実施内容

実施内容〔外国人に対する実践的な日本語教育の研究開発〕

別紙

1 事業の趣旨・目的

 日本に定住する外国人の多くは,様々の事情で定期的に多くの時間を日本語の学習に割くことができない。こうした人々の日本語学習のニーズに応える目的で開かれている地域の日本語教室の多くは,学習者の定着率が低い,学習者の出席が不定期であるという問題を抱えている。また,仕事や生活のパターンが変わって学習の継続ができない学習者や,日本語教室が学習ニーズに応えていないという認識を持ってやめていく者も相当数ある。
 限られた時間で基本的な日本語の知識を身につけるには,学習者自身が自分の学習に ついて選択を行い,主体的にかかわっていく必要がある。そのためには,学習者自身が自律的に,あるいは,必要なら地域の支援者の助けを得ながら何をどう学ぶかの選択を行うことを可能にするリファレンスが必要である。
 そこで,本委嘱研究では,以下の調査・開発・作成事業を行うことを目的とした。

  • (1)カリキュラム等開発の資料とするため,国内外における移民・難民・定住者等への自国 語教育の状況を調査する。
  • (2)個々の学習者の状況にオーダーメイド(個別)に対応でき,かつ,地域横断的に活用できる学習者のコミュニケーション・ニーズに即した「モジュール型カリキュラム」を開発する。
  • (3)学習者が自分の学習にイニシアティブをとり,生活の中で日本語を学んでいく手助けとなる学習ツール『日本語ポートフォリオ』(青木,2006)のポルトガル語版,スペイン語版を作成する。
  • (4)モジュール型学習サポート・システムを構想し,モジュール型カリキュラムと学習ツールの活用の仕方を示す。

2 委員会の開催について

概要
運営委員会(16名) 会議全3回
調査委員会(15名) 会議全2回
翻訳委員会(8名) 会議全2回
編集委員会(11名) 会議全2回
モジュール型学習サポート&システム構想委員会(10名) 会議全4回

※委員会名簿及び開催の詳細は事業完了報告書に記載

委員会の様子 その1 委員会の様子 その2
(委員会風景)

3 調査研究・内容について

(1)国内外における移民への自国語教育の調査

国外では,オーストラリア(ニューサウスウェールズ州)の移民への自国語教育(Adult MigrantEnglish Program),カナダ(ブリティッシュ・コロンビア州)の移民への自国語教育(EnglishLanguage Services for Adults Program)に関して,訪問調査及び文献調査を行った。ヨーロッパについては,フランス,デンマーク,イギリス,ドイツ,オランダ,オーストラリア,アイルランドとカナダのケベック州を中心に文献調査を行い,国内は,外国人への言語施策,定住者等への日本語教育の学習項目に関して文献調査を行った。

(2)「モジュール型カリキュラム」の開発

「モジュール型カリキュラム」とは,ここでは,学習者の現実的なコミュニケーション・ニーズと学習の柔軟性,透明性,妥当性を確保するための媒体となる学習内容例のリストを指す。したがって,コースデザインの一部としての学習内容や方法ではない。日系人等の学習の当事者が個人のレベルにおいて,あるいは,地域レベル,日本語教室レベルにおいて,それぞれのニーズに即した学習の計画を立てたり,学習の当事者が必要に応じて学習タスク,アクティビティを行ったりするときのリファレンスとして機能するものをいう。

具体的には,

  1. 1.生活の安定や保持,精神面の充実のために日本語を使用する必要がある「社会的場面・話題」
  2. 2.そこでのコミュニケーション・ニーズを満たす日本語能力 (レベル)の記述,及び
  3. 3.「行動リスト」の一覧からなる。「行動リスト」は,日本語を使用する必要のある特定の社会的場面において,日本語で何ができるか(Can-do-statements)の詳細を示した一覧で,ポルトガル語版,スペイン語版を開発した。開発にあたっては,日本社会で生活する日系ブラジル人へのフォーカス・グループ・インタビューをもとに,具体的行動リスト(試作版)を作成し,アンケート調査(有効回答数126)によって,必要な具体的行動リストを選定した。

(3)学習ツールの作成

学習ツール『日本語ポートフォリオ』(青木,2007)のポルトガル語版,スペイン語版を作成した。『日本語ポートフォリオ』は,European Language Portfolio (Little & Perclová, n.d.; Schneider &Lenz, n.d.)の考え方を踏襲したもので,学習者が自分の学習にイニシアティブをとり,生活の中で日本語を学んでいく手助けをするとともに,日本語と学習者の母語で同じ内容,レイアウトのバージョンを用意することで,学習者と日本語ボランティアの意思疎通の媒介にすることも狙っている。翻訳にあたっては,バック・トランスレーションを行うとともに,ポルトガル語版,スペイン語版の意味の等価のチェックも行った。

(4)モジュール型カリキュラムと学習ツールの活用方法の提案

「モジュール型学習サポート・システム」を構想し,モジュール型カリキュラムと学習ツールの活用方法を示した。

4 地域連携に関する計画

課題

 日系人とその家族の人たちが,自らの日本語学習のイニシアティブをとって自分のニーズに合った学習をデザインしていけるツールと,それをサポートするための母語によるアドバイジング,さらに学習者が自分で検索できるリソースや学習方法の選択肢という3つの柱が学習をサポートするモジュール型学習システムの構築

目標

3カ年計画
1年後;
  1. 1. 学習の当事者,日系人コミュニティ,地域の日本語教室,日本語学校等と連携し,学習リソースを整備する。
  2. 2. 日系人コミュニティ,企業,自治体,公的機関(国際交流センター,公民館など)と連携し,Web上にリソースセンターを設け,モジュール型カリキュラム(具体的行動リスト)とその学習リソース(学習ツールを含む)を置く
  3. 3. 学習の当事者,日系人コミュニティ,地域の日本語教室,日本語学校,自治体等と連携し,学習者の母語でリソースの使い方のアドバイジングができる学習アドバイザーの養成を行う
  4. 4. 自治体等行政機関,公的機関,外国人受入企業と連携し,遠隔地の学習者でもアドバイザーと相談できるWebによるアドバイジング・ネットワークを構築する
2年後;
  1. 1. 学習の当事者,日系人の学習アドバイザー,地域の日本語教室,日本語学校と連携し,日本語によるコミュニケーション能力をさらに向上させることを希望する学習者へのリソースおよび学習相談サービスの提供を行う。
3年後;
  1. 1. 学習の当事者,言語テストの専門家(日本語教育学会),日本語学校等と連携し,Web上で行える日本語自己診断ツールを開発する
  2. 2. 学習の当事者,日系人コミュニティ,自治体,NGOと連携し,言語とともに行動能力を支える一般能力(社会文化能力)を向上させるための日本社会・文化に関する知識の母語による提供を行う
  3. 3. さまざまな外国人の学習者とそのコミュニテイ,地域の日本語教室,自治体,公的機関,日本語学校等と連携し,以上の成果を日系人のみならず,広く生活者としての外国人のためのモジュール型学習サポートシステムへと展開するための具体策を検討する。
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