第19回国語分科会漢字小委員会・議事録

平成19年12月5日(水)

14:00~16:20

経済産業省別館1014会議室

〔出席者〕

(委員)前田主査,林副主査,足立,阿辻,甲斐,金武,笹原,納屋,濵田,松岡,松村,邑上各委員(計12名)

(文部科学省・文化庁)町田国語課長,氏原主任国語調査官ほか関係官

〔配布資料〕

1  第18回国語分科会漢字小委員会・議事録(案)

2  漢字出現頻度表 順位対照表(Ver.1.1)

3  候補漢字の選定手順について(案)

4  第11期国語審議会審議経過報告(国語審議会,昭和49年11月8日)

〔参考資料〕

1  義務教育用漢字主査委員会委員長報告(『国語審議会の記録』,昭和27年)

2  訓の一覧表(『国語審議会報告書 No.9』,昭和46年)

3  用語検索結果画面(検索指定用語「車輛」)

〔参考配布(委員限り)〕

○ 音訓調査に追加する漢字

〔経過概要〕

1  事務局から配布資料の確認があった。

2  前回の議事録(案)が確認された。

3  事務局から,参考資料1,2,3,及び配布資料2,3,4についての説明があり,説明に対する質疑応答の後,配布資料2,3に基づいて意見交換を行った。

4  事務局から,「参考配布(委員限り)」の資料について簡単な説明があり,音訓調査をする漢字のうち特に出現頻度数が多い漢字については,特定の熟語や読み方に絞って調査するという方針が了承された。

5  次回の漢字小委員会は1月9日(水)の10:00から12:00まで,合同庁舎第7号館東館3階の3F1特別会議室で,また,国語分科会総会は12月10日(月)の10:00から12:00まで,学術総合センター2階の中会議場3・4で,それぞれ開催することが確認された。

6  質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。

○甲斐委員
 配布資料3の別紙2の中に,四角で囲んだ漢字があります。例えば,1ページ目の下から7行目に「之」という漢字があります。同じページの一番右の下に「伊藤」の「伊」があります。こういうのは人名に出てくる漢字だと思うんですけれども,「1~500位」という中に入っているからというので,すっと出ているんですが,漢字ワーキンググループでこういう「之」とか「伊」とかという,「誰」や「俺」は結構なんですけれども,こういうのはどのように考えていく方向になったかを教えてください。

○氏原主任国語調査官
 甲斐委員がおっしゃった「之」や「伊」は,漢字ワーキンググループでも非常に話題になりました。結論から言いますと,先ほど,候補漢字Sだからといってもそのまま新常用漢字に入るわけではないと申し上げたのは,正に今御指摘くださったような漢字について話題になったからです。例えば,「之」などは人名のほか助詞の「の」としても使うかもしれませんが,そういうものは新常用漢字表に入れる必要はないだろうということです。ですから,先ほども申し上げたように,候補漢字Sに当たるものが70字あるわけですが,必ずしも<候補漢字S=新常用漢字>というわけではないわけです。むしろ,これを見ていきますと,今おっしゃったような漢字も結構出てきますので,そういうものは入れない方がいいだろうというのがワーキンググループの意見でした。

○甲斐委員
 そうすると,2,200くらいの表を作る上で,要る,要らないというときには,まだ一応その2,200の表に入っているということですか。

○氏原主任国語調査官
 2,200の表にももう入っていないと思います,ワーキンググループの方向としては。

○甲斐委員
 では,それで結構です。

○阿辻委員
 配布資料3の別紙2で御指摘のあった「之」と「伊」は,確かに氏原主任国語調査官の言ったとおりです。2ページの真ん中よりちょっと下,「奈良」の「奈」と,私の名字にも使われている「阿」,さらにちょっと下の左側の「韓国」の「韓」です。「阿」という字は,圧倒的に固有名詞なんですが,例えば「曲学阿世の徒」という使い方をしないわけではないわけです。あるいは「阿る(おもねる)」などという訓で使わないことはないわけです。だから「之」のほどに100%固有名詞専用とは断定し難い。「韓」も,原則的には国名ですけれども,例えば「韓流ブーム」とか「日韓関係」とかといったことまで考えると,「伊藤さん」の「伊」と同じように切り捨てて果たして正しいのか。ちょっとそういうボーダーになるような,固有名詞の漢字でありながら,他の使い方もするものがまだ中にはあるだろうと思うんです。そのすぐ下に「弥生」の「弥」という字がありますけれども,これも「弥生時代」ということで使いますし,それから「弥生さん」という名前で使いますし,あるいは一番下の「智」は,「智子さん」というお名前とともに「人智の結晶」とかというふうに使う。そのボーダーの部分というのはまだこの前の漢字ワーキンググループの会議では全然検討しておりませんので,そこはまだちょっとグレーゾーンかなという感じだと思います。さっき氏原主任国語調査官がおっしゃいましたように,候補漢字Sの中に入るけれども,その中のグレーゾーンについては,これからの作業ということだと私自身も認識しております。

○甲斐委員
 そうすると,今,阿辻委員の「阿」ですけれども,これなどは先ほどのように「曲学阿世」といった熟語を別に立てるとしたら,それで済むんですね。

○阿辻委員
 でも,「曲学阿世」という語彙ごいそのものが一体どれほど今使われているかという問題がありますよね。

○甲斐委員
 ただ,余りそれを言い出すと,要らないというのが出てきます。

○阿辻委員
 私は別に自分の名前だからと固執しているわけじゃありませんので…。ただ,「韓国」の「韓」などはかなり難しいかなと思うんです。

○甲斐委員
 これは地名といっても外国の国名ですから,これはまた別扱いになりますね。

○阿辻委員
 そうですね。この2ページでは一番下の「智」と,それから「那辺にあり」の「那」,「奈津子さん」などに使います「奈」,この辺のところはちょっと…。「彦」というのは固有名詞専用と考えてよろしいんでしょうけれども,この辺はちょっとこれからいろいろと考えるべきではないですか。

○前田主査
 検討してみる対象に一応残しておくという感じですね。

○松岡委員
 まず,配布資料3で示された選定手順に関しては,これで進めていただくことに全く異存はないどころか,よろしくお願いしますという感じです。やはり最終的には一文字一文字検討していくというのが残っているわけですから,それまでのプロセスとしては,私はもう今のこれでいいのではないかと思います。

○前田主査
 これは,なるべく検討の範囲を広めに取っておこうということです。これから検討した上で議論が出てくるかと思いますけれども,この方法自体については,今のところ選定の手順をかなり割り切った形で,取りあえず候補をなるべく多く採る形で残してあるということになりますけれども,この選定手順については,お認めいただいたということでよろしいでしょうか。

○甲斐委員
 もう一つだけ。「特別漢字」は,漢字ワーキンググループで,例えば,別紙1のところの「2500位以下の常用漢字」という中には,これはどうしても順位は低いけれども残さないといけないものが幾つかあります。数は数えていないけれども,10字ぐらいはあるかなと思うんです。そういうのをどこかで救わないといけない。そのときに論理に矛盾を生じないためには,「特別漢字」といった発想で救うということは必要かなと思うんですけれども,これは何か話が出ているんですか。

○阿辻委員
 それは,配布資料3の最初の(1)で点線で囲んである,そこに触れる問題だと思います。この前のワーキンググループでは,そこに関しての議論はしなかったという気がします。
 それから,配布資料3の下の方にある「拾う条件をどのように考えるか」に関連して,配布資料4も,候補漢字S・A・Bに関して実際に選定作業をしていく段階の道筋とでもいうようなものが見えるものではないかと思います。「特別漢字」のことと,配布資料4のことについて,氏原主任国語調査官の方から少し補足していただけませんか。

○氏原主任国語調査官
 分かりました。まず,甲斐委員からお尋ねのあった「特別漢字」については,阿辻委員がおっしゃったように,特に議論はしませんでした。ただ漢字ワーキンググループの中で確認されたのは,「特別漢字」の話にちょっとかかわると思うのですが,なるべく漢字表の方は単純明快にしておこうということです。常用漢字,準常用漢字の議論というのは,これまでずっと引きずってきているわけですけれども,漢字ワーキンググループの中でもまた準常用漢字の話が出て,完全に合意したということではないのですが,準常用漢字はできるなら設定せず,漢字表の中をなるべく単純にしておこうという確認がありました。漢字表に「特別漢字」が入ってきますと,どこからが「特別漢字」で,どこからが「特別漢字」でないのかという線引きが非常に難しい。漢字ワーキンググループの中では,これは林副主査などが特に強調されていたところですが,外部に対して説明のしにくい,あるいは説明のできない,それは非常に主観的なものではないかと言われてしまうような説明は極力避けるようにしよう,ということは確認しております。ですから,「特別漢字」についても,漢字集合の中に更に部分集合を作って複雑化するようなことはなるべく避けた方が良いという雰囲気はあったと思います。
 それから,配布資料4ですが,さっき申し上げましたように,「「当用漢字表」の改善に関する審議経過」ということで,当用漢字表をどうやって改定していくのかということで始めた議論の審議経過です。これは見ていただければいいと思いますが,この資料にはちょっと出てこないのですが,字種選定の上で大きな観点として,ここでも話題になっていますが,語ということに非常に力点が置かれています。熟語として使うときに何を使うのか,どう使うのかということです。それから,当時の漢字表委員会というのは,ちょうど今の漢字小委員会と同じような委員会ですけれども,前田主査に当たるのが岩淵悦太郎先生なんです。岩淵先生の御説明の中に,もう一つ,漢字の構成要素という点から考えるといったことが,当時の記録を見ると出てきます。例えば,今,岡山県の「岡」が問題になっていますけれども,岡山県の「岡」を挙げて,この「岡」というのは,糸偏を付ければ「綱」になるわけです。金偏を付ければ「鋼」になるわけです。どちらも「岡」を持つ形声文字ですから,「コウ」という音を持ちます。常用漢字表には「鋼」も入っていれば「綱」も入っています。でも「岡」は入っていません。漢字構成から言えば,岡」という字が本当は入っていた方がいいのかどうかというのは,先に「岡」を教えておいて,これが「コウ」という音を持つんだということが分かれば,金偏を付けたり糸偏を付けたりしたときに分かりやすいということは,実は松岡委員もよくおっしゃっていることだと思うのです。このことも当時の記録には出ています。ですから,そういった語あるいは語彙という面と,漢字の構成要素という面も,この資料4には出てきていないのですが,二つの観点として勘案しながら検討しています。

○前田主査
 ただ今,御説明いただきましたのは,具体的に漢字を検討する場合のいろいろな見方のことで,そのとおりですが,取りあえず最初の基本方針ということになりますけれども,今まで使ってきた常用漢字表というものを基本的な表として,重視していくことが前提になっているわけです。そして,検討していく場合に,現在使われている漢字の実態を調査していただいた資料というものが,量的にも質的にも常用漢字表の検討よりも今は新しい資料が,しかも大きな資料が出てきている。だから,これの使用頻度というものを重視する。これが基本になっていると思います。その上で,使用頻度をどういう形で順位を付けて漢字を検討していくか。その案が,先ほど出ました候補漢字の選定手順になってくるわけです。その辺りの前提のところをお認めいただければ,先に進められると思うんです。その上で,これによって表を作っていく中で,更に検討すべきいろいろな,先ほどお話のあったような視点,見方があるわけで,そこでバランスの問題になってくるから,その辺はかなり難しい。どちらをどの程度に重視するか,どこで切るかということで,それぞれ議論が出てくるかと思いますので,この辺のところは,また今後の検討過程で御報告しながら御意見を頂いていくということになるのではないかと思います。それで,その前提として,まず基本的な部分としての候補漢字の選定手順をお認めいただきたいのですが…。

○甲斐委員
 先ほど私が質問した別紙1ですけれども,今の配布資料3で言えば,別紙1に挙がっている漢字(2500位以下の常用漢字)というのは拾えない形のものなんです。ただし,現在の常用漢字に入っているから,余り大きく変わるといけないのではないかという形で言えば,現在の常用漢字に入っているものはやっぱり全部入れるのか。つまり,当用漢字から常用漢字へ来たときに,結局1字も捨てていない,だから今度も,現在の常用漢字と余り食い違ってはいけないということで言えば,既にあるものは全部とにかく残そうというのは行けるかなと思う。けれども,入れた場合,頻度数は少ないということになってしまうので,ここの別紙1をどうするかだけはちょっと分かりにくい。後は,もうすっかり私は結構なんです。別紙1をどう考えるかというところについてだけ,前田主査に説明していただけたら,私はもう大賛成です。

○前田主査
 この別紙1については,個人的な見方はあるんですけれども,漢字小委員会の委員の中にはこうした漢字を常用漢字表の中から省くことには賛成できないという御意見がありましたので,今の段階でそのことの議論をすると,先に進めないんじゃないかと心配しているのです。

○甲斐委員
 それで残しているわけですね,棚上げということで…。

○前田主査
 それで一応というのは失礼ですけれども,残しておいて,後でこれについては何らかの決着を付けなければいけないと思っております。つまり,字によっては省いてもいいと考えるか,それとも今の常用漢字表にあるものは省かないという方向で行くのかということです。そのような問題があるということはよろしいでしょうか。そうすると,それの扱いの問題になります。だから,今の段階でそのことに決着を付けるか,それについては議論を後に残しておくかという問題です。

○甲斐委員
 ただ,別紙1を棚上げした形で,後のものを論理的にやっていったときに,再度別紙1をどうするかで,最初に立てた論がかなりいい加減になるおそれはあるんです。だから,そこのところがどうなるのか。きちんと切るのかどうかです。何か一字も切らないというのも変な話のような気もするんです。

○金武委員
 この別紙1の漢字の中には,いろいろな性格のものが混じっていますから,一律にどうこうというのではなく個別に,保留になっているようですから,最後に検討するときに,それまで採用予定とされているものとの整合が取れた説明ができればいいと思うんです。採れないものについて,例えばこれは私の個人的な考えですが,「膨脹」の「脹」というものは,「膨脹」という熟語にしか使わない上に,「チョウ」は「張」の方でほとんど言い換えが利いて,どの辞書にも載っているような状況ですから,まず要らないのではないかとか,そのように個別的に考えていって,削るものは削り,残すものは残す。だから,これ全体を通して一つの論理で作るのは,頻度だけならいいんだけれども,後は個々の字の性格によって理由は違ってくるんじゃないかと思いますので,後で当然検討するということにして保留にしておくというのが,進みやすいのではないかと思います。

○松岡委員
 私も先ほど一つ一つの文字を検討すると申し上げたのはそこのことで,たまたまこれは別紙1で一まとめになっているから,何か一まとめで論じなくてはいけないようなことになるけれども,そうではないのではないかと思うんです。今,金武委員がおっしゃったように,一つ一つの文字にそれこそ個々に,以前の国語審議会でも述べられたような理由を一つ一つ当てていって,その造語能力とか,ほかとの構成要素の関係で重要なのはどれかとか,その濃淡が全部違うと思うので,別にこれを一まとめにして今どうこうという結論を出す必要はないのではないかと私は思うんです。

○甲斐委員
 私もそう思っているんです。しかし,最後に,これは現在の常用漢字に入っているから残せという意見が絶対出るような気がするんです,一字たりとも削るなと。その時に委員が覚悟して,やっぱり削るべきものは削るといった態度を,一字でもいいんですが,その字の役割によって,そういう姿勢が出ると,私は大変に結構だと思うんです。削れるかどうかというところをちょっと心配したわけです。だから,1字1字検討してというのは,もちろん私もそう思っているんですけれども,検討した上で本当に覚悟を決めることができるのか。これは委員の責任です。そうすると,前の当用漢字から常用漢字に来た時に,11字ぐらい削ると言っていたのが,最後の土壇場で全部入ってしまったんです。ただ入れたんです。今回もそうなるんじゃないかということを心配しただけのことです。

○金武委員
 私も,これを全部残すというのはちょっとどうかと思いますから,それは,残すという意見が非常に強くても,この委員会において削るという結論が出たなら,それはそれで通すべきだと思います。

○足立委員
 常用漢字表にした時のいわれというのがかつてあったわけですね。その辺りのところを斟酌しながら,今後入れるのか入れないのかという検討も加えるわけですね。そうすると,その当時常用漢字に採用されたといういわれをどのように見るのかということになるわけですね。

○前田主査
 従来の常用漢字表を重視しているという意味で言えば,そのとおりですね。

○松村委員
 私も,これを見た段階で,常用漢字で2500位以下のものについては個別に検討を加えるとありましたので,これは検討した結果,取捨選択ができるものだというふうに解釈をしておりました。常用漢字を今回も全体としては総数を余り増やすべきではないという意見で大体締めくくられていたと認識しています。今後,この表外漢字の中から個別に検討を加えて,拾っていく漢字があれば,この60字をそのままにしておけば,相当な数になるだろうと思いますので,当然,検討はされなければいけないんだろうと思っておりました。
 それから,それとは別に,先ほど「付表2」という考え方が出てきたと思うんですが,「付表2」に入れる漢字というのは,これはまだ全部見られていないんですが,この中にもしその漢字が入っていて,総数が余りに多ければ,その「付表2」の方へ回していくという考え方で理解してよろしいんですか。

○前田主査
 その「付表2」のことはまた後で議論していただきたいと思っているんですが,考え方としては,そのようなことも考えられると思っています。

○松岡委員
 重なりますよね。これをずっと見ていっても,この熟語でしか使わないなというようなのがありますね。その熟語がかなり使われているとしたら,「付表2」を設けるという方向に,何か必然的にそっちへ行くような気がするんです。

○松村委員
 かなり使われているというのは,例えば,中学校の教科書で「弾劾裁判」とか「百姓一揆」とか,そういうたぐいのものでしか使われない。日常生活ではほとんど使うことはないと思うんです。そうなってくると,この常用漢字表の本表とは別に付表2の中で考えるという考え方を私はなるほどなと思いながら聞いていたんですが,ダブっている部分について,そのようにするという前提があるのかどうかというところはちょっとお聞きしたいと思っていました。

○金武委員
 現在の常用漢字を選定する基準というものを大体当てはめていくということで,これから頻度の高いものを漢字ワーキンググループで作業していただくわけです。それは結局,頻度が高いもの,あるいは日本語を書き表すために必要なもの,熟語の能力が高いもの,あるいは仮名書きでは分かりにくいものとか,ある程度のそういう基準を満たすものを選んでいくわけだと思います。最後にそれと全く同じ基準で,この2500位以下の常用漢字というものを見ていけば,同じ基準で,これは切り捨てた,これは選んだということになると思うので,説明としては分かりやすいのではないかと思います。先ほどおっしゃったように,「拷問」とか「弾劾」とか,熟語でしか使わないもので,ある程度これは必要だということが合意されれば,「付表2」が採用されるとしまして,その場合は付表に入れればいいというふうにやっていけばどうかと思います。

○阿辻委員
 漢字ワーキンググループで,この議論になった時のお話をしようと思っていたんです。個人的な考えですが,例えば別紙1の最初から5番目に「准」という字があります。これは,今年の4月から御承知のように「助教授」が「准教授」という名称に変わりましたので,もしも今新しい頻度数調査をやれば,これは絶対に順位が高くなるに違いない。そうしますと,現在2499と2498に「修繕」の「繕」,それから「搾取」の「搾」という字がこのボーダーぎりぎりに入っているんですが,例えば,「准」が上がってしまうと,「搾」か「繕」がこちらの別紙1に入ってしまう可能性もあるわけです。ですから,時代によって,例えばこの中では「准教授」の「准」が極めて顕著な文字だろうと思いますが,このデータを杓子しゃくし定規に考えてというのは,私は余り意味のないことじゃないかという気がいたします。
 もう一つは,「赤痢」の「痢」,「種痘」の「痘」,これは「赤痢」「種痘」くらいでしか使わない漢字かなという気がいたします。でも,これをなくすとちょっと困るのかなと思いますので,本当に個別具体的に,その用例あるいは社会的な文字の機能を検討していくしかないんじゃないかと思います。「膨脹」の「脹」は,先ほど金武委員がおっしゃっていましたように,今は,弓偏の「張」がかなり普及していると思いますので,削るのだったら,例えばこれは削る対象になるんじゃないかと思います。あるいは「逓信省」の「逓」という漢字は,実際にはもう熟語としてほとんど使われませんので,これは,正々堂々とした理由というと変な言い方ですけれども,割と積極的な理由で対象から外そうと思えば外せる理由はあるんじゃないかという気がいたします。まだまだこれは先の検討の課題だろうと思っていますので,ここで,それぞれの個別の文字についてどうのこうのということ自体は余り意味のないことだろうと思いますが,残すべきものもかなりあるなと私には思われます。

○笹原委員
 2500位以下の常用漢字というのは拝見していると,日本国憲法に出てくるという理由から入ったという漢字も,この中に含まれていると思われるわけです。配布資料4で挙げてくださったようなものの中には,具体的には憲法などという名前は出ていないけれども,先ほどどなたか委員の方がおっしゃったように,個々の字に採用された理由とか,いわれといったものがあるとおぼしいわけです。例えばそういう憲法にあったから入れたとか,それ以外の配布資料4にないような理由でもし重要なものがあったとしたら,やはり押さえていく必要があるのかなという気はしております。

○甲斐委員
 1字1字やるから今日しなくてもいいんですけれども,考え方の筋道について一言。前から出ているのは,現在の常用漢字,仮に2,000とすると,2,000を余り超えないといった話がここで出ている。今日,氏原主任国語調査官からは,一応仮に2,200で切って,そこで入れたり出したりしようと言われた。その上で,今度2500位以下に常用漢字がこれだけ残っていますよと言われた。そうすると,まだ2200位と2500位の間の常用漢字もあるわけです。したがって,なぜ2500位以下の常用漢字といってここへ出しているのか。2200位で切るというのは,御説明で大分分かってきたんですけれども,そこら辺りをもうちょっと漢字ワーキンググループで検討していただいて,我々が分かるようにやっていただいたらいいというふうに希望します。

○納屋委員
 私は,2,200字の漢字表をまず作って,そこから字を加えたり削ったりということを,いろいろな角度から見ていくという方法自体は正しいと思っているんです。いい方法だと思っているんです。先ほどから出てきている常用漢字の最後の60字についてどうするかというのは,もう現実にこの60字の話題になっていると私は思います。しかし,結構これは生々しくて,そのままなのか,それとも削るのかというところまで踏み込んでいっていると私は思うんです。前回の議論の時,情報化のこのような状況の中なのだからということで,「情報機器を利用して書くことができればよい」,そういう漢字のことを頭に置いてやっていくとおっしゃっていたわけで,ここでも,それは了解されていることだと思っています。したがって,今のところから生々しく削る,加えるということで議論するのではなくて,まず2,200字という大前提で行って,そこのところをよく吟味していって,なおかつ60字というところの,60字は非常に重要だと私は思っております。常用漢字を決めてきた段階でも,前回もこれで捨てなかったというのも,私は一つの大きなものだと思っています。情報機器を使うということがどういう意味合いだったのだろうか,ということも考えた上で,だから,「読めればいい」とか「書ければいい」とかという,その段階での議論とは少し違っていると思っているので,進め方については,このまま進めていただいて,1字1字のところを丁寧に最後まできちんと吟味するというので,私はよろしいのではないかと思います。

○邑上委員
 今日のお話の手順で,いろいろなことが大変よく分かりました。私も,阿辻委員がおっしゃったように,最終的には文字の機能を検討していって,残すべきものもあり,そして削るべきものもあるという,その姿勢は大事だと思っております。ただ,このままで行くと,やっぱりどれも大切となりそうな気がするんです。というのは,それぞれ字には思いがありまして,願いがあるわけですから…。ですから,甲斐委員がおっしゃったように,この漢字小委員会として2,000字を超えないという辺りを大事にしたいと考えます。ある文字の機能の検討のときどういうことを大事にしていこうかという辺りも,これからまた漢字ワーキンググループで御検討いただきたいと思います。その線が出たら,覚悟を決めて,減らすべきは減らすといった気持ちで,そしてより良いものを残していくようにしていきたいなと思います。手順としてはおおむね賛成したいと思います。

○前田主査
 この候補漢字の選定手順で,候補になっている漢字が全部入るということじゃないわけです。しかし,使用頻度の高さ,つまり順位というものがかなり大きな判断の材料となっていることは確かで,それは現代の漢字の使用において重要な位置を占めていて,そしてその機能を果たしている漢字だと考えられると思うんです。ただ,それを例えば2,000なら2,000というところで,あるいは2,200なりで切ろうとするときに,その境界のところについては判断をしていかなければいけない。その判断をする材料というか,考え方というものがいろいろあるわけです。そのところにもやはり何か基準を考えていかなければいけないというのが私どもの仕事だと思うんです。だから,その点で,今の例えば2500位以下の常用漢字という別紙1を最初に挙げて,そして常用漢字表を充実させるという言い方を私がしましたから,その辺りのところにちょっとどうも私の意図とは違った何か不安感を与えたのではないかといった個人的な反省なんですが,そう思っているんですけれども,どうなんでしょうか。もちろんこれを検討するわけですから,その点では意見の食い違いがないんじゃないかという気もするんですが。私は,それは2500位以下の常用漢字というものを考える場合に,常用漢字表にある字は全部残したいという意見もあると申し上げたけれども,そういう意見も実際にあるわけです。しかし,私がそれに賛成しているという意味ではないので,だからこれも検討することは当然と思っているんです。

○甲斐委員
 2,200字で切る,2,200字を超える漢字についてはこういう表に挙げてみたというのだったら,我々としても納得するんです。ところが,一方では2,200字で切ると言いながら,今度2200位から2500位の間の300については何もここで取り上げていなくて,2500位以降を出しているんです。そこのところを漢字ワーキンググループで次の時までに分かるようにしてくだされば,今日の形はこれでいいと思うんです。

○氏原主任国語調査官
 常用漢字は2500位以内と2501位以降の二つに,表外漢字は1500位以内と1501~2500位と2501位以降という三つに分かれているわけです。この基本的な考え方としては,常用漢字については,既に常用漢字表に入っているというアドバンテージがある。そういう非常に単純な発想です。今常用漢字表に入っている漢字というのは,もちろん頻度だけではなくて,常用漢字表に入っていることによっていろいろ社会の中で機能しているということがあるわけで,それを考えると,表外漢字の扱いとはおのずと違ってくるだろうということです。それから,さっき見ていただきましたけれども,常用漢字の実際の出方から勘案して2500位ぐらいのところで線を引くのが妥当ではないかと判断したということです。もちろん2500位というのは絶対的な基準でも何でもないです。さっき阿辻委員がおっしゃったように,その近辺というのは,漢字集合としてはかなり似たような性格の漢字が集まっているわけです。しかし,検討するについてはどこかで線を引いて検討しないわけには行きません。もちろん2500位以下といっても,2500位に近い字は2300位とか2400位の常用漢字と同じように考えてもいいんじゃないかということはあるわけです。そのことは今後個別に検討させてください,ただし2500位以下のものについては明らかに頻度はそれほど高くないわけですから,それについては,ほかの常用漢字とはちょっと扱いを違う形にしたらどうでしょうかという提案をしたわけです。ただ,2500位というのは先ほども申し上げたように絶対の数字ではないので,この小委員会で例えば2000位より上と2001位以下で分けろということであれば,この常用漢字の扱いの(1)と(2)のところの数字は変わってくるわけです。そういうことを含めて委員の方々から御意見を頂きたいというのが,本日の小委員会の趣旨です。ですから,この数字が先にあるのではなくて,考え方としては,こういう形でグレードに分けて考えなければ,作業上効率的に考えることができませんということです。こういう形でやるということについては,この漢字小委員会でも異論がないように伺っておりました。けれども,2,500位という数字をめぐって,今こういう話題になっておりますので,これは仮に置いたものですから,これが2,200であろうが,2,000であろうが,それは構わないわけです。ということで,その辺りのところについても御意見を頂いたらどうかと思うんです。

○前田主査
 今のようなことですが,いかがでしょうか。候補漢字のS・A・Bなどと分けていく,その境目のところですね。これは絶対2,000位でなければいけないとか,そのような意味の数字ではないので,考えていく場合の手順としては,このような順位で切るやり方というものが一つの方法であって,有効な方法じゃないかと考えたということなんです。だから,それを別の順位で,あるいは別の切り方で切るという提案があれば,それは当然ここで検討しなければいけないことなんですけれども,いかがでしょうか。

○甲斐委員
 私は,さっき氏原主任国語調査官が言われたとおりで結構です。この形で進めていただいて,その間に2,200とかという数字も出たものだからちょっとややこしくなったんですけれども,考え方そのものはこれで結構だと思います。

○前田主査
 いろいろ御意見が出て,不安がおありのところもあるように感じました。それで,漢字ワーキンググループとしては,具体的に今の手順を進めるに当たって,今まで出た御意見を参考にして,そういう不安や疑問がないような形でこれから検討していって,説明できる形というのを考えていく。それについてまた御意見を伺うという形で進めていくことになるわけで,そういった点を含めて,今の選定手順自体についてはおおむね御賛同いただけるということでよろしいでしょうか。

○足立委員
 この500位以下のところについても,枠で囲ってある漢字が幾つかあるわけでございますが,これももう一度見直すということになるわけですね,2,200字にする場合には。

○前田主査
 これは,一応1位から500位までとか,そのような段階でもって私どもがその重要性を一応段階を追って判断していくということになります。

○足立委員
 2500位以下のところに私どもの会社の社名の「凸」が入っているものですから大変言いにくいのですが…,社名がどうだとかということは別にしまして,その辺りの漢字については何らかの選定の基準がないことには選べないということになりましょう。その辺りに入っている漢字も,これはそれぞれ当時選ばれた時には大変重要な漢字になっていたわけでございますから,そのよって立ったところ,それから漢字というのは,私の個人的意見なんですけれども,書いたときの姿,書にしたときにただ活字の文字というだけではなくて,感性的な文字の姿というのも私は今後大事にしなければいけない一つの問題ではないのかなと思っています。ただ単純に文字,活字として見るのではなくて,姿として見るという,そういうことも漢字を残す上では非常に重要なことになるんじゃないのかな,そんな感じもしますけれども,是非参考にしていただければと思います。

○前田主査
 お気持ちはよく分かるんですけれども,その「感性」というものがどのように客観的に説明に示せるかというふうなことがどうも私などは自信がないんですけれども…。

○笹原委員
 これから実際に作業を進めていく上で,現在の常用漢字というものの性質をきちんと把握しておくために,今日の配布資料4というものも大変参考になりました。この配布資料4の416ページで,「(5)外来語に当てた漢字」というもので「罐」と「頁」という例が挙がっています。当用漢字表では基本的に外来語のいわゆる当て字というものは仮名書きにするということがあったわけですけれども,「罐」というのは結局,左側の「缶」という部分だけで常用漢字表に採用されて,今の常用漢字表を見ますと「カン」と片仮名で書いてあるというところを見ると,どうもこの字を旧字体と見立てて,音読みとしてこの字を採用している。常用漢字表に外来語に対するいわゆる当て字というものがあるのかないのかということがもし分かりますと,それは何かというと,例えば「伊藤さん」の「伊」というのがありましたけれども,「イタリア」のことを一文字で「伊」と書くことがある。常用漢字表を見ると,「欧州」の「欧」という字が入っていて,その用例を見ると,すべてヨーロッパという意味しか挙がっていない。これも広い意味では外来語に対する当て字なんだろうと思うわけです。こういう戦後の漢字政策の中では除外するとしてきた外来語に対する当て字というものを考える上で,この「缶」というのが少し気になっておりまして,当て字として扱ったのか,いや,音読みとして採っただけなのか,ということがもし分かりましたら,またいずれ教えていただければと思います。

○前田主査
 候補漢字の選定手順についての案については,一応お示ししたような形で,今後,漢字ワーキンググループで検討させていただくということにいたします。
 そして,次のことは,先ほど付表のことに関連して提案があったわけですが,それについては御質問と言うか御意見も頂きましたけれども,そのほかの皆さんからも何か御意見のある方はございましょうか。
 これは,実際にまた形になって出てきますと,その形では反対だとか賛成だとかという議論が出てくるのかと思いますが,漢字ワーキンググループとしては,そういったことを検討してみる,そしてお示しするということをお認めいただけたら幸いだと思うんです。検討して出してみた結果,私どもとしても実際にうまく行くかどうかというのはこれまた分からないことですし,それから出てきたものについて御意見を頂くのはその後の段階になりますので,取りあえずは「歌舞伎」の「伎」とか,「一揆」の「揆」などを全体の表の中に組み入れる形で取り上げることができるかできないか,字数の制限のことを考えると,なかなか難しいんじゃないかという判断をしております。そういう場合にこの付表に取り入れる形で,そのしかるべき範囲の漢字を示すといったことを検討してみたいということでございます。

○阿辻委員
 漢字ワーキンググループでその付表の問題はこれから議論になっていくんだろうと思いますが,その議論をしていくとき,あらかじめ自分自身でも認識しておきたいんですが,先ほど例に挙げました「下痢」「赤痢」の「痢」という字がありますが,「百姓一揆」とか,この間のワーキンググループでは「挨拶」という例が出ておりましたけれども,その一つ特定の単語だけ使われる,それはユニーク(unique)に対応するわけですけれども,「赤痢」の「痢」は「下痢」の「痢」でもあるわけです。一つの漢字が何通りかの熟語に使われるというのは,その付表という考え方になじむのか,なじまないのか,その辺りをあらかじめ各委員のお考えをお聞かせいただく方が議論が楽かなという気がするんです。

○金武委員
 今おっしゃったように,付表の語は基本的にはその熟語でしか使わないものの方が分かりやすいと思いますので,「下痢」の「痢」のようなものは,「下痢」というのは一般的によく使われるだけでなくて,「赤痢」「疫痢」など,頻度は少ないにしても多少ほかに使われる熟語があるとすれば,それはできれば付表ではなくて本表に入った方がいいのではないかと思います。それは全体の,要するに本表の常用漢字の数などの勘案もあると思うんですけれども,一応現実に複数の熟語で使われているものは付表ではない方がいいんじゃないかと思うんです。

○阿辻委員
 それは,そうすると,例えば拷問の「拷」は,現在ではほぼ「拷問」しか思い付かないんですが,確認するとして,例えば『広辞苑』とか,何らかの国語辞典や漢和辞典などで用例を調べて,ほとんど1種類しか用例がないというものを選定して,付表ということを考えるということでしょうか。

○金武委員
 いや,例えば,大きな辞書には当然その漢字を使った熟語が出てくるかもしれませんけれども,現実に一般的に使われていないというか,特殊な世界,本当に部分的にしか使われないようなものであれば,専門語ですから,専門語は常用漢字表に原則入れないことになっておりますので,拷問の「拷」であれば,もし入れるとすれば「拷問」として付表に入れればいいんじゃないかと思います。

○阿辻委員
 分かりました。

○松岡委員
 今のに関連しての質問なんですけれども,熟語としての頻度というのも調べられるんでしたよね。前に当該の漢字を挟んで3文字でというお話があったように思います。それでしたら,今度は熟語で,例えば「歌舞伎」というのは,「伎」だけでは恐らく使われないけれども,「歌舞伎」という言葉の頻度はとても高いと思うんです。『広辞苑』を引いたら隅っこにこういう熟語もありましたよといったときの判断基準は,その熟語が圧倒的に頻度数としたら低いというのだったら,もう複数の熟語があるとは考えないという判断を下していいんじゃないかと思うんです。

○笹原委員
 「妊娠」という言葉があって,「妊娠」の場合は,恐らく「妊」の方は「妊婦」とか幾つか単語を作ると思うんですけれども,「娠」の方は確か現代日本語ではほとんど単語を作らない。このような場合は,考え方として,では「妊」は本表,「娠」は「妊娠」として付表2ということがあり得るということですか。

○金武委員
 それは実際にやっていただかないと分からないんだけれども,余りその数が多くなり過ぎても,その辺がちょっと難しいところですね。

○足立委員
 ただ意味が分かるという漢字,漢字には,見たら意味が分かるという,大変重要なことがありますよね。そういうものをどう残すのか,ということも非常に重要だと思います。片仮名で表したら意味が分からない,だけど,漢字を見たら何となく意味が分かるというものはたくさんあると思うんです,使われなくても。それをどう残すのかというのは大変難しい。常用漢字でなくてもそういうのは一杯あるわけですから。

○前田主査
 それでは,今の付表のことについては,検討することをお認めいただいて,また,その結果については御報告して議論していただくという形にさせていただきます。
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