2 日本語教育養成について

(1) 日本語教員養成の現状と問題

 現在,国内における日本語教員の養成は,平成7年11月現在,国公私立大学の大学学部における日本語教員養成課程・コース等は67校,同じく大学院は16校,短期大学は6校,一般養成施設は134機関が開設されている(国語課調べ)。これらの機関において,日本語教員養成及び日本語教育に関わる理論的,実践的研究が進められてきており,平成7年度における受講者総数は,16,975人となっている。
 一方,海外における日本語教員の養成については,初等中等教育レベルの教師は母国の大学等で日本語を学び,当該国の教員免許を取得して教壇に立つケースが多い。また,高等教育レベルにおいては,日本国内の養成課程で学んだ留学生や関連領域で学位を取得した留学生が帰国して母国の日本語教員になっているほか,日本語教員養成に関連したコースを持つ大学院の数も30校以上に及んでいる。なお,国際交流基金が平成元年に設置した日本語国際センターにおいては,海外からの日本語教員や海外派遣前の日本語教員を対象とした長期・短期の研修が実施されている。
 このうち,国内における日本語教員の養成については,「日本語教育施策の推進に関する調査研究会」(文部省)の報告「日本語教員養成等について」(昭和60年5月)に基づいてこれまで実施されてきたと言える。この報告の中で,西暦2000年に必要な日本語教員の数を約2万5千人と概算しており,これに必要な日本語教員養成機関の整備・充実のため,国立大学に日本語教育主専攻及び副専攻の学科・課程を設けるほか,既存の養成機関の教育内容や水準の整備・充実を図ることを提言し,併せて「日本語教員養成のための標準的な教育内容」として,教育内容のガイドラインとされる枠組みを示している。
 その結果として,現在の大学学部及び大学院修士課程における日本語教員養成課程は,この「標準的な教育内容」に基づき,学部においては,主専攻と副専攻の2区分,修士課程については学部における専攻に応じてAコースとBコースの2区分となっている。この「標準的な教育内容」は,教員養成課程を整備していく上での一種のガイドラインとして示されたものであるが,大部分の日本語教員養成課程においては,この区分に従った主専攻・副専攻相当の教育が行われている。しかしながら,日本語教員養成課程におけるこのような区分や「標準的な教育内容」が必ずしも現在の日本語教育において求められている課題に対応したものとは言えない状況も見られる。
 したがって,このような状況に鑑(かんが)み,日本語教員養成のカリキュラム内容を,昭和60年のガイドライン作成までの経緯やこれまでの積み重ねをも踏まえ,多様な学習ニーズや情報化への対応など,日本語教育の現代的課題を考慮しつつ,いかに充実を図っていくかを考えるべき時期に来ている。

(2) 日本語教員養成方策の改善

ア 日本語教員の専門性について

 日本語教員の養成方策を検討するに当たっては,日本語教員養成の基本的な在り方として,日本語を専門的に教授する日本語教員に求められる「専門性」とは何であるかを明確にしておく必要がある。
 まず,日本語を専門的に教授するとは,個々の学習者の学習過程を理解し,学習者に応じてどのような教育内容・方法が適切であるかを判断し,それに応じた効果的な教育を行うことである。
 こうした効果的な教育を行うためには,日本語教員が,「専門性」として,次の3つの能力を有している必要がある。

(ア)
言語に関する知識能力:外国語や学習者の母語(第一言語)に関する知識や理解があり,対照言語学的視点からの日本語の構造や言語の習得過程に関する知識を有すること。
(イ)
日本語の教授に関する知識能力:過去の研究成果や経験等を踏まえた上で,カリキュラムを作成したり,授業や教材等を分析する能力があり,それらの総合的知識と経験を教育現場で実際に活用・伝達できる能力を有すること。
(ウ)
その他日本語教育の背景をなす事項についての知識理解:日本と諸外国の教育制度や文化事情に関する理解や,学習者のニーズに関する的確な把握・分析能力を有すること。

 そして,このような「専門性」を有する日本語教員に対しては,その能力を適切に評価し,専門家として活躍する場が提供されていくことが大切であると言える。

イ 日本語教員養成課程の在り方

 現在,大部分の養成課程においては,現状において見たとおり,「日本語教員養成のための標準的な教育内容」(昭和60年)を教員養成課程を整備していく上での一種のガイドラインとして受け止め,この区分に従った主専攻・副専攻相当の教育が行われている。
 しかし,日本語学習者の中に多様な学習ニーズが生ずる一方で,日本語教員養成課程修了者の知識・経験を生かせる場が広がり,また逆に,日本語教育を専攻しなかった者が日本語の指導に携わる例も見られる現在,例えば,主専攻や副専攻以外の学生に対しても様々な日本語教育のコースや授業科目を用意するなど,大学の創意工夫により,より多様なコース設定を行っていくことが望まれる。さらに,海外において日本語教員として活躍することを希望する外国人留学生を対象とした日本語教員養成課程のコースを設ける必要性も高まっていると考えられる。
 また,この「標準的な教育内容」に盛られているカリキュラムについても,昭和60年当時とは異なる日本語教育における現代的な課題を踏まえ,例えば,社会言語学やコミュニケーション学,日本語教材制作の方法,新しい情報メディアの活用等に関する教育内容を取り入れるなど,その積極的な見直しを行っていくことが必要である。
 さらに,大学における日本語教員養成課程のカリキュラムの改善として,特に,日本語教育の実習を積極的に導入することが望まれる。課程修了後に日本語教員として活躍する上で,実習を行うことが大きな教育効果をあげていると言われており,大学によっては海外の大学や日本語教育機関との連携の下,様々な工夫を凝らし実習を行っている例もある。現在,この実習を行うに当たっては,実習場所及び指導者を確保することが一つの大きな課題であるとされているが,大学と各日本語教育関係機関・関係者相互が実習に関する理解を深め,実習の円滑な実施に向けて連携・協力を図っていくことが望まれる。
 なお,上記のことと関連して,公立小・中学校等において日本語指導を必要とする外国人児童生徒が増加している状況に鑑み,初等・中等教育教員養成課程を有する各大学の判断により,日本語教育に係る科目の開設などについて検討が行われることが望まれる。
 最後に,日本語教員の養成は,大学や日本語教育施設等の養成課程を修了したことで完結するものではない。現場の日本語教員となった後にも,日本語教育の新たなニーズや新しい教育理論・方法に常に対応していくことが期待されている。したがって,現職教員の研修や,大学院での再教育を行うための体制を整えていくことも必要とされている。

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