令和2年度文化庁映画賞について

文化庁では,我が国の映画芸術の向上とその発展に資するため,文化庁映画賞として,優れた文化記録映画作品(文化記録映画部門)及び永年にわたり日本映画を支えてこられた方々(映画功労部門)に対する顕彰を実施しています。

文化記録映画部門では,選考委員会における審査結果に基づき,次の3作品(文化記録映画大賞1作品,文化記録映画優秀賞2作品)を受賞作品として決定しました。各作品の製作団体に対して,賞状及び賞金(文化記録映画大賞200万円,文化記録映画優秀賞100万円)が贈られます。

また,映画功労部門についても次の8名の方が受賞者として決定し,文化庁長官から賞状が贈られます。

【贈呈式】

日時
令和2年11月6日(金)14:00~
会場
六本木アカデミーヒルズタワーホールA

【受賞記念上映会】

<文化記録映画部門受賞作品>

日時
令和2年11月8日(日)
10:00~『えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤滋』
13:00~『蟹の惑星』
15:30~『プリズン・サークル』
会場
神楽座(飯田橋)

【令和2年度文化庁映画賞受賞一覧】

【文化記録映画部門】

文化記録映画
大賞
作品名 プリズン・サークル
製作者名 out of frame
文化記録映画
優秀賞
作品名 えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤滋
製作者名 いせフィルム
作品名 蟹の惑星
製作者名 村上浩康

(作品名50音順)

○文化記録映画部門贈賞理由

『プリズン・サークル』監督:坂上2019年/136分
この作品は単なる刑務所内部を紹介した映画ではない。「島根あさひ社会復帰促進センター」という刑務所では,受刑者同士を対話させ自分を見つめ直すことを促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」と呼ばれる教育プログラムが試みられている。心の闇にある犯罪の原因を探り,言葉で表現することで更生に導く姿をカメラは克明に記録する。砂のアニメーションも印象的だ。他人の気持に無関心な今,多くの人に見てもらいたい作品である。
(村山英世)
『えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤滋』監督:伊勢真一2019年/96分
脳性マヒで寝たきりとなりながら,自ら介助者を組織し自律した生活を送ってきた友人を25年あまり記録した集大成的作品。身体維持に必要なすべての行為に人手を借りる一方で,その交流が介助者たちをも支えている日常を見つめ,人間が生きるという循環を深く問い返す。短歌や音楽といった芸術表現が,狭いはずの部屋を広い社会や地球生態系へと解き開き,本作を差別と暴力に対する鋭い抵抗,生命への力強い讃歌に結実させた。
(藤岡朝子)
『蟹の惑星』監督:村上浩康2019年/68分
多摩川河口の干潟は、様々な生物の宝庫である。そこに,蟹の生態を長年観測しているフィールドワーカーがいる。この作品は,蟹に魅入られた好々爺と共に,蟹の生態を観察し,接写して,いつしか目眩く蟹ワンダーランドへと誘われていく,不思議な物語である。やがて共生と環境の大切さや,潮汐力と生命との関わりも明かになる。これはファーブル昆虫記を想起させる,一人だけで創り上げたユニークで楽しい自然科学映画である。
(塚田芳夫)

※()内は執筆した選考委員名

【映画功労部門】

氏名 分野
浦田和治(うらたともはる) 映画録音
岡田(おかだゆたか) 映画プロデュース
御所園久利(ごしょぞのひさとし) 映画美術・装置
小山明子(こやまあきこ) アニメーション色彩設計
佐川和夫(さがわかずお) 特撮監督
村越義人(むらこしよしと) 映画機材
柳島克己(やなぎじまかつみ) 撮影監督
山崎(やまざきゆたか) 撮影監督・演出

(敬称略・氏名50音順)

○映画功労部門受賞者功績

浦田和治(うらたともはる)
撮影所所属のスタッフが主流の時代に、フリーの録音助手として活動を始める。永年にわたり,試行錯誤を重ねながら撮影現場で俳優のセリフを収録するなど,妥協を許さない同時収録,的確な整音による最終ミックスを行い,多くの監督から信頼を得てきた。代表作に,柳町光男監督『ゴッド・スピード・ユー!』(昭51),林海象監督『我が人生最悪の時』(平6),犬童一心監督『ジョゼと虎と魚たち』(平15),三島有紀子監督『幼な子われらに生まれ』(平29),白石和彌監督『孤狼の血』(平30、日本アカデミー賞最優秀録音賞)など。三島監督や白石監督など若手の才能ある監督たちと積極的にタッグを組み,録音の技術力を活かして作品の内容を高めることに貢献している。平成19年から平成26年まで京都造形芸術大学の客員教授を務め,後進の人材育成にも尽力してきた。
岡田裕(おかだゆたか)
昭和37年に日活株式会社に入社後,助監督を経て,プロデューサーに転じ,藤田敏八監督『赤ちょうちん』(昭49)をプロデュース。同じ日活出身のプロデューサーらと共にニュー・センチュリー・プロデューサーズ(N.C.P)を立ち上げて代表を務め,森田芳光監督『家族ゲーム』(昭58),伊丹十三監督『お葬式』(昭59)などを手がける。平成元年には,プロデューサーの伊地智啓,佐々木史朗らと共にアルゴ・プロジェクトを設立し,自分たちで製作,配給,興行までを行うプロジェクトとして,中原俊監督『櫻の園』(平2)などの話題作を発表した。低予算映画から海外ロケを敢行した大規模な作品まで手がけ,根岸吉太郎監督『遠雷』(昭56)をはじめ多くの若い人材を発掘し,独立プロダクションや若手プロデューサーに大きな影響を与えた。
御所園久利(ごしょぞのひさとし)
昭和52年より日活撮影所大道具部に所属,同撮影所で撮影される大半の映画セットの制作に携わる。平成10年大道具部に関連する4社を統合し有限会社日本活動装置を設立,代表取締役に就任。豊富な知識と技術力,持ち前の発想力と指導力を発揮しつつ,『マルサの女』(昭62),『座頭市』(平15)など,伊丹十三,北野武の両監督作品すべての装置を担当し,内容に即したリアルな,ファンタジックな,あるいはデフォルメされたセットなど造り上げた。利重剛監督『クロエ』(平13)のカメラが回っている間に窓が小さくなる部屋のセットなど,数々の映画に貢献。他に滝田洋二郎監督『おくりびと』(平20),『陰陽師』(平13)『陰陽師Ⅱ』(平15),佐藤信介監督『GANTZ』(平23)など。後進の指導や技術の継承にも尽力し,黒澤明監督『羅生門』のセットを再現したミニチュア製作(日本映画・テレビ美術監督協会80周年記念事業)を手がけた。
小山明子(こやまあきこ)
永年にわたり,アニメーション制作において重要な役職である色彩設計(色彩設定,色指定,仕上検査)を担当してきた。ズイヨー映像株式会社で監督と協力しながら作品の色彩イメージを確立し,昭和50年からは日本アニメーション株式会社にてテレビアニメーション「世界名作劇場」シリーズを支えた。「アルプスの少女ハイジ」(昭49),「あらいぐまラスカル」(昭52)のほか,劇場用アニメーションにおいては『機関車先生』(平9),『MARCO 母をたずねて三千里』(平11),『シンドバッド』3部作(平27~平28)などに携わり,作品の時代背景や,キャラクターの個性にふさわしい色を選定し,アニメーションの色の世界の奥深さを表現して,日本のアニメーション制作に多大な貢献をした。
佐川和夫(さがわかずお)
大学在学中から円谷英二の私邸内の円谷特技研究所に通い,撮影助手としてキャリアをスタート。研究所を改組した円谷特技プロダクションに入社し,市川崑監督『太平洋ひとりぼっち』(昭38)の特撮シーンに参加。テレビ特撮番組「ウルトラマン」(昭41~昭42)で撮影を担当した後,「マイティジャック」(昭43)で特技監督デビューした。日タイ合作『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』(昭49),日米合作『極底探検船ポーラーボーラ』(昭52)など,海外との合作映画に多く携わった。中島貞夫監督『真田幸村の謀略』(昭54),深作欣二監督『里見八犬伝』(昭58),舛田利雄監督『首都消失』(昭62)など,矢島信男特撮監督や中野昭慶特撮監督との共同作品も多く手がけている。独特のこだわりぬいた映像設計には定評があり,そのアイディアと美学が特撮界に与えた功績は大きい。
村越義人(むらこしよしと)
昭和56年に映画照明器具メーカー株式会社龍電社(現・東芝ライテック)に入社,国際照明株式会社を経て,平成9年にライトロン株式会社を設立した。海外の映画撮影機材にも精通,撮影現場に赴き照明技師との関係を築き,必要とされる様々な機材を紹介,日本の現場に合う仕様に変更させるなど,効果的な機材を生み出してきた。吉田喜重監督『嵐が丘』(昭63)の2Kwフリッカーマシーン,黒澤明監督『八月の狂詩曲』(平3)のイカ釣り用放電灯型集魚灯の提案,色温度可変型LEDパネルライト「ケルビンボード」の開発など,知識とアイディア,現場との深いコミュニケーションで多くの作品に貢献している。平成30年からは日本映画テレビ照明協会事務局長も務め,若手照明助手への情報発信にも尽力するなど,分野への貢献は多大である。
柳島克己(やなぎじまかつみ)
昭和47年三船プロダクションに入り,仙元誠三キャメラマンの下で研鑽を重ね,橋本以蔵監督『CFガール』(平1)でデビューした。その後、北野武監督をはじめ,行定勲監督,深作欣二監督,滝田洋二郎監督などと組み、活躍。行定勲監督『GO』(平13),北野武監督『座頭市』(平15)で日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。代表作に北野武監督『ソナチネ』(平5),『アウトレイジ』(平22),深作欣二監督『バトル・ロワイアル』(平12)など。イランのアッバス・キアロミスタ監督『ライク・サムワン・イン・ラブ』(平24)など海外での仕事も多く手がけ,近年は中国映画2作品で撮影監督を担当している。平成22年東京藝術大学大学院での教授に就任,現在は名誉教授として学生の指導にあたり,後進の育成にも力を注いでいる。
山崎裕(やまざきゆたか)
昭和38年より撮影助手となり,記録映画『日本の華 浮世絵肉筆』(昭42)でカメラマンデビュー後,多くの記録映画,テレビドキュメンタリー,CMを担当。被写体との距離の取り方に優れ,美しくリアルに撮ることをモットーに,多くの監督と組んで劇映画の撮影にも手腕を発揮し,『Torso トルソ』(平21)では監督も務めた。主な作品に是枝裕和監督『ワンダフルライフ』(平11),『誰も知らない』(平16),五十嵐久美子監督『遠足 DerAusflug』(平12),塩田明彦監督『カナリア』(平16),河瀬直美監督『2つ目の窓』(平26),西川美和監督『永い言い訳』(平28)など。平成2年には当時代表取締役を務める株式会社ドキュメンタリージャパンから技術部を独立させた株式会社いちまるよんを立ち上げて技術スタッフを育てるなど,後進の指導にも尽力し,その功績は多大である。

【令和2年度文化庁映画賞選考委員】

【文化記録映画部門】

岡田秀則
国立映画アーカイブ主任研究員
塚田芳夫
公益社団法人映像文化製作者連盟名誉会長
中山治美
映画ジャーナリスト
原田健一
新潟大学人文社会科学系人文学部教授
藤岡朝子
山形国際ドキュメンタリー映画祭理事
村山英世
一般社団法人記録映画保存センター事務局長

【映画功労部門】

芦澤明子
映画キャメラマン
新藤次郎
株式会社近代映画協会代表取締役社長
竹内公一
公益社団法人映像文化製作者連盟理事・事務局長
野村正昭
映画評論家
氷川竜介
明治大学大学院特任教授,アニメ・特撮研究家

(敬称略・氏名50音順)

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