議事録

第34回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成22年12月6日(月)
10:00 〜 12:00
旧文部省庁舎2階 第1会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,伊藤,伊東,井上,岩見,尾﨑,加藤,中野,西澤,山田各委員(計11名)
(文部科学省・文化庁)
舟橋国語課長,田中日本語教育専門官,仙田日本語教育専門職,山下日本語教育専門職ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 第33回国語分科会日本語教育小委員会・議事録(案)
  2. 能能力評価に関するヒアリングについて
  3. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について
    −活用ガイドブック
  4. 教材例のコンセプトについて
  5. 教材例のサンプルについて

〔参考資料〕

  1. 標準的なカリキュラム案の活用及び指導方法について(案)
  2. 標準的なカリキュラム案における言語及び言語習得についての考え方について(案)
  3. 日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)

〔机上配布資料〕

  1. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について
  2. JF日本語教育スタンダード2010
  3. JF日本語教育スタンダード2010 利用者ガイドブック

〔経過概要〕

  1. 事務局から配布資料の確認があった。
  2. 前回の議事録(案)が確認された。
  3. 配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」について事務局から説明があり,その後,西原主査から説明者について紹介があった。
  4. ヒアリング[1]
    八田直美氏,島田徳子氏(独立行政法人国際交流基金)から「JF日本語教育スタンダード」について説明があり,その後,委員との間で意見交換が行われた。
  5. ヒアリング[2]
    嶋田和子氏(イーストウェスト日本語学校)から「OPI:Oral Proficiency Interv iew」について説明があり,その後,委員との間で意見交換が行われた。
  6. 上記4及び5の終了後,更に自由な意見交換を行った。
  7. 事務局から配布資料3「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について ―活用ガイドブック」,配布資料4「教材例のコンセプトについて」,配布資料5「教材例のサンプルについて」について説明があり,その後活用ガイドブック及び教材例について意見交換を行った。
  8. 質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。
○西原主査
ただ今から文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の通算34回目,今期10回目ということになりますが,会議を開会させていただきます。前回の第33回日本語教育小委員会では能力評価についてのヒアリングの第1回目を行い,それから標準的なカリキュラム案の活用及び教材例について検討しました。能力評価についてのヒアリングは前回の日本語教育小委員会と今回の日本語教育小委員会ともう一度行うことになっています。本日も御発表の方々においでいただいているところでございます。
標準的なカリキュラム案の活用のためのガイドブック及び教材例につきましては,第33回日本語教育小委員会での御意見を踏まえ,12月1日に行いました第21回日本語教育小委員会ワーキンググループで作業を行いました。本日,御提案申し上げる配布資料3「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」,配布資料4「教材例のコンセプトについて」,配布資料5「教材例のサンプルについて」について検討したところでございます。教材例については,主として様式について検討作業を行いました。
本日は,能力評価に対するヒアリングの第2回目ということで,独立行政法人国際交流基金の八田直美氏,島田徳子氏そしてOPI(Oral Proficiency Interview:オーラルプロフィシェンシーインタビュー)について嶋田和子氏に御発表いただくことになっております。その後,教材のカリキュラム案の活用,それから教材について検討を行うということで2時間を使いたいと思います。
では,早速ですが,JF日本語教育スタンダードについて,独立行政法人国際交流基金の八田直美氏,島田徳子氏から御発表をいただきたいと思います。それぞれ本日の御発表の内容については,もっとたくさん時間を使って勉強しなければならないところなのですが,私どものタイト(tite)なスケジュールのため,非常に短い時間になっておりますが,どうぞよろしくお願いいたします。
○発表者(八田)
独立行政法人国際交流基金の八田と申します。本日は島田と二人でJF日本語教育スタンダードについてお話をさせていただきます。初めに本日は能力評価に関するヒアリングということですので,私から配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の3ページにあるヒアリングシートに沿って簡単にお話をして,後ほど,島田からJF日本語教育スタンダードの全体像と本日のポイントなるところについて詳しくお話をさせていただくことにいたします。
お手元の配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」を適宜御参照いただきたいと思います。
JF日本語教育スタンダード,少し長いのでJFスタンダードと言わせていただきます。これは,日本語の教え方,学び方,学習の成果の評価の仕方を考えるツール(tool)として独立行政法人国際交流基金が開発したもので,今年7月に発表しました。私どもの外国人日本語教師研修でも実際に使用しているのですが,ツールとして国内外の皆さんに使っていただくために提供しているので,特に標準的な使用方法がある訳ではありません。配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の3ページ,「2.能力測定の実施について」の「(3)実施時期及び実施に要する時間」と「(4)実施方法」のところでは「コースのカリキュラムや目的に合わせて実施」という書き方をしています。
まず,初めに言語能力について,配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の3ページ,「2.能力測定の実施について」の「(1)評価についての考え方」ですがJFスタンダードでは,日本語を使って何がどのようにできるかということを重視して考えています。また,その中で評価は教育の一部としてその目標や教室活動との一貫性があること,それから,教育に参加する人たちの間で透明性があることを重視しています。 
このJFスタンダードの開発の基礎になったものとして,ヨーロッパのCEFR(Common European Framework of Reference for Languages・ヨーロッパ言語共通参照枠)があります。CEFRの考え方を取り入れていますので,その中で言語能力を何がどのようにできるかというコミュニケーション言語活動とそれからコミュニケーション言語活動を支えるコミュニケーション言語能力に分類して記述しています。
何がどのようにできるかという形の記述ですので,最近よく言われているキャンドゥーステートメント(Can-do-statements)という形でお示ししています。これが,言語能力の横への広がりです。そして,それが言語熟達度において六つのレベルがあると考えています。これが縦の広がりになります。
本日は,後ほど島田から言語熟達度の考え方とキャンドゥーステートメントを活用した学習教育の目標設定と評価作成の手順を説明させていただくことになります。言語活動は課題遂行を目的にしていて,それが「どのようにできるか」ということになりますので,パフォーマンス(performance)評価を取り入れます。それから,パフォーマンスを支える異文化理解能力,それからその学習過程を記録したり評価したりするためにポートフォリオ(port folio)評価を取り入れるという考え方になっています。能力評価の結果の活用は教師,学習者,講師関係者など教育にかかわる全ての人が教育や学習を振り返り,その目標が達成されたかどうかを確認して,今後の改善に活かしていくものだと考えています。
また,JFスタンダードは,ヨーロッパのCEFRの枠組みを活用していますので,同じようにCEFRを活用している機関,それから言語の間でレベルを比較したりすることができるというのが特徴になっています。
○発表者(島田)
JFスタンダードが言語熟達度をどのように捉え,学習成果の評価に関してどのような考え方をしているかについて,配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の5ページ以降資料がございますので,これを参照しつつ,それから本日お配りさせていただきました「JF日本語教育スタンダード 利用者ガイドブック」のページについても御説明したいと思います。
本日,私がお話しさせていただく内容ですが,先ほど八田からJFスタンダードの概要について話がありましたのでそこは簡単に確認して,次に言語熟達度に関する考え方を「JFスタンダードの木」と「キャンドゥーステートメント」の二つに焦点を絞ってお話をさせていただきます。
最後に,キャンドゥーステートメントを活用した目標設定と学習成果の評価をどのように行ったらいいのかということを日本語教育小委員会で作られた標準的なカリキュラム案の「能力記述」を例に取り上げまして,JFスタンダードの考え方に基づいて言語熟達度を加味したキャンドゥーステートメントにするにはどういう手順があるのかということを例としてお示ししたいと思っております。
6ページ上,先ほど八田の方から伝えたことですので,再確認ですけれども,ツールということですが,「相互理解のための日本語」ということをJFスタンダードでは理念にしております。ツールとして大切なこととして,多様な教育現場がございますので,多様な学習者のニーズ(needs)や学習環境に応じて,柔軟に活用できることというのが大変重要になっていると考えております。「スタンダード」と言いますと何か決まった特定の教え方,基準をお示しすると考えられがちですが,決してそうではなく,多様な環境に合わせて使っていただくものととらえています。
6ページ下,JFスタンダードを作る上で,CEFRの考え方,言語熟達度に対する考え方などを参考にして作り,開発いたしました。
7ページ上,「JF日本語教育スタンダード2010」というのが今年7月に2冊の冊子「JFスタンダード2010」,「JFスタンダード2010 利用者ガイドブック」とウェブサイト(web site)で全て全容を公開させていただいたのですが,CEFRの言語熟達度の考え方に基づいて,日本語の熟達度をキャンドゥーステートメント,能力記述文の形で示しまして,具体的には「みんなのCan-doサイト」というウェブサイトで提供しております。CEFRが考える言語熟達度につきましては,後ほどお話しさせていただきます。言語能力の段階と言語使用の広がりという,縦と横の二つの観点で言語熟達度を捉えているというのが特徴ではないかと思います。
JF日本語教育スタンダードが目指しましたのは,世界中のどこでも日本語を学んでいても,自分が今どういう能力を持っているのか,どのレベルなのかということが分かることにより,日本語学習の質の向上に貢献したいと考えております。
7ページ下,JF日本語教育スタンダードの理念が出てきた社会的背景としましては,価値観が多様化し,人と人との接触や交流の機会が拡大する現代社会におきまして,言葉によるコミュニケーションの重要性は高まることがあっても低くなることはございません。そういった今のグローバル(global)化の状況とか,それから昨年度の独立行政法人国際交流基金の機関調査の速報値にも実証されることですけれども,留学,就職と言った実利的な目的だけではなく,歴史や文化,アニメやマンガと言った日本語学習をする動機や目的も多様化しております。そういった多様化する日本語教育の基盤を整備するということでJF日本語教育スタンダードというものが出てきました。
世界中で,日本語を通じて相互理解をするためには,どんな能力が必要なのかということをJFスタンダードでは二つの能力が必要だと考えています。一つは日本語を使って,何がどのようにできるかという能力で,こちらは課題遂行能力と呼んでおります。もう一つの方ですが,異なる文化に接することによって,他の文化,そして自分の文化をよく理解し,他者を尊重する能力ということで異文化理解能力の二つが重要であると考えています。
8ページ上,この二つの能力をどのように育成し,評価するのかといったことをツールとして提案しているのがポートフォリオです。JFスタンダードが提案するポートフォリオは学習過程を記録し保存するものですが,JFスタンダードのポートフォリオでは,三つの構成要素でポートフォリオを作ることを推奨しております。
その三つの構成要素と言いますのが,一つが評価表,成績表です。この後詳しく御説明するキャンドゥーステートメントを使った目標設定シート(sheet)であるとか,評価基準,テスト,そういったものはこの評価表の中に入れます。それから二つ目が,言語的,文化的体験の記録,JFスタンダードでは言語熟達度をみんなで共有することというのが非常に重要であると考えていますが,それと同じくらい重要なこととして,言語使用者,言語学習者が実際にその言語を使う経験や,社会の中で言語を使う,そして異文化の体験をする,そういったことも同じぐらい重要だと考えております。そういった経験を記録するツールとしまして,言語的,文化的体験の記録,それから実際に学習者が作った作文,会話のテスト,そういったものを保存していく学習の成果という三つの構成要素を提案しています。ただ,この三つを必ずJFスタンダードを使ったポートフォリオに入れるべきという考え方ではなく,教育現場の状況,ニーズに合わせて,「これらの三つの要素を参考にしながら,自由にポートフォリオを作ってください」ということを御提案させていただいております。
本日の話では,言語熟達度に関する考え方,それから評価についての考え方ということが重要なポイントになると思いますので,ここからは言語熟達度に対する考え方を少し詳しく見ていきたいと思います。8ページ下に移ります。
先ほど,JFスタンダードでは,「みんなのCan-doサイト」でCEFRの言語熟達度の考え方に基づいた日本語の熟達度をたくさんのキャンドゥーステートメントをデータベースとして提供していると申し上げましたが,CEFRの考える言語熟達度を見ますと,一つは,「A1」,「A2」,「B1」,「B2」,「C1」,「C2」という言語能力の段階を示す六つのレベルの尺度というのが出てきます。それとともに言語使用の広がりとしまして,多様な場面で言語を使う場面がありますが,これを言語使用の広がりとしてCEFRでは示しているのですが,JFスタンダードではこれをもう少し分かりやすくするために「JFスタンダードの木」というメタファー(metaphor)で,木の形でお示ししました。言語熟達度を言語能力の段階と言語使用の広がりという二つの軸で見ていくというように考えております。
まず,言語能力の段階の六つのレベルに関しましては,「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」の中でも参照されているとお聞きしていますが,「A1」,「A2」,「B1」,「B2」,「C1」,「C2」という六つのレベル,大きくは「Aレベル」,「Bレベル」,「Cレベル」三つの段階に分かれ,「Bレベル」が,その言語を使って自立的に社会で行動できるレベルであるということになるのですが,そういったCEFRの尺度をJFスタンダードでも使っております。
9ページ下,もう一つの言語使用の広がりを示す「JFスタンダードの木」ですが,これは言語によるコミュニケーションを言語能力と言語活動の関係でとらえまして,一本の木で表現したものです。机上配布資料3「JF日本語教育スタンダード2010 利用者ガイドブック」の6ページ,7ページを御参照ください。
私たちが言葉を使ってコミュニケーションする場合に,基礎となる言語能力が必要になってきますが,この言語能力というのは普段目に見えないところにあるコンピテンス(competence)と言われるものであり,これを木の根で表現しました。そして,この言語能力を使って,さまざまな言語活動を行いますが,この言語活動というのは目に見えるものであり,これを木の枝としてお示ししました。
10ページ上,実際のコミュニケーションでは,「JFスタンダードの木」で示しました言語に関する知識や能力以外に異文化理解能力ですとか,学習能力,他の能力とか様々な知識,社会文化知識,一般知識,専門知識などの様々な知識,それから経験,そして個人の態度や価値観,性格等も必要になってきます。ですので,課題遂行能力という能力は多面的,総合的な能力として捉えています。
ですから,言語学習環境をデザインする際に「スタンダードの木」で示した活動と能力だけを参照してデザインするのではなく,その方々のニーズや状況に合わせて,他の要素についても考えつつ,学習環境をデザインし,提供するということが必要になってくると考えています。
それでは,コミュニケーション言語能力を少し詳しく見ていきたいと思います。
10ページ下,こちらは木の根として表現され,言語によるコミュニケーションを支えるものですけれども,机上配布資料3「JF日本語教育スタンダード2010 利用者ガイドブック」では6ページの下にあります。三つの能力でとらえています。「語彙」,「文法」,「発音」,「文字」,「表記」などを表す「言語構造的能力」,それから真ん中にあるのが相手との関係や場面に応じた適切さを駆使する「社会言語能力」,それから,会話の流れなど,流暢さとか正確さに関するような能力を「語用能力」と考え,三つの能力で言語コミュニケーションというものをとらえております。
11ページ上,枝のように広がる多様なコミュニケーション言語活動ですが,言語能力を基盤として,木の枝のように広がる,際限なくいろいろな活動がございますが,これを便宜的に言語教育の現場で扱いやすくするために,CEFRが提示している言語活動の分類を参考にしまして,読む,聞くなどの「受容的活動」,一人で長く話す,一人で書くという「産出」の活動,それから,会話や手紙のやり取りなどの他者の存在が必須となるような「やり取り」の三つ,更に「受容」,「産出」,「やり取り」という三つにはっきり分かれないような,要約をしたり,メモを取ったりノートを取ったりという「テクスト(text)」に関する活動と分類いたしました。そして,コミュニケーション言語能力をうまく使って,コミュニケーション言語活動をするために必要になってくるのが,この「コミュニケーション方略」ですが,こちらも受容,産出,やり取りの言語活動の種類ごとに方略を示しております。
11ページ下,例えば,木の枝の赤い産出の左側の枝を御覧ください。木の枝や芽で表された言語能力の構成要素と言語活動はカテゴリー(category)と呼んでおりますが,全部で53のカテゴリーがございます。例えば,この産出の話し言葉に関するカテゴリーは12番から16番に該当しますが,こういったカテゴリーがございます。カテゴリーというのは包括的ではありますが,網羅的ではございません。スタンダードの木を御覧いただきますと番号の付いていない枝や根がたくさんあることが分かると思います。こちらは必要であれば必要な枝や根を追加していくということで番号の付いていない枝や根がございます。
また,CEFRも汎言語的な枠組みですので,各言語に特有のものに関しては示しておりません。JFスタンダードに関しましても,日本語の特徴である漢字,待遇表現,そういったものを根や枝のどこに配置するかということが今後の大きな課題として残っております。
この木を使いまして,活動と能力がどのような関係になっているのかということを少し見てみたいと思います。
12ページ上,先ほどの講演やプレゼンテーション(presentation)をするという産出の枝にあった16番の活動ですが,この活動を支えている言語能力は何かということについて,少し根の方に目を移してみます。そうしますと,言語構造的能力の語彙,文法,音素の把握―これは難しい言葉ですが,発音とお考えください―と言った能力が必要であるということになります。正書法の能力といったものも言語構造的能力にはあるのですが,話し言葉であるので,このプレゼンテーションの活動には必要ないだろうということで外すことができます。
また,社会言語能力はやり取りで必要な能力ではあるけれども,プレゼンテーションや講演では優先される能力ではないかなということで,これも外します。
そして,語用能力の中で,講演やプレゼンにどんな能力が関係するかと見ていきますと,話題の展開,一貫性と結束性,話し言葉の流暢さといったものがこの講演やプレゼンという活動には関係しそうだということが見てとれます。
12ページ下,一方,これと比較する形で,やり取り,インフォーマル(informal)な場面でやり取りをする,例えば,地域の方々ですと近所の方と立ち話をするであるとか,子どものお母さん仲間と話をする。そういった場面での能力を見ていきますと,話し言葉ということは共通していますので,言語構造的能力に関しては先ほどの講演やプレゼンテーションと共通の能力になってくると思います。ただ,今度はやり取りですので,社会言語能力,社会言語的な適切さといったことにも配慮する必要が出てきます。
そして,語用能力に関しましては,「講演やプレゼンテーションをする」場合は一貫性や結束性,そういったことが必要になってきましたが,「インフォーマルな場面でやりとりをする」場合は発言権を取る,そういったことがより必要になってくるということで,活動の種類によって必要となる,優先的に学ぶべき能力というものが動的に変わるといったことがJFスタンダードの木でお示ししたかったところです。
今,JFスタンダードの木を活用した例を御説明しましたが,13ページ上,ターゲット(target)となる学習者に必要な言語活動とその言語活動を行うために必要な言語能力のカテゴリーはどれになるかということを考えながら,学習目標を立てることができます。あとはターゲットになる学習者の方のニーズによっては,能力は既に持っているけれども,使用した経験がないがために,うまく言語活動としてきちんと能力を使いこなせてないという方もいらっしゃると思います。そういった方は能力を身に付けるのではなくて,言語使用の場面をたくさん提供するといった,木や根のどの部分を学習する必要があるかということを考えることによって,その方に合った学習方針を組み立てることができると考えております。
続きまして,もう一つ,能力の評価,熟達度を考えるための「Can-do」という概念ですけれども,13ページ下,「Can-do」というのは先ほど御説明しました「JFスタンダードの木」の53のカテゴリーに「A1」から「C2」のレベルの属性をそれぞれ持った形で「Can-do」があります。今,お示ししているのが,「講演やプレゼンテーションする」というカテゴリーのCan-doを「A1」から「C2」までピックアップ(pick-up)した例ですけれども,このようにカテゴリーごとに言語活動,言語能力についてレベルごとに「Can-do」がたくさんあります。
14ページ上,JFスタンダードでは,これらの「Can-do」を教育現場でより活用しやすくするために,Can-doの種類によって4種類に分けています。言語活動をあらわすCan-doを「活動Can-do」,それから能力を表す,根っこの部分ものを「能力Can-do」,テクストに関する言語活動のものを「テクストCan-do」,それから方略に関するCan-doを「方略Can-do」と呼びます。一つの課題遂行を行う場合には,その課題を遂行するために必要なCan-doを複数のCan-doの組合せで考えます。
例えばB1のレベルを目標にする学習者ですと,B1の活動Can-do,能力Can-do,テクストCan-do,方略Can-do,その方が行うべき課題遂行に合わせて異なる種類のCan-doを組み合わせて学習目標の設定,評価を考えるということを提案しております。
14ページ下,現在,JFスタンダードで提供しているCan-doですけれども,具体的には「みんなのCan-doサイト」で提供しているので,CEFRのCan-doは「活動」,「テクスト」,「方略」,「能力」の4種類に分類して全部で493のCan-doを提供しています。しかし,JFスタンダードを開発する過程で独立行政法人国際交流基金の教育現場でこのCEFR Can-doを使って学習目標設計ですとか,評価を考えたときに,「かなり抽象的な記述で難しかった」という反応が現場の日本語教師から返ってきました。それを踏まえて,「多様な使用場面をより具体的に示し,日本語教育の現場で使いやすい活動のCan-doをもっと増やそうじゃないか」ということになり,より具体的なCan-doとして15のトピック,話題を付与したJFCan-doを提供することにしました。現在はA1,A2,B1の270のJFCan-doと呼んでおりますが,これらのCan-doを提供しています。B2のレベルのCan-doを現在開発中です。
あくまでもCEFRCan-doもJFCan-doも例ですので,多様な現場では自分たちの状況に合ったCan-doを作っていかなければならないと考えています。このCan-doを現場に合ったCan-doとして「MY Can-do」と呼び,多様な「MY Can-do」をどんどん作っていただくということを提案しています。
15ページ上,Can-doを活用した目標設定と評価ということで,最後に具体的にどのようにCan-doを使って,目標設定して評価するのかということを簡単にお話しして終わりたいと思います。
Can-doの活用方法としまして,現場に合った独自のCan-doを作るということがございます。多種多様な日本語教育の現場に合った独自の学習目標を立てるということと,多種多様な日本語教育の現場が同じ物差しを使うというのは,一見矛盾したように見えますが,JFスタンダードではこの一見矛盾したものをいかに両立するかということを考えました。
共通の言語熟達度に合った学習目標を多様な現場でどう立てるかということで,先ほど御説明した活動Can-doの記述の内容を構造化して考えました。先ほどの言語活動のカテゴリーや,レベルの特徴というものを利用者が理解しやすくなることで,新しいCan-do,言語熟達度をキープした形で新しいCan-doを作るということができるのではないかと考えました。
15ページ下,その際に,活動のCan-doを「条件+話題・場面+対象+行動」という四つの構成要素で記述してはどうかということを提案しています。CEFRのCan-doは全てがこの構造になっているかと言うと,そうではありませんので,現場でCan-doを作る,使うときに記述を理解することが相当大変なのですが,JFスタンダードでは,ある意味単純化することでより多くの人たちが,Can-doを使っていただけるのではないかということを考えました。
16ページ上,例えば,「テレビや映画を見る」というCan-doのA2レベルとB1レベルを見ますと,A2レベルのCan-doというのは,話題,場面,対象部分を見ますと,出来事や自己を伝えるテレビのニュース番組のというように,かなり見るものが限定されています。それが,一つ上の段階のB1になりますと,本人の関心事である話題について,インタビュー,短い講演,ニュース,レポートなど見るものが非常に広がっているというのが分かるかと思います。このようにCan-doをレベルごとの特徴を加味して見ていくということを提案しています。
16ページ下,例えば,「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラムについて」の16ページにございます「医者の診察を受ける」という能力記述の一つとして,「症状を伝えることができる」というのがございます。例えば,地域在住の外国人の方で,初級修了程度で,買い物など日常の課題に関して,日本語で短い会話をすることはできるが,これからは自分の経験,出来事について,ある程度詳しく話をするなど,口頭能力を伸ばしたいと思っているという方の学習目標を設定する場合に,「症状を伝えることができる」という記述をどのようにMY Can-doにするかということを,三つのステップで御説明させていただきます。
17ページ上,まず,「症状を伝えることができる」の言語活動のカテゴリーを確認いたします。この場合,対象と行動という4つの構成要素の後ろの部分に注目しまして,この症状を伝えることができるということが受容なのか産出なのかやり取りのどれなのかということを明確にします。こちらは医者との面談の際のやり取りを想定いたします。
次に「症状を伝えることができる」は一人で話す産出なのか,それとも他の人と会話をするやり取りなのかについてですが,ここではやり取りというふうに考えます。
17ページ下,次のステップでは,話題,場面に着目して伝えるという言語活動の状況や場面をより明確にいたします。先ほどやり取りということがはっきりしましたけれども,標準的なカリキュラム案の中でも隣人に伝えるとか,伝える相手もいろいろですが,ここの場合は医者に伝えるということですので,相手は一人,そして打ち解けた場ではなく,医者対して伝えるということになります。ですので,ここでは病院で医者の質問に答え,自分の症状を伝える場面を想定します。
カテゴリーで言うと「インタビューをする,受ける」というカテゴリーになりますが,病院などで症状や過去の病気などに関する質問に対して答えることができるというCan-doになります。
最後にまだこの段階では,言語熟達度のレベルというものが入っておりませんので,この4つの要素にレベル,熟達度をあらわす表現を入れます。18ページ上,ここでは,B1を目標レベルとして,ある程度詳しく述べることができるという表現を利用いたします。
18ページ下,最後,でき上がったCan-doは「病院などで症状や過去の病気などに関する質問に対して,ある程度詳しく答えることができる」といったCan-doが出来上がります。例えば,今はB1のCan-doの作り方について,例を御説明しましたが,少し低いレベルのA2のCan-doは「ときどきくり返しや説明を求めることができれば,病院などで,どこがどのくらい痛いかなどの簡単な質問に対して,短い簡単な言葉で答えることができる」,それからA1ですと,「病院の診察室で触診を受けながら,「痛いですか」,「痛くないですか」といったときに,「はい」とか「いいえ」で答えられる」といった同じ症状を伝えるということも言語熟達度のレベルによって,違った能力記述に書き分けられることをお示しいたしました。
今,御説明しましたレベルごとにどのように目標記述をするかといったことですが,ピンクのほうの74ページから79ページにかけて受容,産出,やり取りごとの各レベルの特徴的な表現を一覧表に示しておりますので,これを参考にしてレベルごとの記述を作っていくことができます。
最後,19ページ下,評価をどうするかということについて,学習目標に合った評価基準を考える場合,パフォーマンス評価をする際に,このような例えば評価の観点が縦にあって,達成度が横にあるというような評価表をルーブリック(rubric)と呼ぶこともございますが,こういったものを使うと想定します。Can-doを使って,どのように評価基準を作れるかということですが,JFスタンダードの木の説明をしたときに,講演やプレゼンテーションという言語活動とインフォーマルな場面でのやり取りといったものでは,必要となる言語能力が異なるということを御説明いたしました。ですので,ターゲットとなる言語活動によって,必要な言語能力を把握した上で,その能力といったものが評価の観点としてピックアップされます。
そして,達成度というのをどのように扱うか,B1レベルの学習者であれば,例えば4,3,2,1の達成基準であると,「4 すばらしい!」,「3 できた!」,「2 もう少し!」,「1 がんばって!」という4段階でとらえる場合にB1のCan-doをできたというところに配置して縦軸を作るといったようにCan-doを使うということもできるのではないかと考えています。ただ,JFスタンダードの提供するCan-doだけで自動的に評価基準ができるわけではございませんので,専門家の知識や経験も必要ですし,先行研究等を見る必要もあると考えておりますが,このようなCan-doの活用例もあるのではないかと考えております。
21ページ下,最後のスライド(slide)には,今後のJFスタンダードの展開と課題について書いてありますので,また後ほど御覧いただければと思います。これで説明を終わらせていただきます。
○西原主査
ありがとうございました。能率よくお話を進めてくださって感謝しております。
何か確認の御質問がありますでしょうか。ヨーロッパが20年掛けてやったことを独立行政法人国際交流基金が5年で行い,素晴らしいものができていると思いますがいかがでしょうか。
○加藤委員
配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の15ページ下,てんびんの絵が書いてあるところで,「多種多様な日本語教育の現場に合った独自の学習目標」と「多種多様な日本語教育の現場が同じものさしを使う」ということは矛盾しているのではないかとおっしゃいました。いろいろな場がありながら尺度を一つと考えるのは矛盾するのではないかということでしたが,それは全くそんなことはなくて矛盾は全然していないと思っています。様々なところで行われている日本語教育にスケール(scale)がちゃんとなければ,様々なものがばらばらに展開してしまうと思っているので,この取組はすごく素晴らしいと思っています。
机上配布資料1「JF日本語教育スタンダード2010」の1ページ,一番最後のパラグラフに「グローバル化が進む世界において,日本語教育がさらに発展し国際相互理解が促進されることを願ってやみません」というように「発展」と書いていますね。海外の中での世界との接点,ハブ(hub)もそうですよね。そういうことで使われているわけで,それが「生活者としての外国人」もつながってくると思います。今,「生活者としての外国人」についておっしゃってくださいましたが,世界も含めて,どのようにつなげていこうとしているのか,そこに一番興味があります。
○発表者(島田)
様々なところで様々な方とお話しをする機会を頂きまして,世界のグローバルな観点で中等教育と高等教育をつなぐために,このJFスタンダードのフレームワーク(framework)を使ってCan-doをみんなでこの形で作っていき,連携するような形に持って行こうじゃないかというプロジェクトが起こりつつあります。それから,いろいろなところに呼んでいただいて,また,いろいろな地域に出かけて行って,JFスタンダードに関するワークショップ(work shop)をさせていただいたり,そういった機会をいただいて,少しずつ進めているということです。
○加藤委員
世界のJFスタンダードになればいいなと思います。
○西原主査
人の移動がこれだけ盛んになっているときに,「私はB1です」というように世界中で言えるというのは素晴らしいことだと思います。
○岩見委員
配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の21ページ上段,評価基準の例として出してくださった左の列の評価項目についてですが,評価の観点は言語能力から選んだという御説明でしたが,これはたまたま講演やプレゼンテーションする場合の列なので,この項目を選んだということですか,また活動が違えば,ここも変わってくるということでしょうか。
○発表者(島田)
その通りです。話を分かりやすくするために,この評価規準というのは,冊子の中で例示しているものもJFスタンダードの機能,範囲を超えていません。ただ,例えば「生活者としての外国人」に限らず,いろいろな現場では言語能力に直接関係しないことも評価する必要が出てきたりします。例えば,医者とのやり取りで日本の医者はとても診察時間が短く,急いで伝えなければいけないとか,そういった状況に対する理解,そういった知識の面も例えばこの中に入れてしまうといったことや,別の評価をするとか,そういった個々の現場ごとに観点というものは考えていく必要があると考えています。
○西原主査
詳しくはJFスタンダードのサイト(site)にアプローチ(approach)していただいて,見ていただくということができるかと思います。御質問等でまた別途お答えいただくこともあるかと思いますけれども,本日は,本当に限られた時間で大変有益な発表をしていただいてありがとうございました。
では,時間の関係で,続きまして,OPIについて,嶋田和子先生にお話をいただきたいと存じます。
○発表者(嶋田)
イーストウエスト日本語学校の嶋田でございます。それでは25分ほど御説明をさせていただき,あとは質問をお受けしたいと思います。
私は,「ACTFL OPI」というOral Proficiency Interviewのトレーナー(trainer)をしております。そのことからお呼びいただいたと思いますが,なるべく簡潔に,「OPIとはこういう評価なのか」ということをお伝えしたいと考えております。この配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」に沿ってお話をしていきます。
配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の26ページ,「能力評価に関するヒアリングシート(OPI:Oral Proficiency Interview)」を御覧ください。
まず,「2.能力測定の実施について」の「(1)評価についての考え方」についてですが,先ほど独立行政法人国際交流基金の方がおっしゃったように,「何がどのようにできるか」,私どもも正にそれを評価しようとしております。26ページ「2.能力測定の実施について」の「(1)評価についての考え方」の一つ目の「●」ですが,OPIは口頭能力インタビュー試験となりますが,発話において何ができて,何ができないのかを見きわめることによって,言語運用能力を総合的に測定するというものでございます。
OPIは評価に関しては,試験官マニュアルというのがございまして,これに沿って評価してまいります。本日はこの中から必要なところをスキャン(scan)し,配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」に掲載しております。
そして,OPIは相互のやり取りのある,臨機応変で学習者中心の評価です。OPIについては様々な定義がございますが,特にこれを本日は取り上げました。と言いますのは,普通の会話試験だと「これを聞く」というような質問項目が事前に決まっているものが多ございますが,OPIでは全く決まっておりません。質問項目は決まっておらず,被験者が言ったことからこちらが言葉を紡いで話を展開させていくということになります。こちらがこれを聞くのだということは事前にはないということです。ですから,今まで私ももう何百回やってきたと思うのですが,インタビューが一つとして同じものはないということがございます。やはりテスターに求められるのは臨機応変であるということです。そして,まさに学習者中心の評価であるということが言えると思います。
「(2)目的」にまいります。実生活で起こり得る状況で,どれだけ効果的にかつ適切に言語を使うことができるかというところから言語の運用能力を測っております。どう使えるかということです。これがOral Proficiency Interviewですので,その点を重視しております。
それから―これはマニュアルに書かれていることと言うよりは,私どもの運用に関する話ですけれども―単にレベル評価判定するだけでは余りにももったいないと考えています。せっかくきちんとした評価基準に基づいて評価しているわけですから,それをフィードバック(feedback)します。後ほど,またお話をいたしますが,現場ではむしろそういうことに使うことが多いように思われます。
次に,「(3)実施時期及び実施に要する時間」ですが,実施時期に関しては,それぞれの使い方によって違ってまいりますが,よく使われるのがプレイスメント(placement test),どのクラスに編入させるかという入学時,クラス分けのその時期に実施します。あるいは,卒業時期にある対象者にはOPIを実施するということもございます。それから,学期途中で定期試験として行うこともあるでしょうし,半年ごとに継続調査という形でやっていくということもございます。
ここで,気を付けていただきたいのは,OPIは短期間,毎月のようにやるというものではありません。何度も行うのではなくて,例えば半年,1年に1度というのが普通のスパン(span)でしょうか。なぜ,そういったスパンになるのかということについては後ほど御理解いただけると思います。
次に所要時間です。OPIそのものは10分から30分と決められております。この時間に幅があるのは,例えば学習者の語学のレベルが初級の下,初級の中でも限りなく初級の下になった場合には,できることも非常に限られておりますので,その場合には,10分から12分といった形になります。そして,30分と言うのはこれは上限は明確に決められております。30分を超えないようにとなっています。
と言いますのは,超級となりますといくらでも話せますが,やはりそうではなくて30分という決められた時間で幾つかの話題でこれだけの言語活動ができるということを提示してもらわなければなりません。
その後に,場合によってはインタビューで気付いたことを話し合うフォローアップインタビュー(follow up interview)を行うこともよくあります。
ここまでざっとお話をしましたので,レビューも兼ねて配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の30ページを御覧ください。
このページは補足資料でございますが,OPI,Oral Proficiency InterviewはACTFL(The American Council on the Teaching of Foreign Languages:全米外国語教育協会)というところでやっております。全米外国語教育協会,これは1967年に設立されました。先ほどからCEFRが出ておりますが,CEFRに大きく影響を与えたのもACTFLと聞いております。このACTFLというところは,最初から現場の教師も一緒に入って,何がどのようにできるかということを非常に重視して話し合いをやってきている団体です。そこで開発されたのがこのOPIとなります。
ここで重要なのは2行目です。汎言語的な会話能力です。つまりスペイン語,中国語,韓国語,そして日本語,全ての言語,今は40ぐらいの言語で行われていると聞いておりますが,全て同じ尺度,同じ評価基準で評価することになります。と言うことは,やはり日本語の個別性はどうなるのかということが出てくると思います。それは後ほど申し上げますが,OPIが持つ限界,課題であると思います。
特徴をまたもう一度まとめておきますと,OPIは口頭能力を測定するための1対1のインタビュー試験です。時間は最長30分で,30分を超えてはいけないということになっております。
そして,四つの評価基準があり,総合的な評価法となります。10段階による判定です。30ページ左下を御覧ください。10のレベルがございます。主要レベルが初級,中級,上級,超級となります。そして,初級,中級,上級に関しては,サブレベル(sub level),下,中,上というように分かれることによって,10段階となります。超級はこれでいいのかという課題も後ほど申し上げます。
次に30ページの図1「ACTFL判定尺度の主要レベルの範囲および下位レベルを表す逆ピラミッド」を御覧ください。これは『ACTFL−OPI試験官養成マニュアル』からスキャンしたものですが,このように言語能力をとらえておりまして,初級,中級,上級,超級とありますが,図2「境界域と主要境界」を見ていただきますと,中級と言っても下位レベル下,中,上はどのように決めるのかということなります。中級上というのは,中級のことが非常によくできるという観点だけではありません。サブレベルの上では,一つ上のメジャーレベル(major level)とどのような関係があるのかが非常に大切になってまいります。中級上というのは,中級のことはもちろんよくできるけれども,上級のタスクがかなりできる,しかしながらそれが維持,持続できません。持続できないというところが大切な観点となります。
図3「被験者の発話の図解」を御覧いただければと思います。中級でお話をいたしますと,中級上というのは,このテラス(terrace)型になります。かなりの部分,上級のことはできるけれども維持できていないというのが中級上となります。中級中と言うのは,典型的な中級な訳ですが,上から見た場合にどうなるかと言うと,やはり上級のことが時々できますが,この程度です。中級の下はどうかと言いますと,中級のことがやっとできる段階であって,上級,一つ上の主要レベルに関しては,心電図と言いましょうか―これを峰型と呼んでおりますが―まぐれのように少しできるというようになっており,あるレベルかどうかを決める際に,このように上のレベルからも見ます。このような視点で見ております。レベルについてはこのようになっております。
判定基準については,また後ほどお話しいたしますので,また27ページにお戻りください。
「2.能力測定の実施について」の「(4)実施方法」ですが,ACTFL−OPIには公式と非公式がありますが,本日は公式のところは省きますが,実施は非常に困難でございまして,ACTFLとやり取りをして,被験者がそちらに申込みをして,134ドルと聞いておりますが,それだけのものを払い,そしてやるということになりますので,実際には国内ではほとんど行われておりません。そこが非常に大きな問題点です。
非公式のところになりますと,2段落目になりますが,ACTFL−OPIの資格を持つテスターによって行われます。OPIの手順は正式なものと同じ形で行いますが,ACTFLからの証明を受けることはできません。ですから,これを仕事として行うことはできないわけですが,それぞれの機関内で,それぞれのアカデミック(academic)な目的,研究目的,教育目的で使うのは構わないということで,諸言語の中で日本語が一番活発,非常にテスターも多いと聞いております。やはりこの使い方からも,OPIが国内の機関内でいろいろな使われ方をしているということだと思います。ですから,それぞれの機関でフィードバックシートなりを使って評価したものを課しているということになります。正式な判定ではございません。
次の「●」についてですが,機関内実施のほかに,国立国語研究所などが調査研究目的でいろいろな使い方をしております。私も当初からずっと関わり,今もやっておりますが,例えば秋田県能代市の外国人分散地域の方々,定住外国人の方々とのやり取りをOPIで行っております。4年目になっております。
それから,群馬県大泉町では外国人集住地域の特に高校生を中心にOPIを行っておりますが,これも来年の2月に4回目となります。
そして,横断研究としては,約三百何十件となりますが,国立国語研究所が中心になってOPIをやってまいりました。これは多くのデータを取ることで,いろいろなことに使っていただけるのではないかと思っております。
それから,昨年度は国立国語研究所が大学共同利用機関法人に移管いたしましたので,文化庁委嘱プロジェクトで,200件のOPIデータを収集いたしました。ということで様々な動きがここ数年あるということをお伝えしたいと思います。
また,OPIは自然な日本語ではないのではないかという批判もあるかと思いますが,限られた中では非常に自然な形の発話が引き出せているということが言えると思います。OPIでは先ほど申し上げたように,本当に一人一人違うものが生まれてきます。学習者の顔が一人ずつ違うように,OPIで得られるインタビューの内容は違いますが,手順は標準化しています。これは後ほどお話しいたします。
それでは,次に参ります。「3.能力測定の方法について」の「(1)測定者」です。測定者の養成,資格はどうなっているのかというところですが,ACTFL−OPIのワークショップ,これが4日間ございます。これを受講して,その後,90日以内に練習ラウンド(round)によるインタビューテープを出さなければなりません。下にありますが,初級,中級,上級,超級全ての主要レベルの学習者とのインタビューを2本ずつ含んだものを出さなければならないという条件があります。その練習ラウンドでは,トレーナー,私どもがインタビューの構成はどうか,抽出方法はどうか,あるいは判定はどうかということを細かいレポートを書いた上で,それを参考にして次の認定ラウンドに進むわけです。
次に進んでいいと言われてから120日以内に認定ラウンドによるインタビューテープを提出しなければなりません。このようなプロセス(process)がございます。そして,トレーナーがある点数,8点以上取れて問題なしということになって,テスターとして認められるわけでございます。
また,OPIテスター資格は4年ごとに更新が義務付けられております。これは,やはり質の維持ということがありまして,必ず4年ごとにまた同じようなことをしなければいけないと決まっております。これが非常に難しいところですけれども,全員ではございませんが,何十%かは更新をしているということです。
OPIを機関内で実施する場合には,更新をしてないから,してはいけないということはございません。しかし,例えば国立国語研究所でOPIを実施するという場合には,テスター資格を更新してきちんと資格を持っている者というような条件を付けております。
それでは,配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の34ページを御覧ください。
御参考までに「ACTFL−OPI 試験官養成ワークショップ 時間割表」を付けてまいりました。定員は10人です。最初に90分ほど講義がございますが,後はほとんど全て参加者が実際にデモンストレーション(demonstration)をやるということになっています。デモンストレーションをやっていきながら,そこでみんなでディスカッション(discussion)するという,本当の意味でのワークショップを4日間続けます。毎日9:30から18:30,延びると19:00まで掛かるということを連日行いますが,終わってからみんなやはり良かったと言います。インタビューを見てもらい,それぞれがいい点はどこか,問題点はどこかということを参加者10人プラス私,トレーナーでディスカッションしていくわけです。
次に,27ページ,「3.能力測定の方法について」の「(2)測定内容」になります。
インタビューの内容は事前に決まったものではないと何度か申し上げました。被験者の発話を基に話を展開させ,話題を変えていくことによって進められます。一つ,二つの話題ではなくて,やはり得意分野ということがございますので,幾つかの話題を提示しながら,その人に合ったものでしかも整合性あるものをスパイラル(spiral)に上げていきます。どこに行ったら会話が挫折するのかということを見なければ評価になりません。そういうことをOPIではやっていきます。
最後の行ですが,OPIのインタビューは,試験官と被験者の間のできるだけ自然な会話に基づくものであるため,インタビューはそれぞれ独自のものであると言えます。そのため,自然さということから,学習者中心であるということが言えると思います。
28ページを御覧ください。ここはかなり重複しておりますので,省略いたします。要は標準化されたものということです。
32ページ,表4「OPIの4つの段階(p.45)」を御覧ください。OPIには,まず導入部がございます。OPIは全体で30分のインタビューです。初級ですと,15分の場合もありますが,導入部でまずいい関係でウォームアップ(warm up)いたします。「大体サバイバル(survival)できる」というところから始め,レベルチェック,「どこが安心してできるのか,この言語活動でこの言語能力,この人の場合はフロア(floor)はどこだろうか」というところを見ます。それがレベルチェックです。それから,突き上げ,これは牧野成一トレーナー(プリンストン大学東洋学科教授:言語学博士)が訳された言葉なのですが,プローブ(probe),精査ということを「突き上げ」と呼んでいます。どこまでいくと挫折するのか,言語能力のシーリング(ceiling)はどこかというところを見ていきます。このようなことを繰返しながら,「この人はこれができてこれができないから,中級中である,上級のことはこれだけできるのだ」というところを見ていきます。
それから,最終4分の1から3分1辺りで,ロールプレイを行います。これは会話モード(mode)では測れないものを測りたいということからやります。そして,突き上げをやっていきますので,最後はウインドダウン(wind-down),「いい関係で,よかったね,また頑張りたい」という雰囲気で終わっていきます。これが標準化されたOPIの構成となっております。
28ページに少しだけ戻っていただきます。今申し上げたことが測定方法のところでお話ししたことです。
「4.能力評価の方法について」の「(1)評価者」にまいりますが,非公式OPIだけを取り上げました。これはテスターがレイティング(rating)をいたします。そしてOPIが終了します。場合によっては,例えば国立国語研究所の調査のような場合には,セカンドレイター(second rater)も立てます。そして,それがずれた場合には,サードレイター(third rater)を立てるということをして信頼性を保つようにしております。
「4.能力評価の方法について」の「(2)評価基準」に移りますが,OPIの評価基準はどのような評価基準なのか。先ほどから四つの評価基準と申し上げておりましたが,「1.総合的タスク/機能」は何ができるのか,それはどのような「2.場面と話題」か,そして「3.正確さ」,最後に「4.テキストの型」ということで構成されております。もう一度31,32ページを御覧ください。
これが判定基準になります。今申し上げた四つの基準です。「総合タスクと機能」,「場面/話題」,「正確さ」,「テキストの型」があります。これは「初級」,「中級」,「上級」,「超級」でこのようなことができるかどうか見るということです。先ほどもありましたが,「できる」ということで書かれております。
「テキストの型」について見ると,初級は「単語と句」,中級は「文」生成能力がある,上級では「段落」構成ができる,超級は「複段落」ができるとなっております。ここで気を付けていただきたいのは,「初級上」というのは,単語,句であればいいということではなく,一つ上の級のことがかなりできるということは,文でかなりの部分が話せるけれども,維持ができないというような意味となります。
32ページを御覧ください。表3「総合的タスクの階層的配列」のところだけ少し詳しいものを載せました。初級レベルの話者の特徴は何ができるか。正に何ができるという意味でcan-do-statementで全て書かれております。これはCEFRと同じということになります。
28ページにお戻りください。「5.能力評価の結果の活用について」ですけれども,これは本当に様々ございます。ただ,申し上げたいのはとにかくOPIには明確な基準があるということから評価としての活用が非常に有効であるということをここでお話をします。地域でも使うことができますし,学校内でもいろいろな使い方をしております。時間が25分と限られておりますので,詳細の説明は割愛いたしますが,最後の課題のところでこれもお話ししていきたいと思います。
OPIを使うことにより,「何ができて,何が十分でないのか。」,これが明確になります。そして,次のレベルに行くにはどうすればいいのかということが指導者と言いますか,支援者,教師にも,そして学習者にもそれがよく見えるということです。ということをお話しして,29ページ,「6.その他」に行きたいと思います。
「●留意点」ですが先ほど申し上げましたように,OPIは何度も毎月のようにやるものではございません。ある期間をおいて,能力というものを幅で捉えておりますので,そこからどう上がっていくかということになります。
「●課題」ですけれども,実用性の面で問題があります。よくOPIをやっていると言うと,OPI一途みたいに思われますが,私たちはOPIの良さをそのまま活かしながら,さらに問題点は十分承知した上で,それをどのように克服するかということを考えながらやっておりますので,今日は「●課題」のところを少しお話ししたいと思います。
まず,「[1]実用性の問題」について,OPIは実施に30分掛かります。テスターの養成も時間が掛かります。「[3]テスター養成の経済性」にいきますが,時間が掛かります。費用も19万3,000円というのは非常に高いです。これはACTFLにロイヤリティ(royality)がありますので,このようなことになっております。私はこれは本当に問題だといつも思っているのですが,このような経済性の問題があります。
先ほど申し上げましたが,テスターになるために練習ラウンドとして90日,様々なことを勉強するわけです。その後に120日,大体8か月ぐらい掛かりますでしょうか。12月にワークショップ―来週も開催いたしますけれども―その時にはその後8か月ぐらい,夏になると皆さんテスターが誕生するということになります。それだけ時間が掛かってしまうということが問題です。費用の問題も同様です。たくさんの人を養成できないということになります。
また,ACTFLの縛りがございます。先ほど言いましたように,自由に試験ができません。と言うことで,今LTI(Language Testing International)という試験センターと日本語OPI研究会は話し合いをして,「何とか日本でできないか。ドル建てではなくできないか。」ということについて今話し合いをしていますが,なかなかいい回答がいただけません。
それから「[5]10レベルの妥当性」と書きましたが,実は地域に行きますと中級が非常に多いです。ここはもっと分ける必要があるのではないかと私はいつも思いながら「中級中の中の何とか」と勝手に自分で付けていますけれども,そのようなことがございます。
学内でもいろいろな実験をしておりまして,「初級―中」も非常に幅があります。高校生を30人ぐらい預かることがありますが,その場合には初級中が多いので,中でABCを付けてやったりすることもあります。
もともとACTFLでやっていたものは,外交官の試験,ILRの3は,OPTで言う超級になります。この上にまだ3,4,5とあります。もともとACTFLが考えていたのはILR(Interagency Language Roundtable)ですが,これは超級の上まで測る尺度がございました。OPIはそのILR尺度で言う「3」までのものを超級としています。地域に行けばもっと違うところを細かくやるべきだろうと思います。最近で言いますと,超級でもさまざまな人がいるので,先ほど言いましたように超級は一つでいいのかということもトレーナー間で議論しております。
ただ,これは私たちが勝手に変えることはできません。飽くまでOPIでやる以上,この辺りが苦しいところです。「[2]文化の捨象」について,文化では測っておりません。ビデオをとらず音声であること等,様々なことがございます。
「[6]日本語の独自性とACTFL基準」ということですが,例えば敬語,くだけた言い方ができるということについて,これは明確にされていないんですが,日本語はこれが使い分けられることが重要であるというところから,トレーナー間で話し合いをして,超級と言われるためにはどんなに論理的にきちんと話せたり,仮説も立てて話せたりしたとしてもこれができなければ超級ではないという取決めがございます。これは認められたトレーナー間での日本語独自の判定条件となっています。
やはり試験というものは何をどのように測るかというのは,いろいろ議論されるのですが,「それは何のため,どう使うか,誰がどのように,なぜ測りたいのか」というところがとても重要かと思います。ということを考えると,私はOPIの良さというのは29ページ「6.その他」の「●長所」というところに載せましたが,OPIは被験者の発話を基に話を展開していくものですから,語ること,自分の意見を言うことがどんなに楽しいか,意義があるかということを本当に知ることができるのですね。
牧野トレーナーの言葉ですが,ある本の中で,「OPIは被験者の人生を取材している。私たちもそういう思いで聞いている」という言葉があります。30分間1対1で話して,そこでやっていくというのは,特に地域に行きますと,学習者はそもそも私はどういうレベルかということも知りたい,さらにこうやって話せたという喜び,そしてまた一年後に来てくれるという喜びがあります。この辺りはやはりOPIが提供しているものだろうと思います。それがOPIではなくてもいいと思うんですけれども,何か一つのものが必要となった場合にはOPIが活かせるのではないかと思います。私も学内ではこういう使い方をしております。
ただし,非常に大きな問題もあるので,そこでどうするかと言うと,私どもは学内ではOPIをベース(base)にした10分の会話試験を10年前に開発して,それを今でも使っております。これはシングルスケール(single scale)でOPIの考え方ですが,非常に現場に即した10分であるということ,それから評価基準も変えております。
ということで,長所はそういうことですが,最後に33ページの上の枠内<OPIが教えてくれた「語ること」の楽しさ>について説明します。これは十年前,文京区の大学で頼まれて行ったときに,フィリピン人の配偶者にインタビューをいたしました。中級中だったと思いますが,「日本に来てもう10年です。私は日本語でいろんなことを話します。友達もいっぱい。子どもの学校の友達のお母さんとか,近所の人とか。でも,こんなにいろんなことを話したことはありません。自分の考え方とか意見を言い合うとか。」,こんなことを書いています。「またやりたい。勇気が出てきた」というようなことも言っておりました。そんなことがやはりOPIの一つの活用の良さ,活用することの意義であると思います。
そして,最後35ページ,これは社会言語科学会の2009年9月,昨年の大会で野山広氏の企画でワークショップをいたしました。そのときの地域に定住する日本語学習者の言語生活に関する縦断的研究ということで発表いたしました。そのときのことを分散地域と集中地域のことを本当に一部ですけれども載せてありますので,後ほど御覧いただければと思います。
簡単ですが,以上で終わらせていただきます。
○西原主査
ありがとうございました。短い時間にコンパクトにまとめていただいてありがとうございました。御質問はありますでしょうか。
本日は測定に関する御意見をお出しくださる日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の方も傍聴していらっしゃいますが,私どもが直面する問題,生活者としての外国人に対する日本語教育ということをパフォーマンス評価をしなければいけないということになったときに,今,ざっと200万人の人が住んでいる。そういう方々を対象にするときに,どうしてもペーパー(paper)&ペンシル(pencil)で評価を行うというのは難しいです。そうしますと口頭での評価をどうするかというのは,すぐに直面する問題だと思うのですけれども,いかがでございますか。何か御質問はございますか。
○発表者(嶋田)
今おっしゃっていただいたように地域の大勢の人たちにといった場合には,やはりこのOPIも私は30分と決められているんですが,超級でもやはり20分でできるであろうということも考えております。例えば10分とか15分でOPIではなくて,これはすぐ使えませんので,もっと違う形で何かできないか,コンセプト(concept)はOPIの考えで,しかも例えば中級あたりを3段階ではなくて5段階とか,そういうようなことでいくらでも開発が可能ではないかということを考えています。例えば日本語教育小委員会の伊東祐郎氏も一緒なんですが,日本語プロフィシェンシー研究会というところでもそういう試験ができたらいいなということを今も議論しております。
○西原主査
何か御質問はありますでしょうか。
○山田委員
コンパクトに説明していただいてありがとうございました。一つ伺いたかったのは,32ページの表4「OPIの4つの段階」というところで,真ん中の下のほうにロールプレイとあるんですけれども,OPIの発想というのは,口頭能力を純粋に測っていくというときに,場面性とかあるいは何か行動を達成するとか,そういうことを言語に限って注目してやるのかと思っていました。ただ,ロールプレイと言うと何らかの役割を設定して,その役割上の行為を完成させるということが求められると思うのですが,言語でのやり取りに限定してというそういう縛りを掛けるのでしょうか。
ロールプレイだと例えば相手を言い負かしたらいいとか,そういう発想になるときに,かなりもめていくかもしれないけれども,場面性を入れることがあると思います。例えば,交渉事があると,そうするとその知識があるかないかとか,あるいは相手の弱みが分かっているかどうか,そういう別の要素が入るのではないかと思うのですが,それでもいいのでしょうか。
○発表者(嶋田)
入ってきてしまうのがやはり問題なのですが,やはりそこはテスターがそのようなところを考えながらやり取りしていくということになってしまうと思います。
ですから,ある意味非常にロールプレイといっても限られたものしか測れないということは出てくると思います。ただ,何かをお願いしてほしいとか,敬語を使って話すとかということは,とても会話モードではできませんので,やはりそこでは限定されていると思います。
○山田委員
相手の役割をロールとして設定するということですか。
○発表者(嶋田)
そうです。
○山田委員
上司とか部下とか,そういう感じですか。
○発表者(嶋田)
そうです。
○西原主査
御自身がテスターでいらっしゃる方もこの中にはたくさんいらっしゃるのではないかと思います。では,本日のヒアリングは本当にコンパクトに二つのグループの方々がまとめてくださってありがとうございました。ヒアリングで勉強させていただきました。
残りの時間は短いですけれども,この日本語教育小委員会の本来の業務に戻したいと思います。能力評価については,これからもヒアリングは続きますし,能力評価についての様々な議論というのはこれから日本語教育小委員会の中で起こってくることになろうかと思います。
次の二つの事柄ですが,配布資料3「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について―活用ガイドブック」以下について話し合いを始めたいと思います。残り20分になりましたので,これを仔細に検討するという時間はもはや残されていないと言うか,最初から本日の会議はそういうことで出発しているのですけれども,時間的な制約がどちらに余計掛かっているかと言うとガイドブックの方が先に出ていくということになりますので,その順序でざっとで結構ですので,第一印象だけでも伺うことができたらと思います。それから前回の日本語教育小委員会のときにもこれを取り上げられておりますけれども,その後で,お二人の委員の方から御意見をいただきました。本日以降,次回の日本語教育小委員会が12月20日になりますけれども,その間に日本語教育小委員会ワーキンググループが開かれますが,向こう1週間ぐらいの間に御意見を教材についてもガイドブックについてもいただけましたら,その分については作業が可能ということになるかと思います。伊藤委員はいかがでしょうか。
○伊藤委員
初めに考えていたものと少し異なり,具体的になってとても良いと思います。細かいことで申し訳ないのですが,配布資料3「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について―活用ガイドブック」の27ページ,言葉のことなのですけれども,教室活動の展開例,医者の診察を受けるという部分について,「医者」と文章の中に入っている「医者」と「医師」は同一ですか。
○山下日本語教育専門職
これは統一する方向で,日本語教育小委員会ワーキンググループでもう一度見直したいと思います。
○伊藤委員
使われる方が別のイメージで使っているのだと思われるといけないかなと思いました。
○西原主査
配布資料3「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について―活用ガイドブック」の54ページを見ていただくと,実は標準的なカリキュラム案で扱う生活上の行為の事例として医者と…。
○伊藤委員
私も前のものを見ました。その時は医者になっていたので,医師になっていて,「しまった」と思ったのですが…。
○西原主査
標準的なカリキュラム案をこれから書き替えることはできないのですが,医師の方が中立的な職業用語で,肩書には医師と書かれています。ですので,そうした方がよろしければ,参考資料の中で直してしまうということが可能です。その方がよろしいでしょうか。
○伊藤委員
使い分けているのだったらそのままで良いと思います。
○西原主査
使い分けているという訳ではないと思います。ありがとうございます。
○尾﨑委員
毎回来るたびにどんどん前に進んでいてすごいなと思うのですが,配布資料3「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について―活用ガイドブック」の「目次」のところ―もう決まったところなのですが―また見直していると,どうかと思い始めたんですが,目次の4番目,「具体的な日本語教育プログラムの作成手順」の,この「具体的な」というのは取った方がすっきりするかと思い始めましたので,御検討ください。
その次の5番目,「具体的な日本語教育プログラム例」というところを「日本語教育プログラムの具体例」という表現もあったのかということで,表現レベルですので思ったことだけお伝えします。
○西原主査
御提案としては4番の「具体的な」を削除。
○尾﨑委員
削除していいと思います。
○西原主査
それから,5番は,日本語教育プログラムの具体例という方がよく分かるだろうということですね。
○尾﨑委員
それから,1ページの色付きの四角の中の「標準的なカリキュラム案とは…」の【基本的な考え】の「[1]」,これは既に作られた文章で前に見ていたときには見落としていたんですけれども,今回改めてこの一文を見ると,もう少し書けそうな気がします。
○西原主査
つまり[1],[2]について,もう少し書き加えてもいいのではないかということでしょうか。
○尾﨑委員
書き加えるというよりも文章として,文としてどうかということです。
○西原主査
分かりました。今の段階では,皆さまがこれでいいと言ったものをそのまま転写したものです。
○尾﨑委員
しいて言えば,「社会生活への参加」の「へ」があったのですが,これはもう仕方ないでしょうか。
○西原主査
例えば,参考資料1「標準的なカリキュラム案の活用及び指導方法について(案)」は誰の目にも触れませんので,今,この段階でもう少し柔らかく書き直すということで,どことも齟齬が生じません。
○尾﨑委員
なぜそのようなことを気にしたかと言うと,【基本的な考え】の[1]の「対話による相互理解の促進」,これは明らかに外国の方と日本の方が相互理解をするということですよね。その次,「コミュニケーション力の向上を図り」,これも日本人と外国人のコミュニケーション能力を測るということを意図しているのでしょうか。
○西原主査
相互にとは言っていないですね。つまり,これは学習者となる人の方のコミュニケーション能力のために,この標準的なカリキュラム案があるというように考えられていると思います。それはそう書いた方がよろしいということですね。つまり,主語がないのですね。
○尾﨑委員
そうなんです。すっと読んでいると行ってしまうのだけれども,じっくり読んでみると,「ん」と考えたという,それだけなんです。
その次の「社会生活への参加」,「社会生活への参加」というのは「社会生活への参加の実現を目指す。」,これは日本語としては大丈夫ですね。
○西原主査
「日本語を使って」という意味ですよね。
○尾﨑委員
そうですよね。社会参加ということについて,何かここも考え始めるとすごく大事な一文なので思いがいっぱい入っているんだけど,いざこうやって読んでみると,「ん」と思ったというコメントで代案はありません。
○西原主査
主語,目的語をきちんと捉えた方がよろしいですよね。
○尾﨑委員
もう少し考えて何か浮かんだら御報告します。その次は,3ページの下で,新たに文章を起こしていただいたところで,「エンパワメントされる」というのが入っているところ,私はそれですっきりしたなと思います。エンパワメントという言葉についていろいろ議論があって,山田委員も随分そのことを書いていらっしゃるので,山田委員が御覧になって,これでオッケーということであれば,私はこれでエンパワメントの意味をこのように理解して,私たちの日本語教育小委員会が使ったということで結構だと思います。
5ページに書き加えていただいた文,段落が二つあるんですけれども,「4 具体的な日本語教育プログラムの作成手順」,「5 具体的な日本語教育プログラム例」,「6 活動方法の例の具体的内容」というヘディングのところをもう一回見直したらどうかと思いました。さっき申し上げたことです。
○西原主査
ヘディングの文言ですね。
○尾﨑委員
それから,7ページの4のところ,ここを見たときにどうも気になり始めたんですけれども,「具体的な日本語教育プログラムの作成手順」というのが,これは「具体的な」を取っちゃっていいんじゃないかなと,今は思い始めています。
○西原主査
このサークル(circle)になっているところからも…。
○尾﨑委員
サークルになっているところの「3 具体的な日本語教育プログラムの作成」は「具体的な」があった方がいいと思います。
8ページのところ,矢印でずっと行くんですけれども,一番ポイントになっているところだけブルーの色を残して,他は色を消したらもっと目にパッと来ると思いました。
○西原主査
これについては私もこういう形でコピーされて,「おやおや,フォーカスをしようということでそれぞれ御発言していただいたにもかかわらず,フォーカスが薄くなっちゃったな」と思いました。御提案としては,他は白黒ですか。
○尾﨑委員
いっそのこと白黒にしてしまうということでどうでしょうか。フォーカスのところだけ,ブルーにした方がいいかなと思いました。
○西原主査
いかがでしょうか。最初はここはオレンジにするとか,カラースキーム(color scheme)を変えることで目立たせようと言っていたけれども…。
○尾﨑委員
目があっちこっちに焦点化されるので,色は1色にして,他を消した方がいいのかなと。
○西原主査
皆様いかがですか。中野委員,いかがでしょうか。
○中野委員
ない方が…そこだけ…。
○西原主査
白黒でフォーカスのところだけブルーにするということですね。
○山田委員
矢印と同じ色にしたらいいんじゃないでしょうか。矢印,薄いブルーになっていますけれども,フォーカスされてないところは薄いブルーで,白い縁取りがありますよね,青の周りに若干ですけど白い縁取りがあって,大きい○も小さい○も…。
○西原主査
○のブルーの濃さが一定なんです。
○山田委員
そのフォーカスしてないところは矢印と同じ色にしたらいいと思います。白にするとまた目立つと思うんです。
○西原主査
今の御提案は,○も含めて白黒にしてしまおうという話ではないでしょうか。
○山田委員
○も含めて白黒…。
○西原主査
つまり8ページの左上のところは,ブルーになっているところは左側のみ。あと二つの矢印やドットは全部白黒にしてしまうということですね。
○西澤委員
薄い,黒い印刷にするという感じでしょうか。
○山田委員
薄い方がいいと思います。黒にすると黒でも目立ってしまいます。
○西澤委員
だから薄い黒い…。
○西原主査
黒でも目立ちますね。
○伊藤委員
色は,薄い水色で,○が分かるようにだけしておけばいいんじゃないでしょうか。
○西澤委員
山田委員はそうおっしゃっていましたよね。
○西原主査
要するに,フォーカスしているところはちゃんと目立たせるレイアウトにしなさいということですね。
○山田委員
そういう工夫をしてもらったらいいんじゃないでしょうか。
○西原主査
わかりました。そのことを事務局の宿題とします。
○尾﨑委員
21ページについて,【キーフレーズ】というように言葉が変わったから多少違いますが,どうしてもダイアログ(dialog)で載っているものですから,そのBさんの答えがいかにも教科書っぽすぎて引っ掛かりました。「いいえ。吸ってはいけません。喫煙所で吸ってください。」って,AさんとBさんは誰なのか,どこで会話しているのかと思ってしまったので,何かもう少しあるといいなという感想です。
○西原主査
どういうことにしたらよろしいでしょうか。「たばこを吸っていいかい」,「駄目よ」というようになればよろしいでしょうか。これは,最初に作ったときに,どうしてこうしたのでしたでしょうか。大体「です,ます」になっているんですよね。
○山田委員
取決めも何もなくて,それぞれの作成者に任されたのですよね。
○岩見委員
そもそもモデル会話が,こういう感じの会話がモデルとして示されて,あまり検討するまでもなく踏襲して,作成した経緯があります。
○西原主査
私もそのことは実は気になっているんですけれども,日本語社会全般で外国の方には「です,ます」を期待しますよね。
○山田委員
無難だからと言われて…。
○西原主査
無難だからというので…。国際結婚の人がけんかしているのを見ると,本当に気の毒だと思います。外国人の方はずっと「です,ます」で,エスカレートしている日本人の方は「何,言ってるのよ」と言うと,「そんなこと言わないでください」と相手が言うとか。フェア(fair)じゃないと思います。ここはどうしたらいいでしょうか。
○岩見委員
「です,ます」が期待されるという,丁寧にということで,悪感情を日本人から抱かれないとその今おっしゃったことが一つあると思います。そのことともう一つは,文型通りの問いと答え,決まった定型の答えというのがここに…。
○西原主査
無難なやり取りと言ってもいいかもしれませんね。
○岩見委員
私としては,「です,ます」調はいいと思うんですけれども,答えが「してはいけません」となることは逆に通常あまりないと思うので…。
○西原主査
恐らく,想定されるAは「生活者としての外国人」,Bは日本語母国語話者ということで,ここは作ったと思います。それを取り払って…。
○尾﨑委員
もしこの形で残すのでしたら,「たばこを吸ってもいいですか」という言い方は外国の人が覚えていて損はないでしょうから,そう聞いたのに対して,「たばこはあちらの喫煙所で吸う」とか,もう少しそれらしい例文にすればよいのではないでしょうか。いかにも初級の文法教科書というにおいがプンプンするというのがコメントの趣旨です。
○西原主査
「いいえ,吸ってはいけません」なんて誰も言わないですよね。少なくともBの表現を工夫しましょうということでよろしいですか。
○伊藤委員
「ここで,吸ってもいいですか」という,「いいえ,あちらの喫煙所でお願いします」と…。
○西原主査
そうなんでしょうね。
Bさんをとにかくもっと自然にするということで訂正を加えると。
○尾﨑委員
35ページ,キーフレーズなんですけれども,「こんにちは,いい天気ですね」,「そうですね。どちらにおでかけですか。」って,ここまでしつこく聞いちゃいけないんじゃないかなと思います。「おでかけですか。」でやめておいたらどうかということなんですけれども…。
○西原主査
これも人によっていろいろ,御近所さんにいろいろな方がいらっしゃるので,こういう会話もないことはないし…。
○尾﨑委員
どちらでも結構です。
○西澤委員
ここでのやり取り,むしろその後の「ちょっとそこまで」というのは,日本人同士は全部背景が分かっていていいけれども,外国人はこれを言われたときに,一体何を言っているのか分からないでしょう。「ちょっとそこまで」というのは,それ以上立ち入らないという前提ですね。
解説がないと,これで覚えちゃって,何でも聞かれたら「ちょっとそこまで」と言えばいいと思ってしまいます。日本人同士の社交辞令だけですませるというとても高度な会話だと思います。
○西原主査
初対面の挨拶ということで,人間関係のきっかけ,御近所の人に越してきた外国人だなと思われたということです。これもいかにもありそうな形に変えてください。他にはよろしいでしょうか。
では,配布資料5「教材例のサンプル」についてお好みだけを聞かせていただくことはできますでしょうか。配布資料5「教材例のサンプルについて」のサンプル1にするか,サンプル2にするか,サンプル3にするかということではありません。配布資料4「教材例のコンセプトについて」のところにありますように,「こういうものが入っているといいね」ということは「(3)の教材例の構成要素」として1から4を基本的には組んでいる必要があるということは御同意いただいたわけです。今回はとりあえずはペーパーメディア(paper media)で,紙の上で展開されていくんですけれども,配布資料5「教材例のサンプルについて」のサンプル1みたいにするのがよいかどうかということです。
そのときに,ガイドブックの読み手は,地域で日本語教育を担当する方,つまり担当する方に読んでいただくということで,活用ガイドブックがあります。学習者が活用ガイドブックを読むということは想定されていません。
教材例としたときには,どうなのということがまだ分かっていないと言うか,核として決まっていないということがあります。そのことはいかがでしょうか。教材例として出ていくときに,これは誰に向けて出ていくと想定してよろしいのでしょうか。そのことによって,お好みというのも変わってくるかと思います。
例えば,事務局から御説明いただいたように,例えば配布資料5「教材例のサンプルについて」のサンプル1の場合は,今まで出回っている日本語の教科書とタイプが似ているということで,これは汎用と言うかどちらにも使えると思います。サンプル2の方は,主として学習者も見るだろうということが想定されるとサンプル2のように,学習者も見るのではないかと思います。サンプル3の場合には,これはどちらかと言うと,支援者のために,この活動例が最初に来るということと,支援者が注目を要求するためには1ページに一つのものが載っていると,とても使いやすいという,そういうようなことがあるわけです。
ただ,サンプル1かサンプル2かサンプル3のどれか選ぶかと言うと,そうではなくてサンプル1のいいところ,サンプル2のいいところ,サンプル3のいいところを取って来て,まとめてみてはどうかということも十分考えられるわけです。いかがでしょうか。
○中野委員
質問なんですけれども,これは最終的に例でしかないので,現場でこのようなものをいろいろな指標をとって作ってくださいということがあるわけですよね。
○西原主査
こちらで出すものもボリューム(volume)がまだ発表されていませんけれども,このガイドブックの中にある部分の中で,10個だけということはないのではないでしょうか。
○中野委員
それをそのまま使おうと思えば使えるくらいのものになるのではないかと思います。
○西原主査
それぐらいのものは恐らくあるんじゃないかと思いますが,それは作業がどのくらい進んで,締め切りまでにどのくらいのものができるかというような時間との競争の部分も確かにあると思います。今まで標準的なカリキュラム案や配布資料3「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について―活用ガイドブック」の「教室活動の展開例」等で例示されている11例だけを教材化するというものではないと思います。
○中野委員
そうするといざとなればコピーして,学習者に配るということになります。ですので,配布資料5「教材例のサンプルについて」のサンプルではわざわざ大きくスペースを使っていると解釈すればよろしいですか。
○西原主査
そういうことですね。そういうアイデアの下にこうなっています。
○中野委員
もし,教師のためだけでしたら,要素さえ入っていればこんなにスペースはいらないですよね。広く置くということはそのまま使うという理解ですよね。
○西原主査
そうです。だんだん読む人の範囲が広くなり,使う人の範囲が狭くなります。例えば,これは文化庁にアクセスしていただいてダウンロード(down-load)することはできますけれども,文化庁が作ったものを郵送したり,お配りして見ていただき,かつそれについていろいろな説明の会がある,JFスタンダードのキャンペーンと同じようなキャンペーンの対象になっていますけれども,広く出回るという形にはまだ至ってないです。配布資料3「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について―活用ガイドブック」はガイドブックですから,これが出回った範囲で,恐らくこれを使っていただけるというのが当初になると思いますし,研修等を行って,「このように活用してください」というようにいろいろお願いに行ったり,広報したりするというものになると思います。
教材例の方は,恐らくこれだけを使う,つまり標準的なカリキュラム案及びガイドブックを考えつつ,実際には教材例を使うという方が標準的なカリキュラム案やガイドブックやを使う方よりは多いだろうと思います。
○尾﨑委員
そうかもしれないです。
○西原主査
というのが現実ではないかと思うので…。
○尾﨑委員
これはもう出版社に任せた方がいいのではないでしょうか。
○西原主査
出版社は文化庁で,編集者は私も含めて皆さん方です。
○中野委員
ある意味では,使い方もある程度多様かもしれないと思うと,先生だけの場合もあるし,学習者にと思うと,レイアウト(layout)もそれに耐えられる方がいいと考えられませんか。
例えば配布資料5「教材例のサンプルについて」のサンプル2は,A3の真ん中に写真やイラストが来てしまったり,全部が一つにあるともうこれを自分で動かすことはできないけれども,ばらばらだったら,必要なものを縮小して,一緒にするなり取るなりできますよね。サンプル2のA3のものは使い方がかなり固定化されますよね。
○西原主査
そうですね。先ほど縮小コピーしてA4にして使うという人もいるかなと,そういうこともあるので,A3横長というのがいろいろなものが見えるというメリットで書いているんです。恐らく,それを実際には例えばガイドブックの方もA4の横だったものが,A3縦に展開して,だから実物になるときはA3ではなくて,A4横にということにもなり得るのかな。今度はむしろ拡大コピーして使って,みたいになるのかなという可能性もなきにしもあらずだと…。
○中野委員
デジタルでも公開されますか。
○西原主査
それはまだ分かりません。デジタルで公開されれば,JFスタンダードもデジタルで公開されて,ガイドブックも見ますよね。ですから,プリントアウトしようと思えば,スタンダードの1ページをデジタルでダウンロードして,プリントアウト(print out)して使うということはできるようになっています。これは説明のための資料ですけれども,ただ文化庁国語課がデジタル公開をどの程度すぐに,ペーパーメディアと同時にデジタル公開するのかということについてはどうなんでしょう。
○国語課長
なるべく公開したいと思います。
○西原主査
そういうことであれば,地域で切り取っていただくのはミシン目を付ける必要は全くなくて,画面からダウンロードしていただければ,そのまま使えるということになると思います。そうするとA3というのは実際にはA4横になって,ダウンロードになるんでしょう。
○中野委員
最初から全部を見せてしまうより,まず写真やイラストだけでちょっとやって,それから語彙をまず入れてという段階を踏んでいきたいときには最初から全部見えてしまうというのはかえってよくない場合もありますよね。
○西原主査
現場の先生の使い勝手ということだけを,確かにそういうことがあるでしょう。
○山田委員
つまらないことなんですけれども,忘れてしまいそうなので,このガイドブックのほうの54ページに,標準的なカリキュラム案で扱う生活上の行為の事例ということがカリキュラム案の最初からあるんですけれども,出典を書いたほうがいいんじゃないかなと思います。 
○西原主査
ここにちょっと説明してありますけれども,これでは不十分だということですね。
○山田委員
55ページの右下のところですね。
○西原主査
(※「標準的なカリキュラム案」120ページ「生活上の行為の分類一覧」参照)となっているんですけれども,これでは細かすぎて誰も見ないだろうということですか。それが左上のトップに行くべきだという話ですか。
○山田委員
最初のところに出典という形であって,これが一体何でここにこれが突如として来るのかというのを示した方がいいと思います。
○西原主査
ここに白ページが一つあるので,ここに何か入れますかね。
○山田委員
1行,2行でいいと思います。こちらのカリキュラム案からここに転載してあって,このカリキュラム案というのは,このガイドブックそのものはこれについてだと分かっているわけなので…。
○西原主査
実は,仙田日本語教育専門職が担当している地域日本語教育コーディネーター研修者研修のときに,「こういうものを付けていてくださるといいね」という御意見が出たそうです。山田先生もいらっしゃいましたね。そのときには結局学習者に「こういうようなことがしたい」,あるいは生活上の課題として,「こういうものがやりたい」と言われるかもしれない。そうしてほしいときに,一覧表があれば,「これこれこれを勉強したい」とか言える,そういうものですよね。
そうすると出典がどこかということよりは,「そういうことに使ってください」と書いておいたほうが,出典どこよりも重要な情報かもしれません。それはどこに書くんでしたでしょうか。上の方に1行程度で書くのでしょうか。
○山田委員
1行でいいと思います。
○尾﨑委員
それに追加して,もしこの参考資料を外国の方と一緒に見ながらどう,こうと言うのだとしたら,やはりどこかで,ここだけは何言語かほしいなと前から思っているんですけれども御検討ください。
○西原主査
はい。何か予算を持っている方がどんどん頭が痛くなるわけですけれども,そういうことで…。
では,繰り返しますけれども,今週末を目途に今日は(月)ですけれども,御意見をぜひお寄せください。その上で,日本語教育小委員会ワーキンググループでまた検討し,新たな御提案をしてという形でだんだん収斂していきたいと思います。活用ガイドブックにつきましては,1月を目途にまとめてこの形でホームページに載せ,印刷物を作るということで行きたいと考えております。そのことを踏まえて,どちらが緊迫しているかと言うと,ガイドブックの方が先に締め切りが来ます。教材例につきましては,まだ検討の余地があると思います。
○尾﨑委員
配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の「(2)ヒアリング先候補(案)」で海外の事例は,次回,ヨーロッパのオランダのことがご報告に入るんですけれども,海外は1例だけということでしょうか。
○西原主査
今のことではそういうことかと思います。
○尾﨑委員
ヨーロッパもいろいろ事情が国によって違っていて,ドイツとかあるのかなと勝手に思い込んでいました。
○西原主査
オランダが非常に具体的で制度がきちんとしている,制度としてシステムとしてきちんとしているというご判断で,恐らく金田さんはヨーロッパを広く調査をしていらっしゃいますので,その中でオランダの話をするとおっしゃったのでしょうか。
○山下日本語教育専門職
ほかの部分については,そこまではカバーできないということ,時間的な制約もあり,1例しか取り上げられていないということになっています。国によって異なるとは思いますが,現在はオランダのみということです。
○西原主査
何かお考えがありますか。
○尾﨑委員
いえ,聞く機会があればいいなと思いました。文化庁の委嘱を受けて,伊東委員がヘッド(head)になって今進んでいるお仕事がありますが,海外の事例というところで指導者の能力評価みたいなことを調査しているので,もしかしたらその調査の中で指導者ではなくて,外国人学習者の評価で何かお話があるんだったら,オランダ一つではない方が私は聞きたいなと思っただけです。
○西原主査
それは,例えば各国で生活者というレベルの評価というのを移民受け入れの国々はそれぞれ持っています。それは勉強し始めるときりがないことではあるんですけれども,もしその後も必要であれば,恐らくヒアリングの4回目というものは私たちが提案して持っていただくことはあるのかもしれません。
○伊東委員
10月26日の日本語教育小委員会の資料では,「オランダ,フランス,ドイツ,オーストラリア,カナダ等」と書いてあったので,私自身もそのことがあるかなと思っていたんですが,今日の資料だともうオランダだけになってしまっていますよね。
○尾﨑委員
そう思ったものですから…。
○西原主査
評価の評価までオランダについては聞けますので,評価を評価するというところまでということで,多分オランダが選ばれたのかもしれないと思います。
私はよく知りませんが,コーチ(courch)という人の存在,そういうシステムの中でどの人がどういう役割をするのかということはオランダは非常に整ったものを持っていると思いますけれども…。よく分かりませんが,そういう話になるのかなと予想しています。
よろしいでしょうか。来週の話を聞いてみてから,もっと聞きたいということになって,1月にもそういうことになるかどうかというのは御検討いただければと思います。ありがとうございました。 
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