美術品等に係る税制優遇措置について

概要

第1章 はじめに

1  美術品等の輸入の拡大
   近年の美術への関心の高まりに加えて,バブル時期を頂点に投資の対象として海外からの多くの美術品等が流入し,現在,名品といわれる美術品等が数多く私蔵されていると推定される。
2  美術展示への関心の高まり
   美術は,大きな関心分野の一つであり,毎年多くの人々が美術館を訪れている。また,近年では,美術に対するニーズはマルチメディアのコンテンツとしても大いに期待されている。
3  現状と問題点
   このような美術に対する社会のニーズに応えるため美術館の設置が進んだが,それらのコレクションは必ずしも十分でないうえ,購入費も多いとは言えない状況にある。また,国内の美術品等は,公開されないまま売買され散逸することが多いと指摘されている。
 人類の共有財産ともいうべき貴重な美術品等については,文化的な社会資本として,公開・活用することが重要であり,このための有効な方策の一つとして美術品等をめぐる税制について検討する必要がある。

第2章 現行税制優遇措置の概要と問題点

1  所得税
 
(1) 譲渡した場合の優遇措置
   個人が,重要文化財又はそれに準ずる美術品等を国等に譲渡した場合は,譲渡益に対して,それぞれ非課税又は1/2課税となる。
(2) 寄付した場合の優遇措置
   個人が,美術品等を国等に寄付した場合,譲渡所得はなかったものとみなされ,取得価額の金額を所得控除として所得から控除される。ただし,控除額に上限があり,かつ当該年度のみ控除されるので,高額な美術品等を寄付した場合は控除しきれない場合がある。
2  法人税
   法人が,美術品等を国等に寄付した場合,時価相当額が損金として所得金額の計算上控除される。
3  相続税
 
(1) 寄付の場合の優遇措置
   相続財産のうち,国等に寄付した財産については,相続税は非課税とされる。
(2) 物納制度
   相続税については,金銭の納付が困難な場合で,かつ税務署長の許可を得た場合に例外的に相続財産をもって納付する物納制度が存在する。物納財産には優先順位(動産は一番低く4番目)が設定されている。
 なお,美術品等について,物納制度が適用された実例は,物納順位が後位のため,把握している限り1件となっている。

第3章 基本的な考え方

1  国による文化的社会資本整備の必要性
   美術品等は,国民共通の社会資本であり,文化財保護法により保護される以外の美術品等についても,国が責任をもって保護し,有効活用を図り,パブリック・アクセスに資する必要がある。
2  税制優遇措置による効果的な収蔵品拡大
   個人のコレクションにも国民の貴重な共有財産となる名品が多く存在し,これらの美術品等の散逸を防ぐため,税制も活用し,寄付や物納,寄託などを促進していくことが重要であり,その際,しかるべき施設(美術館等)において公開し活用していく必要がある。

第4章 当面実施するべき対応策

1  相続税の物納制度の活用
   国民の共有財産にふさわしい名品として国が認定した美術品等で,適切に評価できるものについて,相続税法の規定にかかわらず,特例として金銭による納付と同格で物納することを許可することが望ましい。また,物納を許可された美術品等は,換金することなく管理換を行い,美術館等適切な施設に収容する必要がある。
2  美術品等特別評価システム
   物納の特例を受ける美術品等は,研究者・学芸員等の専門家,行政担当者,税務担当者等により構成される評価委員会における十分な審査によって特別の名品であるとされたものに限定することが望ましい。また,相続開始前においても,美術品等の価値の評価等を事前に行い,適切なアドバイス等を行うことができるよう,仮審査制度等の導入についても検討する必要がある。
3  その他の組織的整備
   美術品等をめぐる諸問題に関して,文化庁において専門的知識を提供する必要がある。このため,組織的整備を検討するとともに,ホームページを活用した情報提供,PRなどの徹底を行うことが望ましい。

第5章 今後の検討課題

 個人,企業が所有する美術品等は,寄付や寄託などの形態で美術館等に収蔵され,公開・活用されているものもあるが,社会に潜在する多くの美術品等の流動について正確な把握は困難であるとの指摘もあり,所在情報を収集できるシステムについても検討することが必要である。
 美術品等の公開・活用という観点から,寄付等を促進するため,公的支援の在り方について,今後も引き続き検討することとする。
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