第8回国語分科会漢字小委員会・議事録

平成18年6月13日(火)

10:00~12:00

丸ビル・コンファランススクエア・ルーム1

〔出席者〕

(委員)阿刀田分科会長,前田主査,林副主査,阿辻,岩淵,甲斐,金武,東倉各委員(計8名)

(文部科学省・文化庁)平林国語課長,氏原主任国語調査官ほか関係官

〔配布資料〕

  • 1 第7回国語分科会漢字小委員会・議事録(案)
  • 2 第8回漢字小委員会における検討事項

〔参考資料〕

  • 1 漢字小委員会で検討すべき今期の論点(第6回漢字小委員会確認)
  • 2 文部科学大臣諮問(平成17年3月30日)

〔参考配布〕

  • 1 市町村名の名称について
  • 2 ワープロ・パソコンによる文章作成について(「国語に関する世論調査」から抜粋)

〔経過概要〕

  • 1 事務局から,配布資料の確認があった。
  • 2 前回の議事録(案)を確認した。
  • 3 事務局から参考配布の資料について説明があり,その後,説明に対する質疑応答が行われた。
  • 4 事務局から配布資料2についての説明があった。説明に対する質疑応答の後,配布資料2に基づき,参考資料1の論点2について意見交換を行った。
  • 5 次回の漢字小委員会は,予定どおり,7月10日(月)の10:00から12:00まで,三菱ビル(地下1階)M1会議室で開催することが確認された。
  • 6 質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。

参考配布1・2に関して

○阿辻委員

 ワープロ・パソコンによる文章作成について,新たに調査をするとおっしゃっていましたけれども,参考配布2の「平成11年1月調査」のQ14の(ア)~(オ)を,例えば,今年や来年に調査をされるんだったら,「携帯電話」というのは調査対象に入れられますか。それによって,大きく数字が違ってくるだろうと思います。

○氏原主任国語調査官

 はい,入れることになると思います。最近の文化庁の世論調査では,情報機器に関連する問いは,すべて「パソコン・携帯電話」という形で,携帯電話とパソコンを並べて聞いています。ですから,携帯電話についても当然聞くことになると思います。ただし,経年調査という点では,Q14の形で聞いていますので,この質問に関しては同じ形で聞かないと,経年による変化が分かりませんので,このままの形とし,それとは別に,携帯電話について聞くことになるのかなと考えています。
 聞いた方がいいというお考えからの御発言として受け止めたのですが,それでよろしいでしょうか。

○阿辻委員

 そうですね。機械を操作することによって,漢字仮名文字文を書くというレベルで言えば同じことですからね,コンピューターであろうが携帯電話であろうが…。それを使う目的が違うということなのでしょう。携帯電話のメールというのは原則的に印字されない,プリントアウトされないということを想定しています。それから業務用の書類などを作ることは,めったにないということですので,ユーザーのニーズはもちろん違うんですけれども,機械を操作することによって漢字が書けるという点では,これは手書きの苦労から解放されるということの裏返しですので,そういう視点では携帯電話というのもメディアの一つとして,どこかの形では入れていくべきだろうなと思います。ただ,経年調査のレベルで考えると,Q14にそのまま入れると大きく数値が変わる可能性がありますので,今おっしゃったようにそれは別処理の方がいいだろうとは思い ます。

配布資料2に関して

○岩淵委員

 これは本来,法務省に伺うべきことなのかもしれませんが,平成16年の人名用漢字は「一般社会において使用頻度が高いもの」という考え方で選ばれているわけですね。しかし,人名用漢字は,以前においては人名に広く使われている文字ということで,人名用漢字として使いたいという要望の頻度で選ばれていたように思いますが,この変化には何か理由があるのでしょうか。

○氏原主任国語調査官

 阿辻委員,甲斐委員,金武委員と人名用漢字の委員が3人いらっしゃいますので,お答えいただいてもよろしいでしょうか。私も幹事をやっておりました。

○阿辻委員

 私の認識では,戸籍法によって,「常用にして平易」という条件が人名に対してかぶせられていて,何をもって常用とするか,何をもって平易とするかというフィルターを作って,その「常用にして平易」である積集合の中で,現在人名に使えないものを拾い上げるというプロセスで進められてきた。そこで,必ずしも人名に関するデータ処理,これまでの名前に関してどれだけ使われているかという処理は,そこでは,ほとんどされていなかったというふうに記憶しています。

○金武委員

 ちょっと補足しますと,おっしゃったように今回の追加前までは,人名に使われるものから人名用漢字を選んでいたと思います。今回は前に最高裁の判決があって,法律用語によれば,名前にふさわしいということではなくて,単に常用平易であるという,その法律条文に適合するものから選ぼうというふうになった。法務省に言わせれば,方針転換したわけではなく,法律にそのまま忠実になったんでしょうけれども,以前とは選定方針が転換されたことは明らかです。つまり,今まで人名に使われるものとしてずっと増やしてきたのに,今回はもう頻度が高ければ,あるいは常用平易と認 められるものであれば,すべて入れようというふうに変わったと思います。

○甲斐委員

 法務省の考え方の根本というのは,全国の市町村の戸籍担当者のところにどういうトラブルが蓄積されてきたかという,その数字が都道府県別に報告され,この漢字についてはこれだけの申込みがあったという,その数字が何百という漢字に出ておりました。それともう一つは,裁判に持っていかれているということがありました。そのことをざっと見てみると,かなりの漢字なものですから,そこで法務省としては,できれば,トラブルがあった漢字についてはできるだけ認めたいという方向だったんですね。これが一番大きな引き金になっていたように思います。
 それで,表外漢字字体表作成の資料の一つとなった,この『漢字出現頻度数調査(2)』ですけれども,この資料に基づいて選定されました。そういうこともあって,私どももついついというか,従っていったというようなところがあります。

○氏原主任国語調査官

 これまでは結局要望があったものを中心として,審議会の中で選定されてきたわけです。ところが,今回は要望がなくても要望が出そうなものというか,阿辻委員がおっしゃったように,法律としては「子の名には,常用平易な文字を用いなければならない」ということしかないんですね,ですから,常用平易と思われるもの,今後要望が出そうなものはもうあらかじめ全部入れておこうという,そういう発想で審議が進められていった。この発想の転換が非常に大きかったわけです。それで,これまでは実際に要望があったものを中心に選んでいたのに対して,要望がなくても出そうなものは全部まとめて選んでおこうというような,方向が明確にあった。その辺りのところが非常に大きかったと思います。

○金武委員

 「要望がなくても常用平易なもの」ということで,「糞」とか「癌」とか入っていましたものですから…。

○岩淵委員

 それがやはり問題かと思います。なぜこんなことを言うかと申しますと,実は,昨日,テレビを見ておりまして「蓮音(れおん)ちゃん」という2歳ぐらいの女の子,ある芸能人のお子さんが出てきました。その名前の漢字表記ですが,「レオン」という名前が付けたかったからこそ「蓮音」と当てたのだろうと思いますが,そのお子さんが大きくなった時に一体どういうふうに感じるだろうかと大変気になりました。そういう目で,今,新聞やテレビに出てくる子供たちの名前を見ておりますと,常用平易ということが問題なのではないか,何でもいいという社会的な風潮が広がり過ぎたのではないかという気がいたします。
 従来の名前の付け方は御存じのように,子供がこうあってほしいという願いを込めて名前に使う字を決めてきたと思います。それがもう完全になくなってしまって,ただ音の面白さだとか,あるいは姓名判断の画数の吉凶だけで決めていくという社会的な風潮を,この漢字小委員会として黙って見ているのか,あるいは何か言うのかということを考えてみますと,人名用漢字の決め方については非常に疑問があるという点があります。
 また,人名ではなく地名ではどのようになっているだろうかと思い市町村合併でどのような名前が付けられているのか,またどのような文字が使われているのかを調べてみました。1999年3月現在では13自治体が仮名書きの市町村名を使っていましたが,2006年3月には44自治体が仮名書きの市町村名を使っています。実際には編入された市町村もありますから,従来は独立した自治体だった地域が新しく誕生した大きな自治体の一部になって,消えてしまった地名もあるとは思います。こうした傾向を見ていきますと,古い地名はともかくとして,新しい地名を作るときには仮名書きの方向に進んでいくのではないだろうかと感じました。こうしたことを考えますと,今の人名での漢字の使い方も非常に気になるのですが,韓国の例のように日本においても,人名も仮名書きの方向に進むかもしれないなどと考えたりもいたします。仮にそうであるとしますと,いたずらに漢字数を増やすよりは,制限してしまった方がいいのではないかという気がしたものですから,先ほどのような質問をいたしました。
 以前に,ただ漢字表を作って使うようにするよりは,目的に応じたセットを作った方がいいのではないかということを申したような気がいたします。繰り返しになるのかもしれませんが,固有名詞の問題を扱うときには,単に一つの漢字表を作ってよしとするのではなく,用途に合わせて使い分けることを考慮に入れてもよいのではないかということで,申し上げました。

○甲斐委員

 先ほどの人名用漢字ですけれども,今の岩淵委員の答えについては,阿辻委員の本に書いてあることなんですけれども,私どもは実はそういう方面の者で,この漢字は本来の意味で良くないから削ろうというようなワーキンググループを作って削り出したわけです。
 ところが,保護者となっている現在の国民の文字感覚は,おっしゃるように違っているんですね。例えば,人偏(にんべん)に愛情の「愛」と書く「あい」は,漢字の意味からいったら「ぼんやりしている」とかいうようなことで,これはやはり良くないというように私どもは判断するわけです。ところが,若い両親の場合は人を愛すると考えて,しかも愛に二画を加えてと,おっしゃるように姓名判断ですね,こういうことで,この字こそ欲しいと言う。
 そこで,私どもの漢字の字源に基づく,あるいは現在の漢字の意味に基づく取捨選択というのは,法務省から言ったら,先ほど言った全国の市町村の戸籍係でのトラブル解消に至らなかったわけです。それで私どものワーキンググループは結局駄目になったということで,今度は逆にすべてを公開して,「糞」も「膿」も,みんなからの反響を受けて,それを基にして委員が投票するという形を採ったわけですね。ちょっと後手に回ったところがあって,私ども委員をやっていた者としてはちょっと後ろめたいところがあるけれども,しかし全体を通して見ると,私どもは努力したというように言えるんじゃないかと思っております。

○阿辻委員

 岩淵委員がおっしゃったハイカラな名前ですけれども,「苺(いちご)ちゃん」というのが2年ほど前に話題になりまして,80歳になっても「苺(いちご)婆さん」かというような冗談があったんですが,その今2歳の「苺ちゃん」が80歳になった時には,周りの女性の名前は多分同じような,「檸檬(れもん)ちゃん」がいたりというような状況であって,「苺ちゃん」だけが突出してということでは多分ないだろうということなんですね。
 後もう一つ,今,甲斐委員がおっしゃった愛情の愛に人偏(にんべん)の字「あい」,あれは確かJISに入っていない文字で使用頻度もほとんどないということ。もう一つ,あの場で私が伺ってびっくりしたのは,月偏に「星」という字「腥」の,要するに「腥(なまぐさい)」という漢字なんですが,その漢字の希望が出ていて,太陽(日)と月だったら「明るい」だから「月」と「星」も「明るい」の意で,「あきら」と読んだらいいじゃないかというような希望が法務省の窓口に寄せられているというわけですね。その保護者の命名の動機としては,自分の感覚で,少子化の時代に生まれた子供を,「日」と「月」のありきたりの並べではなくて「月」と「星」の並べで「腥(あきら)」と読ませたいということは,動機として分からないでもないんですが,しかしそれは「生臭い」という意味で使う漢字ですので,その子供が自分の名前の意味を知ったときにはショックを受けるだろうと思いました。
 結局,この字は頻度数の問題で,常用という条件をクリアしなかったんで,幸いなことに外れているんですけれども,世間一般の命名の良識と言えば,語弊があるのかもしれませんけれども,モチベーション(motivation)はかなり年代によって変わっているというのが現実で,行政としては,かなり手広く対応せざるを得ないんじゃないかという気はします。

○甲斐委員

 質問というより不思議だなと思ったことなんですが,さっきの自治省の回答は「参考配布1」のどこでしたか,2枚目の一番下に「質問3」があるんです。ここの「(1)「ケ」の使用」というところがありますね。これは今でも,例えば「3か月」というのを,パソコンで打ってくるのを見るとこの「ケ」を使って「3ヶ月」ということがとっても多いんです。これはしかし地名で言うと,例えば「霞ヶ関」というような戦前からのものの場合は「ケ」が駅名,郵便局名などに残っているんだけれども,その後,戦後の場合は,例えば私の勤めていた国語研究所が前にあったところは「西が丘」で,平仮名の「が」なんですね。それは「ケ」が使えなかったからと聞いていたんです。それが,ここでよいとなると,ある時期は駄目だったが,またよくなったとかいうようになって,この符号,略字は何かまた復活したということになるのかなと思うと,これだけはちょっと私は納得し難いところがあるんですけれども,これはどなたか情報をお持ちの方がいた ら…。

○金武委員

 私は,情報というほどではなくて,いい加減な記憶ですが,戦後何年ごろでしたか,住居表示というものができて地番を整理しましたよね。その時の通達か何かには多分「「が」と発音する「ヶ」は平仮名にしろ」とか,当時は当用漢字でしたから,「当用漢字の範囲内にできるだけしろ」といったような何かがあったんではないかと思います。それで当時できた住居表示,東京の地名などを見ても,ほとんど当用漢字,今の常用漢字の範囲内で収まっておりますので,何かあったような気がします。何もないのに勝手に「ケ」を「が」にするということは考えられないように思います。東京の地名は,例えば「自由が丘」にしても「霞が関」にしても元の「ヶ」が「が」になっています。

○甲斐委員

 それで,質問から今度は意見です。これはやはり私はこの国語分科会,こういう表記法については自治省が不思議だというよりも,やはり文化庁の方が問題です。「1カ月」というときの「カ」はできるだけ「ケ」は使わないようにしよう,平仮名の「か」というと,またいけない,現行は竹冠の「箇」を使うわけですが,それを使おうとかですね。しかしできたら平仮名の「か」を使おうとかいうように,変えるような方向を目指していけばいいのではないかと思います。パソコンで「なんかげつ」と打って変換を押すと,片仮名の「カ」だったり,平仮名の「か」だったりが出てくるんですね。

○阿辻委員

 これは歴史的に由緒のある使い方で,地名の「三ヶ日」なんて「ヶ」で書きますね。あれは確か戦国時代の地名であるはずで,そういう「三ヶ日」という言葉を今の静岡県の「三ヶ日」という地名だけではなくて,歴史的に由緒のある,つまり実績があったとしたら,現在の住民の方々は当然古代とのリンクを考えるでしょうから,私どもはこういう「三ヶ日」の古戦場があるということで,自分たちの町が平仮名の「か」で書かれていて,でも,歴史の教科書に出てくるときには「ヶ」であるというのは,ちょっとちぐはぐな感じを持つのではないかなと思うんです。この文字は非常に古くから,おっしゃるように箇条書きの「箇」の竹冠の片割れを中国で略字に使っていたものが,日本人がカタカナの「ヶ」と誤解したという由来なんですけれども,多分一千年ぐらいはその使用の歴史はあると思います。行政の力で現在の地名を変えることは可能でしょうけれども,かなり由緒正しい地名として使われているところが,「吉野ヶ里」もそうじゃないですか,かなりあるんじゃないかと思います。

○甲斐委員

 いや,その地名の「ケ」を平仮名の「か」に直そうということではないんですよ,私が申しているのは。例えば,普通の文書で「3ヶ月」などと表記するときの「ヶ」は,できたら平仮名の「か」,あるいは現在の常用漢字の決まりの竹冠の「箇」の,そこへ持っていくというようなことです。それと,地名も半世紀だけは平仮名の「が」とか「か」とかいうようなものがあったわけですけれども,また新たに由緒ある方向へ戻るとすると,半世紀の平仮名はどうだったのだろうということになるから,そこだけは何か気になります。由緒ある方は地名ですからこれはもちろん尊重することになりますが,この半世紀の平仮名の「が」というのも由緒あることになりまして,大変混乱するんじゃないかということなんです。

○阿辻委員

 今の関連の質問で,「参考配布1」の次のページの3番目のいわゆる踊り字の「々」ですね,「小佐々町」が例に挙がっていますが,踊り字はこの「々」だけですか。ほかの「ゝ」などはどうなんですか。

○氏原主任国語調査官

 もともと公用文でも,踊り字はこの「々」しか認めていません。ここは,「々」の使用について聞いたことに対する回答ですから,ほかの踊り字については聞いていないんですね。ですから,恐らく駄目だとは思いますが,改めて問い合わせてみないと分かりません。

○岩淵委員

 前に戻ってしまいますが,「公用文作成の要領」には,地名,人名を仮名書きにすることも可能であると書いてあったように思うのですが,これは今も生きているのでしょうか。

○氏原主任国語調査官

 地名,人名の仮名書きについては,今,岩淵委員がおっしゃった「公用文作成の要領」に記述があります。昭和27年から使われていますが,当用漢字表から常用漢字表に変わったりしていますので,現在は必要に応じて読み替えや削除をしている部分があります。ただし,今も決まりとしては生きています。その「公用文作成の要領」に「4 地名の書き表わし方について」という項目があって,短いので読みますと,「1 地名は,さしつかえのない限り,かな書きにしてもよい。地名をかな書きにするときは,現地の呼び名を基準とする。ただし,地方的ななまりは改める。」とあります。これに続けて,「2 地名をかな書きにするときは,現代仮名遣いを基準とする。(ふりがなの場合も含む。)」,「3 特に,ジ・ヂ,ズ・ヅについては,区別の根拠のつけにくいものは,ジ・ズに統一する。」,最後に,「4 さしつかえのない限り,常用漢字表の通用字体を用いる。常用漢字表以外の漢字についても常用漢字表の通用字体に準 じた字体を用いてもよい。」ということで,仮名書きにしてもよいというのは,第1項目に書かれています。 それから人名の方ですが,同じ要領に「5 人名の書き表わし方について」という項目があって,そこに「1 人名もさしつかえのない限り,常用漢字表の通用字体を用いる。」,「2 事務用書類には,さしつかえのない限り,人名をかな書きにしてもよい。人名をかな書きにするときは,現代仮名遣いを基準とする。」と書いてあります。

○岩淵委員

 「さしつかえない」というのは,どのようなことですか。そこが微妙なところだと思いま す。

○氏原主任国語調査官

 そうなんですね,そこは明確に述べられていません。ただ,現実的な問題として言えば,この記述自体,現在は余り意味のないものになっていると思います。というのは,常用漢字表は固有名詞を別にしています。ですから,固有名詞である人名は,なるべく本人が使っているものを尊重して書くというのが,むしろ公用文でも主流となっていますので,何か特別に平仮名じゃないとまずいとか何かそういうことでもない限りは…。

○阿辻委員

 選挙の候補者のポスターはそうじゃないですか。

○氏原主任国語調査官

 平仮名書きにしているものが結構ありますね。

○阿辻委員

 あれは,多分,有権者には書きにくいという配慮があると思うんです。

○氏原主任国語調査官

 ええ,あると思いますね。特に難しい字はそうです。

○阿辻委員

 だから,例えば「太郎」と漢字で書く人も「たろう」と平仮名で書いても多分有効になっているんじゃないかなと思うんですけれども…。

○前田主査

 やはり公用文の書き方の決まりを改定しなければいけない時期になっているんですよね。ちょっともう今は現実には合っていないところがあるんです。

○氏原主任国語調査官

 確かにそうですね。今,読み上げた部分の記述は,昭和27年からずっとそのまま残っているところですので…。

○前田主査

 先ほど御説明いただきましたように,前回いよいよ固有名詞のことについての話題が出てきまして,それで今回は固有名詞について取り上げたいというふうなことになりました。前回お話いただいた方以外の御意見も伺いたいし,また,前回の補足のようなこともあるかと思いますので,そういった点から議論を進めていただければと思います。

○阿辻委員

 配布資料2の1枚目の一番下の「常用漢字表にない都道府県名漢字」というところをずっと見ていまして,(1)から半分以上は表外漢字字体表と新しい人名用漢字に入っているんですけれども,例えば(9)ですね。愛媛県の「媛」ですが,これが新人名用漢字に入っていないというのは,多分頻度数の問題,あるいは平易でないということなのかもしれませんが,この文字を含めて,例えば,奈良県の「奈」とか山梨の「梨」とか「熊」とか「鹿」とか,これらの漢字は必ずしも固有名詞専用の漢字というわけではないわけですね。岐阜の「阜」などというのは,あるいは栃木の「栃」,茨城の「茨」,埼玉の「埼」などもそうでしょうか,現実問題として地名でしか使われないというふうに認定することも可能だと思います。けれども,例えば奈良の「奈」ならば,「奈落」の底に沈むというときの「奈」ですよね。それから(9)は「才媛」の「媛」です。固有名詞というものを考えるときに,人名にせよ,地名にせよ,今思い付くままに言いますと,例えば「ウ冠」の関口宏さんの「宏」という字がありますね,あの字は多分,古典では「宏大」などという言葉で使いますけれども,現在の日本語では多分名前専用の文字でしょう。固有名詞だけに使用が限定されている漢字と,そうでなくて一般の語彙(い)にも使われる漢字という,才媛の「媛」であるとか奈落の「奈」であるとか,というふうに分けていきますと,都道府県名に使われているから固有名詞ですと認定するのは,ちょっとナンセンスじゃないかという気がするんですね。
 例えば,固有名詞であるとしても,「青山」などという地名はもうしょっちゅう使う漢字ですし,茗荷谷の「茗荷」というのは,茗荷という植物を指すんでしょうけれども,そういう一般の語彙にも使われる文字と固有名詞というのは,必ずしも線引きができないんじゃないかという気がするんですね。そうして考えてみますと,割とラフに枠を作って,奈良県の「奈」とか才媛の「媛」とかというものを全部調査対象というところへ放り込んでみて,後はデータ処理か何かで浮かび上がってくるとすれば,例えば,もしもその才媛という言葉が使用頻度数が高いとすれば才媛の「媛」を新常用漢字に,実際にはそんなに使用頻度はないと思いますけれども,また奈落の「奈」が高かったりとすれば,それは別に奈良県に使われている固有名詞だというふうな認識を持つ必要はないんじゃないかという気がするんです。
 一般の語彙に使えるかどうかという線引きは,かなり有効な考え方ではないかと, 自分では思っております。

○氏原主任国語調査官

 今の阿辻委員の御意見に関連して,1点だけ補足させてください。例えば,奈良の「奈」は「(S26)」と書かれ,昭和26年と明記されていますけれども,この字も表外漢字字体表の考え方で行ったら,当然,表外漢字字体表に入っていたと思います。ここで奈良の「奈」がS26となっているのは,昭和26年に人名用漢字になったということを示しているにすぎません。表外漢字字体表の作成のときには,その当時の人名用漢字(285字)はすべて対象外とするという基本方針があったので,外れたわけですが,同じ条件で選定していれば,ここに挙がっている漢字は,恐らくすべて表外漢字字体表の中に入っただろうと思います。

○前田主査

 この固有名詞の問題は,前からたびたび議論をして,いろいろな意見が出てきていたわけですが,今日は固有名詞についての考え方をある程度固めていきたいというふうに思いますので,この問題に集中して議論をしていただければというふうに考えております。
 それで,固有名詞にかかわることが前の当用漢字表,それから常用漢字表の場合に,中に取り込むことを避けてきたわけですが,これについては別に検討するというふうな書き方であったかと思うんですけれども,それの検討がそれ以降十分に行われてきたかどうかというのは甚だ疑問で,今回はどういう結論を出すにしても,かなりそういった点についての議論をして,そして,こういうふうな理由だから,やはり今回も省くとか,そういう結論が出るのもやむを得ないとは思いますけれども,相当議論を深めていきたいと思うわけです。
 それで,注意しなければいけないのは,今まで出てきたところでも,同じ固有名詞といっても地名の場合と人名の場合とでは違うところもあると。もちろん重なるところもあるわけですが。ですから,その辺のところも注意しながら考えていく必要があろうかと思います。先ほど申しましたような使用率のこととかかわりますと,例えば,表外漢字字体表のときに大阪の「阪」とか堺市の「堺」とかというものが出ていたわけですが,これは地名として相当な使用頻度があるという現実があるわけですね。
 それからもう一つ先ほど話題になっておりました,例えば「腥(なまぐさい)」とか,いろいろな,ちょっと私どもから思えば疑問に思うような漢字が人名用漢字に入るかどうかという議論がありますけれども,こちらの方は,これから名前を付けるときに使っていいかどうかということがあります。ここのところは,やはり地名の場合と人名の場合と,相当違うところであろうかと思うんです。地名の場合には新しい市を作るにしても,それに付ける名前についてはかなりの制約があっても,それほど抵抗はないのではないか。例えば,それによって裁判というようなことは,ケースとしては少ないのではないかというふうなことがあるわけです。しかし,人名の場合には,これからも,そういった問題は大きな問題になってくるだろうと思うんです。そういうふうな点も踏まえて,地名と人名とを,やはりちょっと区別しながら,しかも最終的には全体を統合する形でまとめていかなければいけないのではないかと思うわけです。
 そういうふうなことで,どちらが先というわけではないんですけれども,この人名と地名に使われる固有名詞の漢字というふうなことを意識しながら議論していただければ有り難いと思っております。

○甲斐委員

 これは氏原主任国語調査官に聞きたいんですけれども,配布資料2の2番の枠についてなんです。「2 必要性があるとした場合,どのように対応していくか」とあり,「必要性がある」というのは,国語施策として必要があるということで,これはもう必要があるとみんな認めているわけです。その次の,選択肢で(1),(2),(3)があって,私は,「(1)「新常用漢字表(仮称)」の中で考えていくべきこと」とは余り思っていない。ただ,金武委員が「都道府県名ぐらいはせめて」と言う,ここは私も思います。問題は(2)と(3)なんですよ。(2)と(3)の考え方ですけれども,(2)は「新常用漢字表(仮称)」の外で考えていくというのは,私もそうしたいと思っています。これはやはりこの委員会で考えた方が良いと思うんです。それと(3)の兼ね合いですけれども,(2)の表の外で考えていくべきことというのは,我々はもう知らないということなんですか,それとも表の外で考えていきましょう,その際に何らかの方針を立てましょうということなんですか。ここがちょっと分かりにくくて…。

○氏原主任国語調査官

 この論点2にまとめてあることは,これまでの1年間の議論を整理したものなんですが,今,甲斐委員がおっしゃった論点2の2のうち,確かに(1)の「「新常用漢字表(仮称)」の中で考えていくべきこと」というのは分かりやすいと思います。これに対して,最初に見ていただいた参考資料2の下線の部分ですね,要するに文部科学大臣からの諮問の理由には,「…JIS漢字や人名用漢字との関係を踏まえて,日本の漢字全体をどのように考えていくかという観点から総合的な漢字政策の構築を目指していく必要がある。その場合,これまで国語施策として明確な方針を示してこなかった固有名詞の扱いについても,基本的な考え方を整理していくことが不可欠となる。」と書かれています。そうすると,総合的な漢字政策の一番中核になるのは,やはり常用漢字表を見直した「新常用漢字表(仮称)」になると思うんですね。ですけれども,当然,その「新常用漢字表(仮称)」だけでは賄えない部分というのがあり,JIS漢字や今の人名用漢字との関係というのは,その賄えない部分に当たるわけです。
 ですから,2(2)の「「新常用漢字表(仮称)」の外で考えていくべきこと」というのは,常用漢字表そのものではないけれども,その外枠として,もう一つ大きな日本の漢字全体をどうするかという観点から漢字政策を構築するように大臣から求められていますので,その部分で考えていくべきことといったイメージになります。それから,直接,固有名詞の漢字を「新常用漢字(仮称)」の中に取り込むのか取り込まないのか,また,取り込むとしたらどういう考え方で取り込むのか,といったところが(1)のイメージだろうと考えています。
 この外で考えていくということは,以上のようなことで,この小委員会では考えませんよということではありません。実際は幾つかの選択肢があって,「新常用漢字表(仮称)」の中でも外でも考えるというのと,どちらかだけで考える,中でも外でも考えないで,考え方を整理だけしてこの責めを負うということもあるかと思います。最後の立場を採った場合には,国語施策としては,こういう理由で,固有名詞については直接触れない方がいいのだという考え方だけを示すことになると思います。あるいは字種としては取り入れないけれども日本の漢字全体のことを考えると,先ほどの例えば岩淵委員の御発言などは,これから日本人が漢字とどう付き合っていくべきかという,一つの考え方というか哲学というか,その辺の話と非常につながってくる話だろうと思います。そういうものを整理して,新常用漢字表の枠組みとは別に示していくということもできるかもしれません。そういうようなことが,ここで言っている「外で考えていく」という意味です。

○林副主査

 今までいろいろお話を伺っていて,少しそれぞれに関係するので,包括的なことになると思うんですけれども,議論のこれからの進行にお役に立てば有り難いと思って発言します。ちょっと今までの議論とずれてしまうかもしれませんけれども,包括的な問題として,まず前提を,しっかり共有しておかなければいけないというふうなことから申し上げます。
 私は,法律と政策というのは非常に違うと思います。当たり前のことですけれども,法律というのは,特に既成事実があるような場合には,それと整合するようなものでないといけないし,同時に未来に向けても,ちゃんと皆さんの共感を得られるものでないといけない。そういうのが,法律の基本的な性質だと思います。ところが,政策の方はこれからどうするかというのに重点がありますので,仮に過去にいろんなことがあったとしても,もしそれで不都合があるとすれば,これからはこうしていこうよねというのが政策の性質だろうというふうに思っております。
 これを前提として,固有名詞と一般語彙という二つを考えますと,固有名詞というのは,我々は同じように考えても,実際にそれを実行しようとすると非常に法律的になるんです。どうしてかというと,戸籍の窓口に持っていったときにそれを認めてもらえない,これは駄目ですよ,この方針に反するからとなる。地名もそうだと思うんです。
 ところが,一般常用の漢字みたいなものは,それは使い方の目安として示すものです。例えば,厳格に適用されると人名などはもう認めてもらえず,実際に使えなくなってしまうのですが,一般常用の漢字の場合,それに違ったからといって,一つ一つ細かにとがめられるわけではない。飽くまでも性格から言うと,固有名詞というのは非常に法律的な性格,法律という言葉が強ければ非常に制約的な性格が強いし,一般の語彙,つまり常用漢字や当用漢字が目指してきたのはそうではなくて,制約的というよりは,むしろ目安,標準的な性格が強いと思うんです。
 だから,この二つを一つの表にまとめるということは非常に難しい点があるのかなと思います。現に,さっき阿辻委員が言われたように,人名に使う漢字だって普通に使っている漢字がそのまま使われることもあるし,それから普通には使わないけれども,人名にだけ使うというふうな漢字があるから,結果として当用漢字や常用漢字は人名に使われる漢字がたくさん含まれていて,それをはみ出す部分は少ないにしても,一応方針としては,これは一般の人たちが普通に使う漢字ということで,その目安,標準として定めてきて,特にそういう強い制約的な性格を持つ固有名詞については除いているというのは,それなりに筋が通っている考え方だと思います。その背後には,やはり政策的な目安として考えていくのか,あるいは,もう一つとしての,ある程度規制の強い方向と,これも我々は固有名詞と一般の言葉との関連で区別をする必要があるかなというふうに思います。
 それから,もしも常用漢字みたいなものからそういう固有名詞を外すとした場合ですけれども,外した場合には二つの方法があって,これは改めて申し上げるまでもないんです。現にそうなっているわけです。一つは別表を作る場合。これは人名用漢字の別表みたいなものを別表として示していきましょうというものです。それ以外に,言わば考え方,方針を示す場合,具体的には,この二つから言うと別表を示す場合には非常に制限的な色彩が強くなるけれども,考え方を示す場合には制限的な色彩が弱いというふうなことになりまして,今,前田主査のおっしゃった人名と地名ということで言いますと,人名というのは前者,地名については後者の考え方で,これまでやってきているのではないかと思います。そういうふうに考えると,私はこれまでのそういう基本的な考え方にはそれなりの合理性があって,それを我々が本当に改める必要があると考えるのかどうか,あるとしたら,どういうふうな理由でそうなのかというところを詰める必要がある。そこのところが詰まってくると,おのずから結論は固まってくるのではないかなというのが,私の印象なんです。

○阿辻委員

 字種と字体というものの切り口と言いますか…。常用漢字表の「前書き」に,「この表は固有名詞を対象とするものではない。」と書かれているのは,例えば,「高」という漢字が常用漢字表に入るときには,字体も規定しますよね。そうすると,「たかやま」さんとか,「たかだ」さんとか,いわゆる「はしごだか」の「髙」を使っている方は,その常用漢字表に「はしごだか」でない字体の「高」が入ったからと言って,その規範が個人の固有名詞としての姓に及ぶものではないという意味の規定なのではないんですか,これは。

○氏原主任国語調査官

 字種や字体ということよりも,「固有名詞を対象とするものではない」という,そのままの意味です。つまり,適用範囲外であるということを明示しているものです。

○阿辻委員

 字種を選定する段階で,固有名詞どうのこうのというのは関係ないわけですね。それで,1,945の字種を選ぶ段階で,固有名詞を外すというのは,実際には,人名や地名などが一杯そこに入っているわけですから…。この表は「固有名詞を対象とするものではない」ということは一体何に適用されているかというと,私は字体ではないかという気がするんです。

○氏原主任国語調査官

 確かに阿辻委員がおっしゃったように,「はしごだか(髙)」だとか「つちよし(つちよし)」だとか,そういうものは非常にポピュラーな例で,そのとおりだと思います。ただ,固有名詞に関しては,流れから言うと,表外漢字でも認めていくべきであるというような考え方が常用漢字表のころから強くなってきています。対象外としているのだから,当然ですが…。

○阿辻委員

 字種としてですか。

○氏原主任国語調査官

 そうです。ですから,「おれはこれだ」と言った人には,字体も含めてやはりそれは尊重すべきだみたいなところが結構あります。

○阿辻委員

 先ほどから机上のネームプレートをずっと見ていまして,阿呆(あほう)の「阿」と辻(つじ)の「辻」ですよね。各委員の方々の文字を見ていますと,甲斐委員の「斐」だけが一般の語彙には使われない,使われることは多分ないだろうと思う字で,後は委員の皆さんの名字は普通の語彙に使われるんですね。新常用漢字表に文字を収録する段階で,例えば「辻」が入ったとしましょうか,そのときに,この文字については固有名詞を対象とするものではないというのは,多分私がそれを読んだら「一点しん にゅう(しんにゅう)」,「二点しんにゅう(しんにゅう)」を規定するものではないというふうにこれを読むんだろうという気がするんです。
 この文字を,その表に入れるかどうかの段階では,これは固有名詞であるか,固有 名詞でないかという判断はできませんからね。

○氏原主任国語調査官

 理屈としては阿辻委員がおっしゃったとおりなんですが,ただ,実際に字種を決めていくときは,先ほど参考資料1の2枚目で見ていただいたように,七つの項目で見ていったわけです。常用漢字の字種選定の観点として,こういう方針で当時検討がなされています。その七つの項目の一つが「3 地名・人名など,主として固有名詞として用いられるものは取り上げない。」ということです。

○阿辻委員

 それは,甲斐委員の「斐」という字がそれに該当するんでしょう。

○氏原主任国語調査官

 大阪の「阪」だとか岡山の「岡」というのは,この『漢字出現頻度数調査(2)』の結果でも明らかですが,非常に頻度が高いんです。それでも外したというのは,この「3」の項目があるからだという,そういう理由になっているわけです。それは主として固有名詞として用いられているから,そういうものは取り上げないということです。字種としてですね。
 もちろんそこから先に,阿辻委員がおっしゃるような字体の問題も当然絡んでくると思いますけれども,そもそも最初から外しているということなんですね。

○金武委員

 当用漢字を制定した昭和21年には,字体はまだ決まっていませんでした。でもそのときから既に固有名詞は適用外という「まえがき」があるので,字体ではなくて私は字種だと思うんです。それが,多分常用漢字にも受け継がれてきております。大阪の「阪」も「坂」の異体字です。だから新聞社としては,「たかだ」さんが「はしごだか」の「髙」であっても,「髙島屋」が一般的には常用漢字となっているように,基本的には常用漢字の字体でそろえたいと考えます。これは事務的な対応でもありますが…。
 それから,「公用文作成の要領」でもそうでしたけれども,差し支えない限り常用漢 字の字体にそろえるという方針は,戦後の日本語表記の標準とされていたという認 識が新聞界には一般的になっています。

○林副主査

 やはり,今,阿辻委員のおっしゃったことは,この常用漢字表の「前書き」の1,2,3 条と同じ思想だと思うんですね。常用漢字表は,法令とか公用文とか新聞・雑誌,こう いうかなり公共性,一般性のあるもの,そういうものの漢字の使用の目安を示すもの であって,個人の自由度を余り強く制限するものではない。だから,科学や技術や芸 術その他,個々人の表記にまで及ぼそうとするものではないというこのベースで字種 も選ばれているし,音訓もそういう考え方の中で決まっているのではないかなと思う んです。その結果はおのずから固有名詞みたいなものは,そういうかなり個人的な 面も強いし自由度が非常に要求されますから,さっき甲斐委員のおっしゃった「あい」みたいなもので,それをみんなが認めるかどうかは別にして,表現したいという人の自由度が非常に大きいものですから,そういうものはやはり制約をするものではないということで,こういう政策的な漢字表を作り,かつ同時に国民の支持というか共感を得ようという,そういう線がベースだったんじゃないですかね。そういう基本を,これからも余り大きく崩す必要がないように思うんですけれども…。

○岩淵委員

 そのことに加えて,先ほど阿辻委員がおっしゃった「鹿」と「熊」のような場合は,当用漢字表の「使用上の注意事項」に「動植物の名称は,かな書きにする。」としていたために当用漢字では拾っていない。そういうもので人名用漢字としてあるのがほかにもあると思います。今おっしゃったようなことだけではないだろうと思います。そう考えると,当用漢字表の「使用上の注意事項」の影響は,今もなお大変大きいのではないかと思います。
 ですから,これから考えていくためには,当用漢字表のことも頭に入れておくことが必要ではないでしょうか。常用漢字表では「目安」とすることで緩めてしまっていますが,実際に漢字を使っている人たちは当用漢字表で教育を受けている人も大変多いのですから,漢字使用についてかなり制約的な形での影響が出ていると思います。そういうものが全く姿を消してしまえば,今おっしゃったような形で済むかもしれませんけれども,やはり両方,考えていくべきではないのでしょうか。

○林副主査

 ただ,この制約度については,大きい小さいと測りにくいんですけれども…。常用漢字も当用漢字についても,やはりあれは一つの目安であって,制限的な色彩というのはそんなに強くないというふうに理解していましたけれども違うんですか。

○岩淵委員

 学校教育では当用漢字でなければ駄目だったわけです。

○林副主査

 学校教育では,ですね。

○岩淵委員

 例えば,こういうのはどういうふうにお考えになりますか。「すずしい」という字が「にすい」の「凉」になったり,「さんずい」の「涼」になったり,国定教科書によって違っていますから,どの教科書を使ってきたかによって,同じ時代であっても「凉」の人と「涼」の人が出てくるという具合で,学校教育は余りばかにはできない,かなり大きな 影響があると思います。

○林副主査

 学校教育というのは,そういうふうに政策の中で,どういうふうに文字を獲得させていくかということに主眼があるわけですね。

○金武委員

 字体もそうですね。「固有名詞を対象とするものではない」ということがあったとしても,実際は教科書では当用漢字,もしくは常用漢字に入っている字はその字体になっています。「福沢諭吉」にしても「山県有朋」にしても。ですから,固有名詞についても,子供たちはそういう字体で習ってきている。ということは,かなり常用漢字の字体というものは,固有名詞でも一般化されている部分が多いんじゃないかと思いますけれども…。教科書だけじゃなくて,今は,一般の出版物も明治の小説を文庫本などに入れる場合は,新字体でやっていますよね。

○阿辻委員

 ですけれども,だからといって,「わたなべ」さんの「辺」という字を「辺」に統一することはないということでしょう。

○金武委員

 いや,それは…。個人が使う文字というのは尊重すべきですから,当然それはそのとおりなんですが,要するに,今おっしゃったように教科書とか新聞とか雑誌とか公用文とか一般的なものはできるだけそろえた方がいいのではないかということです。つまり,例えば読売新聞社の渡邉恒雄さんの「邉」は,もちろん常用漢字体ではありませんけれども,読売新聞をはじめ各新聞・雑誌とも紙面では常用漢字体の「辺」を使っています。御本人の名刺とか特別な場合はもちろん「邉」ですけれども。そういう使い分けはあってもいいというか,一般的には常用漢字の字体で統一した方が社会 生活上はいいだろうということです。

○阿辻委員

 問題は,渡辺さんの「辺」という「刀にしんにゅう」の文字が常用漢字表に収録される,あるいは当用漢字表に収録されたときに,それは,別に固有名詞専用の字だと認定はされていないということですよね。

○岩淵委員

 固有名詞というのは,やはり当用漢字表や常用漢字表の中に入っていないんだけれども,地名,人名によく使われるからという概念で作られたんじゃないでしょうか。

○林副主査

 そこのところが,私どもそれぞれ少し理解の仕方にずれがあるのかなと,どうもそういう気がしますね。

○阿辻委員

 固有名詞とは何ぞやということですね。

○林副主査

 そうそう,そうなんです。それで,やはり固有名詞専用の漢字というふうなものが特別あるわけではなくて,我々は普通に使っている漢字の中のごく一般的な漢字を固有名詞に使うこともあるし,普通は使わないような漢字でも,固有名詞にはある程度自由度があるものだから,そういうものも使うことがある。ただ,漢字表を使うときには,現実問題として普通に通用している,つまり,普通の文章を書くときによく使う漢字は一応こういうことにしましょう,しかし,それだけでは固有名詞のときには非常に自由度が低くて御不満もあるし,本当に自分の気持ちが名前に表現できないというようなことで,もう少し追加してもいいんじゃないですか。特にそのときには皆さんが使いたい漢字,あるいは実際に使っているような漢字,そういうふうなものを少し,方法は難しいけれども選んで,それに追加するというふうなことですから,これはなかなか二つはきちっと分けられないものだと思う。

○甲斐委員

 私は新常用漢字表と別に,この審議会で固有名詞に使う漢字について取り上げるのは賛成するんです。ただ,それを具体的にどうするかというときに,大きく言うと,字種の問題と字体の問題がありますが,字種については,人名用漢字の場合は字種を幾つに選定するかというのは,一応名付けとしてできなくはないということがあります。しかし,これまで伝統的に続いてきている姓の漢字については尊重していくということになります。だから,地名もやはり尊重していくということになって,これを否定するわけに行かない。そうすると,字種をどういうように制限的に提示していくかというと,これからの名付けに使う,つまり法務省と張り合うような形のことになっていくのかなと,字種に関しては思います。
 それから,字体については,先ほど「わたなべ」さんの「辺」という漢字が話題に出ているんですけれども,例えば,今出ている今昔文字鏡などでその「辺」という漢字を見ると,百何十通り出てくるわけです。それを我々は人の名前でいうと,易しい「辺」と,それからそれ以外の「邊」「邉」というので,大きく3種類の字体を認めているわけです。しかし,「辺」といったって,阿辻委員と同じような,「二点しんにゅう(しんにゅう)」だってあるわけです。突き抜けるとか風のようにはねているとかまであります。そうすると,その字体というのをどういうようにしていくかというときに,これまでに戸籍などで登録されているそれぞれの権利としての字体というのを,我々はどこまで切り込んでいけるかというと,何か私自身余りに難しくて大変だという感じがあるんです。やはり字体に関してはこれからの名付けというところには幾らか対応できるけれども,それ以上は難しいような感じがあるんです。
 そこで先ほどの選択のところになるわけですが,新常用漢字表に入れるとしても,先ほど金武委員が言われているような都道府県名で入っていないものは入れるぐらいは検討してもよかろうと思います。それで別枠で考えたい。別枠で考えているときに,固有名詞に使われている漢字はどんなものかということについての実態は整理する,そして我々が言えることは,こういうところだというようなところをまとめてみるということは可能かなと思うんですが,この辺りはいかがでしょうか。

○金武委員

 都道府県名の中で「梨」とか「鹿」とか「熊」というのは,もう一般的に使われることの多い字ですから,そういったようなものを考えて固有名詞以外にも使われる頻度の高いものは,新常用漢字表にそのまま入っても全然問題ないと思います。問題は,大阪の「阪」とか岐阜の「阜」のようなものですね。この辺はやはり別枠にならざるを得ないかなという気もするんですが…。それと今の人名用漢字ということを考えますと,要するに地名と人名は違うんだけれども,固有名詞として本来は一括して考えるべきではないかと思うわけですね。そうなると,今,人名用漢字は法務省のところで決めているんだけれども,それをこの国語分科会で固有名詞の別枠を考えたときに,むしろ,人名用漢字の中に入っているものの中でかなりの部分が地名にも使われているものがあると思うのです。だからそういうことを考えると,人名と地名が分けられるかどうかという気持ちがありまして,そのときに,今回人名用漢字で一字種一字体が崩れたということが,非常に漢字の固有名詞の枠を,もしこの国語分科会で考えるとすれば,やりにくくなっていると思いますね。
 今までの,増やさない前の人名用漢字であれば一字種一字体でそろっていたから,それを引き継いで地名と一緒にしても矛盾は生じなかったと思うんですが,これをどういうふうに考えていったらいいのか。もう人名用漢字はしようがないという形で行くと,地名についての枠を作るということになっても,そんなにたくさん要らないんじゃないか。例えば,都道府県の中からだったら数文字で済みますから…。だから,人名用漢字と地名の漢字表の別枠の性格を考えたときに,今一つはっきりしたものが出てこないような気がします。つまり,私としては,本当は人名用漢字も地名用漢字も一緒にして固有名詞としての漢字表というものを示せれば,それは非常に,今後のことですけれども,国語政策とも一致するし,分かりやすくなったと思います。ただ,非常にそれが難しいわけです。

○阿刀田分科会長

 今の御意見に関連することが二つあるんです。一つは人名,地名ということを分けてきたけれども,おっしゃるように本質的な区分は余りないのかもしれないということ。何が違うかというと,人名と,地名とで違うんじゃなくて,新しく作るかどうかというところがキーポイントなんでしょう。人名,地名だというのではなくて,人名を新しく作るということは極めて可能性としてたくさんあるけれど,地名というのは,そんなに新しく作るということはない。というより,古いものは,やはり守っていかねばならないということが非常に強くあって,新しく作るときには,割とこういう範囲のところでやっておいてくださいということが適用しやすいということだろうと思います。だから,人名,地名ということの本質的な違いの問題があるんじゃなくて,新しく作るということとどうかかわっていくかということが一番大きな問題なんじゃないかなということで,その辺をどう整理するかというところにキーポイントが出てくるのかなということを,今感じました。
 それから,地名に関して新しく付けるというときの,その「新しく」という要素の中に,旧来のものを利用するときは,それは新しくじゃないんじゃないか。例えば,「燕(つばめ)三条」という地名を作るときの「燕」という字は,燕市という市があったわけですよね。そこを引きずりながら燕三条という名前が出てくるわけで,地名というのは,やはりそれぞれみんなそこに歴史があるわけです。それはたとえ難しい字であったり,余り使わないものであったりしても。簡単に言えば,燕三条は新しい地名じゃないという考え方ですよね。燕市というのが現にあって,それがここに生かされている以上は,これは新しい地名ではない。
 そういうような,地名における古いものというのは,むしろ保護した方が文化の保存という点では,とても大切だと思いますので,それについては一定の指針を出して,古いものは認めておこうとしたい。そして,古いものを残そうという地名は残していいんじゃないかというようなことをやりながら,整理していけばいいのかなというふうに思います。
 やはり地名を新しくするときに,合併させて古い地名をくっ付けているというのは,随分実際には多いんじゃないですか。それをへんてこだから,みんな平仮名にしてしまえとか,片仮名の南アルプス市になどなったりするのよりは─南アルプス市はまあちょっと,あそこは南アルプスがあるんだからしようがないかなと思うところもあるんですけれども,そんなことを,今ちょっと考えました。でも,二つ作るのがいいかもしれませんね。

○岩淵委員

 仮名書きした新しい市町村名というのは,実は古い地名をそのまま生かしているようです。漢字表記すると読めないということがあるからだろうと思います。南アルプスは,広域名を採用したのでしょうが,大体はその土地の川の名前,山の名前,あるいは郡の名前,元あった市町村の名前などを使って仮名書きしていますから,それぞれの地域の歴史を無視したわけでもないようです。

○東倉委員

 なかなか難しい問題で,伺いながらいろいろ勉強させていただいたんですけれども,今,固有名詞という場合に,人名,地名ということが一番関心事であるということはよく分かるんですけれども,ほかにも例えば企業名とか団体名とか,固有名詞というのはたくさんありますね。だから,固有名詞という場合は,そういうものを全部含むというふうに考えていいわけですね。ですけれども,それを付けていいかどうかというので,いろんな視点から関心が集まるのは,多分,地名と人名が一番多いんだろうということで,今のはそういう二つになっています。
 それで,今の常用漢字というのも,いわゆるコミュニケーションという視点から,書く方も読む方も分かりやすいようにと,常用平易ということで,それをある種,「常用平易」という言葉だけでは極めてあいまいだから,ある表を作りましょうというふうに理解できると思うんです。けれども,先ほどの御説明にもあったように,地名や人名についても「常用平易」という言葉はそのまま使われていて,しかし,それの実態は常用漢字の「常用平易」という定義とはかなり掛け離れたものになっている。特に人名などについては,その人がこういうふうに付けたいんだと,その人というのは親なわけですが,その個人の意思は尊重しましょう,市町村についても,市町村の住民の意思というのを尊重しましょうという,そちらの方の視点が強調されてきている。ですから,それを実際にコントロールするというのは,今までの国語分科会(国語審議会)と,ほかのところとの関係からいって,これからもなかなか難しい話なわけです。ですから,ここで先ほどからお話に出ているような常用漢字表以外に,固有名詞で何か表を作るというのは,私も甲斐委員と同じように,それができればいいなという意見です。しかしながら,それは必ずしも法律で縛るようなものということには実態的にならないだろうと思います。
 ここは国語分科会ですから国語という視点から,これから付ける新しい名前については,地名,人名というのを分けるのは非常にややこしいから,それはせずに,固有名詞という観点からこういうふうなもの,常用漢字以外にはこういうものを使うということをサジェスチョン(suggestion)しますよという表というのは,それができるということは非常にいいんではないか。そのときに,なぜそれに含めなかった,この字はなぜ含まれなかったというのは,先ほどから幾つか例がありましたように,これは意味として,例えば「生臭い」というのは余り好ましくないとかという説明はあった方がいいわけです。そういうと,今もう付いている人に対して何かけしからんということになるかもしれませんけれども,そういう注釈というのもあり得るかなというふうな感想を持ちました。

○前田主査

 大分時間がたってまいりまして,余りまとまったとは言えないようですが,非常に有 益な議論がいろいろ出まして,固有名詞をめぐる様々な問題が出てきたわけです。それで,これは最初から分かっていたことですけれども,常用漢字表の改定に当たって固有名詞を,例えば中に取り込んでいくとすれば,かなり大きな問題がどうも出てきそうだというふうなことを,改めて実感したような感じです。
 それで,そういうふうなことになってくると,逆に言えば,この常用漢字表というものがどういうふうな決め方で決められて,どういう形のものであればいいのか,常用漢字表自体について,やはりもう一度考えておく必要もあろうかと思うんです。常用漢字表と別にもう一つ固有名詞に使われるような漢字の表を作るというようなことは,どういう意味があるのか,あるいはどういうふうに可能なのか。
 それから,常用漢字表を改定したとして,それの字数というようなものを全く考えなしに考えていっていいものかどうか。その辺のところの問題もあります。それから,常用漢字表をどういうふうにして決めるのかということについても,まだ議論が出ていないんですね。だから,使用頻度などを参考にしながら,表外漢字字体表を考えたりしてきたわけですが,そういったことと合わせて,そのような考え方の延長として考えていっていいのかどうか。その辺のところも,ちょっと問題がありましょうし,それから,人名のところでは,特に姓と名ですね,これにもまたちょっと─私は何でも違いがあるとどうも気になってくるんですが,渡辺などの「辺」という場合に,地名とのかかわりが強いというふうなことは,これは姓には,地名などから来たものが多いという歴史的なこともあるわけで,当然字体の問題がそこに非常に絡んでくるわけですね。
 今度は名前の方の人名用漢字ですね。こちらの方は,例えば「なまぐさい」というふうに読まれるからおかしいというふうな,「腥」という字を入れるかどうかとか,これは字種の問題になってきます。ですから,その辺のところもだんだん問題が複雑化するような感じがしますけれども,総合的に考えていかざるを得ないというふうに思います。
 そういう点で申しますと,ここにありますような固有名詞を常用漢字表の中に取り入れるかどうか,取り込むかどうか,あるいは別な表を作るかどうかというふうなことも,最初から決めていくことは難しいかもしれない。しかし,もし取り込むとすれば,こういう問題がある,あるいは取り込まないとすれば,こういう問題があると整理していく必要があろうと思います。しかし,全体としては固有名詞も,やはり常用漢字表とかかわる問題として考えていこうというふうな線は大体,これは最初から一致して得られるところではないかというふうに思うんですが,その点いかがでしょうか。

○甲斐委員

 先ほど東倉委員が命名という立場から固有名詞をとらえられて,今,新しい展開に向かったなと思ったんです。つまり,私どもは漢字だけで固有名詞を考えていたんですけれども,命名ということになってくると,地名とか人名だけではなくて,それ以外のものが大分出てくるんですね。
 実は特許庁で命名の委員をやったことがあるんです。そうすると,例えばある名前ができそうだというときに先に押さえておくというようなことがあって,そうすると,その名前はどうだとか,企業名などがこうだとかということになる。それから,農林省で,やはり農作物の命名の委員をしたことがあるんです。りんごとかお米とかの命名の問題です。すると,これもやはり名前の問題になる。したがって,固有名詞をどういうように名付けるかという先ほどの御指摘は,固有名詞というのは,これまで国語審議会では特にやっていないんですけれども,やはり名前という点で言うと,国語審議会,この文化審議会の場が一番ふさわしかろうというような気がするんですけれども。やはりどこかで検討していただいて,その上で漢字というところに限定していくというようなことが必要ではないかと思いました。

○金武委員

 固有名詞は,付ける側,あるいは固有の名称であるから,全然どこからも動かせないというのも一つの考え方ですが,実際は新聞でも雑誌でもそうですけれども,固有名詞の出てくるパーセンテージというのは非常に多いわけですね。つまり,活字の世界でも漢字の世界でも,社会的な客観的な存在となっているので,これは国語表記の一つとして,やはり国語分科会としての何らかの見解を示した方がいいと思います。
 そして,今の常用漢字表をどうするかというときには,取りあえずは固有名詞をその中に取り込む,取り込まないというのを考えるとややこしくなりますので,最初の方針どおり頻度とか理解度とかというものから常用漢字の出し入れといいますか,それで選んでいって,その後で,頻度は高いけれども応用範囲が実は地名や人名にしか及ばないようなものは別に討議して,これはやはり別枠にせざるを得ないのか,あるいは別枠を作るよりは常用漢字表の中に,頻度が高くてだれでも読めるというもので常用漢字表の中に入れてしまうかということを議論していく。その後さらに,固有名詞というものに対する国語分科会の考え方とか方向とかというものを,目安でいいから,これから新しく作る固有名詞といいますか,人名でも,先ほどおっしゃった企業名でもいろいろありますけれども,そういうものについて,できれば,この方向のこの枠内で漢字を使用するのが望ましいというような結論になれば,比較的実用性が高いんじゃないかという気がします。

○東倉委員

 私は,一番大事なのは,やはり固有名詞を付けるという,さっきも甲斐委員から御指摘がありましたけれども,その命名側と,それを受け取る側のバランスというのをうまく取ったサジェスチョンが国語的な視点からできるということじゃないかと思っているんです。それで,今の人名の,特に名の命名という,そのような人たちは命名しようとする意図を持っているわけですから,そのような人たちがよりどころとするものとして法務省の規定があり,それからさっきの姓名判断の辺りですね。しかし,国語的な視点というのは,固有名詞には及ばずということで現在何もないわけですね。そうすると,そこに対して国語的視点からのチョイス(choice)というのが,命名側からして何もないというのは何かバランスを欠いているような気がします。ですから,それが表の形になるか,今おっしゃったようなこういうふうな方針でやることを進めますよという形になるか,そこはともかくとして,やはり何らかはあった方がバランスがいいんじゃないかというふうに思います。

○前田主査

 後,まだいろいろ御意見があるかもしれませんが,この問題については,また進行の過程で元に戻って議論することにもなろうかと思います。事務局から何かありませんか。

○氏原主任国語調査官

 次回の7月10日の漢字小委員会ですが,その時は,新しい論点に入るというよりも,今日の議論の続きということの方がよろしいでしょうか。

○前田主査

 そうですね。前にはこのような具体的なことで,固有名詞のことを考えていませんでしたので,随分いろんな議論が出てきましたから,ちょっと時間は取りますけれども,もう少し詰めないといけないのではないかと思いますが,いかがでしょうか。

○氏原主任国語調査官

 それで,ちょっと先走るようですが,例えば,参考資料1の「論点3-1」には,「「常用漢字」と「準常用漢字(読めるだけでいい漢字)」に分けることの是非」などというのがあって,この辺りも固有名詞の表を別にするという話とは,非常に連動しているわけです。それから,固有名詞を入れるかどうかについては,さっき申し上げたように「論点3-2」とも密接に絡んできます。ですから,そういう観点を意識しながら,もう一度「論点2」をやっていただくと,それはそのまま「論点3」の議論につながっていくと思います。特に,「論点3-2-(2)」に関連して,常用漢字表では固有名詞を別にすると言いながら,実際はどうかという点で,先ほどの阿辻委員の御意見は非常によく分かります。実は,私も同じ気持ちを持っておりまして,本当にこれは固有名詞だけに使う漢字なのかどうかという判定はものすごく微妙ですよね。常用漢字表で95字増えたとき,例えば,新潟の「潟」などは当用漢字表が常用漢字表になるときに入っているんです。これは当時の説明資料を見ると,新潟という県名だけでなく,干潟だとかそういうのに使うからなんだというわけですけれども,奈良の「奈」だって奈落だとかに使うわけです。それでは,干潟と奈落と一体どちらがよく使うのかみたいな話になってくるわけです。ですから,そういうことも含めて,次回はもう一度「論点2」について議論するということでよろしいでしょうか。

○前田主査

 そういうことで,次回は引き続き「論点2」の議論をしたいと思います。それでは,本日はこれで閉会といたします。どうもありがとうございました。

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