実施内容

実施内容〔外国人に対する実践的な日本語教育の研究開発〕

別紙

1 事業の趣旨・目的

 近年,日本社会における定住化が増加傾向にある日系外国人(デカセギと呼ばれる外国人労働者)のほとんどは,間接雇用の労働状況下にあり,日本語でのコミュニケーション不足が原因で労働現場や地域で様々なトラブルに発展するケースが起きている。では,彼らが日本社会において豊かに暮らすために必要とされる円滑なコミュニケーションとは何か,そのために必要な日本語能力等はどの程度のものなのか,これらを考えるために,多くの日系外国人が勤務する製造業の労働現場で基本的な調査を行う。
 この調査では,企業における共生社会を推進するために必要な日本語教育を充実させることを目的とし,外国人に関わる社会全体の成熟を図っていく。また,外国人労働者を受け入れている企業を対象とすることから,学際的な観点の指導助言を受け,地域日本語教育の発展に寄与する実践的な日本語教育カリキュラムの研究開発を地域住民の協力により実施する。これに基づき,企業における日本語教育教材の開発及び日本語ボランティア等の指導方法の資質向上を促進させ,企業のモデルケースを探ることにつなげ,企業・地域・行政と三者連携のあり方についての示唆を提供する。

2 企業日本語カリキュラム開発検討委員会の開催について

概要 企業における南米系外国人労働者のための日本語教室において汎用的に活用できるカリキュラムの開発を目的に,有識者,企業関係者,日本語ボランティア等が協議,検討を行う。

● 第1回企業日本語カリキュラム開発検討委員会

開催日 平成19年10月12日(金) 名鉄ホテル
出席者 委員長: 春原憲一郎(海外技術者研修協会日本語教育センター長)
委員: 石岡修(ヤマハ発動機株式会社IMカンパニー事業推進部長)
白井宏樹(浜松商工会議所理事,事務局長)
宮司恭子(浜松日本語センター所長)
中村利恵子(浜松国際交流協会日本語ボランティア)
永井昌己(中日新聞東海本社編集局報道部長)
斉藤慎五(浜松市企画部長)
飯尾忠弘(浜松国際交流協会専務理事)
オブザーバー: 柳澤好昭(国立国語研究所日本語教育情報基盤センター長)
検討委員会の様子

議題

  • ・企業における外国人労働者を対象とした日本語教室のためのカリキュラム開発について協議。
  • ・外国人労働者の生活労働環境の実態調査,外国人集住地区と企業所在地区の2地区に在住する外国人と日本人の住民意識調査,外国人労働者の言語調査の実施について。
● 第2回 平成20年2月6日(水)

出席者:同上,オブザーバー 神吉宇一(日本語教育学会) 以上,10人。

【議題】調査部会の調査中間報告

● 第3回 平成20年3月23日(日)

出席者:同上。

【議題】研究部会の研究報告。アウトラインの作成について

● 第4回 平成20年3月31日(月)

出席者:同上。

【議題】事業の振り返りと評価。今後の課題について

検討委員会の様子その1 検討委員会の様子その2

3 企業における日本語教育カリキュラムについて

 今年度は,企業や地域の諸事情により調査期間が大幅に短縮されたことから,次年度に向けての試行的なプレ調査と位置づけた。しかし,その内容を深めて充実させ,製造業を主とする企業における日本語教育に役立つカリキュラムの作成を目標とした。とはいえ,汎用性を持たせるための十分な調査結果に至らず,今回は予定を変更し,カリキュラムアウトラインの作成に至った。その概要は以下のとおり。
 企業のニーズは外国人従業員が日本語能力を習得することで,日本人従業員とコミュニケーションが生まれ,生産性と品質向上につながることにある。また,豊かなコミュニケーションは,従業員同士の交流と相互理解による信頼関係の構築から,積極的な「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」がなされ,職場内の人間関係がより良くなる。つまり,外国人従業員が正確な日本語文法を使いこなせず単語の羅列による発話であっても,本人が言おうとしていることが相手に伝わるようになることを期待している。一方,外国人は日本語教室に対して,楽しく参加し,「言いたいことが言えるようになりたい」という要望が強い。また,残業や家庭の事情等で教室に参加できないと学習の中断を余儀なくしてしまうため,1度や2度欠席しても気軽に参加できるような環境での日本語教室スタイルが求められる。さらに,日本語のみならず,日本文化に対する関心も非常に高い。
 以上のことから,企業における日本語カリキュラムは,まず社内の外国人従業員のニーズと状況把握を行うための調査を十分に行い,企業と日本語ボランティアとが確かな連携と協働を図り,日本語教室を展開していく必要がある。また,その教室では日本人従業員や地域住民との交流を推進し,日本社会に適合していくための日本の文化と習慣を知る機会としての役割を持つ。日本人従業員も日本語教室に参加し,自らの日本語がいかなるものか,外国人従業員の立場にたち,自らの日本語発話を見直し,相互にとってより理解しやすい話し方を学ぶ必要があるだろう。つまり,外国人従業員の日本語学習は,個人の一定期間による能力の向上を目指すのではなく,日本語を使って日本人と気軽にコミュニケーションができる手段の習得を目指す。
 こうしたことからも,日本語ボランティアによる企業内日本語教室は,従来の文型積み上げ型ではなく,さまざまなシチュエーションを設けた場面・機能シラバスによる学習指導が適していると考えられる。これにより,外国人にとっては「ある場面での言いたかったこと」を実践的に学ぶことができるばかりでなく,職場上と生活上で日本語での会話が必要な場面の抽出がされるために,日本の習慣の理解不足や意思疎通の不具合で生じるトラブルに対する対処法を身につけることができる。そして,このことは企業にとって社会的責任を果たし多文化共生に寄与する日本語教室を成立させる。

詳細は別冊報告書参照のこと

4 地域連携に関する計画

課題

南米系外国人労働者を対象にした企業における日本語教育カリキュラムを基に,企業と地域の連携による日本語教育事業の充実を図る。

目標

3カ年計画
1年後; アウトラインの作成。
2年後; アウトラインから教材の開発につなげる。また,前年度の調査の内容を深め,対象者を広げ,汎用性の高いカリキュラム開発を目指していく。地域日本語連携推進協議会(文化庁19年度委嘱事業「連携推進活動」)との連携により,企業における日本語教育の促進を図る。
3年後; 日本語ボランティアの資質の向上を促進させ,企業と地域の連携による日本語教室を充実させ,多文化共生社会づくりにつなげていく。
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