財団法人浜松国際交流協会 実施内容

実施内容〔日系人等を活用した日本語教室の設置運営〕

別紙

1 事業の趣旨・目的

1.事業の趣旨・目的
 日本語能力を有する外国人が,同国出身者に対して日本語の指導と日本文化・習慣を教えることによって,外国人コミュニティの自立と生活支援を図る。そのため,学識有識者や地元自治会,外国人リーダー等により構成される運営委員会を設立し,効率的で効果的な教室設置を行う。
また,本事業は別途文化庁に申請を行っている「日本語能力を有する外国人を対象とした日本語指導者養成」事業を展開するために必要な情報源となる一方,そこで養成した指導者が活躍する場を作り,外国人市民との連携を強める機会として位置づけ,地域の自治会と共に共生社会の推進を促進していくことを目的とする。

2 運営委員会の開催について

● 概要

地域の多文化共生社会に資する教室の設置と事業の円滑で効果的な運営に関する協議と検討を行うため,外国人施策や日本語教育の専門家,学校教育者,浜松商工会議所,自治会,外国人コミュニティリーダーが委員に就任した。事務局は浜松国際交流協会。

委員長 池上重弘 (静岡文化芸術大学文化政策学部准教授)
委員 清 ルミ (常葉学園大学外国語学部教授)
委員 石川和男 (浜松市教育委員会学校教育部指導課長)
委員 松下正司 (萩丘地区連合自治会長)
委員 児玉哲義 (士道館師範,日系外国人代表)
委員 立石哲康 (浜松商工会議所業務部事業課長)
委員 飯尾忠弘 (財団法人浜松国際交流協会専務理事)

● 運営委員会開催日時と協議内容

浜松国際交流協会が文化庁より平成19年10月1日付で委嘱を受け,運営委員会を設立。

【第1回】
日時 平成19年9月18日(火)9:30~11:00
場所 フォルテ8階 会議室
議題 (1)地域の事情,外国人状況について
(2)ブラジル人のための日本語教室の設置,開催時期について
(3)教室設置にかかる課題について
(4)日系ブラジル人の講師紹介について
(5)運営委員会の開催日時について
【第2回】
日時 平成19年10月24日(水) 9:30~11:00
場所 フォルテ8階 会議室
議題 (1)第1期「ブラジル人のための日本語教室」進捗状況報告
【第3回】
日時 平成20年1月16日(水) 9:30~11:00
場所 フォルテ8階 会議室
議題 (1)第1期「ブラジル人のための日本語教室」報告
(2)第2期の教室開催に向けた課題
【第4回】
日時 平成20年2月27日(水) 9:30~11:00
場所 フォルテ8階 会議室
議題 (1)第2期ブラジル人のための日本語教室 進捗状況
(2)バイリンガル教師養成講座
(3)来年度の教室設置に向けて
【第5回】
日時 平成20年3月29日(土) 9:30~11:00
場所 フォルテ8階 会議室
議題 (1)第2期ブラジル人のための日本語教室の開催報告
(2)バイリンガル講師による日本語指導について

【写真】

写真:運営委員会の様子 その1
写真:運営委員会の様子 その2

3 日本語教室の開催について

写真:日本語教室の様子 その1
写真:日本語教室の様子 その2

(1)日本語教室参加者名簿と参加状況
第1期
  第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 修了者
初級 19 13 11 14 12 9 8 8 11 13
中級 4 9 8 9 5 7 5 6 7 7
合計 23 22 19 23 17 16 13 14 18 20

グラフ:第1期 日本語教室参加者名簿と参加状況

第2期
  第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 修了者
初級 18 16 13 13 10 10 9 3 6 6
中級 3 3 3 2 3 2 1 2 1 2
合計 21 19 16 15 13 12 10 5 7 8

グラフ:第2期 日本語教室参加者名簿と参加状況

(2)指導者,支援者名簿と参加状況
教授者/補助者 氏名 所属 専門分野及び日本語教育に関する資格
教授者 田村エミリオ ブラジル人(帰化) 教授経験者
教授者 樋樫マリ ブラジル人 教授経験者
託児者 秋元ルシナ ブラジル人 託児経験者
(元カナリーニョ教室指導員)
託児者 水谷萌子 託児者 ボランティア
コーディネーター 堀永乃 日本語コーディネーター コーディネーター
補助者 清水桃子 運営補助者 大学生(日本語ボランティア)
(3)教室開催場所または写真

● 浜松市立北部公民館

・ 所在地 浜松市中区葵東1-15-1

・ 電話番号 053-436-5931

教室開催場所その1教室開催場所その2

● 葵東公民館(北部公民館隣)

(4)開催日時と開催場所をまとめた表を添付すること

【第1期】

  開催日 開催時間 開催場所
1 10月14日 14:00~16:00 北部公民館
2 10月21日 14:00~16:00 北部公民館
3 10月28日 11:00~13:00 北部公民館
4 11月4日 14:00~16:00 北部公民館
5 11月11日 14:00~16:00 北部公民館
6 11月18日 14:00~16:00 北部公民館
7 11月25日 14:00~16:00 葵東公民館
8 12月2日 14:00~16:00 北部公民館
9 12月9日 12:00~16:00 北部公民館

【第2期】

  開催日 開催時間 開催場所
1 1月27日 14:00~16:00 北部公民館
2 2月3日 14:00~16:00 北部公民館
3 2月10日 11:00~13:00 北部公民館
4 2月17日 14:00~16:00 北部公民館
5 2月24日 14:00~16:00 北部公民館
6 3月2日 14:00~16:00 北部公民館
7 3月9日 14:00~16:00 北部公民館
8 3月16日 14:00~16:00 北部公民館
9 3月30日 12:00~16:00 北部公民館
(5)全体の内容報告

学習目標:日常会話で使える実践的な会話の習得

●使用教材
主教材  母国語対訳付き動詞活用表,自己紹介カードなど
副教材  生活ガイドブック
教具  ホワイトボード
  • 指導法:母語を媒介とした直接法
  • 学習項目:職場や日常生活で使われる語彙と表現
  • 学習活動:日本語のみならず文化や習慣についても学べるよう講座と文化体験の混合活動
(6)特徴的な授業風景

第1期第3回北部公民館まつり

  • ● 実施日時:2007年10月28日 11:30~13:30
  • ● 参加人数:初級・中級合わせて約20人

【目的】
 公民館まつりに参加することによって,地域住民とのコミュニケーションを図る。また,体験コーナーで日本文化を体験し,日本文化や日本語に対する興味をさらに深めてもらう。今まで勉強したことを生かして,日本語での会話練習を行う。

【結果】
 ブラジル人,日本人ともに日本文化体験を楽しむことができた。生け花,お茶,お手玉,着物,手まりや千代紙細工の人形のコーナーを見て回った。華道や茶道の心得についての説明は日本語レベルの低い学習者には難しかったが,学習者たちは一生懸命聞いていた。数人の学習者がお茶と和菓子をいただいたが,他の学習者は興味津々。「苦いお茶と甘いお菓子が合わさってちょうど良いのか」と納得する場面もあった。着物コーナーでは,3人親子に特別に着物を着せて頂けることになり,喜んでいた。周りの学習者たちも写真を撮り,初めて見る着物の着付けに見入っていた。

【ブラジル人学習者の反応】
 「6年住んでいても,日本文化を体験するのは初めて」という学習者もいた。全体的に,普段触れる機会のない日本文化や,地域の人々との交流に満足していた。お手玉や花はブラジルの日系人社会にもあるが,日本での体験は初めてで,特に生け花の体験では真っ赤な色の花を好むなどブラジル人ならではの色彩感覚が感じられた。着物コーナーで着物を着た親子3人は,七五三で着物を着る風習があることを知ると,ぜひその時にもう一度着せたいと言っていた。

【日本人の反応】
 「外国人の方々が日本文化に興味を持ってくれるのは嬉しい」と,各体験コーナーの方々は一生懸命説明してくださった。ひとつひとつの作品について,身振り手振りで,簡単な日本語で説明してくださったので,学習者たちも関心を持って聞いていた。

【まとめ】
 スタンプカードを作成し,体験コーナーで文化を紹介していただいた日本人にサインをしていただくことで日本語の練習にもつながった。閉鎖的だと言われているブラジル人コミュニティの人々が,公民館まつりをきっかけとして地域住民と交流を図るいいチャンスとなった。また,日本文化にさらに興味を抱き,日本語を勉強する意欲の向上につながった。

写真:公民館まつり いけばなについて説明をしている様子

写真:公民館まつり 着物をきた少女

第1期第7回 書道体験

● 実施日:2007年11月25日

● 参加人数:12人

● 講師:書道同好会「書楽会」のボランティア 3名

 最初,お招きした講師の方からごあいさつをしていただき,それからあらかじめ書いていただいた学習者一人ひとりの名前の手本を配った。それを見ながら学習者に自分なりに真似をして書いてもらい,講師の方々に正しい書き方を教えていただいた。カタカナの名前を漢字の当て字で書いたり,書き順がわからなくとも一生懸命見よう見まねで練習し,最後にはかなり上達していた学習者もいた。

● 授業後に学習者・先生方にアンケートを行った。
【学習者の反応】
 楽しかった,またやりたい。このような体験のチャンスを設けてくれたことに感謝する。

【日本人の反応】
 外国人に対するイメージが変わった。熱心に書道をする姿に感心した。このような機会があったら友達も呼んで参加したい。

写真:書道体験 指導を受けながら名前を書いているところ

写真:書道体験 学習者が書きあがった半紙を掲げているところ

第2期第6回 書道体験

● 実施日:2008年3月2日

● 参加人数:初級:10人 / 中級:2人

● 講師:書道同好会「書楽会」のボランティア 6名

● 託児:3人(うち1人は書道体験に参加)
 今回も第1期と同様に書道体験を設けた。講師も,前期と同じ書楽会の方にお願いをしたところ、前回は3名だったが今回は6名来ていただいた。事前に学習者の名前を先生にお送りしたところ,カタカナと当て字の漢字を用意してきてくださったので,前回のように先生がずっとお手本を書くという作業がなくなった。その分指導にまわっていただくことができたので先生も喜んで指導をしていた。
前回休んだ学習者は今回書道体験をするということを知ると少し苦い顔をしたが,やり始めると夢中になり楽しんでいた。前期の参加者はもう書道に慣れており,初めて体験する学習者に率先して教えていた。また,託児で預かっている最年長の9歳の女の子(日本の公立小学校に在籍)も書道体験に参加し,小学校で習った漢字を書いていた。
 ある受講者は「今日は妻の誕生日なので,誕生日おめでとうと書きたい」と言って,奥さんの名前(漢字で書いたもの)と「誕生日おめでとう」というメッセージを書いて持ち帰っていた。
 全体の雰囲気は良く,和気藹々とした書道体験となった。

● 授業後に学習者・先生方にアンケートを行った。
【学習者の反応】
 またやりたい。楽しかった。日本文化体験ができるいい機会だった。

【先生方の反応】
 親しみやすいと感じた。日本人よりも日本人らしい人がいた。どのような形でもこのような機会を設けてほしい。

写真:書道体験 指導を受けながら名前を書いているところ

写真:書道体験 学習者が書きあがった半紙を掲げているところ

4 事業に対する評価について

※詳細は別添報告書に記載

●課題

継続的学習の促進

 外国人に「学習したい」「機会があれば学習したい」と学習意欲があるものの,日本語教室の実態は,その意向に反比例することが明確となった。彼らの多くが製造業に従事しており,その労働環境は良い状況であるとは言いがたい。特に派遣或いは請負の雇用形態で働いている以上,企業の業績や経営方針等で簡単に職を失うこともありえるのである。このような不安定な雇用状態のうえ,彼らの側の経済的理由から昼夜を問わず過酷な労働を余儀なくされる。そうした条件のなかで日本語を学ぶには,唯一の休日である(日)が最も都合のいい時間帯とされているが,子どもの誕生日や家庭の事情,生活に必要な雑務に追われることもあり,教室に申し込みをするものの,1度や2度の欠席から教室参加についていけず,消極的になって学習を中断させてしまう者が多かった。
 これは,学習活動の内容自体に検討が必要であることを意味している。本当に学びたいことが何かといったニーズ把握を適切にしなければならない。講師については後述するが,「また教室に来たい」と思わせる導引力が求められる。託児室に通いたいと子どもがせがむことも別手段として効果があるだろう。
 また,生活環境の変動も継続的学習の妨げとなる。職場が変わると住居が変わり,県外に移動するものもでる。するとある程度の学習経験を持っていたとしても教室に通えなくなる物理的な原因が生じてしまう。こうしたことからも,彼らの安定した雇用が求められるのである。
 しかし,教室主催者があらゆる手段を持って教室展開をしていても,日本語学習が生涯学習であることに間違いなく,学ぶ本人の意識次第ということになる。結局,外国人が日本語を学ぶ意義と学習目的のビジョンをきちんと見通せるようにしていく働きかけが重要なのである。一方で,無料での教室開催が本当に良かったのかどうかは疑問が残る。浜松市内には既にいくつかの語学学校が日本語教室を開催しており,高額な受講料を支払わなければ受講ができない。もちろん,実費に相当する格安な金額での受講ができるボランティア教室はいまだ人気が高い。しかし,対価を払うという意味で学習の継続を促すことも可能ではないだろうか。

日本語の必要性に対する意識改革

 継続的学習のためには,学習の目的を明確にすることが大切であることは間違いない。不安定な生活環境のため,将来像を描けない状況が影響しているのか,日本語を学ぶメリットがはっきりしていない限り,外国人に日本語学習を促すことは困難である。とりわけ浜松市においては,エスニックビジネスの充実から,日本語ができるブラジル人も多くなり,その日本語能力を有するブラジル人に頼っていられればいいと安易に考えている者が多いのが現状である。いまや市役所,病院,歯医者,学校など,多くの場所で通訳が配置され,手続きをとるときに不便性を感じることは少なくなっている。しかしながら,「言いたいことが言えるように」という意思疎通や正しい状況把握のためには日本語能力が必要である。査証発行に日本語能力が問われる可能性があることを考慮すると,日本語を学ばなければならない状況に追われる可能性が高い。
 そのため,何かしらのインセンティブを設けるなどして,日本語を学ぶメリットがどこにあるのかをはっきり理解させる必要もあるだろう。

バイリンガル講師の技術力

 これまでの経過をみると,外国人の継続的な日本語学習には,以下のことがポイントになることがわかった。

  • (1) 意識改革;日本語学習の目的と目標を明確にする
  • (2) 環境整備;外国人の生活環境を安定させる
  • (3) 教授技術;本当に必要としている日本語を把握して,学習に結びつける働きかけ

 最後に,バイリンガル講師の実力が問われている。つまり,学びたかったことが学べると学習意欲が続く。また,学んだことが生かされると学んだ喜びを感じることができ,もっと高いレベルになりたいと目標が定まる。特に「伝えたかったこと」「わかりたかったこと」を「伝えられ」「理解できる」と,社会に自らの存在を改めて見出すことにつながる。
 また,バイリンガルの授業では,わからないことをすぐに質問することができ,わかりやすさを追求することができる。バイリンガル講師はこのように学習に結びつける仲介人として,さらに地域住民との懸け橋の役割にもなっているのだが,言語教育における基本的な教授法を学んだ経験のある講師はいまだ少ない。こうしたことを考えると,日本語教授法を身につけ,基本的な文法知識を十分持っているバイリンガル講師の養成と育成が課題となってくる。
 バイリンガルの講師を擁する地域は,まだそんなに多くないであろう。そうしたことからも浜松市の持つフィールドやリソースは,非常に魅力的な財産である。この地域における外国人市民がエンパワーメントし,自立をしていくように,同国出身者同士が力を合わせて日本語教室というコミュニティを形成し,さらに地域の同様な日本人コミュニティと協働することで新たな展開を得られたことは,大きな成果であったと思われる。

(3)その他参考資料

※写真は,肖像権等に配慮し,差し支えのないものを添付すること。

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