令和6年度 近代歴史資料の保存・修理に関する研究協議会 開催報告

主催:文化庁

日程:令和6年11月29日(金)11:00~17:15

会場:文化庁東京庁舎第2会議室

開催次第:別紙のとおり(108KB)

令和6年11月29日(金)に文化庁東京庁舎会議室を会場として「近代歴史資料の保存・修理に関する研究協議会」が開催されました。これは、令和4年度から実施している「近代歴史資料の保存に関する調査研究事業」の調査結果の普及を図るため、当該事業の成果を実技とともに共有し、さらなる研究の深化・技術改善にむけた協議を行うことを趣旨としています。

対象は、文化財(美術工芸品)の修理に携わり、近代歴史資料の保存・修理に主体的な関心を有する技術者です。当日は参加者11名と講師・実技指導者7名、事務局4名も交えて研究協議が行われました。

実施された講義と実技、研究協議の3つの要素について、それぞれをご紹介します。

【講義】

冒頭で文化庁より近代歴史資料の特徴と課題にふれ、当該調査研究事業及び研究協議会の実施目的・開催趣旨等の説明が行われました。

これに続いて、調査研究事業において紙や粘着テープの性質等について研究協力いただいている東京文化財研究所の加藤雅人氏と 同 早川典子氏により、調査結果をふまえた近代の紙の保存修理に関わる問題点や粘着テープの構造、その除去に関連した化学的知識等について講義いただきました。近代の紙の材料やその劣化等について、参加者の関心は高く、研究協議の場でも多くの質問が出されました。

【実技】

調査研究事業を受託する株式会社修護と、ともに調査及び修理事業を実施する株式会社半田九清堂の修理技術者を実技指導者として、加温による粘着テープの除去と、有機溶媒による粘着剤残滓の除去、酵素によるデンプン系粘着物質の分解による除去の実技が行われました。

実技にあたっては、強制劣化をかけた粘着テープのサンプルを準備し、これを各参加者がそれぞれの技法で剥離・除去する体験をしました。

加温による粘着テープの除去1

加温による粘着テープの除去1

加温による除去は、当該事業の調査過程で検討された3種の加温方法(加熱コテ、小型温風器、加温台)について参加者が体験できるよう配慮されました。またデンプン分解酵素(αアミラーゼ)による除去では、わずかな水分量の調整が可能となる混合有機ゲル(ゲランガム)の使用について紹介されました。

それぞれの実技において、実際の修理の場での体験をふまえた工夫や留意点等が実技指導者から共有されています。

また、会場の一角では、調査研究事業で実施した薄層クロマトグラフィーによる筆記具の耐水実験の成果展示もあわせて行われました。

加温による粘着テープの除去2

加温による粘着テープの除去2

混合有機ゲル(ゲランガム)の説明風景

混合有機ゲル(ゲランガム)の説明風景

有機溶媒使用の実技

有機溶媒使用の実技

参加者からは、体験した実技の手法や器材はすぐにでも所属工房で適用できるものであり、また混合有機ゲル(ゲランガム)の使用等は他の修理場面でも応用可能性がありうるという声が寄せられました。また、調査結果の根拠をもって施工することの有用性への気づきなどがありました。

【研究協議】

最後に設けた研究協議の場では、講義と実技をふまえた質問や日頃の実務の中で感じる課題、体験した技術の応用等について活発な意見交換がなされました。近代の様々な材料にかかるデータベースの有用性にかかる意見なども共有されています。また、このような協議の場が様々な価値観や意見・技術を交換する機会となり、日本の近現代の文化財修理技術を深化させることにつながるという声も寄せられました。

(文化庁文化財第一課)

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