図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム(第1回)

日時:令和2年8月27日(木)

10:00~12:30

場所:文部科学省旧文部省庁舎5階テレビ会議室(508)

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)検討に当たっての論点及び検討スケジュールについて
    2. (2)諸外国における制度・運用の状況について(ワーキングチーム員による報告)
    3. (3)図書館等関係者からのヒアリングについて
    4. (4)制度設計等について(自由討議)
    5. (5)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1
図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム委員名簿(80.5KB)
資料2-1
図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する検討に当たっての論点について(219.6KB)
資料2-2
図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチームにおける当面の審議スケジュールのイメージ(61.2KB)
資料3
生貝チーム員御発表資料(5.6MB)
資料4-1
国立国会図書館御発表資料(180.4KB)
資料4-2
日本図書館協会御発表資料(2.9MB)
資料4-3
国公私立大学図書館協力委員会御発表資料(694.2KB)
資料4-4
全国美術館会議御発表資料(173.6KB)
資料4-5
日本博物館協会御発表資料(328.9KB)
資料4-6
図書館休館対策プロジェクト御発表資料(1.1MB)
参考資料1
文化審議会関係法令等(148.2KB)
参考資料2
小委員会の設置について(令和2年6月26 日文化審議会著作権分科会決定)(53.1KB)
参考資料3
ワーキングチームの設置について(令和2年7月29日文化審議会著作権分科会法制度小委員会決定)(37.4KB)
参考資料4-1
第20 期文化審議会著作権分科会法制度小委員会における主な検討課題(令和2年7月29日法制度小委員会資料5)(44.5KB)
参考資料4-2
第20 期文化審議会著作権分科会法制度小委員会における審議スケジュールのイメージ(令和2年7月29日法制度小委員会資料7)(54.5KB)
参考資料5
第20 期文化審議会著作権分科会 法制度小委員会 委員名簿(64.6KB)
参考資料6
第20 期第1回文化審議会著作権分科会(令和2年6月26日)及び法制度小委員会(令和2年7月29日)における意見の概要【図書館関係の権利制限規定の見直しについて】(73KB)
参考資料7
ヒアリング出席者一覧(46.5KB)

議事内容

【大野著作権課長補佐】それでは,定刻となりましたので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制度小委員会「図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム」の第1回を開催いたします。

私は著作権課課長補佐の大野と申します。冒頭部分の進行をさせていただきます。

委員の皆様,本日は御多忙の中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。本日の会議につきましては,新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため,各委員の皆様には基本的にウェブ会議システムを利用して御参加いただいております。

議事に入る前に,まず,配付資料の確認をさせていただきます。お手元の議事次第に記載の配付資料一覧を御参照いただければと思います。

まず,資料1が本ワーキングチームの委員名簿でございます。次に,資料2-1が,本課題に関する検討にあたっての論点を整理した資料,資料2-2が,本ワーキングチームにおける当面の審議スケジュールのイメージでございます。次に,資料3が,諸外国における制度運用の状況について生貝チーム員から御発表いただく際の資料,それから,資料4-1から4-6が,図書館等関係者からのヒアリングのために関係団体から御提出いただいている資料になります。参考資料については個別の紹介は割愛いたしますけれども,参考資料1から7まで御用意しております。不足などございましたら,お伝えいただければと思います。

それでは続きまして,本ワーキングチームの設置の経緯などについて簡単に御紹介をいたします。先月7月29日になりますけれども,今期の第1回目の法制度小委員会が開催されております。そこで今期の検討課題や検討に当たってのスケジュールについて確認がされておりますが,その中で,ワーキングチームの設置についても決定がされております。今日の資料で申し上げますと,参考資料3になります。この中の1のところで,2つのワーキングチームを設置する旨記載がされておりまして,このうち丸1が本ワーキングチームということになります。検討課題の部分に記載のとおり,絶版等資料へのアクセスの容易化,図書館資料の送信サービスなどの課題につきまして専門的観点から集中的に御審議をいただくために,このワーキングチームが設置されたという経緯でございます。

続きまして,御出席のチーム員の方の御紹介をさせていただければと思います。資料1の委員名簿に沿って,五十音順に御紹介をさせていただきます。

【前田委員】前田ですが,音声が入っていないようですが。

【大野著作権課長補佐】ありがとうございます。大変失礼いたしました。

それでは,チーム員の御紹介をさせていただければと思います。資料1の委員名簿に沿って,五十音順に御紹介をいたします。

まず,生貝直人委員でございます。

【生貝委員】よろしくお願いします。

【大野著作権課長補佐】次に,池村聡委員でございます。

【池村委員】よろしくお願いします。

【大野著作権課長補佐】次に,上野達弘委員でございます。

【上野座長】よろしくお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】上野委員には,法制度小委員会の茶園主査の指名に基づきまして,ワーキングチームの座長をお願いしております。

続いて,大渕哲也委員でございます。

【大渕委員】よろしくお願いいたします。

次に,竹内比呂也委員でございます。

次に,田村善之委員でございます。

【田村委員】よろしくお願いします。

【大野著作権課長補佐】次に,茶園成樹委員でございます。

【茶園委員】よろしくお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】次に,福井健策委員でございます。

【福井委員】よろしくお願いします。

【大野著作権課長補佐】次に,前田哲男委員でございます。

【前田委員】どうぞよろしくお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】最後に,村井麻衣子委員でございます。

【村井委員】よろしくお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】以上10名の先生方に,委員に御就任いただいております。

続いて,文化庁関係者を御紹介いたします。初めに,文化庁次長の今里譲でございます。

【今里文化庁次長】よろしくお願いします。

【大野著作権課長補佐】次に,文化庁審議官,出倉功一でございます。

【出倉文化庁審議官】出倉です。よろしくお願いします。

【大野著作権課長補佐】続いて,著作権課課長の岸本織江でございます。

【岸本著作権課長】よろしくお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】著作権調査官,高藤真人でございます。

【高藤著作権調査官】よろしくお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】専門官の伊藤拓でございます。

【伊藤専門官】よろしくお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】最後になりましたが,私,課長補佐の大野でございます。

よろしくお願いいたします。

それでは,ここからの議事進行につきましては,上野座長にお願いできればと思います。よろしくお願いします。

【上野座長】改めまして,上野でございます。御指名ですので,進行役だけ務めさせていただきます。何でお前なんだという御意見もあるかもしれませんけれども,座長より委員の方が御意見をおっしゃりやすいと思いますし,またリモート参加も可能とのことですので,お許しいただければと存じます。

それでは,議事に入る前に,座長代理を指名することになっております。私といたしましては,前田チーム員に座長代理として就任いただきたいと思っております。既に御了解いただいているとうかがっておりますけれども,前田先生,よろしくお願いいたします。

【前田委員】どうぞよろしくお願いいたします。

【上野座長】初めに,本日の会議の公開につきましてですけれども,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に本日は,傍聴者の方にインターネットを通じた生配信によって傍聴していただいているところでございます。その点,御異議ございませんか。

それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方はそのまま傍聴いただくことといたします。

ただ,傍聴される方に対しまして2点,お願いがございます。1点目は,会議の様子を録音・録画することはお控えいただきたいということでございます。それから2点目は,音声とビデオをオフにしてくださいということでございますので,よろしくお願いいたします。

それでは,本日は本ワーキングチームの第1回でございますので,今里文化庁次長から一言御挨拶をいただければと存じます。よろしくお願いいたします。

【今里文化庁次長】文化庁,今里でございます。「図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム」開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。

皆様方におかれましては,御多用の中,本ワーキングチームの委員をお引き受けいただきまして,誠にありがとうございます。図書館関係の権利制限規定につきましては従来から,デジタル化・ネットワーク化に対応できていない部分がある,こういう指摘がなされてきたところでございますが,今般の新型コロナウイルス感染症の流行に伴う図書館の休館等によりまして,インターネットを通じた図書館資料へのアクセスについてのニーズが顕在化しているところでございます。

こうした状況を踏まえまして,令和2年,本年の5月27日に政府の知的財産戦略本部で決定いたしました「知的財産推進計画2020」,これにおきましても,図書館関係の権利制限規定をデジタル化・ネットワーク化に対応したものとする,こういうことが明記されたところでございまして,早急に対応を検討する必要があります。

本ワーキングチームにおかれましては,デジタルネットワーク技術を活用した情報アクセスの充実,それと権利者の利益保護,この二つのバランスに留意をしつつ,早急に一定の結論を得るべく集中的な御議論をいただきますようお願いいたしまして,私からの挨拶とさせていただきます。よろしくお願いいたします。

【上野座長】どうもありがとうございました。それでは議事に入りたいと思いますけれども,まず,議事の流れについて確認しておきたいと思います。

本日の議事は五つございまして,1番目が,検討に当たっての論点,検討スケジュールについてということであります。2番目が,諸外国の制度運用についてであります。3番目が図書館等関係者からのヒアリング,4番目が制度設計等についての自由討議,最後に5番目が,その他となっております。

まず,議事の一つ目,「検討に当たっての論点及び検討スケジュールについて」ということで,事務局より説明をお願いしたいと存じます。

【大野著作権課長補佐】それではまず,資料2-1を御覧いただければと思います。図書館関係の権利制限規定の見直しに関する検討に当たっての論点を記載した資料を御用意しております。右肩に記載のとおり,基本的には7月29日に開催された第1回法制度小委員会でお配りした資料をベースにしておりますが,その後明らかになった論点などを,一部赤字で追記をしております。簡単に御紹介をいたします。

まず,1ポツ,問題の所在でございますが,図書館関係の権利制限規定については,従来からデジタルネットワーク化への対応が課題として指摘されたことに加え,今般の新型コロナに伴いまして,そのニーズがより顕在化している状況がございます。知財計画2020におきましても課題として明記され,スケジュールとしても今年度内に一定の結論を得て法案の提出等の措置を講ずるとされておりますので,早急なの対応が必要かと考えております。見当に当たっては,当然デジタルネットワーク化への対応を優先課題としつつも,その他図書館関係では従来から積み残しになっている課題も多数ございますので,この際,関連する諸課題についても併せて検討を行うこととしてはどうかと考えております。

2ポツが検討課題及び論点でございまして,大きく(1)から(3)までに分かれておりますので,順次御説明をいたします。まず,(1)が絶版等資料へのアクセスの容易化でございまして,著作権法でいうと31条3項に関わる部分ということになります。

まず,丸1にございますように,現行規定上,国立国会図書館でデジタル化した絶版等資料のデータを他の図書館等に対して送信して,送信先の図書館等で館内閲覧などに供することが可能ということになっております。

ただ,2ページ目にございますように,あくまで館内閲覧などに利用が限定されておりますので,例えば感染症対策などのために図書館などが休館している場合をはじめ,図書館などに物理的にアクセスができない場合には,絶版等資料へのアクセス自体が難しくなることが課題としてございます。これを解決するために,丸2にございますように,国立国会図書館が一定の条件の下で絶版等資料を各家庭等に直接送信することを可能としてはどうかと考えております。

丸3が,検討に当たっての主な論点でございます。ここに記載の論点は,制度的な対応が必要なもの,運用面での解決が図られるべきもの,両方が含まれるものと考えております。

一つ目の白丸が,送信の形態でございます。まず公開の範囲といたしまして,誰もが閲覧できるよう一般公開を行うのか,ID・パスワードなどにより閲覧者の管理をするのか,もしくは初めから特定の者を対象にした限定公開とするのかという点が論点になろうかと思います。

また,送信の手法といたしまして,ストリーミングのみ,閲覧のみを可能とするのか,プリントアウト,ダウンロードまで可能とするのかという点が論点になろうかと思います。

また,この送信の形態ともリンクをしますけれども,現行規定で認められている絶版等資料の図書館でのコピーサービスを存置する必要があるのかどうかも論点になろうかと思います。

また,赤字で記載をしておりますが,仮にプリントアウト,ダウンロードが可能な形態で送信する場合には,受信者側の複製の取扱いについても検討が必要かと思います。当然,私的使用目的の複製であれば現行規定上も可能ですけれども,それに該当しない業務目的などでの複製は行われることも想定されますので,併せて検討が必要かと思います。

二つ目の白丸は,絶版等資料の内容の明確化などでございます。著作権法上,絶版等資料は,絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料と定義されておりますが,この定義からでは,必ずしも明らかになっていない部分もあるのではないかという問題意識でございます。

この点,米印にありますように,関係者による協議会におきまして,実際に対象となる資料の範囲,除外手続などが定められているところでございます。この点については,権利者の利益保護などの観点から,必ずしも法律上の要件としては規定されていない事項についても協議の上,合意がなされているところでございまして,これも踏まえながら,改めて絶,版等資料の定義の内容を明確化していく必要があろうかと思います。

その際,赤字に記載しておりますけれども,最近では中古本であってもインターネット上で容易に入手できる実態がございまして,このことと,絶版等資料の定義の関係をどのように理解していくのかということも論点になろうかと思います。

三つ目の白丸は,公の伝達権の関係でございまして,国会図書館から送信された資料を受診者側でディスプレーなどを通じて公に伝達する行為について,現行規定上は明確に制限する規定は置かれておりません。今回,図書館以外の場にも送信できることになりますと,公の伝達の機会も増えてくると思いますので,併せて権利制限の対象に含めることについて議論が必要かと思います。

3ページに参りまして,赤字にしている部分でございます。大学図書館・公共図書館などで国会図書館にない貴重な資料を保有していることも想定されますところ,国会図書館以外の図書館で資料をデジタル化し,それを国会図書館に提供することが可能かどうかという論点でございます。既に平成29年4月の著作権分科会報告書で,ここに書いているように可能という整理がされておりますが,今回,改めて実際のニーズなどを具体的に把握しながら,そういった行為が可能なのか,解釈上の明確化などを図っていく必要もあろうかと思います。

大きな論点の二つ目が,(2),図書館資料の送信サービスでございます。これは絶版等の資料以外も対象にしておりまして,著作権法でいうと31条1項1号の関係ということになります。

丸1にありますように,現行規定上,国会図書館,政令で定める図書館等が,非営利事業として調査研究目的で,著作物の一部分を一人につき一部提供することが可能になっております。一方で,可能な行為が複製と複製物の提供に限定されておりますので,ファクス,メールなどによる送信を行うことはできません。この点,遠隔地から資料のコピーを入手するなどの場面において課題があるという指摘がなされております。

これを受け,丸2,考えられる対応にございますように,図書館等が保有する多様な資料のコピーを利用者が簡便に入手できるようにしつつ,一方で権利者の利益保護をしっかり図っていくという観点から,新たに補償金請求権を付与することを前提に,一定の要件の下,ファクス,メールなどの送信を可能としてはどうかと考えております。

次に,丸3,検討に当たっての主な論点のうち一つ目が,送信の形態でございます。ファクス,メールもしくはID・パスワードで管理されたサーバーへのアップロードなど,様々な形態が想定されるところ,どこまでを認めていくのかということでございます。また,遠隔地への送信だけではなくて,来館者に対して電子媒体で複製物を提供するというニーズもあろうかと思います。この点,現行規定上も必ずしも排除はされておりませんが,実際の運用はされていないと聞いておりますので,併せて検討が必要かと思います。

また,二つ目の米印は,先ほど絶版等資料のところで申し上げたのと同じように,受信者側で複製する行為についても取扱いを検討する必要があるということでございます。

また,三つ目は,図書館等が自館の利用者から求められた資料を自ら保有していない場合に,他の図書館などからデータを取り寄せた上で利用者に送信することができるのかどうか,これを可能とした場合,権利者にどのような影響があるのか,こういった点について,併せて議論いただきたいというものでございます。

4ページに参りまして,補償金請求権についてでございます。新しく補償金を課すことになりますと,補償金のスキームについて,様々検討すべき論点ところがあろうかと思います。一番重要なのは対象範囲でございまして,新たに可能にする「公衆送信」だけを対象にするのか,従来から対象であった複製の取扱いをどうするのか,また,そのほか,支払い主体,実質的な負担者が誰になるのか,補償金額の決定方法,料金体系,徴収・分配スキーム,受領者をどのように扱っていくのかという点についても幅広く検討が必要かと思います。

赤字で記載しておりますけれども,今回の権利制限の拡大によって,著作権者のみならず出版権者にも大きな影響を与えることとなるため,出版権者も補償金請求権の対象に含めていくことについて検討が必要かと思っております。

次がデータの流出防止措置でございまして,権利制限のために作られたデータがほかの目的で流出していきますと,権利者の利益が害されることになりますので,そうならないようにどのような担保が必要かということでございます。

例えば図書館等における送信後のデータ破棄の要否,図書館等において流出防止のためにどのように管理体制を構築していくのか,送信を受信したユーザー側が不正に拡散することを防止するためにどのような措置を講ずるべきかなどが論点として考えられます。

次が電子出版等の市場との関係でございまして,これは権利者の利益保護の観点から非常に重要な点かと思います。今回,権利制限による送信サービスを認めるとした場合に,電子出版などの正規の市場を阻害することはあってはなりませんので,そういうことがないよう,どのような担保をしてけば良いのかということでございます。

最後は,主体となる図書館等の範囲と書いておりますけれども,新しく送信サービスを認めるとした場合に,全ての図書館で実施のニーズがあるのかどうか,また,先ほど申し上げたような様々な点について適切な運用を担保する必要がございますので,そういった点も踏まえながら,主体の在り方について議論していく必要があろうかと思います。

その際,米印に記載しておりますけれども,適切な運用を図っていくためには,図書館などの場において,利用者への教育や職員に対する研修などの充実も図っていく必要があろうかと思いますので,併せて記載をしております。

大きな論点の三つ目が,(3),その他関連する課題でございます。これは必ずしもデジタル化ネットワーク化への対応ではないものも含まれておりますが,従来から指摘されていた課題を幅広く記載しております。

まず,丸1が「一部分」要件の取扱いでございまして,今,コピーサービスの対象は,著作物の一部分ということで限定がされておりますが,これを拡大していくべきなのかどうかという論点でございます。とりわけ公的機関の作成した広報資料・報告書などについては全部の複製を認めるべきという御意見も従来からいただいておりましたので,その他ここに記載したような様々な事例を含めて,取扱いの議論を頂ければと思います。

ただ,当然ながら,この「一部分」要件を見直すことで,権利者の利益が不当に害されることはあってはなりませんので,その担保をどう図っていくのかという点についても併せて議論が必要かと思います。

それから,丸2は,図書館等におきまして,利用者の方がそこに設置された端末でインターネット上の情報をプリントアウトする行為が可能かどうかという点でございます。既に私的使用目的の複製として可能かもしれませんので,現行法上の解釈も含めて議論をいただきたいと考えております。

三つ目は,図書館等において利用者が図書館資料をコピー機などで複製する行為と,私的使用目的の複製との関係でございます。31条1項では,厳格な要件の下,図書館資料の一部分の複製が認められていることとの関係も踏まえまして,整理が必要かと思います。

5ページ目に参りまして,丸4,「図書館等」の範囲でございます。現行規定上,公共図書館・大学図書館などは既に対象になっておりますが,小・中・高の学校図書館など対象になっていない施設もありますので,その部分の取扱いについて検討が必要かと思います。

なお,学校図書館の扱いにつきまして,事前に学校図書館関係の団体に御意向をお伺いしましたところ,現時点ではあまりコピーサービス・送信サービスのニーズがないことと,学校図書館と公共図書館の性質の違いなどを踏まえると,必ずしも指定されることは望んでいないという御意見もいただいております。今後,関係者の御意見をよく踏まえながら検討していく必要があるものとと認識しております。

また,米印に記載のとおり,映像資料の貸与につきましては,31条ではなくて3条5項が根拠になっておりますが,38条5項が適用される施設については別途政令で定めがございらます。その中で,公共図書館は対象になっている一方で,大学図書館が対象になっていないという課題もございますので,この点3についても併せて検討が必要かと思います。

丸5は「図書館資料」の定義ということで,他の図書館から借り受けた資料を「図書館資料」と評価できるのか,また,「図書館資料」には様々な類型の著作物が含まれ得るところ,どこまでを対象にするのかという論点でございます。

それから,丸6は,先ほど少し触れましたけれども,権利制限の見直しに伴い,著作権教育・研修などの充実についても併せて検討が必要かと思っております。

6ページは参考資料でございまして,著作権法31条の対象となっている施設について整理をしております。詳細な説明は割愛をいたしますけれども,丸1から丸6までに記載した施設が対象になっておりまして,丸1から丸5は,法令に根拠を有する施設を類型的に規定している部分になります。一方で丸6につきましては,それ以外の施設を文化庁長官が個別に指定できるというスキームでございます。

なお,米印の2にありますように,登録博物館,博物館相当施設のうち非営利法人が設置するものにつきましては,文化庁長官の指定というスキームを使いながら類型的に指定がされているという,少し特殊な扱いになっております。

資料の7ページ以降は参照条文ですので,説明は割愛いたします。

続きまして,資料2-2を御覧いただければと思います。本ワーキングチームにおける当面の審議スケジュールのイメージについて御紹介をいたします。

まず,本日,第1回目の会議におきましては,この後,諸外国における制度運用の状況の御報告,図書館等関係者からのヒアリングを行っていただいた上で,制度設計などについて自由討議をいただく予定でございます。

第2回におきましては,権利者団体からのヒアリングを行っていただいた上で,更に制度設計などについての議論を深めていただく予定でございます。

その上で,第3回ワーキングチームにおきましては,一つ目の課題である絶版等資料へのアクセスの容易化につきまして,論点を整理した上で制度設計の詳細を詰めていただくことを想定しております。

4回目は,同様に,二つ目の大きな論点である図書館資料の送信サービスについて,論点整理の上,議論いただく予定でございます。

その上で,第5回ないし第6回におきまして,その他関連する課題の議論も行っていただいた後,一定の取りまとめをしていただくことを考えております。

取りまとめをいただきましたら,11月から12月頃に親会議である法制度小委員会に御報告いただき,そこで小委員会としても方針がまとまりましたら,パブリックコメントを実施の上,最終的には著作権分科会としての報告書をまとめ,次の通常国会への法案提出を目指していくことになろうかと思っております。

その際,本課題については,非常に多岐にわたる論点がございますので,このスケジュールに沿って全ての課題について結論が出していけるかというと,難しい部分もあろうかと思います。このため,米印2にありますように,本ワーキングチームにおいて,その後も残された課題について継続的に議論を行っていただくことを想定しております。今年度中に議論する部分もあろうかと思いますし,来年度に持ち越す部分もあろうかと思います。

事務局からは以上でございます。

【上野座長】どうもありがとうございました。それでは,ただいま事務局から御説明いただきました内容につきまして御質問等をお伺いしたいと思いますが,資料2-1の具体的な論点の中身につきましては後ほど自由討議の時間がございますので,資料2-2のスケジュール等を中心に,御発言があればお伺いしたいと存じます。

なお,御発言に際しましては,何らかの方法で挙手をしていただくか,あるいは挙手が分かりにくいかもしれませんので,この際,御自身でアンミュートしていただいて御発言いただいても結構でございます。よろしくお願いいたします。

(発言者なし)

【上野座長】挙手なさっているか,こちらで十分確認ができない場合があるのですが,特によろしいでしょうか。またスケジュールの点も含めて,後ほどでも御発言いただければと存じます。

それでは,次に参りまして,議事の2でございますけれども,「諸外国における制度・運用の状況について」ということで,本日は生貝チーム員に資料を御用意いただいておりますので,御報告をお願いできればと存じます。よろしくお願いいたします。

【生貝委員】お願いいたします。資料はお手元で御確認をいただく形で,投影はよろしいですか。

【上野座長】それでお願いします。

【生貝委員】ありがとうございます。そうしましたら,私の資料は,昨日,委員の皆様方にお送りいただいてから,夕方の版に差替えをいただいておりますので,そちらの左上にバージョンのふちがついていないものを,お手元に御用意いただければと思います。

それでは早速,内容に入ってまいります。表紙にございますとおり,「諸外国における制度・運用の状況について」ということで,大変重要なテーマについて僭越でございますけれども,もともと図書館のデジタル化等を一つの研究対象にしていたことから,今回お申しつけをいただいたのかと思います。そして,内容につきましては,タイトルの下にございますとおり,まず,図書館資料の送信サービスについてお話をして,その後,絶版等資料へのアクセス容易化について,簡単にお話をしたいと思います。

特に1番目の送信サービスにつきましては,図書館の関係ですと,今から15年,20年ほど前に,ドキュメントデリバリーサービスという形で,かなり諸外国の動きも含めて日本でも議論されたことがあったのですけれども,ここ十数年ぐらい,あまり少なくとも横断的な制度や運用に関わる調査・研究というものがなされておりませんで,その点,私のほうで手作業で,特にこういった図書館がなかなか使えない中で調べさせていただいたこともありまして,多々不十分な部分などあるかもしれませんけれども,全体の見通しを共有させていただくという意味で少しでも御参考になれば,そして,ほかの先生方からも関連する御知見等を頂戴できればありがたいものと考えております。

早速,内容に入ってまいりたいと思います。まず,1の2スライド目,「図書館資料の送信サービス」について,ごく簡単に確認をしていきたいと思います。

まず,3ページ目,アメリカについてでございます。アメリカについては,御承知のとおり,108条に,まずa項で,複製及び頒布というものが図書館に関して特別に認められているわけでございますけれども,わけても,このd項とe項というのが大変重要になってくるところでございます。

こちらのdで通常の著作物,そして,eで公正価格で入手できない著作物の複製・頒布をそれぞれ規定しているわけでございますけれども,特に著作物一般を取り扱うd項では,コピーまたはレコードは利用者の所有物となることは,(1)を場合としているわけでございますけれども,そして私的研究,学問または調査以外の目的に使用される旨の通知を受けていないこと,そのほかにも,著作権注意書きをそういうものを受け付ける場所にちゃんと掲示することなども要件として,定期刊行物等に含まれる記事その他寄与物1件のコピー,または著作権の対象となるほかの著作物の小部分のコピーもしくはレコードを複製・頒布することができることを,明文で定めているわけでございます。

ただ,上の文章のところにございますとおり,アメリカのつくりとして,ほかのフェアディーリングの国も多くはそういう部分があるのですけれども,別途,特に明文で,107条のフェアユース規定の適用は排除されないということで,重なって適用される場合があることにも留意をしておく必要があるかと思います。

次の4ページ目に,少しアメリカの運用例というものを持ってきております。まず,ハーバード大学図書館が,特に2009年にスキャン・アンド・デリバリーサービスというものを開始しております。これは名前のとおり,それぞれ紙も含めて図書館員が申込みに応じてスキャンをしてデリバーをしてくれるサービスでございますけれども,英語のままで恐縮ですけれども,一つ目の下線のところにございますとおり,特にハーバードでは,コミュニティー構成員に向けて,無料でこういったエレクトロニックドキュメントを配付してあげる。そして,それはeメールで送られるといったことが書いてあります。

下のもう一つの下線のところにございますとおり,ある程度の分量というものを定めた上で,そしてその下の下線にもあるとおり,それ以上の送付というものも認められる場合があるけれども,それは最終的な決定は図書館のスタッフがやるといった形で,まさに権利制限の判断をしているといったことになるようです。

そして,このほかにも,主要大学ですとか含めて様々なところがやっているのですけれども,少なくともイエール大学やコロンビア大学ですとか,そういったところのサービスも様々紹介されておりまして,こちらは特に,ある程度実施体制というものも必要になる関係で,多くの大学は大学の現構成員に向けてといったことで,そして卒業生に向けてといったことを,例えばイエール大学などは含めているといったばらつきはあるようでございます。

ほかにも,公共図書館という意味でアメリカでも最も著名なニューヨーク公共図書館も,ドキュメントデリバリーサービスをやっているようではあるのですけれども,ただ,こちらは,ニューヨークの物価というところもあってか,手数料というのもそれなりの金額を取っているのかなと見えるところでございます。

手短でございますが,次に英国でございます。英国は29条に,「研究及び私的学習」を対象としたフェアディーリングと呼ばれるものと,それから42条のA項に,これは2014年の改正で導入されたものでございますけれども,まさに図書館司書による複製というものが規定されているところでございます。

そして,この権利制限規定に基づくところもあるのですけれども,教育,35条の改正のときに様々お調べされたように,CLAの包括ライセンスなども広く機能しておりまして,営利利用ですとか,あるいは多くの分量を利用したりする場合は,ライセンスに基づくサービスを行っている場合も多いようでございます。

一応,29条のところを引いてきておりますが,下線のところを見ていただきますと,研究等を目的とする場合は,いずれの著作権をも侵害しないといったようなこと。

それから,1Cの一番下の下線のところに,これは42条のAとの調整規定も置かれているところでございますが,割愛いたしまして,次の6ページのところが,図書館の司書による複製ということで,以下に提供することができる。定期刊行物の号における記事,そして,その他の合理的な割合,リーズナブルプロポーションという言葉が書かれているところでございます。

いずれも条文の中で様々な規定が,利用者にどういう宣誓をさせるかですとか書いているところでございますけれども,次のページで運用例を見てまいりますと,こちら,一つは,こちらも大学図書館からですけれども,ケンブリッジ大学のスキャン・アンド・デリバーサービスでございます。こちら,英語が多くて恐縮ですけれども,いろいろと興味深いことが説明書きの中に書いておりまして,例えば,遠隔で複写のサービスをお願いするときは,必要な箇所というのがなかなか分からないであろうから,そのときはグーグルブックサーチのようなサービスを使って確認をしてほしいということも書いていたりしまして,日本の47条の5のようなものをどう充実させていくかというところも我が国では考える必要があるという意味でも,少し示唆があるかなという気はいたしました。

そして,その下には48時間といったこと,そして三つ目の下線部分で,グーグルドライブにアップロードされますといったこと,14日間で消えますといったこと,そして,その下の大きい2ポツの真下の下線のところでございますけれども,ノンコマーシャルのスキャンリクエストに対して,我々は,この29条の,先ほどの一般フェアディーリングと,それから図書館に関するセクション42Aと43条,43条は別途規程がございますけれども,それらに基づいてやっておりますよといったことを書いているわけでございます。

次のページ,こちらはもう一つの例として,大英図書館,ブリティッシュライブラリーが,BLオンデマンドというサービスを従前からやっているところでございます。これについては,大英図書館は,権利者団体ですとか学術出版社等と協力して,ライセンスに基づくサービスというものを,かなり先導的な役割を果たしてやっているところで,ライセンスに基づくものは,例えば日本からも代理店を通じてコピーをメールで送っていただくこともできるのですけれども,こちらは権利制限に関してどうしているかと申しますと,説明書きを引用してきているように,コピーライト・フィーというのが多くの場合かかります。そして,大きな2ポツ目の太字のところですが,以下の場合にはコピーライト・フィーというのはかかりませんと。そして,下線のところにございますとおり,このブリティッシュライブラリーに登録された,これはUK内の,英国内の図書館等ですね,そこに関しては,ライブラリー・プリビレッジという表現をしておりますけれども,コピーライト・フィーなしで送付を受けることができますといったことで,恐らく運用としては,基本的には各大学図書館や公共図書館でしっかり対応をしていただきながらも,そこを通じでBLにお願いをする場合には,こういったライブラリー・プリビレッジの権利制限規定に基づく複製というものができる仕組みになっているのかなと思います。

下の四角のところでございますけれども,この「合理的な割合」というのが英国でどうなっているのかというと,明確な定義というものはございませんで,いろいろな団体がいろいろな割合を主張している,あるいはソフトローで定めているようでございますが,少なくともブリティッシュライブラリーは10%というのを基準にしているようですけれども,その次にございますとおり,それを超える要求があったときには,本そのものを貸し出してしまうことが多いということで,様々な方法を組み合わせながらやっているのかなという感じがいたします。

そして,次に,9ページのカナダでございます。カナダも英国に近い形で,一般フェアディーリングと図書館等における複製等を規定しているところでございまして,こちら,四角内の条文は省きますが,関連して,こちらのCCH判決,下の部分のポツでございますけれども,2004年の,フェアディーリングに関してよく日本でも参照されることがある判決でございますけれども,実はこの中で,この段階で,これは弁護士会の図書館からのファクス送信等を含めてフェアディーリングに当たるという判断をしたといったことも含まれていた事件でございました。図書館間のデジタルコピーの提供といったものを認める改正というのも2012年に行われているところです。

そして,次のページで,カナダの運用例を幾つか御参考までです。例えばマギル大学のアーティクル/チャプター・スキャンサービスでは,まさしくコピーというものを,スタッフやファカルティーやステューデントに向けてメールでお送りすることができますよと。そして,目的はこういう形に限られて,そして,ここでは15%ですとか20%ですとか,幾つかの基準が書かれているところでございます。

下のアルバータ大学図書館は,飛ばさせていただきます。

次,オーストラリアでございます。49条に,こちらは図書館・公文書館による利用者の複製及び送信ということが書かれておりまして,ここでも相当部分で,そしてこの中でも,特に合理的な期間内に通常の商業的価格で入手できないものについては,より広い分量での利用が可能だということも明文で書かれているところでございます。

ここでも枠囲みにございますとおり,請求書・宣誓書というものを利用者から出してもらった上で,そして次の12ページにございますとおり,特に7,7A項,定期刊行物に含まれる等々の様々なことを規定した上で,送信することは著作権の侵害にならないといった形でございまして,次の13ページ,オーストラリア,こちらはどちらかというと,書籍そのものを郵送して対応しているところが多いようで,あまり多くの情報がインターネットでは手に入らなかったんですけれども,少なくともこのオーストラリアカトリック大学図書館のリクエストアイテム・オア・スキャンドコピーサービスというところでは,eメールでスキャンをお送りすることができますよ,分量はこのぐらいですよといったことが書かれているところでございます。

さらに,14ページ,次に参りまして,ここまでは英米系の取組ということで,特に補償金の規定等もない形の取組であったのですけれども,特にドイツはかなり細かい規定を置いて,補償金について明文での規定というのを置いているところであります。こちらは上野座長も従前から様々な形で御紹介されてきた取組かと思うのですけれども,2017年の大幅な著作権法の関連規定の改正で60条e項というものが設けられておりまして,その中の特に下線が書いてある(5),5項というものが,まさに使用者の個別の求めに応じて,公表された著作の10%を,あるいは専門雑誌等に公表されたものを引き渡すことができるということで,これ,手段は問わないということが,この改正で明確化されたようでございます。60g条には,契約上の使用制限との調整規定も,かなり細かい形で書かれているところでございます。

そして,次の15ページに行っていただきますと,相当なる報酬を支払わなければならないということが書かれておりまして,これに関して,どのぐらいの報酬なのだろうといったことを,こちら,出版分野の集中権利管理団体との合意に基づく規定を確認してみましたところ,公的機関,非営利のものといった場合は,この3.27€,生徒,訓練生,学生はかなり安い価格でといったこと,個人は公的機関と同じということで,その他営利利用者に関しては,これはまさにザ・ライセンスだということで,また別の価格が決められているというところでございました。ほかに,当然,全ての図書館に関わるところですけれども,それぞれごとの図書館の手数料といったものがかかってくるということです。

ドイツの運用例に関しましては,こちらは比較的メジャーでございますが,こちら大分昔からやっているんですけれども,スビトというサービスで,こちらは様々なドイツ等の図書館がネットワークを作る形で受付を行っているといったところで,特に2018年3月に施行された法律でどう変わったのかということについての細かいことがかなり書かれ,今,特にサービスの変革期にあるといったことです。

それから,関連して,次の17ページのところでは,こちらはドイツの旧53a条,2018年3月の施行前まではこちらに基づいてやっていたということで,こちらもこれまで日本国内でも触れられてきたことがあるかと思うのですけれども,1999年の裁判に基づいて,当時の53条2項でございましょうか,ファクス送信が可能とされたことを受けて,2007年に改正する形で,様々な規定を,要件をつけながらも,そういった電子的な形での送信というものを認めていたということで,先のスビト含めて行われていた形になるようでございます。

そして,次の18ページのところは,関連してスイスでございます。スイスは少し法律の作り方が興味深くて,個人利用を3段階に分けて,そして,その複製の行為を図書館その他の機関に依頼できると規定しているわけでございますけれども,こちら,2014年に大きな判決というものがございまして,チューリッヒの連邦工科大学,ここが被告になる形で裁判が長く続けられていたものが,利用者に複製を電子メールで送信できることが最高裁で明確に判断されたということです。こちらの内容というのは,恐らくドイツの1999年以来の内容を改めて裁判としてスイスでも確認したということに近い内容が多いのかなと,中身を読んでいると感じるところでございます。それから,ここもどうも補償金というものを含めているようでございます。この2014年裁判の結果として,そのことがある程度明確にされたということで,下に運用例を書いておりますけれども,例えばこちら,ETHチューリッヒですと,分量は3分の1を超えないこと,3本ですとか,そういったようなことが書かれているところでございます。

そして,次のページは御参考でございますけれども,アメリカには107条というものがございますので,例えばコントロールド・デジタルレンディングという形で,蔵書保有分と同じ冊数を,古い商業的に電子版が提供されていない書籍に関して,図書館自身がDRMを利用した形で貸し出すといった取組も結構広く行われているようでございます。

このほか,インターネットアーカイブという民間の機関が,国家非常事態宣言の中で,その上限を外すということをして,今,訴訟を起こされて注目されているところでございまして,こちら,フェアユースはかなり厳しいだろうなと僕が見ていても思うわけですけれども,CDL,特に限定的なCDL自体は結構広く受け入れられているということなのかなという認識です。

次に,2番に関しては,EU独米を対象に,絶版等資料についても簡単にご紹介したいと思います。21ページをおめくりいただきまして,絶版等資料と我が国で呼ばれるものの利用活用の施策に関しては,EUでここ10年以上,非常に活発な取組が長く行われてきたところでございました。様々な検討が2000年代からされていたところですけれども,特に2011年9月には,欧州委員会が仲介する形で,ソフトローアプローチという形でアウト・オブ・コマース作品の特にインターネット公開というものを進めていこうという覚書が全欧州の関係者の中で取り交わされまして,そして2011年の10月には,「欧州文化遺産の電子化,公開,保存に関わる欧州委員会勧告」ということで,こちらは拘束力はないのですけれども,デジタルアーカイブ政策全体を進めていくための中心的な文書として,ヨーロピアナ,日本で言うジャパンサーチ,ちょうどおととい正式公開がされたところでございますけれども,それを全欧州でインターネット上で文化遺産にアクセスできるようにしていくぞなどのことのほかに,当時成立直前にあった孤児著作物指令の国内法化とアウト・オブ・コマース作品のデジタル公開というものを進めていくための勧告を行いまして,これに基づいて,かなり各国,いろいろやっておりまして,2012年のフランスの取組というものは,ECJの判決などもあり,一度挫折したりもしておりますが,2013年,この後申し上げるドイツはじめ幾つかの国が対応しており,そして2014年は,これ,絶版等とは異なるのですけれども,EUの著作権関係の判決として重要な,ドイツ発のダルムシュタット工科大学判決という,図書館内の端末閲覧やUSBメモリ複製に関してかなりポジティブな判断をしたECJの判決もございます。そして,その後に,これらを更に発展する形で,2019年の4月にデジタル単一市場著作権指令というものが成立しているといった,一つの大きな流れになります。

一番下のところは,こちら,2011年の勧告というものを定期的に欧州委員会がフォローアップしておりまして,孤児著作物指令だけですと,なかなか大規模なデジタルアーカイブというものは進まないようなのだけれども,絶版等資料,アウト・オブ・コマースに関する枠組みというものはかなり進んできているようだということを書いておりました。

そして,22ページ,こちらはドイツでございますけれども,2013年に著作権等管理事業法を改正しまして,書籍・ジャーナル・新聞・雑誌その他言語の著作物のアウト・オブ・コマース作品に関して,ここは拡大集中許諾のような形で利用を可能としている。下にライセンス料金表もございまして,ドイツの法律上は1966年以前ということに区切ってはいるんですけれども,それぞれの期間ごとにこれだけの金額を,ワン・オフ,1回きりでお支払いをすれば,文化遺産機関は非営利で利用できることを定めているということです。

そして,23ページ,デジタル単一市場著作権指令もごく簡単に御紹介をさせていただきますと,こちら,8条から11条で,先のMoUを更に進めて,これはハードローということで,加盟国に対し,まさに文化遺産機関がアウト・オブ・コマース作品を非営利目的で利用するための拡大集中許諾制度,それが具体的になかなか機能しない分野も非常に多いので,それが機能しない分野は権利制限規定を入れないといけないことを義務づけたところでございます。

そして,このアウト・オブ・コマース作品の定義も各国でかなりばらつきがありますところを,今回,指令という形で統一にかかっておりまして,ここでは通常の商業流通経路を通じて公に入手できない作品ということが定義として置かれております。これは中身をよく見てみますと,日本法の場合は絶版等資料は,入手困難資料と略すのが適切かと思うのですけれども,そことは必ずしも同じ定義ではないのだろうといったこと。そして,次のところで,アウト・オブ・コマース作品には,ポスター,リーフレット,トレンチジャーナル等のネバー・イン・コマース作品が含まれること。それから,アウト・オブ・コマース作品の判断において,例えば古本屋で入手できるかどうかですとか,ライセンスが理論的に取得可能かといったことは考慮しないことを,これは前文の中で明確化していることになります。

次の24ページのところは,こちらはトレンチジャーナルという耳慣れない言葉が出てきましたので,何かといいますと,第一次大戦中の軍隊同人誌のようなものでございまして,特に第一次大戦からちょうど100年の区切りがつい先日だったこともあって,各国で著作権の保護対策ではあるのだけれども,こういったものもまさにアウト・オブ・コマースとして公表していこうということが結構積極的に取り組まれているようで,御参考です。

最後の25ページのところは,米国著作権法の中では,これは1998年のソニー・ボノ著作権保護期間延長法と併せて,最後の20年に入った「通常の商業的利用の対象」となっていない著作物については,図書館・文書館がデジタル形式を含めて利用できることを定めているということで,御参考として紹介しております。

少し長くなりまして恐縮ですが,私からは以上です。御清聴ありがとうございました。

【上野座長】生貝先生,大変詳しい御報告いただきまして,ありがとうございました。それでは,ただいまの生貝チーム員より御報告いただきました内容につきまして,御質問等ございましたらお聞きしたいと思いますが,いかがでしょうか。大渕先生,お願いします。

【大渕委員】大変に詳細な御説明,ありがとうございました。2点だけお伺いしたいと思います。4ページのところで,ニューヨーク公共図書館で25ドル等の料金が徴収されているようですが,この料金の趣旨についてもう少し,どのような趣旨でこのお金が取られているのか,取った後のお金が例えば著作者にリターンが行っているのかという辺りにつきお伺いしたいというのが1点であります。もう1点が,23ページのところで,中古店での利用可能性というのは考慮されないことは御説明いただいたのですが,その理由について御説明いただければと思います。以上2点です。よろしくお願いいたします。

【生貝委員】御質問,どうもありがとうございます。まず1点目の,こちらの4ページのニューヨーク公共図書館のところでありますが,実はあまり詳しい情報が公表されていなくて,私自身も詳しいことは分からない部分があるのですけれども,アメリカですとか,あるいは各国含めて,原則として非営利の図書館が非営利でやらないといけないということが前提にある中で,しかし,手数料というのは当然,スキャンして,そしてお送りする人件費も含めてというところがありますから,取っているところが一般のようでございます。他方で,大学図書館に関しては,まさに学費ですとか公的な助成に基づく構成員向けのサービスということで,無料でやっていることが多いです。しかし公共図書館は,特にアメリカの公共図書館というのは必ずしも公立図書館を意味しませんので,サービスを成り立たせるための料金として取っているという認識でございます。他方で,ニューヨークに関しては,もしかすると,まさにライセンスという形で行っている部分もCCCとの関係上あるのかもしれず,少し詳しい調査が必要ですが,少なくともアメリカの場合は,特別な補償金は法定されていないという認識だというのが1点目です。

そして,次の23ページのデジタル単一市場著作権指令でございますけれども,まさにこれは英語で言うセカンドハンドショップでのアベイラビリティーは考慮しないということが前文で書かれているわけでございますけれども,そこの背景というのはなかなか前文の中にも明確に書いていないのですが,基本的には著作権法が守ろうとする利益の趣旨といったところからして,中古店で販売されているかどうかというのは考慮しないことが原則になっているのかと考えているところでございます。差し当たり,以上でございます。

【上野座長】大渕先生,よろしいでしょうか。

【大渕委員】ありがとうございました。

【生貝委員】ありがとうございます。

【上野座長】ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。私どもの画面で6人ぐらいしか見えておりませんので,もし事務局で気がつきましたら,お知らせいただきたいと思います。

【前田座長代理】前田です。よろしいでしょうか。内容に関する御質問ではないのですが,プレゼンされている間に主会場の会議室をミュートにしていただくことは難しいでしょうか。主会場で資料をおめくりになる音とかが,結構プレゼンをされている方の音声にかなり大きくかぶってしまうものですから,もし可能な範囲で御配慮いただければいいのかなと思いました。以上です。

【上野座長】御指摘ありがとうございます。大変貴重なご指摘で,言っていただかないとこちらでは分からないところもありました。。主会場のマイクは大変感度がよすぎるともうかがっておりますので,今後,プレゼンの最中はマイクを切っていただくようにお願いいたします。ほかにいかがでしょうか。お願いいたします。

【田村委員】生貝さん,非常にお詳しい御紹介を,ありがとうございます。

私の関心は,著作物の複製することができる話にございます。パーセンテージ,10%といった数値を幾つか紹介していただいて,大変興味深かったんですが,その分母の取り方が非常に関心がございます。日本では,条文上は「著作物の一部分」と書いてありまして,釈迦に説法ですが,下級審の判決では,土木工学事典の場合でも,1ページの中にあるちょこっとした個々の項目でも一著作物であって,それを剽窃すると全部だという厳しい判決もあれば,私を嚆矢として,島並先生や何人かの先生が少数説ながら,条文から離れますが,市場で販売されている単位で考えるという説に分かれています。今日お話を伺ってざっと見ると,アメリカの図書館の規定ではア・ワークと書いてあって,ドイツでは著作物とお訳しになられているから,どちらかというと日本の条文みたいな書き方をしている反面,見ていくと,ボリュームと書いてあったり,ブックと言っていたりするときがあって,それは販売単位を念頭にしているように思います。そこで,何かパッとお話聞いた印象では8割ぐらい販売単位で考えているような,手前みそかもしれないですが,そのような印象を持ちましたが,いかがでしょうか。

【生貝委員】御質問ありがとうございます。まさしくここはかなり各国共通している部分があるのかなとも感じるところで,これ,各国とも,単行本,特に出版物で言えば,書籍と,それから学術雑誌や定期刊行物といったようなピリオディカルという類のものを明確に分けている。そして書籍の場合は,まさしくそのうちの相当部分ですとか一定割合ということを規定する。これはハードロー,ソフトローを含めて。他方で,定期刊行物や雑誌等の場合というのは,そのうちの幾つの記事だといった形で規定するとしていることが,多くの国で見えるところでございます。そうした意味で,まさしく先生がおっしゃったような意味での販売単位といったものに近しい運用がされているのかなと感触を持っていたところでございました。

【田村委員】どうもありがとうございました。

【上野座長】確かに,条文上は「著作物」の10%などと書いていても,実際には本の10%と解釈しているような立法例が多いのかなと私も感じたところであります。

ほかにはいかがでしょうか。お願いいたします。

【福井委員】生貝先生,非常に充実した情報をありがとうございました。私も音声聞き取れないところもあったので,的外れあれば申し訳ないんですけれども,教えていただければと思います。

まず25ページ,米国の最終20年条項という非常に興味深い条文です。ここでは「通常の商業的利用の対象」となっていない著作物という言葉が登場しています。これについては,例えば中古市場での入手可能性についての議論等はあるのでしょうか。これが1点。

もう一つは,3ページに戻りまして,これも米国ですよね,108条ですが,こちらでも,公正な価格で入手できないと第一次的に判断したときに,場合によっては著作物の全体でも提供その他行うことができると記載があります。この公正な価格での入手というのは,例えば電子や中古の手段も含めて公正な価格で入手できるならば対象にならないという議論がされているのでしょうか。何らかのそういう中古市場等についての議論はあるのかをお伺いできればと思います。

【生貝委員】ありがとうございます。大変恐縮ながら,アメリカのこの部分についてはあまり議論を深掘りできておりませんで,改めて調べてまいりたいと思うのですが,基本的には,どちらの条文も,アウト・オブ・コマース,商業流通の外側を指しているのかとは認識しているところでございます。

そうしたときに,中古店での,ヨーロッパは明確にそこは考慮しないと書いている,アメリカは,そこについての明確なことは認識できておりません。ただ,いずれにしても,著作権法が保護しようとする利益は何なのかということは共通しているのだろうという認識でございます。分かる範囲では以上です。

【福井委員】ありがとうございます。恐らくこの先の議論にとっても非常に重要なポイントだと思いますので,もし何か追加の情報があれば教えていただければと思います。

【生貝委員】承知しました。

【上野座長】ありがとうございました。ほかにはいかがですか。よろしいでしょうか。

それでは,次に進ませていただきまして,議事3番目の「図書館等関係者からのヒアリングについて」でございます。趣旨は,現行制度の下で,図書館等における運用実態や利用者のニーズを把握するとともに,制度の見直しについての御意見・御要望等をお聞きすべくということでありまして,今回は図書館等関係者からのヒアリングを実施するということでございます。なお,次回は権利者側からのヒアリングを想定しております。

本日は,6団体の皆様においでいただいております。国立国会図書館,日本図書館協会,国公私立大学図書館協力委員会,全国美術館会議,日本博物館協会,図書館休館対策プロジェクトであります。

まず,6団体の皆様に順番に発表いただきまして,その後,まとめて質疑応答の時間を設けたいと思います。

まずは国立国会図書館様,御報告をお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。

【国立国会図書館(竹内氏)】国立国会図書館の竹内と申します。よろしくお願いいたします。

今般のコロナ禍を受けまして,国立国会図書館としましても,これまで進めてまいりましたデジタル対応を一層加速化することが課題であると考えております。そのために,図書館関係の権利制限規定のデジタルネットワーク対応は,非常に重要な取組であると認識しているところでございます。

最初に,国立国会図書館の複写サービスと絶版等資料の送信サービスの運用実態から御説明させていただきます。

複写サービスには,来館複写と遠隔複写の二つのサービスがございます。館内複写は,来館利用者に対して,国立国会図書館の所蔵資料等の複写物を提供するサービスでございます。利用者から複写の申込みを受けまして,職員等が著作権法上の複写要件を満たしているかどうか審査しまして,複写作業を行って,複写製品を提供するという流れになっております。複写要件の審査は職員等が行いますが,それ以外の複写事務につきましては,料金徴収も含めまして,非営利団体に委託をしております。複写件数は年間約130万件,紙資料の複写が約70万件,電子資料の複写,プリントアウトが約60万件となっています。

もう一つの遠隔複写ですけれども,こちらはインターネットや郵便で複写の申込みを受け付けまして,郵便または宅配便で複写物を提供するサービスです。館内複写と同じように,複写申込みが著作権法上の要件を満たしているかどうかを職員等が審査した上で,複写作業を行いまして郵送いたします。料金ですけれども,通常の複写料金に加えまして,発送事務手数料と送料が別途かかっております。年間の申込み件数は約30万件です。

続きまして,絶版等資料の送信サービスについてです。このサービスは,国立国会図書館がデジタル化した資料を,参加承認を受けた図書館の館内の端末で利用できるサービスです。対象となる資料は,国立国会図書館がデジタル化した資料のうち,インターネット公開していないもので,かつ,絶版等で市場での入手が困難な資料です。現在,約149万点ございます。利用形態は承認館によりまして,閲覧のみの図書館と,閲覧と複写の両方ができる図書館とがございます。このサービスを利用できる人は,承認館の登録利用者です。現在,承認館数は全国で1,189館(2020年6月1日現在),利用実績としましては,閲覧が年間30万回,複写が年間約12万回となっています。

国立国会図書館がデジタル化した資料のうち,送信対象を入手困難な資料に限定するために,除外手続を行っております。まず,民間の在庫情報データベース等を用い,入手可能性調査を行いまして,入手可能なものを外しまして,送信候補資料を選定いたします。次に,送信対象候補のリストを公開しまして,出版関連団体,出版社,著作者等から除外の申出を受け付けまして,基準を満たす場合には送信候補資料から除外いたします。このようにして送信対象資料を決定いたしますが,除外は事後にも受け付けております。

2018年の著作権法改正によりまして,海外機関に向けて図書館送信が可能になりましたので,昨年2019年4月から申請受付を開始しまして,現時点で2機関が承認されております。コロナの影響によりまして,まだ利用者へのサービスは始まっておりません。

これらのサービスに対する利用者からのニーズですけれども,まず,複写サービスにつきましては,遠隔複写サービスにおきまして,現在は複写物を郵送するというサービスメニューしかございませんが,デジタルデータで複写物を入手したいというニーズがございます。例えば,利用者が自宅などから所定の画面でID・パスワードを入力して,デジタルデータのダウンロードが可能となるような仕組みを考えることができると思います。複写物の郵送に要する時間と経費が不要になることのメリットは大きいものがございます。とりわけ海外の利用者にとってのメリットは,大変大きいと思います。

また,複写サービスに対しましては,著作物の一部分を超えて複写をしたいというニーズも非常に高いものがございます。例えば定期刊行物の場合には,発行後相当期間を経過した個々の著作物は全て複写できますが,これと同様に,図書の形態をとる論文集などにおきましても,発行後相当期間を経過したものにつきましては,個々の論文の全部複写が可能になると,利用者の要望に応えることができるようになります。

次に,図書館送信サービスでございますが,資料の2ページ目を御覧になっていただければと思います。利用者の皆様からは,新型コロナの影響で大学等が閉鎖され,図書館も休館している状況におきまして,デジタル化資料を臨時的・時限的にインターネット公開する,または承認館以外の図書館等へ公開範囲を拡大してほしいという要望が寄せられました。また,図書館からは,運用管理の煩雑さが課題として挙げられることが多いのが現状でございます。

また,身体障害で来館できない利用者や,コロナ禍の中で大学がオンライン講義に移行したことを受けまして,住まいを実家など遠隔地に移転された方もいらっしゃいますけれども,こうした図書館に来館することが困難な学生に対して,図書館から複写物を郵送できるようにしてほしいとの要望もございました。

このほか,現行法の下では参加が認められていない施設,企業図書室ですとか学校図書館などからの参加要望がございました。

次に,これらのニーズを踏まえた制度見直しへの要望でございます。まず,絶版等資料へのアクセスを容易化するための要望ですけれども,送信の形態としましては,利用目的等を問わず誰もが絶版等資料を閲覧可能となるように,インターネット公開できるのが最も望ましいと考えます。インターネット公開ができない場合でも,31条3項の送信先を,現行の「図書館等」から例えば大学や研究機関に拡大しまして,この送信先が管理するID・パスワードを登録利用者等に配付し,施設の内外からアクセスして,プリントアウトやダウンロードも可能とするといった方向での検討を希望します。

国立国会図書館ではこれまで,図書館送信サービスを全国の図書館に広げていくことで,地域や大学の図書館を通じて国立国会図書館の蔵書やサービスを利用できるように,図書館のネットワークを構築してきております。図書館送信サービスは図書館間の相互協力の重要な基盤となるものと位置づけておりますので,今後とも地域や大学の図書館のネットワークを生かしつつ,この仕組みを拡充することが重要であると考えているところでございます。

この送信対象の拡充の仕方につきましては,いろいろ考えられるところではございますけれども,例えば利用目的等の面で一定の要件,研究目的とかの要件を満たす場合にのみ個人に対して送信可能とするような制度を考えることもできるかもしれませんが,その場合には,個人に対して国立国会図書館による要件の審査が必要になると考えられます。現在,承認館(機関)の審査でも運用の負荷がかなりございますので,多数の個人の要件審査は,その負担を考えますと,実際には運用できないのではないかと思われます。

例えば研究者について特別な登録制度を設けて,当該者に対して送信を可能とするような仕組みを想定するとしましても,潜在的な利用者数はかなり大きなものがございますので,対応は難しいと思われます。

また,送信対象の拡大に加えまして,送信された資料を学校その他の教育機関がオンライン配信する等の利用が無償で可能となるような方向での検討も希望いたします。

それと,この項目の一番下のポツのところに書かせていただいてございますけれども,当館は権利制限規定を活用させていただく立場でございますので,法改正のみが先行しまして,専ら当館が利害関係者との調整をするとなりますと,制度の整備・運用が円滑に進まないことが懸念されますので,この点,十分な御配慮をお願いしたいと存じます。

次に,絶版等資料の内容の明確化につきましてですが,送信できる資料の範囲が現状よりも拡大するような形での定義の明確化であれば望ましいと考えます。一方で,結果的に送信対象の縮小につながるような明確化になるのであれば,それは利用者にとってサービスの低下になりますので,反対の立場でございます。

例えば古書店で入手可能なものも除外するとした場合ですけれども,図書館送信対象資料の多くが送信対象から外れまして,国立国会図書館の館内限定公開に変更されるのではないかという懸念を持っているところでございます。

次に,資料の3ページ目を御覧いただきまして,複写サービスについてです。まず,公衆送信権につきましては,権利制限規定が追加されることで利用者の利便性が大きく改善されますので,これを強く希望いたします。31条第3項後段につきましても同様でございます。手段としましては,ファクスやメールでの送信に限らず,データ化された複製物を利用者が自宅等からダウンロードできるような柔軟な規定を希望いたします。

次に,新たに補償金制度を導入する場合ですが,現行法の権利制限規定に基づいて,無償での利用が認められている部分,著作物の一部の利用についても補償金の対象とすることにつきましては,利用者の利便性の低下につながりますので,慎重に御検討いただく必要があると考えます。

(1)に書きました公衆送信に係る新たな権利制限や,一部分を超える複写について補償金制度を導入する場合には,実務上運用が可能なシンプルな仕組みとしていただくことが重要でありますので,制度設計に対しては十分協議させていただきたいと存じます。

また,補償金の金額は,利用者が許容できる額,それを負担してでも新たな権利制限を利用したいと思えるような額にとどめることが重要であると考えます。

電子出版市場との関係では,電子出版等の市場の利益を不当に害しないようにすることは重要でありますが,一方で,それによって新たな権利制限規定の実効性が損なわれることのないように,調整をお願いしたいと存じます。

最後,その他に関連する課題についてでございます。著作物の「一部分」の要件の取扱いにつきましては,発行後相当期間を経過した定期刊行物以外の資料,図書扱いの論文集等につきましても「一部分」の要件を柔軟化する方向で見直していただくことを希望いたします。

また,電子出版物についてですが,こちらで私たちが念頭に置いているのは,主にDVD等のパッケージメディアに記録されて流通している「パッケージ系電子出版物」と呼んでいるものについてでございますが,これにつきましても「一部分」の定義が明確化されまして,実効的なプリントアウトサービスが可能になることを希望いたします。

現在,国立国会図書館では,納入されたパッケージ系電子出版物は,出版団体との申合せに基づきまして,一資料からプリントアウトするのはA4で20枚までという運用を行っております。これは「一部分」の運用が現状難しいことから,コピー枚数で制限しているものでございます。紙で出版されていればもっとコピーできていたものが,20枚までしかコピーできないことに対して,利用者から不満の声を受けることがございます。

その他,これは31条関係のものではございませんが,今後,デジタル対応を一層進めるために重要となる孤児著作物関連につきましても,要望を出させていただきます。孤児著作物は図書館送信の対象になっているものもたくさんありまして,今般のコロナ禍を踏まえまして,当館としましても著作権処理を進めてインターネット公開を推進したいと考えておりますので,孤児著作物の利用の容易化につきましての検討を希望いたします。特に著作権の保護期間が70年に延長されましたので,孤児著作物の利用の一層の容易化は重要な課題と考えております。

具体的には,次の2点の検討をお願いいたします。まず第1に,連絡先調査の一層の簡素化についてです。裁定申請に必要な「相当の努力」につきましては,文献やデータベースによる調査,ウェブサイト等による公開調査までとしまして,関係機関への照会を省略することが可能になれば,作業負荷が大きく軽減されます。

また,第2に,二次利用の問題についてです。国立国会図書館が文化庁長官裁定を申請して,インターネット公開している資料を二次利用したいという利用者がいらっしゃいます。例えば資料の一コマを転載したいといったような利用者がいらっしゃいます。利用自体は軽微ですけれども,当該利用者が裁定申請を行わなければならず,負担が大きく,二次利用が進まないという問題がございます。二次利用を希望する第三者の裁定手続を簡素化すること,例えば自動的な補償金の算定ですとか,ウェブ等による申請,また供託等が可能になれば,使いやすくなると思われますので,御検討をお願いいたします。

国立国会図書館からは,以上でございます。

【上野座長】ありがとうございました。続きまして,日本図書館協会様,よろしくお願いいたします。

【日本図書館協会(小池氏)】本日発表させていただきます日本図書館協会著作権委員会の小池です。よろしくお願いいたします。

では早速,今回に当たっての論点について,お手元の資料4-2に沿って説明をさせていただきます。

まず,本協会は,図書館関係の権利制限規定の見直しにつきまして,資料のデジタル化・ネットワーク化が進展していく現状におきまして,今後の図書館の重要な役割の一つでありますデジタルアーカイブに対応していくために,またデジタル資料に基づく新たな図書館サービスを行う可能性を開くために,非常に重要な取組と考えております。ここでは図書館全体に関わる意見を述べたいと思っております。以下,資料に沿って,論点に沿って述べてまいります。

初めに,現行制度の下での運用等の実態についてであります。資料としまして用意させていただきました,大部なものになってしまって恐縮ですけれども,今回のペーパーの後ろにつけさせていただいておるかと思いますが,日本の図書館,こちら,毎年調査をしておりまして,統計名簿ということでありますけれども,最新の情報によりますと,文献枚数の上限について,今回,リスト化してお示ししたところです。公共図書館については別紙1,大学図書館については別紙2を御参照いただければと思います。この調査は,個々の図書館からカウントをしております1年間の枚数を御報告いただいて,集計をして,こういう結果になるということであります。

また,少し古く,15年ほど前の調査となりますけれども,日本の図書館の調査をするに当たって,付帯調査を実施いたしました。その報告としまして,「図書館における著作権対応の現状」を資料として製作したところです。概略を今回は抜粋いたしました。

コピーサービスということは,大体当時でも9割程度の図書館が,公共でも大学でも行われていることがあります。実際には,やっていないところというのは,小さな図書室とか資料室,コピー機が置けないようなところとか,そういうところかなとは考えております。大体館種問わず9割方行われていたということですね。恐らく現状もそうだと思います。

それから,郵送による提供はどうかということでありますけれども,当時は郵送が多かったと思いますが,公共においては3割,大学においては8割ということで,伝統的に,図書館間協力というか,ILLの仕組みを整えて,利用者への文献提供を行っている大学の実態が,ここにも表れているかなと捉えているところです。

次に,絶版等資料の送信サービスの運用実態であります。先ほど国立国会図書館からも御報告がありました。標準的な運用になるかと思いますけれども,私が今勤務しております調布市立図書館の事例を紹介いたします。

調布市立図書館の運用としては,次のとおりとなります。こちらの図書館は,中央図書館,それから分館合わせまして11か所の図書館がありまして,それぞれ送信サービス及び複写サービスの提供を行う登録をしております。利用者については,在住の方,在勤の方,在学の方としておりまして,近隣の広域利用登録者という方は除外をしておるところであります。接続端末,一応,専用にしておりまして,そちらを30分単位で御利用いただくという運用をしております。複写が必要な場合には複製の申請書を出していただき,内容を確認し,図書館職員が複製をし,おおむね1週間程度で御提供するようにはしております。

それから,今回,新型コロナウイルスということで,当館も2か月,3か月休館ということになりましたけれども,再開館してからは,改めてこちらのサービスの複写の利用が増加している現状がございます。

次に,図書館利用者からの制度運用に関するニーズでございますけれども,先ほど述べたところと重なりますが,デジタル化資料の利用を希望する利用者は増加しております。また,図書館でレファレンスの調査を行うときに利用することも,結構増えてきています。こちらはコロナとかは関係なくですね。それに加えて,また複写の件数というものも伸びてきていると。図書館の休館が全国的に増えていたことも背景の中で,改めてデジタル化資料の有用性ということが認識されたものと考えております。

次に,絶版等資料へのアクセスの容易化についてです。まず,送信の形態ということですけれども,国会図書館のデジタル化資料につきましては,図書館への送信,それから館内限定という資料については,近くの図書館や国会図書館に出向いて利用することだけになります。複写の手続も煩雑ということで,利用者の理解がなかなか得られないというのも現状であります。

それから,絶版資料へのアクセスを容易化するために,権利者の権利保護を担保しつつも,利用者が図書館に出向かなくても自宅でデジタル化資料を閲覧,円滑に複製できる制度ということがあると望ましいなとは考えているところです。

続きまして,絶版資料の内容の明確化の状況についてです。絶版資料というのは,絶版等の理由により一般に入手困難な資料であると考えております。市場で入手が困難になったものだけではなく,もともと出版部数が少ない地域資料,郷土資料,行政資料なども,図書館のデジタルアーカイブの対象としては,とても今,重要になってきております。商業利用がされていないアウト・オブ・コマース資料が対象であることを明確にすることで,地域資料なども含まれることを明確にすることが望ましいと考えております。

次に,図書館資料の送信サービスについてであります。一つは補償金請求権ですけれども,図書館資料の送信サービスを実現するために法を見直すことについては,図書館サービスの可能性を広げるものと考えております。

ただ,補償金請求権ということについては様々なやり方が考えられ,議論を続けることが必要となります。誰が補償金を負担するのか,集められた補償金分配のシステムの構築なども課題となっております。

次に,送信の形態等についてですけれども,権利者,利用者及び図書館,いずれにとっても価値のある制度設計とすることが望ましいと考えておりまして,例えば送信の形態についても,ファクシミリやサーバーへのアップの運用コストが高いことを考えると,もう少し簡便なメールなどによる送信を含めることが望ましいと考えております。

図書館等における送信後のデータというのは,次の同様の複製の要求に迅速に応えるために,保存できる仕組みが望ましいと考えております。先ほどドキュメント・デリバリーのお話もあったかと思いますけれども,そういうことですね。流出防止のための管理体制の構築は十分にとれるように現在はできているかなと考えております。これまでも図書館は利用者情報を厳重に扱ってきたことからも,ノウハウというのは持っていると考えているところです。

ユーザーによる不正拡散防止のための措置として,現場で毎回契約するのは運用コストがかかって現実的ではありませんので,著作権法でルールを明示すると運用に柔軟性を欠くことにもなるのかなと。利用者,図書館,権利者を代表する団体によるガイドラインということが望ましいのかなと考えているところです。

電子出版の市場との関係においても,図書館として市場を阻害しないように十分に考えながら,コンテンツは同様のものであっても,使い勝手の良さなどから電子出版を利用するニーズは確実にあると考えております。

主体となる図書館の範囲について,31条図書館に加えて,学校図書館や専門図書館,病院図書館等も含むことが望ましいと考えます。

最後に,その他課題ということでありますけれども,「一部分」についてですけれども,公的機関が作成した資料・絶版等資料は,広く利用することが想定されているものだと思いますので,そういう制度設計が望ましいと考えます。一冊に複数論文が掲載されているもの,短文,写真などの著作物,発行後相当期間を経過した出版物,それから電子媒体の刊行物など,また,個々の図書館から借り受けた資料の取扱いについては,これまでもガイドラインを策定することによって,現場では運用に当たっておりまして,一部分を超える複製をする場合も権利者の許諾が必要でありますけれども,個々の許諾を得ることは現実的には困難です。一部分を超えた複製,インターネット上の情報の複製が可能となるよう,権利者の利益保護を担保しつつ,何らかの仕組みを設けることが望ましいと考えております。

次に,私的使用との関係についてです。図書館では,31条に基づくコピーサービスを行っているという前提があります。最近は利用者がスマートフォンなどで撮影をしようとすることが増えており,これは現場としては施設管理権がということで,多くは禁止しているのかなと思いますけれども,こちらも著作権法上の適用が可能になるのではないかという一方の意見もあって,現場では運用には苦労している現状がございます。何らか関係を整備する必要があるということになります。

次に,図書館の範囲についてであります。31条図書館というのに病院図書館を含めることを強く要望しております。専門図書館においても公共のための複製が認められることは,強く要望したいと思っております。

最後に,教育・研修のことについてでありますけれども,これは本当に義務教育段階からの計画的教育,公共図書館,大学図書館などでの継続的にこういう著作権についての教育や意識を持続するシステムづくりというのは重要に考えているところであります。

説明は以上であります。

【上野座長】どうもありがとうございました。続きまして,国公私立大学図書館協力委員会様,よろしくお願いいたします。

【国公私立大学図書館協力委員会(森氏)】国公私立大学図書館協力委員会,東京大学の森でございます。本日はこのような機会をいただき,感謝をしております。

それでは早速ではございますけれども,スライド2枚目。国立大学,公立大学,私立大学の図書館で,それぞれ協会または協議会を組織しております。国公私立大学図書館協力委員会,以下「国公私」と略させていただきますけれども,国公私は,今ほど申し上げました三つの協会及び協議会が協力し,大学図書館の運営に共通する問題の改善を図ることを目的に構成している共同体でございます。国公私は専門委員会として大学図書館著作権検討委員会を設置いたしておりまして,この専門委員会を中心に,大学図書館における著作権に関する諸活動を行ってまいっております。

スライド3枚目は,私どもの活動の一端で国公私が関係したソフトロー等でございます。

大学図書館における現行制度下での運用実態について,簡単に述べさせていただきます。

スライド5枚目ですけれども,利用者数・図書館数の推移でございますが,大学図書館全体で利用者数は320万人前後,それから図書館数は1,500館前後になっております。

スライド6枚目に行きまして,ここ数年,複写件数が若干増えているんですけれども,この20年で見ますと,複写件数,図書館間でコピーを郵送するILL受付件数ともに減少しております。

その理由ですけれども,電子ジャーナルをはじめとしました電子的資料の普及にあると考えておりまして,逆説的ではございますけれども,このグラフからも,大学図書館のコピーは雑誌論文の割合が大きいと言うことができるかと存じます。

スライド7枚目でございます。コピーサービス,図書館間のサービス,先ほどJLA,日本図書館協会からも説明がありましたけれども,いずれも8割前後の館が実施していることが見て取れるかと思います。

スライド8枚目。文献複写料金の例としまして,三つの図書館の1枚当たりの金額を挙げさせていただいております。なお,多くの大学図書館ではセルフ式のコピーがメインであると認識しております。

スライド9枚目で,国公私としての著作権法遵守の方策として,三つの黒丸,すなわち,ポスターの掲示,それからQ&Aを通じての啓発,それからソフトローの作成,案内を挙げてございます。その他といたしまして,多くの大学図書館では利用者に向けた各種のガイダンスが行われておりまして,それらを通じまして,著作物を利用する上での注意点が説明されているものと承知しております。

スライド10枚目ですけれども,絶版等資料の送信サービスの運用実態について,簡単に記載しておりますけれども,この説明は省略させていただきたいと思います。

スライド11枚目ですけれども,それぞれの分析にはまだ至っていないんですけれども,コロナ禍で休館あるいは限定開館の中で,貸出しやコピーの提供を郵送で行っていた館が相当数ございまして,その例でございます。

スライド12枚目を見ていただきますと,後ほど意見を述べられる図書館休館対策プロジェクトから5月7日付で図書館団体等に要望書が送られてまいりました。3番目の項目が,スライド11枚目のサービスに関する項目でございまして,こちら,ニーズの一例と言えるかと思いますので掲げさせていただいております。

制度の見直しについて述べさせていただきます。

スライド14枚目を御覧ください。国立国会図書館のデジタル化資料でございます。私どもは,デジタル化された資料は,場所や時間を問わず利用できることが大きな利点と考えておりますけれども,現状,その利点が必ずしも生かし切れていないと考えております。法改正によりまして,可能な限りデジタル化の利点が生かされるべきと存じます。

続いて,スライド15枚目ですけれども,先般の改正35条の施行に伴いまして,遠隔授業だけではなく,在宅での授業準備や在宅学習の機会が増えるものと考えております。大学図書館としましては,今後,図書館資料のコピーを利用者の自宅等に電送できることが重要と考えております。これまで国公私は,ある種の契約に基づいて図書館間の電送を行ってきておりますけれども,著作権等管理事業者への委託率は必ずしも高くありませんので,包括許諾による解決は難しいものと認識しております。

スライド16枚目でございますけれども,本日の資料2-1でも論点として挙げられていることについて,触れていきたいと思います。

送信の形態や,あるいはデータの流出防止に関してですけれども,ICTの発展は非常に目覚ましいものがございますので,こちら,法令で規定することによる硬直化を危惧いたします。

補償金に関してですけれども,来館での手渡し,郵送,あるいは,これからもしかすると可能になるかもしれない電送,いずれにしましても,1部のコピーが利用者の手に渡ることに違いはございませんので,電送可能とすること自体で,著作権者の権利を大きく害することにはならないと考えております。したがいまして,補償金に関しましては慎重に御検討いただきたいと存じます。

出版市場を阻害することについては,図書館としても望ましいものではございません。ただし,電子で刊行されることを理由に図書館で所蔵している冊子のコピーができないことになりますと,運用上,非常に大きな支障が生じますので,この点についても慎重に御検討いただきたく存じます。

スライド17枚目は,その他関連する課題でございます。本日の資料2-1に,「一部分」や30条1項の関係といったことが触れられておりますけれども,大学図書館としましては,先ほども申し上げましたように,在宅学習等への対応ということが重要になってくると考えておりまして,35条1項との整理をお願いしたく存じます。

その次に,資料2-1では全く触れられていない問題になるんですけれども,電子書籍等の消費者保護に関してでございます。こちら,契約で解決すべき部分が大きいものと承知しておりますけれども,提供者側が圧倒的に有利な立場でございまして,購入,すなわち利用契約後に,利用できる範囲が狭められるといったことも生じております。また,現状,電子書籍等について,提供者の事業継続が困難になった際などに対する備えが全くございません。情報を後世に伝えるという点で非常に脆弱と言わざるを得ませんので,可能であれば,併せて御検討いただければと思っております。

もう1点でございますけれども,資料2-1に赤字で記載していただいておりますけれども,大学図書館を令2条の3で指定していただきたいということでございます。何度も申し上げて恐縮でございますけれども,今後,大学図書館は在宅学習への支援等を強化していかなければいけないと考えておりまして,現在は著作権処理という名で貸出可能となっておりますけれども,そちらから外れている映像資料を貸し出すというような道筋が必要と考えておりまして,この点に関しましても検討いただければ幸いでございます。

最後,スライド18枚目,まとめさせていただきますと,大学図書館としましては,今回の検討の発端となりましたコロナ禍の延長にある在宅研究や在宅学習の支援,それから,今後,図書館資料は電子資料が中心にならざるを得ないと考えておりますので,こちらを踏まえた制度設計が重要と考えております。繰り返しになりますので個々の説明は省かせていただきますけれども,二重丸で書かせていただきました4点,よろしく御検討いただければと存じます。よろしくお願いいたします。以上でございます。

【上野座長】どうもありがとうございました。続きまして,全国美術館会議様にプレゼンいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【全国美術館会議(川口氏)】全国美術館会議の川口と申します。資料4ー4に基づいて御報告させていただきます。

私どもの団体は歴史は古く,1952年に設立されておりますけれども,法人化したのがつい最近で,今年の4月に一般社団法人として設立登記したところでございます。正会員が394の美術館となっていまして,そのほか個人等があるという団体です。

ただ,美術館・博物館として,法の31条の適用対象になっていると思いますけれども,司書相当職員がいるのかどうかとか,あるいは図書室を公開しているかどうかという点で,大分394館の中で違いがありますので,総括として意見を述べるのが難しいところがございますので,ここでは一例として国立西洋美術館の事例を取り上げてお話しできればと思っております。

こちらの館は司書資格者がいまして,予約制・登録制ですね。だから大勢が利用するということではなく,一定の研究者に向けて公開する専門図書館となっています。ここで専門図書館と申しているのは,法律上の規定ではなくて,一般的にスペシャルライブラリーですということになります。

現行制度下での運用の実態ですけれども,コピーサービスそのほか,ここに書かせていただきましたが,簡単に申し上げれば小規模な運用形態となっているところです。複写については,利用者に申請してもらって,利用者自身がコインベンダーなどで複写するんですけれども,併せてデジタルカメラの撮影も,ほかの複写と同様に申し込んでもらって,複写を個人のカメラでして持って帰ってもらうこともやってはおります。研究者対象なので,その辺は信頼関係の中で,きちんと申請手続をすれば可能であるということで運用しているところでございます。

2の2に移りまして,国会図書館の絶版など資料の送信サービスにつきまして,私どももつい先頃,こちらの送信サービスを受ける機関として承認を受けたところですけれども,まだ十分に運用ができていないんですが,こちらの理解しているところでは,あらかじめ申請した管理用端末でのみ複写が可能と理解しておりまして,もちろんそれは恐らく著作権法との整理の中でそのような運用になっているんだと思いますけれども,現場の声として感じているのは,館内LANでさえ認められずに,申請した端末だけが可能というのは不便だなと感じているところでございます。

2の3に移りまして,新型コロナウイルス感染症流行に伴うニーズですけれども,現状,利用者が殺到している状況ではないんですけれども,しかし,仮に来館しないでも複写を利用できるということがあるのであれば,現在,人数制限もしているし,あるいは消毒などの配慮もしていますので,そのサービスが可能になるのであれば,大変利便性も上がるし,あるいは利用者にとっても,わざわざ足を運ばずに済むということで,良いのではと考えております。

それから,3番,制度の見直しについてですけれども,図書館資料の送信サービスについて,そもそも私どもが使っている図書館資料ですけれども,一般に流通している図書もございますが,それとは別に,先ほどから話題に出ているアウト・オブ・コマースの中でもネバー・イン・コマースですね,そういう出版物を多く扱っています。といいますのも,美術館の業界では,自館の刊行物,具体的には展覧会カタログですとか研究紀要ですとか館報などを互いに交換するというプログラムをやっていまして,それは国内外で行われています。そうすると,結果的にアウト・オブ・コマースやネバー・イン・コマースの出版物が多く入ってくることになります。

展覧会カタログというのは非常に特殊な資料で,一般書籍として販売されているのはそのうちのごく一部のケースで,多くは美術館で展覧会を開催しているそのときにその場で売っているというものですね。それ以外に,一部共催している新聞社などで売っていることはありますけれども,それは本当に数が限られていまして,多くは展覧会を開催している期間中に来館者がお金を出して買って,それ以後はかなり入手が困難になる資料になります。あと,研究紀要や館報は,おおむね無償で配付しているケースが多いものになります。ですので,こういった資料,美術館の刊行物が多いというのは,ある意味で公立図書館や大学図書館にはないような蔵書かなと思っています。そして,国立国会図書館に納本の義務があるとは思うんですけれども,現実には納本されず,各地の美術館の書庫にのみあるというケースも相当に上ると思います。

そうした入手困難な展覧会カタログなどについて,国内のみならず海外の美術館からも,メールで複写依頼を寄せられるんですね。これに対して,こちら側からもメール等の電子媒体でコピー送信が可能になるのであれば,より少ない手間で迅速に対応することが可能になりますし,あるいは国内外の利用者の利便性向上にもつながると思っております。

小さい字で具体的に最近あったケースが書かれておりますけれども,過去の展覧会カタログに掲載されたある特定の出品作品のページを欲しいという要望があると思います。ですので,最新の文献だけではなく,古い文献であることもお伝えしたいと思います。

それから,そのほか関連する課題ですけれども,繰り返しておりますように,美術館が所蔵する美術館刊行物の大半というのは商業的に流通していません。そもそも研究紀要などは非売品であることが多数です。ですので,雑誌であっても,研究紀要のような定期刊行物,逐次刊行物であっても,直近の最新号でも全部複製が著作権者の不利益を不当に害するとは考えにくい。あるいは,例えばですけれども,古い時代の海外の美術館のシンポジウム報告書の,それは論文集の形態をとりますけれども,複数の著者が執筆しているそういう論文集ですね,そういった類も,もともと売られていなかったものがあったりしますので,しかも世界的にもそれが図書館に入っているというのはまれだったりするんですね。そういうケースでも一部分しか複写できませんというのはどうなのかなと考えているところです。

というのも,美術館というのは,資料を利用する側でもありますが,同時に著作者の側でもあるんですね。展覧会カタログや研究紀要など,発行している著作をする側でもありますので,そうすると,なぜ我々が非売品の資料をほかの美術館に送るかといえば,それは著作者として普及してほしいと願っているからなので,しかし,その先の図書館で現行の著作権法を厳密に適用した結果,論文の一部しかコピーされないとか,十分に制限されずに,逆に普及しない状態になれば,それはそれとして,我々著作権者としての美術館が望むのとは違う方向に行っているのではと思いますので,そこは生貝委員が出してくださったように,ネバー・イン・コマースの著作物についての扱いは,商業流通の出版物とは違う扱いがあると大変ありがたいと考えております。以上です。

【上野座長】どうもありがとうございました。続きまして,日本博物館協会様,お願いいたします。

【日本博物館協会(半田氏)】日本博物館協会,半田と申します。本日はこの機会を与えていただきまして,ありがとうございます。

今までお話あったように,著作権に関しましては,博物館も著作権を遵守し,きちっと機能させていかないといけない重要な機関である一方で著作権に対して日常の中でさほど注力をできていない課題もあると思っておりまして,今,美術館の関係の御説明いただきましたけれども,私からは,若干,博物館全体の概要についてのお話をさせていただいた中で,今回の権利制限規定の拡大に向けての意見を述べさせていただきたいと思います。

資料の1ページ目にございますけれども,今,博物館の種類,設置者,それから運営形態と見ていきますと,博物館の種類ですと,総合,歴史,今,御説明のあった美術,郷土,自然史,理工,動物園,水族館,植物園に動水植という多くの種類があります。設置者にしても,国に都道府県,市町村,公益法人,会社個人など鯖ざまです。また,運営が非常に多様化していまして,直営,独立行政法人,指定管理者制度,それから運営委託等,様々な運営形態があります。文部科学省が行う社会教育調査の,平成30年のデータを見ていますと,全国に5,744の博物館がある中で,著作権法の中で権利制限とかが引っかかってくる登録博物館と博物館相当施設の数からいうと,1,287という数値です。これは全体の22.4%にしかすぎません。そのほかは博物館の類似施設が8割近いという構成になっています。

その一方で,実態の運営を見ていきますと,私ども日本博物館協会が実施しております博物館総合調査が,今,ちょうど集計中ですけれども,最新の調査の数値から少し御説明をいたしますと,何人ぐらいの常勤職員で回しているのかという中央値を見ていただくと,3名ということになっています。その中で学芸資格を保有している職員は1名というのが,全国の博物館,これは調査に答えてくださった博物館が2,300弱ぐらいですけれども,中央値でいうと3名。そうすると,職員の構成の例を見てみると,館長1人,事務1名,学芸1名というようなことで,平均値で見直してみても7名ということになります。そうした中で,著作権に関係する著作物のレファレンス業務も,この体制の中で回しているというのが実態だということで,ここに博物館における著作権管理体制の課題があると思います。

もう一つは,入館料ですけれども,1ページの一番下に書かせていただいております博物館法の第23条においては,原則,公立博物館は入館料を徴収してはいけないことになってございますけれども,調査のデータからいいますと,6割以上の博物館で入館料を徴収しており,登録と相当の法律的な博物館についても非常に高率であるというのは変わりません。国立博物館含め入館料は有料が主流である中で,著作物のレファレンスに関する料金は,施設ごとに多様でございますけれども,基本的には実費を頂いているところが多いと思いますその中で補償金の支払い等に関しましても,これは博物館の現場で実務を担うのは非常に厳しい状況であると思います。

総合調査の結果から博物館の現場が感じている課題を抽出してみますと,財政面が厳しいが8割ぐらい。情報のデジタル化が進んでいないというのが7割以上。職員が不足しているというのも7割以上。必要な資料整理も進まないというのが7割。こうした状況の中で著作物のレファレンス業務というのが行われている実態があるということです。そして,著作権処理の重要性というのは博物館の中ではおしなべて共有はされておりますけれども,それに対応していく業務体制はなかなか整備が進んでいないと思います。

そしてまた,類似施設が博物館等の施設になるかという点については,先ほど冒頭にも御説明ありましたけれども,個別指定が必要であるということですけれども,博物館の現場の意識からいうと,自分のところが「等」に当たるのか当たらないのかということを判断する基準がなかなか理解されていないということがございます。類似施設の中でも,自分のところは博物館だから,当然,図書館等の「等」の中には入っているだろうという意識を持たれている現場が多いという実態があろうかと思います。

2枚目に,今回の権利制限規定についての状況を書かせていただきました。博物館は,基本的には利用者に向き合って,権利制限規定の拡充においては,利用者の利用についてのサービスを充実していくことについて制限が拡充されていくことを望んでいるというのが基本的なスタンスと思います。

また,デジタル化されたデータの活用等については,今回のコロナ禍の状況の中におきましても,資料のレファレンスだけでなくて,積極的に自分のところの博物館が所有している情報コンテンツを,デジタル化あるいはネットワーク化された環境の中で発信していく動きが非常に加速しているということ状況のなかで,こうしたワーキングチームの御議論については,権利制限規定が拡大されていることを期待しているところでございます。

そうした中で,丸の3番目に書かせていただいておりますけれども,権利制限規定のデジタル化・ネットワーク化というものへの対応については,本当に博物館界として歓迎すべき方向と理解をしております。しかしながら,一方で,博物館に所蔵されている著作物というのは,意外と権利を持っている方との関係性の濃い中で収集されるものもあるので,逆に一定の権利保護についてもきちっと担保をしていかなくてはいけない思っています。

その中で,博物館の現場での運用基準というものの明確化によって,業務の円滑化と効率化が図れる制度設計というものを,これから望んでまいりたいと考えているところです。その中で,提供媒体の拡大については,メールは基本的に利用したい,メールも駄目だというところでは成り立っていかないと思いますので,国会図書館からもありましたけれども,できれば公開されたウェブサイトからのダウンロードとかいったものも可能になっていくというところを御検討いただければと思います。

それから,他の方が気にされるデータの流出防止等につきましては,これは先ほど御説明したような博物館の実態を考えますと,現場がそれぞれ対応するのは非常に困難でありまして,コストの捻出も難しいということでございますので,その辺も統一された何か基準,ガイドラインの作成等を望みたいと思っているところです。

そうしたところで,博物館の現状も踏まえて考えてみますと,一つは,博物館の現場における著作権の権利制限の在り方についての情報共有,あるいはその前段としての基本的な著作権に関する知識の啓蒙が必要ではないかと思っていまして,当協会の役割も含めて,今後,そういったところもしっかりと理解した上で,博物館等の「等」についての位置づけの拡大も御検討をいただきたいと覆っています。

それから,館種・設置者・規模・運営形態の多様性がある中での運用も考えていかなくてはいけないなと考えておりまして,対象となる著作物の多様性という点も,美術館からの説明にありましたように,展覧会カタログとか,あるいは研究紀要とかいったもののこれからの活用については,権利制限についてはもっとおおらかに規定をされていくことによっての活用は図れると,今,考えているところでございます。

そうした中で,司書がきちっと配置されている博物館も少ない中で,今後のことを考えますと,デジタル化・ネットワーク化が促進されていく中で,博物館の著作権に関する今回の御討議いただける方向性についても,博物館独自のガイドラインのようなものを考えていく必要性もあるのかなと考えているところです。今回の説明は以上です。ありがとうございました。

【上野座長】どうもありがとうございました。それでは,最後に,図書館休館対策プロジェクト様にお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【図書館休館対策プロジェクト(前田氏)】図書館休館対策プロジェクトの前田と申します。それでは,資料に即して説明させていただきます。

私たちは,脚注で簡単に本プロジェクトの概要を書いてございますけれども,今回の新型コロナウイルス感染拡大に伴う図書館の休館等によって,研究活動の実施が困難となっている研究者及び学生のために,休館に伴う代替的支援の施策を求めることを目的として集まった有志個人の集まりでございます。私個人が発起人をして,それに賛同してくださる方を集めてグループになっている形です。私自身は,昨年度,東大で学位を取りまして,今年度は日本学術振興会の特別研究員としてポスドクをやっている身分です。

「はじめに」から読み上げの形でお話しさせていただきますが,本プロジェクトが実施した活動の中の大きなものとして,「図書館休館による研究への影響についての緊急アンケート」というものを,4月の下旬にかけて2週間程度でインターネット調査を行いまして,今回の新型コロナ,まだポストが見えてこない状況の中ですけれども,ポストコロナに求められるデジタル化資料の在り方について,研究者と学生のニーズを本資料でまとめて御説明さしあげたいと思います。

このアンケート自体は,非常に特殊な状況下といいますか,緊急事態宣言が全国に拡大し,まさに物理的なアクセスが全て遮断されたような状況の中で実施されたものだったんですけれども,ある意味で壮大な社会実験といいましょうか,この非常事態を経験することによって,改めて日本のデジタル化資料について,そのアクセスが極めて制限されていたということや,利用環境の整備自体がそもそも遅れていたんだということを,期せずして浮き彫りにしたのかなと考えております。

それでは,調査の概要に入っていきたいと思います。調査目的自体はこちらに掲げているとおりでございます。研究に米印をつけておりますが,これはあまり狭く研究の意味を捉えていないということで,広範な意味での研究活動を含めた,それを対象とした調査になっております。

2ページ目に移っていただきたいと思います。調査対象は,所属は不問としておりまして,広義の研究者です。なので,大学に必ずしも所属しているだけではなくて,独立行政法人であるとか,あるいはシンクタンク等の民間企業でありますとか,多様なバックグラウンドになっております。及び,学生が入っております。有効回答数は2,519名を得まして,調査期間は,先ほど申し上げたように,緊急事態宣言が全国に拡大後の約2週間にわたり,こちらは実施いたしました。調査方法はインターネット調査で行っております。

それでは,3節に行っていただきたいと思います。結果としましては,最も多かったニーズは「デジタル化資料の公開範囲拡大」ということでございます。下の表にまとめてございますが,本調査では,いろいろな研究への影響が具体的にどういうものがあるかとか,今,実際に図書館が閉まっている中でどういう代替手段を利用していますかなど,いろいろな質問を尋ねているんですけれども,ここでは,「図書館休館の中で」という条件をつけてはありますが,研究を続けるに当たりどのような支援を望むかということを複数選択で尋ねた質問について,御説明さしあげたいと思います。

最も多かったものが「デジタル化資料の公開範囲拡大でございまして,こちら,75.7%,回答者のうち8割弱ぐらい,1,908名の方がこちらを選択して,この支援が一番多く望まれていることが分かるかなと思います。例として,国会図書館の限定送信の資料,これを館外利用を可能にする等について例示して取った質問でございます。

その次に多かったものが,図書館に行けないので,「来館を伴わない文献の貸出しサービスの実施」ということで,文献の郵送や,一部電子化等というのは現行法制上できないものだったので,ここで例示として挙げたのはあまり良くなかったかもしれませんけれども,こちらを望む人が次に多かったということで,73.0%いらっしゃったという結果になっております。

その他のニーズに関しましては,こちら,表を御参考にしていただければと思います。その次に多かったのは,「事前予約した文献の受け取り」とか「館内閲覧を伴わない形での図書館の利用」などが,その次のニーズに続いているところでございます。事前にこちらが用意した質問の選択肢としてはなかったものですけれども,その他として寄せられた意見のうち,より具体的に「複写サービスの拡充」であるとか,「オンライン公開の拡大」であるとか,「電子ジャーナルの拡充」であるとか,より細かい,ほぼ全てがオンラインでの資料の利用に関わるものですが,こちら,自由記述として御意見をいただいたところであります。

それでは,3ページに行っていただきたいと思います。以上は数値,回答から分かる結果を御説明さしあげましたが,具体的に自由記述でどういったニーズが寄せられているかということについてまとめた項目になります。デジタル化資料の拡充を求める声について,二つに大きく分けていますが,重なり合う論点もあるかと思います。一つ目が「既存資料のアクセス拡大」,二つ目が「デジタル化資料の利用環境そのものの整備」というところになります。

一つ目の「既存資料のアクセス拡大」についてですが,自宅から見られるようにしてほしいというニーズが非常に大きいところです。一人暮らしの人も自宅から見られるようにというのはもちろんニーズとしてあると思うんですが,例えばこの方とかは,高齢の両親と暮らしていて,感染リスクを非常に気にかけているところで,今,国会図書館自体も,抽選ということでありますが,一応,開館になっている状況ではありますけれども,この方は限定開館になったとしても通えないかもしれないと言っているということです。その下の自由記述回答も同様で,館内限定閲覧の資料というものへのアクセスが困っているということです。

ただ,今回のコロナ対応という理由だけではなくて,そもそも国会図書館へのアクセスが容易ではない地域,あるいはサービスに加盟している公共図書館に行くのにも地理的にハードルがあるようなところに拠点を置いている方というのもいらっしゃいますので,平等に閲覧できる機会を与える取組は妥当性は高いのではないかと,地理的障壁の緩和というところも大事なのかなと思います。

以上をまとめまして,絶版等資料を各家庭等にインターネット送信することを可能とすることのニーズは極めて高いというのが,4月の時点でここまで長引くとはあまり予想はされていなかったかもしれないですけれども,現在も引き続きこういうニーズはあるかなと考えております。

二つ目,「デジタル化資料の利用環境整備」というところです。こちらはアクセス拡大とかいう前に,そもそもあまりデジタル化されていないという声について取り上げた項目になっております。どうしてもアメリカの例が出てくるのが多いところになっているんですが,例えばアメリカの大学図書館は,専門書でもデジタル版をそろえているので,オンラインでかなりの範囲を賄うことができますということで,今回,大学が全てオンライン授業に移行せざるを得ない状況の中で,日本の専門書とか,出版社の協力によって,教科書の電子版の拡充とかもありましたけれども,そもそもの状況として,デジタル版が専門書は普及していないということがあるので,そちらも整備される必要があるのではないかということを,この方はおっしゃっていただいております。

それでは,4ページに移ってください。こちらは電子複写についての自由記述を載せております。まず,電子化した資料を公的に認めていく仕組みが最優先ではないかという声でございます。先ほど生貝先生からも御発表いただきまして,私もヨーロッパの状況とかは知らなかったので,大変勉強になりましたが,アメリカでは,必要な文献をすぐにPDFの形で利用できる環境というのが全然違うということです。

ハーバードの例がありましたが,これは別に東大の図書館が優れていないというわけではなくて,法律の問題かなと思いますので,アメリカと日本でこれほど状況が違うのだということが如実に分かる例かなと思いましたので,こちらの自由記述を載せております。アメリカと比較した場合,デジタル版が専門書は普及していないことと,図書館の文献複写の紙でしか利用できないということで,文献利用の利便性には圧倒的な違いがあることが分かるかなと思います。書籍の電子版の市場の拡大ということもありますし,まずは図書館資料のコピーをメール等で送信可能にすることのニーズというのが極めて高いというのは,これまで図書館関連団体の皆様が御発表いただいたとおりかなと思っております。

その下の自由記述行っていただきまして,そもそも,歴史資料の範囲に入るかと思いますが,近代日本の文献のデジタル化・オンライン公開というのがあまり進んでいない状況だということが,ここでは指摘されております。海外からのアクセスとかを考えたときに,日本関連研究の世界的な水準での停滞ということが示唆されるのではないかという自由記述を引用しております。現在の既存のデジタル化された資料の公開範囲を拡大していくことが,もちろん喫緊の課題として重要ではあるかと思うんですが,そもそもデジタルで利用できる資料の更に整備,そちらも必要な課題なのかなと私個人も感じております。

下のところで,単なる利用者にとっての利便性の向上だけではなくて,それが整備されていくことで,学術研究の更なる発展・向上ということも当然ついてくることかなと思いますので,これは長い目で見れば,非常に高い公共性も有していることなのかなと考えております。早口でしたが,私からの発表は以上になります。ありがとうございました。

【上野座長】どうもありがとうございました。それでは,ただいま6団体の皆様から御説明いただきました内容につきまして,御質問がありましたらお願いしたいと存じますけれども,いかがでしょうか。池村先生,お願いします。

【池村委員】念のための確認です。今回御発表いただいたものは,現行法上の図書館関係の権利制限規定周りで現状困っていることについては,解釈の明確化という観点も含めて,基本的に主なものは全て網羅されていて,ほかには特にないという理解でよろしいでしょうか。例えば,昔,私自身が御相談いただいたことがある問題として,新刊図書の案内などで本の書影を利用したいといった場合に,権利制限規定,具体的には47条の2とか32条辺りということになりますけれども,これらが適用されるのかといった課題があったと理解しているのですけれども,実務上は,そうしたことも含めて,特に現状,深刻な問題にはなっていないという理解でよろしいでしょうか。

【上野座長】これは6団体どなたでもよろしいですか。

【池村委員】そうですね。今の例に限らず,ほかにも何か困ったことがあるということであれば,教えていただきたいなという趣旨です。

【全国美術館会議(川口氏)】全国美術館会議,発言してもよろしいでしょうか。

【上野座長】お願いします。

【全国美術館会議(川口氏)】今回,私たちがアンケートを受けたのは31条のことの範囲でしたので,おっしゃったような書影の問題とか様々あると思いますが,それについては特に今回は入れていないということになります。

【池村委員】承知いたしました。ありがとうございました。

【上野座長】ほかにいかがでしょうか。6団体の皆様は本日しか質問の機会がないと思いますので,もしありましたらお願いします。

【福井委員】まずは,御多忙の中,非常に充実した御報告をいただきました6団体の皆様,大変ありがとうございました。大変勉強になりました。その上で,時間の関係もありますので,二つ御質問をさせていただければと思います。

まずは,JLAさん,資料の4-2になろうかと思います。この中の例えば2ページに,補償金請求権,5ー1というのがございまして,これについては,「様々なやり方が考えられるため,議論を続けることが必要」という記載があります。あるいは,その次のp3の6ー1,「一部分」要件の取扱いに関しても,要は拡充のために,「権利者の利益保護を担保しつつ,何らかの仕組みを設けることが望ましい」と書いていらっしゃいます。これは,ほかの皆さんの御発表にも,この「権利者の利益保護を担保しつつ」という言葉が非常に枕詞として頻出したと思うんですけれども,それをどう担保されるのかという御提案は,この中には今日は特になかったような気がいたします。これについて,今後,何か具体的な御提案,議論を続ける,あるいは権利者の利益保護の担保手段について御提案をいただけるような予定はおありでしょうか。これがJLAさんについてです。

もう一つは,資料でいうと4ー6で,図書館休館対策プロジェクトさんについてです。こちら,p4で,要はデジタル文献の利用という点で,アメリカと比較して日本は圧倒的に不便であるという言葉,圧倒的な違いという言葉を記載していただいております。これはもし,不勉強なので,そうした圧倒的な不便さをデータで示すような,エピソードも結構ですけれども,データで示すようなことをもし御存知であれば,教えていただければと思います。アメリカの平均的な状況と日本の平均的な状況では,ここまでデータにおいて圧倒的な違いがあるんだということをもし御存知であれば,教えていただければと思います。以上です。

【上野座長】ありがとうございました。それでは,まず,日本図書館協会様,よろしければ。

【日本図書館協会(小池氏)】小池です。御質問,ありがとうございます。正直,なかなか悩ましいお話,特に補償金の話というのは,これまで十分な議論をしてきたことがないというのが現状だと思っています。最近は中断しておりますと図書館関係者の協議会の中で,こういう課題整理については続けてきたところであります。引き続き,今回の御提案,問題提起があったところで,その場が一つの協議をしていく場ではないかなとは考えているところです。

以上ですけれども,理事長が今,参加されていますので,もし理事長から御意見があれば,小田先生,お願いできればと思います。

【上野座長】いかがでしょうか。よろしいですか。何か。

【日本図書館協会(小田氏)】それでは,発言させていただきます。日本図書館協会の小田です。今,小池さんから5ー1のところでの御回答をいただいたと思いますけれども,補償金請求権につきましては,確かに技術的な課題は幾つかあることは認識しておりますけれども,図書館資料の送信サービスに関する補償金というのは,解決の方向としては,ある程度了解が得られる範囲ではないかという,そういった認識を基本的にはしております。

ただし,先ほど小池さんからもありましたように,図書館,特に公共図書館の現場では,これまで十分に取り組んでこなかった,そういう面があるので,これから先も検討が必要ではないかということを添えさせていただいた次第です。基本的には,この改正の方向は,日本図書館協会としては望ましい方向と受け止めておりますので,その点御配慮いただきながら進めていただければありがたいという認識をしております。

もう1点,6ー1の「一部分」というところにつきましても,ほぼ同様の認識の下で進められればと。同様のと申しましたのは,著作権の権利者団体との関係などを考慮して進められればということを考えております。以上となります。ありがとうございました。

【上野座長】どうもありがとうございました。それでは,図書館休館対策プロジェクトの前田様,何かもしリアクションございましたらお願いしたいと思いますが。

【図書館休館対策プロジェクト(前田氏)】前田でございます。圧倒的な違いというところですが,残念ながら私たちが実施した調査は国際比較できる設計にしておりませんので,今,すぐに数値でお示しできるものは手持ちではないんですけれども,エピソードとしましては,前回の7月29日でしたか,第1回の法制度小委員会で,私も傍聴しておりましたが,そこで,どなたの先生だったか,今すぐに出てこないんですけれども,アメリカの図書館で,それは館内複写の話だったんですけれども,必要な論文を館内で複写して,それをPDFで取得できるというアメリカ在外研究中の御経験をたしかお話しされていた先生がいらっしゃいまして,それはコピー機は日本製のキャノンのコピー機で,館内でPDFで文献複写を得ることが可能だったということをおっしゃっていまして,なので,それって技術の問題ではないんですよということで,要するに法律の整備の状況の問題なのかなと私自身も,そのときのお話を聞いてもそうですけれども,デジタルの形で複写が利用できないことの利便性の違いは,そういうところに表れてきているのかなと思います。こちらは多分,数値データも探せばあるんじゃないかと思いますが,今,すぐ心当たりがありませんので,今お示しできなくて申し訳ございません。私からは以上になります。

【上野座長】どうもありがとうございました。それでは,ほかの点でいかがでしょうか。お願いします。

【竹内委員】今,福井委員から御質問がありました具体的な数値の件ですが圧倒的に違うのは何かというのはなかなか難しいんですが,例えばアメリカの大学図書館で,特に大きな研究大学図書館で使っているHathiTrustというデジタルアーカイブがあり,その現在の収録点数は1,700万件です。つまり,1,700万点の図書を大学の構成員に対して提供ができる形になっております。それに対しまして,現在,国立国会図書館のデジタル化の件数は,先ほど御報告いただいた竹内課長が正確な数を御存知だと思いますけれども,大体270万件のはずで,そのうちインターネット公開されているのが50万件,そして図書館送信対象の資料が150万件という規模かと思います。大体これぐらいの規模の違いがあると御理解をいただければと思います。

また,雑誌に関しましてですけれども,これは古いデータなので,私も数字を明確にきっちりと覚えていないんですが,たしか北米における学術雑誌の電子化率が100%という話になっていたときに,日本の学術雑誌の電子化率というのは50%程度であったという状況であったと思います。これは随分改善されてきていると思いますけれども,まだ随分違いはあるというところではあると思います。以上です。

【上野座長】ありがとうございました。

【田村委員】田村ですが,質問してよろしいでしょうか。

【上野座長】はい,お願いします。

【田村委員】資料の4ー3で,森先生から頂いているものですけれども,スライドの2222枚目に「大学図書館における文献複写に関する実務要項」というのがあります。それで9ページに,これを守るように案内するというのが書いてあり,各大学の図書館本体はこのように運用されていることも多いかと思いますが,どこかはともかく,研究科単位の個別の図書室などになりますと,なかなかこの要項をきちんと実施されているのかどうかというのはよく分からないところがございます。実施を案内しているけれども,どのぐらい重視されているのかなど,実態について何かお話ししていただけることがありましたらと思いまして,伺ってみました。もし差し支えないようでしたらで結構です。

【上野座長】では,森様いかがでしょうか。

【国公私立大学図書館協力委員会(森氏)】御指摘いただきましたように,必ずしもきちっと守れていない図書館室というのが存在することは否定できません。国公私としましては,事あるごとにといいますか,機会あるごとに,「こういった約束で当時の日本複写権センターと結んでいるのでお願いしますということは申し上げているんですが」というところまでしか申し上げられないところでございます。実態を示す数字ということでございますけれども,そういった調査を特別に行ったことがございませんので,申し訳ございませんけれども,この場での回答は控えさせていただきたいと存じます。

【田村委員】お答えしにくいところもあったかと思いますが,どうもありがとうございました。

【上野座長】どうもありがとうございました。定刻を過ぎてしまいましたけれども,もし今日,どうしてもお聞きになりたいことがありましたら,お願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは,6団体からの皆様の御説明は以上としたいと思います。

本来であれば,ここから資料2-1についての自由討議となっておりますが,時間も過ぎてしまっておりますし,また次回,自由討議を行うことが予定されておりますので,もしどうしても今日の段階で忘れないうちにコメントしておきたいことがありましたら,お願いしたいと存じますけれども,委員の先生方,いかがでしょうか。

【生貝委員】特にいらっしゃらなければ,先ほどの発表の補足の部分を中心に手短によろしいですか。

【上野座長】どうぞよろしくお願いします。

【生貝委員】恐れ入ります,生貝です。今まで御説明いただいた中との関係で,先ほどあまり申し上げられなかったところも含めてですけれども,まず,発行後相当期間が経過したですとか,絶版等の全部複製というところが,幾つか論点にも出てきたと思うんですけれども,このことについては,まさしく今日御紹介した絶版等のデジタルアーカイブのインターネット等のアウト・オブ・コマースの公開といったところのほかにも,例えばドイツの著作権法でも,図書館以外の私的複製ですとか,教育ですとか,研究ですとか,図書館内のターミナルでの提供ですとか,そういうところで,原則は一定割合に限定するのだけれども,アウト・オブ・コマース,vergriffenの作品に関しては全部いいですよといった明文をいろいろなところで使い分けていて,そういったところとの兼ね合いも含めて,恐らく日本でも考える余地というのがもしかしたらあるのかもしれないなと思います。そのほかにも,アメリカをはじめとして,フェアユース・ディーリングがある国でも,特にフェアユースの第4要素の中で,アウト・オブ・コマースかどうかというのはいろいろ関わってくるところだと認識しておりますので,よく議論していく意味はあるのかなというのが1点目です。

2点目,DRMに関して幾つか御指摘があったのですけれども,今のところ,僕が見た限りだと,法律の中でDRMに関して規定をしている国は見受けられなかったかなと思います。他方で,僕が見た限りですと,ドイツのスビトと,それから英国の中でもブリティッシュライブラリーに関しては,いろいろとDRMのような仕組みを含めて,運用上,合意などに基づいてやってもいるようでございますので,そういった背景というのはお伝えしたいなと思います。

差し当たり2点,以上です。ありがとうございます。

【上野座長】ありがとうございました。その他,いかがでしょうか。特にないようでございましたら,本日はこれぐらいにしたいと思います。最後に事務局から御連絡事項がございましたら,お願いいたします。

【大野著作権課長補佐】本日は初回でございましたが,大変活発な御議論をいただき,ありがとうございました。関係者からのヒアリング,生貝先生による諸外国に関する御報告についても丁寧に御説明いただき,大変勉強になりました。次回のワーキングチームにおきましては,今日の御報告,ヒアリングを踏まえて,更に議論を深めていただくことになりますが,日程としては,9月9日水曜日17時からを予定しております。詳細につきましては,また確定次第,御連絡をしたいと思います。引き続き,よろしくお願いいたします。

【上野座長】ありがとうございました。それでは,本日はこれで第1回ワーキングチームを終わらせていただきたいと思います。私の不手際で時間超過いたしまして,また,ネットでお聞きの方には聞き苦しい点もあったかと思いますけれども,おわび申し上げます。

本日はどうもありがとうございました。

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