文化芸術活動に関する法的問題についてよくあるご質問

文化芸術分野における契約や活動に関係して生じる問題やトラブル、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン」等について、よくあるご質問をまとめています。

ご相談の前にご確認ください。

併せて下記の注意事項についてもご確認ください。

注意事項
  • 「文化芸術活動に関する法的問題についてよくあるご質問」に掲載した情報は、更新時(令和5年10月時点)で把握している情報をもとにしております。「文化芸術活動に関する法的問題についてよくあるご質問」においては、基本的に事実情報を提供することを目的としております。
  • 裁判例については、解釈にまで踏み込んだ情報提供をしている部分もございます。一般的な解釈がこの通りであることを保証するものではありませんのでご注意ください。
  • 「文化芸術活動に関する法的問題についてよくあるご質問」は、一般的な解釈に基づく情報を掲載しておりますので、具体的な事情や契約の背景により結論が変わる可能性があります。詳細については法律の専門家にご相談されることをお勧めします。
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  • 1 契約に関する基本的なこと
  • 2 契約締結にあたっての注意点
  • 3 契約中~契約終了後のトラブル
  • 4 契約解消をめぐるトラブル
  • 5 契約に反映すべき権利関係(著作権等)について
  • 6 その他(税金やインボイス制度など)

1 契約に関する基本的なこと

1-① 「契約」とはつまりどういうことですか。

契約とは、当事者間に権利や義務を発生させる合意であり、法的な拘束力を有するものをいいます。例えば、ある仕事に対して、一定の金額を支払うことを当事者間で合意すれば、これが契約となります。

他方、法律は、その内容に合意するか否かを問わず、その定めに従うことを要求される法的なルールを意味します。

一般に、契約(当事者間の合意)は、法律の定めに優先するとされ、法律の定めは契約(当事者間の合意)を補完するものと位置付けられます。ただし、一部の法律の定めについては、契約(当事者間の合意)に優先して適用されるものもあります。特に、当事者の一方にあまりにも有利な契約(合意)は、場合によって、法律により無効となる可能性があります。

1-② 口約束でも契約になりますか。

一部の例外を除き、原則として、契約は、口約束であっても有効に成立するとされます。

ただし、口約束での契約については、後日、その約束の内容に争いが生じた場合、当事者間でどのような約束をしたかを客観的に示すことができないという大きなデメリットがあり、いわゆる「言った、言わない」の問題に陥る可能性が極めて高いと言わざるを得ません。

そのため、契約をする場合には、できる限り書面を作成して、その内容を明らかにし、後日の「言った、言わない」の問題を避けるため、客観的にその内容を示すことができるように備えることが重要です。

1-③ 「覚書」にサインをするように言われました。これは契約したことになるのですか。

書面により契約を行うにあたって、そのタイトルに法律上の制限はなく、「契約書」、「覚書」、「合意書」等のいずれのタイトルであっても、契約として有効に成立します。

また、「発注書」や「依頼書」といった、当事者の一方のみがサイン(署名)や押印をし、他方にこれを交付する形式の書面もありますが、このような形式の書面であっても、書面を交付された当事者がその内容に口頭で同意や承諾をするほか、合意の成立を前提とした行動をとることにより、双方のサインや押印がなくとも契約として成立します。

いずれにしても、契約の内容が記載された書面へのサインや押印をすれば、正式に契約が成立し、その書面に記載された内容に法的に拘束されることになり得ますので、サインや押印を行うにあたっては、その内容に十分注意することが必要です。

1-④ メールやSNS、メッセージアプリを用いたやり取りでも、契約は成立するのでしょうか。

契約を成立させる書面の形式に定めはありません。例えばメールやSNS、メッセージアプリを用いたやり取りでも契約は成立し得ます。

しかし、これらのやりとりでは、

①契約成立の時点があいまいになる可能性がある。

②契約条件等について不明確さを残す可能性がある。

③後日に、相手方からメール等でのやりとりを根拠として、意図せぬ契約条件に合意したと主張されてしまう可能性がある。

④特に相手方が企業等の法人である場合、メール等の内容は担当者限りの意見であり法人として正式に決定した内容ではない等と言われる恐れがある。

といった問題があります。

そのため、「契約書」、「確認書」、「発注書」といった名称は問いませんので、契約条件を可能な限り具体的に明記した紙媒体へ双方が署名押印すること、若しくは電子署名を用いた電子契約を行うことにより、一定の内容に関する双方の合意を一義的・明示的に証明できるようにすることが、後日のためにはより望ましいと言えます。

とはいえ、口頭のみの場合と比較すれば、メールやSNS、メッセージアプリでも客観的な証拠になり得ますので、もし契約書等の正式な書面が用意できない場合であっても、最低限の証拠として残すようにしましょう。

1-⑤ 電子契約とはどのようなものでしょうか。

「電子契約」という場合、電子署名技術を利用した電子契約サービスを使って締結される契約を指すことが多いでしょう。その他、そういったサービスは使わないものの、製本した紙の契約書を作成せずに、PDF等の電子ファイルをやりとりするのみで締結する契約を指して「電子契約」という場合もあります。いずれの形式であっても、有効に契約が成立します。電子契約の場合には、印紙の貼付が不要になるというメリットがあります。

1-⑥ 契約は「業務委託で」と言われました。業務委託とは、どのような意味でしょうか。

民法上、「業務委託」という名称の契約は定義されていませんが、一般的には、雇用関係のない相手から業務の委託を受け、報酬を得るものを指していると考えられ、その内容は様々です。芸術家等が受注する取引の場合、通常は「請負」又は「準委任」のどちらかに該当することが多いです。

「請負」とは、受注者には「仕事を完成」させる義務があり、それに対して報酬が支払われるという内容の契約形態です。受注者は「仕事を完成」できなければ債務不履行責任を負うことになりますし、納品後も成果物に関する責任(担保責任と言います)を負います。そのため、何らかの成果物の納品を目的とする取引は、「請負」に該当することが多いでしょう。この場合、原則として成果物が完成されるまで報酬は支払われませんし、依頼どおりの成果物が納品されたかが重要となります。

「準委任」とは、業務遂行それ自体が債務の履行であるという内容の契約形態であり、必ずしも成果物の完成を目的としません。報酬も、業務を遂行したことに対して支払われます。役務提供自体を目的とする取引は、「準委任」に該当することが多いでしょう。また、業務遂行にあたっては、善管注意義務と呼ばれる通常要求される程度の注意を払う必要があります。

もっとも、準委任契約であっても、報酬の支払自体は、委任事務の処理の結果として成果物が提供された時とするという合意がある場合もあります(いわゆる「成果完成型準委任」)。それだけであれば、成果物に対する責任を負うわけではありませんが、たとえ「準委任契約」と題していても、成果物に対する責任が条文として明記されている場合もあり得ます。

そのため、「業務委託」、「請負」、「準委任」といった、題名や形式的な表現に捉われることなく、契約の中身、特に、どのような業務を遂行する義務があるのか、何をしていないと債務不履行責任を負うのか、何に対して報酬が発生するのかといった点を、慎重に吟味する必要があります。

1-⑦ 仕事を依頼されましたが、私はアルバイトやパートではなく、労働者ではないとのことでした。どういうことでしょうか。

芸術家等は、個人として、すなわち個人事業主(フリーランス)として活動している方が多く、基本的には正社員・アルバイト・パートのような「労働者」として労働関係法令の保護を受けることはできません。もっとも、「労働者」としての保護を受けるかどうかは、個々の働き方の実態に基づいて判断され、フリーランスや業務委託といった名称で決まるものではなく、実態によっては、芸術家等が労働者に該当するということもあります。

労働者に該当するかどうかは、「使用従属性」が認められるかどうか、すなわち、①労働が、他人の指揮監督下において行われているかどうか(他人に従属して労務を提供しているかどうか)、②報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか等によって判断されます。契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づいて労働者かどうかが判断されますので、たとえ取引先から労働者と扱わないと言われた場合であっても、これらの要件を充たす場合には労働者に該当し、労働基準法等の労働関係法令に基づくルールが適用されることになります(『フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)』17頁以下参照)。

詳細は、文化庁Webサイト「個人で活動するということ」もご参照ください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/kibankyoka/kisochishiki/kojindekatsudo/index.html

1-⑧ 私はフリーで活動する芸術家ですが、取引先との契約のなかで、自分の身を守るために知っておいた方がよい法律やガイドラインはどのようなものがありますか。

まず、「民法」や「商法」は、契約に関する一般法として最も重要です。

次に、優越的地位にある事業者(発注者)が、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当な不利益を与える行為(=「優越的地位の濫用」)等の禁止を定める「独占禁止法」、また発注者・受注者の資本金規模や取引の内容によっては、下請代金の支払遅延や減額の禁止等を定める「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)の保護を受けられる可能性もあります。

さらに、実質的に発注者の指揮監督下の労働であり、使用従属性が認められる等の事情がある場合には、たとえ雇用契約・労働契約を交わしていなかったとしても、「労働関連法規」(労働基準法、労働契約法、労働組合法等)の保護を受けられる可能性もあります。

芸術家が生み出した作品(成果物)や自らの役務提供(実演)の権利という点では、「著作権法」も重要です。

また、フリーランスが安定的に業務に従事することができる環境の整備を目的として、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が、令和5年4月28日に成立し、令和5年5月12日に公布されました。なお、この法律は公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日までに施行されることとされ、それまでに施行令(実施にあたってのルール)等が定められますので、こちらの動向についても注意が必要です。

法律等の法令以外に、法律の解釈や判断基準を国が示すものとして「ガイドライン」が存在します。ガイドラインとしては、業種・分野に限定されない一般なものとして、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」(令和4年7月27日付。文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」)、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月26日発表。内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)、「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(平成29年6月16日改正。公正取引委員会)があります。特定の業種・分野については、例えば、「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」(令和2年9月末改訂。総務省)、「アニメーション制作業界における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」(令和元年8月改訂。経済産業省)が存在します。芸術家等やフリーランスに関する芸術関係の契約に限るものではなく、むしろ企業間の取引が想定されているものではありますが、「知的財産取引に関するガイドライン」(中小企業庁)もあります。

1-⑨ 一部の法律の定めについては、契約(当事者間の合意)に優先して適用されるものもあると聞きました。具体的には、どのようなものがあるでしょうか。

主として以下の法律が考えられます。民法における公序良俗違反、下請法における支払期限等、独占禁止法における優越的地位の濫用等について、概要と具体例を解説します。

(1)民法

契約の一般法である「民法」は、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効とすると定めています(民法90条、いわゆる「公序良俗」)。そのため、たとえ契約として当事者間で合意していたとしても、公序良俗に違反する条項は無効となります。また、同法は「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」とも定めています(同1条2項、信義誠実の原則又は信義則)。信義則は、裁判例上、契約の趣旨を解釈するにあたっての基準となるとされています。さらに、同法は「権利の濫用」も禁止しています(同1条3項、権利濫用の禁止)。そのため、たとえ契約として当事者間で合意している事項であっても、契約上の権利を行使することが権利の濫用に該当するとして認められない可能性があります。

(2)下請法(下請代金支払遅延等防止法)

下請法は、親事業者の下請事業者に対する取引を公正にし、下請事業者の利益を保護する目的で制定された法律です。その目的達成のために、親事業者の禁止行為を列記しています(①受領拒否、②下請代金の支払遅延、③下請代金の減額、④返品、⑤買いたたき、⑥購入・利用強制、⑦報復措置、⑧有償支給原材料等の対価の早期決済、⑨割引困難な手形の交付、⑩不当な経済上の利益の提供要請、⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直し)。これらの禁止行為が行われると、たとえ下請事業者が同意していても、また、たとえ親事業者が違法性を認識していなくても、当該行為は違法となります。

契約締結の場面では、特に上記②下請代金の支払遅延に関連して、下請代金の支払期日は、納品日又は役務提供日から60日以内かつ「できる限り短い期間内」と定められなければならず、もしそれよりも長い支払期限が契約上定められていたとしても、納品日又は役務提供日から60日を経過した日の前日が支払期日とみなされる(下請法2条の2)という点が重要であり、有効活用できると思われます。

詳細は、公正取引委員会のWebサイト等をご参照ください(「下請法の概要」)。

https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html

(3)独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)

独占禁止法は、事業支配力の過度の集中を防止し、事業活動の不当な拘束を排除することで、公正かつ自由な競争を促進させるという目的で制定された法律です。その目的達成のために、事業者に「不公正な取引方法」を禁止します(独占禁止法19条)。これらに違反すると、公正取引委員会から当該行為の差止め等を命じられる可能性があります(同20条。「排除措置」)。「不公正な取引方法」の内容については、公正取引委員会が告示によってその内容を指定しており、特に「優越的地位の濫用」が、契約締結の場面で役立つと思われます。「優越的地位の濫用」とは、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、対価の支払いを遅延させたり減額させたりするなど、相手方に不利益になるように取引条件を変更したりすること等を指します(同2条9項5号イ~ハ)。優越的地位の濫用に該当する契約の条項は、民法90条が定める公序良俗違反として無効になる可能性があります。

詳細は、公正取引委員会のWebサイト等をご参照ください(「独占禁止法の概要」)。

https://www.jftc.go.jp/dk/dkgaiyo/gaiyo.html

また、令和5年4月28日に成立し、令和5年5月12日に公布された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)についても参考に概要をお知らせします。

「フリーランス・事業者間取引適正化等法」は、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備することを目的としています。

この法律では、その目的を達成するために、①発注者は業務の内容、報酬額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならない、②報酬の支払期日は、納品日又は役務提供日から60日以内にしなくてはならない(再委託の場合は、元委託者から発注元が支払いを受ける日から30日以内)、③一定期間以上継続する業務の場合は受領拒絶や報酬減額等をしてはならず、また内容の変更又はやり直しをさせて受託者の利益を不当に害してはならない、④継続的な業務委託を中途解除又は満了後更新しない場合には、30日前までに予告しなければならない等の規定をしています。

法律の施行後において、特に上記①、②に関する法の定めは、契約締結の場面でも有効活用できると思われます。

この法律は公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日までに施行され、それまでに施行令(実施にあたってのルール)等が定められますので、こちらの動向についても注意が必要です。

2 契約締結にあたっての注意点

2-① 契約が大事なのは分かりましたが、具体的にどのような内容を用意すればよいのか分かりません。何かひな型のようなものはありませんか。

行政機関が公開しているひな型としては、下記の例があります。

  • 文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」がまとめた「ガイドライン(検討のまとめ)」(令和4年7月27日付)に、「スタッフの制作や技術等に関する契約書」のひな型例及び解説(12頁以下)、「実演家の出演に関する契約書」のひな型例及び解説(23頁以下)が掲載されています。
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/bunka_geijyutu_bunya/pdf/93742601_01.pdf
  • 文化庁ホームページ内「芸術家等実務研修会」のページでは、個人で活動する芸術家等及びその発注者の立場になる方が適正な契約関係構築のため必要な知識を身に付けられるよう、これまでに開催された各分野の研修会で用いたテキスト(契約書のひな型等を含む)や動画教材が公開されています。
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/kibankyoka/kenshukai/index.html
  • 「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月26日発表。内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)には、同ガイドラインに基づく成果物作成型の契約書のひな型例及びサンプル(36頁~41頁)が掲載されています。
    https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000759477.pdf#page=36
  • 文化庁「著作権契約書作成支援システム」(令和4年4月1日更新)では、著作権に関連するものとして、「講演・パネルディスカッション・座談会」「演奏会、上演会などにおける実演」「原稿の執筆」「イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)」「ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修用映像等)の作成」「写真の撮影」「音楽の作成」「舞踏、無言劇の作成」「既存の原稿(エッセイ、詩、小説など)やイラスト、写真、自作の楽曲・映画、舞踏(ダンス)・無言劇などの利用許諾」の契約書ひな型が用意されています。
    https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template/

その他、各業界団体・協会等が公表している例もあります。

芸術家等やフリーランスに関する芸術関係の契約に限るものではなく、むしろ企業間の取引が想定されているものではありますが、中小企業庁が「知的財産取引に関するガイドライン」及び各種契約書のひな型を公表しており、そのなかには「秘密保持契約書」のひな型もあります。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/chizai_guideline.html

2-② ガイドライン等のひな型を参照に契約書案を作成し、発注者と交渉しましたが、契約書ではない発注書等が提示されました。記載されている内容も取引先に都合の良い事項ばかり記載されています。どうすればガイドラインを参考にした契約を交わしてもらえるでしょうか。

取引先は、一般に契約に関する経験・知識が豊富と思われますから、慎重に対応する必要があります。

取引先から提示された発注書等の内容に納得できないのであれば、出演依頼書等の内容を承諾する旨の書面を提出したり、その旨メールを送信したりすることは控えてください。そのような書面やメールを取引先に送ってしまうと、発注書等に記載された内容の契約が成立してしまうためです。そのうえで、改めて取引先に出演条件について交渉したいという意向を伝えましょう。

2-③ 取引先から作品(成果物)の制作/出演を依頼されたので、報酬等の見積もり額、納期、その他取引に当たっての条件をメールで提示したところ、承諾する旨の返信を得ました。別途、契約書は作成した方がよいのでしょうか。

契約は、必ずしも契約書等の書面のみならず、口頭による合意でも成立することになります。また、書面の形式にも限定は無く、例えばメールのやり取りでも合意は成立し得ます。

しかし、メールのやりとりでは、

  1. 契約成立の時点があいまいになる可能性がある。
  2. 契約条件等について不明確さを残す可能性がある。
  3. 後日に、相手方からメールでのやりとりを根拠として、意図せぬ契約条件に合意したと主張されてしまう可能性がある。
  4. 特に相手方が企業等の法人である場合、メール等の内容は担当者限りの意見であり法人として正式に決定した内容ではない等と言われる恐れがある。

といった問題があります。

そのため、「契約書」、「確認書」、「発注書」といった名称は問いませんので、契約条件を可能な限り具体的に明記した紙媒体へ双方が署名押印すること、若しくは電子署名を用いた電子契約を行うことにより、一定の内容についての双方の合意を一義的・明示的に証明できるようにすることが、後日のために重要となります。

2-④ これまでに取引のなかった新規取引先から作品(成果物)の制作/出演依頼を受け、契約書を取り交わすことになりました。その際に注意すべき点はありますか。

あらかじめその取引先とよく協議をしたうえで、業務の具体的な内容、報酬の額・支払時期・支払方法、著作権や著作隣接権などの権利関係、出演依頼の場合は不可抗力による公演等の中止・延期による報酬の取扱いなどを明確にしておく必要があります。

詳細については、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」(令和4年7月27日付。文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」)をご参照ください。

(概要)

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/bunka_geijyutu_bunya/pdf/93742601_02.pdf

(本文)

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/bunka_geijyutu_bunya/pdf/93742601_01.pdf

2-⑤ 取引先から、自社の競合となる企業と取引してはいけないと言われ、提示された契約書案にそのような規定がありました。どのような点に気をつければよいでしょうか。

取引先の競合となる企業と取引してはいけないという取引制限規定が契約書のなかに設けられることがあります。この場合、一般的には、報酬には競合企業と取引しないという不作為への対価(拘束料)も含まれることが多いでしょう。

もっとも、拘束料を含むことを前提としてどれくらいの金額で合意できるかについては、制限の対象範囲(同種商品に関するものだけか、同種商品を取り扱う競業「企業」まで含むのか)や、制限がかかる商品数、受注者(制作者や出演者)の知名度、制限される期間などの諸条件の具体的内容によっても変わってきます。

契約を結ぶ際には、これらの諸条件が明確か、取引制限の対価として適切な金額が設定されているといえるか(報酬に反映されているか)等に留意して、注意深く確認する必要があります。

2-⑥ 契約書には、契約の解除や損害賠償についても記載した方がよい旨の話を聞いたことがあります。これらの内容を契約書に記載することで、不測の事態が起きた際にどのような効果を得られるのか教えてください。

(1)解除条項

民法上、当事者の一方に債務不履行があり、相当の期間を定めた催告を受けてもなお履行がなされないときは、相手方は契約の解除ができると定められています(民法541条)。また、債務の全部の履行が不能であるときや、債務者が全部の履行の拒絶意思を明確に示しているとき等は、相手方は催告をせずに契約が解除できるとも定められています(同542条)。

解除について契約書に明記していなかったとしても、民法の上記規定が適用されますので、民法に従って契約を解除することができます。

しかし、どのような場合に解除できるかについて、当事者間で民法と異なる特約で合意し、契約書に記載することも可能です。

例えば、催告をせずに解除できる場合(無催告解除ができる場合)を民法よりも広く定めることや、相手方の支払能力等に信用不安が生じた場合等を解除事由に加えることが考えられます。

(2)損害賠償条項

民法上、債務者に債務不履行があるときは、債権者はこれによって生じた損害の賠償を請求できると定められています(民法415条)。

損害賠償について契約書に明記していなかったとしても、民法の上記規定が適用されますので、民法に従って損害賠償請求をすることができます。

しかし、どのような場合に損害賠償義務が生じるのか、損害賠償義務を負う金額や範囲の上限を設定するのか等について、当事者間で民法と異なる特約で合意し、契約書に記載することも可能です。

例えば、損害賠償義務を負う場合の金額について、上限を請負代金と同額にすることや、賠償されるべき損害の範囲から特別利益や逸失利益を除外すること、違約金を定めること等が考えられます。

2-⑦ 契約書には、契約の中途解約を想定した条項についても記載した方がよい旨の話を聞いたことがあります。これを契約書に記載することで、不測の事態が起きた際にどのような効果を得られるのか教えてください。

民法上、委任契約の場合は、各当事者がいつでも解除することができるが(民法651条1項)、相手方に不利な時期に解除した場合には相手方の損害を賠償しなければならないと定められています(同651条2項)。また、請負契約の場合は、請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して、契約を解除することができると定められています(同641条)。ついては、契約の中途解約について契約書に明記していなかったとしても、民法の上記規定が適用されますので、民法に従った請求をすることができます。

しかし、どのような場合に契約を中途解約できるのか、中途解約された相手方はどのような損害を請求できるのかについて、契約書に明確に記載することでより分かりやすくなり、予測可能性が高まりますので、紛争発展を予防する効果が期待されます。また、当事者間で民法と異なる特約で合意し、契約書に記載することも可能です。

例えば、成果物の制作・納品を目的とする契約において、途中まで作成した成果物(中途成果物)に対する対価をどのように考えるのか、一定期間練習して本番に臨む出演契約において、本番前に出演が取りやめになった場合の対価をどのように考えるのかなど、不測の事態を想定した対応について契約書に明記しておくこと等が考えられます。

2-⑧ 発注者から示された報酬があまりにも低いと感じます。立場上、受け入れないといけないのでしょうか。

報酬や対価も、契約で合意すべき内容の一つです。発注者から示されたとしても、受注者が受け入れなければ合意は成立しません。しかし、金額が提示されているにもかかわらず、それに異議を唱えないうちに実際の業務が始まったり、計画が進んでしまったりすると、その金額で(黙示による)合意が成立しているとされてしまうことがあります。そのため、金額に納得できないのであれば、その時点で明確に相手方に異議を述べることが大切です。

また、発注者が取引上優越した地位にあり、金額交渉が十分に行われず、発注者の示した金額が需給関係を反映したものとは認められず、取引条件の違いを正当に反映したものとも認められない等、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるような場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法違反の問題にも発展する可能性があります。

もっとも、どのような場合に優越的地位の濫用に該当するかは、様々な事情を勘案して総合的に判断されます。

2-⑨ 芸能プロダクションと専属契約をすることを考えています。注意することはありますか。

まずは締結予定の契約内容について確認しましょう。具体的には、報酬(給与)や芸名、著作権などの権利の帰属がどのようになっているのか、過度な義務が設定されていないか、契約の有効期間や更新の有無はどうなっているのか、といった点に注意してください。最近では、SNSのアカウントについても権利帰属が定められることもあります。

プロダクションとの専属契約に係る紛争事例としては、移籍時に法外な違約金の支払を請求されることや、芸能プロダクションが契約を一方的に更新できる定めがあるために契約を終了できない(いわゆるオプション条項)といった点が争いになることが多くあります。そのため、もしこれらに関する定めが契約案にある場合は、芸能プロダクションと十分に話し合いをするようにしましょう。

なお、一度契約書にサインをした後にその内容を争うのは難しくなるので、心配な場合は契約書にサインをする前に弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

また、契約書を作成した場合は、必ず契約書(又はその写し)を保管しておきましょう。

2-⑩ インターネット配信への出演を求められました。何か注意しておくべきことはあるでしょうか。

インターネット空間における配信は、劇場等の物理空間での対面発信や放送と比較して、急速に拡散しやすく、また残りやすいという性質があります。そのため、著作権、著作者人格権、著作隣接権、実演家人格権、肖像権を想定外の形で侵害されてしまう危険が比較的高いと言えます。

したがって、配信の公開期間や公開地域の限定、その他の諸条件、無断複製の防止策等の技術的な制限が施されているか等について、特に留意して確認する必要があります。

3 契約中~契約終了後のトラブル

3-① 契約の内容を全て履行しましたが、契約書に記載された支払日を過ぎても報酬を支払ってもらえません。どうすればよいでしょうか。

取引先に対して、催告書送付、民事訴訟(少額訴訟や支払督促といった簡易な制度もあります)を提起することのほか、取引先の規模や支払拒絶の理由によっては、独占禁止法・下請法違反を理由に公正取引委員会への通報を検討することも考えられます。

どのような方法をとることが適切かは、取引先の態度や締結された契約の内容によって異なります。

3-② 発注者から業務を受託する際に、毎月定額の報酬を受けることに合意しました。しかし、一定期間の間、報酬が支払われず、催促しても応じてもらえません。
債権には「時効」があると聞いたので心配しています。時効とはどのようなものでしょうか。また、どのように対応すればよいでしょうか。

未払報酬について、発注者による任意の支払いを期待することが難しい場合には、民事訴訟(少額訴訟や支払督促といった簡易な制度もあります)等の司法手続を頼ることが考えられます。

しかし、「時効」(正確には「消滅時効」と言います)が成立してしまうと、それ以降は未払報酬を請求できなくなる可能性がありますので注意が必要です。

未払報酬の場合は、「債権」である報酬請求権を行使することができることを知ったときから、5年で消滅時効にかかります(民法166条1項1号)。

消滅時効成立までの時間の経過は、債務者(本件では発注者)が債務の存在を承認すれば更新されます(新たな進行が始まります)(同152条1項)。

また、支払いを催促(同150条1項)するほか、裁判上の請求や支払督促、調停を申し立てること(同147条1項)、権利についての協議を行う旨の合意を書面で締結することにより(同151条)、時効の完成を猶予することもできます。

以上のような時効の更新や完成猶予をしないうちに、いつの間にか消滅時効が成立してしまわないように注意しましょう。

裁判上の請求や支払督促、調停の申立ては、債務者(本件では発注者)の対応にかかわらず、債権者(本件では受注者)の判断で実行に移せるものですから、このままでは消滅時効が成立してしまうという場合には、有力な選択肢になるでしょう。

現在、どれくらい時効の計算が進んでしまっているか、債務の承認があったとみなせるか、司法手続のうちどれを選択肢すべきか等は、具体的事情の下で結論が変わります。

3-③ 取引先から作品(成果物)の制作について依頼があり納品しましたが、思っている内容と違うといって何度もリテイクを求められ、一向に報酬を支払ってもらえません。いつまでもリテイクに応じなければいけないのでしょうか。

報酬の支払いを受けるために、「リテイク」に応じる必要があるか否かは、取引先との契約において、報酬の発生条件としてどのような業務を行うことが合意されていたかにより決まります。

上記を判断するにあたり、法律的には、契約の内容・性質が「請負」か「準委任」かのいずれであるかが一つの考慮要素にはなりますが、事案により慎重な判断を要しますので、本来的には、事前に契約書を作成し、受注した業務内容(仕様)のほか、どのような条件を達成すれば報酬が発生するのかといったことのほか、リテイク条件等についても明らかにしておくことが重要になります。

また、この業務内容(仕様)や諸々の条件を定めるにあたっては、事案の性質に合わせた内容にする必要があります。

例えば、企業のロゴマークの作成のように、いくつかの案を提示することが前提となる場合や、作成した内容について修正が予定されるような場合には、具体的に提示する案の数や、修正対応回数等を規定することが考えられます。また、アート作品のように、成果物の内容の決定について作成者に委ねられる範囲が広い場合には、内容の如何を問わず、納品をもって報酬が発生すると規定することも考えられます。

なお、取引先との関係によっては、リテイクの強制は、独占禁止法や下請法に違反する場合もありますので、これらを理由に公正取引委員会への通報を行うことも考えられます。

いずれにしましても、解決に向けた対応については、契約内容、従前の経緯等によっても取るべき方法が異なります。

3-④ 当初の契約では合意していない利用がされた場合(映像のパッケージ化等)、追加報酬を請求できますか。

当初の契約で合意していない利用については、報酬の合意もなされていないと考えられる場合があり、当然に追加報酬を請求できるとは限りません。そのような場合には、まずは無許可の利用を止めるように求め、その上で追加報酬に関する合意を新たに行い、請求することを検討します。

当初の契約段階で、今後の全ての利用態様を想定した上で報酬について合意しておくことは難しいところですが、例えば新たな利用を行う場合は事前に協議の上、報酬を決定する旨の条項を置くなどの工夫も検討するといいでしょう。

他方で、合意を得られていない態様で取引先(発注者)が成果物等を利用した場合、取引先(発注者)に対して著作権侵害責任や債務不履行責任等を追及できる可能性もあります。

この場合、これらの責任追及という形で取引先(発注者)に対して損害賠償を求める余地もありますから、追加報酬の合意交渉の際にそのこと(損害賠償)を議題として交渉することもあり得ますし、追加報酬の合意が成立しなかった場合の次の手段として検討することもあり得ます。

3-⑤ 所属していた団体(グループ)を辞めたのですが、その団体(グループ)の公式ウェブサイトには今も私の写真が使われており、まだ所属しているかのような表示がされています。やめてほしいのですが、どうしたらよいでしょうか。

裁判例上、人は、自己の容貌等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益(いわゆる「肖像権」)があるとされますので、当該「人格的利益」を根拠に、所属していた団体(グループ)に対して写真掲載の削除を請求できる可能性があります。

また、裁判例上、著名人等の氏名や肖像は、顧客を引きつけて商品の販売を促進する場合があり、このような顧客誘引力を独占的に利用できる権利(「パブリシティ権」)があるとされますので、当該パブリシティ権を根拠に、所属していた団体(グループ)に対して写真掲載の削除を請求できる可能性があります。

なお、所属していた団体(グループ)との所属に関する契約が終了しているのであれば、その団体(グループ)に今もまだ所属しているような表示は虚偽情報にほかなりませんので、団体(グループ)側には、契約の終了に伴い当然削除すべき義務があると言える場合もあり得ます。

4 契約解消をめぐるトラブル

4-① 取引先との間で契約を締結しましたが、過剰な要求が多く、契約を解消したいです。どういった場合にどういった条件で契約を解除できるのでしょうか。

契約を締結した場合、まずはその契約のとおりに債務を履行する義務を負うことが原則です。もっとも、契約締結後のやりとりの中で取引先(依頼主側)に対して不信感が生じるなどして、契約関係を解消したい場面が出てくることもあります。この場合、相手方の債務不履行(契約違反)などの解除原因がないにもかかわらず、一方的に契約の履行を打ち切ってしまうと、こちら側が契約上の責任を負うことになりかねません。

契約を終了させるには事案にもよりますが、期間満了による終了を除けば、①民法に基づく解除、②契約で定められた解除条項に基づく解除などが考えられます。

①民法に基づく解除としては、例えば、取引先に、契約に基づき提供しなければいけない資料を提供しない、契約上支払うべき委託料を期日までに支払わないなどの契約違反(債務不履行)があり、このような違反行為を是正するように求めた(催告をした)にもかかわらず、これを是正しない場合などがあてはまります(民法541条。催告を要しない場合については民法542条参照)。

他方、契約違反がなければ上記①民法に基づく解除は認められません。

そこで、②契約において、別途解除条項を定めておくことが考えられます。例えば、「契約期間中といえども、書面による●カ月前の予告通知をもって、本契約を解除することができる。」などといった条項(中途解約条項)を契約に入れておくことで、民法に基づく解除対象とならない程度のトラブルが発生した場合であっても、契約を解消することができます。

なお、契約違反がなく、かつ、要件を満たせるような解除条項も存在しない場合には、一方的に契約を終了させることは困難です。そのため、相手方に契約終了について同意をしてもらうべく、交渉を進めていくことになります。もっとも、事案によるものの、相手方に契約終了について同意をしてもらうことは、容易ではない可能性もあります。そのため、上記のとおり、事前に契約の中で、適切な解除条項を設けることが重要となります。

4-② 私はある団体のイベントに出演するよう求められました。その後、その団体から、予定していた助成が受けられずイベントが中止になったので、報酬を支払えないと言われました。報酬を支払っていただくことはできないのでしょうか。
また、予定していた助成が受けられなかったが、イベント自体は開催され、出演も果たしたという場合はいかがでしょうか。
【イベントが中止になった場合】
  • (1)契約書又はこれに類するものが存在しない場合

    まず、そもそも報酬の支払の前提となる出演契約が成立しているのかが問題となります。

    出演契約が成立していなければ、当然ながら報酬も発生しません。

    このような結論を回避するため、イベントへの出演依頼があり、出演に応じるときは、なるべく早めに明文の形で契約を締結しておきましょう。

    契約書が最も安心ですが、契約書を交わせない場合であっても、メール等の明文に残る形で、正式な出演依頼と承諾があったことを記録化しておくことがまずは大切です。

    なお、契約の締結にあたっては、報酬の金額や出演の日数、時間等の範囲を明らかにすることはもちろんのこと、契約締結後、主催者が助成を受けられず予算を確保できなくなった場合に報酬の支払がどうなるのかを明確にしておくことをお勧めします。

  • (2)契約書又はこれに類するものが存在する場合
    1. 契約上、イベントが中止になった場合の取り決めが存在する場合

      契約書やメール等何らかの方法により出演契約が締結済であり、かつ、イベントが中止になった場合の取り決めがあれば、原則として、その取り決めに従います。

      つまり、主催者が助成を受けられず予算を確保できなくなったことにより、イベントが中止になった場合、その契約上の取り決めの内容を確認し、原則としてそれに従うことになります。

    2. 契約上、イベントが中止になった場合の取り決めが存在しない場合

      出演契約中に、そのような取り決めが存在しない場合には、業務の履行割合に応じた報酬(民法648条3項)や既に準備のために支出した実費等を含む損害の賠償を請求できる可能性があります。

【イベント自体は開催され、出演も果たした場合】
  • (1)契約書又はこれに類するものが存在しない場合

    まず、そもそも報酬の支払の前提となる出演契約が成立しているのかが問題となります。

    しかし、イベント出演後であれば、少なくとも黙示的に出演契約が成立していると考えられますので、基本的には相当額の報酬を請求することができると考えられます。

    ただし、本来は、報酬の金額等についても、事前に契約書を交わすなどして明示的な証拠を残しておくことが重要です。

  • (2)契約書又はこれに類するものが存在する場合
    1. 契約上、助成が受けられなかった場合の取り決めが存在する場合

      イベント出演後についても、原則として、契約上の取り決めがあればこれに従います。

      「助成が受けられなかった場合、出演料を無償とする」というような条項がある場合には、支払っていただけない場合もあり得ます。

      ただし、既に出演という稼働がある以上、背景事情や交渉経緯によっては、そのような条項の有効性に疑義が生じる可能性もありますし、下請法が適用される場合には不当な買い叩き(下請法4条1項5号)や減額の禁止(下請法4条1項3号)に抵触する可能性もあります。

    2. 契約上、助成が受けられなかった場合の取り決めが存在しない場合

      取り決めが無い場合でも出演料を請求できる場面が多いと思われます。また、業務の履行割合に応じた報酬(民法648条3項)や準備のために支出した実費等を含む損害の賠償を請求できる可能性があります。

4-③ イベントへの出演の依頼があったため、スケジュールを調整しましたが、何の説明もなく、一方的にイベントの開催中止を告げられました。到底納得できません。中止になったイベントで支払われるはずであった出演料を請求できませんか?
また、中止になったイベントに出演するために、他のイベントを断っていたのですが、他のイベントで支払われるはずであった出演料に相当する金額を何とか請求できませんか。
  • (1)中止になったイベントの出演料について

    法律上、出演が予定されていたイベントの中止が、不可抗力といった依頼主の「責めに帰することができない事由」を原因とする場合には、出演料を請求することはできません(民法536条1項)。

    しかし、その原因が「責めに帰することができない事由」に該当するか否かの判断は相当に難しい場合があります。

    対策としては、あらかじめ契約書等において、依頼者の都合により中止になった場合に、出演料が発生するか否か、発生する場合には満額か一部か、といった条件を定めておくことが望ましいと考えられます。

    このような契約の定めを行っておらず、また、中止の原因について依頼主側に過失があることが疑われるような場合、その他「責に帰することができない事由」の有無の判断が困難な場合に、いかなる対応を取るべきかについては、法律の専門家にご相談されることをお勧めします。

  • (2)中止になったイベントに出演するために断った他のイベントの出演料相当額について

    他のイベントで支払われるはずであった出演料に相当する金額を請求できるかについてですが、イベントの中止について依頼主に帰責事由(責任)がある場合は、当該金額が「逸失利益」であるとして、民法上の債務不履行に基づく損害賠償請求をできる可能性があります。

    ただし、中止になったイベントの出演料との両取りはできませんし、実際に他のイベントに出演できる確度はどれほどであったのか、他のイベントに出演できたということを主催者が知り得たか等によっては、因果関係がある損害とは認められない可能性もあります。

  • (3)中止の時点で既に予定されていた工程の一部が完了している場合の出演料や、中止されたイベントへの出演の準備のために要した費用について

    例えば、出演日が数日にわたるイベントにおいて、その途中でイベントが中止になったような場合、仮に契約において全日程への出演を前提とする出演料しか定めていないときであっても、依頼者から、委任事務を履行した割合に応じた出演料の支払いを受けられる可能性があります(民法648条3項)。

    また、同様の場合に、契約締結後に出演の準備のために支出した費用がある場合は、その必要性が認められる限りで、依頼者から、費用の支払いを受けられる可能性があります(民法650条1項)。

    なお、前者については、委任事務の一部を履行したといえるか、後者については、委任事務の処理における必要性が認められるかといった点について、具体的な事情により、その結論は変わります。

4-④ 所属事務所との間で専属契約期間中ですが、事務所を辞めたいです。どうしたらよいでしょうか。

事務所との契約状況により対応が変わります。

  • (1)契約書がない場合、又は契約書はあるが有効期間についての定めが無い場合

    契約書がない場合又は契約書はあるが有効期間についての定めが無い場合は、一方的に終了通知を行うことで、契約を終了させることができる場合があります。ただし、契約期間中に実施することを合意した業務については、履行しない場合には損害賠償責任が発生する場合もありますので、一度合意した業務については原則として履行することが望ましいでしょう。

    また、専属契約は「準委任契約」に該当する場合が多いと思われますが、準委任契約は、民法上、当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、やむを得ない事由がない限り、相手方の損害を賠償しなければならないと定められています(民法641条2項)。

    なお、契約の一方的な通知による終了は、仮に法的に有効だったとしても、事務所側が契約終了を認めずに、取引先に契約が継続している旨を通知したり、ウェブサイトに所属タレントとして情報を掲載し続けたりといった対応をすることもあります。このような状況においては、事務所から離れた後に活動を行うことが事実上困難になる場合もあります。

    したがって、この手段により契約を終了させるのはあくまで最終手段とすべきであり、可能な限り事務所とは協議を行い、終了合意書を作成して契約を円満に終了させることが望ましいでしょう。

  • (2)契約書があり、有効期間満了が近い場合

    契約書がある場合には、基本的には契約書に記載された有効期間に拘束されます。

    事務所の所属から離れたい場合には、更新拒絶を行うことで契約期間を満了させることが考えられます。契約書にしたがった終了方法ですので、比較的円満に終了できるというメリットがあります。

    ただし、契約書に契約期間満了後の芸能活動を制約する条項などが存在する場合で、当該条項による拘束を受けたくない場合等については、事務所側と協議を行う必要があります。また、基本的に契約期間中に同意した業務については、契約期間満了後も行う義務を負うケースが多いので、契約期間が満了したからといって一切の業務を放棄してよいことにはならないことに注意が必要です。

  • (3)契約書があり、有効期間満了がまだ先であるが、すぐに辞めたい場合
    1. 明確な債務不履行がある場合

      事務所側にパワハラ、セクハラ、報酬の未払い等の明確な債務不履行(契約違反)がある場合は、それを理由に解除することができます。

      ただし、事務所側の債務不履行を原因とする解除を行った場合も、解除の有効性について事務所側が認めないこともありますので、事実上その後の芸能活動を行うことが困難になる場合もあります。

      そのため、芸能活動を継続して行うことを希望する場合は、事務所側に債務不履行がある場合であっても、可能な限り事務所と協議を行い、終了合意書を作成して契約を円満に終了させることが望ましいでしょう。

    2. 明確な債務不履行がない場合

      まず、芸術家等(アーティスト)と事務所との間の専属契約は、準委任契約に該当することが多いと思われます。

      準委任契約は、民法上いつでも解除可能とされていますが(民法651条1項)、契約書に有効期間が明記されているのであれば、契約書上の記載が民法に優先されます。

      したがって、原則として契約書記載の有効期間に拘束され、有効期間の満了までは契約を継続せざるを得ないこともあります。

      このような場合には、事務所との協議を行い、終了合意書を作成して契約を円満に終了させることが望ましいでしょう。

      次に、契約内容や契約実態によりますが、芸術家等(アーティスト)が労働関係法令における「労働者」に該当するケースがあります。

      「労働者」に該当する場合、期間の定めのある労働契約はやむを得ない事由がない限り、契約期間中に一方的に解約することはできませんが(民法628条)、労働基準法附則137条により、契約を終了させることができる場合があります。すなわち、同条においては、労働契約を結んでから1年間を経過した日以降であれば、いつでも申し出により退職できると定められていますので、「労働者」に該当するのであれば、契約期間の途中であっても事務所との間の専属契約を一方的な申出により終了することができる場合があります。

      この点、劇団員が「労働者」に該当するか争われた事件においては、原告であった劇団員は労働基準法等における労働者に該当するとの判示がなされたものもあります。

      事務所との専属契約等に関する内容については、具体的事案により結論が変わる可能性がありますので、詳細については法律の専門家にご相談されることをお勧めします。

4-⑤ 所属している団体(グループ)から移籍・独立するにあたって、注意すべき点を教えてください。

所属している事務所や団体、グループとの間における専属(マネジメント)契約には、アーティストの移籍・独立の障害となるような規定が盛り込まれている場合がありますので、まずはそのような規定がないか、確認しましょう。

例えば、契約期間が長期間で中途解約が困難な場合や、移籍・独立後はアーティストの芸名(本名を含む)の継続利用ができなくなる(又は事務所の許諾が必要となる)といった規定が定められている場合があります。このような規定については、諸々の事情を考慮すると有効性に疑いが発生することもあり得ますが、事務所側(団体・グループ側)としては契約上の権利として主張する可能性がありますから、交渉・調整が必要となります。具体的な事情により結論が変わります。

また、移籍・独立自体は事務所側(団体・グループ側)と合意に至った場合でも、関係する第三者との契約の取扱い、移籍・独立前の活動に関する著作権等に関する帰属の取り扱い、SNS等に関する引き継ぎなどの事項についても、細かく取り決めておく必要があります。どのような内容を話し合うべきかについては、活動の実態その他の具体的事情によって変わります。

移籍や独立に関する内容については、具体的な事情により結論が変わる可能性がありますので、詳細については法律の専門家にご相談されることをお勧めします。

5 契約に反映すべき権利関係(著作権等)について

5-① 作品(成果物)の制作と納品を依頼されました。私にはどのような権利が発生するのでしょうか。また、著作権とは何でしょうか。

その成果物が、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであれば、著作権法上の「著作物」に該当します(著作権法2条1項1号)。

著作物を創作する者は「著作者」となり(同2条1項2号)、その著作物について著作権が発生します。著作権とは、著作権法21条~28条に規定される個々の権利(支分権と言います。)の集合体を意味します。

支分権には、

● 有形的な再製を行う「複製権」(同21条)

● 上演権及び演奏件(同22条)

● 上映権(同22条の2)

● 公衆送信権等(同23条)

● 口述権(同24条)

● 展示権(同25条)

● 頒布権(同26条)

● 譲渡権(同26条の2)

● 貸与権(同26条の3)

● 翻訳権、翻案権等(同27条)

● 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同28条)

があります。

また、著作者には、著作者人格権という権利が発生します(著作権法17条)。文字通り、著作者の人格的利益を保護するもので、財産的価値を保護する「著作権」とは別の権利です。

著作者人格権には、

①著作物を公表するかしないかを決定できるという権利(公表権、同18条1項)

②著作物を公表する際に、著作者の氏名を表示するか否か、また表示するとして実名にするか変名(ペンネームなど)にするのかを決定する権利(氏名表示権、同19条)

③著作物及びその題号について著作者の意に反して変更、切除その他の改変を禁止することができる権利(同一性保持権、同20条)

があります。

以上の権利の詳細については文化庁「令和5年度著作権テキスト」をご参照ください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/93908401_01.pdf

(該当箇所:10頁~22頁)

5-② 取引先から、著作権譲渡に関する契約書を提示されました。どのような点に気をつけて契約を締結すればよいでしょうか。

芸術家等(アーティスト)が制作した著作物の著作権は、原則として制作した芸術家等(アーティスト)に帰属します。

著作権は所有権とは別個の権利ですから、成果物を制作して納品し(=所有権を移転する)、著作権については利用許諾をするだけの場合と比べ、著作権を売却する対価に相当する報酬の増額が期待できる面はあります。

他方で、ひとたび著作権を譲渡すると、原則として自分が制作した著作物でも自由に利用することができなくなりますので、著作権譲渡に関する契約書を提示された際には、自由な利用の制限を受け入れられるほどの十分な対価が設定されているか、今後自分で利用したい場面は無いのかといった点をよくご検討ください。また、取引先自身が著作権者として当該著作物を自由に利用することができるようになりますので、制作した芸術家等(アーティスト)にとって想定外の利用をされる可能性もあります。後述する著作者人格権の権利行使ができる余地は残るものの、本当に著作権を譲渡してよいのか、十分な検討が必要です。

なお、「著作権」とは、実は一つの権利ではなく、著作権法21条~28条に規定される個々の権利(支分権と言います。)の集合体です。支分権のなかには、有形的な再製を行う「複製権」(同21条)、インターネット上で公開してよいという「公衆送信権」(同23条)等があります。著作権の譲渡は、その全部を対象とするだけでなく、一部の支分権のみを対象とすることもできますので(同61条1項)、今後想定している利用形態に鑑みた柔軟な設計を行うことも考えられます。

また、編曲権、翻案権や翻訳権(著作権法27条)や二次的著作物(例:自分が創作したイラストを他人が加工して利用する場合の当該加工後の作品)の利用に関する権利(著作権法28条)は、契約書で明記しない限りは譲渡者(制作した芸術家等)に留保されたものと推定されますので(著作権法61条2項)、この点についてどのように定められているかも留意する必要があります。単に「著作権を譲渡する」とのみ記載されている場合には、著作権法27条及び同28条が定める上記権利は譲渡されないということです。

他にも、著作者には、財産権である著作権のほかに、人格権としての著作者人格権(著作権法17条)が認められます。著作者人格権は、著作者の名誉や作品(成果物)への思い入れを保護する権利であり、著作権が第三者に譲渡された場合であっても、著作者に残り続けます。ただし、著作権譲渡に関する契約書内に「著作者人格権を行使しない」という不行使特約が定められることがあるので、その点も確認する必要があります。なお、著作者人格権については、Q5-⑤及びQ5-⑧もご参照ください。

5-③ 作品(成果物)の制作及び納品を依頼され、発注者との間で契約しましたが、同契約書によれば、第三者の知的財産権を侵害しないことについて表明保証をしなければいけないと定められていました。具体的には、どのような対応をすればよいでしょうか。

主として、第三者の既存の著作権や商標権を侵害していないか、注意する必要があります。意図的に既存のデザインを真似ることが権利侵害の危険を孕むのは当然です。仮に意図的でなかったとしても、結果的に第三者の既存のデザインに類似してしまっている場合には、著作権や商標権の権利侵害が成立する可能性があります。

対策としては、例えば、商標権、意匠権、特許権など特許庁に登録されている知的財産権について、特許庁「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」にて検索することが考えられます。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

また、インターネット上の画像検索ツールを用いて類似画像が無いかを確認することも考えられます。なお、このような調査に係るコストが対価に十分に反映されていない場合には、当該調査自体、発注者側で対応するように交渉することも考えられます。

そのほかにも、万が一第三者の権利を侵害し損害賠償請求を受けた場合等に備えて、フリーランスや個人事業主向けの損害賠償責任保険に加入しておくことも考えられます。

5ー④ 作品(成果物)の制作及び納品を依頼され、発注者から契約書を示されましたが、著作権を発注者に譲渡するという内容になっており、さらに「著作権法27条及び28条に定める権利を含む」と記載されています。「著作権法27条及び28条に定める権利を含む」とはどういう意味でしょうか。

「著作権」とは、実は一つの権利ではなく、著作権法21条~28条に規定される個々の権利(支分権と言います。)の集合体です。支分権のなかには、有形的な再製を行う「複製権」(同21条)、インターネット上で公開してよいという「公衆送信権」(同23条)等があります。著作権法27条は、二次的著作物を作成する権利(「翻訳権、翻案権等」)、同28条は、二次的著作物を利用する権利を定めます。

これらの著作権は、発注者や第三者へ譲渡することができます(著作権法61条1項)。

しかし、著作権の支分権のうち、著作権法27条及び28条に定める権利は、譲渡されることが特に明示されていないと、元の著作権者(譲渡者)に留保されたものと推定されます(同61条2項)。

そのため、著作権の譲渡を定める契約書のなかで、同27条及び同28条に定める権利も一緒に譲渡されることを特に明示するために、「著作権法27条及び28条に定める権利を含む」と規定されることがあります。この規定があることによって、二次的著作物の作成及び利用する権利も含めて、著作権の全てが譲渡されることになります。

5ー⑤ 作品(成果物)の制作及び納品を依頼され、発注者から契約書を示されましたが、私(制作者)は著作者人格権を行使しないと記載されています。「著作者人格権」とは何でしょうか。また、「著作者人格権を行使しない」とはどういう意味でしょうか。

著作物の創作者には、著作権のほか、著作者人格権という権利が発生します(著作権法17条)。文字通り、著作者の人格的利益を保護するもので、財産的価値を保護する「著作権」とは別の権利です。

著作者人格権には、

①著作物を公表するかしないかを決定できるという権利(公表権、同18条1項)

②著作物を公表する際に、著作者の氏名を表示するか否か、また表示するとして実名にするか変名(ペンネームなど)にするのかを決定する権利(氏名表示権、同19条)

③著作物及びその題号について著作者の意に反して変更、切除その他の改変を禁止することができる権利(同一性保持権、同20条)

があります。

この権利は、法律上、譲渡することができませんので(同59条)、たとえ著作権を譲渡したとしても、著作者に留保されます。

そこで、発注者において、著作権の譲渡を受けるだけでなく、著作者人格権の行使もされたくないと考えた場合には、契約の中で、「著作者は発注者に対して著作者人格権を行使しない」といった内容の条項を求めることがあります。このような著作者人格権不行使特約が入ることにより、発注者は、成果物の公表や改変を行いやすくなり、成果物公表の際に必ずしも著作者の氏名を表示せずともよくなります。他方、著作者としては、自身の意向にかかわらず、それらの行為をなされる可能性が生じることとなります。

このように、契約書の中に著作者人格権不行使に係る条項がある場合には、著作権だけでなく、著作者人格権に関する権利主張もできなくなりますので、受け入れてよいかは慎重な検討が必要です。例えば、著作者人格権のうち著作者名の表示は求める(氏名表示権との関係)、内容・表現又はその題号に変更を加える場合(拡大、縮小、色調の変更等も含む)にはあらかじめ承諾を必要とするように求める(同一性保持権との関係)等の交渉を行うことも考えられます。

どのような場合に受け入れても問題が無いか等は、個別具体的な事情の下で変わります。

5ー⑥ 取引先からの依頼で作品(成果物)を完成させ、納品しました。契約書は結んでおらず、著作権に関する事前の取り決めはなかったのですが、対価の支払いで著作権の譲渡になってしまうのでしょうか。

裁判所の判断傾向としては、対価の支払いのみでは著作権譲渡までは認めずに、一定の範囲で利用許諾があったとのみ認定することが比較的多いといえます。

もっとも、事前の説明の有無、対価の決め方、利用に関するやりとりの内容、相手方の利用を知った後に異議を述べているかなど、個別の事案の事実関係によって結論が変わります。

5ー⑦ ご当地キャラクターの制作依頼を受けたのですが、一回きりの取引で終わりにしたくありません。私が制作するキャラクターですから、今後も異なるポーズや服装のキャラクターをデザインすることがあれば、その都度対価をもらって私が対応したいです。そのためには、どのような契約にすればよいでしょうか。

ご相談のような取引関係を構築するためには、取引先(発注者側)との契約の中で、制作したキャラクターの著作権は相談者様に帰属する旨を合意したうえで、取引先(発注者側)に対し、その利用態様を具体的に特定・限定したうえで、キャラクターの利用を許諾しておくことが有益です。

同じキャラクターについて異なるポーズや服装をデザインすることは、著作権のうち、翻案に該当することが多いと思われますので、著作権者の許諾が必要な行為となります。

このような合意ができれば、取引先(発注者側)において許諾された利用態様以外のキャラクターを制作・利用したいと考えた場合、まずは著作権者である相談者様に話を通す必要が生じます。

この話の際、取引先(発注者側)と取引条件がまとまりましたら、次の取引で制作するキャラクター修正版の内容や、対価、取引先(発注者側)に対して許諾するキャラクター修正版の利用態様等を合意し、新たに契約を締結することとします。そして、以後も同じことを繰り返すことで、キャラクターの修正版は相談者様以外が制作できないという取引関係を構築することができます。

なお、このように繰り返し同種の取引が継続する場合、都度「業務委託契約書」のようなボリュームのある契約書を締結するのは煩雑です。実務上は、全ての取引に共通する事項を「基本契約書」に定め、個々の取引に固有の事項(制作対象、対価、利用許諾の内容等)については「個別契約書」の作成ないし受発注書の交付による「個別契約」の締結で簡易に済ませる運用も広く行われています。

5ー⑧ 取引先に納品した作品(成果物)が無断でインターネット上に掲載されていました。著作権は取引先に譲渡してしまいましたが、何も言えないのでしょうか。

著作権を取引先に譲渡しているのでしたら、著作権のなかにはインターネット上に掲載することができる公衆送信権(著作権法23条1項)が含まれますので、それを禁止する特約が無い限りは、公表自体を止めることは難しいと思われます。

ただし、著作物の創作者には、著作権のほか、著作者人格権という権利が発生します(著作権法17条)。著作者人格権には、著作物を公表するかしないかを決定できるという権利(公表権、同18条1項)、著作物を公表する際に、著作者の氏名を表示するか否か、また表示するとして実名にするか変名(ペンネームなど)にするのかを決定する権利(氏名表示権、同19条)、著作物及びその題号について著作者の意に反して変更、切除その他の改変を禁止することができる権利(同一性保持権、同20条)があります。この権利は、法律上、譲渡することができませんので(同59条)、たとえ著作権を譲渡したとしても、創作者に留保されます。

上記のうち、公表権については、著作権を譲渡したときは著作権者が公表することに同意したものと推定されるため(同18条2項1号)、これを根拠に公表自体を止めることは難しいと思われます。

しかしながら、もし、納品した作品(成果物)に記載されていた著作者の名前が削除されていたり、作品(成果物)が改変されてネット上に掲載されていたりする場合は、上記の著作者人格権のうち、氏名表示権や同一性保持権の権利侵害を主張することができる可能性があります。

もっとも、取引先との契約において、著作者人格権の行使が制限されていないかは契約書をご確認ください。

具体的な権利行使の方法としては、削除請求や損賠賠償請求などが考えられます。

5ー⑨ 私は音楽の制作を請け負う個人事業主です。私の作品(成果物)の納品先であるA社が、私の写真や名前を勝手に使って私の作品(成果物)を紹介しています。止めて欲しいのですが、どうしたらよいでしょうか。なお、著作権は譲渡してしまっています。

写真については、裁判例上、人は、自己の容貌等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益があるとされますので(いわゆる「肖像権」)、当該「人格的利益」を根拠に、納品先に対して写真掲載の削除を請求できる可能性があります。

名前については、氏名表示権(著作権法19条1項)を根拠に氏名掲載の削除を請求できる可能性があります。

もっとも、成果物である作品自体を紹介のために無断で掲載する行為については、著作権法上、著作権を譲渡したときは著作権者が公表することに同意したものと推定されるため(著作権法18条2項1号)、公表権(著作権法18条1項)を根拠に作品の掲載自体を止めるよう請求することは難しいと思われます。そのため、契約を締結する段階で、公表(掲載)の方法や時期、掲載媒体の制限等に関して別途協議して合意しておくようにしましょう。

5ー⑩ アイデアに著作権は無いと聞きましたが、法律上保護されることはないのでしょうか。また、契約で特別に守ることはできないでしょうか。

「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています(著作権法2条1項1号)。単なるアイデアや着想にとどまっており「表現」がない場合には、著作物に該当せず、著作権も発生しません。

ただし、第三者にアイデアを盗用された場合などに、当該第三者が創作者の有するアイデアを盗用することによって、「著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情があるとき」などには、民法709条の不法行為責任を問うことができる可能性があります。また、当該アイデアが不正競争防止法上の「営業秘密」に該当し、かつ、それの「不正取得」等の「不正競争」があったと言えるならば、不正競争防止法に基づく差止請求、損害賠償請求を行うことができる可能性もあります。いずれにせよ、アイデアがこれらの法律で保護されるものとして取り扱われるように、アイデア段階であっても厳重に管理しておくことが有益です。

しかし、アイデアの盗用を防止するには、上記のような法律の規定だけでは不十分である可能性があります。そのため、アイデアの提供自体を、秘密保持義務を定めた契約を締結する前には行わないようにすることが効果的です。また、当事者間の契約のなかでは、著作物に限定せず、アイデアを含む広い情報について秘密保持義務を定めること、契約目的以外の利用を禁止すること、それらの義務に違反した場合には損害賠償義務を負うこと等を定めることが効果的です(Q2-①もご参照ください)。

5ー⑪ 作品(成果物)の制作を依頼されて納品したのですが、その際に依頼者からモチーフの指示や要望があり、それを作品(成果物)に反映させました。それでも著作権は私にあるという認識でよいでしょうか。

原則として、著作権は著作物を創作した著作者に発生します(著作権法17条1項)。依頼者がモチーフの指示や要望を述べたとしても、それだけでは抽象的なアイデアの提供にとどまり、著作物の創作行為と評価されることはないと考えられます。そのため、ご相談のような事案では、他に特別な事情が無い限り、作品(成果物)の制作者が著作権を有します。

5ー⑫ コンテストへの応募を検討しています。当該コンテストの募集要項には、「応募者は募集者に対し、受賞作品の利用を独占的に許諾する」という記載があります。もし受賞した場合、私は受賞作品の利用が一切できなくなってしまうのでしょうか。
また、応募しようとしている作品には、私のオリジナルのキャラクターやデザインコンセプト・世界観を用いた他作品が含まれているのですが、当該コンテストとは無関係に作成していたそれらの他作品についても、利用ができなくなってしまうのでしょうか。

まず、募集者への「独占的」な許諾である以上、応募者自身であっても、受賞作品そのものの利用は、原則として一切できなくなる可能性が高いです。

次に、受賞作品に含まれるキャラクターやデザインコンセプト・世界観のうち、アイデアにとどまる部分については、著作物ではない=著作権の保護対象にはならないというのが一般的な考えです。「応募者は募集者に対し、受賞作品の利用を独占的に許諾する」との記載による独占的な利用許諾の範囲は、通常は、所有権及び著作権法上の権利が及ぶ範囲に限られると思われます。そうすると、アイデアにとどまる部分については、引き続き利用できます。

ただし、キャラクターやデザインコンセプト・世界観を具体的に表現した箇所については、著作権の保護対象になります。例えば、漫画であれば、キャラクター自体に著作権は発生しないとしても、そのキャラクターが登場する具体的場面の図柄については、著作権が発生します。

そのため、応募者が「受賞作品」と類似する他の作品を制作し利用する場合(受賞作品の続編を制作するときなど)には、募集者に許諾した独占的な利用権を侵害する可能性がありますので、注意が必要です。

逆に、類似するキャラクター、デザインコンセプト・世界観であっても、「受賞作品」とは完全に別作品とみなされるようであれば、募集者に許諾した独占的な利用権を侵害する可能性は低くなります。

5ー⑬ 自分が取引先に提供した作品(成果物)を、自分のホームページやSNSで実績として紹介しても良いでしょうか。
  • (1)取引先との契約で定めがある場合

    契約上、著作者が自分のホームページやSNSで実績紹介として利用してよいという内容の取り決めがある場合は、問題ありません。

  • (2)取引先との契約で定めがない場合

    作品(成果物)の著作権が著作者に留保されている場合には、著作権法上は実績として紹介することに問題はありません。もっとも、取引先との契約上、契約の存在自体を秘密保持の対象としていることもありますので、秘密保持義務に違反しないよう注意することは必要です。

    著作権が取引先に譲渡されている場合に、実績として掲載することは、著作権のうち複製権や公衆送信権の範囲の行為となりますので、原則として取引先の同意が必要になります。

    取引先との契約で明確な定めがない場合でも、取引先が個別に実績として紹介することに同意しているのであれば、問題ありません。そのため、まずは実績として紹介することに問題がないか取引先に問い合わせて確認することが考えられます。

    著作権法上の「引用」(著作権法32条)に該当するときは、作品(成果物)の全部又は一部をホームページやSNSに掲載して実績として紹介し得る可能性があります。詳細は、文化庁「著作物が自由に使える場合」もご参照ください。

    https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html

    「引用」に該当するには、出典明記のほか(同48条)、公表された著作物であること、及び公正な慣行に合致し、目的上正当な範囲内で利用することが必要とされています。どのような場合に公正な慣行に合致し、目的上正当な範囲内と言えるかは諸説ありますが、主に「明瞭な区別性」(引用する著作物とそれ以外とが明確に区分されていること)と「主従関係」(引用する側とされる側の双方が、質的量的に主従の関係であること)の有無が検討されています。もっとも、その後の裁判例では、「利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮」という見解を示すものも存在します。

5ー⑭ 著作物の利用許諾の対価(利用料・ロイヤルティ)や著作権譲渡の対価はどのように定めるべきでしょうか。定める際の考え方や視点について教えてください。

まず、発注された業務の報酬のほかに、利用許諾や権利譲渡等の権利についても一定の対価を収受しうることを意識して交渉することが大切です。

利用許諾や権利譲渡の対価の定め方としては、

①定額を一括して支払う方式

②成果に応じて支払う出来高方式

③定額と出来高を併用する方式

などが考えられます。

①の場合は、受注者側からすると、定額を確実に回収できるメリットがありますが、他方で予想以上に大きな利益を生んだ場合であっても、その利益は還元されないデメリットがあります。

②の場合のメリットとデメリットは①の裏返しです。その他、②の場合には、何を基準として(売上高や利益、販売数量、視聴回数、利用期間など)出来高を定めるかが重要になります。

次に、金額の考え方については、

①創作に要した費用(コスト・アプローチ)

②類似の取引(マーケット・アプローチ)

③将来の収益(インカム・アプローチ)

などの視点を用いて検討するのが有益です。なお、②については、業界によっては一定のガイドラインが公表されていることもありますので、検討の参考になります。

5ー⑮ 映画やアニメーションの制作に関わっています。法人や団体に所属して映画製作の契約を結ぶ場合には、私個人には映画の著作権は帰属しないのでしょうか。

著作権法上、映画の「著作者」は、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とされています(著作権法16条)。

そして映画の「著作権」は、「その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」と定められ(同29条1項)、「映画製作者」とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。」(同2条1項10号)とされています。

また、制作に携わった者が法人の従業員であり、その法人の業務として映画制作に関与するのであれば、職務著作の適用を受ける限りで、法人に著作権が帰属することもあり得ます。

そのため、映画やアニメーションの制作に関わったとしても、その関わり方の度合いによっては、必ずしも「著作者」や「著作権者」の一人になるわけではないという点は、ご留意ください。

誰が「著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」なのか、「製作に発意と責任を有する者」は誰か、職務著作の適用を受けるのかは、具体的事情の下で慎重な判断が求められます。

なお、法律上の帰結よりも当事者間の合意が優先される場合もありますので、ご自身に映画の著作権を帰属させたいという意向がある場合は、関係する当事者の方々と交渉して解決を図りましょう。

5ー⑯ 私は実演家です。私が実演をした場合、どのような権利が発生するのでしょうか。

(1)著作権法上の権利

俳優、舞踊家、演奏家、歌手、指揮者、演出家等の実演家には、著作隣接権(著作権法89条)が発生します。著作隣接権とは、録音権及び録画権(同91条)、放送権及び有線放送権(同92条)、送信可能化権(同92条の2)、譲渡権(同95条の2)、貸与権等(同95条の3)等のことであり、他者がこれらの利用を行うことを禁止することができます。

また、放送・有線放送による商業用レコードの二次使用等の場合の報酬・二次使用料請求権も認められています(同94条の2、同95条1項、同95条の3第3項等)。

なお、実演家には、実演家人格権という権利が発生します。文字通り、実演家の人格的利益を保護するもので、財産的価値を保護する前記「著作隣接権」や「報酬・二次使用料請求権」とは別の権利です。

実演家人格権には、

①実演を公表する際に、実演家の氏名を表示するか否か、また表示するとして実名にするか芸名にするのかを決定する権利(氏名表示権、同90条の2第1項)

②実演の同一性を保持し、自己の名誉又は声望を害する変更、切除その他の改変を受けない権利(同一性保持権、同90条の3第1項)

があります。

以上の権利の詳細については文化庁「令和5年度著作権テキスト」をご参照ください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/93908401_01.pdf

(該当箇所:23頁~30頁)

(2)その他の権利

裁判例上、人は、自己の容貌等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益が認められています(いわゆる「肖像権」)。

また、裁判例上、著名人等の氏名や肖像は、顧客を引きつけて商品の販売を促進する場合があり、このような顧客誘引力を独占的に利用できる権利(いわゆる「パブリシティ権」)が認められています。

役務提供が業務であり、自らの容貌等を表に出すことが多い実演家においては、これらの権利が役に立つ場面もあると思われます。

6 その他(税金やインボイス制度など)

6-① コンテストやコンペに作品を応募しましたが、採用されませんでした。同じ作品を今後も使用してもよいでしょうか。

コンテストやコンペ等の場合、募集要項に従って応募することをもって募集要項記載の条件に同意したこととなり、応募者はその条件を約束事として守らなければなりません。そのため、コンペ等に応募する際には、募集要項をよく確認したうえで応募するようにしてください。

不採用となった作品を今後も使用できるかどうかは、募集要項記載の条件によります。つまり、コンペ等の募集要項に不採用となった作品の著作権の譲渡等に関する取り決めがない場合、今後もその作品を使用できます。しかし、採用・不採用にかかわらず、募集者に著作権が譲渡されるなどとされている場合には、作成した本人であっても今後はその作品を自由に使用することができなくなります。

6-② 私はフリーランスとして文化芸術分野に関わる仕事をしています。「文化芸術活動に関する法律相談窓口」以外にも相談を受けてくれる窓口はありますか。

内閣官房・厚生労働省・公正取引委員会・中小企業庁が連携して、フリーランスとして働く方が、発注者とのトラブル等について、弁護士にワンストップで相談できる窓口『フリーランス・トラブル110番』を設置しています。契約に関する内容のほか「暴言・暴力などのパワハラ行為を受ける」、「セクハラ行為を受ける」といったハラスメントに関する相談など、フリーランスとして働く方からのトラブル相談に対応しています。

6-③ 芸術家としての活動に関する取引を行う場合に、知っておくべき税金に関する知識を教えてください。

取引に係るものとして特に知っておくべき税金に関する知識としては、以下の3つが挙げられます。

①所得税の源泉徴収

報酬・料金等の支払を受ける者が個人か法人か、また取引内容によって異なりますが、国税庁が定める対象である場合、実際に受け取る報酬の額は、所得税分の金額を源泉徴収された後の金額となる可能性があります。例えば、個人が支払を受ける場合には、映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等への出演等の報酬・料金、芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金、また原稿料や講演料については、源泉徴収の対象となります。

②消費税

消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税であり、事業者が納付することとされています。具体的には、課税期間(個人事業者は暦年、法人は事業年度)の基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が1,000万円を超える事業者は、消費税の納税義務者(課税事業者)となります。一方、1,000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除されています(=免税事業者)。

令和5年10月1日からは、いわゆる「インボイス制度」(=適格請求書等保存方式)が始まりましたので、ご自身の事業実態等に合わせて対応を検討する必要があります。

消費税課税事業者は、消費税の納付にあたり、売上げの消費税額から仕入れや経費の消費税額を控除(=仕入税額控除)した税額を納付することとなりますが、インボイス制度とは、簡易課税制度を選択していない消費税課税事業者が仕入税額控除を行うためには、取引相手から発行されるインボイス(適格請求書)及び帳簿を保存しなければならないという仕組みです。また、取引先に対してインボイスを発行するためには、インボイス発行事業者の登録を受ける必要があります。なお、免税事業者もインボイス発行事業者の登録を受けることが可能ですが、その場合には課税事業者として消費税の申告が必要となります。

インボイスに関しては、免税事業者や消費者などのインボイス発行事業者以外から行った課税仕入れについて8割等を控除できる経過措置や、免税事業者がインボイス発行事業者を選択した場合に、納税額を売上税額の2割に軽減する激変緩和措置などの負担軽減措置が設けられています。詳細については、国税庁のWebサイト等やインボイス制度に関する相談窓口をご確認ください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0023002-076.pdf

③海外の事業者との取引

海外の事業者と取引を行う場合、相手方国の課税や、二重課税の回避及び脱税の防止のための「租税条約」の有無及び内容についても配慮する必要があります。

以上の取引に係る税金のほか、個人事業主であれば住民税や個人事業税等も納めることとなります。個人事業主に関する税金に関しては、国税庁ホームページ内「個人事業」のページもご参照ください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/code/bunya-kojinjigyo.htm

なお、文化庁ホームページ内「芸術家等の基礎知識」でも、後日「個人事業主の税金」を掲載予定です。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/kibankyoka/kisochishiki/index.html

以上を含め、税金に関しては、税務の専門家である税理士にご相談されることを推奨します。

6-④ 令和5年10月1日からインボイス制度が始まりましたが、契約書についてもインボイス制度に関して記載しておく必要はありますか。また、契約書への反映にあたり注意が必要な内容はありますか。

インボイス制度開始後は、消費税課税事業者が仕入税額控除を行うためには、取引相手から発行されるインボイス(適格請求書)及び帳簿を保存する必要があります。また、取引先に対してインボイスを発行するためには、インボイス発行事業者の登録を受ける必要があります(詳細については、国税庁のWebサイト等をご確認ください)。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm

したがって、受注者がインボイス発行事業者の登録を受けていないと、インボイスを発行することができません。これにより、発注者側はインボイスの発行を受けることができず、消費税確定申告時に仕入税額控除ができなくなってしまいます(ただし、8割等を控除できる経過措置有り)。

契約が成立し、既に業務が終了してしまった後に、インボイスを発行できないことが発覚すれば、紛争に発展しかねませんので、予め契約書を締結する段階でインボイスについても明記しておくことが考えられます。具体的には、インボイスの発行の要否について、簡潔に記載しておくことが考えられます。

また、インボイスを発行する場合は、保存要件を満たすため、契約書を作成する段階でインボイスの必要記載事項(発行者の氏名、登録番号、対価及び適用税率、消費税額等)の一部を明記することも考えられます。

6-⑤ 令和5年10月1日からインボイス制度が始まりましたが、私は基準期間の課税売上高が1,000万円以下の免税事業者であり、「適格請求書発行事業者」の登録を受けていません。それにもかかわらず、取引先からインボイスの発行を求められ、それができなければ契約条件を見直す等と言われています。どのようにすればよいですか。

まず、取引先が消費者又は免税事業者である場合、あるいは簡易課税制度を選択している場合は、取引先はインボイスを保存する必要がありませんので、こちらも「適格請求書発行事業者」の登録を受ける必要はありません。

取引先が消費者でも免税事業者でもなく、かつ簡易課税制度を選択していない場合には、免税事業者はインボイスの発行ができない以上、取引先も仕入税額控除ができないこととなります(ただし、8割等を控除できる経過措置有り)。

このような場合に、取引先から、受注者にとって不利な取引条件を提示される可能性があります。取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が相手方に対してその地位を利用し、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用として独占禁止法上の問題が生じる可能性があります。また、下請法の適用がある場合には、下請法上の問題が生じる可能性があります。これらの詳細については、公正取引委員会のQ&Aや相談窓口等をご確認ください。

https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html

これらの法律上の論点があることに留意して、取引対価の交渉を行うようにしましょう。

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