7 地域における日本語教育について

(1) 地域における日本語教育の現状と問題

 Iにおいて見たとおり,在留外国人が増加する中で,日系南米人や中国帰国者,外国人配偶者等が地域社会で生活するようになってきており,これらの者が地域の生活に円滑に適応できるように,積極的な日本語学習機会の提供が求められている。
 一部の地方自治体や国際交流協会,ボランティア団体等により日本語教室やリソースセンター(情報センター)が開設されるなど,徐々に学習機会の提供が行われるようになってきているが,いまだ十分とは言えない状況にある。また,日本語学習支援者(ボランティアの人々)が日本語教授法等の基礎的な知識・技能を身に付けられる機会の提供も不足している。
 一方,教育内容や方法についても,これまでの国内の日本語教育の主な対象者は「留学生,研修生,ビジネス関係者,研究者,外交官など」の比較的限られた領域の学習者であったことから,従来,日本語教育において蓄積された知見が直接に応用できない場合も多い。そのため,こうした新たな領域の学習者に適したコースデザイン(教育課程構築)を行っていく必要が生じてきている。

(2) 地域における日本語教育の推進

 地域の日本語教育の推進に当たっては,「1日本語教育推進体制について」でも述べたとおり,今後,地方自治体が,地域住民である日本語を母語としない者に対する日本語学習支援において,より重要な役割を担っていくことが期待されており,そのため必要な体制づくりを図っていくことが大切である。また,この地方自治体の取組に対し,日本語教育関係機関・団体や日本語教育の関係者が積極的に連携・協力していくことが望まれる。
 地方自治体が行う日本語学習への支援方策としては,直接,住民である外国人等を対象とした日本語講座を主催事業として運営することのみならず,ボランティア団体や国際交流関係団体等が地域において行う日本語教育事業に対して支援を行っていくことが考えられる。すなわち,(1)の現状において見たとおり,現在,ボランティアとして外国人等の日本語学習の支援に当たっている団体や国際交流事業の一環として日本語教育に取り組んでいる団体が徐々にではあるが増えており,これら関係団体の間でネットワークを構築しようとする動きも盛んになっている。地域におけるこのような関係団体の自発的な活動を更に促すよう,地方自治体が今後より一層の支援を行っていくことが期待される。
 また,国においては,地域における日本語教育のモデル事業の実施や,地方自治体において実施困難な標準的な教材の作成など,その条件整備を図っていくことが望まれる。
 地域の日本語教育においては,専門の知識・技能を有し,学習プログラム全体について仲介・調整できる日本語学習のコーディネーターを確保することが,事業の円滑な運営のためには極めて重要である。しかしながら,このような人材を確保することが困難な場合もあることから,例えば,日本語教育能力検定試験の合格者などで地域の日本語学習支援を希望する者の人材データバンクを,日本語教育関係者のネットワークの中で整備して行くことが望まれる。
 また,地域の日本語教育においては,日本語学習者に直接に接し,学習の支援に当たるボランティアが果たす役割は極めて大きいものがある。このような熱意のあるボランティアの学習支援者がいかに継続的に活動していくかが,事業の成否に関わる場合が多いと言えよう。
 一方,全国各地域に分散するこのようなボランティアの日本語学習支援者の中には,活動を始めるに当たって,また活動していく中で専門的な知識を身に付けたいと希望する者も見られるが,現状においては,そのための学習機会が十分にあるとは言えない。このため,日本語教育機関や地方自治体において,ボランティアの日本語学習支援者の資質の向上に資するよう,日本語教授法等の基礎的な知識や技能を身に付ける研修事業を積極的に行っていくことが望まれる。また,日本全国で視聴できる放送大学において開設されている日本語教育に関する関係科目の講義を積極的に活用していくことも期待される。さらに,国立国語研究所日本語教育センターにおいても,新たに日本語学習支援者を対象とした通信制等の研修プログラムを開設するよう,検討を行っていく必要がある。

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