中間報告会における主な発言要旨

1.歴史文化基本構想について

  1. 「文化財を総合的に把握する」ことは,(これまでの文化財行政の中でも)新しい考え方である。多少のとまどいを抱えながら市町村は工夫を重ねて総合的な把握に取り組んでいることは評価できる。
  2. 当該事業の重要なポイントは,「文化財を社会全体で保存,継承するために住民参加」に重点を置くことである。各モデル事業では,住民の理解を深め,参加を深めるような様々な取組がされていることは評価できる。
  3. 文化財のというものの定義がどんどん変化してきている。対象も一律ではなく,地域によって異なって良いのではないか。地域で文化財の基準は作り直す必要がある。
  4. 「歴史文化基本構想」には二つの重要な側面がある。一つめは新しい定義にもとづき文化財のリストを整理し,それぞれがどのような関連性をもって,テーマ性があるかという事を理解しながらリストを作成することである。二つめはこれら文化財を,市民に分かり易く説明していくことである。「リストの作成」と「分かり易いシナリオ或いはテーマ」がまとまったら,「歴史文化基本構想」が完成したといえる。
  5. 「歴史文化基本構想」とは,歴史文化のマスタープランである。「歴史まちづくり法(歴史的風致の維持向上に関する法律)」は,空間整備に重点をおいており,常に地図上で意識されるものをエリアをとして定め,そこに事業を投入するようなイメージである。つまり,「歴史まちづくり法」は,事業実施手法の一つとして,活用するものである。一方,歴史文化基本構想は,息の長いものであり,将来に展開していくものである。
  6. 「関連文化財群」とはエリアに限定されるものではない。特に信仰や芸能といった無形の要素は,エリアに限定することはできない。
  7. 今回作成しているリスト(悉皆調査結果)の役割は,保存するものをリスト化したものではない。発見することによって地域を知るためのリスト,或いはまちづくりに使っていくためのリストである。
  8. 文化財を見いだす専門家と市民との間には,一定の距離が生じる場合がある。この市民と専門家を埋めるための人材育成が必要である。
  9. 当該事業の目標として,将来にわたって残していこうとする場合の方策(条例,規則,基準,要綱の検討等)を視野に入れておく必要がある。
  10. 文化財は,現在は保護法上,6つに分類されているが,本来は地域でもっと有機的に一体感を持って存在していたものである。そのため,本来の在り方を思い起こす感覚で捉えていくことが必要である。
  11. 歴史文化基本構想とは文化財のためだけの構想ではない。地方自治体が,歴史文化でまちづくりをするという構想を示したものである。そのため文化財部局だけはなく,景観部局,環境部局の積極的な係わりが必要である。
  12. 「歴史文化基本構想」の策定を契機として「文化財」の概念を拡張して考えると言う意味では良い機会であった。
  13. ・ 「歴史文化基本構想」は,広く知ってもらうことが,基本構想の基本である。個人の財産ということで公表を躊躇する人もいるが,丁寧に説明して理解を得る必要がある。説明するテーマ,ストーリーをしっかりしておく必要がある。
  14. 地域ごとに専門家が確保できる仕組みが必要ではないか。

2.当該事業における文化財調査について

  1. 従来の文化財の調査ではカバーされていない部分を埋めていくものとして「総合的な調査」の意義がある。
  2. 文化財保護法で定める文化財の6つの類型は,重複する部分が多い。そのため,独自の類型で悉皆調査を行うことがあってよいのではないか。一方で,調査もれがないように,テーマを設定して調査を実施する。テーマを設定した調査の中には,時代で区切るもの,地域の信仰といった分かりやすいもので設定するなど様々な切り口がある。
  3. 従来の文化財調査とは,歴史上,芸術上,学術上価値の高いものや,生活・生業の理解のための欠くことができないものといった点から,個々の文化財について価値を見いだすための調査である。一方,当該事業で実施する調査は,地域の歴史や人々の生活とのかかわりを総合的に捉えて,新たな価値を見いだすための調査といえる。
  4. 悉皆調査とは,文化財を広く見て,拾い続ける事である。文化財相互の関連性の捉え方によっては,要素として含まれる文化財は変わっていくものである。そのため,テーマを適宜見直すことも有効であり,決まったテーマにこだわる必要はない。また,古いものだけではなく,新しいものも含めて拾っていくことが必要である。特に祭りや工芸技術といった変容が起こりやすいものは,古い形にも注目して資料の収集に当たる必要がある。
  5. 調査に専門家と市民の方々が参加する調査の仕方では,集めたデータのレベルとスピードに違いがあるように思う。専門性を持っている人が行う調査は,データはまとまりよく,早い。しかし,オーソドックスなものなりやすい傾向もある。
  6. 拾うべき文化財の最低限の基準は,本物(オーセンティシティ)であることと,数世代にわたって継承されてきたものと考える。
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