔軟だというようにしないと,最初から全部丸投げしてしまうというのは人治となってしまい,非常に好ましくないと思っております。

【上野座長】どうもありがとうございました。竹内先生,どうぞ。

【竹内委員】ありがとうございます。ガイドラインでいろいろなことを決めていくということは極めて重要なことだと思いますけれども,これには大変な時間がかかる可能性があります。ですので,今,大渕先生がおっしゃったように,ある程度きちんと決めていった上で,本当の細かいところだけはガイドラインでというような形になるのが望ましいのではないかと思います。以上です。

【上野座長】ありがとうございます。では,生貝先生,お願いいたします。

【生貝委員】ありがとうございます。今の大渕先生,竹内先生の御意見に関しては私も同意見のところが大きく,基本的にガイドラインに任せるのですが,当事者のガイドラインに任せるにせよ,それが政省令なのか,あるいはガイドラインなのかというところを含めて,やはり正規の立法,正規のプロセスの中で果たしてどこまで明確化できるのかというところと併せて考えるのが大変重要かと思います。

その関係で,先ほど田村先生がおっしゃったところとも関わるのでありますけれども,例えば著作物の一部分なのかどうかといったようなところに関しては,例えば学術的な書籍の1章といったようなものを,半分までであるですとか,そういったような決め方というのは,少なくとも僕が国際的,各国の状況を見ている限りですと,現状見受けられないといったようなところもございます中で,例えばそれが一定の発行期間を過ぎた後であれば,果たしてよいのかどうか。そういったようなところも含めまして,ぜひガイドラインの中で,既存の在り方というものをしっかり丁寧に見直していくというところも含めて考えていくことができるとよいのだろうと思います。

それから,明確性・予見可能性というものを高めるという意味では,今申し上げました分量といったようなところも含めて,このあたりは,各国,特に先進国はかなりの程度導入しているところが多いので,かなりプラクティスでありますとかソフトローというものが相当程度共通化,形成されてきている部分もございます。こういったときに,権利者団体の方からも,おっしゃったとおり,外国から見てもしっかり納得のいく制度にする部分が,殊,この分野は大きい部分もあるかと思いますので,ぜひそういった各国のグローバルなスタンダード,あるいはソフトローといったようなものをしっかり参照しながら,ソフトローの形成を進めていくことで安定して回っていく部分があるのではないかと感じているところです。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。田村先生,お願いいたします。

【田村委員】福井先生が先で結構ですよ。

【福井委員】いえ,田村先生がお先でしたので,大丈夫ですよ。

【田村委員】それでは,ちょっと2つの論点が若干混在化しているように思いましたので,少し整理させてください。とりわけ生貝先生がおっしゃっていることがどちらなのかよく分からなかったことがありましたので。

まず私が提起した問題点は,そもそも2つありました。私が2つを混在してお話ししてしまい,申し訳ございませんでした。1つは,ガイドライン,とにかく全て一般条項化するのか。実は私はこれが好みですが。これがまず1つの提案です。もう一つ問題にしたのが,もし一般条項はただし書を設けるにしても,現在のような形の条件を残すのであれば,果たしてその条件,今の条件でよいのかという点です。この2つの問題を私は一遍に提示してしまいました。皆様のお話を聞くと,大渕先生は1つ目の私の提案,ただし書で1本でというのは反対であると。これはよく分かりましたが,その大渕先生も現状でいいかどうかはまだはっきりおっしゃっていなかった,あるいは少し考えてもいいようなお話だったようにも伺えました。

それから,竹内先生は,基本的には明確化ということでしたから,1番目の論点についてだけお話しいただいたと思います。

生貝先生は,出足は大渕先生の賛成という形で入りつつ,ソフトローを強調されていましたので,最終的には私の提案のようにも聞こえました。というように2つの論点が混在化していますから,どちらかというと皆さん,ただ生貝先生のお立場がよく分かりませんが,もし仮に私が最初に思ったような一般条項的なところだけで決めるというのにもし反対な方でも,現状のままでよいのかについてお伺いしたいと思います。事務局の御提案は,現状のままでいいというふうに聞こえました。私は,それはおかしいように思っております。とりわけ著作物の部分と定期刊行物を考えますと,我々,法律家の話を例にしますと,よく言われることですが,還暦記念論文集や退官記念論文集などの1論文が,雑誌のように入手困難であるにもかかわらず,全部複製できないといった硬直的な運用もになりますので,それで構わない世界かどうかということも,ぜひ御議論いただければと思います。

【生貝委員】申しわけございません。今私申し上げたところ,確かに少し伝わりづらいところがあったかと思いますので。基本的には,明確化を意識しながら,既存の運用ややり方で明らかに不合理のある部分は,まさに田村先生が御指摘の点を含めて,つくり直していくのではないかという意見でございます。

【上野座長】ありがとうございます。ては,福井先生,お願いいたします。

【福井委員】ありがとうございます。今の田村先生の明確化と生貝先生のアンサーでほぼ私のコメントは尽くされたような気がするのですけれども,おっしゃるとおり,全体の柔軟性ということと,それから明瞭化,これは両立できるものであろうと思うのですね。そうなったときに,大渕先生のおっしゃったような大きな視点を持ちつつも,今田村先生が提起された2番目,今の条件でよいのかということはしっかり議論しろ,このお考えに賛成です。

その観点から言うと,現在の条文は,31条1項1号で,著作物の一部分というふうに対象をはっきりと規定した上で,括弧書きで相当期間経過した定期刊行物の個々の著作物については全部でいいと,こう書いてあります。ここまで固められちゃうと,ちょっと解釈の余地はもうないですよね。要するに,定期刊行物に掲載された個々の著作物でなければ,その著作物がどんなに小さくても,その一部分しかサービス対象にできないとやっぱり読めてしまうであろう。それを今,公立図書館のガイドライン等で写り込みは許すみたいな工夫で何とか現場は回しているというのが現状だと思うんですね。これはではちょっと,明瞭化しつつ柔軟性をという視点からしても無理だろうと思います。やっぱり条文自体に対する見直しが必要じゃないかと思います。

市場での影響を重視するという基本的視座が提供されているわけですから,やはり著作物単位だけではなくて,通常商業流通される単位,これに対して全部がコピーされてしまうようでは市場を害してしまう。でも,通常商業流通される単位に対して一部分という発想があれば,それは時には短い著作物の全部を含むものであっても構わない。そういう視点を条文の中でも取り入れていくべきはないかと思いました。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございます。大渕先生,お願いいたします。

【大渕委員】今のがまさしく私が申し上げたかったところで,一般条項にすると,きちんと整理しなくてはいけない点が,みんな丸投げになって,悪名高き,授権法,Ermächtigungsgesetzになってしまいますので,それをせずに明確化を図るという点は非常に重要な点だと思います。ただ,一部分の解釈等もいろいろ大変なところなので,この短いスパンでできるのかと監事ております。丸投げというのはあり得ないから,きちんとやるということでこの短いスパンの中で,今せっかくきちんとやろうとしているのですが,一,二年軽くかかりそうな大きな話で,もう現に時間がなくなってきておりますので,現実的アプローチをとる必要があります。このペーパーでほぼ論点が出尽くしていますが,そこに入り出すと,恐らくそれだけでこのペーパー以上の時間かかってしまうので,全く例えばです,第2段階で今後また触るということも考えられます。まずはここで確実に成果を出さないといけないので,詰めることは大変結構だと思うのですが,あの根深い二大論点を今すぐに解決できるのかという気がいたします。場合によっては,補償金などを固めてみたら,ある程度の部分は不利益が補償金で吸収できるというところもありますので,解が出やすくなるかもしれません。現実的アプローチとしては,まずここの紙に書かれているようなところで大きく前進しますので,それをやってからということもあり得ると思います。私が懸念するのは,先ほどの2論点に入ると物すごく大変になって,とても今のお尻が切られている状態ではフィジビリティが極めて乏しいのではないかと感じました。

【上野座長】どうもありがとうございました。前田先生,お願いします。

【前田座長代理】一部分という要件を残しつつただし書をつけるのか,一部分を撤廃してただし書をつけるのかという問題が第一段階としてあると思うのですが,それについては,一部分を残しつつただし書をつける。ただし,その場合における一部分の解釈については,柔軟に解釈してもいいことにする。先ほど田村先生が挙げられた還暦記念論文集の中の1つの論文というのは,一部分という解釈もできるように考える。そういう前提で,一部分は残しつつ,ただし書をつけるということでいかがかと思います。以上です。

【上野座長】ありがとうございます。田村先生,お願いいたします。

【田村委員】また福井先生と同時になってしまって恐縮です。私も,今の前田先生の案に賛成していまして,もし何か要件を残さなければいけない。もちろん私はフェア・ユース好きですから,一番は不当条項1本ですけれども,そういう意見が通らなさそうであれば,セカンドベストで前田先生の御意見にも賛成で,大渕先生がおっしゃるほど,1年も2年もかかるかどうか,トライもしないうちから諦める必要は全くないと思います。今回の補償金なんてかなり大きな話をやっていますから。例えば前田先生のお考えの方向で,著作物の一部分というのが全ての誤解を招く要因で,諸外国なんかにありますように,販売とか,販売だけでは言葉として,電子書籍,流通市場を押さえられるかどうか分かりませんが,例えば流通単位とか,何かの言葉を入れたいと思います。言いたいことは,要するに市場における販売単位みたいなことの一部分という形の要件を入れて,あとは,定期刊行物云々が,もし残すのであれば,ほかにも還暦記念論文集など,そういうのを書いても構いまません。あと,土木工学事典事件の話もありましたよね。あの判決のような感じで,事典類の1項目がとても複製はできないような解釈を避けるような文言にするというのはいかがでしょうか。あるいは,前田先生,その方向だと思いましたけれども,一部分を私の提案のように直した上で,あとは一般条項に委ねるとか,いろいろなやり方があると思うので,諦める必要はないように思います。

【上野座長】ありがとうございました。福井先生,お願いいたします。

【福井委員】前田先生の御提案,現実的であろうと思います。今回は,せっかくWTをつくったわけです。その中で「一部分」の解釈も議論しましょうと当初から挙がっていたように記憶します。であれば,この機会にそれを解決しないと。繰り返しになりますけれども,今のガイドラインは,あれは無理です。写り込みということで何とか許していこうとか,そんなことはやっぱり無理があるので,ここで解決すべきだと思うのですね。

ただ,そのときに,例えば一部分という用語を残しながら続く括弧内の表現を調整するとか,そういったような方向はあり得ると思います。もし前田先生の御提案が,括弧内も含めて条文を全くいじらないで現場のガイドラインができるんじゃないかということであれば,私はここはそういう場ではないと感じます。しかし,一部分を残しても,例えば括弧内などで工夫することで比較的小規模な手直しによって不都合を解消できるんじゃないかという御意見であれば,私は賛成ですね。

例えば,今,発行後相当期間を経過した定期刊行物と決め打っちゃっているから,定期刊行物じゃないと対象にならないわけですよね。でも,例えば発行後相当期間を経過した商業流通単位,的な言葉にこれを置き換えることをすれば,相当なものが恐らく拾えるだろうと思うし,それだけが解決策とは全く思いませんけれども,そんなアイデアは短期間でも十分出るんじゃないかという気がいたしました。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。

【大渕委員】できるだけ現実的なアプローチということについて,先ほど前田先生が言われたのと同様に,私も思っておりまして,補償金など,周りの制度を固めるとおのずから一部というのも定まってくるように思われます。今まで,何で割と固く運用されていたかというと,一円も払わずにやろうとすれば,おのずから解釈論としても狭いものにしかなり得なかったのですが,補償金をつけたり何なりということをすれば,それに応じて,条文は全くいじらなくても自然に連動してゆるまりますので,そのあたりはできるだけ現実路線でやれば,補償金をきちんとつければ,自然に,全てトータルとしてバランスが確立されます。本格的に入るとなると,また一部とか,定期とか,すごく大変だと思うのですが,現実的には,全くいじらないかどうかは別として,少なくとも大げさな形にしなくても,自然に解決する方法は,現実的アプローチというのはあり得るのではないかと思います。

先ほどの連動して範囲がおのずから変わってくるというのは,それが解釈なのか何かは別として,そのあたりに現実的な解はあるのではないかと思っています。

【上野座長】どうもありがとうございました。では,事務局から。

【大野著作権課長補佐】ありがとうございます。大変興味深い議論として拝聴させていただきました。仮に「著作物の一部分」としているところを,図書館資料など資料単位の一部分というふうに改めることとしますと,一部分という,今まで半分までと解されてきた分量の取扱いがそのままでいいのかということも含めて議論が必要となるものと感じております。

権利者団体としては,著作物の一部分であったとしても懸念があるという表明がされておりますので,その単位が変わればさらに懸念も拡大してくるだろうと思います。対象物の捉え方を根本的に変えるのであれば,「一部分」という要件でいいのかどうかも含めて,きめ細かい議論が必要かと思います。

一方で,「著作物の一部分」という骨格は維持した上で,括弧書きで特殊扱いをするものを広げていくということであれば,比較的リーズナブルといいますか,一つ一つ,具体的な事例を積上げて議論することは比較的容易なのではないかと思います。

また,諸外国との平仄という観点で見ても,図書館資料など資料全体の半分までの利用を認めている国というのはないのではないかと思っておりますので,その辺も意識しながら議論していただく必要があるものと感じております。

【上野座長】どうもありがとうございます。では,田村先生,お願いいたします。

【田村委員】すみません,騒ぎ過ぎで。この辺で収めます。半分までというのは決して条文が要求しているものではないと思います。私はその運用自体がおかしいと思っています。ですから,著作物のほうが狭くなり過ぎるのをうまく埋め合わせて何となくという感じで,あうんの呼吸があまりうまくいってないような例だと思います。だから,半分までという解釈を前提として議論するのはおかしい。その意味では事務局もたしか同じだと思います。逆に言うと,それを前提として著作物というのを本気で土木工学事典判決のような形で読み込みますと,福井先生もおっしゃったような無理なことをこれからも続けさせることになると思います。大渕先生も最後のほうは解釈でするかどうかは別として,とおっしゃっていたので,意外に目指すところは一緒かなと,勝手な期待もしております。

ついでに申し上げますと,これはまさに,逆に現実的じゃないとおっしゃるかもしれませんが,もしうまい条文案を考えられましたら,そもそも現在の複製についても,まさにそこで困っているわけですから,一緒に改正できるものなら改正したほうがよろしいように思います。しかし,それが通らないというのなら仕方がありません。ただ,ここまで議論しているのですから,ぜひ31条の複製のほうにも手をつけるのはどうだろうかと思いました。この問題で長く時間をとりまして,申し訳ございません。

【上野座長】どうもありがとうございました。大分御意見も頂戴したかと思いますので,よろしいでしょうかね。

では,次に行かせていただきまして,(2)の「送信の形態・データの流出防止措置」に関しまして,御意見,御質問ございましたらお願いしたいと存じますが,いかがでしょうか。池村先生,お願いいたします。

【池村委員】マル1の受信者が手元で複製する行為については,プリントアウトとかダウンロードまではオーケーだと思うんですけれども,ダウンロードしたデータを自ら調査研究目的で閲覧するためとはいえ,さらに無限定,無制限でデジタルコピーできてしまうということは流出防止の観点から望ましくないんじゃないかという気がしています。

その観点からマル2のイについては,細かいところは政省令とかに落とすとしても,送信するデータに一定の複製防止措置をかけるなり,権利管理情報を埋め込むなりといった義務を課すことを要件にしたほうがいいんじゃないかなと思いました。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。

【大渕委員】(2)につきまして,前も同じようなことを言いましたが,4ページの「なお」で始まるところは,私が「権利制限のしっぽ」と比喩的に言っている,権利制限の最終段階に当然随伴するようなものです。これができないとなると,結局,この権利制限が意味を失うので,30条等の別個の権利制限で説明できなくても,当該31条の権利制限のしっぽというか,最終段階で説明できるような話ではないかと思っております。

それから,市場とのコンフリクトというのが出発点だとすれば,データ流出防止措置と補償金の2つが今回の31条関係の改正の鍵になるところなので,ここの流出防止措置がきちんととれないと要件を弛めることができなくなってしまいます。アとイと両方からやられていますが,ここをやっていかない限り前に進まないので,ここのところはきちんと押さえていただければと思います。

【上野座長】どうもありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。では,竹内先生,お願いいたします。

【竹内委員】ありがとうございます。今大渕委員からも御発言があったところの不正な拡散を防止する措置ということですけれども,報告書の「技術的」という文書が一体どれくらいのものを要求されているのかによって,これは図書館にとって相当ハードルが上がる話になるということを大変懸念をしております。なので,その辺りのニュアンスがちゃんと法律の条文上でうまく書けるのかどうかよく分かりませんけれども,かなり厳しいかなというのが正直な感想です。以上です。

【上野座長】ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。

【生貝委員】今の竹内先生のところとほとんど同意見なんですけれども,やはり図書館でスキャンをして送信を郵送に代わってするといったときに,いわゆるDRMですとか,技術的な措置を求めるというのは,かなり現実的にも難しいところだと認識しています。

実際に諸外国でもまさに同じ仕組みをドイツ,アメリカ,イギリス,取り入れているところでございますけれども,やはり権利制限に基づくところでDRMまで求めるということは,少なくとも関係の限りでは見たことがないということがございます。

そして,特に流出とか不正の防止というところでは,これ,権利者様からの意見一覧のところで新聞協会様等からもあったところだと思うんですけれども,やはり送信等の管理,先ほどの分量をしっかりと妥当に判断することができる,利用者からの請求が明らかに過大であったりですとか,そういったようなことを含めて対応できる司書様,図書館スタッフ等様への対応というのが,注意ですとか喚起というところを含めて大変重要なところだと考えております。

やはり技術的というところ以外の対応でしっかりといかに,今回実施する館というのも,この後のところにいただきますとおり,比較的限られているところ,比較的数というのはある程度のところだと思いますので,やはりそうした手段でしっかりと不正な流出等を抑止していくという方向に制度設計するのが現実的なのではないかと考えるところです。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかによろしいでしょうか。

それでは,続きまして,今度は(3)でございますが,「主体となる図書館等の範囲」につきまして御意見,御質問ございましたら,お願いしたいと存じますが,いかがでしょうか。茶園先生,お願いします。

【茶園委員】ここに書いてあること自体に関する意見ではないのですが,将来的にきちんと考えておくべきではにないかと思っていることがございまして,それを述べさせていただきます。まず,ここでは,全ての図書館等ではなくて,一定の要件,基準を満たす図書館等だけに認めると記載されていますが,これは,図書館の中で,いわば客観的に基準を満たすものと満たさないものとあるというよりは,図書館の中でこの制度を使えるようにしようという意欲やと余裕がある図書館とそうでない図書館があるということを意味していると思います。そのような意欲や余裕がある図書館は基準を満たしてこの制度を利用するでしょうし,そうではない図書館は基準を満たそうとしないので,この制度を利用しないことになるのでしょう。現状において十分な余裕のある図書館がどれほどあるかわかりませんが,あまり多くないのではないかとも思います。その一方で,この制度ではデータを有しているところがデータを送ればよいのですから,  極論すれば,データを送るのが図書館であることは必然ではないとも言えます。今は,図書館という,これまで情報や知識を集積させて,それを人々に提供するという公共的な役割を果たしてきたところが,いわばその延長線上でデータ送信をすることが考えられているので,図書館が送信主体となっているのですが,先ほど言いましたけれども,単に送信サービスだけを考えると,図書館である必要はない,司書が存在する必要もないとも言えなくはないと思います。あるいは,図書館がこの制度を運営することにコストがかかることを考えると,このような送信サービスは国立国会図書館に集中させて,基本的にそこで行ってもらう方が効率的かということになるのかもしれません。

私は,この検討されている制度に反対しているわけではありません。言いたいのは,送信サービスという,場所とか物理的な存在が必要でないサービスの提供において図書館はどうあるべきかについて,今後きちんと考えないといけないというです。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。

【上野座長】お願いいたします。

【大渕委員】(3)の主体となる図書館等の範囲につきまして,これは,また図書館である必要がないではないかという議論もあり得るかと思いますが,今般やっているのは図書館等というのを前提とするということで,図書館等全般でなくて,一定の絞り込みをするというところがポイントだと思っております。それは図書館の側としても,実施する意欲がないという場合もありますし,先ほどのようなきちんと流出防止措置がとれるのかという問題もあります。サービスを展開するからにはただ単に流せばよいというものではなくて,的確に流出防止措置もとってもらうというような,非常に大きな義務もかかってきます。そうなってくると,図書館の外側に認めるかというような大きな話ではなくて,図書館の中でも実際上これに適したものというのは,全部ではありません。おのずから絞り込まれたものにしない限りは,いろんな意味で権利者とっても利用者にとっても図書館自身にとっても非常に不幸なことになるかと思います。やはりこれだけの現実的な対応をとれるだけの基準を満たすものというのを絞り込むためには,ここに書かれているとおりで,種々のことを考える必要があります。そこに当たるものに的確に絞り込みができずに,適格性のないところが流し始めるとまた流出防止ができずに大変なことになりますので,もちろん流出防止自体や補償金も重要なのですが,主体の的確な絞り込みというのもまた別の意味で重要です。そうやって考えていくと,議論はいくらでもやりようがあるのですが,現実的にはこのような形にしかなりようがないように思われます。

【上野座長】どうもありがとうございました。田村先生,お願いいたします。

【田村委員】どうもありがとうございます。私も事務局の提案でよいと思います。ただ,理由づけのところで1つ抜けているように感じた点がございます。最後のほうにはきちんと書いてあると思いますけれども,少し一般条項的に書いてあるので,やはり31条のどの条文であっても判断が難しいように感じました。ガイドラインをつくったとしても,やはりガイドラインにも解釈の余地が残ると思います。だから,そういう意味で,司書ないしは司書相当の職員がいらっしゃるところという形で,きちんと著作権法の判断ができることというのが前提になっていると思います。それが研修を実施するというところにおそらく暗黙裡の前提で入っていると思いますが,もっと正面から条文の解釈や運用には難しい側面もあることからなんていうふうに入れていただくと,より適切に対象を絞らなきゃいけないという趣旨が明確になるのではないかと思います。

【上野座長】どうもありがとうございます。ほかには。竹内先生,お願いいたします。

【竹内委員】ありがとうございます。これについて,どの図書館がやるかということについては,先ほど来いろいろ御意見が出ておりますけれども,これをまずやるかどうかというところがあって,その上で要件を満たせるかどうかということになると思います。サービスを極めて重視する図書館であれば,様々な資源をかき集めてでもこういったことをきちんとやっていこうと考えると思いますので,しかるべき基準というか,スタンダードみたいなものをきちんと示していくということが重要であって,それを実際にやるか,やらないかということはあまりとやかく言ってもしょうがないのではないかと思っております。

あと,2点目ですけれども,(3)の3つ目のパラグラフのところに補償金の徴収ということが書かれております。確かに,今回の補償金の立てつけについては,一つ一つの送信に対して補償金が発生するもので包括的なものではないという考え方が示されておりますけれども,この補償金を個々の利用者から徴収するかどうかというのは図書館の経営上の判断だと思いますので,補償金の徴収等をというふうにここで明確に書いてしまうことは必ずしも妥当ではないと思います。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはよろしいでしょうか。

それでは,続きまして,(4)の「補償金請求権の付与」のところにつきまして,これは一括して御意見伺いたいと存じますけれども,いかがでしょうか。

【生貝委員】じゃあ,特にほかになければ,ふわっとしたところも含めて申し上げたいんですが,まず,今回,特に補償金をつけてこれを実施していくという方向について,ちょっと流れ的に申し上げづらいところではあるのですけれども,一応専門の責任上改めて申し上げておく必要がありますのは,特に1冊から1章,あるいは1雑誌から1論文といったようなことに関して,補償金をつける,図書館での公共的な利用をつけるということをやっている国は,関係の限りでは,ドイツと,あともしかするとスイスがやっているかもしれないんですけれども,アメリカ,イギリス等を含めて,必ずしもグローバルスタンダードとは言えないものであるといったときに,果たして我が国が,今回は補償金をつけるというふうなものを選ぶということに関しては,これ,やはりグローバルスタンダードよりも著作権者の利益を我が国としてはしっかりと重いものとして見ていくんだという選択をするということ,このこと自体は政策的な選択,民主的な選択の結果というところでございましょうから,それはそれで選択というところなのだろうと思います。

僕自身,若干ここについて留保があるということを前提に申し上げた上で,とはいえ,このような形で補償金を入れていくということに当たって,やはりそれをいかにきめ細かに制度設計をしていけるかということが,この条文の中にどの程度書くかというところとは含まれないかとは思うんですが,大変重要なところかと思っています。

例えば,今回の特に何のために行うのかという全体のところにも関わるところではあるんですが,特に国民の知へのアクセス,そして,研究の推進というところを今回取り上げられているところでございますけれども,このことというのは,やはり今非常に重視されるオンライン教育というものとも改めて不可分のものだと考えています。特に高等教育になればなるほど,実質的な学校での勉強,学習といったようなことは,実質的に図書館を使って行われることが多いと。そういったようなときに,全体として補償金をとるのであれば,こういった個別の送信ごとにとるという形が念頭になるというところはありつつも,そのことについて,例えば学生については一般と比べて低廉な額とするといったような方法のほかにも,例えば必ずしも条文上,こうした個別の補償金という形で決め打ってしまうのではなくて,一定の期間に関しては,条件を満たせば,まさにこれ,複製権センター様がすばらしい前例を持っているので,そちらを参考にするのがよいかと思うのですけれども,より包括的な徴収の仕方というのも併せ持ってやっているところだと思います。

この辺というのは,別途以前も言いましたとおり,35条でどこまで理解するべきなのかというところとも関わるわけですけれども,例えばイギリスの35条に相当する授業利用というところでは,イギリスでは権利制限の代わりにまさに広範なライセンスという形で実施しているわけでございますけれども,個々で想定されているようなことに関しては,教育という大きな枠としてのブランケットの中で,まさに学生が求めた場合ですとか,学校内の利用というところは併せ持っているところでございます。

場合によりましては,まさしく今,35条の補償金というものがしっかりと回り始めつつあるところ,そこに対してしかる補償金を払っているところに関してはある程度一定額をそこに上乗せるなどの仕方というのも,これはあくまで例えばの1つの手段でございますけれども,そういったようなことというのも必ずしも排除することのない形での条文のつくりにしておくことが今後の実際的な運用というところに資するのかなと感じているところであります。

差し当たり参考までの意見ですが,以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。

【上野座長】大渕先生,お願いいたします。

【大渕委員】(4)補償金につきまして,今,図書館における補償金がグローバルスタンダードではないのではないかという御指摘がありましたが,図書館かどうかは別として,もともと補償金自体が非常にヨーロッパ大陸法的な制度で,割と英米は補償金制度に対して冷淡なので,英米を中心に見ればあまりグローバルスタンダードではないのかもしれません。しかしドイツとスイスは両方ともそうであるように,むしろ大陸では補償金はごく普通の話なので,グローバルスタンダードと言っても,もともと英米と大陸とは違います。日本はどちらかというと大陸のほうの話なので,あまりそこのところは気にする必要がなく,要するに補償金をつけたほうが両当事者がハッピーかという,むしろそちらのほうが重要な話であります。Win-Winとよく言われても,なかなか実現は難しいのですが,そのための最大のツールが補償金だと思っております。要するに,今まではただで権利制限を認めていたために,先ほどの一部分とか,非常に利便性の低い状態で,貸したい人もあまりハッピーではなかったし,借りたい人もハッピーではなかったという状態のところを,ドイツなどではうまく使われているように,そこそこの費用を払ったらよいサービスが受けられるというのであれば,もちろん我々利用者にとってもハッピーだし,権利者にとってもリターンが入りますからハッピーということで,まさしくWin-Winと言われているものを体現するわけですただ,これを実際にエンフォースするには,整った公務員制度ないしはそれに準ずるようなものがなくてはいけないとか,いろいろあるかと思いますので,エンフォースは大陸法でないと難しいのかもしれません。日本だったら,今まで補償金の経験も十分にありますので,このところはあまり嫌がらずに。要するに,日本の制度としてこれがWin-Winになるかと考えると,今まで突破できなかった一部分問題とか,そのようなものがこれで大きく前進することになると思います。私としては今回これを導入するのは非常に大きな前進のためのツールだと思っております。

関連論点として,6ページの上にある複製問題というのは,35条のときにも同じような形で問題になって,本当に純粋理論的にいうと,複製まで補償金の対象にしたほうが体系的にも理論的にも本当はよいのでしょうが,あのときと同じで,今の段階で複製にまで補償金かけるとなったら,それだけで反対が強くて,とても前進しないと思います。やはり現実的アプローチとしては,送信のほうに絞ってやるということにならざるを得ないので,ここに上がっているようなことになるのではないかと思っております。

徴収の仕方については,6ページの真ん中にあるように,皆様当然そうお考えだと思いますが,ラフ・ジャスティスとも言われているような,コレクティブというか,集合的にやるというよりは,単発の1個1個を捉えていくという形になるかと思います。これはエンフォースがしやすいので,貸し出すときなどに全部電子的にやるのであれば,それにひもづけすれば,計算なども一気にできることになりますので,これを進めていく必要は非常に高いのではないかと思っております。

それから,7ページの図書館の無料公開の原則などというのは,ここに書いてあるとおりで,付加的なサービスだし,やはりこれは実費なので,実費はもちろん図書館もとってよいのでしょうから,そのような意味で,今までもありました。私はここを乗り越えて,補償金をつけない限り,今般の資料2の部分は前進しないところなので,ここはぜひとも,補償金といっても単発で,料金さえ決めれば,ソフトさえ組めばとれるということかもしれませんので,これは現実的に進めていただければと思います。

【上野座長】ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。池村先生,お願いいたします。

【池村委員】1点ちょっと質問なんですけれども,(5)の補償金の受領者のところの出版権者という,ここで使っている出版権者という意味は,80条1項2号の出版権者だけを言っているのか,それとも1号も含めて言っているのか,それはどちらと考えればよろしいんでしょうか。

【上野座長】では,事務局のほうから。

【大野著作権課長補佐】事務局としては,今回はあくまで公衆送信に伴う補償金ですので,法律上位置づけるものとしては2号の電子出版に関わる出版権者だと理解しております。ただ,その場合,紙の出版権しか設定されてない者については,2段落目のその他の出版社の利益確保という観点での配慮していく必要があるものと理解しております。

【上野座長】ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。田村先生,お願いいたします。

【田村委員】細かなことだと思いますけれども,出版権に関し,登録はどのように扱いますでしょうか。登録されていることが前提のほうがよろしいような気がいたしましたが。

【大野著作権課長補佐】御案内かと思いますが,出版権自体の設定は多くなされていますが,登録されているものは非常に少ないとう実態がございます。その中でどう出版権者に利益還元していくかという観点から見ますと,事務局としては登録まで求めるのは少しハードルが高いのではないかという理解の下,ここでは登録について言及していないところでございます。

【上野座長】田村先生,お願いいたします。

【田村委員】どうもありがとうございます。実態を踏まえて意識してお書きになられているなら,事務局の案で結構です。

【上野座長】ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。竹内先生,お願いいたします。

【竹内委員】ありがとうございます。3ページの上から2つ目のパラグラフに書かれておりますけれども,図書館等において過度な事務的な負担が生じない形でスムーズに運用できる仕組みとすることが重要じゃないかという観点から見たときに,5ページから6ページに書かれていることについて幾つか懸念する点がございますので,それについて申し上げます。

まず,6ページの上から2つ目の「その際」というところでしょうか,補償金の対象から除外する著作物というのは,ここに例えばということで,国の広報資料等が上がっておりますけれども,当然のことながら,保護期間が終了しているものもここに含まれるのだろうと思っております。そうしますと,ある送信をするときに,それが補償金の対象かどうかというのは,その都度確認をするということが求められるということかということがまず確認したい1点目です。それは図書館サービスのフロントラインにいると,相当厳しいのではないかというのが,容易に予想がつくことです。

それから,2つ目ですけれども,ローマ数字のⅱのところの料金体系と水準のところなんですが,著作物の種類とか性質とか分量とか等々の属性によってかなりきめの細かい措置を,ということが書かれているんですけれども,これも図書館の種類によっては大変大きな負担がかかることになるのではないかと思います。例えば国立国会図書館が送信するときに,これは申込者が学生かどうかということを一々確認,判断するのか?といったような話は当然出てくるわけでして,これも現実的にはかなり厳しいのではないかなと思いますので,これは一律の料金体系が必要なのではないかという気がいたします。

それから,6ページの最後のところですけれども,これは先ほど申し上げたことと関わりますけれども,徴収した補償金を適切に配分するために,図書館側にかなりきちんとしたデータを残すということになります。これは図書館の種類によって恐らくきちんとしたデータがほとんど自動的にとれるというような仕組みをお持ちになっているところもあるとは思うんですけれども,そうではないところも多分あると思います。こういうサービスをやろうという意欲のあるところはきちんと環境を整備しろということなのかもしれませんけれども,そういった問題はあると思います。これもちょっと気になるのは,一つ一つ保護期間が終了しているものなのかどうなかを,きちんと確認をして送信しないといけないのだろうかということが大きな疑問になってくるわけですけれども,そこまで正確にやったところで,例えばオーファンワークスなどがかなりの割合含まれているといったようなことまで考えてくると,適正な配分ができるのかということも出てまいりますので,集めるところだけきちんとやれというのもちょっとバランスに欠くのではないかという気がいたします。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。幾つか御指摘いただきましたけど,では,この点に関して事務局からお願い致します。

【大野著作権課長補佐】まず保護期間との関係でございますけれども,保護期間が満了しているものはそもそも著作権法上の保護が及びませんので,今回の権利制限を待たずに現行でも図書館が送信して構わないものでございます。そういう意味で,今回の制度設計とは直接は関係がないのではないかと理解しております。

一方で,6ページのローマ数字ⅰ,対象範囲の2段落目に書いている補償金対象から除外する著作物を設けるかどうかについては,保護が及んでいる著作物であることを前提に,一部のものについて補償金の対象から除外するというオプションを示しております。このオプションをとる場合には,除外対象に該当するかどうかという判断が図書館側で必要になります。

ただ,それは,送信時点で判断するのか,料金を後払いにして,事後的に確認した上で,除外対象に該当すれば請求しないとか,判断のタイミングなどについては様々運用の余地があろうかと思います。

それから,きめ細かな料金設定につきましては,おっしゃるとおり,スムーズな運用との兼ね合いがかなり難しい部分はあろうかと思います。一方で,利用者側から見て,一般の料金よりも低廉な額で利用できるということは重要ですし,また権利者側から見て,著作物の価値など,権利者に与える影響に鑑みて適切な対価を得られるというのも重要だろうと思いますので,そのあたり兼ね合わせながら,運用の中で具体的に決めていく必要があろうかと思います。

また,先ほどしっかり説明しませんでしたけれども,補償金額の料金体系,水準については,法令レベルで規定することではなく,指定管理団体が案をつくって文化庁が認可するというスキームでございますので,法改正をした後,その運用の中で関係者で議論していく上で決めていくべきものだと理解でございます。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。前田先生,お願いします。

【前田座長代理】ありがとうございます。先ほど竹内先生から御指摘があった点についてなんですが,今事務局からお話がありましたように,保護期間内かどうかということは,当然図書館側でチェックをしなければいけないことになってくるんじゃないかと思いますし,それから,ただし書をつける場合に,ただし書によってそもそも31条1項1号の送信ができない場合も出てくるわけですので,著作物ごとに,31条1項1号の対象になるものかどうかという御判断を図書館側でしていただくことはどっちみち不可避になってくるのではないかと思います。そのため,著作物の属性について管理をしていただくことは必要ではないかと思います。それに対して,利用者の属性によって変えることについては,必ずしも必須ではないのではないかと思います。

それから,先ほど生貝先生から個別の送信ごとの補償金だけではなくて包括的な料金体系も設けたほうがいいのではないかというお話がありましたけれども,大渕先生からお話がありましたように,個々の送信実績を正確に把握できることが今回の31条1項1号の改正案では前提になっているんじゃないかと思います。つまり,この著作物のこの部分を送信してくださいというリクエストがユーザーからあって,それに応じて個別に送信がなされるわけですので,その記録を残すとことはそれほど難しいことではないんじゃないかと思いますので,そうであるならば,補償金も,個々の送信実績を正確に把握・管理することを前提として,個々の送信実績に応じたもの1本でいいのではないかと思います。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。じゃあ,竹内先生からお願いいたします。

【竹内委員】先ほどの私の問いかけに対しましていろいろお答え,また御意見いただきました。ありがとうございました。それでちょっと気になっているのは,確かに保護期間が終了しているかどうかということについては,図書館側が確認する,あるいはこれについては,ただし書に相当しないかを確認するということが必要なわけですけれども,そういったことをきちんとかつ簡便にやっていくためのデータベースなり何か調査のためのツールがちゃんと整備されるかどうかがこの制度が適正に運用されることの前提になるかと思いますので,そういったものをきちんと構築していくということ自体も,ぜひ御検討いただきたいということです。

あと,それから,先ほど私が補償金額に差をつけることについていかがなものか,現場が大変なんじゃないかということを申し上げましたけれども,例えば大学図書館がこのメカニズムに参加するときには,大学図書館については教育的な観点から低廉な額にするといったようなことはあり得るのではないかと思っております。しかしながら,そうじゃない図書館がこのシステムを運用するときに,一人一人のユーザーを見ながら,その人の属性を見てやっていくというのは大変厳しいのではないかと考えられるところです。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございます。では,福井先生,お願いいたします。

【福井委員】今日私は常に出遅れる,そういう流れの日のようでして,大体今のお話で尽きたかなと思いますけれども,竹内先生の問題提起に対して,前田先生のお答え,これは大きな視点を提供したと思います。

私はこの点は双方の努力じゃないかなと思っています。今回指定管理団体が想定されているわけで,それはともりなおさず集中管理に向かって一歩さらに歩みを進めるということだと思うんですね。そうなれば,作品が今現在どういう権利上のステータスであるのか,保護期間が満了しているのか,きっちりと管理されている状態であるのか,これはやっぱり権利を持つ側,もちろん出版社含めて,権利を持つ側が最も把握できるわけであって,竹内先生がおっしゃったみたいにデータベースをしっかりと管理していく,これは分配にとっても必要なことになっていくんじゃないかと思うんです。

一方で,きめ細かな利用のニーズに応えていって,それを把握し,ちゃんと報告できるようにする。それは図書館がやっぱりしっかりと体制を整えていかないといけないことだと思うんですね。その双方の努力によって,本当に権利の状況に応じてしっかりとした補償金が分配されていくような体制をこれを機会につくっていくこと,それが大渕先生のおっしゃった本当のWin-Winな補償金の前提になっていくと思うし,そのための第一歩じゃないかなと思いました。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございます。生貝先生,お願いいたします。

【生貝委員】ありがとうございます。恐れ入ります。先ほど前田先生からいただいた点について,おっしゃるとおり,今回原理的には利用実態というものをかなり高い粒度で把握できるんじゃないかと思います。それでも,やはり可能性として,包括徴収の可能性を残しておいたほうがよいのではないかという可能性については,例えばまず理念的なレベルとして,35条については,例えばこれはまさに立法段階からと存じておりますげ,やはり学校で授業や教育で使ったりする著作物といったようなものを使えば使うほどお金がかかる,従量課金でお金がかかるというのは,これはやはり教育の推進というところとの理念との関わり上望ましくないのではないか。このことは権利者と教育側でも共有された上で,いわゆる従量課金という方法を注意深く避けているものだと考えております。

今回あくまで原則は31条のことでございます。けれども,やはり35条といいますか,大学,あるいはこれは次回の論点だと承知していますけれども,初等・中等教育のコピーですとかを図書館に含めていくかといったようなところとの関わりの中では,35条で議論されてきたことの蓄積も併せて考慮する意味があるんじゃないかということがまず1点目。

それから,もう一つとして,これはこれで少し補償金のとり方も含めて詰めていく必要があるかと思うのですけれども,今までの複製というものを前提とするのであれば,利用者が図書館の管理の下で,ちょっと注釈でも書いていただいておりましたけれども,それに基づいて自分で送信をするといったようなことも,これ,これからのまさにちゃんと仕組みをどう政省令レベル含めてつくっていくかというところにも含まれるものだと思います。

そうしますと,本当に年額ですとか,そういう形でしっかりととったほうが,実態的な金額というのがサンプルを含めて計れる場合もあるのではないのか。そういったようなことが幾つか考えられるということです。

それからもう一つ,最後,利用者の属性ごとにというのは,確かに図書館側で,国会図書館で学生かどうか,年齢かどうかといったようなことを確かめるのはかなり難しいと思います。学生証出してもらうという方法もあるとは思うんですけれども。まさに僕がイメージしていたのは,先ほど竹内先生がおっしゃったように,結局支払い義務者は図書館の設置主体でございますので,そこがどのぐらい支払うかというところに帰着するわけでございますから,これは館ごとに整理するという形が比較的シンプルに考えられるのではないか。

というのも,こうして私がある種の価格ですとかやり方に差をつけるべきなんじゃないかと申し上げていることの大きな理由は,妥当な価格差別というのが,こういったお金が関わってくることには極めて重要なのだろうと。例えば,本当に学生の払える金額を念頭に一律の補償金を課してしまうと,これ,かなり低廉な額にしないと回らなくなってきてしまって,結局払える人からも取りはぐれる部分が大きくなってくるんだと思います。

個人的には,払える人だけからは,できるだけしっかりととっていただきながら,そうでない方からは,ある程度の配慮をしていくと。それが結局権利者の方々にとって補償金の総額の最大化というところにも僕はつながってくるんじゃないかと考えているところでございます。すいません,長くなりまして,以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。

【田村委員】今の生貝先生のおっしゃることはいろいろ逐一ごもっともなところございます。やはりこれは基本的には事務局の案のとおり,認可制ということで,福井先生のお話に結局は賛成ですけれども,双方の様々な努力の上で,その状況をにらんで,団体が出してきたものを認可すると。その枠組みの中で考慮していただければよい話で,我々はフィジビリティがよく分かりません。そこで,基本的には市場のほうに委ねたほうがという生貝先生のお考えのようなアプローチがあると思うので,基本的にはここでというよりは,いろいろなことを考えてくださいと,そういう御提案であるように生貝先生のお話を伺いました。ということで,私は事務局の案に賛成したいと思います。

【上野座長】どうもありがとうございました。大渕先生,お願いします。

【大渕委員】先ほど言われた点は重要だと思うのですが,これは,35条と比べてみるとよく分かります。35条は送信については今までなかったのをやるという話なのですが,図書館のほうは,改めて考えてみますと,今までのレベルのサービスは無償で受けられるわけです。今までのは補償金をかけない権利制限ですから。それに加えて,お金を払ってでも高いサービスを欲しい人はやれたほうがWin-Winではないかというのがそもそもの発想なので,35条などとは非常に違います。35条の場合,高いお金を払うから,よい教育を受けるためには補償金を払って行うという発想から始まったものではないかと思います。図書館の場合には,今までのものを無料の1階とすると,有料の2階を新たにつくって,ある意味オプションがあって,無料で低いサービスでもよいという人は1階に入っていただくし,お金を払ってでもよいサービスが欲しい人は2階に入るという2段階構造になっており,35条とは全く構造が異なります。そのような観点からいうと,個別だというだけではなくて,補償金は往々にしてノミナルな額でよいと思われている方もいらっしゃるかと思いますが,31条のほうは,そのような話ではなくて,リアルな実額で,積極的にお金を払ってでも高いサービスが欲しいという,そのような性質のものなので,やはり35条とは違うものとして認識しないと前に進まないのではないかと思います。そのようにすると,35条的な額を定めるのは難しいと思いますが,こちらのほうは実額に近いある程度のレートを定めれば,あとは機械的に掛け算で済むような話なので,ソフトさえ組めば実現可能で,いろいろ難しいことを考えなくても,そこそこの実額を払っていただければ高いサービスを提供するという,割と発想がしやすい形になると思います。

【上野座長】どうもありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。村井先生,お願いいたします。

【村井委員】先生方の御意見伺っていて,賛成するところが多いんですけれども,個人的に思うところとしては,生貝先生も強調されているように,図書館資料の利用というのは,教育や研究という社会全体に利益が及ぶような公益的な側面がありますので,なるべく利用者に負担感がない形でサービスを提供利したほうがよいと思います。

そしてまた図書館の事務的な負担もやはりなるべく少なくしたほうがいいというのは既に資料に書かれているとおりだと思います。なるべく現実的にスムーズに機能するような制度にすることが必要かと思います。

そう考えると,今回のたたき台ではかなり厳密な個別的な課金を前提にされているようにも見えますが,生貝先生の御提案されているような包括的な徴収も選択肢としてあってよいように思います。

例えば,サービスを提供する段階では,存続期間のチェックなどをも厳密に行うことは非常に難しいと思いますので,一律の料金でサービスとして提供しておき,ただし,送信サービスとして何を提供したかというのはきちんと記録がとれると思いますので,補償金の配分のときに実績をなるべく正確に反映させるような配分をするという形で機能させる,という可能性なども考えられるかと思います。

【上野座長】どうもありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。事務局からお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】ありがとうございます。今の包括制か,個別制かという観点について申し上げますと,資料にちょっと書いておりましたけれども,今回の利用は,図書館資料を,その本来的な利用として,調査研究目的で利用するという性質を有するものですので,35条のように授業の中でその場限りで使うという場面とは異なるのだろうと考えております。

その際,包括制か個別制かというのは形式面ですけれども,仮に権利者の逸失利益を補塡できるだけの水準にするという共通認識の下で包括制にする場合に,送信し放題の場合を想定して額になるため,それはそれでかなりの額になるのではないかと思っております。それが大学図書館や公共図書館などのニーズに合致するかという観点での議論も必要なのではないかと感じております。

いずれにしましても,先ほど申し上げましたとおり,この補償金は法令で決めるものではありませんので,指定管理団体が様々なフィージビリティも踏まえて,また利用者側の御意見も聞きながら案をつくって文化庁で認可していくというスキームになります。その中でいろいろな観点が考慮された上で合理的な額に設定されるんだろうと理解しております。

【上野座長】ありがとうございます。田村先生,お願いいたします。

【田村委員】事務局の今の説明でいろいろと明らかになったことがございます。現在の文章には,方向性が包括ではなく個別であるとか,補償金額については云々と,かなり縛りがあるようなことをお書きになっています。これは,どちらかというと,このワーキングチームで議論するためのたたき台のような気持ちでいたほうがいいんでしょうか。というのは,おそらくこれを法律に書き込む御意図は全くなくて,こういうふうにも考えられるけど,あとは全部認可制の範囲内でぜひ管理団体のところに頑張って決めてもらいたいという,そういう形になるように思います。この文章は,あまりこれこれこうせよという指示みたいなものにならないという理解でよろしいでしょうか。そうであれば構わないです。しかし,もし何か指示がある,何かある程度の拘束力あるとなると,なになにすることも考えられないかなど,もう少し弱含みにしていただいたほうがよいような気がします。私は,生貝先生あるいは村井先生のおっしゃっていた観点も,大事だと思っておりますので。

【上野座長】ありがとうございます。

【大野著作権課長補佐】いずれにしましても,指定管理団体制をとる場合には,指定管理団体で利用者側の意見も聞きながら案をつくるということになりますので,その際の基本的な視点といいますか,ベースとなる考え方を示すものにすぎないということは言えるだろうと思っております。指定管理団体制をとるという方向で良ければ,最終的なまとめを記載するに当たっては,そこも考慮しながら文章をつくりたいと思っております。

【上野座長】ありがとうございます。ほかにはよろしいでしょうか。では,生貝先生,お願いいたします。

【生貝委員】ありがとうございます。一応誤解を避けるために申し上げますと,田村先生がおっしゃっていることと恐らく完全に同じでして,原則は恐らく個別になるんだと思います。他方で,様々な要素を含めて最もよい制度をつくっていく上で,例えばここに書いてある原則がそのまま条文などに表れてしまうと後々のしかるべく柔軟性というのも必要以上に減ってしまう部分もあるかと思いますので,まさに最終的な形というものを,様々な要素を,事務局御説明いただいたとおりのものを反映できる形にしていただけるのがよいのだと思います。以上です。

【上野座長】ありがとうございます。ほかにはよろしいでしょうか。

【上野座長】大渕先生,お願いいたします。

【大渕委員】認識の問題かもしれませんが,これは,31条の送信サービスの補償金の基本思想のようなものが示されていて,先ほどの話をお聞きしていると,それぞれ管理団体ごとに,例えば個別型でも包括型でもいかようにも決められて,というような感じにも聞こえるのです,それだとかえって混乱するのではないかと思います。そのような話というよりは,すべきではないか,固めてとおっしゃったのですがも,やはり35条としての補償金は,いかようにも決めてよいというわけではなくて,35条なりの包括的な補償金なのに対して,こちらは個別的なものなので,基本線は決めておかないと,ここから先の議論も進めにくいし,35条のほうも35条なりのもので決まって,それで運用されていると思います。どちらでも選べるとなっていて,包括的なものをたまたま管理団体が選びつつあるという話ではなくて,もともと包括的なものを想定して制度ができているし,こちらのほうは,今までもともと1階のほうはただで利用できるのに,お金を払ってより高度なサービスを欲しいという,マーケット的な話でもあるので,なかなか包括のほうに行きにくい話で来ています。そこのところはどちらでもありで指定管理団体ごとに決めるというのは制度として不安定になると思います。

そのような意味では,ここに書かれている形で今まで考えてきた補償金なので,そこのところははっきりさせておいたほうがかえって現場の混乱がないのではないかと思います。35条は35条型だし,31条型というのは別のものなので,条文にどう書くかは別として,最初から決めておいたほうが混乱が少ないのではと思います。

【上野座長】ありがとうございます。よろしいでしょうか。

それでは,時間も大分なくなってまいりましたけれども,最後,(5)の「その他」のところにつきまして御意見,御質問がございましたら,お出しいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

【生貝委員】じゃあ,今日は口火役ということで2点ほど簡単に申し上げます。2点ございまして,まず脱法行為の防止,マル2のところでございます。このことというのは大変重要であって,そして,特に個別補償金というものをある種念頭に考えていくと,例えば,そのほかにも,同じ書籍から同じ利用者が何回も求めないといったようなところも含めて,この記録の管理というのが恐らく大きな論点にはなってくるのかと思います。そのときに,僕のホンライ専門との兼ね合いで申し上げますと,やはり読書のプライバシー,図書館利用者の秘密といったようなものというのは,特に歴史的にも強く慎重に管理されるべき性質の高いところでございますので,やはり正確な管理というものを可能にしつつも,しかし,他方でどのくらいの期間保持するのかでありますとか,どんな情報を保持するのか,本当に名前までとっておく必要があるのか,ないのかといったようなところも含めて,ここは念のためでございますけれども,ぜひ丁寧な議論をした上で運用ができるとよいのだろうと考えているところでございます。

それから,マル3の契約上の義務との関係に関しましては,これもむしろ図書館側ですとか利用者側からいろんな議論もあるところかと思うんですけれども,私自身は,図書館が契約しているサクシュのデータベースの利用契約を優先する方向を原則としていくということについて違和感がありません。特にこの契約のオーバーライド問題というのはかなり難しいところでございますけれども,様々な議論を今国際的にも見ている中でも,といいますか,原則的にも,やはり機関と機関がしっかりと交渉して契約して結んだものというのは契約として重要性の高いものでもありましょうところ。それはちゃんと,条文ではないにしてもピン留めしておくことがこれからの電子書籍,電子論文等の健全な発達にも極めて重要なところなのかなと感じているところです。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。竹内先生,お願いいたします。

【竹内委員】ありがとうございます。7ページの(5)「その他」は,まずマル2の脱法行為のところですけれども,確かに図書館等において同一の者から同一の書類についての送信要求があった場合の管理を慎重に行うということは非常に重要だと思いますけれども,それなりにこれも事務的な負担も相当大きいだろうということが想定されます。ただ,これを一生懸命やったところで,同一の者という利用者が複数の図書館から取り寄せてしまったらもうどうしようもないという問題もあるわけであって,そこら辺では実現性とのバランスの問題も重要かなと考えております。

それから,その後に補償金額の水準で,そもそも脱法行為が行われる懸念を解消し得ると書かれておりますけれども,これは相当高い補償金額が想定されているんだろうと思います。場合によっては,資料全体の送信を受ける場合には,結局本1冊買うほうが安いというような水準の補償金額が設定されるということを想定しているのかなと推測するわけですけれども,それは先ほど議論のあった,逸失利益の補塡ということと本当にそれが整合するのかどうかというのは私にはよく分からなかったところです。

それから,マル3の契約上の義務等の関係ですけれども,確かに契約の問題というのは非常に大きくて,基本的には契約というところでいくわけで,先ほど生貝委員からお話があったように,図書館等がしかるべき交渉をきちんとやるということが重要であるということは全くそのとおりだと思うのですけれども,ただ気をつけておきたいのは,出版物というのは,まさにユニークなあるものであって,それが買えなければ代替物があるというわけでは決してないということです。つまり,代替物がないものを買うときに,たとえその条件が図書館にとって受け入れがたいものであっても買わざるを得ないということはあるわけであって,そのときにも契約上の義務というので本当に縛られるのか,オーバーライドの問題等が生じないのかということについては御議論いただく必要があるのはないかと考えております。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。田村先生,お願いいたします。

【田村委員】竹内先生から議論したほうがよいのではということなので,意見を述べさせていただきます。私は,事務局の案に賛成で,契約ベースでいろんな条件を付してあるからこそ図書館にも出せるということになるのではないかと思います。もし図書館に行ったときにオーバーライドが容易に認められる,容易かどうかという問題はあるかもしれませんが,認められるのでは,怖くて,図書館にはなかなかデータベース提供できないなんていうことにもなりかねません。そこで,基本的には契約優先でいいと思います。それで,契約があるということは,電子書籍市場が成り立っているということですから,むしろそっちで買っていただければよいと思います。もし電子書籍市場のほうで入手困難であれば,別のほうで入手困難資料の扱いのほうになっていく,そして入手困難なほうは規程の趣旨が違いますから契約があってもオーバーライドを認めていくという話になるのではないかなと思っていますので,事務局の案でよろしいのではないかと思います。

【上野座長】ありがとうございます。大渕先生,お願いいたします。

【大渕委員】今の8ページのところのマル3の契約上の義務との関係について,私は,これを最初見たときに,あまりに当然過ぎて,念のため書いてあるのかと思ったのですが,深い意味があるようでして,私はこれは当然だと思っております。オーバーライドというのかどうか分かりませんが,契約があっても,新31条でそれがなぎ倒されるのなら,どなたか言われたとおり,怖くてそんななぎ倒すような図書館にはそもそも契約してデータを提供しませんということになって,コンテンツが来なければ送信もできなくなってしまって,結局自分で自分の首を絞めることになってしまいます。やはりきちんと契約で来るデータだからこそ流せるということで,大本が契約なので,新31条で契約をなぎ倒すというのはとても考えられないと思います。そのような非常に深い意味で,別の意味で当然のことが書かれているかと思います。これは大前提で,これを崩したら,結局,送信サービスは始まったけど,コンテンツが来ないから流せないということになって終わってしまいます。きちんと大本のところをリスペクトして,契約をなぎ倒さないというのはきちんとピン留めしておかないと,せっかくの新31条が全く空になってしまいますので,ここはきちんと押さえておく必要があると思います。

【上野座長】どうもありがとうございました。生貝先生,お願いいたします。

【生貝委員】ありがとうございます。さっきの補足で,今先生方からコメントいただいたこと,基本的におっしゃるとおりかと思うんですけれども,ただ,念のため,さっき,今回デジタル送信を可能とすべきところについて契約の優先説を申し上げましたけれども,31条のほかの条文,例えば保存・複製でありますとか,そういうところは,これはむしろ逆向きで考えるといったようなことももしかすると併せて議論といいますか,ここで結論が出ることではないんですけれども,分けて考えとく必要があるんだろうと思っています。

この辺,国際的にもオーバーライド問題はかなり条文で規定するようにはなってきておりまして,例えばドイツでも,むしろ保存・複製ですとか,そういうところは権利制限が優先するということを明文で書いていたり,あとは,まさにDSM著作権指令等でもそのこと,これ,教育の権利制限も含めて契約が無効であるといったようなことを,一つ一つの条文や条件ごとに細かく規定していっているものでございます。

でございますので,個人的には,ここでスタンスをある程度示すことというのは,あくまで31条の中でも,ニューの部分を対象にしているということは明示しておいていいんじゃないかと理解しております。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。

それでは,大変充実した御議論ありがとうございました。事務局には,本日の議論を踏まえまして,本課題に関するワーキングチームとしての取りまとめ案を御作成いただければと存じます。次回の会議の冒頭で改めて委員の先生方には御確認,御議論をいただきたいと考えております。

その他御質問等特段ございませんでしょうか。

それでは,本日はこれぐらいにしたいと思います。最後に事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】本日は大変活発に御議論いただきましてありがとうございました。

次回につきましては,既に御案内しておりますが,11月9日,月曜日の15時からの開催を予定しております。先ほど座長からございましたとおり,今日の議論を受けて,この部分についても取りまとめを作成したいと思っておりますので,引き続きよろしくお願いいたします。

【上野座長】それでは,これをもちまして第4回ワーキングチームを終了させていただきます。

本日は長時間にわたりましてどうもありがとうございました。

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