議事録

国語分科会(第36回)議事録

平成19年12月10日(月)
10:00〜12:10
学術総合センター2階中会議室3・4

〔出席者〕

(委員)
前田分科会長,西原副会長,林漢字小委員会副主査,杉戸日本語教育小委員会副主査,阿辻,井田,岩見,尾崎,甲斐,金武,笹原,武元,東倉,中野,?田,松岡,松村,邑上,山田各委員(計19名)
(文部科学省・文化庁)
高塩文化庁次長,尾山文化部長,町田国語課長,氏原主任国語調査官ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 文化審議会国語分科会(第35回)議事録(案)
  2. 漢字出現頻度表 順位対照表(Ver.1.1)
  3. 候補漢字の選定手順(案)
  4. 日本語教育小委員会報告骨子(案)

〔経過概要〕

  1. 文化庁次長からあいさつがあった。
  2. 事務局から配布資料の確認があった。
  3. 前回の議事録(案)が確認された。
  4. 事務局から配布資料2,3についての説明があり,説明に対する質疑応答の後,配布資料2,3に基づいて意見交換を行った。
  5. 西原副会長(日本語教育小委員会主査)から配布資料4についての説明があり,説明に対する質疑応答の後,配布資料4に基づいて意見交換を行った。
  6. 次回の国語分科会は,1月28日(月)の10:00から12:00まで開催することが確認された。会場については,事務局から改めて連絡することとされた。
  7. 事務局及び西原副会長からの説明,その後の質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。

1 漢字小委員会に関して

○氏原主任国語調査官
  お手元の配布資料2,3について御説明申し上げます。
今期の漢字小委員会においては,新しい委員がかなりお入りになったということで,一つは漢字小委員会でこれまでやってきたことについて,もう一つはこれまでに決めてきた内容について,もう一度確認するという作業から始めました。その上で,更に検討を続けまして,本日配布しておりますような資料にまとまってきたというところが全体の概況でございます。
まず,配布資料2を見ていただきたいと思います。これは「漢字出現頻度表 順位対照表(Ver.1.1)」ということで,全部で71ページあります。最後の71ページを見ていただきますと,「繭」から「頒布」の「頒」まで常用漢字が六つ挙がっております。その前の70ページの最後が3500番ということで,常用漢字の「謄」が挙がっている。こういう表でございます。この表全体は,70ページにありますように,1番から3500番の3500の漢字プラス,71ページにある,それ以降に出てくる常用漢字,こういった常用漢字は極めて頻度が低いわけですけれども,6字あって,全部で3506字の表でございます。
この資料は,今見ていただきましたように,順位が3500番まであるわけですが,最初のページを見ていただくと,表の一番左に「凸版(3)順位」とあります。机上に『漢字出現頻度数調査(3)』というピンク色の冊子が配布されていると思います。この冊子の「凸版(3)調査」の第1部の順番に従って,1番から3500番までの漢字を表の形にしたものが配布資料2でございます。これまで,「表外漢字字体表」の時も含めて,この手の大きな漢字出現頻度数調査を5回やっていますが,その中でも,この『漢字出現頻度数調査(3)』というのは最も総文字数の多いものです。約1億7,000万の文字を調べている。1億7,000万の文字ですから,平仮名,片仮名なども入っていますので,そこから漢字だけを抽出すると約5,005万です。5,005万の漢字を調べて頻度順に並べたものが,この『漢字出現頻度数調査(3)』で,これに基づいて配布資料2が作られたという流れになっております。
漢字出現頻度数調査につきましては,今申し上げましたようにこれまで5回やっていますが,今回の『漢字出現頻度数調査(3)』は,日常の言語生活で,一般の人たちがよく目にする書籍類,それから,これまでどうしても調査できなかった週刊誌,具体的に申しますと『週刊文春』,『週刊ポスト』,『週刊現代』ですが,それらの1年間分の全データが入っています。そういう意味では,これまでのものに比べて資料の内容としてもかなり偏りの少ないものになっていると思います。
これを漢字小委員会では基本資料にしようということを決めました。この資料を軸にしていくわけですが,配布資料2にありますように,順位が1番の漢字は「人」,これは種類としては常用漢字ですから,「常用」と入っております。それから,「表外漢字字体表」,「新聞調査(朝日)」,「新聞調査(読売)」,「ウェブデータA」,「凸版(3)第2部」,「新聞常用漢字等」,こういうふうに項目が並んでおります。
「表外漢字字体表」と申しますのは,平成12年12月に,当時の国語審議会が答申している「表外漢字字体表」のことです。JIS規格なども,この答申に沿う形で改訂されておりますので,現在の表外漢字字体の基準になっております。これは表外漢字ということですが,この表外漢字の「表」というのは常用漢字表のことです。つまり表外漢字というのは常用漢字表の外の漢字ということですので,1ページ目の「常用」と入っている欄の横の「表外漢字字体表」という欄は,当然,すべて空欄になります。
同時に,人名用漢字として,現在983字ありますが,「表外漢字字体表」の答申当時の人名用漢字は285字なんですね。申し訳ありませんが,お手元に『答申・建議集』という冊子があると思いますので,その380ページを御覧ください。そこに,〔字体表の見方〕があります。その右側が字体表になっております。こういう形で,常用漢字ではないけれども,比較的よく使われている字を調査しまして,特に字体に問題があるものを拾い上げて表にしたのが,381ページから398ページまでの「表外漢字字体表」です。
表外漢字字体表というのは,こういう形で漢字が挙がっているんですが,406ページを御覧いただきますと,「2 人名用漢字の字体一覧(制定年別)」があります。人名用漢字にも,非常に込み入った経緯があって,国語審議会との関係などもありますが,結論だけで言いますと,このページにあるような形で昭和26年以降人名用漢字は徐々に増えてきたということです。平成16年9月には,人名用漢字が非常に増えたということで話題になりましたけれども,表外漢字字体表の議論をしているときには,人名用漢字はここに挙がっている285字でした。
表外漢字字体表を審議している時には,様々な調査をしまして,ここに挙がっている285字については,字体も含めて比較的安定的に社会で機能しているということを確認した上で,ここに挙がっている285字については常用漢字に準じるものという位置付けを与えております。ですから,配布資料2の表外漢字字体表の欄は,この時の人名用漢字285字はすべて空欄になっています。後の方になると,表外漢字字体表の欄に番号が入っておりますが,その番号は,今見ていただいた381ページから五十音順で並べられた漢字の「No.」欄の数字を入れております。この数字は,ほかの欄と違って頻度には関係ありません。表外漢字字体表に挙がっている「No.」という欄の番号が,表外漢字字体表の欄には入っているということでございます。
その次の新聞調査(朝日)と新聞調査(読売)ですけれども,それは『漢字出現頻度数調査(新聞)』で朝日新聞社と読売新聞社に新たにやっていただいた調査結果です。これも最新のデータということで,新聞の現状を知るには非常にいい資料になっております。この調査は頻度数によるものですので,読売新聞も朝日新聞も頻度の順番に並んでいます。ということで,新聞調査(朝日)と,新聞調査(読売)の欄に挙がっている数字は,先ほどの表外漢字字体表の欄とは違って,出現順位を表しています。新聞調査(朝日)と新聞調査(読売)の欄に挙がっている数字,最初に出てくる「人」で申しますと,「凸版(3)順位」では第1位ですけれども,新聞調査(朝日)と新聞調査(読売)では共に4位ということです。
配布資料2を見ていただくと,朝日新聞も読売新聞もデータ的に非常に近いということがよくお分かりになると思います。つまり,「人」が両方とも4位ですし,「一」は10位と12位ですけれども,「日」が両方とも1位なんですね。それから,「大」が両方とも3位,「年」は両方とも2位,「出」は両方とも11位,「本」は7位,「中」は8位ということで,下を見ていっても,「国」が両方とも5位,その下の「言」が79位,「上」が16位。これは,もちろん示し合わせてやったわけではありませんが,これほど偶然に一致するのかというぐらいよく一致しております。新聞の基本的な部分は報道記事ですので,こういった傾向が出てくるんですね。こうやって並べてみると,その辺りが非常によく分かるという資料でございます。
それから,その右側にある「ウェブデータA」は,今回の諮問が「情報化時代に対応した漢字政策の在り方」ということですので,現在ウェブサイトで使われている漢字を調べたものです。特に「ウェブデータA」というのは,実際のウェブサイトで流されているニュース,ブログなどを中心とした資料を対象として調査したものです。
「ウェブデータA」があるということは,別に「ウェブデータB」もあるのですけれども,そういった細かい話は省略しまして,「ウェブデータA」で申しますと,漢字だけで13億9,000万という,13億以上の膨大な漢字数を調べています。これを冊子にして,いずれお目に掛けたいと思っておりますが,「ウェブデータA」で順番を付けたものがそこに挙がっています。「人」「一」「日」を順に見ると,2位,5位,1位となっています。「ウェブデータA」も,ニュースなどが多数入っているということもあって,「日」という字が1番になっています。
それから,その右側にある「凸版(3)第2部」は,さっき見ていただいた『漢字出現頻度数調査(3)』のうちの第2部の調査結果を挙げたものです。「第2部」と申しますのは,小学校,中学校,高等学校の教科書でどういうふうに漢字が使われているかということを取り出して示したものです。小学校の教科書でも表外漢字が使われていることが分かりますし,中学校の教科書では,更に表外漢字がたくさん出てきます。
漢字小委員会でも話題になっておりましたが,例えば日本史では「一揆」という言葉が出てくる,「土一揆」とか「百姓一揆」とかです。「一揆」の「揆」というのは表外漢字ですけれども,出てくる。それから,文化というようなことで言えば,「歌舞伎」とか「浄瑠璃」とかという言葉も出てきますので,教科書というのは,かなり表外漢字が出てくる分野なんですね。それにルビを振って対応しているわけですけれども,この新しい漢字表が一般の社会生活で用いる漢字表だということを考えますと,教育の部分は非常に大きなウェートを占めていますので,実際に今,子供たちが目にしている教科書にはどのような漢字が使われているのかということを調べて,これも同じように順番を付けていますので,そこに載せています。
それから,一番右側の「新聞常用漢字等」は,ほとんど空欄になっていますが,この配布資料2の23ページをお開けください。そこに○が付いております。例えば1109位,「虎」という字は「○平」と入っています。それから,1126位の「狙」という字,「狙撃」の「狙」は「○昭」が入っています。これはどういうことかと申しますと,新聞では基本的に常用漢字を基本として表記を考えていますが,常用漢字の中でも使わない字があります。一方で,常用漢字以外のものでも常用漢字並みに使うものもあって,それを「新聞常用漢字」という言い方をしているわけです。この欄に○が付いている字は,その「新聞常用漢字」に入っているものです。
例えば,1109の「虎」で申しますと,新聞常用漢字ですが,新聞紙上では常用漢字と同じようにルビを付けないで使っている。「平」と書いてあるのは,平成13年にこれが追加されたということで,この時に39字種増えました。これについては常用漢字と同じように使われております。1126の「狙撃」の「狙」は,「○昭」と書いてあります。常用漢字表が昭和56年10月1日に,内閣告示・訓令という形で出されるわけですが,その時に新聞界で常用漢字並みに使うものとして6字定めました。この昭和のころから常用漢字と同じように使われている字が,「○昭」ということになります。
配布資料3の説明に移りたいと思いますが,配布資料2の70ページ,71ページをもう一度お開けいただきたいと存じます。70,71ページを見ますと,それぞれのデータのところに網が掛かっているものがたくさん出てきます。これは総じて後ろの方に行くと全体に黒っぽくなるわけです。黒っぽくなっていくのはどういう意味かということから,配布資料3の説明に入ります。70ページを見ていただきますと,いろいろなデータのところが黒く塗ってあるところと,大きく横にそのまま一本線を引くような形で黒く塗りつぶされているところがあります。
具体的に言いますと,3485の「處分」の「處」ですね,「ところ」という字です。これは上部にいわゆる「虎頭(とらがしら)」というのが付いて,その下に「処」という部分,常用漢字の「処」が付いています。ということで,上の「虎頭」の部分を取った字が「処分」の「処」として使われているわけです。ということは,この字は常用漢字の「処」のいわゆる康熙字典体といったような言い方をしますけれども,旧字体です。これは常用漢字表に既に入っており,字体も簡単な常用漢字の字体(「処」)が正式に採られていますので,こういう旧字体は検討する必要がないと判断しました。それが,3485番が横一本に黒く塗られている理由です。つまり,これは対象外という意味です。
これらをまず除くという意味で,横一本に網を掛けているわけです。その他どういうものに網を掛けているのかと言いますと,それぞれの調査において出現順位の低いものです。配布資料3の話に入りますので,配布資料3をお手元にお願いいたします。配布資料3の一番下のところを見ていただきますと,<順位対照表の網掛けについて>ということで,どういうものを黒く塗りつぶしたのかということが書いてあります。「凸版(3)第2部」では,ほとんど塗りつぶしたものはないんですが,新聞調査(朝日),新聞調査(読売),ウェブデータAの三つは黒くなっているものが結構あります。
これは,そこに挙がっておりますように累積度数,新聞調査(朝日)で言いますと,2104位までの漢字で,全使用漢字の99.654%が賄われているということです。新聞調査(読売)では2071位がそれに当たります。累積度数99.654,つまり99.650を超える位置を考えたわけです。99.650というのは,表外漢字字体表の時に一般に目にするのは99.7%ぐらいまでだろうということを,いろいろなデータから当時の国語審議会で分析した結果です。それ以降になると,出現頻度数が低くなってきます。ですから,一つの目安として99.7,四捨五入して99.7になるところを考えたわけです。それ以降は頻度が基本的に低いと考えて差し支えないだろうと判断しました。これも偶然なんですが,新聞調査(朝日)も,新聞調査(読売)も,同じ「奴隷」の「隷」がそこに当たっています。それ以降のものについては黒く塗りつぶしてある。つまり,黒く塗ってあるものは基本的に,その調査において出現頻度数が低いものとお考えください。
それから,ウェブデータAでは99.650のところは「鞘」という字です。出現頻度数が2610位でも8968回もあるというのは,さっき申し上げたように総数が13億9,000万という非常に大きな数字だからこういうふうになるんですね。
凸版(3)第2部のところも99.650が,3495位ということで,教科書ではいかに多くの字種が使われているかということが逆に分かります。つまり,99.650を超えるためには3495の漢字を持ってこないと駄目なんですね。それが例えば新聞ですと二千ちょっとで超えます。新聞では,特定の漢字がよく使われていますが,教科書は我々が想像している以上にたくさんの漢字が使われているわけです。
配布資料2で黒く塗りつぶされているのは,全体的には余り使われていない漢字だということで,後の方に行けば行くほどそういう字が出てきます。
それでは,3506の漢字を具体的にどう扱っていくのかという資料を見ていただきたいと思います。12月5日に漢字小委員会がありまして,そこで了承されている案ですが,それをこういうふうな形にまとめたものが,配布資料3でございます。3506字の扱いについて,こんなふうに考えましたということです。
まず?として,『漢字出現頻度数調査(3)』の3500番まで取っていますので,それ以降の漢字で更に拾わなければいけない字があるかどうかを確認する必要があるのではないかということが議論になりまして,これは確認しようということになっています。ただし,3501番以降ですので,3500番までの漢字をある程度選定した上で,更に必要な漢字を落としていないかどうかということで確認しようということになっています。?を点線の四角で囲っているのは,この作業は最後に回そうということが漢字小委員会で了解されていることからです。作業としては3500番のところまでの扱いを先に決めて,その後,必要な漢字を落としてないかどうかの作業をすることになっています。
そこに書いてある「別資料の使い方」ですが,今,配布資料2を見ていただいたように,様々なデータに基づいてこの表を作っているわけです。昨年度から全体で3000から3500の枠を作って検討しようということになっていました。漢字小委員会では「土俵」というような言い方をしていましたけれども,まず検討する土俵を決めないと,検討が始まらないということです。3000から3500の土俵を決めようということは早くから合意ができていたわけですが,3500の土俵を作るということは,その合意事項のうちで最も大きな集合を考えたということです。一方で,漢字小委員会の議論の中で,頻度は低くても大事な漢字を落としてはいけないという議論がありまして,それはほとんどの委員から支持されておりましたので,3000から3500の中で最も大きな枠を作ったというわけです。さらに,そういう落ちがないかどうかを調べるために,4011位まで考えてみようということで,これも了解が取れています。
「別資料」と申しますのは,これ以外にも幾つか資料を作っているからです。具体的に申しますと,例えば戦前の標準漢字表とか,大正12年の常用漢字表とか,こういった漢字表には入っているが,現在の常用漢字表には入っていない字の一覧表のような資料ですね。一遍にいろいろなことをやると作業できませんので,取りあえず,配布資料2のような形でやろうというわけです。ここには出していませんが,既に作っている資料もありますので,それらをどのタイミングで,どう使うかということも,これから考えていこうという意味で,「別資料の使い方」というのが⇔で示されております。
それから,なぜ4011位なのかということですが,※のところにあるように,常用漢字である「銑鉄」の「銑」が4004位に出てきます。4004位というのは出現回数が69回なんです。さっき申しましたように,凸版(3)の調査というのは全部で5005万の漢字があるんですが,4004位まで行きますと,99.885,つまりおよそ99.9%の漢字はここまでに入ってくるんですね。そして,出現回数69回というのは,出現回数が同じものがありまして,4011位までが69回です。ですから,一番低い出現数を持った常用漢字が出てくるライン,そこまでに挙がっている常用漢字以外の表外漢字については調べてみよう,落ちがないかどうか確認してみよう,こういう発想で挙げているのが?に当たります。
申し訳ございませんが,ピンクの『漢字出現頻度数調査(3)』を見ていただきたいと思います。これはページのそれぞれ外側の部分に大きなゴシック体でページが打ってありますが,その2ページを御覧ください。そこに「凸版調査(3000位以降)に出現する常用漢字の一覧」というのがあります。常用漢字でもいつも使われない,つまり頻度の低い漢字は大体決まっているんですね。一番左側に凸版(3)の調査で3000位以降に出てくるものが挙がっています。一番下の「頒布」の「頒」というのが一番低いんですが,これは3926位に別の字形が出てくるので,※が付いているんです。字体の話になると非常に細かい話なので恐縮ですが,4345位の「頒」の「頒」をよく見ていただくと,左側が「分」,右側が「頁(けつ)」,いわゆる「ページ」というときに使っている字ですが,これが合わさっているわけですね。左側の「分」に当たる部分の上の漢数字の「八」のところが,これは左右にそのまま開いていますけれども,二画目に平らな部分がある,「八屋根(はちやね)」などと呼んでいますが,同じ「八」でも,手で書く場合は左右に開くだけですけれども,活字ですと上に平らな部分があるのが多いですね。平らな部分があってから右に下りている。その平らな部分のある字形を持った「頒」は別に扱っていますので,それが3926位にあるんです。
その「頒」を別に考えると,「銑鉄」の「銑」という字が一番低いわけです。これが4004位,出現回数69回ということです。「銑鉄」の「銑」は◎が付いていますが,右側を見ていただきますと,凸版(2),凸版(1),すべての調査でいつも3000位以降になっています。ですから,◎が付いているのは常に低頻度の常用漢字という意味です。○は,凸版(1)か凸版(2)のどちらかに出ているというものでございます。
また配布資料3に戻りますが,ここでは常用漢字と表外漢字を分けて考えています。常用漢字のうち2500位以内のものは基本的に残す方向で考える。これは1字1字個別の検討はしないでもいいのではないかと考えています。つまり,常用漢字というのは現在の文字生活の基本になっている,コアになっているわけですね。ですから,その部分を考えて2500位というところで分けています。
2500位というのはどういう意味があるのかと申しますと,細かいので簡単に申し上げますけれども,今見ていただいた凸版(3)の5,005万ある中で,累積度数で99%というラインであります。つまり,これだけで99%を賄えるというラインです。それが2400から2500の間でラインが引かれます。ですから,それより上の常用漢字というのは99%のラインの中に入ってきますけれども,2500を超える常用漢字というのは99%のラインの外に出ますので,常用漢字としての頻度はそれほど高くない。ここに一つのラインを置いています。これは,そういうふうに決めたということだけですから,絶対的な意味があるわけではなくて,統計的な読み方としてそういう処理をしたということです。
そして,2501番以下のものは「候補漢字A」とした。2501番以下のものは常用漢字であっても,余り頻度が高くないものです。その後の2ページ目から「別紙1」が付いておりますが,最初のページが1位から500位までの漢字です。ここに挙がっているのは本当によく見る字です。中に四角で囲っているものがあると思います。例えば「藤原」の「藤」,「之」という字,それから,「誰」とか,「伊藤」の「伊」とか,「俺」。この四角で囲っているのは常用漢字以外の表外漢字です。ここでは,特に1500番以内の表外漢字を四角で囲っています。
パラパラとめくっていただきまして,最後の6ページを御覧ください。そこに「2500位以下の常用漢字」が挙がっていますが,常用漢字1945字のうちの頻度の低い60字がここに挙がっているわけです。こういうものは,さっき申しましたように,2501番以下の常用漢字ということで,頻度としては余り高くないという字でございます。こういったものについてどう考えるかということが今後の課題の一つであります。
最初のページに戻っていただきたいと思います。表外漢字は,三つに分けています。常用漢字は2500のところで二つに分けたわけですが,2501以下のものは「候補漢字A」としています。表外漢字については1500番以内に入ってくる,今の四角で囲った漢字,これを「候補漢字S」とする。1500番以内に入っているということは非常によく使われている漢字なんですね。そして,常用漢字と同じく2500のところに別のラインを引く。
つまり,99%ラインですが,1501番から2500番までを「候補漢字A」とする。そして,さっき作った土俵の2500から3500までのところを「候補漢字B」とする。そうすると,全体として候補漢字S,A,Bというふうに三つのグレードに分けられます。
常用漢字でよく使われていると判断されるものは,今回,個別の検討はしない。検討時間が非常に短い中で作業を進めなければいけませんので,一つ一つ見ますけれども,一つ一つについていろいろな資料に当たりながらという検討はしないということです。
「候補漢字S」については,基本的に加える方向で考える。ただし,既にワーキンググループで「候補漢字S」を見たんですが,「候補漢字S」だからといって,そのまま入れるものではないということも確認されています。つまり,固有名詞などで多く使われているけれども,一般の文字生活では特に必要ないだろうという字もあるわけです。さっきの「之」に当たるようなものですね。名前以外では余り使われていません。「候補漢字A」は基本的に残す方向で考えるが,不要なものは落とす。それから「候補漢字B」は,特に必要な漢字を拾っていく。こんなふうに考えていこうということです。
12月5日の前回の漢字小委員会で合意ができたことを最後にまとめの意味で申し上げます。資料で示したような作業はこれからするわけですけれども,こういう作業をした結果を見ていただくときに,抽象的な話をしても分かりにくいので,取りあえず2200字ぐらいの漢字表を作ってみようということです。つまり,こういう手順に従って2200字の漢字表を作ってみる。それを見て,「これでは多過ぎる」とか「これは使わないのではないか」というような御意見が出てくるようであれば,2200の漢字表が多過ぎるわけですから,もうちょっと減らす方向で検討を続ける。
逆に,「今の時代,常用漢字は3000とか3500は当たり前じゃないか」とおっしゃる方もいまして,そういう方の目から見ると2200というのは余りに少ないということになるんですね。実際に2200字程度の漢字表を作って,見ていただいて,「やっぱり少ない。こんなによく使う漢字も入っていないじゃないか」ということになるのであれば,もう少し増やす方向で考える。ただ,漢字ワーキンググループで作業した中では,「こういう字が入っていない,こういう字が入っていない」と言われるけれども,その数はそれほど多くなく,200字程度追加すればその種の漢字の大体は拾えるのではないかという感触を得ています。それで,取りあえず2200字程度の表を作ってみるということです。
もう1点は,表外漢字の中でも特定の熟語にしか使われないものというのが結構出てきます。例えば「挨拶」,「挨拶」というのは漢字で見掛けるケースも多いわけです。「挨」も「拶」も頻度数としてはかなり高いですね。なぜかというと,「挨拶」として使われるからです。公用文では「挨」も「拶」も常用漢字に入っていませんから,仮名書きが原則ですけれども,漢字で表記しているケースも結構あります。「挨拶」の場合には,「挨」と「拶」をわざわざ「新常用漢字表(仮称)」に入れなくても,「挨拶」という語はこのように漢字で書いてもいいと,そういうものが示されていればいいのではないかということがあります。
現行の常用漢字表には「付表」というのがあります。例えば,そこに「一言居士」というのが載っていて,当該の漢字(「居」,「士」)に,「こ」や「じ」という読みは認められていないんですが,「一言居士」という熟語の場合には「付表」で認めているわけです。それから「小さな豆」と書いて「あずき」,これも常用漢字の音訓にはないんですが,「あずき」という読みは認められているということですね。
それと同じように,「付表2(仮称)」として,表外漢字に絡むようなもの,例えば「挨拶」であれば「挨拶」という形を「付表2」に入れてしまう。それから,さっき申し上げた「一揆」の「揆」というのは単独ではまず使われません。でも「一揆」という熟語はよく使われているわけですね。ですから,「一揆」という熟語に限っては,常用漢字と同じようにルビを振らないでも,使えるものとして認める。「挨拶」で言えば,単体の漢字としては「挨」も「拶」も表外漢字のままなんですが,「挨拶」という表記は認めていくという,そのような趣旨の「付表2」を設定する方向が,漢字小委員会でもおおむね賛同を得ているということです。以上でございます。
○前田分科会長
  御説明いただきましたように,漢字小委員会ではこれまでに作られたいろいろな調査を参考にしまして,漢字の順位を付けた漢字出現頻度表を基本の資料として検討していこうということになりました。ただ今の説明では出てきませんでしたけれども,「別紙2」というのがございます。これは第11期の国語審議会,つまり常用漢字表を決めるに当たりまして,どういう手順でやったかということが書いてありますので,こういったものも参考にして漢字の選定をしていこうということで,参考に付けているものです。
そういうふうなことで,候補漢字の選定手順が配布資料3になっておりますが,これを漢字小委員会としてはお認めいただきました。そのほかまだペンディングになっているところもありますが,おおむねお認めいただきましたので,今日はそれについて皆様に御検討いただいて御議論いただければと思っている次第です。
それでは,最初にも申しましたように,これまでの漢字小委員会の検討については,まだよくお分かりでない方もおられるかと思いますので,御質問,御意見を頂ければと思います。
○井田委員
  漢字小委員会で時々話題になっていたと思うんですが,読めて書けて分かる漢字と,書けなくとも読めればいい漢字,もっとも分かっていないと読めることにはならないというような御議論もあったと思います。書けなくとも,分かって読めればいい漢字と,書けるところまで求められる漢字との区分については,今のところ,どのような結論になっているのでしょうか。
○前田分科会長
  これについては,結論というところまで行っていないわけですけれども,新しい漢字表ができました時に,それらは基本的には読めて書けるという方向が重要だという意見が強かったようです。ただ,先ほど2200とか2000という数が出ておりますが,その辺りのところを超えるような場合にどういうふうな考え方をしなければいけないのかということが別に出てくるわけで,その場合には,今のことともかかわって問題が出てくると思います。今の常用漢字表の数を余り増やさないような形で表を作れないかということで検討していて,ほぼその方向でできるのではないかと考えているわけです。
○阿辻委員
  今の井田委員の御質問に関して,漢字小委員会でも発言したことがありましたので,その意見をもう一度ここで述べさせていただこうと思います。
現在,書けなければならないという規定をしているのは,文部科学省の学習指導要領というものがありまして,現場の先生方にお話をいただいた方が詳しいと思いますが,小学校では学年ごとに合計1006文字の漢字が,いわゆる教育漢字と呼ばれ,配当されております。小学校6年間で習う1006文字が,小学校6年で習う漢字については中学校の時に書けるというふうに規定されていたと思います。小学校に配当されている漢字1006文字については書けるようにという要請が学習指導要領によって行われています。
私どもが選定に取り掛かっているのは,公用文書をはじめとする通常の日本語において使われる漢字の字種の選定ということであります。その段階では,文部科学省が制定する学習指導要領と私どもの作業とは別のレベルでありまして,新しい常用漢字表なるものが選定された段階で,改めて文部科学省が「この漢字は小学校で書けることが望ましい」と決めるというふうに,教育上の問題については別の組織の検討事項であって,我々のする仕事ではないと私は認識しております。
漢字小委員会の時に,例え話として持ち出した例でありますが,私たちが今するべき仕事は大きな果物かごに2200字ぐらいのリンゴを選ぶことで,そのリンゴが赤いリンゴになるのか,緑のリンゴになるのかは,私たちが決めることではないということです。学習指導要領等の教育上の要請から,書けることが望ましい,あるいは正確に使えればそれでいいというのは,別の作業というふうに考えるべきではないかということを漢字小委員会で申しました。
○杉戸日本語教育小委員会副主査
  私,日本語教育小委員会に所属していまして,漢字小委員会には出たり出なかったりで,そちらの議論をすべて存じ上げないのですが,本日の配布資料3の「別紙2」,つまり,第11期の審議経過報告で,常用漢字がどんなふうに選ばれたかです。それで申しますと,5枚目,下に412ページ,413ページと書いてあるページです。その412ページの下から4行目の(4)に「漢字選定の方針に関する具体的観点」とあります。これが,右側の413ページから箇条書きで片仮名のア,イ,次のページ,ウ,エ,オ,カ。それから,416ページのキまで続くわけですね。
本日説明されたのは第11期の段階での検討の観点で申しますとアだけ,使用頻度からのものだけです。イ以降は,かつての常用漢字表は機能度とか幾つか別の観点も取り入れて検討される。これは,当然今後の検討課題として漢字ワーキンググループあるいは漢字小委員会でされると思いますけれども,その見通し,あるいは,今回の新常用漢字表を検討するに当たって,特にどういう観点を,この11期の時には取り入れてなかったけれども,重視すべき新しい観点があるとかないとか,そのようなことを議論されているのかどうかお尋ねしたと思います。
例えば,本日もちょっとお話が出ましたが,この諮問が「高度情報化社会における漢字」という問題意識で発せられているということからすると,11期の時にはなかったようなIT社会の問題がある。そういう領域での漢字の問題を新しい漢字表にどう反映させるのか,そんなことはこのアからキまで並んだ観点とは別の新しい観点として入ってくるだろうというような気がします。その辺の今後の方針について,今の漢字小委員会あるいは漢字ワーキンググループでの検討の方向などを伺えると有り難い。あるいは,そういうことがどんなふうに意識されているのか,そういう質問です。
○前田分科会長
  情報化時代になりまして,全体的に言えば,これまでに使われていなかったような字が多く使われるようになりました。そういった点で,どちらかと言えば,漢字の字数を増やす方向が強い要望になっているように思います。もちろん,検討の中ではこれまで実際に常用漢字表がありながら,常用漢字の中でも余り使われていなかった漢字もあるわけで,その点で言えば,増やす方向と減らす方向と,両方が考えられるわけですけれども,どちらかと言えば,増やす方向というのがかなり議論になってきたのではないかと思います。
しかし,そういった中で教育方面のことなども考えまして,余り増やすのは望ましくないというふうな意見が出まして,前期の漢字小委員会では常用漢字表本表のほかに,第2表というふうなものも考えていいのではないかという案も出ました。しかし,今期の議論では,それは余り望ましくないという方向が強かったように思います。そういう点で申しますと,情報化時代に対応して,必要な漢字を加えていくということが大きな要望になっているかと思います。それから漢字の使用の仕方というものの検討が,順位表だけによりますと,十分検討されていないということがあります。音訓の検討とか,あるいは,語構成の問題といったことも考えながら,1字1字の漢字の増減を検討していこうという話が出ていたかと思います。
これらは文章になった形で,こういう条件をこういう順位でという形でまでは詰めておりませんので,それらのところはこれから漢字小委員会及び漢字ワーキンググループにおいて話がなされて,提案されていくことになるかと思います。
○林漢字小委員会副主査
  今回,常用漢字表を見直すことになった理由というのは大きく分けると二つあるわけでございます。一つは,言語そのものが大分時間がたって変わってきている,使われる漢字にも変化があるかもしれない。もう一つは,今,「IT」という言葉が出てまいりましたけれども,情報機器が大きく発達したものですから,主として文字を記すという手段に大きな変化が起こっている。こういう状況を,これからどういうふうに考えて,改善策を作っていくかというのが大きな課題なわけでございます。
後の方の情報機器の発達によって文字を記す手段が増えてきたということに関して申しますと,先ほど井田委員の御質問にありましたように,常用漢字については,別紙2の第11期国語審議会の経過報告,先ほど412ページを御覧になったと思いますが,その408ページを御覧いただきますと,常用漢字を決める時の基本方針がございます。分かりやすいのは3番目ですが,このころは漢字表というのは「現代の国語を書き表すためのものとして考えるものとする」というのが基本でございました。
ところが,今はワープロのソフトなどで,書けなくても使える漢字が増えてきたものですから,どうしても書けなきゃいけない漢字,書けなくても読めるだけでいい漢字ということが,最初のころの議論の俎上に上ってきたわけでございます。これに対応していくためには,その辺りを我々はどういうふうに考えていったらいいのか。書きやすくて読みやすい日本語にはどの程度の漢字をどういうふうに選んでいったらいいかというのが基本になるだろうと思いますが,これが検討の一つの方向性だと思っております。
それから,これはちょっと私見にわたりますけれども,情報化社会を迎えて読み手の負担が大きくなる,たくさんのものを読まなければいけない時代になると,読むときの効率ということが非常に大事でございます。今の常用漢字の方針に加えて,読むための効率を考えた漢字の選び方もこれからの議論の焦点になっていくのではないか。ちょっと私見を強くして申しましたけれども,それも一つの方針だと思います。
それから,今,使用頻度を主にして検討しているということについて杉戸日本語教育小委員会副主査から御発言がございましたけれども,使用頻度というのは基本的なものですから,どの程度の対象から絞り込んでいくかというところで,第一次の選択としてこの使用頻度を使っているというふうに私は理解しております。これから絞り込んでいくときには,それ以外の漢字の機能度その他,413ページ以降に書いてあるような視点は当然重要になってまいりますので,それを加えてまいりますけれども,同時にその頻度も加えて総合的に検討するということになります。
ですから,頻度というのはこの対象を決める場合の一次的な使い方,それから具体的に数を絞り込んでいくときには,ほかの観点に加えて頻度というものを重視しなければいけないので,二次的な扱い方というのがありまして,これから具体的な作業が進みますと,二次的な面での使用頻度の解釈というのが必要になってくるのではないかと理解いたしております。
○甲斐委員
  本日の説明を聞いて漢字小委員会の時に気になったことでまた一層気になったのは,前田主査のお話で言えば,「情報化時代であるから,現在の常用漢字に更に漢字を増やす方向で考えなければいけない」ということです。そして,先ほど氏原主任国語調査官は,「取りあえず」という言葉が大きいのですけれども,「取りあえず2200字ぐらいのところで見てみよう」ということを言う。すると我々の頭は2200というところに焦点化されていく。現在の漢字からいうともう既に200ほどの漢字が多いということになっている。2200を一つの目安として考えていこうというときに,答えとして2000に戻ることはなかろうと思うのです。
ところが,この前の漢字小委員会で,委員から「やっぱり2000がいいのではないか」という発言があったんです。2200を「取りあえず」とし,必要な漢字はこれもあるし,これもあるしというと,答えとしては,2200を超えて2300とか400とか,そういうところに落ち着いて,減ることはないのではないか。そうすると「取りあえず」という言葉をどう考えていくのか。私も「取りあえず」というのは「取りあえず,ビール。」というぐらいの気持ちで,「私はウーロン茶で結構です」という形で,取りあえず使うんですけれども,この漢字のところでの「取りあえず」というのは大変大きな設定になるのではないか。だから,「取りあえず」と言いながらも,目標は2200前後,あるいは2200を超えることを期待しているんですよということを言ってくだされば,それはそれで対応が違うように思います。
○前田分科会長
  今のことにつきましては,2300,2400と増えていくようなことであれば,私どもが最初から考えていた期待とは外れることになると思います。なるべく数は前の常用漢字表と変わらない,少し増えてもというぐらいの気持ちでやってきました。しかし,増やさざるを得ないのではないかという気持ちはあるわけです。
「取りあえず」というところについて御質問がありましたので,その点お答えいただければと思います。
○氏原主任国語調査官
  「取りあえず」というのは,前回の漢字小委員会で一応そういう合意ができたということに基づいて申し上げたものです。その時の漢字小委員会ではやはり「具体的に見てみないと分わからないので,取りあえず」ということだったと思います。確かに,今,甲斐委員がおっしゃったように2200字程度の表を作るとして,その2200が本当に妥当かどうかという問題はあるかと思います。しかし,まず実際に作ってみて,いろいろな方が見てこれでは多過ぎるということであれば,そこでもうちょっと減らすということは当然あり得るということでの「取りあえず」です。
ですから,甲斐委員がおっしゃったように,2200を目標にするとそれより減るということはなくて,それより増えてしまうという前提で,漢字小委員会で合意したわけではありません。漢字小委員会では,実際に見てみないと分からない,判断できないという御意見が強かったものですから,こういう形で漢字ワーキンググループから提案して,それが認められたということです。増えるか減るかということで言えば,2200から更に減るという選択肢が選ばれる確率は最低でも半分はあるわけです。最初から減るという選択肢が排除されているということは全くございません。
○前田分科会長
  その点では,意図ははっきりしていると思うんですが…。
○甲斐委員
  おっしゃったことはよく分かりました。しかし,結局,我々は2200を目標に,1割増ぐらいで情報化時代を乗り切ろうというようなことなんですね。ということであれば,2200ぐらいだということで,2000字に下がることはあり得ないということを覚悟すれば良いということでしょうか。
○前田分科会長
  そういうふうなことだと思います。
○林漢字小委員会副主査
  2200字というのはこれから議論をしていくときの一つの土台として,それを基に考えていくということですから,2200字ぐらいになるだろうとか,それより増える可能性が大きいだろうとか,この時点で,余り予断を持たない方がよろしいのではないかと私は思います。
これもちょっと私見にわたりますけれども,文字を記す手段が増えてきて,書けない文字も使えるようになったものですから,使える漢字は全体として増えるのではないかという予測があるのは確かです。同時に,どんどん文字を使えるようになると読み手の負担が大きくなるから,この程度にしておいた方がいいんじゃないでしょうかと,そういう面ではある種のガイドラインを示すという面もございます。その線がどこに落ち着くかということは,常用漢字が1945字ございますので,それに近い線で予測を立てながらこれから詰めていくということだろうと思います。その線が2200字ということだろうと思います。これぐらいで落ち着くだろうとか,増えるだろうとか,減るだろうとか,まだそれを議論する段階ではないのではないかと思っております。これが,共通の理解なのではないかなと思います。
○金武委員
  今,林漢字小委員会副主査がおっしゃったとおりなんですが,私の理解では,今までの漢字小委員会でこういう形にまとまってきたというのは,個々の漢字のこれが必要か必要でないかということを調べるための線引きとして,配布資料3にありますような形で,結果的に2200字ぐらいをまず漢字ワーキンググループで選んでいただくということです。それについて漢字小委員会でいろいろな議論をしていく中で,これは必要ないのではないかという漢字が出てくる可能性が高い。予測はできませんけれども,甲斐委員が心配していらっしゃるように,ここが最低でまだどんどん増えるというのは私は余り予想したくないし,その線からだんだんと絞っていくという方が可能性としては高いと思うんです。
もちろん,これ以外に頻度が少ないけれども,現在の常用漢字が残っておりますし,落ち穂拾いというものがありますので,取捨選択が,どうなるか分かりませんが,この2200が出るその前に,既に教育的には2000字ぐらいが限度であるという意見が強く出ておりました。我々としてはそれには縛られないにしても,頭の中には2000という数字がかなり強く残っているわけです。少なくとも漢字小委員会において飛躍的に増やすという意見が多数を占めるというふうには考えられないと思います。
それから,最初の井田委員の質問に関連するんですけれども,2000字を大幅に増えるような場合に,準常用漢字というものを想定して,選定の基準としては書けなくても読めればいいのではないかと,そういう意見が出たわけです。これが2000字台,多くても2200字以内ということになれば,準常用漢字を考えなくてもいいのではないかというのが,この前の漢字小委員会の大勢だと思います。
それで「付表2」という考え方が出てきた。3000字もあるような常用漢字表ができれば,準常用漢字を想定しなくてはいけないんですが,「付表2」で,「一揆」とか「歌舞伎」とか,いわゆる準常用漢字に入れようと思っていたような字は,これですくえるのではないかということで,このような形になったのではないかと思います。つまり,準常用漢字表と「付表2」を両方入れることになりますと,形が非常に複雑になりますので,「付表2」の考え方が出てきたということは常用漢字表として一本にする。そうすれば数はそんなに増やすわけにはいかない,それで拾えないものは「付表2」で熟語の形として残すという考え方に,氏原主任国語調査官の御説明にもあったように,大勢としては落ち着きつつあると思っております。
○武元委員
  いささか極論めくかもしれないんですけれども,確かに「情報化」ということがキーワードにはなっていると思います。しかし,よく考えてみますと,文書作成における機器の使用という問題であって,それは自動変換によって漢字がバンバン出てくるという状況を指しているのではないかという気がいたします。それからもう一つ,確かにウェブ上で,どのように漢字が使われているかという問題はございますが,考えてみれば,その二つではないかという気がいたします。
しかし,一方で,先ほど氏原主任国語調査官から御説明がございましたように,累積度数でその漢字を調べているわけでございますので,その漢字出現頻度数調査に基づくのであれば,「情報化」という言葉を化け物のように思う必要はないのではないかという気がいたします。それであれば,あるところでの累積度数をベースにして,常用漢字の範囲を決めるということでよいのではないかと思います。したがいまして,その数を増やすということについては余り必要はないのではないかと思います。
それから,むしろ教えていただきたいと思いましたのは,例えば,ウェブでの文章において漢字の使われ方に何か特徴的なことがあるのか。それが分かれば是非教えていただきたいと思います。
それから,「一揆」とか「挨拶」という言葉をどのように位置付けるかということは必要なことではないかと思います。
○前田分科会長
  ウェブのことについては事務局からお願いします。
○氏原主任国語調査官
  さっき申し上げましたように,ウェブの漢字出現頻度数調査については間もなく冊子資料が出来上がります。また,今日は時間の関係もありますので,冊子資料ができた時に改めて特徴などについてはお話し申し上げたいと思います。ただ,概括的に,本当に大きくくくってしまうと,漢字の使い方が多様化してきているということ,またそれに伴って,これまでより多くの種類の漢字が使われているという傾向が見られます。
○前田分科会長
  ウェブ調査の資料をそのまますぐ参考にすることができないということは確かです。それから,当用漢字の時代には漢字制限をして将来は日本は漢字を使わなくするという方向が考えられていたわけですが,それが常用漢字になりまして制限という方向でない方向に変わってきている。情報機器とのかかわりについては,情報機器の発達に伴いまして,漢字使用をしながら将来の国語をどうしていくかということを考えるとすれば,現在の状況は漢字を多少増やさざるを得ないのではないか。情報機器の問題と絡めて,文化審議会が漢字の検討をするようになってきたわけで,方向としては,現在の状況を変えないというのは考えられないのではないかと私個人は思っております。
この検討は情報機器のことを考えながら,将来の国語の在り方を考えざるを得ない。ただ,情報機器の影響をどういうふうに取り入れるかということについては慎重に考えていかなければいけないと思っております。
○松岡委員
  この場で漢字小委員会として御報告しておいた方がいいのではないかと個人的に思うものですから。井田委員から,「読める,分かる,書ける」と,その議論がどうなっているのかということでしたが,確か前の前ぐらいの漢字小委員会の報告書で,「読めればいい」という表現ではなくて,「情報機器を使えば書ける」と,そういうふうな姿勢に変えようということになったと思うんですね。ですから,「読めればいい」というと「書けなくてもいい」というふうに,イコールで結ばれがちになるおそれがあるので,そうではなくて,情報機器を使えば書けるという姿勢になれば,状況の変化ということも漢字小委員会の姿勢の中に自然に入るのではないかと,そういうことになったというふうに私は理解しています。
○山田委員
  当然御議論されたことだと思うんですけれども,頻度ということを考えると,1945字という常用漢字があって,その中から一般のものを書くようにと決められているわけなので,その頻度が多くなるのは当たり前だということはあると思うんですね。しかし,それであっても,表外の漢字が使われる場合がかなり多いというのは,その漢字の位置付けは社会的に非常に重要なものがあるというふうに私も思います。
今度は日本語教育小委員会の考えというか,そちら側に自分が身を置いているので,それから考えると,外国人が漢字というものをどのように思っているか,ここは私自身は非常に重要で,それが,情報化の時代だということと同時に,多文化化の時代であって,そういう中で,例えば,表外漢字なんだけれども,地名などに使われている漢字,あるいは,表示が路上とか危険な場所にあって,そういうものは表外漢字なんだけれども,外国人であれだれであれ,人間だったら読めた方がいいというものは実際あるわけですね。そういうものの重み付けというのも考えていただきたい。一方で,漢字の数が日本で生活している外国人の生活の幅を狭めていたり,あるいは子供の場合だと,学校教育の中で漢字が一つの障害になって,学校からドロップアウトしてしまうというような例が最近は非常に多い。そういうことも考えていただきたい。
今の常用漢字の中でも,減らすということを審議されるのは非常に難しくて,減らさないという方が理由が立ちやすいということはあると思いますので,恐らく減らされないだろうと思うんです。それに対して,新しく増えていくというと,情報化なので書きやすくなっているから,あるいは通用する頻度が増えているからと,そこだけを見ていただかないで,本当の意味での必要なものとそうでないものというのを考えていただけると非常に有り難いと思います。
それからもう一つ,これは,前回も申し上げたんですけれども,ルビという考え方は日本に生まれる日本人の子供たちにとっても必要かもしれない。それから,年齢によって使う漢字がかなり違ってきている。そういうときに,高齢者が新しくできた漢字熟語が読みにくいということもあると思いますので,ルビというのは日本人にとっても大事だと思います。一方で,外国から来て日本の社会でいろいろな字体を見て,日本語の場合の漢字は音訓いろいろな読み方をされる。それが熟語になって出てくると,自分が覚えたのと違う読み方で通用している。そういうこともたくさんある。それが外国から来ている人たち,あるいは,日本で育っている外国をルーツに持つ子供たちにとっては,かなり大きな障害になりつつある,あるいは既になっているということもお考えいただければと思います。
○前田分科会長
  今のような国語の状況が,情報機器も含め,また外国人の日本語学習も含め,非常に多様化しているという,こうした状況に対して,漢字の問題をどう扱っていくかということが非常に大きな問題になってきていて,それがこういう検討をせざるを得ない状況になったことだと考えております。そういう点で,漢字小委員会でも今までのことについていろいろ反省しながら,また新しい方向を見いだしていきたいと思っております。
○笹原委員
  情報化時代の漢字ということで一つだけ,具体的な例で申し上げたいと思います。資料2の48ページを御覧いただきますと,2354番という凸版(3)の頻度順位が出ているもので,「薔薇」の1文字目の「しょう」とか「そう」とかと読む字が挙がっていますが,これがウェブデータですと1800番台と,網掛けもないような高い順位になる。ところが,凸版だと2300,新聞だと2500前後になる。500番あるいは700番ぐらい,活字メディアとウェブ上のデータでは順位が違う。こういうのは書けなくてもパソコンでたたくと打てる,あるいは読むことができる,あるいは,日本人の好きな字として,この「薔薇」という漢字が挙がってくる。いかにもバラの形に見えるなんていうことで情緒的な事柄もよく言われます。こういうものが今後,漢字小委員会において,例えば日本語としてこの漢字が一般常用のものとして位置付けるべきなのかということが議論されていくんだろうと考えております。植物名としてバラというのは漢字で書いた方がいいのかよくないのか,あるいは,この「薔薇」という字は手で書ける必要があるのかないのかと,先ほど杉戸日本語教育小委員会副主査からも,「別紙2」のイ以降のような検討がどうなのかということがありましたけれども,そういう視点で検討されていかなければいけないんだろうなと考えております。
○前田分科会長
  具体的なことで申しますと,「候補漢字の選定手順」をお認めいただければということが第一でございます。その選ばれたものを御覧いただきまして,個々の漢字の使われ方を見ながら,この字は削っていけるのではないかとか,そういうふうな形で検討するたたき台となりますので,具体的に,どういう分野の漢字を増やして,どういうものは減らしていいかということについて,皆さんのお考えをお聞かせいただく機会が当然出てきます。したがいまして,たたき台としての漢字表を提出するための「候補漢字の選定手順」をお認めいただければ有り難いと思うんですが,その点はいかがでしょうか。
○武元委員
  基本的に前田主査のおっしゃったことで私はいいと思います。ただ,2200なら2200を土台にして検討していくときに,除外されていったものをどのようにすくうのか。先ほど「付表2」というお話がございましたけれども,そういうことも併せて考えておかないと,後の2200からどうやって減らすのかというときに問題になってくるのではないかという気がいたします。
○前田分科会長
  その点は,「付表2」を新たに作ることも考えましたのも,漢字表としてはなるべく漢字を減らしたいということからの一つの考え方です。こういったものを作るかどうかも含めまして,全体の数をむやみに増やさない方向で考えていきたいと思っています。
ということで,時間が大分押してきましたので,漢字小委員会の御報告,特に「候補漢字の選定手順」についての案をお認めいただけましょうか。(国語分科会了承)
どうもありがとうございました。それでは,漢字小委員会の報告は打ち切りまして,次は日本語教育小委員会の御報告に移らせていただきたいと思います。

2 日本語教育小委員会に関して

○西原副会長
  配布資料4「日本語教育小委員会報告骨子(案)」を御覧ください。それに沿って,今まで日本語教育小委員会で議論してきたことを中心に御報告させていただきます。
日本語教育小委員会は,今年度に入りましてから新たに作られたものでございます。今までに,会議としては5回,そのうちの3回は,この日本語教育小委員会の委員ではなく,外で日本語教育あるいは日本語に関して御活躍の方々に来ていただいて,ヒアリングという形で御意見を伺いました。その結果として,ここにまとめられておりますのが,これから日本語教育小委員会が主として議論を集中していくべきポイントはどういうことなのかということを,文化審議会国語分科会,かつその一つとしての日本語教育小委員会という立場を踏まえて整理したものでございます。
御存じのように,近ごろ日本語教育につきましては,省庁で申しましても,いろいろなところでそれぞれの立場から答申とか議論すべきこと,決めるべきことが論じられております。それをすべて私どもの日本語教育小委員会で範疇に入れて検討するということはできませんので,私どもの責任においてこの立場ということを守ったときに,どのようなことが焦点化されるであろうかということだと,御承知おきいただけたらと思います。
この骨子は?,?,?と三つの方向を踏まえております。一つ目が,多文化社会における日本語と日本語教育ということ。二つ目は,これまでの日本語教育施策とその評価ということでございます。そして,三つ目に,今後取り組むべき課題というのを設定しております。最後の三つ目のところが,主としてこれから日本語教育小委員会が集中的に議論しなければならないと考えているところでございます。
まず,?から追って説明をさせていただきます。「多文化社会」ということですけれども,「1国内に在住する外国人の現状について」。これは,「多文化」とか「外国人」と申しましても,厳密に定義すれば,どの範囲の人たちのことなのか,どの範囲のことを言うのかというのは議論されるべきところでございましょうが,今はそこは焦点化されない形でお聞きください。平成18年度は,208万人の外国人登録者数を記録しております。それから,18年度の国際結婚というのは,両親の一人が日本国籍を有する者の婚姻の数でございますけれども,全国的に見ますと,100組に6組というのは6%ということで,過去には考えられなかったような数の国際結婚も成立している。
こういうようなことを含めて,多文化化というのは文化的背景の多様な人たちが日本に暮らすようになってきているということでございます。そのような観点から,「共生社会」,これも定義が必要な用語ではありますけれども,多様な文化的背景を持つ人々が暮らすようになったという社会が,その在り方も含めて,どのように実現されなければならないのかということについて,日本語教育の立場から考えていこうとするものでございます。
それから,2番目,そのような社会を踏まえて,日本語と日本語教育の在り方について考えようということで,その下に(1)と(2)がございます。具体的には,在り方についてどう考えるかということは,文化審議会国語分科会日本語教育小委員会というところでは,施策として,あるいは言語政策と言ったらいいでしょうか,そういうものをどのように提案し実現させていくかという観点から考えてみようということになっております。
一つは,そのような文化的・言語的にも多様化する多様性に対する理解を促進し,相互尊重のコミュニケーションということで,意思の疎通,情報の伝達とともに,心地良く暮らすということまでも含めて,相互尊重のコミュニケーションということを考えていく。そして,多文化化ということが,思想の尊重を前提とする多文化化ではありますけれども,複数の文化的背景を持つ人たちが日本に混在していくという中で,特に言語的には日本語という共通のコミュニケーション手段を中心的に考えていく。ただし,一方的に適応というか,日本語を学んで持ってきた言語・文化を忘れてくださいということではなく,それぞれの文化的背景が生きる形で日本社会が実現していく。「第三の文化」と申しますか,日本社会も多くの人たちを含んだ形で新しい方向を得ていく。これは日本語の在り方についてもそのことが考えられるであろうということでございます。
(2)ですけれども,共通語である日本語を通して文化的に多様な背景を持つ人たちの社会が構築されていく。その時に,社会参加に最低限必要な日本語能力というのが,環境整備として提案されていかなければならないだろうということです。日本に暮らすすべての人々が健康かつ安全に等しく社会参加できるよう十分に配慮するということ,その下にちょっときつい言葉が書いてあります,「国益に資する戦略的な言語政策」ということでございます。
これは(1)を踏まえておりますので,現在話されている日本語,あるいは,先ほど漢字のこともありましたけれども,日本語という枠組みの中に何がなんでも押し込めていくのだという形の言語政策だけとは限らず,もう少し総合的に考えていくということが必要なのであろうということです。特に地域で生活する人々,外国人及びそれを受容する日本人たちの社会ということも含めて,国際的な視野の下に考えていこうということになっております。
そのことを考えていくに当たりまして,先ほど申しましたように,ここは文化審議会国語分科会の小委員会でございますので,これまでこの枠組みの中で日本語教育施策について審議したことがあれば,それは踏襲して参考にし,取り入れていくべきであろうということを考えております。今まで国語審議会において議論された日本語教育の課題については,お手元に『国語関係答申・建議集』というのがありまして,お開きいただく時間はないかとは思うんですけれども,平成12年,当時の国語審議会が「国際社会に対応する日本語の在り方」という答申をしております。その中で,?,?,?のような項目について書かれたところがございまして,一つは,地域における外国人の日本語学習支援,もう一つは,海外における日本語学習支援,それから,国内外を通じた学習支援のための基盤強化ということが挙げられておりました。これが配布資料4の?の1でございます。配布資料4の次のページでございますが,?の2におきまして,そういう答申がございましたので,それを受けて,文化庁としてはいろいろな事業をこれまで展開してきております。地域における外国人に対する日本語学習支援ということで,日本語ボランティア,特に地域における日本語ボランティアのこととか,海外に日本語教師を派遣したり,海外の日本語学習の普及についての施策に総合的に取り組んだりということで,文化庁といたしましてはこれまで随分実績があるということになるわけです。特に「地域」というのは,「地方」というような意味ではなく,大都会も含めた日本の各地ということでございますけれども,そこでどういう日本語支援,日本語の教育がなされなければならないのかということについて,これまで文化庁が取り組んできたことを評価し,それを踏まえて今後につなげていこうとしているところで,「?今後取り組むべき課題」になるわけでございます。
これは,具体的にはまだ申しておりませんけれども,これまでの取り組みがあるわけです。いまだに解決されない問題,それから,新しい課題,時代が激しく移り変わっておりまして,先ほど言いましたように,多くの国民の気付かない間にこれだけ外国人が増え,そして,国際結婚というのは目に見えないことでございますけれども,特に農漁村等においてはもっと高い比率で,両親の一部が日本人でないというような婚姻が増えてきています。つまり,文化的に多様化している。そういうことに連動する新しい課題が次々に生まれております。
先ほど山田委員がちらっと「外国人が増えてしまって,標識その他が漢字のままでは…」というようなことをおっしゃいましたが,そこも多言語化している状況が見られます。東京駅では日本語以外の3言語でも案内が付いておりますけれども,そういうようなことも含めて展開が急速に行われてきている。そういうところで,外国人というのはもちろんそうなんですけれども,国内の地域性,集住都市というようなものがあって,外国籍の滞在する人たち,生活者が増えているようなところもあれば,まだまだというところもあり,一方では,潜在的に国際化している国際結婚の進行というようなこともあると,そういうことでございます。
その中で,日本語教育のニーズ,日本語教育支援をどのようにするかということの必要性が多様化しております。そのようなことで,そこにこれからの検討事項として挙げておりますようなことを,特に国内の地域性に関連してこういうことを考えていこうということになっております。先ほどボランティアのことを申しましたけれども,日本語教育の専門性,特に地域の日本語教育に関連してどのように考えるか。それから,いろいろなタイプの学習者,または潜在的な学習者も増えているわけなので,どのようなことを言語教育支援の立場から考えていったら良いのか。それについては具体的に,例えばどのようなカリキュラムが立っていくべきなのかというような方策について。
それから,先ほど漢字のことが話されている時に,山田委員がちらっとおっしゃったような方向でございますけれども,日本語の語彙構造というか,漢語がどんどん増えている,それらの漢字で書かれる語彙が増えていく一方で,そうでない方向の社会的な言語の変化というのも起こっている。例えば,外国のオリジンのものが増えていくとか,その他のことで日本人も含めて日本語というのがどのような方向に動いていくか。それから,コミュニケーションの在り方が,どのようなことで流れているのかという,多文化化,多言語化していく日本社会におけるコミュニケーション全体の在り方も含めて,それが教育につながっていくであろう,言語支援につながっていくであろうということを含めて検討しようということでございます。
そういうことを考えますと,「2体制整備」ということが直ちに問題になってきます。ここのところは,下の【検討事項】にありますように,関係する各機関はたくさんあるわけです。日本語教育の政策的位置付けは国及び都道府県等が,又は行政機関としての市町村が直接に関係するところでございます。それと同時に企業とか大学,企業は仕事をする外国籍住民,外国から来た人たちのための働く場所としての企業ということでございますが,企業もそれ相当の責任を負うことでありましょう。それから,教師あるいは支援者を養成する大学,あるいは,大学がこのごろは地域貢献ということの責任を強く求められておりますけれども,そういうことを大学としてはどのように考えるべきなのか。その中で,ボランティアというのは一体何であって,ボランティアはどういう役割を負うように位置付けられるべきものなのか。それから,多様化しているということについて,現状の方が先に進み,意識化の方が後から付いていくというようなことがあるかと思いますけれども,そのようなことについて,日本人に対して,国民一般の関心につながるような発信も必要なのではないかということを,体制整備の中で考えていこうとしております。この責任の明確化ということ,それから,それぞれの施策の実施主体はどこなのかというようなことに関連して,具体的にこれから議論が進まなければいけないということでございます。
最後に,そのようなことのためには,まず実態が把握されなければいけないということでございました。この実態の把握を目的に3回のヒアリング,3回はそれぞれ複数のお立場の方に来ていただきましたので,かなり幅広く実態把握のためのヒアリングを行うことができました。その結果として,ここにまとめてあるようなことが見えてきたということでございます。
最初の4行を読んでみますと,「日常生活全般に渡る学習者の多様なニーズにこたえつつ,日本語教室を継続して開催するためには,地方自治体等の行政機関が,地域の企業等と連携しながら,日本語ボランティアや,日本語教育及びその他の専門家からの協力・支援を得るなど,関係者間の連携協力が欠かせない。」ということでございます。そして,行政と関係機関との連携協力,そして,全体に日本の国でそこに住むすべての人が幸福に暮らせるというようなことを「国益」というふうに広く考えるとしますと,そのようなことで,明日の日本社会についての戦略的展開にも思いを致さなければいけないということであろうかと思います。
そのようなことを踏まえて,【検討の視点】としましては,日本語教育の関係機関及び団体の連携・協働,これは「協に働く」と書いてあるところに注目ください。そういうことで検討しましょうということです。
それから,外国人の受入れということが,特に経済界を中心にして,日本の人口動態が変わっていくことに関連して,労働力を何とかしなければならないという発想からも検討されているわけでございます。けれども,それだけのことではなくて,日本と世界がどうつながっているかという,海外諸国との関係性も考慮して,長期的な視点で国益を考えて対応する必要がある。そして,日本語教育の検討もそのような方向を広く視野に入れつつ,具体的な施策の提言というところに集約されていくのであろうということで,今までのところそのようにまとまっております。
御参考までに,最終ページにカラーページがございますけれども,これが資料7として付けられておりますのは,私どもが日本語教育小委員会の当初,このようなことを背景に置きつつ,これからの課題を検討しておこうということで,最初に条件整理したのがこの図でございます。今申し上げた背景とか,現状を踏まえまして,検討課題が五つ挙がっております。そのような検討課題の中で,今申し上げた三つの章に当たるような骨子案ができていくということになっております。
これは飽くまでも中間的な骨子案でございまして,この骨子案ができた直後にいろいろな委員から「さらにこのことも含めた方がよろしかろう」という指摘がありました。そのことも含めて,少し加えて御報告したつもりでございますけれども,今までの経過報告は以上でございます。これが骨子案なのですけれども,1月にもう一度日本語教育小委員会が開かれまして,そこで報告書の形を取った案が出てきて,そこにおいてまた検討され,今年度の報告になっていくということになっております。
○前田分科会長
  それでは,これまでの日本語教育小委員会の検討内容について,何か御質問,御意見などがあれば頂きたいと思いますので,よろしくお願いします。
○松村委員
  今の時代ですと,公立の小中学校でも外国籍のお子さんが入ってくる割合というのはここ何年か本当に多くなっています。言葉の壁については,私は中学校におりますが,例えば英語を学んで日本に来るというお子さんが多いですし,日本の中学生も言葉については何とか相手に近づこうと努力をするので,割合近づいていくというか,理解しやすいところはあるんですが,最終的に壁になっているところで私がよく感じるのは文化の違いなんですね。文化の違い,生活習慣の違いが最終的にネックになって,ある一定のところで近づけないということで孤立していったりとか,そういうことを今まで何度も目にしています。
本日のお話,私も初めて聞かせていただいて,初等中等教育の課題としては,日本語教室によって,言葉の壁を乗り越えさせようというような努力はよくされていますけれども,それだけでは解決できない。日本語ボランティアの力,地域にはたくさんそういうことに関心を持っていらっしゃる方がいて,ボランティアの方が学校に出入りして,放課後そういう生徒たちの面倒を見ていくという,システムではなくて,行為としてやっているような部分が多いんですね。
ですから,先ほど幾つかのところにありました日本語ボランティアの定義と役割のところ,あるいは【検討事項】の上にあります,外国人の日本語学習ばかりではなくて,多文化共生社会におけるコミュニケーション全体として,生活習慣も含めて,その辺のところを是非今後検討していただいて,小中学校に学ぶ子供たちが安心して,日本人の子供たちと同じ中学生,小学生として暮らせるような社会に向けての提言を期待したいと思います。
○西原副会長
  子供たちについては,数も多くなってきておりますし,御指摘のような問題があるということは,いろいろなところから把握しております。そして,具体的な施策がこれから報告としてまとめられていくことの中に,あらゆる世代の人たち,それを受け入れる日本社会の在り方も含めて政策を考えていきたいと思っております。
子供の言語発達については,第二言語も含めて,いろいろな研究がなされておりますけれども,そこで繰り返し言われていることは,子供の頭の中,あるいは,地域社会,学校というような,周りのところだけで解決される問題では決してなく,教育制度であるとか,国と国との教育制度の違いを含めて広く検討されてから,カリキュラム等に下りていかないと,不幸な子供を作るということになるだろう,というようなことが報告されております。
○甲斐委員
  配布資料4の2(2)の最後のところですけれども,「国益に資する戦略的な言語政策の検討も必要となっている」とあります。これは,日本に入ってきて,例えば静岡とか愛知とかというところのある地域で,外国人の一つの集団が生活していて,そこでは日本語よりは母国語で生活をする,なかなか日本語が入りにくいというようなことで,逆に,それを温かく見て育てていくということで,一方では必要なことだと私も思います。しかし,国語分科会がそういうことまで,こういう形で書くのが良いのかどうかは私は分かりにくいんです。
というのは,日本語教育小委員会は日本語教育に堪能な方々がやってこうだと言う。その上に国語分科会があって,更にその上に文化審議会がある。文化審議会というのは悪く言えばトンネルみたいなものだと思うんです。そうすると,国語分科会という総会もトンネルみたいなもので,日本語教育小委員会がこういうふうにまとめたら,我々は分からないけれども,「そうですね。」という形で行くのかどうかですね。
今,別のところで戦後の国語審議会の連載をしていているんですが,ローマ字の問題でそれがとても顕著に現れているんです。小委員会あるいは小さな部会でやっていて,そこでまとめられたことがどんどん通っていくということがあるわけです。国語分科会で日本語教育に対して,どういうような姿勢を根本としてやっていくと良いのかというところについては,例えば,さっき松村委員がおっしゃったボランティアで日本語についてというのは私も分かるんだけれども,日本国内で国益に資する戦略的な言語政策的なものも我々が考えないといけないということで,具体的に,そういう提案をすることになるのか。これをすると,国語分科会で英語教育も大切ですよということで,英語をもっとやりましょうということと似てくるような感じがあるんです。分からない部分については,こういう問題があるけれども,分からないという形で,扱わないという形にするのか,そこら辺りをお伺いしたいと思います。
○西原副会長
  先ほど非常に注意深く申し上げたつもりだったので,かえって分かりにくくなってしまったかと思うのですけれども,国語分科会日本語教育小委員会ということでございますので,日本語のコミュニケーションの手段としての日本語の圧倒的な重要性というところは決して外してはならぬと,そういう意味で「国益に資する言語政策」ということが言葉として使われていると思います。
つまり,多言語化,多文化化していく社会で,具体的にはある地域では日本語でなくポルトガル語が主たる通用言語であるということがあるときに,言語政策を提案するという立場からすれば,日本語で人々の生活を保障する,例えば,法律の用語,学校の用語,教育の用語,メディアの媒介語としての最重要の位置を占めるのであるということは当然踏まえた上でということです。ただし,言語的・文化的に少数派に属する人たちのイニシアティブというものをつぶしてしまうのではないという方向を定めていくのは非常に難しいので,戦略的ということになっているかと思います。
極端に言えば,明治政府はアイヌ語を殺しました。その中で,「土人」というような言葉を使って,「土人であって,精神的に薄弱であるので」,文言はかなりきつかったと思います。なので,算数なども習わなくてよろしい,技術家庭みたいなものをやりなさいというような法律を作って,アイヌ語を温存することを全くしなかった。そのためにアイヌ語が殺されたと言語学者たちは言うわけですが,そうなりました。そういうふうにして,私たちはポルトガル語を殺していくのかということだろうと思います。今の世の中ではそれはなかろうということです。
では日本語がいいのかというと,日本で幸福に職を得て,情報を得て生活の手段を得ていくためには,日本語を外しては成り立ち得ないだろうというところは非常に強く,前提として考えていくべきだというふうに話し合った結果,この文言が出てきたというふうにお考えください。ですから,何でもいいと言っていることではありません。
○尾?委員
  今,西原副会長がまとめてくださったとおりです。それ以上足すことも,引くことも全くございません。「国益に資する戦略的な」という「戦略的な」のところに,国内だけではなくて,もしかすると日本語という言語が世界的にどういう位置付けにあって,将来どういう方向に持っていくことが,日本の国益,「国益」という言葉も,世界にとってという視点で「国益」を議論していかなければいけないだろうと,そういうような話合いがあったかと記憶しております。
○?田委員
  2番目にあります平成12年に議論されたということと,今,取り組みをしているということになっておりますことで,日本語教育小委員会ではお出しになったのかもしれませんけれども,ネットワークが今どうなっているのでしょうか。どうしても縦割り行政みたいなところがありますから,この問題は外務省も交えてやっていかなければいけないテーマだろうと思います。役所ごとではなくて,国として日本語普及と言いますか,日本語を理解していただくための施策のネットワークをされようとしているのか,一度お話していただくと分かりやすいなと思いました。
○西原副会長
現在,省庁間を横断するような日本語教育の連絡協議会ができていますよね。
○町田国語課長
  それでは,事務局から御説明をさせていただきます。
日本語教育というのは,境界領域も含めるとかなり幅広いことになっていますので,それら全部を引っくるめて政府全体として議論する場があるかと言われると,今の時点ではないと思います。国際交流基金の懇談会が最近出した提言の中では,新たにコンソーシアムを作るといったようなことが提言されておりますが,まだ実現するところまで至っておりません。
それから,日本語教育に絡んで,例えば外国人労働者の問題をどうするか,生活者としての外国人をどう支援していくか,あるいは日本の社会で彼らに関連して起きているいろいろな問題についてどう対応していくかというような,個別の政策レベルになりますと,関係省庁の連絡会議等を作って,日本語教育の充実ということも含めたパッケージでもって連携を図っていると,そのなような状況になっております。
○西原副会長
  日本語教育の関係者がどういうところに出入りしているかということを考えますと,総務省の会議,外務省の会議,それから,経団連等,あるいは旧自治省の自治体国際化協会等があります。日本語教育関係者は,関係者として一翼を担う形で参加しているということであろうと思います。ただ,政府全体でそのようなことがあるのかというと,まだそれはなくて,一部に「外国人庁」というのを作ったらどうかというような提案もなきにしもあらずというふうに聞いております。
○林漢字小委員会副主査
  一つだけ。今伺っていますと,主として日本の国内における日本語教育というところに重点があるように伺いましたが,外国で日本語を勉強している人たちというのは,国内で勉強している人たちの数よりはずっと多いはずなんですね。今,国際交流基金という言葉が出てきましたけれども,そういうところを通じていろいろな支援は行われていると思うんですね。特に文化審議会の日本語教育小委員会では,外国で大学や語学学校等を通じて日本語を勉強していくようなシステムにどういうふうな支援ができるのか,その辺りも,大学で留学生を受け入れる立場から見ますと,非常に大きな問題点というか課題の一つだと考えるんです。将来的にはそういうふうなことを議論なさる御予定がおありなのでしょうか。
○西原副会長
  先ほどもちょっと申しましたし,そのことは私どもの限界として考えなければいけないことであろうかと思いますけれども,海外に対する支援ということよりは,日本の国の中で,これから起こってくることについて重点的に考えましょうということになっております。ただし,学習者は海外から来る,外国の人が日本に来て生活するということがございますので,日本の国だけのことを考えてできることではないと思います。
今,大学のことをおっしゃいましたけれども,経済界で非常に問題視しているのは,基幹産業に入ってくる人たちをどう迎え入れるか,そういう海外からの流れが最重要事項となっていることもあります。具体的に言えば,医療・介護関係者が近隣の国からやって来る。その時に受入れるだけではなく,送り出し側に立ってどういう準備をしてもらうのかということも含めて,海外での日本語教育,準備教育というものがなければならないだろうし,その準備教育を前提として,国内の日本の支援等も考えられなければならないだろうということになっております。
それから,海外の学習者は,今300万を超えたとか,超えないとか言われておりますけれども,そのうちの60%は子供なんです。そうしますと,日本に来るとかということではない時点で,日本語又は日本文化に対する関心が非常に高まっているわけでございます。そのことも踏まえて,日本と海外を結ぶ日本語教育というものも重要なことであろうかと思いますけれども,そっちは海外交流審議会のようなところでお考えいただくことであって,私どもの累積する課題の中では,そこにプライオリティを置いてしまうのは控えなければならぬだろうということを話し合った上で,本日の骨子が成り立っております。
○前田分科会長
  時間になりましたので,本日頂いた貴重な御意見につきましては,それぞれの小委員会に持ち帰って,検討していただくということにさせていただきます。ということで,本日は,これで終了したいと思います。
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