8 新しい情報メディアを活用した日本語教育について

(1) 新しい情報メディアを活用した日本語教育の現状と問題

 情報化の発展に伴い,新しい情報メディアが各方面で活用されている。特に,インターネットは近年急速に発展し,大学等や企業では有効に利用している。これは,インターネットを活用すれば,情報検索やコミュニケーション,並びに情報発信が容易に可能となるためである。また,文部省では2001年までにすべての学校をインターネットで接続することを予定している。
 一方,衛星通信は広域性や同報性の特長があり,画像品質の高い映像を全国に配信できる特長がある。そこで,衛星通信を利用した教育整備が現在進められている。例えば,メディア教育開発センターを中心とするSCS(スペース・コラボレーション・システム)や,私立大学衛星通信ネットワーク(ジョイント・サテライト),大学病院を結ぶ医療用ハイビジョン衛星通信システム,東京工業大学の衛星通信遠隔教育システム等が既に運用されている。また,現在,「衛星通信を利用した教育情報通信ネットワークシステム」が構築中で,平成11年度からは教育研修や子ども放送局として利用される計画となっている。
 このような状況の中で,文化庁では平成8年度から,「高度情報化に対応した日本語教育の在り方に関する調査研究」に取り組んでいる。そして,衛星通信やCD-ROM等の新しい情報メディアを活用した日本語教育の可能性と,指導方法について実証的な調査研究を行っている。その結果,情報化社会において日本語教育を効果的に実施するためには,新しい情報メディアを有効に活用することが必要であることが分かってきた。そのためには,各情報メディアの特徴を把握することや相互補完的に幾つかのメディアを活用すること,また,それらを生かした,より効果的な教育内容と方法をできる限り早い時期に確立していくことが課題として挙げられている。さらに,衛星通信やインターネット等を通じての日本語教育関係者の連携,マルチメディア教材の共同開発,共同利用などの問題も指摘されている。一方,実際に新しい情報メディアを日本語教育に活用する場合には,そのための社会基盤の整備や教育内容の開発,あるいは運用方法について十分な検討が必要となってきている。

(2) 新しい情報メディアを活用した日本語教育の推進

 社会の情報化の進展や日本語学習の広がりを考えた場合,日本語教育の領域においても,衛星通信や光・磁気ディスク,インターネット等の新しい情報メディアを活用して,効果的・効率的な教育の推進を行っていくことが期待される。
 日本語教育における新しい情報メディアの活用に際しては,特に次のような点に留意する必要がある。

ア 日本語教育の情報通信ネットワークの整備・活用

 情報化に対応した日本語教育を実施するには,そのための社会基盤を整備し,情報通信ネットワークを構築する必要がある。このネットワークでは,日本語教育を推進している各機関を有機的に接続するとともに,それぞれが保有する日本語教育に関する情報を共有し,日本語学習者に対する適切な情報提供ができるものとする必要がある。
 また,現在構築中の「衛星通信を利用した教育情報通信ネットワークシステム」を利用して日本語教育を推進していくことも期待される。
 一方,日本語教育への情報通信ネットワークの整備や活用を行うに当たっては,必ずしもこうした新しい高度な情報手段ばかりでなく,例えば,地域における日本語教育の場などにおいては,電話やケーブルテレビなどの従来型の通信手段を併用することも効果的な場合があることに留意する必要がある。

イ 日本語教育教材の開発と利用

 情報メディアを活用した日本語教育において,各メディアに対応した学習教材は欠かせないものである。これまでも日本語教育教材は開発されているが,これらを情報通信ネットワークを利用して学習できる形で教材開発を進める必要がある。また,学習者が必要に応じて活用できるように,ネットワークを介した利用を促進していく必要がある。

ウ 日本語教育プログラムの開発と発信

 日本語学習者を対象にした学習プログラムを開発し,衛星通信やインターネットを利用して提供することが望まれる。この場合,衛星通信によって,優れた映像によって広域に配信するとともに,インターネット等の地上等の通信回線によって質疑応答や討論を行う方法が適切である。
 また,海外における日本語学習への支援として,衛星通信による海外の学習者を対象とした教育プログラムの配信を行っていくことが望まれる。

エ 新しい情報メディアを活用できる日本語教員の養成

 新しい情報メディアを日本語教育に活用していくに当たっては,日本語教員がそれらを十分に駆使することができる能力を身に付けることが必要であり,現在そのための人材養成が急務となっている。例えば,衛星通信を活用した日本語教育の場合,その教育プログラムの作成者や受信側(学習者の側)における学習会場助言者の確保・育成など,これまでの日本語教育には見られなかった需要が生じてきている。
 従来,日本語教員養成に当たっては,このようなメディア対応に関する教育内容は十分に取り入れられてこなかったが,今後は,日本語教員養成におけるカリキュラムに導入することはもとより,現職日本語教員を対象とした研修事業を行っていくことも必要とされている。このため,まず,日本語教員に情報メディア活用能力を身に付けさせるために必要となる教育内容等について,早急に調査研究を開始することが必要である。

オ 情報メディア活用に関する拠点整備

 以上述べてきたような日本語教育における新しい情報メディアの活用に関する調査研究,その教育プログラム及び教材の開発,更には教員に対するメディア対応の研修事業に今後早急に取り組んで行くことが必要である。このような日本語教育における新たな課題として登場した情報メディアの活用については,国立国語研究所日本語教育センターが中枢的な役割を担っていくことが期待される。このため,同センターを情報メディアを活用した日本語教育の拠点として位置付け,同センターと日本語教育関係機関等を結んだネットワークを構築することにより,情報メディア活用の積極的な推進を図っていくことが望まれる。

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