令和4年度文化庁映画賞について

文化庁では,我が国の映画芸術の向上とその発展に資するため,文化庁映画賞として,優れた文化記録映画作品(文化記録映画部門)及び永年にわたり日本映画を支えてこられた方々(映画功労部門)に対する顕彰を実施しています。

文化記録映画部門では、選考委員会における審査結果に基づき、次の3作品(文化記録映画大賞1作品、文化記録映画優秀賞2作品)を受賞作品として決定しました。各作品の製作団体に対して、賞状及び賞金(文化記録映画大賞200万円、文化記録映画優秀賞100万円)が贈られます。

また、映画功労部門については、次の6名の方が受賞者として決定し、賞状が贈られます。

【贈呈式】

日程:令和4年10月24日(月)

【受賞記念上映会】

<文化記録映画部門受賞作品>

日時 令和4年10月30日(日)
会場 スペースFS汐留

【令和4年度文化庁映画賞受賞一覧】

【文化記録映画部門】

文化記録映画
大賞
作品名 私だけ聴こえる
製作者名 テムジン/リトルネロフィルムズ
(国際共同製作:フィルモプション インターナショナル)
文化記録映画
優秀賞
作品名 うむい獅子 -仲宗根正廣の獅子づくり-
製作者名 株式会社海燕社
作品名 カナルタ 螺旋状の夢
製作者名 太田 光海

(作品名50音順)

○文化記録映画部門贈賞理由

【文化記録映画部門】
文化記録映画大賞
『私だけ聴こえる』監督:松井
ろう者の子として生まれ育った少女たちが家族との関係にゆれ動く思春期を丁寧で的確な観察でとらえた。障がいの有無でなく、アイデンティティと自分探しの問題として描くことで、差別や福祉の枠を越える普遍的な視点を提案し、コーダについての問題意識を広げた。観客のスクリーンへの集中度と読み解く力を育てる「映画」という形にこだわり、国際共同製作にも挑戦した制作者の姿勢は、時代に合致したひとつの指針を示している。
(藤岡朝子)
文化記録映画優秀賞
『うむい獅子 -仲宗根正廣の獅子づくり-』監督:城間あさみ
古来、獅子舞は、アジア各地、そして日本でも全国的に見られる伝統芸能文化。その中でも、シーサーに象徴されるように沖縄での愛され方は特徴的だ。本作は、木彫刻師・仲宗根正廣氏に密着した獅子作りの記録映画であり、獅子のコミュニティにおける有り様、取り巻く人間模様を通して、獅子舞の風習それ自体も丁寧に描かれている。沖縄の人々の獅子に対する溢れる想いが昇華して、風土、文化、人情が薫ってくる快作となった。
(三浦啓一)
文化記録映画優秀賞
『カナルタ 螺旋状の夢』監督:太田光海
アマゾン奥地のシュアール族の村に若き研究者太田光海は滞在し、インフォマーであるセバスチャンに導かれ、彼らの日常生活へと入ることになる。現地の人たちとの信頼関係を築くことで調査や撮影が可能になるが、部族の人びともまた研究者を取り込み自らの立場や考え、気持ちを発信しようとする。そのせめぎ合いのなかで、人びとの思いや感情といった主観的な世界が次々と映像でキャッチされ、優れたエスノグラフィーとなった。
(原田健一)

※()内は執筆した選考委員名

【映画功労部門】

氏名 分野
笠松則通(かさまつのりみち) 撮影監督
田村(たむらみのる) 立体アニメーション撮影
坪井一春(つぼいかずはる) 組付大道具
弦巻(つるまきゆたか) 映画録音
安井喜雄(やすいよしお) フィルムアーカイブ
安彦良和(やすひこよしかず) アニメーター、キャラクターデザイン

(敬称略・氏名50音順)

○映画功労部門受賞者功績

笠松則通(かさまつのりみち)
昭和55年、日本大学芸術学部在学中に制作した『狂い咲きサンダーロード』(石井聰亙監督)が劇場公開されカメラマンデビュー、同57年石井監督『爆裂都市』を担当。『どついたるねん』(平1)以降、阪本順治監督作品の多くを手がける。主な作品に松岡錠司監督『バタアシ金魚』(平2)、石井聰亙監督『水の中の八月』(平7)、荒戸源次郎監督『赤目四十八瀧心中未遂』(平15)、李相日監督『許されざる者』(平25)、西川美和監督作品『すばらしき世界』(令3)など。毎日映画コンクール撮影賞(平15、令4)、日本アカデミー賞最優秀撮影賞(平26)などを受賞。永年にわたり幅広いジャンルの作品に参加、正攻法で被写体に向かう姿勢が支持されており、映画の発展に貢献してきた。
田村實(たむらみのる)
岡本忠成監督の(株)エコーに入社し、『ホーム・マイホーム』(昭45)でキャリアをスタート。以来、岡本監督作品『あれはだれ?』(昭51)、『おこんじょうるり』(昭57)、『NHKみんなのうた メトロポリタン美術館』(昭59)をはじめとする数多くの短編アニメーション作品の撮影と照明を担当。作品の素材は立体、半立体、粘土、毛糸、セルなど多様なものでありながら、素材の持ち味を活かし、それぞれの作品が持つ独自の世界観を際立たせた。『道成寺』(昭51)、『火宅』(昭54)、長編『死者の書』(平18)などの川本喜八郎監督作品では、川本の人形が持つ深い情念と悟りの世界を豊かな陰影の中に収めた。長年にわたり高い撮影技術で短編アニメーション映画を支えて、分野に貢献してきた。
坪井一春(つぼいかずはる)
建設業を経て、昭和55年(株)東宝映像美術の専属の大道具として映画の美術製作に参加し、特に撮影現場での組付大道具係として多くの映画作品を支えてきた。その後、昭和63年からフリーの組付大道具として『夢』(平2)以降の黒澤明監督の全作品をはじめ、篠田正浩、大林宣彦、三谷幸喜、庵野秀明など、多くの監督の作品に参加。主な作品に相米慎二監督『雪の断章-情熱-』(昭60)、庵野秀明監督『シン・ゴジラ』(平28)など。建築現場で習得した技術に、映画美術特有の技術を合わせた現場作業は、技術力、安全性、クオリティの高さで監督やスタッフからの信頼を得ており、永年にわたり映画美術に大きく貢献してきた。現場の安全性向上や、若手への技術継承にも尽力している。
弦巻裕(つるまきゆたか)
(株)東京テレビセンターを経て、昭和51年フリーとなり、松川八洲雄監督の記録映画『不安な質問』(昭54)で録音技師。山川直人監督『ビリィ★ザ★キッドの新しい夜明け』(昭61)で劇映画を手がけ、以来数多くの作品に参加。平成7年に(株)サウンドデザインユルタを設立。主な作品に東陽一監督『絵の中のぼくの村』(平8)、梅川俊明監督『鯨捕りの海』(平10、日本映画テレビ技術協会日本映画技術賞)、是枝裕和監督『誰も知らない』(平16、毎日映画コンクール録音賞)など。ポスプロ段階のDAW構築における先駆者のひとりで、丁寧なポスプロ作業で音のクリアさや奥行きの深さを与えて作品に貢献してきた。平成24年から日本映画大学にて後進の育成にも力を注いでいる。
安井喜雄(やすいよしお)
昭和49年、友人と「プラネット映画資料図書館」の名称で、自主上映及び映画フィルムと資料の収集、保存、運用を行うフィルムアーカイブ活動を開始する。そのコレクションを活用し、地域の協力を得て、平成19年阪神淡路大震災後の復興途上にあった神戸・新長田に「神戸映画資料館」を開館、フィルムや映画資料の保管に加え、併設シアターで上映会も行う。令和元年にはNPO法人プラネット映画保存ネットワークを設立し、理事長として同館の運営にあたっている。個人で収集したフィルムは18,000本を超え、永年にわたり独自のフィルムアーカイブ活動を行い、貴重な映画フィルム、書籍、ポスター、機材などを収集・保存・公開して、映画文化の向上に尽力してきた。
安彦良和(やすひこよしかず)
昭和45年虫プロ養成所((株)虫プロダクション)にアニメーターとして入社。昭和48年以降はフリーとして、(株)創映社(後に(株)サンライズ)にて多くのTV、映画アニメーション作品に関わる。TV「機動戦士ガンダム」(昭54)、及び劇場版『機動戦士ガンダム(劇場版)』(昭56)『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』(昭56)『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編』(昭57)のキャラクターデザイン、作画監督を担当。『アリオン』(昭61)『機動戦士ガンダムククルス・ドアンの島』(令4)など監督も務める。クオリティの高い作画で多様な登場人物をリアルに描き、アニメーションに新しい表現を生み出し、様々な分野のクリエーターに影響を与えた功績は大きい。

【令和4年度文化庁映画賞選考委員】

【文化記録映画部門】

板倉史朗
神戸大学大学院国際文化学研究科准教授
冨田美香
国立映画アーカイブ主任研究員
中山治美
映画ジャーナリスト
原田健一
新潟大学人文学部フェロー
藤岡朝子
山形国際ドキュメンタリー映画祭理事
三浦啓一
公益社団法人映像文化製作者連盟事務局長

【映画功労部門】

石坂健治
日本映画大学教授・映画学部長
関口裕子
映画ジャーナリスト
竹内公一
日本映画・テレビ美術監督協会理事長
谷川創平
東京藝術大学大学院映像研究科教授
横田正夫
日本大学文理学部心理学研究室特任教授

(敬称略・氏名50音順)

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