日本語教育研究協議会 第5分科会

日時:平成16年8月4日(水)
文化庁

日本語教育研究協議会
第5分科会 「地域の日本語学習支援の方法 ―授業のヒント―」
(前半) 伊東 祐郎(東京外国語大学教授)
杉澤 経子(武蔵野市国際交流協会プログラムコーディネータ)
宮崎 妙子(武蔵野市国際交流協会日本語交流員)
河北 祐子(武蔵野市国際交流協会日本語交流員)

伊東 それでは時間になりましたので,ただいまより第5分科会「地域の日本語学習支援の方法 ―授業のヒント―」を始めさせていただきたいと思います。
 この分科会は,前半1時間と後半1時間ということで,二つのセッションから構成されております。私,今日の前半のセッションを担当する伊東祐郎と申します。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)どうもありがとうございます。
 今日のこの「地域の日本語学習支援の方法 ―授業のヒント―」なんですけれども,外国人の居住者が増えるにしたがって,ボランティアで日本語を教えたいという人たちがかなり増えています。それで,これまでの日本語指導,何をどう教えるのというような形で,実際の教え方など,かなりの多くの人たちが学んできていらっしゃると思いますけれども,今日は少し視点を変えて,何をどう教えるかというこれまでの日本語指導とは視点を変えて,新たな視点で,この地域における日本語学習支援の方法を皆さんで考えてみたいと思います。よろしいでしょうか。
 それで,これからはすぐワークショップに入ります。今日のワークショップのコーディネータをしてくださる杉澤さんにバトンタッチします。  じゃ,お願いします。

杉澤 今日はファシリテータをやらせていただきます。
 それでは早速始めたいと思いますが,先ほど話がありましたけれども,どう教えるかではなく,どう共に活動をつくるかという視点で,実は開発教育の参加型の手法の四つを日本語教育でも使えるのではないかと紹介しているのですが,今日は時間がないので,その中の一つフォトランゲージという手法に焦点を当てて御紹介したいと思います。
 それでは,グループ4,5人になっていただけましたでしょうか。今写真を配らせていただいております。その写真を中心に輪になってじっと見てください。これ右側がちぎられているのはお分かりでしょうか。
 それでは質問を出します。皆さんで話し合いをしてください。「何をしていますか」はい,どうぞ。3分間ぐらいでお願いします。

(グループごとで話し合い)

杉澤 じゃ,そろそろ終わりにしていただきます。答えを当てることが目的ではないので,このぐらいで。実際に教室で学習するときには,もうちょっと十分時間をとって,コミュニケーションがうんと膨らむようにファシリテート*1していただきたいんですが,今日はちょっと時間がないのでここで切らせていただきます。
 それでは,どういう話し合いがグループでされましたでしょうか。ちょっと御紹介いただきたいと思います。いかがでしょう,どなたか。どんな話し合いがされましたか。じゃ,どうぞお願いします。

*1 ファシリテート (facilitate)容易にする。促進する。


参加者 この男の子を見ますと,この表情からして,右側に切り取られている大人とおぼしき男性と一緒,同行者じゃないかなと。その同行者と休憩をしている。しかも,手にしているのは画用紙で絵を描いているというよりも,もう少し幅の狭いものなので,ここら辺をこの二人か,あるいはもっと大勢かもしれませんが,回ってガイドマップのようなものを見て,ちょっと休憩しているのではないかな。この表情だと,疲れたねとか,のどが渇いたねとかということを言いながら,隣の男性とコミュニケーションをしているだろうというところまで見ました。
 後ろの木の英語の案内は,ここは日本じゃないというふうに思ったり,あるいは日本の中でもとても有名なところだったら英語の案内もあるので,日本かもしれないねと。もう一つ,ただの公園よりも,どちらかというと歴史的なところ,日本なら神社とか仏閣とかというところかもしれないねと。この石が大きく切り刻んだものがありますので,私のグループの中では,なんかお墓に近いところじゃないかとおっしゃった方もありました。
 とにかく,この少年はたった一人でここで寂しくいるのではなくて,同行者とコミュニケーションをとりながら,何か休憩しているんじゃないかなというところで一応落ち着きました。
 終わります。(拍手)

杉澤 ありがとうございます。これだけの写真からすごいですね,読み取り方が。さすが日本語教師だなという感じですが。
 もう何グループかに,どういうことを話し合われましたかということをお聞きしたいんですね。そうすると,見ているところが違っていたり,話し合っていたことが,全く違うことが出てきたりする可能性もあって,とてもおもしろいです。
 じゃ,こんなおもしろい考えがあった,出てきたというグループはありますか。どうぞお願いします。

参加者 私が出した意見だったんですけれども,ちょっと視点を変えて見てみると,隣に座っているらしき男性のズボンの部分が,どうやら布の切れ端には見えなくて,銅像っぽい感じがするので,きっとその男の子はその銅像をまねして座っているのではないかなと,記念撮影でもしているのではないかなというふうに思いました。

杉澤 なるほど,細かいところを見ていらっしゃいますね。
 あと,そこ,何かおもしろい発見ありましたか。同じですか,はい。
 あとは,こんなことを話し合ったというグループ,ありますか。どうぞお願いします。

参加者 ガイドブックではなくて,私たちのところはコーラと,上に何か乗っているように見えたので,サンドイッチか何かお昼を食べているんじゃないかというふうに見ました。

杉澤 なるほど,ありがとうございます。
 それでは,この写真の片一方をお配りします。見てください。いかがでしょうか。行き渡りましたか。御覧になってみてください。
 それでは,この写真の持ち主に聞いてみたいと思います。伊東祐郎さんです。これは何をしているんでしょう。

伊東 これは,私の息子の小学校1年生のときでした。場所はアメリカですね。それでプリンストンなんですが,頭のいい学生が集まるプリンストン大学の前で,この学生のように勉強ができるようにという願いを込めて,私が写真を撮りましたということです。

杉澤 今,何年生ですか。

伊東 中学2年ですね。

杉澤 頭よくなりましたか。

東 だめです。やはりここで撮っちゃだめですね。

杉澤 アメリカのプリンストンだそうです。プリンストンに行かれたことある方いらっしゃいますか。じゃ,あちらにプリンストンに行かれたことある方がいらっしゃいますが,どんな町でしょうか。

参加者 ニューヨークから,トラックのボロ電車支線に乗ってとぼとぼ行くところで,本当に周り静かなところでいいところだなと。ちょっと奥に行くと湖があってというような,東の方なので,風景が日本なんかと似ているというところがありまして,いいところだなと思いました。

杉澤 学生が勉強するにはいいところなのかもしれないですね。ありがとうございます。
 今の写真の使い方です。今,こういう1枚の写真を半分に切り取りました。足がちょこっと見えている,ここで切り取っているのがみそですね。これはフォトランゲージの一つの手法です。
 それでは,次の写真を配りますけれども,今日は時間がないのでワークショップができないので,写真の使い方について,この写真で考えてみたいと思います。
 若い男の子と─ごめんなさい,人間が一人と犬2匹,写真に写っています。それで私今言葉で言っちゃいましたけれども,説明は日本語で一切しないんですね。写真を見せて質問だけします。これです。「何を話していますか」吹き出しのところを指差して,「何を話していますか」。1枚の写真から読み取るんですけれども,質問の仕方が重要ですね。例えば,何を考えていますか。だれがとか言わないんですね。「何を考えていますか」とか,「何をしていますか」とか。
 これも,さっき私が犬2匹とか男の子と言っちゃったから,皆さんそう思って見ていると思うんですが,このまま出すと,男の子か女の子かというところから読み解きが始まります。犬も,よく見ないと1匹か2匹か分からなかったりしますね。また,吹き出しをつけたり,例えば,この犬のところをここだけシールを張って隠しちゃったり,このまま使ったりというふうに使ったりします。
 じゃ,次の写真を配ります。配られましたでしょうか。先ほど写真の使い方ということで,例えばこういうふうに吹き出しをつくっておいて,どんなお話ししていますかとかやりますね。それから,さっきの伊東祐郎さんの写真は半分に切りましたけれども,例えばこういう写真,こう折って何をしていますか。で,グループごとに話し合いをしてもらって,実はパソコンをおじいちゃんが打っているという写真なんですね。というような写真の使い方もします。
 今,お手元に3枚写真がありますね。何枚かの写真を組にして,例えば「豊かだと思う順に並べてください」。じゃ,伊東さんどうですか,豊かだと思う順番に並べてみてください。どうしてこういうふうに思いましたか。

伊東 家族に囲まれているおじいさんは豊かかなと。

杉澤 なんか祐郎さんの老後の期待が見えるようですね。
 私はこうですね。これ私の愛犬なんです。というふうに,一人一人みんな違ったりしますね。これランキングという手法です。
 これまで,使い方を幾つか御紹介しましたが,次にお手元にこの写真を配りました。今写真3枚お手元に行っていますね。皆さんのグループでお手元にある写真を使って質問を考えてください。写真をどのように使いますか,どういう質問を出しますか。じゃグループごとに考えてみてください。

参加者 今3枚手元にあります。この3枚を使ってのお話でしょうか。

杉澤 この1枚を使ってか,3枚を使ってか,どちらでも結構です。私が先ほど紹介した手法以外に新しい手法を編み出していただいても結構です。もっとおもしろい使い方があれば教えてください。

(グループごとで話し合い)

杉澤 すみません,時間が余りないものですから,そろそろよろしいでしょうか。いろいろなやり方出ましたでしょうか,いいアイデア出ましたでしょうか。
 それでは,どういうふうに写真を使ってどんな質問を出しますか。どなたか紹介してください。お願いします。

参加者 私たち3人は,それぞれ好きな写真を選んでもらって,どうして好きなのか,どうして気に入ったのか。それと,その写真から何を思ったのかとか,先ほど出てきたのと同じような感じなんですけれども,それぞれを語ってもらうと,それぞれが違う写真を選んだし,なぜ好きなのかも全然違ったので,すごくこの3枚の白と黒の写真の中で発展がすごくある,もっと広がりが幾らでもあるような気がしました。

杉澤 ありがとうございます。3枚の写真の中から,それぞれ好きな写真を選んで,なぜそれが好きなのかを話し合うという使い方をした。実際にやってみましたか。何か「えっ」というのはありましたか。

参加者 そうですね,女の子2人の写真を選ばれた方は,かわいいからというとても素直な感想で,あと私は銅像と並んでいる男の子の写真が,一番無心な顔で写っているので好きだわという話をして,どうも女の子2人の方の写真は,既にもうレディの戦いがここに見てとれるような気がすると。もう一人の女性の方はワンちゃんと男の子。大人にまだなりきれていない,でも子供でもないって本人が思っているような気持ちが,それをよく切り取った写真だねということで好きだという人もいて。

杉澤 3人とも三者三様で。

参加者 全部違うようですね。

杉澤 おもしろいですね。ありがとうございました。この写真も,既にレディの戦いが始まっていると読んだというのも,またすごい発展の仕方だなと思います。すばらしいと思います。
 あとどうでしょう,どういうふうに使われましたか,ほかに。はい,どうぞ。

参加者 幾つか出ました。まず,私の写真ですと言って1枚出して,学生とか,相手の方から質問させる。先生の家族ですか,どこで撮りましたか,そんなような質問の形を相手にさせる。それから物語をつくる,三つとも使って。
 あと,仲間外れはどれという。3枚の写真の中で,これとこれはこういう関係があるけれども,これだけは違うでしょうみたいな,そういうのを考えてもらって言う。
 あとは,家族だと思って紹介してもらう。
 もう一つ,自分が手紙の中に写真を同封して,その説明を手紙として相手に書くというのが大体出ました。

杉澤 いろいろ考えていただきましたけれども,何かお互いにやってみたものはありますか。やってはみていないと,いろいろどういうふうに使うかを考えてみたということで。1枚の写真を出して,学生に質問を考えてもらう。やってみたいですね,これ。なかなかおもしろいかもしれないですね。それから,この3枚の写真で物語をつくってもらう。それから,仲間外れはどれ。これどういう答えになるんでしょうかね。仲間外れはどれというのだと,どんな想定で考えられましたか。

参加者 いや,特に深く,これとこれはこうだからとかじゃなくて,例えばもうすごく単純に言ったら,二つは男の子が出ていて,こっちは違うとか,そのくらい単純なことから,もっと,どうしてそれが仲間外れというふうに思ったかというのを言わせる。

杉澤 なるほどね。なんかこれはあれですね,どういう状況が仲間外れかということを考えることによって,そういう状況じゃないようにしたいねというふうに気持ちを持っていけたら,すごくいいかもしれないですね。ありがとうございます。
 じゃ,ほかにどうでしょう,どういう使い方を考えられましたでしょうか。もう出尽くしました,大体こんなところですか。どうでしょう。はい,お願いします。

参加者 私たちは,2人の女の子が写っている写真を使って,たくさん質問を考えてみました。八つ出たので言ってみます。
 1番,場所はどこか。2番,どこを見ているか。3番,2人の関係。4,何をしているか。5,季節はいつか。6,だれが撮ったか。7,なぜ座っているか。8,この後何が起きるか。
 以上です。

杉澤 それで,幾つかやって御覧になられましたでしょうか。

参加者 その時間はありませんでした。

杉澤 これやってみるとおもしろいですね。どこを見ていますか。

参加者 お母さん。

杉澤 お母さん。なぜそう思いましたか。

参加者 やさしい顔をしているから。

杉澤 やさしい顔をしているから,なるほど。お母さんって,結構背が低かったりして。お母さんがしゃがんでいるかもしれない。
 何を見ていますか。どこを見ていますか。二人の関係は。

参加者 友達。

杉澤 お友達。二人の関係は。なぜお友達だと思いましたか。

参加者 姉妹にしては余り似ていない。左側の子の方がちょっと大きく見えるけれども,その雰囲気から,服装の好みが違うとかというのがあるので,お友達かなと。でも,左側の女の子の方がちょっと年が上でお姉ちゃんぽい感じがします。

杉澤 お友達と思いました。なぜですか,姉妹にしては顔が似ていないし,服装もちょっと違う。でも,左の子の方が大きいから,ちょっとお姉ちゃんかもしれない。なるほど。
 二人の関係はどうですか。

参加者 今グループから出ました,ごめんなさい。いとこ。

杉澤 いとこ。都会にいる子が,夏休みに田舎に遊びに行った。今違うところから声が出ていたんだけれども。

参加者 ごめんなさい,私です。今グループから出ました,今の方のと似ているかもしれませんが,いとこ。

杉澤 なぜいとこだと思いましたか。

参加者 季節は夏で,おばあちゃんのところに右側の子が遊びに来ました。それで,そこにおばあちゃんのところにいる子が左の子で,二人で遊びに行きました。右の子が何かを発見しました。左の子が,ちょっと待って,私が見に行くから。そんなふうに見えました。

杉澤 ありがとうございます。二人の関係はから,こんなにすばらしい物語が生まれてきました。今日は余り時間がないので,このぐらいで終わりたいと思うんですけれども。
 実は,今日使った写真は,すべて私たちの身近な人の写真なんです。先ほど伊藤祐郎さんの写真,お坊ちゃん,今や中学生。プリンストンに行ったのに勉強できないとおっしゃっていた息子さん。  これは,河北さん。この写真は何ですか。

河北 私の次男坊です。おっしゃったとおりに,私が写真撮るからちょっとモデルになってよと言ったら,お風呂から出たばかりで裸だったものですから,ソファの後ろに沈みなさいと。嫌だなという顔をしているんです。無理やり母親に付き合った写真です。

杉澤 この写真を使ったら,あるところで,この子裸だよねとかいって騒然となったグループもありましたね。何を想像していたのかななんていうところもありました。
 河北さんのお家は2匹も犬がいるんですか。

河北 はい。2匹プラスもう1匹大きいのがいます。

杉澤 3匹もワンちゃんがいる。息子さんはお一人ですか。

息子は3匹です。

杉澤 なるほど,にぎやかな家族なんですね。
 これはどうでしょう。

河北 この写真は,やはり武蔵野の日本語コースのボランティアの方のお嬢さんが小さかったときの写真です。撮ったのは,写真館をやっていらっしゃる親戚の方で,二人で何かして遊んでいるところのようです。二人はいとこ同士。

杉澤 するどいですね。この写真は,この先がないですよね。子どもが見ている先が写ってないですよね。どうでしょう,いろいろな想像が働きますよね。恐らく小さいころ,田舎に遊びに行ったという思い出がある人は,一番最初にそういうイマジネーションになるかもしれないですね。  こちらの写真,宮崎さん。これは何の写真でしょう。

宮崎 私の家族の写真です。ここにいらっしゃる方の中にも,自分の写真を出すの嫌だわと思っていらっしゃる方いらっしゃるかなと思いますけれども,実は私も好きではありません。でも,伊東先生のお子さんの話だとか,河北さんの表情を見ていますと,とてもうれしそうに話していらっしゃるので,もしかしたら私,嫌だと言いながらうれしそうに話をするのかなと思ったりします。それで,それは私の家族です。

杉澤 宮崎さんのこの写真を5枚,例えばこの写真とこの写真と5枚並べて,一番中に入りたい順に並べてくださいという,ほとんどの人がこれが一番入りたいというふうに並べるんですね。宮崎さん,さぞや御満悦のことと思います。
 これは,私の愛犬ロクベエでございまして,よろしくお願いいたします。
 ということで,どうでしょう。今ちょっと本当に短時間だったんですけれども,日本語の学習の中で写真を使って,会話をしたり物語を作っていくという取組をしてみましたけれども,今度は今のグループで,このフォトランゲージをやってみてどんなことを感じたか,話し合ってみてください。こういう手法はどうでしたでしょうか。
 そのときに,日本語教育でも,写真をどうやら使っているらしいんですけれども,日本語教育で写真を使うときの使い方と同じですか,違いますか。という点が一つ。
 それから,私たちこういう身近な,自分の写真を持ってきたりしてやっていますけれども,身近な人の写真を使うというのは,どういうふうにお感じになったでしょうか。また,全体として,どんなことを感じられましたでしょうか。
 じゃ,3分ぐらい話し合いをしてみてください。お願いします。

(グループごとで話し合い)

杉澤 じゃ,やめてください。それでは,どんなことが話し合われたか,ちょっと御紹介いただきたいと思います。どうでしょうか。

参加者 いろいろ話が出たのでまとまらないかと思うんですけれども,まず出たのが,日本語教育で使う写真とか絵とかの教材ですと,ある程度,教師の方でこれを言わせたいというような語彙とか文型とかあらかじめあっての道具というような感じがするんですが,こういった写真ですとそういうことなく,自由に見た人のイメージしたことによって,いろいろな発言ができるという点で違うという話が出ました。
 あと,学習者のレベルによって,使い方にもよると思うんですけれども,問いかけが簡単なものであれば,初級レベルの人でもそれなりのことが言えるし,中・上級の人ならもっと難しいことが言えるし。
 ただ,そういう使い方もできますけれども,先ほどのいろいろお話が出た活動の,例えば仲間外れはどれですかとか,ランキングをしてくださいというような形になると,初級の人にはちょっと難しいかなというような話が出ました。

参加者 同じグループなんですけれども,やってみたら体がぽっぽっしてくるような,なんかどきどきする学生さんもいるでしょうし,とにかくちょっと半興奮状態になって,活気が出てきていいかなと思います。
 あと,個人的なんですけれども,身近な方の写真を使うと,つかみにいいかな。やはり入り込みやすい,興味が出てくるかなとちょっと思いました。

杉澤 ありがとうございました。
 ちなみに,だれに興味がわきました。やはり伊東祐郎さんですよね。日ごろ,息子さんの話なんてしないですものね。ありがとうございました。
 ほかにどうでしょう。こんなことを話し合いました。どうぞ。はい,お願いします。

参加者 ちょっと違う方法なんですけれども,一応日系ブラジル人ですね。いろいろ子供たちと経験するとしたら,雑誌を使って,自分の写真だけじゃなくて,雑誌を使って,例えば子供に季節を教えるとき,その違いが分からなくて,ただ言うだけだと余り想像しないんですね,子供たちって。じゃ季節の思いとか,服,環境,イメージとか,そういう写真を自分たちで探して,切って,ポスターを作るんですね。それで自分たちのを作って,その違いをはっきり見せるという方法も使います。

杉澤 ありがとうございます。
 あとどうでしょう,どんなことを話し合いましたか。日本語教育とどんな点が違いますか。どうぞお願いします。

参加者 今質問があった内容とちょっと違うんですけれども,こういうフォトランゲージの手法はよく使うことはあるんですけれども,例えば4,5人のクラスならば非常に盛り上がって非常にいいと思うんですけれども,例えば留学生などを相手にしていて,しかも,もう文法的な学習をすることだけが好きなクラスの場合,例えばこういうものをした場合に,ただこういうものだからいいというわけじゃなくて,結局その信頼関係とか,そういうクラスの一つの土壌があれば,それだけこれに熱中して,物すごいいいアイデアは出るだろうし,ここに至るまでの過程も大事かなという感じがしました。
 だから,ここで四人ごとにグループになっていますけれども,非常にお互い仲のいいグループの場合は,多分アイデアがどんどん出るだろうし,そうじゃないグループの場合は,みんな黙っているかもしれないし。そういうことが留学生同士にも当然あるわけで,そこに至るまでの一つの準備を教師の側でしなきゃいけないなということも一つ感じました。

杉澤 ありがとうございます。
 実は今日紹介できなかったんですが,緊張を解きほぐすアイスブレーキング*1の手法というのもありまして,「いいとこ探し」とか,「部屋の四隅」とか簡単な手法なんですが,今日皆さんに御紹介できないのは残念ですが。もし御興味のある方は,11月6日に武蔵野でファシリテータのワークショップをやりますし,秋口に参加型学習を紹介した本も出ますので,ぜひ御覧になっていただければと思います。
 あと,ほかにどうでしょうか。こんなことを感じた。

*1 アイスブレーキング 不特定の人が集まる場所で参加者間の緊張を解きほぐし,参加者がお互いに親しみをもち,主体的に学習に参加する雰囲気を作ることを狙いとした活動。


参加者 この写真を見て,いろいろと想像力をたくましくしていろいろな話題が出そうでいいと思ったんですが。
 話には出てこなかったんですが,何かちょっとゲームの感覚を取り入れて,例えばいとこ同士ですか,二人の小さなお子さんが何か見ていますよね。何を見ているのかというので,最終的に何か答えがあった方が,ちょっと競争意識みたいなものが出て盛り上がるかなという感じがちょっといたしました。

杉澤 ありがとうございました。
 これが,自分が持ってくる写真である意味なんですね。答えは言えるんですね。自分が持ってくる写真ですからね。
 ただ,気を付けていただきたいのは,この参加型のワークショップというのは,正解を求めることが目的じゃないんです。この参加していくプロセスにどれだけ参加をして,その中に協力とコミュニケーション,そしてセルフエスティーム*1がはぐくまれるプロセスをつくれるかというのが,実は一番大きい目的です。これ開発教育,国際理解教育の中に,平和とか多文化共生の社会をつくっていくための基礎目標として,人間の関係づくりのアプローチというのがありますが,ここで目指しているものがコミュニケーション,セルフエスティーム,協力という3項目なんですね。この三つがうまくプロセスの中に絡めていけるかどうかが,この参加型学習のねらいです。
 それと,これをいつも学習の中でやっているわけではなくて,たまにやるんです。そうすると,いい人間関係の中で次の学習が進むというもので,時々参加型学習をしてみることを私たちはお勧めしています。時々やってみてください。また,2時間の学習のうち10分,15分でオッケーですね。ということです。
 それでは,開発教育でいう参加型学習の手法を紹介しましたが,これが日本語教育というところでどのように有効なのでしょうか。最後のまとめを伊東先生お願いします。

*1 セルフエスティーム 「自分を好きであること,自分を大切にすること,自分に自信をもっていること」という意味。日本語では「自尊心,自己尊重」などと訳される。


伊東 じゃ,残り5分で,私たち開発教育の今の手法,いわゆるこちらの冊子ですと22ページ,開発教育の手法,4番目ですか。今日は部屋の四隅はできませんでした。いいとこさがしもできませんでした。3番目のフォトランゲージを今日はちょっと皆さんと一緒に体験しました。あと4,二頭のロバですね。いろいろと武蔵野市のボランティアの方々に,外国人居住者の方を対象にこの四つを試してみました。
 私たちが,なぜこのフォトランゲージを使ったかということは,その一番の理由は,いわゆる学校型日本語教育と違って,地域型日本語教育はいつもいつも日本語を教えるという関係ではなくて,地域に,同じ共同体に住む日本人,そして外国人と共に対等な立場で人間関係が構築できないだろうか。外国人の居住者と日本人ボランティアが出会う場所というのは,唯一国際交流協会とか,ボランティアの日本語教室とか,そういったところなんですね。そういった非常に多文化・多言語社会,なおかつそういった接点のころで,ただ単に私たちは日本語を教える側で,外国人学習者は学ぶ側だけの関係で終わってしまってはもったいない。
 午前中の発表にもありましたけれども,ただ単に「おはようございます」「これは幾らですか」の会話だと,なかなか長続きしません。したがって,ある程度の語彙が入り,文法も入ったところで,お互いある写真を見てどんなことを感じるだろうか。今日はたまたま多くの方たちは,いわゆる日本の社会で育った方たちだろうと思いますので,感じ方とか思ったことは共通しているかもしれませんけれども。
 私も,国際交流基金で紹介されているこういったレストラン紹介の4枚のフォトを使いました。これをじゃ,これまでは,これは駅の駅そばレストランです。これはファミリーレストランです。これは普通のフランス料理レストランですということで,情報とか語彙とか文型を導入するために,こういったフォトを使ってきたんですけれども,対等な立場で自分の考えていることを,国籍,母語関係なく,もっともっと自分の意見を発信することでコミュニケーション力を高められないか。そのときに開発教育の中のこの人間関係構築のアプローチである四つの手法を使えないかということでいろいろ試してみました。
 そういったことで,ただ単に日本語を教えるということではないところでの関係性をつくるということで,今日紹介させていただきましたけれども,ぜひこれを皆さんにも実践していただきまして,新たな日本語教育の視点を持っていただけたらなというふうに思いました。
 最後に一言ずつ,実践していただいた宮崎さんと河北さんに,体験と感想をちょっとお話しいただきたいと思います。よろしくお願いします。

宮崎 私は武蔵野市国際交流協会の日本語教室で,何度かこのフォトランゲージをしています。今日はしませんでしたが,この中に入っている写真を何枚か使ってランキングという手法,先ほど杉澤さんから説明があったその手法をよくやっていますが,これが一番好きです。
 とても簡単なやり方としては,「どれが一番好きですか」との問いに対して,一番好きなものを選びます。今日も会場のどこかから声があったと思いますが,この質問だと,初級の方でもできる。みんなが違ってとても楽しい,みんなが違うことが楽しくていいなという気持ちになれて,ランキングが私は一番好きです。
 私は先ほど自分の写真のことをあまり語りたくないと言いましたが,私の提出した写真を使いますと,ランキングのトップになって,もう無条件にトップになって,だれも私のことを聞いてくれない。それで少々ひがんでおります。
 というようなわけで,フォトランゲージは,写真の選び方を考える必要があると思いますが,とても楽しく使える手法だと思います。また,先ほど会場から信頼関係ができていないと難しいとの意見が出ましたが,本当にちょっとした入り方で,小さいグループだったら,大きなグループは難しいかもしれませんが,地域では小さいグループですので,割にみんな心が開けてくるものではないかというのが,私が何度かやってみて感じていることです。

河北 私もMIAで日本語コースの担当をしていますけれども,夜のコースなんです。ビジネスマン,働いていらっしゃる方,男性が多いんですけれども。私は乱暴なたちなので,ランキングのほかに一番最初に試したのが,とにかくいろいろな写真を全部床の上にぶちまけまして,一番好きな写真を1枚それぞれ選んでちょうだいと言いました。みんな競うように写真を取りに行って自分の好きなものを選びました。
 それから,日本人の支援者も一緒だったんですけれども,グループになって,そのグループの中でその写真を使ってストーリーをつくってもらいました。そのときに,支援者がいますから,言葉がなくても,日本人の支援者が言葉を,何が言いたいのかなと思ったときに出してあげられる。それからほかの学習者もいますので,初級者の場合は,同じ母語の人に,こんなこと言いたいんだけれども,どう言ったらいいんだろうねと聞いたりして言葉をもらうというふうにして,グループごとにその写真を持ってストーリー順に並んで,自分の写真の部分のストーリーを語ってもらうという形で,ストーリーを発表してもらいました。
 そうしたら,初級者の人がしゃれたことを言ったりしたんですね。例えば,手術の場面の写真を出して,これは脳の手術をしています。聞いていた人たちがみんなびっくり仰天して,やんやの喝采になったものですから,今度は隣にいた上級の人が慌ててしまって,一生懸命何か気の利いたことを言おうと思ったんですけれども,余り気が利いていなくて,初級者の方がとって,もう意気揚々としていたというような場面もありました。
 ということで,かえって変な枠をかけない方が,びっくりするような言葉が学習者の方から出てきます。日本人も一緒に楽しめるということで,フォトランゲージはおもしろいと思います。

伊東 ありがとうございました。
 今回はフォトランゲージに限っておりますけれども,フォトを使うメリットとしては,学習者の興味・関心を,今皆さんが体験していただいたように集中させられる。そして学習者全員が同じものを共有できる。しかし,学習者からの多様な反応が期待できる。学習者に対して多様なアプローチができる。これは日本語力ですとか,興味・関心・認知力に応じて柔軟に対応できるということもあるだろうと思います。
 そして,写真はかさばらないということも言えるだろうと思います。
 そして,日本語習得というのは,何も教室の中の私たちが一方的に教えた内容が習得されるわけではなくて,習得は目に見えない形で,予期しないところで起きます。私がこれをファミリーレストランと導入しようとしたとしても,学習者は違うところに興味・関心が行って,先生これ何ですかって聞いてくると,いや,今日の導入項目ではないから,ちょっと静かにしなさいなんて言ってしまうのが,私の過去の日本語教師像でしたけれども,フォトランゲージというのは,学習者の興味・関心を最大限に生かして,それを日本語習得に結びつけるような一つのアプローチかなというふうに思っています。
 まだまだ始めたばかりです。興味・関心のある方は,11月に発刊される予定の武蔵野市から出る,スリーエーネットワークから出ますけれども,また御覧いただきたいと思います。
 2,3分ちょっと時間をオーバーしてしまいました。どうも今日は御参加ありがとうございました。これで第1セッションを終わります。ありがとうございました。(拍手)

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