日本語教育研究協議会 第2分科会

日本語教育研究協議会
第2分科会 「日本語教育のための社会言語学−地域の言葉の扱い方−」
高木 裕子(実践女子大学教授)

高木:お待たせいたしました。実践女子大学の高木と申します。1時間半,どうぞよろしくお付き合いくださいませ。
 私の話に先立ちまして,御紹介をさせていただきたいと思います。
 こちらに二人おりますが,私の発表でアシスタントをしてもらおうと思っています。手前が佐藤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。向こうが森谷と申します。どうぞよろしくお願いいたします。以上3名でさせていただきたいと思います。
 それでは,今日お配りしてある資料がお手元にあると思いますので,そちらを御確認願いたいと思います。ここは第2分科会「日本語教育のための社会言語学」というところのセッションです。
 それではページをめくっていただきたいと思います。12ページから14ページ,そして15ページにかけまして,今日この時間でお話しすることを一応まとめてございます。タイトルをまず御覧ください。先ほど申し上げましたように「日本語教育のための社会言語学」,そして副題として「地域の言葉をどのように捉え,それを地域の日本語教育にどう活かすのか」というのがこの話の中心となります。さて,日本語教育の10年というものを振り返ってまいりますと,一つ大きい出来事に,地域の日本語教育の動きというものがございます。多分この会議にお集まりの方々も,この活動,もしくは支援に何らかの形でかかわりを持っていらっしゃるのではないかと考えるわけですが。
 そのような中で,私のプロフィールを御覧いただきたいと思います。10ページ,僭越ながらですが,私は実践女子大学の前は山形大学というところにおりました。こちらのスクリーンを見ていただいてもわかりますように,山形大学と入っております。いみじくもちょうど地域の日本語教育が10年間の中で大きな動きを始めたときに,私は山形におりました。当初はそちらの方に赴任したのですが,まさかこのような大きなうねりが私をのみ込んでしまうというようなことは考えなかったのですが,こちらの山形大学に就任して以来,地域の日本語教育にかかわることになりました。そしてまたそれにかかわる調査と研究をしてきたわけです。
 同じ時期,平成7年から9年なんですが,やはり同じく文化庁の事業で地域日本語教育推進事業というのがございました。山形市はちょうどそのときに委嘱を受けまして,私も推進委員の一名としてこの調査,この事業を展開してきたわけです。今日お話ししますのも,その中でやった事柄を絡めながら,山形大学におりましたときに行ってきた調査研究をベースにお話をしたいと思っています。
 繰り返しになりますが,テーマとしましては,地域の日本語をどう捉えるのか,そしてそれをどう活かすのか,ベースになったものは私がいた山形大学の調査と,それから文化庁の事業だとお考えいただきたいと思います。
 ところで,平成7年から9年に地域の日本語教育の推進事業の一員としてかかわりましたときに,私は大学の者として,学識者という形で参加したわけなんですが,そのとき三位一体と申しますか,大学だけではなくて,大きなところとしてかかわりがあったのが行政,自治体です。それと,もう一つ大きな柱となりましたのが,地域日本語教育を推進していらっしゃる日本語ボランティア,日本語教室の方々です。
 この三者で実はその事業を展開することになったんですが,当初行政の方々が着目していらっしゃったのが,在日外国人が何に困っているのか,どんな情報を必要としているのかということでした。それとあわせましてその情報の提供をどのような言語でするべきなのか,いわば言語サービスということになります。それが第1点としてございました。
 そして,地域日本語教育におけるボランティアの方々の興味というのは,一つはどのようにして教えるのかということがあったのですが,それ以前に何を教えるべきなのかということでした。これを裏返しますと,地域社会において日本語教育をどうするのか,または地域日本語教育において言葉をどう扱っていくのかということにかかわると思います。
 ここにいらっしゃる方々も御存じのように,日本語教育と申しますのは,ハンドアウトの「?.はじめに」の4,「教育日本語」と書いてございますが,教育文法と置きかえても構わないと思うんですけれども,いわば日本語教科書が扱ってきた正しい日本語というものです。この中身に関しましては,構造言語学にのっとって,文法積み上げ形式でそれぞれ一つ一つ項目を挙げているという形であったことは御存じだと思います。それを,日本語教育がやっていたので,地域で教えようとしたときに様々な問題が出てきたのも事実です。
 一つは,それだけでは生活の日本語に結び付かなかった。または,非常に時間がかかり過ぎた。もう一つは,教える側としてそれを教室の中で教えるんだけれども,外で教えなければならない事柄と違ってきた。それが一つ問題点として挙がってまいりました。
 そうしますと,今日のレジュメの方の?の2を見ていただきたいと思います。このような問題点を踏まえて,では実際に日本語,先ほど申しましたように,地域の日本語教育の中で何を教えなければならないのか,どんな日本語を扱うべきなのかという問題にもう一つぶつかってくることになったわけです。
 繰り返しになりますが,先ほど私が山形大学で調査をするということになったのも,そのような背景があります。そして,?の2のところを確認していただきたいと思います。地域社会で使われている日本語とは何なのか。先ほど地域社会で使われている言葉ということを使ったんですが,ここでは地域社会で使われている日本語とは何なのか。つまりそれが教える内容になるのではないか。その実態は何なのか。その形はどのようになっているのか。これがすなわち調査の出発点となりました。
 (1)を御覧いただきたいと思います。これを考えていこうとするときに一つ出てきたのが,そもそも日本語とは何なのかということです。日本語とは何なのかという歴史をたどるのではなくて,そこにある日本語が何なのかということを考えると,どうしても地域にある日本語の姿というのを追っていかなければならなくなりました。
 そして?の2の(2)を御覧ください。先ほど調査とか研究と申し上げたんですが,ある種の手法というものが必要になってまいります。そこで(2)地域社会の日本語の実態を正確に把握するための学問の必要性ということで,社会言語学,それから談話研究,第二言語習得研究等々が出てまいりました。これプラス外国人をめぐる様々な諸問題が出てまいりますので,社会言語学だけじゃなくて,社会学も含めて調査をするということになったわけです。
 そのような学問的な手法にのっとっていると,幾つかの問題に突き当たってまいりました。一番上の行を御覧いただきたいと思います。地域社会の隠れた言語問題,これは社会言語学,それから方言学等を扱っているところで,様々言われてきていることです。つまり,地域社会の言葉が何なのかということを突き詰めていけばいくほど,見えてきたのは言語の問題なんです。
 今日ここでお話しするのは,もちろんその言葉が何なのか,どう教えるのかということでもあるわけですけれども,もう一つは,そこに隠れている言語の問題が何なのかに多分突き当たるだろう。それは山形だけではない。どこの地域に行こうと,それは突き詰めていけばぶつかる問題です。
 そして,右の方へ目を移していただきたいと思います。一番最初に書いてあるのが規範からのと書いてある。社会言語学等で扱っている言葉に着目してみますと,先ほどの教育日本語と比較してもそうですが,地域で使われている生活の言葉というのは,正しいという部分ではちょっとずれているかもしれません。そこで,ここで書いてあるのが,規範からの逸脱があるということです。
 その上で,日本語の姿そのものを見ていくと,そこには様々なものがあってもいいんじゃないかという考え方もできるわけで,これは日本語のバリエーションということになります。バリエーションということになると,もちろん出てくるのが方言,標準語という問題です。しかしながら,バリエーションももっと見ていきますと,次の問題にぶつかります。つまり方言と標準語二つだけではないという問題です。
 そこで三つ目を見ていただきたいと思います。社会言語学でこれを言語変種としてとらえるという向きもございます。その言語変種としてとらえるという事柄を,下へ下がっていただきいて,?の3,どんな日本語を地域の日本語教育で扱っていくべきなのかと,ここで地域語,地域共通語という言葉を挙げています。地域共通語ということでちょっと説明させていただきたいと思いますが,対極にあるのは全国共通語です。全国共通語というのはどこでも通じる言葉,いわば教育日本語的なものであったり,標準語と言われるもの,またはアナウンサーが使っているような日本語とお考えくださって結構です。
 それに対して,地域で使われている言葉は方言と標準語,それだけではないと申し上げました。その中間がある。中間もしくは言語の変種,どちらかの影響を受けて変わったもの,または世代によって違うもの,職種によって違うものというものが出てくる。それは,その地域では一般的に共通語として使われているものである。その意味で地域共通語という言葉を使いました。つまり,全国共通語が津々浦々で使われている正しい日本語だと仮定してください。そうしますと,地域で使われているものはバリエーションがあって,様々なものが含まれている。決して方言と標準語だけではない,その中間もある。それが普通にその地域にいる人に使われている言葉なんだ,それで地域共通語といたしました。
 3番に,地域共通語のほかにもう一つ,地域語と書きました。私が考えておりますのは,これも先ほどのプロフィールの方を御覧いただくとわかると思うんですが,日本語教育学会の秋の大会のときに,「日本語のバリエーション」という題目で講演をさせていただきました。その際に挙げた言葉が地域語です。つまり,地域共通語ではあるけれども,その中にある言葉が標準語の方言とその中間,様々なものがあって,それを総称して地域語とここでは呼ばせていただいたわけです。
 ですから,ここに「地域語」とはと書いてあるんですが,その中身は方言と標準語があって,それにここの3行書いてあるものがあるだろうということです。これにつきましては,後でどういったものかを例を挙げてお示ししたいと思います。
 その上で,?の2の(3)を見ていただきたいと思います。地域社会で使われている「地域共通語」とは何なのかと書きましたが,答えは方言と標準語と,そしてその中間にあるだろう地域語があるのではないか。ここだけは確認していただきたいと思います。
 そしてもう一つ,先ほどの調査を進めていく中で,そして特に言葉に注目していくと幾つかの壁にぶつかり,問題にぶつかるとお話ししたんですが,もう一つ大きな言葉だけではない問題がありました。それが?の1です。日本人が使っている日本語と外国人が使っている日本語とタイトルをつけておきました。中を見ていただければ多分おわかりになっていると思います。
 (1)が使っていないつもりと実は使っている日本語というふうに書いてあると思います。例えばこれはどういうことなのかと申しますと,方言を使っていない,私が質問すると,あなたは方言を使っていますかと言うと,いやこういったところでは絶対使っていませんとおっしゃるんです。けれども,私が聞く限りどうも何か方言がまざっている感じ,使ってしまっている。そこで,使っていないつもりと実は使っていたという現実のずれがあるのではないか。
 それから(2),これは特に外国人の場合なんですが,家族が方言を話してくれるなと言われる場合があります。それで,話したくないという気持ちの作用が働くんですが,実は地域で日本語教育を受けて,または地域で自然に言語習得してしまうと,おのずと入ってきてしまうんです。入ってしまったと言った方がいいかもしれません。そうすると(2),話したくないという気持ちとは裏腹に,自然に使ってしまっている,既に入った地域語という形になります。それについても,後でまたどんなものなのかお示ししたいと思います。
 以上,?に書いてあることが,研究を進める中で,言葉に関して問題と感じたところです。では実際どんなものなのかをお示ししたいと思います。ただし,ここで挙げさせていただくのは,山形市のみの場合です。それぞれの地域にお戻りになりましたときには,やはり実際大きな目を開いて,耳をしっかりとそば立てて,そしてお聞きいただかなければならないことが随分出てくると思います。
 まず,?の1を御覧ください。これから音声と両方でお話し,またはお聞かせしたいと思います。ただし,方言はなかなか引っかかる人と引っかからない人と,すっと聞いてしまうと,それで,えっ,どこがおかしかったの,それからまたこれは方言なの,それから全部方言でわからなかった,いろいろ出てくると思います。向こうに二人おりますが,彼らはネイティブです。私はノンネイティブで,方言を話せません。彼らはある程度話せます。そこで彼らにちょっとやってもらおうと思います。
 まずは,目は?の1のところを見ててください。それでは,1番からお願いいたします。

佐藤:1の(1)は,早くレポート終わして,遊びに行こうよ。(2)手を挙げかけている人にかけるので,発表してください。(3)ここに字がかかってると思いますが。

森谷:(4)危ないから,ちょすな。(5)私,次の駅でおぢんがなね。(6)うちのチームは強いチームから負けたんだ。

高木:いかがでしょうか。これは正しい日本語でしょうか。山形では,本当は「括弧1」とは申しません。二人が直してくれました。向こうでは「1括弧」と申します。最初のところを御覧いただきたいと思います。もう一度お願いします。

佐藤:1括弧。

高木:やっとその雰囲気出てきましたね。1括弧,はい。

佐藤:早くレポート終わして,遊びに行こうよ。

高木:お気づきでしょうか。どこが標準語と違うでしょうか。

参加者:「終わして」。

高木:ありがとうございます。そうです。「終わして」です。「終わらせる」というのはあるけれども,「終わす」というのは変ですね。標準語に近いです,これ。けれども,使うとすれば掃除,例えば学校ですと掃除を早く終わらせろとか終わらせようとかという言い方を多分学校ではすると思うんですが,ここでは「終わす」という日本語が出てまいります。
 2番。

佐藤:手を挙げかけている人にかけるので,発表してください。

高木:これは気付きますか。字で見るとひっかからない方がいらっしゃるかもしれませんが。答えは,「手を挙げかけている」もおかしいかもしれません。「人にかけるので」という言い方です。標準語にはありますよね,「かける」という言い方は。
 3番お願いします。

佐藤:ここに字がかかってると思いますが。

高木:これはお気付きですか。普通だったら字が書いてあると思いますが。これは行政レベルの方でも,私に説明してくださるときに,「字がかかってると思いますが,先生」と言うんです。最近は慣れてきましたから全然問題ないんですけれども。
 4番お願いします。

森谷:危ないから,ちょすな。

高木:これ意味わかりますか。意味何ですか。

森谷:危ないからさわるなという意味です。

高木:さわるなです。「ちょす」と。何か外国ですね,こうなりますと。
 5番お願いします。

森谷:私,次の駅でおぢんがなね。

高木:これは何となく意味わかりますよね。いかがでしょうか。「おりる」です。それが向こうになりますと「おぢる」です。ですから,例えば家の前でバスをおぢてって言うんです。バスが落ちたら困りますよね。しかし「おぢて」って言う。それから,「おぢんがなね」という言い方もします。
 6番はいかがでしょうか。

森谷:うちのチームは強いチームから負けたんだ。

高木:何がおかしいでしょうか。お気づきの方いらっしゃいますか。

参加者:から。

高木:からです。普通でしたら,ひょっとしたら,うちのチームは強いチームに負けたんだという形になる。山形の場合,「に」が「から」になりやすいので,こういった形になります。今ここに挙げた六つ,つまり標準語ともつかず,また標準語の形にあるんだけれども,意味が語法的に多少違っているもの,こういったものが中間にあり得るだろう,またはそれ以外の方言と標準語のほかにあるんじゃないか。これが地域語ということになります。
 それでは,2番を見ていただきたいと思います。これは山形にいる日本人の若者の会話です。こんなふうになると思ってまずは聞いてください。すみません。

佐藤:テレビが来たず。

森谷:はっ,使わない。

佐藤:そんなの使わなくない。

森谷:使うべ。

佐藤:使ねず。

高木:いかがでしょうか。もう一度いきます。お願いします。

佐藤:テレビが来たず。

森谷:はっ,使わない。

佐藤:そんなの使わなくない。

佐藤:使うべ。

森谷:使ねず。

高木:これがごく普通の会話です。ラインのところを御覧ください。下線を引いたところが,いわば最近使われている若者言葉に近い形です。最初のA,テレビが来たず。これはおわかりになりますでしょうか。幾ら山形でも,めったにテレビ局が来ないが,やっと来たという意味ではございません,これは。どういう意味でしょうか。

参加者:番組が始まった。

高木:よくわかりましたね。番組が始まった。チャンネルをカチッと合わせて,その番組が来たという,そういう意味でいいんですよね。

森谷:はい。

高木:使った本人がおりますので。そういう形で。
 そうすると,次を御覧ください。「はっ,使わない」って,この形は標準語ですよね。そうすると,「そんなの使わなくない」と,これが若者言葉的になって,そうでないと強調で繰り返すと次,「使うべ」。そうすると答えは必ず「使ねず」というようなのです。いかにスタイルが変わっていくのかもおわかりいただけると思います。簡単な会話です。これが多分山形で行われている,彼らが接するであろう同じような世代の人が使っている日本語ということにもなるんではないかと思います。
 次はちょっとグレードアップいたしましょう。3番を見ていただきたいと思います。これから音声を流しますので,どれだけ聞き取れるか,中の声をお聞かせいたします。
  <音声>

高木:どのぐらい聞き取れたでしょうか。今,ディクテーションテスト*1をするとよかったですね。あれがごく普通の若い人が話している山形での言葉です。方言ともつかず,しかしながら標準語が入っているんだけれども,どことなく引っかかりが全くないという,難しいと思います。それをスクリプト,つまり会話の形に文字起こししたのが12ページから13ページにかけてのものだというふうにお考えください。
 ちょっと改めて目で追っていただきたいと思います。こちらでゆっくりと発音してもらいたいと思います。AとB,お願いいたします。

*1 ディクテーションテスト 聞き取りテスト


佐藤:○○よー。

森谷:うん。

佐藤:あれなんだがー。

森谷:うん。

佐藤:あのー,東京?横浜だっけが。

森谷:うん。

佐藤:さ行っても先生なんの?

森谷:なるよ。

佐藤:マジで?もう決まってんのそれ,なんか。

森谷:え,決めでんの。

佐藤:その相手,相手じゃない,学校?っつの?

森谷:うん。

佐藤:その。

森谷:うん。

佐藤:はだらぐどこ。

森谷:そだな決まるわげないべした,ほだな,いっ,探すのっだん。

佐藤:自分でー?

森谷:んだがら,3月で辞めて行がんなねっちゅうのよ。

高木:いかがでしょう。今,生でやりましたので,もう一回いきますか。追っていってくださいね。すみません,12ページから13ページがちょっと切れていますので,左側をずっとまずは12から13に下がっていただいて,そして右側の方もまた12から13に下がっていただいて,目で追ってください。もう一度音を流します。すみません,お願いします。
  <会話をリピート>

高木:よろしいでしょうか。13ページの右側の一番上を見てください。「いっ」というところに小さい「っ」が書いてありますが,実際には「いっ」というのはものすごく短かったと思います。「つ」が聞こえたかな,聞こえない程度だと思うんです。
 ちょっと解説をさせていただきます。これが方言,彼らは実は方言を話しているとは意識していないんです。あなた,ちょっと話してと言ったら,いや,先生これはちゃんと標準語を話しています。さっきの一番最初の音声です。2番目はちょっと改まってもらって,今言ってもらったんです。あのテープです。
 説明をさせていただきたいと思います。一番最初に「よー」と書いてあると思いますが,色で点線が引いているところを見てください。上から,12ページですと左側の上から3行目,「あれなんだがー」と書いてあります。先ほどの音を聞いていただいてもわかると思いますが,濁音が,これは東北でよくあるものです。これは全般に見られるものですが,もちろん山形でもある。語中,語尾にある音のか行,た行は有声化し,「が」と「だ」になりやすいという意味です。
 それから,次に見ていただきたいのが,上から5行目,「あのー,東京?横浜だっけが」というものです。「だっけ」というのは多分標準語であると思うんですが,「だっけが」ということです。これを分析しますと,過去,回想をあらわす「け」が後続の場合の「だっけが」,断念や失望をあらわすのが後続するので,例えば右の方で言うと「のっだん」というのもあるということです。
 ちょっと「け」のところの用法をより詳しくお示ししたいと思います。すみません,「け」お願いします。今のは一例だけなんですが。見えますでしょうか。今の申し上げたものは,ここに書いてある3番,過去を回想する場合なんですが,こちらの方を御覧いただきたいと思います。共通語では,話している人も聞いている人も知っていることを確認する場合,何々だっけというのは1,こちらを使います。それから2番,忘れたりよく覚えていないことを相手に確かめる場合も使います。過去を回想するときももちろん使う。しかし,山形の場合は過去のことを話す場合にも使って,四つに使い分けができるというようになるわけです。
 もう一度今日のレジュメの方を御覧いただきたいと思います。例に挙げたのはたった一つなんですが,実はこれだけ四つに分けることができるということです。もう一つお願いします,「け」。それをすべてまとめてみました。今度は動詞の現在形であるとか,動詞の現在形に形容詞,助動詞等にもこれ全部つくことができます。多分,標準語の方はつかない。でも,今度は山形弁はついてしまう場合もあるということです。これを一覧表にしたものです。はい,ありがとうございました。
 何を申し上げたいのかと申しますと,実は聞いていると「あのー,東京?横浜だっけが」,それだけで済むんですが,用法としてはこれ以上山形ではあるということになります。使い方もちょっと違っていますよね。これは多分ごく標準語に近い形で使っているものが,ただ「だっけが」となっているだけだと思われると思うんですが,それ以外にも用法があるというふうにお考えいただきたいと思います。
 それから,13ページの右側の方を御覧いただきたいと思います。先ほど断念や失望をあらわす「の」が後続する後の「探すのっだん」,一番上にあると思います。こんなような使い方をいたします。
 この場合なんですが,もう一つ下を見てください。点々がついているところです。13ページの右側のBということになります。これ「ねっちゅうのよ」,先ほどきれいに発音してもらったんです。これを分析いたしますと,否定の「ね」の強めをあらわす後で「ねっちゅうのよ」という言い方をする。多分,大分会話が白熱して,そうじゃないんだよ,だから行かなければいけないんだよというふうになると,こちらに変わってくるということだと思います。
 それから,同じく13ページの左側,「決めでんの」というようなところを見ていただきたいと思います。これは先ほど申しましたように,濁音化しているともとれるんですが,「決める」が「決めて」で「決めでん」,それに「の」をつけています。「の」がつくということは,これでかなり終助詞として強くなっている。決めているの,これよりももうちょっと強いかもしれません。こんな形でいきます。
 今ちょっと3カ所ぐらい挙げたんですが,これはどれも実は私の研究では方言に含まれるんです。方言方言しているものと,例えば山形ですと米沢だと「おしょうしな」という言い方,これは方言なんじゃないかと思われるかもしれません。当然これは,先ほど申し上げたように方言として扱っていいものです。
 最後「け」のところちょっと見せていただけますか,31ページ。このように用法が違っている。広がりがあるものと,逆に狭まるものと,いろいろとあると思うんですが,違っているということになります。これも方言として扱うべきなのではないか。方言で私としては扱ったということです。方言方言したものとはちょっと違うでしょうということは強調したいと思います。
 それではもう一つ,これらのことを踏まえて,先ほどの3番は方言と標準語と中間的なもの,それから私が方言というものに繰り込みたいというものを分類して,今度は機能上にしたものをお見せしたいと思います。13ページの4番,「方言と『全国共通語』との対応関係」,及び「談話機能上の使い分け」というのでお見せしたいと思います。まずは「方言と『全国共通語』との対応関係」です。
 さきに私が指摘しました部分も含めまして,これを二つの表に分けてみました。そうすると,このような形に方言と標準語は使い分けができる。上から否定からずっと始まって,これが1番,方言というような今申し上げたとおりです。
 すみません,下へ下がっていってください。もう少し下がってください。そうしますと,2(2マル)を見ていただきたいと思います。これは共通語的表現。ですから,「だっけ」がここに出てきていると思います。回想のところですね。
 それから,上を見てください。同じく伝聞・引用に関してっていうふうに思います。このような共通語的な表現になる。後でもう一度これを御説明したいと思います。
 それから,3番を見てください。昨今の若者言葉になりますと,こういった形でのものが方言化しているのか,単に濁音化しているだけで入っていってしまっています。それが,先ほどの会話で言えば,例えば2番だったら「使わなくない」,それから3番であれば線を引いておきました「マジで?」,それから「それ,なんか」というような言い方です。
 そして4番,最後のところを御覧いただきたいと思います。談話的特徴というふうに書いておきましたが,伝聞・引用,それから質問,言い直しという形だとこんなふうになるよと。
 次に,談話機能上の使い分けを見ていただきたいと思います。先ほどの対話ですね。このような形になります。ちょっと見ていただければわかると思いますが,方言の表出が多くなるのが,感情の表現として驚き,話し手の意見など,先ほど「もう3月に行かないと,どうしてもだめなんだよ」という,そこの部分は方言に変わる。それから,働きかけ,ここの部分に関しては全国共通語になりやすいということです。
 こちらも御覧いただきたいと思います。注目していただきたいのは,言い直しするときに逆に今度は標準語になる。
 それから,次のところを見てください。先ほど,若者言葉,または標準語的というふうに申し上げたんですが,「て」とか,「というふう」とか,「ふう」とかという言い方です。これもよくよく見てみると,若者言葉でもない,それから全国共通語でもない,それからどうもその中間的なものも既にでき上がってきてしまって,それを使っているということです。そして最後は若者言葉とここに書いています。談話機能上にはこのように今の3番のものが分類できるのではないかということです。
 それでは,先ほどの「け」というのを取り上げまして,ちょっと教材にしたものをお見せしたいと思います。
 ちょっとここでもう一度まとめをさせていただきたいと思います。この?の部分に関してです。こういったものがいわば地域語だというふうにお考えください。おわかり頂いたのは方言,それから標準語,それからその中間に位置するもの,それから標準語のように見えて方言のもの,方言なんだけれどもちょっと使い方が異なってなど,様々あったと思います。こういったものが私が命名しました地域語の実態というふうにお考えいただきたいと思います。これを日本人が,相手が外国人であろうと使うわけです。なぜかといいますと,先ほど言いましたように,自身はそれを標準語だと思っているんです。ですから,御結婚なさって家庭に入ったとすれば,家族の方が恐らく使っているでしょう。一歩外へ出れば,それはもう全く使っている世界がそこにあるというふうにお考えください。ですから,これが山形市にある日本語の姿ということになると思います。
 そして,?番を見てください。今度は一方の外国人の方に目を転じてみたいと思います。
 ?の3のところを御覧いただきたいと思います。これも目で見ていただければ大体わかると思うんですが,ちょっと解説をさせていただきます。F1というのがもちろん外国人です。それから,J1というのが日本人です。Fという外国人「はい,でも難しいです」。これは?の2,二言語環境のところの1を御覧ください。教室習得と自然習得というふうに書いておきました。F1の人はこれは教室習得した人のみです。例えば,留学生だとこれに該当します。同じ脈絡の答えをするとしても,このように違うというふうにお考えいただいて,その例です。ですから,「はい,でも,難しいです」,それから2番を見てください。これは韓国にいる韓国人です。韓国で日本語を勉強した韓国人です。そうすると,「あー,そうですか。それ,難しいじゃないですか」という言うかもしれません。同じ質問で。例えばの例です。
 それに対して日本人はどうなるのかというと,J1は若者です。お気付きだと思います。「とかとか」と入っていますので。「あっ,本当ですか。って言うか」,これはやっぱり若い人にやってもらった方がいいですね。お願いします。

佐藤:あっ,本当ですか。って言うか,○○とか○○とかあって,ちょっと難しくなんかないですか。

高木:最近だと,「えっマジ?」って言うかもしれません。マジですか。これが普通だと「あっ,本当ですか。って言うか,○○とか○○」,例えば「漢字とか片仮名とかあって,ちょっと難しくなんかないですか」,こんな言い方です。違いますよね。
 もう一度繰り返します。F1が国内で留学生でやった人の回答です。F2が韓国で韓国人が習ってある程度のレベルに達した人が答えた答え方です。J1が日本にいる若い人の答え方です。じゃJ2はどうなのか,ちょっとこれは後で文を入れた方がいいかなと思ったんですが,「はあー,それはそうですね。でも,ちょっと難しいじゃないかなと思ったりもして。実際はどうなんですか」,これが多分ひょっとしたら日本人の言い方かもしれません。
 この四つ並べた中で違いがわかるでしょうか。つまり,下のJ1がJ2が日本人だとすれば,そこまで彼らの日本語を上げてあげなければいけない。この間にはかなりの隔たりがあると思います。
 それからF1,「はい。でも,難しいです」,それからF2,韓国での韓国人,これもちょっと違いますよね。下を見てください。点がつけてあるところです。すみません,山形お願いできますか。

佐藤:早く食べろ。食えー。

高木:森谷さん,ちょっとお願いできますか。

森谷:早く食べろ。食えー。

高木:おわかりになりますでしょうか。これは,この形だけ見ると非常に失礼な言い方だろうと思うんですが,実は早く食べてください,食べなさいねって優しい言い方なんです。これを書きました。山形での韓国人です。これを私に対しても使われるんです。「先生,早く食べろー」,「食えー」と言われます。
 右を見てください。これは韓国で私が言われた日本語です。韓国での年配の韓国人です。「早く食べなさい」,命令じゃないです,食べてくださいと優しく言ってくれたんです。でも形が命令形。おわかりになると思います。この形で入っているわけですね。
 ここまで深めますと,つまり外国人が使っている日本語といえども,教室習得,自然習得,それから環境等々を踏まえますと,こんなにバリエーションがあるよ。じゃ,どれをどうしたらいいのかという問題になると思うんです。
 次の定住外国人の会話例のところを見ていただきたいと思います。NSと書いてあるのが日本人です。NNSと書いてあるのが,これ山形で自然習得した韓国人の会話です。答えです。日本人がやると違和感があるかもしれませんが,ちょっとやってみたいと思います。できますか。

佐藤:それって,日本語がわからないからですか?わからないっじゃなくて,わかってもしない。で,それも不思議だなー。うん,私が前,二人が話も聞いただけど,自分も会社も,こゆう二人,前も,そんな,けんかしてから辞めた。やっぱり残念なんですけど。例えば,会社に言われたら,そうゆうふうにして,でも,そうゆうふうにはしなかった。なんぼゆっても,何人から言われても,結局,言われたとおりはしなかったんです。で,途中で「辞めるはー。」そのままに,いっちゃった。

佐藤:1回聞くと一体何を言っているかさっぱりわからないと思うんですが,ちょっと翻訳いたします。
 わかってももらえなかったのはちょっと不思議だな。前の人の二人も言ったと思うんだけれども,そういう理由で二人もやめた,とても残念だ。でも,私はそういうふうに会社から言われたんだけれども,しなかったの。何回も言われたんだけれども,全然しなかった。結局はやめてしまったんです,という意味なんです。質問は,「それって日本語がわからないからですか。」の前にちょっとあったんですが,それに対しての受け答えです。
 ここで何を申し上げたいのかといいますと,先ほどの3がいろんな種類の日本語がある。もう入り込んでしまった日本語があり得るとすれば,自然習得で入ってしまっている彼らの日本語の姿って何なのかって,こういう形になるだろうということです。
 ちょっと解析をしてみたいと思います。この中で方言だと言われたら,どれだって言ったら,多分特定できると思います。やはり波線といいますか,少し黒くなっているところです。一つは「なんぼ」,それから「辞めるはー」です。やめるよというよりちょっと強い「辞めるはー」。
 まず,全体的なスタイルから言わせていただきますと,最初はまだまだ標準語的に話していたんですが,だんだん会話が進んできて,心も高まってくると,最後はやっぱり「辞めるはー」じゃないとだめなんです。
 波線のところをちょっと見ていただきたいと思いますが,上から二つ目を見てください。「こゆう」と書いてありますね。多分これが間違っているということはわかると思います。「こういう」です。その下を見てください。今度は波線に書いてありません。「そうゆうふうにして,でも,そうゆうふうにはしなかった」,これは線が書いてあると思います。実は,先ほどの「こゆう」というのも含めまして,山形ではこの形をよく使っているんです。普通に幼稚園児も使っているんだけれども,外国人でももう入っているんです。
 もう一つ「そうゆうふうに」という言い方を,この人は韓国人と申し上げたんですが,韓国語と比較してみますと,やはり韓国語の場合も「そうゆう」とか「こうゆう」とかというのをよく使うんです。じゃこれ方言なの,韓国語の影響なの,この人の個人的なスタイルなのと言えると思う,言えてしまうと思うんです。でも聞いていると何となくよくわかりませんよね。
 それから,前後いたしますが,「なんぼ」は関西では言うと思います。山形の場合も御存じのように,ベニバナを売りに行く,関西の方から物を売りに来ていたということで,関西弁がかなり残っているんです。「なんぼ」というのは幾らと置きかえられますね。「どんなに言っても」という形で,ここでは「なんぼ」です。「お父さんになんぼ言っても聞いてはくれなかったんだ」という言い方をごく普通に山形では使います。この部分も関西弁とは同じかもしれないけれども,方言だというふうに特定できるんではないかと思うんです。
 そうすると,では一番最初を見てください。「わからないっじゃなくて,わかってもしない」,韓国語だって言うかもしれません。これは多分,わからないじゃなくて,わかってもしない,もうわかってくれないで,わからなかったんじゃなくて,わかってもくれなかったんだ。途中でちょっと言いそびれてこう言ってしまったのかもしれません。それで波線が引いてある。
 それから2行目,「うん,私が前,二人が話も聞いただけど」,これはもう誤用ということはおわかりいただけると思います。「聞いただけど」,「だ」は要りませんよね,「聞いたけど」。「二人が話も聞いた」というのは,多分「二人から」かもしれません。
 このように,一つは方言の影響なのか,それともその人が誤ったのか,母語の影響なのかがわからないものが,自然習得した人たちの中にものすごく見られるということなんです。しかし,意味はわからないんだけれども,コミュニケーションで問題があるというわけではありません。では,こうなってしまった日本語はどうやって直すのかなんです。方言の部分は多分直すことはできるでしょう。それ以外の部分はどうやって直すか。これは後でまたやりたいと思います。
 4番を見てください。(1)(2)(3)があります。恐れ入りますが,この中で誤っていると思われるものには波線,方言だと思われるところには下線をちょっと引いてみてください。音の方でちょっと読んでもらえますか。1番お願いします。

佐藤:あん時,やんだ,やんだ,ストレスたまり過ぎて。やっぱ上の子,そうゆう,環境さ置いて,悪っ,悪いと思った。毎日,けんかばかりで,実家さ行った。でも,私としては,ほんとはやんなんだけれど,結局は自分のためね。やらないいといけない,ですけど。結局言われたら,わかりました。でも,まだ当番とかしてない,なかった。今年は私じゃないだから,多分来年,来年だと。どっちかなー。
 こっから,何分ぐらいで,左に入れば,あるっとか。そうゆう,全部覚えて。行って,こうなに,止まって。近いけど,一番,しょうがないなあ。じゃー,バス乗るかー。

高木:本当はこれは音声でお聞かせしたかったんですが,音声聞いてしまうと一体何だかさっぱりわからなくなったので,こちらを書いてみました。ちょっと分類してみてください。1番だけでも結構です。お時間がかからないようでしたら3番までおやりいただければと思います。
 よろしいでしょうか。これは先ほど言いましたように,直すのはとっても難しいものです。実は最初に日本語をゼロから入れるよりももっと難しいです。簡単に申し上げますと,泳ぎ方を覚えた人に,今度は正しい泳ぎ方で泳ぐ方法を教えるのと同じように,一度入ってしまった日本語を直すのはものすごく難しいです。地域で日本語教育をやっていますと,少なくともゼロからの人を教えるというふうに思われがちなんですが,山形に来て10年にもなっていると既に泳ぎ方を覚えていて,そしてもう既に泳いでしまっている人がいるわけです。そうすると,そういう人が教室に来たときにどうするかなんです。
 これは教材のところに結びついてまいりますが,14ページの2のところを御覧いただきたいと思います。教材開発までの手順と書きました。「1 教材開発のための基礎調査」と申しますのは,先ほど申し上げましたように,?または?でやったようなものを実は調査したということです。山形をはじめどこでもそうなんですが,言葉を教えようとするときに,少なくとも方言を含んだ中間的なものもあり得るだろう,そしてそういったものをまず調査して,その上で何を教えるのか。何を教えるのかでも2通りあると思います。一つは全く日本語がわからない人に教える方法と,ある程度泳ぎ方を覚えてしまった人に教える方法,この二つです。それが下に書いてある留学生の場合,それと定住外国人の場合の二つです。
 ステップとしてのつくり方は,大まかに書きました。1から3までは両方とも変わりません。ただし,1で使ったもの,もう一度申し上げます。先ほどの?,?,?で,それが基礎調査になります。その上で出てきた結果を,先ほどのスライドでお見せしたような分析という形で,文法等に分けて整理すること,それからこれは教える,これは教えない,これは引っかかって,これは直さなければいけないということを整理するのが「2 教材化までの地域語の整理」です。
 地域語というのは,先ほど申し上げました方言だけではない,標準語との間にでき上がっているものをここでは地域語と呼ぶ,これを整理するということで,それを受けて「3 教材化の実際」です。
 ともかく一番時間がかかるのが,この1と2の特定だと思います。なぜかと申しますと,山形もどこの地域でもそうだと思うんですが,方言と言われているものが,例えば手ぬぐいに書いてあるとか,お土産屋さんで売っているというものは幾らでも手に入ると思うんです。また,方言方言したものは地域語だけではなくて標準語との対応関係が一応整理されていると思うんですが,整理されていないものを談話上,または文法上,標準語との対応関係で抽出して持っていくのにものすごく時間がかかります。
 山形は山形市を例に今回挙げましたが,実は4地域以上に分かれています。こちらの教材では4地域全部で調査して,4地域ばらばらでつくっています。ですから,皆さんの地域にお戻りになったら,その地域で教えるといったらそれを1番,2番の手順ですればいいんだけれども,広く全県下カバーしようとすると,かなりの量の調査をしなければならない。その上で整理をして,これを教えるか教えないかを決めなければならない。
 二つ目,その上で,「1 教材開発のための基礎調査」の留学生の場合,目標,定住外国人の場合,目標を見ていただきたいと思います。二つあり,一つは全く日本語を話せない人にどうするのか,もう二つ目はある程度泳ぎ方を覚えた人にどうするのか,その問題があると申し上げましたけれども,もう一つは留学生の場合であれば,これは聞いて理解する程度でいい,おわかりいただけると思います。大学等では標準語で授業が行われて,少なくとも方言方言したものまでは余り習得しなくてもいい。しかしながら,識別できないと生活できません。また,アルバイトでもできないということが出てきます。そうなると目標は聞いて理解するということになります。
 その下を見ていただきたいと思います。そこでは留学生に対する調査。2を見てください。聞き取りになっていますが,よく聞く地域語の調査もいたします。必要度の高いものだけ,この場合は入れ込めばいいわけです。
 それから3番,コミュニケーション上で問題になるような地域語,これも聞き取り調査のアンケートをして,頻度の高いものから入れていくということを順々に決めてまいります。
 そして,日本人に対する調査は,日本人の方もどの程度話すのかを調査したということですが,その下を見ていただきたいと思います。「2 教材化までの地域語の整理」はこのような形でしていったということです。
 他方,定住外国人,とりわけ地域の日本語教育で必要とされているのは,こちらの方かもしれませんが,泳ぎ方をある程度わかってしまった人をどうするのかというと,留学生に対する調査と比較していただきたいと思います。
 同じく教材開発のための基礎調査をいたしますが,1の定住外国人の言葉の調査。彼らが接する場面での自然な談話資料というのはこちらになります。先ほどの12ページまたは13ページにあったものです。コミュニケーションで必要な談話資料を取ってください。取った上で,音声だけ聞いてもわかりませんので,それを文字化します。そして,分類して機能分けする。これもものすごく時間がかかります。
 右の方が留学生に対する調査よりも時間がかかりました。談話資料というのはどこで切れるかがわかりません。それから,文字起こししてもなかなか全部書けるというものではないわけです。
 14ページの定住外国人に対する調査の方を見てください。1番の黒丸を見てください。目標は理解して使い分けるんです。これを使い,適切な使い分けの練習をするということです。13ページのところで,山形の場合は外国人でなくても方言を使いたくないという意思が働いて,もう既に入ってしまっているということは申し上げたと思います。
 それがどうやったときに困るのかといいますと,今度は日本語力がついて,アルバイトをしたい,仕事をしたい,それから子供が幼稚園へ行く,学校へ行くというときに,適切な場面での使い分けが全くできなくなるのです。どちらがどちらだかわからなくなるのです。そうなってくると,理解した上で,ここではこうするんだよ,こうしたらこういうふうになるよ,こうやったら直るんだよと教えないといけません。そこで黒丸のところ,これらを使い,適切な使い分けの練習をする。見ていただくとわかりますように,留学生の場合と定住外国人の場合は目標が違うと思います。我々はあくまでも方言を教えるのではありません。でも,そこにある言葉を教えようとするときに,こういう目標でやっていかなければならないだろうということです。
 そして,14ページの定住外国人に対する調査の2番を見ていただきたいと思います。その上でもう少し厄介なのが,彼らがコミュニケーションで必要な場面を形態面や機能面から設定して,会話文として提示するということです。ですから,同じような用語をこの場面,例えば会社で,これが家庭でと置きかえて,そして提示していくということができると思います。これはお父さんだったらいいけれども,上司だったら使えないというようなものです。これを対比させながら練習させるということです。ここではこのような文章にまとめさせていただきましたが,以上のようなことを二つ見せて比較させながら教え込んでいく。
 それから,留学生と同じようにするのが日本人に対する調査です。これは?のときに日本人同士の会話というのを出したんですが,日本人と外国人,それから外国人であってももう既に方言が入った人,それから日本人であっても標準語を話していると思っている人でも,実は地域語を両方とも使ってしまっているんです。それで1番,地域に住む日本人の自然な談話資料や,外国人とコミュニケーションしているときに使っている談話資料を採る。今日は外国人とコミュニケーションしているときに使っている談話資料の一部は,13ページの先ほどの?のNS,NNSと書いたあの程度しか出しておりません。
 それから,先ほどの4番が,まさに日本人と外国人が日夜コミュニケーションして出てきたものなんです。こういうのを採っていただいて,分析していただくということになります。
 もう一つ,これも指導法にかかわるかもしれませんが,例えば先ほどの13ページの4番のようなもの,またはNS,NNSというようなのを採ったとしますね。分析するのが大変だとなったらどうするかというと,これらを使って聴解練習をする。日本人の方は結構です。採っていただいて,その内容を理解さえできればいいわけですから,このようにやります。その上で,何かおかしいところある,どこを直したらいいかと思う,適切っていうこと。ある程度のレベルになると,これができますので。ただし,初級はこれができません。あくまでも中級,上級になっている人のみですので。という形でもやります。
 なぜかというと,ここでの目標は理解して使い分けることなんです。それでこのような方法を使いました。ですから,黒丸のところは指導法もしくは練習法だというふうにお考えいただきたいと思います。よろしいでしょうか。
 その上で,改めて留学生の場合で教材化したものをお見せしたいと思います。14ページの左側の方を見てください。「3 教材化の実際」というところを御覧いただきたいと思います。こちらにあるのが教材です。私が持っておりますのが実際に教材化したものです。この中身は,今これからお見せしたいのは応用編ですが,ちょっと開いていただけますか。あくまでも留学生向きですので,標準語との対応関係の中で,どこが方言で違ってくるのかということを示したのがこの第2の基礎編のところです。挙がっているのは第2ですね。
 2番のところを見ていただきたいんですが。「んだ」「んね」と書いてある。このところが違ってきますよということです。
 その上で,18ページ,教育日本語をおやりになれば,何々のようになるというのは出てくると思うんですが,方言との対応関係の中でいきますと,下の方にこんな形になっています。そうすると,若者言葉で「きれいくなる」という言い方をすると思うんですが,山形の場合は「明るぐなる」とか,「なる」というような言い方をかなり使っているということがおわかりいただけると思います。「上手ぐなる」という言い方も使います。若者が使う「きれいくなる」とか「上手くなる」,それが濁るんです。だからこれが基礎編に入っています。あくまでも「ようになる」は標準日本語の教育日本語の中にある項目で,それを置きかえればこうなる,対応関係の中でこうなる。その上でこういう用語があるよとまとめたのが基礎編です。入門編です。
 そして,「ごみ」の方をお願いします。それを実際のコミュニケーションの場面に置きかえてつくったのが,応用編,実践編という部分です。まずはちょっと文字で追っていただければと思います。
 こちらが場面に置きかえたものです。あくまでもこれは留学生ですので,聞いて理解するということですから,まずは基礎編,入門編で,これが違っている,標準語とはこういうふうに置きかえができるんだ,対応関係にあるんだ,こういう言い方もあるということを教えた上で,これは内容理解ができればいいという形で使ったものです。実際にちょっと音声だけ流してみたいと思います。これは聴解教材用です。
  (音声)

高木:多分皆さん,何だこれは,おふろの中でごみ投げているのかと思われたかもしれません。ちょっと文字で追っていただきましょうか。これ,音声と両方出せますか。先ほどのお風呂場での会話はこれです。聞こえたのは多分,留学生の人で,外国人が話したのだけが唯一耳に入ったところです。最初の方が外国人ではない,日本人なんですが,あれが外国語のように聞こえたと思います。あれが実はこの会話になっています。読み上げていただけますか。

森谷:カズオ君,おとといここのレストランのミーティングさ出たっげか。
 はいっす。私,大学のゼミがあって出らんねかったんだけど,どだなこと話したっけ。
 カズオさんですね。来月,このレストランの開店10周年でフェアばやるそうなんです。そのごどについでいろいろ説明あったんです。
 ああ,資料もらいましたがら,今コピーをおあげします。それば見でもらった方がいいど思います。キムさんさも,けっから。
 はあ,何をけるんですか。
 えっ,ああ,んでなくて,けるっていうのはあげるっていうごどなんだ。
 そうなんですか。どうもありがとう。
 ああ,それがら昨日のごみ当番,カズオ君だったべ。さっき店長がらごしゃがっだよ。
 えっ,なしてだっけべ。ちゃんと出したはずだげどな。昨日は(木)で,瓶と缶ば出す日だがら,店の横のごみ箱でいいんだよね。
 違うどれ。そごは生ごみ。そごさ瓶と缶ばなげでわるいんだじぇ。しゃねっけの。
 わるがったねっす。今度から気ぃつけます。
 あのう,ごみをボールみたいにで投げるんですか。瓶や缶を投げたら危ないですよ。
 んねんね,投げるっていうのは捨てることなんだ。
 ああ,そうなんですか。びっくりしました。ここの日本語は難しいですね。

高木:お分かりいただけましたでしょうか。聞き取りの練習をしました。先ほどちょっと音が割れてしまっていたので,申しわけなかったんですが,最初つくりましたときには音声テープで,それからCD-ROMに落としましたので,このようになってしまいました。この上で,今回これにかけたときにちょっと施設が良過ぎて,お風呂にいるような状態になりました。申しわけありません。
 もう一つ見ていただきたいのは,同じものなんですが,14ページの3の2,マルチメディア教材です。昨今のマルチメディアでは,コンピューターを使って映像・音声を取り込んで,教材にすることが楽になってまいりました。当初,我々が考えていましたのは,(1)方言はもちろん音声で生きているもの。(2)どんなに先生が待っても同じ状況に話せるというものではありません。また日本語の先生,または日本語ボランティアの人も,必ずしも方言話者ではないということは多くあります。そういったことを想定しまして,一つは目で確認ができる教材,そしてそれに音声でのCD-ROMというものをつけて。ですから,CD-ROMを流しながら確認をしていったり,これには練習問題もあります。
 実は,CD-ROMの中には2種類入っていて,先ほどの文法項目の対応と,それにプラス練習が入っています。例えば,方言化は,共通語では何と言いますか,じゃ,みんなで方言やってみましょうというのが入っているんです。聞いていただくと,笑ってしまうかもしれません。全員でやったら本当はいいんですけれども。

高木:第1課,出せますか。
  (音声)

高木:はい,とめてください。というような形で,実は練習が入っています。これが印刷教材と音声教材が入っていたわけです。ですから,自学自習もできると思ってください。これは,留学生の場合はある程度授業が終わって最後のときに,共通語の授業が終わってから,それぞれの対応関係の中で使いました。または宿題で,あとは自分で困っているんだったら自分でやりなさいねという形で渡したんです。ですから,このような形でつくっています。
 ただし,これで問題があったのは,この部分はちょっと見ていただけるかどうかわかりませんが,言葉とCD-ROMの音声がついているだけで,あとは挿絵です。状況がなかなかわかりづらいというのがありました。そんなこともあって,マルチメディア教材を開発したわけです。
 ちょっと一つお見せしたいんですが,巻末の資料の共通語との対応関係を。印刷教材の方は,これも御覧いただくとわかると思います。一般的に使っている教科書での文法項目と,その教科書で示している課,そしてこの教科書の中で扱っている方言がどのページにあるのかも全部まとめてあります。これだと自学自習できますよね。
 それから標準語の本,今持っている教科書との対応で自分で勉強することもできるということです。ありがとうございます。
 その上で,今のものをマルチメディア教材,つまり動画と映像がないと,実は本当はよくわからないんです。CD-ROMは何度も聞き返すことができるんですが,音を早めたり遅めたり,クリアにしたりということもできません。そこで試作としてつくったものがございますので,御覧いただきたいと思います。同じものを使ってもこういうふうになるのだということです。

森谷:先ほど聞いていただいた「ごみを投げるんですか」という実践編なんですけれども,ここを試作としてちょっとつくってみました。隣にプレーボタンがあるんですけれども,ここを1と,最初から最後まで通して聞くことができます。
 それで,最初から流してもちょっと聞き取れないという方がほとんどだと思いますので,一人一人分けてみました。「カズオ君,おとといのここのレストランミーティングさ出たげが。」見てもわからないので。
  (音声)

森谷:というふうに何回も簡単に聞くことができます。「はいっす」とかも全部あります。  3行目,ヨコヤマさん。
  (音声)

森谷:ここも何回も繰り返すことができます。「どだな」って何だっけと始まったときに。「どんな」の意味,第4課の注3をもう一回見てくださいというふうに,簡単にポイントするだけであらわすことができます。
 ほかの会話もそうなんですけれども,全部。
  (音声)

森谷:同じように,このテキストの脚注部分に解説してあるところだけですが,赤いアンダーラインを引いてこういうふうに説明が出るよということをあらわしてみました。
  (音声)

森谷:「ごしゃがれる」って何だっけ。「ごしゃがっだ」は何だっけと思ったら,「ごしゃぐ」ってことは「しかる,怒る」の意味で受け身の過去形で,「怒られてしまった」の意味。第2課を見てくださいというふうに脚注でつけました。あと,これは標準語でどんな意味だっけと思ったときには,人をポイントすると「え,どうしてですか,ちゃんと出したはずだけれども」と訳が出るようにしました。「昨日は(木)で瓶と缶を出す日だから店の横のごみ箱でいいんですよね」とか,「怒られてしまったわよ」とか,訳を出すようにしました。全部このようにやると,訳が確認できます。
 本当は,ここの状況がわかるように,動画とかでも示せると本当はいいんですけれども,今回はこのテキストとCDしかまだなかったので,このような形にさせていただきました。
 それで,動画を入れたものをちょっと,ごみを捨てるものではないんですけれども,電車の乗り方ということで教材をつくったものがあるので,少し御覧ください。
  (音声)

森谷:山形駅から仙台駅まで電車で行くという設定でつくりました。時刻表を見たところです。山形は1本逃すと1時間も来ないので,ちゃんと見なければいけません。運賃表など,学習者の視線で映像を全部つくっています。
  (音声)

森谷:動画ということで,状況がよくわかると思います。続きまして……。
  (音声)

森谷:動画をつけて,字幕をつけたような形になります。練習問題で,必要な会話。
  (音声)

森谷:こんな感じで,最低限度の会話の練習をすることができます。問題です。
  (音声)

森谷:聞き取りの練習から行きます。3に行きますと,これは私が全部つくったんですけれども,私は文系ですし,特別な知識というか,そういうものはありません。パソコンとホームページ・ビルダーという,電器屋さんで普通に売っているソフトなんですけれども,あとは家庭用のビデオとか,そういうもので全部つくりました。地域に持って帰って,地域に合わせた教材も,ちょっと時間かかるかもしれませんが,つくれると思います。
 私からは以上です。

高木:ありがとうございました。見ていただいたと思いますが,同じような素材を使ってこのように加工をすれば幾らでもできる。印刷教材と違うところをおわかりいただけたと思います。印刷教材の場合は動画とかいうものは入らない。それから,音声の部分でも繰り返しというのはちょっと難しいところがあるかもしれません。それから,地域語の対応関係の中の標準語というのは,どうしてもページを追わなければ見ることができないんですが,このコンピューターに入れば,クリックするだけでそこが見られたり,第何課にあるとか,どんな教科書に入っていたとか,これはやったとかやらなかったとか,それから練習問題も時間はかかりますが,つくることはできると思います。
 14ページ,最後になりましたが,今見ていただいたのが教材ということになります。以上,「教材化の実際」で二つ見ていただきました。まずはそこにある言葉,地域語というのはどのように特定していただくのか,そしてそれをどう項目として挙げてもらうのか,それが一つの課題になってくるかもしれません。挙がった段階で使い方としては14ページに挙げたようなものがあるだろう。そして,教材化したものに関しては今見ていただいたような印刷教材,それからCD-ROM,そしてマルチメディアも簡単にできますよと,できれば音声だけでなく映像も入れていただければ,実際編などの場合には理解がより容易になると思われます。そんな形でつくってみました。どうぞ地域に戻ってつくってくださいということです。
 最後にまとめとして幾つかの事柄を挙げさせていただきました。13ページの?,1,それから14ページの頭までに(10)という形で幾つか挙げさせていただいているものがあります。1番は,話している日本語をそのまま教材にするのか,いわば地域語を教材化するときにこれまで指摘されたこと,それから問題点として挙げられてきたことをここに並べてみました。そのまま教材にするのかというと,これは調査資料として使うことはあります。それから,また上のレベルになれば,それを使って14ページの右のように理解して使い分けるという部分では使えるでしょう。しかしながら,初級の人または留学生の場合には,それをそのまま使うということは難しいと思います。
 それと,私,先ほど申し上げたかとは思いますが,方言を教えるのではないということです。方言がしゃべれる人をつくるというのも私たちの目標ではありません。そこにある言葉が理解できて,そしてそれが使えて,そしてコミュニケーションがとれればいいわけです。ですから,この意味では一番,そのまま教材にするのかというと,そうではないという回答になります。そういう場合もあるかもしれないけれども,違うんだよというふうに御確認いただきたいと思います。
 それから,(2)だれがどんな日本語を必要としているのか。これは在留資格別によってもかなり違うことだとは思います。しかしながら,地域にいればどんな人でも日本語,つまり地域語は理解できなければならないだろうし,そこで使われている日本語を使っていかなければならないという立場にあるのではないだろうかと考えるわけです。
 それから(3),これは今申し上げたとおりです。方言を話させるのかといったら,「いいえ」です。方言を教えるのかといったら,これも「ノー」です。けれども,地域語は教えるというふうにお考えください。
 そして,14ページの頭の方に行きます。自然な談話資料はどのようにして採るのかと。先ほど?または?で挙げさせていただきました,あのような形で採っいただければと思います。
 そして,それプラスして,外国人と日本人とのコミュニケーション場面での談話の資料というのも入手できるようであれば,ぜひともお採りいただきたいと思います。それで多分実際の日本語が追えます。
 そして(5),どのようにして使い分けをさせるのか。それは14ページの定住外国人の目標のところで触れさせていただきました。そして改めて13ページの(6),在留資格別の教え方,例は14ページの留学生の場合と定住外国人の場合を挙げておきました。そちらを御参照ください。
 それから,(7)学習項目と内容,これはこちらの方のスクリーンで見ていただいたもの,もしくはそのレベルによって,その先生方,地域によってお考えいただきたい問題だと思います。しかしながら,我々はこうしましたというのはお見せしました。
 それから,(8)音声教材と映像教材,今見ていただいたとおりです。
 そして14ページ,マルチメディア教材を今見ていただきました。そして最後に,ネイティブ,ノンネイティブ教師と書きました。これは母語話者で方言がわかる先生とそうではない先生,私は先ほど言いましたように,ネイティブではありません,ノンネイティブです。向こうにいる二人がネイティブということになりますが,この二人が地域で日本語教育を教えていくときにどうしたらいいのか。もちろんわかる人はできると思います。わからない人もいます。そのときにはこれに文法項目,つまり地域語の説明のあるものを入れて,それで説明できるようにしなければなりません。
 それから,モデル会話としても即興的に今日見ていただいたんですが,即興的に彼らはできます。しかし私はできません。そうすると,多くの例もその中に入れておかなければならない。実はこの教科書なんですが,もう一つ,教師用のマニュアルが別にあります。それは何を設定しているのかというと,ノンネイティブ教師が立つ可能性があるということです。
 それからもう一つ,ネイティブの教師が地域のボランティアで,知らず知らずのうちに方言を使ってしまっているということがあると思うんです。その場合にどうするのかというと,この本を使ってまずは御自身のどこが問題なのか御確認ください。その上で使ってくださいというわけです。この教科書は留学生だけに受け入れられたというわけではなくて,実は山形のほかの地域から来た日本人にも好評だったんです。なぜかというと,方言は日本人でもなかなか理解がしづらいところがあったのですが,これを使って整理して,勉強してくださったという方もいらっしゃいました。そんなこんなで,(10)はそういう意味だというふうにお考えください。
 そして,本当に最後になります。その他,14ページのところを御覧ください。ニーズ分析のところの表を見せていただけますか。先ほど言いましたように,方言を話したくないという人もいます。それから,留学生であってもどの程度というのは個人差があると思うんです。どの程度の方言を使っているのかというのは個人の問題ですし,何を学びたいかというのは個人の問題です。その際には,例えばニーズ分析を行うときに使っているようなものを授業の前に配って,あなたは方言をどの程度学習したいのか,何を求めているのかということは聞いてあげてください。
 繰り返します。私たちは方言を教えるのではありません。そこにある言葉を教える。しかし,相手のニーズによってそれも変えてください。
 以上で終わらせていただきたいと思います。お暑い中,どうもありがとうございました。

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