開会あいさつ

司会(中野):皆様,お待たせいたしました。ただいまより平成17年度日本語教育大会を開催いたします。
 私は,司会を務めます文化庁文化部国語課の中野と申します。よろしくお願いいたします。
 まず,開会に当たり,文化庁文化部長寺脇研よりごあいさつ申し上げます。
寺脇:平成17年度の文化庁日本語教育大会の開会に当たりまして,一言ごあいさつを申し上げます。担当の文化部長をいたしております寺脇でございます。
 本日は,お暑い中,この大会に全国から大勢の方々にお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。言うまでもなく,日本に暮らす外国人の方々の日本語教育というのは,非常に重要性を増してきており,また海外においても日本語学習をなさりたい方が増えてきているということで,非常にこういう分野の需要というのは増してきているわけでございます。
 ただ,そうは言いながらこの日本語教育というのは,単に学びたい人がいるから,学ばないと暮らせない人がいるから学んでいただくということではない。日本語を知っていただく,日本語を学んでいただくということは,日本の文化を学んでいただくことの入り口なんだろうと思います。文化というのは,いろいろな形で生活も文化ですし,芸術も文化です。その文化を知ってもらうために,何より必要なのは言葉であろうと思うわけです。そういう意味で日本語教育の必要性というのは,もちろん生活実用面で必要だということもございましょうけれども,文化を互いに知るということに何より欠かせないものであると思うわけでございます。
 文化庁としては,日本語教育はもちろんこうやって力を入れておりますけれども,日本の文化を知ってもらう。当然,同時に外国の文化を知るということを非常に大切にしたいと思います。
 今,戦後60年という年を迎えていますけれども,60年前に思いをいたしますと私たちの国は,自ら引き起こした戦争のために自分たちも傷つき,また周りの国々の方々を傷つけてきました。そこから何を学び,どう再出発しようとしたかというのは,現在,私たちが使っております日本国憲法であり,あるいは教育基本法であり,というものに記されています。それらの中で,何をうたっているかというと,この国が文化の国として再出発するということを誓っているのです。日本は文化国家になるんだということが憲法にも教育基本法にも記されている。なぜそのときに文化ということだったのだろうか。よく言われる国敗れて山河ありみたいなことで,国がこんな状態になってしまったので文化ということを礎に立ち上がろうというようなことだったんだろうか。どうもそうではないようなのです。
 その時代に憲法をつくり,教育基本法をつくった方々のお話を聞きますと,自分たちが惨めな状態になったから,日本にはすばらしい文化があるから,文化で何とか自分たちのアイデンティティを回復しようということは,わざわざそこに書かなくたってみんな自分でやることだ。憲法,教育基本法に書かれていることは,自分たちの国は戦争という最悪の手段で世界に様々な悪い影響を与えてきたわけだけれども,これからは戦争の正反対の言葉である文化,戦争が最悪の言葉であるとするならば,文化は一番いいものであるんではないか。日本は文化国家として生まれ変わることによって,世界の方々に戦争の対極にある文化の大切さを知ってもらうんだということなんであろうと思います。
 教育基本法前文によれば,我々の国は文化国家を目指し,文化国家になることによって世界の平和と人類の福祉に貢献することを決意したというふうに記されています。世界の平和と人類の福祉に貢献するということは,戦争を放棄して平和はもちろんのこととして,文化というもっと積極的な立場で,戦争をしなくても,こういうふうにやっていけるではないか。憲法9条の戦争放棄というような選択肢をとった国,その国は戦争する軍備を持たないんだったら,すぐ世界から滅ぼされてしまうだろうと思うから,それまでの日本は軍備を増強しやってきたわけですけれども,それを捨てて文化の力で日本というすばらしい文化を持った国,自分の国がすばらしい文化を持つと同時に,外国の文化のすばらしさも認める国,そういう国が地球の上に存在するということは,戦争だとか軍備とかいうことがなくても,平和な世界がつくれるんではないのかということをアピールしようということであったのだろうと思います。
 そのことを思い出すと,今日その文化,あるいはその文化の基本になる日本語教育というのは,いわば世界の平和,安全保障というものにつながっていくのではないかと思います。文化庁といたしましては,今年は日韓友情年ということもございますけれども,日本と韓国の文化交流を今非常に機運が高まっている中で進めていこうと考えております。もちろんその先に見据えているのは,今政治的にいろいろな問題を抱えて険悪な状態にありますけれども,日本と中国の関係を良くしていこう,あるいは日本と北朝鮮の関係を良くしていこうというようなものがございます。互いの文化を知るということは,相手に対する恐怖心とか,憎しみというものをなくしていく要素を持つのではないかと思うわけでございます。
 昨年から韓流ブームというようなことで,韓国の文化に日本人が非常に深く触れている。そうしたときに,今政治的には日本と中国,日本と韓国というのは,極めて良くない関係にあるわけですけれども,中国に対する感情と韓国に対する感情の間に随分日本人に差が出てきている。それは,現代の中国のことを私たちはあまりよく知らないけれども,現在の韓国のことは,ドラマや映画や様々なものを通してよく知っている。相手のことを知っていれば政治的に困難な問題が出てきたときに,ストレートに相手に対する国民感情としての嫌悪感につながっていかないということを私たちは今日の日韓関係と,そして私たち国民の韓国に対する感情というもので,ありありと実感をしているのだろうと思います。そういう意味で,日本にいる外国人はもちろん,世界中の人々に日本語を知ってもらうということは,日本という国を知ってもらうことであり,国を知ってもらうということは,それが国と国との友好関係につながっていくということなのだろうと思います。
 また,同時に日本はある意味で鎖国のような形をとってきています。戦後60年,外国人の方々が日本に自由に住み,自由に暮らし,自由に働くということを制限してきたわけですけれども,これも21世紀へ向けていつまでもこういう状態で過ごすということができないということが,明白になってきております。7月11日に小泉総理の諮問機関でございます,文化外交の推進に関する懇談会というものが,今後の日本のありようについての報告を出したわけでございますけれども,その中でも日本語教育の重要性というものを強く打ち出しているということは,恐らくこの国がもっと開かれた存在にならなければならないということを念頭に置いてのことであろうと思います。
 本日から,2日間行われますこの日本語教育大会においては,そういった未来を展望しつつ,日本語教育の現在,そして未来というものについていろいろな議論が行われますことを,主催者として期待をする次第でございます。
 どうぞよろしくお願いをいたします。

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