文化庁「アーティスト・イン・レジデンス活動支援を通じた国際文化交流促進事業」評価交流会を開催しました

文化庁では,アーティスト・イン・レジデンス(AIR)事業※を支援することにより,国内外の芸術家等との双方向の国際文化交流が継続的に行われる状況を創出し,地域の国際文化交流の促進をはかる取組を行っています。

今年度は本補助事業の関連として、国内のAIR実施団体の横のつながりを深め、それぞれが抱える課題の共有と、AIRの具体的な成果・評価についての議論によって、今後のAIR発展の可能性について考えることを目的として、参加者全員でグループワーク(ピア・レビュー)を行う評価交流会を開催いたしました。

全国各地より、26団体36名のAIR関係者の方にお集まりいただき、様々な情報共有や意見交換とともに闊達な議論が行われ、主催者を含め参加者それぞれが目的や取組内容の違いをあらためて認識し、交流を深める貴重な場となりました。(モデレーター、ファシリテーター等を含めた出席者の総数は58名)

当日発表、議論された内容については下記をご覧ください。

なお、本評価交流会の議事内容の詳細については、追って、「文化庁と大学・研究機関等との共同研究事業(「新たな文化芸術の創造を支える活動支援および人材育成のためのプラットフォーム形成研究」)」の平成31年度報告書においても公表予定です。

※AIR事業:国内外の芸術家等が一定期間滞在し,様々な活動を通して作品制作やリサーチを行う機会を提供するもの。

議事内容

1. 平成30年度「文化庁と大学・研究機関等との共同研究事業」の調査結果報告

平成30年度「文化庁と大学・研究機関等との共同研究事業」の調査結果報告(1.2MB)

◎発表者:
日沼 禎子(女子美術大学教授)
◎内容:
文化庁と女子美術大学との共同研究事業における平成30年度のAIR調査結果概要について、特に人材育成の重要性を中心に各地のAIR団体へのヒアリングなどによる調査結果を報告いただいた。
平成30年度報告書(28.5MB)

2. 文化芸術事業の評価に関する情報提供

文化芸術事業の評価に関する情報提供(313.2KB)

◎発表者:
朝倉 由希(文化庁地域文化創生本部研究官)
◎内容:
文化芸術事業と評価をめぐる課題・現状について、文化芸術事業をいかに評価するか検討されてきた経緯や、AIRが生み出し得る多層・多面的な成果、評価に当たって必要なことなどの情報提供をいただいた。

3. グループワーク(ピア・レビュー)

◎内容:
参加者を「専門性」「地域課題」「経験年数」などを踏まえて6つのグループに分け、各グループのファシリテーターによる進行のもと、下記のテーマ、流れで「AIRの成果・評価」に関して互いに議論し合うピア・レビュー(相互評価)を実施し、グループごとに発表を行った。
●グループワークの流れ:【テーマ】評価軸(目的、特性、成果)を言語化する。
①組織の設立背景・理念・目的の紹介(20分)
②組織・活動の最も特徴的な点、強み、成果(20分)
③課題(20分)
④解決方法、必要な支援、仕組み等(20分)
⑤まとめ:評価軸および必要な支援のキーワード、具体的な項目のピックアップ(5分)
●各グループの発表内容
グループA(ファシリテーター 稲田 奈緒美)
  • 特に舞台芸術関係者の多いメンバー構成
  • AIRは「創造の場」
  • 国内でも海外でも舞台芸術のAIR団体は少ない
  • AIRは「リサーチ」「創作」「プレゼンテーション」「ツアー」などいくつかのフェーズに分かれており、団体によって得意なフェーズは異なる
  • エディター、コーディネーター、ドラマトゥルク等人材育成に役立つ存在にも助成が必要
  • フェーズを通した大きな流れ全体への支援や評価のスキームが必要
グループB(ファシリテーター 大澤 寅雄)
  • 震災復興、宿泊業、アーティスト育成など活動目的や背景が異なるメンバー構成
  • AIRの課題は、場所(滞在施設)を持っているか、専門人材不足、行政の理解不足など
  • 課題解決には内外での対話による自身の価値の共有が必要
  • ゴールは一つではない。情報共有は重要だが、全てに当てはまるわけでないことを知る必要があり、この点はAIR団体、文化庁だけでなく、アーティストも悩んでいる
グループC(ファシリテーター 近藤 由紀)
  • 活動主体が公的かどうかで分かれるメンバー構成
  • 公共機関か民間団体かで場合分けして、AIRの継続性について議論
  • それぞれの資源と特徴を活かし、次を考えられる仕組づくりが重要
  • 地域とのネットワークを活かして継続させられることがAIRの強み
  • レジデンス単体での消費ではなく、コラボレーションによる二段階の支援に可能性がある
グループD(ファシリテーター 杉浦 幹男)
  • 背景、成り立ち、実績などバラエティに富んだメンバー構成
  • 地域住民との交流もAIRの場づくりの一つ
  • 軸はぶれているが、行政とAIR団体は共通言語を探しあっている状況
  • 交換プログラムは年度を超えた事業。行政の支援は単年度なのが課題
  • 地域振興=AIRではない。地域振興だけでなく多様性を紐解き、言語化して伝えていくことが評価につながる
グループE(ファシリテーター 田口 幹也)
  • 今回の参加団体で唯一AIR実施前の団体(高崎市)がいるメンバー構成
  • 未実施の高崎市のAIRをメンバーでプロデュースという観点で議論
  • 文化政策が弱い自治体が市民へのリターンを目的にAIRを実施する例
  • 人員確保の難しさやスピードの遅さが行政主導AIRの課題。現場のスタッフよりも滞在制作をするアーティストの方が現場に詳しいという逆転現象が起きがち
  • スタッフ(行政職員)が他のAIRに研修に行くことが必要
  • 文化庁にAIR参加アーティストのデータベースなどを作ってもらいたい
グループF(ファシリテーター 朝倉 由希)
  • 視覚芸術関連で、アーティストへのフルサポートを行う団体が多いメンバー構成
  • 成果を「期間(短期→長期)」と「対象(アーティスト、アートワールド、市民)」の軸で整理して議論
  • アーティストのキャリアに対するゴールの多様化。キャリアアップという成果もひとまとめにはできない
  • 長期的な成果としてはアーティストの移住もある(現地の人との結婚なども)
  • 時間の経過によるプロジェクトの蓄積をどうしていくか考える必要がある
  • AIRは地域に還元できる成果があるが、地域を利用(搾取)するだけであったり、短期間でアーティストは帰ってしまいその後にコーディネーターだけ残され地域との向き合い方に困るというような課題も生じる
●オブザーバーによる総括コメント
AIR Lab アーツプランナー/リサーチャー 菅野 幸子

経験豊富なレジデンスの担当者との対話(メンタリング)ができる今回のようなワークショップと情報共有の場はとても重要。AIRの成果の可視化は難しく、プロセスをいかに見える化するかが大事。なるべくエビデンスなどを数値化し、AIRとは何かのデータの集積と言語化することの重要性を改めて感じた。これが評価の基盤となる。

また、イギリスでは、AIR団体のピア・レビューだけでなく市民からのレビューも重視している。アーティストだけなく、私たち一人一人がどうやってクリエイティブになっていくかを考えるため、そういった力を持つ市民、人材を育成しようとしている。

AIRは地域の内と外を繋ぐ役割がある。これまでの海外との交流を踏まえつつ、地域振興との整合性を取りながら、成果を見える化し、発展していけると良いと思う。

文化庁 芸術文化調査官 林 洋子

現代美術を支える機能が増えたいま、AIRはアーティストのセーフティネットの意味も持つ。芸術祭とAIRは官民問わず、協働していくことが時代の必然。

まずは、文化庁とAIRを実施されている皆さまとの間でコミュニケーションを取ることが大切。電話やメールだけでなく、今回の交流会のように同じ場所で顔を合わせて話をすることで、課題を解決できることも多い。Face to faceで今後も良き交流を続けられるように。

4. 共催者、協力者による情報共有

・AIR-Jについて(京都芸術センター)
http://air-j.info/
・京都Re-Search 大京都in京丹後について(京都府)
http://kyoto-research.com/
・AIR Network Japanについて(AIR Network Japan)
https://www.airnetworkjapan.com/

5. 情報交換会、平成29年度文化庁補助事業者への評価のフィードバックと個別相談会

◎内容:
参加者全員と文化庁職員、モデレーター、ファシリテーターが自由に交流・意見交換できる場。同時に平成29年度に補助事業を実施いただいた各団体の参加者へ評価の個別フィードバックや、参加者から文化庁への意見・要望を聞くための個別相談会を実施。

開催概要

○日時 令和元年10月10日(木)13:00~18:00
○場所 京都経済センター 3階H会議室(京都市下京区四条通室町東入函谷鉾町78)
○出席者 モデレーター: 日沼 禎子 (女子美術大学教授)
ファシリテーター: 稲田 奈緒美(桜美林大学准教授)
大澤 寅雄 (㈱ニッセイ基礎研究所主任研究員)
近藤 由紀 (トーキョーアーツアンドスペース事業課長)
杉浦 幹男 (アーツカウンシル新潟プログラムディレクター)
田口 幹也 (城崎国際アートセンター館長)
朝倉 由希 (文化庁地域文化創生本部研究官)
オブザーバー: 菅野 幸子 (AIR Lab アーツプランナー)
林 洋子  (文化庁芸術文化調査官)
参加団体: 26団体(参加一覧(37.7KB))
○主催 文化庁
○共催 京都芸術センター(公益財団法人京都市芸術文化協会)、京都市、京都府
○協力 AIRネットワークジャパン

(敬称略)

モデレーター等による終了後コメント

終了後コメント(144.1KB)

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