議事録

第21回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成21年9月9日(水)
14:00〜16:00
旧文部省庁舎2階第1会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,井田,伊藤,井上,岩見,尾﨑,加藤,中野,西澤,山田各委員(計11名)
(文部科学省・文化庁)
匂坂国語課長,西村日本語教育専門官,山下日本語教育専門職 ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 第20回国語分科会日本語教育小委員会・議事録(案)
  2. 学習項目の要素について

〔参考資料〕

  1. 「生活上の行為」の事例の整理(改訂版)
  2. 「生活上の行為」の分類一覧(改訂版)
  3. 今後の日本語教育小委員会の検討スケジュール

〔机上配布資料〕

  1. JF日本語教育スタンダード試行版

〔経過概要〕

  1. 事務局から配布資料の確認があった。
  2. 前回の議事録(案)が確認された。
  3. 事務局から配布資料2「学習項目の要素について」,参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改訂版)」,参考資料2「「生活上の行為」の分類一覧(改訂版)」についての説明があり,その後,資料の内容に関し,質疑応答と意見交換を行った。
  4. 次回の日本語教育小委員会は,10月上旬に開催されること,詳しい日程及び開催場所については決まり次第,事務局から各委員に連絡することが確認された。
  5. 質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。
○西原主査
文化審議会国語分科会日本語教育小委員会,これが第21回目,今期第4回目だそうでございますが,よろしくお願いいたします。
この間のワーキンググループでの作業についてですが,「生活上の行為」の分類に関連して,大分類から小分類について整理を行う作業は一応,お配りした参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改訂版)」で示しているものまでと考えています。そして,その中でも非常に基本的なことで,生活基盤の形成に不可欠かつ複雑なことでない「生活上の行為」の事例に星印を付しましたが,取りあえず初めに,消費活動というのは非常に一般的なことであろうから,それについて学習項目を記述する作業を行ってみようということで配布資料2「学習項目の要素について」で示されているような作業に着手したということでございます。
先ほど事務局からも説明がありましたように,これはまだ作業過程で完成してはいないということで,幾つか補足的にお断りするのですが,この配布資料2「学習項目の要素について」の完成型が素材になるわけです。教材の素材あるいはリソース型教材になるわけで,配布資料2「学習項目の要素について」に掲載されている項目を上から下まで学習していくということではありません。日本語を教える,あるいは日本語学習を支援する側の方が,当該地域あるいは学習者グループに合わせて,例えば配布資料2「学習項目の要素について」から学習項目を取り出して,「この項目とこの項目の組合せで活動を行おう」といったことを考える素材になるだろうという想定で作業を行っております。ですので,項目間の重複を余り気にしておりません。重複を全部取ってしまいますと,一から積み上げていかないと駄目になってしまうので,そのことはあえて考えないということで出発しております。
それから,配布資料2「学習項目の要素について」で文法,語彙(ごい)と言っているのは,ちょうど今日,西澤委員が机上配布資料1「JF日本語教育スタンダード試行版」を配布してくださったので,それを見ていただきたいと思います。98ページの左側の図「ドイツ語プロファイルの構成」という図があります。国際交流基金でも98ページの図「ドイツ語プロファイルの構成」は,とても参考になると書いていらっしゃると思いますけれども,ドイツ語プロファイル,つまりヨーロッパのスタンダードのうちのドイツ語について書かれたものが日本語教育に非常に役に立つということですので,ワーキンググループの作業においてもこれらの中から,言語材料という部分,例えば言語行為としての表現,テーマ別の語彙(ごい),一般概念としての語彙(ごい),そして文法を取り上げて,その言語材料を付け加えた形になっております。98ページの図の上の方にあります能力記述文については,実はワーキンググループでは作業を行っていないのですが,そこのところにも「やり取り」「産出」「受容」「仲介」「話しことば」「書きことば」というような分類が出ています。ワーキンググループでもそういうものを目指すと言うか,これにどこまで迫れるか,それは時間との戦いでもありますので,皆様方がニーズとして「これも必要ではないか」とお決めくださったものについて,ワーキンググループが作業していくことになろうかと思います。
例えば,ストラテジー(strategy)の記述が大切だという御指摘が第20回日本語教育小委員会でもありましたが,机上配布資料1「JF日本語教育スタンダード試行版」の98ページの図「ドイツ語プロファイルの構成」でも「方略」「技巧」というのが取り上げられており,それに類することとしてコミュニケーション・ストラテジー,学習・試験のためのストラテジーというようなことがあります。しかし,ワーキンググループでは,それにはまだ着手しておりません。また,行為としては記述してありますが,まだ能力記述文の形にはなっておりません。それから,機能についても今後記述すべき学習項目の要素の候補としては挙がってきていますが,「機能」という項目はまだ付けておりません。
現在の作業の進行状況については以上のようになっているのですが,ここからが御相談です。これからどうするか御意見を伺いたいということなんです。どこまで学習項目の要素の数を広げていくか,あるいは深くしていくか。また,今作業を行っているものを教材,教科書のプロトタイプあるいはカリキュラム案に収束させていく場合に,これにつきましては時間との戦いもありますが,どの部分を重点的に掘り下げていって,どのような形でカリキュラム化を行うのかといったことについて,配布資料2「学習項目の要素について」をたたき台にして御意見を伺いたいと思います。
今日はたまたま西澤委員が机上配布資料1「JF日本語教育スタンダード試行版」を配布してくださいました。ドイツ以外でも,このようににヨーロッパのCEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ共通参照枠)は作られているということが例示されているのですが,ヨーロッパでできたものを全部日本で我々の作業で作るかと言うと,そうではありません。国際交流基金ではヨーロッパの枠組みを参考にして,机上配布資料1「JF日本語教育スタンダード試行版」の後半部分で日本語の案も,これはまだ途上ですけれども,始めてくださっております。ここには,例えばレベル別の能力記述文ですとか,もう少し広い意味でのコミュニケーションに当たることについて,能力記述文が書かれています。これは日本語教育小委員会で作業を行っている「行為」とは少し違う書き方がしてあります。
それからレベル分けについて,これは先日の文化庁日本語教育大会でも,名古屋大学の御指導の下に豊田市がやっている事例が披露されました。そこでは能力についての記述がCEFRのように,少しレベル分けができているのですが,その部分についてはワーキンググループでは今はまだ手が付けられていません。
本日,集中的に御意見をお伺いしたいのは,この配布資料2「学習項目一覧について」にありますように,ワーキンググループでは学習項目の要素の記述を始めましたので,これをどこまでやるべきだとお思いになるかということです。その後,教材化,カリキュラム化するということに関連して,どのようなことがなされなければならないかといったことも御意見として伺いたいと思います。
まず,配布資料2「学習項目一覧について」のように学習項目を記述していく際に項目として何が必要かということについて御意見を頂戴(ちょうだい)できますでしょうか。尾﨑委員は,ストラテジーということを先回の日本語教育小委員会でもおっしゃっていましたが,いかがでしょうか。
○尾﨑委員
 ストラテジーについては,それは学習者に教えるだけでは済まないですし,先に学習項目がないとストラテジーも何もないであろうと思います。ですから,ストラテジーについては取りあえず横に置いて,配布資料2「学習項目の要素について」で扱われている項目について検討したらいかがでしょうか。
○西原主査
 そうですね。現段階においては,ストラテジーまでは踏み切れませんけれども,言語機能を能力記述文と呼応するように−例えば「ものを尋ねる」とか,いわゆるストラテジーとして書くこともできるような形で,付け加えることはできると思います。例えば, 「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」と言うときは,話す,聞く,読むだけではなくて,情報を取り出すということをやっているわけですよね。
中野委員は,実際に教材をお作りですが,いかがでしょうか。
○中野委員
 国際文化フォーラムでは今,西原主査がおっしゃったことと正に同じような作業を,大学や高校の先生方とプロジェクトを組んで,日本の高等学校の中国語,韓国語の学習の目安を作成するために行っています。私たちの場合は,配布資料2「学習項目の要素について」の表で提示されている生活上の行為目標を達成するための具体的な学習活動例を,そこで導入されるであろう表現例,語彙(ごい)例とともに提示する必要があるだろうということになりました。文法中心の授業を行うのであれば別ですけれども,コミュニケーション活動中心の授業を行っていただくために,実際の教室活動例と言いますか,コミュニケーション活動例を国際文化フォーラムでは入れています。配布資料2「学習項目の要素について」にある,やり取り例や文法,語彙(ごい)を組み込んだ学習活動例が,やり取り例の前に入っています。活動例を基にして,実際の授業案ができ,さらに単元案とか年間カリキュラム案ができていくということです。
○西原主査
 例えば配布資料2「学習項目の要素について」の「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」では活動例はどのように記述されるのですか。
○中野委員
 例えば,必要な品物を扱う店を探す場面を想定した活動など考えられます。商店街のお店のマップとかデパートの店内配置図などを使ってロールプレイをするとか。「お店でほしいものを注文する」という行為があるとすれば,ファーストフードの店を想定して,メニューを実際に使って食べたいものを注文する活動を店員さん,お客さんのロールプレイでやるとかを学習活動例として示しています。
○西原主査
 「活動」というのは,教室活動のことですか。
○中野委員
 はい,そうです。
○西原主査
 学習活動のことを「活動」とおっしゃっているんですね。
○中野委員
 実際に,この配布資料2「学習項目の要素について」で取り上げられているようなやり取りや文法や語彙(ごい)が入ってきそうな活動を考えるということです。
○西原主査
 そうしますと「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」というのは行為ですよね。これも一種の活動であると言えるわけですけれども,そこを少しブレークダウン(break down)するということですね。
○中野委員
 はい,ブレークダウンして,実際に授業につなげるためのものを入れるということです。それから,この「学習項目の要素について」では,やり取りだけが例として提示されていますが,私たちの場合は,文法も語彙(ごい)も飽くまでも「例」だと言うことで,「文法例」「語彙(ごい)例」としています。それは「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」という「生活上の行為」を実現するために必要な言語材料は,現場で随時選択するもので,「我々が提示するのは例ですよ。」ということで表を作りました。
○西原主査
 岩見委員も「リソース型生活日本語」というリソース型教材を作っていらっしゃいますが,いかがでしょうか。
○岩見委員
 「リソース型生活日本語」にも,機能や文型について検索機能を付けたのですが,どうなんでしょうか。実際にどのように使われているか綿密に調査をしたわけではないのですが,現場では学習を行う際に,機能を取り上げて学習活動に役立てるといった使われ方は,余りしていないような気がします。
○西原主査
 現場では「機能」を使って検索はしないのでしょうか。例えば,「友達を誘って一緒にレストランに行く。」,複数の人が絡んで「レストランで注文したりする。」ような場面で,「誘う」ということを「機能」と言いますよね。そういうものが役に立つのかどうかについてはいかがでしょうか。
○岩見委員
 「リソース型生活日本語」を作る際に作成側で発想したときは,「誘う」という機能を検索した場合,こういう表現がその機能と結び付いているということがわかることは役に立つという発想だったのですが,地域の日本語教室の現場では「機能」よりも具体的に何をするのかという個々の行動や場面の事例から入ることが多いようです。
○西原主査
 行為として実現するようなものの方がいいということですね。
○岩見委員
 抽象的な「機能」よりは,もっと具体的なものの方が使いやすいと思っているのではないでしょうか。
○西原主査
 例えば「店を探す」というような行為が,その例として挙がるのでしょうか。
○岩見委員
 現場ではその方がより使いやすい切り口であるというように感じています。
○西原主査
 そうすると,「店を探す」という行為の場合,「情報収集」というような機能が例として出てきますけれども,それは余りポピュラーではないのでしょうか。
○岩見委員
 だれが使うかにもよりますよね。私が今,説明しているのはボランティアの方々が使うときのことです。
○西原主査
 その辺りについてはいかがでしょうか。カリキュラムを作るときには,クロス検索をする必要がありますよね。そのときは「機能」が役に立ちます。「情報収集」だけでなく,「場面」を検索の項目に加え,さらに状況を加え,参加人数を加え……というように作業を進めるときに,「情報収集」という「機能」は目安として役に立ちます。
○岩見委員
 私も,とても役に立つと思います。ただ,それをだれがどのように使うか…。
○西原主査
 現場の人は,そういうものを余り使わないということですね。加藤委員,いかがですか。
○加藤委員
 これから我々が目指す方向として,現状がどうかというのはあるとしても,生活者の日本語をつかさどる方たちに向けて作業を行っているわけです。そのときに,やはり体系的に生活者の日本語をつかさどる立場の人が考えなければならないことについて考えると,やはり「機能」というのは不可欠だと思います。現場で教える方たちも,その視点を持って生活で日本語を必要とする人たちへの日本語教育を行うことが,より体系立った教育に─もちろん今が場当たりとは言いませんけれども─なっていくのではないかと思います。ですので,目指す方向として,配布資料2「学習項目の要素について」のようなものはきっちりと作っていくことが必要だろうと思います。
○西原主査
 そうすると,場面とか機能といったカラムを付けることが必要ということですね。例えば配布資料2「学習項目の要素について」にある「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」というのは,場所としては,まだ店ではないんですよね。店であってもかまわないですが。そして,恐らく「尋ねる」とか「人にものを聞く」といったことが,「機能」として挙がってくることになるだろうと思われますし,「必要な情報を引き出す」というのも「機能」になります。「機能」というのは,そういうものだと思うのです。
○加藤委員
 土台に配布資料2「学習項目の要素について」のようなものがあって,さらにやり取りの例としてそれぞれの「生活上の行為」の事例について一つか二つのパターンが出ているとしても,今度は更に進んだ形で,実際にこれを教えるためにはどんなことが必要か─先ほどおっしゃった「活動」というのも,それに当たるかも知れませんが,クラス活動としての教師と学習者のやり取りだったとしても,そこの方法論が必要になると思います。
○西原主査
 例えば「ロールプレイ(Role Play)をすればいいです。」というようなことが付け加わるわけですね。そうすると,それは,ここに付けるべきものなんでしょうか。尾﨑委員は,少し違うことを考えていらっしゃるように思うのですが,いかがでしょうか。
○尾﨑委員
 結局,今行っている作業とその結果はだれに向けたものか,何のために使ってほしいかということなど,委員の間で考えていることが違っていると思います。例えば10時間のボランティア研修を終わった方が配布資料2「学習項目の要素について」を見ても,どうしていいか分からないという状況だろうと思うのです。そういう方にこれをお見せしても,余り意味が伝わらないですよね。
そうすると,実際にある程度活動していらっしゃる方に向けて「私たちがこういうものを作ってみました。そして実際に日本語を使う「生活上の行為」というのはこれだけいろいろなことがあるけれども,たまたま今,あなたが担当している外国の人がどういうことを日本語でしたいと思っているか,それをチェックするときの,これはとても大きなチェックリストのような形で役に立てればいい。」というのが第1ステップですよね。
その中で,たまたま日本に来て,例えば「ブラジルで売っている変わったお菓子,あれ,どこで買えばいいのか分からないのよ。」という話題があったときに─そのようなことが話題になるのかどうか分かりませんが─そういうときに,例えばこの「○○はどこで売っていますか」ということが一つ言えるようになった人は,実はこのリストの行為の部分のかなり多くをカバーできるようになりますね。
だから,「参考にしてください。」という話の後に,「これを使ってどういうクラス活動ができますよ。」という提案をする,今,ロールプレイという話がありましたが,ロールプレイをしようと思うと,例えば,そうですね,「マスクはどこで売っていますか。」という例文を考えたとします。でも,「マスクはどこで売っていますか。」「マスクは薬局で売っています。」の「マスク」が分からない,「どこ」が分からない,「売っています」が分からないという人がいたとすると,その人にどうやって「マスク」の意味を教えるか,「どこ」の意味を教えるか,「売っています」を教えるかという話になります。そうすると,恐らく直接法でそれをやろうと思うとかなりのおぜん立てがないと難しいと思います。ロールプレイに行く前の段階でとても苦労しています。ボランティアで活動していらっしゃる方は,その辺りで苦労しているんですね。
○西原主査
 ロールプレイと言われても,「それは何ですか。」という話ですよね。
○尾﨑委員
 そうなんです。そうすると,この配布資料2「学習項目の要素について」の「やり取りの例」に出ている例文は本当に入門の初歩の初歩なんだけれども,そこを直接法で行うことが現場では苦しくて,ロールプレイに行き着くまでが難所だろうと思います。だから,どうしたらいいのでしょうか。
○中野委員
 正にそういう議論が私たちの中にもありました。そして結局は,配布資料2「学習項目の要素について」のような資料の付属資料として授業案とか単元案とか─学校ですと年間指導計画になるんですけれども─そういうサンプルも必要だということになって,付けることになりました。さらにいきなりコミュニカティブ活動にいけないということで,語彙(ごい)や文法の導入というプレ活動から始めてコミュニカティブ活動に至る,活動のステップの作り方も研修で取り上げて先生方と共有する努力をしています。
それと違う話ですが,例えば「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」というような指標は,言語運用能力は示していないですよね。我々の場合はこれを能力標準,いわゆる能力記述文にブレイクダウンして置き換えています。例えば「必要な品物が言える」とか,あるいは「お店の名前が言える」というものから,「必要な品物をインターネットで検索することができる」というようなものまであり得るわけですよね。こうした能力標準を作って,それに活動例が付いているという構造になっています。
実際の現場では,先生方はこれらの能力記述文で表現されている項目を組み合わせて授業の目標を設定していらっしゃいます。
こうした表の使い方と言いますか,能力記述項目を抽出し,組み合わせて授業の流れ,単元の流れを作っていくということを例示する,あるいは具体的な授業の流れの中身をサンプルとして提示するといったところまでしないと駄目ではないかということで,実践例の収集を行っています。かなり大変な作業ですが,実践例を共有し始めて指標も使われ始めました。
○西原主査
 それが,例えば山田委員がおっしゃるモジュールを作るということなんですけれども,「モジュールとは何ですか。」と言われたときに,「モジュールって大体こんなものでしょう。」というものを作っていかなくてはいけないですね。それが多分,カリキュラムの提示と言うか,プロトタイプとして我々が今,目指しているものになると思います。配布資料2「学習項目の要素について」はその前段階のものなので,どこまでで学習項目のデータベースを作成する作業をやめるか,あるいはどこまで続けるか。そういう御相談に今,なってしまっています。
「リソース型教材」というのはすごく簡単だし,結果はモジュールになるんです。モジュール教材として機能させてください」「使ってください」とは言えるんだけれども,今,尾﨑委員がおっしゃったように,これはイタチごっこと言うか…。
○山田委員
 少し確認したいのですが,尾﨑委員はボランティアを対象にするということを前提に話されたんですが,もし活動を担当する人がボランティアで,週1回,1時間半から2時間,そういったペースで活動を進めるのであれば,「学習項目の一覧表は私は必要ない,そんなことをやっているとすべて学習するのに50年たってしまう。」という話になってしまいます。
そうではなくて,有償か無償かは別にしても学習項目の一覧を用いて日本語教育のプロが授業をするという場合,先ほど中野委員がおっしゃったように,学習項目の一覧表にレベル別の情報が付いていれば,いわゆる一般的な日本語学校とかいろいろなところで授業を行っている人たちは,生活者に対する日本語教育については慣れていないけれども,日本語教育においてはある種のプロなので,対応できるのではないかと思います。「生活者に対する日本語教育にはこういう項目があるんですよ。」とか「こういう材料も考えたらどうですか。」というヒントがあれば,「これはいいね。では,初級レベルのこういう人だったらこういうふうに組み立ててやりましょう。」ぐらいの能力はあるのではないかと思います。
まず,我々が行っている作業はどういう人を対象にするのかということを決めないと,学習項目の一覧表をどう作ったらいいか,あるいはそこからカリキュラムや教材についてどういうモデルと言うか,例を作ったらいいかといったことの議論も始まらないのではないかと思うのです。
○西原主査
 今,山田委員がおっしゃったほかに,コーディネーターの人が使うかもしれない。それから,その地域については責任を持って計画を立てるという立場の人に使ってもらえるかもしれないというようなことでしょうか。
○尾﨑委員
 ただ,だれが使うかを想定することは現実には難しいです。こういうリストがあるということ,例えば配布資料2「学習項目の要素について」の「0801 対面販売で購入する」に下位項目がずっと並んでいますが,この中の幾つかを取り出して「例えばこんな教材が一つのサンプルとしてできます。それを使って授業をやるとしたら,こんなやり方もあるでしょうし,こんなやり方もあるでしょう。」という幾つか例を出すということだと思うのですが,それは日本語教育をおやりの方は大体御存じのことです。ただ,それ以上には我々としてもアイデアが出ないので,そのようなものを出して,取りあえず今年度の審議は終わりになるだろうと思います。
○西原主査
 机上配布資料1「JF日本語教育スタンダード試行版」の続きですけれども,国際交流基金はソウルとかケルンで実際にスタンダードのプロトタイプではないけれども,スタンダードの基を作り,それを用いて教室活動を展開しています。
その結果について学習者にアンケート調査し,それを基にスタンダードのプロトタイプを書き換えるという作業を行っています。今,尾﨑委員がおっしゃったように,その作業の繰り返しがあった上で,教材というのは役に立つようになっていくんだと考えるとすれば,とにかくどこかで…。
○尾﨑委員
 やってもらうしかないですね。
○西原主査
 やってもらうと言うか,「やり始めてください。」と言うしかないのかもしれませんね。
ケルンなどで話を伺っていると,かなり周到に,授業活動を繰り出してみては修正を行うということを行っており,それはソウルでも同じことをやっていらっしゃいます。だから,配布資料2「学習項目の要素について」でも,そういう作業を行わないと役に立つものにはならないだろうと思います。
○尾﨑委員
 そのことと関連して申し上げると,そういう作業を引き受けてくれるところを全国幾つか,活発に活動が行われているところに文化庁なりどこかから,ある種の委嘱をして作業を行ってもらうというときに,それを受けてやる人が,ある程度,仕事として取り組めるような状況がないと結構大変ではないでしょうか。しかも,活発に活動を行っているところには既に活動の積み重ねがあり,それぞれのやり方で活動を展開しているわけです。そこに「こういうものができたから,やってください。」と言うときに,いろいろあるのではないかと思います。ただ,それをやらないと,このリストができても余り活用されないおそれがありますよね。
○西原主査
 本日は佐藤委員が欠席されていますが,佐藤委員は苦労して児童生徒のためのJSL(Japanese as Second Language)カリキュラムもお作りになりました。公教育の中で使われるはずの子供のための日本語教育について,かなり書き込んだカリキュラム案を出していらっしゃるのですが,それがなかなか広がっていかないという現実があるようです。その現実は,やはり学校文化の中で培われてきたノウハウの中に入っていかないと言うか,少しレベル及びビジョンの違うものを書いているので,児童生徒のためのJSLカリキュラムは先生のメンタリティー(mentality)と合わないというところがあるのではないかなと思います。
我々が行っている作業については,使っている人のメンタリティーが学校文化のように確立されているわけでないので,一層暗中模索を強いられるということです。私などがこの日本語教育小委員会においても「CEFRを参照しませんか。」と言うのは,それは世界的に見たら先輩の制度なので,まねてやってみると彼らぐらいのところまで行くのではないかということです。何か枠組みを作ってみて,あとは各地の実践の中で学習項目のデータベースに新たに書き加えたり,積み上げたりして発展させていく,その基となるものを提示したい,それをプロトタイプと呼びたいと思います。
今,現在の作業の方向,つまり学習項目を展開しているという方向については「まあ,やってみなさい。」と言われているように,先回の日本語教育小委員会で感じておりましたけれども,これから先どのように進めるかと言うときに,だれが使うのか,どういうふうに使うのかといったことも考えつつ作業を進めていかないといけないですね。
○伊藤委員
 そもそもこれを作ろうとされた文化庁は,だれを対象にやろうと考えたのでしょうか。例えば,本当に移民政策を行うのであって,外国人が日本に入ってきたときに日本語をどう教えていくのかというところをねらうのであれば,きちんと文法とかそういうこともある程度含めて教えていかなければいけないでしょう。ただ,もう既に日本にいる外国人を対象にする場合,やはり尾﨑委員が言われたように,現場の方が使えるものでないと駄目だと思います。
だから,入り口で,どっちの方向を向くんですかというところがはっきりしていないと,進めないのではないかと感じたんですが。
と言うのは,先日,たまたま豊田の日本語学習支援システムのコーディネーターの方の発表を聞く機会がありました。豊田市の委託を受けてモデルケースとして,企業内で日本語教室をやっていらっしゃるところへおじゃまして,そこのお話を聞くことができたのですが,「教材は何を使っていらっしゃいますか。」と聞いたら,特別なものはないとおっしゃったんですね。そこへ来ている先生にお任せしていますと。
それで,先生方は何で教えているかと聞いたら,やはり場面を設定するんだそうです。皆さん日本語ができない,学習者は日本語のレベルが豊田で設定されているレベル分けで言うと,支援レベル1とか最初の段階の方なものですから,場面設定をして翌週までに,ポルトガル語でも何でもいいから話すことを考えて,自分で発表できるようにしてきてくださいという指示を出します。そこで先生が助けながら,本当に片言の日本語でいろいろ自分の事例を発表していきます。それをグループの中で皆さんが話し合って,話を膨らませて,語彙(ごい)もその中で膨らませていくという活動をやってらっしゃいます。そこで,実際に習われた方が書いたプロフィールを見せてもらったのですが,それはローマ字で書いてありました。学習者の方はそういったものを発表していたのですが,日本語の能力がまだ十分ではないので,一方的に発言するだけでした。
ですから,やはり入り口,文化庁がこれを作ろうと言ったときに,どの人にどういうふうに教えていくのかを最初にきちっとしておかないと,現場で対応に困るのではないでしょうか。
○西原主査
 我々の作業としては,働いている人も働いていない人も,学校へ行っている人も行っていない人も,とにかく「生活するんだ」と言ったときに,何をもって「生活する」と言うんだろうかということを描いたわけです。
そういう意味で,一番汎用性(はんようせい)の高いところを考えて,かつ,今,日本語教育小委員会で行っている作業は,日本に来たばかりで日本語ゼロ,若しくはニアゼロ,その辺りの人が生活基盤を築くときに,コミュニケーションのツールとして一体何を与えられたらいいのかというのが,今のここで我々が考えている日本語のレベルですね。
もし移民政策というのが実現して,ドイツやオランダのような形で市民統合レベルが認定されることになったとすれば,これは一番最初,レベル1の話ですね。
○伊藤委員
 もちろんそうだと思います,生活上の話ですから。
○西原主査
 そういう意味では,「何が」ということをきちんと描かないで作っているという御指摘は,正しい御指摘だと思います。つまり,日本がこれからどういう方向に進むのかといったことがはっきりしないままに,「今入ってきてしまっている外国人にとって最低限必要なことは,我々が現在検討しているようなことでしょうから,ケアする人も今,この日本語教育小委員会で検討していることを頭から教え込むというのではなく,もうできているかもしれないということをお考えください。」ということになるのではないかと思うのです。
○伊藤委員
 先ほど,もう子供バージョンができているとおっしゃいましたけれども,作られたものがあるんですよね。
○西原主査
 外国人児童生徒のためのJSLカリキュラムは何年も掛かって優れたものを作っていらっしゃいます。学校教育の中で実現すべく,教科の能力も同時に育てるような形で書かれたものがあります。
○伊藤委員
 現実に,私も県内の学校に何か所か行かせてもらいましたが,学校によっては半数以上がポルトガル人,ブラジル人という学校もあります。公用語をポルトガル語にした方がいいのではないかというぐらいの状況なのですが,でも,そういうところでどういった教材を使っているかと言うと,やはり外国人児童生徒のためのJSLカリキュラムは使っていませんでした。
○西原主査
 外国人児童生徒のためのJSLカリキュラムは教科書ではないので…。
○伊藤委員
 ええ,教科書ではないですけれども,例えば,ある小学校で東京外国語大学が企業と協力して作った教材があるのですが,それが分かりやすいと言われたことがあります。だから,やはり現場,現場でそれぞれ独自に積み上げてきたものがいっぱいあるわけです。その中へ今,日本語教育小委員会で作業を行っているものを入れようと思うと,かなり実践例を作って効果を上げるようにしていかないと,結局これが死に体になってしまうのではないでしょうか。作ったけれども活用されないものになってしまう,そのような感じを受けます。
○西原主査
 日本語教育小委員会としては,これが活用されて始まるのではなくて,既に始まっているところに網掛けとして学習項目のデータベースが活用されるのが現実活用の一番あり得る形ではないかと思います。
先日,文化庁日本語教育大会のときに少し伺った話なんですけれども,「そうか,こういうことを日本語支援と考えるのか。」というような話を伺いました。つまり,その方は外国人の日本語を上手にしようと思って張り切ってきたんだけれども,「やっぱり日本語を使って生活するんだよね。」とおっしゃったんです。支援者の方にそのように考えていただく材料として作っているということです。
○加藤委員
 配布資料2「学習項目の要素について」がそのままテキストになるというとらえ方ではありません。「素材」という言葉を使っているのは,生活する人たちにとって必要であるというものが整理されているからです。
配布資料2「学習項目の要素について」では学習項目の要素がリストになっていますが,これだけあるので,そのまま教材にするととても厚い本になってしまうわけです。そのようにイメージすると,これをだれが使うのかという話になると思いますが,先日,ワーキンググループの中でも名前が出ましたが,例えば国際交流基金の教材サイトの中に素材集があります。国際交流基金の教材サイトは,日本語学校の私たちなども使います。先ほど,「機能」とか「場面」とか,いろいろな方向から検索することができるといいのではないかという話が出ましたが,例えば「このような教材を新たに作ってクラスで使えるな。」といった発想が出てきたりします。それと似たような形で,日本語教育小委員会で作成しているものは「生活する人」をイメージしたもののデータベースのようなものですね。
イメージとしては,紙に書かれたものと言うよりも,欲しい情報があるときに,それを選び取るというイメージです。各クラス,各場面,各地域の先生が人によって違うものを使うということが現実にあるのですが,その大本になるようなイメージで考えています。それぞれの現場に新しいものとして入ると言うよりも,より生活者というところに視点に置いて考えられた素材としてとらえていけばいいのかなと思っています。
○西原主査
 そうとらえてほしいですね。今,加藤委員が国際交流基金のこともおっしゃいましたけれども,国際交流基金には「みんなの教材サイト」というサイトがあり,世界中の日本語教師がそのサイトにある「教材用素材」というデータベースで教科書を作るのですが,それで作った教科書を提供する別のサイトがあり,教材例がどんどん集まって膨らむということになっています。
ですから,今,行っている作業が「生活者」という部分で関係する人にとって,役に立つ基の基というふうに構築されていけば,結果としては一番いいと思います。ただ,限られた時間の中で日本語教育小委員会レベルですべてを今年度中に,あるいは来年度中に横の広がりも深さも全部作業を行うというのはできません。しかし,例示はできます。日本語教育小委員会としては例示までを行い,幅と深さをお示しするということまでなのではないでしょうか。
ですから,今は幅と深さの両方について御意見を頂いているということなんですが,取りあえず,既に幅を少しお示ししたので,例示して深く掘ってみようかということになっています。今,言語材料というものが付き,それにドイツ語プロファイルで取り上げられているような項目が付いていくであろうということになっています。
○杉戸副主査
 幅とか深さということに関係するのですが,今までの議論の中で,いろいろなターム(term)が出てきていると思って聞いていました。それは,大きく二つに分けられるように思います。
一つのグループは,「活動例」です。これは中野委員が最初におっしゃったのは,教室活動という意味での「活動例」ですね。あるいは,それは学習方法とか指導方法という教室の中で起こる事柄についてのタームだったと思います。それに類するものとして,ロールプレイというのも出ました。あるいは,参考資料2「「生活上の行為」の分類一覧(改訂版)」の小分類の一項目を選んで,実際に活動で使えるテキスト,教材を作る,そういうことも例として発言がありました。
それらが一つのグループだと思うのですが,それはどういうグループかと言うと,配布資料2「学習項目の要素について」を基にして,次に生まれ出てくる,あるいは作るべきものは何かという事柄ですね。
もう一つ,私としては,この表自体をもう少し詳しくすると言いますか,この表を使ってもらうために,「この表の中にはこういうことも実は含まれています。」ということをはっきり示すような項目をこの表で列化,あるいはカラムとして増やしたいと思います。それは,今日,もう既に御議論の中で出てきていたと思います。それが「機能」という言葉でした。
それから,配布資料2「学習項目の要素について」の左側,黄色いハイライトが付いている列について,これまた中野委員が,能力のレベル化をするということもおっしゃいました。つまり,私なども能力にはレベルがあり,それが分析的に,例えば「必要な品物を扱う店等を探す」という一つの「生活上の行為」が,そういうレベルのある能力から成っていること,さらに幾つかの要素から成っていること,そういう構造が配布資料2「学習項目の要素について」に含まれているというとらえ方が日本語教育にあるということを,大げさに言えば,今日,初めて知りました。そういうものを明示的に示した表を準備していくということがあっていいのではないかと思いました。
もっとさかのぼって言うと,これは出来事なんですね。「生活上の行為」と言っておりますが,いわば「出来事」という固まりで大分類から中,小と降りてきて,今学習項目の要素が並んでいます。つまり,これも「出来事」というとらえ方があるんだということを知ってもらう,そういう表にもなるというのは意味のあることだと思います。
さらに,「場面」という用語が,これまでも,今日も出てきているわけですが,場面というとらえ方でも,この表はいろいろなことを含んでいるということを明示的に表の中に書き込む,示す,そういう作業があるのではないかと思いました。今,表の中に埋め込まれていると言うか,隠れているものを引っ張り出して,表の要素として列を作り,セルを明示的なタームで埋めていく,そういう作業をもう少し続けていくと,これはどんなユーザーでも−もう知っている人は,それは「あ,そうだな。」と確認すればいいのですが−「あ,「場面」というとらえ方があるんだ。」とか「「機能」というとらえ方で行くと,こういう整理もできるんだ。」ということを気付かせることができると思います。そのこと自体を,ちょっと言葉きつく言えば啓蒙(けいもう)するような機能を持つ表として,この日本語教育小委員会の成果として提示できるのではないかと思います。
その次の段階として,モジュール的な教材の実例を作る素材として使ってもらえるようにするという段階が来ます。しかし,その前にもう一段前のところで,もう少し頑張っていいのではないかと思いました。
○岩見委員
 少し整理させてください。そもそもこの日本語教育小委員会の目的と言いますか,私の理想としては,国自体で生活者のための言語保障ができていく,そのための基盤作りと言いますか,その材料にすることが一つ大きな目標としてあるのではないかと思うのですが。
○西原主査
 これは昨年度と言いますか,今年2月までの日本語教育小委員会でまとまっているところですね。
○岩見委員
 ええ,まとめた中にあります。
現状として,ボランティアのみに頼っているところを打開するというような方向があります。だから,方向性はそういうことで合意したわけですけれども,そのためには,先ほど西原主査も触れられたように学習項目の要素を少し膨らませていく,それこそドイツ語プロファイルに示されている言語材料など,いろいろな面を整えていく。ただ,これはかなり時間を要するものだと思います。だから,それを今年度中に行うのはやはり限界があると思うので,それを継続してやるのも悪いことではありませんけれども,一つ,教材のプロトタイプを示すということを今年度,宣言されたわけですよね。そのときにしっかりとした日本語教育の体制を作り,授業を担当する方もプロフェッショナルを育成し,その方々が授業を行うことが必要です。ただそういう方向性はあるけれども,現実に今,現場でそれぞれ担当されている方はプロではない方が多い。だから,プロトタイプを示すときに,分かりやすい,使いやすいということが一方では必要だということを考える必要があるかと思います。現在の状況を考えると,成果物を出すという場合に,やはりそこは避けて通れないというか,活用していただくためにも分かりやすい形で示すことが大事だと思います。
プロトタイプをどのように示すかということはありますが,全体の構想は基盤作りであり,そこから教材サンプルとおっしゃったようなものが生まれると思います。それが一つのものになるのかどうかについては分かりませんが,使いやすさという意味では,やはり翻訳ですね,語彙(ごい)とか表現とか,ある程度,生活者の主だった言語について,翻訳を付けて置くことが,どんな方にとっても使いやすくなるのではないでしょうか。現場では直接法でやるにしても,それは必須の要素ではないかとは思っております。
○西原主査
 今,おっしゃった翻訳というのは,語彙(ごい)についてでしょうか。
○岩見委員
 例えば,教材サンプルを示した場合に語彙(ごい)や表現,情報の翻訳が必要だと思います。
○西原主査
 今のところ,参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改訂版)」で,白抜きの星印が付いているところは多言語対応するということで合意が成立しています。つまり「知る」ということ,「理解する」とか「知る」というところに星印が付いている場合は,星印が白抜きになっていますが,そこについては多言語対応しますということになっています。
多言語と言うときに,人の数が多い順から言語を五つ選ぶとか,それはまた別の基準だと思いますけれども,その方向性を示すということはあると思います。
プロトタイプを示す,教材のカリキュラム案を示すというときには,岩見委員がおっしゃったようなことは本年度は「必要です。」と書いておくぐらいしかできないのではないかと思います。一番最初に,こういう御意見を伺いたいということに戻りまして,配布資料2「学習項目の要素について」の作業を進めていくと,今まで出てきた,杉戸副主査が整理してくださった場面,機能,能力記述ということがあります。これについては,ワーキンググループの作業でCEFRのA1からCまで,つまり日本語の入門レベルから上級レベルのような能力差は,余り想定されていません。つまり,A1の話でしょうということ─「A1」というのはCEFRの一番下の入門レベルと言うことですが,そのレベルのことを「A1」と言うかどうかは別として,日本語教育小委員会で検討すべき部分は「そこでしょう。」ということを想定します。来日後,間もなく,しかも生活の基盤を形成しつつある人たちが学習者であるといったことは動かさずに配布資料2「学習項目の要素について」の続きを作るとすれば,この表そのものに場面,機能,それから能力記述,A1レベルで─ということで加えてよろしいですか。
配布資料2「学習項目の要素について」を充実させるということに特化して御指示を頂くとすれば場面,機能,能力基準を加えるということでよろしいでしょうか。
その上で教材のプロトタイプということを示すときには,おっしゃったように,方法論について,学習方法についての別のマニュアルが必要になりますね。
○杉戸副主査
 私は今,西原主査が前半でおっしゃったことは賛成です。そういう作業をもう一頑張りすべきだということ,さっき言ったのはそういう意味です。
ただ,その前提として,先ほど来の御議論の中で気にしなければいけないことについて,一つの判断をした上での意見なんですが,今行っていることは無駄になるのではないか,使われないこともあるのではないかという御意見がありました。しかし,それはそうかもしれないけれども,学習項目の全体を展開して示すことに意義があって,使われない部分があるのは当然だが,それは無駄ではないという前提で作業を進めようということですね。
○西原主査
 使う,使わないということよりも,カリキュラムを書く人,あるいはこれから生活者レベルの地域の日本語教育にかかわろうという方々が配布資料2「学習項目の要素について」に載っているようなことが学習項目の可能性としてあるというように頭の整理に使っていただけるというのが多分,一番あり得る形であり,利用してほしい形ということなんでしょう。学習項目の機能はたくさん挙げていますが,「私の現場を見たら,機能なんて言ったって困るよね。場面だけで何とかなるんじゃないですか。」と思えば場面が生きるということになります。
昔,アテネの日本語学校を見学に行ったときに,文法しかやっていない現場を見学しました。当時,全ヨーロッパの言語教育はコミュニカティブ・アプローチ(communicative approarch)中心になりつつありました。それで,ギリシャの先生に「何で文法しかやっていないんですか?トレンドは少し違うことになっているかもしれないですよね。」と言ったら「我々はソクラテスの子孫を教えているんです。文法から教えなかったらびくともしない,勉強したなんて思えない人たちを扱っているんです。」と言われて「ああ,そうでございましたか。」と答えたようなことがありました。
ギリシャ人にとっては理屈から,文法から入っていかなかったら学んだと思えないということだったので,もしギリシャ人が来て一から始めるとすれば,「文法を勉強したい。」と言うかもしれないわけですよね。つまり,どういうユーザーかということは,今は想定できないわけですよね。先ほどイタチごっこだと言ったのはそういうことで,「万が一だれかが現れた場合にはこう使うだろう。」と想定できるとすれば,やはりそこの穴は掘っておかなくてはいけない,そういう感じだと思うのです。
○井上委員
 この日本語教育小委員会も,昨年の金融危機からの経済不況,日系人を中心に大変な数の外国籍の方たちが失業したという状況の中で議論がされていると理解しています。ので,やはり状況としてはそこを踏まえなければいけないかなと思っています。
要するに,少なくとも日系人は,定住化が進んでいるとは言いながらも,日本で働いてお金を貯めて帰ろうとしている人たちであり,それを前提にすると,やはり「最低限このぐらいのことができていないと,大きな経済的変動があったらすぐ失業する。」ということが分かったと思うのです。ですから,レベル分けは,絶対にこの中でしておかなければいけないと思います。
まず,そのレベル分けをすると同時に,今度は教える側の立場から言えば,「この地域にいるこういう人たちに関しては,この辺りを中心的にやらなければいけない」というそれぞれのニーズがあるわけですから,自分たちのやるべきところが分かりやすくプロットできるようにすることが大事だと思います。先ほど機能と場面という言い方をされていました。場面だけでもいいけれども,その代わりもう少し広範囲にやらなければいけないのかもしれませんし,あるいは機能のところまでしっかりやって,その代わり詳しく,細かくやっていく必要があると思えば,それぞれやれるようにしておくということです。例えば,パソコンのOSみたいなイメージですかね,そういうものにしておく必要があるのではないでしょうか。
先ほど,何かモデルになる,教材的なものにするかという議論がありましたが,それはこの日本語教育小委員会でやることではないような感じがします。なぜかと言うと,いろいろなところでいろいろな教材が開発されていて,正に子供たちのためには,もう現実にかなり確立されたものがあるわけです。したがってここでは,「日本で生活する上で,明らかにこの程度は日本語で話し,聞き,読み,書くことができると充実した生活ができる。」という大きな範囲を示しておいて,あとは,外国人の周りにいる日本人がサポートするときに,「この人たちにはこの辺りを教えて,習得してもらえれば,とりあえず第1ステップとしてはOK,次は第2,第3のステップが用意されている。」というようなデータベースにしておくことが大事ではないでしょうか。
それを考えたときに,先ほど杉戸副主査がおっしゃっていたように,やはりレベル分けをして「この辺り」ということを把握するためのものがあると,教える側は分かりやすいと思います。
例えば,私もいろいろなところで日系人と直接話したりするのですが,とても難しい言葉を使いながら話しておられるのですが,読み書きは全然できないということがあります。この前,私がよく行くネパール料理屋のコックさんが「井上さん,ちょっとこれ見てください。私,何も読めません」と言うわけです。会話はできるのですけれども,読めないのです。市からの郵便物には,定額給付金の給付の方法が書かれているのですが,その人の名前が片仮名で書いてあって,あと全部漢字とひらがなです。これを「読め」と言われても無理です。現実問題として受け取れるものが受け取れなくなるというのは大変な問題だし,では,それを教えるのかとなると,判断はわかれます。彼らが自分で学びたいと言えば,やはり教えなければいけないと思うのですが,公式な文書を読み込むためのレベルを教えた方がいいと判断する方がいれば,それを教材にしてやってみるのも一つの方法だと思います。現実にそういう通知文が来ているわけですから,それを教材にして活動をするのも一つの手だと思います。
それがマトリクスとでも言うのでしょうか,二次元と言うよりもう,三次元的に分かるような,例えば「能力」も含めれば三次元になるかと思いますけれども,場面と機能があり,さらに能力差がある。それが立体的に分かるようなものがあれば,それは公共財になるのではないかと思います。それは日本人にとっても公共財だし,日本で働いたり学んだりしたい人にとっても公共財になるでしょう。そこまで来れば,先ほどのお話にあった移民政策の第一歩になるのではないかという感じがします。
○西原主査
 例えば,先ほどの国際交流基金のスタンダードなんですが,実は能力記述になっています。それは豊田もそうなんですけれども,そういったところから能力記述のスキーマ(schema)をお借りすることはできると思います。それを配布資料2「学習項目の要素について」にどう付けるかを考えると,配布資料2「学習項目の要素について」ではA1レベルという一番最初のレベルで記述しておりますが,参考資料1「「生活上の行為」の整理(改訂版)」の中で比較的,星印は付いていて基本的なんだけれども,学習項目の要素を記述する作業をこの項目についてやってみたらいいのではないか,それは星印が付いているものの中ではレベルがもう一段階,上ではないかといったものを御指示いただければ,ワーキンググループではそれを次に作業いたします。
例えば,参考資料2の小分類33「住民としての手続きをする」は大分類08「社会の一員となる」というところにありますが,ここには星印が幾つか付いています。小分類 33「住民としての手続きをする」,小分類34「住民としてのマナーを守る」,小分類 35「地域社会に参加する」というのは,具体的に生活の基盤を築くということを考えた上でもなければならないことです。ワーキンググループでは,取りあえず消費活動はだれでもするであろうし,できなければならないことということで,小分類08「物品購入・サービスを利用する」について作業を行ってみたのですが,もう一つ星印を選ぶとしたら何になりますでしょうか。
時間的に,ワーキンググループはあと2回ぐらいしかないので,宿題を大きく抱え込んだとしてもそんなにたくさんはできません。あと星一つぐらいで,しかもCEFRで言うA2ぐらいのレベルで考えれば何になりますでしょうか。
○杉戸副主査
 「生活上の行為」の事例の星印の数で見ると,小分類の間で非常に差があります。今,おっしゃった小分類33「住民としての手続きをする」と小分類34「住民としてのマナーを守る」と小分類35「地域社会に参加する」ではいかがでしょうか。
○西原主査
 さらに小分類の下位の「生活上の行為」の事例も,全部ではなく,いくつか選んで作業をさせていただきたいと思います。次のところでは,「生活上の行為」の事例のレベルでも選ばせていただくということも含んで見ると,何になりますでしょうか。
例えば小分類31「人と付き合う」というのは,余りやらせてほしくないと思います。
○岩見委員
 バリエーションが多過ぎますか。
○西原主査
 何でもありになってしまうので,例示がしにくいと思います。何か「これをやってみたらどうか。」というものがありますでしょうか。
○井上委員
 私などは産業界なので,やはり働くというところから一つ選んでいただきたいと思います。参考資料2の中分類レベルで見たときに中分類11「仕事を探す」,中分類12「仕事をする」というところから選んでいただきたいなと思います。
○西原主査
 参考資料2「「生活上の行為」の分類一覧(改訂版)」の大分類05「子育て・教育を行う」とか大分類06「働く」に星印がない,それから参考資料2の中分類19「学習する」にも星印がないのは,基本的な基盤として,滞在形態のいかんにかかわらず全員共通して関係する項目ではないと考えたからで,星印は付けていません。しかし,働く人にだけ当てはまることではあるけれども,例示をしたらどうかという御指示があるとすれば,作業を行ってみることはできると思うのですが,どの辺りをすればよろしいでしょうか。
○西澤委員
 杉戸副主査がおっしゃった「生活上の行為」の下位項目で言えば,参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改訂版)」の19ページの一番下,小分類30「職場の人間関係を円滑にする」の事例の上位項目「3001 あいさつをする」などは幾つか星印が出てくるし,割と限定しやすいのではないでしょうか。
○井上委員
 先ほど日本人にとっても公共財になるという言い方をしたのですが,実は外国人が組織の中に入ってきたときのコミュニケーションと言うのは,日本人にとっても非常に難しい問題で,少なくとも,「こういうことを外国人が学んでいれば,コミュニケーションができるのではないか」,と感じている団体も多いと思うのです。
○西原主査
 そうすると,職場の人間関係ですか。
○井上委員
 「人間関係を円滑にする」とか,そういうところですね。
○伊藤委員
 先ほど西原主査は,社会の一員になるということについておっしゃいましたが,でも,それは職場の中でも同じことです。
私ども愛知県では,今,憲章というのを作らせていただいて,その中では労働者の適正雇用と,それから,彼らは労働者として地域の中で生活しているものですから,企業としても,地域で彼らがきちんと生活できるような取組をしてくださいというお願いをしています。
今,言われたように,やはり企業の中で付き合うことができれば,地域でもやはり同じようなことをやれるということです。
私どもはこういう一般の労働者の方とは別に,留学生に対するインターンシップ事業を始めているのですが,インターンシップに行かせる前にセミナーをやります。企業マナーであるとか基本的なあいさつであるとか,そういったことを日本語でちゃんとできるようになってから企業に送り込むようにしています。そうすると,やはり企業に好印象で受け入れられただけでなく,留学生自身も参考になった,企業にとてもきちんと対応してもらえて,有り難かったということを言っております。やはり基本的なことができなければ企業の中でも一緒だと思います。
○井上委員
 実は参考資料2「「生活上の行為」の分類一覧(改訂版)」の大分類06「働く」のところに大分類07「人とかかわる」に関連するものが随分入っていて,領域的には重なっているような感じですね。
○西原主査
 参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改訂版)」の小分類30「職場の人間関係を円滑にする」というのは,その下の小分類31「人と付き合う」,小分類34「住民としてのマナーを守る」,小分類35「地域社会に参加する」と一連のことで,その事例として「あいさつをする」というのが挙がっていたり,「手助けに感謝する」というのが挙がっていたりします。
○井上委員
 この辺り全部つながっていますね。だから大分類,中分類,小分類がどこにあるかはさて置いて,とにかくあいさつをしたり人と付き合ったりするというのは,二つ目の例としてあってもいいのではないかと思います。
○西原主査
 ワーキンググループの方々,いかがでございましょうか。
○杉戸副主査
 あいさつということを考えると,小分類30「職場の人間関係を円滑にする」の事例の上位項目「3001 あいさつをする」であいさつを取り上げると,一般的かつ普遍的なあいさつのパターンを扱うことになります。つまり,機能は割に単一だと思うので,ここについて作業を行う場合には場面をいろいろ考えなければいけないと思います。
逆に,参考資料1の上位項目「3203 多様なあいさつ(おじぎ,握手,ハグ,キス等)に対応する」とか,あるいは「3101 あいさつをする」を使うと,場面と機能がそれぞれバラエティを持ってきます。掛け算の組合せの数が増えてくるから,大変だと思いますが,バラエティが見えてきて面白いのではないでしょうか。
○岩見委員
 そうですね,参考資料1の小分類31「人と付き合う」も,あいさつのバリエーションとおっしゃったけれども,具体的に,基礎的に必要なところを規定しておけばいいですね。
○西原主査
 ということは,小分類31「人と付き合う」ですか。
○西澤委員
 小分類30「職場の人間関係を円滑にする」の事例の上位項目「3001 あいさつをする」,小分類31「人と付き合う」の事例の上位項目「3101 あいさつをする」,それから小分類32「異文化を理解する」の事例の上位項目「3203 多様なあいさつ(おじぎ,握手,ハグ,キス等)に対応する」。
○井上委員
 全部重複しているのですね。
○岩見委員
 小分類31「人と付き合う」に集約できるんじゃないでしょうか。
○西澤委員
 あいさつをいろいろな場面についてことで考えてみるということですね。
○尾﨑委員
 例えば今,お話になっているのは,参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改訂版)」の20ページの小分類31「人と付き合う」というところに,ここに事例の上位項目として「3101 あいさつをする」という下にずらっと並んでいる,この部分なわけですよね。いろいろなあいさつがある。それで,これからワーキンググループの委員の方は具体的にはどういうことを作業なさるのでしょうか。
○西原主査
 あいさつに関して,機能+場面+能力記述文を付けていくことになります。
○井上委員
 やり取りの例,語彙(ごい)などですね。
○西原主査
 例えば初日に会社に行ったときのあいさつもあるし,転勤のあいさつとか退職のあいさつとか,引っ越してきたときのあいさつとかについて考えると,「人と付き合う」だとバリエーションがたくさん出てきますし,職場だと多少限定的にはなりますが,それでもバリエーションがあると思います。あいさつも口に出してというのと,書いてというのと,それから,あいさつを聞いて「それは「御愁傷様」と言いますよ。」とか「御愁傷様じゃなくて,それは「おめでとう」と言いますよ。」とか,そういったことも,あいさつですよね。そういうものを,こういう表にするのが宿題になるのではないかと思うのです。
○尾﨑委員
 この学習項目の要素,配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理(改訂版)」のカラムが更に広がって,多角的に見るということはいかがですか。
○西原主査
 この様式そのものについても,扱う学習項目の要素を広げますし,もう一つ小分類,あるいは「生活上の行為」の事例について作業を行うべきだという話になりましたら,その広げたものについて作業を行いたいと思います。
○尾﨑委員
 今,場面と機能とが出ていますけれども,例えば配布資料2「学習項目の要素について」の一番最初の項目,「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」の場面について言いますと,必要な品物を扱う店等を探すという行為,行動が起こり得る場所の例を挙げるということですか。
○西原主査
 でも,「場面」と言うときには,教材を作っていらっしゃる方は分かると思いますが,場面には遭遇する人たちも含むんですよね。けれども,「道端」とか「店内」とか「デパートの入り口」とか,そういうものは「場所」なんですけれども,「場所」でいいんですかね。
○尾﨑委員
 そういうカラムが立つことが,使う人から見てどう役に立つのかなということをさっきから考えていたのです。
○井上委員
 ただ単に日本語とポルトガル語のできる派遣会社の人たちの言うことを聞いて,構内請負の仕事をしている限りにおいては,日本語のあいさつすら必要ないですよね。今回,「それでは何かあると失業します」ということが分かってしまったわけです。だから,日系人に限って言えば,できればこのぐらいのレベルのことが日本語で表現できると,安定的な生活もできるし,仕事も得られるということがリンクするように示していくべきです。
例えば,研修生・技能実習生の人たちは,ここに書いてあるようなことは学んでいます。3年いるのが前提になっていて,かなりのレベルの日本語を習得して帰ります。質問してもちゃんと答えられるし,手紙も書けるようになります。そういう意味では,もちろん制度上の良い悪いはあるかもしれませんが,ともかくビザを発給してもらって日本に入ったときに,少なくともこのくらいのことができると日本社会でやっていけるというものが,本当は全ての場面において示される必要があります。例えば,参考資料2の大分類08「社会の一員となる」,大分類01「健康・安全に暮らす」というものがあって,それに対応した教材があれば,勘のいい外国人だったら「これを少しずつやっていけばいいんだ。」と理解すると思います。
○西原主査
 または渡日前に「日本で生活するとはこういうことなんだ。」と理解してもらうこともできますね。
○井上委員
 ポルトガル語でこういうものがあったら,それを見ておくかもしれません。「あ,こんなことをやらなければいけないんだ」ということですよね。そういう公共財として使えたらいいのではないかということなんです。
○西原主査
 国がやることですから,多分,そこの目標はそういうことになるということでしょう。
○井上委員
 ええ,ここは国の検討機関ですから。「場面」と「場所」の問題は,私はやはり「場面」と考えた方がいいと思います。なぜかと言うと,言葉というのは常に相手がいることで成り立つからです。もちろん書面というのもあるかもしれませんが,それもだれかが書いたものですし,何らかの意図があって書かれたものなので,それを理解するという意味では,必ず向こう側に日本人あるいは日本語ができる人がいるという前提で場面設定した方がいいと思います。
「場所」だけですと,そこに日本語のわかるポルトガル人がいたらそれで終わりです。極端なことを言えば,通訳者がいたら終わってしまうんです。
行政機関には,曜日によってはポルトガル語の通訳がいて,そこで詳しく説明するということがありますが,「それでいいのかな」ということを最近強く感じます。やはり日本語で説明したものを外国人側が日本語で理解して,それなりの手続ができるようになることが必要です。一足飛びには行かないですけれども,理想論で言えば,そういう方向に少しでも近づけるものとしてこの配布資料2「学習項目の要素について」を使いたいという感じがします。
○尾﨑委員
 定額給付金であれ何であれ,公的な文書として,当然読めなければ生活者としては非常に危険だし,成り立たないことは分かります。ただ,一足飛びにそこまで行けることはないので,問題は差し当たり,読めない文書が来たときにそれを教えてくれる人に「教えてくれ。」と頼んで,相手が何とかそれを助けてあげようと思ったら,まずは支援を得られるように,そこそこ日本語が分かるレベルに行くということが大事なんですね。
だから,非常に初歩的な文字というのは並行して学習していかなければいけないし,到達ゴールは井上委員のおっしゃるとおりなんだけれども,当然公文書にしても,もう少し外国の人のことに配慮して作るということも一方にあるんだと思います。しかし,まずは助けを求めるときの日本語すらままならないということがあります。そこをどうするかを考えないといけないのではないでしょうか。
○井上委員
 それができないのです。
○西原主査
 例えば「読んで。」と言えるかどうかということですね。
○井上委員
 そういうコミュニケーションについては,ここにはあるのでしょうか。「分からないことを聞く」といったことが…。
○西原主査
 あります。
○井上委員
 そういうものでもいいかもしれませんね。あいさつというのは非常に形式的なものですが,一つの行為,作業をする場合に役に立つものが中に入っていた方がいいですね。
○加藤委員
 さっき井上委員がリンクとおっしゃっていて,本当にそうだなと思うことがありました。今回,不景気で多くの外国人が失業する前に,とにかく日系の方がたくさん入っていらして,何であれ仕事があるから日本語ができなくても大丈夫という考えがあったと思います。一方で「でも,日本語教育が必要だよね。」というのは,私たちもそういうふうに聞いてきましたが,今回不景気による失業などが大量に起きたことで,やはり本当に日本語ができないと日本にいられないんだということが分かったと思います。日本語が必要だということ,それから日系人であれだれであれ,外国人の方たちも日本語を学習しなければいけないと気付いたと思います。
教師も同じで,「こういう目標で,こういうことができないと,この人たちの日本語のレベルをここまで持っていけない。」という認識を,教える方も持ったと思います。国の政策としても,制度的にその辺をよりきっちりしたものを確立していかなければならないのではないでしょうか。もちろん,第一歩は知らない人に聞くとかあいさつとかになりますが,同じあいさつだとしても,それにまた能力基準が付いていくわけですよね,とても高度なあいさつから一番下のあいさつまで。
でも,その辺りのことを,私たちがこれを作っていくときの前提として,今までの−ボランティアという言い方をしていいか分かりませんが−だれであれプロでない方たちが教育しているという現状の上に今,日本語教育小委員会で行っている作業の結果をどう乗せるかという話ではいけないと思います。文化庁でもコーディネーターの養成などを,ほかの事業でされているわけです。そういう役割の人たちをきちんと置いて,例えば私たちのような日本語学校の立場でも,今までは地域というのは余り関係ない状況でしたが,でも,私たちの教師にもそういったところでのコーディネーターとしての役割が,新たな自分たちの仕事の範囲としても増えていくわけです。
そういった意味で,目指すものは高いですが,現実とどうやってリンクさせていくかということができるといいなと思います。
○西原主査
 「社会統合」とか大きな言葉があって,それは用語だけが独り歩きすると危険なんですが,やはりここが目指すのは社会統合です。だから,そこに向けてプロ集団としての言語専門家というか,日本語教育専門家が出すものということになるのではないかと思います。
その社会統合と言うのが,切り捨てで排他的にこれができる人だけを選び取るという方向に向いてしまうと,それはまた社会統合とは違うことになってしまうので,その辺りのところは,やはりコンセンサスが必要だとは思います。
○杉戸副主査
 ワーキンググループの今後の作業について,もう少し具体的に考えて発言しようと思っています。先ほどの,場面,それから場所,人ということですが,「場面」という枠の中で「場所」も「人」も組み合わせて書いた方がいいだろうと思います。そんなに網羅的にできないわけですから,その典型的なものを選ぶわけですね。
例えば配布資料2「学習項目の要素について」にあります「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」ですと,私が瞬間的に思い浮かべたのは,インターネットで調べる,デパートの入り口で尋ねる,商店街で尋ねる,近所の人に尋ねるということです。それによって相手とか,使うツールが変わってきます。つまり,具体的にどこに現れるかと言うと,やり取りの例の中で,単に「どこで」ではなくて,デパートで聞く場合は「何階」とフロアを聞くだろうと思うのですね。商店街だったら「どの店」と聞くだろうと思うのです。
そういうように,やり取りの例が膨らむと,文法は余り要素が増えないかもしれないけれども,語彙(ごい)は増えるという形で肉付けができると思います。それは,繰り返しますけれども,網羅的でなくていいと思います。もちろんそれは無理ですから。バラエティがほどよく散らばる,そういう枠組みを考えると,例えば場面を書き込むということがワーキンググループで今後行う作業かなと思います。
○西原主査
 そうですね。機能だと「尋ねる」とか「聞き出す」とか「食い下がる」といったことが挙がりますね。
○杉戸副主査
 必要な品物を扱う店を探すときに,「知りたいんですけど。」と意思表示という機能で行う場合もありますし,「どこですか。」と直接情報要求をする場合もあるし,「教えていただけますか。」と相手の意思を引き出すようなこともあります。細かく機能を区別することもできて,そのようなことが書ける項目になってきます。
○尾﨑委員
 とても魅力的なお話なんですけれども,これ全部について行うわけでしょうか。参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改訂版)」があって,その一部がこの配布資料2「学習項目の要素について」になっていますよね。ということは,場面あるいは場所と呼ばれるカラムがこのすべてにくっ付くというイメージなんでしょうか。そうではないですよね。
○西原主査
 それは,この日本語教育小委員会がやることではないと思います。そこまでは行けないでしょう。市民統合にかかわることを全部をここで行えたら,それはすばらしいけれども,そんなことはできません。だから今,幅と深さと私が言ったのは,「こういうものが,こうあるんですよね。」という例を示すことではないでしょうか。それを一つ小分類08「物品購入・サービスを利用する」で行うのと,もう一つ項目を頂けたらやってみようかと言っているのです。
○尾﨑委員
 教材のプロトタイプをというのが先回の記録にあります。
○西原主査
 だから,先ほど小分類31「人と付き合う」という部分でやってみたらという御指示があったので,それについて行おうかと思います。
○尾﨑委員
 それは教材化ということですか。
○西原主査
 配布資料2「学習項目の要素について」で行った作業と同じ作業をもう一つやってみるとすれば,何でしょうかということです。
○尾﨑委員
 とりあえず今年度の到達目標は,この学習項目をもう少し,ここまで可能性があるんだよということを例示するようなもので終わるのかと思います。
○西原主査
 ただ,カリキュラム案も示さないといけません。
○尾﨑委員
 と言うことは,カリキュラムと言えば教材のプロトタイプと,それをどう使うかという教室活動的なものまで入りますね。
○西原主査
 そういう使命を負っていると思います。それも例示する。ただ,例示であって,つまり,ものを作るということではないと思います。
そのためには,実際にものを作ってくださっている機関の代表者をいっぱいここに擁しているので,可能性の例示は頭から出ていくことができると思うのですね。実際に,何かこう「教科書になります。」とか「プリントアウトしたものを報告書にします。」ということになる前に,いろいろパイロット的な作業をしなければいけないと思います。ただ,調査やパイロット実践がこの日本語教育小委員会の仕事の一つなのかどうなのかということについては,もう少し大きなところで決めていただかないといけないのではないでしょうか。
○山田委員
 前期というか,この前の期から言っていることです。一つは,学習項目とか内容が大事で,今,その作業をしているわけですけれども,私はもう一つ,方法ということにずっとこだわっています。先ほどの社会統合という話もあるんですが,私は双方向統合が大事だと思います。新たにこの社会に来た人も,今現在,この社会にいる人と全く同等な立場で,もう一つこの社会を作り直す立場にあると私は考えています。
そういったことを考えると,「この項目でこういうふうにやったら,現状の日本だったらこのようにうまくいきますよ。」という話ではないんですよね。例えば「今までだったら自分の国でこういうこともあった。」とか,「自分の国でもないし日本でもないけれども,こうあった方がよりいい。」というような,もう少し建設的な形で社会に参加すること,つまり,会社の中で日本語ができないからリストラされて,職も新たに見付からない。それはそうなのですが,逆に日本社会でも貢献してもらって,この社会を変える主体になるんだというくらい本気で社会に加わってもらいたいと思っています。その場合に,日本的に加われではなくて,一緒に加わり方も考えようという話なので,教育活動にそれが入ってこないとおかしいと思うのです。
ですから,そういったことを教育活動に入れるためには方法について,こういう例があります。例えば,「こういう教室作業があって,こういうふうに外へ出て行って,こういうものがあって,こういう所へ行って,こういう人とディスカッションする場があって,それらをセットにすると,この場面でこういうことが可能です。」というようなことを示さないといけないと思います。項目を示すだけだと「あとは地域の実情に合わせて工夫してやってください。」「方向性はそちらで決めてください。」になってしまうので,国がやることであれば「国としてもこういうことがいいと思う。」という議論を本当はもっともっとすべきだと思います。もしできるのであれば,今度,活動例みたいなものを作るところにも時間を割いてもらって,項目も一つ付け加えたいと思います。
○西原主査
 そうですね。山田委員もよく御存じですが,中国人は紋切り型のあいさつはしない民族ですよね。オリンピックのときに「あいさつしよう運動」,「みんなハローと言いましょう。」みたいな運動は起こったようだけれども,オリンピックが終わったら消えたという話があります。
一方でそうすると,あいさつという単元が立って「日本人はあいさつするんです。」「口に出してあいさつをすることは日本社会の人間関係をスムーズにします。」「でも,中国人である私はそんなことしたくないです。しなくたって人間関係はできるんじゃないですか。」そういう議論がありますよね。山田委員がおっしゃるのは,そういうことも入れ込んでしまったものを作る必要性があるということですね。
○山田委員
 だから,教室活動の中にあいさつについての考え方がどう違うんだというようなことを議論する場というのも,活動の一部に加えてしまうことが大事だと思います。それでいて,「でも,やはりこの場合はあいさつした方がいい。文化的な背景やいろいろなことがあるんだったら,こちらの方がよりましだ。」と言うんだったら,それでもいいと思います。
○西原主査
 そうですよね。そのときは活動として,「なぜ」ということがあったらその上に乗っかって,「それはね……。」と説明があって,「でも,これもあるんじゃないですか。」というオルタナティブ(alternative)の提示があって,そして,またそこで反論があるというプロセスを組み込んでおけばいいという話ですよね。
○山田委員
 それで「でも,一般の日本の人たちとやり取りするときに自分の方が立場として損になるから,やっぱり覚えるよ。」となれば,それでもいいんです。いいんですけれども,そのやり取りがなくて「日本はこうなんだ。」「こうすべきです。」「それ以外に選択肢はありません。」と言うと,それは同じ社会を作っていく上で,何かそのメンバーシップと言うか,それが違ってしまっているという気がします。
○西原主査
 言語政策について勉強しているときに,外国の言語政策研究者が日本の今までの社会の在り方,言語政策に関して,あるいは言語政策に関しての社会の在り方を批判しています。我々にはお上志向があり,非常に標準化ということを志向する。それから,内部規範をとても大切にする志向を持ちます。つまり,何でも取り込んでしまって丸めて自分のものにしてしまった上で,そこからは外には発散しないということになっていますという指摘がされていると思うのです。
○山田委員
 でも,私はそれもいいと思います。それが悪いわけではないです。
○西原主査
 それはそうなんですけれども,でも,そこに気付かないと今のようにはなっていかないわけです。つまり「我々はこれなんだ。」ということですよね。その気付きは,こういうところからすぐに出ていくものかということであり,それは大きな問題ですよね。
○山田委員
 教育から始まると私は思っています。
○西原主査
 そうですけれども,方法論のところに一方的な学びではない活動─と言うのは「これをしなかったら明日のおまえはないぞ。」みたいにならないということですよね。統合というのはそういうことだと思うのです。
○伊藤委員
 山田委員が言われたのは,多分,現実に現場では出てくる問題です。こういうことを場面で教えたら,相手は違う文化の中で育っているんですから「何で。」という疑問は当然出てくるものです。それはそこで,言語レベルで言うと議論はなかなかできないかもしれないけれども,取りあえず「日本ではこういう習慣があって,こういう文化だよ。」ということを教えて,それを彼らがまずどう受け止めるかということになります。おかしければ,やはり「違うんじゃないか,自分たちの国ではこうだ。」と言うと思いますが,まず第一は言語なものですから,とりあえず入り口のところで,そこまでは行けないのではないかと思うのです。
現場では,多分,そういうことが起こってくると思います。「なぜですか。」という疑問は,やはり出てくると思います。
○西原主査
 「どうして。」と言ってみんな暮らしていますね。
日本語教育をやっていますと,それで私たちはいつも間に立って「ごめんね,日本はこんななのだけど,ごめんね。」と言い続けているという,何か日本語教室にはそういう別の役割があるなといつも思うのです。
○山田委員
 そうなんですけれども,それを加えておくのと加えないのとでは,この場もそうだし,国の姿勢として何か違うのかなと思うのですね。つまり,多様性を大事にしていくんだという考え方がどこか方法論の中に加わっていることが大事だと思います。プロトタイプと言うか,名前の付け方は分からないですけれども,そういうものであった方が分かりやすいと思うのです。
○伊藤委員
 現実的には,地域でもみんなそうですけれども,話し合いの中でお互いに意見を言い合うものですから,そこまで示さなくてはいけないのかなと思います。
○西原主査
 さて,次にワーキンググループが作業を行う部分ですが,小分類30「職場の人間関係を円滑にする」,小分類31「人と付き合う」,小分類33「住民としての手続きをする」,小分類34「住民としてのマナーを守る」でしょうか。その辺りが,あいさつに象徴されるような人の付き合いの始まりを扱っている部分ですね。
○井上委員
 日本文化に根ざしている部分ですね。そこをやっておいた方がいいような気がします。それが非常に役に立つ場合もある,ということを知ってもらうということですね。
○西原主査
 留学生たちが「オッス」と覚えてきて,みんなに言うんです。「それは人と場所と場合によって,それが言えるときがあるんだよね。」という話なんですけれども,そういう作業をしてみるということでしょうか。
○井上委員
 でも,それは膨らませ過ぎても大変なだけではなく,余り意味もなくなってしまうので,「こういう一つの形を示すので,あとは関係者がいろいろ考えてください,教材までつなげてください」という形にすればいいのではないでしょうか。ここでは,そこまでの作業しかできないと思います。
○西原主査
 基盤の基盤ということで,今,この作業を行っています。
「基本的な生活基盤の形成に不可欠であり,かつ複雑なコミュニケーションを必要とせず」というのが一番下の下のレベルだとすれば,小分類31「人と付き合う」はもう少し複雑なところに踏み出していかざるを得ないですよね。ワーキンググループではそういうところで次の作業をやってみるということになりますが,よろしいでしょうか。
では,ワーキンググループで「絶対これを項目として加えてほしい」といったことがありましたら,是非事務局まで,議事録の修正意見とともに御要望をお寄せください。これで第21回日本語教育小委員会を閉会としたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
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