日本語教育研究協議会 第4分科会

第4分科会 「年少者の日本語学習支援について考える−授業のヒント−」
大蔵守久(財団法人波多野ファミリスクール主管・学務部長)
教材・教具を提示しながらの講演であったため,本文だけでは分かりにくい点が多いことを御了解ください

大蔵始まる前から拍手をいただいたのは初めてです。改めましてこんにちは。波多野ファミリスクールという財団の大蔵と申します。波多野ファミリスクールと申しましても,皆さんご存じないかと思いますけれども,目白にある財団法人でして,いろいろなことをやっています。創設者は波多野完治と勤子という心理学者夫婦なんです。
昭和52年から平成10年まで、文部省(現文部科学省)の委嘱で、国際学級という帰国した子供たちと,外国から来日した子供たちのためのクラスがありました。そこで,普通の学校のように(月)から(土)まで子供たちを預かって,ある程度日本語ができるようになったら日本の学校に送り込むというようなことをやっていました。小・中学生,それから中学を卒業したけれども,行き場がないというような子供たちも預かっておりました。
そこで私の方もずっと勤めております。社会教育ですからほかにもいろいろやっております。今日,私真っ黒に日焼けしておりますけれども,おとといまで乗馬教室で日本の小・中学生を連れて,御殿場の方に行っていたんですね。(土)は剣道を教えたりとか、ほかにもいろいろなことをやっております。いろいろなことをやっている財団であったから,多分今日お話しするような子供の日本語教育,いわゆる大人の日本語教育プラス子供は「こんなこと」というような技術が学べたんじゃないかなと思っています。
  1.講演の概要
  それで,本日のお話なんですけれども,外国から来た子供が日本語を獲得していくその過程,大まかに言うとどのような過程を踏んで子供は言葉を獲得していくかという,私の経験から見た一般的な傾向,まず,それをお話ししたいと思います。
そして,この時期には,だからこういう言葉を,この時期にはだからこういう言葉をというようなお話をしていきます。
メインは,ではそれを一体「どうやって」教えていったら子供たちが,よく獲得してくれるんだろうかということです。この辺を実際に今日何十個か具体的な教材を使ってお話しします。「これを教えるときは、例えばこんなもの,例えばこんなもの」というふうにどんどんお見せしていきますので,皆さんその中からこれなら私にもできそうだとか,それからこれはこういうふうに応用すれば自分の子供に使えるなというようなことをつかまえて帰っていただけたらなと思います。ということで,早速本題の方に入っていきたいと思います。
  2.日本語の習得段階とその特徴
  (1)一語文期
  まず,最初に習得段階とその特徴ということをお話ししたいと思います。
私は,大きく分けて3つの段階に分けて考えております。最初が,大体来日してから,ゼロから1カ月ぐらいまでの時期です。私は,この時期を1語文の時期ということで,仮に「一語文期」というふうに呼んでいます。この時期の特徴ですが,子供はどんな言葉を覚えていくかといいますと,何度も耳にする言葉,それから必要な言葉,それと子供にとって記憶の残る衝撃が強い言葉,この3つを子供たちは覚えていきます。たとえば、「おはようございます」「さようなら」「ちょっと待って」なんていうことばです。「ちょっと待って」なんて教えてはいなんですけれども,こちらの子供に教えているときに別の子が待ちきれずに,すぐなにか言ってくるから,ちょっと待って,ちょっと待ってと先生が言っている間に自然に覚えてしまうんです。そんなような言葉とか,「嫌だ」とか「いい」とか,それから「こっち」。こっちというのは,自分のところに来てくれとか,「これでいいか」というような意味での「こっち,こっち」という使い方です。それから,ほかの子供から仕入れてくるんでしょう,「ばか」とか「早く」とか「うそ」「本当」,それから,だめという意味での「ない」なんていうのもこの時期早めに覚えてきます。
つまり,回数とか必要度,それからその子供にとっての衝撃度,こういったものから覚えてくる。ということは,この時期に最初から文型指導しても余り覚えてくれないということです。文型指導はもうちょっとたってからやるといいということで,この時期は文型指導ではなくて,すぐに使える言葉,その子供にとって必要な言葉,それを自然な形でしかもコンパクト*1な形にして提示してやるということが大切です。
例えば,「ある」「ない」とか「いい」「だめ」「やめて」「要らない」「貸して」なんていう言葉です。こういった言葉は,すぐに必要になります。特に,「ある,ない」なんていうのは普通の日本語の教科書ですと,ずっと後の方に「どこどこに何々があります」という形で出てきます。ところが,「ある,ない」を1日目に教えちゃうとコンパスを見せたり,定規を見せたり,三角定規などを見せながら,「ある,ない」「ある,ない」と子供に聞いて,次の日の授業の準備ができるわけです。そういう意味でも,「ある,ない」は最初にしっかりと教えておいた方が後々すごく楽です。先生とのコミュニケーションもとれます。
それから,もう一つ特徴として,割とおとなしく文字の学習に取り組んでくれるんですね。話せないのでほかにすることもないし,最初は借りてきた猫みたいなところがありますので,素直に文字の学習,平仮名の勉強に取り組んでくれます。これ,ちょっとするとだんだん嫌がってくるんですけれども,この時期,「鉄は熱い打ちに打て」じゃないですけれども,おとなしいうちに嫌な平仮名の勉強をさっさと済ませておいた方がいいと思います。

*1 コンパクト 無駄を省いて小さくまとめてあるさま。簡潔な。

  (2)連結期
  さて、次に,1カ月から大体子供によっては3,4カ月ぐらいのところです。この時期を私は「連結期」と呼んでいます。つながるという意味ですね。どういう意味かといいますと,特徴として覚えていった単語を,これぐらいの時期になるとつなげて,自分なりの日本語の文をつくっていきます。たとえば,「これ僕,あなたない」⇒「これは僕のだよ,あなたのじゃないよ」という意味ですね。それから,「お父さん会社家ない」。これは「お父さんは会社に行っています」とか,「お父さんは会社にいます,家にいません」というような意味ですね。一生懸命知っている単語をつなげて言おうとします。ほかにも,「これ食べないだめ」⇒「これを食べないといけませんか」,「これを食べないとだめですか」というような意味を伝えるため,一生懸命言葉をつなげます。ですから,この時期何を教えるかといいますと,?友達との会話に必要な言葉をさらに増やしていくということと,もう一つ,?単語のつなぎ方を教えるということです。
まず最初,《友達との会話に必要な言葉》ということなんですけれども,子供は友達と一緒にいる時間の方が圧倒的に多いです。私が一生懸命,「何々は何々です」とか,「何々は何々を何々ます」なんて一生懸命教えているんですけれども,子供が話している言葉を聞くと,どうやら日本の子供から仕入れてきた言葉の方が会話によく使っているんです。子供からの影響力というのはとても大きいんですね。この時期,「友だちから言葉を獲得するための言葉」を最初に教えておくということが大切だと気づかされました。
それから,《長い文で教えない》ということも大切です。1・2語文で十分です。会話というのはよく聞いてみると1語か2語か,せいぜい3語文までいってないですかね。日本の子供たちでも1・2語文で話をしていますので,会話というのはそれで十分だと思います。
それから,2番目の単語のつなぎ方についていいますと,二つあります。助詞でつなぐという方法と活用させてつなぐという方法ですね。この二つを教えなくてはいけません。助詞でつなぐ例としては、「これは僕の本です」とか,「あなたの鉛筆ではありません」「お父さんは会社です。家にいません。」など。助動詞や接続助詞でつなぐ例では,「食べないといけませんか」など。そういった助詞を使ってつなぐとか,動詞・助動詞などを活用させてつないでいくというようなことです。それを少しずつ教えていく必要があります。
この時期のもう一つ大きな特徴として,日本語の先生の前では大分気が緩んでくるということが挙げられます。わがままを言い出します。「嫌だ!」,「分からない!」,「やらない!」など。まだ日本語がよく分かりませんから,「ちょっと今日やる気分ではありません」のような微妙なことは言いません。いきなり,嫌かいいか,やるかやらないかと,かなりはっきりと言ってきます。でも,これを少し違う角度から見てあげる必要があると思います。気の弛みではなくて,リラックス*1できたんだなというふうに見てあげることが大切だと思いますし,わがままではなくて自己主張ができる日本語が身についてきたんだなというふうに見てあげる必要があるかと思います。

*1 リラックス 精神や肉体の緊張をほぐすこと。くつろぐこと。

  (3)第一次完成期
  さらに,次の時期,3,4カ月から子供によって7,8カ月,長い子は1年ぐらいかかった子がいますけれども,私はこの時期を「第1次完成期」と呼んでいます。これは,ある程度ここで,その子供の日本語力の基礎,将来に向かっての伸び方が見えてきます。ここで,かなりぐんと力をつけた子はその後割と楽なんですけれども,ここでつまずいていつまでもうだうだやっている子供というのは,なかなかその後困りますね。日常会話の方はできてくるんですけれども,いわゆる授業に使う日本語というものの理解については大分苦しんでくると思います。この時期はその意味でもとても大切な時期です。
特徴としましては,?語彙が急に増えてくる。皆さんも教えていて感ずることがあると思います。「あれ,この子最近よく話すようになったな!」とか,「あれ,今言ったこと分かった!?」のというようなことを感じるときがあると思います。ずっと蓄積していって,あるときワッーと流れ出るように分かってくる時期があるんです。そういう時期が早い子で3か月ぐらい,遅い子でも7,8か月ぐらいすると,そういった様子があらわれてきます。「この言葉は,友達との会話で急増させたな」というのがよく分かります。ですから,もし学校の先生がいらっしゃるんでしたら,友達づくりの方に十分気を使ってあげてほしいと思います。
しかし,?会話の長さ・構造という点の特徴としては,ずっとまだ,せいぜい「2語文」程度ですね。なかなか,3語文,4語文にはなっていきません。
それから,?三つ目の特徴ですが,会話する力と文字力との差がどんどん広がっていきます。話せるようになってくるから,どうしても書いたり,文字の勉強をしたりするのを嫌がってくるんですね。ですから,どんどん広がっていきます。この時期,格差をなるべく縮めておかないと,完全にお話が上手になった後というのは,本当にもう読み書きの勉強をさせにくくなってくるというのが私の経験です。
さて,この時期に何を教えるかといいますと,「学習言語を少しずつ入れていく」ということが一つ。もう一つは,「読解や作文の指導を通して文型,文法,それから読み書きの力を高める」ということです。文型,文法というのは,会話には余り役立たないですね。いろいろ考えて,「私は」の次は「を」なんて考えていると会話になりません。そういう意味からみると,会話というのは単発でぽんぽんといく,ちょっと読み書きとか文型の勉強とはちょっと違った脳を使うようなんです。ですから,会話練習とは切り離して,読解・作文のときに文型の学習,文法の学習というのを持ち込んできた方が効果的だと私は感じました。
また,子供によってはそろそろ漢字を教えていくという時期です。
さて,一番最初に申し上げました学習言語,どんなものがあるかといいますと三つに分かれます。?教科に一番関係の深い言葉,そこでしか使わないような言葉,たとえば,「光合成」とか「商」,「商」というのは算数の割り算のところで出てきますね。「基本的人権」とか「段落」とか,そういった言葉というのはほとんど授業以外出てこないですね。そのような言葉は,これは教科学習を通して学ばないと日本語だけの勉強というわけにはいかないですね。
それから,もう一つが「学習用語」とでも呼ぶものでしょうか。勉強というのはいろいろな力を使います。《比較する力》とか《観察する力》とか《推測する力》とか,何かに《関係づける力》とか,そういったいろいろな力を使って授業に参加していくわけです。そこで使う言葉,例えば比較する場面であれば「どっちが何々」だとか,「どれが一番何々」だとか,観察する場面では,「同じ,違う」とか,色,形,動きに関する言葉などですね。それから,推測する場面ですと「何とかになるだろう」とか,「何々したらこうなる」というような言葉,それから関係づけるような場面ですと,少し難しくなって「Aが何々するとBが何々」とか,「Aが何々するにつれてBは何々」とか,そういった言葉をよく使っています。これらは,余り生活の場面では使わずに授業の中で割と多用されるような言葉だと思います。授業ではこれら以外に,いわゆる「生活用語」というものが授業の中で使われます。授業というのは,今申し上げたように教科概念を表す専門の用語と専ら学習に使われるような言葉,それから一般的な生活用語と,この三つが組み合わさっていろいろ使われているわけですね。
それで,このような言葉をどう扱うかということなんですけれども,「光合成」のような「教科内容そのものをあらわす言葉」については授業,つまりその勉強を通さないと理解も習得も無理ですね。でも,「学習用語」についてはそういうような教科だけにこだわらなくても何とかなることがあります。それはまた後でお話ししたいと思います。これらの日本語をクイズのような形式にして扱っていくと教えることができます。
それから,読解,作文の指導なんですけれども,「読解,作文の指導を通して文型,文法,読み書きを」というお話をしましたけれども,これも自分の興味のあるような言葉,そういったものの言葉が含まれた物語とか内容の文,そういうものを扱う。それから少しずつ教科内容そのものの文へと移っていく形になると思います。
それから,「子供によっては漢字を」というお話をしましたけれども,非漢字圏の子供で小学校高学年以上ですと,かわいそうですけれども,4カ月目ぐらいから漢字をそろそろ入れていかないとなかなか間に合いませんので,早めに入れていった方がいいと思います。
ということで,大体こんな形で子供たちに教えていくんだという話は終わります。このあと,1年,2年たっても,この「第1次完成期」を踏まえた教え方をしていけば,だいたい大丈夫だと思います。
  3.子供への日本語の教え方
  それでは,本題のどう教えるかというところに入っていきたいと思います。
これにつきましては,5つの分野に分けてお話ししたいと思います。
1番目が,1語文を指導するときの例です。1語文指導の場合はこんなようなものを入れるやり方をするといいですよということ。それから,単語をつなぐ場合ですね,2語文にしていく場合,3語文にしていく場合,単語をつなぐ場合の指導例です。それから,文型,文法の指導例。それと,読解と作文の指導例。そして,最後に文字,平仮名,片仮名,漢字の指導例についてお話ししたいと思います。
  (1)子供に教えるうえで大切なこと
  いずれの分野においても共通したこと,私がずっとやっていて,これが大切だなと感じた3つのことを先にお話ししておきたいと思います。
それは,1番目がまず臨場感をもって学ばせてくださいということです。その場に臨んだような感じです。臨場感をもたせるということです。2番目が,おもしろいと思わせること。そして3番目が,子供にも考えさせる,機械的な反応ではなくて考えさせる,この3つが一番私は大切だというふうに思いました。
まず,最初の「臨場感を持って」ということですけれども,どうしてもプリント学習とかになっていきますと,文字を追った勉強になっていきがちです。ある場面を想定して,自分がそこにいる,その人物になりきって会話の練習をするというのは、どちらかというと女性の方が得意なようですなんです。男の子は,具体的に目の前にあるものに反応して言葉を出す環境にしてあげることが大切なようです。
脳には,右脳と左脳という右と左がありまして,大体左脳の方で言語処理をしているといわれますけれども,女性は右脳と左脳をつなぐ脳梁という柱の部分,ブリッジがとても大きいんです。男性は狭いんです。ですから,男性は言葉で入ってきてもなかなかイメージする方に情報を追いやれないんですね。女性は,その点脳梁が太いので,ぱんと言葉を聞いた場合,イメージがざっとでき上がってくるんです。大体,私が見ていた子供たちも圧倒的に女の子の方が生活会話に関していえば早く上達しました。
それから,2番目の「おもしろく」ということなんですけれども,「おもしろく」だけじゃなくて喜怒哀楽というのは記憶と,それから理解に非常に密接な関係があります。喜怒哀楽,こういった感情の激しいものがあると,脳の中にドーパミンなどいろいろな脳内ホルモンが出てきます。それが,いろいろ活性化して1つには神経のつながりをよくしていきます。そうすると,脳内のネットワークが確立します。1を聞いて10が分かるという状態です。つまり,理解させるのにいいんです。それから,電流の通り道が太くなっていきますので記憶にも役に立っています。ただ,喜怒哀楽が記憶,理解にいいからといって子供を毎日泣かしたり,悲しませたりするわけにもいきませんので,私は喜怒哀楽の中の「喜びと楽しみ」,こちらの2つを利用しました。
ただ,これも過ぎたるは及ばざるがごとしで,余り楽しいことばかりやっていますと,ちょっと手を抜いたりして余りおもしろくないと,とたんに「先生,今日つまらない。」とか,「先生,つまらない。悪い。」とか言いだします。「普通の学校に行ったら,こんなふうに教えてもらえないんだぞ!」と言いながらやっていました。
それから,3番目が考えさせるということです。何も考えないで答える練習や勉強というのはとてもつまらないです。例えば,このように時計を見せて,「これは何ですか」と聞いて「時計です」と答えさせる。そんなのおもしろくありません。これを見て時計じゃないと思う人間はいないわけです。ただ,日本語で知らないから,何ですかと聞かれて,時計ですと嫌々ながら答えているわけです。そうじゃなくて,「これは何ですか」と聞かれたら,「あれ?何だろうこれは。」というような場面でやらないと心から答える気持ちになりません。
先ほど,これが見えますかということで出したものがありますけれども,ぱっとこれを見せまして,「これは何ですか」と聞きます。こういう絵(ホッチキスをある方向から見た拡大図)だったら,「あれ?何だろうな?」と思いますよね。これ,分かる人いますか。ホチキスです。ホチキスをこの角度からまじまじと見る人は余りいないんですけれども,「あれ?何だろうな?」と思わせるようなもの,そういうもので「これは何ですか」とやると,子供も何だろうという気持ちが起き、答える気になります。
今のは部分図とか拡大図ですね。こんな影絵にしてもいいと思います。「これは何ですか」,長靴です。「これは何ですか」,これもホチキスですね。これは何ですかというような形です。「これは何ですか」,たまには分からないものも出します。最初分かるようなものを出していって,だんだん分からないものを出していきます。
あと,こういうことをやっていると授業の中でストーリーとして子供は覚えてくれるんです。脳科学の中で「ストーリー記憶」というのがあります。それは,単発で何か記憶するよりもストーリー性のあるものの方がよく記憶に残るということです。ですから,授業の中で先生が言ったくだらないことの方がよく覚えていることがあります,勉強のことは覚えてないで。それも,そこに先生の語ったストーリー性があっておもしろいからよく残っているんです。ですから,ストーリーを持たせるという意味でも,子供に考えさせてください。お願いします。
  (2)単語や一語文の教え方
  それでは,まず最初に単語とか1語文を丸ごと覚えさせる方法です。
  (1)ある・ない
  初めに,動詞とか形容詞などのお話をしたいと思います。まず,先ほど「ある,ない」という言葉は最初に教えておいた方がいいですよというお話をしました。その「ある,ない」の教え方です。私はこういうコインを使いまして,ぴんとやってこういうふう(コインを指で弾き上げて両手でつかみ、どちらかの手の中に入れる)にして,「ない,ある」と言います。「ない」方から見せて言うのがコツです。「ある」方から見せるとピカチュウコイン*1と言いたいのか500円と言いたいのか分からないんです。でも,「ない」方から見せて「ない」と言い,次に「ある」方を見せて「ある」と言うと間違いありません。これは4,5回やれば一目瞭然。「ある・ない」が理解できます。最初は存在の「ある,ない」ですけれども,所有の「ある,ない」と非常に近い場面を作ることができます。コンパスを見せて,「ある?ない?」,三角定規を見せて,「ある?ない?」と聞いたときに,「所有しているか?」というような会話が子供と成り立っていきます。
あと,おもしろくする,子供を引きつけるというふうに言いましたけれども,この勉強でもこうやって,ない,ない,こういった技を使ってください。(両手を後ろの回してから子供の前で手を開いてみせる。すると、コインは左右どちらの手にもない。忽然とコインが消えた!)仕掛けは簡単です,後ろを見ると…(背中側にコインがくっついている)。はい、両面テープで貼っただけなんです。両面接着テープで張っただけなんですけれども,でもこんなことをするだけで子供は喜んでくれます。貸してくれといって,家に帰ってお父さん,お母さんにやってくれたりすると,もうこっちのものです。ですから,ツボにはまると子供は結構しつこく,何回も,しつこいよというぐらいやりますので,ぜひやってみてください。どこか最後は遊び心をぽんと入れることが大事です。

*1 ピカチュウコイン アニメのキャラクターのピカチュウが描かれているコイン。

  (2)いる・いない
  「ある,ない」を教えておけば,後は「いる,いない」も割と簡単に入ります。携帯電話で自分(教師)の家に電話します。電話をして,トゥルル……,「先生の奥さんいるかな?」,トゥルル……,「いない…。どこ?」。もし出たら,「いる。いる。」,「もしもし」とやります。その後,子供の家の電話番号を聞いてそこへかけて,「お父さん,いる?いない?」とやります。そんな形だと臨場感が出ますね,「いる,いない」という表現は、日本語の普通の教科書ですと,後の方にいってから,「どこどこに何々がいます」,たとえば「教室に太郎がいます」とか,「玄関に誰々がいます」という形で出てきます。でも,こういう会話はまずしないですよね。それよりも,何か悪いことしたらお父さんに言いつけるぞ,さあて、お父さんはいるかないないかなという場面の方が現実的ですので,子供もよく勉強してくれます。
  (3)同じ・違う
  それから,もう一つは初めに私が教えるのは,「同じ,違う」という言葉です。
これも,「同じ,違う」を教えておくと,子供とのコミュニケーションが結構とれるからなんです。これについては日本はこうでブラジルどうかというような場面(たとえば授業が始まるときに起立や礼をする習慣など)で,「同じ,違う」という言葉を知っていれば,子供は「同じ,同じ」とか「違う,違う,ブラジルこう」とか言ってくれます。そういう意味で,「同じ,違う」という言葉は子供とのコミュニケーションもとれますし,あと勉強を教えるときにも,「これは同じでしょう。これは違うでしょう。」とか言えますね。前者は相違、後者は正誤なので,ちょっと,同じ,違うのニュアンスは違うんですけれども,子供はその微妙な違いとかは余り気にしないで,大まかに押えてくれます。
私は,「同じ,違う」の指導に小学校の知能検査を使っています。小学校の知能検査では,いろいろな絵や図を見せて,同じか違うかを選ばせる知能検査があるんです。それを使っています。これとこれです。(子供の顔の絵を4枚見せる。そのうちの2枚だけは同じ絵。あとの2枚は細かい点で違っている。)これは,同じ。後ろの人分かりますか,「同じ」です。次,これとこれです。違うと言います。目が違うんですよ,皆さん分かりますか(少し曲腺を描いている目とまっすぐな目)。目がちょっとこうなっている,これは真っ直ぐになっているから違うんです。次これです。「これ同じ,違う」とやります。同じですか。そうです,髪の毛がこことここが違うんですね。これだと,同じかな,違うかなとよく見ます。小学校1年生ぐらいの知能検査でこういう問題はたくさんあるんです。ですから,これを使って「同じ,違う」,「同じ,違う」って何回も練習できます。しかも,ちょっとした違いを見つけようとしますので,一生懸命に考えながら子供は答えていきます。この気持ちを入れる,考えながら答えるということが定着をよくしていくコツです。これが「同じ,違う」の指導例です。
また,平仮名などを勉強している段階であれば,「ぬ」と「ね」のような,似た平仮名を使って「同じ,違う」と聞いても練習になります。
  (4)飲む・飲まない
  それから,飲む,飲まないなんていうの,今日の補助プリントの方をごらんいただきたいんですけれども,ここに「面白く提示・対にして提示の例『飲む?飲まない?』」というのがあります。私の書いた「日本語学級」というテキストがあるんですけれども,そこにもこういうのが載っていて,なるべく子供が見て盛り上がるような絵をいつも描いているんですね。こういうものを出して「飲む,飲まない」,「飲む,飲まない」と聞いて答えさせていきます。
1番の絵ですと,ジュースにハエがたかっていますから,子供は「ぎゃー!飲まない!」と言います。2番目,普通のコーラなので「飲む」と言います。3番が微妙ですね,コーヒー。「はい,どうぞ」と(ウェイターが)コーヒーを持ってきているんですけれども,よく見ると親指が突っ込まれています。これに気づいた子は,「飲まない!」と言います。気づかない子はぽかんとしながら「飲む…」と言うわけです。
これも,「食べる・食べない」バージョン*1とか,こういう答えたくなるような,自分の気持ちで飲まない,飲むと言えるような問題にしていくといい。普通の大人の日本語の勉強ですと,肯定形は肯定形で,しかも最初は「ます」形でまとめて教えていきます。否定形や常体はその後に出てきますけれども,子供には「言葉」を教えるんです。「文法」を教えるんじゃないんです。そのためにも飲むという言葉だったら,「飲む,飲まない」をセット*2にして出してあげた方が子供はより定着するんです。それを,まず「飲む」を教え,次は「食べる」,次は「書く」,次は「聞く」なんてやっていと言葉の意味が楽しめなくなります。そうじゃなくて,「飲む・飲まない」,「食べる・食べない」,「聞く・聞かない」,「見る・見ない」,そういうセットでどんどん言葉として教えていくと臨場感のある場面や考えさせる場面ができます。そういうことが子供にとっては大切なんです。学年が下がれば下がるほどそうです。
でも,文法型指導がむだだといっているわけではありません。かなり学力の高い子供についていえば,ああいう形(一般的な文型文法指導のこと)できちっと整理してあげると非常によく分かります。けれども,一般的に言うと子供の場合,特に初期についてはこういった形でまず語彙を増やしていくことが大切です。語彙が増えてきたところで文型,文法の勉強をして整理をしていってあげるほうが効果的です。

*1 バージョン コンピューターのプログラムなどの版。
*2 セット ひとそろい。

  (5)見える・見えない
  それから,そのほかに見える,見えないという言葉,これも日本語のテキストですと,一般的に言うと初級の後の方で「あそこに富士山が見えます」という形で出てきます。余り,窓から外を見てあそこに何々が見えますという会話をしている小学生,中学生はおりません。それよりも,こうやって「見える,見えない」,「じゃまだよ,見えないよ」とか,そういう場面の「見える,見えない」の方が多いです。
私は,「見える,見えない」はこうやって教えます。たとえば子供が小学校5年生だったら,先生が小学校5年生のときの写真を見せてあげるよと言います。中学生だったら,中学校1年生のときの写真を見せてあげるよと言います。でも,ただ見せないんです。見せるときに,その写真をうわあっと激しく振ってあげるんです。激しく振りながら「見える,見えない」と聞きます。そうすると,初めて聞いた言葉でもちゃんと子供は,「見えない」という言葉を使います。だんだんゆっくりとしていきますと,「ああ見える,見える」といいます。ドンピシャの場面なんですね,子供にとって。
私は,いつもこんな形でやっています。では,私の25歳のときの写真をお見せします。(大きな写真を振り回しながら)「見える?見えない?」とやります。見えないですね。だんだんゆっくりとしていって見えるんですね。(振り回していた写真がタレントの木村拓也だったので会場は爆笑)。今日はちょっと受けをねらってこれを持ってきました。
  (6)聞こえる・聞こえない
  それから,あと似たように言葉に「聞こえる,聞こえない」というものがあります。私がよく使うのは糸電話です。いろいろな糸電話,普通の糸電話,紙テープでつないだ糸電話,それからゴムでつないだ糸電話,梱包用のひもでつないだ糸電話,カーテンレールのようなものでつないだ糸電話とかいろいろな糸電話をつくっておいて,それで聞こえるか聞こえないかを子供に予想させます。「これで聞こえる?聞こえない?」と聞きます。子供は考えて「聞こえない」とか言いますね。予想を答えたら,実際に試して「聞こえる?聞こえる?」と言ってやると「あ,聞こえる」と言うんですね。そのときに,耳から入ってきた,「聞こえる?聞こえる?」という言葉は非常に印象が強いです。「こんなので聞こえるんだあ!」というように。使い方によってはこれで聞こえるの助詞「で」の勉強にも使えます。
あとは,CD*1を聞かせて音量をだんだん下げていきます。これは,大蔵守久ベストヒット曲集というCDを私出しました。うそですよ。今,パソコンで幾らでもこんなのできますからね,だまされないでください。こんなのを子供に見せて,「これは先生のCDです。先生の歌聞く?聞かない?」とやって、前段階で「聞く・聞かない」を教えておきます。そして,何日かたってから今度は「聞こえる,聞こえない」の指導をします。そのときにはこのCDを入れて音を出します。だんだん小さくしながら,「聞こえる?聞こえない?」,さらに音量を下げて「聞こえる?聞こえない?」とやっていきます。そうすると,子供はしんとして耳をそばだてながら「聞こえる,聞こえる」とか「聞こえない」と言います。そういう情感を込めて使った言葉というのは,本当によく覚えてくれます。そういう意味でも,皆さんパソコンで適当にこういうものをつくってみてください。
言葉を覚えさせるコツは,「繰り返し耳に入れる」ということです。だからと言って,無理して子供に言わせなくてもいいです。反復は記憶にはいいんですけれども,しつこくやらせると嫌がります。ですから,余り反復させなくてもいいんです。先生が,繰り返し子供の耳に入れてやるだけでもいいんです。さらに,リズミカル*2にやってあげればなおいいです。歌を使うと一番いいんですけれども,なかなか性格によってはできませんね。私も40代まではよく歌を歌いました。たとえば,1平方メートルの歌ということで,「広さの単位だよ,ヘイ平方〜メートル」(演歌「与作」の替え歌で)なんて歌ったりしました。特に教科の用語というのは覚えにくいものですから良く歌ったんです。子供もそれを聞いて,そのときは「変な歌,歌っているなあこのおやじ」みたいな顔で見ていたんですけれども,授業が終わって教室を出ていくときに「ヘイヘイホー」と子供が口ずさんで出ていくんですね。こうなったら,こっちの勝ちです。覚えさせればこっちの勝ちです。ということで,もし皆さん恥ずかしくなかったら歌もやってみてください。歌がだめだったらちょっとリズミカルに言うだけでも随分違います。
それから,子供に触らせるということも重要です。よく五感に訴えるといいますけれども,五感の中の嗅覚と味覚はだめです。だめですというと変ですけれども,触覚と視覚と聴覚は大脳皮質とじかにつながっているんですが,嗅覚と味覚は大脳皮質のちょっと手前でつながっています。つまり,言語と余り関係ないところで止まっているんです。そのせいか,そういえば味とかにおいに関する語彙というのは人間少ないですよね。臭い,あといいにおいとか,何とかのようなにおいぐらいですね。
味覚・嗅覚に比べると,視覚・聴覚は言語と関係が深いですね。それから忘れられているのは「さわる」,「触れる」という触覚です。ですから,私は「視聴覚教育」という言葉があるんだったら「触覚教育」という言葉があってもいいんじゃないかと思うぐらい,物をさわらせる,操作させることを大切にしています。後で,そういった例もご紹介をします。

*1 CD (compact disc)デジタル化した信号を記録した円盤。
*2 リズミカル 周期的な調子をもっているさま。律動的。

  (7)落とす・捕る
  それ以外に,先ほど言いました,例えば「食べる,食べない」,「見る,見ない」など「対」で教えるとよい言いましたけれども,さらに「セット」にして教えてさせる方法もあります。これもよく覚えてくれます。例えば,こんな例ご紹介しましょう。「落とす」と「捕って」をセットにして触覚・動作に訴える方法です。「落とすよ,落とすよ,捕って。落とすよ,落とすよ,捕って。落とした!捕った!」というゲームです。そのゲームに,どんなものを使っているかというと,こういう普通のプラスチックの板です(幅2cm程度)。これが長さ31センチです。私は,31センチから1センチ刻みで用意してあるんです。それで,何をするかというと,これを先生が落として,子供に捕まえさせるというゲームです。そのとき,「落とすよ,落とすよ,捕って。落とす,落とすよ,捕って。」と言います。子供には捕ったら,「捕った!」と言わせます。(会場に例示しながら)「落とす,落とすよ,捕って」,「捕った」こういう具合ですね。そうすると,「落とす」「捕って」「捕った」この3つを一遍に子供の耳に入れてやれるわけです。
31センチから1センチ刻みの30センチ,29センチとやっていけば,の板の数のぶんだけゲームをする=それらの言葉を耳に入れることができるわけです。大体,人間15〜16センチぐらいが限界です。これを超えると反射神経の限界です。反射神経は,どんなに早くても,見てから反応するまでに最低0.16秒必要です。16センチより短くなると,0.16秒より早く反応しなくてはなりません。だから,なかなかつかめません。つかめたとしてもまぐれです。
また,ここで「捕る」を教えておくと,「取る」を簡単に教えることもできます。「あれ,取って」の「取って」ですね。
  落下する板を2本指でつまんで捕る
  (8)取れる・取れない
  それから,「取って」の可能形で「取れる,取れない」なんていう言葉を教えるときはこれを使います。(なにやら袋から道具を見せながら)いろいろなものを私使いますけれども,今日お持ちしたのはこれ。なんだか「テレビショッピング」みたいになってきましたね。家庭のどこにでもある吸盤です。この吸盤を2つつけます。引っ張りながら,「取れる?取れない?」と聞きます。普通の大人,私,結構,握力ある方なんですけれども,それでも取れません。理科の授業と兼ねて日本語の勉強をやるんですけれども,これ,大気圧ですね。大気圧で1平方センチメートルに1キログラムの力がかかっているよということを実感させるためにこれをやりながら日本語の勉強をするわけです。こちら側に20キロ,反対側に20キロで合計40キロの力が加わっているから,ちょっとやそっとでは取れないんですね。すぐ身近にあるものが使えるのがいいですね。(再度,取ろうと挑戦しながら)でも,うっ!本当に…取れませんね。
それから,吸盤は大気圧の力ですけれども,摩擦の勉強でも「取れる,取れない」の言葉を教えることができます。(週刊誌を取り出し)これは,普通の雑誌です。これ2冊あって,1ページずつこういうふうに折り込んでいったんです。別に,接着剤でつけているわけではないんですけれども,これもこうなると(1ページずつ交互に紙を挟んだ状態),大の大人が幾ら引っ張っても取れないんです。これ摩擦の力です。なるべく表面がざらざらの紙がいいですね。絶対取れません。こういうものを使って,「引っ張っても取れない」でもいいですし,「取れる,取れない」でもいいです。そういった言葉の勉強ができます。言われてみると,教える素材がけっこう身近に転がっているんです。画びょうとか釘とか打ち込んで,その画びょうが「取れる,取れない」でも,この言葉は教えられますね。その場合,画びょうの簡単に起こす道具なんかを置いといてやれば,「これで取れる」なんていう助詞「で」の勉強にもなります。それから,釘だったら釘抜きも置いといてあげればいいですし,画びょう抜きで釘を取るまねをして見せて「これで取れる」なんて聞いてもいいです。また,きつく閉めたふた。これなんかもふたを開ける結構便利なやつがありますよね,ゴムのやつで(ふたにゴム製のカバーをかぶせて簡単にふたを開ける道具)。あんなものを用意しといて,これでふたが「取れる,取れない」なんていうのもやってもいいと思います。
  (9)長い・短い
  それからもう一つ,次は隠し技の次,3番目ですね。感情や祈りを込めていうということです。例えば,長い,短いという言葉の勉強があります。そこで,私がよく使うのがこういうものです。紙テープの長いやつ,短いやつを用意しておきます。こういうふうに紙テープを長いの,短いの,極端に長さを変えておいた方がいいと思います。中途半端な長さのものがあると,ちょっとやりにくくなります。これで,子供に紙テープを取らせます。長さ比べをするわけです。取ったときに長いときは「おおー,ながーい」と言ってあげます。子供にも長いと言わせます。それで,もし短かったら「あ,短い」という情けなさそうな気持ちを込めて言います。子供にも言わせていきます。「おおー,ながーい」ですね。「短い」,こういった感情を込めていきます。そうすると,大体こうやっていきますと,ここに長い,黄色いのが1本ありますので,子供は大体欲張ってこの黄色を取りますので,仕掛けをしておいてください。黄色を取るとどうなるかというと…。何と短いんです。必ず,どこかにネタを仕込ませてくださいね。落ちをつけておいてください。そうすると,結構子供たちも喜んでやってくれます。ちょっとした楽しみなんですけれども,それが子供たちを本当に活性化させます。
それから,大きい,小さいなんかも,これも祈りを込めるというお話をしましたね。これは普通のトランプです。1から13までありますが,並んでいる順番は分かりません。1枚目をめくります。1です。さて,この次のカードが1より大きいか小さいか。それを当てさせるゲームにしたてて「大きい小さい」を言わせようという狙いです。1ですから当然次は大きいですよね。子供は自信をもって「大きい」と答えます。次は何だろう。4,さて皆さん,1から13まで適当に入っているんですけれども,次は大きいか小さいか。4あたりだとちょっと難しいですが,次は何でしょう。ちょっと言ってみてください。
  紙テープ長さ比べ

参加者「次は大きい。」

大蔵「大きい」ときました,どうでしょう。3,残念でした。実は,多分大きいというだろうと思って,私ちゃんと4の次に3を用意しておいたんです。その辺のちょっとした仕掛けはした方がいいと思います。それで,大きい,小さい,うまくバランスをとりながらやっていく。そして,「次,大きい?小さい?」「次,大きい?小さい?」というふうに予測をさせて,「大きい,小さい」を言わせていく。すると,「大きい。大きい。大きいお願いします。」なんて言いますから,そういう祈りを込めた発声というのは非常によく記憶に残っていきます。
  (10)もう・まだ
  次に,「分かる,分からない」という言葉と,「もう,まだ」という言葉の組み合わせの例を御紹介しましょう。「もう,まだ」も,なかなか難しいので場面で教えていかなくてはいけません。こんなようなものを黒板に張ります。これは文字が書いてあるんですけれども,これだと分からないですね,何て書いてあるか。ところが,これを紙で上下両方から挟んでいくと分かるんです。その間に聞きます。「これで分かる?分からない?分からないね。よし,いくよ。」,「もう分かった?」,「まだ分からない?」,「どう,もう分かったでしょう。まだ?」,「もう分かったかな,まだ?」という形でこうやっていくと英語が……。分かりましたか。これでもまだ分からない人はいませんね。これ1回分かると分かるんですけれども,それまでは,なかなか分からないんですね。「もうまだ,もうまだ」と聞きながらセットで言葉として教えていく。そこで「まだ分からないの?」と先生が憎々しく言うといいんですね。先生のその憎々しい言い方が,子供の耳につく。「ま〜だ分からないの?」,「もう分かったでしょ?」と憎々しく畳み掛ける。それが耳に残って絶対に忘れられなくなります。
  上下から紙で挟むと文字が見える
  (11)縦・横・右・左
  さて,次に名詞とか助数詞の指導についてお話ししたいと思います。これは,名詞の場合は反復練習をさせるんですけれども,子供に反復練習だと悟られないようにするというのがコツです。これは,リピートの練習だなと思うと急に子供の目がとろんとしますので,そうじゃないという場面づくりが大切です。まず最初に位置とか方向をあらわす言葉の「縦,横」という言葉を教えるときの反復練習の例です。
今日お配りした資料の「縦横UFOゲーム」というのを見てください。これは,どんなゲームかといいますと,自分の好きなところにUFOを3つとか4つとか決められた数だけ描きます。ちょっと,皆さんUFOをどこかに1つだけ書いてみてください。時間がありませんので簡単に描いてくださいね。先生も描きます。そうしたら,それを撃墜します。弾を撃つときに,縦4,横3といいます。そうすると,縦4,横3のところにUFOを書いた人は,ガーン!当たり,つまり撃墜されたことになるんです。縦4横3にUFOを描いた人いますか。おっ!全員当たっていない。すごいですね。こんな感じで縦3,横2,縦2,横3というようにどんどんやっていきます。UFOを1人3つ描けることにしておけば,最後の1機がやられるまで,縦2,横幾つ,縦3,横幾つみたいな形で,延々と縦,横,縦,横という言葉を繰り返し繰り返し子供が言ったり聞いたりできます。このゲーム,結構子供たちに人気のあったゲームで,ツボにはまったようで,別の日になっても,よく子供は「今日も縦横やろう」と言い出すほどです。
  縦横UFOゲーム
  (12)右・左・上・下
  それから,右,左,上,下なんていうのも,こうやってゲーム化していきます。ゲーム化というよりも「分かるかな?」というクイズですね。はい。これです。視力検査です。見たことあるでしょう?こういう形にして,これで右ですね,上ですね,左ですね,ただ同じ場所でやったら1回しか質問できませんので,1回聞いたらぐんと遠くに離れてもう1回やります。そうすると,見にくくなりますから,同じことをやっても飽きないんです。遠くでも見えて「上」などと答えられたら,褒めてあげてください。「すごいね,よく言えたね」といってどんどん遠くに下がりながら何回も質問していきます。そうすると,同じものを使って同じことをやっているんですけれども,遠くになっていったという「条件」が1回,1回変わっているので,リピートしてもリピートさせられているという感覚がないんです。ですから,子供も一生懸命,右,左,上,下,何回も言ってくれます。
  視力検査
  もう一つ「右,左」,それから「前,後ろ」を言わせるときに使う小道具を紹介します。ひもにコインをぶら下げておきます。これで,ひじがつくように固定してください。そして,日本語で,「前,後ろ,前,後ろ」と言いながら,動くように念じさせます。子供にちゃんと言わせます,「前,後ろ」「前,後ろ」。そうすると,不思議なことにこれ,前,後ろに動くんですね。本当ですって。人間というのはおかしいもので,前,後ろ,前,後ろと念じると自分が気がつかないで体が微妙に動くんです。右,左もそうなんです,動くんです。そうやって,子供にほらみろ,前,後ろ,前,後ろって日本語で言うと動くだろうって。これ,別に英語で言っても動くんですけれども,そうやってやらせます。
  ひもにコインをぶらさげる
  そのほか,これは横浜の藤井美香さんという方の案なんですけれど,面白いものなので皆さんにご紹介します。
黒板にこういう升をつくります。そして,子供にスタートの位置を決めさせ,目印の物を(右図では●や▲など)置かせます。私はここ,僕はここみたいな形ですね。あと,何を用意するかというとさいころです。さいころのそれぞれの面に,上,下,右,左と書いておきます。6つ面がありますので,上が3つ,左右と下はそれぞれ1つずつにしておきます。さいころを振って,上が出たら上に行けます。右が出たら右に行きます。また,下が出たら下がらなくてはいけません。それ以上,下がれない横に移動できないときは,その場で止まっていてもいいんです。早くゴールに到達した人が勝ちというゲームです。さいころを転がして,上,右,下と言いながらゲームを進めていきます。これなら,上,下,右,左という言葉を何回も何回も繰り返し,子供の言わせたり聞かせたりすることができます。
  藤井美香さん考案のゲーム
  (13)色を表す言葉
  あと,コインを使ってこんなこともできます。たとえば,コインの裏を赤,表を青にしておきます。それで,先ほどやりましたようにぴんとコインを撥ね上げて,すばやくつかみ,「はい,赤?青?」と言って当てさせます。「赤!」,「当たり!じゃもう1回。」という具合です。これも,大体5回ぐらいまでだったら,子供も飽きずに「赤」とか「青」とか言います。これはほかの言葉でもいろいろ使えます。赤,青以外の色を使ってもいいですし,「表・裏」でもいいですし,漢字を書いて,たとえば,表に「山」,裏に「川」と書いて,どちらが出るか当てさせてもいいですし,いろいろな形でこれは使えますのでご利用になってみてはいかがでしょうか。
  (14)形を表す言葉
  ちょっと時間が,予定より大分過ぎちゃってますね。話すの早いですか。大丈夫ですか。もう少し早く話してもいいですか。では,お言葉に甘えてもう少し早くお話をさせていただきます。
形では丸,バツ,三角という言葉を早めに教えたいですね。それにはこれ。丸,バツ,三角,四角が描かれたカード。子供にこういったカードを配っておいて,「丸」と言ったら丸をぱっと取らせる。「三角」と言ったら三角をぱっと取らせます。子供にやるとまずいのは,これをみんなでカルタのようにぱっと取る方法です。取れない子が必ず出てきます。すぐふてくされます。ゲームとして成り立たなくなりますので,こういうのはなるべく子供が自分で1セット持っていて「四角」と言ったら自分のカードをぱっと取れるようなゲームにしておいた方が練習を長続きさせられます。個人との争い,個人のタイムの争いにしてあげるといいですね。こういうのもぱっぱっと取るとか,あと手遊びといいますか,丸だったら丸,バツだったらバツ,三角だったらこんな形,四角だったらこう。腕でそれぞれの形を作らせます。
小学校の3年生以下だと「丸,バツ,三角,四角をつくる」と歌いながら,私が「丸」といったら子供たちは丸をつくる。「三角」といったら三角をつくるというゲームです。だんだん慣れてきたら「丸,バツ,三角,四角をつくる,丸」と言ったあと,先生が「丸!」といいながらの腕ではバツの形を作ってみせます。子供はそれにつられないようにちゃんと丸を作らないといけません。これ結構難しいんですね。ちょっと1回やってみましょう。「丸,バツ,三角,四角をつくる,丸!」(と言って講演者は腕をクロスさせ×の形にした。すると前の何人かは釣られて講演者と同じ形を作ってしまった)。ちょっと,前の方何人か引っ掛かりましたね。こんな形で,「丸,バツ,三角,四角をつくる,丸!」,「丸,バツ,三角,四角をつくる,四角!」と言いながら,最初は同じものをつくらせる。次は,間違えないように釣られないように,つくるというゲームにしていくとおもしろいと思います。体を動かすというのは,小学校の低学年にとってはとても効果的です。
それから,はてなボックスというのをよくやります。箱の中にいろいろなものを入れて手でさわって当てるというやつです。私もよく使います。
こんな形のコップを用意します。これらのコップ。上が全部丸ですけれども,下の方がすぼまっているコップ,同じ長さですとんとしているコップ,同じ長さでちょっと短い,ずんぐりしたコップ,下の方が四角になっているコップ,このようなコップを見せたあと,1つだけ箱の中に入れます。それをて手でさわらせます。そして,「上,丸。下,丸。」とか「上,丸。下も同じ丸。でも長い。」などと形を言い,聞いている人に当ててもらうようにするゲームです。
  (15)数の言葉
  それから,数ですね。数であれば1,2,3などは割と教えやすいんですけれども,10,11,12になってくるとだんだん難しく教えにくくなってきます。私は数列のクイズにしています。そちらの数列のクイズについては今日の資料の2ページ目に書いてあります。
 
1,3,5,7,9,11 次はいくつ?
1,5,9,13,17 次はいくつ?
1,2,4,8,16 次はいくつ?
  それから,1,10,100などについて言えば,落とした硬貨の音を聞かせて当てさせます。これもクイズになります。それぞれ音が違います。(それぞれの硬貨の落下音を聞かせながら)これが1円玉です。これが10円玉です。これは100円玉です。それぞれ音が違うでしょう。これ,よく耳を澄まして子供に聞かせます。そして,「いくつ?」と聞くと,10とか100という言葉を言わせることができます。
この音は何でしょう,幾らでしょうか。大丈夫ですか,もう一度いきます。これが1円で,これが,ちょっと甲高いのが10円です。これが100円です。はい,これは何でしょうという形でやります。これは100円3回だったら300,10円2回で20,1円5回で5というような十進位取り記数法の勉強をさせながら数字を言わせることもできます。子供にもやらせます。賢い子がいました。一遍に3枚落としまして「いくつ?」と言われまして全然分からなかったりして。とても楽しみながらゲーム感覚で数字を覚えさせることができます。
それから,1つ,2つなんていう言葉もなかなかゲーム化しにくいところですけれども,私は穴の数を当てるクイズにしています。紙を1回,2回,これぐらい折ります。そして,適当に穴をあけます。指で穴の形を作って見せて,「これ(穴),幾つ」,「3つ,5つ……」,皆さんシーンとしちゃったな。あけてみます。幾つかな,1つ,2つ,3つ,4つ,5つでしたということで子供にもやらせたり,もうちょっと違うところを切ったりして幾つかなということを,これで考えながら,クイズにしながら,幾つ,1つ,2つ,3つ,4つ,5つ。幾つ,1つ,2つ……というふうな数をかぞえていくことをするといいと思います。
それから,私は影絵をよく使うんです。こんな段ボール箱の前の方をくり抜いてそこにきれを張って,後ろから大きな懐中電灯で照らしてシルエットクイズ*1をよくやります。シルエットクイズでできる助数詞の勉強です。今日は,ちょっとシルエットのボックスを持ってこられませんでしたのでこういうものを持ってきました。例えば,前の方から見るとこういう形(線状),それを横にしても上から見ても同じ(線状の)形。どっちから見てもこんな形だと,この物体は細長いというのが分かります。そうすると,細長ければ呼び方は「1本」となりますね。今度はこれ。横から見ると線。上から見ると円。ということは,皿状のものだなということが分かります。そうすると,「1枚」と答えなければいけません。
今度はこれ。どこから見ても,こんな丸い形であればボールのようなものだなと分かるので,「1個」と答えます。それから,上から見ると丸なんだけれども,横からから見ると四角形であれば,これは缶のような筒のようなものだなということが分かるので,「1本」と答えることになります。これも,結構子供たちもおもしろがってやります。
あと,助数詞の指導では神経衰弱のゲームのようにして,犬が3匹いるのと猫が3匹,鉛筆が3本とジュースが3本,そういうふうに組み合わせをしておいて,引っ繰り返して助数詞が同じ絵が出たらカードがもらえるというようなゲームをやりました。ただ,若干これは記憶力の差が出てしまいまして,これも後でもめる原因で,片方は嫌になるということがありますので,子供の様子を見ながらやってもらうといいと思います。

*1 シルエットクイズ 物の影を見て,それが何であるかを当てるクイズ。

  (3)文型・文法の教え方〜助詞や活用をさせて語と語をつなぐ
  (1)「〜は〜です。」
  次に,言葉のつなぎ方を教える方法です。まず,名詞と名詞をつなぐ方法です。「何とかは何とかです」というやつです。これも,「これは1です。」「これは2です。」なんていうふうに,ちゃんと「これは何とか」という場面をつくってあげることが大切です。例えば,トランプを3枚子供に見せます。次に裏返しにしてゆっくり動かします。そして,裏返ったトランプを指さして「これは幾つ?これは幾つ?これは?」という形で質問すると,ちゃんと「は」,「です」を使う場面ができてきます。
それから,今度はトランプを子供に見せながら3枚重ねてしまいます。そして,「上は幾つ?」「下は幾つ?」「真ん中は幾つ?」と聞いて答えさせます。1・2回トランプをゆっくりきってから聞いてもいいですね。こういう場面にすると「〜は〜。」という言葉を使う場面が作れます。
それから,子供の写真をデジカメでとって,塗りつぶしてシルエットクイズみたいな形にしても「〜は〜」という言い方の練習ができます。1番,2番,3番とシルエットに番号を振って,「1はだれ?」「2番はだれ?」「3番はだれ?」というような形で当てさせてもいいと思います。
  (2)「〜は〜でした。」
  それから,名詞文で,「何々は何々でした」という言い方がありますね。この「でした」という言い方も,お天気なんかでやると「今日は曇りです,昨日は雨でした,一昨日は」となって,すぐ飽きてしまいます。そこで,私は完了の方の「でした」を先に教えています。
そのときに使っているのが,こういういため紙にただ四角い穴をあけただけのものです。後ろはもう一枚紙を張ってあります。ここに,絵カードを通します。絵カードをすばやく通して「何でしたか」と聞きます。これだと「でした」を使えますね。お天気と違って用意したカード,10枚なら10枚分,何でしたか,何でしたかと聞くことができます。ちょっと後ろの人分かりにくいですね。いきますよ。はい、何でしたか。
  「でした」の教具

参加者リンゴ。

大蔵そう「リンゴ」です。子供も「リンゴ」しか言わないんです。こちらのねらいどおり「リンゴでした」という文で答える子供はまずいないです。でもいいんです。そう答えたら,「そう,リンゴでしたね」といってあげればいいんです。後でまたゲームをします。「リンゴ」といったら1点なんです。「リンゴでした」といったら3点上げるという形にしておけば,子供は意識的に「リンゴでした」と答えるようになります。そういうふうにやるといいと思います。
それから,「でした」ではもう一つ,「幾つでしたか」なんていうのもあります。これには,いろいろな点が描いてあります。ちらっとしか見せません。はい、ちらっ!幾つでしたか。
  見せたカード

参加者7。

参加者8。

参加者9。

大蔵はい。8でした。じゃ,もう一回いきます。違うやつでいきます。はい!

参加者8。

参加者10。

大蔵8ですね。こうやってそろえた方が割と正解が多いんですけれども,こちらになると6から9ぐらいまで随分ばらけました。これも8です。こんな形でぱっぱっと隠して「幾つでしたか」とやればクイズになります。これがものすごく得意な子供がいます。
それから,同じ「でした」でも,少し理科の勉強くさくして,こちらの補助プリントの方に書きました大陸移動説,こういったものを使って,大昔が左の図でだんだん今のようになっていくわけなんですけれども,この中で1,2,3,4,5,6,7と書いてありますけれども,インドは何番でしたか,分かりますか。そうです5です。南極のところにあったのがどんどん動いていって,今のところにどんとインドがぶつかって,それでどんどん押し上げていってできたのが,ヒマラヤ山脈なんですね,そんなようなことも大陸移動説を使いながら「でした」,「でしたでしょうか」のような言葉を言わせられると思います。割とこういうクイズっぽいものが好きな子は結構います。
  (3)「〜の〜」
  それから,「何々の何々です」なんていうのも,日本語のテキストなんかでは,「これは理科の本です」とか,「社会科の本です」とかやるんですが,それもちょっとおもしろくないですね。そこで,私はこんな工夫をしています。動物の体の一部分の絵ですね。ウサギの耳とかキリンの首とかゾウの鼻とか,これはちょっと分からないですね。よく,これを抱っこして写真撮ってもらうんです,オーストラリアで。そう、コアラです。コアラはこんな形しているんです。こんな形で「何々の何々」という動物クイズにしたり,「何々の音」クイズにしたりします。いろいろな音をお聞かせいたします。何の音でしょうか。(会場にある音を聞かせる)はい、クシの音です。では,これです。何の音でしょうか。そう、ホチキスですね。こういうふうに,何か音を聞かせて「何の音」という「何々の何々」というような勉強もこういう形でクイズにできます。
  (4)「どっちのほうが〜ですか」
  それから,名詞と形容詞をつなぐ方法です。「どっちが何々でしょうか」,「どっちの方が何々でしょうか」というやつですけれども,これは私はいつも錯視図,見ていて錯覚を起こす図を使っています。
こんなような図を使います。そして,縦と横とどっちの方が長いですかとやります。これ,縦と横,どっちの方が長いですか。同じですか,横の方が長い,はい。縦と横,どっちの方が長いですか。同じ。縦と横とどっちの方が長いですか。縦,という形ですね。こういう形で聞いていきます。
  縦と横どっちが長いかの図
  実は,縦と横と同じ長さのものはどれかというと,これ(一番右の図)なんです。目の錯覚で,人間はこれ(縦の線)とこっち(横の線の半分)を比べてしまうので,縦の線の方が長いと思うんですね。これは,縦も横も24センチメートルです。皆さんが同じだと言ったこれ,横は同じ24センチですけれども,縦19センチメートルで5センチも短いんです。これは目の錯覚ですね。こういうものを使って,「何々と何々と,どっちの方が長いですか」とか「短いですか」というふうに言わせます。大きいですかも同じです。
上と下とどっちの方が大きいですか。え?同じ?先を読んでいますね。そうです,同じなんです。でも,人間はこことここ(図の→部分)を見比べちゃうので,どうしても下の方が大きく見えるんですけれども,重ねると同じなんです。こういうような,ほかにもまだまだ錯覚を起こすものがありますので,そういった図を使って,どっちの方が何とかですかなんていうのもおもしろいと思います。
  どちらが大きいかの図
  (5)「どれ・どこ・なに・いつが一番〜ですか。」
  それから,「どれが1番〜ですか」なんていうときは,小学校の理科のクイズを使ってもいいと思います。ろうそくが消えるのが早いのはどれかというのです。1番は,上はふたをしてありますけれども,下に穴があいている。2番は,上はあいていますが下はあいていない。3番は,上もあいているし,下もあいているというようなもの。こんなようなものを,実際に子供の目の前でやって,どれが一番早く消えますかでもいいですし,消えるのが早いですかでもいいですし,「どれが一番?」だけでも子供は分かります。これ,宿題です。こんな形で,理科の教科書にはいろいろ言葉の勉強に使えるなというのが結構ありますので,ぜひ見てください。
  ろうそくが消えるのが早いのはどれかの図
  それから,どこが一番,何が一番などですと,地理クイズです。川だったらどこが一番長いですかとか,国だったらどこが一番広いですかとか,そんなようなことができます。
  (6)動詞の活用「〜て」の文
  それから,形容詞と動詞をつなぐ場面や動詞の「て」形の場面です。「何々く何々」,例えば「早く回す・回して」とか「大きく書く・書いて」とか,これなんかは命令ゲームを使います。命令ゲームというのは,Simon says*1というゲームご存じですか。あれが使えるんです。どんなゲームかというと,例えば,皆さん「文化ちゃん」という名前だとします。私が,「文化ちゃん手を挙げて」といったら手を挙げます。言わないときは挙げちゃいけないんです。そういうゲームです。それでは,ちょっとやってみましょう。「まず,右手を挙げてください」,皆さん,全部だめです。「文化ちゃん」とは言っていませんよ。「文化ちゃん、右手を挙げてください」と言ったら挙げなくちゃいけないんです。「文化ちゃん,右手を挙げてください」,「その手を回します」,回しちゃだめなんですよ。「文化ちゃん,右手を回してください」,「早く回します」,だめだめ回しちゃ。「文化ちゃん,右手を早く回してください,早く回して」,「とめて!」。だめなんですよ,「文化ちゃん,手をとめて」,「おろしてください」,だめです。「文化ちゃん,手をおろして」,というような形で「て」,「て」という言葉の勉強,これ命令ゲームといいますけれども,小さな子供だったら割と何回も引っ掛からないまで一生懸命やったりとかします。

*1 Simon says ゲームの名前。文頭に“Simon says”と言った場合だけ,命令に従うゲーム。言わないのに従ったら負けになる。

  (7)形容詞の活用「〜く」の文
  それから,紙をちぎるゲーム。色紙をちぎらせます。言葉としてはちぎるという言葉を教えてあげてもいいですし,余りちぎるというのは使いませんので使わなくてもいいと思います。でも、「長く」という言葉は必ず使います。例えば,「長く長く長くちぎって」,「長く長く長くちぎって」と言って,どれぐらいまで長く,例えば30秒なら30秒でどれぐらい長くちぎれるかという競争をさせます。こういう色紙を用意ドンでちぎらせます。そうすると,一生懸命子供はちぎっていきます。30秒のところでやめさせます。そして,長さ比べをします。そのときに,子供が一生懸命ちぎっているそばで,「長く長く長くちぎって,長く長く長くちぎって」と言ってあげるんですね。もし人数が多かったらグループにして,15秒でバトンタッチ*1していきます。そうすれば,グループ対抗にもできます。そういう形で,長く長く長くちぎって,長く長く長くちぎってという言葉を何度も耳に入れることができます。
それから,形容詞「い」を「く」に変えて,「なります」をくっつけて変化をあらわす言い方ですけれども,私は風船を使って目の前でやってあげます。でも,[大きくなります]からはやらないでください。肺活量がないとなかなか膨らまないんです。これは,まず「小さくなります」からやってください。まず,焦らずゆっくり膨らませておいて「大きいね,いくよ」,「小さくなりますよ,小さくなりますよ,小さく,小さく……,小さくなりました」とやります。それから,「大きくなります」をやれば分かります。いきなり最初から「大きくなります」をやると苦しいだけです。
あと,こういう方法もあります。手品です。水があります。この水を念じるんです。「赤くなります,赤くなります」と念じるんです。そうすると,赤くなるんです。本当です。(実際にペットボトルに入った水を振ってみせる)「はい,赤くなります」。どうしてでしょう。

*1 バトンタッチ 後続の者に引き継ぐこと。


参加者ふたに仕掛けが。

大蔵はい,ふたに仕掛けがあります。見破られました。ふたに絵の具を塗っておいたんです。「子供だまし」ですが意外と子供はだまされてくれます。
じゃ,次。だまされますか。墨汁があります。墨汁に白い紙を漬けます。はい,黒くなりました。次です。また白い紙を墨汁に漬けます。ところが,赤くなりました。どうですか。

参加者補色ですか。

大蔵いえ,違うんです。コップの中には墨汁なんて入っていません。黒い紙を巻いてあるだけなんです。それなのになぜ紙に色がつくかというと、入れた紙に仕掛けがあります。紙の表側は白ですが,裏側は黒や赤に塗ってあります。その紙を中に入れて半回転をして出しているだけなんです。これ1回転するとまた白いまま出てきちゃいますから半回転させて出しているだけです。

  紙をコップに入れる
  (8)形容動詞(ナ形容詞)「〜になります」の文
  これで緑色やピンクになる手品をやって,「〜になります」につなげていきます。「緑色になりました」ですね。そういう形で,「く」から「になります」という勉強もさせていきます。
あとは,形容動詞の方の「静かになります」という言葉がありますが,なかなかこれはちょっと場面がつくれません。場面を作りやすいのは「きれいになります」ですね。きれいになりますですと,錆だらけのものを研磨剤でみがいてあげる。そうすると,本当に目の前できれいになります。また,10円玉にタバスコをたらして,ちょっと時間をおいておくと本当にきれいになります。おしょうゆでもいいんですけれども,おしょうゆはちょっと時間がかかります。おしょうゆだと,アミノ酸がきれいにしてくれます。タバスコの場合は酢酸,かなり酢が強いので酢がきれいにしてくれるという仕掛けです。
そのほかに,きれいになりますですと,私はこんな小道具を使っています。汚い部屋の絵をここに描いておくんです。そして,これが掃除機で掃除するんです。きいれになりました,これは下にきれいな部屋の絵を描き,上に汚い部屋の絵を描いて,ただ上の絵を掃除機で上方へ押し上げただけなんですけれども,これは子供がツボにはまるんです。しつこいぐらい「きれいになりました,きれいになりました」って何回もやるんです。そうすると完璧に覚えてきます。これも「な」を「に」に変えて「なります」なんて説明する必要ないんです。ドンピシャで「になります」って一発で覚えられます。まず1つ覚えさせればいいんです。1つしっかり覚えると,次に「静かになります」を教わるときに,『これも「な」を「に」に変えて』なんて説明しなくても,自然に「静かになります」とすっと出てくるんです。子供にはそういうモデルとなるものを先に丸暗記させておいて,後から整理してあげると楽です。
  「きれいになります」の図
  (9)形容詞「〜くて〜」の文
  「大きくて赤いとか」,「赤くて小さい」とか,そのような形容詞の「〜くて」の勉強のやり方ですけれどもこんな方法があります。これもカルタ取りです。最初は,例えば赤い三角,青い三角なんて言って,赤い三角と言ったら赤い三角,青い三角と言ったら青い三角を取る。そういう形で復習をしておきます。そのうち,こういう小さい三角形も出していきます。そうすると,赤くて大きい三角とか,青くて小さい三角と言わなくてはいけませんね。子供の方にも,赤くて大きい三角と言ったら,赤くて大きいのはこっちだとぱっと取ります。青くて小さい三角はこっちだと取ります。これが「くて」でつなぐ,形容詞と形容詞をつなぐ勉強です。
これも,だんだん増やしていくとおもしろいです。例えば,こうやって増やしていきます。そうすると,青くて小さい丸といって取ります。だんだん,レベルを高くしていきます。こうやっていくと,並べ方を子供に言わないとぐちゃぐちゃに並べる子もいますし,かと思うとちゃんとうまく分類する子がいます。こういう置き方をすると「青くて」というとこちらの方を見ます。「青くて,小さい」というとこの辺に焦点を合わせてきて「三角」というとばっと取ります。そういう分類する頭を養いながら言葉の勉強もできるわけです。これも,子供たちはおもしろがってやります。
これは,今日来ていらっしゃるかどうか分かりませんけれども,三重県の上野市立の東小学校というところで,よく出張してその学校に子供に教えるんですけれども,そこでやったときにも結構盛り上がって,8人ぐらいいたんですけれども,ほとんどの子供たちが1時間の中で「くて」という使い方を覚えてくれました。
  「〜くて」の勉強のやり方の図
  (10)「〜に〜があります」文
  次は,「どこどこに何々があります」という言い方です。これも,先ほど言いましたように,どこどこに何々がありますという文でテキストの後の方に出てきますけれども,最初にできれば,「ある,ない」を教えておくといいと思います。私は,こんなものを使っています。紙コップ3つと何か物を1つ。物に1つの紙コップをかぶせて,しゃかしゃかしゃか。紙コップを動かしてどのコップに物が入っているかわからなくします。そしてコップを1つずつ指さして「ある,ない」と聞きます。「ある,ない」,「ない」。「ある,ない」,「ない」。「ある,ない」,「ある,ある」とやります。これでまず,ある,ないが分かります。これも,既にコインでやっていますから,「ある,ない」の復習だと思ってください。
次は,またしゃかしゃかっとやって,「どこにある」と聞きます。そうすると,「ここにある」とか,「右にある」とか言います。そうすると,ある,ないから次に,「どこどこにある」という言い方になります。「ここにある」でもいいですし,「右にある」でもいいです。どこにありますか。そう,ここですね。だから,「ここにあります。」と言わせます。最後に,「どこに何がある」という聞き方をしたいんです。その場合,これ(物)を増やします。ピンクと水色と緑の3つに増やします。そして,1つずつ紙コップをかぶせて見えなくし,さっきと同じようにかしゃかしゃとやると,今度は「どこにある」じゃだめですね。「どこに何がある」と聞きます。そうすると「ここに水色がある」,「ここに緑色がある」とか「左にピンクがある」という形で,ここで初めて「どこどこに何々がある」という文になっていきます。このようなゲームにしてもいいと思います。
  「どこどこに何々があります」を教えるゲーム
  (11)「〜に〜がいます」文
  それから,「ここに何々がいます」の場合は,こちらちょっと見にくいんですけれども,今日お配りしたプリントの中に「ここに馬がいます」とか,よく見るとこの絵,いろいろなところに動物が隠れているんです。これも,「ここにねずみがいます」,「ここに猫がいます」,時間が結構大変なので,後でゆっくりごらんになってください。こういうことでもできます。
  (12)「〜を〜ます」文
  それから,助詞の「を」を使って「何々を何々ます」という言い方の文ですね。私はこのようなものを使っています。こんなゲームです。ここに,本当はもっといっぱいひもが入っているんですけれども,そのどれかにこの1本がつながっているんです。ハサミを子供に持たせて「1番を切ります」とか「1を切ります」と言いながらひもを切っていくゲームです。「を」を言い忘れた子は2本切らなくちゃいけないんです。ぱちっ,「おお,大丈夫」,「3を切ります」,ぱちっ,「ああ,大丈夫」という。非常にスリル満点なゲームです。スリルを味わいながら「を」を使わせるんです。使い忘れたら2本切らなくてはいけないんだというようなスリルを味わっていきます。実は,これはどこにもつながっていなくて,全部切っても大丈夫なようにできているんです。なぜかというと,1番最初に切れたら,それでもうせっかくつくったものが使えませんので,これはどこにもつながっていないように用意しています。子供がどんどん切っていて,最後の方になるとだんだん怪しんでくるんですね。これも,「〜を〜ます」と言わせる小道具として使えると思います。
  「〜を〜ます」と言わせる小道具
  (13)「やりもらい」の文
  次に,「あなたにあげる」という「やり,もらい」の「に」という言葉の練習法です。どんな使い方をするかというと,お料理タイマー,1分とか2分,3分たつとピピッとなるやつがありますね。あれで,1分か30秒にセットして袋の中に入れます。そして,2,3人で「あなたに上げます」と言って,次々にその袋を他人に押し付けていくゲームです。もらったときにピピッと鳴った人間の負けなんです。あなたに上げます,あなたに上げます……,最初は安心してゆっくりとやっていますけれども,だんだん早くなっていくんです。でも「に」を抜かしたらもう一回言わなくてはいけないというようなゲームにすると,みな真剣になります。ちょっと難しくして「だれだれにもらいました,あなたに上げます」「だれだれにもらいました,あなたに上げます」,という言い方にもできます。結構みんな必死になってやりますので,すごく定着がいいです。
  (14)「〜ても、〜。」文
  次は,「何々しても何々ます」というような言い方です。これも,子供にインチキ手品を教えてあげます。(ペンを握った手を開きながら)「手を離しても落ちません」。皆さんお見通しですね。そう,もう片方の手の指でペンを押えているだけなんです。ほら,「離しても落ちません」。
最近は,あるマジシャンがやっていたんですけれども,ミカンですね。これもおもしろい手品です。季節じゃないのでミカンは今日持ってこられなかったんですけれども,ミカンをぱっと離してもミカンが落ちないんです。そのタネはというと,ミカンにぶすっと親指を突っ込んでおく。こうやると,確かに落ちないんです。「離しても落ちません」です。この手品を見たとき,これは使えるな,いただきと思いました。
それから,こんなようなゲームもしています。ここに,これも理科の勉強のときについでにやったんですけれども,こんなもの(右図)を上げて「1センチ上げても大丈夫」,「2センチ上げても」と言って,こうやって上げていきます。そのときの角度を調べたり,何センチ上がったかを調べたりしながら,「何センチ上げても何々です」というような言い方で答えさせます。これも,ちょっとしたゲームにするといいですね。本とか下敷きの上で持ち上げながら,先生がまず1センチ上げます。次,子供が1センチ上げます。大丈夫だと思ったら先生は3センチ一遍に上げちゃいます。次,子供がうう,苦しいなと1センチ上げると落っこちゃう。落とした方が負けというゲームにします。こんなのもおもしろいと思います。
  「何々しても何々ます」を教えるゲーム
  (15)「〜ばいい。」文
  次は,「何々すればいい」という表現の練習場面です。これも「こんなとき,どうすればいい?」という聞き方で危機回避アイデアを子供たちに募ります。例えば,「ズボンが破けました,どうすればいい」。子供は「何かを腰に巻けばいい」の「巻く」という言葉が分からないので,一生懸命言葉を欲しがるんです。そのときに「巻けばいい」と教えてあげます。欲しがっているときに与えられた言葉,これもよく覚えてくれます。「トイレに入った。でもトイレットペーパーがない。どうする?どうする?どうすればいい?」と聞きます。そして「大声で呼べばいい」を子供から引き出します。「食べた後,お金がないのに気がついた。どうすればいい?」。「仕事を手伝えばいい」という子もいれば,「逃げればいい」という子もいて,みんな大笑い。でも,「逃げる」という日本語が分からなかったので,「走りますすればいい」と言うので,「それは逃げるというんだよ」と教えてあげました。
  (16)「〜と、〜。」文
  それから,あと,「何々すると何々」という,これもよく理科の教科書に出てくるので,これも早めに教えてあげたい言葉です。これは,子供の目の前で机の上に10円玉を並べます。そして,こっちの方から10円玉をピンとやります。そうすると,シュシュシュシュ,コンとぶつかって,1つ当てるとこれが1つ飛び出るんです。「じゃあ,2つ当てるとどうなるかな」と言います。子供は「2つでも1つ」だとか,「2つだから2つ」だと言います。「じゃ,やってみよう」,ピンとやります。シュシュシュシュといってコンとぶつかって,こっちからちゃんと2つ飛び出るんです。今度は,2つ当てると3つ当てると同じ当てるという言葉を使って2つ,3つ,4つとやっていきます。
そのうち,こんなのはどうかなと。真ん中に消しゴムを置くんです。消しゴムを置いて,この消しゴムを指で押えてこちらからコンとやります。1つ当てるとどうなるでしょう。飛び出ないんです,消しゴムで吸収されて1個も出ないんです。そんなようなこともやるとおもしろいと思います。これが,「何々すると,何々」という文型練習の例です。やるとき30センチぐらいの物差しを硬貨の下側に置いといてやると,硬貨が真っ直ぐ進んで当たります。
「と」の勉強には非常に有効なものです。何々すると何々ますというのは,本当に理科の教科書にたくさん出てくる言葉ですので,ぜひこのような形で勉強してみてください。
  「と」の勉強の図
  (4)読解の教え方〜教科書のような文を使う前に
  (1)算数の文章題を利用した読解
  時間が大分迫ってきたので,文型・文法の指導事例を若干省略させていただいて,次に読解と作文の指導方法についてお話ししたいと思います。読解へといざなう指導例ですね。読解には,2つのパターンがあります。センテンスの数からいうと,2から4ぐらいのセンテンスで正確な読解をさせるという方法と,10個から20個ぐらいのセンテンスで大まかな読解をさせるという方法です。例えば,2から4のセンテンスで正確な読解をさせる例としては算数の文章題ですね。「アメが2個ありました。弟から3個もらいました。全部で何個ありますか」というような,簡単な算数の文章題を使うといいと思います。子供は答えがあるものが大好きです。逆に,答えがないと何となく,「なんだ…。」という感じになっちゃうんですね。一生懸命,長文読解を子供にさせたときの話ですが,一字一句意味を押さえさせ,文型も確認させ,「さあ,今日の勉強は終わり」と言ったら「先生,それでどうしたの」と言われたんです。そうか,子供は何か答え――読んだ結果――を求めていたんですね。子供はなぞなぞが好きですけれども,答えのあるものが好きなんですね。
  (2)文の並べ替えによる読解
  それから,順番を並べ替えさせる作文なんていうのもあります。例えば,電話のかけ方,公衆電話のかけ方の並べ替え読解。「番号を押します。お金かカードを入れます。受話器を取ります。話します。」という文をばらばらにしておいて並べ替えさせる。これも,1文1文を正確に読んでいかないと,どれが1番でどれが2番か順番がよく分かりません。
  (3)子供が興味を示す内容で長文読解
  それからもう一つ,10から20センテンスで,「正確な読解」ではなくて「大まかな読解」をさせるというやり方です。長い文というのは気力がないと続きません。気力を持続させるためには,興味のもてる話題が必要です。子供が興味を持つ話題で長文読解をさせるというのがコツです。では,一体子供はどんなことに興味を持って,子供は喜んで読んでくれるのでしょう。このことを,我々は1年間ずっと調べたことがありました。どんな話をしたら子供は目を輝かせて最後まで話を聞いてくれたかということです。ベスト5の発表です。栄えある第1位が「悪い話」なんです。カンニング*1をしたとか,こんないたずらをしたとか,――ピンポンダッシュ(玄関のインターホンを押して逃げる)のようないたずらをしたとか,それからけんかしたとか。カンニングなんか,いろいろな方法を子供たちに教えてもらいました。そんな話を物語にしてあげるとかお話にしてあげるとすると,子供たちは喜んで最後まで読みます。
第2位が「男と女の話」。これは,小学校三,四年生から上になってくるとだんだん興味持ってくる話題ですね。
第3位は「大失敗の話」。私も,いっぱいいろいろなこと失敗していますので,幾らでもネタが出てきます。
第4位は「異文化の話」。異文化といっても余り高尚な文化ではないです。どちらかというと,子供たちが興味を示したのは日本の「校則」でしたね。今でもいろいろおもしろい校則があるんです。たとえば,「男の子と女の子が話すときは60センチ以上離れて話すこと」とか,もっと笑ったのが,「バレンタインのチョコレートを上げるのは,7:50までとする」とか。これ,何となく私も分かります。小学校の教員をしていたときに,バレンタインの日はみんなそわそわして,授業が終わるとすぐ渡したり,授業中渡してる子とかいるんです。ああいうのを見ると,授業が始まる前に全部渡して終わってくれと先生は思うんでしょうね。茨城の方の小学校だったかと記憶していますけれど,バレンタイン*2のチョコを渡すのに,7:50までという校則をつくった学校がありました。
第5位は「不思議」ということです。この「不思議」というのもお化けとか何とかじゃなくて,理科の実験物が結構子供たち喜んで不思議がっていました。こんなようなものが子供たちは喜んでいます。しかし,これは先生方が「自作」するしかないんです。子供たちはヒロコさんの話やオリベーラ君の話(有名な日本語のテキストに登場する人物の名前)は余り興味ないんです。自分が教えてくれる先生の話が聞きたいんです。ですから,先生の話としてこれをある程度,多少デフォルメ*3しながらつくってください。
例えば,こんなことを書いて子供に読ませました。男女ネタの読解と作文の例なんですけれども,文法の勉強としては「受け身」の形をたくさん文の中に入れておきました。例えば,こんな文を子供たちに文を与えました。「2人の男の子につき合ってくださいと言われました。あなたなら,どっちの人とつき合いますか。A君は親切な人です。みんなから優しい人だと言われます。でも,やきもちやきです。例えば,あなたがほかの男の人と話をするとあなたは怒られます。そして,何を話したかとしつこく聞かれます。
B君は優しくありません。でも,おもしろい人です。一緒にいると楽しいです。だから,B君はみんなに好かれています。いつも,女の子に囲まれています。時々,女の子に追いかけられます。なんか自分の夢を語っているようですね。そして,写真を撮られます。優しいけれどやきもちやきのA君と,優しくないけれどおもしろいB君と,あなたならどっちの人とつき合いますか。」という長文を出しました。
子供はおもしろいから一生懸命読むんです。2人女の子がいて,その子たちの作文の紹介です。
最初の子は,「私はA君とつき合います。優しいは1番です。怒られますもしつこく聞かれますも嫌です。でも,A君はほかの人好きないから心配ない。だからA君とつき合います。」
次はその子のお姉ちゃんの作文です。「私は,B君がいいです。A君は変です。ほかの男の人と話すは好きと関係ないです。怒られますは変です。B君はみんなに好かれています。それ,心配です。囲まれていますも心配です。でも,好かれていませんは,それ格好いいじゃない。私は,格好いい男が欲しいです。」と書いてありました。
注目してほしい点が3つあるんです。1つは,興味のある話題ですから,ちゃんと最後まで読む気力が続いているんです。2番目に,分からない言葉にこだわらず大まかに理解しているんです。それは,早く読んで早く言いたいからなんです。でも,言わせないんです。「言っちゃだめ,作文で!文に書きなさい。」とやります。そうすると,どうなるかというと,うまく問題文を利用して自分の意見を書いてくるんです。こういう「モデルになる文を見つけて,それを参考して書く」という能力を高めていくというのがこの時期大切なことなんです。このように,興味がある話題とかおもしろい話題というのは,読む気持ちを持続させますし,早く先を読みたいので細かいことにこだわらないです。一々,辞書を調べながらやっていると飽きちゃいますけれども,そういうことはこれだとありません。
自分の意見をつくり上げさせるために,作文へと誘導していきやすいんです。ということで,次に作文の話をしたいと思います。

*1 カンニング 試験の時に,他人の答案を見るなどの不正行為をすること。
*2 バレンタイン 2月14日をバレンタインデーといい,日本では女性が男性にチョコレートをプレゼントするのがはやっている。
*3 デフォルメ 美術において対象を変形させて表現すること。

  (5)作文の教え方〜感想文を書かせる前に
  作文が苦手な子供というのがいます。これは,日本の子供でもそうです。私は,今,普段は近所の小学生に作文を教えているんですけれども,外国の子供も今の日本の子供も言うことは同じです,作文が苦手な子供は。何と言うかというと「何を書いていいか分からない」と言うんです。書くテーマを与えると,次にどうかというと「どう書いていいか分からない」というんです。書きたくないものだから大体こういうことを言います。外国から来て,日本語の語彙とか,文字とかがまだまだよく分からない,そういう子供に「何をどう書いていいか」分からないような書かせ方をするというのはちょっとまずいんです。外国から来た子供については,まず最初に「何を」というネタをあげるということが大事です。それから,どう書いていいか分からなかったら,さっきの読解のように「モデル文」を与えてあげることが大事です。
  (1)回答式作文
  作文について,私は6つのパターンで教えていました。1つが回答式作文です。これは,「昨日何をしましたか。」→「買い物をしました。」,「どこに行きましたか。」→「デパートへ行きました。」,「何をしましたか。」→「何とかを買いました。」,「幾らでしたか。」→「500円でした。」というように,《聞いたことに答えさせる》という方法です。これは私が言ったことをそのままキャッチして一部分を置きかえて答えればちゃんとした作文ができるので楽なんです。ネタもモデルも差し上げているわけです。
  (2)再生式作文
  次が,再生式の作文です。これは,ある文章をぱっと手短に読んで聞かせます。頭に残っているうちに,今言ったことを再生しなさいとやるんです。そうすると,ネタもモデルもあげているんですけれども,回答式作文のように一問一答で答えるわけにはいきません。ざっと聞いて,頭の中に残っているのを絞り出さなければいけないんです。それは,回答式作文よりもレベルが高いですね。この作文の書かせ方をすると,聞いた文を思い出す過程でしっかりと文を覚えてくれます。
  (3)観察式作文
  それから,次は観察式の作文です。これは,何かやったものを見て作文を書くわけですけれども,一番簡単なのは先生の動作を見て書く作文です。いろいろな動詞がありますけれども,人間の動作に関する,食べる,飲む,聞く,書く,これを割と最初に子供は習得していきます。ですから,先生が今からやることを作文に書きなさいといって,例えばこの辺の水を飲んだり,大きく字を書いたりします。今,先生がやったことを書きなさいとやります。そうすると,日本語力の違いによっていろいろな書き方ができます。「先生は飲みました。」しか書けない子もいますし,「先生は水を飲みました。」とか,「先生はおいしそうに水を飲みました。」「先生はコップ一杯の水を飲みました。」「先生は字を書きました。」かもしれませんし,「先生は大きく字を書きました。」かもしれませんし,「大きく漢字を書きました。」かもしれません。そういうふうに,子供の持っている語彙力に合わせてある程度書き分けることができます。しかも,動作というのは子供に割と早く語彙として入っているので書きやすいんです。
それから,ちょっとレベルを上げると「見比べて書かす」というやり方もあります。よくやるのが,振り子です。振り子の長さが違うものとか同じものとか,それから振り子の重りの大きさの大きいものとか小さいものとか,重いもの,軽いものをやって,振り方の違いを作文に書かせます。比べて書く方がまだ楽なんです。一番難しいのが単体で観察して書くという方法です。これ,私の補助プリントの方にあります。4ページの方を見てください。
(6)観察式作文というところがあります。5円玉にどんな絵が書いてあるかを書かせます。こういう何もないところから何があるかを見つけるというのは一番実は難しいんです。動いていたり比べるものがあるといいんですけれども,単体の中らピックアップ*1して書くというのは非常に難しいです。子供は一生懸命書きます。「五円の漢字があります,中ぎざぎざあります,葉っぱあります,線があります」みたいなことを一生懸命書きます。実は,中のぎざぎざは歯車でして,下の横線は水です。葉っぱというのは稲です。つまり,農業,工業,水産業の象徴みたいなのが5円玉にはあるんですけれども,そんな話をしながら「じゃあ,5円玉の裏は?」みたいな形で何が書いてあるかを書かせるということをよくやります。
その次がグラフから何が分かるかというような作文を書かせます。例えば,このグラフでいくと,縦は温度を横は時間をあらわしますとか,一番温度が高いのは何時ですとか,温度は4:00に急に下がりましたとか,そんなようなグラフを見ながら分析して書かせます。これは結構難しいです。

*1 ピックアップ 拾い上げること。選び出すこと。

  (4)想像式作文
  それから,次が想像式作文とか推測式作文という方法です。推論していく作文です。文とか絵を見せてその後の展開とか原因などを推測して書かせる作文です。ネタは与えるんですけれども,モデル文はほとんど与えないという形で,少し難しくなっていきます。例えば,こんな文を与えます。「カズオ君は,ボールを持って公園に行きました。10分ぐらいするとカズオ君は公園から泣きながら出てきました。何があったのでしょうか。」ということを想像させます。そうすると,子供が一生懸命書きます。「公園に悪いの人いました。カズオ君のボール取っただから,カズオ君泣きながら出てきました。」と一生懸命考えて書きます。
あと,浦島太郎の話をして,玉手箱をあけて煙が出てくるところまで話を聞かせて,その続きを書かせます。いろいろなことを書くんですけれども,ある子供は「どろろん,恐い男出てきました。そして,さっき食べたと飲んだ,全部お金ください言いました。」,ぼったくりバーみたいですね。
それから今度こちらの方は絵が書いてありますけれども,これは実はマリリン・バーンズ*1という人の,「考える練習をしよう」というところからとりました。ちょっと,書き込むのを忘れてしまいましたので,著作権違法になるといけないので,マリリン・バーンズの「考える練習をしよう」という本から引用しました。この絵を見てください。そうすると,木が倒れて次の展開,猫が箱から飛び出ようとしてそれを犬が見ています,何か次の展開。男の人の上に鳩が飛び降りようとしているような展開があります。こんなのを見ながら,「猫が逃げると,犬が追いかけます」とか,「犬が追いかけると,おばあさんが転んだになります。」とか,これは,“だるまさんが転んだ”をよくやっていたものですから,子供たちはすぐ「転んだになります」のように言うんですね。「転びました」とか「転ぶようになります」と言えないんです。だから,「おばあさんが転んだと,犬は怒られます。」というように,一生懸命「と」を使いながら想像しながら書いていきます。そんなのもあります。

*1 マリリン・バーンズ 子供のライフスタイルに関する本を多く手がけている作家。詳細は講演者にも不明。

  (5)説明式作文
  それからもう一つ,説明式作文というのがあります。これは,いろいろなものを説明させる作文です。例えば,公衆電話のかけ方が先ほどありました。あれも利用できます。それから,「家までの道案内」や「なぞなぞづくり」なんていうのもいいと思います。子供に「なぞなぞづくり」をさせました。そうしたら,一生懸命子供は書きました。「それは,顔にあります。少し高い。穴2つあります。中に短い毛あります。それから,汚いもあります。なんでしょうか。」鼻なんですけれどもね。鼻といわずに部分をほかの言葉で説明させるという作文です。これも,説明式作文で一生懸命子供たち書いてくれます。
  (6)感想文
  一番,難しいのが感想文なんです。感想式作文,意見を持たせた,感想を持たせた作文,一番難しいです。なかなかこれはできません。でも,私は法律読解シリーズという読解文を書きまして,それで作文を書かせました。平仮名を覚えるのに4か月かかった子がいまして,本当に勉強苦手なんだなという子が,法律読解シリーズのときは生き生きとしてやりました。今,「行列のできる法律相談」とか,「仁鶴の丸くおさめます」(いずれもテレビ番組)というのがあります。あれが,今のように人気が出る前から私は身近な法律問題を教材にして子供にやらせていたんです。文部科学省の委嘱研究委嘱でいろいろ研究をしていましたので,これはいけると思って,「法律読解シリーズ」というものを,ある年度の研究報告書として提出したんです。
ところが,文部科学省に「これは学習指導要領にのっとってないからだめだ」と言われてボツになったことがありまして,あれが世に出ていたら子供たちはとても喜んで,今ごろ読解力を高めていたのに残念に思うんですけれども,確かに余りああいう問題は「文部科学省の研究委嘱の成果です」と世に出すわけにはいかないと思います。でも,割と柔和な問題にはしたんですけれどもね。例えば,法律問題を少し和らげて,「みんなで使ったボール,最後はだれが片づけるか」なんていう問題。それから,お兄さんのお使いで,嫌々ながら鉛筆を買いに行かされたんですが,そこでくじ引きをやったら当たったんです。その景品はだれのもの,弟のものですか,お金を出したお兄さんのものですか,というような問題とか。それから,みんな同じ体操着を着なくてはいけないかという校則の問題とか,何か意見の出やすい問題,そんなものを出していくと感想文も割とうまく出てくると思います。
  (6)文字の教え方
  (1)平仮名の教え方
  それでは,最後に文字の指導です。平仮名と片仮名ですけれども,平仮名,これは覚えさせるしかないです。丸暗記させるしかないです。よく,これはどこのものとは言いませんけれども,平仮名の「ふ」を覚えさせるのに富士山の絵を書いて,富士山の登山道を「ふ」の形にして「ふ」を覚えさせる方法なんてありますけれども,それはこの絵を書いた人が納得しているだけで,子供はこれを見て別に「ふ」だとも何とも思わないんです。平仮名は,とにかく練習させて覚えさせるしかないんです。我々がしなければならないことは,「何回も書く」とか「何回も読む」ということを飽きさせずにやらせることなんです。
その方法としては,一番簡単なのはフラッシュカード*1です。ちらちらっと見せる方法です。同じ文字を何回も子供に見せることはできませんね。「さっき見たよ」って言われます。でも,見せ方を工夫すれば大丈夫です。例えば,最初はちらっと見せた。例えば,最初は,こんな感じでぱっぱっと見せたとします。
次は,自分の着ている服の中,ポケットから文字カードがちらっと出てくる,いろいろなところからいろいろなカードが出てくるとか,それから箱の中にカードを入れて,箱のふたをぱっと取ってぱっと隠すとか。週刊誌と雑誌の中にカードを入れておいて見せるということ,例えばこういうところに入れて,ぱっと開けてぱっとしめるとか。同じフラッシュなんですけれども,フラッシュのやり方を変えるという,非常に子供だましの方法なんですけれども,形を変えるだけで何回も飽きずにやってくれます。
それから,今のは全体を「ぱっ」と見せるやり方でしたけれど,今度は全体を「ぼんやり」と見せる方法です。これは,クッキーの内側に入っていますね。ぷちぷちとつぶし出したらききりがないあれです。あれを紙に張って使っています。奥の方に文字があるんですけれども,よく見えません。でも,1枚ずつとっていくことによってだんだん見えてくるというやつです。これは,ぼんやりしているので,「これはあの文字かな」と思ってじっと見るところでまたよく記憶の再生に役立つんです。
それから,これは全体を見せましたけれども,部分的に見せるという方法もあります。平仮名の部分見せです。これは,簡単だからすぐつくれると思います。例えば,これ。中に文字を書いてただ折ってあるだけです。ちらっ,ちらっなんていう形で何カ所か見せていくんです。当たるまでやっていきます。折り紙に書いてただ折ればいいわけです。これも,面倒くさいという方には,平仮名のカードをマスキングすればいいわけです。こうやっておいてちらちら,ちらちら,これだけでもいいです。一部分を見せて記憶を蘇らせるというやり方です。

*1 フラッシュカード 学習教材で,単語や数字,絵を描いたカード。幼児などの学習者に短時間見せて,反応速度を向上させる練習をする。早期教育などで用いる。

  フラッシュカードの図
  (2)カタカナの教え方
  それから次,時間がないので急ぎます。片仮名の指導です。
片仮名は,平仮名をやっと覚えたのにまた同じようなことやるのかと子供は飽き飽きとしていますので,これは言葉が出てきたその都度その都度ゆっくりやるぐらいのつもりで教えてあげてください。私は,最初に平仮名とそっくりな片仮名(り・リ/へ・ヘ/か・カ/も・モ/や・ヤなど)から教えて,「片仮名は平仮名と似ているのがいっぱいあるでしょう」と言って安心させます。本当は余りいっぱいないんですけれども,そうやってだますんです。そうやって少しずつやっていきます。
  (3)漢字の教え方
  それから,もうちょっと今日は急いでますので漢字にいっちゃいます。
漢字は,私は3つの段階を経て指導していました。1つは,漢字に対して興味をもたせる段階です。漢字ってすごい,こんなのだ。よくアメリカの子供が「山」とか「川」とか「一番」とかいうTシャツを着ていますね。あんなふうに非漢字圏の子供は漢字に結構興味を持っていますので,漢字に興味を持たせるというところをうまく使うのがコツです。山は山の形から,川は川の形からなんていって教えていきます。
しかし,そうやって丸覚えしていくにも限界がありますので,ある程度自分でこの漢字はこういう形で覚えるというような習慣をつけさせることが大切です,漢字の場合は,確かに形とか表意文字ですから,関連付け記憶をやりやすいんです。それも,最終的には子供自身で意味づけをさせるようにします。それまでに,我々は連想させるくせをつけさせます。そのために,いろいろな小道具を用意しておきます。
例えば,「口」は口の形からできていますよということです。次のレベルにいったら,口から音波が出てきます(口から音波が出てくるような細工をしておく)。わあわあわあわあ,音波が出てきます。これを縦にすると,「言う」ですね。こういう小道具を幾つか,全部用意しなくてもいいです。子供がはっとするようなものをいくつか用意しておいてあげると連想力が高まっていいと思います。
  漢字を3つの段階を経て教える図
  これは愛知県の学校で公開授業をしたときに使ったものです。理科の授業をやって,その後「向き」という漢字を教えてあげたかったんです。右向き,上向き,左向きとやっておいて,最後「向き」の漢字ができますとやると,「向き」の感じになるんです。こういう動くものがいいですね。これも「向き」,これも見てはあっと思います。
  「向」の漢字を教える図
  それから,時間がないから幾つか省略して,これも理科の勉強をしていて地球の自転という言葉を勉強したので,理科で自転という字は漢字で書かせようと思ったので,自転車の「転」と同じだよという話をしました。そして,子供が言ったことをちょっといただいて,私がこれを工作しました。自転車のように見えますか。子供のアイデアを私がちょっと工作したんですけれども,こんな形でやっていくと子供もおもしろくて,子供が考えたものをやってあげられます。コツは,こういうものを幾つか用意しておいて,最初は先生がやってみせてあげる。次は,子供と一緒に考える。この漢字はどういうふうに見える,ああ,そうだね。最後は,子供だけに考えさせるというやり方です。
私がいつも紹介している子供文字があるんです。ものすごい子供がいまして,いろいろな連想が考えられるようになりました。あるとき新聞記者の「者」という字が出てきたんです。その子にどうやって覚えようかといったんです。そうしたら,「先生,新聞記者は忙しいよね。忙しいから,新聞記者は土日もなしね」とやったんです。ここまでくればこっちのものです。その子は6か月で800ぐらいの漢字をこういう形で覚えていきました。記憶法というのがあります,何かに関連づけて関連づけていく,自分で一生懸命関連づけるから,ストーリーができるんです。ストーリーができるから忘れないんです。最初に言いましたストーリー性ということです。
それから,もう一つ漢字をユニット*1で組み合わせで覚えさせなくてはいけません。その組み合わせに気づかせる方法です。(団扇を見せながら)表に「日」が書いてあって裏に「門」が書いてあります。それを子供の目の前で回してやります。組み合わさって「間」という漢字ができます。こんなようなものを幾つか用意しておくと,子供が組み合わせで覚えればいいんだなということが分かってきます。そういうのも幾つか用意しておくといいと思います。例えば,これは「立」という漢字ですね。これも,ばたん倒れました。立ちます。これもイメージです。これを利用して,今度は「倍」という漢字なんですけれども,ここからここまで2倍,この「立」という漢字が飛び上がってここにくると,そしてこれをこうやってあげると「倍」になるんです。これも1つ連想で覚えさせたら次は,こういう形で組み合わせをさせるということが大事です。時間がないので,もし興味があったら,後で前の方に見にきてください。時間がもう来てしまいましたのでこれぐらいにしておきます。

*1 ユニット 単元。単位。

  漢字を連想させて教える図1
  漢字を連想させて教える図2
  4.JSLカリキュラム
  あと,JSL*1の話を少しだけさせてください。文部科学省の方でJSLカリキュラムというものをつくりました。カリキュラム*2と言っていますけれども,一般的に我々が今まで知っているカリキュラムと違います。普通,我々の知っているカリキュラムというのは,このときに何を教えて,このときに何を教えて,というように,何を教えるかを全部順を追って書いてあります。JSLカリキュラムはそうではありません。JSLカリキュラムは,「順番」ではなくて「教えるべきこと」,こんな「学ぶ力」はこういうふうに教えたらいい,こういう方法があるよということを提示している資料だと思ってください。
配布したプリントの3ページのところに書いてありますので,後でお読みいただければと思います。JSLカリキュラムの特徴というのが,今までの日本語教育の中にはなかったAU*3という概念です。1時間の授業の中にはいろいろな授業,学習の学ぶ力を使います。例えば比較するという力を使います。比較するという中にもいろいろな場面があって,比較する観点を探るとか,比較して分かったことを話すとか,比較して分かったことの意味を考えるとか,細かく分けられます。JSLカリキュラムというのは,それぞれの「学習活動」とその「学習活動場面で使う言葉」にはこんな言葉がありますよ,「たとえば,こんな教え方」をすると身につきますよというような資料集だと思ってください。ですから,指導者はその資料の中から使えるものを「自分の授業ではこの言葉が使われるな」とか,「この授業では観察する場面が多いんだ,観察するときはどんな言葉を使うだろう」というように,JSLの資料から言葉や学ぶ力を取り出して授業の組み立て方を考えるわけです。詳しいことはまた時間を別の機会におつくりできればと思います。

*1 JSL (Japanese as a Second Language)第二言語としての日本語教育のこと。
*2 カリキュラム 順序立てて編成した教育内容の計画。教育課程。
*3 AU Activity Unitの略。活動単位のこと。

  5.普段からネタを集めておく
  ということで,いろいろ今日お話ししてきました。でも,皆さん多分お気づきになったと思いいます。「あんなのありか」ということです。言葉を教えるのに「何でも使えるよ」ということです。何かを教えるときに,この言葉を教えるときに,何かいいものはないかなと考えるとなかなか見つからないんです。そうじゃなくて,何か見たら「これってこういう言葉の勉強に使えるな」と思ってメモをしておく。そして,その言葉を教えるときがきたら,そのメモを見るということです。「これを教えたいから何かないかな」というとなかなか見つかりませんので,「普段からこれってこれに使えるんじゃない,これってこれに使えるんじゃない」という逆の発想でいかないといけません。そういう見方でものを見ていると結構いろいろなものが利用できます。
これが私がずっと苦労してきたことの真髄といいますか,苦労のなれの果てというか,そういうものです。明日からの,また2学期からの指導に何かお役に立てればなと思います。まだ,私こちらにおりますので,何かご質問等がありましたらお越しください。
それから,あとglobe*1というのを今日お渡ししました。これは,私の方で無料で皆さんに郵送している季刊誌なんです。今,1,300人弱の方にお読みいただいています。もし,ご希望の方がいらっしゃいましたら私の方に送付先をお出しいただければと思います。各学期1回しか出していません。2学期号からお送りいたします。
ということで,一たんここで締めさせていただきたいと思います。どうも,ご清聴ありがとうございました。(拍手)

*1 globe 波多野ファミリスクールで無料配送している季刊誌の名前。

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