第14回国語分科会漢字小委員会・議事録

平成19年1月9日(火)

10:00~12:10分

三菱ビル地下1階 M1会議室


〔出席者〕

(委員)阿刀田分科会長,前田主査,林副主査,阿辻,岩淵,甲斐,金武,小池,東倉,松岡各委員(計10名)

(文部科学省・文化庁)町田国語課長,氏原主任国語調査官ほか関係官

〔配布資料〕

  • 1 第13回国語分科会漢字小委員会・議事録(案)
  • 2 漢字小委員会における今期のまとめ(たたき台)

〔参考資料〕

  • 1 漢字小委員会で検討すべき今期の論点(第6回漢字小委員会確認)

〔経過概要〕

  • 1 事務局から配布資料の確認があった。
  • 2 前回の議事録(案)を確認した。
  • 3 事務局から,配布資料2についての説明があり,質疑応答が行われた。その後,配布資料2について意見交換が行われ,同資料の修正については主査一任とすることが了承された。
  • 4 今期の漢字小委員会は,今回が最終回となること,また,次回の国語分科会は,1月15日(月)の10:00~12:00に如水会館2階「オリオンルーム」にて開催することが確認された。
  • 5 質疑応答,意見交換における各委員の意見は次のとおりである。


○前田主査
   事務局からの御説明について何か質問がありましたら出していただきたいんですが,いかがでしょうか。

○阿辻委員
   二つあります。まず配布資料2の2ページですが,「(3)固有名詞についての考え方」の「(1)これまで明示されてこなかった<国語的な視点>からの参考情報の提示」の括弧の中に「腥」という漢字が例として挙がっていますが,この漢字は2004年9月の人名用漢字の追加では,追加されなかったんではないでしょうか。

○氏原主任国語調査官
   はい,人名用漢字には追加されていません。

○阿辻委員
   そうですよね。人名用漢字に追加されていないものをここで取り上げるというのは,ちょっと問題があるんじゃないかという気がするんです。それが一つです。
 もう一つは,3ページの「(2)字種の選定」の「(3)出現頻度数が低くても,<日本人として読めなければいけない漢字>については拾っていくことを考える」という部分です。「日本人として読めなければいけない漢字」,その下に,「(3)の漢字を「特別漢字」として位置付けるかどうか」というところなんですが,「特別漢字」というものの議論になったときに,例えば,現行の常用漢字表に入っている戸籍謄本の「謄」とか,弾劾裁判の「劾」とか,各省庁の必要によって公用文書に使われるけれども,一般の社会生活ではほとんど使わないだろうと思われるようなものに,その「特別漢字」という枠を与えるという議論があったような気がするんです。先ほど,まとめとして追加すべきことがあったら出してほしいということだったので,私はその議論を「特別漢字」のところに入れておいた方がいいんじゃないかという気がしますが,いかがでしょうか。

○氏原主任国語調査官
   そうですね。まず,2ページの「腥」ですが,これは,確かに阿辻委員がおっしゃるとおり,人名用漢字には入っていないですね。「腥」は,漢字小委員会の中では非常に分かりやすい例としてよく話題に出ていたので,ここに挙げたものです。こういう字を子供の名前に付けてしまうと,後で子供がこの字の「生臭い」という意味を知って大変なことになるといったことが,ここの議論で繰り返し出ていました。それで,例として挙げたのですが,削除した方がいいということであればそうしたいと思います。

○阿辻委員
   屋号とか,ペンネームとか,戸籍法の適用を受けない命名の段階では大いに使われる可能性はあるわけですよね。

○氏原主任国語調査官
   そうですね。

○阿辻委員
   そういうふうな意味で挙げるのであれば,いい例にはなるだろうと思います。

○氏原主任国語調査官
   確かにここは,子供の名前と限定しているわけではなく,固有名詞についての考え方ということですから,前田主査とまた御相談して,この例を残すのか,別な例に差し替えるのか,あるいは例そのものをやめるのかということについて考えたいと思います。
 それから,3ページのところの「特別漢字」ですね。これも御指摘のとおりですけれども,この「特別漢字」という位置付けは,頻度が低くても読めなければいけないものを考えているわけです。考え方としては,(2)(3)のところにあるのは,頻度が低くても日本人として読めなければいけない漢字については拾っていくということで,これは新常用漢字表の中に入れていくということです。その議論と,ここに入っているものは頻度が低いけれども,読めなければいけない漢字であるということを外から見ても分かるようにグルーピングして,それに名前を与えておくかどうかというのはまた別な問題なわけです。字種の選定にかかわる考え方と,それに「特別漢字」といったような名称を与えて,漢字表の中を幾つかのグループに分けるというのはまた別な問題だと考えています。(2)の(3)は既に漢字小委員会の了解事項になっていますが,グループに分けるかどうかについては,その名称をどうするかも含めて,まだはっきり決まっていないと思います。ですから,この問題については,次期に改めて検討する必要があるのではないかというふうに思っています。

○阿辻委員
   「特別漢字」というカテゴリーは,確か戦前に決められた規格の中に出てくる言葉でしたよね。

○氏原主任国語調査官
   はい,昭和17年の「標準漢字表」で使われたものです。

○阿辻委員
   それを見た時に,かねがね問題になっていた「朕」とか御名御璽の「璽」とか,それらの漢字は,そこに入れるしかないかなという議論があったような気がするんですね。歌舞伎の「伎」など日本人として読めなければならない漢字というのも別にありましたので,今おっしゃったように,別枠を作るんだったら,その別枠の中で幾つか層を設けていけば,一括して処理できるんじゃないかなという気がするんですけれどもね。

○氏原主任国語調査官
   分かりました。

○甲斐委員
   質問になるのか,訂正になるのかなんですけれども,参考資料1の1枚目の一番下のところです。私もこれは今まで全然気が付かなかったんですが,「(2)「標準漢字表」(昭和17)における「常用漢字・準常用漢字・特別漢字」の扱い」という部分がある。これは当時の国語審議会では否決されていて,通っていない案なんだったと思います。昭和17年に標準漢字表として認められたのは,「常用漢字・準常用漢字・特別漢字」を分けないで,一括してしまった案だったと思うんです。私は,この分け方は個人的には好意的な感じを持っておりますが,ここのところでは,できたら「原案」とか注記しないといけないんではないかと思うんです。

○氏原主任国語調査官
   これは,国語審議会では正式に議決されています。

○甲斐委員
   何がですか。

○氏原主任国語調査官
   標準漢字表がです。机上にある『漢字字体資料集(諸案集成1)』を御覧ください。372ページです。今,御指摘くださった昭和17年の「標準漢字表」が出てきます。ちょうど372ページと373ページが見開きの形になっています。373ページは,標準漢字表の表紙の部分ですが,これは,372ページの解説を見ていただくと分かるんですが,国語審議会の第6回総会において文部大臣に答申したものと書かれています。つまり,国語審議会で正式に決定して,当時の文部大臣に渡されているものです。

○甲斐委員
   答申しているということですか。

○氏原主任国語調査官
   はい,答申しています。

○甲斐委員
   そして,訂正したんですね。文部大臣はそれを認めなかった。その年の12月に,分けないでごっちゃにした標準漢字表を公表した。

○氏原主任国語調査官
   はい,そのことは,372ページの解説の後ろの方に書いてあります。ただ,答申はしていますが,答申されたものを文部大臣がどう処理するかというのは,答申とはまた別な話になります。答申がどう処理されたかについては,372ページの解説の終わりから5行目の下に,「また,この漢字表を修正した同名の標準漢字表が,同年の十二月に文部省から出されている。」とあります。それに続けて「これは,漢字の三種の区別を廃し字数を二六六九字としたもので,その目的も「概ネ義務教育ニ於テ習得セシムベキ漢字ノ標準ヲ示シ」たものと変更された。」ということで,甲斐委員がおっしゃるとおり変更されるんですけれども,国語審議会としては答申までは行っているわけです。

○前田主査
   一応,事務局の説明についての質問は,ここで切っておきたいと思います。
 なお,この配布資料2は今期のまとめということですから,一つには,この形,あるいは修正を加えた形で,今度は総会に出す。ですから,総会に提出する今期のまとめとして,これで適当かどうかということが一つあります。
 それからもう一つは,今まで話がいろいろ出ておりまして,それがこういう形でまとめられて,その時に多分出てはいると思うんですけれども,省かれていたり落ちていたりしている部分で,やはり今期のまとめとしては,出すべきだというところがありましたら,これも今日出していただきたいと思います。
 それで,このまとめの案ですね,それがこの次の国語分科会に掛かります。1月15日に国語分科会があるわけですから,現在の案を修正して,それを皆さんに出して,また御意見を頂いてという手続を取っていると,ちょっと時間的な難しさがある。その点を御理解いただいた上で,今日御意見を頂きまして,その後まとめさせていただくのは,事務局と主査・副主査にお任せいただきたい。したがいまして,当然のことですけれども,国語分科会の当日,またお読みいただいて,問題になるところがあれば,その場で御意見を出していただく形になると思います。一応,今日のまとめの案を修正した形で出すことをここでお認めいただきたいということです。(漢字小委員会了承。)
 それでは,そういうことで,時間的な制約はありますけれども,残りの時間でなるべく十分な形にして国語分科会に出したいと思います。文面なども含めまして,こういう表現はまとめとしてはどうかというふうなところ,それから,もし欠けているところがあれば,それも含めまして議論していただきたいと思います。
 それでは,ただ今の説明,質疑を受けまして,配布資料2についての協議に入りたいと思います。
 この資料は,今も申し上げましたように,今期の漢字小委員会の議論のまとめということになるわけで,非常に大事なものです。したがいまして,ここでのまとめが次期の国語分科会では出発点ということになり,これを基にして御議論いただくというようなことになるわけです。
 最初に「Ⅰ 総合的な漢字政策の在り方について」のところです。このことについては,最初の時に具体的な問題を取り上げることを先にして,その中で,またいろいろと御意見を頂いていた時の課題に戻るわけですが,その点についての,4月の論点が参考資料の1として挙げてありますので,それも参考にしながら,御意見を頂ければと思います。「Ⅰ 総合的な漢字政策の在り方について」,特に「1 情報化社会と漢字使用との関係」というところで,まず御意見を頂ければと思います。

○甲斐委員
   この配布資料2は本当によくまとめておられると思います。これがあれば,安心して次の国語分科会に出席できると思うんです。その時に,「1(2)漢字政策の定期的な見直し」のところで,括弧に入っている「例えば5年ごと」という,ここがもうちょっと具体的になるといいと思うんですね。例えば,どういう資料を5年ごとに収集するとか,それがやはり第一の条件になると思うんです。それと,文化審議会国語分科会が毎回漢字の問題を取り上げるんじゃなくて,やはり別の課題をやっている中でこれをしていくわけですから,継続的に,何らかの機関が調査を行うというようなことをここに書き込んでいただけると,一層そこが具体的になっていいのではないかというように思います。例えば,文化庁国語課が定期的に漢字の頻度数調査を行うとか,国立国語研究所にそういう仕事を委託するとかという文言を書き込むということです。

○前田主査
   今の御意見のところは,こういう「定期的な見直し」という内容をここに書き込んでいいのかどうかというところが確定していなかったような気がしましたので,まずそのことを確認する必要もあって立てたものです。

○甲斐委員
   何度も話は出ていたんですね。

○前田主査
   今までも度々,私もこういうことは話題にしましたし,反対もなかったので,多分,お認めいただけたのではないかと思います。私の個人的な意見ですが,前の国語審議会などでは,社会情勢の変化,例えばJISの問題なんですけれども,それに付いていけなくて,ちょっと後から検討するような形になった。それから,法務省の人名用漢字のことも,ちょっと後から討議しているような感じになりました。それについては,非常に問題を残したんじゃないかという感じがしております。少なくとも,「定期的な見直し」ということが認められれば,その点はやや補うことができるんじゃないかと期待しているわけです。それで,具体的にその年数などのことはいかがでしょうか。事務局の方から,この年数のことについてちょっと補足していただけませんか。

○氏原主任国語調査官
   この数字は,仮のもので,JISに倣って「5年」と書いただけです。漢字小委員会でも,具体的に何年という年数の議論はなかったと思います。ですから,年数を載せるとしても,例えば「5」というのはまずいからやめておけとか,あるいは例示にしても「7」にしておけとか,そういう御意見を頂きたと考えています。もちろん,数字自体を出さない方がいいという御判断もあると思います。

○岩淵委員
   実は,この「例えば5年」というところに引っ掛かりました。将来を考えたときに,本当に5年でできるのかどうなのかということがあります。そうすると,これは「定期的」というのは必要なのでしょうが,逆に,数字はぼかしてしまって,「随時,漢字表の見直しを…」というふうにした方が拘束されなくていいのではないかという気がします。それは,資料が間に合わないということもあるでしょうし,そのほかいろいろなことがあると思いますので,余り約束しないというのは大事なことだと思います。

○松岡委員
   「5年」というのを,今の状況の中で長いと感じるか,逆に短いと感じるかということも出てくると思うんですね。今の変化の状況を見てくると,緩やかな坂ではなくて,急激に,あるいは流動的に変化するような感じがあるので,余り年数を定めずにおきたいと思います。5年どころか,たったの3年で,これではちょっと追い付いていけないというか,状況が変わっているので,3年目だけれども,見直しをというようなこともあり得るんじゃないかと思うのです。私も,今,岩淵委員がおっしゃったように,必要に応じて順次見直すというような書き方の方がいいのではないかと思います。

○東倉委員
   私もおおむね,「必要に応じて」の方がいいかと思います。理由は,次のようなことです。情報化社会というものの中で位置付けるというふうに考えますと,非常に長期的に見ると,この情報化社会は,今,松岡委員がおっしゃったように,現在,激動期で,シャープに動いているところだと思うんです。それが,恐らく10年から20年の間にだんだん平坦になってくるだろうと思います。そういうことを,私どもの言葉では「情報化社会からポスト情報化社会」と,こう言っているんです。今は情報機器が万人にとって当たり前になるような社会へと向かって,動いているわけですね。その動き方も時期によって変わってくる。ですから,そういう意味で,定まった5年とかで切っていくというのは,実情に応じたんじゃないということになりましょう。
 もう一つ,先ほどちょっとできるかどうかということがありましたけれども,本来,情報化社会の状況に応じて理想的に変えなきゃいけないという時期と,労力と作業からいってできるかどうかというのとは,多分ずれがあるだろうと思います。だから,そういういろいろなことを考えると,年数を区切るということを,今ここで決めてしまうということはできないような気がします。
 甲斐委員は,逆に,定期的というふうに決めないとできないんじゃないか,その義務を課した方がいいんじゃないかというお考えなんだろうと思いますが,その辺りをどう判断するかということかなと思います。

○前田主査
   いろいろ御意見が錯そうしてきたようですが,一つの問題は,これは漢字小委員会のまとめだということなんですね。それで,実際にこれが行われるかどうかということは,今度は国語分科会,そして文化審議会というふうに上がっていって,漢字小委員会自体は,結果が出れば一応そこで切れてしまう。そういう点で,これは全体の問題にもなるかと思うんです。

○甲斐委員
   私も,そのことを心配したのです。これを「定期的に」とか「5年ごとに」というように記した上で答申をしていかないと,今の流れで言うと,まず問題を察知して,文部科学大臣が諮問をする,文化審議会がそれを受ける,そして国語分科会に下ろすという形を採ってきた。そうすると,これは,必要に応じてと言ったって,大臣が問題をつかんで諮問をするためには何年も掛かります。したがって,その「5年」が「7年」でもいいんですけれども,さっき松岡委員が言われたように,先が全く見えておりません。それで,5年と,こう申したんですが,そういう何らかの定期的なアンテナを張る必要がある,調査をし続ける必要があるということです。私はこれに賛成しています。しかも事務局は最初から,その「定期的に」というところで,やはり社会がどんどんと変化してくるから,文字の変動もあるだろうという発言をされてきているわけです。私は,それは本当にそのとおりだと思っております。
 一般の言葉ですと,文化庁「国語に関する世論調査」で毎年調査できます。しかし,常用漢字の見直しというのがどれぐらい必要であるかというのは,やはり定期的に調査し続けないと分からないことなんですね。そういうことで,この漢字小委員会が現在の間にそういう形のまとめを国語分科会に出し,文化審議会に掛けていただくというのがいいのではないかというように思っております。

○阿刀田分科会長
   国語分科会があって,こういう小委員会がある。漢字小委員会を作ったというのは,国語分科会の中での必要性からのことで,ここは目がちゃんと行き届くんですが,その上に文化審議会があるという構造は,私には決して望ましい構造だと思えない。従来のように国語審議会というものが一つ独立してある形の方がずっとすっきりしています。小委員会で出したものを,国語分科会に掛け,更に文化審議会に掛けていくというプロセスの中では,分野の違う委員もいるし,それまでの議論を十分に理解していない委員の意見がぼんと飛び出したりする。それこそ,今ここで言われた,ちょっと困るんだがなというようなことも出てくるような会議を経ていくわけです。
 それでも,最終的には,中核はやはりそれぞれの,この問題について言えば,漢字小委員会が訴えたことが,基本的にはそのままもう9割5分を超えて残るというのが本来の姿であって,ここに書かれていることが大きく修正されるということはほとんどあり得ない。大きくどころか,修正されること自体,良くも悪くもそういうことはほとんどないので,ここで出されるものがほとんど最終的な,国語政策に関する,漢字の問題に関する考え方になっていくだろうと思います。余りこの先のことで,どこかでうまく変わるんじゃないかとかいうことは考えない方が良かろうと思います。
 定期的な調査についてどう書くかは非常に難しいことで,当初,考えたことは,甲斐委員がおっしゃったことも含めて,次の国語分科会に任せていいことかなというものでもあったんです。しかし,そうなるとぼやけてしまうという考えも本当にそうなので,今期の国語分科会としてある程度,少し条件を付けて次に渡す。それを採用するかどうかというのは,また次の問題なので,我々として,ここである程度の合意ができるのであれば,余り先のことなど考えずに,やはり「定期的」とか,何か少し手かせ足かせぐらいのものは付けておいた方がいいということであれば,それは一つのやり方であろうというふうに思いますね。
 次に任すというのも一つの選択ですが,もうちょっと足かせを付けたまま次に任せるという方がいいかなと思います。きっと政策上の問題もありますので,その辺の皆さんのお考えをお聞かせください。そして,これは,この問題だけじゃなく,全体に通してあり得ることかなと思います。

○林副主査
   私の考えを申しますと,まず,改定をするということと,定期的に調査をしているということは別の行為であって,調査をして,もし改定の必要が出てくれば,その改定を提案して審議をしていくということになる。私はそういうふうに考えて「定期的」というよりは,「計画性のある」施策にすべきだと感じたわけです。というのは,昭和21年の当用漢字表から,昭和56年の常用漢字表まで35年ぐらいたっているんですけれども,これは,計画的に,35年たったので,改正したり新しい表を作りましょうということではなかった。むしろ,もう大分時間もたっているし,実態も随分違ってきているので,そろそろどうですかというふうな形で出てきたというように,少なくとも一般の方々は見ていると思うのです。今後の言語の変化についてですが,書記環境を含めた言語外の変化は,まだこれからも進むだろうというふうに思いますし,同時に,言語内の変化も情報化の中でどんどん,使う言葉,それ自体の変化が進むわけですね。
 私は,定期的,少なくとも計画的ということはこれから必要だろうと思っています。ここの表現として,どういう言葉を使うかは,またいろいろ慎重に考えるべきかもしれませんが,私は調査はできれば定期的に行っていった方がいいと思います。調査の間隔が5年というのが短いか,長いかということ,あるいはそれが可能かどうかということでいろいろ議論はありますけれども,その長さを考える場合の一つのポイントは,改定の時期になるでしょう。もしこれを改定するとして,改定というのはどれくらいの幅でやっていくのが現実的だろうと考えてみると,一度改定して,皆さんに示して,教育の面でも,そういうものを基にして,学年別配当表みたいなものを作るとか,あるいは皆さんがそういう範囲での漢字使用に慣れるとかという時期があって,ある程度定着するわけですね。しかし,ある程度定着しても,まだ皆さんが十分なじまない段階なのに,どんどん改定が行われるということになると,政策そのものに非常に落ち着きがなくなります。と同時に,その実効性というものも非常に薄くなると思うんです。一度出したものは,それがきちっと定着して,それによって効率的なコミュニケーションが可能になるという,ある安定した時期が当然考えられるし,また考えなければいけないだろうと思います。そうなったときに,その改定というのは実質的には,どれぐらいの間隔で行われるのが現実的なんだろうというようなことになりますと,私はやはり5年は幾ら何でも短過ぎるので,実際には,例えば20年とか,あるいは少し気短にやるんだったら10年という案もなくはないだろうと思います。
 しかし,そういうことを考えていくと,改定の時期を迎えるに至るまでの調査,そういうふうなものはある程度の期間を区切って行われているということが日本語の,特に読み書きの現状をウオッチしているということになるわけですね。その改定ということと,その調査ということとは余り強く連動させないで,調査の方は,実際の日常生活の読み書きをきちんと政策という点からウオッチしているという意味で,私は「定期性」があっていいと思うわけです。

○松岡委員
   質問なんですけれども,今までこういう漢字表が提出されたときに,それの前文なり何なりの形で,「改定」,あるいは「見直し」があり得るということを明記した事例はあるんですか。

○氏原主任国語調査官
   国語政策として出されている漢字表の前文のようなところには全くありません。

○松岡委員
   ないわけですよね。

○氏原主任国語調査官
   はい。

○松岡委員
   そうすると,今回,これが初めてになるわけですよね,答申に書き込むとすれば。

○氏原主任国語調査官
   はい,そうです。ただ,これも「定期的な見直し」というのが今ここに入っていますけれども,このことと,このことを,答申としての漢字表の中に文言として書き込むかどうかというのは,別の問題ではないでしょうか。

○松岡委員
   別の問題ということですね。

○氏原主任国語調査官
   はい。今ここで整理しているのは,これまで議論してきたことの中で,これは重要な考え方だからということでここに書いてあるわけです。けれども,このことが決まった段階で,例えば新常用漢字表にそのことを明記していくのか,何も漢字表にまで書いておく必要はないんじゃないかという議論はしなければいけないわけですね。ですから,「定期的な見直し」ということを漢字表の中に文言として書き込むかどうかは,今後,議論していくべき問題だと思います。

○松岡委員
   そうですね。今ここで書くことには,どれだけの拘束力があり,どれだけの実効性があるのかということを考えまして…。むしろ,年数とか定期的にするか否かということよりも,そのことをちょっと確認しておく必要があるんじゃないかなと思ったんです。だとすれば,この「見直しましょう」ということ,あるいは「改定もあり得る」ということを書き込むことだけで,相当画期的なことになるのではないかと思いましたので,お尋ねしたわけです。

○林副主査
   多分,今,松岡委員がおっしゃったことは,訓令として示されるような段階のことをおっしゃったのでしょう。仮にここでそういうことが合意されたとしても,訓令の段階では,余り出てこないだろうと思うんです。ところが,『国語関係訓令・告示集』と,『国語審議会答申・建議集』とを読み比べてみますと,訓令に比べて答申の方がはるかに具体的で,詳しくて,もっと深く書いてある。そこには,基本的な考え方としてそういうものが書かれている。答申を受けて,どういうふうに示すか,あるいはそれをどう扱うかというのは,これは私どもの手を離れたところでの問題です。我々の考え方は,もし合意ができれば,私もそういう画期的な面があるだろうと思うので,この答申の中にはそれなりにしっかりとした見識で書いていくということは必要だと思います。それは,現にこういうものを見れば,そういうことが書けるような形にはなっています。

○金武委員
   先ほど林副主査がおっしゃった御意見に大いに賛成です。つまり今度の新常用漢字表ができた場合にしても,今までの常用漢字表,あるいはその前の当用漢字表と同じで,規範にしろ目安にしろ,やはり国民の言語生活の基準になるわけですから,作ってすぐ改定する,あるいは定着したころに改定するというのは,いろいろ問題があるだろうと思います。したがって,今回のように20年以上というような期間は,現在のこの情報化時代の変化を考えると長いとは思いますが,5年では確かにちょっと無理ではないか。しかし,いずれにせよ,見直しを実行するはデータが必要ですから,漢字調査が必要なわけで,それは,もう定期的にきちんとやっていった方がいい。その漢字調査によって事務局なり何なりが,情勢が変化したということで見直しを実施していく。したがって「定期的に調査し,必要に応じて見直す。」というような文面ならいいのではないかと思います。

○岩淵委員
   私は,1994年から10年かけて漢字使用の変化を見ようとして挫折してしまいました。そういう私自身の経験を踏まえて見ますと,これは非常に難しいことを書いているのではないかと感じましたので,先ほどのような発言をしました。甲斐委員がおっしゃったようなことも確かにあるわけです。「今後,定期的に…」という,この文の表現の仕方を,「必要に応じて」ということは当然必要だと思いますが,「見直しをしていかなければならない。」というような口調に直しておけば,多少拘束力が出るのではないだろうかと思います。約束はほどほどにしておくべきではないでしょうか。

○前田主査
  いろいろ御意見が錯そうしておりますけれども,結論的には,新常用漢字表が出たときに,これがどういうふうに行われているかについて今後観察していって,そして必要に応じて改定をするような,何かそういう文面をそこに付け加えておけば,ここで述べたいことはまとめられるんじゃないでしょうか。先ほどの,上の国語分科会や文化審議会とのかかわりなども,その文面がどういう形で入るかというところで認められることになるんじゃないかと思うんですけれども。

○甲斐委員
   言葉が「改定」と「見直し」という2種類あって,私は,「見直し」を「微修正」というような意味で取っていたんですね。それに対して「改定」となると,「根本的な新常用漢字表の作成」というような大掛かりなところも意味されてくる。したがって,今,各委員の話を聞いていますと,どうも「根本的に大改定をする」というようにお取りになっている方と,「微修正」,例えば北朝鮮の致の問題があったときに「然」という言葉がわっと出だした。「毅然」の「毅」はこれはどうも要るぞとか,「拉致」の「拉」は入れた方が良いぞとかいうような形の,そういう微修正を私は5年というところで思っていて,先ほど申したのでした。
 したがって,5年というのは,そういう微修正においては可能かと思ったわけです。けれども,根本的な改定は,林副主査が言われるように,やはり20年というようになるかなと思うので,そこら辺りを勘案されて書き直していただいたらよいと思います。

○前田主査
   この問題は次期にも受け継がれていくことですから,実際,具体的に何年間隔にするかなどは,その時にまた御検討いただくとして,一応,ここでのたたき台としての提案は,今のような形で少し和らげて,年数を明確に出さない形で,改定と受け取られないような形で出すというふうなことでいかがでしょうか。
 それで,「Ⅰ 総合的な漢字政策の在り方について」の方は,人名用漢字,固有名詞などのこともありますが,そういった点については何か御意見がございましょうか。

○小池委員
   少し戻るようで恐縮ですが,Ⅰの「1(1)情報機器の普及と漢字使用」です。1行目に,「書記環境は大きく変わったが,…」となっていて,その後,哲学として「「読み手」に配慮した「書き手」になること」の説明というのが出てきていますよね。そうすると,この(1)の認識が基で,それを受けて(2)が出てきているというふうにも読めるわけです。ところが,そうじゃなくて,(2)は,書記環境が大きく変わって,漢字使用に関してもう1回議論を巻き起こす必要があるのでということですよね。
 (1)は,「書記環境は大きく変わったが,…」と続けるのではなくて,今,我々に突き付けられている問題意識として,書記環境の変化,もっと全体的に言うと,打ち出しされた言葉によって,ある種の「挑戦」を受けているんだという認識がもうちょっとはっきり出た方がよろしいんじゃないかなと思うんです。前回,例えば,教育を考えると2,000字云々うんぬんという議論がありましたけれども,メーンのターゲットは,教育についてということじゃなくて,やはり打ち出されてくるものの攻勢というような感じの中で,どういう書き方をしていこうかというところが大きな,根本的な問題点だと思います。その辺を非常にクリアに出す意味で,(1)はとっても重要だと思うんですよ。その割には哲学の方に文言が割かれてしまっていて,大事なところがかすんでいるように感じますので,大文字などでどんと出した方が私はいいというふうに感じました。

○前田主査
   「(1)情報機器の普及と漢字使用」のところに少し手を加えるということですね。

○阿辻委員
   これは,どれぐらいこの場で議論になったのか,私自身,はっきり認識しておりませんが,例えば,人名用漢字の規格ができたり,経済産業省がJISの規格を作ったり,それが,これまでの常用漢字とは別の段階で,すり合わせもなしに,独自に規格が作られた結果,常用漢字と人名用漢字とJIS漢字とでかなりの齟齬そごが起こってしまった。省庁の縦割りというと大変失礼な言い方になると思いますけれども,常用漢字とは全く関係のないところで,それぞれの規格が作られてきたことによる矛盾というのは結構あるわけですね。今回のこのまとめの中に人名用漢字に関する文言が書かれているということは,これまでの省庁縦割りから言うと,ある意味では,越権行為と言うのは大変失礼なことかもしれませんけれども,ほかの規格に対して口出しをしているということになるわけです。この際,私個人の考えなんですが,新常用漢字が,言わばほかの規格に君臨すると言うのは言い過ぎかもしれませんけれども,「新たに別の漢字の規格を策定していく段階では,新常用漢字に対する敬意を払え。」と言うのは問題でありますが,「必ず重要なものであることを認識せよ。」というようなことを付け加えておかれたらいかがかという気がするんです。これに関して,どんな議論があったかはちょっと認識しておりませんので,個人的な提案というレベルで発言させていただきます。

○前田主査
   その点はいかがでしょうか。私の方としてはもっともなんですけれども,ほかの方がどう受け止められるのか。

○林副主査
   今すぐにぱっと思い出せないんですが,一応,人名用漢字は法務省の方にお任せするようなことを書いた上で,しかし,常用漢字表の考え方は配慮してくれるようにというような,そういう内容のことが確か書いてあったように思いますが,あれは…。

○氏原主任国語調査官
   常用漢字表の答申前文にある記述ですが,先生方の机上に置かれている『国語審議会答申・建議集』で言いますと,226ページです。

○林副主査
   そうですね。そこのことです。

○氏原主任国語調査官
   はい。226ページの「2 人名用の漢字」というところにあります。

○林副主査
   ですから,人名用漢字は法務省の方にお渡しして,私どもはもうそれに関係しないというように必ずしも考えなくてもいいのではないでしょうか。やはり総合的な漢字政策というものが非常に大きいテーマで,その中で常用漢字表を考えていくというのが本筋ですので,こういう立場から,人名用漢字についても,ある程度は,私どもの考え方をきちんと示すということは,むしろ必要かなというふうに感じます。

○阿辻委員
   ここをゴシック体で印刷するとか…。

○林副主査
   そういうことも一つです。

○阿刀田分科会長
   今回のまとめの中で,その文言を何かの形で再認識をしていただくように,1行か,2行は入れた方がよろしいんじゃないでしょうか。これは,いろいろな従来のいきさつがあって,こういうことになっているようですが,やはり国語分科会としては声を大きくして言ってもいいのではないでしょうか。手続的に,大げさに言えば,法的に違法なことをやっているわけではないし,やはりそれをきちんとしておいていただいた方が,今後,他省庁に対してものを言うときにも役立つことだと思います。ですからちょっといろいろな省庁の手続にかかわることなので,ここでは多少,遠慮がちに話題になっていたけれども,やはりうちのメンツを余りつぶすようなことをしないでやってくれよというのがほとんどの皆さんのお考えだったと思いますので,何かの形で,どこか適当な場所に1行か2行,そのことについて,既にもうあることですけれども,もう1回書くことにしたい。特にこの間の人名用漢字などというのは随分批判を浴びたものであったわけですから,ちょっと入れておいていただいた方がいいんじゃないかと思います。

○金武委員
   今のお話に全く賛成です。この人名用漢字については,あれが発表された直後の新聞協会の懇談会の中で,常用漢字表の前文にある「常用漢字表の趣旨が十分参考にされることが望ましい。」ということを法務省はどういうふうに受け取っていたのか,あるいはこの「常用漢字表の趣旨」というのが分からなかったんじゃないかという意見が出まして,この次にはもう少し詳しく,前書きに注文を付けるというか,意見を出した方がいいんじゃないかというような声も出ていました。余りに今度の人名用漢字が妙な存在になってしまったものですから…。

○前田主査
   新常用漢字が発表されたときには,その点の文面というのは非常に難しいことになるかと思います。具体的に申しますと,例えば,人名用漢字に入っているものが常用漢字表に入っている漢字と同等に考えられて,使われる傾向というのが,従来,ある面ではあったわけです。ですが,今の状態ではそこのところはちょっと切り離して考えてもらわないと困る。新常用漢字表に,人名用漢字を加えて使っていいというふうに受け取られることにもなりかねないので,この点は配慮しなければいけない。文面に反映させなきゃいけないというふうには思うんですね。その辺のところは,ただ,文面としては,今回のまとめではどの程度入れていいか,ちょっとその辺が難しいところですね。

○金武委員
   2ページの終わりの「(3)固有名詞についての考え方」のところで,「(2)「一般の漢字使用」と「個人の漢字使用」の場合の使用字体の考え方」についてで,「「1字種1字体」が基本であることを確認」とありますが,このようなものは,なるべく分かりやすく,明確に出していただいた方がいいのではないかと思います。

○岩淵委員
   2ページの(2)の「(1)文化の継承という観点も踏まえつつも読みやすく分かりやすい漢字を選ぶ」というところに,「読みやすく分かりやすい漢字」とあります。この人名用漢字での「分かりやすい」というのは,何を指すのかがはっきりしないように思います。
 また,(3)の「(1)これまで明示されてこなかった<国語的な視点>からの参考情報の提示」の一つ目の矢印のところに出てくる「常識的な名前の推奨」というのは問題がある言い方ではないかと思います。目指しているところはよく分かるわけですが,この表現も少し工夫した方がいいような気がします。

○前田主査
   それでは,次に「Ⅱ 常用漢字表の見直しについて」というところについての御意見を頂きたいと思います。Ⅱの「1 国語施策としての漢字表の必要性の有無」というのがあります。これは,最初にも討議する出発点として,昨年4月来,問題の前提としてあったことですが,何か,この辺のところについて改めて加えるべきところとか,何か御意見がございましたら頂ければと思います。
 私としては当たり前のことが書いてあるように思うんですけれども,特に,この際,付け加えて主張を明確にした方がいいというふうなことなどございませんでしょうか。

○小池委員
   大変細かいことですが,1の「(1)漢字表作成の意義」に「目安であるという趣旨を踏まえれば,上記のようなマイナス面はそれほど生じないものと考えられる。」と書かれている。この表現の仕方ですけれども,マスコミの関係者からすると,「何を,のん気なことを言ってるんだ,他人事に言うなよ。」というふうに受け取られる表現じゃないかなと思うんです。これは,言い回しの問題ですけれども,実際に起きているじゃないかという立場からすると,何か責任を回避しているような言い方にも取れるので,少し工夫した方がいいのではないかと思います。

○氏原主任国語調査官
   確認ですけれども,要するに,常用漢字表というのは目安というふうにはなっているけれども,マスコミ関係者からすると,実際には,当用漢字表時代の制限という性格がずっとそのまま残っていて変わっていないではないか,ということですね。

○小池委員
   ええ,そういうのを薄々感じながらやっているんだ,それを何だという感覚です。

○前田主査
   確かにそうかもしれませんね。

○氏原主任国語調査官
   そこは相当難しいところだと思います。今「感じながら」とおっしゃったのは,国で出しているものが,制限でなく,目安なんだと言いながら,制限的な性格を残しているのではないか,そういうところを我々は感じているんだぞという,そういう意味でおっしゃったんだろうと思うんです。ここは意見が分かれるところかもしれないのですが,一方では,もう完全に目安になったのに,いまだにその趣旨をよく理解していないというふうに取るべきなんだという考え方もあるわけです。もう少し別な言い方をすると,マスコミが勝手にそういうふうに今までの性格を引きずってやっているので,むしろ,常用漢字表では前文に「目安」と書いてあるのだから,その趣旨をちゃんと生かすべきじゃないか,自分たちもその方が都合がいいからそうしているんじゃないかということを言う人たちもいるわけです。その辺りのところのバランスの取り方がすごく難しいと思うのですが,いかがですか。

○小池委員
   おっしゃるとおり,バランスの取り方は難しいところです。ただ,ここの言い回しとしては,後者の方の意見に立った記述の仕方になるのだろうと思うんです。しかし,現実に前者の受け止め方がある以上は,そちらの方からはここについての理解がちょっとねじ曲がった形で取られちゃうんじゃないかなという気がするんですよ。何も迎合しろということではないんですが,基本に立ち返って,飽くまでも目安なんだというところをしっかりと認識してもらうような仕方が可能かなと思ったので,申し上げました。

○氏原主任国語調査官
   分かりました。

○阿刀田分科会長
   余り上記のようなマイナス面は書かずに,これが飽くまで目安であることを更に認識していただきたいという辺りにとどめれば,別に問題はないのかもしれませんね。

○金武委員
   常用漢字表の見直しということになったのは,こういうマイナス面もあるということが一因なわけですけれども,そういう条件というか,前提で,我々は審議を始めたのであって,この審議の中で,交ぜ書きなどのマイナス面は特に話題に出ていなかったわけです。阿刀田分科会長がおっしゃったように,余りこのマイナス面のところは書かないで,目安としての漢字表作成の意義の方,つまりプラス面のところをなるべく表に出すような文面にされたらどうでしょうか。

○前田主査
   確かにマイナス面があるということを,ここで余り宣伝しなくてもいいかもしれませんね。そういったことがありながら,しかし,それを超えて新しい文章ができてくるということ,プラスの面があるわけですね。だから,その辺りのところが,目安に,ある意味では緩めた一つの利点であったわけです。

○甲斐委員
   私も,この書き方は,やはり小池委員と一緒で,ちょっと改めていただけると良いと思います。私自身,ある新聞社の表記,表現の監査委員をしているんですが,新聞社もかなり言い換えなどの努力をしておりますし,やはり表外漢字を使うということについては,読み手の理解に配慮しないといけないということで,交ぜ書きにするのか,あるいは振り仮名を振るのか,言葉を言い換えるのかということで,かなり真剣に努力を重ねています。したがって,何か,「生じないものと考えられる。」というような言い方ではのん気な感じがあるので,誤解のないように変えていただけると有り難いですね。

○阿辻委員
   3ページですが,項目の「2」と「3」には,「新常用漢字表(仮称)」という言い方が入っています。3の「(1)準常用漢字の設定」では,いきなり「準常用漢字」と出てきて,そこには「(仮称)」という言葉がないんですね。準常用漢字というのは,多分,ここが初出だろうと思うんですが,これは一体何のことか,その定義もなしに,「準常用漢字の設定に関しては,…」というふうになっている。これはあらかじめ何か定義を付けておかないと,何のことか分からないという気がするんです。例えば,新常用漢字として選ばれた字数が非常に多かった場合に,コアになる部分とそれ以外の部分に分けるという認識があって,コアではない,それ以外の部分が準常用漢字(仮称)ということになるということで理解してよろしいですね。

○氏原主任国語調査官
   はい。ここでは,そういう議論だったと思います。

○阿辻委員
   それを一言,説明をしておかないと,いきなり出てきて,何の定義もないということでは,ちょっと分からないのではないかなと思います。

○前田主査
   この「準」というような場合のことですと,まだ,この漢字小委員会として確定しているわけではないですよね。

○氏原主任国語調査官
   はい,正式にはまだ決まっておりません。

○前田主査
   ですから,ここでは今までに決まったことと,問題として後に残っていることを検討した。「検討した」ということは,こういう準常用漢字のことなどもそれに入るんじゃないでしょうか。ちょっと文章を変えてもいいかなという感じもするんですけれども。

○甲斐委員
   4ページの「(4)今後更に検討すべき課題等」に入るのかどうか,分からないのですけれども,常用漢字表を見ておりますと,当用漢字の初期から引きずっているところの1字種2字体という括弧内にも字体が示されている問題があるんです。これは,例えば,気持ちの「気」というのが「気」になるか「氣」になるかとかいうようなことですね。これは当用漢字からずっと引っ張ってきているんですけれども,これについて,例えば,新常用漢字表が一つにしていただけると,先ほどの人名用漢字に対しての「1字種1字体」という物言いが,大分すっきりしてくるのではないかと思うんですが,これは難しい問題なんでしょうか。

○氏原主任国語調査官
   今おっしゃったのは,この『国語関係訓令・告示集』の,例えば44ページに,気持ちだとか元気の「気」があって,そのすぐ後に旧字体の「氣」が括弧の中に入って示されているという,そういうことですね。

○甲斐委員
   はい,そういうことなんです。これは,できれば一つの字体にぱっと決まってしまうと助かると思います。

○氏原国語主任調査官
   これまでの経緯ということで,お話し申し上げます。当用漢字表の時代にはこういう括弧はなかったわけです。当用漢字表の場合には,昭和21年に当用漢字表が出て,23年に当用漢字音訓表と当用漢字別表が出ました。それから,昭和24年に当用漢字字体表が出るということで,それぞれ別個に出されましたが,常用漢字表は,字種,音訓,字体という三つの性格の表が一体化したものになっています。『国語関係訓令・告示集』の44ページにあるように,気持ちの「気」の脇に「氣」が括弧の中に入って出てくることについては,19ページを見ていただくと,「表の見方及び使い方」の5番に説明があります。19ページのちょうど真ん中辺りです。「括弧に入れて添えたものは,いわゆる康字典体の活字である。これは明治以来行われてきた活字の字体とのつながりを示すために添えたものであるが,著しい差異のないものは省いた。」と書かれています。つまり,これは,戦前からずっと使われてきた活字体を括弧の中に入れて,その字体がこういう字体になっていますという,そういうつながりを示すために付けられたわけです。ですから,これまでの経緯で申しますと,もともとなかったものを,常用漢字表作成の時に,文化の継承といった意味合いから,括弧の中に旧字体を入れて示したものです。ちなみに括弧の中に入っている旧字体は全部で幾つあるかというと,355あります。
 常用漢字表を検討していく過程で,いろいろな議論があって,旧字体とのつながりを付けるべきだとか,旧字体というものを全く否定してしまっていいのかとか,当用漢字の新字体のせいで歴史的な字体すらも読めなくなっているじゃないか,例えば,医者の「医」の旧字体「醫」が全く読めないが,こんなことでいいのかといったような批判がかなりあった。それで,これまでの文化を否定しているわけではない,それから,こういう通用字体,当用漢字字体表では「字体の標準」と言っていたわけですが,標準字体でないものは間違いであるのかどうかといったことが,常用漢字表作成のころ,議論になっていて,それも間違いではないという方向になって,そのことを示す必要もあったわけです。明治以来の活字体はこういう字体であったということで,むしろ文化の継承に配慮して旧字体を付加したという経緯があるんですね。ですから,もちろん,新常用漢字表の作り方として,常用漢字表の時には配慮してこういうふうに付けたけれども,今回はやめましょうということは,当然,ある話ですけれども,そこは,また漢字表の作り方としては非常に大きな問題になっていくだろうと思います。ですから今後,議論されていくべき課題の一つだろうというふうに考えております。

○前田主査
   もう既に常用漢字表の改定の話題の方に入っております。それで,最後に「(4)今後更に検討すべき課題等」とありまして,そこに字体のことなども入っています。ですから,そことのかかわりをどうここで考えていくかという問題も出てきます。

○東倉委員
   3ページの3の「(2)字種の選定」という項です。ここは前文があって,(1)~(4)と並んでいるんですけれども,この(1)~(4)というのは,この字種の選定に前もって行う,3,000から3,500字程度の漢字集合と,いわゆる母数,あるいは候補字というものの選定に関するものであって,これをどうしていくかというのは,「絞り込む」という一言で書いてあるんですよね。具体的にどういうふうに絞り込むかということで,私が覚えている議論は,あるところにボーダーラインを置いて,それで,そのところについては,個別議論ですねというような議論があったかと思います。字種の選定ということでは,もう少し書けるところがあったら書いた方がいいなという気がします。
 それからもう一つ,これは4ページの冒頭の「(3)「A:読めるだけでいい漢字」と「B:読めて書ける漢字」」と「(4)今後更に検討すべき課題等」というところに関してです。
 第1に,「(1)読める」「(2)書ける」「(3)分かる」で,「(1)読める」と「(3)分かる」というのが基本だということ。第2に,最初に出てくる情報化社会との関係で「読み手」と「書き手」ということで,いわゆる書き手の支援というのが,この情報機器によって行われて,極端に言うと,今までは書き手が既に学習した文字というものが書き手が書ける字だったけれど,情報機器によって1万規模に今後それが広がるんだということ。第3に,「(4)今後更に見当すべき課題等」の「ウ)手書き字形との関係」ということ。これらは,非常に密接にかかわっているような気がします。
 と申しますのは,1ページ,Ⅰの1「(1)情報機器の普及と漢字使用」というところで,「「読み手」に配慮した「書き手」」,この文自体は非常にうまくまとめられていると思いますけれども,情報機器の普及によって,書くということが,書記じゃなくて,選ぶということに変わってきた。選ぶということによって,今まで手書きで書くということにおいて学習されていたものが,ここで外されるわけですね。これは恐らく推定ですけれども,まだ学術的な立証はなされていないと私は理解していますけれども,「書けるということを学習する」ということが非常に希薄になるということ,しかしながら,選ぶということにおいて,その漢字をこういうふうに選んで,これを使えばいいんだなということが正しく行われたとすると,漢字の使い方が分かるということと読めるということは,こういう情報機器によっても学習される可能性があるということで,書くこと,選ぶこと,読めることの三つというのはいろいろなつながりがあるというふうに思っています。それをここに盛り込んでくださいという意味じゃなくて,関連する事項として考えられるという,コメントです。

○前田主査
   今,二つの御指摘がありました。

○東倉委員
   大事な方は前者の字種の選定についてです。

○阿刀田分科会長
   確かにこれは漢字小委員会の今期のまとめなんですが,ある程度議論を詰めて,一応この漢字小委員会としての合意に達した部分と,こういうことが一杯話題に上がったけれども,まだ詰めていない部分とがかなりこん然としていて,どの辺りに線を引けば一番いいのでしょうか。それは,この文書にはなかなか書きにくいことでしょうけれども,やはり上の,国語分科会や文化審議会に持っていくときには,この辺りまでは漢字小委員会としては相当煮詰めて考えて,既に合意に達していることですが,この辺りからは一応の考慮すべきこととして何度もトピックスとしては扱われたけれども,きちんとした結論として報告するところまでは至っていませんというような形で,この1年間の活動として報告するということになっていきますよね。今の問題なんかは,まだほとんどやっていないに等しいことだと思いますので,当然,そうしないと困る。その辺,前半なんかと比べると,相当密度に差があると思いますので,そのことを文章化するのは少し難しいかもしれませんね。それでも,ここから下は,まだですということを踏まえた上で,ありのままに報告する方が私はよろしいと思います。

○松岡委員
   そういう意味でも,手続の上で,4ページの「(4)エ)学校教育における漢字指導との関係」というのは,先ほど氏原主任国語調査官から,まだ確認されていないということだったので,ここはこれで行きましょうということを今確認しておいていいのではないでしょうか。

○氏原主任国語調査官
   そうですね。

○岩淵委員
   3ページの3の「(2)字種の選定」のところに「漢字出現頻度数調査」というのが出てきます。これは,4ページの(4)の「カ)各種の漢字調査の実施」のところとの関連で言うと,単に出現頻度数の調査をしたものは,それにしか使えなくなってしまいます。いろいろなことに使えるものを作るのが本来だろうと思います。例えば,音訓をどうするかという問題が出てきたときに,頻度数調査を幾らやってみても必要なデータは出てきません。そうしたことを考えますと,「漢字出現頻度数調査によって」という表現と,(4)のカ)のところに出てくる内容とは矛盾があるように感じます。もう少し関連性があるような形に変えた方がいいでしょうし,調査の在り方も少し検討すべきだろうと思います。

○甲斐委員
   4ページの上の方の(4)の「ア)新たに採用すべき音訓の問題」というところは,採用だけだを考えている書き方なんですけれども,やめる方も書いていただけると良いと思うんです。前に申したことがあるんですが,例えば,貴重の「貴」という漢字は,あれは尊敬の「尊」と同じ4種類の訓があるんですね。「尊」と「貴」は両方ともに,「たっとい」「とうとい」「たっとぶ」「とうとぶ」という同じ訓があるんです。これはちょっと,何とかしたい。そういう例があると思うので,採用だけではなくて,廃止とかというふうに言葉として出しておいていただけると有り難いと思います。

○前田主査
   新たにじゃなくて,もう一度見直すというくらいでしょうか。

○金武委員
   ちょっと戻りますけれども,2ページの1「(1)漢字表作成の意義」で,マイナス面をやめようという話になって,じゃ,プラス面をどういうふうにと思って,頭に浮かんだことを申し上げます。当用漢字表,常用漢字表ができて,国語の表記が易しくなった面は確かにあるわけで,これは,大きなプラス面だと思うんです。具体的に言うと,批判のある代用漢字の書換えなんですが,あの中で,完全に定着したものは,それだけ国語表記を易しくしたと言えるんです。「編集」の「シュウ」が「しゅう」から「集」になった。それから「とくとく職」を「汚職」に変えたのは,新聞社で考えたことですが,刑法でもついに「汚職」に変わった。一般の人が見ても,あの「とく職」という字を見たら意味は分かりませんけれども,「汚職」なら非常によく分かるというような,先ほど甲斐委員がおっしゃったように,新聞社を中心として,表内の範囲でいろいろな書換え,言い換えを考えた結果,定着したものについては,むしろ,日本語の表記を易しく,分かりやすくしたという面があると思います。ただ,定着しないものもありまして,代用漢字として非常に非難されているものもありますが…。

○前田主査
   この配布資料2は,「敬語の指針」の方のまとめもあり,大変な時期におまとめいただいたわけで,いろいろな問題がまだ残ったようでございますが,取りあえず,今度の1月15日の国語分科会にまとめとして出さなければいけないわけです。なるべく今までの御意見を取り入れて,文章を直していただくことになりますけれども,なお,問題が残った場合には,当日御発言いただいて,御議論いただきたいというふうに思います。ただ,この場合はまとめと書いてありますけれども,飽くまで今期のまとめですから,実際に新常用漢字表としてどういう形で出していくかという点については,更に詳しい御議論を頂きまして,まだ不確かなところなどは,次期に御検討いただくということでお許しいただければというふうに思います。
 そういう点で,先ほどお話がありましたように,この文面では,ここまではこの今期の委員会としてほぼ意見が一致したというところのほかに,話題に出て検討したけれども,なお決まっていないというところがあります。それがある程度明確になれば,次期の委員会に送るのに,検討の中心あるいは基本として十分なのではないかと考えております。できるだけそこのところが明確になる形で,場合によっては,「今後更に検討すべき課題等」という方に,回していただく部分があってもいいかなと感じていますが,事務局の方から何かありませんか。

○氏原主任国語調査官
   4ページにある「(4)今後更に検討すべき課題等」についてのところは,正にこれからの課題ということで,決まっていないところですが,これより前の「(3)「A:読めるだけでいい漢字」と「B:読めて書ける漢字」」のところまでは,一応,ここに書かれている範囲では,合意されたというようなイメージで書いています。ですから,その合意されたという中で,「今後課題とする」という書き方もしてあるのは,「今後課題にするというようなことで合意されている」ということです。合意されているか,されていないかというラインというのは,配布資料2の4ページの(4)の上か下かというところで線を引いてあるというイメージです。大きな構造として,そのような資料のまとめ方ではまずいということがあれば,是非,御指摘いただきたいと存じます。

○前田主査
   先ほど私が「ある程度明確に」と申しましたのは,例えば「…である。」というふうな形になっていれば,これはもう大体合意したことになる。それに対し,「○○というふうなことを検討した」とか,「○○という方向で検討した」とか,そういう表現にしておけば,ほぼ意見が一致したんだけれども,ちょっとまだ,場合によっては不十分なところがあるかもしれないことになるんじゃないでしょうかということです。

○金武委員
   ちょっと希望を述べますと,3ページの一番上の「3 新常用漢字表(仮称)における固有名詞の扱い」のところで,「漢字表の「適用範囲」から除外し,対象外とする」ということで,その対象外の理由が書いてあります。これは,ほかのところで,「今回は固有名詞について言及することになっている」のですが,だからといって,その固有名詞に使う文字が国語施策上から全く野放しじゃないというような意味での,何らかの国語施策上の考え方が必要であるというような文面をどこかに入れていただけると有り難いと思います。つまりこれだけ読んでいると,やはり今までと同じように野放しで,もう固有名詞は,すべて国語施策から除外ということになってしまうと読めてしまう。諮問理由の中でも固有名詞については書かれていますので,その辺については考慮した方がいいと思います。

○松岡委員
   私の記憶では,固有名詞については,既に名前が付いて,通用してしまっているものには変更しろとは言えないけれども,これから新しく命名されるような地名とか人名とかでは配慮を求めるというのが,多分,暗黙の了解だったように思いますので,そこを一言加えられたらいかがでしょうか。

○氏原主任国語調査官
   おっしゃるとおりだったと思います。その趣旨は,一応2ページの「(3)固有名詞についての考え方」の中で,「新たに名前を付ける場合の参考に…」というところで,書いてはあるんですけれども,もうちょっとはっきり書くということですね。

○甲斐委員
   3ページの「(2)字種の選定」,真ん中のゴシックの「(3)出現頻度数が低くても,<日本人として読めなければいけない漢字>については拾っていくことを考える」というのを受けて,下の「(3)の漢字を「特別漢字」として位置付けるかどうかについては,今後の課題とする。」という表現があります。ここは,「(3)の漢字の一部を」というふうにしていただけると良いかと思います。というのは,(3)の場合は,出現頻度数が低くても,例えば,<春夏秋冬>の中の「冬」が仮に低かったとしましょう,仮にですよ。しかし,これはもう入れるしかない。そういうようにペアとか四字熟語とか,何とかの観点でこれは入れるしかないといって拾ったのも,(3)としては出てくると思うんです。しかし,これは一般に使われる漢字ですから,そういうことで「(3)の漢字の一部を」というような,ちょっと限定が必要かなと思います。

○氏原主任国語調査官
   はい,分かりました。先ほどの阿辻委員の御意見とも少し重なってくるような…。

○甲斐委員
   ああ,言われたことですね。

○金武委員
   それに関連しますけれども,私の理解では,だから,(3)の特別漢字というのは,この3ページの3の(1)で書いた「準常用漢字」がもし設定されるとすると,その中に入ってくる場合もあるんじゃないかと思うのです。つまり2,000字を,仮に2,000字という線引きをすると,2,000字を超えた場合に,その部分のグループ分けで,特別漢字なり,準常用漢字でもいいですけれども,どっちにしてもこれは今後の問題ですから,そういうような方向が分かっていればいいと思います。

○甲斐委員
   もう一つ,4ページの一番上の「(3)「A:読めるだけでいい漢字」と「B:読めて書ける漢字」」の一番下の「漢字が使えるためには」というときの「使う」ということの概念なんです。これは,書くということではなくて,表現する,言い表すということなんでしょうか。つまり,機械を使って,パソコンを使って表現する,あるいは話し言葉で使う,そういう意味かなと思って,そういうような「読む」「書く」「分かる」に加えて,「使える」ということがここで出てくる。そうすると,これは,話し言葉で使える,あるいは書き言葉でも,文字で書くのではなくて,パソコンで打って使える,そういう意味かと思ったんですけれども,どうなんでしょうか。

○氏原主任国語調査官
   これは,前々回の阿刀田分科会長の御発言(第12回国語分科会漢字小委員会・議事録,13ページ)の中で,例えば「ケントウ」などというときに,「ある問題について検討する」という意味の「検討」なのか,「見当が付かない」というときの「見当」なのかを文脈の中で,きちんと使い分けることができるということ,それが,要するに「漢字を使う」というときに非常に大切じゃないかという主旨のお話がありました。そもそも,「漢字を使える」って一体どういうことなんだろうかという議論になっていましたし,前回も,漢字の習得に関しては「読めて,書けて,分かる」という三位一体が重要なんじゃないかということが議論を通じて繰り返し出ていました。ただ,こういう時代ですから,最低限,その字が読めて,分かればいいのではないかといった考え方も出されていました。つまり,見当違いの「見当」を選ぶか,「検討」を選ぶかということが分かれば,仮にそれが書けなくても,現在のような情報機器が広く普及した時代であれば,「使える」と言ってもいいということで,「使える」というのは,要するに,読めて,意味が分かるというのが,おおむねここでの共通認識だったと思います。

○甲斐委員
   文脈の中で適切に,ということでの「使う」なのですね。

○氏原主任国語調査官
   ここでの議論としては,そういうような意味合いだったと思います。

○前田主査
   使いこなすまではいかなくとも,一応ワープロで打つ場合には文として使えるということですね。

○甲斐委員
   話し言葉でも同じですね。

○氏原主任国語調査官
   当然,読めて分かれば使えますよね,書かなくていいわけですから。

○阿刀田分科会長
   「(1)読める」と「(3)分かる」の条件を満たした使い方があるということですね,逆に言えば。「(1)読める」と「(3)分かる」だけでも一通り使うことは可能であるということですよね。

○甲斐委員
   我々はこの場にずっと参加しているから理解できるのですけれども,これがぱっと外へ出たときに,例えばインターネットで初めて読んだとしても,これはどういうことかを分かるように書いていただけると良いと思うんです。

○氏原主任国語調査官
   この議論で一番重要だったことは,「読めるだけでいい漢字」というのは,文字どおり読めるだけでは何の意味もないということだったと思います。読めるだけで,「見当違い」でも,「検討している」でも何でも,「見当」を当てたんでは,本当に見当違いになってしまうわけですから。そういうことではなくて,最低限「分かる」ということが必要で,そこに力点があったんだと思うんですね。ですから,その辺りの趣旨をもう少し分かるように,前田主査の御指示を受けて書き直したいと思います。

○前田主査
   今のお話しを聞いていればよく分かるけれども,これを文として読むとなかなか…。

○甲斐委員
   やはり,初めての人には分かりにくいですね。

○松岡委員
   そうすると,ちょっと小さいことですけれども,順序としては「読める」「分かる」「書ける」ですよね。

○氏原主任国語調査官
   確かにそうですね。読めて,分かって,書ける。

○松岡委員
   そうです。書けること,つまり,自分で書記できるというのが,一番高度なわけですから…。

○氏原主任国語調査官
   分かりました。それでは,順番を入れ替えます。

○松岡委員
   ええ,順番を入れ替えた方が,多分いいというか,ここの趣旨としては届きやすいんじゃないかなと思います。

○岩淵委員
   4ぺージ「(4)今後更に検討すべき課題等」の(4)の括弧は外した方がいいのではありませんか。この括弧が付いていますと前の部分との境界がはっきりしなくなります。

○阿辻委員
   岩淵委員の御意見を伺って,なるほどと思ったんですが,1ページは四角の囲みで,ローマ数字のⅠがあって,2ページに四角の囲みでローマ数字のⅡがあります。そうしますと,4ページの(4)のところをローマ数字のⅢにして,四角に囲んだ方が区別が明確になるかなと思うんです。

○氏原主任国語調査官
   分かりました。そのように修正いたします。

○前田主査
   それでは,もう時間がございませんので,大変申し訳ございませんが,国語分科会の方で,また御意見がありましたら出していただくことにいたしまして,今日は,ここで切りたいと思います。
 それでは,以上で,本日の協議を終わりにしたいと思います。


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