令和2年度 ミュージアム・エデュケーション研修(後半日程)の実施報告

主催:
文化庁
共催:
公益財団法人東京都歴史文化財団東京都美術館
葛飾区郷土と天文の博物館
期日:
令和3年2月8日(月)~2月9日(火)
会場:
(オンライン配信)文化庁・葛飾区郷土と天文の博物館

日程表(266KB)

令和2年度ミュージアム・エデュケーション研修(後半日程)テキスト・資料集(454KB)

令和2年度ミュージアム・エデュケーション研修の後半日程は、感染症拡大のために急遽オンラインでの実施に変更となりました。文化庁をメインの配信会場とし、途中、葛飾区郷土と天文の博物館からのリモート中継も実施しました。講義内容や時間を一部変更するなど、講師の皆様には大きな配慮と御負担をいただきましたが、安全な環境下で研修実施ができたことを感謝申し上げます。オンライン化に伴い、十分な研修効果が上がらないのではとの心配もありましたが、受講生の熱心な取り組みのおかげで、対面開催にも劣らない学びを提供できたのではと思います。

一方で、通信トラブルの発生はやはり避けられません。一部の講師や受講生で映像や音声の不良があったり、接続が切断されたりするなどの不具合が発生しました。多数が接続するオンラインでの研修開催には、機器や通信環境など、看過できない課題が残ったことも事実です。

以下,研修の様子を紹介します。

2月8日(月)

オリエンテーションとして、布谷知夫氏(企画運営会議委員・三重県総合博物館)から御挨拶をいただきました。コロナ禍での研修開催とオンライン化によって普段とは異なる内容もあるものの、積極的な研修参加を期待する旨を御挨拶いただいた後、事務局から講義のための班分けと注意事項の説明を行いました。

その後、企画運営委員の林浩二氏(企画運営会議委員・千葉県立中央博物館)の司会で、前半日程の振り返りを行うグループワークを実施。「前半の参加後に自分が変わったと思う点」など、いくつかのテーマに従ってディスカッションを行いました。グループメンバーとの活発な意見交換の中で、自分とは視点の異なる感想や取り組みの様子などを聞き、あらためて前半日程の学びを捉え直すことができたかと思います。

11.グループディスカッション「中間課題成果発表」植田育男氏(企画運営会議委員・神奈川大学)
前半日程への導入としてのオリエンテーションと前半の振り返りが済んだところで、後半日程の研修がスタート。植田育男氏の司会で、前半日程のあとに出された中間課題についてのグループディスカッションと、それを受けた発表が行われました。中間課題は、前半の研修を受けたあとに自館での教育プログラムを再検討するもので、受講生それぞれが実践を通じた成果と課題を次の3点の観点でまとめてくることになっていました。

①自館の課題~教育学習事業全体のふりかえり~

②自館の既存プログラム・ツールの改良点・改良案

③利用者の反応を主とした改良プログラム・ツールの実践結果

ディスカッションでは、次の4点の問いを通じて、グループメンバーと一緒に実践したプログラムを捉え直しました。

・参加者・利用者の反応は?何が起こっていたか?

・プログラムの何がそれを引き出したのか?

・そこにはどのような学びがあったか?

・企画者としてどう思ったか?

その成果は研修終了後に「中間課題成果をもっとよくするための考案シート」にまとめられ、受講生それぞれの指針として、活用されていくことになります。

12.事例紹介「展示室における豊かな学びをめざして」亀井幸子氏(企画運営会議委員・徳島県立近代美術館)
より多くの方に親しまれるユニバーサルミュージアム事業に取り組む中で、保育所の幼児に対する美術鑑賞プログラムなどを御紹介いただきました。博学連携の中で子供向けの鑑賞教育には多くの館が取り組んでいますが、幼児向けのプログラムは珍しいと思います。能動的な鑑賞を促す工夫や成果だけでなく、保育所との連携関係の構築などが受講生の関心を強く引いていました。「自分の見方や考え方が大切にされているとわかると、子供たちはどんどん発言していく」との言葉に刺激を受けた受講生は多かったと思います。

13.事例紹介「葛飾区郷土と天文の博物館の展示室における学び」小峰園子氏(葛飾区郷土と天文の博物館)
葛飾区郷土と天文の博物館は、郷土・歴史展示室と天文展示室のほか、プラネタリウムや天体観測室を持つ大規模な博物館です。昨年、展示室をリニューアルし、水・低地・都市近郊といった3つのテーマをもとに葛飾の歴史と生活文化の変化を知り、考えてもらう施設として活動しています。本来は研修後半日程の会場館として御協力いただく予定だったのですが、オンライン開催となったため、エデュケーション研修の先輩でもある小峰氏に博物館の御紹介と展示室のライブツアーを実施していただきました。画面越しではあるものの博物館の新しい魅力を存分に伝える内容で、受講生からは是非また訪れてみたいとの声が多数上がっていました。

14.講義「博物館における学びのデザイン」佐藤優香氏(企画運営会議委員・東京大学大学院)
博物館における学びをデザインすることは、来館者の博物館経験をデザインすることと同義と捉えられます。来館者を観察し、話を聞いてみれば、意外なほど伝わっていなかったり、誤解されていたりすることがあることに気がつきます。佐藤氏は、学びのツールを作るにあたっては、来館者を具体的にイメージし、その行動や利用深度に合わせて学びのツールをデザインすることが大切だとお話しされました。

なぜ伝わらなかったのか、どこで誤解を生んだのか、コンセプトをしっかり固めつつ、空間・時間・道具・コミュニティの観点から学びのツールをデザインすることが必要です。来館者の「思考と行為を予測する」という考え方こそが重要であることが示され、普段から来館者に接している受講生も深くうなずきながら聴いていました。テクニカルな部分では、通常の紙のワークシートが子供の手に余り、途中で家族のカバンの中にしまわれてしまうケースに対して、ワークシート自体をカバン形にするというアイデアなどが紹介されていました。

佐藤優香氏の講義資料より
佐藤優香氏の講義資料より

15. グループワーク・ディスカッション「博物館における学びの振り返り」井島真知氏(企画運営会議委員・ベルナール・ビュフェ美術館)、佐藤優香氏(企画運営会議委員・東京大学大学院)
この講義は、本来は会場である葛飾区郷土と天文の博物館の常設展示を題材に学びのツールをチームで開発し、皆で体験した後に議論する形で行ってきたものですが、本年の研修がオンライン開催となったことで、受講生があらかじめ指定されたオンラインプログラム(全国の博物館がネットにアップしたものから4例を講師が指定)を体験してきたうえで、その体験や課題についてグループで話し合う形で実施されました。各グループでそれぞれの論点がありましたが、自分が利用者となってみることで多くの気づきを得た点は共通していたように思います。普段自分たちが利用者の立場になって考えることができていなかったとの反省も聞かれました。コロナ禍で急速に広がりつつあるオンラインの教育プログラムですが、利用者の体験をどのように作るかを意識することは、展示室の学びを作ることと共通します。それは、研修後に自館においてプログラム開発するときに大切な視点となるのではないでしょうか。

2月9日(火)

16.講義「ミュージアム・エデュケーションの現場から」三木美裕氏(国立歴史民俗博物館)
三木氏からは海外の博物館も含めた豊富な経験から、現場におけるミュージアム・エデュケーションの考え方について、改めて整理していただきました。「資料と向き合うきっかけを作るのがエデュケーターの役割である」「多様な価値観を持つ利用者にスタッフ全員(人の環)で対応する」との言葉は、利用者に臨む姿勢だけでなく、館内の理解や体制づくりの大切さを伝えてくれ、受講生それぞれが自分にとってのエデュケーションを考えるきっかけを与えてくれました。また、展示や資料と利用者の間で生まれるコミュニケーションは、国境を越えて共通するのだとも教えてくれました。

17. クロージングセッション 染川香澄氏(企画運営会議委員・ハンズオンプランニング)、佐藤優香氏(企画運営会議委員・東京大学大学院)
研修の締めくくりとして、前期・後期の研修を振り返り、受講生それぞれが得た学びをまとめていきました。内容を改めて振り返りながら咀嚼しつつ、今後の活動につなげていくための自分なりの指針をピラミッド形に組んだシートの5つの面に記入していきます(①学んだこと ②大切にしたい考え ③すぐ取り組むこと ④1年以内にやること ⑤秘めたる野望)。取り組みや方向性に悩んだときにピラミッドを見直せば、研修の熱がよみがえるのではないでしょうか。

受講生それぞれの、自館での取り組みを応援していきたいと思います。

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