開会あいさつ

日時:平成16年11月14日(日)
文化庁

司会(中野) 皆様,お待たせいたしました。ただいまより平成16年度日本語教育大会を開催いたします。
私は,進行役を務めます文化庁文化部国語課中野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
まず,開会に当たりまして,文化庁文化部長寺脇研よりごあいさつを申し上げます。

寺脇 平成16年度文化庁日本語教育大会関西大会の開会に当たりまして,一言ごあいさつを申し上げます。
本日は,このような催しを設けましたところ,これほど大勢の方にお集まりいただきましたこと,まず御礼を申し上げたいと思います。
この際でございますので,文化庁の日本語教育に対する考え方,また今日の会の趣旨について,幾つかお話を申し上げさせていただきたいと思います。
長年,日本語教育ということに文化庁としても取り組み,また皆様方,全国各地で日本語教育を推進していただいてるわけでございますが,これはどんなことでもそうなんですけれども,特に教育とか文化に関することで悪いことというのは何一つないわけですから,日本語教育を盛んにするというのはいいことに決まっているので,じゃあ日本語教育をやりましょう,日本語教育をさらに盛んにしましょうとなっていくわけですけれども,そうなってきたときに,悪いことなどとは誰も言わないものですから,いいことなんだということだけで終わってしまってというか,なぜやるのかというような議論が出にくいという性質を持っていると思うわけです。
そういう意味で,日本語教育というのはあくまで手段であって,その先にどういう目的があるのかということの議論が今までやや,少なくとも文化庁の中では認識されていなかったという自覚を持っております。もちろん,日本語教育にどのような目的を持たせるのかというのは国民全体で考えていくべきことでありますから,文化庁が日本語教育の目的はこうだと言うことではないんですけれども,ただはっきりしてるのは,これはあくまで手段であって,その先にどういう目的を設定するのかということと結びつかない限り完全なものにはならないということを,はっきり文化庁としても申し上げねばならないと考えております。
ですから,そういった意味の問題提起を私どもいろいろさせていただきたいと思うわけでありまして,例えばこの関西大会というのは昨年からやらせていただいているわけでございますが,今日もここにマークを付けておりますし,お手元のパンフレットにも付けておりますように,「関西から文化力」という,関西元気文化圏構想というようなものの中から関西大会を開こうという考え方が出てきました。これも,日本語教育大会というのをとりあえずやっておけばいいと,やるのは東京でやるのが便利だから,とりあえず東京でやってしまおうということではなく,日本語教育というのは別に東京だけでやっているわけじゃない,東京以外のところでも非常に重要な役割を持ってるということを認識していただくためには,もともとこの「関西から文化力」という文化庁挙げてのキャンペーンの内容というのは,文化は首都にだけあるわけではなくて全国各地津々浦々にあるということを認識しようじゃないか,文化の中央集権というのはおかしな話なんじゃないのか,各地方に文化があって,実は経済とか政治の意味では東京における何かの重さと地方の小さな村における重さというのに違いはあるかもしれないけれども,文化に関して言うならば,東京における文化と小さな町や村にある文化との間に重さの違いはないんじゃないのかというような問題提起をしていく中で,関西から文化力,あるいは一極集中を是正する,日本中どこにも文化があるという提案をしていく。それを受けて,日本語教育大会も東京で毎年やっていくという考え方から,地方を代表する関西でやっていこうということを進めているわけです。
今日,お手元にもお配りさせていただきましたが,例えば,今年の6月に東京の新宿で女子中学生が幼児をマンションから突き落として,幸い命に別状はなかったというような事件があります。そうしたときに,私ども考えてみると,事件としてはセンセーショナルな出来事なのかもしれないが,じゃあそれはどういうふうに解決できることなんだろう,どこに問題点があるんだろうということを考えていく。そうすると,その加害者となった女子生徒はマレーシアで生まれ育って,小学校のときに新宿に来て,言葉がうまく通じないなどの理由で学校になかなか溶け込めず,いわゆる不登校の状態になってしまっていた。被害を受けた方の子供は中国人の子供で,まだ5歳ですから学校に行ってないというんで,その子たちが,高田馬場の駅前の昼間からもう薄暗いようなゲームセンターに1日中いた。なぜなのかということをマスコミなどでは書かれてますけど,なぜなのかという理由は,考えてみれば分かるわけで,日本の社会に溶け込めない,あるいは当然その前提として,日本の言葉が十分話せないというようなことがございます。
これをまた文化庁的に受けとめてみますと,あるいはお役所的に受けとめますと,文化庁では,地域で日本語教室をやっていますよ,また,今度は文部科学省サイドの学校教育では,学校に外国人の子供たちが入ってきたときには日本語指導をちゃんとやるようになってますよと。ましてや,この加害者になった女子生徒の通ってた学校は新宿区立の大久保小学校,最もいろんな多国籍の子供たちが入っていて,そういう教育のケアについては随分昔からやってきているし,非常に大きな成果を生んでいる学校ですよね。しかもまた,その地域はもともと外国人が大勢住んでいる地域なんで,そういうことについて日本中のどこの地域よりも一番,地域社会としては敏感なものを持っていた。
つまり,学校もそういうことやってました,地域社会もそういうことやってました。でも,幾らすばらしい学校でも,その学校に行かないんだったら意味がないわけで,大久保小学校でいかにすばらしい日本語教育をやったとしても,その子供が不登校だったらどうするのかという問題。あるいは,被害者になった方の子供は学齢前ですからまだ学校に通わない,その子たちを,地域の日本語教室がありますよって言っても,そこに来なければ意味がないわけでして,そこに来てくだされば,今度は文化庁サイドの地域の日本語教室でやっていける。つまり,そういうものを,学校で日本語を教えるのはいいことだから学校で一生懸命やってます,地域の日本語教室いいことだからやってますと言っているけれど,そこで終わってしまうと,目的は何なのか,目的は日本語を教えることじゃなくて,加害者になった子供も被害者になった子供も外国から日本社会に入ってきて,その人たちがこの社会の中で私たちと一緒に幸せに暮らしていけるということが目的のはずなのに,手段を主張して,いや,こうやってましたというふうなことを言っても,目的が解決されない限り本当にそれでいいのかという大変な反省をしまして,学校教育の担当のところと一緒になって,また同時に,実は文部科学省全体の取り組みで,これは別に外国人児童のみでなくて,むしろ日本人児童の方が深刻な問題なのかもしれませんが,子供の居場所をつくっていくという,地域社会を変えていく運動というのをやっているので,それらを複合的に組み合わせてやっていけば目的が達成できるのではないかというようなことで,今日手元にお配りしているように,手段を組み合わせていくと目的の達成ができるんじゃないかなということを考えて,行政の組み立て直しというものをしていこうじゃないかということを,文部科学省の初等中等教育局や生涯学習政策局と一緒にやらせていただこうと思っているわけでございます。
また,本日は,「言葉と文化 ―言葉から見る日本と韓国の文化―」ということをテーマにさせていただいております。この大きな目的というのは,日本語教育という手段だけではなく,様々な手段を使って日本と韓国が良好な関係をつくっていくという大きな目的がございます。先ほどの,すべてのことは国民が決めるんだというような意味で言うならば,2005年,来年を日韓友情年にして,日本と韓国の新しい関係,21世紀の新しい関係をつくっていくというのは,これはもう国民全体で決めたこと,つまり政府全体で決めて,そうやっていこうじゃないかということで国民の皆さんにも御理解をいただいてるところですから,ではこの目的を達成するためにどうしたらいいんだろうかということを考えていかなければいけない。その目的を達成するための手段としての日本語教育というのはどういうことがあり得るのだろうかというようなことを,今日はお考えいただきたい。 当然,目的は一つではないわけでありまして,今度は別の目的,日本とまた韓国以外の別の国が仲良くするという目的があるかもしれません。また,仲良くする以外の別の目的が出てくるかもしれませんが,今日こういった催しをこういう形でやらせていただきますのは,日本と韓国の良好な関係をつくるという目的をそこに置いてみたときに,手段としての日本語教育というものにどういう可能性があるのかというようなことを深めていただくということを考えておるわけでございます。
私ども文化庁としては,あらゆる手段を使って日本と韓国の関係をつくっていこうということで,ここではこの催しをやっておりますけれども,大阪市内の今度新しくできました国立国際美術館におきまして,日韓の高校生,大学生が集まって日韓の文化の未来について議論しようという催しを今日は予定をしておりますし,また明日は大阪のNHKスタジオで,今日基調講演をいただきます平田オリザ先生を初めとする日本の第一線の若い文化人と韓国の第一線の若い文化人が,ひざを交えて徹底討論をしていこうじゃないかというような催しも考えております。同時に,今月の11日から24日まで,ソウル市内のメガボックスという大きな映画館を使いまして日本の映画を見てもらおうというような催しもやっておりまして,私も2,3日前までそちらの方に行っておりました。これは日本のものを韓国で見ていただくというようなことで,韓国の方々が大変関心を持って劇場に足を運んでいただいて,ああ,今まで日本映画なんて見なかったけどなかなかおもしろいじゃないかというようなことを言っていただく,これは映画という手段をどういうふうに大きな目的のために活用していくかという問題でもございましょうが,そういったことをいろんなところでやっているという全体の大きな流れの中で,日本語教育のありようを議論していただく1日になればと思う次第でございます。どうぞよろしくお願いをいたします。(拍手)
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