3 日本語教育能力検定試験について

(1) 日本語教育能力検定試験の現状と問題

 日本語教育能力検定試験は,日本語教員の専門性の確立と日本語教育の水準の向上,日本語教員の待遇の改善を図ることを目的に,日本語教員の資質・能力を判定するものとして,(財)日本国際教育協会によって昭和62年度(63年1月)から実施されてきている。同試験の出題範囲は「日本語教員検定制度に関する調査研究会」(文部省)の報告「日本語教員 検定制度について」(昭和62年4月)に基づいているが,試験開始以来10年以上が経過している現在,試験発足時と現在とでは日本語教員を取り巻く状況が変わってきており,その成果と実績を踏まえ,この試験の基本的な在り方について見直すべき時期が来ていると考えられる。
 すなわち,試験発足時においては,大学日本語教員養成課程修了者も少なく,専門性を有する日本語教育専門家を確保することが課題とされていたが,大学の教員養成課程の整備が進み,日本語教育能力検定試験に毎年1,000人程度が合格している状況を考えると,最低限必要な日本語教育専門家を確保するという意味での試験の役割については当初の目的は量的には達成しつつあるということが言えよう。また,最近では,日本語教員を目指す人たちの間で,この試験の内容が学習目標として活用されるほど普及しているが,一部には,日本語教育能力検定試験に合格することが日本語教育に携わる職業資格を得たと誤解されてきた嫌いもある。
 このような状況を踏まえた時,日本語教育能力検定試験の意義及びその合格者に期待される社会的な役割について,改めて明確にする必要が生じている。

(2) 日本語教育能力検定試験の今後の在り方

ア 日本語教育能力検定の基本的な在り方

 現在,日本語教育能力検定試験は,日本語教育に関し必要な最低限の知識及び能力を測定するための試験として,大学学部の日本語教員養成副専攻課程修了者のレベルを想定した一種類の試験となっている。しかし,日本語学習者層が広がり,日本語教育の場が多様になっている現在,日本語教員に求められる知識及び技能も一様のものではなくなっており,レベル及び専門に応じた複数の試験に分化させることについても検討を行う必要がある。そのような複数の試験の例としては,大学院修士課程修了程度以上の者を対象とした検定試験や地域の日本語学習支援者を対象とした試験を設けることなどが考えられよう。
 なお,現在,この検定試験については,文部大臣から,奨励すべき事業として認定されているが,「公益法人に対する検査等の委託等に関する基準」(平成8年9月20日閣議決定)により,この事業が法令に基づくものとされない限り,平成12年度末をもって,この大臣認定については廃止されることとなる。したがって,認定制度を継続すべきかどうかをも含め,検定試験事業の実施形態等については,検討を行うことが必要である。

イ 日本語教育能力検定試験の内容等について

 この試験については,ほとんどの問題が客観テストであり,表現能力全般を評価することが困難であること,特に,音声言語能力を評価する機会がないことなどの限界があり,これらの点で,この検定試験が日本語教員として望まれる最低限必要な専門的知識と能力(大学学部の日本語教員養成課程の副専攻レベル)を適切に評価するものであるか,再検討することが必要である。
 また,「日本語教員養成のための標準的な教育内容」に基本的に準拠している出題範囲についても,日本語教員養成課程のカリキュラムの在り方とも関連し,現代的課題等を踏まえた内容としていく必要がある。
 さらに,出題方法に関しては,現在,受験者が多いなどの実務上の制約から筆記試験(聴解試験を含む)となっており,面接試験や実技試験は取り入れられていないが,この試験の意義及び合格者に求められる役割の見直しに応じて,できる限りこれらの要素をも取り入れた試験問題とするよう,更に工夫をしていくことが望まれる。

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