第22回国語分科会日本語教育小委員会・議事録
平成21年10月16日(金)
10:00〜12:00
旧文部省庁舎2階第1会議室
〔出席者〕
- (委員)
- 西原主査,杉戸副主査,伊藤,伊東,井上,岩見,尾﨑,加藤,佐藤,中野,西澤,山田各委員(計12名)
- (文部科学省・文化庁)
- 匂坂国語課長,西村日本語教育専門官,仙田日本語教育専門職,山下日本語教育専門職ほか関係官
〔配布資料〕
- 第22回国語分科会日本語教育小委員会・議事録(案)
- 学習項目の要素について(08 物品購入・サービスを利用する)
- 学習項目の要素について(31 人と付き合う)
〔参考資料〕
- 「生活上の行為」の事例の整理(改定版)
- 「生活上の行為」の分類一覧
- 「生活者としての外国人」に必要な日本語の位置付け(イメージ)
- 今後の日本語教育小委員会の検討スケジュール(案)
〔経過概要〕
- 事務局の異動について報告があった。
- 事務局から配布資料の確認があった。
- 前回の議事録(案)が確認された。
- 事務局から配布資料2−1「学習項目の要素について(08 物品購入・サービスを利用する)」,配布資料2−2「学習項目の要素について(31 人と付き合う)」,参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改定版)」についての説明があり,その後,資料の内容に関し,質疑応答と意見交換を行った。
- 学習項目の要素の記述作業について,日本語教育小委員会ワーキンググループが外部の協力者の協力を得ながら作業を進めることが了承された。
- 次回の日本語教育小委員会は,12月14日(月)の10:00から12:00まで開催されること,開催場所については決まり次第,事務局から各委員に連絡することが確認された。
- 11月10日に開催される国語分科会において日本語教育小委員会の審議の
進捗 状況について報告すること,報告内容については西原主査に一任することが確認された。 - 質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。
- ○西原主査
- ただ今から通算第22回,今期第5回の日本語教育小委員会を開催したいと存じます。
今回は前回に引き続きまして,学習項目の検討を続けたいと思います。まず日本語教育小委員会ワーキンググループの検討状況について御報告いたします。日本語教育小委員会ワーキンググループは,前回の日本語教育小委員会で頂いた各委員の方々からの御意見等を作業に反映すべく,10月5日に第8回の会議を開催いたしました。
いろいろ懸案の課題を充実させていくと同時に,前回の第21回日本語教育小委員会で学習項目の要素として「能力記述」,「場面」,「機能」等についても記述を行うという御指示,それから,新たに小分類「31 人と付き合う」という「生活者としての外国人」が市民社会に十全に参入するための「生活上の行為」の事例に対して学習項目の要素の記述を行うようにという御指示を頂きました。配布資料2−1「学習項目の要素の記述について(08 物品購入・サービスを利用する)」,配布資料2−2「学習項目の要素の記述について(31 人と付き合う)」を御覧ください。小分類31「人と付き合う」の中から「生活上の行為」の事例の上位項目「3101 あいさつをする」という事例について,能力記述,場面,機能等を含んだ形で学習項目の要素の記述を行いました。
現時点での作業状況は配布資料2−1「学習項目の要素の記述について(08 物品購入・サービスを利用する)」,それから,配布資料2−2「学習項目の要素の記述について(31 人と付き合う)」にお示ししております。
このことについて御確認等の質問,あるいは御意見がございますでしょうか。配布資料2−1「学習項目の要素の記述について(08 物品購入・サービスを利用する)」及び配布資料2−2「学習項目の要素の記述について(31 人と付き合う)」が学習項目の要素の記述のサンプルとして御承認いただければこのような作業を,引き続き日本語教育小委員会ワーキンググループを中心に進めていくということになろうかと思います。なお,この参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改定版)」で白抜きの星印が付されている「生活上の行為」の事例は原則多言語対応ということになると思いますので,日本語だけではなく,これをデータベース化する暁には翻訳されていくということであろうかと思います。
それから,配布資料2−1「学習項目の要素の記述について(08 物品購入・サービスを利用する)」及び配布資料2−2「学習項目の要素の記述について(31 人と付き合う)」の「能力記述」の部分ですが,これは星印が付されている「生活上の行為」の事例に対して記述しておりますので,更に大きな学習ということを包括的に考えたときの能力記述とは異なり,日常生活の中でできることという次元で記述されております。
「文法」と「機能」についてですが,「文法」は日本語教育の文脈の中で一般的に使われているような用法,用語を取り上げておりますので,いわゆる学校文法や国語文法の中で使われていない用語が散見すると思いますが,これは日本語教育にかかわる人が見てくだされば理解していただけるかと思います。
「機能」につきまして,ここで用いられている用語は国立国語研究所で会話分析等について過去に研究業績として挙げられている用語を,そのまま踏襲しております。
日本語教育小委員会ワーキンググループのメンバーの方で,何か補足するようなことがおありでしょうか。 - ○井上委員
- 少し質問なのですが,配布資料2−1「学習項目の要素の記述について(08 物品購入・サービスを利用する)」の「生活上の行為」の事例の下位項目「0801030 目的によって店舗の種類を使い分けることを知る」のところを見ると,例えば能力記述とか場面とかやり取りだとか,本来横に記述されるべきものが抜けているのですが,これはもうできているのでしょうか。
- ○西原主査
- これは配布資料2−1「学習項目の要素の記述について(08 物品購入・サービスを利用する)」の一番最初の部分に記述しております。「生活上の行為」の事例の下位項目 「0801030 目的によって店舗の種類を使い分けることを知る」は理解をするとか知るとかいうことですので,現場対応でそのこと自体を学習の対象にするというよりは,知的に理解,学習者に知識として得ていただくことでそれに対応できると考えております。
- ○井上委員
- そういう書き方になっているわけですね。
- ○西原主査
- はい。だからそこの能力記述,場面等,学習項目の要素は割愛と言うか付けずに,知識としてこれらのものができれば自分の母語で背景的知識として理解してもらえるということです。
- ○井上委員
- そうすると,並列と言うよりも上位概念になるのでしょうか。
- ○西原主査
- それをどう解釈していくかということにつきましては,いろいろあるかと思いますけれども,ただ項目としては,「0801 対面販売で購入する」の中の,購入することを「生活上の行為」として行う際に,練習しながら覚えていくというよりは知識として知っているということが,前提になると思います。ですので,上位概念というよりは背景的知識ということかと思います。ただ,上位概念という意味では,まず,これを知っておいてもらう,母語で理解しておいてもらうということが,これらの行為を例えば教材化していった行為を,実際の学習場面で使う際には前提となるということを想定しております。日本語教育小委員会ワーキンググループの委員の方々,それでよろしいでしょうか。
- ○岩見委員
- 今回取り上げたものは全体的にレベル1と言いますか,入門段階に当たる項目を選んで作業を行っています。その辺りの精査はまだ十分最終段階ではありませんが,こういう背景や知識についても,レベル1として必要なものという
範疇 の中には入ると思います。( - ○西原主査
- そうですね。例えばレベルについてもいろいろな記述の仕方があるかと存じますけれども,今,独立行政法人国際交流基金と,豊田市と,それからヨーロッパのCEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ共通参照枠)のようなところで,一般的に6段階のレベルが提示されていると思うのですが,そもそもそのレベル1に当たる部分が想定されて作られているということです。
その段階の数を6段階にするかどうかということにつきましては,まだこの日本語教育小委員会では正式に話し合ったということはないと存じますけれども,ほぼ委員の方々の御意見としてはそんなに反対でないという感触を得ております。この日本語教育小委員会に先行して行われている企画で枠組みとして提示されているものと,余り大きく矛盾をしない形で示していく方が,日本語教育小委員会での成果が広く使われる,あるいは理解をされていくと思います。この文化庁の仕事が理解されていくためにも,とても必要なことかと思います。ですからレベル1と言うかA1と言うかは別にして,そういうようなことであろうかと思っております。
配布資料2−1「学習項目の要素について(08 物品購入・サービスを利用する)」,配布資料2−2「学習項目の要素について(31 人と付き合う)」で二つ例をお示ししたわけで微調整はあるにしても,この枠組みで作業を進めていってよろしいかということを御確認いただけましたら,これを更に進めていくということになろうかと思います。 - ○杉戸副主査
- 学習項目の要素の記述を更に進めていく中で,学習項目の要素の記述の整理の作業に当たると思うのですが,日本語教育小委員会ワーキンググループで作業をしていて,例えばこの配布資料2−1「学習項目の要素について(08 物品購入・サービスを利用する)」の表の「場面」に「場所」,「相手」,「状況」と並んでいます。そのうちの「状況」,右から3列目の「機能」の欄に書き込む事柄の体系性と言ったらよいのでしょうか,それを気にしつつ作業をしていました。
例えば一番最初の事例ですが,「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」の「状況」の欄に「情報を得る」と書いてあります。これも一つの情報を得る状況にあるということで理解はできるのですが,「状況」という言葉を別の角度からとらえることもできます。つまり,「店が分からない。」,「困っている。」という状況にあるからこの行為が必要になってくる,あるいは「店を知りたい。」という状況に本人がいると記述もできます。何か例えばそういうところで,レベルと言うか,記述の角度をそろえていく努力が,この次の段階にあると思います。 - ○西原主査
- 実は私もこの部分を大変気にしておりました。今は日本語教育小委員会ワーキンググループのメンバーが埋めてくださったものをそのまま踏襲しておりますので,杉戸副主査がおっしゃったように「状況」とは何なのか,それから「機能」もこの記述の仕方でよいのかというようなことにつきましては,いろいろと考えていく必要があると存じます。
- ○杉戸副主査
- もう一つ同じようなことですが,「機能」についても,これはやり取りの例と連動して記述の項目が発生すると思います。例えば「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」の「やり取りの例」の箇所で「○○はどこで売っていますか。」と言うのに「情報要求」,それから「○○は△△で売っています。」と言うのに「情報提示」とあるのですが,普通の会話の「やり取りの例」をどこから始めるか考える必要があると思います。つまり「すみません,どこで売っていますか。」というように,「尋ねる」,「呼び掛ける」段階から入れるかどうかということです。今は配布資料2−1「学習項目の要素の記述について(08 物品購入・サービスを利用する)」,配布資料2−2「学習項目の要素の記述について(31 人と付き合う)」で「尋ねる」,「呼び掛ける」をやり取りの例の項目に入れている項目と,入れていない項目があります。「いらっしゃいませ。」と入って…。
- ○西原主査
- そうですね。呼び掛ける段階を「やり取りの例」に入れてある場合には国立国語研究所の枠組みに沿って「機能」の欄に「注目要求」というのを入れています。「すみません。」と言えば「注目要求」という機能が入るのですが,この部分について作業をしたのは実は私ですが,そこに実際の例としてないものには,括弧して入れるべきというようなことまでは思い付きませんでした。
- ○杉戸副主査
- その部分について全体として整理する作業がこの次にあると特に感じています。
- ○西原主査
- はい,そうです。道は遠いという,道は幾らでも鮮明になるということでございましょうか。今,杉戸副主査の方から御提言いただいたような作業も含めて,学習項目の要素の記述作業をこのような枠組みで進めていくことを御了承いただけますでしょうか。
- ○尾﨑委員
- 日本語教育小委員会ワーキンググループの皆様にお礼を言いたいです。ここまでまとまっていると仕事をしたんだということがよく見えると思います。もちろん最初に見ると量的に圧倒されますし,星印と白抜きの星印も最初は「何かな」と思うこともあるでしょう。それから,杉戸委員が指摘なさったように細かなことはいろいろあると思うのですが,こういう枠組みで,しかもその裏側に参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改定版)」が付いています。これはやはり大変なお仕事をしてくださったなと私は思います。あとはこれをどこまで
精緻 化するか,それから,具体的に配布資料2−1「学習項目の要素の記述について(08 物品購入・サービスを利用する)」のように学習項目の要素の記述作業を一体どれだけやるのか,際限のないお話ですので…。( - ○西原主査
- すべてに対して作業を行うと思うのですが,いつまでにというのは分からないです。
- ○尾﨑委員
- それでお聞きしたかったのは,そのような作業をするのはこの日本語教育小委員会ではないというのが私の理解です。枠組みと方向性は提示しました。かなりクリアな方向性が提示されているので,あとはどこまで作業を進めて行くかは多分人手と予算的な裏付けということになろうかと思います。むしろ文化庁として,今後この日本語教育小委員会で取りまとめたものを,どういうふうに活用していかれるおつもりかというのが1点です。
それから,作った後,実際にどこでどういう形で使っていただくのか。それがあってリファイン(refine)されるということがありますから,その部分も含めてどういう方向で行ったらいいかという議論をむしろここでして,報告書にある程度こういう進め方があるのではないかというようなことを,今年度まとめられれば私は素晴らしいなと思っています。 - ○西原主査
- 尾﨑委員が一番最後におっしゃってくださったことにつきましては,次のディスカッションにさせていただきます。最初におっしゃったことについて事務局の方で,例えば来年の3月までに何%程度作業を行うというようなことはおありでしょうか。時間のある限りか,お金のある限りか。
- ○西村日本語教育専門官
- ここでお取りまとめいただいた学習項目の要素の整理に基づいて,それをより広げていけばこういうところで活用できるのではないかということについても,この日本語教育小委員会の場で御検討いただき,文化庁の方へ御示唆を頂きたいということでございます。
- ○西原主査
- ですので,基本的には,この日本語教育小委員会が学習項目の要素の記述作業をやるべきだと言えば「できる限りそうします。」というお答えになるということでございましょう。考えてよろしゅうございますでしょうか。
では,このことにつきましては,方向性として御承認いただいて,日本語教育小委員会ワーキンググループは引き続き作業をするということにさせていただきたいと思います。
今期の日本語教育小委員会では,標準的なカリキュラム(案)の作成ということを目標にしております。来期にはその教材のプロトタイプ(prototype)を作成するということになっているのですが,まず本日の日本語教育小委員会ではその教材というのは,何をイメージしているのかということについて,委員の忌憚 のない御意見を頂いた上で,できればこの教材が持つ一般的な性質について,御意見がまとまる方向で行えればいいのではないかと思います。(
その上で,その教材はだれが使うのか,その教材のプロトタイプがターゲット(target)とするのはどのような人たちであるのかというようなことついても,御意見を頂きたいと存じます。まずはこのようなデータベースと,それから本日本語教育小委員会ではこれまでの作業を続けて行う,あるいは国としてはここまで作業を進めるということ,目標を設定しておりますけれども,それに該当する我々がこの日本語教育小委員会で作成,あるいは概念化を目指す教材というのはどういうものとお考えでしょうか。
委員の多くはいろいろな意味で教材,いろいろなタイプの教材をお作りになった経験の方もいらっしゃいますし,それから,世の中のニーズからしてこういうものが現れるべきなのではないかというような御意見も,皆さん強くお持ちかと思いますので,それをお聞かせいただければと思います。
具体的には例えば井上委員からは「世の中でこういうものが欲しいと言っている」といったこと,伊藤委員からもそのような御意見が頂けるかと存じます。また,例えば外国人児童・生徒のためのJSL(Japanese as Second Language)カリキュラムをお作りになった佐藤委員,伊東委員からは,日本語教育小委員会で作成を予定している教材のプロトタイプはこのような概念であるべきで,具体的にどうあったらいいのかということを,御経験と照らし合わせて御意見頂きたいと思います。岩見委員も中野委員も山田委員もそういうことであろうかと思います。西澤委員からはもう少し大所高所のところからいろいろと,尾﨑委員からも意見を頂ければと思いますけれども,いかがでございましょうか。
今,名前を言いませんでしたが加藤委員から,まず教材について御意見を伺いたいと思います。日本語教育小委員会ワーキンググループで私たちは何を作っていると思って仕事をしていますでしょうか。 - ○加藤委員
- 日本語教育小委員会ワーキンググループをする中でということではなく…。
- ○西原主査
- いえ,日本語教育小委員会ワーキンググループでと言うか,加藤委員は教材もいろいろお作りになっていらっしゃいますよね。
- ○加藤委員
- そうですね。最近,地域の中で実際に日本語を教えたり,それから,教える人たちを養成する講座を開いています。私自身が直接そこで教壇に立つという立場ではないのですが,地域の日本語教室や教える人たちを養成する講座を動かしていく中で,今まで日本語学習を目的として来日していた学習者に教えていた教師が,地域の日本語教室に通う学習者のためにどういったことをするのかということについて,ある程度きちんと考えを持った上で授業に臨むところと,それから,今始めたばかりのところとの違いを強く感じているというのが今の事実です。
まだ,本当にか教材が持つべき性質,条件というような御意見でした。じったばかりなので大きなことは言えないですが,逆に新鮮な気持ちで思うのが,本当に現場で必要とされている先生たち,教える立場の方が,そこで教えるために非常に簡単に使えるもの,使いやすく実際に使えるものができないと,とても高度なものになってしまうと,結局は使われずに終わってしまうんじゃないかなということを感じています。これは作業を進めてきた当初よりも今の方がより強く感じていて,実を言うと最初はもう少しデータベースのようなものを私自身は意識していたのですが,今はそれを根底に持ちつつ,やはりもっともっと現実的なところで使っていけるものができることが望ましいと言うか,それを目指したいなと思っております。 - ○西原主査
- 教材が持つべき性質,条件というような御意見でした。
- ○岩見委員
- 今の考えに近いかもしれませんが,基本的に学習者の日本語能力レベルは多様であり,また多様な環境で学んでおり,多様な日本語を必要としています。長い間住んでいる方もいらっしゃるし,そういう多様性に対応するために,基本的には多様性にも対応できる素材をデータベースとして提供することが必要だと思います。けれども,事実その素材を基に人材,プロフェッショナルを育成して,それで現場現場に合った教材を作っていくというのが本当は理想なので,そういう部分も残しておき,なおかつ現状にも対応していく中で具体的な教材というものも必要性がとても高いです。
現在レベル1と言いますか,来日直後共通に必要とされる生活基盤作りのために必要なものを選んで作業を行っておりますので,その辺りの共通項の部分については,教材として一つ作り得るかなということも感じております。具体的にその参考例,一つの例として作り得るかな,必要なことかなと思います。 - ○尾﨑委員
- 思い付きで幾つかのことを言いますので,恐らく混乱していることがよく見えると思うのですが…。まず一つ目,標準的教材。「標準的」ということをこれまで報告書に書いていますので,引き続き「標準的」という言葉を使うことになると思います。ただ,「標準的」と言われると何かそれは目標として設定されるような誤解を生む恐れがあるかなと思います。実質的には例えば「事例的な」というのが基本的な位置付けだろうと思います。それが1点です。
それから,今岩見委員がおっしゃいましたが,多様だということの多様さ加減が,大学とか民間の教育機関で学んでいる人たちとは,非常に違った意味で多様だということです。そうするとますます「標準的」という言葉がそぐわないということも押さえておく必要があると思います。どういう形で報告書にうたうかは分かりませんけれども,少なくとも我々の書く報告書を読む国民全体の中でも官僚の方とか議員の方たちが,地域の日本語教育についてできるだけ正しく理解していただけるような盛り込み方がされるといいなと思っています。これが2点目です。
それから,3点目に教材と言うときに普通は,教室でどういうことをしていくかという教室活動を支えるものとして教材があるということだと思うのです。それから,その教室活動の中で学習者に学び取ってもらいたいコンテンツ(contents)が,もちろん入っているわけです。だからコンテンツはあるんだけれども,どう使うかということが想定されないうちに教材を作るというのは,実は無理な話なんですね。
ところが,現場では教科書であれ教材であれ出てくると,ぱっと見て何か使えそうかなとか言って,それをどう使うかというところから授業を組み立てます。プロフェッショナルというのは,それを学習者とか学習時間とかに応じて授業を計画して,そこに既存のものを入れ込んでオーガナイズ(organize)できるからプロなんですけれども,今ここで想定されている利用者というのは,プロフェッショナルな人も中にはいるんですけれども,そうじゃない人もたくさんいて,むしろそういう方たちにどういうサポートができるかというのが一つの話です。
ですから,ノンプロフェッショナルの方に何らかの教材を提示した途端に,どう使うか分からないから多分使わないだろうというおそれが私にはあります。その辺りのことも考えつつこの日本語教育小委員会では,「こういう教材があり得るんだ。」ということを示していくことが必要だと思います。例えば具体的に言えば,「生活上の行為」の小分類08「物品購入・サービスを利用する」のところで「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」のやり取りの例の箇所に「○○はどこで売っていますか」とありますが,言葉としてはそうなのですが,買いたいものの店の探し方を勉強してもらうために,教室としては30分でどんなことができるか,いろいろなやり方があるはずですから,そのいろいろなやり方のあるうちの一つだけではなくて,できれば二つ,「こういうやり方もあるんですよね。」というように複数示すことが大事かなと思います。例えば30分なら30分でこんなことを,プロフェッショナルな人が考えそうなものを二つくらい出して,その人がやるとしたらこういうものがあり,それは恐らく広く利用できるというのが教材かなと思います。あとは現場でやはり作って積み上げていっていただかないといけないので,やはりリソースをためるとかフィードバックするというような機関がどこかにないと,これは長続きしないだろうなと思います。繰り返しますけれども,教材と言うとき,学習活動がある程度想定された上で作られるものだということ,それから,我々が提示する場合は,一つ能力記述に対応するような形で複数の教材が提示できればいいなと思います。ただ,それは限られた時間の中ですからワンセットでもいいんだろうと思うのです。むしろそのワンセットの背景にある考え方というのができるだけ伝わるように,それから,それを継続的に行うためには支えとなる組織というか,それから,予算的なことも含めて必要なんだということを報告書にまとめられるといいなと思います。 - ○山田委員
- 今の尾﨑委員の発言なんですけれども,プロフェッショナルというのは使用者ですけれども,プロフェッショナルはごく一部で大多数はノン・プロフェッショナルだというのは,それはボランティアという話ですか。
- ○尾﨑委員
- はい。一応便宜的にボランティアと呼ぶことにしましょう。
- ○山田委員
- 私は,逆にこれはプロフェッショナルが使うものであって,今までのようにボランティアだけに頼るというようなことを,このまま進めていくことを非常に警戒しています。それを絶対やめさせようと思っているのですけれども,もう想定がそういうふうにあると考えているわけでしょうか。
- ○尾﨑委員
- プロフェッショナルと言うか,少なくとも日本語を教える仕事に対して給与が払われる人が,ほとんど存在していないという現実があって,そういう人をやはりちゃんと雇用し,責任を持ってやっていただくということがなければ今の状況はどうしようもないということは,私もよく分かっています。そのことも報告書の中にうたえたらいいと思います。
少なくとも国はどうする,都道府県はどうする,地方自治体はどうするというようなことが努力目標として第8期日本語教育小委員会の報告書に既に書かれているわけですから,その努力目標をワンステップ具体的に,「こういうことを」というような提言的な要素を報告書に盛り込むことができるのであれば,どういう表現をするかは別にしても,当然こういう仕事はプロフェッショナルにやってもらうべきことなのだという趣旨のことを書くのがいいと私は思います。
ただし現実には,我々のやっている仕事を見て評価をしたり使ったりする人は,いわゆるボランティアの人たちであったり国際交流協会の人たち,日本語教育についてよく御存じない方たちが苦しんでいて,いろいろ工夫もしていて何か国から出て来ないかなと,待っている人たちに対するメッセージ性がなければ,本来望ましい方向ではないとしても,そこのところについてはきちんと書いて,伝えていかないとまずいと思います。
だから山田委員がおっしゃっている本来目指すべき方向というのを,何らかの形で盛り込むと同時に,現実に対してここまで我々としては考えた,あとは皆さんやってみてその結果をみんなでやっていきましょうよという方向性で,進められたらいいと思っています。 - ○山田委員
- 議論がそっちの方に行くべきではないと思うのですが,私は大反対で,そういう現実的な対応が必要だということは分かっているので,ボランティアはボランティアをやっています。日本語教育を本来責任を持ってやるべき主体が,担うべきことだということで手を引くことはできないのでボランティアがやっているのであって,それを更に先ほど尾﨑委員が,標準ではなくて一つの事例だというふうにおっしゃったかもしれないけれども,ある種の事例にしろ何にしろ,より所になるものを作ろうとしているわけです。ただ,そのときにやはりどういう人が利用するかということを考えて作らなければ,それは教材としての意味がないと私は思います。それでボランティアが教えるという現実的な対応で進めるのであれば,週1回2時間程度でどんなことができるのか,そこのボランティアの現実的な現場がどうなのかということを考えて,それを基に資料2−1「学習項目の要素の記述(08 物品購入・サービスを利用する)」のような項目表を作って,そしてさらにそれを教材化して,それからモデルかどうか分からないですが,指導例を作っていくことが必要だと思います。それにしてはここで今目指していることが,かなり網羅的なことをやろうとしていて,もし網羅的なものができて,その中から今この学習者の人たちというのは,何が必要か選んで何かすると言うのであれば,それは先ほどの尾﨑委員の話のプロフェッショナルだったらそういうことをやるわけです。けれども,もしボランティアがやるのであれば,週1回2時間であれば,こういうところから始めるのではないかというところを更に絞り込むことが必要だと思います。そうすると,労力を掛けて全体に対して作業を行う必要があるのかどうかということについて,私は非常に疑問に思うのです。
- ○西原主査
- いかがでしょうか。
例えば教材のプロトタイプについて,尾﨑委員も山田委員だれをターゲットに作られるのかということの現実とあるべき姿が,かなり乖離 しているだろうという御意見だということですよね。(
尾﨑委員は現実の方もケアしましょう。山田委員の方は現実をケアするのであれば,こんな大層なことは必要ないのではないかということですよね。 - ○山田委員
- 私はボランティアを否定しているわけではありません。ボランティアの別のやり方と言うか,ボランティアに必要なことはあると思っていますし,それは主張もしています。ただし,それとは別に外国人の生活者には何が必要なのか,どのぐらいの量と質のものが必要なのかと,そこから発想しなければいけないと思います。
公的予算が削られている中でその部分を行政が担うのが無理だと言うのであれば,ボランティアがやっていいと思います。無償でやってもらっていいのですが,それは無償なんだけれども,専門家である必要があると私は思うのです。
量的にも集中的に日本に来てすぐのときに対応すべきことにはこういうことがあり,その次はこうだということが分かっているプロ的能力を備えた無償のボランティアというのが,担っていいわけですが,一番基本に考えるのは,外国人の生活者がこういう時期にどういう内容の日本語の力が必要で,その力を付けるためにはどういう内容の教育が必要なのかというところから考えるのがまず第一だと思います。無償性とは別にしてですが,現状のボランティアはそうではないと思うのです。
ボランティアであっても,そういう能力を開発してこういう力を持った人が,携わるべきで,その人たちは時間的にどのように拘束されて,どういった教務的な仕事もすべきだということをセットにしたらいいと思うのです。 - ○西原主査
- 少しレベルを一気に上げてしまってよろしいでしょうか。井上委員にお伺いしたいのですが,日本経済団体連合会は,時限はいつか分からないけれども,移民というカテゴリーの人たちが日本の社会を構成するようになるだろう,それは必ずしも底辺の労働者だけではなく,留学生30万人計画で生み出される,例えば日本でちゃんと学業を修めた人たちが,日本に引き続き滞在するということも含めて高度人材もあるわけですよね。その2020年か2030年辺りのときにこれがどう生きるだろうかと考えると,どうあってほしいかというようなこともそこから出てくると思うのですが,いかがでしょうか。
- ○井上委員
- 一番厳しい規制的な形で言えば,いわゆる出入国管理法及び難民認定法あるいは新しくできるであろう移民法と,いわゆる日本語学習の基本的な要素というものが結び付かなければいけないと思うのです。
要するに,少なくとも日本に定住して何らかの形で所得を得たい,あるいは生活をしたいという人たちは,言い方は悪いですけれども最低限これは日本語で読み,書き,話ができるようにするということはマストといった絶対にやらなければならないということで,法的に規定する方法が一つあると思います。
今は全くそういう法的な整備が行われるということは,前提にしないで我々は活動していますので,そうなるとその中でもやはり,山田委員がおっしゃったように非常にタイトな部分から,尾﨑委員がおっしゃった非常に緩やかな部分まで幅があって,私自身の整理としては,やはり日本語教育小委員会は文化審議会の下にできた委員会ですので,国として整理をするとすれば,こういう日本語学習の「生活上の行為」の要素を整理するということで,その成果をデータベースとして使っていただくことになるのかなと思います。
データベースというのは何かと言うと,それは教材から何から全部入っているという意味のデータベースではなくて,「こういう項目の中で皆さんカリキュラムを作り,教材を作り,指導例を考えていただいて教えていただければ,現状学びたいと思っている外国人にはそれなりの効果がありますよ」ということを,効果と言うかメリットがあるということを示すものだと思います。ですので,余り抜け落ちる部分があってはならないと思います。
飽くまでも「生活上の行為」ですので,生活の中には,働くとか地域社会,あるいは学ぶということも入るかもしれませんが,むしろ留学生とかではなくて,今少し母国に帰り始めていますが,日系人のようなタイプの人たち,この方たちは残念ながら企業の中で日本語学習のチャンスがない方々が大半ですので,そういう方々が「私はやっぱり定住したいので学びたいんだ」と言ったときに,自治体なり国際交流協会なりが提供できるようなカリキュラム,あるいは教材の基になるデータベース,それを作っておくべきだと思うのです。そういう意味では,この参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改定版)」も含め,この学習項目の要素の記述を進めてどんどん整理して漏れがないようにするという作業が,一番重要なのではないかなと思うのです。
それから,その先の問題なのですが,標準的なカリキュラム(案)について,恐らくこの配布資料2−1「学習項目の要素について(08 物品購入・サービスを利用する)」及び配布資料2−2「学習項目の要素について(31 人と付き合う)」を整理していけば,大体こういう要素でカリキュラムが作られれば理想的だということは示せると思うのですが,この先に具体的な教材を作るかどうかということについて申し上げると,これは日本語教育小委員会の仕事ではない気がいたします。教材というのはいろいろなところでもう既に作られていますので,逆にこの日本語教育小委員会が示す学習項目の要素なり,標準的なカリキュラム(案)を基にそれぞれが作成した,あるいは使ってきた教材がどういうものであり,取り扱っている学習項目に抜けがないかどうかをチェックをしていただくための参考資料として使えるのではないかと思うのです。
もちろん教材に不具合があり,余り良くないという問題もそこで発見できるかもしれません。今,日本語教育小委員会で審議を行っていることの成果をチェックリストとして使っていただくというやり方があると思います。
もちろん教材の中には,「やり取り」,「文法」,「語彙 」,いろいろなものが入ってきますし,それをどうやって指導するかという方法論まで入ってくるわけですが,その辺りについてはこの日本語教育小委員会で行うことができるだろうと思います。現実にもう既に日本語教室を開いているところが多数ありますので,私などはもう少し大学の皆さんあるいは日本語学校の皆さんに,地域の日本語学習の現場の悩みなりを聞いていただいて改善をするお手伝いをしていただいて,具体的に変えていった方がいいのではないかという感じがします。(
そこは,非常に現実論に立ってどこかのセクターが,そういった現場をサポートしていくということだと思うのです。ですから文化庁の文化審議会国語分科会日本語教育小委員会でこういうものを出し,現場で活動している人たちが自分たちの教えている内容はこれに照らしてみるとどうなのかということが,分かるようなデータベースをなるべく網羅的に作るというのが,この日本語教育小委員会の仕事であると思います。
だれがどう教えるか,どういう教材を使って教えるかということについては,これは地域ごとに外国人も多様ですので,その多様性に合わせてある一定の幅はあってもいいのかなという感じがします。その中には今,冒頭申し上げたように残念ながらと言いましたけれども,企業や地域の経済団体が,もっとこの外国人の日本語教育に関与をする,例えば,参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改定版)」を使い,これだけ教えないと実はあなたたちの企業で,外国人を働かせるには不十分なんですよということにも,使えるのではないかと思います。今,日本語教育小委員会で審議を行っている資料はそのようにセクターを巻き込むための材料にも使えるかなという感じがします。 - ○西原主査
- 独立行政法人国際交流基金が,今年度末を目指してJF日本語教育スタンダードの第一版を作られます。そこでも遠くには教材というのがあるわけなんでしょうが,今,教材はすぐの目標ではないですか。
- ○西澤委員
- 井上委員がおっしゃったように,また,先日開催したシンポジウム(国際交流基金日本語国際センター20周年記念シンポジウム「JF日本語教育スタンダード―その活用と可能性―」(第15回海外日本語教育研究会)報告 平成21年10月4日 国際交流基金にて)でもありましたが,例えばケルンとソウルでは,日本語の何を勉強したいかということ自体が違うという状況がありますから,全部に
汎用 するような教材を作るというわにはいきません。けれども,一応そのスタンダードに即して教育を行う際に,一つこのような教材が考えられますよということは提示できます。そういう参考としての教材作りはスタンダーズの作成と並行して進めていかないと,このデータベースだけ与えられても,何をしたらいいかということは全く分かりまん。「勝手にどうぞやってください」というわけには行かないだろうという議論をしています。(
それで,先ほど来の議論で言うと,去年議論した国,地方のそれぞれの役割分担に基づいて,こういう体制を取るべきだという提示をしたけれども,尾﨑委員がおっしゃるように,現実はそういう理想的な姿からかなりかけ離れているわけです。そうするとやはり現場でいろいろ困っている人たちが照らし合わせて,どこが自分たちは足りないか,何をしなければならないかということが,見えてくる道標になるようなものを作ることが大事かと思います。一つこの日本語教育小委員会としては「来日した外国人にとっては,こういうものが,差し当たって大切な学習項目で,学習の仕方としてはこんなものがあります」というものを提示していくということが役割ではないでしょうか。結局,理想的な状態と今ある現実との橋渡しについて,考えざるを得ないだろうなと私自身は思っております。 - ○西原主査
- 分かりました。ありがとうございます。JSLカリキュラムの場合はどのようになっているのでしょうか。
- ○伊東委員
- 標準的なカリキュラム(案)ということで,やはりこれをだれが担うかはすごく重要だと思いました。そのときにやはり私は,ボランティアの日本語指導に携わる人と,日本語教育をプロとして仕事,なりわいとしている者とは,やはり役割が違うと思いますので,やはりこのカリキュラムをどのように使うかは,だれが使うかによってやはり機能も違ってくると思いました。
やはり文化庁が出す限りは,私は日本語教育という大きな枠の中で提示すべきで,ボランティア向けにはしたくないと思っています。この標準的なカリキュラム(案)が,日本語教育界全体に一つの刺激を与えて,いわゆる多様な日本語教育という点から大学関係者も,既に日本語教育関係者もやはり注目し,そこからいかに包括的に今後の日本の日本語教育を,どうやってとらえていかなければいけないかについて考える起爆剤と言うか,そういう視点になるものにしていかなければならないと思います。ですから私は基本的にだれが担うかということになれば,やはりプロの日本語教育者が担っていくと思います。
しかし,現状という点で言うと,ボランティアの人たちが担っているのであり,ボランティアの人たちが困っていらっしゃるといったときにプロのあるいは日本語学校の先生たちが,どうサポートできるかということになります。今後,やはりボランティアと専門家が,連携できるようになるためのツールになればいいと思っていますので,私はボランティアだけとか,日本語教育関係者だけという狭い意味での固定されたような形にはしたくないと思います。包括的に対応できるように考えたいと思います。 - ○西原主査
- 次にお伺いしたいと思ったことを,時間もありますのでそれも含めて御議論いただきたいと思います。今伊東委員がおっしゃったことについて,だれをターゲットに,カテゴリーというか教材のプロトタイプというものが示されているかということの中に,現実とあるべき姿というのが,今後もまだ出てきます。あるべき姿を見せつつ,目標値として設定していくという御意見も出ているかと思うのですが,昨期の日本語教育小委員会の終わりの報告書,中間的な報告書の中には,国が示すものを実現化していくための人材として具体的にコーディネーターという名前が,これから育成すべき人材の中に入っています。
ですから山田委員がおっしゃったように,プロフェッショナルな人がこれを受け止めるということであれば,具体的にはコーディネーターなる職業が,更に活性化されてプロとして自立するということを前提にして,その人たちをターゲットにするというようなことがまずは考えられるのでしょうか。 - ○山田委員
- それを一番おそれています。養成するのはコーディネーターのみでコーディネーターだけをターゲットにしてそのほかあまたは,現状と変わらずボランティアが週1回2時間活動を行えばいいという話ではないと私は思っています。コーディネーターにはコーディネーターとして必要なことがあり,今,日本語教育小委員会で検討しているようなことは生きます。それは当然ですが,ただ現場で実際に担当するあまたの人も,それはお金をもらうかもらわないかは別にして能力的には,ここに書いてある例えば「機能」というような一つのカテゴリーで,表現を分析するということに慣れています。
それから,語彙というような言葉で,その中にはノーション(notion)というような発想があり,それもシステムになっているものとそうでないものがあるとかと,そういう場面とこれが応じてこのような広がりになっているということも分かるし,あるいは文法ということで例えばここで「終助詞」と言ってそれが分かるレベルの人が担当すべきだと私は思うのですが,ただそれに向けて今やっている作業だというふうに思わないとこれはできないので,今そういうふうに申し上げています。
今まで,現実的には私も一挙に「ボランティアによる活動をやめて国や都道府県,市町村がやれ。」ということを言ってきたわけではありません。私自身ずっとボランティアをやってきたというのは,やらざるを得ないからやっているわけです。現状で現場で皆さんそうしているのですが,私はそこで固定することが一番まずいことだと危惧 しています。(
だから外国人の生活者が,本当に必要なことに対応できるようなシステムというものを,これは私は公的にといつも言うのですけれども,それを目指しながらも現実対応として有能なボランティアの人たちが,配布資料1「「生活上の行為」の事例整理(改定版)」等を使いながら日本語教育の一部をやっていく。それは週に1回2時間ではなく,集中的に行うシステムとそういう人たち,陣容というのができていきます。そういうのを段階的に進めればいいと思うのですが,ただし,これを作っている,その目指す先というものは,コーディネーターがいて,あとボランティアがやればいいという話ではないと私は思います。 - ○西原主査
- コーディネーターという言葉,地域にいて国際交流協会にいてというのを,コーディネーターというふうに私は今思っていなかったのですが,例えばドイツやオランダの例では,かなり評価が妥当であるかというようなことにまで口が出せる人として,コーディネーターという名前じゃないけれども,プロフェッショナルがいます。もう少し企画,立案,実行のチェックまでできる人がおり,そういうプロフェッショナルも含めてコーディネーターの幅というのがあると思います。何しろプロが育っていかなければならないだろうとは皆さん思っていらっしゃる,そういうことでございますよね。
佐藤委員,JSLカリキュラム作成の経験からいかがでしょうか。 - ○佐藤委員
- 同じような議論をJSLカリキュラムを作るときに行った記憶があります。まずどういう問題があったのかと言うと,やはり子供が余りにも多様だということと,それから,教材が共有化されないということです。学校の教材というのはほとんど共有化されません。もちろん,どのレベルの教材を指すかによります。
- ○西原主査
- 教材と言うのは,教科の教科書でしょうか。
- ○佐藤委員
- 教科書は,明らかにこれはオーソライズ(authorize)されていますから使わざるを得ないです。法的拘束力を持ちますから。
- ○西原主査
- 検定を経ているわけですよね。
- ○佐藤委員
- はい。しかし,この日本語教育小委員会での教材,つまり教科書というものは,どのレベルの何を作るかという議論になっていくと思います。
それから,そのときに私たちが最終的に目指したのは,今日の日本語教育小委員会の議論と非常に似ていまして,全く現状の枠の中でやるということに対する私たちの抵抗があったわけです。つまりESL(English as Second Language)と同じようなシステム化,制度化をどう図っていくのかということを,やはりこの教材をやらなければならない,そうすると取り出しをするんだということになり,取り出しという体制の中できちっとした専門的な力を持った人が,きちっと教えることによってしか,こういう子供たちの力は伸びないという話になりました。
そして,そういう大前提の下に作業を進め,そして,これは研修と一体化するんだという議論を行いました。ところが,そこが棚上げされてしまいました。予算の問題もありますから。
そして,もう一つは,私たちはある種のスタンダードを作ったわけですが,JSLカリキュラムというのはこれは明らかにツールです。これがだから逆を言うと力量を非常に伴うわけです。ただ,それだけではやはりなかなか示せないので,いろいろな実践例を集めてその実践例をデータベース化しようとしたわけです。
そうすると例えば小学校1年生のときにブラジルから来日して,今小学校3年生の子供がいるとします。では,こういう子供に対して社会科「私たちの町」とかということを,やった授業実践をやっていただいてどういう言葉の支援をしたのか,どういう実践をしたのかということをデータベース化しようとしましたが,実はこれも少しネックになりました。なぜか。理由は二つあります。一つは財政上の問題で,もう一つはどうしても文部科学省という枠組みが超えられないという問題でした。
なぜかと言うと,文部科学省が示すのはやはりいい実践でなければいけません。学校教育はそうなんですが,これが非常にネックになります。つまりデータベース化するときに,取り上げようとする実践がいいかどうかという議論になってしまうのです。ただ,そこが非常にネックになったと言うのも,これは多分この日本語教育小委員会とは少し違うかもしれません。地域日本語教育における議論とは少し違うのですが,JSLカリキュラムにおいてはそういうものがネックになっていましたが,基本的には私たちは基本的なOS(operating system)を作りたいと考えていました。
つまり,アプリケーションを最初に作ってしまうと使える人と使えない人が出てくるので,先に伊東委員がおっしゃったような形で逆にそのOSを使えるような形を作る,OSの使用を支援するシステムをどう作るかというところを大事にしないといけないということだったのです。それが財政上の問題であったり,いろいろな問題でうまくいかなかったというところがありました。
我々は使えるか使えないかというその議論に翻弄 されて,使えるようにするための体制作りをしないと本当に無理になってしまうと思います。そうでないと今,日本語教育小委員会で審議している内容が使えるか使えないかというまた議論も,JSLと同じような議論になってしまいます。だれが使えるのか使えないかではなく,どうやったら使えるのか。だから,そこからは恐らくだれが使うのかという議論になっていくと思うのですが,私たちがこの日本語教育小委員会で目指すべきことは,現状の枠というものは大事にしなくてはいけないけれども,これは何年先にどういうふうに使えるかということです。どこまで使うかということから考えるときに,あるべき方向性,明確な指針を示すのも戦略の一つだと思います。(
現状の枠で議論を行うと,使える使えないという議論にどうしても終始してしまうので,戦略を持って一体どういう人たちが使うためにデータベースを作るのか,その人たちがデータベースを使用できるようになるための体制,システムをどう作っていくかという議論と連動させていきたいと個人的には思います。
ただもう一つ,そのときに「では,これをどうするか。」と言うときに,我々が学校教育でやることは,プライオリティー(priority)の基準を決めるということだと思います。つまり,配布資料2−1「学習項目の要素のについて(08 物品購入・サービスを利用する)」にあるようなことと標準的なカリキュラム(案)との内容の関連性とか内容の系統性はどうするかということです。
それから,二つ目は例えば簡単なものから複雑なものをどう配列していくか,それから,その緊急性,どういうプライオリティーでもって,どのようにまとめるか。これは我々の言葉で言えばどのように単元を作っていくのかということです。そして,それをどう配列していくのかというところが明確になりさえすれば一つの教育課程,カリキュラムになります。それをどう教材化するかとなるとこれはなかなか難しいです。
つまり,教科書会社というのは,一つの教科書会社が一学年について何十人も専門家を集めてプロが作っているわけです。しかも検定まで受け,チェックまで受けて作成しているわけです。そうすると,どのようなもの,何を作るかと言うときにやはりある種の単元みたいなものを作っていくということだと,恐らく皆さんが納得していただけるのではないかなということになります。そうすると使えるかどうかという議論ではなくて,今度はそれをどう使っていけるのかという話になります。
その単元についてですが,日本語教育小委員会ではこれはある種ミニマム・エッセンス(minimam essence)を作ればいいわけで,これは作りやすいです。JSLは違います。ミニマム・エッセンスじゃないところが問題です。つまり,初期日本語では作りやすいと思います。JSLカリキュラムはそうではなくて,やはり教科ですから,基礎・基本とは何か,しかもこの外国人の子供たちの基礎・基本とは何かという議論があります。そこが作れないから難しさがあります。ただ,初期日本語については作れそうだなと感覚的に思います。
それから,もう一つはやはりこれを使えるようなシステムについても議論をしないと先ほど尾﨑委員がおっしゃったように,常に「使える使えない」,「見たけど使えない」では,駄目だという議論になってしまいます。それをどういうふうにしたらいいのかと,それの学習する場,一緒に高め合う場みたいなものも一緒に考えていかないと,非常に難しいですよね。 - ○西原主査
- そうですね。伊藤委員がこの間,教科書はたくさんあるんだから,新たに来たってだれも使いませんよというようなことをおっしゃっていましたよね。
- ○伊藤委員
- この間私が最初にその質問をしたところがそこなんです。何のためにこれを作るのですかと,そこが大元なんですね。そうすれば「何のために」があれば,だれに向かってどうしたいかというのが決まってくると思ったものでお聞きしましたが,そのとき「「生活者としての外国人」のためにやるんですよ。」という答えでしたので,そのときに私が思ったのは,「あっ,それじゃ,今困っている人たちが使える何か参考になるようなものを作っていくんだな。」と,そのときは理解しました。
今度私どもは,緊急雇用事業ということで子供たちだけではなく,大人のための日本語教室も,いろいろなところへボランティアの方にモデルケースでお願いして事業を始めようとしています。そのときに今までもいろいろなところを見せてもらいました。本当に様々な教材を使って様々な教え方をしているものですから,県がそういうことをやるときには,何かやはり基本的なものがあって,「こういったことをこういう方向で教えていってください。」,「教材は確かに使いやすいものを使っていただければいいのですが,こういう方向で…。」と言うときに,何かこういう標準的なものがあればお示しできるのかなと思いますし,そうすれば現場の方も困らないのかなと思います。 - ○西原主査
- 例えば参考資料2「「生活上の行為」の事例の整理(改定版)」の15ページから就業に関する部分がありますよね。そして,そこに星印がたくさん並んでいますが,この星印については学習項目の要素を記述してくださいというようなことはいかがでしょうか。
- ○伊藤委員
- ええ,それは最低やられるといいと思います。そうすると,それに対する教材を恐らく見付けられると思うのです。今確かにノンプロと言うか,プロフェッショナルではない方が多いですが,私どもは,子供たちの日本語教室をやろうとしている,増やそうとしています。そこに,団塊の世代で退職される教員の方を,何とか現場へ出そうと思って今年からその方たちに一生懸命研修を始めました。それで大分応募者がいます。
ですから,そういう方たちが,地域で日本語教室を作ってくだされば一番いいかなと思います。教員として,また生徒に接することも慣れていらっしゃるということで考えているのですが,やはり今言われたとおりに何のために,そこが一番大きなネックになるのではないかなというふうに思います。 - ○西原主査
- そうですね。これから中野委員の御意見も伺おうと思っていたんですが,今実際に高校生の第二外国語ということでカリキュラム等を作っていらっしゃいますよね。これは,例えば第二外国語はまだ義務化されていないということがあるので,その部分についてもクリアせねばならぬというところに立っていらっしゃると思うのですが…
- ○中野委員
- 恐らく,教育現場の多様性という意味では,例えば大学の留学生の日本語とか,あるいは学校教育とかでは,ある程度均一だと思います。日本の第二外国語の場合にはボランティアとかそういうくくりではなく,先生としてプロフェッショナルかどうかと言いますと,本当にただ中国人だから中国語の教師になったという方から,専門課程を出られた方までとても幅があります。それから,現場も本当に学力がとても大変な学校からトップクラスのところまで,教育現場もとても開きがあります。
その中で一つの目安を作ろうとしているので,ある意味ではこの日本語教育小委員会と似ています。先生方の多様性と,学習者や目標の多様性が入り乱れている中で何か標準を出そうとしている点については,少し似ていると思ったのですが,我々の今の経験から言いますと,まず例えば配布資料2「学習項目の要素について(08 物品購入・サービスを利用する)」の1ページ目,「0801020 必要な品物を扱う店等を探す」の「文法」の欄に「テ+いる」という項目がありますよね。日本の外国語教育の現場で言うと,「テ+いる」のように文法項目を教えることが目標になっている授業はすごく多いです。でも,それを配布資料2「学習項目の要素について(08 物品購入・サービスを利用する)」にあるように,文法中心に「今日の授業は「テ+いる」を勉強するよ。」ではなくて,「買い物でお店を聞くことができるようになる」,つまり,「買い物ができるようになる」になるわけです。配布資料2「学習項目の要素について(08 物品購入・サービスをりようする)」を出すと,「それを今日やろうね。」というようにパラダイムが転換されていくわけです。私はまずそこにとても大きな意味があると思っています。
いわゆる「生活者としての外国人」に日本語を教えると言ったときに,文法や語彙を教えるというイメージではなく,生活者として日本で暮らしていけるように日本語で何をしたらいいのかと,そこにまず発想の転換が行われるというのが,すごく私は大きな意味があると思っているのです。
それを今度は具体的に,では,何ができるようになるかという目標設定がここできちんとされて,なおかつ私はやはりこういうウェブ(web)上でのデータベース化と言いますか,検索ができるようにしたらいいというイメージを持っています。学習者も含めて自分の目標設定ができると,先生の目標と学習者の目標が合ったところで,何かお互いに「これで勉強しよう。」というように,まず目標設定に使えます。そして,さらにそのデータベースの中にやはりモジュール的なイメージなのですが,この目標を達成するためにはこういう学習内容,あるいは素材,活動例,そういうものがパッケージとしてあって,それを引き出してきて並べると事実上教科書一歩手前と言うか,そういうものができるというイメージです。
実際には私たちは配布資料2−1「学習項目の要素について(08 物品購入・サービスを利用する)」のように,能力記述を設定し,活用例とか表現,語彙例を提示して,その次に先生方が望んだのが,やはり授業案例,単元案例,年間指導計画例でした。だからそれは多分この星印が付いている優先度の高いモジュールから手を付けて,まず最初に日本へ来たら生活の基本としてこれだけはという目標設定を選び出して,それのモジュールがそろっているというイメージです。
学校について申し上げると,授業案とか年間計画例が出たときに,初めて先生たちに使っていただけるようになりました。でも,目安だけでは全然動かなかったんですね。でも,「例えばこういう授業ができます。」「何時間ぐらいで,週2時間で大体こういうような教育現場だったらこういうのがあるのじゃないでしょうか。」という例を,たくさん収集して,これはお願いして作っていただいたケースもたくさんありますし,出していただいたものがあるのですが,やはりそこまで教室の具体的活動にまでします。やはりそれを提示することが,使っていただく一つのきっかけになったような気がします。
今度はそれをだれが作るかということが次の問題なのですが,やはり我々もプロジェクトチームを作って,作業を行ったのですが,いかにオーナーシップ(ownership)を広げるか,やはり自分のこととして自分がかかわるということが,使っていただくためのもう一つのポイントだったんです。
ですので,例えばこれであれば外国人集住地域,いわゆる外国人人口が高く10%以上の地域,あるいは実際に使っていただけそうな地域のやっぱり中心的な人が,カリキュラムや教材一歩手前を作るときにかかわって,自分のこととして何か作ったんだということがあると,それを自分の地域で使おうとすることになっていくと思います。
やはり昨年話していた地域コーディネーターというのは,難しかったのかもしれないのですが,でも何かやはり地域に足を置き,その方たちがこのチームに入ってカリキュラム例とかモジュール例とかそういうものを作っていく,現場の方が一緒に何かプロトタイプを作ることで,だんだんに広がっていくというようなイメージがあります。
だから教科書と言うと,もうフロー(flow)が定まってしまうので,どの目標をどの順番にというのがきちっと定まるわけですよね。余り定め過ぎてしまうとかえって使いにくくなるし,データベースを作った意味がないので,その一歩手前と言うのでしょうか,そのパッケージを作って,あとパッケージの組合せは現場が決めるというイメージを持って,今まで見ていました。 - ○西原主査
- 例えば中野委員がおっしゃったことで思い出していたのが,CEFRの中のドイツのプロファイル(profile)は,来日何年で,どういう職業で,どういう目的を持って,学習時間が大体どのくらいな人にはこれというパッケージがあります。そういうパッケージがプロファイルですよね。
そのプロファイルを選び出す参考例として1,2,3,4,5ぐらいまで例を選び出すというようなことは,ここから選び出して「例えば…」というように示すことはできると思うのですけれども,では,その先教材化する人というのは,山田委員がおっしゃるように選び出すのもプロがやることだし,それから教材はどうなるというのも,これもプロが,経験者で少なくともビジョンが描ける人がそれは描かないとできないです。中野委員のところでは高校の先生たちを動員してやっていらっしゃるわけですよね。 - ○中野委員
- もちろんプロがいてプロを派遣するというのは形としてはきれいなのですが,むしろ現場の方たちが,これにかかわることによってレベルアップしていくという姿も経験しています。ただ,先ほどおっしゃったように研修はどうしても欲しいですよね。ですから,その地域で多少なりとも今かかわっている先生方への何らかの研修が,やはり必要だと思います。こういう文法や機能の言葉一つ御存じない方でも,この考え方,それから,モジュールの使い方の少し説明し,やっていくことの中でやっぱりレベルアップされていって,使いこなしていくようになるというのはイメージできます。
ですから一緒に成長するということ,作る側も教えていらっしゃる方たちも,一緒に成長するということで考えないと,そうしないとプロを全部配置するというのは現実的にとても難しいだろうと思います。研修はやはり欲しいです。 - ○西原主査
- 国際日本語普及協会の岩見委員に最後に,やはり国際日本語普及協会は,何かそういうリソース教材を作りつつ地方巡礼ではないけれども,何かあちこちに行って一緒に使いましょうというのをやってきていらっしゃいますよね。
- ○岩見委員
- 2001年から文化庁の5年計画でコーディネーター研修というのをやりまして,地域の生活者のための日本語をオーガナイズ(organize)し,調整するコーディネーターというのを育成してきました。
- ○西原主査
- それで一方でリソース教材を持っていらしたと…。
- ○岩見委員
- リソース型を,その中で例えばこういう教材を地域の生活者のために使えるというようなことで提供して,そこから材料を,必要なところを必要な現場で引っ張っていくというようなことで紹介をしてきました。
それから,今日から教室コーディネーター研修を行いまして,各現場でいろいろな経験の蓄積があると思うのですが,今,国でやろうとしている多文化教師を,基盤作りに必要な日本語教育を,どう教室をオーガナイズしていくかというようなことで,経験者で地域で今活動されている国際交流協会の方ですとか,生活者の日本語ということを研究してきた方ですとか,そういう方が集まって参加型で意見を交換しながら,教室コーディネーターの在り方について進めています。一緒になって考えていこうというようなことで,次の人材育成に必要な内容ですとか,そういうものを考えていきたいと思っています。 - ○西原主査
- そのベースに,以前お作りになったリソース型教材というのがあるわけですね。
- ○岩見委員
- ええ,それはその一つですし,今いろいろなところの活動例としても豊田の実例であるとか,いろいろなことがされていますので,リソース型生活日本語に限らず様々なものを紹介します。いろいろ考えるための教材としては,新たに去年の研究調査でも新たな教材もサンプルを作っていますので,それもその地域地域で最終的に作っていくのは現場ということで,紹介しつつ進めております。
- ○西原主査
- きれいにまとまったかどうかは別にして,今作成しているデータベースが基本になります。そして,プロトタイプと言っていますが,何らかの指針を提案していくということにも意味があるけれども,それを具体化するときに「何を目標として持つか」ということが,一番大切と皆さんがおっしゃってくださったように思います。日本にやって来てこれから生活しようとしている人,あるいは生活しているんだけれども,生活に必要なコミュニケーション能力に,まだ達成目標としては到達していないような人というのが,学習者像としては共通に挙がっているわけですし,それから,参考資料3「「生活者としての外国人」に必要な日本語の位置付け(イメージ)」にもありますように,特定の職業的な,あるいは人生設計の上での特定の例えば子育て等のステージにとらわれない基本の基本,しかも学習レベル6段階とすればその下のところの学習者を対象として考えて,「生活上の行為」を達成するためのコミュニケーション能力を付けるための教材を目指しているというところは御同意いただいているとして,そして,その教材のプロトタイプというのが,だれによって使われるかということにも一様でないと考えてよろしいでしょうか。山田委員は,一様でないと言わない方がいいという御意見だとは思うのですが,現実を考えると,現実一様でないという現実があるということですよね。
- ○山田委員
- 尾﨑委員が先ほどおっしゃっていたように,「目標はこうだ。」ということをちゃんと示して,かつこれが使われるというのについて幅があるということもしっかりと示して,それでそういう前提をちゃんと提示した上で示すべきだし,それで示したものというのは,私は最終的に一番高いレベルの質と量で構わないと思います。ただ最終的な成果物をどう使うかということについて,「こういう現場であればこうする。」みたいなことは,入れておいた方がいいのかもしれないと思います。
- ○西原主査
- そうですね。ごく最近に私は,必要があって文部科学省中央教育審議会の大学部会が作った「大学の教育はこうあるべき」という内容の文章で100ページぐらいのものを読んだのですが,そこで言われていることには日本語教育で既に行っていることが非常に多いんです。「多様な学び」ですとか,それから,「双方向の目標設定」ですとか,つまり学習する側と教育する側が協働して,共に働いて何か作っていくべきであるとか,それから,きちんと学習者一人一人について人生設計のライフサイクルの中で,大学の4年間がどうあるべきかというようなポートフォリオを大学と学生とが一緒にするべきだとか,既に日本語教育では常識になっているようなことがあると思うのですが,そういうようなこと,つまり「こういうふうに使ってください」ということも,やはり教材のプロトタイプの中には書いていきます。
そこでも大いに理想,こうあるべき,外から入ってくる人が十全に日本社会に参加でき,そして自分の滞在の目的というものを損なわず,かつ自分の背景というものが否定されずというようなことで,共通のツールとして日本語が活性化され活用できるための第一歩になるということですよね。
全体として目標設定がされなければならないですが,現実的な活動というのは,現実に合わせて行わなければならないという辺りまではお題目で,そこまで報告書に書いておく上で尾﨑委員がおっしゃったように,だれが使って何をするのかというときに「こういう例もあります。」というのが,プロファイルの例だと思います。そして,そういう例を付けておかなければ現場に全く顧みられないという話ですよね。実践例と先ほど佐藤委員がおっしゃいましたけれども,佐藤委員,いい実践例ではない実践例というのも役に立つのでしょうか。 - ○佐藤委員
- いや,何を取り上げるかというのは非常に難しくて,逆に言うと実践がヒントになればいいのですよね。
- ○西原主査
- ヒントになればいいのですよね。
- ○佐藤委員
- だから要するに何か間違った例でもいいと,我々はそういうふうに考えます。
- ○西原主査
- 日本語教育の世界では,このごろは学習者同士学ぶと,ビギナーと言うか,できない子からも学ぶというようなことが言われています。
- ○佐藤委員/dt>
- ただ,その実践例の学校の先生方,これも日本語教育ではどうなるかよく分かりませんが,学校現場であると実践例の記述の仕方が,非常に典型的で面白くありません。「こういうねらいでこういうふうにやったら,こうなりました」しかなくて,非常に平板なんです。
だから,私たちが考えていたのは,どういう子供たちを背景にしてどういうねらいを作って,どんな実践をしたかということが大切で,結果はうまくいかなかったものでもいいと想定していましたし,私たちの東京学芸大学国際教育センターではそういう実践例を集積しているのですが,なかなか取上げ方が明確であるかどうかとか,視点が明確であるかどうかという議論になってしまうと難しく,何がいい実践例か分からないので,それは多様な例があってもいいのではないかというふうに思います。 - ○西原主査
- 選んで非成功例を集めるということは,多分何か見習わなければならない,何かアンチテーゼ(antithesis)だけを学ぶになってしまう可能性はあると思います。
- ○佐藤委員
- ええ,だから何でもいいと。素晴らしいものももちろんありますし…。
- ○西原主査
- そのために今度は教材のプロトタイプを作るのにかかわる人たちというのは,日本語教育小委員会ワーキンググループはもちろんですが,その協力者たちの中に,実際に生活した外国人で「こうされたのでとても良かった」と思っている人も,入ってよろしいのでしょうか。どういう人が作るか,次にどういう人を集めて教科書のプロトタイプを作っていくかということですね。来年度のことになるのですが…。
- ○井上委員
- プロトタイプというのは,教材のプロトタイプですか。
- ○西原主査
- 教材のプロトタイプを作るとお約束しています。教材そのものがどの程度イメージできるのかというのは,またこの日本語教育小委員会が決めることだと思いますし,それがペーパーメディアなのかということについても,これは課長,お約束しているのでしょうか。ペーパーメディアというか冊子ということで。
- ○匂坂国語課長
- そこまでお約束はしていないと思いますが。
- ○西原主査
- ええ,でも,来期には大体物として見えるものが提示されて出ていくのでしょうか。
- ○西村日本語教育専門官
- 前期のまとめでは,教材のプロトタイプの作成・提供に向けた検討を行うという,そういう御提言だったと思います
- ○西原主査
- その教材のプロトタイプとは典型例として冊子体になっていて,この参考資料1「「生活上の行為」の事例の整理(改定版)」や配布資料2−1「学習項目の要素について(08 物品購入・サービスを利用する)」などから「例えばこれです。」と言って出すということでしょうか。
委員の皆様は,媒体としては,どういうイメージで日本語教材のプロトタイプというのをとらえていらっしゃいますか。 - ○山田委員
- 紙だと思っていました。
- ○西原主査
- 紙ですか。
- ○中野委員
- 紙を否定はしないのですが,ぜひウェブでそこからダウンロードでき,やはりワークシートなども入っているというのがいいのではないでしょうか,選べる権利はあるべきでしょう。
- ○伊藤委員
- そうですね。やはりインターネットもなかなかまだ使えない方がいらっしゃるといけないので,すべての方にということであれば紙がいいですね。
- ○西原主査
- 地域の国際交流協会とかでは…。
- ○伊藤委員
- 地域の国際交流協会ではインターネットを使います。
- ○西原主査
- 使えないということはないですよね。
- ○伊藤委員
- それはないですね。地域の国際交流協会が使えるといいんですけれども,地域の国際交流協会だけではなくていろいろなところで活動を行っているものですから,すべての人にと言うと,やはり併用する方がいいかなと思います。
- ○中野委員
- 生活,学習,就労などいろいろな領域において,本当に基本中の基本の教材を国が作ったとしても,現場は多様であり,それだけでは対応できないですから,そこはウェブで補充する必要があります。どうしても両方になるのではないでしょうか。モジュールだけ引っ張ってきて,ある目標だけやりたい人はそこをできるというような形ですね。じゃないと,今,日本語教育小委員会で行っている作業は生きてきません。
- ○西原主査
- 多様性を担保すると言うのに紙媒体だとかなり大変なのですが,「ただ,使ってみてください。」,「その結果何か改善点があればフィードバックしてください。」として,データベースと言うかカリキュラム案と言うのは膨らんでいくと思うのですが,そのためにやはり紙媒体が来ないと「使ってみました。」とは言えないのでしょうか
- ○井上委員
- 恐らく教材のプロトタイプの作成までは例えば,この委員会のメンバーを拡充するような形でできると思うのですが,それをリバイス(revise)して厚みを持たせるためには,最近よく採られる方法ですけれども,例えば様々な参加者を募って─もちろんある一定の審査とかレベルをチェックする必要はあるのかもしれませんが─採用するしないという形で各現場で行われている教材を集めてくるという作業,これは完全に協力者会議みたいなものを別途作り,そこでその協力者会議から全国に呼び掛けて,審査をした上でどんどんウェブ上に載せていくというところまでやってみてもいいのではないかと思います。
恐らくそれをするためには,今回行っている学習項目の要素や標準的なカリキュラム(案),これは単元でもいいのかもしれませんが,それを作成したときに,やはり全国のいわゆる国際交流協会だとか自治体だとか,日本語学校とか大学だとか,関係者に説明するような会,全国的な会合を行い,日本語教育小委員会で我々が何を意図してどういう作業をしたのかについて説明する必要があると思います。
そのときに明確にその指針として,これはやはり日本語教育のレベルアップを図るもので,全員がプロというのはなかなか難しいかもしれませんが,少なくとも例えば日本語を教える教師,あるいはボランティアも含めてなのかもしれませんが,研修,育成に使ってもらいたい,あるいは講座を作るときの設営のための,コーディネーターの基本的なデータとして使ってもらいたい,あるいは自治体の担当者の理解を深めるために使ってもらいたいというように,幾つかの目的を付けて示した上で,実は今年度教材のプロトタイプを作るので,その先に皆さんの御協力をお願いしたいというように双方向で,ギブ・アンド・テイクではないですけれども─先ほど佐藤委員がおっしゃっていたシステム化とか制度化と同義なのか分かりませんが─車が動き出すようなものを作っておかないと恐らく作りっ放しになって,極端なことを言えば見向きもされないおそれもないことはないです。
そういう車が動く動力源みたいなものを,来年の話をするのはちょっと早いですが,この標準的なカリキュラム(案),単元などを作るときから意識しておかなければいけないのかなと思います。要するに「ちょっと読んでみなきゃまずいな。」と思わせるようなものにしなければいけないのかなと思います。
参加型のOSの改定がありますよね,リナックス(Linux)のように,みんなが寄ってたかってオープンソースでどんどんOSを良くしていったという例がありますけれども,あれに近いようなものをこの世界でできないかなと思います。そこには当然玉石混交が出てしまうので,石の方をどうやって排除するかという仕組みももちろん必要ですね。それは皆さんプロの方の役目ではないかなと思うのですが。 - ○西原主査
- リナックスをやってみようとしても,文化庁国語課では人員的にも予算的にも…。
- ○井上委員
- あるところから渡さなければいけないと思います。
恐らく文化庁として,あるいは文化審議会として提示するものが教材のプロトタイプだとすれば,その先にやはり協力者会議のようなものを─事務は文化庁でやれるかもしれませんが─実際に作業をする参加機関というのは,やはり大学だったり,日本語学校だったり,自治体だったり,国際交流機関だったりということで,それこそ任意に手を挙げてもらってやるしかないと思います。そこは手弁当でもいいと思うのです。 - ○西原主査
- それから,山田委員がおっしゃるようにシステムそのもの,教育制度そのものは国がすべきことですよね。だれがかかわるかは別にして,日本に来た人に少なくともこれだけの学習は国が保証します,例えばドイツなどでは有料で,有料であってもいいのですが「これだけのことは国がやります。そして,十全に市民生活を始めてください。」と言えるように,一つとにかくやるべき緊急の政策課題であろうとは思います。それが緊急政策課題として実現するかどうかは別にして,とにかくこういうものが一人でも多くの人に活用されるということを,具体的に目指していくということでしょうか。
- ○加藤委員
- 先ほど,私の視点の中で変わってきたと申し上げたのですが,一つは本当に現場を見た場合に,ある程度形ができているものというものが常にアップされ,ホームページ上のものを組み合わせて現場に持ってきたらすぐに使える教材になるというシステムは,一つとても重要だと思います。それから,先ほど任意とおっしゃったことについてですが,本当に今私たち,例えば日本語学校が,今まで私たちの役割ではないとしていたものが,実は今,私たちが担えるのではないかということを,将来の日本とかを感じた場合に,強く感じています。
そういうときに一つは体制の中にどう組み入れられるか,そこの位置取りみたいなこともありますが,反対にデータベースに日本語学校等が蓄積したものを備えていくということで,いろいろな団体や組織が任意に参加でき,最終的には体制として一つのまとまったものができます。
上から作ってもらう体制と,それから,日本語学校等もアクセスし,かかわることができる道を用意しておくということです。それぞれの学校がどうするかは任意です。ただ,可能性としてそういった形で参加できる体制を作るということが,「データベースが自分たちの手が届くところにあるんだ」というシステム作りという意味合い,上からも下からも人がかかわるという形ができるといいなととても思います。 - ○西原主査
- 本当にそうですね。財団法人日本語教育振興協会とお話ししていても,実際の現場での教育のほかに,それぞれの立脚地点での地域貢献というようなことをイメージしていらっしゃいますよね。
大学でも地域貢献が,大学のやるべき大変な仕事の一つというふうにされてきていますし,企業でも社会貢献が,企業の持つべき倫理の一つという目標になってきているときに,加藤委員がおっしゃったように自主的にそこに参加していいものを作っていくこと,そこが定義されると人,企業,機関で参加してくるところがあるでしょうね。
それで教材のプロトタイプというのは,そこに何かイメージとして提示されると,「じゃあ。」と言って参加していただけるとすれば,その参加できるシステムをまず作らないといけないということになりますでしょうか。
中野委員が作っていらっしゃるところで,プロジェクトに参加をさせてほしいという人もいるわけでしょうか。 - ○中野委員
- 黙って待っていると,皆さんお忙しいので。働き掛けはします。ただ,その際,最初に我々のヒアリングで,あれは浜松国際交流協会でしたが,すごくいいカリキュラムを既に持っていらっしゃいました。私がそのカリキュラムをほかでもお見せになっているんですかと質問をしましたが,それに対しては「いや,問い合わせもないし,一度も見せたことはない。」とおっしゃいました。それが,あのカリキュラムの中に今議論されている目標が入っていくとつながるわけです。既にある非常に実績のあるカリキュラム,著作権をもし社会貢献ということで出していただけるのであればですけれども,そういう既にあるものと日本語教育小委員会の審議内容とがつながる瞬間と言うんでしょうか,そうするとゼロから作らなくてもという気がするのですが,いかがでしょうか。参考までに,私たちは大学で力のある先生が今までやっていらしたカリキュラムや教材を共有化することから始めました。
- ○西原主査
- おっしゃるように地域でできている,既に動いている教育活動の中に,あたかもここをベースにしているのではないかと思われるような活動は,たくさんあります。それらを組み込む形で日本語教育小委員会の審議結果も示されていくということも一つの発展型ということになるのでしょうか。
- ○尾﨑委員
- 先ほどの話との関連なのですが,日本語教育学会では平成19年度と平成20年度に文化庁の「生活者としての外国人」のための日本語教育事業の「外国人に対する実践的な日本語教育の研究開発」の委託を受け,1年半で2回報告書をまとめています。その報告書の中の一つは,ボランティアの方を養成するためにどういう活動が行われているかということについて調査をしております。それで100名ぐらいの方が全国で協力をしてくださっていて,その方たちは,それなりにそれぞれの地域で活動しているボランティアの教室とつながりがあるわけです。
ですから,そういった方に呼び掛けて,もし教材のプロトタイプなり何なりを今後作っていくときに協力してほしいとお願いはできます。そうすると中野委員が先ほどおっしゃったような上から降ってわいた教材というのではなくて,実際に自分たちがやっていることをベースにして作ったものがどこかにプールされていくというのは,やはり自分たちがかかわったということになるので使ってもらえると思うのです - ○西原主査
- 佐藤委員がおっしゃった実践例というようなことを,提供していただくということですね。
- ○尾﨑委員
- はい,そうです。それともう一つは,調査に協力してくださった方たちがボランティアの養成講座をいろいろな形でやっているので,自分たちがやったものを集めようということで今集めています。それを何らかの形でまとめていろいろな形で利用してもらうというような動きも,今現に進んでいますから,そういったところに協力を要請することはできるかなと思います。
もう一点最後に,井上委員がおっしゃったように我々がやっていることをもっと広く知ってもらうということがすごく大事だなと思います。「
啓蒙 的」と確か議事録のどこかにあったのですが,こういうことが( 啓蒙 的というのは,日本人に対して( 啓蒙 的という意味で考えると,もっとマスコミとかそういったところにも情報を流して,夏の文化庁日本語教育大会だけでなく,この成果の発表の場をもう少し設けてもいいなという感想を持ちました。( - ○西原主査
- ありがとうございました。
これは委員の皆さんが,各立脚母体のところで一言おっしゃってくださると大分違うということでもあるかと思いますが,「日本語教育小委員会が日本語教育小委員会として,こういうものを作っているのです。」ということを,声を上げていくことによっておのずからからいろいろ情報が集まり,事例が集まりというようにそういうサイクルで回っていくとより豊かなものができていくというのは,おっしゃるとおりですよね。我々が審議し,作業をしていることについては意外と知られていないです。意外と知っておくべき人が知らないということはあるでしょうね。
それと浜松国際交流協会の名前が出ましたけれども,浜松国際交流協会の人と話していたら,例えば「これは厚生労働省のお金で作ったから文科省には出せない。」ということがありました。これは逆もあると思うのですが,自主規制みたいなものが働いて,結果として何かいいものがしまわれていくということがあるのでしょうね。 - ○杉戸副主査
- 先の作業のことを考えながら伺っていたのですが,我々が日本語教育小委員会ワーキンググループなり,あるいはそれを支えてくださるチームを組むなりしてやる,作り上げるというそういう作業にとっても,今ちょっと話題になっていた実践例を集めるということについても,何か枠組みがないと広がる一方ですね。
いろいろな意味で多様性が交錯する世界を相手にするわけだと思いますので,固い言葉で言うと変項,変わり得るバリアブル(variable)の枠を幾つか設定して,例えばだれが学ぶためのカリキュラムや教材であるのか,それから,その学ぶ人を支えるのはどういう人たちであり,どういう人たちが使うカリキュラムや教材であるのかということを思いました。今,人の枠について変項が二つありますが,変わる項目,それが必要だと思うのです。
それ以外にどういう変項を設定したら,学習項目の要素を集めるにしろ,作るにしろ,その作業が進み始めるのかということを,もう少しはっきりさせていく段階が必要かと思います。つまり日本に来て間もない外国人が生活基盤を形成する上で,そういう学ぶ人の設定を今まで前提としてきているわけですが,それだけでないという話に,今日のお話を伺っていたら何かちょっと広がりを見せ始めたような気がしたのです。 - ○西原主査
- そこは動かないでということでしょうね。
- ○杉戸副主査
- そこを動かさないという共通理解をした上です。
- ○西原主査
- そうですよね。標準的なカリキュラム(案)や教材の対象となる学習者は「レベル1である。」ということも理解をした上で,「属性別の部分や特別なところは今後行います。」ということですよね。今日の話がまとまらず,いろいろな御意見が出たのは,むしろこの教材のプロトタイプを使う人がだれなのかということは,一定でないというところで御意見が一致したということだと思います。
- ○杉戸副主査
- その一定でないところにどういう変数と言いましょうか,種類を幾つ準備するかということで,その教材のプロトタイプの種類,作らなければいけない教材のプロトタイプの数が変わってくるわけですね。
それで,学ぶ人と支える人の二つの人以外にどういう変項があるかということで,例えばこの参考資料2「「生活上の行為」の分類一覧」のこの項目も変項となり得ます。つまり,参考資料2「「生活上の行為」の分類一覧」の大分類01「健康・安全に暮らす」について作業を進めて,大分類02「住居を確保・維持する」は当面作業を進めないというような,そういう具体的な作業レベルではですね。 - ○西原主査
- そうですね。その場合はサポート人材というか,国民一般という人たちもかかわる人ですね,つまり我々が行っている作業の波及効果としてもたらす人たちに外野がいますよね。
- ○杉戸副主査
- 外野も意識したカリキュラムということにすると,変数……。
- ○西原主査
- いや,カリキュラムまで意識する必要はないかもしれないですけれども,外野はどこまでかかわるのかということも確かにする必要があるかと思います。
- ○杉戸副主査
- 申し上げたいのは,作業を始めるときに「こことここはこういう枠組みで考えよう。」というその枠を,意識的に共通理解をして出発したいということです。
- ○西原主査
- ありがとうございます。
本日はいろいろな御意見が出ました。そして,その御意見の中には錯綜 した部分もありましたけれども,一致した部分もかなりあったと思うので,事例を充実させるとき,それから,教材のプロトタイプのイメージ,そして,それはだれがどういうふうに使うべき教材なのかということに関して,そして,その教材のプロトタイプとは一体何なのかということに関して,いろいろな御意見を頂いたと思います。(
それが一つになったかというと,御意見のまま分かれている部分というのがかなりあると思うのですが,少なくとも合意したということについては,事務局に次回の議事録できちんとお示しできるようにしていただけたらと思います。それから学習項目の要素の記述を拡充していく際に,どの「生活上の行為」の小分類について記述を行うかということにつきましては,日本語教育小委員会ワーキンググループに御一任いただきたいと存じますが,よろしいでしょうか。そして,そのことのためには協力者も必要ということかと存じます。
では,ちょうど時間になりましたので,今日はこれで日本語教育小委員会を閉会とさせていただきます。御協力ありがとうございました。